説明

塩化水素および/または塩素の存在下での酸化反応用触媒およびその製造方法、ならびにその使用

本発明は、新規な熱安定性触媒、その製造方法、および塩化水素の塩素への不均一触媒酸化のための方法におけるその使用に関する。該触媒は、ルテニウム化合物からなるナノ粒子状コア、およびガスおよび液体を透過し得る、ナノ粒子状コアを囲む酸化ジルコニウム外皮または酸化チタン外皮を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な熱安定性触媒、その製造方法、および塩化水素の塩素への不均一触媒酸化のための方法におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的に非常に重要な反応は、1868年にDeaconにより開発された、酸素による触媒塩化水素酸化のための方法である。
【0003】
過去、ディーコン法は、塩素アルカリ電解により完全に目立たなくなった。実際、全ての塩素は、塩化ナトリウム水溶液の電気分解により製造された。
【0004】
しかしながら、塩素の要求における世界的成長について、およびクロロアルカリ電気分解の著しい副生成物を構成する水酸化ナトリウム溶液の需要におけるより少ない成長の観点から、上記のディーコン法は、非常に経済的重要性を有する。
【0005】
この展開は、塩化水素の触媒酸化により塩素を製造するための方法に有益であり、これは、水酸化ナトリウム溶液の製造から切り離された。さらに、塩化水素は、例えば、ホスゲン反応により、例えばイソシアネートの製造において多量の共生成物として得られる。
【0006】
塩化水素の触媒酸化は、平衡反応である。温度上昇により、平衡位置は、所望の塩素および生成物から離れる方へシフトする。
【0007】
従って、上記のディーコン法に関する方法に関して、塩素の触媒酸化に現在用いる触媒は、塩化水素の塩素への変換について低温でさえ高い活性を有する触媒成分に基づく。
【0008】
例えば、WO2007/134726は、ルテニウム、パラジウム、プラチナ、オスミウム、イリジウム、銀、銅またはレニウムに基づく触媒は、この目的に適していることを開示する。WO2007/134726による方法は、好ましくは、200℃〜450℃の温度範囲で行う。
【0009】
WO2007/134726には、該方法を実施する上記の好ましい温度についての1つの理由として、より高い温度で触媒について悪影響を及ぼすことが開示されていない。これらの悪影響は、遷移金属、例えばレニウムの、揮発性物質形態へ変換し、および/または酸化の結果として上昇温度で焼結する一般に知られている特性に基づく。
【0010】
揮発性化合物を生じさせる特にルテニウムのさらなる酸化の可能性は、例えばBackmann等により「On the transport and speciation of ruthenium in high temperature oxidising conditions」(Radiochim.Acta、2005年、第93巻:第297〜304頁)に記載されている。また、RuおよびRuO相とは別のルテニウムの全ての酸化物は、比較的多量に数分内に800℃を越える温度で形成される揮発性化合物であることが開示されている。従って、WO2007/134726に開示されているように、450℃までの温度で、揮発性ルテニウム種の形成が、同じ速度ではないが生じると考えられる。しかしながら、このような方法が行われる工業方法では、数ヶ月から数年までの操作時間は、極めてありふれたことであり、従って、顕著な影響が考えられる。
【0011】
この結果、塩化水素の塩素への酸化触媒は、触媒の損失により、短時間後には十分な変換が得られなかった。
【0012】
上記の触媒の焼結の可能性は、同様に通常知られており、例えばErtl等により、「Handbook of Heterogeneous Catalysis」、1997年、第3巻、第1276〜1278頁に記載されているように、比較的高い温度で分子の移動により生じる。上記の焼結により、触媒活性金属表面積における減少が生じ、従って触媒の触媒活性は同時に大幅に減少する。
【0013】
例えばWO2007/134726に開示されているとおり、標準的な触媒は、揮発性物質種への変換により触媒の損失の恐れが存在するか、または焼結し、十分な触媒活性形態で使用することができないので、比較的高温で用いることができないため、不利である。
【0014】
しかしながら、塩化水素の塩素への触媒酸化は強い発熱反応であるので、温度上昇は、操作的に複雑な方法において常に避けられるべきであり、または触媒は、定期的に更新されなければならない。
【0015】
代替触媒およびその製造方法、上記の欠点を有さない前記触媒は、ドイツ特許出願DE 102007047434.4に開示されている。
【0016】
DE102007047434.4に開示されている触媒は、多孔質ジルコニウム層が周囲に存在するナノ粒子パラジウムから構成される。該文献に開示されている触媒は、水素化および脱水素化における使用を目的とする。触媒が塩化水素の塩素への不均一触媒酸化について使用できることは開示されていない。
【0017】
DE102007047434.4に開示の触媒の製造のための方法は、パラジウムナノ粒子の製造工程、SiOにより製造されたパラジウムナノ粒子の被覆工程、多孔質ジルコニウム酸化物層をPd/SiO球へ適用する工程およびSiO層を塩基で抽出的に洗浄する工程を含んでなる。DE102007047434.4の方法には、ルテニウムまたはルテニウム化合物の使用は開示されていない。
【0018】
他の技術分野では、被覆ナノ粒子の原理上の可能性が知られているが、上記の被覆物は、半導体粒子の周りに開示されている。
【0019】
例えばDarbandi等は、「Single Qunatum Dots in Silica Spheres by Microemulsion Synthesis」、Chem.Mater.2005、第17巻:第5720〜5725頁に、シリカ層を、セレン化カドミウム/硫化亜鉛ナノ粒子の周囲に、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)をナノ粒子へエマルション工程において適用することにより、次いで、アンモニア水の添加によりナノ粒子の表面上にTEOSを重合することにより形成することができることを開示する。
【0020】
従って、ケイ酸塩層を溶解させること、またはさらなる酸化ジルコニウム層をこのケイ酸塩層へ適用することは開示されていない。
【0021】
上記の被覆ナノ粒子の製造方法の触媒物質への移行は、Naito等により、「Preparation of hollow silica−Rh, −Ir, and Rh/Ir−bimetallic nanocomposites by reverse micelle technique and their unique adsorption and catalytic behavior」において、Scientific Bases for the Preparation of Heterogeneous Catalysts、E.M.Gaigneaux編集、2006年:第63〜70頁において開示されている。
【0022】
上記文献は、Darbandiからのものと同様に、ナノ粒子を形勢し、同じ溶液中で被覆する、エマルション中でのケイ酸塩被覆ナノ粒子の製造を開示する。また、TEOSを、ナノ粒子の表面上でアンモニア水の添加により重合して、ケイ酸塩層を得る。
【0023】
Naito等による開示によれば、塩化ルテニウムの結晶化から得られたルテニウムナノ粒子への適用は、ルテニウムコアおよび直接隣接ケイ酸塩層からなる非中空(nh)粒子を与える。反対に、例えばアミノ塩化レニウムの結晶化から得られたレニウムナノ粒子の場合では、中空(h)粒子が得られ、これは、レニウムのナノ粒子および周囲ケイ酸塩層から構成され、該ナノ粒子は、自由に移動することができる。すなわち、レニウムナノ粒子は、機械的にも、開示の中空全粒子内の固定位置での化学結合によっても固定されていない。
【0024】
Naito等による方法により製造されるナノ粒子は、触媒として適当であること、およびこれらの粒子は、中空粒子であるか非中空粒子であるかどうかにより、気体水素および一酸化炭素に対して異なった吸着特性を特徴とすることをさらに開示する。Naito等は、水素化または脱水素化のための得られる触媒物質のこれらの特性が、特に有利な特性をもたらすことをさらに開示する。
【0025】
Naito等はまた、ケイ酸塩層を溶解するかまたはさらなる酸化ジルコニウム層をこのケイ酸塩層へ適用することを開示しない。さらに、Naito等は、酸化反応ための触媒の使用を開示せず、特に塩化水素の塩素への酸化のためではない。分子の触媒表面への吸着挙動はまた、分子の原子の半径へ依存し、および塩素原子は、水素原子およびNaito等により開示の一酸化炭素分子より著しく大きい原子半径を特に有するので、塩化水素の塩素への酸化への結果の適用性は不確かである。Naito等は同様に、得られた触媒のより良好な安定性について何ら示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】国際公開第2007/134726号パンフレット
【特許文献2】ドイツ特許出願第DE102007047434.4号明細書
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Backmann、「On the transport and speciation of ruthenium in high temperature oxidising conditions」、Radiochim.Acta、2005年、第93巻:第297〜304頁
【非特許文献2】Ertl、「Handbook of Heterogeneous Catalysis」、1997年、第3巻、第1276〜1278頁
【非特許文献3】Darbandi、「Single Qunatum Dots in Silica Spheres by Microemulsion Synthesis」、Chem.Mater.2005、第17巻:第5720〜5725頁
【非特許文献4】Naito、「Preparation of hollow silica−Rh, −Ir, and Rh/Ir−bimetallic nanocomposites by reverse micelle technique and their unique adsorption and catalytic behavior」、Scientific Bases for the Preparation of Heterogeneous Catalysts、E.M. Gaigneaux編集、2006年:第63〜70頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
従って、先行技術を鑑みれば、塩化水素および/または塩素の存在下でさえ、これらの触媒の活性を制限せずに、要求される熱安定性を有する触媒、およびその製造方法を提供することは未だ課題である。
【課題を解決するための手段】
【0029】
意外にも、酸化ジルコニウムまたは酸化チタンの周囲気体−および液体−透過性シェルを有するルテニウム化合物から構成されるナノ粒子状コアを含むことを特徴とする、塩化水素および/または塩素の存在下での不均一触媒酸化のための触媒は、上記の課題を解決することができることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、ルテニウム化合物のナノ粒子状コア1および酸化ジルコニウムのシェル2からなる本発明の触媒粒子(d)の概略図の構造を示し、ルテニウム化合物のナノ粒子状コア1の外径が、酸化ジルコニウムのシェル2の内径より小さいので、空洞がこの2つの間に存在する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明では、用語「ナノ粒子」は、0.1〜100nmの平均粒径分布(d50)を有する粒子のことである。このような粒子は、好ましくは0.3〜70nm、より好ましくは0.5〜40nmの平均粒径分布(d50)を好ましく有する。
【0032】
本発明では「ルテニウム化合物」とは、ルテニウム、酸化ルテニウムおよびルテニウム塩酸化物からなるリストから選択される物質のことである。
【0033】
好ましいルテニウム化合物は、酸化ルテニウムおよびルテニウム塩酸化物である。
【0034】
ナノ粒子ルテニウム化合物からなる上記中心は、通常、酸化ジルコニウムまたは酸化チタンのシェル中に存在し、その内径は、ルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアの外径より大きい。
【0035】
このため、通常、酸化ジルコニウムまたは酸化チタンの中空シェルが存在し、ルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアは、自由に動くことができる。すなわち、ナノ粒子状コアは、機械的にも、中空シェル内での固定位置での化学結合によっても固定されない。
【0036】
上記の本発明の触媒は、酸化ジルコニウムまたは酸化チタンのシェルが、ルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアとルテニウム化合物からなる他のナノ粒子状コアとの焼結を防止するので特に有利であるが、同時に、ルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアの全表面積は、不均一触媒酸化において酸化すべき化合物のための吸着表面として利用可能であり、ルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアの活性位置は、シェル物質への結合位置により利用できなくなることがない。従って、ナノ粒子ルテニウム化合物からなるコアの全ての活性位置は、完全に利用可能である。
【0037】
理論に縛られることなく、上記の触媒はまた、上記の揮発性成分の増加した部分圧が、酸化ジルコニウムまたは酸化チタンのシェル内で揮発性成分が形成されるとすぐに生じるので、先に議論したルテニウムの揮発性化合物への変換を防止または遅延させる。このことにより、少なくとも上記の揮発性成分のさらなる形成の抑制または防止がもたらされ、本発明の触媒は、例えば塩化水素の塩素への不均一触媒酸化において存在する、高温での特に有利な安定性について注目すべきである。しかしながら、上記の物質移動耐性は、反応物の分子半径に対する揮発性成分の分子半径の再度の膨大な差異により、例えば塩化水素の塩素への不均一触媒酸化のより異なることが多く、酸化ジルコニウムまたは酸化チタンのシェルによる揮発性成分への物質移動耐性は、例えば塩素への変換について、悪影響をほとんど与えない。
【0038】
先の記載を明確にするために、上記の酸化反応に含まれる原子の通常知られている原子半径について説明する。例えば、ルテニウムは130pmの原子半径を有し、酸素は60pmの原子半径を有し、例えば、ルテニウム原子周囲の酸素のテトラヘドラル配置を仮定すれば、少なくとも250pmの揮発性ルテニウムテトラオキシド成分のおおよその分子半径が仮定される。反対に、例えば塩素は、わずか約100pmの原子半径を有する。
【0039】
酸化チタンまたは酸化ジルコニウムのシェルの外径は、通常10〜100nm、好ましくは15〜500nm、より好ましくは20〜300nmであり、ルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアは、該外径より非常に小さい径を有する。
【0040】
シェルの層厚みは通常、10〜100nm、好ましくは15〜80nm、より好ましくは15〜40nmの範囲内である。
【0041】
酸化ジルコニウムまたは酸化チタンのシェルの層厚みは、その物理安定性を付与しないためにあまり低いものであってはならいないが、物質移動制限を、不均一触媒酸化反応の反応物のために、例えば塩素を生じさせる塩化水素のために十分に見せないため、上記の特定最大厚みよりあまり大きいものであってはならない。
【0042】
10〜100nm、好ましくは15〜80nm、より好ましくは15〜40nmの範囲の本発明による触媒による酸化チタンまたは酸化ジルコニウムの塩は、先行技術に従って用いるケイ酸塩のシェルに対して非常により小さい厚みにより、任意の物質移動耐性を有さないか、またはほとんど有さないので特に有利である。
【0043】
さらに、酸化チタンまたは酸化ジルコニウムの塩は、塩化水素との反応のより低い傾向、従って、揮発性塩化物の形成のより低い傾向を示す。
【0044】
塩化水素および/または塩素の存在下での不均一触媒酸化は、好ましくは、本発明に開示の方法による塩化水素の塩素への不均一触媒酸化である。
【0045】
従って、本発明の好ましい実施態様では、触媒は、酸化ジルコニウムまたは酸化チタンの周囲気体−および液体−透過性シェルを有するルテニウム化合物から構成されるナノ粒子状コアを含むことを特徴とする、塩化水素の塩素への不均一触媒酸化のための触媒である。
【0046】
さらに、また、塩化水素の塩素への不均一触媒酸化の反応物を含むプロセスガス中に少量の割合で存在することが多い有機物質との反応の傾向がより低い。高温で行う反応は、触媒への損傷を、例えばコークス化によるシェルの細孔の閉鎖によりもたらすことがあり、酸化ジルコニウムまたは酸化チタンの本発明による物質との可能性が高くない。
【0047】
酸化ジルコニウムまたは酸化チタンの気体−および液体−透過性シェルによりそれぞれ囲まれたルテニウム化合物からなる多数のナノ粒子状コアを有してもよい。例えば、触媒は、酸化ジルコニウムまたは酸化チタンの気体−および液体−透過性シェルにより包まれたルテニウム化合物からなる多くの上記のナノ粒子状コアを含む成形体の形態で存在し得る。
【0048】
本発明は、不均一触媒酸化反応のための触媒を、塩化水素および/または塩素の存在下で製造する方法であって、以下の工程:
a)ルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアを製造する工程、
b)工程a)から製造されたナノ粒子ルテニウム中心をケイ酸塩層で被覆する工程、
c)工程b)から得られた粒子を酸化ジルコニウムまたは酸化チタンのシェルでさらに被覆する工程、
d)工程c)から得られた粒子からケイ酸塩をアルカリを用いて除去する工程
を少なくとも含む方法をさらに提供する。
【0049】
本発明による方法の工程a)におけるルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアの製造のために、アルコール中に溶解性のルテニウム化合物を、例えば酸化ルテニウム、ルテニウムカルボニル錯体、無機酸のルテニウム塩、ルテニウムニトロシル錯体、ルテニウムアミン錯体および混合形態からなるリストから選択されるものを通常用いる。
【0050】
ルテニウムカルボニル錯体の非排他的な例は、例えばRu(CO)、Ru(CO)およびRu(CO)12からなるリストから選択されるものである。
【0051】
無機酸のルテニウム塩の非排他的な例は、例えば塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、塩化ルテニウム酸塩ナトリウム(Na[RuCl])、塩化ルテニウム酸塩カリウム水和物K[RuCl(HO)]およびルテニウム酸塩化物(RuOCl、RuOCl)からなるリストから選択されるものである。
【0052】
ルテニウムニトロシル錯体の非排他的な例は、例えばK[RuCl(NO)] および [Ru(NH(NO)]Clからなるリストから選択されるものである。
【0053】
ルテニウムアミン錯体の非排他的な例は、例えば塩化ヘキサアミンルテニウム([Ru(NH]Cl、[Ru(NH]Cl)および塩化ペンタアミンクロロルテニウム([Ru(NHCl]Cl)からなるリストから選択されるものである。
【0054】
本発明による方法の工程a)におけるルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアの本発明の製造は、通常、溶解性ルテニウム化合物を還元することにより達成される。
【0055】
このような還元は、化学的および/または電気化学的に行うことができる。好ましくは化学的に行われる。
【0056】
還元を化学的に行う場合、好ましくは、「活性水素」を有する還元性化合物、例えば水素、メタノール、エタノール、プロパノールおよびより長鎖のアルコール、エタンジオール、グリコール、1,3−プロパンジオール、グリセロールおよびポリオールを用いる。
【0057】
特に好ましくは、溶解性ルテニウム化合物を還元するメタノール、エタノール、プロパノールおよびポリオールを用いることである。
【0058】
特に好ましい還元において「活性水素」を有する上記の還元化合物は、溶解性ルテニウム化合物の溶媒および還元剤の両方として働くので特に有利である。
【0059】
溶解性ルテニウム化合物および還元剤の割合を用いて、粒径および粒径分布に影響を及ぼすことができる。
【0060】
溶解性ルテニウム化合物の還元は、通常、0〜250℃、好ましくは10〜200℃、より好ましくは15〜150℃の温度で行う。
【0061】
溶解性ルテニウム化合物の還元は、表面活性安定化剤(安定剤または界面活性剤としても既知)を用いて、または用いずに行うことができる。
【0062】
しかしながら、好ましくは、上記の還元のために、本発明の工程a)においてルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアの製造を、ルテニウム化合物からなる形成されるナノ粒子状コアの凝集を防止し、粒径およびルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアの形態を調節する安定剤を用いて行う。
【0063】
上記の目的のために、安定剤、例えばポリビニルピロリドン(PVP)、アルコールポリエチレングリコールエーテル(例えばMarlipal(登録商標))、ポリアクリレート、ポリオール、長鎖n−アルキル酸、長鎖n−アルキルエステル、長鎖n−アルキルアルコールおよびイオン界面活性剤(例えばAOT、CTAB)を用いることが好ましい。
【0064】
適当な 溶解性ルテニウム化合物および安定剤は、還元性化合物と半回分式または連続的に混合することができる。
【0065】
液相中で、好ましくは、適当な恒温反応器(例えば撹拌タンク反応器、静的混合内部装置を有するフロー反応器、マイクロ反応器)を用いることが効果的である。
【0066】
さらに、ルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアの還元製造のための上記の反応物は、液体−液体エマルション(例えばミニエマルションまたはマイクロエマルション)の液滴体積中に溶解させ、次いで、2つのエマルション溶液の混合により反応させることもできる。
【0067】
ルテニウム化合物から構成される、記載の方法の1つにより得られるナノ粒子状コアは、粒径の有利な狭い分布を有し、平均粒径(d50)は、本発明の触媒に好ましい寸法範囲の範囲内で有利に得られる。
【0068】
上記の安定剤の使用は、ルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアを、反応溶液からの除去後(限外ろ過により、または遠心分離により)、適当な溶媒中で再分散することを可能とする。
【0069】
ケイ酸塩層で被覆するのに適した溶媒を本発明の方法の工程b)において用いることが好ましい。
【0070】
このような溶媒は、例えば水、メタノール、エタノールおよびさらなるアルコールを含むリストから選択されるものである。ケイ酸塩層での被覆は、本発明の方法の工程b)において、加水分解またはケイ酸塩層前駆体の促進的適用により行うことができる。
【0071】
好ましいケイ酸塩層前駆体は、テトラメチルオルトケイ酸塩(TMOS)、テトラエチルオルトケイ酸塩(TEOS)、テトラプロピルオルトケイ酸塩(TPOS)および同様のオルトケイ酸塩からなるリストから選択されるものである。
【0072】
本発明の方法の工程b)における被覆は、好ましくは、上記のケイ酸塩層前駆体の少なくとも1つの加水分解により行う。上記のケイ酸塩層前駆体の少なくとも1つのアンモニア水を含む液体中での加水分解によって、より好ましく行われる。アンモニア水と同じく、該液体もまた、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、1,3−プロパンジオールおよび/またはグリセロールを含み得る。
【0073】
加水分解は、加水分解液体の沸点までの室温(20℃)にて行うことができる。
【0074】
本発明の方法の工程b)における被覆から得られる粒子の径は、通常10〜1000nm、好ましくは15〜500nm、より好ましくは20〜300nmである。
【0075】
従って、本発明の方法の工程b)から得られた粒子は、本発明の触媒の酸化ジルコニウムまたは酸化チタンのシェルの好ましい内径に対応する外径を有利に有する。
【0076】
さらなる処理のために、本発明の方法の工程b)から得られた粒子を、例えば沈殿により、遠心分離または蒸発濃縮による除去の繰り返しにより、洗浄液で洗浄することにより精製することができる。
【0077】
本発明の方法の工程c)におけるさらなる被覆は、酸化ジルコニウムシェルまたは酸化チタンシェル前駆体の加水分解または促進的適用により通常行う。
【0078】
好ましい酸化ジルコニウムシェルは、ジルコニウムアルコキシドまたはハロゲン化ジルコニウムである。
【0079】
好ましいまたは酸化チタンシェル前駆体は、チタンアルコキシドまたはハロゲン化チタンである。
【0080】
好ましいジルコニウムアルコキシドは、ジルコニウムメトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムn−プロポキシドおよびジルコニウムn−ブトキシドからなるリストから選択されるものである。
【0081】
好ましいチタンアルコキシドは、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンn−プロポキシド、チタンt−ブトキシドおよびチタンn−ブトキシドからなるリストから選択されるものである。
【0082】
好ましいハロゲン化ジルコニウムは、塩化ジルコニウム(ZrCl)、臭化ジルコニウム(ZrBr)およびヨウ化ジルコニウム(ZrI)からなるリストから選択されるものである。
【0083】
好ましいハロゲン化チタンは、塩化チタン(TiCl)、臭化チタン(TiBr)およびヨウ化チタン(TiI)からなるリストから選択されるものである。
【0084】
本発明の方法の工程c)におけるさらなる被覆は、上記の酸化ジルコニウムシェル前駆体または酸化チタンシェル前駆体の少なくとも1つの加水分解により好ましく行われる。
【0085】
本発明の工程c)におけるさらなる被覆は、上記の酸化ジルコニウムシェル前駆体または酸化チタンシェル前駆体の少なくとも1つの、水、メタノール、エタノール、プロパノールおよび/またはグリセロールを含む液体中での加水分解により好ましく行われる。
【0086】
本発明の方法の工程c)における加水分解の形態におけるさらなる被覆は、本発明の方法の工程a)との関係で既に開示の通り、安定剤の存在下で極めて好ましく行われる。
【0087】
本発明の方法の工程c)におけるさらなる被覆は、0〜200℃の温度で行うことができる。好ましくは10〜100℃の温度で行う。
【0088】
酸化ジルコニウムシェル前駆体または酸化チタンシェル前駆体の量は、酸化ジルコニウムまたは酸化チタンのシェルの層厚みを本発明の触媒との関係で開示の値へ調節するのに有利に用いることができる。
【0089】
本発明の方法の工程c)の好ましい発展では、さらなる被覆の後に、1時間〜5日間にわたり、得られる粒子の「エージング」を行う。
【0090】
本発明と関連する「エージング」は、本発明の方法の工程c)から得られる粒子の懸濁液を、溶媒中で、上記の期間、撹拌しながら室温(20℃)および周囲圧力(1013hPa)にて静置することを意味する。
【0091】
本発明の方法の工程d)を行う前に、本発明の工程c)から得られた粒子またはその好ましい発展を、従来法による技術法、例えば遠心分離、沈殿、ろ過などにより溶媒から除去し、乾燥し、次いで焼成する。
【0092】
乾燥は、2つの分離工程における焼成とは別に、または室温から焼成温度へ段階的に温度を上昇させることにより行うことができる。従って、乾燥および焼成は、それぞれの工程を実施する温度だけが異なる。
【0093】
本発明と関連する乾燥は、100〜250℃の温度範囲内で行う工程であると理解され、250〜900℃の温度で行う工程は、焼成と呼ばれる。
【0094】
上記の焼成は、なお存在し得る酸化ジルコニウムシェル前駆体または酸化チタンシェル前駆体が、本発明の触媒における所望の特性を有する所望の酸化形態に変換されるので有利である。
【0095】
ケイ酸塩層は、アルカリによるケイ酸塩層の溶解により本発明の方法の工程d)において除去する。
【0096】
適当なアルカリは、全てのアルカリ金属およびアルカリ土類金属水酸化物、例えばNaOH、KOH、LiOH、Mg(OH)、Ca(OH)等である。
【0097】
溶液は、水性またはアルコールであり得る。
【0098】
ケイ酸塩層は、本発明の方法の工程d)において、通常0〜250℃、好ましくは10〜100℃の温度で除去する。
【0099】
アルカリの作用は、通常の既知の方法により検出することができるケイ酸塩層の完全な溶解まで継続する。あるこのような方法は、例えば溶液からの粒子の試料についての透過電子顕微鏡法である。
【0100】
この完全な溶解は、通常、2〜24時間を越えるアルカリの作用を必要とする。好ましいのは、新たなアルカリによる工程d)の多重性能である。
【0101】
本発明の方法の工程d)後に、得られた触媒粒子を通常除去し、乾燥させる。
【0102】
除去は通常知られた方法により再び行うことができる。しかしながら、遠心分離、ろ過または沈殿が好ましい。
【0103】
乾燥は、好ましくは気流中で行う。あるいは、乾燥はまた、保護ガスまたは水素下で行うこともできる。
【0104】
本発明の方法の好ましい発展では、初めに本発明の方法の工程d)から粉末形態で存在する触媒を、成形体にさらに加工する。
【0105】
成形体は、好ましくは球体、環状、星形(三葉または四葉)、タブレット、円筒形または車輪形の形態で製造する。
【0106】
これらの成形体の寸法は、好ましくは0.2〜10mm、より好ましくは0.5〜7mmの範囲である。
【0107】
さらなる加工は、既知の方法、例えば、特にバインダーの存在下での圧縮、噴霧乾燥および押出等により行う。
【0108】
あるいは、初めに本発明の方法の工程d)から粉末形態で存在する触媒は、ウォッシュコートとして構造化触媒(モノリス)へ適用することができる。
【0109】
本発明は、本発明の触媒または好ましい実施態様およびその発展の使用のため、または本発明の方法により製造された物質の使用のため、塩化水素の塩素への不均一触媒酸化のための触媒としてさらに提供する。
【0110】
本発明は、酸化ジルコニウムまたは酸化チタンの周囲ガス−および液体−透過性シェルを有するルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアを含む触媒の存在下で行うことを特徴とする、塩化水素から塩素を製造するための方法をさらに提供する。
【0111】
好ましい実施態様では、該方法は、250℃を越える温度、より好ましくは350℃を越える温度で、より好ましくは450℃を越える温度で行う。
【0112】
本発明の新規な触媒の長所により、上記の方法の長期間の永久的操作が、焼結または触媒物質の重大な損失を発生させることなく、初めて可能となる。
【0113】
本発明は、図の参照により、制限することなく説明する。
【0114】
図1は、ルテニウム化合物ナノ粒子状コア1および酸化ジルコニウムのシェル2からなる本発明の触媒粒子(d)の概略図の構造を示し、ルテニウム化合物のナノ粒子状コア1の外径が、酸化ジルコニウムのシェル2の内径より小さいので、空洞がこの2つの間に存在する。さらに、図1は、本発明の方法の中間工程の概略図を示す。最初に、ルテニウム化合物のナノ粒子状コア1が(a)に存在し、これは、次いで(b)ケイ酸塩層3により本発明の方法の工程b)において被覆される。酸化ジルコニウムのシェル2は、ケイ酸塩層3の周りに形成され、ルテニウム化合物のナノ粒子状コア1、第1ケイ酸塩シェル3および酸化ジルコニウムのさらなるシェル2からなる粒子(c)が最初に形成される。次いで、ケイ酸塩シェル3の溶解は、本発明の触媒粒子(d)を提供する。
【図1(a)】

【図1(b)】

【図1(c)】

【図1(d)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウムまたは酸化チタンの周囲ガス−および液体−透過性シェルを有するルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアを含むことを特徴とする、塩化水素および/または塩素の存在下での不均一触媒酸化のための触媒。
【請求項2】
ルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアの粒径分布は、0.1〜100nm、好ましくは0.3〜70nm、より好ましくは0.5〜40nmの平均(d50)を有することを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
酸化ジルコニウムまたは酸化チタンのシェルの内径は、ナノ粒子状ルテニウムコアの外径より大きいことを特徴とする、請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
酸化ジルコニウムまたは酸化チタンのシェルの内径は、10〜1000nm、好ましくは15〜500nm、より好ましくは20〜300nmであることを特徴とする、請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
酸化ジルコニウムまたは酸化チタンの層厚みは、10〜100nm、好ましくは15〜80nm、より好ましくは15〜40nmの範囲内であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の触媒。
【請求項6】
酸化ジルコニウムまたは酸化チタンのガス−および液体−透過性シェルにより囲まれた前記ナノ粒子状ルテニウムコアの多くを含む成形体の形態で存在することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の触媒。
【請求項7】
不均一触媒酸化反応のための触媒を、塩化水素および/または塩素の存在下で製造する方法であって、以下の工程:
a)ルテニウム化合物からなるナノ粒子状コアを製造する工程、
b)工程a)から製造されたナノ粒子状ルテニウムコアをケイ酸塩層で被覆する工程、
c)工程b)から得られた粒子を多孔質酸化ジルコニウムまたは酸化チタンのシェルでさらに被覆する工程、
d)工程c)から得られた粒子からケイ酸塩をアルカリを用いて除去する工程
を少なくとも含む方法。
【請求項8】
ルテニウム化合物は、酸化ルテニウム、ルテニウムカルボニル錯体、無機酸のルテニウム塩、ルテニウムニトロシル錯体、ルテニウムアミン錯体およびその混合形態からなるリストから選択されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程c)におけるさらなる被覆は、少なくとも1つの酸化ジルコニウムシェルまたは酸化チタンシェル前駆体の加水分解により行うことを特徴とする、請求項7および8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法の工程d)からの触媒を、球体、環状、星形(三葉または四葉)、タブレット、円筒形または車輪形の形態での成形体に、圧縮法、噴霧乾燥法および/または押出法によりさらに加工することを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載の触媒または請求項7〜10のいずれかに記載の方法から得られた物質の1つの、塩化水素の塩素への不均一触媒酸化のための触媒としての使用。
【請求項12】
酸化ジルコニウムまたは酸化チタンの周囲ガス−および液体−透過性シェルを有するルテニウムからなるナノ粒子状コアを含む触媒の存在下で行うことを特徴とする、塩素を塩化水素から製造するための方法。
【請求項13】
250℃を越える、好ましくは350℃を越える、より好ましくは450℃を越える温度で行うことを特徴とする、請求項12に記載の方法。

【公表番号】特表2012−510361(P2012−510361A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538867(P2011−538867)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008342
【国際公開番号】WO2010/063388
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(504109610)バイエル・テクノロジー・サービシーズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (75)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Technology Services GmbH
【Fターム(参考)】