説明

塩化ビニルの水性縣濁重合方法

【課題】ジアルキルパーオキシジカーボネートを用いた塩化ビニルの水性縣濁重合の方法、及び塩化ビニルの水性縣濁重合に適したジアルキルパーオキシジカーボネート溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】ジアルキルパーオキシジカーボネートを用いた塩化ビニルの水性縣濁重合方法であって、このジアルキルパーオキシジカーボネートを液体で水に不溶性のジアルキルアルカンジカルボキシレート中で溶液状態で重合に用いることを特徴とする;短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネート溶液の製造方法であって、第一段階で、水中で、無機塩の存在下、アルキルハロホルメートを無機過酸化物と反応させて、短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネートを製造し、第二段階で、このジアルキルパーオキシジカーボネートを水に不溶性の溶媒で抽出することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアルキルパーオキシジカーボネートを用いた塩化ビニルの水性縣濁重合方法に関するものである。さらに具体的には、本発明は、短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネートを溶液の状態で利用した方法に関するものである。また、本発明は、短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネート溶液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニルの水性縣濁重合の開始剤としてジアルキルパーオキシジカーボネートを使用することは公知である。ジエチル及びジイソプロピルパーオキシジカーボネートのような短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネートは、塩化ビニル重合の通常温度で高い活性を示すので、特に、好適な開始剤を構成する。しかしながら、それらは、純粋な状態で保存すると非常に危険であるため、不安定であるという欠点がある。
【0003】
この欠点を克服する目的で、例えば、塩化ビニルに溶解したアルキルハロホルメートをアルカリ性の水に溶解した過酸化水素のようなパーオキシ化合物と反応させることによって、重合反応容器の中で(「容器内で」)、パーオキシジカーボネートを製造することは既に提案されている。この開始剤の「容器内」製造方法によっては、重合反応器に開始剤を自動的に供給することはできない。さらに、この方法は、再現性が欠如し(実際に重合に取り入れる開始剤の量についての精度の欠如)、生産効率がよくない(開始剤の「容器内」合成が各重合サイクルに先行する必要がある)。
【0004】
また、厳密に必要な量のジアルキルパーオキシジカーボネートを重合反応器の外で(「容器外で」)、重合の直前に調製することも提案されている。
これは、水及び水と混和しない揮発性の溶媒、好ましくは、ペンタン又はヘキサンのような沸点が100℃未満の溶媒の存在下で、アルキルハロホルメートを、パーオキシ化合物と反応させることによって調製される。そして、このようにして得られた開始剤溶液全体(有機相及び水相)を、次の重合に備えて重合反応器に充填する (特許文献1 英国特許第1 484 675号、Solvay & Cie)。この方法によれば、開始剤を自動的に供給することはできるが、重合の直前に、かなり厳密な量の開始剤を生成する必要がある。また、この方法では、ジアルキルパーオキシジカーボネートの導入を遅らせるという、例えば、重合速度論的に改良するために有利な手法を用いることも(また)できない。さらに、上述の「容器内」製造方法と同様に、この方法で生成した塩化ビニルポリマーを加工すると、多くのフィッシュアイを含んだ製品となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許第1 484 675号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述のいずれの欠点をも示さない、短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネートを用いた塩化ビニルの水性縣濁重合の方法を提供することである。
また、本発明は、塩化ビニルの水性縣濁重合に特に適したジアルキルパーオキシジカーボネート溶液の製造方法を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため、本発明は、短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネートを用いた塩化ビニルの水性縣濁重合方法に係り、このジアルキルパーオキシジカーボネートは、液体で水に不溶性のジアルキルアルカンジカルボキシレート中で溶液の状態で用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のジアルキルパーオキシジカーボネート溶液の製造方法によれば、純度が高く、貯蔵安定性のある溶液を高収率で得ることができる。この溶液は、危険を伴わずに輸送することができ、導管に析出するという問題も生じない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の方法で用いる短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネート溶液は、本質的に、ジアルキルパーオキシジカーボネートと溶媒(ジアルキルアルカンジカルボキシレート)とから成る。従って、その溶液は、例えば、モノマーのような他の重合成分は含まない。
液体で水に不溶性のジアルキルアルカンジカルボキシレート(以下、簡単に「エステル」という)とは、標準状態、すなわち、室温、大気圧では、液体で水に不溶なエステルを意味する。水に不溶とは、さらに具体的には、室温での水に対する溶解度が、0.5g/l未満であることを意味する。本発明の方法のパーオキシジカーボネートの溶媒として用いるエステルの水に対する溶解度は、0.3g/lを超えないことが好ましい。
本発明の方法で用いる液体で水に不溶性のエステルの沸点は(標準状態で)、通常、100℃よりかなり高い。多くの場合、150℃以上である。
【0010】
適用可能なエステルの例としては、C4〜C10のアルカンジカルボン酸とC2〜C12のアルカノール(直鎖又は分岐した飽和脂肪族アルコール)から誘導される、上述したような液体で水に不溶性のエステルを挙げることができる。例えば、ジエチル、及びジブチルブタンジカルボキシレート(コハク酸エステル)、ジエチル、ジプロピル、ジブチル、ジイソブチル、及びジエチルヘキシルヘキサンジカルボキシレート(アジピン酸エステル)、ジエチル、及びジブチルオクタンジカルボキシレート(スベリン酸エステル)、及び、ジブチル、ジエチルブチル、及びジエチルヘキシルデカンジカルボキシレート(セバシン酸エステル)を挙げることができる。
【0011】
本発明の方法を実施するのに好適なエステルは、C4〜C8のアルカンジカルボン酸とC6〜C10のアルカノールから誘導されるアルカンジカルボキシレートである。特に好ましいエステルは、アジピン酸とC6〜C10のアルカノールから誘導されるヘキサンジカルボキシレート(アジピン酸エステル)から選択されたものである。本発明の方法では、アジピン酸ジエチルヘキシルが、特に好ましいエステルである。
【0012】
本発明による重合方法で用いるジアルキルパーオキシジカーボネート溶液の濃度は、通常、約15〜40重量%である。重合において希薄なパーオキシジカーボネート溶液を用いると、例えば、約10重量%(又はそれ未満)のジアルキルパーオキシジカーボネート含有の溶液を用いると、ガラス転移温度ひいては耐熱性の低い塩化ビニルポリマーが生成してしまうおそれがある。濃度があまり高すぎると、開始剤を反応器に加える際に正確に測ることができないので、通常は、約40重量%を超えない。ジアルキルパーオキシジカーボネートの濃度が、約25〜35重量%の溶液を用いた場合に、良い結果が得られる。
【0013】
本発明の重合方法で用いる短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネート溶液は、低温(10℃以下)で安全に貯蔵することができ、長時間、認知できるほどの活性の損失もなく貯蔵することができる。従って、複数の重合反応器あるいは同じ反応器内での複数の重合サイクルに供給するのに十分な量を、予め調製しておくことができる。
本発明において、短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネートとは、2又は3個の炭素原子を含む、エチル、プロピル、又はイソプロピルラジカル、さらに特定するとエチル及びイソプロピルラジカルで代表されるアルキルラジカルを持ったパーオキシジカーボネートを意味する。ジエチルパーオキシジカーボネートが、特に好ましいパーオキシジカーボネートである。
【0014】
従って、本発明の方法の最良の実施態様によれば、ジエチル又はジイソプロピルパーオキシジカーボネートを、アジピン酸とC6〜C10のアルカノールから誘導されるヘキサンジカルボキシレート(アジピン酸エステル)中で、溶液の状態で用いる。
本発明の重合方法では、短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネートの他に、他の従来の開始剤を併用してもよい。そのような他の開始剤としては、過酸化ジラウロイル、過酸化ベンゾイル、アゾ化合物、又はジセチルパーオキシジカーボネートのような長いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネートを挙げることができる。しかし、短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネートのみを用いて重合を開始することが好ましい。これらは、上述の他の過酸化物に比し、重合サイクルの終了時に重合混合物中に残存し、又は過剰に存在しても(それらは、生成される塩化ビニルポリマーの熱安定性に影響を及ぼす)、重合サイクルの終了時に混合物を単にアルカリ化することで容易に分解することができるという利点がある。
【0015】
また、重合の開始の後に(遅れて)、ジアルキルパーオキシジカーボネート有機溶液の全部あるいは一部を導入してもよい。短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネートの一部を遅れて導入すると、重合を速度論的に改良するために、あるいは、熱安定性に優れ、K値が低い樹脂(高温で生成される)を生成するために有利である。使用する開始剤の総量は、使用するモノマー1000重量部に対して、通常は、約0.15〜0.90重量部、さらに好ましくは、約0.20〜0.35重量部である。
短いアルキル鎖(C2又はC3)を有するジアルキルパーオキシジカーボネートをエステル中で溶液状態で用いるという特徴以外は、塩化ビニルの水性縣濁液中での非連続的重合で通常使用される重合条件が用いられる。
【0016】
本発明において、塩化ビニルの重合とは、塩化ビニルの単独重合、及び塩化ビニルとラジカル重合可能な他のエチレン結合を有する不飽和モノマーとの共重合の両方を意味する。本発明の方法で使用可能な塩化ビニルの従来のコモノマーの例としては、オレフィン類、ハロゲン化オレフィン類、ビニルエーテル類、例えば、ビニルアセテートのようなビニルエステル類、及び、アクリル酸エステル類、アクリル酸ニトリル類、アクリル酸アミド類が挙げられる。使用するコモノマーの量は、共重合で使用するコモノマー混合物の50モル%、多くの場合35モル%を超えない。本発明の方法では、塩化ビニルの単独重合が最適である。
【0017】
水性縣濁重合とは、油溶性の開始剤、本件では特に短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネートを、例えば、水溶性のセルロースエステル、部分鹸化ポリビニルアセテート(ポリビニルアルコールともいう)及びそれらの混合物のような分散剤の存在下で使用する重合を意味する。分散剤と同時に界面活性剤を用いることもできる。使用する分散剤の量は、通常、モノマー1000重量部に対して、0.7〜2.0重量部の範囲である。
重合温度は、通常、約40〜80℃である。
【0018】
重合の結果、本発明の方法で生成した塩化ビニルポリマーは、一般的には、残留モノマーから精製した後に、重合媒体から常法で分離される。
本発明の重合方法では、反応器への供給を自動化することができる。その結果、重合サイクルの再現性を改良することができる。さらに、本発明に従って、エステル中で溶液状態のジアルキルパーオキシジカーボネートを用いても、重合速度、あるいは生成される塩化ビニルポリマーの一般的な物性(K値、密度及び粒子サイズのような)には、ほとんど影響を及ぼさない。また、溶融プロセスにおいても、フィッシュアイが非常に少ない製品を提供することができる。
また、本発明は、塩化ビニルの水性縣濁重合に利用できる(かつ特に適している)短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネート溶液の2段階製造方法に関するものである。
【0019】
この方法によれば、第1段階で、水性反応媒体の密度を高めるのに十分な量の無機塩の存在下で、適量のアルキルハロホルメートを無機過酸化物と反応させることによって、短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネート(上述したような)を製造し、第2段階で、その製造されたジアルキルパーオキシジカーボネートを水に不溶性の溶媒を用いて抽出して、この溶媒中にジアルキルパーオキシジカーボネート溶液を生成する。
【0020】
水性反応媒体の密度を少なくとも1.05、さらに好ましくは、少なくとも1.10の値まで高めるのに十分な量の無機塩を用いると有効である。さらに、水性反応媒体の塩飽和濃度を超えないような量の無機塩を用いることが好ましい。
【0021】
ジアルキルパーオキシジカーボネートの製造段階で用いる塩の性質は、特に重要ではない。原則的に、無機塩は、ジアルキルパーオキシジカーボネートの生成にほとんど関与しないが、反応条件において沈殿しないものが適している。このような塩として、限定するものではないが、例えば、ハロゲン化物、特に、アルカリ及びアルカリ土類金属のハロゲン化物を挙げることができる。アルカリ金属のハロゲン化物が好ましい。特に有利な実施態様においては、塩化ナトリウムを使用している。
高密度の水性媒体中でパーオキシジカーボネートを製造すると、ジアルキルパーオキシジカーボネート溶液を効率的に分離することができる。
第1段階の重要な特徴は、水性反応相の密度を高めるのに十分な量の無機塩を用いることである。
【0022】
多くの場合、反応温度は、-10℃〜+10℃である。パーオキシジカーボネートの製造は、通常、数分の反応で完了し、反応時間は、一般的には、10分を超えず、多くの場合、5分を超えない。
アルキルハロホルメートとしては、多くの場合、クロロホルメートが有利である。無機過酸化物は、多くの場合、過酸化カルシウム又は過酸化ナトリウム、あるいは、水性の過酸化水素である。この後者の場合には、さらに、水酸化カルシウム又は水酸化ナトリウムのようなベースを水性反応媒体に導入することが好ましい。
【0023】
アルキルクロロホルメートを、過酸化ナトリウム又はベースとして水酸化ナトリウム(副生物としての塩化ナトリウムの生成を促す)を存在させた過酸化水素とともに用い、さらに、水相の密度を高めるための無機塩として塩化ナトリウムを用いると有利である。この場合、順次回収される(抽出によってジアルキルパーオキシジカーボネート溶液を分離した後に)塩分を含んだ水相は、問題なく、ジアルキルパーオキシジカーボネートを新たに製造するために再利用(任意に希釈して)することができる。
この方法は、本質的には、水相の密度を高めるための無機塩の使用を減らすことと、ジアルキルパーオキシジカーボネートの製造後の塩分を含んだ水相を廃棄することに関して環境問題を減少させ、あるいは、なくすことさえもできるという2つの利点を有する。
【0024】
第2段階で用いるジアルキルパーオキシジカーボネートの抽出用の水に不溶性の溶媒の性質は、特に重要ではない。水に不溶性の溶媒とは、室温、大気圧で、水に不溶で、さらには、この状態で、水に対する溶解度が、0.5g/l未満、さらに好ましくは、0.3g/l未満であるものを意味する。
限定されるものではないが、アルキルパーオキシジカーボネートの抽出に用いることのできる溶媒の例としては、塩化ビニル用の一般的な可塑剤から選択される水に不溶性の有機化合物を挙げることができる。限定されるわけではないが、そのような溶媒としては、芳香族多価カルボン酸エステル(フタル酸ジブチル又はフタル酸ジエチルヘキシルのような)、アルキルエポキシカルボキシレート(エポキシステアリン酸オクチルのような)、エポキシ化された油(エポキシ化大豆油のような)、又は、上述の塩化ビニルの水性縣濁重合で用いるジアルキルパーオキシジカーボネート溶液についての説明において定義したジアルキルアルカンジカルボキシレートを挙げることができる。
【0025】
さらに、相対密度が、1未満、さらに好ましくは、0.95未満の溶媒を選択すると有利である。
溶媒は、C4〜C8のアルカンジカルボン酸とC6〜C10のアルカノールから誘導されるジアルキルアルカンジカルボキシレートから選択することが特に好ましい。アジピン酸とC6〜C10のアルカノールから誘導されるヘキサンジカルボキシレート(アジピン酸エステル)から選択すると、さらに好ましい。アジピン酸ジエチルヘキシル(大気圧での沸点:214℃、室温での水に対する溶解度:0.2g/l未満、密度:0.922)によれば、最高の結果が得られる。
【0026】
抽出に用いる溶媒の量は重要でない。その量は、特に、選択した溶媒中でのジアルキルパーオキシジカーボネートの溶解度に依ることは明かである。この量は、ジアルキルパーオキシジカーボネートの最終的な濃度が、約15〜約40重量%、さらに好ましくは、約25〜35重量%になるようにすると有利である。
【0027】
ジアルキルパーオキシジカーボネート溶液製造の第2段階、すなわち、第1段階で製造されたジアルキルパーオキシジカーボネートの抽出による分離は、公知の適当な方法で行うことができる。
ジアルキルパーオキシジカーボネートの製造反応が終了した後に、抽出溶媒を水性反応混合物に添加すると、その相は沈降し、水性反応相から上澄み有機相が分離し、純粋なパーオキシジカーボネート溶液が得られる。
パーオキシジカーボネートの生成反応の後にのみ、水性反応混合物に抽出溶媒を加えることが肝要である。事実、その溶媒が反応の最初から存在すると、その存在によって反応が遅くなり、最終的に生成するパーオキシジカーボネート溶液の純度に影響を及ぼしてしまうことがわかった。従って、実際には、反応開始後、早くても約5分後に、溶媒を添加するのがよい。
【0028】
特に好ましく有利な実施態様によれば、製造方法の第1段階では、水相の密度を高くするための無機塩として塩化ナトリウムを用い、第2段階では、C6〜C10-アルカノールのアジピン酸エステル、特に、アジピン酸ジエチルヘキシルを、ジアルキルパーオキシジカーボネート溶液を生成するための抽出溶媒として用いて、短いアルキル鎖(ジエチル、ジプロピル、又はジイソプロピルのような)を有するジアルキルパーオキシジカーボネートを15〜40重量%含有するジアルキルパーオキシジカーボネート溶液が製造される。
本発明のジアルキルパーオキシジカーボネート溶液の製造方法によれば、純度が高く、貯蔵安定性のある溶液を高収率で得ることができる。この溶液は、危険を伴わずに輸送することができ、導管に析出するという問題も生じない。
【0029】
実施例1
以下の実施例で、本発明について説明する。
本実施例は、アジピン酸ジエチルヘキシル中に約30重量%のでジエチルパーオキシジカーボネートを含有する溶液を用いた塩化ビニルの水性縣濁単独重合に関するものである。パーオキシジカーボネートは、アジピン酸ジエチルヘキシルで抽出する前に、エチルクロロホルメート、過酸化水素及び水酸化ナトリウムから製造する。
【0030】
ジエチルパーオキシジカーボネート溶液の調製
10℃以下に冷却した1000-Lの攪拌器に、予め5℃に冷却した180g/kgの塩化ナトリウムを含む水溶液を 622 kg(すなわち、510kgの脱塩水と112kgのNaCl)を充填する。そして、その水溶液を攪拌しながら、20.4kgのクロロギ酸エチルと350g/kgの過酸化水素を含有する8.5kgの水溶液を、順次水溶液に加え、最後に、非常にゆっくりと、200g/kgの水酸化ナトリウムを含む36.1 Lの水溶液を添加して、温度を10℃以下に保持する。水性反応混合物の密度が1.11に増大する。NaOH溶液を添加し終えて 10分後に、34.5kgのアジピン酸ジエチルヘキシルを予め5℃に冷却してから加える。反応混合物を5℃に冷却しながら、15分間攪拌後、攪拌を停止する。すると、水相(密度の高い相)が沈降して分離するので、有機相を回収する。このように生成されたアジピン酸ジエチルヘキシル中のジエチルパーオキシジカーボネートを次の処理で使用するために5℃で保存しておく。そのジエチルパーオキシジカーボネートの含量(分析で決定した)は、287g/kgである。
【0031】
塩化ビニルの重合
攪拌機とジャケットを備えた、容量3.9m3の反応器に、室温で攪拌しながら(50rev/min)、1869kgの脱塩水と、0.801kgのポリビニルアルコール(加水分解度72モル%)と、0.534kgのポリビニルアルコール(加水分解度55モル%)、及び上述のように調製した開始剤溶液(すなわち、0.515kgのジエチルパーオキシジカーボネート)1.793kgを加える。反応器を密封し、攪拌を停止して、減圧(絶対圧60mmHg)の状態で5分間保持する。攪拌を再び開始し(110 rev/min)、1335kgの塩化ビニルを仕込む。その混合物を53℃に加熱し、ジャケットを通して冷却水を循環させる。重合混合物が、53℃に達した時を重合開始時(タイム=t0)とする。6時間後に(t0から計って)、反応器内の圧力は、1.5kg/cm2まで下がる。
【0032】
順次、0.35kgのアンモニアを添加し、未反応の塩化ビニルを脱気し、冷却して重合を終了させる。生成したポリ塩化ビニルを、常法で水性縣濁液から分離する。
K値が71.0(濃度が5g/lのシクロヘキサノン中20℃で)のPVCが、1118kg得られる。
生成したPVCを評価した物性:K値(濃度が5g/lのシクロヘキサノン中20℃で)、見掛け密度(AD)、空隙率(アジピン酸ジエチルヘキシルの吸収%)、粒度分布、さらに、このPVC100重量部とフタル酸ジエチルヘキシル40重量部の混合物を原料として押出し加工したフィルムで評価した1dm2の面積に存在する点の数として表したフィッシュアイの数;を下表にまとめて示した。
【0033】
実施例2(比較例)
比較のために、室温で攪拌しながら、0.734kgのクロロギ酸エチルと0.109kgの過酸化水素を全重量の水(0.284kgの水酸化ナトリウムを添加してアルカリ性にした)と、重合に使用する全重量のポリビニルアルコール(例1参照:すなわち1860kgの水と全部で1.335kgのポリビニルアルコール)の存在下で、反応させることで、最初に、ジエチルパーオキシジカーボネートを反応器の中で合成することを除いて、実施例1と同様の条件で、塩化ビニルの重合を再度行った。開始剤の「反応器内で」の合成終了後に、反応器を密封し、攪拌を停止して、反応器を5分間減圧(絶対圧60mmHg)状態で放置後、攪拌しながら(110rev/min)、1335kgの塩化ビニルを仕込んだ。次いで、加熱し、実施例1と同様に重合を行った。5時間51分後に、反応器内の圧力が1.5kg/cm2まで下がり、重合が終了した。K値(同じ条件で)が71.3のPVCが、1092kg得られた。
【0034】
比較例2によって得られたPVCの物性も下表にまとめて示した。
表に示された結果を比較すると、(本発明による)アジピン酸ジエチルヘキシル溶液中のジエチルパーオキシジカーボネートを用いても、重合速度、あるいは、生成されるPVCの一般的な物性に対しては、重大な影響を及ぼさないことがわかる。さらに、本発明により生成されたPVC(実施例1)を原料とする押出しフィルムは、「反応器内で」生成したジエチルパーオキシジカーボネートを使用して生成されたPVC(比較例2)を原料とした押出しフィルムと比較して、フィッシュアイの数が著しく減少している。
【0035】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネートを用いた塩化ビニルの水性縣濁重合方法であって、このジアルキルパーオキシジカーボネートを液体で水に不溶性のジアルキルアルカンジカルボキシレート中で溶液状態で重合に用いることを特徴とする塩化ビニルの水性縣濁重合方法。
【請求項2】
ジアルキルアルカンジカルボキシレートがC4〜C10のアルカンジカルボン酸とC2〜C12のアルカノールとから誘導される液体エステルから選択されたものであることを特徴とする請求項1記載の塩化ビニルの水性縣濁重合方法。
【請求項3】
ジアルキルアルカンジカルボキシレートが、アジピン酸とC6〜C10のアルカノールから誘導されるヘキサンジカルボキシレート(アジピン酸エステル)
から選択されたものであることを特徴とする請求項2記載の塩化ビニルの水性縣濁重合方法。
【請求項4】
ジアルキルパーオキシジカーボネート溶液の濃度が、約15〜40重量%であることを特徴とする請求項1記載の塩化ビニルの水性縣濁重合方法。
【請求項5】
ジエチル又はジイソプロピルパーオキシジカーボネートを、アジピン酸とC6〜C10のアルカノールから誘導されるヘキサンジカルボキシレート(アジピン酸エステル)中で溶液状態で用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の塩化ビニルの水性縣濁重合方法。
【請求項6】
短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネートのみを使用して、重合を開始させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の塩化ビニルの水性縣濁重合方法。
【請求項7】
短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネート溶液の製造方法であって、第一段階で、水中で、水性反応混合物の密度を高めるのに十分な量の無機塩の存在下で、適量のアルキルハロホルメートを無機過酸化物と反応させて、短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネートを製造し、第二段階で、この製造されたジアルキルパーオキシジカーボネートを水に不溶性の溶媒によって抽出して、この溶媒中にジアルキルパーオキシジカーボネート溶液を生成することを特徴とする短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネート溶液を製造する方法。
【請求項8】
水性反応媒体の密度が、少なくとも1.05の値になるのに十分な量の無機塩を使用することを特徴とする請求項7記載の短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネート溶液を製造する方法。
【請求項9】
無機塩が、塩化ナトリウムであることを特徴とする請求項7又は8記載の短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネート溶液を製造する方法。
【請求項10】
水に不溶性の溶媒が、ポリ塩化ビニルに通常使用されている可塑剤から選択されたものであることを特徴とする請求項7記載の短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネート溶液を製造する方法。
【請求項11】
水に不溶性の溶媒が、C4〜C8のアルカンジカルボン酸とC6〜C10のアルカノールから誘導されるジアルキルアルカンジカルボキシレートから選択されたものであることを特徴とする請求項10記載の短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネート溶液を製造する方法。
【請求項12】
水に不溶性の溶媒が、アジピン酸とC6〜C10のアルカノールから誘導されるヘキサンジカルボキシレート(アジピン酸エステル)から選択されたものであることを特徴とする請求項11記載の短いアルキル鎖を有するジアルキルパーオキシジカーボネート溶液を製造する方法。

【公開番号】特開2009−287029(P2009−287029A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184559(P2009−184559)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【分割の表示】特願平9−526486の分割
【原出願日】平成9年1月10日(1997.1.10)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】