説明

塩化ビニル系重合体の製造方法

【課題】見掛け密度が良好で且つフィシュアイが改良された塩化ビニル系重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】分散剤を含む水性媒体中において油溶性重合開始剤の存在下に塩化ビニル系単量体を懸濁重合するに際し、分散剤として、以下の(A)〜(C)の部分ケン化ポリ酢酸ビニルを使用し、分散剤(A)/(B)の使用比率(重量比率)、分散剤(C)の使用量を特定の範囲とする。
(A)ケン化度が75〜90モル%で、4重量%水溶液の粘度(20℃)が30〜60mPa・secである部分ケン化ポリ酢酸ビニル
(B)ケン化度が65〜75モル%で、10重量%水溶液の粘度(20℃)が5〜8mPa・sである部分ケン化ポリ酢酸ビニル
(C)ケン化度が55モル%以下で、10重量%の水/メタノール(50/50(wt/wt))混合溶液の粘度(20℃)が5〜30mPa・sec又は4重量%水溶液の粘度(20℃)が3〜6mPa・sである部分ケン化ポリ酢酸ビニル

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系重合体の製造方法に関し、詳しくは、分散剤を含む水性媒体中において油溶性重合開始剤の存在下に塩化ビニル系単量体を懸濁重合する塩化ビニル系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分散剤を含む水性媒体中において油溶性重合開始剤の存在下に塩化ビニル系単量体を懸濁重合する塩化ビニル系重合体の製造方法は公知であり、その1つとして、ケン化度異なる3種類の部分ケン化ポリ酢酸ビニル、すなわち、(a)ケン化度75〜85モル%、平均重合度1000〜3000の部分ケン化ポリ酢酸ビニル、(b)ケン化度65〜75モル%、平均重合度500〜900の部分ケン化ポリ酢酸ビニル、(c)ケン化度20〜54モル%、平均重合度200〜900の部分ケン化ポリ酢酸ビニルの特定量を分散剤として使用する方法がある(特許文献1)。この方法においては、(a)/(b)の重量比は1/3〜3/1と規定され、更に、単量体100重量部あたりの(a)+(b)の量は0.03〜0.15重量部、(c)の量は0.01〜0.1重量部と規定され、(a)/(b)の重量比が1/3未満の場合は、粒度が細かくなり、見掛け密度が低下し、また、フィッシュアイ(FE)や可塑剤吸収性などの品質の低下を招くとされている。
【0003】
【特許文献1】特開平5−230115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記の従来技術とは異なる製造方法を提供することにより塩化ビニル系重合体の製造分野における技術の豊富化に資することにある。
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、上記の従来技術とは異なる条件において見掛け密度が良好で且つFEが改良された塩化ビニル系重合体を製造し得るとの知見を得た。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は、分散剤を含む水性媒体中において油溶性重合開始剤の存在下に塩化ビニル系単量体を懸濁重合する塩化ビニル系重合体の製造方法において、分散剤として、以下の(A)〜(C)の部分ケン化ポリ酢酸ビニルを使用し、分散剤(A)/(B)の使用比率(重量比率)を12/88〜2/98とし、分散剤(C)の使用量を塩化ビニル系単量体100重量部あたり0.025〜0.12重量部とすることを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法に存する。
【0007】
(A)ケン化度が75〜90モル%で、4重量%水溶液の粘度(20℃)が30〜60mPa・secである部分ケン化ポリ酢酸ビニル
(B)ケン化度が65〜75モル%で、4重量%水溶液の粘度(20℃)が5〜8mPa・sである部分ケン化ポリ酢酸ビニル
(C)ケン化度が55モル%以下で、10重量%の水/メタノール(50/50(wt/wt))混合溶液の粘度(20℃)が5〜30mPa・sec又は4重量%水溶液の粘度(20℃)が3〜6mPa・sである部分ケン化ポリ酢酸ビニル
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、見掛け密度が良好で且つFEが改良された塩化ビニル系重合体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明において、塩化ビニル系単量体とは、塩化ビニルを主体とし、これと共重合可能な単量体との混合物をいう。ここで「塩化ビニルを主体とし」とは、塩化ビニル含量が50重量%以上であることを意味する。塩化ビニルと共重合可能な上記の単量体としては、例えば、酢酸ビニルに代表されるアルキルビニルエステル類、セチルビニルエーテルに代表されるアルキルビニルエーテル類、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、その他、塩化ビニリデン等が例示される。
【0011】
本発明において、油溶性開始剤としては、例えば、10時間半減期温度が30〜60℃のものが好適に使用され、その具体例としては、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシネオデカノエート、(α,α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。特にα−クミルパーオキシネオデカノエートを代表とするパーオキシエステル系の油溶性開始剤が好適である。油溶性開始剤の使用量は塩化ビニル系単量体100重量部あたり0.03〜0.2重量部である。
【0012】
本発明において、分散剤としては、以下の(A)〜(C)の部分ケン化ポリ酢酸ビニルを使用する。
【0013】
(A)ケン化度が75〜90モル%で、4重量%水溶液の粘度(20℃)が30〜60mPa・secである部分ケン化ポリ酢酸ビニル
(B)ケン化度が65〜75モル%で、4重量%水溶液の粘度(20℃)が5〜8mPa・sである部分ケン化ポリ酢酸ビニル
(C)ケン化度が55モル%以下で、10重量%の水/メタノール(50/50(wt/wt))混合溶液の粘度(20℃)が5〜30mPa・sec又は4重量%水溶液の粘度(20℃)が3〜6mPa・sである部分ケン化ポリ酢酸ビニル
【0014】
本発明においては、分散剤(A)/(B)の使用比率(重量比率)を12/88〜2/98とし、上記(C)の使用量を塩化ビニル系単量体100重量部あたり0.025〜0.12重量部とすることが重要である。本発明は、(A)/(B)の使用比率によって特徴付けられる。すなわち、前述の従来技術においては、(a)/(b)の重量比は1/3〜3/1と規定され、(a)/(b)=1/4の比較例が示されているが、本発明における(A)/(B)の使用比率は、それより著しく小さい値であり、言わば、先人未踏の範囲であるといえる。
【0015】
分散剤(A)及び(B)は重合中の単量体油滴や重合体粒子を水性媒体中に安定して懸濁させ、粒度および見掛け密度を適度に調節しながらしかも多孔質な内部構造を有する粒子を製造するために使用されるが、分散剤(A)の使用比率が上記の範囲より小さい場合はその使用の意義が失われ、分散剤(A)の使用比率が上記の範囲より大きい場合は見掛け密度が良好で且つFEが改良された塩化ビニル系重合体を製造せんとする本発明の目的を達成することが出来ない。分散剤(A)/(B)の使用比率の好ましい範囲は10/90〜5/95である。
【0016】
分散剤(C)は重合体粒子表面のスキン層の形成を防止すると共に粒子内部の1〜数μオーダーの基本粒子の凝集を防止することにより、多孔性でフィッシュアイが少なく可塑剤吸収性が良好な樹脂を得るために使用されるが、分散剤(C)の使用量が上記の範囲未満の場合はその使用の意義が失われ、分散剤(C)の使用量が上記の範囲を超える場合は塩化ビニル系単量体を重合する際に反応系の安定性が低下するという不都合が生じる。分散剤(C)の使用量の好ましい範囲は塩化ビニル系単量体100重量部あたり0.03〜0.06重量部である。
【0017】
分散剤(A)と(B)の合計使用量は、塩化ビニル系単量体100重量部あたり、通常0.09〜0.13重量部、好ましくは0.10〜0.12重量部である。分散剤(A)と(B)の合計使用量が上記の範囲未満の場合は重合中の単量体油滴や重合体粒子の懸濁安定性が損なわれて粗粒分が増加したり多孔性が低下し、また、上記の範囲を超える場合は粒度が細かくなり見掛け密度が低下するという不都合が生じる。
【0018】
また、分散剤(A)と(B)と(C)の合計使用量は、塩化ビニル系単量体100重量部あたり、通常0.11〜0.18重量部、好ましくは0.12〜0.16重量部である。
【0019】
本発明において、懸濁重合に際しての仕込み方法、仕込み割合、重合温度などの他の条件は通常の条件を採用することができる。例えば、単量体/水の重量比は通常0.5〜1の範囲である。重合温度は、油溶性重合開始剤の種類に応じた周知の温度であり、通常30〜80℃程度である。なお、塩化ビニル系単量体の仕込み方法については、反応の開始時に全量を一括添加してもよいが、例えば、反応率が50%を超えた後で反応終了させる前までに単量体の5〜40%を添加してもよい。斯かる方法によれば、見掛け密度の高い塩化ビニル系重合体が得られる利点がある。
【0020】
重合を終了させる方法としては、重合器の圧力が所定の圧力まで降下した時点で重合器から未反応単量体を回収するなどの方法が挙げられる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例により限定されるものではない。また、以下の諸例においては、分散剤として表1に記載の部分ケン化ポリ酢酸ビニルを使用した。また、熱分解時間とフィシュアイ(FE)の各測定方法は後述の通りである。
【0022】
【表1】

【0023】
(1)熱分解時間:
塩化ビニル系重合体100重量部に、ステアリン酸カルシウム0.8重量部、ステアリン酸亜鉛0.4重量部、エポキシ化大豆油2.0重量部、リン系キレーター(旭電化工業(株)製「Mark1500」)0.5重量部を混合して樹脂組成物を調製した。次いで、この樹脂組成物をロール上で150℃で5分混錬した後、厚さ0.75mmのシートとして取り出した。次いで、このシートを190℃のオーブンに入れ、シートが熱分解して黒化するまでの時間を測定した。
【0024】
(2)フィシュアイ(FE):
塩化ビニル系重合体100重量部、可塑剤:トリメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)50重量部、鉛系粉末安定剤3重量部から成る樹脂組成物を調製し、塩化ビニル系重合体100gをベースとして採取し、ビーカーで予備混合した後、155℃のロールでそれぞれ5分間混練し、厚さ0.4mmのロールシートを作成した。得られたロールシートの一辺5cmの正方形(面積25cm)中に認められるFEの数をそれぞれ計数してFE個数とした。
【0025】
(3)見掛け密度:
JIS K 7365に従って測定した。
【0026】
実施例1〜5及び比較例1〜3:
内容積400リットルの撹拌機及びジャケット付のステンレス製重合缶を窒素雰囲気下にした後、攪拌しながら脱気した脱イオン水139L、表1に記載の分散剤、塩化ビニル単量体121L、クミルペルオキシネオデカネート0.083wt%(対塩化ビニル単量体比)、tert−ブチルペルオキシネオデカネート0.028wt%(対塩化ビニル単量体比)を仕込んだ後、重合缶ジャケットに温水を循環させて、缶内温を51.3℃として重合を開始した。その後、重合転化率が60%に達した時点で、塩化ビニル単量体9.1Lを、36.4L/hrの添加速度で追加した。そして、重合缶内圧が、51℃での塩化ビニル単量体の飽和蒸気圧より0.15MPa低下したところで、未反応単量体を回収して、重合を終了させた。得られた塩化ビニル系重合体について上記の評価を行った。結果を表2及び3に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
表2及び表3に示す結果から次のことが分かる。すなわち、比較例1に示すように、分散剤(A)/(B)の使用比率(重量比率)が17/83の場合は、FE:302個、見掛け密度:0.444(g/ml)であるが、実施例1〜4に示すように、分散剤(A)/(B)の使用比率(重量比率)が10/90の場合は、FE:59〜159個、見掛け密度:0.446〜0.466となり、見掛け密度を維持したまま、FEが改良されている。
【0030】
なお、分散剤(A)/(B)の使用比率(重量比率)が、例えば20/80以上、12/80未満の領域では、上記のように、見掛け密度は比較的高いもののFEの改良効果が若干劣っているが、このレベルのFEであれば、混練条件等の調整により改良できるレベルではあり、必ずしも使用できないものではない。また、分散剤(A)/(B)の使用比率(重量比率)が20/80以上、2/98未満であって、分散剤(C)の分量が0.025重量部未満の場合も同様に、見掛け密度は比較的高いもののFEの改良効果が若干劣っているが、このレベルのFEであれば、混練条件等の調整により改良できるレベルではあり、必ずしも使用できないものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散剤を含む水性媒体中において油溶性重合開始剤の存在下に塩化ビニル系単量体を懸濁重合する塩化ビニル系重合体の製造方法において、分散剤として、以下の(A)〜(C)の部分ケン化ポリ酢酸ビニルを使用し、分散剤(A)/(B)の使用比率(重量比率)を12/88〜2/98とし、分散剤(C)の使用量を塩化ビニル系単量体100重量部あたり0.025〜0.12重量部とすることを特徴とする塩化ビニル系重合体の製造方法。
(A)ケン化度が75〜90モル%で、4重量%水溶液の粘度(20℃)が30〜60mPa・secである部分ケン化ポリ酢酸ビニル
(B)ケン化度が65〜75モル%で、4重量%水溶液の粘度(20℃)が5〜8mPa・sである部分ケン化ポリ酢酸ビニル
(C)ケン化度が55モル%以下で、10重量%の水/メタノール(50/50(wt/wt))混合溶液の粘度(20℃)が5〜30mPa・sec又は4重量%水溶液の粘度(20℃)が3〜6mPa・sである部分ケン化ポリ酢酸ビニル
【請求項2】
分散剤(A)と(B)の合計使用量を塩化ビニル系単量体100重量部あたり0.09〜0.13重量部とする請求項1に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項3】
分散剤(A)と(B)と(C)の合計使用量を塩化ビニル系単量体100重量部あたり0.11〜0.18重量部とする請求項1又は2に記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。
【請求項4】
パーオキシエステル系の油溶性重合開始剤を使用する請求項1〜3の何れかに記載の塩化ビニル系重合体の製造方法。