塩化物イオン除去装置及び塩化物イオン除去方法
【課題】塩化物イオン(Cl-)を含有する被処理水から塩化物イオン(Cl-)を除去することにより、食品製造水や飲料水として利用できる処理水を低コストで得ることのできる塩化物イオン除去装置を提供する。
【解決手段】塩化物イオン除去装置を、被処理水を入れるための内槽と、内槽を浸漬する浸漬水を入れるための外槽と、外槽内の浸漬水中に配される電極と、電極に直流電圧を印加するための電源とを備えたものとし、内槽の壁部又は底部における少なくとも一部を、ビスコースレーヨンからなるフィルムなど、塩化物イオン(Cl-)を透過して塩化銀(AgCl)を透過しない微多孔性フィルムによって形成するとともに、電極のうち少なくとも陽極を、銀(Ag)によって形成することにより、微多孔性フィルムを通じて内槽外へ移動してきた塩化物イオン(Ag)が、陽極で塩化銀(AgCl)となって浸漬水中に沈殿するようにした。
【解決手段】塩化物イオン除去装置を、被処理水を入れるための内槽と、内槽を浸漬する浸漬水を入れるための外槽と、外槽内の浸漬水中に配される電極と、電極に直流電圧を印加するための電源とを備えたものとし、内槽の壁部又は底部における少なくとも一部を、ビスコースレーヨンからなるフィルムなど、塩化物イオン(Cl-)を透過して塩化銀(AgCl)を透過しない微多孔性フィルムによって形成するとともに、電極のうち少なくとも陽極を、銀(Ag)によって形成することにより、微多孔性フィルムを通じて内槽外へ移動してきた塩化物イオン(Ag)が、陽極で塩化銀(AgCl)となって浸漬水中に沈殿するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化物イオンを含有する被処理水から塩化物イオンを除去することにより、塩化物イオン濃度を低下させた処理水を得る塩化物イオン除去装置と、それを用いた塩化物イオン除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食肉処理場(と畜場)は、食肉を洗浄する際などに多量の水を使用するために、地下水や河川水などの天然水を利用して水道代を節約しているところも多い。しかし、海や温泉に近い場所で取得した天然水は、塩化物イオン(Cl-)を高濃度で含んでいることがあり、何らかの処理を施さなければ、それを食肉の洗浄などに利用できないことがあった。というのも、食肉処理場で食肉を洗浄する際に使用する水のように、食品の製造に使用する水(以下、「食品製造水」と表記する。)は、食品衛生法において飲用適でなければならないことが規定されており、それに含まれる塩化物イオン濃度は、水道法の水質基準である200mg/L以下であることが要求されているからである。
【0003】
ところで、塩化物イオン(Cl-)を含有する被処理水から塩化物イオン(Cl-)や水を分離することにより、被処理水よりも塩化物イオン濃度の低い処理水を得る塩化物イオン除去方法は、海水の淡水化や排水の処理などを目的として、これまでに種々の方法が提案されている。塩化物イオン除去方法としては、例えば、蒸留法や、凝集沈殿法や、電気分解法(例えば特許文献1)や、イオン交換膜法(例えば特許文献2,3)や、逆浸透膜法(例えば特許文献4,5)などが知られている。
【0004】
これらの塩化物イオン除去方法のうち、蒸留法は、被処理水を蒸発させた後に冷却させて凝縮することにより、塩化物イオン濃度が低下した被処理水(蒸留水)を得る方法である。蒸留法は、熱効率が大変悪いため、減圧して被処理水の沸点を下げることもしばしば行われているが、それでも大量のエネルギーを消費することには変わらず、処理コストが非常に嵩むという欠点を有していた。このため、上述した食肉処理場の例のように、水道法の水質基準を満たす水をできるだけ低コストで入手したいというような用途には、蒸留法は適していなかった。
【0005】
凝集沈殿法は、硝酸銀(AgNO3)などの凝集剤を被処理水に添加することにより、被処理水の塩化物イオン(Cl-)を塩化銀(AgCl)などの不溶化沈殿物として回収し、その上澄み液を処理水として取り出す方法である。しかし、凝集沈殿法は、被処理水の塩化物イオン(Cl-)を低濃度まで除去しようとすると、凝集剤を大量に添加しなければならず、やはり処理コストが高くなるという欠点を有していた。加えて、沈殿した塩化銀(AgCl)によって処理水が紫色に着色してしまうために、処理水を食品製造水として再利用しにくいという欠点も有していた。
【0006】
電気分解法は、被処理水に一対の電極を浸し、該一対の電極のうち、一方(陽極)を直流電源の正極に、他方(陰極)を直流電源の負極にそれぞれ接続することにより、被処理水中の塩化物イオン(Cl-)を陽極で酸化させ、塩素ガス(Cl2)として被処理水から分離する方法である。しかし、電気分解法は、毒性を有する塩素ガス(Cl2)を多量に発生するという欠点を有していた。
【0007】
イオン交換膜法は、水分子を透過させずに塩化物イオン(Cl-)などの陰イオンを選択的に透過させる陰イオン交換膜と、水分子を透過させずにナトリウムイオン(Na+)などの陽イオンを選択的に透過させる陽イオン交換膜との間に被処理水を通し、両膜の外側から直流電圧を印加し、被処理水中の塩化物イオン(Cl-)を陰イオン交換膜よりも陽極側へ移動させることにより、被処理水の塩化物イオン濃度を低下させて処理水を得る方法である。
【0008】
このイオン交換膜法は、被処理水の塩化物イオン濃度が高濃度である場合は勿論のこと、数百mg/L程度とそれ程高くない場合であっても、数十mg/L以下、あるいは数mg/L以下のレベルになるまで塩化物イオン濃度を低下させることができ、塩化物イオン(Cl-)を除去する能力という点では非常に優れている。また、処理水が着色されることもなく、それを食品製造水として利用できるなどの利点も有している。しかし、イオン交換膜法は、それに用いるイオン交換膜が高価であるため、設備の導入コストや維持コストが嵩むという欠点を有していた。加えて、イオン交換膜法は、塩化物イオン(Cl-)が濃縮した塩化物イオン濃縮水が陰イオン交換膜の外側(陽極側)に生成されるという欠点も有していた。塩化物イオン濃縮水は、環境に悪影響を及ぼすおそれがあるため、その塩化物イオン濃度によっては排出が規制される。
【0009】
逆浸透膜法は、塩化物イオン(Cl-)などの不純物を透過させずに水分子を選択的に透過させる逆浸透膜で容器内を仕切り、その一方(説明の便宜上、「第一室」と表記する。)に塩化物イオン(Cl-)を含有する被処理水を入れるとともに、その他方(説明の便宜上、「第二室」と表記する。)に水道水や純水など、塩化物イオン(Cl-)を殆ど含まない水を入れ、浸透圧を超える圧力を被処理水に加えることにより、被処理水中の水分子のみを逆浸透膜を透過させて第二室に移し、第二室の水を処理水として取り出す方法である。上述したイオン交換膜法では、被処理水が処理水として取り出されることになるが、この逆浸透膜法では、第一室の被処理水ではなく、第二室の水が処理水として取り出されることになる。
【0010】
この逆浸透膜法は、塩化物イオン(Cl-)を除去する能力に優れていることに加えて、非イオン性の不純物も除去することができるため、イオン交換膜法によるものよりもさらに清浄な処理水を得ることができる。しかし、逆浸透膜法は、それに用いる逆浸透膜が高価であるため、やはり、設備の導入コストや維持コストが嵩むという欠点を有していた。加えて、逆浸透膜法は、塩化物イオン(Cl-)が濃縮して塩化物イオン濃縮水となった被処理水が第一室に残留するため、処理後の被処理水(塩化物イオン濃縮水)の取り扱いに困るだけでなく、加えた被処理水の全量を処理水として取り出すことができないという欠点も有していた。逆浸透膜法においては、被処理水に加える圧力をさらに高くすると、第一室に残留する被処理水の量を減らすことができるものの、この場合には、設備が大型化して導入コストや運転コストがさらに嵩んでしまう。
【0011】
このように、これまでには様々な塩化物イオン除去方法が提案されているが、そのいずれも、塩化物イオン(Cl-)を除去する能力が高い反面高コストであったり、そもそも塩化物イオン(Cl-)を除去する能力が低かったり、塩化物イオン濃縮水が生成されたり、加えた被処理水の全量を処理水として取り出すことができなかったり、処理水が着色したり、塩素ガス(Cl2)が発生したりなどの欠点を有していたため、上述した食肉処理場の例のように、塩化物イオン濃度が水道法の水質基準である200mg/L以下であり、食品製造水として利用できる処理水をできるだけ低コストで製造したいというような用途には不向きであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−099391号公報
【特許文献2】特開平10−085755号公報
【特許文献3】特開2002−205070号公報
【特許文献4】特開平09−174052号公報
【特許文献5】特開2008−055317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、食品製造水や飲料水として利用できる処理水を低コストで得ることのできる塩化物イオン除去装置を提供するものである。具体的には、得られる処理水の塩化物イオン濃度を水道法の水質基準である200mg/L以下にするだけでなく、導入コストや維持コストを抑えることができ、加えた被処理水の全量に相当する量の水を処理水として取り出すことができ、塩化物イオン濃縮水が排出されず、塩素ガス(Cl2)が大量に発生せず、処理水が着色しない塩化物イオン除去装置を提供する。また、この塩化物イオン除去装置を用いて好適に行うことのできる塩化物イオン除去方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、塩化物イオン(Cl-)を含有する被処理水から塩化物イオン(Cl-)を除去するための塩化物イオン除去装置であって、被処理水を入れるための内槽と、内槽を浸漬する浸漬水を入れるための外槽と、外槽内の浸漬水中に配される電極と、該電極に直流電圧を印加するための電源とを備え、内槽の壁部又は底部における少なくとも一部が塩化物イオン(Cl-)を透過して塩化銀(AgCl)を透過しない微多孔性フィルムによって形成され、前記電極のうち少なくとも陽極が銀(Ag)によって形成され、前記微多孔性フィルムを通じて内槽外へ移動してきた塩化物イオン(Cl-)が前記陽極で塩化銀(AgCl)となって浸漬水中に沈殿するようにしたことを特徴とする塩化物イオン除去装置を提供することによって解決される。
【0015】
本発明の塩化物イオン除去装置は、塩化物イオン(Cl-)を透過して塩化銀(AgCl)を透過しない微多孔性フィルムに多数形成された微細な細孔を通じて内槽内から内槽外(外槽内)へ移動してきた塩化物イオン(Cl-)を、陽極から溶出した銀イオン(Ag+)と結合させて塩化銀(AgCl)とすることができるものとなっている。陽極で生成された塩化銀(AgCl)は、水中で殆ど電離しないことに加えて、比重が水よりも大きいため、外槽内の浸漬水中に沈殿する。内槽内の被処理水は、その塩化物イオン濃度が所定値以下となるまで低下した後、その略全量が処理水として取り出されることになる。本発明の塩化物イオン除去装置は、後述するように、得られる処理水の塩化物イオン濃度を水道法の水質基準である200mg/L以下とすることも十分可能なものとなっている。また、内槽外へ移動してきた塩化物イオン(Cl-)の殆どは、陽極を形成する銀(Ag)と結合して塩化銀(AgCl)となるため、有毒な塩素ガス(Cl2)の発生を抑えることもできる。
【0016】
ところで、内槽外へ移動してきた塩化物イオン(Cl-)が浸漬水中に蓄積すると、塩化物イオン(Cl-)が内槽外へと拡散しにくくなり、被処理水の塩化物イオン濃度が低下しなくなるおそれがある。しかし、本発明の塩化物イオン除去装置では、塩化物イオン(Cl-)を水に難溶な塩化銀(AgCl)として浸漬水中へ沈殿させることができるため、浸漬水の塩化物イオン濃度は、塩化物イオン(Cl-)の除去後であっても殆ど上昇しないどころか、場合によっては下降する。このため、本発明の塩化物イオン除去装置は、塩化物イオン(Cl-)が濃縮した塩化物イオン濃縮水が生成されないだけでなく、浸漬水を多数回使いまわしても、被処理水の塩化物イオン濃度の低下速度を維持することができるという利点も有している。浸漬水中に沈殿した塩化銀(AgCl)からは、従来知られている各種の方法によって銀(Ag)を回収することができるので、その回収した銀(Ag)を成形して陽極などとして再利用することもできる。これにより、廃棄物が出ないようにするだけでなく、電極の入手コストを削減することも可能になる。
【0017】
そして、本発明の塩化物イオン除去装置では、塩化物イオン(Cl-)の除去によって浸漬水は紫色に着色するものの、浸漬水と被処理水とが、塩化銀(AgCl)を通さない微多孔性フィルムによって仕切られているため、被処理水が着色されず、透明な処理水を取り出すことができる。このように、本発明の塩化物イオン除去装置は、様々な利点を有しており、食品製造水や飲料水として利用できる処理水を低コストで製造することが可能なものとなっている。
【0018】
本発明の塩化物イオン除去装置において、内槽の壁部又は底部における少なくとも一部を形成するのに使用する微多孔性フィルムは、塩化物イオン(Cl-)を透過して塩化銀(AgCl)を透過しないものであるならば、その種類を特に限定されない。しかし、塩化物イオン除去装置の導入コストや維持コストを抑えることや、入手しやすさなどを考慮すると、ビスコースレーヨンからなるフィルム(セロファン)を前記微多孔性フィルムとして用いると好ましい。セロファンの価格は、その厚さなどによっても異なるが、厚め(厚さ50μm程度)のものでも30〜50円/m2と非常に安価である。市販されているセロファンには、表面処理が施されていない普通セロファン(PT)と、表面に防湿処理が施された防湿セロファン(MST)の2種類があり、塩化物イオン(Cl-)を透過されるのであれば、そのいずれも採用することができるが、通常、より安価な普通セロファンが用いられる。
【0019】
本発明の塩化物イオン除去装置において、前記電極の陽極と陰極の間隔は、電極の寸法や、それに印加する電圧や、浸漬水の電気伝導率などによっても異なり、特に限定されない。しかし、陽極と陰極の間隔を狭くしすぎると、塩化物イオン除去装置に生じた振動などによって陽極と陰極が接触してショートしやすくなるため、電極の設置が難しくなるおそれがある。このため、塩化物イオン除去装置のスケール(陽極と陰極の寸法)にもよるが、陽極と陰極の間隔は、通常、1mm以上に設定される。陽極と陰極の間隔は、2mm以上であると好ましく、3mm以上であるとより好ましい。一方、陽極と陰極の間隔を広くしすぎると、塩化物イオン(Cl-)の除去効果が減退することが予想される。このため、陽極と陰極の間隔は、通常、50mm以下に設定される。陽極と陰極の間隔は、30mm以下であると好ましく、20mm以下であるとより好ましい。
【0020】
本発明の塩化物イオン除去装置において、前記電極の数は、特に限定されないが、複数組設けると好ましい。これにより、塩化物イオン(Cl-)の除去能力をさらに高めて、多量の被処理水から多量の処理水を製造することが可能になる。具体的な電極の数は、被処理水の量や塩化物イオン濃度、目標とする処理水の塩化物イオン濃度、電極の寸法などを考慮して適宜設定する。
【0021】
本発明の塩化物イオン除去装置において、微多孔性フィルムは、一重に配してもよいが、多重に配すると好ましい。これにより、微多孔性フィルムを破損しにくくすることができる。後述するように、微多孔性フィルムを多重に配しても、塩化物イオン(Cl-)の除去効果に殆ど影響が見られないことは、確認済みである。微多孔性フィルムを何枚重ねるかは、微多孔性フィルムの厚みや、内槽の寸法、被処理水の量などを考慮して適宜設定する。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によって、食品製造水や飲料水として利用できる処理水を低コストで得ることのできる塩化物イオン除去装置を提供することが可能になる。すなわち、得られる処理水の塩化物イオン濃度を水道法の水質基準である200mg/L以下にするだけでなく、導入コストや維持コストを抑えることができ、加えた被処理水の全量に相当する量の水を処理水として取り出すことができ、塩化物イオン濃縮水が排出されず、塩素ガス(Cl2)が大量に発生せず、処理水が着色しない塩化物イオン除去装置を提供することが可能になる。また、この塩化物イオン除去装置を用いて好適に行うことのできる塩化物イオン除去方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の塩化物イオン除去装置の原理を説明する説明図である。
【図2】実験1に用いた塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図3】実験2に用いた塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図4】実験3に用いた本発明の塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図5】実験4に用いた本発明の塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図6】実験5に用いた本発明の塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図7】実験6に用いた塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図8】実験7に用いた塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図9】実験8に用いた塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図10】実験9に用いた塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図11】実験10に用いた塩化物イオン除去装置を示した分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の塩化物イオン除去装置の好適な実施態様について、図面を用いてより詳しく説明する。図1は、本発明の塩化物イオン除去装置の原理を説明する説明図である。図1は、各部で生じる反応などを分かりやすくするため、模式的に記載している。本発明の塩化物イオン除去装置は、図1に示すように、塩化物イオン(Cl-)を含有する被処理水を入れるための内槽と、内槽を浸漬する浸漬水を入れるための外槽と、外槽内の浸漬水中に配される電極と、電極に直流電圧を印加するための電源とを備えたものとなっている。
【0025】
内槽は、メッシュ素材を籠状に形成した保形材と、保形材に貼られた微多孔性フィルムとで構成されている。微多孔性フィルムは、ビスコースレーヨンをフィルム状に成形したもの(セロファン)となっている。この微多孔性フィルムは、内槽の壁部又は底部の一部のみを形成するように貼ってもよいが、本実施態様の塩化物イオン除去装置では、内槽の壁部及び底部における略全体に亘って貼り付けている。これにより、内槽内の塩化物イオン(Cl-)が内槽外へ移動しやすいようにして、塩化物イオン(Cl-)の除去効果をさらに高めることが可能になる。
【0026】
ところで、内槽を大容量のものとし、その内部に大量の被処理水を入れると、その壁部や底部を形成するセロファンが水圧によって破れるおそれがある。しかし、被処理水の水位と浸漬水の水位とを同じ程度に保てば、被処理水からセロファンの内面に加えられる圧力と、浸漬水からセロファンの外面に加えられる圧力とをほぼ等しくすることができるため、内槽に大量の被処理水を入れたとしても、水圧によってセロファンが破れることはない。
【0027】
電極は、電源の正極に接続される陽極と、負極に接続される陰極とで構成されている。電極を形成する素材としては、黒鉛(C)や金属が一般的である。しかし、本発明の塩化物イオン除去装置において、陽極を黒鉛(C)によって形成すると、陽極から大量の塩素ガス(Cl2)が発生するようになるため、黒鉛(C)は、陽極を形成する素材としては不適である。このため、陽極を形成する素材は、塩化物イオン(Cl-)と結合して水に難溶な塩化物を形成する金属(タリウム(Tl)、銅(Cu)、鉛(Pb)、銀(Ag)、金(Au))に絞られることになる。
【0028】
しかし、これらの金属うち、銀(Ag)以外は、それ自体又は生成される塩化物が毒性を有するか、非常に高価であるため、実用には適さない。このため、本発明の塩化物イオン除去装置においては、陽極の素材として銀(Ag)を採用した。一方、陰極は、物質それ自体が有毒であったり、浸漬水と反応して有害物質を発生したりしない限りは、特にその素材を限定されないが、陰極に採用した素材の電気伝導率によっては、塩化物イオン(Cl-)の除去効果に変化が見られる。
【0029】
陽極や陰極の形状は、被処理水の量や塩化物イオン濃度などによっても異なり、特に限定されない。浸漬水中の塩化物イオン(Cl-)を効率的に除去することのみを考慮すると、陽極や陰極は、単位体積当たりの表面積ができるだけ大きくなるような複雑な形状とすることが好ましい。しかし、陽極や陰極を複雑な形状にしすぎると、陽極で生成された塩化銀(AgCl)が沈殿せずに陽極に付着して残り、それによって陽極からの銀イオン(Ag+)の溶出が妨げられて塩化物イオン(Cl-)の除去効果が減退するとともに、陽極で塩素ガス(Cl2)が発生しやすくなるおそれがある。また、電極の成形コストが増大するおそれもある。このため、陽極や陰極の形状は、塩化銀(AgCl)の付着しにくさや、費用対効果を考慮して決定する。本実施態様の塩化物イオン除去装置において、陽極と陰極は、いずれも円柱状としている。塩化銀(AgCl)の付着は、外槽内にスターラー(図示省略)などの攪拌手段を設けることによっても防止することができる。
【0030】
陽極と陰極の間隔は、電極の寸法や、それに印加する電圧などによっても異なるが、後で説明する実験6の所でも述べるとおり、陽極と陰極の間隔を狭くしすぎると、塩化物イオン(Cl-)の除去に不利に作用するおそれがある。このため、陽極と陰極の間隔は、通常1mm以上は確保し、好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上確保する。一方、陽極と陰極の間隔は、広くしすぎても、塩化物イオン(Cl-)の除去量が減少する。このため、陽極と陰極の間隔は、通常20mm以下、好ましくは15mm以下、より好ましくは10mm以下とする。後で説明する実験4〜6で採用した構成においては、5mm程度が最適である。
【0031】
続いて、本発明の塩化物イオン除去装置の原理について説明する。本発明の塩化物イオン除去装置で塩化物イオン(Cl-)の除去を行うと、図1に示すように、陽極側で反応1が起こり、陰極側で反応2が起こると考えられる。以下、反応1,2について順次説明する。
【0032】
[反応1]
反応1の化学反応式を以下に示す。
【化1】
【0033】
本発明の塩化物イオン除去装置では、イオン化する銀(Ag)で陽極を形成したため、浸漬水中の塩化物イオン(Cl-)などの陰イオンから分離した電子(e-)が電流のキャリアとなるのではなく、陽極を形成する銀(Ag)から分離した電子(e-)が電流のキャリアとなる。電子(e-)が分離して浸漬水中に溶出した銀イオン(Ag+)は、浸漬水中の塩化物イオン(Cl-)と結合し、塩化銀(AgCl)となって浸漬水中へ沈殿する。このことは、陽極に銀(Ag)を用いて行った後述する実験2〜9において、浸漬水中(実験2,6〜9では被処理水中)に塩化銀(AgCl)が沈殿したことでも裏付けられた。本発明の塩化物イオン除去装置は、セロファンを通じて内槽内の処理水中から内槽外の浸漬水中へと移動してきた塩化物イオン(Cl-)を主にこの反応1によって除去することにより、被処理水の塩化物イオン濃度を低下させるものとなっている。
【0034】
ところで、浸漬水中に沈殿した塩化銀(AgCl)からは、銀(Ag)を回収することができる。塩化銀(AgCl)から銀(Ag)を回収する方法としては、いくつかあるが、例えば、塩化銀(AgCl)を強熱する方法や、塩化銀(AgCl)に水と鉄粉を加えることによって得られたスラリーを濾過する方法などが例示される。回収した銀は、陽極を成形する材料として再利用することができる。
【0035】
[反応2]
反応2の化学反応式を以下に示す。
【化2】
【0036】
陰極側では、主にこの反応2が起こる。浸漬水中には、ナトリウムイオン(Na+)やマグネシウムイオン(Mg2+)などの金属イオンが存在するが、これらの金属イオンはイオン化傾向が大きく、陰極から電子(e-)を受け取りにくい。このため、浸漬水中の水分子(H2O)が陰極から電子(e-)を受け取って水素(H2)と水酸化物イオン(OH-)を生成する。
【0037】
続いて、本発明の塩化物イオン除去装置による塩化物イオン(Cl-)の除去効果や、その他の効果を確かめるため、以下の実験1〜10を行った。以下、実験1〜10について順次説明する。図2〜11は、それぞれ実験1〜10に用いた塩化物イオン除去装置を示した図である。
【0038】
[実験1(比較例)]
まず、セロファンと電気分解を併用して被処理水中の塩化物イオン(Cl-)がどの程度まで除去されるかを知るために、図2に示すように、陽極と陰極の両方が黒鉛(C)で形成された電極を浸漬水中に配して1時間通電した場合において、被処理水と浸漬水の塩化物イオン濃度がどのように変化するのかを調べた(実験1)。
【0039】
実験1の条件と結果をそれぞれ下記表1, 2に示す。
【表1】
【表2】
【0040】
実験1では、開始前の浸漬水の塩化物イオン濃度が185mg/Lもあり、被処理水の塩化物イオン濃度と等しかったにもかかわらず、上記表2に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が低下した。これは、浸漬水中の塩化物イオン(Cl-)が陽極に電子(e-)を渡して塩素ガス(Cl2)となったためと考えられる。このことは、実験1においては陽極から気泡が発生し、非常に強い塩素臭が感じられたことや、浸漬水中に沈殿物が見られなかったことなどからも裏付けられる。しかし、実験1では、開始前と1時間経過時の被処理水の塩化物イオン濃度の差が20mg/Lと小さく、必ずしも十分とは言えなかった。
【0041】
[実験2(比較例)]
次に、陽極を銀(Ag)で形成して電気分解を行った場合に、被処理水中の塩化物イオン(Cl-)がどの程度まで除去されるかを知るために、図3に示す装置を用いた場合において、被処理水の塩化物イオン濃度がどのように変化するかを調べた(実験2)。実験2は、陰極を銀(Ag)で形成した場合と、陰極を黒鉛(C)で形成した場合のそれぞれについて行った。実験2では、セロファンを使用せず、外槽に被処理水を直接入れた。
【0042】
実験2の条件と測定結果をそれぞれ下記表3〜5に示す。
【表3】
【表4】
【表5】
【0043】
実験2において、陽極と陰極の両方を銀(Ag)で形成した場合には、上記表4に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が約100mg/L低下し、陽極のみを銀(Ag)で形成した場合には、上記表5に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が約111mg/L低下した。このことから、塩化物イオン(Cl-)を除去するという点では、実験1で採用した構成よりも、実験2で採用した構成の方が優れていることが分かる。
【0044】
また、実験2では、陽極から気泡が発生せず、塩素臭が感じられなかった。被処理水中には、白色でさらさら(乾燥時)した手触りの物質が沈殿した。この物質は、アンモニア水によって溶解したことや、別に行ったX線分析実験の結果などから、塩化銀(AgCl)であることが確認された。このことから、実験2では、主として上述した反応1によって浸漬水中の塩化物イオン(Cl-)が除去されたと考えられる。しかし、陽極と陰極の両方を銀(Ag)で形成した場合と、陽極のみを銀(Ag)で形成した場合のいずれにおいても、被処理水が白濁した薄紫色に着色されてしまったため、得られた処理水を食品製造水や飲料水として利用するには難がある。
【0045】
[実験3(実施例)]
次に、セロファンによる透析に加えて、陽極を銀(Ag)で形成して電気分解を行った場合に、被処理水中の塩化物イオン(Cl-)がどの程度まで除去されるかを知るために、図4に示す装置を用いた場合において、被処理水と浸漬水の塩化物イオン濃度がどのように変化するかを調べた(実験3)。実験3は、陰極を銀(Ag)で形成した場合と、陰極を黒鉛(C)で形成した場合のそれぞれについて行った。
【0046】
実験3の条件と結果をそれぞれ下記表6〜8に示す。
【表6】
【表7】
【表8】
【0047】
実験3において、陽極と陰極の両方を銀(Ag)で形成した場合には、上記表7に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が約86mg/L低下し、陽極のみを銀(Ag)で形成した場合には、上記表8に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が約92mg/L低下した。実験2の結果と比較して、塩化物イオン(Cl-)の除去量は僅かに減少しているものの、実験3でも、かなりの塩化物イオン(Cl-)を除去することができた。実験3では、浸漬水が白濁した薄紫色に着色されたものの、被処理水には着色が見られず透明なままであった。
【0048】
[実験4(実施例)]
実験3では、浸漬水として塩化物イオン濃度の低い水道水を用いたが、塩化物イオン除去装置を使用する場所によっては、塩化物イオン濃度の低い水を取得できるとは限らない。また、被処理水を浸漬水として利用できれば、水道代を節約することも可能である。このため、本発明の塩化物イオン除去装置において、浸漬水の塩化物イオン濃度を被処理水の塩化物イオンと同じ程度に高くしても、被処理水の塩化物イオン濃度が低下するかどうかを確かめるために、図5に示す装置を用いた場合において、被処理水と浸漬水の塩化物イオン濃度がどのように変化するかを調べた(実験4)。
【0049】
実験4の条件と結果をそれぞれ下記表9,10に示す。
【表9】
【表10】
【0050】
実験4では、実験開始前における浸漬水の塩化物イオン濃度が高かったにもかかわらず、上記表10に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度は、1時間経過時で約80mg/Lも低下している。実験3の結果と比較して、塩化物イオン(Cl-)の除去効果は多少減退しているものの、それでもなお、優れた除去効果が認められた。陽極から気泡が発生せず、塩素臭が感じられなかったことや、浸漬水中に塩化銀(AgCl)が沈殿したことや、被処理水に着色が見られなかったことなどは、実験3と同様である。この実験4の結果から、本発明の塩化物イオン除去装置が、浸漬水の塩化物イオン濃度が高くても食品製造水や飲料水を製造できるものであることが分かった。
【0051】
[実験5(実施例)]
実験3,4では、セロファンを一重に配したが、セロファンは、決して強靭とはいえないため、破損するおそれがある。この対策としては、セロファンを多重に配することが考えられるが、この場合には、塩化物イオン(Cl-)の除去量が少なくなることも予想される。このため、本発明の塩化物イオン除去装置において、セロファンを多重に配しても、塩化物イオン(Cl-)の除去量が維持されるか同かを確かめるために、図6に示す装置を用いた場合において、被処理水と浸漬水の塩化物イオン濃度がどのように変化するかを調べた(実験5)。
【0052】
実験5の条件と結果をそれぞれ下記表11,12に示す。
【表11】
【表12】
【0053】
実験5では、セロファンを二重に配したにもかかわらず、被処理水の塩化物イオン濃度は、上記表12に示すように、約92mg/Lも低下しており、セロファンを一重に配した実験3と同等の結果が得られた。このことから、セロファンを多重に配しても、塩化物イオン(Cl-)の除去量には殆ど影響がないことが推測される。セロファンは、非常に破損しやすく、一旦破損すると被処理水が着色するようになるため、多重に配することが好ましいと思われる。
【0054】
[実験6(比較例)]
実験2〜5では、陽極と陰極の間隔を5mmで統一していた。しかし、この間隔を広くすると、浸漬水中の電解質の移動距離が長くなるため、塩化物イオン(Cl-)の除去量が減少することが予想される。この予想が正しいかを確認するために、図7に示すように、陽極と陰極の間隔を広くして被処理水の塩化物イオン濃度の変化を調べてみた(実験6)。実験6では、陽極と陰極の間隔が塩化物イオン(Cl-)の除去量に及ぼす影響さえ分かればよいため、内槽を使用せず、外槽に被処理水を直接入れているが、内槽を使用した場合においても、被処理水の着色の有無以外については、同様の実験結果が得られるものと思われる。この点に関しては、後述する実験7〜9においても同様である。
【0055】
実験6の条件と結果をそれぞれ下記表13〜15に示す。
【表13】
【表14】
【表15】
【0056】
実験6では、上記表14,15に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が24〜40mg/L程度しか低下せず、塩化物イオン(Cl-)の除去量はそれ程多いとは言えない。電気分解法では、正の電荷が蓄積した陽極と負の電荷が蓄積した陰極との間を、溶液中(浸漬水中)の電解質がこれを中和するように移動することで反応が継続されるが、陽極と陰極との間隔を広くすると、電解質の移動距離が長くなるため、塩化物イオン(Cl-)の除去量が減少したのではないかと思われる。実験6では、外槽の内底部に配したスターラーによって浸漬水の攪拌を行っているが、このスターラーによる攪拌でも、電解質の移動を十分に助けることができないと思われる。
【0057】
以上の結果から、陽極と陰極の間隔を狭くした方が、塩化物イオン(Cl-)の塩化物イオン(Cl-)の除去に関しては有利であることが分かったが、あまり狭くしすぎると、上述したように、電極の設置が難しくなるため、塩化物イオン除去装置の施工に手間がかかることが予想される。陽極と陰極の間隔は、電極の寸法や、それに印加する電圧などによっても異なるが、塩化物イオン(Cl-)の除去効果と施工の容易性を考慮すると、5〜10mm程度が最適であると思われる。
【0058】
[実験7(比較例)]
実験2〜6では、陽極と陰極の寸法と形状は、直径1mm、長さ15mmの円柱状で統一していた。しかし、陽極や陰極の寸法や形状は、塩化物イオン(Cl-)の除去量に影響を及ぼすことが予想される。この影響がどの程度であるかを確認するために、図8に示すように、電極の寸法を大きくして被処理水の塩化物イオン濃度の変化を調べてみた(実験7)。
【0059】
実験7の条件と結果をそれぞれ下記表16,17に示す。
【表16】
【表17】
【0060】
実験7では、上記表17に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が231mg/Lも低下した。このことから、電極の寸法を大きくすると、塩化物イオン(Cl-)の除去量が多くなることが分かった。しかし、実験7で使用した電極は、電極の寸法及び形状以外は同じ条件の実験2で使用した電極と比較して、表面積で約30倍になっているものの、塩化物イオン(Cl-)の除去量はそこまで増加していない。このことから、電極の表面積や重量と塩化物イオン(Cl-)の除去量には、正の相関関係こそあれ、比例関係までは有さないと思われる。
【0061】
[実験8(比較例)]
実験2〜7では、陽極と陰極の数は、1つずつで統一していた。しかし、電極の数も、塩化物イオン(Cl-)の除去効果に影響を及ぼすことが予想される。この影響がどの程度であるかを確認するために、図9に示すように、電極の数を増やして被処理水の塩化物イオン濃度の変化を調べてみた(実験8)。
【0062】
実験8の条件と結果をそれぞれ下記表18〜20に示す。
【表18】
【表19】
【表20】
【0063】
実験8では、上記表19,20に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が140〜216mg/L低下している。電極の数以外は同じ条件の実験2と比較すると、塩化物イオン(Cl−)の除去量と電極の数には、比例関係とまではいかなくとも正の相関関係があると思われる。また、実験8では、被処理水中の電解質の移動を考慮し、電極を並列に接続したが、このように電極を並列に接続した場合であっても、塩化物イオン(Cl-)の除去が可能であることも分かった。このことから、塩化物イオン除去装置を多段に配さなくても、その電極の数を増やしさえすれば、塩化物イオン(Cl-)の除去効果は、さらに高まることなどが推測される。
【0064】
[実験9(比較例)]
次に、図10に示すように、電極の寸法を大きくするとともにその数も増やして被処理水の塩化物イオン濃度の変化を調べてみた(実験9)。
【0065】
実験9の条件と結果をそれぞれ下記表21,22に示す。
【表21】
【表22】
【0066】
実験9では、上記表22に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が262mg/Lも低下しており、塩化物イオン(Cl-)の除去量は、実験7,8のいずれの場合よりも増加していた。ところで、実験7,8の結果から、大きな電極を少数使用するよりも、小さな電極を多数使用するほうが、塩化物イオン(Cl-)の除去量は多くなることが予想されるが、塩化物イオン除去装置の施工や電極の交換に掛かる手間などを考慮すると、電極の数は、数組程度に抑えておくことが好ましいと思われる。
【0067】
[実験10(実施例)]
実験1〜9では、被処理水や浸漬水の量は、75〜200mlと少量であったが、本発明の塩化物イオン除去装置を実用化するにあたっては、数十kg以上、場合によっては数トン以上の被処理水を一度に処理する必要があると思われる。このため、大量の被処理水を用いた場合にも、本発明の塩化物イオン除去装置によって塩化物イオン(Cl-)の除去効果が奏されるのかを確認しておく必要がある。したがって、大型の塩化物イオン除去装置に大量の被処理水を入れ、被処理水の塩化物イオン濃度の変化を調べてみた(実験10)。
【0068】
実験10は、図11に示す塩化物イオン除去装置を用いて行った。図11に示す塩化物イオン装置においては、外槽の四隅近傍に計4組の電極を配している。それぞれの電極における陽極と陰極は、その上下端に設けられた絶縁性を有するスペーサによって、間隔が一定に保たれるようになっている。内槽は、前面、背面、右側面、左側面及び底面が、ビスコースレーヨンからなる微多孔性フィルム(セロファン)によって形成されたものとなっている。外槽の底部付近には、外槽内に沈殿した塩化銀(AgCl)を外槽外へ取り出すための塩化銀取出口を設けている。外槽の内底面は、傾斜又は凹部が設けられて、塩化銀取出口付近が一番低くなるように形成されている。このため、外槽内に沈殿した塩化銀(AgCl)を取り出しやすくすることができるようになっている。
【0069】
実験10の条件と結果をそれぞれ下記表23,24に示す。
【表23】
【表24】
【0070】
実験10では、実験開始前の被処理水の塩化物イオン濃度を、該被処理水として地下水を利用した場合に想定される上限値である250mg/Lよりも高い値に設定したが、上記表24に示すように、塩化物イオン除去時間が30分と短かったにもかかわらず、水道法の水質基準である200mg/L以下にまで低下させることができた。このことから、本発明の塩化物イオン除去装置は、被処理水が大量である場合においても、十分に塩化物イオン(Cl-)を除去できるものであることが分かった。
【0071】
また、浸漬水の塩化物イオン濃度は殆ど上昇せず、浸漬水を次回の処理においても再利用できることも分かった。さらに、塩素臭が感じられず、塩素ガス(Cl2)の発生も確認できなかった。以上のことから、本発明の塩化物イオン除去装置は、食肉処理場など、大量の水を必要とする施設においても、十分に実用化できるものであるということが分かった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化物イオンを含有する被処理水から塩化物イオンを除去することにより、塩化物イオン濃度を低下させた処理水を得る塩化物イオン除去装置と、それを用いた塩化物イオン除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食肉処理場(と畜場)は、食肉を洗浄する際などに多量の水を使用するために、地下水や河川水などの天然水を利用して水道代を節約しているところも多い。しかし、海や温泉に近い場所で取得した天然水は、塩化物イオン(Cl-)を高濃度で含んでいることがあり、何らかの処理を施さなければ、それを食肉の洗浄などに利用できないことがあった。というのも、食肉処理場で食肉を洗浄する際に使用する水のように、食品の製造に使用する水(以下、「食品製造水」と表記する。)は、食品衛生法において飲用適でなければならないことが規定されており、それに含まれる塩化物イオン濃度は、水道法の水質基準である200mg/L以下であることが要求されているからである。
【0003】
ところで、塩化物イオン(Cl-)を含有する被処理水から塩化物イオン(Cl-)や水を分離することにより、被処理水よりも塩化物イオン濃度の低い処理水を得る塩化物イオン除去方法は、海水の淡水化や排水の処理などを目的として、これまでに種々の方法が提案されている。塩化物イオン除去方法としては、例えば、蒸留法や、凝集沈殿法や、電気分解法(例えば特許文献1)や、イオン交換膜法(例えば特許文献2,3)や、逆浸透膜法(例えば特許文献4,5)などが知られている。
【0004】
これらの塩化物イオン除去方法のうち、蒸留法は、被処理水を蒸発させた後に冷却させて凝縮することにより、塩化物イオン濃度が低下した被処理水(蒸留水)を得る方法である。蒸留法は、熱効率が大変悪いため、減圧して被処理水の沸点を下げることもしばしば行われているが、それでも大量のエネルギーを消費することには変わらず、処理コストが非常に嵩むという欠点を有していた。このため、上述した食肉処理場の例のように、水道法の水質基準を満たす水をできるだけ低コストで入手したいというような用途には、蒸留法は適していなかった。
【0005】
凝集沈殿法は、硝酸銀(AgNO3)などの凝集剤を被処理水に添加することにより、被処理水の塩化物イオン(Cl-)を塩化銀(AgCl)などの不溶化沈殿物として回収し、その上澄み液を処理水として取り出す方法である。しかし、凝集沈殿法は、被処理水の塩化物イオン(Cl-)を低濃度まで除去しようとすると、凝集剤を大量に添加しなければならず、やはり処理コストが高くなるという欠点を有していた。加えて、沈殿した塩化銀(AgCl)によって処理水が紫色に着色してしまうために、処理水を食品製造水として再利用しにくいという欠点も有していた。
【0006】
電気分解法は、被処理水に一対の電極を浸し、該一対の電極のうち、一方(陽極)を直流電源の正極に、他方(陰極)を直流電源の負極にそれぞれ接続することにより、被処理水中の塩化物イオン(Cl-)を陽極で酸化させ、塩素ガス(Cl2)として被処理水から分離する方法である。しかし、電気分解法は、毒性を有する塩素ガス(Cl2)を多量に発生するという欠点を有していた。
【0007】
イオン交換膜法は、水分子を透過させずに塩化物イオン(Cl-)などの陰イオンを選択的に透過させる陰イオン交換膜と、水分子を透過させずにナトリウムイオン(Na+)などの陽イオンを選択的に透過させる陽イオン交換膜との間に被処理水を通し、両膜の外側から直流電圧を印加し、被処理水中の塩化物イオン(Cl-)を陰イオン交換膜よりも陽極側へ移動させることにより、被処理水の塩化物イオン濃度を低下させて処理水を得る方法である。
【0008】
このイオン交換膜法は、被処理水の塩化物イオン濃度が高濃度である場合は勿論のこと、数百mg/L程度とそれ程高くない場合であっても、数十mg/L以下、あるいは数mg/L以下のレベルになるまで塩化物イオン濃度を低下させることができ、塩化物イオン(Cl-)を除去する能力という点では非常に優れている。また、処理水が着色されることもなく、それを食品製造水として利用できるなどの利点も有している。しかし、イオン交換膜法は、それに用いるイオン交換膜が高価であるため、設備の導入コストや維持コストが嵩むという欠点を有していた。加えて、イオン交換膜法は、塩化物イオン(Cl-)が濃縮した塩化物イオン濃縮水が陰イオン交換膜の外側(陽極側)に生成されるという欠点も有していた。塩化物イオン濃縮水は、環境に悪影響を及ぼすおそれがあるため、その塩化物イオン濃度によっては排出が規制される。
【0009】
逆浸透膜法は、塩化物イオン(Cl-)などの不純物を透過させずに水分子を選択的に透過させる逆浸透膜で容器内を仕切り、その一方(説明の便宜上、「第一室」と表記する。)に塩化物イオン(Cl-)を含有する被処理水を入れるとともに、その他方(説明の便宜上、「第二室」と表記する。)に水道水や純水など、塩化物イオン(Cl-)を殆ど含まない水を入れ、浸透圧を超える圧力を被処理水に加えることにより、被処理水中の水分子のみを逆浸透膜を透過させて第二室に移し、第二室の水を処理水として取り出す方法である。上述したイオン交換膜法では、被処理水が処理水として取り出されることになるが、この逆浸透膜法では、第一室の被処理水ではなく、第二室の水が処理水として取り出されることになる。
【0010】
この逆浸透膜法は、塩化物イオン(Cl-)を除去する能力に優れていることに加えて、非イオン性の不純物も除去することができるため、イオン交換膜法によるものよりもさらに清浄な処理水を得ることができる。しかし、逆浸透膜法は、それに用いる逆浸透膜が高価であるため、やはり、設備の導入コストや維持コストが嵩むという欠点を有していた。加えて、逆浸透膜法は、塩化物イオン(Cl-)が濃縮して塩化物イオン濃縮水となった被処理水が第一室に残留するため、処理後の被処理水(塩化物イオン濃縮水)の取り扱いに困るだけでなく、加えた被処理水の全量を処理水として取り出すことができないという欠点も有していた。逆浸透膜法においては、被処理水に加える圧力をさらに高くすると、第一室に残留する被処理水の量を減らすことができるものの、この場合には、設備が大型化して導入コストや運転コストがさらに嵩んでしまう。
【0011】
このように、これまでには様々な塩化物イオン除去方法が提案されているが、そのいずれも、塩化物イオン(Cl-)を除去する能力が高い反面高コストであったり、そもそも塩化物イオン(Cl-)を除去する能力が低かったり、塩化物イオン濃縮水が生成されたり、加えた被処理水の全量を処理水として取り出すことができなかったり、処理水が着色したり、塩素ガス(Cl2)が発生したりなどの欠点を有していたため、上述した食肉処理場の例のように、塩化物イオン濃度が水道法の水質基準である200mg/L以下であり、食品製造水として利用できる処理水をできるだけ低コストで製造したいというような用途には不向きであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−099391号公報
【特許文献2】特開平10−085755号公報
【特許文献3】特開2002−205070号公報
【特許文献4】特開平09−174052号公報
【特許文献5】特開2008−055317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、食品製造水や飲料水として利用できる処理水を低コストで得ることのできる塩化物イオン除去装置を提供するものである。具体的には、得られる処理水の塩化物イオン濃度を水道法の水質基準である200mg/L以下にするだけでなく、導入コストや維持コストを抑えることができ、加えた被処理水の全量に相当する量の水を処理水として取り出すことができ、塩化物イオン濃縮水が排出されず、塩素ガス(Cl2)が大量に発生せず、処理水が着色しない塩化物イオン除去装置を提供する。また、この塩化物イオン除去装置を用いて好適に行うことのできる塩化物イオン除去方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題は、塩化物イオン(Cl-)を含有する被処理水から塩化物イオン(Cl-)を除去するための塩化物イオン除去装置であって、被処理水を入れるための内槽と、内槽を浸漬する浸漬水を入れるための外槽と、外槽内の浸漬水中に配される電極と、該電極に直流電圧を印加するための電源とを備え、内槽の壁部又は底部における少なくとも一部が塩化物イオン(Cl-)を透過して塩化銀(AgCl)を透過しない微多孔性フィルムによって形成され、前記電極のうち少なくとも陽極が銀(Ag)によって形成され、前記微多孔性フィルムを通じて内槽外へ移動してきた塩化物イオン(Cl-)が前記陽極で塩化銀(AgCl)となって浸漬水中に沈殿するようにしたことを特徴とする塩化物イオン除去装置を提供することによって解決される。
【0015】
本発明の塩化物イオン除去装置は、塩化物イオン(Cl-)を透過して塩化銀(AgCl)を透過しない微多孔性フィルムに多数形成された微細な細孔を通じて内槽内から内槽外(外槽内)へ移動してきた塩化物イオン(Cl-)を、陽極から溶出した銀イオン(Ag+)と結合させて塩化銀(AgCl)とすることができるものとなっている。陽極で生成された塩化銀(AgCl)は、水中で殆ど電離しないことに加えて、比重が水よりも大きいため、外槽内の浸漬水中に沈殿する。内槽内の被処理水は、その塩化物イオン濃度が所定値以下となるまで低下した後、その略全量が処理水として取り出されることになる。本発明の塩化物イオン除去装置は、後述するように、得られる処理水の塩化物イオン濃度を水道法の水質基準である200mg/L以下とすることも十分可能なものとなっている。また、内槽外へ移動してきた塩化物イオン(Cl-)の殆どは、陽極を形成する銀(Ag)と結合して塩化銀(AgCl)となるため、有毒な塩素ガス(Cl2)の発生を抑えることもできる。
【0016】
ところで、内槽外へ移動してきた塩化物イオン(Cl-)が浸漬水中に蓄積すると、塩化物イオン(Cl-)が内槽外へと拡散しにくくなり、被処理水の塩化物イオン濃度が低下しなくなるおそれがある。しかし、本発明の塩化物イオン除去装置では、塩化物イオン(Cl-)を水に難溶な塩化銀(AgCl)として浸漬水中へ沈殿させることができるため、浸漬水の塩化物イオン濃度は、塩化物イオン(Cl-)の除去後であっても殆ど上昇しないどころか、場合によっては下降する。このため、本発明の塩化物イオン除去装置は、塩化物イオン(Cl-)が濃縮した塩化物イオン濃縮水が生成されないだけでなく、浸漬水を多数回使いまわしても、被処理水の塩化物イオン濃度の低下速度を維持することができるという利点も有している。浸漬水中に沈殿した塩化銀(AgCl)からは、従来知られている各種の方法によって銀(Ag)を回収することができるので、その回収した銀(Ag)を成形して陽極などとして再利用することもできる。これにより、廃棄物が出ないようにするだけでなく、電極の入手コストを削減することも可能になる。
【0017】
そして、本発明の塩化物イオン除去装置では、塩化物イオン(Cl-)の除去によって浸漬水は紫色に着色するものの、浸漬水と被処理水とが、塩化銀(AgCl)を通さない微多孔性フィルムによって仕切られているため、被処理水が着色されず、透明な処理水を取り出すことができる。このように、本発明の塩化物イオン除去装置は、様々な利点を有しており、食品製造水や飲料水として利用できる処理水を低コストで製造することが可能なものとなっている。
【0018】
本発明の塩化物イオン除去装置において、内槽の壁部又は底部における少なくとも一部を形成するのに使用する微多孔性フィルムは、塩化物イオン(Cl-)を透過して塩化銀(AgCl)を透過しないものであるならば、その種類を特に限定されない。しかし、塩化物イオン除去装置の導入コストや維持コストを抑えることや、入手しやすさなどを考慮すると、ビスコースレーヨンからなるフィルム(セロファン)を前記微多孔性フィルムとして用いると好ましい。セロファンの価格は、その厚さなどによっても異なるが、厚め(厚さ50μm程度)のものでも30〜50円/m2と非常に安価である。市販されているセロファンには、表面処理が施されていない普通セロファン(PT)と、表面に防湿処理が施された防湿セロファン(MST)の2種類があり、塩化物イオン(Cl-)を透過されるのであれば、そのいずれも採用することができるが、通常、より安価な普通セロファンが用いられる。
【0019】
本発明の塩化物イオン除去装置において、前記電極の陽極と陰極の間隔は、電極の寸法や、それに印加する電圧や、浸漬水の電気伝導率などによっても異なり、特に限定されない。しかし、陽極と陰極の間隔を狭くしすぎると、塩化物イオン除去装置に生じた振動などによって陽極と陰極が接触してショートしやすくなるため、電極の設置が難しくなるおそれがある。このため、塩化物イオン除去装置のスケール(陽極と陰極の寸法)にもよるが、陽極と陰極の間隔は、通常、1mm以上に設定される。陽極と陰極の間隔は、2mm以上であると好ましく、3mm以上であるとより好ましい。一方、陽極と陰極の間隔を広くしすぎると、塩化物イオン(Cl-)の除去効果が減退することが予想される。このため、陽極と陰極の間隔は、通常、50mm以下に設定される。陽極と陰極の間隔は、30mm以下であると好ましく、20mm以下であるとより好ましい。
【0020】
本発明の塩化物イオン除去装置において、前記電極の数は、特に限定されないが、複数組設けると好ましい。これにより、塩化物イオン(Cl-)の除去能力をさらに高めて、多量の被処理水から多量の処理水を製造することが可能になる。具体的な電極の数は、被処理水の量や塩化物イオン濃度、目標とする処理水の塩化物イオン濃度、電極の寸法などを考慮して適宜設定する。
【0021】
本発明の塩化物イオン除去装置において、微多孔性フィルムは、一重に配してもよいが、多重に配すると好ましい。これにより、微多孔性フィルムを破損しにくくすることができる。後述するように、微多孔性フィルムを多重に配しても、塩化物イオン(Cl-)の除去効果に殆ど影響が見られないことは、確認済みである。微多孔性フィルムを何枚重ねるかは、微多孔性フィルムの厚みや、内槽の寸法、被処理水の量などを考慮して適宜設定する。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によって、食品製造水や飲料水として利用できる処理水を低コストで得ることのできる塩化物イオン除去装置を提供することが可能になる。すなわち、得られる処理水の塩化物イオン濃度を水道法の水質基準である200mg/L以下にするだけでなく、導入コストや維持コストを抑えることができ、加えた被処理水の全量に相当する量の水を処理水として取り出すことができ、塩化物イオン濃縮水が排出されず、塩素ガス(Cl2)が大量に発生せず、処理水が着色しない塩化物イオン除去装置を提供することが可能になる。また、この塩化物イオン除去装置を用いて好適に行うことのできる塩化物イオン除去方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の塩化物イオン除去装置の原理を説明する説明図である。
【図2】実験1に用いた塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図3】実験2に用いた塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図4】実験3に用いた本発明の塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図5】実験4に用いた本発明の塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図6】実験5に用いた本発明の塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図7】実験6に用いた塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図8】実験7に用いた塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図9】実験8に用いた塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図10】実験9に用いた塩化物イオン除去装置を示した図である。
【図11】実験10に用いた塩化物イオン除去装置を示した分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の塩化物イオン除去装置の好適な実施態様について、図面を用いてより詳しく説明する。図1は、本発明の塩化物イオン除去装置の原理を説明する説明図である。図1は、各部で生じる反応などを分かりやすくするため、模式的に記載している。本発明の塩化物イオン除去装置は、図1に示すように、塩化物イオン(Cl-)を含有する被処理水を入れるための内槽と、内槽を浸漬する浸漬水を入れるための外槽と、外槽内の浸漬水中に配される電極と、電極に直流電圧を印加するための電源とを備えたものとなっている。
【0025】
内槽は、メッシュ素材を籠状に形成した保形材と、保形材に貼られた微多孔性フィルムとで構成されている。微多孔性フィルムは、ビスコースレーヨンをフィルム状に成形したもの(セロファン)となっている。この微多孔性フィルムは、内槽の壁部又は底部の一部のみを形成するように貼ってもよいが、本実施態様の塩化物イオン除去装置では、内槽の壁部及び底部における略全体に亘って貼り付けている。これにより、内槽内の塩化物イオン(Cl-)が内槽外へ移動しやすいようにして、塩化物イオン(Cl-)の除去効果をさらに高めることが可能になる。
【0026】
ところで、内槽を大容量のものとし、その内部に大量の被処理水を入れると、その壁部や底部を形成するセロファンが水圧によって破れるおそれがある。しかし、被処理水の水位と浸漬水の水位とを同じ程度に保てば、被処理水からセロファンの内面に加えられる圧力と、浸漬水からセロファンの外面に加えられる圧力とをほぼ等しくすることができるため、内槽に大量の被処理水を入れたとしても、水圧によってセロファンが破れることはない。
【0027】
電極は、電源の正極に接続される陽極と、負極に接続される陰極とで構成されている。電極を形成する素材としては、黒鉛(C)や金属が一般的である。しかし、本発明の塩化物イオン除去装置において、陽極を黒鉛(C)によって形成すると、陽極から大量の塩素ガス(Cl2)が発生するようになるため、黒鉛(C)は、陽極を形成する素材としては不適である。このため、陽極を形成する素材は、塩化物イオン(Cl-)と結合して水に難溶な塩化物を形成する金属(タリウム(Tl)、銅(Cu)、鉛(Pb)、銀(Ag)、金(Au))に絞られることになる。
【0028】
しかし、これらの金属うち、銀(Ag)以外は、それ自体又は生成される塩化物が毒性を有するか、非常に高価であるため、実用には適さない。このため、本発明の塩化物イオン除去装置においては、陽極の素材として銀(Ag)を採用した。一方、陰極は、物質それ自体が有毒であったり、浸漬水と反応して有害物質を発生したりしない限りは、特にその素材を限定されないが、陰極に採用した素材の電気伝導率によっては、塩化物イオン(Cl-)の除去効果に変化が見られる。
【0029】
陽極や陰極の形状は、被処理水の量や塩化物イオン濃度などによっても異なり、特に限定されない。浸漬水中の塩化物イオン(Cl-)を効率的に除去することのみを考慮すると、陽極や陰極は、単位体積当たりの表面積ができるだけ大きくなるような複雑な形状とすることが好ましい。しかし、陽極や陰極を複雑な形状にしすぎると、陽極で生成された塩化銀(AgCl)が沈殿せずに陽極に付着して残り、それによって陽極からの銀イオン(Ag+)の溶出が妨げられて塩化物イオン(Cl-)の除去効果が減退するとともに、陽極で塩素ガス(Cl2)が発生しやすくなるおそれがある。また、電極の成形コストが増大するおそれもある。このため、陽極や陰極の形状は、塩化銀(AgCl)の付着しにくさや、費用対効果を考慮して決定する。本実施態様の塩化物イオン除去装置において、陽極と陰極は、いずれも円柱状としている。塩化銀(AgCl)の付着は、外槽内にスターラー(図示省略)などの攪拌手段を設けることによっても防止することができる。
【0030】
陽極と陰極の間隔は、電極の寸法や、それに印加する電圧などによっても異なるが、後で説明する実験6の所でも述べるとおり、陽極と陰極の間隔を狭くしすぎると、塩化物イオン(Cl-)の除去に不利に作用するおそれがある。このため、陽極と陰極の間隔は、通常1mm以上は確保し、好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上確保する。一方、陽極と陰極の間隔は、広くしすぎても、塩化物イオン(Cl-)の除去量が減少する。このため、陽極と陰極の間隔は、通常20mm以下、好ましくは15mm以下、より好ましくは10mm以下とする。後で説明する実験4〜6で採用した構成においては、5mm程度が最適である。
【0031】
続いて、本発明の塩化物イオン除去装置の原理について説明する。本発明の塩化物イオン除去装置で塩化物イオン(Cl-)の除去を行うと、図1に示すように、陽極側で反応1が起こり、陰極側で反応2が起こると考えられる。以下、反応1,2について順次説明する。
【0032】
[反応1]
反応1の化学反応式を以下に示す。
【化1】
【0033】
本発明の塩化物イオン除去装置では、イオン化する銀(Ag)で陽極を形成したため、浸漬水中の塩化物イオン(Cl-)などの陰イオンから分離した電子(e-)が電流のキャリアとなるのではなく、陽極を形成する銀(Ag)から分離した電子(e-)が電流のキャリアとなる。電子(e-)が分離して浸漬水中に溶出した銀イオン(Ag+)は、浸漬水中の塩化物イオン(Cl-)と結合し、塩化銀(AgCl)となって浸漬水中へ沈殿する。このことは、陽極に銀(Ag)を用いて行った後述する実験2〜9において、浸漬水中(実験2,6〜9では被処理水中)に塩化銀(AgCl)が沈殿したことでも裏付けられた。本発明の塩化物イオン除去装置は、セロファンを通じて内槽内の処理水中から内槽外の浸漬水中へと移動してきた塩化物イオン(Cl-)を主にこの反応1によって除去することにより、被処理水の塩化物イオン濃度を低下させるものとなっている。
【0034】
ところで、浸漬水中に沈殿した塩化銀(AgCl)からは、銀(Ag)を回収することができる。塩化銀(AgCl)から銀(Ag)を回収する方法としては、いくつかあるが、例えば、塩化銀(AgCl)を強熱する方法や、塩化銀(AgCl)に水と鉄粉を加えることによって得られたスラリーを濾過する方法などが例示される。回収した銀は、陽極を成形する材料として再利用することができる。
【0035】
[反応2]
反応2の化学反応式を以下に示す。
【化2】
【0036】
陰極側では、主にこの反応2が起こる。浸漬水中には、ナトリウムイオン(Na+)やマグネシウムイオン(Mg2+)などの金属イオンが存在するが、これらの金属イオンはイオン化傾向が大きく、陰極から電子(e-)を受け取りにくい。このため、浸漬水中の水分子(H2O)が陰極から電子(e-)を受け取って水素(H2)と水酸化物イオン(OH-)を生成する。
【0037】
続いて、本発明の塩化物イオン除去装置による塩化物イオン(Cl-)の除去効果や、その他の効果を確かめるため、以下の実験1〜10を行った。以下、実験1〜10について順次説明する。図2〜11は、それぞれ実験1〜10に用いた塩化物イオン除去装置を示した図である。
【0038】
[実験1(比較例)]
まず、セロファンと電気分解を併用して被処理水中の塩化物イオン(Cl-)がどの程度まで除去されるかを知るために、図2に示すように、陽極と陰極の両方が黒鉛(C)で形成された電極を浸漬水中に配して1時間通電した場合において、被処理水と浸漬水の塩化物イオン濃度がどのように変化するのかを調べた(実験1)。
【0039】
実験1の条件と結果をそれぞれ下記表1, 2に示す。
【表1】
【表2】
【0040】
実験1では、開始前の浸漬水の塩化物イオン濃度が185mg/Lもあり、被処理水の塩化物イオン濃度と等しかったにもかかわらず、上記表2に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が低下した。これは、浸漬水中の塩化物イオン(Cl-)が陽極に電子(e-)を渡して塩素ガス(Cl2)となったためと考えられる。このことは、実験1においては陽極から気泡が発生し、非常に強い塩素臭が感じられたことや、浸漬水中に沈殿物が見られなかったことなどからも裏付けられる。しかし、実験1では、開始前と1時間経過時の被処理水の塩化物イオン濃度の差が20mg/Lと小さく、必ずしも十分とは言えなかった。
【0041】
[実験2(比較例)]
次に、陽極を銀(Ag)で形成して電気分解を行った場合に、被処理水中の塩化物イオン(Cl-)がどの程度まで除去されるかを知るために、図3に示す装置を用いた場合において、被処理水の塩化物イオン濃度がどのように変化するかを調べた(実験2)。実験2は、陰極を銀(Ag)で形成した場合と、陰極を黒鉛(C)で形成した場合のそれぞれについて行った。実験2では、セロファンを使用せず、外槽に被処理水を直接入れた。
【0042】
実験2の条件と測定結果をそれぞれ下記表3〜5に示す。
【表3】
【表4】
【表5】
【0043】
実験2において、陽極と陰極の両方を銀(Ag)で形成した場合には、上記表4に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が約100mg/L低下し、陽極のみを銀(Ag)で形成した場合には、上記表5に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が約111mg/L低下した。このことから、塩化物イオン(Cl-)を除去するという点では、実験1で採用した構成よりも、実験2で採用した構成の方が優れていることが分かる。
【0044】
また、実験2では、陽極から気泡が発生せず、塩素臭が感じられなかった。被処理水中には、白色でさらさら(乾燥時)した手触りの物質が沈殿した。この物質は、アンモニア水によって溶解したことや、別に行ったX線分析実験の結果などから、塩化銀(AgCl)であることが確認された。このことから、実験2では、主として上述した反応1によって浸漬水中の塩化物イオン(Cl-)が除去されたと考えられる。しかし、陽極と陰極の両方を銀(Ag)で形成した場合と、陽極のみを銀(Ag)で形成した場合のいずれにおいても、被処理水が白濁した薄紫色に着色されてしまったため、得られた処理水を食品製造水や飲料水として利用するには難がある。
【0045】
[実験3(実施例)]
次に、セロファンによる透析に加えて、陽極を銀(Ag)で形成して電気分解を行った場合に、被処理水中の塩化物イオン(Cl-)がどの程度まで除去されるかを知るために、図4に示す装置を用いた場合において、被処理水と浸漬水の塩化物イオン濃度がどのように変化するかを調べた(実験3)。実験3は、陰極を銀(Ag)で形成した場合と、陰極を黒鉛(C)で形成した場合のそれぞれについて行った。
【0046】
実験3の条件と結果をそれぞれ下記表6〜8に示す。
【表6】
【表7】
【表8】
【0047】
実験3において、陽極と陰極の両方を銀(Ag)で形成した場合には、上記表7に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が約86mg/L低下し、陽極のみを銀(Ag)で形成した場合には、上記表8に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が約92mg/L低下した。実験2の結果と比較して、塩化物イオン(Cl-)の除去量は僅かに減少しているものの、実験3でも、かなりの塩化物イオン(Cl-)を除去することができた。実験3では、浸漬水が白濁した薄紫色に着色されたものの、被処理水には着色が見られず透明なままであった。
【0048】
[実験4(実施例)]
実験3では、浸漬水として塩化物イオン濃度の低い水道水を用いたが、塩化物イオン除去装置を使用する場所によっては、塩化物イオン濃度の低い水を取得できるとは限らない。また、被処理水を浸漬水として利用できれば、水道代を節約することも可能である。このため、本発明の塩化物イオン除去装置において、浸漬水の塩化物イオン濃度を被処理水の塩化物イオンと同じ程度に高くしても、被処理水の塩化物イオン濃度が低下するかどうかを確かめるために、図5に示す装置を用いた場合において、被処理水と浸漬水の塩化物イオン濃度がどのように変化するかを調べた(実験4)。
【0049】
実験4の条件と結果をそれぞれ下記表9,10に示す。
【表9】
【表10】
【0050】
実験4では、実験開始前における浸漬水の塩化物イオン濃度が高かったにもかかわらず、上記表10に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度は、1時間経過時で約80mg/Lも低下している。実験3の結果と比較して、塩化物イオン(Cl-)の除去効果は多少減退しているものの、それでもなお、優れた除去効果が認められた。陽極から気泡が発生せず、塩素臭が感じられなかったことや、浸漬水中に塩化銀(AgCl)が沈殿したことや、被処理水に着色が見られなかったことなどは、実験3と同様である。この実験4の結果から、本発明の塩化物イオン除去装置が、浸漬水の塩化物イオン濃度が高くても食品製造水や飲料水を製造できるものであることが分かった。
【0051】
[実験5(実施例)]
実験3,4では、セロファンを一重に配したが、セロファンは、決して強靭とはいえないため、破損するおそれがある。この対策としては、セロファンを多重に配することが考えられるが、この場合には、塩化物イオン(Cl-)の除去量が少なくなることも予想される。このため、本発明の塩化物イオン除去装置において、セロファンを多重に配しても、塩化物イオン(Cl-)の除去量が維持されるか同かを確かめるために、図6に示す装置を用いた場合において、被処理水と浸漬水の塩化物イオン濃度がどのように変化するかを調べた(実験5)。
【0052】
実験5の条件と結果をそれぞれ下記表11,12に示す。
【表11】
【表12】
【0053】
実験5では、セロファンを二重に配したにもかかわらず、被処理水の塩化物イオン濃度は、上記表12に示すように、約92mg/Lも低下しており、セロファンを一重に配した実験3と同等の結果が得られた。このことから、セロファンを多重に配しても、塩化物イオン(Cl-)の除去量には殆ど影響がないことが推測される。セロファンは、非常に破損しやすく、一旦破損すると被処理水が着色するようになるため、多重に配することが好ましいと思われる。
【0054】
[実験6(比較例)]
実験2〜5では、陽極と陰極の間隔を5mmで統一していた。しかし、この間隔を広くすると、浸漬水中の電解質の移動距離が長くなるため、塩化物イオン(Cl-)の除去量が減少することが予想される。この予想が正しいかを確認するために、図7に示すように、陽極と陰極の間隔を広くして被処理水の塩化物イオン濃度の変化を調べてみた(実験6)。実験6では、陽極と陰極の間隔が塩化物イオン(Cl-)の除去量に及ぼす影響さえ分かればよいため、内槽を使用せず、外槽に被処理水を直接入れているが、内槽を使用した場合においても、被処理水の着色の有無以外については、同様の実験結果が得られるものと思われる。この点に関しては、後述する実験7〜9においても同様である。
【0055】
実験6の条件と結果をそれぞれ下記表13〜15に示す。
【表13】
【表14】
【表15】
【0056】
実験6では、上記表14,15に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が24〜40mg/L程度しか低下せず、塩化物イオン(Cl-)の除去量はそれ程多いとは言えない。電気分解法では、正の電荷が蓄積した陽極と負の電荷が蓄積した陰極との間を、溶液中(浸漬水中)の電解質がこれを中和するように移動することで反応が継続されるが、陽極と陰極との間隔を広くすると、電解質の移動距離が長くなるため、塩化物イオン(Cl-)の除去量が減少したのではないかと思われる。実験6では、外槽の内底部に配したスターラーによって浸漬水の攪拌を行っているが、このスターラーによる攪拌でも、電解質の移動を十分に助けることができないと思われる。
【0057】
以上の結果から、陽極と陰極の間隔を狭くした方が、塩化物イオン(Cl-)の塩化物イオン(Cl-)の除去に関しては有利であることが分かったが、あまり狭くしすぎると、上述したように、電極の設置が難しくなるため、塩化物イオン除去装置の施工に手間がかかることが予想される。陽極と陰極の間隔は、電極の寸法や、それに印加する電圧などによっても異なるが、塩化物イオン(Cl-)の除去効果と施工の容易性を考慮すると、5〜10mm程度が最適であると思われる。
【0058】
[実験7(比較例)]
実験2〜6では、陽極と陰極の寸法と形状は、直径1mm、長さ15mmの円柱状で統一していた。しかし、陽極や陰極の寸法や形状は、塩化物イオン(Cl-)の除去量に影響を及ぼすことが予想される。この影響がどの程度であるかを確認するために、図8に示すように、電極の寸法を大きくして被処理水の塩化物イオン濃度の変化を調べてみた(実験7)。
【0059】
実験7の条件と結果をそれぞれ下記表16,17に示す。
【表16】
【表17】
【0060】
実験7では、上記表17に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が231mg/Lも低下した。このことから、電極の寸法を大きくすると、塩化物イオン(Cl-)の除去量が多くなることが分かった。しかし、実験7で使用した電極は、電極の寸法及び形状以外は同じ条件の実験2で使用した電極と比較して、表面積で約30倍になっているものの、塩化物イオン(Cl-)の除去量はそこまで増加していない。このことから、電極の表面積や重量と塩化物イオン(Cl-)の除去量には、正の相関関係こそあれ、比例関係までは有さないと思われる。
【0061】
[実験8(比較例)]
実験2〜7では、陽極と陰極の数は、1つずつで統一していた。しかし、電極の数も、塩化物イオン(Cl-)の除去効果に影響を及ぼすことが予想される。この影響がどの程度であるかを確認するために、図9に示すように、電極の数を増やして被処理水の塩化物イオン濃度の変化を調べてみた(実験8)。
【0062】
実験8の条件と結果をそれぞれ下記表18〜20に示す。
【表18】
【表19】
【表20】
【0063】
実験8では、上記表19,20に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が140〜216mg/L低下している。電極の数以外は同じ条件の実験2と比較すると、塩化物イオン(Cl−)の除去量と電極の数には、比例関係とまではいかなくとも正の相関関係があると思われる。また、実験8では、被処理水中の電解質の移動を考慮し、電極を並列に接続したが、このように電極を並列に接続した場合であっても、塩化物イオン(Cl-)の除去が可能であることも分かった。このことから、塩化物イオン除去装置を多段に配さなくても、その電極の数を増やしさえすれば、塩化物イオン(Cl-)の除去効果は、さらに高まることなどが推測される。
【0064】
[実験9(比較例)]
次に、図10に示すように、電極の寸法を大きくするとともにその数も増やして被処理水の塩化物イオン濃度の変化を調べてみた(実験9)。
【0065】
実験9の条件と結果をそれぞれ下記表21,22に示す。
【表21】
【表22】
【0066】
実験9では、上記表22に示すように、被処理水の塩化物イオン濃度が262mg/Lも低下しており、塩化物イオン(Cl-)の除去量は、実験7,8のいずれの場合よりも増加していた。ところで、実験7,8の結果から、大きな電極を少数使用するよりも、小さな電極を多数使用するほうが、塩化物イオン(Cl-)の除去量は多くなることが予想されるが、塩化物イオン除去装置の施工や電極の交換に掛かる手間などを考慮すると、電極の数は、数組程度に抑えておくことが好ましいと思われる。
【0067】
[実験10(実施例)]
実験1〜9では、被処理水や浸漬水の量は、75〜200mlと少量であったが、本発明の塩化物イオン除去装置を実用化するにあたっては、数十kg以上、場合によっては数トン以上の被処理水を一度に処理する必要があると思われる。このため、大量の被処理水を用いた場合にも、本発明の塩化物イオン除去装置によって塩化物イオン(Cl-)の除去効果が奏されるのかを確認しておく必要がある。したがって、大型の塩化物イオン除去装置に大量の被処理水を入れ、被処理水の塩化物イオン濃度の変化を調べてみた(実験10)。
【0068】
実験10は、図11に示す塩化物イオン除去装置を用いて行った。図11に示す塩化物イオン装置においては、外槽の四隅近傍に計4組の電極を配している。それぞれの電極における陽極と陰極は、その上下端に設けられた絶縁性を有するスペーサによって、間隔が一定に保たれるようになっている。内槽は、前面、背面、右側面、左側面及び底面が、ビスコースレーヨンからなる微多孔性フィルム(セロファン)によって形成されたものとなっている。外槽の底部付近には、外槽内に沈殿した塩化銀(AgCl)を外槽外へ取り出すための塩化銀取出口を設けている。外槽の内底面は、傾斜又は凹部が設けられて、塩化銀取出口付近が一番低くなるように形成されている。このため、外槽内に沈殿した塩化銀(AgCl)を取り出しやすくすることができるようになっている。
【0069】
実験10の条件と結果をそれぞれ下記表23,24に示す。
【表23】
【表24】
【0070】
実験10では、実験開始前の被処理水の塩化物イオン濃度を、該被処理水として地下水を利用した場合に想定される上限値である250mg/Lよりも高い値に設定したが、上記表24に示すように、塩化物イオン除去時間が30分と短かったにもかかわらず、水道法の水質基準である200mg/L以下にまで低下させることができた。このことから、本発明の塩化物イオン除去装置は、被処理水が大量である場合においても、十分に塩化物イオン(Cl-)を除去できるものであることが分かった。
【0071】
また、浸漬水の塩化物イオン濃度は殆ど上昇せず、浸漬水を次回の処理においても再利用できることも分かった。さらに、塩素臭が感じられず、塩素ガス(Cl2)の発生も確認できなかった。以上のことから、本発明の塩化物イオン除去装置は、食肉処理場など、大量の水を必要とする施設においても、十分に実用化できるものであるということが分かった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物イオンを含有する被処理水から塩化物イオンを除去するための塩化物イオン除去装置であって、
被処理水を入れるための内槽と、内槽を浸漬する浸漬水を入れるための外槽と、外槽内の浸漬水中に配される電極と、該電極に直流電圧を印加するための電源とを備え、内槽の壁部又は底部における少なくとも一部が塩化物イオンを透過して塩化銀を透過しない微多孔性フィルムによって形成され、前記電極のうち少なくとも陽極が銀によって形成され、前記微多孔性フィルムを通じて内槽外へ移動してきた塩化物イオンが前記陽極で塩化銀となって浸漬水中に沈殿するようにしたことを特徴とする塩化物イオン除去装置。
【請求項2】
前記微多孔性フィルムが、ビスコースレーヨンからなるフィルムである請求項1記載の塩化物イオン除去装置。
【請求項3】
前記電極の陽極と陰極の間隔が1〜20mmである請求項1又は2記載の塩化物イオン除去装置。
【請求項4】
前記電極が複数組設けられた請求項1〜3いずれか記載の塩化物イオン除去装置。
【請求項5】
前記微多孔性フィルムが多重に配された請求項1〜4いずれか記載の塩化物イオン除去装置。
【請求項6】
塩化物イオンを含有する被処理水から塩化物イオンを除去するための塩化物イオン除去方法であって、
壁部又は底部における少なくとも一部が塩化物イオンを透過して塩化銀を透過しない微多孔性フィルムによって形成された内槽に被処理水を入れ、外槽に入れた浸漬水に内槽を浸漬し、少なくとも陽極が銀によって形成された電極を浸漬水中に配して該電極に直流電圧を印加することにより、前記微多孔性フィルムを通じて内槽外へ移動してきた塩化物イオンを前記陽極で塩化銀として浸漬水中に沈殿させることを特徴とする塩化物イオン除去方法。
【請求項7】
浸漬水中に沈殿した塩化銀から銀を回収し、回収した銀を成形して前記陽極として再利用する請求項6記載の塩化物イオン除去方法。
【請求項1】
塩化物イオンを含有する被処理水から塩化物イオンを除去するための塩化物イオン除去装置であって、
被処理水を入れるための内槽と、内槽を浸漬する浸漬水を入れるための外槽と、外槽内の浸漬水中に配される電極と、該電極に直流電圧を印加するための電源とを備え、内槽の壁部又は底部における少なくとも一部が塩化物イオンを透過して塩化銀を透過しない微多孔性フィルムによって形成され、前記電極のうち少なくとも陽極が銀によって形成され、前記微多孔性フィルムを通じて内槽外へ移動してきた塩化物イオンが前記陽極で塩化銀となって浸漬水中に沈殿するようにしたことを特徴とする塩化物イオン除去装置。
【請求項2】
前記微多孔性フィルムが、ビスコースレーヨンからなるフィルムである請求項1記載の塩化物イオン除去装置。
【請求項3】
前記電極の陽極と陰極の間隔が1〜20mmである請求項1又は2記載の塩化物イオン除去装置。
【請求項4】
前記電極が複数組設けられた請求項1〜3いずれか記載の塩化物イオン除去装置。
【請求項5】
前記微多孔性フィルムが多重に配された請求項1〜4いずれか記載の塩化物イオン除去装置。
【請求項6】
塩化物イオンを含有する被処理水から塩化物イオンを除去するための塩化物イオン除去方法であって、
壁部又は底部における少なくとも一部が塩化物イオンを透過して塩化銀を透過しない微多孔性フィルムによって形成された内槽に被処理水を入れ、外槽に入れた浸漬水に内槽を浸漬し、少なくとも陽極が銀によって形成された電極を浸漬水中に配して該電極に直流電圧を印加することにより、前記微多孔性フィルムを通じて内槽外へ移動してきた塩化物イオンを前記陽極で塩化銀として浸漬水中に沈殿させることを特徴とする塩化物イオン除去方法。
【請求項7】
浸漬水中に沈殿した塩化銀から銀を回収し、回収した銀を成形して前記陽極として再利用する請求項6記載の塩化物イオン除去方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−207665(P2010−207665A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53962(P2009−53962)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(504007006)公協産業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(504007006)公協産業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】
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