説明

壁面緑化構造体

【課題】簡易な構成によって建物の壁面を容易に緑化することができると共に、維持管理を容易に行うことができ、また登攀した植物を壁面から容易に撤去することのできる壁面緑化構造体を提供する。
【解決手段】住宅建築物11の壁面12に沿って植物13を登攀させて壁面12を緑化するための壁面緑化構造体10であって、紐状部材14を用いて形成された網状カーテン15と、この網状カーテン15の上端部を連結して網状カーテン15を壁面13に沿って面状に吊り下げる上端部横棒部材16と、上端部横棒部材16を昇降可能に吊り下げて支持する線状支持部材17と、吊り下げた状態の網状カーテン15の下部に隣接して設けられた植物13の根付き土18と、根付き土18から網状カーテン15に登攀した植物13とによって構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面緑化構造体に関し、特に、建物の壁面に沿って植物を登攀させて壁面を緑化するための壁面緑化構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の温暖化傾向により、例えば都市部におけるヒートアイランド現象等、特に夏季における温度上昇が問題となっている。このような温度上昇の抑制を図る手段として、ビルや各種の構造物の壁面に植物を植生させて緑化する技術が種々開発されている(例えば、特許文献1参照)。また、構造物の壁面を緑化する場合、これらの壁面に沿って金属製のワイヤー等からなる格子状の支持フレームを固定し、固定した支持フレームに植物を絡ませるように植生させる方法が一般的に採用されている。
【0003】
一方、例えば住宅建築物等の小規模な建物の壁面に対しても緑化することが要望されており、このような小規模な建物の壁面を緑化するための技術も開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−271358号公報
【特許文献2】特開2006−191850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、住宅建築物等の小規模な建物の壁面を緑化する場合、その維持管理を、専門の業者によることなく個人で行おうとすると、その作業が困難である。すなわち、壁面に沿って取り付けた格子状の支持フレームや特許文献2の可塑性ネット体の立ち上がり部を登攀する、例えばつる性植物等の植物は、特に夏季においては成長する速度が速いため、これらの支持フレームや可塑性ネット体の上部に達した後に、さらに成長して、緑化するべき壁面よりも上方の例えば建物の軒下部分や上階部分に悪影響を及ぼしたり、雨樋等の付属物に悪影響を及ぼすことになる。また建物の外観を損うことになる。
【0005】
したがって、例えば一週間から数週間程度の間隔で、剪定作業を頻繁に行う必要を生じることになるが、小規模な建物といえども緑化するべき壁面は例えば4〜5m程度の高さとなる。このため、壁面の上部の植物を剪定する作業は、例えば梯子や脚立を用いた高所作業となり、不慣れな者にとっては多くの手間を要することになると共に、特に女性や高齢者にとっては危険な作業を伴うことになる。
【0006】
また、例えば台風が接近した場合に、支持フレームや可塑性ネット体を壁面から簡単に取外すことはできないため、これらに登攀した植物は、風雨の影響を受けて折れたり飛散したりすることによって損傷しやすくなる。
【0007】
さらに、壁面緑化の目的として、遮光による冷却効果や、野菜の栽培等が挙げられるが、例えば冬季において暖かさを得るためには遮光する必要がなく、また野菜を育てることができない。したがって、支持フレームや可塑性ネット体から植物を取り外すことが好ましいが、これらに登攀した植物は、絡み付いたり巻き付いたりして強固に接合していることから、登攀した植物のみを撤去することは困難である。また支持フレームや可塑性ネット体ごと壁面から取り外そうとしても、こららは壁面に強固に取り付けられていると共に、硬い材質であるため折り畳むことが困難であり、植物が接合一体化して相当の大きさ及び重量となっていることから、大掛かりで手間のかかる撤去作業を要することになる。
【0008】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたものであり、簡易な構成によって建物の壁面を容易に緑化することができると共に、維持管理を容易に行うことができ、また必要に応じて登攀した植物を壁面から容易に撤去することのできる壁面緑化構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、建物の壁面に沿って植物を登攀させて壁面を緑化するための壁面緑化構造体であって、紐状部材を用いて形成された網状カーテンと、該網状カーテンの上端部を連結して該網状カーテンを前記壁面に沿って面状に吊り下げる上端部横棒部材と、該上端部横棒部材を昇降可能に吊り下げて支持する線状支持部材と、吊り下げた状態の前記網状カーテンの下部に隣接して設けられた植物の根付き土と、該根付き土から前記網状カーテンに登攀した植物とからなる壁面緑化構造体を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0010】
そして、本発明の壁面緑化構造体では、前記線状支持部材は、前記上端部横棒部材の上方に取り付けられた滑車を介して折り返されて下方に延設しており、前記滑車よりも下方からの操作によって、前記上部棒状横部材を昇降させるようになっていることが好ましい。
【0011】
また、本発明の壁面緑化構造体では、前記網状カーテンの網目の大きさが10〜300mmとなっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の壁面緑化構造体によれば、簡易な構成によって建物の壁面を容易に緑化することができると共に、維持管理を容易に行うことができ、また必要に応じて登攀した植物を壁面から容易に撤去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1(a),(b)及び図2(a),(b)に示す本発明の好ましい一実施形態に係る壁面緑化構造体10は、建物として例えば住宅建築物11の壁面12を緑化して、夏季におけるヒートアイランド現象を抑制すると共に、屋内の温度上昇を抑制することができるようにするために採用されたものである。また、本実施形態の壁面緑化構造体10は、壁面12に沿って登攀した植物13を上下方向に昇降させる機能を備えており、これによって、剪定作業を行いやすい高さに植物13を保持したり、壁面12から植物13を迅速に撤去したりすることができるようになっている。
【0014】
そして、本実施形態の壁面緑化構造体10は、住宅建築物11の壁面12に沿って植物13を登攀させて壁面12を緑化するための構造体であって、紐状部材14を用いて形成された網状カーテン15と、この網状カーテン15の上端部を連結して網状カーテン15を壁面13に沿って面状に吊り下げる上端部横棒部材16と、上端部横棒部材16を昇降可能に吊り下げて支持する線状支持部材17と、吊り下げた状態の網状カーテン15の下部に隣接して設けられた植物13の根付き土18と、根付き土18から網状カーテン15に登攀した植物13とを含んで構成されている。
【0015】
また、本実施形態では、線状支持部材17は、上端部横棒部材16の上方の、例えば住宅建築物11の軒下部分19に取り付けられた滑車20を介して折り返されて下方に延設しており、この滑車20よりも下方からの操作によって、上部棒状横部材16を昇降させるようになっている。
【0016】
本実施形態では、網状カーテン15を構成する紐状部材14は、植物の重さや植物が登攀する際の荷重に耐え得る引張り強度を備える素材のものであれば、種々の紐状部材を用いることができ、軽量で耐久性のあるものを用いることが好ましい。例えば、キュウリ等の野菜の栽培に使用するシュロ紐やビニール紐等を好ましく用いることができる。
【0017】
網状カーテン15は、上述の紐状部材14を縦横に多数配設しつつ、格子状等、各種の網目形状を有するように接合して、例えばキュウリ等の野菜の栽培用ネットのような、柔かく折り畳みが容易な材質のネット状の部材として形成される。網状カーテン15は、好ましくは10〜300mm程度の大きさ網目を有している。これによって、植物13を適度な密集状態で登攀させることが可能になると共に、後述するように植物13と共に網状カーテン15を壁面12から撤去する際に、植物13と共に容易に折り畳まれて、例えば別の保管場所にコンパクトな形状で保管しておくことが可能になる。
【0018】
また、本実施形態では、網状カーテン15は、地表面21から軒下部分19まで例えば4m程度の高さで設けられた壁面12の、周縁部分を除いた略全域を覆うことのできる大きさの矩形形状を有するように形成されている。網状カーテン15は、その上端部を上端部横棒部材16に連結することにより、使用時には上端部横棒部材16から面状に吊り下げられた状態で壁面12に沿って張設される。
【0019】
網状カーテン15を吊り下げる上端部横棒部材16としては、木製、合成樹脂製、金属製等の種々の材質のものを使用することができる。上端部横棒部材16は、屋外において風雨に曝された状態で使用されることから、耐久性に富んだ材質のものを用いることが好ましい。上端部横棒部材16には、例えば係止金具等を介して網状カーテン15の上端部の網目を係止することにより、網状カーテン15が着脱可能に連結される。また本実施形態では、上端部横棒部材16の両端部分に、網状カーテン15の両側に配置された一対の線状支持部材17の一端部が各々接合されている。上端部横棒部材16は、これらの線状支持部材17を介して、網状カーテン15と共に壁面12に沿って昇降可能に吊り下げられることになる。
【0020】
線状支持部材17としては、縄ロープ、ワイヤーロープ等の、網状カーテン15や植物13の荷重を支持するのに十分な引張り強度を有する種々の線状部材を用いることができる。本実施形態では、各線状支持部材17は、その一端部が上端部横棒部材16の両端部分に接合金具等を介して各々接合されると共に、住宅建築物11の軒下部分19に取り付けられた滑車20に巻回されることにより折り返されて下方に延設し、その他端部を、例えば地表面21に固定したアンカー金具22に結び付けることにより、上端部横棒部材16を、壁面12に沿った任意の高さ位置に保持することができるようになっている。また線状支持部材17の他端部をアンカー金具22から取り外して、線状支持部材17を送り出したり引き込んだりすることにより、上端部横棒部材16及び網状カーテン15を、例えば手動操作によって容易に昇降させることができるようになっている。
【0021】
本実施形態では、網状カーテン15の下部に隣接して設けられた根付き土18は、地表面21に設置したプランター23の内部に収容されている。根付き土18は、後述する登攀性を有する植物13の根を根付かせた土であり、肥料等を含んでいる。根付き土18としては、網状カーテン15の下部に隣接する地盤の土に植物13を植生させて、当該地盤の土を直接根付き土18として利用することもできる。
【0022】
根付き土18から網状カーテン15に登攀する植物13としては、例えばつる性植物等の種々の登攀性を有する植物を用いることができる。より具体的には、アサガオ、ユウガオ、エンサイ、ヘチマ、トケイソウ、カロライナジャスミン、ブドウ、ムベ、ツルバラ、テイカカズラ等を挙げることができる。また、キュウリ、ゴーヤ、トマト、スイカ、ナス、ピーマン、カボチャ等の栽培用の植物であっても良い。
【0023】
上述の構成を有する本実施形態の壁面緑化構造体10によれば、例えば夏季における使用時には、上端部横棒部材16を壁面12の上部に移動して、網状カーテン15を、周縁部分を除いた壁面12の略全域を覆って吊り下げた状態に保持する。これによって、根付き土18に根付いた植物13が網状カーテン15に沿って登攀しつつ成長して、適度な密集状態で植生し、住宅建築物11の壁面12を緑化する。これによって、水分を多量に保持する植物13により、周囲のヒートアイランド現象が抑制されると共に、屋内の温度上昇が抑制されることになる。植物13として栽培用の植物を用いた場合には、例えばキュウリ、ゴーヤ等の野菜を栽培することも可能になる。
【0024】
また、本実施形態の壁面緑化構造体10によれば、植物13が成長しすぎて、例えば建物や付属物に悪影響を及ぼさないように、植物の剪定作業を容易に行うことが可能になる。すなわち、上端部横棒部材16を下方に移動して、例えば1.7m程度の作業をし易い高さに網状カーテン15の上部を保持することにより、梯子や脚立を用いた高所作業を要することなく、地上からの作業によって、容易且つ安全に剪定作業を行うことが可能になる。また野菜の採取作業も、容易に行うことが可能になる。例えば網状カーテン15の紐状部材14に絡み付いた状態で枯れたつる性植物等の除去作業も、容易に行うことが可能になる。
【0025】
さらに、本実施形態の壁面緑化構造体10によれば、例えば台風時や冬季において、網状カーテン15や植物13を壁面12から撤去したい場合に、これらを取り外す作業を容易に行うことが可能になる。すなわち、網状カーテン15は、柔かく折り畳みが容易な材質の部材なので、線状支持部材17を緩めて上端部横棒部材16を下方に降ろせば、網状カーテン15を、植物13と共に折り畳んだ状態で壁面12の下部の地表面21に容易にまとめることができる。まとめられた網状カーテン15は、例えば植物13と一体として上端部横棒部材16から取り外し、図3(a),(b)に示すように、例えば根付き土18が収容されたプランター23と共に撤去して、安全な保管場所に保管しておくことが可能になる。ここで、網状カーテン15は柔らかい素材であるため、壁面12に沿って昇降したり折り畳まれる際に、植物13を痛める可能性が低くなる。
【0026】
したがって、本実施形態の壁面緑化構造体10によれば、紐状部材14を用いて形成された網状カーテン15と、上端部横棒部材16と、線状支持部材17と、根付き土18と、網状カーテン15に登攀した植物13とからなる簡易な構成によって、住宅建築物11の壁面12を容易に緑化することができると共に、維持管理を容易に行うことができ、また必要に応じて登攀した植物13を壁面12から容易に撤去することができる。
【0027】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、線状支持部材を滑車を介して下方に延設させ、手動操作によって上部棒状横部材を昇降させるようにする必要は必ずしもなく、例えば上部棒状横部材の上方に取り付けた動力式の繰出し装置によって線状支持部材を繰り出したり引き込んだりすることにより、上部棒状横部材を昇降させることもできる。また、例えば網状カーテンの下端部に下部横棒部材を取り付けて、より安定した状態で網状カーテンを吊り下げるようにすることもできる。さらに、本発明の壁面緑化構造体が設置される建物は、住宅建築物である必要は必ずしもない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施形態の好ましい一実施形態に係る壁面緑化構造体の使用状態を説明する、(a)は略示正面図、(b)は略示側断面図である。
【図2】本実施形態の好ましい一実施形態に係る壁面緑化構造体の剪定作業を行う状態を説明する、(a)は略示正面図、(b)は略示側断面図である。
【図3】本実施形態の好ましい一実施形態に係る壁面緑化構造体の網状カーテン及び植物を撤去した状態を説明する、(a)は略示正面図、(b)は略示側断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10 壁面緑化構造体
11 住宅建築物(建物)
12 壁面
13 植物
14 紐状部材
15 網状カーテン
16 上端部横棒部材
17 線状支持部材
18 根付き土
19 軒下部分
20 滑車
21 地表面
22 アンカー金具
23 プランター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の壁面に沿って植物を登攀させて壁面を緑化するための壁面緑化構造体であって、
紐状部材を用いて形成された網状カーテンと、該網状カーテンの上端部を連結して該網状カーテンを前記壁面に沿って面状に吊り下げる上端部横棒部材と、該上端部横棒部材を昇降可能に吊り下げて支持する線状支持部材と、吊り下げた状態の前記網状カーテンの下部に隣接して設けられた植物の根付き土と、該根付き土から前記網状カーテンに登攀した植物とからなる壁面緑化構造体。
【請求項2】
前記線状支持部材は、前記上端部横棒部材の上方に取り付けられた滑車を介して折り返されて下方に延設しており、前記滑車よりも下方からの操作によって、前記上部棒状横部材を昇降させるようになっている請求項1に記載の壁面緑化構造体。
【請求項3】
前記網状カーテンの網目の大きさが10〜300mmである請求項1又は2に記載の壁面緑化構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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