説明

変位計測装置

【課題】 所望の時点において、正確に円形断面を有する構造物の内部空間の変位を計測することが可能である変位計測装置を提供する。
【解決手段】 円形断面形状の内部空間を有する構造物における、同一円形断面内の内壁に設置された3個以上の各計測点の変位を計測するための変位計測装置1であって、変位前後の隣接する各計測点間における距離変化量を計測する距離変化量計測装置20と、変位前後の隣接する各計測点における内壁の角度変化量を計測する角度変化量計測装置30と、変位前の隣接する各計測点間の距離及び角度と、隣接する計測点間における距離変化量及び内壁の角度変化量に関する各データから変位後の各計測点の位置座標を算出する位置座標算出手段14と、を備えることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円形断面形状の内部空間を有する構造物(以下、「円形断面形状構造物」という場合がある)の変位を計測するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な円形断面形状構造物としてトンネルが存在しており、その断面形状は、外圧の作用に伴って変位(変形)を生じる場合がある。この変位を経時的に把握するために、以下のトンネルの変位計測装置が提案されている。
【0003】
図8に示すように、この変位計測装置90は、トンネルT’の測定断面に設置された複数個の二次元光センサ91と、トンネルT’の測定断面から設定間隔をおいてトンネルT’の任意の位置に設置され、各二次元光センサ91に向けてそれぞれレーザー光を各別に照射可能なレーザー照射装置92と、当該レーザー照射装置92を駆動することによって二次元光センサ91に照射された各レーザー光の光点の出力から中心座標を求める中心座標演算手段及び当該中心座標演算手段からの中心座標信号を受けてトンネルT’の測定断面の内空変位(内部空間の変位)を演算する内空変位演算手段を少なくとも備えた制御装置93と、から構成されている。そして、前記制御装置93は、各二次元光センサ91に向けて照射された各レーザー光の中心座標を、任意の二次元光センサ91の原点に設定された相対基準点と比較することにより、トンネルT’の測定断面の相対変位を求めることができるようになっている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−281353号公報([0011]―[0037],図1−図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記変位計測装置90は、トンネルT’の施工時のように、シールド掘削機の搬送設備や後続設備等がトンネルT’の内部に存在する場合や、供用トンネルのように各種設備がトンネルT’の内部に存在する場合には、これらの設備等が障害になるため、トンネルT’の測定断面の相対変位を求めることができなかった。そのため、施工直後から、施工終了までの経時的なトンネルT’の断面形状の相対変位を把握することができないという問題点を有していた。
【0005】
本発明は、前記の問題点を解決するためになされたものであり、所望の時点において、円形断面を有する構造物の内部空間の変位を正確に計測することが可能である変位計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、円形断面形状の内部空間を有する構造物における、同一円形断面(測定断面)内の内壁に設置された3個以上の各計測点に関し、前記各計測点のうちの1点の基準計測点に対するそれ以外の前記各計測点の変位を計測するための変位計測装置であって、変位前後の隣接する前記各計測点間における距離変化量を計測する距離変化量計測手段と、変位前後の隣接する前記各計測点における前記内壁の角度変化量である定点角度変化量を計測する角度変化量計測手段と、前記各定点角度変化量の平均値を算出することにより、隣接する前記各計測点間における前記内壁の角度変化量である内壁角度変化量を算出し、変位前の隣接する前記各計測点間の距離及び角度と、前記隣接する計測点間における距離変化量及び前記内壁角度変化量に関する各データから変位後の各計測点の位置座標を算出する位置座標算出手段と、を備えることを特徴としている。
【0007】
ここで、円形断面とは、完全な円形断面のみを意味するのではなく、円形に近似した断面、例えば、楕円断面等や、円形断面の少なくとも一部の曲線形状を有する断面、例えば、半円断面等も含まれるものである。
【0008】
本発明によれば、変位前後の隣接する前記各計測点間における距離変化量(内壁の周方向の歪み)を計測する距離変化量計測手段と、変位前後の隣接する各計測点における定点角度変化量を計測する角度変化量計測手段とを備え、変位前の隣接する各計測点間の距離及び角度と、変位前後の隣接する各計測点間における距離変化量、および各定点角度変化量から算出した変位前後の隣接する各計測点間における内壁角度変化量(内壁の径方向の歪み)に関する各データを用いて、位置座標算出手段により変位後の各計測点の位置座標を算出することができる。従って、変位の計測を行う構造物の内部空間に各種の設備等が存在している場合であっても、正確に各計測点の位置座標を算出することができる。
【0009】
さらに、変位前後の隣接する各計測点における角度変化量を計測することによって、隣接する各計測点間における内壁の角度変化量を計測しており、隣接する各計測点間を結ぶ直線の角度変化量を計測する必要がないため、本発明の変位計測装置を設置した状態で、構造物の内部空間を有効に使用することができる。
【0010】
なお、隣接する各計測点間における内壁の角度変化量の計測において、基準計測点に対する変位計測点の角度変化量を計測することで、各計測点間における内壁の角度変化量を計測する従来の方法では、基準計測点の内壁が傾斜し、基準計測点に設置された角度計測器が内壁の傾斜に伴って傾いた場合に、角度計測器は、変位計測点が実際に変化した角度変化量に、基準計測点の内壁が傾斜した角度変化量を加えてしまうため、算出された各計測点の位置座標に誤差が生じてしまう。一方、本発明では、変位前後の隣接する各計測点における内壁の角度変化量に基づいて、隣接する各計測点間における内壁の角度変化量を計測しているため、正確に各計測点の位置座標を算出することができる。
【0011】
また、前記変位計測装置において、前記位置座標算出手段により算出された前記各計測点の位置座標の誤差を算出し、当該算出された誤差から前記各計測点の補正値を算出するための補正値算出手段と、前記位置座標算出手段から算出された前記各計測点の位置座標から、前記補正値を減ずる演算を行うことにより、前記各計測点の位置座標を補正する位置座標補正手段と、を備える構成とすることもできる。
【0012】
本発明によれば、位置座標算出手段により算出された各計測点の位置座標から、前記補正値算出手段により算出された補正値を減ずる演算を行うことで、各計測点の位置座標を補正することができるため、より正確に各計測点の位置座標を算出することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の変位計測装置によれば、所望の時点において、正確に円形断面の内部空間を有する構造物の変位を計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の一形態(以下「実施形態」という)について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
[変位計測の考え方]
本発明の変位計測装置1について説明する前に、変位計測の考え方について簡単に説明する。
ここでは、図1及び図2(a)に示すように、円形断面形状の中空部Cを有する構造物Sにおける、同一断面内の内壁S1に設置されたn個(nは3以上)の各計測点に関し、任意の計測点ak+1が、ak+1’に移動した場合の基準計測点a0(前記各計測点のうちの1点)に対する相対的な位置座標を求める場合を考える。
なお、本発明では、任意の計測点ak+1の基準計測点a0に対する相対変位を求めることを目的とするため、基準計測点a0の位置座標は、前記変位前後で変化しない不動点であり、別途計測により既知となった基準点である。
【0016】
変位前の計測点ak+1の位置座標(Xak+1,Yak+1)は、式(1−1)で示される。
Xak+1=Xak+Lak×cosθak
Yak+1=Yak+Lak×sinθak (1−1)
Lak:変位前の任意の計測点ak〜ak+1間における内壁S1の弦長
θak:変位前の任意の計測点ak〜ak+1間における内壁S1の水平角
(水平基準線に対する角度)
k:0〜n−1(但し、k=n−1の場合には、an=a0となる)
【0017】
また、変位後の計測点ak+1’の位置座標(Xak+1’,Yak+1’)は、式(1−2)で示される。
Xak+1’=Xak’+Lak’×cosθak
Yak+1’=Yak’+Lak’×sinθak (1−2)
Lak’:変位後の任意の計測点ak〜ak+1間における内壁S1の弦長
θak’:変位後の任意の計測点ak〜ak+1間における内壁S1の水平角
【0018】
ここで、変位前後の計測点ak〜ak+1間における内壁S1の弦長の距離変化量(内壁S1の周方向の歪み)を△Lak、計測点ak〜ak+1間における内壁S1の水平角変化量である内壁角度変化量(内壁S1の径方向の歪み)をΔθakとすると、式(1−3)となる。
Lak’=Lak+△Lak
θak’=θak+△θak (1−3)
【0019】
計測点ak〜ak+1間における内壁S1の径方向の歪みによる内壁角度変化量Δθakは、変位前後の計測点akにおける内壁S1の水平角変化量である定点角度変化量δak、と計測点ak+1における内壁S1の水平角変化量である定点角度変化量δak+1(図2(b))の平均値で表すことができる(式(1−4))。
Δθak=(δak+δak+1)/2 (1−4)
δak:変位前後の任意の計測点akにおける内壁S1の水平角変化量
【0020】
式(1−2)〜式(1−4)とから式(1−5)が得られる。
Xak+1’=Xak’+(Lak+△Lak)×cos{θak+ (δak+δak+1)/2}
Yak+1’=Yak’+(Lak+△Lak)×sin{θak+ (δak+δak+1)/2}
(1−5)
【0021】
前記と同様の考え方により、計測点ak+2が、ak+2’に移動した場合の位置座標は、式(1−6)で表すことができ、これを逐次行うことで、各計測点の位置座標を算出することができることになる。
Xak+2’=Xak+1’+(Lak+△Lak)×cos{θak+1+ (δak+1+δak+2)/2}
Yak+2’=Yak+1’+(Lak+△Lak)×sin{θak+1+ (δak+1+δak+2)/2}
(1−6)
【0022】
基準計測点a0の位置座標は、前記変位前後で変化しない不動点であるから、当該基準計測点a0の既知の位置座標((Xa0,Ya0)=(Xa0’,Ya0’))の値と、変位前の各計測点間における内壁S1の水平角と、既知である変位前の各計測点間における内壁S1の弦長と、変位前後の既知の隣接する計測点及び対象とする計測点の定点角度変化量とから、順次、各計測点a1・・ak・・anについての位置座標を算出することができることになる。
【0023】
(位置座標補正方法)
前記の場合において、各計測点akの位置座標を算出する場合には、各計測点akについて、反時計回り(a0→a1・・→ak→・・→an-1→a0)に順次位置座標を算出する場合と、時計回り(a0→an-1・・→ak→・・→a1→a0)に順次位置座標を算出する場合とがある(図1)。通常は、各場合について、距離変化量計測手段及び角度変化量計測手段の機器等による計測誤差が存在するため、算出された基準計測点a0’の位置座標(Xa0’,Ya0’)(以下、「基準計測点算出座標」という)は、既知の基準計測点a0の位置座標(Xa0,Ya0)と一致しない。そのため、以下の方法により、算出された各計測点akの位置座標(Xak’,Yak’)の値を補正することが必要になる。
【0024】
(1)第1補正方法
第1補正方法は、最も簡単な補正方法であり、基準計測点算出座標(Xa0',Ya0')の値と、既知である真の基準計測点座標(Xa0,Ya0)の値の差を計測点の数(n)で除すことにより補正値(H1x,H1y)を算出して(式(2−1))、算出された各計測点akの位置座標(Xak’,Yak’)から、前記補正値(H1x,H1y)を減ずる演算を行うことにより、補正後の各計測点akの位置座標(X1ak’,Y1ak’)の値を求める方法である(式(2−2))。
【0025】
1x=(Xa0’−Xa0)/n
1y=(Ya0’−Ya0)/n (2−1)
1x:第1補正方法により算出したX座標の補正値
1y:第1補正方法により算出したY座標の補正値
【0026】
1ak’=Xak’−H1x
1ak’=Yak’−H1y (2−2)
1ak’:第1補正方法により補正した計測点akにおける変位後のX座標
1ak’:第1補正方法により補正した計測点akにおける変位後のY座標
【0027】
(2)第2補正方法
第2補正方法は、各計測点akについて、時計回りと反時計回りで位置座標(Xa0',Ya0'),(Xa0",Ya0”)を算出し、1回の算出で生じる誤差を同等として、位置座標を算出するための演算を行った回数(基準計測点から対象とする計測点までの数)で重み付けして、両者の重み付け平均値をとった値を算出すべき位置座標(X2ak’,Y2ak’)の値とする方法である(式(3−1))。
【0028】
2ak’={k×Xak’+(n−k)×Xak”}/n
2ak’={k×Yak’+(n−k)×Yak”)/n (3−1)
2ak’:第2補正方法により補正した計測点akにおける変位後のX座標
2ak’:第2補正方法により補正した計測点akにおける変位後のY座標
Xak’:時計回りで算出した計測点akにおける変位後のX座標
Yak’:時計回りで算出した計測点akにおける変位後のY座標
Xak”:反時計回りで算出した計測点akにおける変位後のX座標
Yak”:反時計回りで算出した計測点akにおける変位後のY座標
【0029】
[変位計測装置]
図3に示すように、本実施形態では、本発明の変位計測装置1を用いて、円形断面形状の内部空間を有するトンネルTの同一円形断面内の空間変位を計測する。なお、このトンネルTにおける円形断面の中心点Oを通る鉛直方向の垂線が、内壁T1と交わる交点を基準計測点(a0)として、以下中心角度が45度の等間隔となるように、他の7つの計測点を設定し、他の第1計測点(a1)〜第7計測点(a7)の基準計測点(a0)に対する相対変位を算出することとする。
【0030】
図4に示すように、本発明の変位計測装置1は、各計測点に設けられ、隣接する各計測点間における内壁T1の周方向の距離変化量(内壁T1の周方向の歪み)を計測する距離変化量計測装置20(本実施形態では8基)、及び、当該隣接する各計測点における内壁T1の角度変化量を計測する角度変化量計測装置30(本実施形態では8基)と、前記距離変化量計測装置20及び角度変化量計測装置30から出力された距離データ及び角度データを演算処理するためのコンピュータから構成される変位算出装置2とを備えている。
【0031】
この距離変化量計測装置20には、種々の装置を用いることができるが、例えば、隣接する計測点間に変位計測用のワイヤ21を懸架して、その長さ変化量を検出するワイヤ式変位計測器を用いることが好適である。
図5に示すように、このワイヤ式変位計測器から構成される距離変化量計測装置20は、略円柱形状であり、下面がトンネルTの内壁T1の計測点に固着されている。そして、側面部からワイヤ21が延出しており、その先端部は、トンネルTの内壁T1の隣接する一方の計測点に固着されている繋止部材25に、所定の張力を有した状態で繋止されている。また、ワイヤ21の中間部には、トンネルTの内壁面T1に固着されているプーリ26が介装されており、このプーリ26によってワイヤ21は内壁T1に沿って配置されている。
なお、プーリ26の数は限定されるものではなく、ワイヤ21が内壁S1に沿って配置されるように、その数および配置を設定することが好ましい。また、ワイヤ21全体をチューブ内に挿通させ、このチューブを内壁T1に貼り付けることによって、ワイヤ21を内壁T1に沿って配置してもよく、この構成では、内壁T1の距離変化量を正確に計測することができる。
また、本実施形態では、ワイヤ21を用いて距離変化量計測装置20を構成しているが、トンネルTの内壁T1に沿って光ファイバーケーブルを設置し、光ファイバーケーブル内を通過する光の伝達時間の変位を計測することにより、内壁T1の周方向の距離変化量を計測してもよい。このとき、光ファイバーケーブルをトンネルTの内壁T1に埋設した場合には、トンネルTの内部空間を有効に利用することができる。
【0032】
角度変化量計測装置30には、種々の手段を用いることができるが、例えば、X方向とY方向の傾きを電気抵抗の変化で捉える水平センサ(傾斜計)を用いることが好適である。図6に示すように、水平センサから構成される角度変化量計測装置30は、正面視で上向きのコ字形状であるブラケット35にボルト34により支持された状態で、トンネルTの内壁面T1に突設されている上向きのコ字形状である取付部材36にピン37で回動可能となるように取り付けられている。
なお、前記センサは、各計測点に設けるのではなく、距離計測装置20(図5参照)のワイヤ21の中間点に設けることもできる。
【0033】
変位算出装置2は、図4に示すように、距離変化量入力手段11aと、角度変化量入力手段11bと、距離算出手段12aと、角度算出手段12bと、位置座標算出手段14と、補正値算出手段15と、位置座標補正手段16と、記憶手段17と、制御手段18と、を備えており、入力装置3及び出力装置4に接続されている。
【0034】
なお、入力装置3は、変位算出装置2から要求される各種操作に対する指示情報を入力する役割を果たす手段であり、キーボード3a、マウス3b及び記録媒体読込装置3cを備えている。
また、出力装置4は、変位算出装置2の各種解析結果やデータ等を出力させるための役割を果たす手段であり、ディスプレイ4a、プリンタ4b及び記録媒体書込装置4cを備えている。
【0035】
距離変化量入力手段11aは、各距離変化量計測装置20で計測された隣接する各計測点間における内壁T1の変形前後の距離変化量データを入力して、距離算出手段12a及び記憶手段17に出力するための手段である。
角度変化量入力手段11bは、各角度変化量計測装置30で計測された隣接する各計測点における内壁T1の変形前後の角度変化量データを入力して、角度算出手段12b及び記憶手段17に出力するための手段である。
【0036】
距離算出手段12aは、入力された距離変化量データから隣接する各計測点間における内壁T1の距離データを算出して、位置座標算出手段14及び記憶手段17に出力するための手段である。
角度算出手段12bは、入力された角度変化量データから隣接する各計測点間における内壁T1の角度データを算出して、位置座標算出手段14及び記憶手段17に出力するための手段である。
【0037】
なお、記憶手段17には、各計測点の識別データと、計測日時データと、距離変化量データ、角度変化量データ、距離データ及び角度データとが、関連づけられた状態で記憶されることになる(以下、計測されたこれらのデータを総合的に「計測データ」ということがある)。
さらに、計測日時は、変位前後の任意の計測時点を指定するものであっても、予め設定されている所定の計測時点であってもよい。
【0038】
位置座標算出手段14は、各計測点について、既に位置座標が求められている側における隣接する計測点の変位前の距離データ及び角度データと、既に位置座標が求められている側における隣接する計測点の変位前後の距離変化量及び内壁角度変化量とから、時計回り又は反時計回りに、各計測点において、式(1−5)の演算を順次行うことにより、位置座標を算出するための手段である。算出された位置座標データ(以下、「算出位置座標データ」という)は、記憶手段17に記憶されるとともに、補正値算出手段15及び位置座標補正手段16に出力される。
【0039】
補正値算出手段15は、位置座標算出手段14により算出された基準計測算出座標データと、既知である真の基準計測点の座標データの差を求めて、その値を計測点の数(本実施形態では8)で除す演算(式(2−1))を行うことにより補正値を算出するための手段である。
算出された補正値データは、記憶手段17に記憶されるとともに、位置座標補正手段16に出力される。
【0040】
位置座標補正手段16は、前記位置座標算出手段14から算出された前記各計測点の算出位置座標データから、前記補正値データを減ずる演算(式(2−2))を行うことによりに、前記各計測点の位置座標を補正するための手段である。補正された位置座標データ(以下、「補正後位置座標データ」という)は、記憶手段17に記憶されるとともに、出力装置4に出力される。
【0041】
記憶手段17は、基準計測点の既知座標、各計測点の変位前の距離データ及び角度データ、各計測点の算出位置座標データ、補正値データ及び補正後位置座標データ等を記憶する手段である。
なお、この記憶手段17に格納されている各種データは、格納データ管理手段(図示せず)を介して、適宜抽出することができるようになっているとともに、適切な箇所に記憶できるようになっている。また、この記憶手段17は、プログラム記憶部(図示せず)を有しており、全体装置を駆動し、各種操作を実行するための各プログラムが格納されている。
【0042】
制御手段18は、変位計測装置1を作動させるにあたり、各手段(入力装置3及び出力装置4も含む)を制御するための手段である。
【0043】
なお、本発明では、前記第1補正方法の考え方により、補正後位置座標データを算出することとした。他の方法としては、補正値算出手段15を設けることなく、位置座標算出手段14において、反時計回りに求めた位置座標と、時計回りに求めた位置座標を用い、前記第2補正方法の考え方により、式(3−1)の演算を行うことにより、補正後位置座標を算出してもよい。
また、距離変化量計測手段のその他の手段として、レーザー発生器と、標点とを組み合わせたレーザー式測距装置等を用いることもできる。
【0044】
さらに、変位算出装置2により算出された各種結果(データも含む)を通信手段を用いて、他の現場計測室や遠隔地に設置されているコンピュータなどのデータ処理装置に送信して、各種のデータ処理を行うこともできる。
また、距離算出手段12a、角度算出手段12b、位置座標算出手段14、補正値算出手段15、位置座標補正手段16に入力される各種データは、記憶手段17に一旦記憶されている各種データを用いるものであってもよい。
また、隣接する各計測点間の距離変化量及び定点角度変化量を距離変化量計測装置20及び角度変化量計測装置30によって算出しているが、距離変化量計測装置20及び角度変化量計測装置30によって、変位前後の各計測点における位置座標及び水平角の絶対値を計測し、変位前後の各数値を変位算出装置2内で演算することにより、距離変化量及び定点角度変化量を算出してもよい。
【0045】
[変位測定方法]
図4及び図7を参照して、前記変位計測装置1を使用して、トンネルTの内部空間の変位を測定する方法について説明する。
【0046】
(1)まず、トンネルTの同一断面内の内壁面T1に各計測点を定め、距離変化量計測装置20及び角度変化量計測装置30を取り付けるとともに、変位算出装置2と接続することにより、変位計測装置1を設置する(S1)。
【0047】
(2)続いて、測距手段及び測角手段(メジャーや測量機器等を使用、図示せず)により、変位前の各計測点間における内壁T1の周方向の距離及び基準計測点における内壁T1の角度を計測して、記憶手段17に記憶させる(S2)。なお、この計測は、各計測点が変位した後に行い、その変化分を逆補正することにより、変位前の各形測点の座標を算出することも可能である。
また、計測された距離変化量データは、距離変化量入力手段11aを介して距離算出手段12a及び位置座標算出手段14に出力されるとともに、記憶手段17に記憶される。また、計測された角度変化量データは、角度変化量入力手段11bを介して角度算出手段12b及び位置座標算出手段14に出力されるとともに、記憶手段17に記憶される(S3)。
【0048】
(3)次に、位置座標算出手段14は、各計測点について、入力された変位前の隣接する各計測点間における内壁T1の周方向の距離及び内壁T1の角度と、変位前の計測点の位置座標と、変位前後の隣接する計測点間における内壁T1の周方向の距離変化量及び内壁T1の角度変化量に関する各データとから前記式(1−5)の演算を順次行うことにより位置座標を算出し(S4)、補正値算出手段15及び位置座標補正手段16に出力する。
【0049】
(4)続いて、補正値算出手段15は、基準計測点算出座標データと、既知である真の基準計測点の位置座標データとから、前記式(2−1)の演算を行うことにより補正値を算出して(S5)、位置座標補正手段16及び記憶手段17に出力する。
【0050】
(5)そして、位置座標補正手段16は、入力された前記各計測点の算出位置座標データと、前記補正値データとから、前記式(2−2)の演算を行うことによりに、前記各計測点の位置座標を補正して(S6)、出力装置4及び記憶手段17に出力する。
【0051】
[効果]
本発明の変位計測装置1によれば、変位前後の隣接する各計測点間における内壁T1の周方向の距離変化量(内壁T1の周方向の歪み)を計測する距離変化量計測手段20と、変位前後の隣接する各計測点における定点角度変化量を計測する角度変化量計測手段30とを備え、変位前の隣接する各計測点間における内壁T1の周方向の距離及び内壁T1の角度と、変位前後の隣接する各計測点間における内壁T1の周方向の距離変化量、及び各定点角度変化量から算出した変位前後の隣接する各計測点間における内壁角度変化量(内壁T1の径方向の歪み)に関する各データを用いて、位置座標算出手段14により変位後の各計測点の位置座標を算出することができる。従って、変位の計測を行うトンネルTの内部空間に各種の設備等が存在している場合であっても、正確に各計測点の位置座標を算出することができる。
【0052】
さらに、変位前後の隣接する各計測点における内壁T1の角度変化量を計測することによって、隣接する各計測点間における内壁T1の角度変化量の計測しており、隣接する各計測点間を結ぶ直線の角度変化量を計測する必要がない。また、隣接する各計測点間を結ぶ直線の距離変化量を計測する必要がない。そのため、距離変化量計測装置30を内壁T1に沿って設置することができるため、本発明の変位計測装置1を設置した状態で、トンネルTの内部空間を有効に使用することができる。
【0053】
また、位置座標算出手段14から算出された各計測点の算出位置座標データから、補正値算出手段15により算出された補正値データを減ずる演算を行うことにより、各計測点の位置座標を補正することができるため、より正確に各計測点の位置座標を算出することができる。
【0054】
以上、本発明について、好適な実施形態についての一例を説明したが、本発明は当該実施形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。
特に、計測点の個数、距離変化量計測手段、角度変化量計測手段の種類等に関しても、計測する構造物の形状等に応じて適切に設けることができる。
また、前記実施形態では、変位前の隣接する前記各計測点間の距離及び角度を、距離変化量データ及び角度変化量データを用いて距離算出手段及び角度算出手段から算出した。しかし、測距手段及び測角手段と変位計測装置とを接続し、当該変位計測装置の一部を構成する距離入力手段及び角度入力手段を介して、記憶手段及び位置座標算出手段に出力することや、変位前の隣接する前記各計測点間の距離及び角度を、変位計測装置と別体である測距手段及び測角手段により計測して、予め記憶手段に格納してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の変位計測装置で用いられる変位計測方法の考え方を示す概念図であり、構造物の変位前の状態を示す。
【図2】本発明の変位計測装置で用いられる変位計測方法の考え方を示す概念図であり、(a),(b)ともに、構造物の変位後の状態を示す。
【図3】トンネルにおいて、本発明の変位計測装置の距離変化量計測装置と、角度変化量計測装置の設置位置を示す正面方向の断面図である。
【図4】本発明の変位計測装置を示す構成図である。
【図5】距離変化量計測装置を示す正面図である。
【図6】角度変化量計測装置を示す側面図である。
【図7】本発明の変位計測装置を用いた変位計測方法を示すフロー図である。
【図8】従来の変位計測装置を示す構成図である。
【符号の説明】
【0056】
1 変位計測装置
2 変位算出装置
11a 距離変化量入力手段
11b 角度変化量入力手段
12a 距離算出手段
12b 角度算出手段
14 位置座標算出手段
15 補正値算出手段
16 位置座標補正手段
20 距離変化量計測装置
30 角度変化量計測装置
T トンネル
C 内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形断面形状の内部空間を有する構造物における、同一円形断面内の内壁に設置された3個以上の各計測点に関し、前記各計測点のうちの1点の基準計測点に対するそれ以外の前記各計測点の変位を計測するための変位計測装置であって、
変位前後の隣接する前記各計測点間における距離変化量を計測する距離変化量計測手段と、
変位前後の隣接する前記各計測点における前記内壁の角度変化量である定点角度変化量を計測する角度変化量計測手段と、
前記各定点角度変化量の平均値を算出することにより、隣接する前記各計測点間における前記内壁の角度変化量である内壁角度変化量を算出し、変位前の隣接する前記各計測点間の距離及び角度と、前記隣接する計測点間における距離変化量及び前記内壁角度変化量に関する各データから変位後の各計測点の位置座標を算出する位置座標算出手段と、
を備えることを特徴とする変位計測装置。
【請求項2】
前記位置座標算出手段により算出された前記各計測点の誤差を算出し、当該算出された誤差から前記各計測点の補正値を算出するための補正値算出手段と、
前記位置座標算出手段から算出された前記各計測点の位置座標から、前記補正値を減ずる演算を行うことにより、前記各計測点の位置座標を補正する位置座標補正手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の変位計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−38681(P2006−38681A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220175(P2004−220175)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(500105078)シーアイテック株式会社 (3)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】