説明

塩素含有量の少ない紙ワイパー及びその製法

【課題】 従来の紙製ワイパーは含有塩素量が150ppm以上と含有塩素量が高く金属部の腐食原因となる他、焼却時、排ガス及びスクラバー排水中の塩素濃度及びダイオキシンの上昇が問題となっており、この問題を解決することを課題とする。
【解決手段】
木材パルプを主成分とする紙ワイパーであって、湿潤引張り強度はMD0.5N/25mm以上かつ/又はCD0.2N/25mm以上であり、坪量は15g/m以上でクレープ加工が施され、全塩素量の含有量が100ppm未満であることを特徴とする塩素含有量の少ない紙ワイパー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は産業用ワイパーに関するもので、産業用ワイパーは各種機械、装置の清掃作業に使用されている。通常ワイパーは紙や不織布により構成されている。特に安価な紙製ワイパーはありとあらゆる清掃作業から機械製品等の梱包まで幅広い用途で大量に使用されている。
【背景技術】
【0002】
従来の紙ワイパーでは主原料としてパルプに親水性のビスコースレーヨン、PVA繊維 にポリアミドアミンエポキシ変性樹脂(湿潤紙力増強剤)を添加したクレープ原紙としアルコールを含浸させた水分散性を特徴とした洗浄材(ウェットワイパー)が提案されている(特許文献1)が、この場合湿潤紙力増強剤由来の塩素があり、また木材パルプ及び製造工程で使用される用水、粘剤、ヤンキードライヤーの剥離剤及び付着剤に由来する塩素が存在し低塩素化は考慮されていない。
また水分散性を考慮しているので充分な湿潤強度は得られていない。
また特許文献3においても木質パルプ50〜80%に熱融着繊維(1〜3%)、レーヨン(10〜50%)、ビニロンバインダー(1〜15%)及び湿潤紙力増強剤を配合湿式抄造した10〜30g/cmの紙ワイパー用基布が提案されているが湿潤紙力増強剤の配合により低塩素のワイパーは得られない。さらに木質パルプ、製造工程で使用される用水、粘剤、ヤンキードライヤーの剥離剤及び付着剤その他の添加薬品の低塩素化は考慮されていない。
特許文献2においても天然セルロースとPVA繊維状バインダーからなる表面層と天然セルロース、再生セルロース及びPVA繊維状バインダーからなるコア層を抄き合わせて得られた工業用ワイパーが提案されているが湿潤紙力増強剤の配合は無いものの木材パルプ及び製造工程で使用される用水、粘剤、ヤンキードライヤーの剥離剤及び付着剤、その他の添加薬品の低塩素化は考慮されていない。低塩素のポリアミドエピクロルヒドリン系湿潤紙力増強剤の製造法に関する特許(特許文献4〜8)があるが湿潤紙力増強剤の合成工程での薬品(エピクロルヒドリン)に由来する塩素を完全に0にする事は実現していない。
【0003】
【特許文献1】特開平3−76900
【特許文献2】特開2001−355198
【特許文献3】特開2004−190163
【特許文献4】特開2006−97218
【特許文献5】特開2004−51742
【特許文献6】特開2003−239198
【特許文献7】特開2003−155695
【特許文献8】特開平11−338721
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
紙製ワイパーは含有塩素量が高いと金属部の腐食原因となる他、焼却時のスクラバー排水塩素濃度の上昇が問題となっている。
ワイパーが産業分野で使用され焼却処分される場合、ワイパーの塩素分が多いと
1)焼却炉から排出されるダイオキシンの問題
2)焼却炉スクラバー部の腐食
3)スクラバー排水蒸発乾固物の増大の問題
4)スクラバー排水の蒸発乾固の際、蒸発釜が塩素によって腐食する
などのトラブルを引き起こす。
その為低塩素のワイパーの提供が望まれている。
【0005】
(1)湿潤紙力増強剤の塩素量の低減
紙製ワイパーは水系の液体を含浸して清拭作業に供されることが多い為、湿潤時の強度が重要な要件となる。通常、湿潤紙力を向上する為にはポリアミドエピクロルヒドリン樹脂系の薬剤が使用されるが、この薬剤は塩素を含んでおり、ワイパーの主要な塩素源となっている。塩素付加量の少ない湿潤紙力剤も開発されているが、強度向上効果が一般に低く、必要な湿潤紙力を得る為には通常より多量の薬剤が必要となり、結果としてワイパーのトータル塩素量の改善が難しいのが現状となる。また、主成分に全く塩素を含まない(結合塩素を含まない)タイプのものが開発されているが、この薬剤の合成過程に由来する塩化物イオンが多量に残留しており、ワイパーの塩素量低減には不適なものとなっている。
(2)用水の塩素低減
また、その他の塩素源としては工程用水がある。工程用水のクローズド化が進み、スライム防止の目的で添加される塩素系薬剤も重大な塩素源となっている。全塩素が15ppm以下好ましくは10ppm以下の地下水を使用することで低塩素ワイパーの製造が可能となる。
(3)原料パルプの塩素低減
さらに、原料パルプに関しても、晒しパルプは、通常塩素晒し工程に由来する塩素分の残留があり、不適であるが、無塩素パルプ(TCF)が開発されてきておりこのパルプを使用すれば低塩素ワイパーの製造が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)品質上の要件
全塩素量を測定する時その含有量が100ppm未満であること。好適には50ppm未満である木材パルプを主成分とする紙ワイパー。
湿潤引張り強度はMD100g/25mm以上かつCD0.2N/25mm以上より好ましくはMD1.0N/25mm以上かつCD0.4N/25mmが好適である。強度が低いと水系液体の清拭作業に不適となる。
坪量は15g/m(上記のMD、CD)以上とすることが好ましい。用途に応じて坪量を増加させたり、複数枚を積層一体化したりすることは自由である。
吸水性、手持ち感(作業性)の面からクレープ加工を施すことが好ましい。
(2)製法上の要件
湿潤紙力向上材として塩素を含有していない製紙用ビニロンバインダー、製紙用芯鞘型熱融着繊維、合成パルプ(SWP)、非塩素湿潤紙力増強剤を単独又は複合して使用する。製紙用ビニロンバインダーはユニチカ、クラレ等から販売されている。製紙用芯鞘型熱融着繊維はチッソ、ダイワボウ等から販売されている。合成パルプ(SWP)は三井石油化学工業から販売されている。製紙用ビニロンバインダーについては、製造工程で出た損紙を熱水で溶解できるように100℃以下の溶融タイプを使用することが好ましい。さらに望ましくは50℃以上、90℃以下の熱溶融タイプが好適である。
用水としては、地下水を汲み上げた新水のみを用いる。
原料パルプとしては未晒しパルプのみ用いるか無塩素の晒しパルプのみを用いるか前記両者をブレンドしたものを使用する。さらに染料等で着色する事も可能である。
その他工程薬品(ドライヤー付着剤、剥離剤、粘剤等)も塩素含有量の低いものを選定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明の実施例を示すがこれらは例示の目的で掲げたものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0008】
未晒し針葉樹クラフトパルプ(NUKP)に製紙用ビニロンバインダー(60℃溶融タイプ)を3%添加し、丸網抄紙機にて24g/mの坪量で製造した。この際ヤンキードライヤーにてクレープ率13%でクレープ加工を施した。工程薬品としては何れも塩素含有量の低いアニオン性ポリアクリルアミド系粘剤及びポリエチレンワックス系の剥離剤を使用した。用水はほぼ全量地下水(塩素含有量10ppm以下の地下水)を汲み上げた新水を使用した。
【実施例2】
【0009】
非塩素の晒し針葉樹クラフトパルプ(TCF漂白:酸素漂白NBKP)に製紙用ビニロンバインダー(70℃溶融タイプ)を3%添加し、丸網抄紙機にて18g/mの坪量で製造した。この際ヤンキードライヤーにてクレープ率13%でクレープ加工を施した。工程薬品としては何れも塩素含有量の低いアニオン性ポリアクリルアミド系粘剤及びポリエチレンワックス系の剥離剤を使用した。用水はほぼ全量地下水(塩素含有量10ppm以下の地下水)を汲み上げた新水を使用した。
【実施例3】
【0010】
未晒し針葉樹クラフトパルプ(NUKP)に製紙用ポリエステル芯鞘型熱融着繊維を15%添加し、丸網抄紙機にて24g/mの坪量で製造した。この際ヤンキードライヤーにクレープ率15%でクレープ加工を施した。工程薬品としては、何れも塩素含有量の低いアニオン性ポリアクリルアミド系粘剤及びポリエチレンワックス系の剥離剤を使用した。用水はほぼ全量地下水(塩素含有量10ppm以下の地下水)を汲み上げた新水を使用した。
【実施例4】
【0011】
未晒し針葉樹クラフトパルプ(NUKP)に製紙用ポリエステル芯鞘型熱融着繊維を15%添加し、丸網抄紙機にて18g/mの坪量で製造した。この際ヤンキードライヤーにクレープ率15%でクレープ加工を施した。工程薬品としては、何れも塩素含有量の低いアニオン性ポリアクリルアミド系粘剤及びポリエチレンワックス系の剥離剤を使用した。用水はほぼ全量地下水(塩素含有量10ppm以下の地下水)を汲み上げた新水を使用した。
【実施例5】
【0012】
未晒し針葉樹クラフトパルプ(NUKP)に合成パルプ(SWP)を30%添加し、丸網抄紙機にて24g/mの坪量で製造した。この際ヤンキードライヤーにてクレープ率15%でクレープ加工を施した。工程薬品としては、何れも塩素含有量の低いノニオン界面活性剤系繊維分散剤、アニオン性ポリアクリルアミド系粘剤及びポリエチレンワックス系の剥離剤を使用した。用水はほぼ全量地下水(塩素含有量10ppm以下の地下水)を汲み上げた新水を使用した。
【実施例6】
【0013】
未晒し針葉樹クラフトパルプ(NUKP)80%非塩素の晒し針葉樹クラフトパルプ(TCF漂白:酸素漂白NBKP)20%に合成パルプ(SWP)を対パルプ30%添加し、丸網抄紙機にて18g/mの坪量で製造した。この際ヤンキードライヤーにてクレープ率15%でクレープ加工を施した。工程薬品としては、何れも塩素含有量の低いノニオン界面活性剤系繊維分散剤、アニオン性ポリアクリルアミド系粘剤及びポリエチレンワックス系の剥離剤を使用した。用水はほぼ全量地下水(塩素含有量10ppm以下の地下水)を汲み上げた新水を使用した。
【実施例7】
【0014】
実施例1で抄造したシート3枚を積層し、ピン状のエンボスを用いて微小な孔を開けることにより一体化してワイピングシートとした。
【実施例8】
【0015】
実施例2で抄造したシート4枚を積層し、ピン状のエンボスを用いて微小な孔を開けることにより一体化してワイピングシートとした。
【実施例9】
【0016】
実施例3で抄造したシート3枚を積層し、ヒートエンボスロールにより擬似的に接合一体化してワイピングシートとした。
【実施例10】
【0017】
実施例4で抄造したシート4枚を積層し、ヒートエンボスロールにより擬似的に接合一体化してワイピングシートとした。
【実施例11】
【0018】
実施例5で抄造したシート3枚をバインダーで積層・接着し、さらにピン状のエンボスを用いて微小な孔を開けることにより一体化してワイピングシートとした。
【実施例12】
【0019】
実施例6で抄造したシート4枚をバインダーで積層・接着し、さらにピン状のエンボスを用いて微小な孔を開けることにより一体化してワイピングシートとした。
【0020】
<比較例1>
未晒し針葉樹クラフトパルプ(NUKP)にポリアミドエピクロルヒドリン系湿潤紙力増強剤を0.2%添加し、抄紙機にて18g/mの坪量で製造した。この際ヤンキードライヤーにてクレープ率13%でクレープ加工を施した。工程薬品としては、何れも塩素含有量の低いアニオン性ポリアクリルアミド系粘剤及びポリエチレンワックス系の剥離剤を使用した。用水はほぼ全量地下水(塩素含有量10ppm以下の地下水)を汲み上げた新水を使用した。
【0021】
<比較例2>
晒し針葉樹クラフトパルプ(NBKP)に製紙用ビニロンバインダー(60℃溶融タイプ)を3%添加し、抄紙機にて18g/mの坪量で製造した。この際ヤンキードライヤーにてクレープ率13%でクレープ加工を施した。工程薬品としては何れも塩素含有量の低いアニオン性ポリアクリルアミド系粘剤及びポリエチレンワックス系の剥離剤を使用した。用水はほぼ全量地下水(塩素含有量10ppm以下の地下水)を汲み上げた新水を使用した。
【0022】
<比較例3>
未晒し針葉樹クラフトパルプ(NUKP)に製紙用ビニロンバインダーは(60℃溶融タイプ)を3%添加し、丸網抄紙機にて18g/mの坪量で製造した。この際ヤンキードライヤーにてクレープ率13%でクレープ加工を施した。工程薬品としては何れも塩素含有量の低いアニオン性ポリアクリルアミド系粘剤及びポリエチレンワックス系の剥離剤を使用した。用水は通常工業用水(塩素含有量50ppm)を使用した。
【0023】
<比較例4>
比較例1〜3で抄造したシート4枚を積層し、ピン状のエンボスを用いて微小な孔を開けることにより一体化してワイピングシートとした。
【0024】
強度及び塩素量に関して以下の結果を得た
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
<WET強度測定法>
JISP8113により測定した破断までの最大荷重(N)。測定紙片は25mm幅で測定した。
実施例1〜6及び比較例1,2,3は1プライで測定した。
実施例7,9,11は3プライで測定した。
実施例8,10,12及び比較例4は4プライで測定した。

<全塩素量測定>
燃焼−電量測定法で測定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材パルプを主成分とする紙ワイパーであって、湿潤引張り強度はMD0.5N/25mm以上かつ/又はCD0.2N/25mm以上であり、坪量は15g/m以上でクレープ加工が施され、全塩素量の含有量が100ppm未満であることを特徴とする塩素含有量の少ない紙ワイパー。
【請求項2】
坪量15g/m以上のシートを2〜4枚重ね合わせエンボス加工した請求項1記載の塩素含有量の少ない紙ワイパー。
【請求項3】
原料パルプとしては無塩素漂白の晒しパルプを用い、湿潤紙力向上材として塩素を含まない製紙用ビニロンバインダー、製紙用芯鞘型熱融着繊維、合成パルプ(SWP)を単独又は複合して使用し、用水としては地下水を汲み上げた新水のみを用いかつその他の工程薬品も塩素含有量の低いものを選定することを特徴とする請求項1または2記載の塩素含有量の少ない紙ワイパー。
【請求項4】
原料パルプとしては未晒しパルプを用い、湿潤紙力向上材として塩素を含有していない製紙用ビニロンバインダー、製紙用芯鞘型熱融着繊維、合成パルプ(SWP)を単独又は複合して使用し、用水としては地下水を汲み上げた新水のみを用いかつその他の工程薬品も塩素含有量の低いものを選定することを特徴とする請求項1または2記載の塩素含有量の少ない紙ワイパー。
【請求項5】
原料パルプとしては無塩素漂白の晒しパルプと未晒しパルプとを1:9〜9:1の割合で配合されたものを用い、湿潤紙力向上材として塩素を含まない製紙用ビニロンバインダー、製紙用芯鞘型熱融着繊維、合成パルプ(SWP)を単独又は複合して使用し、用水としては地下水を汲み上げた新水のみを用いかつその他の工程薬品も塩素含有量の低いものを選定することを特徴とする請求項1または2記載の塩素含有量の少ない紙ワイパー。
【請求項6】
請求項3又は請求項4又は請求項5記載の塩素含有量が少ないワイパーの製法。

【公開番号】特開2008−127687(P2008−127687A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310311(P2006−310311)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000183462)日本製紙クレシア株式会社 (112)
【Fターム(参考)】