説明

増幅装置

【課題】誤った遅延調整の実行を抑制させることで、歪補償性能の劣化を防止するようにした増幅装置を提供する。
【解決手段】入力信号を増幅器2により増幅する増幅装置において、入力信号を遅延させる遅延部3と、遅延された入力信号と増幅器1の出力を帰還させた帰還信号に基づいて、増幅器1による増幅において発生する歪を補償するための補正情報を作成する歪補償制御部4と、入力信号に対して補正情報に基づく歪補償処理を施す歪補償部1と、遅延された入力信号と帰還信号について、各信号の波形のずれの程度が小さくなるように遅延部3の遅延量を調整する遅延調整部5、入力信号に周波数成分が所定の低さの波形の区間が含まれることを検出し、当該区間についての各信号を遅延調整部5による調整に用いないように制御するバースト信号検出部6、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動通信用の基地局装置で使用される増幅装置に関し、特に、送信信号の増幅において増幅回路で発生する歪を補償する機能を備えた増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動通信システムの基地局装置では、送信対象となる信号を増幅装置に入力して増幅することが行われる。また、増幅装置では、入力された信号のレベルなどに応じて非線形歪が発生するため、例えば、プリディストーション方式により当該歪を補償することが行われる。
【0003】
プリディストーション方式の歪補償機能付き増幅装置では、例えば、入力信号を偶数乗した結果の時間的な差を用いて増幅器のメモリ効果に起因して発生する歪成分を補償する。一例として、入力信号を偶数乗する機能と、偶数乗結果の信号を遅延させる機能と、偶数乗結果の信号と遅延信号との差を検出する機能と、検出結果の信号と入力信号とを乗算する機能と、当該乗算結果の信号と歪補償係数とを乗算する機能と、入力信号と当該乗算結果の信号とを加算する機能と、を用いて構成される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図2には、従来の増幅装置の構成例を示してある。
本例の増幅装置は、歪補償部11、増幅器12、遅延部13、歪補償制御部14、遅延調整部15を有する。
遅延部13は、入力信号(例えば、送信信号)を遅延させる。
歪補償制御部14は、遅延部13により遅延された入力信号と増幅器12の出力を帰還させた帰還信号を取得して、増幅器12による増幅において発生する非線形歪を補償するための補正情報を作成し、歪補償部11に設定する。
歪補償部11は、歪補償制御部14により設定された補正情報に基づいて、入力信号に対して歪補償処理を施し、歪補償後の入力信号を増幅器12へ出力する。
増幅器12は、歪補償部11から入力される歪補償後の入力信号を増幅して出力する。
遅延調整部15は、遅延部13により遅延された入力信号と増幅器12の出力を帰還させた帰還信号について、各信号の波形のずれの程度を表す誤差値が小さくなるように、遅延部13による遅延量を調整する。
【0005】
遅延調整部15による遅延調整について、より具体的に説明する。
遅延調整部15は、現在保持している遅延量(遅延調整処理を行う時点における遅延量)に所定の調整範囲値(range)(例えば、15サンプル)を加えた遅延量を遅延部13に設定した後、入力信号の振幅情報と帰還信号の振幅情報を所定のサンプル数(smp)(例えば、1024サンプル)の区間において取得し、(式1)により、帰還信号の平均振幅レベルを入力信号の平均振幅レベルに合わせる(レベル補正する)。
【0006】
【数1】

(式1)において、FB_Ri’は、レベル補正後の帰還信号の振幅情報である。
また、FB_Ri,FB_Rjは、帰還信号の振幅情報である。
また、Tx_Rjは、送信信号の振幅情報である。
【0007】
以降の処理は、レベル補正後の帰還信号の振幅情報を用いる。
遅延調整部15は、(式2)により、各入力信号の振幅情報と帰還信号の振幅情報との差を2乗して累加算した値を誤差値(各信号の波形のずれの程度を表す値)として算出する。
【数2】

(式2)において、Errは、誤差値である。
また、FB_Riは、帰還信号の振幅情報である。
また、Tx_Riは、送信信号の振幅情報である。
【0008】
ここで、遅延調整部15は、(式2)のoffsetを0から(range*2+1)まで変化させて各offsetについて誤差値を算出し、誤差値が最小となる遅延量を求める。そして、誤差値が最小の遅延量を複数回(例えば、4回)算出し、当該算出した最小の遅延量が全て±1サンプルに収まっていた場合に、現在保持している遅延量に最も近い遅延量を入力信号と帰還信号間の遅延量とする。なお、前記算出した最小の遅延量のうち、どれか1つでも±1サンプルに収まっていない場合には、遅延調整をやり直す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−219167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した手法による遅延調整に関し、図3に例示するような、比較的高い周波数成分の波形を有する信号を用いて遅延調整を行えば、遅延量を適切に算出することができる。
これに対し、図4に示すような、比較的低い周波数成分の波形を有する信号(例えば、バースト信号)を用いて遅延調整を行うと、送信信号の振幅情報を数サンプルずらしても誤差値の変化が乏しく、遅延量を誤って算出してしまう場合がある。そして、遅延量が誤った状態で歪補償制御部14を動作させると、歪補償制御部14は適切な補正情報を作成できず、この結果、増幅器12で発生する歪が増大することになる。
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて為されたものであり、誤った遅延調整の実行を抑制させることで、歪補償性能の劣化を防止するようにした増幅装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明では、増幅装置を以下のように構成した。
すなわち、入力された信号を増幅器により増幅する増幅装置において、前記入力された信号を遅延させる遅延手段と、前記遅延手段により遅延された信号と前記増幅器の出力を帰還させた信号に基づいて、前記増幅器による増幅において発生する歪を補償する歪補償手段と、前記遅延手段により遅延された信号と前記増幅器の出力を帰還させた信号について、各信号の波形のずれの程度を表す誤差値が小さくなるように、前記遅延手段による遅延量を調整する遅延調整手段と、前記入力された信号に、周波数成分が所定の低さの波形の区間が含まれることを検出する検出手段と、前記検出手段により周波数成分が所定の低さの波形の区間が検出された場合に、当該区間についての前記遅延された信号と前記帰還させた信号を前記遅延調整手段による調整に用いないように制御する制御手段と、を備えた。
【0013】
また、一構成例として、前記検出手段は、検出処理の対象の区間において、前記入力された信号を第1の遅延量分ずらした信号と前記増幅器の出力を帰還させた信号についての誤差値と、前記入力された信号を第2の遅延量分ずらした信号と前記増幅器の出力を帰還させた信号についての誤差値を算出し、これらの誤差値の差分が閾値以下の場合に、前記対象の区間を周波数成分が所定の低さの波形の区間と判定する。
ここで、周波数成分が所定の低さの波形の区間としては、例えば、バースト信号の区間が該当する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る増幅装置によれば、周波数成分が所定の低さの波形部分を用いた遅延調整の実行が抑制されるため、遅延量の誤調整に起因する歪補償性能の劣化を防止することが可能になる、
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例に係る増幅装置の構成例を示す図である。
【図2】従来の増幅装置の構成例を示す図である。
【図3】比較的高い周波数成分の波形を有する送信信号及びその帰還信号を対比して例示する図である。
【図4】比較的低い周波数成分の波形を有する送信信号及びその帰還信号を対比して例示する図である。
【図5】図3の送信信号を10サンプルずらしたときの様子を例示する図である。
【図6】図4の送信信号を10サンプルずらしたときの様子を例示する図である。
【図7】誤差値ErrAと誤差値ErrBの差分について説明する図である。
【図8】バースト信号について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施例について図面を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施例に係る増幅装置の構成例を示してある。
本例の増幅装置は、歪補償部1、増幅器2、遅延部3、歪補償制御部4、遅延調整部5、バースト信号検出部6を有する。
なお、本例の増幅装置における歪補償部1、増幅器2、遅延部3、歪補償制御部4、遅延調整部5は、図2の増幅装置における歪補償部11、増幅器12、遅延部13、歪補償制御部14、遅延調整部15と同様であるためその説明を省略し、バースト信号検出部6について主に説明する。
【0017】
バースト信号検出部6の説明に先立ち、本発明の背景について説明しておく。
図4に例示したような比較的低い周波数成分の波形(遅延調整が誤る場合の波形)を有する入力信号を10サンプル分ずらすと、図6に例示するような波形となる。そして、図6の各信号について(式2)を用いて算出される誤差値(入力信号の波形と帰還信号の波形とのずれの程度を表す値)は、図4の各信号について(式2)を用いて算出される誤差値とほぼ等しい値となる。
【0018】
これに対し、図3に例示したような比較的高い周波数成分の波形(遅延調整が誤らない場合の波形)を有する入力信号を10サンプル分ずらすと、図5に例示するような波形となる。そして、図5の各信号について(式2)を用いて算出される誤差値は、図3の各信号について(式2)を用いて算出される誤差値に比べて比較的大きい値なる。
【0019】
このように、遅延調整を誤るときの波形(比較的低い周波数成分の波形)は入力信号をずらしても誤差値の変化が乏しいのに対し、遅延調整を誤らないときの波形(比較的高い周波数成分の波形)は入力信号をずらすと誤差値が大きくなるという特徴に着目し、本例の増幅装置では下記のようなバースト信号検出部6を追加することで、遅延調整を誤る可能性がある波形を効果的に検出し、当該波形を用いた遅延調整を行わないようにした。
【0020】
バースト信号検出部6は、まず、遅延部3により遅延された入力信号(例えば、送信信号)の振幅情報と増幅器2の出力を帰還させた帰還信号の振幅情報を所定のサンプル数(例えば、1024サンプル)の区間において取得し、(式1)により、帰還信号の平均振幅レベルを入力信号の平均振幅レベルに合わせる(レベル補正する)。
以降の処理は、レベル補正後の帰還信号の振幅情報を用いる。
【0021】
バースト信号検出部6は、(式2)のoffsetがrangeの場合(第1の遅延量分ずらした場合)の誤差値ErrAと、(式2)のoffsetが(range*2+1)の場合(第2の遅延量分ずらした場合)の誤差値ErrBとを算出する。ここで、rangeは、遅延調整部5が現在保持している遅延量(遅延調整処理を行う時点における遅延量)に加える所定の調整範囲値であり、例えば15サンプルが用いられる。
【0022】
その後、バースト信号検出部6は、上記算出したErrAとErrBについて、(式3)を満たすか否か判定する。
【数3】

【0023】
(式3)を満たさなかった場合(すなわち、各誤差値の差分が閾値(Threshold)以下の場合)には、当該区間の入力信号及び帰還信号を、遅延調整を誤る可能性がある信号として検出し、遅延調整部5による調整に用いないように制御する(本例では、遅延調整部5に渡さずに破棄する)。
一方、(式3)を満たした場合(すなわち、各誤差値の差分が閾値より大きい場合)には、当該区間の入力信号及び帰還信号を遅延調整部5に渡して遅延調整を行わせる。
【0024】
遅延調整部5は、バースト信号検出部6から渡された入力信号及び帰還信号を用いて、従来と同様な遅延調整を行う。
すなわち、遅延調整部5は、(式2)のoffsetを0から(range*2+1)まで変化させて各offsetについて誤差値を算出し、誤差値が最小となる遅延量を求める。そして、誤差値が最小の遅延量を複数回(例えば、4回)算出し、当該算出した最小の遅延量が全て±1サンプルに収まっていた場合に、現在保持している遅延量に最も近い遅延量を入力信号と帰還信号間の遅延量とする。なお、前記算出した最小の遅延量のうち、どれか1つでも±1サンプルに収まっていない場合には、遅延調整をやり直す。
【0025】
このように、本例では、入力信号の波形と帰還信号の波形との誤差値を、入力信号のずらし量(遅延量)を異ならせてそれぞれ算出し、各誤差値の差分の大きさから周波数成分がどの程度かを調べ、周波数成分が所定の低さの波形であれば、これを遅延調整に用いないようにした。この結果、遅延量を誤って調整することを防止でき、誤調整に起因する歪補償性能の劣化が防止される。
【0026】
誤差値ErrAと誤差値ErrBの差分について、図7を参照して説明する。
図7(a)には、比較的低い周波数成分の波形について(式2)により算出した誤差量を例示してあり、図7(b)には、比較的高い周波数成分の波形について(式2)により算出した誤差量を例示してある。なお、図7(a)、(b)のグラフにおいて、横軸は遅延量[サンプル]を表しており、縦軸は誤差量を表している。
ここで、遅延量が0サンプルの場合の誤差値をErrA、遅延量が−10サンプルの場合の誤差値をErrBとすると、図7(a)の例では、誤差値ErrA=4500、誤差値ErrB=9500となり、これら誤差値の差分=5000となる。一方、図7(b)の例では、誤差値ErrA=50000、誤差値ErrB=1500000となり、これら誤差値の差分=1450000となる。そこで、本例では、(式3)により比較的低い周波数成分の波形を除外するために、例えば、Threshold=100000を設定する。
比較的低い周波数成分の波形としては、概ね、60kHzの信号波形が該当する。
【0027】
遅延調整に用いないように除外する波形(周波数成分が所定の低さの波形)の区間を検出する基準となる閾値(Threshold)は、試験などにより予め算出されて設定される。そのような波形の信号としては、例えば、バースト信号が挙げられる。バースト信号とは、図8に例示するように、通常の信号に小さいレベルが数十[μs]続くような振幅を含む信号のことをいう。なお、図8のグラフにおいて、横軸は時間を表しており、縦軸は振幅を表している。
【0028】
なお、運用上での遅延調整を考慮しなければ、製品製造時に装置上の遅延量を事前に調整して遅延量を固定的に設定すればよい。しかしながら、そのような運用では、経時変化や温度変化などに対応することができない。したがって、経時変化や温度変化などを考慮して最適化を行いたい場合には、本例のように運用上での遅延調整が必要となる。また、本例の増幅装置によれば、運用上で自動調整を行えるため、製品出荷時の調整も不要であり、ST削減を期待できる。
【0029】
ここで、本例の増幅装置では、遅延部3の機能により遅延手段が構成され、歪補償部1及び歪補償制御部4の機能により歪補償手段が構成され、遅延調整部5の機能により遅延調整手段が構成され、バースト信号検出部6の機能により検出手段及び制御手段が構成されている。
【0030】
また、本発明に係るシステムや装置などの構成としては、必ずしも以上に示したものに限られず、種々な構成が用いられてもよい。また、本発明は、例えば、本発明に係る処理を実行する方法或いは方式や、このような方法や方式を実現するためのプログラムや当該プログラムを記録する記録媒体などとして提供することも可能であり、また、種々なシステムや装置として提供することも可能である。
また、本発明の適用分野としては、必ずしも以上に示したものに限られず、本発明は、種々な分野に適用することが可能なものである。
また、本発明に係るシステムや装置などにおいて行われる各種の処理としては、例えばプロセッサやメモリ等を備えたハードウェア資源においてプロセッサがROM(Read Only Memory)に格納された制御プログラムを実行することにより制御される構成が用いられてもよく、また、例えば当該処理を実行するための各機能手段が独立したハードウェア回路として構成されてもよい。
また、本発明は上記の制御プログラムを格納したフロッピー(登録商標)ディスクやCD(Compact Disc)−ROM等のコンピュータにより読み取り可能な記録媒体や当該プログラム(自体)として把握することもでき、当該制御プログラムを当該記録媒体からコンピュータに入力してプロセッサに実行させることにより、本発明に係る処理を遂行させることができる。
【符号の説明】
【0031】
1,11:歪補償部、 2,12:増幅器、 3,13:遅延部、 4,14:歪補償制御部、 5,15:遅延調整部、 6:バースト信号検出部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された信号を増幅器により増幅する増幅装置において、
前記入力された信号を遅延させる遅延手段と、
前記遅延手段により遅延された信号と前記増幅器の出力を帰還させた信号に基づいて、前記増幅器による増幅において発生する歪を補償する歪補償手段と、
前記遅延手段により遅延された信号と前記増幅器の出力を帰還させた信号について、各信号の波形のずれの程度を表す誤差値が小さくなるように、前記遅延手段による遅延量を調整する遅延調整手段と、
前記入力された信号に、周波数成分が所定の低さの波形の区間が含まれることを検出する検出手段と、
前記検出手段により周波数成分が所定の低さの波形の区間が検出された場合に、当該区間についての前記遅延された信号と前記帰還させた信号を前記遅延調整手段による調整に用いないように制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする増幅装置。
【請求項2】
請求項1に記載の増幅装置において、
前記検出手段は、検出処理の対象の区間において、前記入力された信号を第1の遅延量分ずらした信号と前記増幅器の出力を帰還させた信号についての誤差値と、前記入力された信号を第2の遅延量分ずらした信号と前記増幅器の出力を帰還させた信号についての誤差値を算出し、これらの誤差値の差分が閾値以下の場合に、前記対象の区間を周波数成分が所定の低さの波形の区間と判定する、
ことを特徴とする増幅装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の増幅装置において、
周波数成分が所定の低さの波形の区間は、バースト信号の区間である、
ことを特徴とする増幅装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−58888(P2013−58888A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195654(P2011−195654)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】