説明

塩化トロスピウムの投与により連続睡眠を促進するための方法

過活動膀胱患者において睡眠を促進する方法であって、就寝前または就寝直前に、過活動膀胱疾患を持つ患者に、該患者の通常の睡眠時間内の覚醒を軽減するのに十分な量の塩化トロスピウムを投与することを含む前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
I 発明の分野
本発明は、塩化トロスピウムの投与により連続睡眠(uninterrupted sleep)を促進するための方法に関する。特に本発明は、ヒトが夜中に目覚めたり、起きたり、トイレで排尿したりしなくても眠り続けられるようにすることで、睡眠と休息を促す。本発明の方法は、一晩の間に何度も睡眠を中断してトイレに行かなければならない状態にある人々にとって特に有益である。
【背景技術】
【0002】
II 発明の背景
塩化トロスピウムは、鎮痙薬として有用な抗コリン作用薬として何年も前から知られている物質である(ドイツ特許第1 194 422号を参照されたい)。この活性物質は、錠剤などの経口投与可能な固体として、静脈内または筋内注射の場合は溶液として(Schwantesら、米国第5,998,430号)、また直腸投与の場合は坐薬として、利用することができる。塩化トロスピウムは主に膀胱機能障害の治療に用いられている。
【0003】
塩化トロスピウムが過活動膀胱患者の頻尿を軽減することは既に知られているが、今回は、この塩化トロスピウムが、尿意に伴って生じることの多い強い切迫感または不快感を軽減することを見出した。意外なことに、これらの患者において不快感が軽減されると、該患者が夜中に繰り返し目覚める傾向も併せて軽減される。
【0004】
尿意切迫感重症度(urgency severity)は、Indevus Pharmaceuticals社によって開発された後述のIndevus式尿意切迫感重症度尺度(IUSS)を利用して、種々の薬物について評価することができる。
【0005】
睡眠中の排尿切迫感を大幅に軽減する治療法が同定されれば、各自の過活動膀胱症状の治療を受けているにもかかわらず、強い排尿衝動のために夜中に繰り返し目が覚めるという不連続な睡眠パターンにも悩まされている一部の過活動膀胱患者集団の問題を解決する道が開ける。
【0006】
塩化トロスピウムは膀胱機能障害を治療するために使用されているが、塩化トロスピウムが夜間覚醒の発現を予防することによって連続睡眠を促進するというその意外な効果はこれまで利用されていなかった。本発明は、過活動膀胱疾患を持つ人々だけでなく健康な人々においても睡眠の中断を軽減または解消するという、この驚くべき効果に基づく方法を対象とする。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、一般の人々、および特に過活動膀胱疾患を持つ患者において、連続睡眠を促進するための方法を提供する。該方法は、就寝前に、ヒトの通常の睡眠時間内の覚醒を抑制するのに十分な量の塩化トロスピウムまたは別のトロスピウム塩を投与することを含む。
【0008】
また本発明は、過活動膀胱疾患を患っている患者に投与した試験化合物によってもたらされた排尿衝動の重症度の軽減を測定するための方法を提供する。この効果は排尿の頻度とは区別され、また排尿必要性(need to urinate)という単純な感覚とも区別される。一部の過活動膀胱疾患を持つ患者の中には、あらゆる排尿必要性を、他の全活動を中断させるほどの圧倒的な感覚として捉える者もいる。本発明は、この特殊形態の症状のための治療法を評価する方法を提供する。
【0009】
発明の詳細な説明
後述の説明では、医学分野および薬理学分野の技術者に周知の種々の方法を参照する。かかる方法は、これらの専門分野における一般原則を定めた標準参考資料中に記載されている。
【0010】
寝る直前、具体的には就寝時刻の0.5時間、1.0時間、1.5時間または2.0時間前に有効量のトロスピウムを投与することで、ヒトの夜間の覚醒を抑えることができる。この方法は過活動膀胱を持つ人々に特に適しているが、一般の人々が連続睡眠を促進するために利用することもできる。
【0011】
また本発明は、過活動膀胱を患っているヒトの排尿衝動の重症度を軽減するための方法も提供する。この効果は、排尿発現頻度の軽減とは区別される。本発明者らは、予期せぬ程度にまで尿意切迫感を軽減する化合物を見出した。
【0012】
過活動膀胱疾患を持つ患者に就寝前に塩化トロスピウムを投与する際には、あらゆる送達経路を利用することができる。この治療により覚醒が軽減され、連続睡眠が提供される。好適な経路としては、錠剤またはカプセル剤による経口投与が挙げられる。経皮、静脈内、口腔内、または舌下投与を利用することもできる。就寝前または就寝直前に投与する場合の好適な経口投与量は、1日当たり1 mg/kg〜1日当たり75 mg/kgである。経口送達経路を利用する場合、好適な投与量範囲は、1日当たり10 mg/kg〜60 mg/kg、典型的には1日当たり約20〜50 mgである。経皮、口腔内および舌下投与経路の投与量は、1日当たり1.0 mg/kg〜1日当たり75 mg/kgとすべきである。
【0013】
これらの投与量範囲はガイドラインに過ぎない。何故なら、実際の投与量は、主治医がその臨床症状に応じて選択および漸増しうるものだからである。最適な1日量は当分野で公知の方法により決定されるが、この量は患者の年齢、過活動膀胱症状に関連する症状または疾患、治療を施そうとする患者の排尿衝動と症状両方の重症度、目的とする治療効果の程度、および施そうとする並行療法といった要因の影響を受けることがある。投与は単回または複数回に及ぶ投与計画に従って実施することができるが、寝る直前の単回投与が好ましい。
【0014】
トロスピウムは、具体的な化学名である塩化3-α-ベンジロイルオキシノルトロパン-8-スピロ-1’-ピロリジニウム、または他のトロスピウム塩としても知られている。また本発明は、就寝時刻直前の単回投与による投与に適した塩化トロスピウム組成物も提供する。
【0015】
剤形および投与経路
あらゆる投与経路および剤形を本発明に使用することができる。この点についての手引きを提供する参考文献は数多く存在し、例えば米国特許第4,812,481号には、ある活性成分を口腔、経口、体内、経肺、直腸、鼻腔内、膣内、舌下、静脈内、動脈内、心臓内、筋内、腹腔内、皮内、および皮下製剤として投与するという治療剤形が開示されている。米国特許第5,192,550号には、1つ以上の孔を有する外壁(該外壁は薬物を透過しないが外部流体は透過する)を含む活性成分の剤形が記載されている。この剤形は、経口、舌下、または口腔内投与に適用することができる。同様に、米国特許第5,387,615号には、錠剤、丸剤、カプセル剤、粉剤、エアロゾル、坐剤、皮膚用パッチ剤、非経口剤、ならびに油水性(oil aqueous)懸濁液、溶液、および乳液などの経口液剤を含む様々な医薬組成物が開示されている。同文献中には、持続放出(長時間作用型)製剤および装置も開示されている。上記の全ての米国特許は、参照によりその全内容が本明細書中に含まれるものとする。
【0016】
塩化トロスピウムを含有する非経口組成物は、従来の技術に従って調製することができる。例えば、滅菌等張食塩水を、筋内、静脈内、髄腔内または動脈内送達用に設計された調製物に用いることができる。
【0017】
経皮投与用の単位剤形は、例えば、米国特許第4,861,800号、第4,868,218号、第5,128,145号、第5,190,763号および第5,242,950号(これらの文献は各々、参照によりその全内容を本明細書中に含めるものとする)、ならびに外国特許文献である欧州特許出願第404807号、欧州特許出願第509761号および欧州特許出願第593807号中に記載されている様々な技術を利用して調製することができる。塩化トロスピウムを直接粘着物中に組み込み、さらにこの混合物を裏紙に載せた、モノリシック・パッチ構造を利用することができる。また、例えば、5〜15%の塩化トロスピウムを液体と市販のポリエチレングリコールとの混合物、ポリマー、および非イオン性界面活性剤と組み合わせて、さらにこれに任意でプロピレングリコールおよび乳化剤を加えたリオトロピック液晶組成物を使用する装置を用いることもできる。かかる経皮製剤の調製のさらなる詳細については、欧州特許出願第5509761号を参照されたい。
【0018】
塩化トロスピウムの口腔内投与および舌下投与用の剤形は、米国特許第5,192,550号、第5,221,536号、第5,266,332号、第5,057,321号、第5,446,070号、第4,826,875号、第5,304,379号または第5,354,885号に記載されている技術と同様の技術を利用して調製することができる。
【0019】
トロスピウムの形態
本発明は特定の形態のトロスピウムに限定されるものではなく、この薬物を臭化物、リン酸塩および硫酸塩を含む他の塩の形態で使用することができる。
【0020】
以下の実施例は単に例示を目的としたものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0021】
序文
過活動膀胱は、局所の病理学的または代謝的理由iも無く発現する頻尿および夜間頻尿に伴って生じることが多い尿意切迫感および切迫性尿失禁の症状を特徴とする病状である。
【0022】
Indevus(単項目)式尿意切迫感尺度は、それが妥当で信頼性があり、かつ反応性の患者報告アウトカム評価ツールであることを確認するための「品質評価」を必要とする。新規および改良型の患者報告アウトカム測定手段を評価する際に使用する心理測定法としては、信頼性、妥当性および反応性を評価するための標準的な方法が挙げられる。心理測定学的評価は患者報告アウトカム測定手段の開発または調整において重要な段階であるばかりでなく、この過程により以後の研究で得られる結果の信憑性が高まる。
【0023】
方法
2.1 研究データ
米国において顕著な切迫性尿失禁を伴う過活動膀胱(OAB)患者に対して行われた塩化トロスピウムの12週1の臨床試験期間中にIUSSを実施した結果回収されたデータに基づいて、多施設共同・並行群比較・無作為化・二重盲検・プラセボ対照研究(#IP631-003)を行った。臨床研究の倫理、実施、方針および計画、研究対象集団の選択、処置、有効性および安全性変数ならびに統計的方法論の全詳細については、臨床研究プロトコル#IP631-003およびQuintiles社により作成された「二重盲検相についての最終報告書(Final Report for the Double-Blind Phase)」を参照されたい。
【0024】
2.2 Indevus式尿意切迫感重症度尺度
IUSS(別表A)では、患者に、各自のトイレ排泄時の「尿意切迫感の程度」(排尿衝動についての説明)について質問する。患者は、トイレ排泄(本研究ではトイレにおける排尿と定義する)の際にトイレに到着する前に各自が感じた尿意切迫感の程度を順位付けするよう求められる。説明書には、「あなたは、時には非常に強い排尿衝動を感じることがあり、またある時にはトイレ排泄を開始する前に軽い排尿衝動を感じることがあります。この時の感覚を、0、1、2または3に○をすることで順位付けして下さい」と記載されている。該説明書には、以下の4つの反応選択肢:
0:なし −尿意切迫感はない;
1:軽い −尿意切迫感は感じるが、それは容易に我慢できる程度であり、日常的な活動または仕事を続けることができる;
2:中くらい −日常的な活動または仕事を中断または短縮させるには十分な尿意切迫不快感;および
3:強い −全ての活動または仕事を突然中止させるほどの極端な尿意切迫不快感
が明記されている。
【0025】
この単項目式尿意切迫感重症度尺度は、12週の二重盲検試験期間において4回設定した不連続の1週間(ベースラインの週および研究治療第1週、第4週、第12週)に全ての患者が記入した「患者排尿日誌(Patient Urinary Diary)」に含まれていた。各1週間のデータ回収期間中、患者に計7日間、毎日この日誌に記入させた。また、該日誌では、トイレ排泄数、および患者が突発的な切迫性尿漏出または腹圧性尿漏出を経験したかどうかについてのデータも回収した。該日誌においては、切迫性尿漏出は非常に強い排尿必要性または排尿欲求に起因する尿漏れと定義した。腹圧性尿漏出は、咳、くしゃみ、起立、笑い、運動、または膀胱に圧力がかかる他の身体的活動/動作によるものと定義した。さらに、7日間の日誌回収期間のうち最後の2日間(6および7日目)には、患者にトイレ排泄毎に全尿量を回収および測定させてから、さらにこれを日誌に記録させた。
【0026】
2.3 研究対象集団
この臨床試験の研究対象集団は523人の患者とし、該患者には少なくとも1回研究薬を投与した。試験に登録する患者には、以下:
・「ウォッシュアウト」期間中の患者排尿日誌に記録された7日間当たりのトイレ排泄が70回以上(すなわち、1日当たりのトイレ排泄10回以上)となる頻尿;
・尿意切迫感を示す症状(すなわち、突然のトイレ排泄欲求);
・純粋な切迫性尿失禁、または顕著な切迫性尿失禁を伴う混合型尿失禁
と定義される過活動膀胱を持つことが求められた。患者は7日間当たりに最低7回の切迫性尿失禁の発現(すなわち、1日当たり平均1回以上の切迫性尿失禁の発現)を経験したはずである。
【0027】
患者が過活動膀胱の症状を最低6ヶ月間経験していることを条件とした。また、患者が18歳以上であることも条件とした。患者の頻尿に伴う尿漏れの主な原因が腹圧性尿失禁、無自覚性尿失禁および/または溢流性尿失禁である場合、該患者を除外した。また、神経因性過活動膀胱、重大な腎疾患、未調査の血尿の病歴を持つ患者、および/または急性尿路感染症を患っている患者も除外した。厳密な選択基準および除外基準については、研究プロトコル#IP631-003を参照されたい。臨床研究では対象者を2つの治療群のうちの一方に無作為に割り付けたが、心理測定学的分析の際には全対象者を1つの集団として扱った。さらに、第12週の時点でこの患者集団にトロスピウム投与群を含めることが妥当なアプローチであることを確認するため、トロスピウム投与患者群について分析を行い、さらにこの分析で得られたp値を全患者集団(塩化トロスピウムおよびプラセボ)の分析で得られた結果と比較することにより、感度を調べた。
【0028】
2.4 研究薬
塩化トロスピウムは、主に末梢における抗ムスカリン作用を有する抗コリン剤である。その作用機序により排尿筋が弛緩し、結果として排尿が阻害される。患者には、1:1の割合でプラセボまたは塩化トロスピウムを無作為に投与した。塩化トロスピウムを投与する患者には、1個の20mg錠を1日2回服用させた。プラセボを投与する患者には、1個のプラセボ錠を1日2回服用させた。研究薬かどうかは盲検化した。
【0029】
2.5 患者報告アウトカムデータ
患者に、4回設定した1週間のデータ回収期間(ベースラインの週、第1週、第4週および第12週)中は毎日、患者日誌に記入させた。該日誌により、以下の患者報告アウトカムデータ:
・IUSS;
・トイレ排泄の回数;
・切迫性尿失禁発現の回数、およびこれとは別に、腹圧性尿失禁発現の回数;
・7日間にわたる日誌の7日間中、最後の2日間にわたって回収された排尿量(mL)
を回収した。
【0030】
さらに、患者に、ベースラインおよび第12週の時点で、女性用(標準IIQ)または男性用(改定版IIQ)の尿失禁が及ぼす影響に関する質問票(Incontinence Impact Questionnaireii:IIQ)に記入させた。該IIQを利用して、OABおよび切迫性尿失禁の影響ならびに治療が患者の生活の質に及ぼす効果を評価した。上記アウトカムデータのさらなる詳細については、プロトコル#IP631-003およびQuintiles社により作成されたIntegrated Clinical and Statistical Reportを参照されたい。
【0031】
ベースラインおよび第12週のデータ回収期間中に回収されたデータを利用して、IUSSの心理測定学的特性を評価した。
【0032】
2.6 データ管理
#IP631-003の臨床研究で得られた結果を含む生データおよび分析データのセットは、Indevus Pharmaceuticals 社に代わってQuintiles社(Research Triangle Park)より提供された。該データはSASフォーマットにて提供された。最終測定結果のフォワード(LOCF)データセットではなく観察された症例(OC)のデータセットを利用して、心理測定学的分析を実施した。Quintiles社の後期の相では、IUSSの妥当性を確認するにあたり、SAS(登録商標)バージョン8.2を使用してデータを分析していた。
【0033】
2.7 有意性の水準
p値は、有意性の両側検定に基づいている。p値0.05は有意であるとみなし、またp値>0.05およびp値0.10は有意傾向を表しているものとする。
【0034】
2.8 データの品質保証および品質管理
IUSSの心理測定学的妥当性確認は、臨床試験プロトコル#IP631-003を実施して回収されたデータに基づいて行った。標準化方法、データの品質保証ならびにモニタリングおよび監査方法は、Integrated Clinical and Statistical Report中に詳細に記載されている。
【0035】
過活動膀胱患者における尿意切迫感重症度尺度の心理測定学的評価の品質管理および品質評価:回顧的妥当性確認(#IP631-008)研究は、標準的な品質管理手続きを行ってからQuintiles社を通すことによって確実に実施した。手短に言うと、実現性評価および統計分析計画(#IP631-008バージョン3、2003年3月6日)を内部で再検討した後、SASプログラミングとその結果について上級生物統計学者による品質チェックを受けた。
【0036】
2.9 患者報告アウトカム得点の算出
2.9.1 尿意切迫感尺度
IUSS(別表A)を、4回設定した1週間のデータ回収期間中、毎日記入させた。臨床試験研究データベース(#IP631-003)から入手した切迫感尺度変数を利用して、ベースラインの週と第12週における全記入値の平均を算出した。必要とした7日間のうち少なくとも丸4日間分の記入値が得られなかった場合、このデータを欠測値とした。4、5または6日間分の記入値しか入手できなかった場合、それらの記入値を正規化して7日間分とした。
【0037】
2.9.2 トイレ排泄
トイレ排泄の回数を、4回設定した1週間のデータ回収期間中、毎日記入させた。臨床試験研究データベース(#IP631-003)から入手したトイレ排泄変数を利用して、ベースラインの週と第12週における全記入値の平均を算出した。必要とした7日間のうち少なくとも丸4日間分の記入値が得られなかった場合、このデータを欠測値とした。4、5または6日間分の記入値しか入手できなかった場合、それらの記入値を正規化して7日間分とした。
【0038】
2.9.3 切迫性尿失禁発現
切迫性尿失禁発現の回数を、4回設定した1週間のデータ回収期間中、毎日記入させた。臨床試験研究データベース(#IP631-003)から入手したトイレ排泄変数を利用して、ベースラインの週と第12週における全記入値の平均を算出した。必要とした7日間のうち少なくとも丸4日間分の記入値が得られなかった場合、このデータを欠測値とした。4、5または6日間分の記入値しか入手できなかった場合、それらの記入値を正規化して7日間分とした。
【0039】
2.9.4 排尿量
排尿量(mL)を、各研究訪問前の丸2日間(患者排尿日誌回収期間の6日目および7日目)にわたって回収した。臨床試験研究データベース(#IP631-003)から入手した排尿量変数を利用して、ベースラインの週と第12週における患者のトイレ排泄当たりの平均排尿量を算出した。平均排尿量は、必要とした2日間両日分の記入値が得られた場合にのみ算出した。この情報が利用できない場合、この患者のデータを欠測値とした。
【0040】
2.9.5 尿失禁が及ぼす影響に関する質問票
IIQ(別表BおよびC)を、#IP631-003研究についてIntegrated Clinical and Statistical Report中で詳細に記載されている通りに採点した。4つの下位尺度の得点は、各下位尺度内の反応が得られた項目全ての平均値をとることによって取得した。次に、これらの得点を、該得点から1を引いてから100/3倍することにより変換し、共通尺度である0〜100で表した。IIQ総得点は、前記4つの下位尺度の得点を合計することにより算出した(総得点は0〜400の値をとりうる)。この採点システムにより、各下位尺度を同等に扱うことができる。性差を考慮した質問票と、これらを合わせたデータセットを、各IIQ下位尺度(身体的活動、移動、社会的人間関係、心の健康)の得点およびIIQ総得点について分析した。性差分析を行ったのは、男性用のIIQの妥当性が十分に確認されておらず、また男性用と女性用のIIQから得た結果を合わせることが妥当であるとは確認されていなかったからである。
【0041】
2.9.6 構成概念妥当性
IUSSの構成概念妥当性を評価する際には、以下の4つの基準値:
・頻尿−7日間における1日当たりのトイレ排泄の平均回数;
・切迫性尿失禁発現−7日間における1日当たりの切迫性尿失禁発現の平均回数;
・量−2日間にわたって回収された、トイレ排泄当たりの平均排尿量(mL);
・生活の質−尿失禁が及ぼす影響に関する質問票の総得点とその下位尺度(身体的活動、移動、社会的人間関係、心の健康)の得点(男性、女性、および合計)
を使用した。これらの判定手段で得られた得点を、SpearmanのrhoおよびPearsonの相関係数を使用して、上記のIndevus式切迫性重症度尺度と相関させた。この相関関係を、ベースラインと第12週の治療期間について評価した。
【0042】
2.9.7 既知群妥当性
既知群妥当性は、該既知群を決定するための2つの有効性変数:
1. 1日当たりのトイレ排泄の平均回数;および
2. 切迫性尿失禁発現の平均回数
を使用して2回評価した。該既知群を特定するためのカットオフポイントは、上記2つの有効性変数それぞれの中央値とした。中央値を獲得した患者は上の群に入れた。これをベースラインおよび第12週のデータについて評価した。これら2つの有効性変数に対する前記2群の反応者のIUSS得点を、Mann-Whitney U検定およびCMH検定(層化変数として統合した中心(pooled center)を用いる)を使用して比較した。
【0043】
2.9.8 反応性(responsiveness)
IUSSの反応性は、エフェクトサイズの計測を利用して評価した。以下の3つのアウトカムを外部基準として用いて反応性を3回評価することにより、その患者が反応者であるか否かを分類した。
【0044】
1. 日常的な排尿頻度のアウトカム:
・患者が第12週において24時間当たりに平均7回以下のトイレ排泄を行った場合、該患者を反応者に分類した。
【0045】
・患者が第12週において24時間当たりに7回より多くトイレ排泄を行った場合、該患者を非反応者に分類した。
【0046】
2. 切迫性尿失禁反応者のアウトカム:
・患者が第12週において24時間当たりに平均1回未満の切迫性尿失禁事象を生じた場合、該患者を反応者に分類した。
【0047】
・患者が第12週において24時間当たりに1回以上の切迫性尿失禁事象を生じた場合、該患者を反応者に分類した。
【0048】
3. 完全反応者のアウトカム;
・患者が第12週において24時間当たりに平均7回以下のトイレ排泄および平均1回未満の切迫性尿失禁事象を生じた場合、該患者を反応者に分類した。
【0049】
・患者が第12週において24時間当たりに平均7回より多いトイレ排泄および/または平均1回以上の切迫性尿失禁事象を生じた場合(すなわち、一方または両方の基準を満たした場合)、該患者を非反応者に分類した。
【0050】
エフェクトサイズ0.20は小さく、0.50は中くらいであり、また0.80は大きいとみなした。iii
2.9.9 試験-再試験信頼度
ベースライン1日目と7日目における各患者のIUSSの平均1日得点を相関させることにより、試験-再試験信頼度を評価した。ベースラインデータを利用することで、反応は副作用、有効性、研究療法、およびコンプライアンスに左右されないことが保証されたが、もしここで第1週と第12週のデータを使用していたら、この点が後に問題となっていたであろう。得点はSpearmanのrhoとPearsonの相関係数を使用して比較した。
【0051】
III 結果
IUSSの心理測定学的評価に利用した各アウトカムの記述統計値を表1(別表D)に示す。要約すると、ベースライン時に523人の患者に対して分析を行った(523人の患者を無作為化して研究薬を投与した。520人の患者に少なくとも1回研究薬を投与した)ところ、IUSSの平均得点は1.77(SE 0.54)となったが、個々の得点は尺度全体(0〜3)に及んでいた。24時間当たりのトイレ排泄の平均回数は12.85(SE 2.60)であり、その最小値は9.29、最大値は23.14であった。24時間当たりの切迫性尿失禁発現の平均回数は4.11(SE 3.13)であり、その最小値は0.86、最大値は21.29であった。トイレ排泄当たりの平均排尿量は155.27 mL(SE 49.29)であり、その最小値は20.18、最大値は286.11であった。平均IIQ総得点は190.56 (SE 3.77)であり、その範囲は0から388.89に及んでいた。女性の平均IIQ総得点(平均値197.13、SE 4.36)は、男性(平均値171.58、SE 7.29)に比べるとわずかに高かった(例えて言うならば、生活の質が劣っていた)。また、女性患者は、各IIQ下位尺度に対しても、男性患者に比べて高い得点をつけた(生活の質が劣っていた)。
【0052】
第12週の時点で、利用可能な(観察された症例の)データを持つ全ての患者について分析を行った。IUSSを利用したところ、患者は、トイレ排泄に伴う平均尿意切迫感重症度(範囲0〜3)を1.62(SE 0.65)と順位付けした。24時間当たりのトイレ排泄の平均回数は10.80(SE 2.95)であり、その最小値は4.29、また最大値は24.86であった。24時間当たりの切迫性尿失禁発現の平均回数は1.83 (SE 2.56)であり、その最小値は0、最大値は14.57であった。トイレ排泄当たりの平均排尿量はベースライン期間(178.32 mL、SE 67.16)よりも多く、その最小値は29.58、最大値は404.09であった。平均IIQ総得点(範囲0〜400)は、143.02 (SE 4.53)であった。女性の平均IIQ総得点(平均146.59、SE 5.37)は、男性(平均132.56、SE 8.24)と比べるとわずかに高かった(例えて言えば、生活の質が劣っていた)。ベースラインのデータについても、女性患者は男性患者と比べて各IIQ下位尺度に高い点をつけた(生活の質が劣っていた)。
【0053】
3.1 構成概念妥当性
IUSSの構成概念妥当性を評価して得られた結果を表2a(Pearsonの相関係数)および2b(Spearmanのrho)に示す(別表D)。
ベースライン時点でPearsonの積率[およびSpearmanのrho]相関係数を使用して評価したところ、IUSSは18中12のアウトカム:
・24時間当たりのトイレ排泄の平均回数;
・24時間当たりの切迫性尿失禁発現の平均回数;
・IIQ総得点(女性および合計);
・IIQ身体的活動下位尺度得点(女性および合計);
・IIQ移動下位尺度得点(女性および合計);
・IIQ社会的人間関係下位尺度得点(女性および合計);
・IIQ心の健康下位尺度得点(女性および合計)
と有意な正相関(p0.05)を示した。
【0054】
Pearson の積率相関係数を適用した場合には、相関係数は0.18(IIQ身体的活動下位尺度得点−女性)〜0.34(24時間当たりの切迫性尿失禁発現の平均回数)となった。上記12のアウトカムについては、Spearmanのrhoを使用して評価した場合、相関係数は等しい(n=7)かまたは同等(n=5)であった。Pearsonの積率[およびSpearmanのrho]相関係数を使用して評価した場合、以下の3つのアウトカム:
・IIQ総得点(男性);
・IIQ身体的活動下位尺度得点(男性);
・IIQ心の健康下位尺度得点(男性)
の相関係数は有意ではなかったが、そのp値は有意傾向を示唆していた。
【0055】
以下の3つのアウトカム:
・トイレ排泄当たりの平均排尿量(mL);
・IIQ移動下位尺度得点(男性);
・IIQ社会的人間関係下位尺度得点(男性)
は有意ではなく、また有意傾向も示唆されなかった。
【0056】
第12週の時点で相関関係をPearsonの積率[およびSpearmanのrho]相関係数を使用して評価したところ、IUSSは18中17のアウトカム:
・24時間当たりのトイレ排泄の平均回数;
・24時間当たりの切迫性尿失禁発現の平均回数;
・IIQ総得点(女性、男性および合計);
・IIQ身体的活動下位尺度得点(女性および合計);
・IIQ移動下位尺度得点(女性、男性および合計);
・IIQ社会的人間関係下位尺度得点(女性、男性および合計);
・IIQ心の健康下位尺度得点(女性、男性および合計)。
【0057】
との有意な正相関(p0.05)を示した。
【0058】
Pearsonの積率相関係数を適用した場合には、相関係数は0.20(IIQ移動下位尺度得点‐男性)〜0.34 (24時間当たりの切迫性尿失禁発現の平均回数)となった。上記17のアウトカムについては、その相関関係をSpearmanのrhoを使用して評価した場合、相関係数は等しい(n=3)かまたは同等(n=14)であった。Pearsonの積率またはSpearmanのrho相関係数を適用した場合、トイレ排泄当たりの平均排尿量(mL)だけがIUSSとの有意な関係を示さなかった。
【0059】
3.2 既知群妥当性
IUSSの既知群妥当性を評価して得られた結果を表3(別表D)に示す。これらの結果は、IUSSにより、ベースラインおよび第12週における24時間当たりのトイレ排泄回数の中央値を上回った患者と下回った患者が区別された(p<0.01)ことを示している。また、IUSSにより、ベースラインおよび第12週における24時間当たりの切迫性尿失禁発現回数の中央値を上回った患者と下回った患者も区別された。CMH検定の結果から、どちらの既知群を評価した場合でも、ベースラインの時点でA群に分類された患者は第12週の時点でもA群であり、B群の患者についても同様であることが明らかとなった。
【0060】
3.3 反応性
IUSSの反応性は、得点変化を基本尺度に変換してこれを他の手段における得点変化と比較できるようにする、エフェクトサイズの計測を利用して評価した。エフェクトサイズの計測では、ベースラインおよび第12週の平均Indevus式切迫感重症度尺度における差をとり、これをベースライン得点の標準偏差で割る。3つの外部基準を用いて反応性を3回評価することにより、その患者が反応者であるか否かを分類した。
【0061】
第1のエフェクトサイズ評価では、以下の基準:
・第12週における24時間当たりのトイレ排泄が平均7回以下である正常排尿反応者
・第12週における24時間当たりのトイレ排泄が平均して7回より多い非反応者
を利用し、正常トイレ排泄頻度アウトカムによってIUSSの反応性を調べた。
【0062】
前記反応者のエフェクトサイズは1.17であった。これは非常に大きい値とみなされ、患者の24時間当たりの平均トイレ排泄頻度が7回以下のトイレ排泄まで減少することに対してIUSSが高い反応性を示すことを示唆している。非反応者のエフェクトサイズは0.21であり、これは小さい値とみなされる。
【0063】
第2のエフェクトサイズ評価では、以下の基準:
・第12週における24時間当たりの切迫性尿失禁事象が平均1回未満である切迫性尿失禁反応者
・第12週における24時間当たりの切迫性尿失禁事象が平均1回以上である非反応者
を利用し、切迫性尿失禁アウトカムによってIUSSの反応性を調べた。
【0064】
前記反応者のエフェクトサイズは0.49であった。これは中程度の値とみなされ、患者の24時間当たりの平均切迫性尿失禁事象が1回未満まで減少することに対してIUSSが中程度の反応性を示すことを示唆している。非反応者のエフェクトサイズは0.01未満であり、この尺度が切迫性尿失禁事象の回数が1未満まで減少しなかった患者の変化は表示しないことを示唆している。
【0065】
第3のエフェクトサイズ評価では、以下の基準:
・第12週における24時間当たりのトイレ排泄が平均7回以下であり、かつ切迫性尿失禁事象が平均1回未満である完全反応者
・第12週における24時間当たりの切迫性尿失禁が平均1回以上であり、かつ/またはトイレ排泄が平均して7回より多い(すなわち、一方または両方の基準を満たす)非反応者
を利用し、トイレ排泄アウトカムおよび切迫性尿失禁アウトカムを組み合わせることによってIUSSの反応性を調べた。
【0066】
前記反応者のエフェクトサイズは1.39であり、これは非常に大きい値とみなされる。このことは、2つ合わせたアウトカム、すなわち、患者の24時間当たりの平均トイレ排泄頻度が7回以下のトイレ排泄まで減少することと患者の24時間当たりの平均切迫性尿失禁事象が1回未満まで減少すること、に対してIUSSが高い反応性を示すことを示唆している。非反応者のエフェクトサイズは0.20であり、この尺度が一方または両方において減少を示さなかった患者の変化を示さないことを示唆している。
【0067】
3.4 試験-再試験信頼度
IUSSの試験-再試験信頼度は、ベースライン1日目と7日目にこの尺度で得られた得点を比較することにより評価した。これを518人の患者について評価した。ベースライン1日目の平均IUSS得点を7日目の平均IUSS得点と比較したところ、試験-再試験信頼度の結果は中程度( Pearsonの相関係数は0.66、 Spearmanのrhoは0.63)であった。望ましい信頼度水準は通常0.80である。
【0068】
この後、1日目と7日目のデータが臨床研究プロトコル(第4.0節で検討する)の影響を受けたことを懸念して、2日目と5日目のベースラインデータを比較する追加のpost-hoc分析を行った。これら2つの時点間の試験-再試験信頼度の結果は0.80[Spearmanのrhoは0.78 ]であった。これは望ましい信頼度水準である。
【0069】
3.5 感度分析
感度分析を行うことにより、塩化トロスピウム投与患者とプラセボ投与患者を合わせて1つの患者集団として扱うことが妥当なアプローチであることを確認した。これを評価するため、Pearsonの相関係数を利用して評価する構成概念妥当性評価を前記2つの患者群に対して別々に再度行い、そのp値を比較した。結果は、前記2つの治療群を合わせることが、p値が著しく異なる男性用IIQを除く全てのアウトカムにとって妥当なアプローチであることを示唆していた。実薬治療群の結果の方が有意である傾向が強かった。また、24時間当たりのトイレ排泄の平均回数についてはプラセボ投与群の構成概念妥当性結果の方が有意である傾向が強かったという点にも注目されたい。
【0070】
さらに検討するために、Pearsonの相関係数を利用して評価した前記2つの治療群の既知群分析で得られたp値を比較したところ、これらが全ての場合において等しいかまたは同等であることが示された。
【0071】
3.6 構成概念妥当性および反応者の負担(Respondent Burden)
OABは、局所の病理学的または代謝的理由ivも無く発現する頻尿および夜間頻尿に伴って生じることが多い頻尿、尿意切迫感および切迫性尿失禁を特徴とする。これまでの研究は、尿失禁のある患者の健康に関連する生活の質viを含む切迫性尿失禁vに焦点を合わせたものが多かったが、近年欧州で行われた調査によると、頻尿と尿意切迫感は、医療の助けを求める理由としては切迫性尿失禁と殆ど同じくらい一般的なものであることが分かったii。従って、OAB治療のために臨床試験で尿意切迫感の重症度を評価することの重要性ははっきりと証明されている。しかし最近になって、「現段階では、この症候群の包括的な定義には尿意切迫感が主症状として含まれているという事実にもかかわらず、この尿意切迫感という自覚症状の標準化された評価方法は存在しないviii」と報告された。
【0072】
この主張について調べるため、OAB患者用の主な患者報告アウトカム指標を再検討し、その結果を以下にまとめた。
【0073】
・尿生殖器逼迫インベントリ(Urogenital Distress Inventory)(UDI)ii:UDIは、患者との面接および話し合い、医師との相談、および文献レビューを通じて開発されたものである。UDIは、患者に、該患者が現在特定の症状を経験しているかどうか、またその症状のために患者がどのくらい悩んでいるかを問う19の項目からなる。OAB尺度用のUDIは、3つの質問、すなわち、昼間の頻度、夜間の頻度および尿意切迫感に関する質問からなる。各項目は5ポイントのLikert尺度で測定される。
【0074】
・IIQii:IIQは、UDIと一緒に開発されたものである。IIQは、尿生殖器症状が生活の質における4つの側面(身体機能、情動機能、移動/運動性、および社会生活機能)に及ぼす影響を評価する30の項目からなる。各項目は4ポイントのLikert尺度で測定される。これらの質問はいずれも、尿意切迫感または他のOAB症状に具体的に関連するものではない。
【0075】
・キング健康調査票(KHQ)ix:KHQは、8つの多項目領域(役割の制限、身体的な制限、社会的な制限、個人的な人間関係、心の問題、睡眠、エネルギーおよび重症度(対処行動)に関する指標)からなる。2つの単項目領域では、尿失禁が及ぼす影響および全般的な健康状態の認識について評価する。さらに、多項目式の重症度症状尺度により、排尿症状(頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁、交際時尿失禁(intercourse incontinence)、夜間頻尿、夜尿、度重なる尿路感染症、膀胱痛および排尿困難)の重症度を測定する。これら10種の排尿症状それぞれの重症度は、「少し」を「1」、「とても」を「3」とする尺度で測定されるix
【0076】
・過活動膀胱症状およびOABqx:OABqが開発されたのは、非失禁型および失禁型OAB固有の主観的患者報告アウトカム指標が存在しなかったからである。この手段は、男性と女性からなるフォーカス・グループ、臨床医の意見および文献レビューを通じて開発された。該手段は、症状に悩まされる尺度(symptom bother scale)に関する8の項目と、HRQLに関する25の項目とからなる。
【0077】
この再検討により、最も既存症状向けの手段として尿意切迫感を評価するための単一の質問が挙げられることが示され、IUSSの構成概念妥当性の明確な裏付けが得られた。しかし、OABにおける尿意切迫感は、以下:
(1) 不快感の大きさ、持続時間および頻度;ならびに
(2) 患者がこれをどの程度、またはどのくらい長く、抑えることができるか
という主な記述子を有する幾つかの要素からなると言われているviii
【0078】
このため、「尿意切迫感を適切に評価し、切迫性尿失禁をより上手く定義付けるためには、症状の持続時間、強度、および種類ならびに遅延能力という具体的な指標が必要であるiii(第91頁)」と記載されている。この枠内では、IUSSは尿意切迫感の「不快感の大きさ(または重症度)」を評価していると言える。また、IUSSを利用して尿意切迫感発現の頻度を測定することもできる。臨床研究(#IP631-003)では、患者がベースライン、第4週および第12週において0より高い重症度の(すなわち、IUSSで1、2または3に○を付けた)尿意切迫感を示した回数の平均値を、12週に及ぶ試験期間を通した尿意切迫感発現頻度における変化の計測を含めて、評価することができる。結果から、ベースライン時の尿意切迫感発現の平均回数はプラセボ投与群で11.72、塩化トロスピウム投与群で11.29であって、尿意切迫感発現がプラセボ投与群で平均1.08、トロスピウム投与群で平均2.30減少したこと、またこれらの結果は有意である(p<0.01)ことが示唆された。しかし、IUSSでは、尿意切迫感の持続時間、または患者がこれをどの程度もしくはどれくらい長く抑えることができるかについての情報は利用しない。
【0079】
反応者の負担は、時間、労力、および前記手段を与えられた反応者に課せられる他の要求、と定義される。IUSSは4つの反応選択肢を用いる単項目式尺度であるため、その反応者の負担は最も少ない。しかし、臨床研究プロトコル(#IP631-003)および患者日誌を見直すと、患者はトイレ排泄毎にIUSSを記入するよう求められており、この作業が反応者の負担を著しく増大させることが分かる。
【0080】
検討
塩化トロスピウムについて12週の臨床試験で回収されたデータに対して、IUSSの心理測定学的評価を回顧的に実施した。つまり、この分析は、プロトコル#IP631-008に記載されている丁寧なガイドラインの枠内で回収されたデータを利用することによって該データが最高水準のものであるという保証を得るという利点を有していた。さらに、IUSSの構成概念妥当性と反応者の負担を、臨床試験#IP631-008に関する資料の見直しと文献レビューを通じて評価した。
【0081】
IUSSの構成概念妥当性の評価で得られた結果は、ベースライン期間よりも第12週期間の方が優れていた。第12週の時点では、IUSSは、24時間当たりのトイレ排泄の平均回数および24時間当たりの切迫性尿失禁発現の平均回数と低〜中程度の相関を示した。この低〜中程度の相関係数は、IUSSがトイレ排泄および切迫性尿失禁発現の回数に関する情報を部分的に利用していることを示唆している。該相関係数が高すぎた場合、このIUSSは不要であるとみなされていた可能性もあり、このことは、OAB用の尿意切迫感固有指標の必要性を立証した構成概念妥当性評価の結果を支持している。ベースラインまたは第12週のデータでは、平均排尿量はIUSSとの相関を示さなかったので、IUSSはこの情報を利用していないことが示唆された。
【0082】
第12週の時点でIIQ総得点および各IIQ下位尺度得点はIUSSとの相関を示し、このことから、IUSSと、尿失禁が身体的活動、心の健康、移動-運動性および社会的人間関係に及ぼす影響との間に重複する構成概念が存在することが示唆された。しかし、IIQに関する既刊文献iiを再検討すると、この手段の因子構造について為された判断に懸念が生じる。最近の刊行物xiには、5つの下位尺度、すなわち、運動性、心の健康、体の健康、社会生活の健康および恥ずかしさ(embarrassment)を備えた、この手段の改定因子構造が提示されている。IUSSの構成概念妥当性は、この改定因子構造に基づいて再評価することが推奨される。また、IIQは女性においてのみその妥当性が確認されていることも留意する必要がある。従って、男性および両方(女性および男性)のIIQ得点に対するこの内容評価の結果を非常に有意義だと考える前に、男性用として改訂されたIIQの妥当性を確認することが極めて重要である。
【0083】
既知群妥当性評価で得られた結果は、ベースラインデータおよび第12週のデータのいずれについても良好であった。いずれの時点でも、IUSSは、24時間当たりのトイレ排泄が平均10.4回未満であり、かつ切迫性尿失禁発現が平均0.9回未満である患者を識別するというその重要な品質を示した。既知群妥当性は全ての患者報告アウトカム指標にとって必須の品質であり、これはIUSSにこの識別能力があるということの非常に有望な目安である。
【0084】
患者報告アウトカム手段を臨床試験で使用する場合、該手段が変化に対して反応性を示すことが必須とされる。結果は、IUSSが、トイレ排泄頻度における変化(24時間当たりのトイレ排泄が7回超である場合と7回以下である場合)に対して高い反応性を示すことを示唆している。またIUSSは、トイレ排泄と切迫性尿失禁の合計頻度における変化(24時間当たりの平均トイレ排泄が7回以下であり、かつ平均切迫性尿失禁発現が1回未満である場合と、これらのアウトカムの一方または両方を示さない場合)に対しても高い反応性を示す。IUSSは、切迫性尿失禁頻度における変化(平均切迫性尿失禁発現が1回未満である場合と1回以上である場合)に対して中程度の反応性を示した。重要なことに、IUSSは、これら3つのアウトカム各々に変化が生じなかった場合には変化を表示しなかった。反応性は測定手段の品質の1つであるが、該反応性の主な決定要素となるのは、変化群と無変化群を定義する際に選択される方法である。自由な基準を使用するほどその反応性指数xiiが低くなるため、この評価に適用した厳密な基準によってその高い反応性指数を部分的に説明できることに注目されたい。
【0085】
試験-再試験信頼度は、試験投与の合間に一定期間が経過した場合に個々の規範得点が再試験時にどの程度変化する可能性があるかが分かるという点で、時間的安定性の指数と言える。ベースライン1日目とベースライン7日目で得られた平均IUSS得点を比較した試験-再試験信頼度の結果は中程度(Pearsonの相関係数は0.66)であった。望ましい信頼度水準は通常0.80である。このため、何がベースライン1日目と7日目の平均1日得点における変化を引き起こしているのかを考慮する必要があった。解釈しようのない不的確な答えや反応を引き出すような言葉不足または説明不足の質問によって生じる偶然誤差は、質問票の信頼性を損なう最大の原因である。これがばらつきの原因である場合には、管理および指導方法を厳しくし、さらに質問票を慎重に操作して誤差の原因を決定することにより、試験-再試験信頼度を改善することができる。しかし、ばらつきが症状(すなわち、OABに伴う尿意切迫感)それ自体と関係していた可能性もある。症状それ自体が不安定だと、これがIUSS得点に反映される。言い換えると、この手段が安定した特性を測定しない場合、該手段が高い試験-再試験信頼度を有することは期待できない。1日目と7日目のデータが臨床研究プロトコルの影響を受けた可能性もある。6日目および7日目に患者に各自の排尿量を測定するよう求めたが、該患者は1日目に回収することは求められておらず、このことがデータ(すなわち、尿意切迫感)に影響を及ぼした可能性がある。1日目のデータは、この日が患者が各自の尿意切迫感をIUSSで記録し始める最初の日であるため、普段のパターンを示したデータではないかもしれないという懸念も多少ある。このため、代替比較(例えば、2日目と5日目)により試験-再試験信頼度が改善されることがある。このため、追加のpost-hoc分析を行ってベースライン2日目と5日目を比較したところ、試験-再試験の結果が0.80まで上昇し、所望の信頼度水準が達成されたことが示された。
【0086】
IUSSの内容的妥当性を評価することによってOABに対するこの尺度の重要性を立証したのは、OAB患者の尿意切迫感に対する標準化された評価方法が存在しなかったからである。この妥当性評価により、IUSSでは尿意切迫感による不快感の重症度-大きさならびにトイレ排泄および排尿を伴う尿意切迫感発現の頻度に関する情報を利用していることが実証された。IUSSでは、持続時間または患者がその衝動をどの程度もしくはどのくらい長く抑えることができるかについての情報は利用しない。
【0087】
結論
この研究の目的は、IUSSの心理測定学的品質を決定することであった。IUSSは、臨床試験用の自己報告手段として開発された単項目式尺度である。この研究により、該手段が構成概念、内容および既知群の妥当性、試験-再試験信頼度の点で心理測定学的に適切であり、かつ変化に対して反応性を示すものであることが実証された。
【0088】
結果の概要
研究の標題:
過活動膀胱患者における、塩化トロスピウム20mgを12週間にわたって1日2回投与する多施設共同・二重盲検・プラセボ対照研究と、その後9ヶ月に及ぶオープンラベル治療相
研究期間:約10ヶ月 開発段階:第III相
目的:
この研究の目的は、20mgの塩化トロスピウムとプラセボの1日2回投与が顕著な切迫性尿失禁を伴う過活動膀胱に及ぼす影響を、12週の治療期間、その後は先の二重盲検期間に参加していた患者全員を対象とした9ヶ月の塩化トロスピウム・オープンラベル期間にわたって測定することであった。この研究報告書には、該研究の二重盲検治療相で得られたデータが含まれている。この研究のオープンラベル治療相で得られた結果については、該オープンラベル治療相が完了してから別の研究報告書で述べることにする。
【0089】
方法論:
顕著な切迫性尿失禁を伴う過活動膀胱(OAB)患者の多施設共同・並行群比較・無作為化・二重盲検・プラセボ対照試験。現在OABの薬物療法を受けている患者には、7日間の患者排尿日誌回収を含む3週間のウォッシュアウト期間後に治療を開始するものとした。現在OABの薬物療法を受けていない患者(すなわち、初回患者)には、7日間の患者排尿日誌回収後に研究薬による治療を開始し、二重盲検治療を計12週間継続して行った。
【0090】
本研究の二重盲検治療期間では、患者に1:1の割合でプラセボまたは塩化トロスピウム20mgを1日2回無作為に投与した。患者の無作為化割付表は、(7日間分の患者排尿日誌を介して回収された)24時間当たりの排尿(すなわち、トイレ排泄)の平均ベースライン回数により、具体的には、24時間当たりの平均排尿回数が10〜15回、16〜20回、および21回以上である層別カテゴリを利用して、層化した。患者は、12週の治療期間中は定期的に評価し、この12週にわたる評価の84日目に帰宅させた。
【0091】
84日目(第12週)が終了した時点で、必要に応じて、患者に引き続きオープンラベル過活動膀胱試験を受けさせて、20mgの塩化トロスピウムを1日2回、最長9ヶ月間投与した。このオープンラベル治療相で得られた結果については、該オープンラベル治療相が完了してから別の報告書で述べることにする。
【0092】
被験者の人数(計画時および分析時の人数):
計画時:約510人の患者−トロスピウム-255人の患者;プラセボ-255人の患者
無作為化:523人の患者−トロスピウム-262人の患者;プラセボ-261人の患者
診断および主な選択規準:顕著な切迫性尿失禁を伴う過活動膀胱を持つ被験者
試験製品、投与の量および様式、バッチ番号:
塩化トロスピウム
経口錠:20mgを1日2回服用
バッチ番号:A0104896
治療期間:
12週の二重盲検治療相と、その後の随意の9ヶ月に及ぶオープンラベル治療相
対照療法、投与の量および様式、バッチ番号:
プラセボ
経口錠:1個の対応するプラセボ錠を1日2回服用
バッチ番号:30701
評価基準:
有効性:
各研究訪問前の2日間にわたって回収した排尿量を除く患者排尿日誌データを、ベースライン、8日目(第1週)、28日目(第4週)、および84日目(第12週)の訪問前の7日間にわたって回収した。ベースラインからの変化を全ての週について分析した。主な有効性分析は、ベースラインから第12週への変化を中心に進めた。尿失禁が及ぼす影響に関する質問票(IIQ)を利用して、ベースラインおよび第12週における患者の生活の質に治療が与える効果を評価した。
【0093】
主要有効性:共主要有効性変数(co-primary variables)は、以下:
・24時間当たりのトイレ排泄の平均回数における変化
・24時間当たりの切迫性尿失禁発現の平均回数における変化
とした。
【0094】
副次有効性:重要な副次有効性変数は、以下:
・トイレ排泄当たりの平均排尿量における変化
・トイレ排泄を伴う平均尿意切迫感重症度における変化
とした。
【0095】
追加の副次有効性変数は、以下:
第1週における24時間当たりのトイレ排泄に効果を及ぼす作用の発現;昼間および夜間のトイレ排泄の平均回数における変化;24時間当たりの正常排泄頻度アウトカム(トイレ排泄は平均7回以下);第1週における24時間当たりの切迫性尿失禁発現に効果を及ぼす作用の発現;昼間および夜間の切迫性尿失禁発現の平均回数における変化;24時間当たりの切迫性尿失禁反応者アウトカム(切迫性尿失禁事象は平均1回未満);24時間当たりの全尿失禁発現(切迫性および腹圧性尿失禁発現)の平均回数における変化;24時間当たりの腹圧性尿失禁発現の平均回数における変化;24時間当たりの全排尿(すなわち、トイレ排泄および切迫性尿失禁発現)の平均回数における変化;第1週における24時間当たりの全排尿に効果を及ぼす作用の発現;昼間および夜間の全排尿の平均回数における変化;ならびに24時間当たりの完全反応者アウトカム(トイレ排泄は平均7回以下であり、かつ切迫性尿失禁発現は平均1回未満である)
とした。
【0096】
追加の有効性評価基準として、総合的および男女別に見たIIQの合計得点、要素、および項目を含めた。
【0097】
安全性:
有害事象(AE)、臨床検査、生命兆候、および12誘導心電図(ECG)
統計的方法:
フィッシャーの直接確率検定を利用して有害事象を分析した。他のカテゴリカルデータは、施設(center)を層化変数として用いるCochran-Mantel-Haenszel(CMH)法を利用して分析した。全ての連続データ分析において、施設と治療に関する分散分析(ANOVA)モデルを利用した。
【0098】
等分散性はLevenの検定を利用して評価し、また正規性は残差のQ-QプロットおよびSapiro-Wilk統計(有意水準p0.10)を利用して調べた。データが正規分布していない場合には、中央値検定または元データの順位変換を利用した。
【0099】
報告書に提示されているp値は、有意性を両側検定する場合の値である。この研究報告書の文中のp値を小数第3位で四捨五入し、これを使用して有意性を定めた。プロトコルに従って、0.05以下のp値は有意であるとみなし、0.05より大きいp値と0.10以下のp値は有意傾向を表すものとみなした。表(すなわち、本文中および本文末の表)に提示されているp値は、小数第5位で四捨五入した。食品医薬品局(FDA)との取り決めによれば、共主要変数について補正を行う必要は無かった。
【0100】
要約-結論:
有効性結果:
主要有効性:トロスピウムは、プラセボ投与群と比べて、(第1、4および12週の)24時間当たりのトイレ排泄の平均回数における変化ならびに(第4および12週の)24時間当たりの切迫性尿失禁発現の平均回数における変化という主要有効性変数の、統計的に有意(p0.05)な改善(すなわち、減少)を示した。
副次有効性:トロスピウムは、プラセボと比べて、第1、4、および12週の平均排尿量(mL)および平均尿意切迫感重症度における変化という重要な副次有効性変数の、統計的に有意な改善を示した。具体的に言うと、トロスピウムは、24時間当たりの平均排尿量の統計的に有意な増加を示すと共に、24時間当たりの平均尿意切迫感重症度の有意な減少を示した。
【0101】
第1週における24時間当たりのトイレ排泄、切迫性尿失禁発現、および全排尿に効果を及ぼす作用の発現−7日目まで常に有意な効果を示したトロスピウムは、プラセボと比べて優れていた。これらの分析の結果は、トロスピウムの効果の発現が、治療第1週において24時間当たりのトイレ排泄の回数を有意に減らし、24時間当たりの切迫性尿失禁発現の回数を減らし、さらに24時間当たりの全排尿の回数を減らすことにより、かなりの臨床的利益をもたらすことを示している。
【表1】

【0102】
要約-結論(続き):
死に至る有害事象を経験した患者が1人いた。トロスピウム投与群の81歳の男性は、57日目に出血性脳卒中を経験した。研究薬を57日目に中止した。この患者は先の出血性脳卒中が元で125日目に死亡した。この事象について、本研究の責任医師は、研究薬との関係は薄く、高血圧の要素が疑われる該脳卒中の原因はむしろアミロイド血管症にあると判断した。
【0103】
合計38人の患者(トロスピウムで23人の患者、8.8%;プラセボで15人の患者、5.7%)は、TEAEが見られたので研究薬を完全に中止した。トロスピウム投与群における研究薬投与を中止する原因となった最も一般的なTEAEは、口渇、便秘、腹痛NOS、および尿閉であった。
【0104】
最も一般的なTEAE(すなわち、一方の治療群において2.0%以上の患者に生じ、かつプラセボ投与患者よりもトロスピウム投与患者で多く報告されたTEAE)について、患者の年齢、性別、および人種による下位集団分析を行った。これらの分析で得られた知見により、65歳から75歳未満、および75歳以上という年齢カテゴリに入るトロスピウム投与患者は、65歳未満のトロスピウム投与患者と比べてTEAEを経験する割合が高いという全般的傾向が明らかとなった。トロスピウム投与群では、患者の年齢が上がるにつれて口渇および便秘の発症率が上昇するという傾向が見られた。男女別の下位集団分析により、トロスピウム投与群では、女性患者における頭痛の発症率が男性患者と比べて高いという傾向が明らかとなった。さらに、トロスピウム投与群には、男性患者における尿閉の発症率が女性患者に比べて高いという傾向があった。
【0105】
臨床検査データ:血液学および血清化学検査データが臨床的有意性(potentially clinically significant:PCS)基準を満たした患者の人数は、トロスピウム投与群とプラセボ投与群でほぼ同じであった。尿中WBCおよび上皮細胞のPCS基準を満たした患者はプラセボ投与群よりもトロスピウム投与群で多く見られたが、UA所見の差異を臨床上有意義な差異と解釈することはなかった。
【0106】
生命兆候およびECGデータ:全体としては、生命兆候およびECGデータのPCS基準を満たした患者の人数は、トロスピウム投与群とプラセボ投与群でほぼ同じであった。高心拍数(100bpmより高く、かつその増加幅が15bpm以上)のPCS基準を満たした患者の人数は少なかったが、それでもプラセボ投与群と比べればトロスピウム投与群の患者の方が多いように思われた。120bpmより高く、かつその増加幅が15bpm未満であるような高心拍数のPCS基準を満たした患者はいずれの治療群にもいなかった。
【0107】
QTcF時間がベースラインより60 msec以上延長した結果500 msecを超えた患者が、各治療群に1人ずつ、計2人いた。いずれの患者においてもQTcF時間の延長に関連する臨床的兆候または臨床症状は見られなかったので、QTcF時間延長の結果として研究薬に何か処置を取るということはなかったが、このQTcF時間延長はいずれも測定終了時に消失した。
【0108】
要約-結論(続き):
結論:
トロスピウム20 mgを1日2回与えると、24時間当たりのトイレ排泄の平均回数の減少と24時間当たりの切迫性尿失禁発現の平均回数の減少という2つの共主要有効性評価項目、ならびに24時間当たりの平均排尿量の増加と24時間当たりのトイレ排泄を伴う平均尿意切迫感重症度の減少を含む他の評価項目について、プラセボよりも有意に優れた結果を生むことが示された。この研究では、トロスピウムは安全であり、また概ね忍容性であった。この研究で得られたデータは、トロスピウム20 mg bidが顕著な切迫性尿失禁を伴う過活動膀胱患者における有効かつ概ね安全な治療選択肢であるという結論を支持するものである。
【実施例2】
【0109】
顕著な切迫性尿失禁を伴い、かつ度重なる排尿衝動による夜間の頻繁な覚醒を訴える過活動膀胱患者に、就寝0.5時間前に、20 mgの塩化トロスピウムを与える。該患者は、各自の通常の睡眠時間中ずっと眠り続ける。
【実施例3】
【0110】
度重なる排尿衝動による夜間の頻繁な覚醒を訴える人々に、就寝1.0時間前に、20 mgの塩化トロスピウムを与える。該患者は、各自の通常の睡眠時間中ずっと眠り続ける。
【0111】
別表A:過活動膀胱用のIndevus式尿意切迫感重症度尺度
患者の排尿日誌中の指示の抜粋:
「各「トイレ排泄」に○を付けてから、あなたがトイレに到着する前に感じたその時の「尿意切迫感の程度」を順位付けして下さい。
【0112】
「尿意切迫感の程度」は、あなたの排尿衝動を説明するためのものです。あなたは、時には非常に強い排尿切迫感を感じることがあり、また別の時には「トイレ排泄」を開始する前に軽い切迫感を感じることがあります。その時の感覚を、以下:
0:なし −尿意切迫感はない
1:軽い −尿意切迫感は感じるが、それは容易に我慢できる程度であり、日常的な活動または仕事を続けることができる
2:中くらい −日常的な活動または仕事を中断または短縮させるには十分な尿意切迫不快感
3:強い −全ての活動または仕事を突然中止させるほどの極端な尿意切迫不快感
と定義される0、1、2、または3に○を付けることによって順位付けして下さい。
【表2】

【0113】
尿意切迫感の程度
0:なし −尿意切迫感はない
1:軽い −尿意切迫感は感じるが、容易に我慢できる程度である
2:中くらい −日常的な活動/仕事を中断させるには十分な尿意切迫不快感
3:強い −全ての活動/仕事を突然中止させるほどの極端な尿意切迫不快感
突発的な尿漏出
「切迫性尿漏出」 = 非常に強い排尿必要性による尿漏れ
「腹圧性尿漏出」 = 咳、くしゃみ、起立、笑い、運動、または膀胱に圧力がかかる他の身体的活動/動作による尿漏れ
別表B:IIQ‐オリジナル版(女性用)
一部の女性は、突発的な尿漏れおよび/または脱尿(prolapse)が各自の活動、人間関係、および感情に影響を及ぼす場合があることに気付いています。以下の質問は、あなたが抱える問題によって影響を受けたかまたは変化したと考えられる生活領域に関するものです。各質問について、この1週間の間に、尿漏れおよび/または脱尿によってあなたの活動、人間関係、および感情がどのくらい影響を受けたかを最もよく表している反応に印をつけて下さい。
【表3】

【0114】

【0115】

【0116】
別表C:IIQ−改定版(男性用)
以下の質問は、あなたが経験したであろう何らかの尿漏れによって影響を受けたと考えられる生活領域に関するものです。この1週間の間に、尿漏れによってあなたの活動、人間関係、および感情がどのくらい影響を受けたかを最もよく表している反応に印をつけて下さい。
【表4】

【0117】

【0118】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

【表12】

【表13】

【表14】

【表15】

【表16】

【0119】
参考文献
i Abrams P, Cardozo L, Fall M, et al. The standardization of terminology of lower urinary tract function: Report from the standardization sub-committee of the International Continence Society. Neurourol Urodyn 2002; 21: 167-178.
ii Shumaker SA, Wyman JF, Vebersax JS, McClish D, Fanti JA, for the Continence Program in Women (CPW) Research Group. Health-related quality of life measures for women with urinary incontinence: the Incontinence Impact Questionnaire and the Urogenital Distress Inventory. Quality of Life Research 1994; 3: 291-306.
iii Cohen J. Statistical power analysis for the behavioral sciences. New York: Academic Press, 1977:8.
iv Abrams P, Cardozo L, Fall M, et al. The standardization of terminology of lower urinary tract function: Report from the standardization sub-committee of the International Continence Society. Neurourol Urodyn 2002; 21: 167-178.
v Burglo K, Ouslander JG,. Effects of urge urinary incontinence on quality of life in older people. JAGS 1999; 47: 1032-1033.
vi Shumaker SA, Wyman JF, Uebersax JS, et al. Health-related quality of life measures for women with urinary incontinence: The Incontinence Impact Questionnaire and the Urogenital Distress Inventory. Continence Program for Women (CPW) Research Group. Quality of Life Research 1994; 3: 291-306.
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ix Kelleher CJ, Cardozo LD, Khullar V, Salvatore S. A new questionnaire to assess the quality of life or urinary incontinent women. Br J Gynaecol. 1997; 104: 1374-1379.
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xi Vaart van der CH, de Leeuw JRJ, Roovers JPWR, Heintz APM. Measuring health-related quality of life in women with urogenital dysfunction: the Urogenital Distress Inventory and Incontinence Impact Questionnaire revisited. Neurology and Urodynamics 2003; 22: 97-104.
xii Birbeck GL., et al. Quality of life measures in epilepsy. How well can they detect change over time? Neurology 2000; 54: 1822-1827.
ここまで本発明を十分に説明してきたが、本発明の精神もしくは範囲またはその実施形態に影響を及ぼすことなく、広範かつ等価な条件、パラメータ等の範囲内で本発明を実施しうることが当業者には理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトにおいて連続睡眠を促進する方法であって、ヒトに、就寝前に、該ヒトが目的とする睡眠時間内の覚醒を抑えるのに十分な量の塩化トロスピウムを投与することを含む前記方法。
【請求項2】
前記塩化トロスピウムを固体剤形で投与する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記塩化トロスピウムを液体剤形で投与する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記塩化トロスピウムを、約1 mg/kg〜約75 mg/kgの量で投与する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記塩化トロスピウムを、約20 mg/kg〜約50 mg/kgの量で投与する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記ヒトが過活動膀胱疾患を持つ患者である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記塩化トロスピウムを、前記患者の就寝時刻の0.5〜1.0時間前に投与する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記塩化トロスピウムを、前記患者の就寝時刻の1.5〜2.0時間前に投与する、請求項6記載の方法。
【請求項9】
過活動膀胱を患っているヒトにおいて排尿衝動に伴う不快感を治療するための方法であって、過活動膀胱疾患を持つヒトに有効量の塩化トロスピウムを投与することにより排尿衝動に伴う強い不快感を予防することを含む前記方法。
【請求項10】
過活動膀胱を患っている患者集団に投与した試験化合物によってもたらされる排尿切迫感の重症度の軽減が認められた場合に、該軽減を測定するための方法であって、
過活動膀胱を患っている患者用の薬物療法の二重盲検・プラセボ対照研究を行い、該研究の被験者に、各自がトイレに到着する直前に感じた尿意切迫感の程度を以下の4つの反応選択肢:
0:なし −尿意切迫感はない;
1:軽い −尿意切迫感は感じるが、それは容易に我慢できる程度であり、日常的な活動または仕事を続けることができる;
2:中くらい −日常的な活動または仕事を中断または短縮させるには十分な尿意切迫不快感;および
3:強い −全ての活動または仕事を突然中止させるほどの極端な尿意切迫不快感
を有する単項目式尿意切迫感重症度尺度を利用して順位付けさせることにより各自のトイレ排泄時の尿意切迫感の程度を記録させること、ならびに
前記集団において、前記試験化合物によってもたらされた排尿衝動の重症度の軽減を測定すること
を含む前記方法。

【公表番号】特表2006−524708(P2006−524708A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−513323(P2006−513323)
【出願日】平成16年4月26日(2004.4.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/012791
【国際公開番号】WO2004/096141
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(503267962)インディヴァス ファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】