説明

塗装物及びその製造方法

【課題】 塗膜に手垢等の汚れを付着し難くし、且つ、爪等による引っ掻き傷の発生も回避することができるようにすること。
【解決手段】 木質系素材からなる板状体11と、この板状体11の表面に下処理層12を介して形成された塗膜13とにより塗装物10が構成されている。塗膜13を形成する塗料には、その全体に対して4〜10重量%のビーズ16が配合されている。ビーズ16は、平均粒径が5〜15μmに設定されて塗膜13の表面に多数の凸部17を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装物及びその製造方法に係り、更に詳しくは、表面に傷が付いたり、手垢等が付着したりすることを抑制することができる塗装物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、キッチンや家具、建材等にあっては、MDF(中密度木質繊維ボード)を塗装することによって艶消し仕上げの塗膜を表面に形成したパネル材が広く利用されている。このようなパネル材は、その性質上、キャビネットの扉等に用いられる傾向があり、手で直接持ちながら開閉等の操作を行われる場合が多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記パネル材にあっては、塗膜の表面を手で触ると、手垢や皮脂等の汚れが付着し易くなり、当該汚れが目立ってしまうという不都合がある。
ここで、本発明者は、前記汚れを回避すべく種々の観点から研究を行ったところ、塗膜中の粒子が1μm以下と小さく、塗膜と手との接触面積が比較的大きくなることに原因があることを知見した。
そこで、本発明者は、前記粒子より大きいビーズを塗料に配合して塗装し、塗膜の表面に凹凸を設けて研究を行った。すると、凹凸を設けた塗膜では、爪等によって塗膜表面を擦ると、爪の先が凹凸に引っ掛かって引っ掻き傷が付く傾向が強くなり、却って外観上の体裁を損なうという別異の問題を生ずることが判明した。
このような問題に対し、本発明者は、更に鋭意研究を行い、ビーズの大きさ及び塗料全体に対する配合割合の両者を以下に詳述する条件下に設定し、表面に所定の凸部を形成することで、手垢等の付着と爪による傷の発生とを同時に抑制できることを知見した。
【0004】
[発明の目的]
本発明は、前記知見に基づいて案出されたものであり、その目的は、塗膜表面に手垢等の汚れを付着し難くするとともに、爪等による引っ掻き傷の発生も回避することができる塗装物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、木質系素材からなる板状体と、この板状体の表面に厚み100〜150μmの下処理層を介して形成された塗膜とを含む塗装物であって、
前記塗膜は、エナメル塗料を含む塗料を用いて総厚15〜40μmに形成され、
前記塗料には、樹脂ビーズが配合され、
前記樹脂ビーズによって塗膜の表面に突出量5〜10μm、平面視での最大幅が20〜30μmの多数の凸部を形成する、という構成を採っている。
【0006】
本発明において、前記樹脂ビーズは、平均粒径が5〜15μmに設定される、という構成を採用することができる。また、前記樹脂ビーズは、前記塗料全体に対して4〜10重量%配合される、という構成も採用することができる。
【0007】
更に、本発明は、所定の塗料を塗装することで表面に塗膜が形成される塗装物の製造方法であって、
前記塗料にはビーズが配合され、当該ビーズは、塗料全体に対して4〜10重量%配合されるとともに平均粒径が5〜15μmに設定され、
前記塗料を塗布量40〜100g/mでスプレーで吹き付ける塗布工程の後、所定の乾燥工程を経ることで塗膜の表面に多数の凸部を形成する、という方法を採用している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前述のような塗膜の表面に突出量5〜10μm、平面視での最大幅が20〜30μmの多数の凸部を形成することにより、塗膜表面を手で触ったときに、手と塗膜との接触面積を小さくすることができ、塗膜に手垢や皮脂を付き難くすることができる。しかも、塗膜を爪で引っ掻いたときに、爪先が凸部に引っ掛かるような状態になり難くすることができ、引っ掻き傷等の発生を抑制することが可能となる。これにより、塗装物を経時的に使用しても、汚れや傷等を回避して塗膜の外観上の体裁が良好に保たれるばかりでなく、塗膜の表面を拭き掃除する等のメンテナンスの負担を軽減することが可能となる。
【0009】
なお、本明細書において、「平均粒径」とは、粒子の直径をdiとし、単位重量の粉末中における直径d1の粒子がn1個、直径d2の粒子がn2個、・・・直径diの粒子がni個存在したときに、その算術平均径(Σdi・ni/Σni)を平均粒径とする。
ここで、完全な球形でない粒子の場合は、図2に示されるように、粒子を平面視した場合に最も長い径をLとし、これに直交する方向の幅をB、粒子の平面積をF、粒子一個当たりの体積をVとすると、次の(1)〜(4)の何れかの式によって各粒径Dpが求められる。
Dp=B・・・・(1)
Dp=√(4F/π)(相当円直径、Heywoodの直径)・・・・(2)
Dp=V1/3(Andreasenの直径)・・・・(3)
Dp=(6V/π)1/3(相当球直径又は相当直径)・・・・(4)
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1には、本実施形態に係る塗装物の層構造を表す断面図が示されている。この図において、塗装物10は、MDF等の木質系素材からなる板状体11と、この板状体11の表面(図1中上面)に下処理層12を介して形成された塗膜13とを備えた基本構成となっている。ここで、塗装物10としては、キッチンや家具、建具等に用いられるパネル材、特に、キッチン等に用いられるキャビネットの扉材や表面化粧板を例示することができる。
【0012】
前記下処理層12は、下塗り塗料を塗布することにより形成される。下処理層12は、その厚みが100〜150μmに設定されている。
【0013】
前記塗膜13は、エナメル塗料、艶調整用のクリヤ塗料、硬化剤及びシンナーを混合して形成された塗料を塗布量40〜100g/mで塗布することにより形成される。塗膜13は、その総厚みが15〜40μmに設定されている。また、塗膜13は、ビーズ16により形成される多数の凸部17を表面に備え、当該凸部17によって表面が艶消し仕上げとされる。
【0014】
前記ビーズ16は、平均粒径が5〜15μmに設定されたアクリル性樹脂ビーズからなり、塗膜13用の塗料全体に対する配合割合が4〜10重量%に設定されている。このようにビーズ16の平均粒径、塗布量及び配合割合を設定することにより、各ビーズ16に対応して形成される凸部17の寸法は、その突出量が5〜10μm、平面視での最大幅が20〜30μmに形成される。
凸部17の突出量が5μm未満であったり平面視での最大幅が20μm未満であったりすると、塗膜13を手で触ったときに手垢や指紋が目立つ一方、凸部17の突出量が10μmを超えたり平面視での最大幅が30μmを超えたりすると、塗膜13に爪が引っ掛かり、引っ掻き傷や爪跡が残り易くなる。この最適範囲の凸部17を形成するためには平均粒径が5〜15μmに設定されたアクリル性樹脂ビーズを使用することが好ましい。
また、ビーズ16の前記配合割合が4重量%未満であると、隣り合う凸部17の間隔が広くなり、塗膜13に爪が引っ掛かり易くなる一方、前記配合割合が10重量%を越えると、隣り合う凸部17の間隔が狭くなり、塗膜13に付着した細かいごみを除去し難くなる。
ここで、更に好ましくは、凸部17の突出量が6〜8μm、平面視での最大幅が15〜25μmにするとよく、そのためには、ビーズ16の平均粒径を8μm〜12μm、ビーズ16の前記配合割合を6〜8重量%にするとよい。
なお、ビーズ16には、アクリル性樹脂ビーズに限らず、ウレタン性樹脂ビーズやナイロン性樹脂ビーズを適用することも可能である。
【0015】
前記塗装物10を製造する場合、先ず、板状体11の表面に前記下塗り塗料をスプレーで吹き付け、所定時間放置して乾燥させて下処理層12を形成する下処理工程を行う。この下処理工程を終えた後、下処理層12に前記塗料をスプレーで吹き付けて塗膜13を形成する塗布工程を行う。当該塗布工程において、前記塗料の吹き付けは、塗膜13の厚みにムラが生じないように前記スプレーと板状体11の表面とを相対移動させながら行われる。塗布工程を終えた後、常温で所定時間放置して乾燥させる乾燥工程を行い、総厚15〜40μmの塗膜13を形成することにより塗装物10が完成する。
【0016】
なお、塗布工程を二回行うことにより塗膜13を形成してもよい。この場合、下処理層12に前記塗料からビーズ16を抜いたものを塗布する下塗り塗布工程を行う。そして、乾燥工程を経た後、ビーズ16が配合された前述と同様の塗料を塗布する上塗り塗布工程を行ってから乾燥工程を再度行うことにより塗膜13が形成される。このとき、下塗り塗布工程及び上塗り塗布工程により重ねられた二つの塗膜によって、総厚みが15〜40μmの塗膜13が形成される。
【実施例】
【0017】
以下に本発明の実施例を比較例とともに説明する。
【0018】
[実施例、比較例1,2]
実施例では、MDFからなる板状体11に、UVクリヤー塗料を塗布して厚み110μmの下処理層12を形成した。表1に示される各種成分を同表に示される含有量で攪拌して混合することにより塗料を調整し、この塗料を下処理層12に塗布して厚み23μmの塗膜13を形成した。塗料中のビーズ16の平均粒径を10μmとし、凸部17の突出量を8μm、平面視での最大幅を15μmに設定した。
比較例1では、実施例1に対してビーズ16を配合せずに塗膜13を形成した。
比較例2では、実施例1に対してビーズ16の平均粒径を30μmに変え、凸部17の突出量を15μm、平面視での最大幅を35μmに変えた。
【0019】
【表1】

【0020】
以上のように得られた塗装物10の塗膜13に対し、耐傷性及び外観意匠性を確認するための実験を行った。
【0021】
ここで、耐傷性に関する実験として、塗膜13の表面を爪の先端で擦り付けた後、塗膜13を目視にて確認した。その結果を表2に示す。
なお、耐傷性の評価として、「○」は、良好な評価(傷等が殆ど生じない状態)を表し、「×」は、期待する耐傷性が得られなかったという評価(爪による引っ掻き傷が発生する状態)を表す。
外観意匠性に関しては、塗膜13の表面に手の平を接触させた後、塗膜13を目視にて確認した。その結果を表2に示す。
なお、外観意匠性の評価として、「○」は、良好な評価(手垢や皮脂が殆ど視認できない状態)を表し、「×」は、期待する外観意匠性が得られなかったという評価(手垢等によって手の平の跡が視認できる状態)を表す。
【0022】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、主に、キッチン、家具、建材等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る塗装物の層構造を示す概略断面図。
【図2】平均粒径を説明するための概念図。
【符号の説明】
【0025】
10・・・塗装物、11・・・板状体、12・・・下処理層、13・・・塗膜、16・・・ビーズ、17・・・凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系素材からなる板状体と、この板状体の表面に厚み100〜150μmの下処理層を介して形成された塗膜とを含む塗装物であって、
前記塗膜は、エナメル塗料を含む塗料を用いて総厚15〜40μmに形成され、
前記塗料には、樹脂ビーズが配合され、
前記樹脂ビーズによって塗膜の表面に突出量5〜10μm、平面視での最大幅が20〜30μmの多数の凸部を形成することを特徴とする塗装物。
【請求項2】
前記樹脂ビーズは、平均粒径が5〜15μmに設定されていることを特徴とする請求項1記載の塗装物。
【請求項3】
前記樹脂ビーズは、前記塗料全体に対して4〜10重量%配合されていることを特徴とする請求項1又は2記載の塗装物。
【請求項4】
所定の塗料を塗装することで表面に塗膜が形成される塗装物の製造方法であって、
前記塗料にはビーズが配合され、当該ビーズは、塗料全体に対して4〜10重量%配合されるとともに平均粒径が5〜15μmに設定され、
前記塗料を塗布量40〜100g/mでスプレーで吹き付ける塗布工程の後、所定の乾燥工程を経ることで塗膜の表面に多数の凸部を形成することを特徴とする塗装物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−15297(P2006−15297A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197850(P2004−197850)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(392008529)ヤマハリビングテック株式会社 (349)
【Fターム(参考)】