説明

壁掛け式昇降便器

【課題】あらゆる建物のトイレルームへの設置に適し、トイレスペースの空間を有効に活用でき、かつ便器の清掃を行い易い壁掛け式昇降便器を提供することにある。
【解決手段】便器20と、便器20に一端が連結された便器取付け部材21と、便器取付け部材21が取付けられると共にトイレルームの床面Fに設置可能となった昇降装置30を備え、昇降装置30をトイレルームの床面Fに設置した状態で昇降装置30を介して便器取付け部材21及び便器20をトイレルームの床面Fに対して一体に昇降させる壁掛け式昇降便器1において、使用者が便器20に着座するに伴い便器20が所定の高さから下方へ移動してトイレルームの床面Fに着地し、使用者が便器20から離座すると便器20がトイレルームの床面Fから離れて上方へ移動して所定の高さに戻る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あらゆる建物のトイレルームに設置するのに適した壁掛け式昇降便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からオフィスビルや学校、病院などに設置されるトイレには、不特定多数の人が利用する関係上、特に汚れやすい便器の底部の清掃性を高めるために壁掛け式便器が設置されることがある。このようなオフィスビルや学校、病院は、建物の躯体がコンクリートでできているため、壁掛け式昇降便器をトイレルームの側壁に頑丈な構造でしっかりと取り付けることができる。
【0003】
一方、一般的な住居用の住宅(以下、単に「住宅」とする)においても、近年、例えば昇降式便器や壁掛け式昇降便器などの様々な態様の便器が使用され始めている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0004】
住宅のトイレルームにこのような便器が設置される理由として、家屋の限られたトイレルームの空間では一つの便器を家族が共用しなければならず、成人の男性が小用を足す際に便器やトイレルームに小便が飛沫し、便器やトイレルームを汚してしまうことがあるので、このような汚れとそれに伴う清掃作業を最小限にするため昇降式便器や壁掛け式便器を用いることがあげられる。
【特許文献1】特開2001−81848号公報(2頁、図1)
【特許文献2】特開平1−235739号公報(2−3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような建物において上述したような特許文献1に記載の昇降便器や特許文献2に記載の壁掛け式昇降便器を用いた場合、以下のような不都合が生じると考えられる。
【0006】
特許文献1に記載の昇降式便器は、便器の底にジャッキやボールスクリューからなる昇降装置を備え、昇降装置を床面に固定させてこの昇降装置を介して便器を昇降させる仕組みになっている。昇降式便器がこのような構造を有すると、成人の男性の小用時における便器の使い勝手と清潔性は向上するが、例えば小さい子供がこの昇降式便器を使用した場合、子供の小用時に小便が誤って飛散し、便器の底部を伝わってこれに固定された昇降装置を汚してしまい、便器及びこの下部に備わった昇降装置の清掃が大変となる。
【0007】
一方、特許文献2に記載の壁掛け式昇降便器は便器と床面との間に常にある程度の空間を確保するようにしつつ、キャビネット内に備わった昇降装置を介して便器を昇降させている。このように常に便器の底部が床面から離れて浮いた状態にあると、便器底部の清掃性の点では優れているが、例えば使用者が成人の場合、便器に座った際に使用者の体重により便器と昇降装置との連結部(便器取り付け部)に過大なモーメントが生じてしまう。
【0008】
このような過大なモーメントに便器取り付け部と昇降装置が耐えるように、便器取付け部と昇降装置をきわめて頑丈に構成する必要がある。しかしながら、そのような便器取付け部と昇降装置を頑丈にした昇降式便器を建物内の限られたトイレスペースに設置すると、ただでさえ広さの限られたトイレスペースの空間を更に狭くしてしまう。
【0009】
また、このような便器取付け部と昇降装置を極めて丈夫にした昇降式便器を取り付ける建物の躯体はしっかりしたものでければならない。例えば建物が木造住宅であってこの場合の木造住宅を一戸建てやアパートのみならずトイレルームが木材でできたマンションのような住宅を全て含むものと考えた場合、かかる昇降式便器を例えば建物の躯体が木材でできた新しい建物に予め設置したり、中古の建物に後付け設置したりするのは構造上及び躯体の強度上難しい。
【0010】
これに加えて、上述した特許文献1に記載の昇降式便器は、同文献1の段落番号(0006)から(0010)に記載のように使用者がジャッキを介してその都度便器の昇降の高さを調整しなければならず、便器の使用時や清掃時に便器の高さが一義的に決まっているわけではない。
【0011】
また、特許文献2の壁掛け式昇降便器は、同文献2の3頁左上欄18行目から右上欄1行目に記載のように使用者が操作スイッチを用いてその都度便器を昇降させており、便器の使用時や清掃時に便器の高さが一義的に決まっているわけではない。
【0012】
そのため、両者とも例えば便器の清掃時にその都度便器を上限位置まで上昇させなくてはならず、清掃時の使い勝手が悪くなってしまう。
【0013】
本発明の目的は、あらゆる建物のトイレルームへの設置に適し、トイレスペースの空間を有効に活用でき、かつ便器の清掃性に優れた壁掛け式昇降便器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決するために、本発明にかかる壁掛け式昇降便器は、
便器と、
前記便器に一端が連結された便器取付け部材と、
前記便器取付け部材が取付けられると共にトイレルームの床面に設置可能となった昇降装置を備え、
前記昇降装置をトイレルームの床面に設置した状態で当該昇降装置を介して前記便器取付け部材及び便器をトイレルームの床面に対して一体に昇降させる壁掛け式昇降便器において、
使用者が前記便器に着座するに伴い当該便器が所定の高さから下方へ移動してトイレルームの床面に接地し、
使用者が前記便器から離座すると当該便器がトイレルームの床面から離れて上方へ移動して所定の高さに戻ることを特徴としている。
【0015】
便器の非使用時に便器の底部が常に床面から離れているので、特に汚れが付着しやすい便器の底部を清掃し易い。
【0016】
また、使用者が便器に着座すると便器が昇降装置を介して下降し、便器の底部が床面に接地して使用者の全体重を便器の底部を介して床面で受けることができるので、昇降装置や便器取付け部材に使用者の体重による過大なモーメントが生じることがない。その結果、昇降装置や便器取付け部材の強度をさほど必要とすることなく、構造の簡略化と全体の大きさの小型化を図ることができる。そのため、あらゆる建物のトイレルームに簡単に設置することが可能となる。特に、躯体が木材でできた木造住宅のトイレルームに昇降式便器を設置する場合、従来技術で説明した構造の頑丈な昇降式便器では躯体としての木材が強度上耐えることができず、従来技術では設置が難しかったが、本発明による壁掛け式昇降便器によると躯体が木材でできた木造住宅であってトイレルームに前もって又は後付けで簡単に設置することができると共に、木造住宅の限られた広さのトイレルームに設置してもトイレルームの残りの空間を広く確保できる。
【0017】
なお、ここで言う木造住宅とは、いわゆる一戸建てやアパートのような木造住宅に限定されず、鉄筋のマンション等であってもトイレルーム内が木材でできた住宅も含んでいる。
【0018】
また、本発明の請求項2に記載の壁掛け式昇降便器は、請求項1に記載の壁掛け式昇降便器において、
前記便器の所定の高さは、床面から前記便器の底面までの距離が10mm〜150mmの範囲内で規定されることを特徴としている。
【0019】
便器の所定の高さの下限値を床面から便器の底面までの距離10mmで規定することで、清掃時にこの隙間に例えば清掃者の手やモップなどの清掃用具を入れることができ、清掃作業を確実に行うことが可能となる。
【0020】
また、便器の所定の高さの上限値を床面から便器の底面までの距離150mmで規定することで、昇降便器に必要とされる特別な構造の排水装置や排水用蛇腹管などを過度に複雑化させることなく、かつ排水用蛇腹管の過度の伸びを防止することができる。
【0021】
また、本発明の請求項3に記載の壁掛け式昇降便器は、請求項1又は請求項2に記載の壁掛け式昇降便器において、
前記昇降装置は、前記便器が下降する速度を抑制するダンパーを備えたことを特徴としている。
【0022】
使用者が便器に着座した後、便器がダンパーを介してゆっくりと下降して床面に接地するので、便器自体の破損を防止できる。また、床面がタイル張り場合にタイルの破損を防止することができる。
【0023】
また、ダンパーを介して便器がゆっくりと下降することで着座者を驚かせることがないので、便器に安心して着座することができる。また、ダンパーを介して便器が下降することで便器が床面に接地したときに音が発生するのを防止する。
【0024】
また、本発明の請求項4に記載の壁掛け式昇降便器は、
前記便器取付け部材の少なくとも一部と前記昇降装置を収納したキャビネットを備えた請求項1乃至請求項3の何れかに記載の壁掛け式昇降便器において、
前記キャビネットの前記便器側に化粧板を配設し、
前記便器の昇降時に当該便器側から見て前記キャビネットに開口部を生じさせることなく当該便器が昇降するようになったことを特徴としている。
【0025】
キャビネットにこのような化粧板を設けることで、便器の昇降状態の如何に関わらず、便器側から見てキャビネットに開口部を形成させずに済む。これによって、キャビネットの見栄えを向上させると共に、開口部からキャビネット内にゴミや埃が溜まるのを防止することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、あらゆる建物のトイレルームへの設置に適し、トイレスペースの空間を有効に活用でき、かつ便器の清掃性に優れた壁掛け式昇降便器を提供することができる。
【0027】
より具体的には、便器の非使用時に便器の底部が常に床面から離れているので、特に汚れが付着しやすい便器の底部を清掃し易い。
【0028】
また、使用者が便器に着座すると便器が昇降装置を介して下降し、便器の底部が床面に接地して使用者の全体重を便器の底部を介して床面で受けることができるので、昇降装置や便器取付け部材に使用者の体重による過大なモーメントが生じることがない。その結果、昇降装置や便器取付け部材の強度をさほど必要とすることなく、構造の簡略化と全体の大きさの小型化を図ることができる。そのため、あらゆる建物のトイレルームに簡単に設置することが可能となる。特に、躯体が木材でできた木造住宅のトイレルームに昇降式便器を設置する場合、従来技術で説明した構造の頑丈な昇降式便器では躯体としての木材が強度上耐えることができず、従来技術では設置が難しかったが、本発明による壁掛け式昇降便器によると躯体が木材でできた木造住宅であってトイレルームに前もって又は後付けで簡単に設置することができると共に、木造住宅の限られた広さのトイレルームに設置してもトイレルームの残りの空間を広く確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態にかかる壁掛け式昇降便器について図面に基づいて説明する。
【0030】
本発明の一実施形態にかかる壁掛け式昇降便器1は、あらゆる建物のトイレルームに簡単に設置できる壁掛け式昇降便器で、図1に示すように、トイレルームの床面Fに設置するキャビネット10と、キャビネット10の前板13に沿って上下に昇降可能な便器20を備えている。なお、便器20は例えば陶器でできており、キャビネット10は例えば樹脂又は木材でできている。
【0031】
便器20にはその背面に例えば金属でできた便器取付け部材21の一端が取り付けられ、便器取付け部材21の他端はキャビネット内部に延在している。
【0032】
キャビネット内には、便器20から延在した便器取付け部材21の他に昇降装置30が備わっている。この昇降装置30は、底部に設けられたベース板31と、ベース板31から上方向に突出して取り付けられた昇降部32を備え、昇降部32は下降した便器20を弾性力で再び上昇させるスプリング33と、便器20をゆっくり下降させるダンパー34を備え、昇降部32の上端部が便器取付け部材21に固定され、スプリング33及びダンパー34を介して便器20が昇降するようになっている。
【0033】
なお、ベース板31はここでは図示しないボルトなどの締結具を介してその四隅がトイレルームの床面Fに簡単に固定可能となっている。また、他の態様として、ここでは図示しないが、ベース板31を床面Fと壁面Wの両方に固定することも可能である。このような構造をとることにより、昇降式壁掛け便器の躯体強度を向上させることができる。
【0034】
また、ダンパー34には油圧ダンパー、水圧ダンパー、空気圧ダンパーなどのダンパーが用いられている。
【0035】
便器20には、ここでは図示しない蛇腹管又はたけのこ状のテレスコープタイプの伸縮自在な排水管が備わっており、便器20と床下の排水管(図示せず)とを連結している。
【0036】
なお、蛇腹管又はテレスコープタイプの伸縮自在な排水管を用いることで、便器20の昇降位置に関わらず、常に良好な排水性能をこの壁掛け式昇降便器1が発揮するようになっている。
【0037】
そして、本実施形態の場合、便器20は、使用者が着座していないときには、便器20の底部20aと床面Fとの隙間Hが100mm程度になる上限位置の高さを保っている。
【0038】
キャビネット10は、天板11と、二枚の側板12と、便器側の前板13から構成されており、昇降装置30や便器取付け部材21を内部に収容し、これらが外部から見えないようにして壁掛け式昇降便器1の見栄えを向上させると共に、キャビネット内に外部からゴミや粉塵が極力侵入しないようになっている。
【0039】
なお、前板13には、ここでは図示しないが、便器取付け部材21が便器20と共に昇降するのを妨げないように適当な長さのスリットを形成して、便器取付け部材21がこのスリットを通してキャビネット内に延在するようになっている。
【0040】
また、便器20は使用者が着座すると、着座した使用者(以下、この場合を「着座者」とする)を乗せたまま、ダンパー34を介してゆっくりと下降し、やがては図2に示すように便器20の底部20aが床面Fにゆっくりと接地するようになっている。
【0041】
そして、着座者が用を足して便器20から立ち上がると、図3に示すように、スプリング33の弾性復元力によって、便器20が再び上述した上限位置に戻るようになっている。
【0042】
続いて、上述した構成を有する壁掛け式昇降便器1の作用について、図1乃至図3に基いて説明する。図1は、使用者が便器20に着座していない状態を示し、便器20の底部20aとトイレルームの床面Fとが、本実施形態の場合、常に約100mm程度の隙間を生じており、そして、この隙間に清掃者の手やモップ等の清掃用具を入れることで特に汚れやすい便器20の底部20aやこれに対応する床面Fを簡単に清掃することができる。
【0043】
そして、便器20に使用者が着座すると、便器20は着座者と共にダンパー34を介してゆっくりと下降し、やがて便器20の底部20aがトイレルームの床面Fに接地する。なお、ダンパー34がない場合、便器20の下降スピードが速く着座者に恐怖心を与える場合があるが、この壁掛け式昇降便器1の場合、ダンパー34を介してゆっくりと下降するので、このような恐怖心を着座者に与えることもない。
【0044】
なお、使用者が便器20に座らない限り便器20は常に上限位置にあるので、使用者が男性で小用を足すときは、小水の飛沫による便器20やトイレルームの汚れを最小限にすることができる。また、便器20が床Fから比較的高い上限位置にあるため、高齢者や体の不自由な人が着座し易く使い易い。
【0045】
このようにダンパー34を介して便器20の底部20aがトイレルームの床面Fにゆっくりと接地するので、例えば陶器でできた便器20の底部20aを破損させずに済む。
【0046】
また、床面Fがタイル張りのようなトイレルームにおいては、便器20の底部20aが床面Fにゆっくりと接地することでタイルの破損を防止することができる。これに加えて、便器20と床Fが接触する際に音が発生しないようにできる。また、ダンパーを介して便器がゆっくりと下降することで着座者を驚かせることがないので、便器に安心して着座することができる。
【0047】
そして、着座者が便器20を使用中には、便器20の底部20aが床面Fに接地して、着座者の体重と便器20の重量を床面Fで全て受けることができるので、便器取付け部材21と昇降装置30に過大なモーメントが発生することはない。
【0048】
従って、便器取付け部材21や昇降装置30の構造を小型化、かつ単純化でき、どのような建物のトイレルームにも簡単に設置することができると共に、限られたスペースのトイレルームに設置しても残りのスペースを十分広く取ることができる。
【0049】
また、この壁掛け式昇降便器1を特に新築の木造住宅のトイレルームに予め設置する場合や中古の木造住宅のトイレルームをリフォームして設置する場合、躯体が木材でできて強度的に十分なものでなくても簡単に設置することができると共に長期間にわたって使用し続けることができる。なお、この場合の木造住宅とは、いわゆる一戸建てやアパートのような木造住宅に限定されず、鉄筋のマンション等であってもトイレルーム内が木材でできた住宅も含む。
【0050】
続いて、着座者が用を足し終えて便器20から立ち上がると、便器20はスプリング33の復元力によってゆっくりと上昇し、初期の高さ即ち便器20の底部20aと床面Fとの隔間(距離)Hが約100mm程度になる高さまで上昇する。これによって、再び便器20の底部20aやこれに対応する床面Fの清掃を行い易くする。
【0051】
なお、便器20はダンパー34を介してゆっくりと上昇するので、便器20から立ち上がった使用者の臀部に便器20が急激にぶつかることなく、使用者に不快感を与えることはない。
【0052】
また、便器20の上限位置をこの程度の高さにすることで、便器20に接続された蛇腹管やテレスコープタイプの排水管の構造を簡略化できると共に、便器20の上限位置において蛇腹管や排水管が伸び過ぎるのを防止する。
【0053】
また、昇降装置30のベース板31は、上述したようにボルトでトイレルームの床面Fに設置される代わりに、ブラケットを介して床面Fに設置されても良い。
【0054】
また、キャビネット10は、その背面が必ずしもトイレルームの壁面Wに当接している必要はなく、これらの間に隙間があっても良く、又はトイレルームの壁面Wにキャビネット10の外形に対応する開口部を設け、キャビネット10の一部又は全部がトイレルームの壁面Wに入り込むようにしても良い。
【0055】
また、便器20の上限位置は壁掛け式昇降便器1をトイレルームの床面Fに設置した状態で便器20の底部20aと床面Fとの隔間Hが10mm〜150mm程度となっているのが良い。
【0056】
便器20の上昇位置の下限値を隔間Hが10mm程度と規定することで、便器20の底部20aと床面Fとの間に清掃者の手やモップ等の清掃用具を入れて便器20の底部20aとこの真下の床面Fをしっかりと清掃することができる。
【0057】
なお、厚さの薄いモップを用いて清掃することもあるので、この場合の下限値を規定している隔間Hの10mmとは厳密な意味での10mmに限定されるものではなく、これより若干小さい値であっても良いことは言うまでもない。
【0058】
また、便器20の上限位置の上限値を隔間Hが150mm程度と規定することで、排水装置や、いわゆるテレスコープタイプの排水管、蛇腹管などの構造の簡略化を図り、壁掛け式昇降便器1の構造の単純化及び小型化を図ることができる。従って、例えば特開平10−195962号公報に示すような複雑な構造の排水装置や蛇腹管を設ける必要もない。
【0059】
これによって、テレスコープタイプの排水管や蛇腹管の過度の伸びを防止し、このような伸縮部分の破損を防止できる。
【0060】
また、便器20の底部20a又はこの部分が接する床面Fとの少なくとも何れか一方にゴム等でできたクッション材を取り付けても良い。
【0061】
これによって、便器20が下降して床面Fに接地する際の衝撃から便器20の底部20aや床面Fをよりしっかり保護することができる。
【0062】
続いて、本発明にかかる上述の実施形態の変形例について説明する。なお、上述の実施形態と同等の構成については、対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
【0063】
この変形例にかかる壁掛け式昇降便器2は、図4に示すようにキャビネット100に特別な構成を有している。
【0064】
キャビネット100は、天板110と二枚の側板120と、便器20の背面に備わった化粧板130と、化粧板130の下部に一部接して備わった下板140を有し、上述の実施形態と同様に、便器20を昇降させる昇降装置30と、便器20と昇降装置30を連結する便器取付け部材21を内部に収容している。
【0065】
天板110は、便器側端部の下方に垂下して垂下部111を形成しており、図5に示すように便器20が下降して床面Fに接地した状態においても、便器側から見て便器上限位置で化粧板130と一部重なり合い、天板110の垂下部111と化粧板130の上部131との間に開口部が生じないようになっている。
【0066】
また、下板140は、側面視でL字型を有し、その後端部141が昇降装置30のベース板31と接し、立ち上がり部をなす前面142が便器20の上限位置においても化粧板130の下部132の一部と重なり合い、便器側から見て化粧板130と下板140との間に開口部が生じないようになっている。
【0067】
また、天板110の垂下部111と化粧板130の上部131との間には厚さ方向に僅かな隙間が形成され、かつ下板140の前面142と化粧板130の下部132とは摺動可動となっており、便器20の昇降に関して抵抗を与えないようになっている。
【0068】
なお、便器20や便器取付け部材21、昇降装置30の構成は上述の実施形態と同等の材質ででき、同等の構成を有している。
【0069】
そして、この変形例にかかる壁掛け式昇降便器2は、上述した実施形態と同等の作用を有している。即ち、壁掛け式昇降便器2の非使用時には、図4に示すよう、便器20の底部20aとの隙間Hが床面Fから常に100mm程度となっており、清掃者の手やモップ等の清掃用具をこの隔間Hに入れて便器20の底部20aやこの直下の底面Fを清掃し易くしている。
【0070】
また、使用者が着座すると、便器20がダンパー34を介してゆっくりと下降し、便器20の底部20aが床面Fに静かに接地する。このダンパー34の作用によって、便器20が破損することはない。ダンパー34がない場合、便器20の下降スピードが速く着座者に恐怖心を与える場合があるが、この壁掛け式昇降便器の場合、ダンパー34を介してゆっくりと下降するので、このような恐怖心を着座者に与えることがない。また、ダンパー34により便器20と床Fが接触する際に音が発生しないようにできる。
【0071】
また、使用者の全体重を便器20を介して床面Fで受けるので、昇降装置30や便器取付け部材21の構造を小型化及び簡略化できる。その結果、壁掛け式昇降便器2の小型化を図ることができ、どのような建物のトイレルームにも簡単に設置でき、かつ昇降装置30や便器取付け部材21の専有スペースが小さいので、このようなトイレルームを広く利用することができる。特に、躯体が木材でできて強度的に十分強いとは言えない新築木造住宅のトイレルームに補強用の特別な施工を行うことなく予め簡単に設置したり、中古の木造住宅のトイレルームに補強用の特別な施工を行うことなく簡単に後付け設置したりできる。
【0072】
そして、着座者が離座すると、図6に示すように便器20がスプリング33及びダンパー34を介して再びゆっくり上昇し、便器20の底部20aと床面Fとの間隔が100mm程度あく上限位置で停止する。これによって、清掃者は再びいつでも便器20の底部20aとその直下の床面Fを清掃することができる。
【0073】
また、この変形例にかかる壁掛け式昇降便器2は、キャビネット100が上述のような構成を有していることによって、上述した実施形態の作用に加えて以下の作用を有している。
【0074】
具体的には、図4に示すように、便器20が上限位置にあるときは、便器側から見て化粧板130の上部131と天板110の垂下部111が重なり合うと共に、化粧板130の下部132と下板140の前面142が重なり合っているので、便器側から見てキャビネット100と化粧板130との間に開口部が生じることはない。
【0075】
また、便器20が、図5に示すように、着座者とともに下降している最中も化粧板130の上部131と天板110の垂下部111は重なり合い、かつ化粧板130の下部132と下板140の前面142は重なり合っているので、キャビネット100と化粧板130との間に開口部が生じることはない。また、図6に示すように、便器20が床面Fに接地したときも、化粧板130の上部131と天板110の垂下部111は僅かに重なり合い、かつ化粧板130の下部132と下板140の前面142は重なり合って、キャビネット100と化粧板130との間に開口部が生じることがない。
【0076】
そのため、壁掛け式昇降便器2の使用状態の如何に関わらず、キャビネット100と化粧板130との間に開口部を生じさせない。これによって、壁掛け式昇降便器2の見栄えを良くすると共に、このような開口部を介してゴミや埃がキャビネット内に入り込んで昇降装置30の機能を害したり、キャビネット100を分解してキャビネット内部を清掃するなどの余分な清掃作業を行ったりする必要はない。
【0077】
なお、本発明における壁掛け式の昇降便器の「壁掛け式」の用語は、厳密な意味でのトイレルームの壁面のみを指すのでなく、本実施形態のキャビネットに備わった立て板としての化粧板をその壁の意味合いに含むことは言うまでもない。
【0078】
以上説明したように、本発明にかかる壁掛け式昇降便器は、便器の非使用時に便器の底部が常に床面から離れているので、特に汚れが付着しやすい便器の底部及びこの直下の床面を清掃し易い。
【0079】
また、使用者が便器に着座すると便器が昇降装置を介して下降し、便器の底部が床面に接地して使用者の全体重を便器の底部を介して床面で受けることができるので、昇降装置や便器取付け部材に使用者の体重による過大なモーメントが生じることがない。その結果、昇降装置や便器取付け部材の強度をさほど必要とすることなく、構造の簡略化と全体の大きさの小型化を図ることができる。そのため、あらゆる住宅のトイレルームに簡単に設置することが可能となる。特に、躯体が木材でできた木造住宅のトイレルームの場合、従来技術で説明した構造の頑丈な昇降式便器では躯体としての木材がこれを設置する強度上耐えることができないが、本発明による壁掛け式昇降便器によると躯体が木材でできた木造住宅であってトイレルームに前もって又は後付けで簡単に設置することができると共に、木造住宅の限られた広さのトイレルームに設置してもトイレルームの残りの空間を広く確保できる。
【0080】
また、便器の所定の高さの下限値を床面から便器の底面までの距離が10mmで規定することで、清掃時にこの隙間に例えば清掃者の手やモップなどの清掃用具を入れることができ、清掃作業を確実に行うことが可能となる。
【0081】
また、便器の所定の高さの上限値を床面から便器の底面までの距離が150mmで規定することで、昇降便器に必要とされる特別な構造の排水装置や排水用蛇腹管などを過度に複雑化させることなく、かつ排水用蛇腹管の過度の伸びを防止することができる。
【0082】
また、使用者が便器に着座した後、便器がダンパーを介してゆっくりと下降して床面に接地するので、便器自体の破損を防止できる。また、床面がタイル張り場合にタイルの破損を防止することができる。
【0083】
また、ダンパーを介して便器がゆっくりと下降することで着座者を驚かせることがないので、便器に安心して着座することができる。また、ダンパーを介して便器が下降することで便器が床面に接地したときに音が発生するのを防止する。
【0084】
また、ダンパーを介して便器がゆっくりと下降することで着座者を驚かせることがないので、使用者が便器に安心して着座することができる。
【0085】
また、キャビネットにこのような化粧板を設けることで、便器の昇降状態の如何に関わらず、便器側から見てキャビネットに開口部を形成させずに済む。これによって、キャビネットの見栄えを向上させると共に、開口部からキャビネット内にゴミや埃が溜まるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の一実施形態にかかる壁掛け式昇降便器の非使用状態をキャビネットの一部をハッチングを除く断面で示す側面図である。
【図2】図1に示した壁掛け式昇降便器に着座者が着座して壁掛け式昇降便器を使用している状態を示す側面図である。
【図3】図2に示した壁掛け式昇降便器から着座者が立ち上がった後の状態を示す側面図である。
【図4】本発明の一実施形態の変形例を示す図であり、図1に対応した側面図である。
【図5】本発明の一実施形態の変形例を示す図であり、図2に対応した側面図である。
【図6】本発明の一実施形態の変形例を示す図であり、図3に対応した側面図である。
【符号の説明】
【0087】
1,2 壁掛け式昇降便器
10 キャビネット
11 天板
12 側板
13 前板
20 便器
20a 底部
21 便器取付け部材
30 昇降装置
31 ベース板
32 昇降部
33 スプリング
34 ダンパー
100 キャビネット
110 天板
111 垂下部
120 側板
130 化粧板
131 上部
132 下部
140 下板
141 後端部
142 前面
F 床面
H 隙間
W 壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器と、
前記便器に一端が連結された便器取付け部材と、
前記便器取付け部材が取付けられると共にトイレルームの床面に設置可能となった昇降装置を備え、
前記昇降装置をトイレルームの床面に設置した状態で当該昇降装置を介して前記便器取付け部材及び便器をトイレルームの床面に対して一体に昇降させる壁掛け式昇降便器において、
使用者が前記便器に着座するに伴い当該便器が所定の高さから下方へ移動してトイレルームの床面に接地し、
使用者が前記便器から離座すると当該便器がトイレルームの床面から離れて上方へ移動して所定の高さに戻ることを特徴とする壁掛け式昇降便器。
【請求項2】
前記便器の所定の高さは、床面から前記便器の底面までの距離が10mm〜150mmの範囲内で規定されることを特徴とする、請求項1に記載の壁掛け式昇降便器。
【請求項3】
前記昇降装置は、前記便器が下降する速度を抑制するダンパーを備えたことを特徴とする、請求項1に記載の壁掛け式昇降便器。
【請求項4】
前記便器取付け部材の少なくとも一部と前記昇降装置を収納したキャビネットを備えた請求項1乃至請求項3の何れかに記載の壁掛け式昇降便器において、
前記キャビネットの前記便器側に化粧板を配設し、
前記便器の昇降時に当該便器側から見て前記キャビネットに開口部を生じさせることなく当該便器が昇降するようになったことを特徴とする壁掛け式昇降便器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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