説明

墜落防止用安全装置

【課題】胴綱や安全装置の掛け替えによる無胴綱状態を回避し、作業員の墜落事故を防止する。
【解決手段】縦ロープ用墜落防止器10は、閉止時に縦ロープR1をスライド自在に挿通し、且つ開放時に縦ロープを着脱させる開閉自在な縦ロープ挿通部材12と、縦ロープ挿通部材を閉止状態にロックする縦ロープ側ロック機構と、を備え、横ロープ用墜落防止器60は、閉止時に横ロープをスライド自在に挿通し、且つ開放時に横ロープを着脱させる開閉自在な横ロープ挿通部材62と、横ロープ挿通部材を閉止状態にロックする横ロープ側ロック機構70と、を備え、縦ロープ用墜落防止器を縦ロープに装着した状態と横ロープ用墜落防止器を横ロープに装着した状態とを択一的に切り換える切替え機構は、横ロープ挿通部材が開放状態にある時に作動して縦ロープ側ロック機構のロック解除を阻止する縦ロープ側ロック解除阻止機構100を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高所作業時における墜落事故を防止するための安全装置に関するものであり、特に高所への移動完了後、横方向に移動して作業を行う場合の墜落事故を防止する墜落防止用安全装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄塔等の高所で作業する際には安全確保用のロープに墜落防止用の安全装置を装着し、安全装置を作業者腰部の安全帯と連結して、万が一の足の踏み外しによる墜落を防止している。
図8は、送電用鉄塔に設置された安全確保用のロープを示す模式図である。図示するように、送電用鉄塔200には、作業員の移動方向に沿って安全確保用のロープが設置されている。図においては、昇降移動用の縦ロープR1及び横移動用の横ロープR2が設置されている。縦ロープR1及び横ロープR2は夫々縦ロープ固定金具201及び横ロープ固定金具202によって送電用鉄塔200に固定されている。
ここで、従来の安全装置には墜落防止用のギヤが付いており、昇降移動に使用できるが、横移動には使用できない構造である。従って、昇塔後に横移動する場合、縦ロープR1と横ロープR2とが交差する交差点203において、作業員は縦ロープR1から安全装置を取り外し、胴綱を横ロープR2に掛け替える必要がある。このとき、いわゆる無胴綱状態となるため、作業員が墜落する虞がある。
このような事故を防止する発明として、特許文献1には、作業員の携帯の負担にならない小型・軽量の補助用墜落防止用安全装置が記載されている。この発明においては、交差点203に到達した時点で補助用の安全装置を横ロープR2に掛けて安全を確保した後に、昇降移動用の安全装置を取り外すことによって、無胴綱状態を回避する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−307283公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の安全装置では、作業員が作業工具等の他に別途安全装置を携帯しなければならず、安全装置を複数用意しなければならないという点で不経済であるという問題がある。また、安全装置の掛け替えの際に誤って安全装置を落下させた場合には、無胴綱状態となることを回避できないという問題がある。
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、高所作業において移動方向を変更する際に、胴綱や安全装置の掛け替えによる無胴綱状態を回避し、作業員の墜落事故を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、縦ロープに対してスライド自在且つ着脱自在に装着される縦ロープ用墜落防止器と、横ロープに対してスライド自在且つ着脱自在に装着される横ロープ用墜落防止器と、前記縦ロープ用墜落防止器を前記縦ロープに装着した状態と前記横ロープ用墜落防止器を前記横ロープに装着した状態とを択一的に切り換える切替え機構と、を備え、前記縦ロープ用墜落防止器と前記横ロープ用墜落防止器とが一部一体化されている墜落防止用安全装置であって、前記縦ロープ用墜落防止器は、閉止時に前記縦ロープをスライド自在に挿通し、且つ開放時に該縦ロープを着脱させる開閉自在な縦ロープ挿通部材と、該縦ロープ挿通部材を閉止状態にロックする縦ロープ側ロック機構と、を備え、前記横ロープ用墜落防止器は、閉止時に前記横ロープをスライド自在に挿通し、且つ開放時に該横ロープを着脱させる開閉自在な横ロープ挿通部材と、該横ロープ挿通部材を閉止状態にロックする横ロープ側ロック機構と、を備え、前記切替え機構は、前記縦ロープ挿通部材、又は前記横ロープ挿通部材の何れか一方が開放状態にある時に作動して他方のロープ挿通部材側の前記ロック機構のロック解除を阻止するロック解除阻止機構を備えている墜落防止用安全装置を特徴とする。
請求項1の発明では、例えば横ロープ挿通部材(一方)が開放しているときに、縦ロープ挿通部材(他方)をロックするロック機構の解除を阻止するので、横ロープ挿通部材と縦ロープ挿通部材の双方が同時に開放することを防止する。
【0006】
請求項2に記載の発明は、前記縦ロープ用墜落防止器は、固定側分割片と可動側分割片とから成り、前記固定側分割片に対して前記可動側分割片がヒンジ部によって開閉自在に軸支されており、前記横ロープ用墜落防止器は、固定側分割片と可動側分割片とから成り、前記固定側分割片に対して前記可動側分割片がヒンジ部によって開閉自在に軸支されており、前記横ロープ用墜落防止器の固定側分割片が前記縦ロープ用墜落防止器の可動側分割片に一体化され、前記ロック解除阻止機構は、前記一方の墜落防止器の可動側分割片の開放時に前記他方の墜落防止器のヒンジ部に向けて突出して前記他方の墜落防止器の可動側分割片の軸方向移動を阻止する突出片を備えている請求項1記載の墜落防止用安全装置を特徴とする。
請求項2の発明では、例えば縦ロープ挿通部材(他方)のロックが可動側分割片の軸方向移動により解除される場合に、横ロープ挿通部材(一方)が開放しているときに突出片を突出させて可動側分割片の軸方向移動を阻止するので、横ロープ挿通部材と縦ロープ挿通部材の双方が同時に開放することを防止する。
【0007】
請求項3に記載の発明は、前記縦ロープ用墜落防止器は、固定側分割片と可動側分割片とから成り、前記固定側分割片に対して前記可動側分割片がヒンジ部によって開閉自在に軸支されており、前記横ロープ用墜落防止器は、固定側分割片と可動側分割片とから成り、前記固定側分割片に対して前記可動側分割片がヒンジ部によって開閉自在に軸支されており、前記横ロープ用墜落防止器の固定側分割片が前記縦ロープ用墜落防止器の可動側分割片に一体化され、前記縦ロープ側ロック機構は、前記縦ロープ用墜落防止器の固定側分割片及び可動側分割片の夫々に配置されて閉止時に連通するロック用管体と前記両ロック用管体に挿通されて両分割片を開放不能にするロックピンとを備え、前記横ロープ側ロック機構は、前記横ロープ用墜落防止器の固定側分割片及び可動側分割片の夫々に配置されて閉止時に連通するロック用管体と前記両ロック用管体に挿通されて両分割片を開放不能にするロックピンとを備え、前記ロック解除阻止機構は、前記一方の墜落防止器の可動側分割片の開放時に前記他方の墜落防止器のロックピンに向けて突出して前記他方の墜落防止器のロックピンのロック解除方向への移動を阻止する突出片を備えている請求項1記載の墜落防止用安全装置を特徴とする。
請求項3の発明では、例えば横ロープ用墜落防止器(一方)の可動側分割片の開放時には、縦ロープ用墜落防止器(他方)のロック用管体に挿通されたロックピンをロック解除方向へ移動させることができないので、横ロープ挿通部材と縦ロープ挿通部材の双方が同時に開放することを防止する。
【0008】
請求項4に記載の発明は、前記ロック解除阻止機構は、前記他方の墜落防止器の可動側分割片の開放時に前記突出片の突出を阻止する突出阻止シートを前記他方の墜落防止器のヒンジ部に備えた請求項2記載の墜落防止用安全装置を特徴とする。
請求項4の発明では、縦ロープ挿通部材(他方)が開放しているときに突出阻止シートにより突出片が縦ロープ挿通部材のヒンジ部に突出することを阻止するので、横ロープ挿通部材(一方)の開放を阻止することができ、横ロープ挿通部材と縦ロープ挿通部材の双方が同時に開放することを防止する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、縦ロープ用墜落防止器と横ロープ用墜落防止器とが一体化されているので経済的であり、また安全装置の掛け替えの際に誤って安全装置を落下させる虞がない。
また、例えば横ロープ挿通部材(一方)が開放しているときに、縦ロープ挿通部材(他方)をロックするロック機構の解除を阻止するので、少なくとも縦ロープ又は横ロープの一方を安全装置に挿通した状態を維持することができるので、無胴綱状態を回避し、作業員の墜落事故を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る墜落防止用安全装置を正面側から観察した斜視図である。
【図2】墜落防止用安全装置を裏面側から観察した斜視図である。
【図3】(a)乃至(c)は、縦ロープ側ロック機構の動作を説明する図である。
【図4】縦ロープ用墜落防止器が開放した状態を示す斜視図である。
【図5】(a)乃至(c)は、レバーガイド孔とロックピンとの関係を示した模式図である。
【図6】墜落防止用安全装置の裏面図であり、(a)は横ロープ用墜落防止器が閉止した状態を示し、(b)は横ロープ用墜落防止器が開放した状態を示す図である。
【図7】本発明の第二の実施形態に係る墜落防止用安全装置の一部を省略して描いた裏面図である。
【図8】送電用鉄塔に設置された安全確保用のロープを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔第一の実施形態〕
以下、本発明の第一の実施形態を図1乃至4に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る墜落防止用安全装置を正面側から観察した斜視図である。図2は、墜落防止用安全装置を裏面側から観察した斜視図である。図3(a)乃至(d)は、縦ロープ側ロック機構の動作を説明する図である。図4は、縦ロープ用墜落防止器が開放した状態を示す斜視図である。本実施形態に係る墜落防止用安全装置は、縦ロープ用墜落防止器と横ロープ用墜落防止器とを一体化するとともに、縦ロープ用墜落防止器を縦ロープにスライド自在に装着した状態と横ロープ用墜落防止器を横ロープにスライド自在に装着した状態とを択一的に切り換える切替え機構を備えた点に特徴がある。
墜落防止用安全装置1(以下「安全装置1」という。)は、縦ロープR1に装着される縦ロープ用墜落防止器10と、横ロープR2に装着される横ロープ用墜落防止器60と、を備えている。
ここで、縦ロープR1は作業員が昇降時に用いる安全確保用のロープであり、横ロープR2は、作業員が横方向移動時に用いる安全確保用のロープである(図8参照)。なお、縦ロープR1は、必ずしも垂直に設置されているロープに限定されるものではない。また、同様に横ロープR2は、必ずしも水平に設置されているロープに限定されるものではない。要するに概略縦方向へ延びる縦ロープと、概略横方向へ延びる横ロープが近接する高所において、ロープ間を移動する作業員の安全を図るのが墜落防止用安全装置である。
【0012】
縦ロープ用墜落防止器10は、閉止時に縦ロープR1をスライド自在に挿通し、且つ開放時に縦ロープR1を着脱させる開閉自在な縦ロープ挿通部材12と、縦ロープ挿通部材12を閉止状態にロックする縦ロープ側ロック機構40と、を備えている。
縦ロープ挿通部材12は、一対の対向する側片を有した固定側分割片14と半円筒形状の可動側分割片16とからなる断面略U字状であり、固定側分割片14に対して可動側分割片16がヒンジ部18によって開閉自在に軸支されている。
固定側分割片14には、補助ロープR3を結合する補助ロープ結合環20が配置されている。墜落防止用安全装置1は補助ロープR3を介して作業員に装着される。また、固定側分割片14内部には、万が一の墜落時に縦ロープR1に噛み込んで作業員の落下を最小限に食い止めるロープ止め爪(不図示)が配置されており、補助ロープ結合環20はロープ止め爪の作動スイッチの役割も果たしている。
縦ロープ挿通部材12には、縦ロープR1をガイドするガイドローラ22が縦ロープR1の軸方向に複数配置されている。
【0013】
ヒンジ部18は、固定側分割片14に固着された複数の固定側円筒体24と、可動側分割片16に固着された複数の可動側円筒体26と、固定側円筒体24と可動側円筒体26に挿通されたヒンジ軸28と、固定側円筒体24と可動側円筒体26との間にて一部露出したヒンジ軸28に挿通された圧縮コイルバネ30と、ヒンジ軸28が露出した露出部32と、可動側円筒体26の側面に突出形成されたツマミ34と、を備える。
ヒンジ部18は、圧縮コイルバネ30により、固定側分割片14と可動側分割片16との軸方向におけるずれを減少させる方向に付勢されている。また、圧縮コイルバネ30及び露出部32の存在により、可動側分割片16は固定側分割片14に対して軸方向に移動可能な構成である。
縦ロープ側ロック機構40は、図3(a)に示すように、固定側分割片14に固着された第一管体42(ロック用管体)と、可動側分割片16に固着されるとともに縦ロープ挿通部材12の閉止時に第一管体42と連通する第二管体44(ロック用管体)と、第一管体42及び第二管体44内をスライド自在かつ回転自在に保持されたロックピン46と、ロックピン46の軸方向中間部側面から突出したロックレバー48と、第一管体42から突出したロックピン46の一端部46a側を第二管体44から離間する方向に付勢する圧縮コイルバネからなるロックバネ50と、第二管体44の側面に形成されてロックレバー48を案内する略J字形状のレバーガイド孔52と、を備える。
ロックレバー48をレバーガイド孔52に沿って移動させることにより、ロックピン46を第一管体42及び第二管体44内部にて回転させつつ軸方向にスライドさせることができる。
【0014】
縦ロープ用墜落防止器10におけるロック解除動作について図3に基づいて説明する。
(a)に示すように、可動側分割片16の閉止時(ロック時)においてロックピン46は、第一管体42と第二管体44とに跨った状態である。
(a)の状態から、ロックレバー48をレバーガイド孔52に沿って、矢印A1のように移動させる。この操作によりロックピン46の軸方向位置が変化するが、依然としてロックピン46は、第一管体42と第二管体44とに跨った状態である((b)の状態)。ここで、可動側分割片16に固着されたツマミ54をロックレバー48から離間する方向(矢印A2方向)に移動させると、可動側分割片16がヒンジ部18のヒンジ軸28及び圧縮コイルバネ30の働きにより軸方向に移動し、第二管体44によるロックピン46の他端部46b側の掛止状態が解除される((c)の状態)。そして、ヒンジ部18を中心に可動側分割片16を矢印A3方向に回転させると、縦ロープ挿通部材12が開放されて、縦ロープR1の脱着が可能となる(図4の状態)。
このように、縦ロープ側ロック機構40とヒンジ部18の双方が動作しなければ、縦ロープ用墜落防止器10のロックを解除できない構成である。すなわち、ヒンジ部18は、縦ロープ挿通部材12の開放を阻止するロック機構としての役割も果たしている。
【0015】
次に、横ロープ用墜落防止器60について説明する。横ロープ用墜落防止器60は、閉止時に横ロープR2をスライド自在に挿通し、且つ開放時に横ロープR2を着脱させる開閉自在な横ロープ挿通部材62と、横ロープ挿通部材62を閉止状態にロックする横ロープ側ロック機構70と、を備えている。
横ロープ挿通部材62は、固定側分割片64と可動側分割片66とからなる管体であり、固定側分割片64に対して可動側分割片66がヒンジ部68によって開閉自在に軸支されている。固定側分割片64の一部(固定部64a)は、可動側分割片16の一部(固定部16a)に一体化されている(図6参照)。
横ロープ側ロック機構70は、固定側分割片64に固着された第一管体72(ロック用管体)と、可動側分割片66に固着されるとともに縦ロープ挿通部材12の閉止時に第一管体72と連通する第二管体74(ロック用管体)と、第一管体72及び第二管体74内をスライド自在かつ回転自在に保持されたロックピン76と、ロックピン76の軸方向中間部側面から突出したロックレバー78と、第一管体72から突出したロックピン76の一端部76a側を第二管体74から離間する方向に付勢する圧縮コイルバネからなるロックバネ80と、第一管体72と第二管体74の側面に連続的に形成されてロックレバー78を案内するレバーガイド孔82と、を備える。ロックレバー78をレバーガイド孔82に沿って移動させることにより、ロックピン76を第一管体72及び第二管体74内部にて回転させつつ軸方向にスライドさせることができる。
【0016】
図5(a)乃至(c)は、レバーガイド孔とロックピンとの関係を示した模式図である。説明の便宜上、第一管体72及び第二管体74を平面に展開して示し、またロックピン76を第一管体72及び第二管体74を分けて示している。レバーガイド孔82は、図示するように、2つのJの字をずらして並べたような形状であり、(a)に示すように、可動側分割片66の閉止時(ロック時)においてロックピン76は、第一管体72と第二管体74とに跨った状態である。
(a)の状態から、ロックレバー78をレバーガイド孔82に沿って、矢印B1のように移動させる。この操作によりロックレバー78は第一管体72から第二管体74へと移動し、ロックピン76の軸方向位置が変化するが、依然としてロックピン76は、第一管体72と第二管体74とに跨った状態である((b)の状態)。
(b)の状態から、さらにロックレバー78をレバーガイド孔82に沿って、矢印B2のように移動させる。この操作によりロックピン76の他端部76b側の掛止状態が解除される((c)の状態)。ロックレバー78を把持したまま、ヒンジ部68を中心に可動側分割片66を矢印B3方向に回転させると、横ロープ挿通部材62が開放されて、横ロープR2の脱着が可能となる(図6(b)の状態)。
【0017】
本実施形態に係る墜落防止用安全装置1においては、縦ロープ用墜落防止器10を縦ロープR1に装着した状態と横ロープ用墜落防止器60を横ロープR2に装着した状態とを択一的に切り換える切替え機構を備え、切替え機構は、横ロープ挿通部材62が開放状態にある時に作動して縦ロープ側ロック機構40のロック解除を阻止するロック解除阻止機構100を備えている。
ここで、縦ロープ用墜落防止器10と横ロープ用墜落防止器60は、固定部16aと固定部64aにおいて一体化されており、縦ロープR1と横ロープR2とを同時に装着した状態では、作業員は何れの方向にも移動することができない。従って、本実施形態に係る墜落防止用安全装置1は、昇降移動と横移動とを択一的に選択した状態にて使用するものである。なお、切替え機構は、縦ロープ用墜落防止器10及び横ロープ用墜落防止器60の開閉動作に関わる部分及び後述するロック解除阻止機構100を含む概念である。
【0018】
図6は墜落防止用安全装置の裏面図であり、(a)は横ロープ用墜落防止器が閉止した状態を示し、(b)は横ロープ用墜落防止器が開放した状態を示す図である。
ロック解除阻止機構100は、露出部32と縦ロープ挿通部材12とが形成する間隙部33(図4参照)に向けて出没移動する突出片102と、一端部を突出片102に連設され、他端部を可動側分割片66に連設されて突出片102を可動側分割片66の閉止又は開放動作に連動して動作させる作動アーム104と、突出片102の動作方向をガイドするガイド110を備えている。
突出片102は薄板状の部材であり、その先端部102aが間隙部33に挿入される。作動アーム104の両端部は夫々突出片102及び可動側分割片66に回転可能に軸支され、さらに作動アーム104は、互いに回転可能に軸支された第一アーム片106と第二アーム片108とを備える。作動アーム104は、可動側分割片66の閉止又は開放に伴う回転動作を、突出片102の直線的動作(出没動作)に変換する。すなわち、第一アーム片106と第二アーム片108は、可動側分割片66の開放動作(矢印B3方向)に伴って、突出片を間隙部33に押し込むように矢印C方向に動作する。従って、この動作が可能な機構であれば、例えば、バネ機構、ピストン機構等により構成してもよい。
【0019】
ロック解除阻止機構100の動作について説明する。
図6(a)の状態から、ロックレバー78を操作して可動側分割片66をヒンジ部68まわり(矢印B3方向)に回転させると、第一アーム片106と第二アーム片108は、突出片102を間隙部33に押し込むように位置関係を変化させながら動作する。作動アーム104の動作により突出片102は矢印C方向に移動し、先端部102aが間隙部33に挿入される((b)の状態)。
このとき、横ロープ挿通部材62が開放して横ロープR2を装着可能である。一方、突出片102の存在によりヒンジ部18における固定側円筒体24と可動側円筒体26の軸方向移動が阻止されるので、縦ロープ挿通部材12のロック解除が阻止される。このように、少なくとも突出片102が、固定側円筒体24と可動側円筒体26の軸方向移動を阻止可能な位置まで突出することにより、縦ロープ挿通部材12のロック解除を阻止、即ち開放を阻止できる。
【0020】
以上、本実施形態においては、突出片102を間隙部33内に突出させたが、第二管体44と円柱体56との間(図1、図3参照)に突出片102を突出させることにより、可動側分割片16を固定側分割片14に対して軸方向に移動させないようにする構成としても良い。
また、ロープの張設方向は、縦横に限られない。例えば、縦ロープ用墜落防止器又は横ロープ用墜落防止器の一方又は双方を傾斜面移動用の墜落防止器に変更して一体化するとともに、本実施形態に係るロープ挿通部材のロック解除阻止機構を備えることにより、本発明を傾斜面対応の安全装置としても使用することが可能である。
また、縦ロープ側ロック機構の構造を横ロープ側ロック機構に適用してもよく、また逆に縦ロープ側ロック機構の構造を横ロープ側ロック機構に適用してもよい。
以上のように、本実施形態によれば、横ロープの着脱時に縦ロープ挿通部材が開放しないので、移動方向を変更する際に作業員が無胴綱状態となることを回避できる。また、縦ロープ用墜落防止器と横ロープ用墜落防止器とを一体化したので、別途墜落防止器を携帯する必要がなく経済的である。
【0021】
〔変形例〕
第一の実施形態においては、可動側分割片の固定側分割片に対する軸方向移動を阻止することにより、縦ロープ挿通部材のロック解除を阻止する構成としたが、突出片の突出箇所を変更した以下の変形例によってもロック解除を阻止することができる。
すなわち、図3(a)に示す状態のときに突出片が一端部46a側に突出するように、ロック解除阻止機構の各部材を配置してもよい。この構成により、ロックピン46のロック解除方向への移動を阻止することができ、従って、横ロープ挿通部材62の開放時に縦ロープ挿通部材12のロック解除を阻止できる。
また、同様にして、縦ロープ挿通部材12の開放時に横ロープ挿通部材62のロック解除を阻止することができる。図5を参照して説明すると、突出片を一端部76a側に配置するとともに、突出片と可動側分割片16の適所とを作動アームにて連結して、縦ロープ挿通部材12の開閉動作に連動して突出片が出没動作するように構成してもよい。これにより、図5(a)の状態のときに突出片を一端部76a側に突出させることができ、突出片によりロックピン76のロック解除方向への移動を阻止することができ、従って、縦ロープ挿通部材12の開放時に横ロープ挿通部材62のロック解除を阻止できる。
第一の実施形態及び上記変形例は、適宜組合せて実施することが可能である。すなわち、横ロープ挿通部材62の開放時に縦ロープ挿通部材12のロック解除を阻止する機構と、縦ロープ挿通部材12の開放時に横ロープ挿通部材62のロック解除を阻止する機構と組み合わせて実施することができる。一方のロープ挿通部材が開放しているときに他方のロープ挿通部材のロック解除が阻止できるので、移動方向を変更する際に作業員が無胴綱状態となることを回避できる。
【0022】
〔第二の実施形態〕
本発明の第二の実施形態について図7に基づいて説明する。図7は、本実施形態に係る墜落防止用安全装置の一部を省略して描いた裏面図である。本実施形態においては、第一の実施形態における突出片を利用して、縦ロープ挿通部材を開放する場合における横ロープ挿通部材の開放を阻止する点に特徴がある。第一の実施形態と同一の部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
墜落防止用安全装置2は、ヒンジ部18の露出部32(不図示)に隣接する縦ロープ挿通部材12表面に、固定側分割片14と可動側分割片16とに跨って貼着されて、縦ロープ挿通部材12の開放時に突出片102の突出を阻止する突出阻止シート120が配置されている。
突出阻止シート120は、突出片102の出没動作を妨げない程度の厚さを有し、縦ロープ挿通部材12の開閉動作時における固定側分割片14と可動側分割片16のなす角度の変化に追従して弾性変形可能な部材から構成する。例えば、ゴムシート等を用いることができる。突出阻止シート120は、縦ロープ挿通部材12の開放時に、間隙部33部分において固定側分割片14と可動側分割片16との間に隙間ができることを防止する(図4参照)。
【0023】
図6(b)に示すように、横ロープ挿通部材62を開放するためには、突出部材102が固定側分割片14と可動側分割片16とに跨って、すなわち固定側分割片14と可動側分割片16とが対向する端面Dを越えて固定側分割片14側に位置する必要がある。本実施形態においては突出阻止シート120を貼着したことにより、図7に示すように、縦ロープ挿通部材12の開放時に横ロープ挿通部材62を開放しようとしても、突出片102の先端部が突出阻止シート120に当接することとなり、端面Dを越えて移動することができないため、横ロープ挿通部材62の開放が阻止される。
このように、本実施形態によれば、突出阻止シートにより、縦ロープの着脱時に横ロープ挿通部材が開放しないので、移動方向を変更する際に作業員が無胴綱状態となることを回避できる。また、第一の実施形態における突出片を利用して、縦ロープ挿通部材を開放する場合における横ロープ挿通部材の開放を阻止することができるので、部品点数が少なく経済的である。
【符号の説明】
【0024】
R1…縦ロープ、R2…横ロープ、R3…補助ロープ、1、2…墜落防止用安全装置、10…縦ロープ用墜落防止器、12…縦ロープ挿通部材、14…固定側分割片、16…可動側分割片、18…ヒンジ部、20…補助ロープ結合環、22…ガイドローラ、24…固定側円筒体、26…可動側円筒体、28…ヒンジ軸、30…圧縮コイルバネ、32…露出部、33…間隙部、34…ツマミ、40…縦ロープ側ロック機構、42…第一管体、44…第二管体、46…ロックピン、48…ロックレバー、50…ロックバネ、52…レバーガイド孔、54…ツマミ、56…円柱体、60…横ロープ用墜落防止器、62…横ロープ挿通部材、64…固定側分割片、66…可動側分割片、68…ヒンジ部、70…横ロープ側ロック機構、72…第一管体、74…第二管体、76…ロックピン、78…ロックレバー、80…ロックバネ、82…レバーガイド孔、100…ロック解除阻止機構、102…突出部材、102…突出片、104…作動アーム、106…第一アーム片、108…第二アーム片、110…ガイド、120…突出阻止シート、200…送電用鉄塔、201…縦ロープ固定金具、202…横ロープ固定金具、203…交差点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦ロープに対してスライド自在且つ着脱自在に装着される縦ロープ用墜落防止器と、横ロープに対してスライド自在且つ着脱自在に装着される横ロープ用墜落防止器と、前記縦ロープ用墜落防止器を前記縦ロープに装着した状態と前記横ロープ用墜落防止器を前記横ロープに装着した状態とを択一的に切り換える切替え機構と、を備え、前記縦ロープ用墜落防止器と前記横ロープ用墜落防止器とが一部一体化されている墜落防止用安全装置であって、
前記縦ロープ用墜落防止器は、閉止時に前記縦ロープをスライド自在に挿通し、且つ開放時に該縦ロープを着脱させる開閉自在な縦ロープ挿通部材と、該縦ロープ挿通部材を閉止状態にロックする縦ロープ側ロック機構と、を備え、
前記横ロープ用墜落防止器は、閉止時に前記横ロープをスライド自在に挿通し、且つ開放時に該横ロープを着脱させる開閉自在な横ロープ挿通部材と、該横ロープ挿通部材を閉止状態にロックする横ロープ側ロック機構と、を備え、
前記切替え機構は、前記縦ロープ挿通部材、又は前記横ロープ挿通部材の何れか一方が開放状態にある時に作動して他方のロープ挿通部材側の前記ロック機構のロック解除を阻止するロック解除阻止機構を備えていることを特徴とする墜落防止用安全装置。
【請求項2】
前記縦ロープ用墜落防止器は、固定側分割片と可動側分割片とから成り、前記固定側分割片に対して前記可動側分割片がヒンジ部によって開閉自在に軸支されており、
前記横ロープ用墜落防止器は、固定側分割片と可動側分割片とから成り、前記固定側分割片に対して前記可動側分割片がヒンジ部によって開閉自在に軸支されており、
前記横ロープ用墜落防止器の固定側分割片が前記縦ロープ用墜落防止器の可動側分割片に一体化され、
前記ロック解除阻止機構は、前記一方の墜落防止器の可動側分割片の開放時に前記他方の墜落防止器のヒンジ部に向けて突出して前記他方の墜落防止器の可動側分割片の軸方向移動を阻止する突出片を備えていることを特徴とする請求項1記載の墜落防止用安全装置。
【請求項3】
前記縦ロープ用墜落防止器は、固定側分割片と可動側分割片とから成り、前記固定側分割片に対して前記可動側分割片がヒンジ部によって開閉自在に軸支されており、
前記横ロープ用墜落防止器は、固定側分割片と可動側分割片とから成り、前記固定側分割片に対して前記可動側分割片がヒンジ部によって開閉自在に軸支されており、
前記横ロープ用墜落防止器の固定側分割片が前記縦ロープ用墜落防止器の可動側分割片に一体化され、
前記縦ロープ側ロック機構は、前記縦ロープ用墜落防止器の固定側分割片及び可動側分割片の夫々に配置されて閉止時に連通するロック用管体と前記両ロック用管体に挿通されて両分割片を開放不能にするロックピンとを備え、
前記横ロープ側ロック機構は、前記横ロープ用墜落防止器の固定側分割片及び可動側分割片の夫々に配置されて閉止時に連通するロック用管体と前記両ロック用管体に挿通されて両分割片を開放不能にするロックピンとを備え、
前記ロック解除阻止機構は、前記一方の墜落防止器の可動側分割片の開放時に前記他方の墜落防止器のロックピンに向けて突出して前記他方の墜落防止器のロックピンのロック解除方向への移動を阻止する突出片を備えていることを特徴とする請求項1記載の墜落防止用安全装置。
【請求項4】
前記ロック解除阻止機構は、前記他方の墜落防止器の可動側分割片の開放時に前記突出片の突出を阻止する突出阻止シートを前記他方の墜落防止器のヒンジ部に備えたことを特徴とする請求項2記載の墜落防止用安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−16519(P2012−16519A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156811(P2010−156811)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】