説明

増幅装置

【課題】高効率で増幅を行うと共に合成損失を最小限に抑える。
【解決手段】入力信号は、デジタル信号処理部11で直交変調され周波数変換部12でRF信号に変換され、分配器91により振幅補正回路13と主増幅器16−1、16−2に2分配される。一方のRF信号は、振幅補正回路13で振幅補正され位相補正回路14で位相補正されて主増幅器16−1に出力される。主増幅器16−1、16−2はデジタル信号処理部11で作成された包絡線信号で電源電圧を制御され、増幅信号を合成器93に出力して合成させる。合成損失として終端抵抗930に現れるRF信号は、方向性結合器19と検波器18を介し誤差信号として制御部17に出力される。制御部17は、デジタル信号処理部11で作成された包絡線信号と誤差信号とによる誤差情報に基づき更新した振幅補正値と位相補正値とで振幅補正回路13と位相補正回路14を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各増幅器で増幅されたそれぞれの出力電力を合成して出力する増幅器に係り、特に、高効率で増幅するとともに合成損失を減らすことができる増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送信機の最大出力電力を上げるために、複数の増幅器の出力電力を合成することが行われている。図9は、従来の平衡増幅器Zの構成を示す回路図である。
【0003】
平衡増幅器Zは、入力信号を分配する分配器91と、分配された信号をそれぞれ増幅する増幅器92−1、92−2と、増幅された信号を合成する合成器93とで構成される。分配器91と合成器93とは、それぞれハイブリッドカプラにより構成されている。
【0004】
分配器91は、入力端から入力される入力信号を2分配し、一方の信号を増幅器92−1に出力し、他方の信号を増幅器92−2に出力する。ここで、増幅器92−2に入力される信号の位相は、増幅器92−1に入力される信号の位相に対して90°遅れたものになる。また、分配器91によって等分配されたそれぞれの信号は、入力信号に対して3dB減衰したものになる。また、分配器91の一端は、終端抵抗910を介して接地される。
【0005】
増幅器92−1、92−2は、AB級にバイアスされ、位相、振幅ともに同じ特性の増幅器である。増幅器92−1、92−2にそれぞれ分配された信号は、それぞれ同じ利得で増幅され、合成器93に出力される。
【0006】
合成器93は、増幅器92−2から出力される信号の位相に対し、増幅器92−1から出力される信号の位相を90°遅らせて両方を合成する。つまり、合成器93は、増幅器92−2から出力される信号に対し増幅器92−1から出力される信号の位相を90°遅らせることによって、増幅器92−2の出力信号と増幅器92−1の出力信号とを同相にして合成する。
【0007】
合成された信号は、増幅器92−1の出力信号と増幅器92−2から出力されるそれぞれの電力の2倍(3dB)が加わった信号として出力される。つまり、図9の回路図では、分配器91で3dB減衰するが、合成器93で3dBが加わるため総合的な利得が増幅器92−1、92−2単体の利得と同じになり、増幅器92−1と増幅器92−2とを合成しているため最大出力電力が2倍になる。
【0008】
ここで、増幅器92−1と増幅器92−2とは、振幅、位相共に特性が一致している。そのため、増幅器92−1から出力された信号と増幅器92−2から出力された信号とは、合成器93の終端抵抗930が接続された端子において180°の逆位相となって信号が現れず、終端抵抗930において電力が消費されない。よって合成器93の損失は理論的には零である。なお、終端抵抗930は接地されている。
【0009】
ところが、増幅素子の増幅度やプリント基板回路に実装されたときのストレー容量等の微小なアンバランス等により、増幅信号間で位相又は振幅の一部が相違することがある。このように、増幅器92−1、92−2の振幅、位相特性に差異があると、その差分のエネルギーが終端抵抗930で消費され、合成損失となる。
【0010】
これに対し、第1増幅器から合成器に出力される増幅信号と第2増幅器から合成器に出力される増幅信号とにおける振幅、位相の差異による差分電力を吸収する吸収抵抗器が設けられ、この吸収抵抗器における第1増幅器側の吸収電力と第2増幅器側の吸収電力とを検出し、2つの増幅器による増幅信号の振幅、位相が同一になるよう制御する制御信号を第1補正保護回路と第2補正保護回路とに出力する制御部とが設けられた高周波電力増幅器が知られている。(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−129426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、近年の無線通信システムでは、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)やQAM(Quadrature Amplitude Modulation)等の変調方式が用いられており、時間とともに高周波変調信号の振幅(包絡線)が変化する。このような高周波変調信号を高い線形性で増幅するためには、ピーク電力で波形が歪まないように、増幅器を電源電圧によって制限される飽和出力電力よりも十分に低い電力領域で余裕(バックオフ)を持って動作させる必要がある。
【0013】
しかしながら、従来の平衡増幅器のように、AB級にバイアスされた増幅器で高周波信号を増幅する増幅方式では、バックオフが大きい電力領域で動作させると電力変換効率が低下する。
【0014】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、高効率で増幅を行うとともに、合成損失を最小限に抑えることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の増幅装置は、複数の増幅器の出力を合成して出力する平衡増幅回路で増幅を行う増幅装置であって、前記合成される信号の一方又は両方を所定の補正特性で補正する補正手段と、前記複数の増幅器の出力信号を合成する合成器と、前記合成器の終端抵抗に現れる誤差信号を取り出す検出手段と、前記増幅装置への入力信号の包絡線信号と前記誤差信号とに基づいて、前記包絡線信号のレベル毎に前記誤差信号が最小となるように更新する前記補正特性で前記補正手段を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高効率で増幅を行うとともに、合成損失を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る実施形態1の増幅装置Xの構成を示す回路図である。
【図2】本発明に係る実施形態1の主増幅器16−1、16−2の振幅、位相特性の一例である。
【図3】本発明に係る実施形態1の包絡線信号の振幅に対する誤差信号の振幅をプロットした一例である。
【図4】本発明に係る実施形態1の振幅補正値の特性を示す一例である。
【図5】本発明に係る実施形態1の位相補正値の特性を示す一例である。
【図6】本発明に係る実施形態1の図3に示す誤差情報を図4の振幅補正特性や図5の位相補正特性の代表点に対応する区間に分割した図である
【図7】本発明に係る実施形態1の位相・振幅を補正する流れを示すフローチャートである。
【図8】本発明に係る実施形態2の増幅装置Yの構成を示す回路図である。
【図9】従来の平衡増幅器Zの構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施形態1>
本実施形態の増幅装置Xは、入力信号の包絡線信号に複数の増幅器の電源電圧を追従させて入力信号を増幅させるとともに、各増幅器の増幅信号を合成する際の合成損失を最小限に抑えるよう増幅器の振幅、位相特性を制御している。つまり、各増幅器は、ET(Envelop Tracking)方式や、EER(Envelope Elimination and Restoration)方式で構成されてもよい。以下、図を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
図1は、本実施形態の増幅装置Xの構成を示す回路図である。本実施形態において、従来の平衡増幅器Zと同様の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、従来の平衡増幅器Zの構成に対し、新たにデジタル信号処理部11と周波数変換部12と振幅補正回路13と位相補正回路14と包絡線増幅器15−1、15−2と制御部17と検波器18と方向性結合器19とが追加されている。
【0020】
デジタル信号処理部11は、入力信号(ベースバンド信号)から包絡線信号を作成し、制御部17と包絡線増幅器15−1、15−2に出力する。包絡線増幅器15−1、15−2は、包絡線信号を増幅し、主増幅器16−1、16−2の電源端子に入力して包絡線に沿って電源電圧を制御する。
【0021】
また、デジタル信号処理部11は、入力信号に直交変調をかけてIF信号に変換する。デジタル信号処理部11は、主増幅器16−1、16−2の非線形歪を補償するため、IF信号にDPD(Digital Pre-Distortion)処理を行う。デジタル信号処理部11は、DPD処理を施したIF信号をもう1つの出力端子から周波数変換部12に出力する。
【0022】
周波数変換部12は、IF信号をRF信号に変換し、分配器91に出力する。分配器91は、RF信号を2分配し、それぞれを振幅補正回路13と主増幅器16−2とに出力する。ここで、主増幅器16−2に出力されるRF信号は、振幅補正回路13に出力されるRF信号に対し位相が90°遅れている。
【0023】
振幅補正回路13は、制御部17によって設定される振幅補正特性に従って、分配器91から出力されるRF信号の振幅を補正して位相補正回路14に出力する。位相補正回路14は、制御部17によって設定される位相補正特性に従って、振幅補正回路13から出力されるRF信号の位相を補正して主増幅器16−1に出力する。振幅補正回路13と位相補正回路14とは、可変減衰器や可変位相器を用いればよく、RF回路として一般的なものである。
【0024】
主増幅器16−1、16−2は、入力されるRF信号を増幅し、それぞれ合成器93に出力する。主増幅器16−1、16−2は、入力されるRF信号の包絡線に沿って電源電圧が変動するため、常に効率が最大となる飽和出力電力付近で動作する。これにより、高効率な電力増幅器の実現を可能としている。
【0025】
合成器93は、主増幅器16−1、16−2から出力されるRF信号を合成して出力する。このとき、合成器93は、主増幅器16−2から出力されるRF信号に対し、主増幅器16−1から出力されるRF信号の位相を90°遅らせて同相合成する。しかしながら、この合成の際に、種々の要因により主増幅器16−1の振幅・位相特性と主増幅器16−2の振幅・位相特性とが異なると、合成器93の終端抵抗930にRF信号が出力され、合成損失が生じる。
【0026】
図2は、主増幅器16−1、16−2における振幅・位相特性の一例であり、図2(a)は、入力振幅に対する主増幅器16−1、16−2の出力振幅を示した図であり、図2(b)は、入力振幅に対する主増幅器16−1、16−2の出力位相を示した図である。図2(a)における振幅特性では横軸が入力振幅、縦軸が出力振幅を示し、図2(b)における位相特性では横軸が入力振幅、縦軸が出力位相を示している。この主増幅器16−1、16−2における振幅・位相特性の差が、合成器93における合成損失とDPDによる歪補償の残留歪として現れる。特に、本実施形態では、増幅効率を向上させるため、主増幅器16−1、16−2に入力されるRF信号の包絡線に沿って電源電圧を制御しているため、主増幅器16−1、16−2の振幅・位相特性のばらつきがAB級にバイアスされた従来の増幅器92−1、92−2と比較して大きくなる。
【0027】
図1に戻り、方向性結合器19は、合成器93の終端抵抗930が接続されている端子に設けられている。主増幅器16−1、16−2の振幅・位相特性に差異がある場合、完全な逆位相にならないため、終端抵抗930が接続された端子にその差異がRF信号として現れる。方向性結合器19は、主増幅器16−1、16−2の振幅・位相特性の差異として現れるRF信号を終端抵抗930から取り出し、この信号を検波器18に検波させて誤差信号を出力させるものである。方向性結合器19はRF回路としては一般的なものなので、具体的な説明は割愛する。
【0028】
検波器18は、方向性結合器19から出力されるRF信号を検波し、振幅情報を誤差信号として制御部17に出力する。検波器18はダイオード検波に代表されるようなRF信号の包絡線を検出する回路であり、一般的なものである。
【0029】
制御部17は、デジタル信号処理部11から取得する包絡線信号の振幅に誤差信号の振幅を対応させ、誤差情報を取得する。なお、このときデジタル信号処理部11から包絡線信号が出力されるまでの遅延時間と、検波器18から誤差信号が出力されるまでの遅延時間とを一致させる必要があるが、本実施形態ではその遅延時間を調整する遅延回路の図示を省略している。図3は、包絡線信号の振幅に対する誤差信号の振幅をプロットしたものであり、制御部17が取得する誤差情報の一例である。図3では、横軸を包絡線振幅、縦軸を誤差振幅で示している。制御部17は、取得した誤差情報に基づいて、主増幅器16−1、16−2における振幅・位相特性の差異が最小になるように、振幅補正回路13と位相補正回路14とを制御する。
【0030】
図3の誤差情報に例示したように、主増幅器16−1、16−2の振幅・位相特性の差異は、包絡線に対して線形であるとは限らず、非線形であることがほとんどである。よって、振幅補正回路13と位相補正回路14も非線形の特性で制御する必要がある。
【0031】
図4は、振幅を補正するための振幅補正回路13に設定される振幅補正値の特性を示す一例であり、横軸を包絡線振幅、縦軸を振幅補正値で示している。ここでは、振幅補正値として、振幅補正特性を近似するための6つの代表点A(1)〜A(6)が包絡線振幅と対応付けられている。各代表点の間は、例えばスプライン補間等の一般的な補間式により非線形に補間されている。振幅補正値と包絡線振幅との対応関係は、例えば不図示のメモリに振幅補正テーブルとして予め記憶されている。制御部17は、補間された振幅補正特性で振幅補正回路13を制御する。
【0032】
また、図5は、位相を補正するための位相補正回路14に設定される位相補正値の特性を示す一例であり、横軸を包絡線振幅、縦軸を位相補正値で示している。振幅補正値と同様に、位相補正値は、位相補正特性を近似するための6つの代表点P(1)〜P(6)が包絡線振幅と対応付けられている。各代表点の間は、一般的な補間式により非線形に補間されている。位相補正値と包絡線振幅との対応関係は、例えば不図示のメモリに位相補正テーブルとして予め記憶されている。制御部17は、補間された位相補正特性で位相補正回路14を制御する。なお、代表点の数は、適宜設定されればよい。振幅補正値についても同様である。
【0033】
制御部17は、誤差情報を取得すると、誤差情報が小さくなるように振幅補正値及び位相補正値を更新し、それぞれに基づく振幅補正特性、位相補正特性で振幅補正回路13と位相補正回路14とを制御する。
【0034】
具体的には、制御部17は、誤差情報を取得すると、図4の振幅補正値や図5の位相補正値の代表点に対応する区間に誤差情報を分割する。図6は、図3に示す誤差情報を図4の振幅補正特性の代表点や図5の位相補正特性の代表点に対応する区間に分割した図である。ここでは、誤差情報は、6つの代表点に対応して6つの区間X1〜X6に分割されている。各区間のE(1)〜E(6)は、それぞれX1〜X6に対応し、各区間内のサンプリングされた誤差が平均化された値である。
【0035】
制御部17は、各区間の平均誤差値E(1)〜E(6)を算出すると、区間X1〜X6のうち平均誤差値が最大の区間に対応する代表点を更新代表点として選択する。例えば、図6に示す誤差情報では、E(6)における誤差の平均が最大になるから、図4において、図6に示すX6の区間に対応するA(6)が振幅補正特性の更新代表点になる。なお、位相補正特性の場合では、図5において、図6に示すX6の区間に対応するP(6)が更新代表点である。制御部17は、誤差の補正結果を確認しながら振幅補正回路13と位相補正回路14とを順に制御する。
【0036】
まず、制御部17は、振幅補正特性の更新代表点に予め設定された振幅補正ステップ(変化量)ΔAを加減算して、振幅補正特性における更新代表点の位置を更新する。制御部17は、更新した更新代表点の位置に合わせて、更新代表点以外の点をスプライン補間などの一般的な補間式により補間する。制御部17は、補間後の振幅補正特性で振幅補正回路13を制御する。言い換えれば、制御部17は、包絡線信号のレベル毎に誤差信号が最小となるように更新する補正特性で振幅補正回路13を制御している。
【0037】
その後、制御部17は、再び誤差情報を取得し、誤差情報を分割した各区間の平均誤差値を算出する。ここで算出した最大平均誤差値が前回算出した最大平均誤差値より小さくなっていれば、主増幅器16−1、16−2の振幅特性による差異が補正されたことになる。逆に、制御部17は、算出した最大平均誤差値が前回算出した最大平均誤差値より大きくなっていれば、位相特性の差異が誤差情報として現れていると考えられるので、今度は同様の処理を位相補正回路14に対して行う。制御部17では、検波器18から出力される誤差信号が振幅情報のみによるものなので、取得できる誤差情報が主増幅器16−1、16−2の振幅特性の差異による誤差なのか位相特性の差異による誤差なのか分からない。そのため、制御部17は、誤差の補正結果を確認しながら振幅補正回路13と位相補正回路14とを順に制御している。
【0038】
より具体的に、図7を参照して、制御部17による振幅補正回路13と位相補正回路14とに対する制御の流れを説明する。なお、本実施形態では、一例として位相補正値、振幅補正値のそれぞれが6つの代表点で構成されることから、以下でnは1〜6の値を取るものとしている。また、以下で、振幅補正値A(n)、位相補正値P(n)、振幅補正ステップΔA、位相補正ステップΔPは予め初期値が設定されているものとする。また、以下において、振幅補正値A(n)、位相補正値P(n)、誤差Eo(n)、補正後誤差E(n)は配列であり、nが1〜6であることから、それぞれの配列の個数が6となっている。
【0039】
まず、ステップS10で、制御部17は、デジタル信号処理部11から取得する包絡線信号の振幅と、検波器18から取得する誤差信号の振幅とを対応させ、誤差情報を取得する。制御部17は、取得した誤差情報を補正特性の代表点に対応する区間に分割して、各区間の誤差を平均化し、各区間の平均誤差をEo(n)にそれぞれ格納する。
【0040】
次にステップS20で、制御部17は、配列Eo(n)から最も平均誤差値が大きいEo(n)を選択し、更新代表点をnとする。
【0041】
続いて、制御部17は、まず、振幅補正回路13を制御し、次に位相補正回路14を制御して誤差の解消を試みる。ステップS30からステップS120までは、振幅補正回路13に対する制御であり、ステップS130からステップS220までが、位相補正回路14に対する制御である。
【0042】
ステップS30で、制御部17は、更新代表点nに対応する振幅補正特性の代表点A(n)を取得し、振幅補正ステップΔAを加算して振幅補正値A(n)を更新する。ステップS40で、制御部17は、更新した振幅補正値A(n)を基に、振幅補正値A(n)以外の点を補間処理により補間する。ステップS50で、制御部17は、補間した振幅補正特性で振幅補正回路13を制御する。
【0043】
次に、ステップS60で、制御部17は、デジタル信号処理部11から取得する包絡線信号と検波器18から取得する誤差信号とに基づいて、再び誤差情報を取得し、誤差情報を分割した各区間の平均誤差値を配列E(n)にそれぞれ格納する。ここで求められた各平均誤差値は、振幅補正後の誤差値である。
【0044】
ステップS70で、制御部17は、補正後の誤差値E(n)と前回の誤差値Eo(n)とを比較する。なお、ここで比較される誤差値は、更新代表点に対応する誤差値同士でもよいし、予め設定されたn番目の誤差値同士でもよいし、各誤差値同士がそれぞれ比較されてもよい。
【0045】
制御部17は、ステップS70でNoの場合、すなわち、補正後の誤差値が前回の誤差値より大きければ誤差値が改善していないので、ステップS80に進み、振幅補正ステップΔAの極性を変えて(ΔAに‘−1’を乗算して)、ステップS90に進む。ここで再び誤差情報が大きくなった理由として、振幅補正回路13に対する制御の極性が違った可能性がある。そのため、制御部17が、ΔAの極性を逆にして改めて振幅補正回路13を制御したときに補正後の誤差値が小さくなれば、主増幅器16−1、16−2の振幅特性による差異を補償できたことになる。
【0046】
ステップS70でYesの場合、すなわち、補正後の誤差値が前回の誤差値より小さければ誤差値が改善しているので、制御部17はステップS90に進み、前回の平均誤差情報Eo(n)を補正後の平均誤差情報E(n)で置き換える。ステップS100で、制御部17は、更新回数Nをインクリメントする。
【0047】
ステップS110で、制御部17は、更新回数Nが予め決められた規定更新回数Nmを超えるまで、ステップS30からステップS110までを繰り返す。制御部17は、ステップS110においてYesの場合、すなわち、規定更新回数Nmを更新回数Nが超えれば、ステップS120に進み、更新回数Nをクリアする。
【0048】
続くステップS130以降では、制御部17は、位相補正回路14に対する制御を行う。位相補正回路14に対しても、振幅補正回路13に対するものと同様に制御される。まず、ステップS130で、制御部17は、ステップS20で決定した更新代表点nに対応する位相補正値の代表点P(n)を取得し、予め設定された位相補正ステップΔPを加算して位相補正値P(n)を更新する。ステップS140で、制御部17は、更新した位相補正値P(n)を基に、位相補正値P(n)以外の点を補間処理により補間する。ステップS150で、制御部17は、補間された位相補正特性で位相補正回路14を制御する。
【0049】
ステップS160で、制御部17は、デジタル信号処理部11から取得する包絡線信号と検波器18から取得する誤差信号とに基づいて、再び誤差情報を取得し、誤差情報を分割した各区間の平均誤差値を配列E(n)にそれぞれ格納する。ここで求められた各平均誤差値は、位相補正後の誤差値である。
【0050】
ステップS170で、制御部17は、補正後の誤差値E(n)と前回の誤差値Eo(n)とを比較する。比較対象とする誤差値は適宜設定されればよい。
制御部17は、ステップS170でNoの場合、すなわち、補正後の誤差値が前回の誤差値より大きければ誤差値が改善していないので、ステップS180に進み、位相補正ステップΔPの極性を変えて(ΔPに‘−1’を乗算して)、ステップS190に進む。振幅補正回路13に対する制御の場合と同様に、位相補正回路14に対する制御の極性が逆である可能性があるからである。
【0051】
ステップS170でYesの場合、すなわち、補正後の誤差値が前回の誤差値より小さければ誤差値が改善しているので、制御部17はステップS190に進み、前回の平均誤差情報Eo(n)を補正後の平均誤差情報E(n)に置き換える。ステップS200で、制御部17は、更新回数Nをインクリメントする。
【0052】
ステップS210で、制御部17は、更新回数Nが予め決められた規定更新回数Nmを超えるまで、ステップS130からステップS210までを繰り返す。制御部17は、ステップS210においてYesの場合、すなわち、規定更新回数Nmを更新回数Nが超えれば、ステップS220に進み、更新回数Nをクリアして、ステップS10に戻る。
【0053】
以上のような流れで、制御部17は、取得する誤差情報に基づいて振幅補正値と位相補正値とを更新し、振幅補正回路13と位相補正回路14とを順に制御する。制御部17は、更新後の補正値で振幅補正回路13と位相補正回路14とを制御した結果、補正後の誤差が補正前の誤差より改善すれば更に振幅補正回路13や位相補正回路14に対する制御量を増やして、誤差がゼロに近づくよう制御している。このように、制御部17は、振幅補正回路13と位相補正回路14とにおける補正特性を更新することにより、主増幅器16−1、16−2間の振幅・位相特性の差異を最小限に抑えることが可能となり、合成器93による合成損失を減らすことができる。また、これに伴い、制御部17は、誤差信号の中に含まれるDPD処理の残留歪をも補正することになるので、デジタル信号処理部11のDPD処理による歪補償性能を向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態により、増幅装置の電力効率を改善することができるので、電力損失によって発生する熱を放熱するための放熱フィンを小さくすることができ、増幅装置を搭載する送信装置の体積・重量を減らして小型・軽量化できるので、設置場所の制約や据付コストを低減させることができる。
【0055】
また、制御部17は、取得した誤差情報を補正特性の代表点に対応する区間に分割し、区間内の平均誤差値が最大となる区間に対応する代表点を更新代表点として選択している。制御部17は、更新代表点に予め設定された補正ステップを加減算して更新代表点を更新し、更新代表点以外の点を補間処理により更新することで、最も誤差を生じている区間の補正特性を重点的に更新でき、効率的に誤差を解消することができる。なお、上記では、補正ステップであるΔAやΔPを固定値としたが、誤差の大きさにより適応的に変えてもよい。
【0056】
また、本実施形態における制御部17の各種処理は、制御部17がROM(Read Only Memory)に格納された制御プログラムを実行することにより制御される構成が用いられてもよく、また、例えば当該処理を実行するための各機能手段が独立したハードウエア回路として構成されてもよい。
【0057】
なお、本実施形態では、振幅補正回路13の後段に位相補正回路14を配置しているが、振幅補正回路13と位相補正回路14の順番を逆にしてもよい。また、包絡線増幅器15−1、15−2も主増幅器16−1、16−2に対してそれぞれ設置したが、一つの包絡線増幅器からの出力を分配してそれぞれの主増幅器16−1、16−2に入力してもよい。また、本実施形態では、振幅補正回路13と位相補正回路14とを主増幅器16−1の入力側に挿入したが、主増幅器16−1の出力側に挿入してもよく、また、主増幅器16−2の入力側、又は出力側に挿入してもよく、あるいは、主増幅器16−1、16−2のそれぞれの入力側、または、出力側の両方に挿入してもよい。
【0058】
<実施形態2>
図8に実施形態2の増幅装置Yの構成を示す。図1の実施形態1の増幅装置Xとの違いは、振幅補正回路23が包絡線増幅器15−1の入力側に挿入している点である。ET方式やEER方式では主増幅器16−1、16−2の電源電圧を制御する方式であるが、この電源電圧の制御に振幅補正回路23を追加することにより、振幅を補正することが可能となる。制御方法などは、実施形態1と同じである。なお、主増幅器16−1の電源電圧を制御する振幅補正回路23のみで十分な振幅補正が行えない場合には、主増幅器16−2の入力側に新たな振幅補正回路を挿入して、振幅補正回路23と新たに挿入した振幅補正回路の両方で振幅補正を行うようにしてもよい。
【0059】
なお、上記実施形態1,2では、2つの主増幅器16−1、16−2の出力電力を合成しているが、3つ以上の増幅器の出力電力を合成してもよく、そのときの振幅補正回路13と位相補正回路14は、合成する増幅器の数より1少ない数を具備してもよく、合成する増幅器と同じ数を具備してもよい。また、実施形態1,2では、振幅補正回路13と位相補正回路14の両方を具備しているが、主増幅器16−1、16−2の振幅特性の差異だけが大きい場合には、振幅補正回路13のみを具備してもよく、また、位相特性の差異だけが大きい場合には、位相補正回路14のみを具備してもよい。
【0060】
以上を概説すると、
(1)本実施形態の増幅装置は、複数の増幅器の出力を合成して出力する平衡増幅回路で増幅を行う増幅装置であって、前記合成される信号の一方又は両方を所定の補正特性で補正する補正手段と、前記複数の増幅器の出力信号を合成する合成器と、前記合成器の終端抵抗に現れる誤差信号を取り出す検出手段と、前記増幅装置への入力信号の包絡線信号と前記誤差信号とに基づいて、前記包絡線信号のレベル毎に前記誤差信号が最小となるように更新する前記補正特性で前記補正手段を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
(2)また、本実施形態の増幅装置は、複数の増幅器の出力を合成して出力する増幅装置であって、所定の補正特性で入力信号を補正する補正手段と、入力信号の包絡線信号で電源電圧が制御される前記複数の増幅器と、前記複数の増幅器の出力信号を合成するハイブリッドカプラと、前記ハイブリッドカプラの終端抵抗に現れる誤差信号を取り出す検出手段と、前記包絡線信号と前記誤差信号とに基づいて前記誤差信号が最小となるように更新する前記補正特性で前記補正手段を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする増幅装置。
(3)前記増幅器は、EER方式又はET方式で構成され、前記補正手段は、前記電源電圧を制御する前記包絡線信号の振幅を補正してもよい。
(4)また、前記制御手段は、複数の位相補正値を非線形に補間した前記補性特性で前記補正手段を制御してもよい。
(5)また、前記制御手段は、複数の振幅補正値を非線形に補完した前記補正特性で前記補正手段を制御してもよい。
(6)また、前記制御手段は、前記包絡線信号と前記誤差信号とに基づいて取得する誤差情報を前記補正特性に対応させ、前記補正特性を近似するための複数の代表補正値の中で、最も誤差量が大きい区間に対応する前記代表補正値を所定の変化量増減させ、他の代表補正値を補完して前記補正特性を更新してもよい。
(7)また、前記補正手段は、前記増幅器の入力信号又は出力信号又はその両方を補正してもよい。
【0061】
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々様々に変更が可能であることは言うまでもない。例えば、本実施形態では、分配器91及び合成器93を90°ハイブリッドカプラにより構成したが、同相合成されれば適宜位相差を変えてもよい。
【符号の説明】
【0062】
11:デジタル信号処理部
12:周波数変換部
13、23:振幅補正回路
14:位相補正回路
15−1、15−2:包絡線増幅器
16−1、16−2:主増幅器
17:制御部
18:検波器
19:方向性結合器
91:分配器
92−1、92−2:増幅器
93:合成器
910、930:終端抵抗
X、Y:増幅装置
Z:平衡増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の増幅器の出力を合成して出力する平衡増幅回路で増幅を行う増幅装置であって、
前記合成される信号の一方又は両方を所定の補正特性で補正する補正手段と、
前記複数の増幅器の出力信号を合成する合成器と、
前記合成器の終端抵抗に現れる誤差信号を取り出す検出手段と、
前記増幅装置への入力信号の包絡線信号と前記誤差信号とに基づいて、前記包絡線信号のレベル毎に前記誤差信号が最小となるように更新する前記補正特性で前記補正手段を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−165124(P2012−165124A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22879(P2011−22879)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】