説明

壁面緑化パネル

【課題】極めて軽量でコンパクトな構造としながら植物を簡単かつ容易に植え付けして、理想的な環境で灌水する。
【解決手段】壁面緑化パネルは、繊維が所定の厚さに立体的に集合されて、繊維の間にできる微細な空隙によって、通水性と保水性とを実現してなる繊維マットプレート1を備えている。この繊維マットプレート1は、前面に開口して、植物Sを植え付けして保持する複数の植付保持穴2を備えている。壁面緑化パネルは、植付保持穴2に植え付けられる植物Sの根に繊維マットプレート1から水を補給している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、建物の外壁や屋内の壁、建物の塀などの傾斜面または垂直面である壁面に植物を植え付けするのに使用される植生基盤用の壁面緑化パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
建物の壁面に植物を植え付けする最も一般的な構造は、壁面に所定の間隔で多数の植木鉢を固定して、植木鉢に植物を植え付けする構造である。この構造は、壁面から植木鉢が突出すると共に、各々の植木鉢に灌水するのに手間がかかる欠点がある。この欠点を解消して平面状の壁面に植物を植え付けする壁面緑化パネルが開発されている。(特許文献1及び2参照)
【0003】
特許文献1の壁面緑化パネルは、図1に示すように、内部に第1の空隙81および第2の空隙82を設けて、表面には第1の空隙81または第2の空隙82につながる複数の貫通孔83を設けている中空状のベース体80を備える。植物Sは、根側を第1の空隙81内に収納して、先端側を貫通孔83に挿通してベース体80の表面から突出するよう植え付けしている。さらに、この壁面緑化パネルは、第1の空隙81に植物Sを植え付けして緑化部85として、第2の空隙82を吸音部86としている。緑化部85には、長尺なマット材84を固定して、このマット材84に植物Sの根を植え付けしている。マット材84は、不織布にメッシュシートを積層したもので、植物Sの根を不織布とメッシュシートとの間に挟み込む状態として、マット材84に植え付けしている。
【0004】
さらに、特許文献2の壁面緑化パネルは、図2の断面図に示すように、壁面に保水力の大きい保水マット91をアンカーボルト92で固定して、保水マット91の表面に植物Sを植え付けるポーラスコンクリートからなる緑化基盤93を重ね合わせて、緑化基盤93の表面を覆う金網96の四隅をアンカーボルト97で壁90に固定して、保水マット91に押し付けるようにして緑化基盤93を取り付けている。保水マット91の上縁に沿って、多数の点滴孔95をもつ潅水管94を配管して、この潅水管94で保水マット91を介して緑化基盤93に給水している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−248393号公報
【特許文献2】特開2002−77号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1と図2に示す壁面緑化パネルは、植物の植え付けに手間がかかると共に、植え付けした植物に理想的な状態で灌水するのが難しい欠点がある。とくに、図1の壁面緑化パネルは、植物の根を内部の空隙に固定しているマット材に植え付けして、表面の貫通孔に挿通して栽培するので、植物の植え付けに極めて手間がかかる欠点がある。さらに、植え付けした植物が枯渇すると、新しい苗の植え付けにはさらに手間がかかる欠点がある。図2の壁面緑化パネルは、ポーラスコンクリートに植え付けするので、植物を理想的な環境で生育できず、また、植え付けにも手間がかかると共に、重量物であるため簡単かつ容易に施工できない欠点がある。
【0007】
本発明は、さらにこの欠点を解決することを目的に開発されたものである。本発明の重要な目的は、極めて軽量でコンパクトな構造としながら植物を簡単かつ容易に植え付けして、理想的な環境で灌水できる壁面緑化パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
本発明の壁面緑化パネルは、繊維が所定の厚さに立体的に集合されて、繊維の間にできる微細な空隙によって、通水性と保水性とを実現してなる繊維マットプレート1を備えている。この繊維マットプレート1は、前面に開口して、植物Sを植え付けして保持する複数の植付保持穴2を備えている。壁面緑化パネルは、植付保持穴2に植え付けられる植物Sの根に繊維マットプレート1から水を補給している。
【0009】
以上の壁面緑化パネルは、極めて軽量でコンパクトな構造としながら植物を簡単かつ容易に植え付けして、理想的な環境で灌水できる特長がある。それは、本発明の壁面緑化パネルが、繊維を所定の厚さに立体的に集合して通水性と保水性とを実現している繊維マットプレートに複数の植付保持穴を設けており、これらの植付保持穴に植え付けられる植物の根に繊維マットプレートから水を補給するからである。この壁面緑化パネルは、繊維マットプレートの前面に開口してなる植付保持穴に植物を植え付けるので、極めて簡単に繊維マットプレートに植物を植え付けできる。さらに、この壁面緑化パネルは、通水性と保水性を有する繊維マットプレートから植物の根に水を供給するので、外部から供給される水分を理想的な環境で植物に供給して、植物を理想的に生育できる。
【0010】
本発明の壁面緑化パネルは、繊維マットプレート1を、繊維を所定の厚さに立体的に集合して繊維の間にできる微細な空隙で通水性と保水性とを実現してなる複数のマット層11の積層体で構成し、複数のマット層11に貫通して植付保持穴2を設けることができる。
この壁面緑化パネルは、複数のマット層を積層して繊維マットプレートとするので、積層するマット層の枚数を種々に変更して、簡単に繊維マットプレートの厚さを調整できる。したがって、壁面緑化パネルの設置条件や設置環境、生育する植物の種類等に応じて最適な厚さの繊維マットプレートを簡単かつ容易に製造できる。
【0011】
本発明の壁面緑化パネルは、積層してなる複数のマット層11の繊維の集合密度を、異なる密度とすることができる。
この壁面緑化パネルは、繊維の集合密度の異なる複数のマット層を積層して繊維マットプレートとするので、より理想的な状態で植物の根に水分を供給できる。
【0012】
本発明の壁面緑化パネルは、複数のマット層11を、外周面に接着してなる固定シート5で固定することができる。
この壁面緑化パネルは、複数のマット層の外周面を固定シートで接着して繊維マットプレートとするので、複数のマット層を、簡単かつ容易に、しかも確実に積層状態に連結できる。さらに、この壁面緑化パネルは、複数のマット層からなる繊維マットプレートの外周面に固定シートを接着するので、壁面緑化パネルをきれいな外観としながら、繊維マットプレートの外周面から植物の根が外側に伸びるのを固定シートで抑制できる。
【0013】
本発明の壁面緑化パネルは、複数のマット層11を、非接着状態で積層することができる。
この壁面緑化パネルは、複数のマット層を接着することなく、すなわち、互いの境界面に接着層を設けることなく複数のマット層を積層するので、積層されるマット層の境界部分において、接着層で水の拡散が阻止されることがない。このため、接着層による根の生育抑制がなく、また水分の移行もスムーズになって植物を好ましい環境で生育できる特徴がある。
【0014】
本発明の壁面緑化パネルは、繊維マットプレート1の厚さを、3cm以上とすることができる。また、本発明の壁面緑化パネルは、繊維マットプレート1の厚さを、10cmよりも薄くすることができる。
この壁面緑化パネルは、植物を植付保持穴に挿入して安定して保持しながら、好ましい環境で生育できる。
【0015】
本発明の壁面緑化パネルは、繊維マットプレート1が、繊維の交点をバインダーで結合することができる。
繊維の交点をバインダーで結合している繊維マットプレートは、繊維を強固に結合して、繊維マットプレートの強度を向上できる。このため、植付保持穴に挿入している植物を安定に保持できる。
【0016】
また、本発明の壁面緑化パネルは、繊維マットプレート1を、ニードルパンチによって繊維を結合することができる。
ニードルパンチで繊維を結合している繊維マットプレートは、安価に多量生産できる。
【0017】
本発明の壁面緑化パネルは、繊維マットプレート1の植付保持穴2を、前面に向かって上り勾配に傾斜することができる。
この壁面緑化パネルは、植付保持穴に挿入されて植え付けられる植物を、植付保持穴から落下しないように安定して保持できる特長がある。
【0018】
本発明の壁面緑化パネルは、繊維マットプレート1が、前面に積層してなるマット層11の貫通孔12の下側内面12Aを、背面に積層してなるマット層11に設けている貫通孔12の下側内面12Aより上方に配置することができる。
この壁面緑化パネルは、積層されるマット層の背面側から前面側に向かって貫通孔の下側内面を上方に配置するので、実質的に繊維マットプレートの植付保持穴を背面から前面に向かって上向きに設けて、植付保持穴に挿入されて植え付けられる植物を、植付保持穴から落下しないように安定して保持できる特長がある。とくに、この繊維マットプレートは、前後に積層される複数のマット層にそれぞれ貫通孔を設けた後、これらの貫通孔の下側内面の位置をずらしながら積層することで、簡単に植付保持穴を上向きに設けることができる。また、積層している各々の繊維マットプレートに、垂直に植付保持穴を設けながら、複数のマット層を積層する状態では植付保持穴を前面に向かって上り勾配に傾斜できる。このため、繊維マットプレートにトムソン刃などで簡単に植付保持穴を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来の壁面緑化パネルの斜視図である。
【図2】従来の他の壁面緑化パネルの断面図である。
【図3】本発明の一実施例にかかる壁面緑化パネルの斜視図である。
【図4】図3に示す壁面緑化パネルを下側から見た底面斜視図である。
【図5】図3に示す壁面緑化パネルのV−V線断面図である。
【図6】図3に示す壁面緑化パネルの分解斜視図である。
【図7】図5に示す壁面緑化パネルに植物を植え付けた状態を示す断面図である。
【図8】図3に示す壁面緑化パネルで壁面を緑化する状態を示す斜視図である。
【図9】本発明の他の実施例にかかる壁面緑化パネルの断面図である。
【図10】図9に示す壁面緑化パネルの分解斜視図である。
【図11】図9に示す壁面緑化パネルに植物を植え付けた状態を示す断面図である。
【図12】図9に示す壁面緑化パネルに植物を植え付ける状態を示す斜視図である。
【図13】本発明の他の実施例にかかる壁面緑化パネルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための壁面緑化パネルを例示するものであって、本発明は壁面緑化パネルを以下のものに特定しない。
【0021】
さらに、この明細書は、特許請求の範囲を理解しやすいように、実施例に示される部材に対応する番号を、「特許請求の範囲」および「課題を解決するための手段の欄」に示される部材に付記している。ただ、特許請求の範囲に示される部材を、実施例の部材に特定するものでは決してない。
【0022】
図3ないし図7に示す壁面緑化パネルは、繊維を立体的に集合している繊維マットプレート1を備えている。この繊維マットプレート1は、植物Sを植え付けして保持する複数の植付保持穴2を前面に開口して設けている。この壁面緑化パネルは、図8に示すように、建物の壁面30に垂直な姿勢で固定され、あるいは、フェンスや金網等に垂直な姿勢で固定されて、植付保持穴2に植え付けられる植物Sを生育させて壁面30を緑化する。
【0023】
繊維マットプレート1は、繊維を所定の厚さに立体的に集合したもので、繊維の間にできる微細な空隙によって、通水性と保水性とを実現している。通水性と保水性を有する繊維マットプレート1は、外部から供給される水を透過させながら蓄えて、前面に開口された植付保持穴2に植え付けされる植物Sの根に水を補給して植物を生育させる。繊維マットプレート1は、合成繊維で編組みされた織布の廃棄屑から分離された廃棄繊維を立体的に集合して、所定の圧力でプレスして廃棄繊維の間に無数の空隙ができる状態で廃棄繊維の交点をバインダーで結合したものである。
【0024】
繊維マットプレート1は、縫製工場で多量に発生している織布の切れ端である廃棄屑を有効利用して製造される。織布の廃棄屑は、開繊して繊維状に加工できる。ただ、繊維マットプレートは、廃棄屑から開繊した繊維だけでなく、バージン繊維を含有させることができるのは言うまでもない。開繊は、たとえば、織布の廃棄屑を表面から針で引っかいて繊維状に加工する。ただ、本発明は、廃棄屑を繊維状に分離する方法を特定しない。廃棄屑を廃棄繊維に加工する方法は、現在使用され、あるいはこれから開発される全ての方法を利用できる。
【0025】
繊維マットプレート1は、合成繊維を含む織布の廃棄屑を利用する。廃棄屑に含まれる合成繊維は、ポリエステル系合成繊維、たとえばテトロン(登録商標)が適している。ポリエステル系合成繊維は、強靭性で耐久性に富み、しかも耐薬品性に優れているので、長期間安定して使用できる。したがって、廃棄屑には、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、最適には80重量%以上のポリエステル系合成繊維を含むものを使用する。ただ、廃棄屑には、ポリアミド系合成繊維やポリアクリル系合成繊維等の合成繊維、あるいは、天然繊維のものも使用できる。
【0026】
繊維状に分離された廃棄繊維は、繊維の方向が揃わないように、方向性なく所定の厚さに集合する。繊維の交点をバインダーで結合する繊維マットプレートは、廃棄繊維を結合するために、バインダー繊維を添加する。バインダー繊維には、低融点のポリエステル繊維を使用する。ただし、バインダー繊維には、低融点のポリエステル繊維以外の繊維、すなわち、廃棄繊維よりも低融点の繊維が使用できる。バインダー繊維の添加量は、全体の5〜30重量%とする。バインダー繊維の添加量が少ないと、廃棄繊維を充分に結合できなくなる。バインダー繊維の添加量が多すぎると、廃棄繊維の間の空隙率が低下すると共に、原料コストが高くなる。バインダー繊維は、廃棄屑から製造したものでなくて、別に製造された原料として添加するからである。
【0027】
バインダー繊維は、廃棄繊維に添加して均一に分散される。バインダー繊維の添加された廃棄繊維は、所定の厚さに立体的に方向性なく集合した後、加熱、加圧して、廃棄繊維の交点を熱溶融されたバインダー繊維で結合する。所定の厚さに集合した廃棄繊維をプレスして薄くする割合は、繊維マットプレートの用途によって最適値に設定されるが、たとえば、集合した状態の厚さに対して10〜50%、最適には約25%とする。
【0028】
集合した廃棄繊維を薄くプレスすると廃棄繊維の空隙が小さくなって密に集合される。このため、廃棄繊維の空隙が微細になって、保水性が向上して排水性が低下する。反対に、厚くプレスすると、排水性が良くなるが保水性が低下する。したがって、集合した廃棄繊維をプレスする割合は、保水性と排水性とを考慮して、栽培する植物に最適な値とする。本発明の壁面緑化パネルは、種々の植物の栽培に使用されるので、栽培する植物に最適な保水性と排水性に繊維マットプレート1を調整して、植物をより快適な環境で生育できる。
【0029】
廃棄繊維を集合する厚さは、繊維マットプレート1の厚さが最適な厚さとなるように調整される。繊維マットプレート1は、厚くして保水性を向上できる。ただ、繊維マットプレートを厚くすると、製造コストが高くなると共に、壁面緑化パネルを省スペースに配置できなくなる。したがって、壁面緑化パネルは、これらのことを考慮して、繊維マットプレート1の厚さを3cm以上とし、10cmよりも薄くする。繊維マットプレート1の厚さは、好ましくは、4〜8cm、最適には約6cmとする。繊維マットプレート1は、プレスしてこの厚さとなるように、バインダー繊維を添加して廃棄繊維を集合させる。
【0030】
廃棄繊維にバインダー繊維を添加して所定の厚さに集合し、その後、加熱加圧して廃棄繊維を交点で結合する方法は、廃棄繊維の間の空隙を少なくすることなく、すなわち、保水性と排水性を低下することなく、廃棄繊維を所定の厚さに結合できる。バインダー繊維を熱で溶融して、廃棄繊維を結合する方法は、たとえば、所定の厚さに集合した廃棄繊維を、バインダー繊維が溶融する温度まで加熱し、その後、プレスしてバインダー繊維を冷却、硬化させて廃棄繊維を結合できる。この方法は、サーマルボンド機を使用して、最も効率よく多量に生産できる。さらに、この方法は、集合した廃棄繊維をコールドプレスで加圧することもできる。ただ、廃棄繊維を結合する方法は、ホットプレスを使用して、集合した廃棄繊維を熱板で加熱しながら加圧して、バインダー繊維を溶融させて、廃棄繊維を結合することもできる。
【0031】
さらに繊維マットプレート1は、バインダー繊維を使用することなく、未硬化の状態では液状ないしペースト状のバインダーを廃棄繊維を集合するときに噴霧し、その後、プレスしてバインダーを硬化させて、廃棄繊維を結合することもできる。
【0032】
さらに、立体的に集合された繊維屑は、ニードルパンチやウォータージェット等によって繊維を絡ませて結合することができる。この状態で集合された繊維は、繊維間の空隙が多くなる。したがって、毛細管現象で繊維の微細な空隙に吸水できる。さらに、繊維の空隙を小さくするために、集合された繊維屑をプレスする。このとき、プレス圧が高すぎると繊維屑の間の空隙がなくなるので、集合された繊維間に無数の空隙が存在する状態にプレスする。繊維屑がプレスされる状態で、繊維はその交点を結合してプレス状態に硬化させる。
【0033】
さらに、図に示す繊維マットプレート1は、廃棄繊維等の繊維を所定の厚さに集合するときに、繊維の間に肥料粒13を分散して供給すると共に、保持材16としてゼオライトを分散して供給している。保持材16であるゼオライトは、水に溶出した肥料の一部を一旦保持した後、徐々に放出するので、植物Sに対して肥料を長期間にわたって供給できる。ただ、繊維マットプレートに供給する保持材には、パーライト、セラミック、炭等も使用できる。この繊維マットプレート1は、肥料粒13や保持材16を繊維の空隙に分散して配設する。このため、植物Sを生育させるときに、肥料粒13から肥料成分が供給されて、また、保持材16から水に溶出した肥料の一部が徐々に放出されて、植物Sをよく繁殖できる特長がある。肥料粒13や保持材16は、繊維の隙間から移動しない大きさの粒として、繊維マットプレート1の内部に保持される。複数のマット層を積層してなる後述する繊維マットプレートは、マット層の間に肥料粒や保持材を分散して配置することもできる。肥料粒や保持材は、バインダーを介してマット層の表面に接着して、マット層の間に配置できる。以上のように、肥料粒14と保持材16を含有する繊維マットプレート1は、植物Sをより理想的な状態で生育できる。ただ、繊維マットプレートは、必ずしも肥料粒や保持材を含有する必要はなく、また、肥料粒と保持材のいずれか一方のみを含有(図9参照)することもできる。
【0034】
さらに、図に示す繊維マットプレート1は、前面に表面保護層4を設けている。この表面保護層4は、繊維マットプレート1の表面を太陽光や風雨から保護して、繊維マットプレート1の劣化を防止する。表面保護層4は、繊維マットプレート1の前面に、耐候性に優れたポリエステル繊維を集合してなる保護シートを接着して設けることができ、あるいは、繊維マットプレート1の前面に、耐候性に優れた塗料を塗布して設けることができ、あるいはまた、繊維マットプレート1の前面に接着した保護シートの表面に耐候性の塗料を塗布して設けることができる。このように、繊維マットプレート1の前面に耐候性に優れた表面保護層4を備える壁面緑化パネルは、太陽光や風雨にさらされる厳しい環境においても、繊維マットプレート1の劣化を有効に防止して長期間にわたって繊維マットプレート1を保護できる。
【0035】
図3ないし図7に示す壁面緑化パネルは、繊維マットプレート1を、複数のマット層11の積層体としている。図の繊維マットプレート1は、3枚のマット層11を積層して連結している。複数のマット層11の積層体である繊維マットプレート1は、積層するマット層11の厚さと枚数によって、繊維マットプレート1の厚さが決定される。図に示す繊維マットプレート1は、各マット層11の厚さを約2cmとして、3枚のマット層11を積層し、全体で約6cmの厚さとしている。ただ、繊維マットプレートは、図9ないし図11に示すように、単層のマット層11とし、あるいは、図示しないが、2枚のマット層の積層体とし、あるいはまた、4枚以上のマット層の積層体とすることもできる。図9ないし図11に示すように、単層のマット層11からなる繊維マットプレート1は、マット層11の厚さを前述の範囲となるようにする。
【0036】
複数のマット層11の積層体で構成される繊維マットプレート1は、互いに積層される複数のマット層11に、繊維の集合密度の異なるものを使用している。図5ないし図7に示す繊維マットプレート1は、前面側に積層されるマット層11の集合密度を、中間や背面側に積層されるマット層11の集合密度よりも高くしている。この繊維マットプレート1は、前面側のマット層11を強固にして補強できる。繊維マットプレートは、背面側に積層するマット層にも集合密度の高いものを使用して、両面を強固に補強することができる。中間に積層される積層マット11は、前面側のマット層11よりも集合密度を低くして、繊維の隙間を大きくし、前面側のマット層11よりも柔軟にしている。繊維の隙間が大きくて柔軟なマット層11は、植物Sの根を繊維の隙間にスムーズに侵入させて理想的に生育できる。
【0037】
さらに、複数のマット層11からなる繊維マットプレート1は、複数のマット層11に貫通して植付保持穴2を設けている。この繊維マットプレート1は、図6に示すように、互いに積層されるマット層11の所定の位置に貫通孔12を設けて植付保持穴2としている。複数のマット層11は、互いに対向する位置に貫通孔12を開口しており、図5に示すように、複数のマット層11を積層する状態で、対向する貫通孔12が連結されてひとつの植付保持穴2を構成するようにしている。
【0038】
植付保持穴2は、マット層11をトムソン刃(図示せず)で打ち抜くように切断して設けることができる。トムソン刃で切断されたマット層11は、植付保持穴2の部分に円柱状の切断片ができる。切断片は、植付保持穴2に嵌入されて落ちないように挿入できる。切断片は、植物を植え付けない植付保持穴を閉塞する蓋に使用できる。したがって、全ての植付保持穴に植物を植え付けない状態においては、植物を植え付けない植付保持穴を切断片で閉塞する。この壁面緑化パネルは、部分的に植え付けした植物が、壁面緑化パネルの全面をカバーするまで壁面緑化パネルの植付保持穴を綺麗な状態に保持できる。植物を植え付けない植付保持穴が壁面緑化パネルの表面に露出して、これが目立つのを防止できるからである。
【0039】
図5ないし図7に示す繊維マットプレート1の植付保持穴2は、前面側に積層してなるマット層11の貫通孔12の内面である下側内面12Aを、その背面側に積層してなるマット層11に設けている貫通孔12の内面である下側内面12Aより上方に配置している。図の繊維マットプレート1は、背面側のマット層11に設けた貫通孔12と中間のマット層11に設けた貫通孔12の下側内面12Aの高さを等しくし、前面側のマット層11に設けた貫通孔12の下側内面12Aを、背面側と中間のマット層11に設けた貫通孔12の下側内面12Aよりも上方に配置している。この繊維マットプレート1は、積層されるマット層11の背面側から前面側に向かって貫通孔12の下側内面12Aを上方に配置するので、植付保持穴2に挿入されて植え付けられる植物Sや、植付保持穴2に充填される植え付け材3を、植付保持穴2から落下しないように安定して保持できる特長がある。図の繊維マットプレートは、背面側のマット層11の貫通孔12の下側内面12Aと中間のマット層11の貫通孔12の下側内面を同じ高さとしているが、複数のマット層に設ける貫通孔の下側内面の高さは、背面側から前面側に向かって次第に高くすることもできる。
【0040】
さらに、図5ないし図7に示す繊維マットプレート1は、前面側に配置されるマット層11の貫通孔12の内形を、背面側に配置されるマット層11の貫通孔12の内形よりも小さくしている。図の繊維マットプレート1は、背面側のマット層11に設けた貫通孔12と中間のマット層11に設けた貫通孔12の内形を等しくしており、前面側のマット層11に設けた貫通孔12の内形を、背面側と中間のマット層11に設けた貫通孔12よりも小さくしている。この繊維マットプレート1は、積層されるマット層11の前面側から背面側に向かって植付保持穴2の内形を大きくできるので、植付保持穴2に植え付けする植物Sの根を植付保持穴2の奥部に安定して収納できる特長がある。さらに、図7に示すように、植付保持穴2の広い奥部に、多量の植え込み材3を充填して、植物Sを理想的に生育できる。また、前面側の貫通孔12を小さくすることで、植付保持穴2に挿入された植物Sや植え込み材3が、植付保持穴2からこぼれ落ちるのを有効に防止できる特長もある。以上の繊維マットプレート1は、複数のマット層11にそれぞれ大きさの異なる貫通孔12を中心をずらして開口した後、前後のマット層11を積層することで、簡単かつ容易に、開口部を上向きとして、奥部を広くする植付保持穴2を設けることができる。ただ、前後に積層される複数のマット層に開口する貫通孔は、必ずしも前後で大きさを変えることなく、同じ大きさの貫通孔とすることもできる。
【0041】
さらに、繊維マットプレート11に設ける植付保持穴2は、図9と図11に示すように、背面側から前面側に向かって上り勾配に傾斜させて開口することもできる。この繊維マットプレート1は、たとえば、前面から背面に向かって下り勾配の貫通孔12を開口して植付保持穴2を設けることができる。この植付保持穴2も、前面側から背面側に向かって、貫通孔12の下側内面12Aを下り勾配にできるので、植付保持穴2に挿入されて植え付けられる植物Sや植え込み材3を、植付保持穴2から落下しないように安定して保持できる特長がある。
【0042】
以上の繊維マットプレート1は、前面の所定の位置に、植物Sを植え付けする複数の植付保持穴2を設けている。図に示す繊維マットプレート1は、5個の植付保持穴2を、中心と対角線上に等間隔で開口して設けている。ただ、繊維マットプレートは、開口する植付保持穴の数を4個以下とし、あるいは6個以上とすることもできる。これらの繊維マットプレートも、複数の植付保持穴を等間隔で設けて、ここに植え付けされる植物を理想的に生育できる。
【0043】
図3、図6、図10、及び図12に示す植付保持穴2は円形で、植物Sを植え付けできるように、その内径を約5cmとしている。ただし、植付保持穴は、その内径を3cmないし10cmとすることができる。また、植付保持穴は円形に限らず、多角形や楕円形とすることもできる。図の繊維マットプレート1は、所定の間隔で複数の植付保持穴2を設けているが、植付保持穴の間隔(d)は、たとえば、5cmないし30cmとすることができる。
【0044】
複数のマット層11の積層体である繊維マットプレート1は、各々のマット層11を非接着状態で積層している。図3ないし図7の繊維マットプレート1は、複数のマット層11を、外周面に接着してなる固定シート5で固定して、各々のマット層11を非接着状態で積層している。ただ、繊維マットプレートは、複数のマット層を縫着して非接着状態で連結することもできる。非接着状態で積層されるマット層11は、境界部分に接着層を設けることなく積層されるので、接着層で水の拡散が阻止されることがなく、また、接着層によってマット層間の根の生育が抑制されることもない。このため、水分の移行をスムーズにしながら理想的に植物の根を生育させて、植物を好ましい環境で生育できる特徴がある。ただ、複数のマット層は、部分的に接着し、あるいは通水性のある状態で接着して積層することもできる。この繊維マットプレートは、複数のマット層をより強固に積層できる。
【0045】
図6と図10に示す繊維マットプレート1は、両側面と上下面の四方に固定シート5を接着して、複数のマット層11を外周面で連結して固定している。積層されるマット層11は、外形を同じ形状として外周面を平面状として、ここに固定シート5を接着している。固定シート5は、水分を透過させるが植物の根を通過させない不織布またはプラスチックシートが使用できる。水を透過させる固定シート5は、外部から供給される水、例えば、上方から散水される水や、雨水を透過させて内側の繊維マットプレート1に供給できる。また、植物の根を通過させない固定シート5は、植付保持穴2に植え付けられる植物Sの根が壁面緑化パネルの外側に伸びるのを有効に防止して、長期間にわたって壁面緑化パネルをきれいな外観にできる。さらに、図4、図5、図7、図9、及び図11に示す壁面緑化パネルは、下面に接着した固定シート5(図6及び図10参照)を除去して、繊維マットプレート1の背面に積層した導水拡散シート7を下面から引き出している。下面から導水拡散シート7を突出させる繊維マットプレート1は、詳細には後述するが、壁面緑化パネルの下方に配設される給水部に導水拡散シート7の下端を配置して、この導水拡散シート7から吸水して繊維マットプレート1の内部に水を補給できる。
【0046】
さらに、図に示す壁面緑化パネルは、繊維マットプレート1の背面部に、導水拡散シート7を積層している。また、図の壁面緑化パネルは、背面に補強プレート6を積層して固定している。この図の壁面緑化パネルは、繊維マットプレート1と補強プレート6との間に導水拡散シート7を積層すると共に、固定シート5を介して補強プレート6を繊維マットプレート1に連結して固定している。図4に示す壁面緑化パネルは、固定シート5の側縁を繊維マットプレート1の外周面から補強プレート6の背面まで延長して接着している。
【0047】
導水拡散シート7は、繊維マットプレート1の背面部に積層されて、供給された水を全体に浸透させて繊維マットプレート1に均一に供給する。導水拡散シート7は、毛細管現象で水を拡散するシートで、、繊維マットプレート1の繊維よりもさらに細い浸水性の合成繊維を密に集合している。ただ、導水拡散シートには、供給される水分を速やかに吸水して通水できる全てのもの、例えば、布、ろ紙、織物、微細な連続気泡を有するプラスチック発泡シート等も使用できる。さらに、導水拡散シートは、以上のシート材を単独で使用し、あるいは複数を積層したものを使用することもできる。導水拡散シート7は、毛細管現象で水を拡散して、水分率の高い領域にある水を水分率の低い領域に移行し、繊維マットプレート1の全体に水を拡散して、水分率を均一に調整する。図5に示す壁面緑化パネルは、下面から導水拡散シート7の下端を突出させており、この部分から水分を吸収して繊維マットプレート1に供給できるようにしている。この壁面緑化パネルは、図5の鎖線で示すように、下方に配設される給水部9に導水拡散シート7の下端を配置して、給水部9から水を吸入して繊維マットプレート1に供給できる。図に示す給水部9は上方開口の樋である。導水拡散シート5は、下端部を、樋の底部まで延長して配置しており、この部分から水を吸入して繊維マットプレート1に供給する。
【0048】
補強プレート6は、繊維マットプレート1の背面に配置されて、繊維マットプレート1を補強する。この補強プレート6は、廃棄繊維を集合してバインダーを介して薄い板状に押し固めた繊維プレートが使用できる。この補強プレート6は、繊維を押し固めた構造とすることで、全体を軽量にしながら、柔軟性を有し、さらに、太陽光や風雨による劣化を有効に防止して、長期間にわたって繊維マットプレート1を補強できる。ただ、補強プレートには、繊維を押し固めてなる繊維プレートに代わって、プラスチック製のプレートも使用できる。
【0049】
さらに、図13に示す複数のマット層11を積層してなる繊維マットプレート1は、マット層11の間に、マット層11よりも水拡散性の高い拡散層14を設けている。拡散層14は、マット層11よりも細い繊維を集合したもので、毛細管現象によって水を速やかに拡散する。この拡散層14には、導水拡散シート7と同じシートも使用できる。ただ、導水拡散シートは、下端から水を吸収して毛細管現象で上昇させるので、拡散層のシートよりもより効果的に、すなわちより高くまで毛細管現象で水を上昇できるシートを使用する。この拡散層14は、供給される水を全体に拡散して繊維マットプレート1に均一に供給する。この拡散層14は、水分率の高い領域にある水を水分率の低い領域に移行して、繊維マットプレート1の水分を全体に拡散する。全体に均一に拡散された拡散層14の水は、積層しているマット層11に移行して、繊維マットプレート1の水分率を均一化する。すなわち、拡散層14は、繊維マットプレート1に供給される水分を上下方向に移行させて全体に拡散し、拡散された水分を繊維マットプレート1に移行して、繊維マットプレート1の全面の水分率を調整する。拡散層14は、厚さを1〜5mmとして、給される水を速やかに全体に拡散できる。拡散層は、厚くすると保水性と導水性とを高くして水の拡散性を向上できるが、コストが高くなる。反対に薄くすると、水の拡散性が低下する。したがって、拡散層の厚さは、これらのことを考慮して前述の範囲とする。
【0050】
以上の壁面緑化パネルは、植付保持穴2に植物Sを植え付けて生育させる。植付保持穴2に植え付けされる植物Sは、植付保持穴3に充填される植え込み材3を介して定位置に保持される。この植え込み材3として、図7に示すように、前述のマット層11を、所定の大きさであって一定の定まった形状ではない不特定なランダム形状に破砕してなる繊維粒3A、あるいは、図11と図12に示すように、繊維屑を無数の空隙ができる状態で立体的に集合して紐状に連結してなる繊維紐3Bが使用できる。ただ、植付保持穴に植物を植え付ける際には、必ずしも植付保持穴に植え込み材を充填する必要はなく、一般の土壌培地を使用することもできる。すなわち、植物の苗は、根に付着している土壌培地をそのままの状態で植え付けることもできるが、植え込み材を介して植え付けることもできる。
【0051】
繊維粒3Aである植え込み材は、前述のマット層11を、所定の大きさであって、一定の定まった形状ではない不特定なランダム形状に破砕したものである。マット層11は、マット全体を破砕して繊維粒とすることもできるが、マット層を他の用途に使用する場合は、マット層を裁断するときに発生する裁断屑を破砕して繊維粒とすることもできる。マット層11は、たとえば、所定の形状に裁断に裁断するとき、マット層11の端部が裁断されて耳屑となる。また、マット層11は、植付保持穴2を開口する工程で、貫通孔12を切断するときに抜き屑が発生する。これらの裁断屑を集めて繊維粒3Aに破砕して植え込み材3とすることができる。このように、裁断屑を破砕して繊維粒3Aとする方法は、裁断屑を無駄にすることなくマット層11を有効に利用して廃棄屑を皆無にできる。繊維粒である植え込み材は、平均粒径を例えば3〜30、好ましくは5〜20mmとする。さらに、好ましくは、大きな繊維粒と小さい繊維粒を混在したものとする。
【0052】
さらに、植え込み材は、マット層を繊維粒に破砕した後、肥料や保持材を混入することもできる。この植え込み材は、破砕工程でランダム形状に破砕された繊維粒3Aに、粒状又は粉状の肥料や保持材を混入してブレンドする。繊維粒3Aに混入される保持材には、パーライト、セラミック、ゼオライト、炭等が使用できる。これらの保持材は、水に溶出した肥料の一部を一旦保持した後、徐々に放出するので、植物に対して肥料を長期間にわたって供給できる。これらの保持材及び肥料は、単独で使用することも、これらを複合した複合材として混入することもできる。このように、植物を生育させる際の肥料及び保持材がブレンドされた植え込み材は、植物をより理想的な状態で栽培できる特長がある。
【0053】
以上の植え込み材は、図7に示すように、繊維マットプレート1の植付保持穴2に充填されて植物3を定位置に保持する。植付保持穴2に充填された植え込み材3は、マット層を粒状に破砕しているので、隣接する植え込み材3との間に隙間ができる。この隙間は、空気をスムーズに通過させる。このため、この植え込み材3は、各々の粒子が優れた保水性を保持しながら、植え込み材3の間にできる隙間によって、優れた通気性と排水性とを実現する。さらに、粒状に破砕された植え込み材3は、種々の形状と大きさの植付保持穴2に、簡単かつ容易に、しかも速やかに充填して植物3を植え付けできる。
【0054】
さらに、植え込み材3を植付保持穴2に充填する密度、いいかえると植付保持穴2に詰める具合いを調整して、保水性と排水性と通気性を調整できる。植え込み材3は、繊維屑を粒状に破砕しているので、弾性的に変形する。このため、密に詰めることも、また粗に詰めることもできる。植え込み材3を密に詰めると、排水性と通気性を制限しながら保水性を向上できる。このため、水やり回数を軽減できる。この充填状態は、水分を多量に要求する植物の栽培に適している。反対に、植え込み材3を植付保持穴2に粗に充填すると、保水性を制限しながら排水性と通気性とを向上できる。この充填状態は、過湿に弱く耐乾性に強い植物の栽培に適している。
【0055】
さらに、図11と図12に示す植え込み材3は、繊維屑を無数の空隙ができる状態で立体的に集合して、これを紐状に連結してなる繊維紐3Bとしている。この繊維紐3Bは、水苔と同じように使用できるように、加圧しない状態での平均的な太さを2〜30mmとする。この植え込み材3は、図12に示すように、植物Sの根の部分に巻き付けながら、植付保持穴2に充填できる。ただ、必ずしも根に巻き付けることなく植付保持穴に充填することもできる。
【0056】
この繊維紐3Bには、織物の捨て耳をそのままに、加工することなく、あるいは撚糸して使用できる。捨て耳は、織物の製造工程で多量に発生する廃棄物である。平行に張設された縦糸の間に、横糸を移動させるのに、旧来のシャットルに代わって、ウォータージェットやエアージェットを使用する編組方法は、編組された織物の両側に不揃いな部分ができる。この両側部分を切断してできる廃棄物が、織物の捨て耳である。捨て耳は、連続する紐状であって、引っ張っても切れない程度の強度がある。さらに、この捨て耳は、無数の繊維が集合して互いに絡まるように連結されているので、繊維の間に無数の微細な空隙がある。このため、捨て耳である植え込み材は、それ自体で植物栽培に適した吸水性と保水性がある。さらに、捨て耳は、これを撚糸することにより、繊維の集合を密にして、吸水性と保水性とを向上できる。捨て耳は、織物を製造する工程でできる廃棄物である。したがって、これを植え込み材として使用すると、廃棄物を有効に再利用できると共に、そのコストを著しく低減できる特長がある。
【0057】
この捨て耳である植え込み材3も、粒状の植え込み材と同じように、植付保持穴2に充填する密度を調整して、保水性と排水性と通気性とを調整できる。すなわち、捨て耳である植え込み材3を、根に巻き付ける密度、あるいは植付保持穴2に充填する密度を調整して、保水性と排水性と通気性を調整できる。捨て耳である植え込み材3も、繊維屑を紐状に集合しているので、表面を弾性的に変形できる。このため、根に密に巻き付けることも、また植付保持穴2に密に詰めることも、あるいは根に粗に巻き付けたり、植付保持穴2に粗に詰めることができる。植え込み材3を密に巻き付けたり、あるいは植付保持穴2に密に詰めると、排水性と通気性を制限しながら保水性を向上できる。このため、水やり回数を軽減できる。この充填状態は、水分を多量に要求する植物の栽培に適している。反対に、植え込み材3を根に粗に巻き付け、あるいは植付保持穴2に粗に充填すると、保水性を制限しながら排水性と通気性とを向上できる。この充填状態は、過湿に弱く耐乾性に強い植物の栽培に適している。
【0058】
捨て耳である植え込み材3は、マット層を破砕する植え込み材よりもさらに安価にできる。それは、加工コストと原料コストの両方を、著しく安価にできるからである。とくに、廃棄物である捨て耳をそのまま使用する植え込み材は、廃棄物をそのまま有効に再利用するので、そのコストを著しく低減できる。さらに、この植え込み材3は、前述のマット層を破砕して製作する植え込み材3のように、バインダーで繊維屑を結合する必要もないので、新しい繊維をバインダーとして添加する必要がなく、また、繊維を結合するバインダーも使用する必要がなく、100%繊維屑で製作できる。
【0059】
捨て耳は、織物をカットしたものであるから、織物の繊維と同じ繊維で構成される。織物は、合成繊維と天然繊維が混在するもの、あるいは合成繊維のみのもの、あるいはまた天然繊維のみのものがある。合成繊維は腐食しないので耐久性に優れ、天然繊維は腐食して自然に消失する。このため、合成繊維の混合率の高い捨て耳と、天然繊維が混在しない捨て耳からなる植え込み材は、耐久性があって使用期間を長くできる。反対に、天然繊維の混合率の高い捨て耳である植え込み材は、自然に消失できる特長がある。したがって、耐久性が要求される植え込み材は、合成繊維の混合率の高い捨て耳を使用し、自然に消失させる植え込み材は天然繊維の割合の多い捨て耳を使用する。一般的に使用する場合においては、合成繊維の混合率を高くし、優れた耐久性の植え込み材が便利に使用できるので、捨て耳には合成繊維の混合率が好ましくは50重量%以上、好ましくは60重量%以上、最適には70重量%以上の捨て耳を使用する。とくに、合成繊維を100%とする捨て耳の植え込み材は、極めて優れた耐久性があって、長い年月にわたって優れた特性を失わない。とくに、ポリエステル系合成繊維の捨て耳は、ポリエステル系合成繊維が、強靭で耐久性に富み、しかも耐薬品性に優れているので、極めて長い期間、安定して使用できる。ただし、捨て耳は、合成繊維として、ポリアミド系合成繊維やポリアクリル系合成繊維等の繊維を含むものも使用できる。
【0060】
ただ、壁面緑化パネルは、植え込み材として、繊維粒や繊維紐を使用することなく、無機あるいは有機の粉粒体を単独であるいはブレンドして使用することもできる。この植え込み材は、たとえば、無機の粉粒体としてゼオライトやパーライトが使用でき、有機の粉粒体として、ヤシガラ繊維やピートモスが使用できる。
【符号の説明】
【0061】
1…繊維マットプレート
2…植付保持穴
3…植え込み材 3A…繊維粒
3B…繊維紐
4…表面保護層
5…固定シート
6…補強プレート
7…導水拡散シート
9…給水部
11…マット層
12…貫通孔 12A…下側内面
13…肥料粒
14…拡散層
16…保持材
30…壁面
80…ベース体
81…第1の空隙
82…第2の空隙
83…貫通孔
84…マット材
85…緑化部
86…吸音部
90…壁
91…保水マット
92…アンカーボルト
93…緑化基盤
94…潅水管
95…点滴孔
96…金網
97…アンカーボルト
S…植物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維が所定の厚さに立体的に集合されて繊維の間にできる微細な空隙によって、通水性と保水性とを実現してなる繊維マットプレート(1)を備えており、この繊維マットプレート(1)は、前面に開口して、植物を植え付けして保持する複数の植付保持穴(2)を備えており、この植付保持穴(2)に植え付けられる植物(S)の根に繊維マットプレート(1)から水を補給するようにしてなる壁面緑化パネル。
【請求項2】
前記繊維マットプレート(1)が、繊維を所定の厚さに立体的に集合して繊維の間にできる微細な空隙で通水性と保水性とを実現してなる複数のマット層(11)の積層体からなり、複数のマット層(11)に貫通して植付保持穴(2)を設けてなる請求項1に記載される壁面緑化パネル。
【請求項3】
積層してなる複数のマット層(11)の繊維の集合密度の異なる請求項2に記載される壁面緑化パネル。
【請求項4】
複数のマット層(11)が外周面に接着してなる固定シート(5)で固定されてなる請求項2または3に記載される壁面緑化パネル。
【請求項5】
複数のマット層(11)が非接着状態で積層されてなる請求項4に記載される壁面緑化パネル。
【請求項6】
前記繊維マットプレート(1)の厚さが、3cm以上である請求項1ないし5のいずれかに記載される壁面緑化パネル。
【請求項7】
前記繊維マットプレート(1)の厚さが、10cmよりも薄い請求項1ないし6のいずれかに記載される壁面緑化パネル。
【請求項8】
前記繊維マットプレート(1)が繊維の交点をバインダーで結合してなる請求項1ないし7のいずれかに記載される壁面緑化パネル。
【請求項9】
前記繊維マットプレート(1)が、ニードルパンチによって繊維を結合してなる請求項1ないし8のいずれかに記載される壁面緑化パネル。
【請求項10】
前記繊維マットプレート(1)の植付保持穴(2)が前面に向かって上り勾配に傾斜してなる請求項1ないし9のいずれかに記載される壁面緑化パネル。
【請求項11】
前記繊維マットプレート(1)が、前面に積層してなるマット層(11)の貫通孔(12)の下側内面(12A)を、背面に積層してなるマット層(11)に設けている貫通孔(12)の下側内面(12A)より上方に配置してなる請求項1ないし10のいずれかに記載される壁面緑化パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−125246(P2011−125246A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285534(P2009−285534)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(301050555)アースコンシャス株式会社 (6)
【Fターム(参考)】