説明

塩化ビニル重合体及びその製造方法

【課題】 耐熱性を損なうことなく、熱安定性の高い塩化ビニル重合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 塩化ビニル重合体セグメントAに、酢酸ビニル重合体セグメントB及び、一般式(1)で表される末端Cが、A−B−Cの順で結合しており、酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量が塩化ビニル重合体セグメントAに対し0wt%を越え、5wt%以下であることを特徴とする塩化ビニル重合体。
【化1】


(Zは炭素数1〜20のアルコキシ基、アルキルサルファニル基、アリールサルファニル基、アルキル基及びアリール基から選ばれる有機基からなる群より選ばれる置換基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル重合体に関するものであり、更に詳しくは、熱安定性の高い塩化ビニル重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル重合体は安価であり、機械的物性、化学的物性に優れ、また可塑剤量の調整により硬質から軟質までの成形体が得られるため、フィルム、パイプなどの種々の用途に利用されている。
【0003】
しかし、通常のラジカル重合で合成した塩化ビニル重合体はモノマーへの連鎖移動反応、Head to Head付加、Backbiting反応などの副反応により、アリル塩素や3級塩素などの異常構造を多く含む。異常構造は正規構造(−CH−CHCl−)に比べ、熱的に分解しやすく、異常構造が塩化ビニル重合体の熱安定性低下の原因となっている。従来は加工時に鉛やスズなどを含む安定剤を添加することで、熱安定性低下を補ってきた。しかし、鉛やスズはヒトへの安全性や環境的な問題から代替が望まれており、代替品も性能に劣るのが現状である。また、安定剤を多量に添加すると安定剤の滲み出しなどの問題もある。そこで、塩化ビニル重合体自体の熱安定性向上が望まれている。
【0004】
塩化ビニル重合体の熱安定性を向上させる方法としては、例えば、ハーフメタロセン化合物/MAOを用いてアニオン重合を行う方法(非特許文献1)などが提案されている。しかし、これらの触媒は水に弱く水系媒体中での重合ができないため、懸濁重合や乳化重合といった実際のプロセスへの適用が困難という問題点があった。
【0005】
また、チオカルボニルチオ構造を有する化合物を用いた方法(特許文献1)なども提案されている。この方法は下記一般式(6)
R−S−C(=S)−Z (6)
で表されるチオカルボニルチオ化合物とラジカル開始剤の存在下で塩化ビニル単量体の重合を行うものである。この方法では得られる塩化ビニル重合体の分子量分布が狭いため、熱安定性が向上するが、熱安定性の改善はまだ不十分であった。
【0006】
また、アクリル酸エチルや酢酸ビニルなどを塩化ビニル重合体にラジカルグラフト重合する方法(非特許文献2)も提案されている。この方法では塩化ビニル重合体の異常構造に他のモノマーがグラフトすることで熱安定性が向上するが、塩化ビニル重合体以外のポリマー構造を多く含むため、耐熱性や加工性など塩化ビニル重合体の本来の物性を損なうという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−363217公報(特許請求の範囲)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Polymer(2008)49、1180−1184
【非特許文献2】高分子論文集(1975)32、551−556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明の目的は、耐熱性を損なうことなく、熱安定性の高い塩化ビニル重合体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定の構造をもつ末端修飾した塩化ビニル重合体が、耐熱性を損なうことなく、熱安定性に優れるものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、塩化ビニル重合体セグメントAに、酢酸ビニル重合体セグメントB及び、下記一般式(1)で表される末端Cが、A−B−Cの順で結合しており、酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量が塩化ビニル重合体セグメントAに対し0wt%を越え、5wt%以下であることを特徴とする塩化ビニル重合体。
【0012】
【化1】

(Zは炭素数1〜20のアルコキシ基、アルキルサルファニル基、アリールサルファニル基、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる置換基である。)
以下に、本発明の塩化ビニル重合体を詳細に説明する。
【0013】
本発明は塩化ビニル重合体セグメントAに、酢酸ビニル重合体セグメントB及び、下記一般式(1)で表されるチオカルボニルチオ末端Cが、A−B−Cの順で結合しており、酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量が塩化ビニル重合体セグメントAに対し0wt%を越え、5wt%以下であることを特徴とする塩化ビニル重合体である。
【0014】
【化2】

(Zは炭素数1〜20のアルコキシ基、アルキルサルファニル基、アリールサルファニル基、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる置換基である。)
ここで、塩化ビニル重合体セグメントAとは、1個以上の塩化ビニルモノマーが重合してできた部位のことを表す。酢酸ビニル重合体セグメントBとは、1個以上の酢酸ビニルモノマーが重合してできた部位のことを表す。
【0015】
ここで、酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量は塩化ビニル重合体セグメントAに対し0wt%を越え、5wt%以下である。本発明において、高い熱安定性を発現するには、酢酸ビニル重合体セグメントBが1つ以上の酢酸ビニル単量体単位からなるものであればよく、酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量が0wt%を越えていればよい。酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量が0wt%、すなわち酢酸ビニル重合体セグメントBがない場合、熱安定性の高い塩化ビニル重合体を得ることは困難となる。
【0016】
また、酢酸ビニル重合体セグメントが5wt%よりも多く存在すると、耐熱性や熱安定性が損なわれるうえ、加工性や機械的特性など塩化ビニル重合体が本来有する物性を損なってしまうと懸念される。さらに、耐熱性の低下をより小さく抑えることを目的に、酢酸ビニル重合体セグメントの含有量は塩化ビニル残基に対し2wt%未満であることが好ましく、耐熱性の低下を最小限に抑えることを目的に、1wt%未満がより好ましい。
【0017】
ここで、前記一般式(1)の−S−C(=S)−Zで表されるチオカルボニルチオ末端は重合反応において可逆的な連鎖移動剤として作用し、リビングラジカル重合的な反応が進行する。このリビングラジカル重合法は可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT重合)と呼ばれ、Rizzardoら、Aust.J.Chem.2009,62,1402−1472などに記載の重合である。この重合法は可逆的な連鎖移動剤とラジカル開始剤の存在かで行われ、重合がリビング的に進行することにより、分子量制御が可能であり、分子量分布の狭く、末端官能基化やブロック共重合体の作製が可能となる。
【0018】
ここで、前記一般式(1)におけるZは炭素数1〜20のアルコキシ基、アルキルサルファニル基、アリールサルファニル基、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる置換基であり、これら以外のものである場合、耐熱性を損うことなく、熱安定性の高い塩化ビニル重合体を効率的に得ることは困難となる。
【0019】
そして、炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、3−エチルペントキシ基、2,2,2−トリフルオロエトキシ基、ジエチレングリコキシモノメチルエーテル基、フェノキシ基、メトキシフェノキシ基、シクロヘキシルメトキシ基等が挙げられる。
【0020】
炭素数1〜20のアルキルサルファニル基又はアリールサルファニル基としては、メチルサルファニル基、エチルサルファニル基、n−プロピルサルファニル基、イソプロピルサルファニル基、n−ブチルサルファニル基、2−ブチルサルファニル基、ドデカンサルファニル基、3−エチルペンチルサルファニル基、シクロヘキシルサルファニル基、フェニルサルファニル基、ナフチルサルファニル基、等が挙げられる。
【0021】
炭素数1〜20のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、ドデカン基、等が挙げられ、アリール基としては、例えばフェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、等が挙げられる。
【0022】
また、上記以外の末端構造としては特に限定はないが、色相に優れ、耐熱性を損うことなく、熱安定性の高い塩化ビニル重合体を効率的に得ることを目的に、下記一般式(2)で表される末端Dを含み、D−A−B−Cの順で結合していることが好ましい。
【0023】
【化3】

(式中、R、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、アルキルエーテル基又はアリールエーテル基である。)
前記一般式(2)で表される末端Dは前記の通りであるが、具体的に例示すると、酢酸メチル基、酢酸エチル基、酢酸デカン基、プロピオン酸メチル基、プロピオン酸、イソ酪酸メチル基、イソ酪酸エチル基などが挙げられる。
【0024】
末端Dは可逆的連鎖移動剤の脱離基であって、脱離することによりラジカル開始剤として作用する官能基である。その他の脱離基としてメチルシアノ基などが知られているが、メチルシアノ基では色相が悪化するという問題がある。なかでも、色相に優れ、熱安定性に優れる塩化ビニル重合体となることから、R、Rの両方が水素原子であることがより好ましい。
【0025】
また、Rとしては、例えばメチル基、エチル基、ブチル基、t−ブチル基などのアルキル基;フェニル基、メチルフェニル基などのアリール基;エチレングリコールモノメチルエーテル基などのアルキルエーテル基;メトキシフェニル基などのアリールエーテル基、などが挙げられ、耐熱性を損うことなく、熱安定性の高い塩化ビニル重合体を得ることが可能となることから、Rはアルキル基であることが好ましい。
【0026】
本発明の塩化ビニル重合体の分子量は特に限定されないが、耐熱性や熱安定性、加工性などの特性を満足するために、数平均分子量Mnが1,000〜100,000の間であることが好ましく、耐熱性や熱安定性を高めるために、数平均分子量Mnが5,000〜100,000であることがより好ましい。
【0027】
本発明の塩化ビニル重合体の分子量分布Mw/Mnは特に限定されないが、塩化ビニル重合体の熱安定性が優れるものとなることから、分子量分布Mw/Mnが1〜3であることが好ましく、塩化ビニル重合体の熱安定性が優れるものとなることから、分子量分布Mw/Mnが1〜2であることがより好ましく、塩化ビニル重合体の熱安定性が優れるものとなることから、1.8以下がより好ましい。
【0028】
本発明の塩化ビニル重合体は単独であっても、その他のものを含む混合物であっても良い。混合物としては特に限定されないが、本発明の製造過程で生成する塩化ビニル単独重合体、その他の塩化ビニル重合体、製造の過程で副生する可能性のある酢酸ビニルの単独重合体、各種熱可塑性樹脂、添加剤、可塑剤、混合物などが挙げられる。このとき、混合物の熱安定性が優れるものとなることから、本発明の塩化ビニル重合体が混合物全体の30%以上であることが好ましい。
【0029】
本発明の塩化ビニル重合体を製造する方法は如何なる方法であっても良いが、リビングラジカル重合の一つである可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT重合)を用いることが好ましい。この可逆的付加開裂連鎖移動重合はRizzardoら、Aust.J.Chem.2009,62,1402−1472などに記載の重合である。
【0030】
本発明の重合体の製造手順は如何なる方法であっても良いが、次の工程[I]、[II]で製造することが好ましい。
【0031】
工程[1]:可逆的連鎖移動剤とラジカル開始剤の存在下、塩化ビニル単量体の重合を行い塩化ビニル単独重合体(E)を得る工程。
【0032】
工程[II]:塩化ビニル単独重合体(E)をラジカル開始剤の存在下、酢酸ビニル単量体(F)を重合させ、末端修飾した塩化ビニル重合体を得る工程。
【0033】
ここで、可逆的連鎖移動剤としては、下記一般式(3)を用いることが好ましい。
【0034】
【化4】

(式中、Zは炭素数1〜20のアルコキシ基、アルキルサルファニル基、アリールサルファニル基、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる置換基であり;Rは炭素数1〜20のアルキル基、アルキルシアノ基及び前記一般式(2)で表される官能基からなる群より選ばれる置換基である)
は炭素数1〜20のアルキル基、アルキルシアノ基及び前記一般式(2)で表される官能基からなる群より選ばれる置換基であるが、可逆的連鎖移動剤の脱離基であって、脱離することによりラジカル開始剤として作用する。
【0035】
は前記の通りであるが、具体的に例示すると、t−ブチル基などのアルキル基;メチルシアノ基、2−プロピオノニトリル基、2−イソブチロニトリル基などのアルキルシアノ基;酢酸メチル基、酢酸エチル基、酢酸デカン基、プロピオン酸メチル基、プロピオン酸、イソ酪酸メチル基、イソ酪酸エチル基などの前記一般式(2)で表される官能基などが挙げられる。
【0036】
は色相に優れ、耐熱性を損うことなく、熱安定性の高い塩化ビニル重合体を効率的に得ることを目的に、前記一般式(2)で表される官能基であることが好ましい。なかでも、より色相に優れ、熱安定性に優れる塩化ビニル重合体となることから、前記一般式(2)のR、Rの両方が水素原子であることがより好ましい。
【0037】
前記一般式(3)で表される可逆的連鎖移動剤は前記の通りであるが、具体的に例示すると、例えば、メトキシチオカルボニルサルファニル酢酸メチル、エトキシチオカルボニルサルファニル酢酸メチル、3−エチルペントキシチオカルボニルサルファニル酢酸メチル、2,2,2−トリフルオロエトキシチオカルボニルサルファニル酢酸メチル、フェノキシチオカルボニルサルファニル酢酸メチル、4−メトキシフェノキシチオカルボニルサルファニル酢酸メチル、エトキシチオカルボニルサルファニル酢酸エチル、2−(エトキシチオカルボニルサルファニル)プロピオン酸メチル、2−(エトキシチオカルボニルサルファニル)プロピオン酸エチル、2−(エトキシチオカルボニルサルファニル)イソ酪酸メチル、2−(エトキシチオカルボニルサルファニル)イソ酪酸エチルなどのZがアルコキシ基の化合物;メチルサルファニルチオカルボニルサルファニル酢酸メチル、エチルサルファニルチオカルボニルサルファニル酢酸メチル、ドデカンサルファニルチオカルボニルサルファニル酢酸メチル、フェニルサルファニルチオカルボニルサルファニル酢酸メチルなどのZがアルキルサルファニル又はアリールサルファニル基の化合物;チオアセチルサルファニル酢酸メチル、チオプロピオニルサルファニル酢酸メチルなどのZがアルキル基の化合物;チオベンゾイルサルファニル酢酸メチル、4−メトキシチオベンゾイルサルファニル酢酸メチルなどのZがアリール基の化合物などが挙げられる。
【0038】
特に、色相への悪影響が少なく、かつ、効率的に熱安定性を高めることができることから、メトキシチオカルボニルサルファニル酢酸メチル、エトキシチオカルボニルサルファニル酢酸メチル、3−エチルペントキシチオカルボニルサルファニル酢酸メチル、2,2,2−トリフルオロエトキシチオカルボニルサルファニル酢酸メチル、フェノキシチオカルボニルサルファニル酢酸メチル、4−メトキシフェノキシチオカルボニルサルファニル酢酸メチル、エトキシチオカルボニルサルファニル酢酸エチル、2−(エトキシチオカルボニルサルファニル)プロピオン酸メチル、2−(エトキシチオカルボニルサルファニル)プロピオン酸エチルが好ましい。
【0039】
前記一般式(3)で表される可逆的連鎖移動剤の使用量には特に限定は無いが、適度な分子量を有し、熱安定性に優れる塩化ビニル重合体を得ることを目的に、塩化ビニル単量体100モル%あたり、0.001モル%〜5モル%であることが好ましい。なお、工程[I] で生成する塩化ビニル単独重合体(E)の分子量は塩化ビニル単量体と前記一般式(3)で表される可逆的連鎖移動剤との割合と重合転化率により調整することができ、所望の分子量を有する塩化ビニル単独重合体(E)を得ることができる。
【0040】
ラジカル重合開始剤としては塩化ビニル単量体の重合を開始できるラジカル重合開始剤であれば如何なるものも使用でき、例えばクミルパーオキシネオデカノエート、tert−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、tert−ヘキシルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシピバレート等のパーエステル型開始剤;ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等のジカーボネート型開始剤;イソブチリルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等のジアシル型開始剤;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ型開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性開始剤等を挙げることができ、これらのラジカル重合開始剤は1種以上で使用することができる。
【0041】
該ラジカル重合開始剤の使用量は特に限定されないが、通常、塩化ビニル単量体100モル%あたり、0.001〜1モル%である。
【0042】
工程[I]、[II]のラジカル重合開始剤の種類およびその量は同一又は異なるものを採用してもよい。
【0043】
工程[II]で単量体として酢酸ビニル単量体を用いているが、本発明の塩化ビニル重合体を効率的に製造するためには、塩化ビニル単独重合体とチオカルボニルチオ末端との結合が比較的強いため、生長ラジカルとなった時の反応性が高い単量体である非共役モノマーを用いる必要があるためである。また、酢酸ビニル単量体は安価であるうえ、入手容易で、酢酸ビニル重合体は塩化ビニルとの親和性にも優れる点でも優れている。
【0044】
本発明の重合体の製造方法としては、バルク重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合など塩化ビニル単量体を重合できる方法であれば何れの方法でも良いが、特に品質に優れ、生産性に優れる製造方法となることから、懸濁重合が好ましい。
【0045】
工程[I]、[II]の重合方法は同一又は異なる重合法を採用でき、例えば、工程[I]を懸濁重合で行った後に、工程[II]で溶液重合を行ってもよい。
【0046】
重合方法として懸濁重合を用いる場合には、ラジカル開始剤、前記一般式(3)で表される可逆的連鎖移動剤を用い、分散剤の存在下、水性媒体中で塩化ビニル単量体の重合を行う。重合方法として懸濁重合を用いる場合の分散剤としては、懸濁重合において塩化ビニル単量体の分散が可能である分散剤であれば如何なるものも使用でき、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールおよびその部分ケン化物、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、デンプン等の有機物;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム等の無機物等を挙げることができ、これら分散剤は1種以上で使用することができる。前記分散剤の使用量は、懸濁重合が可能であれば如何なる量であっても良いが、優れた粒子形態を有する塩化ビニル重合体を得ることが可能となることから、塩化ビニル単量体100重量部に対し、0.01〜1重量部である。
【0047】
重合方法として懸濁重合を用いる場合の水性媒体としては、水はもとより、イオン交換水、蒸留水、脱イオン水、工業用水、飲料水等を挙げることができ、例えばアルコール等の有機溶剤を懸濁重合に支障のない範囲で含んでいるものであってもよい。そして、水性媒体の使用量としては、懸濁重合が可能であれば如何なる量であっても良く、特に効率的に塩化ビニル重合体の製造が可能となることから塩化ビニル単量体100重量部に対し、100〜500重量部であることが好ましい。
【0048】
重合温度としては、塩化ビニル単量体の懸濁共重合が可能であれば如何なる温度であってもよく、特に塩化ビニル重合体を効率的に得ることが可能となることから0℃〜100℃であることが好ましく、特に35℃〜70℃であることが好ましい。
【0049】
重合方法としては、前記の工程の後に重合を停止させる工程、得られた塩化ビニル重合体の洗浄・精製を行う工程、等の付加的工程の追加を行う事も可能である。
【0050】
本発明は塩化ビニル重合体の耐熱性を損なうことなく、熱安定性の高い、末端修飾した塩化ビニル重合体である。可逆的付加開裂連鎖移動重合法により得られる塩化ビニル重合体は熱安定性が向上するものの十分でない。その原因として、可逆的付加開裂連鎖移動重合法により得られる塩化ビニル重合体はチオカルボニルチオ末端を有しており、チオカルボニルチオ末端が熱的に不安定であることが一因である。塩化ビニル重合体の熱分解は脱HCl反応が主であり、一旦分解が起こると、その分解が隣接する塩化ビニル残基にも波及し、1箇所の熱分解が連鎖的な熱分解を引き起こすことが知られている(「ポリ塩化ビニル−その基礎と応用−」、日刊工業新聞社(1988)、近畿化学協会編)。そのため、可逆的付加開裂連鎖移動重合法により得られる塩化ビニル重合体では、チオカルボニルチオ末端を起点として連鎖的な脱HCl反応による連鎖的な熱分解が起こり、熱安定性に悪影響を及ぼし、本来の熱安定性を発揮できない。そこで、塩化ビニル重合体セグメントAとチオカルボニルチオ末端Cの間にスペーサーとして、少なくとも1量体以上の酢酸ビニル重合体セグメントBを導入すると、熱的に不安定な末端が分解しても、分解がスペーサーである酢酸ビニル重合体セグメントBで止まるため、チオカルボニルチオ末端を起点とする連鎖的な熱分解を抑制することができ、塩化ビニル重合体の熱安定性を高めることができる。
【0051】
ここで、酢酸ビニル重合体セグメントBは1量体以上であればよく、酢酸ビニル重合体セグメントBは連鎖的な熱分解の停止点として作用することで、高い熱安定性が発現する。通常“ブロック重合体”と呼ばれる重合体ではそれぞれのブロック成分の性質を利用することを目的としているが、本発明はスペーサーとしてセグメントBをもつ塩化ビニル重合体であり、通常“ブロック重合体”と呼ばれる重合体とは技術的な思想が異なるものである。
【0052】
一般的なチオカルボニルチオ末端の除去方法としては、塩基や還元剤による処理(Macromolecules(2007)40、4446−4455)などが知られているが、塩化ビニル重合体の場合にはチオカルボニルチオ末端と塩化ビニル重合体との結合が強固で除去しにくいうえ、処理に伴い塩素原子が脱離しやすく、通常の方法では塩素の脱離に伴う不飽和結合の生成に伴い、着色や熱安定性低下を引き起こしてしまうという問題点がある。本発明の方法では不飽和結合の生成や着色も起こらず、その点でも優れていると言える。
【0053】
そのため、本発明の塩化ビニル重合体を用いれば、耐熱性を損なうことなく、熱安定性の高い塩化ビニル重合体を得ることができ、色相や熱安定性、透明性に優れる塩化ビニル重合体として各種成形体への展開が見込める。また、熱安定性に優れるため、安全性や環境的に問題のある鉛やスズ系の安定剤からの代替がより容易であり、安全性や環境性に優れる塩化ビニル重合体としても各種成形体への展開が見込める。
【発明の効果】
【0054】
本発明の塩化ビニル重合体によれば、耐熱性を損なうことなく、熱安定性の高い塩化ビニル重合体を提供することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例および比較例によって説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例および比較例における分子量、Mw/Mn、5%重量減少温度の測定、3級塩素量の同定は下記の方法により測定を行った。
【0056】
〜分子量の測定〜
数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw及びMw/Mnは、GPCにより求めた。充填カラムとして東ソー(株)製、(商品名)TSKgel MultiporeHXL−Mを2本用い、テトラヒドロフランを移動相として、ピーク検出には示差屈折計(東ソー(株)製、(商品名)RI−8020)を用い、カラム温度:40℃、流量:1.0mL/minで測定した。また、Mn及びMwは、東ソー(株)製の標準ポリスチレンにより検量線を作成し、求めた。
【0057】
〜末端構造量の測定〜
末端構造量はH−NMR(日本電子社製、(商品名)GSX270)測定により求めた。なお、溶媒としてテトラヒドロフラン‐d8を用い、室温で測定を行った。
【0058】
チオカルボニルチオ末端に隣接する塩化ビニル残基量は6〜6.2ppmのピークの積分強度(a)と4.2〜5ppmのピークの積分強度(b)から以下の式(7)に従って算出した。
【0059】
チオカルボニルチオ末端に隣接する塩化ビニル残基量(個/1000塩化ビニル単量体単位)=(チオカルボニルチオ末端に隣接する塩化ビニル残基量/塩化ビニル残基量)=(a×1000)/b (7)
〜酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量の測定〜
酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量はH−NMR(日本電子社製、(商品名)GSX270)測定により求めた。なお、溶媒としてテトラヒドロフラン‐d8を用い、室温で測定を行った。
【0060】
酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量は4.85〜5.05ppmのピークの積分強度(c)と4.2〜4.85ppmのピークの積分強度(d)から以下の式(8)に従って算出した。
【0061】
酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量(wt%)=(酢酸ビニル残基量/塩化ビニル残基量)=(c×86.1×100)/(d×62.5) (8)
また、スチレン残基の含有量は6.2〜7.5ppmのピークの積分強度(e)と4.2〜5.0ppmのピークの積分強度(f)から以下の式(9)に従って算出した。
【0062】
スチレン残基の含有量(wt%)=(スチレン残基量/塩化ビニル残基量)=(e×104.2×100)/(f×62.5) (9)
〜5%重量減少温度の測定〜
5%重量減少温度はTG−DTA(セイコー電子工業株式会社製、(商品名)EXSTAR6000)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分、窒素流量200mL/min、アルミニウム製のサンプルパンを用い、リファレンスとしてαアルミナを用いて測定した。初期重量から5%重量が減少した時の温度を5%重量減少温度とし、熱安定性の指標とした。
【0063】
〜ガラス転移温度の測定〜
ガラス転移温度(中間点ガラス転移温度)は示差走査熱量計(セイコー電子工業株式会社製、(商品名)EXSTAR6000)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で−20℃から120℃の範囲で2回測定し、2回目の測定結果を用いた。
【0064】
製造例1
(塩化ビニル単独重合体の製造)
パドル型撹拌翼、バッフルを装備した内容積1リットルのステンレス製重合器に窒素置換を3回行い、脱イオン水420g(300重量部)、ケン化度80モル%で平均重合度2600のポリビニルアルコール部分ケン化物0.128g(0.10重量部)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.051g(0.04重量部)を装入し、さらに窒素置換を3回行った。その後、エトキシチオカルボニルサルファニル酢酸メチル0.495g(0.125モル%)、2,2−アゾビス(イソブチロニトリル)0.042g(0.025モル%)をエタノール30mLに溶解させ装入し、さらに、塩化ビニル単量体127.5g(100重量部)を装入し、撹拌を行いながら内温60℃で懸濁重合を行った。内温が60℃に到達後5時間で重合を停止(重合時間:5時間)し、未反応単量体を気化させ生成物をろ集した後、2リットルの脱イオン水で洗浄した。その後、35℃で3時間減圧乾燥を行い、さらに65℃で3時間減圧乾燥することにより塩化ビニル単独重合体を得た(収量:18.5g、重合転化率:14.5%)。Mnは7300、Mw/Mnは1.41、チオカルボニルチオ末端に隣接する塩化ビニル残基量は7.3個/1000塩化ビニル単量体単位であった。また、前記一般式(2)のR、Rが水素原子、Rがメチル基である末端Dに由来するピークが3.67ppmにみられたことから、塩化ビニル単独重合体が末端Dを有しており、塩化ビニル重合体セグメントA、チオカルボニルチオ末端Cがそれぞれ、D−A−Cの順で結合した重合体が得られたと確認できた。
【0065】
実施例1
(塩化ビニル重合体の製造)
スターラー、攪拌子を備えた100mLのシュレンク管に製造例1の塩化単独ビニル重合体を0.5g、2,2−アゾビス(イソブチロニトリル)0.059g(塩化ビニル単独重合体のチオカルボニルチオ末端に対し、0.5当量)を導入し、窒素置換した。その後、十分に窒素バブリングした酢酸ビニル1.23g(塩化ビニル単独重合体のチオカルボニルチオ末端に対し、200当量)、十分に窒素バブリングした脱水テトラヒドロフラン20mLを導入し、60℃で5時間重合した。重合後、反応溶媒を工業用エタノール100mLとヘキサン100mLの混合溶媒に注ぎ込み、固体をろ集した。その後、固体をテトラヒドロフランに溶解させ、工業用エタノール100mLとヘキサン100mLの混合溶媒に注ぎ込み、固体をろ集した。40℃で10時間真空乾燥することにより末端修飾した塩化ビニル重合体を得た。Mnは7,600、Mw/Mnは1.70、チオカルボニルチオ末端に隣接する塩化ビニル残基量は3.9個/1000塩化ビニル単量体単位、酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量は0.7wt%であった。また、H−NMRにおいて、6.6〜6.7ppmにチオカルボニルチオ末端に隣接する酢酸ビニル残基のピークが確認でき、チオカルボニルチオ末端に隣接する塩化ビニル残基量も減少したことから、塩化ビニル重合体セグメントAと酢酸ビニル重合体セグメントBとチオカルボニルチオ末端CがA−B−Cの順で結合した塩化ビニル重合体が得られていると確認した。また、得られたポリマーを、酢酸ビニルの単独重合体が可溶なエタノールで再沈精製及び洗浄を行っても、固体成分にチオカルボニルチオ末端に隣接する酢酸ビニル残基のピークが確認できたことからも、A−B−Cの順で結合した塩化ビニル重合体の生成が示された。また、前記一般式(2)のR、Rが水素原子、Rがメチル基である末端Dに由来するピークが3.67ppmにみられたことから、塩化ビニル重合体が末端Dを有しており、D−A−B−Cの順で結合した塩化ビニル重合体が得られたと確認できた。また、ポリマーは白色固体で着色は認められなかった。物性を表1に示す。
【0066】
実施例2
実施例1において、酢酸ビニル1.23g(塩化ビニル重合体のチオカルボニルチオ末端に対し、200当量)の代わりに、酢酸ビニル0.123g(塩化ビニル重合体のチオカルボニルチオ末端に対し、20当量)を導入した以外は実施例1と同じ方法で行った。Mnは7,300、Mw/Mnは1.49、チオカルボニルチオ末端に隣接する塩化ビニル残基量は4.9個/1000塩化ビニル単量体単位、酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量は0.1wt%であった。物性を表1に示す。また、H−NMRにおいて、6.6〜6.7ppmにチオカルボニルチオ末端に隣接する酢酸ビニル残基のピークが確認でき、チオカルボニルチオ末端に隣接する塩化ビニル残基量も減少したことから、塩化ビニル重合体セグメントAと酢酸ビニル重合体セグメントBとチオカルボニルチオ末端CがA−B−Cの順で結合した塩化ビニル重合体が得られていると確認した。また、ポリマーは白色固体で着色は認められなかった。物性を表1に示す。
【0067】
実施例3
実施例1において、酢酸ビニル1.23g(塩化ビニル重合体のチオカルボニルチオ末端に対し、200当量)を導入した代わりに、酢酸ビニル2.46g(塩化ビニル重合体のチオカルボニルチオ末端に対し、400当量)を導入した以外は実施例1と同じ方法で行った。Mnは7,700、Mw/Mnは1.77、チオカルボニルチオ末端に隣接する塩化ビニル残基量は3.4個/1000塩化ビニル単量体単位、酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量は3.6wt%であった。また、H−NMRにおいて、6.6〜6.7ppmにチオカルボニルチオ末端に隣接する酢酸ビニル残基のピークが確認でき、チオカルボニルチオ末端に隣接する塩化ビニル残基量も減少したことから、塩化ビニル重合体セグメントAと酢酸ビニル重合体セグメントBとチオカルボニルチオ末端CがA−B−Cの順で結合した塩化ビニル重合体が得られていると確認した。物性を表1に示す。
【0068】
比較例1
製造例1の塩化ビニル単独重合体をテトラヒドロフランに溶解させ、工業用エタノール100mLとヘキサン100mLの混合溶媒に注ぎ込み、固体をろ集した。同じ操作をもう1回繰り返したのち、40℃で10時間真空乾燥することにより塩化ビニル単独重合体を得た。
【0069】
Mnは7,400、Mw/Mnは1.40、チオカルボニルチオ末端に隣接する塩化ビニル残基量は7.3個/1000塩化ビニル単量体単位であり、5%重量減少温度は263℃であった。また、ポリマーは白色固体で着色は認められなかった。物性を表1に示す。
【0070】
比較例2
実施例1において、酢酸ビニル1.23g(塩化ビニル単独重合体のチオカルボニルチオ末端に対し、200当量)、十分に窒素バブリングした脱水テトラヒドロフラン20mLを導入した代わりに、酢酸ビニル6.15g(塩化ビニル単独重合体のチオカルボニルチオ末端に対し、1000当量)、十分に窒素バブリングした脱水テトラヒドロフラン15mLを導入した以外は実施例1と同じ方法で行った。Mnは8,400、Mw/Mnは1.92、チオカルボニルチオ末端に隣接する塩化ビニル残基量は2.7個/1000塩化ビニル単量体単位、酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量は9.4wt%であった。また、H−NMRにおいて、6.6〜6.7ppmにチオカルボニルチオ末端に隣接する酢酸ビニル残基のピークが確認された。また、ポリマーは白色固体で着色は認められなかった。物性を表1に示す。
【0071】
比較例3
実施例1において、酢酸ビニル1.23g(塩化ビニル単独重合体のチオカルボニルチオ末端に対し、200当量)、十分に窒素バブリングした脱水テトラヒドロフラン20mLを導入し、60℃で5時間重合した代わりに、酢酸ビニル6.15g(塩化ビニル単独重合体のチオカルボニルチオ末端に対し、1000当量)を導入し、60℃で2時間重合した以外は実施例1と同じ方法で行った。Mnは59,000、Mw/Mnは2.16、酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量は734wt%であった。また、ポリマーは半透明なゲル状の固体であった。物性を表1に示す。
【0072】
【表1】

比較製造例1
製造例1において、エトキシチオカルボニルサルファニル酢酸メチル0.495g(0.125モル%)の代わりに、2−メルカプトエタノール0.638g(0.4モル%)を用いた以外は製造例1と同じ方法で行った。
【0073】
比較例4
比較製造例1のポリマーをテトラヒドロフランに溶解させ、工業用エタノール100mLとヘキサン100mLの混合溶媒に注ぎ込み、固体をろ集した。同じ操作をもう1回繰り返したのち、40℃で10時間真空乾燥することにより塩化ビニル重合体を得た。Mnは8,200、Mw/Mnは4.39であり、5%重量減少温度は260℃、ガラス転移温度は72.5℃であった。
【0074】
比較例5
実施例1において、酢酸ビニル1.23g(塩化ビニル単独重合体のチオカルボニルチオ末端に対し、200当量)、十分に窒素バブリングした脱水テトラヒドロフラン20mLを導入し、60℃で5時間重合した代わりに、スチレン7.44g(塩化ビニル単独重合体のチオカルボニルチオ末端に対し、1000当量)を導入し、60℃で2時間重合した以外は実施例1と同じ方法で行った。Mnは150,000、Mw/Mnは3.85、チオカルボニルチオ末端に隣接する塩化ビニル残基量は7.7個/1000塩化ビニル単量体単位、スチレン残基の含有量は67.0モル%であった。また、H−NMRにおいて、チオカルボニルチオ末端に隣接するスチレン残基のピークは検出されず、チオカルボニルチオ末端に隣接する塩化ビニル残基量が減少しなかったことから、スチレンの単独重合体のみが生成し、塩化ビニル単独重合体のチオカルボチオ末端は反応していないと確認された。また、5%重量減少温度は263℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の塩化ビニル重合体の製造方法によれば、耐熱性を損なうことなく、熱安定性の高い塩化ビニル重合体を得ることができ、色相や熱安定性、透明性に優れる塩化ビニル重合体として各種成形体への展開が見込める。また、熱安定性に優れるため、安全性や環境的に問題のある鉛やスズ系の安定剤からの代替がより容易であり、安全性や環境性に優れる塩化ビニル重合体としても各種成形体への展開が見込める。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル重合体セグメントAに、酢酸ビニル重合体セグメントB及び、下記一般式(1)で表される末端Cが、A−B−Cの順で結合しており、酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量が塩化ビニル重合体セグメントAに対し0wt%を越え、5wt%以下であることを特徴とする塩化ビニル重合体。
【化1】

(Zは炭素数1〜20のアルコキシ基、アルキルサルファニル基、アリールサルファニル基、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる置換基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)のZが炭素数1〜20のアルコキシ基であることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル重合体。
【請求項3】
下記一般式(2)で表される末端Dを含み、D−A−B−Cの順で結合していることを特徴とする請求項1又は2に記載の塩化ビニル重合体。
【化2】

(式中、R、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、アルキルエーテル基又はアリールエーテル基である。)
【請求項4】
酢酸ビニル重合体セグメントBの含有量が塩化ビニル重合体セグメントAに対し0wt%を越え、2wt%未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塩化ビニル重合体。
【請求項5】
ゲルパーミッションクロマトグラフィー(GPC)により求めた数平均分子量Mnが5,000〜100,000であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塩化ビニル重合体。
【請求項6】
下記工程[I]、[II]を経てなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の塩化ビニル重合体の製造方法。
工程[I]:下記一般式(3)で表される可逆的連鎖移動剤とラジカル開始剤の存在下、塩化ビニル単量体の重合を行い、塩化ビニル単独重合体(E)を得る工程。
工程[II]:塩化ビニル単独重合体(E)をラジカル開始剤の存在下、酢酸ビニル単量体(F)を重合させる工程。
【化3】

(式中、Zは炭素数1〜20のアルコキシ基、アルキルサルファニル基、アリールサルファニル基、アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる置換基であり;Rは炭素数1〜20のアルキル基、アルキルシアノ基及び下記一般式(2)で表される官能基からなる群より選ばれる置換基である。)
【化4】

(式中、R、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、アルキルエーテル基又はアリールエーテル基である。)
【請求項7】
前記一般式(3)のRが、前記一般式(2)で表される官能基であることを特徴とする請求項6に記載の塩化ビニル重合体の製造方法。

【公開番号】特開2013−57024(P2013−57024A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196905(P2011−196905)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】