説明

増粘剤およびその製造方法

【課題】 従来の人工大理石の機械強度、耐久性を維持したまま、製造コストを削減させるシラップの増粘剤を提供する。
【解決手段】 メタクリル酸メチル単量体単位99〜80wt%及び少なくとも1種のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位1〜20wt%を含むメタクリル樹脂であって、該メタクリル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が100,000〜400,000であり、GPC溶出曲線から得られるピーク重量平均分子量(Mp)の1/5以下の重量平均分子量成分が該メタクリル樹脂成分に対し8〜30%含まれているメタクリル樹脂からなることを特徴とする増粘剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は従来の人工大理石の機械強度、耐久性を維持したまま、製造コストを削減させたシラップの増粘剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、人工大理石はシラップにシリカや水酸化アルミニウムを添加して加熱重合して得られる。シラップとしてはメタクリル酸メチルにメタクリル樹脂を溶かした液を使用している。メタクリル樹脂は、シラップの粘度を高くして取り扱いを容易にする増粘剤として溶かされている。メタクリル樹脂の分子量が高いほど増粘効果が高い為、150,000〜200,000程度の高分子量の耐溶剤メタクリル樹脂グレードが採用されている場合が多い。しかし、メタクリル樹脂はメタクリル酸メチルに容易に溶けないため、熱を加えながら数時間かけて溶かしている。そのため、人工大理石の作成時間が長くなり、製造コストを押し上げている。従来の人工大理石の耐熱性や機械強度を維持しながら、製造コストの低いシラップが望まれている。
【0003】
メタクリル樹脂の機械強度や成形性を改善する公知の方法として、低分子量のメタクリル樹脂で流動性を付与し、高分子量もしくは微架橋構造で機械強度を付与する方法が知られている。溶解特性は成形性が高いほど良好と考えられる為、成形性を溶解特性と同じ傾向の項目とした。(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0004】
特許文献1に記載のメタクリル樹脂は、分子量が少ないため、シラップ粘度が低くなってしまう。シラップ粘度を合わせるにはメタクリル樹脂の量を増やす必要があり、好ましくない。また、特許文献2に記載のメタクリル樹脂は、重合体(1)のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の組成比率が、重合体(2)のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の組成比率より多い。重合体(2)のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の組成比率が少ないと、溶解特性が低下することが予想されるため、好ましくない。特許文献3に記載のメタクリル樹脂は、シラップにメタクリル樹脂を添加して作製するプリミックスの外観改善に関する特許で、シラップの増粘剤に関する特許ではない。また、シラップに溶かすメタクリル樹脂は一段での重合品であり、分子量分布が広くないため、好ましくない。
【特許文献1】特開平1−22865号公報
【特許文献2】特開2004−339442号公報
【特許文献3】特開平9−111085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、メタクリル酸メチルに溶けやすく、かつシラップに所定の粘度を付与することができるメタクリル樹脂からなるシラップの増粘剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、従来の人工大理石の機械強度、耐久性を維持したまま、製造コストを削減させる増粘剤およびその製造方法を見出した。
【0007】
すなわち本発明の第一は、メタクリル酸メチル単量体単位99〜80wt%及び少なくとも1種のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位1〜20wt%を含むメタクリル樹脂であって、該メタクリル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が100,000〜400,000であり、GPC溶出曲線から得られるピーク重量平均分子量(Mp)の1/5以下の重量平均分子量成分が該メタクリル樹脂成分に対し8〜30%含まれているメタクリル樹脂からなることを特徴とする増粘剤である。
【0008】
本発明の第二は、上記メタクリル樹脂の平均粒径が0.05〜0.5mmであるメタクリル樹脂であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnが式(1)の関係であるメタクリル樹脂からなることを特徴とする前記第一に記載の増粘剤である。 Mw/Mn≧2.3・・・・・・・・・・(1)
【0009】
本発明の第三は、上記メタクリル樹脂のGPC溶出曲線における累積エリア面積(%)が0〜2%にある重量平均分子量成分を有するメタクリル樹脂中のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Mh(wt%)と累積エリア面積(%)が98〜100%にある重量平均分子量成分を有するメタクリル樹脂中のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Ml(wt%)が式(2)の関係であるメタクリル樹脂からなることを特徴とする前記第一又は第二に記載の増粘剤である。
(Mh−0.8)≧Ml≧0・・・・・・・・・(2)
【0010】
本発明の第四は、前記第一記載のメタクリル樹脂からなる増粘剤の製造方法であって、まずメタクリル酸メチル単量体70〜100wt%とメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体30〜0wt%を重合してゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平分均子量が10,000〜50,000である重合体(1)を該メタクリル樹脂全体に対し7〜30wt%となるように重合した後、重合体(1)の存在下で重合を継続して重量平均分子量が110,000〜600,000である重合体(2)を該メタクリル樹脂全体に対し93〜70wt%となるように重合することを特徴とするメタクリル樹脂からなる増粘剤の製造方法である。
【0011】
本発明の第五は、上記メタクリル樹脂の重量平均分子量が100,000〜400,000で、平均粒径が0.05〜0.5mmであるメタクリル樹脂からなることを特徴とする前記第四に記載の増粘剤の製造方法である。
【0012】
本発明の第六は、上記重合体(1)のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の組成比率Mal(wt%)と重合体(2)のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の組成比率Mah(wt%)が式(3)の関係を有するメタクリル樹脂からなることを特徴とする前記第四又は第五に記載の増粘剤の製造方法である。
(Mah−0.8)≧Mal≧0・・・・・・・・・・・・・・(3)
【発明の効果】
【0013】
本発明による増粘剤は、従来の人工大理石の機械強度、耐久性を維持したまま、メタクリル酸メチルへの溶解特性に優れ、短時間でシラップを製造することができ、シラップの生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明におけるシラップの増粘剤であるメタクリル樹脂は、メタクリル酸メチル単量体、および/又はメタクリル酸メチル単量体とメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される。
【0015】
メタクリル酸メチルのメタクリル樹脂における含有量は99〜80wt%が良い。99wt%より多いと耐熱性が必要以上に向上して溶解特性が悪くなり、好ましくない。また、80wt%より少ないと機械強度が低下する為、好ましくない。好ましくは、耐熱性と溶解特性から99〜85wt%が好ましい。さらに好ましくは93〜90wt%である。
メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体としては、
アルキル基の炭素数が2〜18のメタクリル酸アルキル、アルキル基の炭素数が1〜18のアクリル酸アルキル;
アクリル酸やメタクリル酸等のα,β−不飽和酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸及びそれらのアルキルエステル;
スチレン、α−メチルスチレン、ベンゼン環に置換基を有するスチレン等の芳香族ビニル化合物;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;
無水マレイン酸、マレイミド、N−置換マレイミド等;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のエチレングリコール又はそのオリゴマーの両末端水酸基をアクリル酸またはメタクリル酸でエステル化したもの;
ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレート等の2個のアルコールの水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;
トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール誘導体をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;
ジビニルベンゼン等の多官能モノマー等;
が挙げられ、これらは、単独或いは2種類以上を併用して用いることが出来る。これらの中でも、耐光性、熱安定性、耐熱性、流動性の観点から、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が好ましく用いられる。アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチルが特に好ましくさらにはアクリル酸メチルが入手しやすく最も好ましい。
【0016】
メタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体は、溶解特性と耐熱性に影響を与える。その含有量は、メタクリル樹脂に対して1〜20wt%である。溶解特性の観点から1wt%以上が好ましい。また、機械強度の観点から20%以下が好ましい。より好ましくは1〜15wt%である。さらに好ましくは3〜10wt%である。
【0017】
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量は100000〜400000が好ましい。人工大理石の機械強度及び使用樹脂量の観点から100000以上が良い。100000以下ではシラップの粘度を高めるためにメタクリル樹脂の使用量が増えるため好ましくない。また重合の安定生産の観点から400000以下が好ましい。より好ましくは、150000〜300000である。
【0018】
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnが式(1)を満たす事が好ましい。これはMw/Mn値が大きいほど分子量分布が広くなり、機械強度と溶解特性の両立に有利であるためである。より好ましくは3以上である。さらに好ましくは5以上である。
【0019】
Mw/Mn≧2.3・・・・・・・・・・・・・(1)
本発明で測定される重量平均分子量は、GPCで測定される。あらかじめ、単分散の重量平均分子量が既知である試薬として入手可能な標準メタクリル樹脂と、高分子量成分から溶出される分析ゲルカラムを用い、溶出時間と重量平均分子量から検量線を作成しておく。その検量線から各試料の分子量を測定することが出来る。
【0020】
本発明においては、ピーク重量平均分子量(Mp)とは、GPC溶出曲線においてピークを示す、重量平均分子量を指す。GPC溶出曲線においてピークが複数存在する場合は、存在量が最も多い重量平均分子量が示すピークを指す。
【0021】
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂に存在するピーク重量平均分子量の1/5以下の重量平均分子量である成分は、樹脂の強度、溶解特性に関して重要である。1/5以下の重量平均分子量成分は可塑化効果を有する。この成分の存在量が、該メタクリル樹脂成分に対し8〜30%の範囲にあるときに溶解特性の向上効果が発揮する。溶解性の観点から8%以上である。一方、耐熱性や機械強度、環境試験におけるクラック、そりの点から30%以下である。より好ましくは10〜25wt%である。
【0022】
本発明におけるメタクリル酸メチル単量体に共重合可能な他のビニル単量体は得られるメタクリル樹脂の高分子量成分中の組成比率が低分子量成分中の組成比率に比べて大きいと、耐熱性や環境試験でのクラックやそりといった信頼性や機械強度を維持しながら溶解特性をより向上することができて好ましい。
【0023】
ここでGPC溶出曲線におけるエリア面積とは図1に示す斜線部分を指す。具体的な定め方は次のように行う。まず、GPC測定で得られた溶出時間とRI(示差屈折検出器)による検出強度から得られるGPC溶出曲線1に対し、測定機器により自動で引かれるベースライン2とGPC溶出曲線1が交わる点Aと点Bを定める。点Aは、溶出時間初期のGPC溶出曲線とベースラインとが交わる点である。点Bは、原則として重量平均分子量が500以上でベースラインとGPC溶出曲線が交わる位置とする。もし重量平均分子量が500以上の範囲で交わらなかった場合は重量平均分子量が500の溶出時間のRI検出強度値を点Bとする。点A、B間のGPC溶出曲線と線分ABで囲まれた斜線部分がGPC溶出曲線におけるエリアである。この面積が、GPC溶出曲線におけるエリア面積である。本願では高分子量成分から溶出されるカラムを用いるため、溶出時間初期に高分子量成分が観測され、溶出時間終期に低分子量成分が観測される。
【0024】
GPC溶出曲線におけるエリア面積の累積エリア面積(%)は、図1に示す点Aを累積エリア面積(%)の基準である0%とし、溶出時間の終期に向かい、各溶出時間に対応する検出強度が累積して、GPC溶出曲線におけるエリア面積が形成されるという見方をする。累積エリア面積の具体例を図2に示す。この図2において、ある溶出時間におけるベースライン上の点を点X,GPC溶出曲線上の点を点Yとする。曲線AYと、線分AX、線分XYで囲まれる面積の、GPC溶出曲線におけるエリア面積に対する割合を、ある溶出時間での累積エリア面積(%)の値とする。
【0025】
累積エリア面積0〜2%にある重量平均分子量成分を有するメタクリル樹脂中のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率をMh(wt%)とする。一方、累積エリア面積98〜100%、すなわち低分子量を有するメタクリル樹脂中のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成率をMl(wt%)とする。累積エリア面積0〜2%、98〜100%の測定グラフ上での位置の概略図を図3に示す。
【0026】
MhやMlの値はGPCから得られた溶出時間をもとにカラムのサイズに応じ数回もしくは数十回連続分取して、求めることが可能である。分取したサンプルの組成を既知の熱分解ガスクロ法により分析すればよい。
【0027】
本発明におけるMh(wt%)とMl(wt%)には下記の式(2)の関係が成り立つことが好ましい。
【0028】
(Mh−0.8)≧Ml≧0・・・・・・・・・・・・・(2)
これは、低分子量成分より高分子量成分のほうが、メタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成が0.8wt%以上多いことを示す。低分子量成分には他のビニル単量体が必ずしも共重合していなくても良いことを示す。Mh(wt%)とMl(wt%)の差は溶解特性向上の効果のために0.8wt%以上が好ましい。より好ましくは1.0wt%以上であり、更に好ましくは、2.0wt%以上である。
【0029】
すなわち、高分子量成分中のメタクリル樹脂のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成は、低分子量成分の平均組成より2wt%以上にすることで、耐熱性や環境試験におけるクラックやそりといった信頼性、機械強度を保持したまま、溶解特性の向上効果が得られるために好ましい。
【0030】
本発明におけるシラップの増粘剤であるメタクリル樹脂の重合方法としては、二段の懸濁重合あるいは乳化重合を用いる。二段の重合とは、通常の懸濁重合あるいは乳化重合の後、更にモノマー、開始剤、連鎖移動剤、等を投入して重合する方法である。重合体(1)と重合体(2)の組成を変えることで、重合体(1)と重合体(2)の両方の特性を併せ持った樹脂組成物を得る事が出来る。懸濁重合あるいは乳化重合は粉末状の樹脂ビーズが得られる為、人工大理石用途に有利である。他の重合方法では粉末状の樹脂ビーズが得られないため、好ましくない。重合方法としては、乳化重合より懸濁重合の方の重合時間が短い為、懸濁重合の方が好ましい。なお、懸濁重合あるいは乳化重合の粉末状樹脂ビーズをブレンドしたものは、高分子量樹脂ビーズの溶解特性が劣るため、好ましくない。
【0031】
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂は、二段の重合を用いる事が適正である。三段以上でも、二段重合と同等の特性を有するメタクリル樹脂を得る事が出来るが、重合時間が更に長くなるため、好ましくない。
【0032】
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂の組成は、メタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の含有量がメタクリル樹脂全体の1〜20wt%であれば、重合体(1)と重合体(2)それぞれの含有量が異なっていても構わない。また、重合体(1)にメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体を使用しなくても良い。
【0033】
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂は、重合体(1)が低分子量であり、重合体(2)が高分子量であることが好ましい。より好ましくはその重合方法が重合体(1)を重合した後、重合体(1)の存在下で重合体(2)を重合して得る方法である。
【0034】
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂において、重合体(1)はメタクリル酸メチル単量体70〜100wt%及びメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される単量体30〜0wt%からなる重合体である。より好ましくはメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される単量体20〜0wt%である。さらに好ましくはメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される単量体15〜0wt%である。
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂において、重合体(1)の分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平分均子量として10000〜50000が好ましい。重量平均分子量が10000以下の場合、耐熱性が低下する為、10000以上が好ましい。またこの場合、重合体(1)の存在下で重合体(2)を重合する際に重合体(2)の分子量が連続性生産時に安定するため好ましい。溶解特性の点から50000以下が好ましい。より好ましくは20000〜40000であり、さらに好ましくは、20000〜30000である。
【0035】
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂において、重合体(2)はメタクリル酸メチル単量体70〜100wt%及びメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種で構成される単量体0〜30wt%からなる重合体である。より好ましくは1〜80wt%である。
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂において、重合体(2)の分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平分均子量として110000〜600000が好ましい。機械強度やシラップ粘度の点から110000以上が好ましい。分子量を高く設定すると重合が急激に進みやすく、発熱してモノマーの突沸を発生しやすくなる。安定生産の点から600000以下が好ましい。より好ましくは150000〜500000である。さらに好ましくは180000〜400000である。
【0036】
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂は、重合体(1)のメタクリル酸メチルに重合可能な他のビニル単量体単位の組成比率Mal(wt%)と重合体(2)のメタクリル酸メチルに重合可能な他のビニル単量体単位の組成比率Mah(wt%)には式(3)の関係が成り立つことが好ましい。
【0037】
(Mah−0.8)≧Mal≧0・・・・・・・・・・・・・・(3)
ここでいう組成比率MalとMahは、重合体(1)及び重合体(2)のそれぞれを熱分解ガスクロ法によりその比率を決定することが可能である。それぞれを得るための仕込みで用いた組成比率はほぼ同等の値を示す。
【0038】
Mah(wt%)とMal(wt%)との差は溶解特性の点から0.8wt%以上である。高分子量である重合体(2)にメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体が組成比率として多いほうが耐熱性や機械強度を維持しながら溶解特性の向上が図れるため好ましい。
【0039】
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂の平均粒径は0.05〜0.5mmであることが好ましい。溶解時間は粒径が小さいほど短くなるため、0.5mm以下が好ましい。ただし、粒径が小さすぎる場合は、取り扱い時に飛び散りやすくなり、0.05mm以上が好ましい。更に好ましくは平均粒径0.05〜0.4mmである。最も好ましくは平均粒径0.1〜0.4mmである。
【0040】
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂を製造するための重合開始剤としては、フリーラジカル重合を用いる場合は、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどのパーオキサイド系や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)などのアゾ系の一般的なラジカル重合開始剤を用いることができ、これらは単独でもあるいは2種類以上を併用しても良い。これらのラジカル開始剤と適当な還元剤とを組み合わせてレドックス系開始剤として実施しても良い。これらの開始剤は、単量体混合物に対して、0.001〜1wt%の範囲で用いるのが一般的である。
【0041】
本発明のシラップの増粘剤であるメタクリル樹脂の製造方法では、ラジカル重合法で製造する場合には、重合体(1)及び重合体(2)の分子量を調整するために、一般的に用いられている連鎖移動剤を使用できる。連鎖移動剤としては、例えばn−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)などのメルカプタン類が好ましく用いられる。一般的に単量体混合物に対して、0.001〜1wt%の範囲で用いられる。重合体(1)と重合体(2)に用いられる連鎖移動剤は同じでも良いし異なっていても良い。重合体(1)と重合体(2)の連鎖移動剤の量は望む分子量に依存して決定される。
【0042】
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂は、従来の人工大理石の機械強度、耐久性を損なうことなく、作製時間を短縮させたものである。シラップの生産性を向上させると共に、メタクリル樹脂の使用量を減らすことで生産コストを下げることが可能で、人工大理石用途に好適である。
【0043】
本発明の増粘剤であるメタクリル樹脂は、人工大理石のシラップ用途の他、塗料や接着剤などの増粘剤用途にも使用できる。
【実施例】
【0044】
以下の実施例、比較例を用いて更に具体的に説明する。
<原料>
用いた原料は下記のものである。 メタクリル酸メチル:旭化成ケミカルズ製(重合禁止剤として中外貿易製2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール(2,4-di-methyl-6-tert-butylphenol)を2.5ppm添加されているもの)
アクリル酸メチル:三菱化学製(重合禁止剤として川口化学工業製4−メトキシフェノール(4−methoxyphenol)が14ppm添加されているもの)
n−オクチルメルカプタン(n-octylmercaptan):アルケマ製
ラウロイルパーオキサイド(lauroyl peroxide):日本油脂製
第3リン酸カルシウム(calcium phosphate):日本化学工業製、懸濁剤として使用
炭酸カルシウム(calcium calbonate):白石工業製、懸濁剤として使用
ラウリル硫酸ナトリウム(sodium lauryl sulfate):和光純薬製、懸濁助剤として使用
【0045】
[I.樹脂の重合]
1.樹脂の重合
以下に樹脂の製造方法を示す。 配合量は表1に、単量体の仕込み組成と重合体の比率、各重合体の重量平均分子量の測定結果、を表2に示す。
(樹脂1)
10Lのガラス製反応器に重合体(1)の原料を、表1に示す配合量を投入し攪拌混合し、反応器の反応温度を80℃で150分懸濁重合し重合反応を実質終了して重合体(1)を得た。この重合体(1)をサンプリングし、GPCで重合平均分子量を測定した。 その後、前記重合体(1)を含む重合系を60分間、80℃を維持し、次に重合体(2)の原料を、表1に示す配合量反応器に投入し、引き続き80℃で120分懸濁重合し、続いて92℃に1℃/minの速度で昇温した後、60分熟成し、重合反応を実質終了した。次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20wt%硫酸を投入し、洗浄脱水乾燥処理し、メタクリル樹脂ビーズを得た。このメタクリル樹脂ビーズの重合平均分子量をGPCで測定し、重合体(1)のGPC溶出曲線を元に、重合体(1)が含まれている比率をかけて、メタクリル樹脂ビーズのGPC溶出曲線から、重合体(1)のGPC部分を除去し、重合体(2)の重量平均分子量を求めた
【0046】
(樹脂2、3、9、15、16、22)
表1に示す配合で、樹脂1と同様にして重合を行い、メタクリル樹脂ビーズを得た。
(樹脂4)
60Lの反応器に重合体(1)の原料を、表1に示す配合量を投入し攪拌混合し、反応器の反応温度を80℃で150分懸濁重合し重合反応を実質終了して重合体(1)を得た。この重合体(1)をサンプリングし、GPCで重合平均分子量を測定した。
その後、前記重合体(1)を含む重合系を60分間、80℃を維持し、次に重合体(2)の原料を、表1に示す配合量反応器に投入し、引き続き80℃で90分懸濁重合し、続いて92℃に1℃/minの速度で昇温した後、60分熟成し、重合反応を実質終了した。次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20wt%硫酸を投入し、洗浄脱水乾燥処理し、メタクリル樹脂ビーズを得た。このメタクリル樹脂ビーズの重合平均分子量をGPCで測定し、重合体(1)のGPC溶出曲線を元に、重合体(1)が含まれている比率をかけて、メタクリル樹脂ビーズのGPC溶出曲線から、重合体(1)のGPC部分を除去し、重合体(2)の重量平均分子量を求めた。
(樹脂5〜8、13、14、17、18、20、21、23、24)
表1に示す配合で、樹脂4と同様にして重合を行い、メタクリル樹脂ビーズを得た。
(樹脂10)
60Lの反応器に重合体(1)の原料を、表1に示す配合量を投入し攪拌混合し、反応器の反応温度を80℃で150分懸濁重合し続いて92℃に1℃/minの速度で昇温した後、60分熟成し、重合反応を実質終了した。次に50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために20wt%硫酸を投入し、洗浄脱水乾燥処理し、メタクリル樹脂ビーズを得た。このメタクリル樹脂ビーズをサンプリングし、GPCで重合平均分子量を測定した。
(樹脂11、12)
表1に示す配合で、樹脂10と同様にして重合を行い、メタクリル樹脂ビーズを得た。
【0047】
[II.樹脂の分子量、組成の測定]
2.メタクリル樹脂の重量平均分子量の測定
測定装置:日本分析工業製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(LC−908)
カラム:JAIGEL−4H 1本及びJAIGEL−2H 2本、直列接続
本カラムでは、高分子量が早く溶出し、低分子量は溶出する時間が遅い。
検出器:RI(示差屈折)検出器
検出感度:2.4μV/sec
サンプル:0.450gのメタクリル樹脂のクロロホルム15ml溶液
注入量:3ml
展開溶媒:クロロホルム、流速3.3ml/min
上記の条件で、メタクリル樹脂の溶出時間に対する、RI検出強度を測定した。GPC溶出曲線におけるエリア面積と、検量線を基にメタクリル樹脂の平均分子量を求めた。
【0048】
検量線用標準サンプルとして、単分散の重量平均分子量が既知で分子量が異なる以下の10種のメタクリル樹脂(EasiCal PM-1 Polymer Laboratories製)を用いた。 重量平均分子量
標準試料1 1,900,000
標準試料2 790,000
標準試料3 281,700
標準試料4 144,000
標準試料5 59,800
標準試料6 28,900
標準試料7 13,300
標準試料8 5,720
標準試料9 1,936
標準試料10 1,020
重合体(1)と重合体(2)が混合している場合には、あらかじめ重合体(1)単独のGPC溶出曲線を測定し重量平均分子量を求めておき、重合体(1)が存在している比率(本願では仕込み比率を用いた)を重合体(1)のGPC溶出曲線に乗じ、溶出時間における検出強度を重合体(1)と重合体(2)が混合しているGPC溶出曲線から引くことで、重合体(2)単独のGPC溶出曲線が得られる。これから重合体(2)の重量平均分子量を求めた。
【0049】
また、GPC溶出曲線でのピーク重量平均分子量(Mp)をGPC溶出曲線と検量線から求める。 Mpの1/5以下の重量平均分子量成分の含有量は次のように求める。
【0050】
まず、メタクリル樹脂のGPC溶出曲線におけるエリア面積を求める。GPC溶出曲線におけるエリア面積とは図1に示す斜線部分を指す。具体的な定め方は次のように行う。まず、GPC測定で得られた溶出時間とRI(示差屈折検出器)による検出強度から得られるGPC溶出曲線に対し、測定機器で得られる自動で引かれるベースラインを引いてGPC溶出曲線と交わる点Aと点Bを定める。点Aは、溶出時間初期のGPC溶出曲線とベースラインとが交わる点である。点Bは、原則として重量平均分子量が500以上でベースラインと溶出曲線が交わる位置とする。もし交わらなかった場合は重量平均分子量が500での溶出時間のRI検出強度の値を点Bとする。点A、B間のGPC溶出曲線とベースラインで囲まれた斜線部分がGPC溶出曲線におけるエリアである。この面積が、GPC溶出曲線におけるエリア面積である。本願では高分子量成分から溶出されるカラムを用いるため、溶出時間初期(点A側)に高分子量成分が観測され、溶出時間終期(点B側)に低分子量成分が観測される。
【0051】
GPC溶出曲線におけるエリア面積を、Mpの1/5の重量平均分子量に対応する溶出時間で分割し、Mpの1/5以下の重量平均分子量成分に対応するGPC溶出曲線におけるエリア面積を求める。その面積と、GPC溶出曲線におけるエリア面積の比から、Mpの1/5以下の重量平均分子量の比率を求めた。
3.メタクリル樹脂の組成分析
メタクリル樹脂の組成分析は、熱分解ガスクロマトグラフィー及び質量分析方法で行った。
【0052】
熱分解装置:FRONTIER LAB製Py−2020D
カラム:DB−1(長さ30m、内径0.25mm、液相厚0.25μm)
カラム温度プログラム:40℃で5min保持後、50℃/minの速度で320℃まで昇温した後、320℃を4.4分保持
熱分解炉温度:550℃
カラム注入口温度:320℃
ガスクロマトグラフィー:Agilent製GC6890
キャリアー:純窒素、流速1.0ml/min
注入法:スプリット法(スプリット比1/200)
検出器:日本電子製質量分析装置Automass Sun
検出方法:電子衝撃イオン化法(イオン源温度:240℃、インターフェース温度:320℃)
サンプル:メタクリル樹脂0.1gのクロロホルム10cc溶液を10μl
【0053】
サンプルを熱分解装置用白金試料カップに採取し、150℃で2時間真空乾燥後、試料カップを熱分解炉に入れ、上記条件でサンプルの組成分析を行った。メタクリル酸メチル及びアクリル酸メチルのトータルイオンクロマトグラフィー(TIC)上のピーク面積と以下の標準サンプルの検量線を元にメタクリル樹脂の組成比を求めた。
検量線用標準サンプルの作成:メタクリル酸メチル,アクリル酸メチルの割合が(メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル)=(100%/0%)、(98%/2%)、(94%/6%)、(90%/10%)(80%/20%)の合計5種の溶液各50gにラウロイルパーオキサイド0.25%、n−オクチルメルカプタン0.25%添加した。この各混合溶液を100ccのガラスアンプル瓶にいれて、空気を窒素に置換して封じた。そのガラスアンプル瓶を80℃の水槽に3時間、その後150℃のオーブンに2時間入れた。室温まで冷却後、ガラスを砕いて中のメタクリル樹脂を取り出し、組成分析を行った。検量線用標準サンプルの測定によって得られた(アクリル酸メチルの面積値)/(メタクリル酸メチルの面積値+アクリル酸メチルの面積値)及びアクリル酸メチルの仕込み比率とのグラフを検量線として用いた。
【0054】
4.メタクリル樹脂の高分子量成分及び低分子量成分におけるメタクリル酸メチルに共重合可能なビニル単量体の組成比率の測定
本測定では累積エリア面積0〜2%である分子量成分と、98〜100%である分子量成分の組成分析を行う。GPC溶出曲線におけるエリア面積の累積エリア面積(%)は、図1に示す点Aを累積エリア面積(%)の基準である0%とし、溶出時間の終期に向かい、各溶出時間に対応する検出強度が累積して、GPC溶出曲線におけるエリア面積が形成されるという見方をする。累積エリア面積の具体例を図2に示す。この図2において、ある溶出時間におけるベースライン上の点を点X,GPC溶出曲線上の点を点Yとする。曲線AXと、線分AB、線分XYで囲まれる面積の、GPC溶出曲線におけるエリア面積に対する割合を、ある溶出時間での累積エリア面積(%)の値とする。 累積エリア面積0〜2%である分子量成分と、98〜100%である分子量成分を、対応する溶出時間を基にカラムから分取して、その組成分析を行った。測定と、各成分の分取は、2.と同様の装置、条件で行った。
分取を2回行い、分取したサンプルのうち10μlを3.で用いた熱分解ガスクロ分析及び質量分析方法の熱分解装置用白金試料カップに採取し、100℃の真空乾燥機に40分乾燥した。3.と同様の条件で分取した累積エリア面積に対応するメタクリル樹脂の組成を求めた。
【0055】
[III.樹脂ビーズの特性測定]
5.粒径測定
篩を使用して樹脂ビーズの粒径分布測定及び分級処理を実施した。篩の目の大きさは上から、0.5mm、0.425mm、0.355mm、0.3mm、0.25mm、0.15mmで一番下に受け皿を設置して振とう機で振動させて分離した。
6.溶解試験
スターラー付きウォーターバスに水を入れ、45℃に加熱する。110ccネジ口瓶(直径50mm)にメタクリル系樹脂16g、メタクリル酸メチル単量体64g(メタクリル系樹脂20wt%の場合)と回転子を入れ、ネジ口瓶の蓋を閉める。ウォーターバスにネジ口瓶を入れ、スターラーを回転させたら測定開始。瓶中のメタクリル系樹脂組成物がメタクリル酸メチルに溶けるまでの時間を測定する。
7.シラップの粘度測定
測定機器はB型粘度計、ロータはSB2号を使用する。6.の方法で作製したシラップを室温(23±3℃)まで撹拌しながら冷却する。シラップ液を40cc測定管に量り取る。測定管を粘度計に設置して粘度測定を開始。ロータの回転数60rpmで粘度を測定する。(60rpmで測定範囲を越えた場合は回転数を落として測定する)ロータの回転数6rpmの粘度も併せて測定し、粘度の数値を比較して精度を見極める。
8.ペレタイズ
重合で得られたメタクリル樹脂ビーズについて2軸押出機を用い、樹脂温度240℃〜250℃で押出してペレットを得た。
9.VICAT軟化温度の測定
成形機:30tプレス成形機
試験片:厚み4mm
測定条件:ISO 306 B50に準拠
上記条件でVICAT軟化温度を求めた。
【0056】
[実施例1〜13、比較例1〜9]
従来、シラップの増粘剤として比較例1の樹脂14がよく用いられている。シラップの組成は、メタクリル酸メチル単量体が80wt%、樹脂14が20wt%で、シラップの粘度は約400mPa・sである。従来の人工大理石の機械強度、耐久性を維持したまま、製造コストを削減させたシラップについて開発した。
(耐熱性)
メタクリル樹脂の耐熱性は、メタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の量が少ないほど、高くなる傾向にある。(VICAT軟化温度比較:比較例1が105℃、比較例2が110℃)増粘剤であるメタクリル樹脂の耐熱性が人工大理石製品に影響する可能性がある。したがって、より耐熱性の高い方が好ましいと考えられる。
また、比較例1,2から耐熱性が高いほど、溶解時間が長くなると考えられる。比較例2、実施例7から本発明の増粘剤は同程度の耐熱性でも溶解性が向上していると考えられる。
(粒径測定)
表4に篩による粒径分布を示す。10Lビーカー品の方が全体的な粒径が小さくなっている。
(樹脂濃度と溶液粘度)
表5に樹脂濃度と溶液粘度の結果を示す。従来のシラップは、20wt%の比較例1の樹脂14をメタクリル酸メチル80wt%に投入し、平均45℃で攪拌しながら溶かしていることが多い。粘度は温度約23℃で約400mPa・sである。他の樹脂のいくつかを20wt%の濃度で溶かしたが、樹脂によって粘度が異なることが分かった。分子量と比較すると、分子量が高いほど、シラップの粘度が高くなっている。そこで分子量を基準に樹脂の濃度を設定した。
【0057】
分子量 90000付近:樹脂濃度26wt%
分子量110000付近:樹脂濃度24wt%
分子量145000付近:樹脂濃度22wt%
分子量195000付近:樹脂濃度20wt%
分子量235000付近:樹脂濃度18.5wt%
分子量260000付近:樹脂濃度18wt%
分子量400000付近:樹脂濃度15wt%
(重合方法による影響)
比較例1〜3は従来から一般的に行われている一回の重合で作製した樹脂である。実施例1〜10は2回の懸濁重合を行って作製した樹脂である。アクリル酸メチルの量と分子量の近い樹脂を比較するといずれも実施例の方の溶解時間が短い。よって、一回重合品より二回重合品の方の溶解特性が優れていると考えられる。
(溶解時間比較)
表4にシラップ粘度を一定にした時の各粒径による溶解時間を示す。粒径が小さいほど溶解時間が短い。本発明の目的のひとつとして溶解時間の短縮があげられる。従来品の溶解時間より短縮したい。そこで溶解時間の目標値として従来品の溶解時間から10分以上短縮する事とした。実施例1〜10はいずれも目的の溶解特性を達成している。そこで、実施例と比較例との比較で溶解特性の評価を行った。
(メタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体量と溶解時間)
表4において、アクリル酸メチル0.5wt%の比較例4の溶解時間は比較例1の溶解時間より長い。アクリル酸メチル1.2wt%の実施例7の溶解時間は比較例1の溶解時間より10分以上短い。したがって、アクリル酸メチルの量が約1wt%以上で目的の溶解時間になると考えられる。
(分子量と溶解時間)
表4において分子量の高い比較例6は目的の溶解特性を達成していない。比較例5は分子量が少なく、人工大理石の強度低下が考えられる。実施例3、9はいずれも目的の溶解特性を達成している。目的の溶解特性を達成するための分子量の設定値は約110000〜400000と考えられる。
(Mw/Mn比較)
重合体(1)と重合体(2)の分子量の差が大きいほど、Mw/Mnが大きくなっている。これは分子量の分布が広くなっていることを示していると考えられる。Mw/Mnが2.5の実施例4の溶解性は目的を達成している。Mw/Mnが2.2の実施例12は目的を達成していない。よって、Mw/Mnとしては2.3以上が好ましい。
(Mp比較)
重合体(1)と重合体(2)の分子量の差が大きいほど、分子量の分布が広くなり、GPC溶出曲線から得られるピーク重量平均分子量(Mp)の1/5以下の重量平均分子量成分量が多くなると考えられる。比較例7のGPC溶出曲線から得られるピーク重量平均分子量(Mp)の1/5以下の重量平均分子量成分量は7.6で、比較例7の溶解性は目的を達成していない。実施例5のGPC溶出曲線から得られるピーク重量平均分子量(Mp)の1/5以下の重量平均分子量成分量は1.8で、目的の溶解性を達成している。
また、GPC溶出曲線から得られるピーク重量平均分子量(Mp)の1/5以下の重量平均分子量成分量が30%より増えた場合、比較例8のように低分子量の割合が増えて機械強度の低下が懸念される。
以上より、GPC溶出曲線から得られるピーク重量平均分子量(Mp)の1/5以下の重量平均分子量成分量は8〜30%が好ましい。
(MhとMlの比較)
メタクリル樹脂のGPC溶出曲線における累積エリア面積(%)が0〜2%にある重量平均分子量成分を有するメタクリル樹脂中のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Mh(wt%)と累積エリア面積(%)が98〜100%にある重量平均分子量成分を有するメタクリル樹脂中のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Ml(wt%)とする。
表3において、MhとMlの量がほぼ同じ実施例11とMhの方が多い実施例10を比較すると、実施例10の方の溶解性が高い。
実施例7はMh−Mlが0.9%であり、MhとMlの差は0.8以上が好ましいと考えられる。

(MahとMal)
重合体(1)のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の組成比率をMal(wt%)、重合体(2)のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の組成比率をMah(wt%)とする。
MhとMlの場合と同様で、高分子量であるMahの量が多い方と溶解性が高いと考えられる。実施例7、10、11より、MahとMalの差は0.8以上が好ましいと考えられる。(重合体(1)の分子量)
重合体(1)の分子量を7000に設定した実施例12はVICAT軟化温度が102℃で、アクリル酸メチル量が同じ実施例3の105℃より温度が低下している。分子量も低めで人工大理石とした時の物性特性の低下が懸念される。60000に設定した比較例9は溶解特性が目的に達していない。したがって、重合体(1)の分子量の範囲は10000〜50000が好ましいと考えられる。
(重合体(2)の分子量)
重合体(2)の分子量を100000に設定した比較例5は全体の分子量が8.1万で樹脂の使用量が3割程度増える。700000に設定した比較例6は溶解特性が目的に達していない。重合体(2)の分子量の範囲は110000〜60000が好ましいと考えられる。
(重合体(1)と重合体(2)の比率)
表4において、重合体(1)の比率を5wt%に設定した比較例7と、35wt%に設定した比較例8は共に目的の溶解特性の達していない。重合体(1)の比率を10wt%に設定した実施例5と、27%に設定した実施例6は共に目的の溶解特性に達している。したがって、重合体(1)の比率は7〜30wt%が良いと考えられる。
(重合体(1)の分子量を高分子量にした場合)
実施例13は重合体(1)の分子量を高く設定した場合である。一回重合品である比較例3と同程度の溶解特性で、二回重合の効果を得られていない。したがって、重合体(1)の分子量を低く設定する方が好ましいと考えられる。
(樹脂の粒径)
表においていずれの樹脂も平均粒径が0.05〜0.5mmの範囲に入っている。
【0058】
【表1】


【0059】
【表2】


【0060】
【表3】


【0061】
【表4】


【0062】
【表5】


【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の増粘剤は、従来の人工大理石の機械強度、耐久性を損なうことなく、シラップの作製時間の短縮化を実現するものである。シラップの生産性を向上させると共に、メタクリル樹脂の使用量を減らすことで生産コストを下げることが可能で、シラップ増粘剤用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明におけるメタクリル樹脂のGPCエリアに関する説明図である。 グラフの縦軸はRI検出強度(mV)、グラフの横軸の下部は溶出時間(min.)、上部はGPCエリア面積全体に対する、累積エリア面積(%)を示す。
【図2】累積エリア面積の一例を示した図である。
【図3】GPC溶出曲線測定グラフ上での、累積エリア面積0〜2%と、累積エリア面積98〜100%の位置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0065】
1.溶出曲線
2.ベースライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル単量体単位99〜80wt%及び少なくとも1種のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位1〜20wt%を含むメタクリル樹脂であって、該メタクリル樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が100,000〜400,000であり、GPC溶出曲線から得られるピーク重量平均分子量(Mp)の1/5以下の重量平均分子量成分が該メタクリル樹脂成分に対し8〜30%含まれているメタクリル樹脂からなることを特徴とする増粘剤。
【請求項2】
上記メタクリル樹脂の平均粒径が0.05〜0.5mmであるメタクリル樹脂であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnが式(1)の関係であるメタクリル樹脂からなることを特徴とする請求項1記載の増粘剤。
Mw/Mn≧2.3・・・・・・・・・・・・・(1)
【請求項3】
上記メタクリル樹脂のGPC溶出曲線における累積エリア面積(%)が0〜2%にある重量平均分子量成分を有するメタクリル樹脂中のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Mh(wt%)と累積エリア面積(%)が98〜100%にある重量平均分子量成分を有するメタクリル樹脂中のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の平均組成比率Ml(wt%)が式(2)の関係であるメタクリル樹脂からなることを特徴とする請求項1又は2記載の増粘剤。
(Mh−0.8)≧Ml≧0・・・・・・・・・・・・・(2)
【請求項4】
請求項1記載のメタクリル樹脂からなる増粘剤の製造方法であって、まずメタクリル酸メチル単量体70〜100wt%とメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体30〜0wt%を重合してゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平分均子量が10,000〜50,000である重合体(1)を該メタクリル樹脂全体に対し7〜30wt%となるように重合した後、重合体(1)の存在下で重合を継続して重量平均分子量が110,000〜600,000である重合体(2)を該メタクリル樹脂全体に対し93〜70wt%となるように重合することを特徴とするメタクリル樹脂からなる増粘剤の製造方法。
【請求項5】
上記メタクリル樹脂の重量平均分子量が100,000〜400,000で、平均粒径が0.05〜0.5mmであるメタクリル樹脂からなることを特徴とする請求項4記載の増粘剤の製造方法。
【請求項6】
上記重合体(1)のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体の組成比率Mal(wt%)と重合体(2)のメタクリル酸メチルに共重合可能な他のビニル単量体単位の組成比率Mah(wt%)が式(3)の関係を有するメタクリル樹脂からなることを特徴とする請求項4又は5記載の増粘剤の製造方法。
(Mah−0.8)≧Mal≧0・・・・・・・・・・・・・・(3)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−174574(P2008−174574A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6624(P2007−6624)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】