説明

変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置

【課題】手間が少なく短時間で変圧器の巻線の断線の有無及びレアショートの有無を判定することができるようにする。
【解決手段】巻線が正常であるときの伝達関数の第一共振が現れる周波数帯における2次巻線の伝達関数を1次巻線を開放した状態で2次巻線に印加した入力電圧と検出された出力電圧とから計算し(S1,S2)、伝達関数の値が、第一の閾値未満である場合には1次巻線に断線が発生していると判定し(S3:Yes)、第二の閾値以上である場合には1次巻線にターン間短絡若しくはレアショートが発生していると判定し(S4:Yes)、その他の場合(S3:No且つS4:No)には1次巻線は正常であると判定する(S5)ようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、変圧器における巻線の断線の有無及びレアショートの有無の判定に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
配電用柱上変圧器のレアショートの有無を判定する従来の方法としては、例えば、変圧器の巻線に周波数の異なる交流電圧を順次印加して周波数の異なる交流電圧に対する変圧器の励磁電流を測定し、測定された励磁電流値の近似曲線を1階微分し、微分値が正の場合に短絡無しと判定し、微分値が負の場合に短絡有りと判定するものがある(特許文献1)。なお、変圧器の鉄心に巻かれた巻線の層のことをレア(layer)といい、レア間が短絡した状態をレアショートや巻線の層間短絡という。
【0003】
また、変圧器の巻線の異常診断手法として周波数応答解析(Frequency Response Analysis:FRA)がある。周波数応答解析では、正弦波の電気的信号(例えば電圧)を入力して出力信号(例えば電流)の振幅の測定を数十〔Hz〕から数〔MHz〕まで周波数を変化させながら行って変圧器への入出力の比から伝達関数を求める。ここで、伝達関数は漏れインダクタンスや対地容量や巻線間容量などの電気定数による共振を示すものであり、変圧器の巻線に異常があればこれらの電気定数が変化して伝達関数が変化する。そして、周波数応答解析では、変圧器が健全状態(即ち正常)であるときに測定しておいた伝達関数と比較してその変化の有無で変圧器の巻線の異常を診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−14528
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のレアショート有無判定方法では、300〜2000〔Hz〕の広範囲に亘って周波数を掃引して電流を測定する装置が必要であると共に数百点(即ち、数百の周波数)での測定が必要であり、設備・機器費用並びに多大な手間と時間とがかかるという問題がある。特に、配電用柱上変圧器は非常に多数設置されているので、配電用柱上変圧器を診断対象にした場合には特許文献1のレアショート有無判定方法は汎用性が高いとは言えない。
【0006】
また、周波数応答解析も、数十〔Hz〕から数〔MHz〕まで周波数を変化させて測定を行う必要があり、設備・機器費用並びに多大な手間と時間とがかかる。実際に、周波数応答解析は配電・変電クラスよりも大型の変圧器に対して専ら適用されており、設置数が非常に多い配電用柱上変圧器への適用例はない。
【0007】
また、変圧器の巻線が断線している場合にはレアショートの有無に関係なく変圧器はそもそも使用することができないので、レアショートの有無に加えて巻線が断線しておらず導通の健全性が保たれていることを確認できることも変圧器の健全性診断においては重要である。しかしながら、特許文献1のレアショート有無判定方法では、変圧器の巻線の導通確認機能は有していないので、変圧器のレアショートの有無を判定することはできても、それと同時に巻線の断線の有無を判定することはできないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、手間が少なく短時間で変圧器の巻線の断線の有無及びレアショートの有無を判定することができる変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、手間が少なく短時間で実施可能な変圧器の健全性診断方法の検討を行う中で、特定の一点のみの周波数における変圧器の伝達関数を測定することで巻線の断線の有無の判定とレアショートの有無の判定とをすることができることを突き止めた。本発明に特有のこの技術的思想の妥当性を検証するための試験(以下、検証試験と呼ぶ)を以下に説明する。
【0010】
(1)変圧器のレアショートの有無の判定手法の検証
周波数応答解析において測定する伝達関数は、巻線インピーダンス,アドミタンス,電圧レシオなどの中から原理的には任意に選択することができる。検証試験では、図3に示すように、巻線に印加した入力電圧Vin(jω)と50Ωインピーダンスを基準とした出力電圧Vout(jω)とを測定し、電気的信号を与えたときの入出力の比である数式1で定義される伝達関数H(jω)を求める。なお、図3において、符号1は柱上変圧器,符号2Aは1次巻線,符号2Bは2次巻線,符号5は測定装置をそれぞれ表す。
【数1】

ただし、j:虚数単位,
ω:角周波数 をそれぞれ表す。
【0011】
本検証試験では、1次巻線2A端子間に何も接続しない状態で2次巻線2Bへの入力電圧の印加を行うと共に出力電圧を検出して伝達関数の計算(測定)(以下、開放測定と呼ぶ)を行う。
【0012】
まず、上述の条件での測定による健全(即ち正常)な柱上変圧器の伝達関数の測定結果の一例を図4に示す(図中符号Aの実線)。図4中符号Aの実線で示されているように、変圧器の伝達関数は、値がマイナスの領域に下向き凸部を有する曲線として現れる。なお、図4に示す伝達関数は、定格容量が50〔kVA〕の柱上変圧器のものであり、測定周波数が100〔kHz〕までの範囲のものである。
【0013】
ここで、伝達関数の共振のうち周波数が最も小さいものを第一共振と呼び、そのときの周波数を第一共振周波数と呼ぶと共に、第一共振の発現として伝達関数の値が大きく増減している周波数帯のことを第一共振周波数帯と呼ぶ。そして、変圧器が正常であるときの伝達関数の測定結果(図4中符号Aの実線)から、この変圧器が正常であるときの第一共振周波数は大凡200〜300〔Hz〕であると共に第一共振周波数帯は大凡10〜1000〔Hz〕であることが確認される。
【0014】
次に、上記と同じ柱上変圧器でレアショートを模擬した上で伝達関数を測定する。ここで、本検証試験で用いた柱上変圧器の巻線構造を図5に示す。
【0015】
1次巻線2Aのレアは、鉄心4の左右それぞれに12枚巻かれており、合わせて24枚である。各レアのターン数は、タップ盤3に最も近い左右それぞれのレアで150回であり、他のレアは全て234回である。また、2次巻線2Bのレアは、鉄心4の左右それぞれに2枚巻かれており、合わせて4枚である。各レアのターン数は21回である。2次巻線2Bのレアは、鉄心4の左側のレアが右側のレアに、右側のレアが左側のレアに接続される構造になっている。そして、各レアの上部巻線を引き出し、柱上変圧器の油面よりも上で接続して端子(HL2,3+〜HL12+,HL2,3-〜HL12-)を設けて短絡させることによってレアショートを模擬する。
【0016】
1次巻線レア間を短絡させた場合の柱上変圧器の伝達関数の測定結果を図4に示す(図中符号Bの実線)。そして、このレアショート(模擬)状態の伝達関数の測定結果(図4中符号Bの実線)から、変圧器が正常であるときに数百〔Hz〕付近に見られた第一共振がなくなり、第一共振周波数帯における伝達関数の値が0〔dB〕になることが確認される。
【0017】
また、上記と同じ柱上変圧器の1次巻線の口出し部付近の隣接するターン間を短絡させた上で伝達関数を測定する。ターン間短絡は、短絡の程度が最も軽微な場合と位置づけ、本発明では変圧器の異常の一つとして本発明の変圧器の健全性診断方法によって判断され得るレアショートに含める。
【0018】
1次巻線のターン間を短絡させた場合には第一共振周波数帯における伝達関数の値は−5〔dB〕程度になることが確認される。この値は、変圧器が正常であるときの伝達関数の測定結果(図4中符号Aの実線)と比べると、第一共振周波数帯における正常時の伝達関数の値よりも大きい。
【0019】
以上の検証試験の結果から、第一共振周波数帯における伝達関数(即ち、変圧器に電気的信号を与えたときの入出力の比)の値に基づいて変圧器における巻線の断線の発生有無及びターン間短絡若しくはレアショートの発生有無を判定することが可能であり、特定の一点のみの周波数における変圧器の伝達関数を測定することで巻線の断線の発生有無の判定とターン間短絡・レアショートの発生有無の判定とをするという本発明に特有の技術的思想の妥当性が確認される。
【0020】
なお、本検証試験では配電用柱上変圧器を対象としているが、本検証試験によって得られる知見は変圧器における巻線の断線の発生有無及びターン間短絡若しくはレアショートの発生有無を判定することができるということであり、上記の技術的思想は他の種類の変圧器に対しても当てはまるものである。
【0021】
また、検証試験の結果から、配電用柱上変圧器の第一共振周波数帯は10〜1000〔Hz〕程度であることが確認され、巻線にターン間短絡若しくはレアショートが発生している場合の伝達関数の値はおよそ−5〜0〔dB〕であることが確認される。
【0022】
(2)変圧器の巻線の断線の有無の判定手法の検証
正常な変圧器の伝達関数の第一共振における最小値の絶対値は、変圧器の定格容量が大きくなるほど小さくなり、また、定格容量が同じであっても変圧器の種類(実質的には、変圧器の鉄心の特性等)によって異なる。また、共振周波数及び最小値は鉄心の残留磁束によっても変化する。種々の定格容量・種類の柱上変圧器についての正常時の伝達関数の最小値及びそのときの測定周波数の一例を表1に示す。
【表1】

【0023】
表1に示す整理結果から、以下のことが確認される。
i)変圧器の定格容量が小さいほど正常であるときの伝達関数の最小値は小さくなる(言い換えると、マイナス側により一層大きく振れる)。
ii)表1に示す結果では変圧器が正常であるときの伝達関数の最小値は−35.5〔dB〕であり、様々な定格容量・種類の変圧器においても正常であるときの伝達関数の最小値は概ね−10〜−40〔dB〕の範囲に入る。
iii)変圧器が正常であるときの伝達関数が最小になるときの測定周波数は概ね200〜1000〔Hz〕の範囲に入る。
【0024】
ここで、変圧器の巻線に断線が発生していると、測定周波数の大きさに関係なく、伝達関数の値は測定可能な範囲一杯までマイナス側に大きく振れる。したがって、任意の測定周波数において伝達関数の値が例えば−40〔dB〕よりも小さい場合には変圧器の巻線に断線が発生していると判定することができる。なお、伝達関数の値が−40〔dB〕よりも小さくなる場合として厳密には測定時の接続端子やリード線の接続不良もあり得るが、その場合には接続状態を確認し必要に応じて正して測定をし直すという前提で考えれば、伝達関数の値が−40〔dB〕よりも小さい場合には変圧器の巻線に断線が発生していると判定することができる。
【0025】
(3)変圧器に印加する入力電圧の大きさの検証
表1に結果を示す測定においては、変圧器に印加する入力電圧を5〔V〕として正常時の変圧器の伝達関数を測定している。
【0026】
測定のための入力電圧を変化させたときの正常時の変圧器の伝達関数の値の変動の程度を変圧器の定格容量別に表2に整理する。表2は、変圧器の定格容量別に、入力電圧(測定電圧)が5〔V〕のときの伝達関数の値と入力電圧(測定電圧)の大きさを変えたときの伝達関数の値との差を整理している。なお、伝達関数の測定周波数は200〔Hz〕である。
【表2】

【0027】
表2に示す比較整理から、以下のことが確認される。
i)入力電圧(測定電圧)が小さい場合には、変圧器の定格容量が大きくなると励起が不十分となって入力電圧(測定電圧)5〔V〕のときの伝達関数の値と比べて差が大きくなり、正しい伝達関数を得ることができない。一方で、入力電圧(測定電圧)として常に5〔V〕が必要とされるわけではない。
ii)すなわち、診断対象の変圧器の定格容量の大きさに合わせて入力電圧(測定電圧)の大きさを選択する必要がある。
iii)具体的には、入力電圧(測定電圧)を3.5〔V〕以上とすれば、いずれの定格容量の変圧器であっても測定可能である。
【0028】
本発明は上述の本発明者らの分析・検討によって得られた独自の知見に基づくものであり、具体的には、請求項1記載の変圧器の健全性診断方法は、巻線が正常であるときの伝達関数の第一共振が現れる周波数帯における2次巻線の伝達関数を1次巻線を開放した状態で2次巻線に印加した入力電圧と検出された出力電圧とから計算し、伝達関数の値が、第一の閾値未満である場合には1次巻線に断線が発生していると判定し、第二の閾値以上である場合には1次巻線にターン間短絡若しくはレアショートが発生していると判定し、その他の場合には1次巻線は正常であると判定するようにしている。
【0029】
また、請求項6記載の変圧器の健全性診断装置は、1次巻線を開放した状態で2次巻線に入力電圧を印加すると共に出力電圧を検出する手段と、巻線が正常であるときの伝達関数の第一共振が現れる周波数帯における2次巻線の伝達関数を入力電圧と出力電圧とから計算すると共に、伝達関数の値が、第一の閾値未満である場合には1次巻線に断線が発生していると判定し、第二の閾値以上である場合には1次巻線にターン間短絡若しくはレアショートが発生していると判定し、その他の場合には1次巻線は正常であると判定する手段とを有するようにしている。
【0030】
したがって、これらの変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置によると、本発明者らの独自の知見として得られた伝達関数の値の特性に着目し、伝達関数の値に関して巻線の断線の発生有無を判定するための第一の閾値とターン間短絡若しくはレアショートの発生有無を判定するための第二の閾値とを用いることにより、変圧器における異常として問題になる巻線の断線の発生有無とターン間短絡・レアショートの発生有無とが判定される。さらに言えば、このように二つの閾値を設定することにより、巻線の断線の発生とレアショート等の発生とが明確に区別して判定される。
【0031】
そして、これらの変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置によると、特定の周波数における伝達関数の値に基づいて上述の判定をするようにすることもできるので、一定の範囲に亘って周波数を掃引する手間をかけることなく変圧器の健全性が判定される。
【0032】
また、これらの変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置によると、特定の周波数における一回のみの測定によって得られた伝達関数の値に基づいて上述の判定をするようにすることもできるので、一定の範囲に亘って周波数を掃引する手間をかけることがないと共に、ただ一回の入力電圧の印加及び出力電圧の検出(言い換えると、伝達関数の測定)によって巻線の断線の発生有無の判定とターン間短絡・レアショートの発生有無の判定とを行って変圧器の健全性が判定される。
【0033】
また、これらの変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置によると、変圧器の上蓋を開閉することなく変圧器の健全性が判定される。
【0034】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の変圧器の健全性診断方法において、巻線が正常であるときの伝達関数の第一共振が現れる周波数帯を10〜1000〔Hz〕とし、当該10〜1000〔Hz〕の周波数帯において2次巻線の伝達関数を計算するようにしている。また、請求項7記載の発明は、請求項6記載の変圧器の健全性診断装置において、巻線が正常であるときの伝達関数の第一共振が現れる周波数帯が10〜1000〔Hz〕であり、当該10〜1000〔Hz〕の周波数帯において2次巻線の伝達関数を計算するようにしている。これらの場合には、少なくとも定格容量が5〜100〔kVA〕程度の変圧器では第一共振周波数帯において伝達関数の計算を行うことになるので、特に前記定格容量の変圧器に対する特にレアショート発生有無の判定が適切に行われる。
【0035】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の変圧器の健全性診断方法において、第一の閾値を−50〜−40〔dB〕の範囲内のいずれかの値とするようにしている。また、請求項8記載の発明は、請求項6記載の変圧器の健全性診断装置において、第一の閾値が−50〜−40〔dB〕の範囲内のいずれかの値であるようにしている。これらの場合には、少なくとも定格容量が5〜100〔kVA〕程度の変圧器における正常時の伝達関数の値の最小値を下回る値に第一の閾値が設定されることになるので、特に前記定格容量の変圧器に対する特に巻線の断線発生有無の判定が適切に行われる。
【0036】
また、請求項4記載の発明は、請求項1記載の変圧器の健全性診断方法において、第二の閾値を−5〜0〔dB〕の範囲内のいずれかの値とするようにしている。また、請求項9記載の発明は、請求項6記載の変圧器の健全性診断装置において、第二の閾値が−5〜0〔dB〕の範囲内のいずれかの値であるようにしている。これらの場合には、定格容量が5〜100〔kVA〕程度の変圧器における巻線のターン間短絡やレアショート発生時の伝達関数の値を下回り且つ正常時の伝達関数の値の最大値を上回る値に第二の閾値が設定されることになるので、特に前記定格容量の変圧器に対する特にレアショート発生有無の判定が適切に行われる。
【0037】
また、請求項5記載の発明は、請求項1記載の変圧器の健全性診断方法において、入力電圧を3.5〜5〔V〕とするようにしている。また、請求項10記載の発明は、請求項6記載の変圧器の健全性診断装置において、入力電圧が3.5〜5〔V〕であるようにしている。これらの場合には、伝達関数の計算のために印加する入力電圧を必要最小限にするようにしているので、電源機構が乾電池等の小型のバッテリーから構成され得るようにして、電源機構の小型化が図られる。また、これらの場合には、印加する入力電圧を小さくすることによって耐電圧特性の要求レベルが低く抑えられるので、使用する素子が高価になることが回避される。
【発明の効果】
【0038】
本発明の変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置によれば、巻線の断線の発生有無を判定するための第一の閾値とターン間短絡若しくはレアショートの発生有無を判定するための第二の閾値とを用いて変圧器の巻線の断線の発生有無の判定とターン間短絡・レアショートの発生有無の判定とをすることができるので、二つの判定処理を一連のものとして行うことができると共に一台の装置によって行うことができ、変圧器の健全性診断にかかる手間を大幅に軽減することが可能になると共に設備・機器費用を大幅に縮減することが可能になる。さらに、二つの閾値を設定することによって巻線の断線の発生とレアショート等の発生とを明確に区別して判定することができるので、実際には巻線の断線が発生している状態をレアショート等が発生している状態と誤って診断してしまうことや実際には測定端子の接続不良である状態をレアショート等が発生している状態と誤って診断してしまうことなどを防止することが可能になり、変圧器の健全性診断技術としての信頼性の向上を図ることが可能になる。

【0039】
また、本発明の変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置によれば、一定の範囲に亘って周波数を掃引する手間をかけることなく変圧器の健全性を判定するようにすることもできるので、二つの判定処理にかかる手間を大幅に軽減し測定時間を大幅に短縮することができると共に1台の装置のみで二つの判定処理を行うことができ、健全性診断技術としての汎用性の向上を図ることが可能になる。なお、低周波数帯で周波数を掃引して測定を行う場合には測定時間が一般に長くかかるところ本発明によればその必要がないので、従来の方法と比べて測定時間を大幅に短縮することが可能になる。
【0040】
また、本発明の変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置によれば、ただ一回の入力電圧の印加及び出力電圧の検出(言い換えると、伝達関数の測定)によって巻線の断線の発生有無の判定とターン間短絡・レアショートの発生有無の判定とを行うようにすることもできるので、二つの判定処理にかかる手間を大幅に軽減し測定時間を大幅に短縮することができると共に一台の装置で二つの判定処理を行うことができ、変圧器の健全性診断技術としての汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0041】
また、本発明の変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置によれば、変圧器の上蓋を開閉することなく変圧器の健全性を判定することができるので、健全性を診断することによって変圧器の健全性を損なってしまうことを回避して汎用性の向上を図ることが可能になる。特に、変圧器の設置場所が野外であっても本発明によれば上蓋を開閉することがないので変圧器の内部状態の保全に注意する必要がなく、現場適用性を大幅に向上させることが可能になる。
【0042】
さらに、本発明の変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置によれば、特に定格容量が5〜100〔kVA〕程度の変圧器に対する特にレアショート発生有無の判定を適切に行うことができるので、変圧器の健全性診断技術としての信頼性を向上させることが可能になる。
【0043】
また、本発明の変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置によれば、特に定格容量が5〜100〔kVA〕程度の変圧器に対する特に巻線の断線発生有無の判定を適切に行うことができるので、変圧器の健全性診断技術としての信頼性を向上させることが可能になる。
【0044】
また、本発明の変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置によれば、電源機構の小型化を図ることができるので、装置構成をコンパクトにして片手でも十分に持てるサイズにすることができ、変圧器の健全性診断技術としての利便性・汎用性を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の変圧器の健全性診断方法の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
【図2】本発明の変圧器の健全性診断装置の実施形態の一例を説明する機能ブロック図である。
【図3】伝達関数測定方法を説明する図である。
【図4】検証試験の伝達関数の測定結果を示す図である。
【図5】検証試験の柱上変圧器の巻線構造を説明する図である。
【図6】本発明の変圧器の健全性診断装置の具体の回路構成の一例(実施例1)を説明する機能ブロック図である。
【図7】本発明の変圧器の健全性診断装置の具体の回路構成の他の例(実施例2)を説明する機能ブロック図である。
【図8】本発明の変圧器の健全性診断装置の具体の回路構成の更に他の例(実施例3)を説明する機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0047】
図1及び図2に、本発明の変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置の実施形態の一例を示す。本発明の変圧器の健全性診断方法は、図1に示すように、巻線が正常であるときの伝達関数の第一共振が現れる周波数帯における2次巻線の伝達関数を1次巻線を開放した状態で2次巻線に印加した入力電圧と検出された出力電圧とから計算し(S1,S2)、伝達関数の値が、第一の閾値未満である場合には1次巻線に断線が発生していると判定し(S3:Yes)、第二の閾値以上である場合には1次巻線にターン間短絡若しくはレアショートが発生していると判定し(S4:Yes)、その他の場合(S3:No且つS4:No)には1次巻線は正常であると判定する(S5)ようにしている。
【0048】
また、本発明の変圧器の健全性診断装置は、1次巻線を開放した状態で2次巻線に入力電圧を印加すると共に出力電圧を検出する手段と、巻線が正常であるときの伝達関数の第一共振が現れる周波数帯における2次巻線の伝達関数を入力電圧と出力電圧とから計算すると共に、伝達関数の値が、第一の閾値未満である場合には1次巻線に断線が発生していると判定し、第二の閾値以上である場合には1次巻線にターン間短絡若しくはレアショートが発生していると判定し、その他の場合には1次巻線は正常であると判定する手段とを備えている。
【0049】
本実施形態では、図2に示す変圧器の健全性診断装置10によって変圧器の健全性診断方法が実施される場合を例に挙げて説明する。この変圧器の健全性診断装置10は、1次巻線を開放した状態で2次巻線に入力電圧を印加すると共に出力電圧を検出する手段としての電圧印加・検出部11と、巻線が正常であるときの伝達関数の第一共振が現れる周波数帯における2次巻線の伝達関数を入力電圧と出力電圧とから計算する伝達関数計算部12a及び伝達関数の値が第一の閾値未満である場合には1次巻線に断線が発生していると判定する断線有無判定部12b及び伝達関数の値が第二の閾値以上である場合には1次巻線にターン間短絡若しくはレアショートが発生していると判定するレアショート等有無判定部12cを有し、伝達関数の値が、第一の閾値未満である場合には1次巻線に断線が発生していると判定し、第二の閾値以上である場合には1次巻線にターン間短絡若しくはレアショートが発生していると判定し、その他の場合には1次巻線は正常であると判定する手段としての判定部12とを備える。
【0050】
なお、電圧印加・検出部11には、診断対象の変圧器の2次巻線に接続させる一対の端子16,16(具体的には例えばクリップ)が、各々に接続されたリード17,17を介して取り付けられる。
【0051】
また、本実施形態の変圧器の健全性診断装置10は、動作内容や測定結果等を表示するための表示部13と、作業者の指示・命令等を当該装置に与えるための入力部14とを更に備える。表示部13は、具体的には例えば、LCD表示器や、表示項目に対応させて設けられたランプである。また、入力部14は、具体的には例えば、操作キーや、入力項目に対応させて設けられたボタンや、切換スイッチである。
【0052】
そして、上述の電圧印加・検出部11と判定部12と表示部13と入力部14とはバス等の信号回線によって接続されてデータや制御指令等の信号の出入力が相互に行われる。
【0053】
なお、変圧器の健全性診断装置10は、さらに、変圧器の健全性診断に関する処理を行う際の作業領域やデータ格納領域を構成するためのメモリや、音生成回路及びスピーカー等を適宜備えるようにしても良い。
【0054】
また、変圧器の健全性診断装置10は、当該装置10の各部に電力を供給する電源回路部15を有する。ここで、上述の本発明者らの分析・検討によって得られた知見に基づくと、伝達関数の計算のために印加する入力電圧は、変圧器の定格容量が10〔kVA〕であれば2〔V〕で足り、定格容量が100〔kVA〕までの変圧器に幅広く対応する場合でも3.5〜5〔V〕程度で足りる。そして、3.5〜5〔V〕程度の入力電圧であれば変圧器の健全性診断装置10を乾電池等の小型のバッテリーで作動させることが可能であり、したがって大型の電源ユニットを備える必要がなく、変圧器の健全性診断装置10を例えば片手でも十分に持てる程度に非常にコンパクトにすることができる。
【0055】
具体的には例えば、変圧器の健全性診断装置10の電源回路部15を、1.2〜1.5V乾電池2個を直列に接続して2.4〜3〔V〕を供給する回路で構成することが考えられる。なおこの場合には、電源からの供給電力の電圧を入力電圧に合わせるための昇圧回路等を適宜備えるようにする。また、巻線の断線の発生有無の判定のための入力電圧の印加及び出力電圧の検出とターン間短絡・レアショートの発生有無の判定のための入力電圧の印加及び出力電圧の検出とをそれぞれ行う構成の場合には、巻線の断線の発生有無の判定では入力電圧が高い方が測定精度の向上が期待できることを考慮し、電源回路部15を、9V積層型電池2個を直列に接続して18〔V〕を供給する回路や9V積層型電池2個を並列に接続して9〔V〕を供給する回路で構成するようにしたりすることが考えられる。なおこの場合には、電源からの供給電力の電圧を入力電圧に合わせるための降圧回路等を適宜備えるようにする。このように、電源回路部15を例えば1.2〜1.5V乾電池や9V積層型電池によって構成することにより、電源の確保・維持が非常に容易になり、変圧器の健全性診断装置としての汎用性の向上が図られる。
【0056】
本発明の実施にあたっては、まず、診断対象の変圧器の2次巻線への入力電圧の印加及び2次巻線からの出力電圧の検出を行う(S1)。
【0057】
本発明では、変圧器の1次巻線を開放した状態で、診断対象の変圧器が正常であるときに伝達関数の第一共振が現れる周波数帯(即ち第一共振周波数帯)における2次巻線の伝達関数を計算する。このため、本発明では、変圧器の1次巻線を開放した状態で、第一共振周波数帯の範囲内の周波数を有する入力電圧を2次巻線に印加すると共に当該2次巻線からの出力電圧を検出(測定)する。
【0058】
伝達関数の計算のための測定は、例えば、変圧器を対象として行われる周波数応答解析において従来から用いられてきた方法と同様に行われる。一方で、従来の周波数応答解析では周波数を掃引する必要があるので周波数掃引機能を備える測定装置を用いることが必須であるが(例えば図3参照)、本発明では周波数を掃引することは必須ではないので電圧印加・検出部11及び判定部12を特定の周波数のみでの測定を行うように構成しても良い。
【0059】
特定の周波数のみでの測定を行う場合には、具体的には例えば、電圧印加・検出部11を、正弦波生成回路,増幅回路,50Ω抵抗器,DC変換回路(印加する正弦波電圧→直流電圧変換回路,検出される交流電圧→直流電圧変換回路),電圧計を備える構成とすることが考えられる。言い換えると、周波数応答解析において従来から用いられてきた測定装置で周波数掃引機能を有しない構成であって、具体的には例えば図3に示す測定装置5で周波数掃引機能を有しない構成とすることが考えられる。
【0060】
ここで、本発明では、診断対象の変圧器の巻線が正常であるときに伝達関数の第一共振が現れる周波数帯(即ち第一共振周波数帯)における伝達関数を測定する。具体的には例えば、上述の本発明者らの分析・検討によって得られた知見に基づいて、例えば定格容量が5〜100〔kVA〕程度の変圧器の場合には大凡10〜1000〔Hz〕の範囲内から選択した周波数を測定周波数として伝達関数を測定することが考えられる。しかしながら、本発明における測定周波数の範囲は10〜1000〔Hz〕の範囲内に限られるものではなく、診断対象の変圧器の巻線が正常であるときに伝達関数の第一共振が現れる周波数帯であれば前記範囲外の周波数でも良い。
【0061】
伝達関数を測定する周波数を独自に定める場合には、診断対象の変圧器と同型(具体的には、定格容量が同じであると共に鉄心の特性が同じ)の変圧器であって正常であるものの伝達関数の既存の測定結果がある場合には当該測定結果を用いて測定周波数を決定するようにしても良いし、診断対象の変圧器の設計仕様に基づいて第一共振の周波数を計算して当該計算結果を用いて測定周波数を決定するようにしても良い。なお、同型の変圧器であれば、(測定誤差や個体差を除けば)伝達関数は一致し、したがって共振が現れる周波数・周波数帯は一致するので、同型の複数の変圧器に対しては同じ測定周波数で測定を行うようにすれば良い。
【0062】
本発明では、第一共振周波数帯のうちの一つ若しくは複数の周波数で入力電圧の印加及び出力電圧の検出を行うと共に伝達関数の値の計算を行う。なお、本発明の成立のためには伝達関数の値の計算を行う周波数は一点のみで足り、例えば健全性診断の確実性を期したい場合には複数の周波数において測定を行うようにしても良い。
【0063】
また、変圧器固有の伝達関数の形状を明らかにし第一共振周波数帯を確認して測定周波数の検討を行うことを可能にするために、一定の周波数の範囲で連続的に、即ち周波数を掃引しながら伝達関数の測定を行うことができるようにしても良い。なお、周波数の掃引の範囲は、種々の変圧器の少なくとも第一共振周波数を含んで第一共振周波数帯を概ねカバーできるようにすることを考慮し、例えば10〜9990〔Hz〕とすることが考えられる。
【0064】
ここで、本実施形態では、判定部12の伝達関数計算部12aからの指示に基づいて電圧印加・検出部11が診断対象の変圧器の2次巻線への入力電圧の印加を行うと共に2次巻線からの出力電圧の検出を行う。
【0065】
そして、入力電圧の印加及び出力電圧の検出を行うと共に伝達関数の値の計算を行う測定周波数については、一つ若しくは複数の測定周波数が伝達関数計算部12aに予め規定されているようにしても良いし、予め規定されている複数の周波数の中から測定の際に作業者が表示部13及び入力部14を介して選択できるようにしても良いし、測定の際に作業者が表示部13及び入力部14を介して測定周波数の個数及び周波数を指定できるようにしても良い。
【0066】
また、一定の周波数の範囲で周波数を掃引しながら伝達関数の測定を行う場合には、掃引開始の周波数及び掃引終了の周波数が伝達関数計算部12aに予め規定されているようにしても良いし、測定の際に作業者が表示部13及び入力部14を介して掃引開始の周波数及び掃引終了の周波数を指定できるようにしても良い。
【0067】
本実施形態では、電圧印加・検出部11は、伝達関数計算部12aからの指示に基づいて第一共振周波数帯のうちの一つの周波数で入力電圧の印加及び出力電圧の検出並びに伝達関数の値の計算を一回だけ行う。したがって、当該一回の入力電圧の印加及び出力電圧の検出並びに伝達関数の値の計算によって得られた一個の伝達関数の値を用いて以降のS2からS5までの処理が行われる。
【0068】
そして、電圧印加・検出部11は、診断対象の変圧器の2次巻線に入力電圧を印加すると共に出力電圧を検出し、当該検出された出力電圧の値を判定部12に対して出力する。
【0069】
続いて、S1の処理において印加された入力電圧の値と検出された出力電圧の値とを用いて伝達関数の計算を行う(S2)。
【0070】
伝達関数の計算は、例えば、変圧器を対象として行われる周波数応答解析において従来から用いられてきた方法と同様に行われる。具体的には例えば、診断対象の変圧器の2次巻線に印加した入力電圧Vin(jω)と50Ωインピーダンスを基準とした出力電圧Vout(jω)とを測定し、数式1で定義される伝達関数H(jω)を求めることによって行われる。
【0071】
本実施形態では、判定部12がS1の処理において検出された出力電圧の値の入力を電圧印加・検出部11から受け、判定部12の伝達関数計算部12aが、電圧印加・検出部11に対して指示した入力電圧の値と前記検出された出力電圧の値とを用いて数式1によって伝達関数の値を計算する。
【0072】
そして、伝達関数計算部12aは、計算した伝達関数の値を断線有無判定部12bに対して出力する。
【0073】
続いて、S2の処理における計算によって得られた伝達関数の値が第一の閾値未満か否かの判断を行う(S3)。
【0074】
第一の閾値は、変圧器の巻線に断線が発生して変圧器の健全性が損なわれていることを判定するための伝達関数の値である。第一の閾値は、例えば定格容量が5〜100〔kVA〕程度の変圧器の場合には上述の本発明者らの分析・検討によって得られた知見も踏まえて具体的には例えば−50〜−40〔dB〕の範囲内のいずれかの値に設定することが考えられる。しかしながら、本発明における第一の閾値は−50〜−40〔dB〕の範囲内に限られるものではなく、例えば同型の変圧器における正常であるときの伝達関数の値の最小値に基づいて設定する、すなわち、正常であるときの伝達関数の値の最小値よりも小さい値に設定するようにしても良い。
【0075】
第一の閾値は、断線有無判定部12bに予め規定されているようにしても良いし、予め規定されている複数の閾値(具体的には伝達関数の値)の中から測定の際に作業者が表示部13及び入力部14を介して選択できるようにしても良いし、測定の際に作業者が表示部13及び入力部14を介して指定できるようにしても良い。
【0076】
本実施形態では、判定部12の断線有無判定部12bが、S2の処理において計算された伝達関数の値の入力を伝達関数計算部12aから受け、当該伝達関数の値が第一の閾値未満であるか否かを判断する。
【0077】
そして、前記計算された伝達関数の値が第一の閾値未満である場合には(S3:Yes)、断線有無判定部12bは、診断対象の変圧器の巻線には断線が発生していると判定し、そのことを表示部13に表示させたりする。そして、判定部12は当該変圧器に対する健全性診断の処理を終了する(END)。
【0078】
一方、前記計算された伝達関数の値が第一の閾値以上である場合には(S3:No)、断線有無判定部12bは、診断対象の変圧器の巻線には断線が発生していないと判定し、そのことを表示部13に表示させたりする。そして、判定部12は当該変圧器に対する健全性診断の処理をS4の処理に進める。
【0079】
続いて、S2の処理における計算によって得られた伝達関数の値が第二の閾値以上か否かの判断を行う(S4)。
【0080】
第二の閾値は、変圧器の巻線にターン間短絡・レアショートが発生して変圧器の健全性が損なわれていることを判定するための伝達関数の値である。第二の閾値は、例えば定格容量が5〜100〔kVA〕程度の変圧器の場合には上述の本発明者らの分析・検討によって得られた知見も踏まえて具体的には例えば−5〜0〔dB〕の範囲内のいずれかの値に設定することが考えられる。しかしながら、本発明における第二の閾値は−5〜0〔dB〕の範囲内に限られるものではなく、例えば同型の変圧器におけるターン間短絡やレアショートが発生しているとき若しくはそれらを模擬した状態での伝達関数の値に基づいて設定するようにしても良い。
【0081】
具体的には、ターン間短絡やレアショートの発生若しくは発生模擬状態における測定周波数(或いは第一共振周波数帯)での伝達関数の値よりも小さく、且つ、正常であるときの測定周波数(或いは第一共振周波数帯)での伝達関数の値よりも大きい値に設定する。
【0082】
第二の閾値は、レアショート等有無判定部12cに予め規定されているようにしても良いし、予め規定されている複数の閾値(具体的には伝達関数の値)の中から測定の際に作業者が表示部13及び入力部14を介して選択できるようにしても良いし、測定の際に作業者が表示部13及び入力部14を介して指定できるようにしても良い。
【0083】
本実施形態では、判定部12のレアショート等有無判定部12cが、S2の処理において計算された伝達関数の値が第二の閾値以上であるか否かを判断する。
【0084】
そして、前記計算された伝達関数の値が第二の閾値以上である場合には(S4:Yes)、レアショート等有無判定部12cは、診断対象の変圧器の巻線にはターン間短絡・レアショートが発生していると判定し、そのことを表示部13に表示させたりする。そして、判定部12は当該変圧器に対する健全性診断の処理を終了する(END)。
【0085】
一方、前記計算された伝達関数の値が第二の閾値未満である場合には(S4:No)、レアショート等有無判定部12cは、診断対象の変圧器の巻線にはターン間短絡・レアショートが発生していないと判定し、そのことを表示部13に表示させたりする。
【0086】
そして、S2の処理における計算によって得られた伝達関数の値が第一の閾値以上である(S3:No)と共に第二の閾値未満である(S4:No)場合には、判定部12は、診断対象の変圧器の巻線には断線もターン間短絡・レアショートも発生しておらず変圧器の健全性が保たれている即ち正常であると判定し(S5)、当該変圧器に対する健全性診断の処理を終了する(END)。
【0087】
以上の構成を有する変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置によれば、第一の閾値と第二の閾値とを用いて変圧器の巻線の断線の発生有無の判定とターン間短絡・レアショートの発生有無の判定とをすることができるので、二つの判定処理を一連のものとして行うことができると共に一台の装置によって行うことができ、変圧器の健全性診断にかかる手間を大幅に軽減することが可能になると共に設備・機器費用を大幅に縮減することが可能になる。さらに、二つの閾値を設定することによって巻線の断線の発生とレアショート等の発生とを明確に区別して判定することができるので、実際には巻線の断線が発生している状態をレアショート等が発生している状態と誤って診断してしまうことや実際には測定端子の接続不良である状態をレアショート等が発生している状態と誤って診断してしまうことなどを防止することが可能になり、変圧器の健全性診断技術としての信頼性の向上を図ることが可能になる。しかも、装置構成をコンパクトにして片手でも十分に持てるサイズにすることができる。
【0088】
また、以上の構成を有する変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置によれば、一定の範囲に亘って周波数を掃引する手間をかけることなく変圧器の健全性を判定することができるので、二つの判定処理にかかる手間を大幅に軽減し測定時間を大幅に短縮することができると共に汎用装置のみで二つの判定処理を行うことができ、健全性診断技術としての汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0089】
また、以上の構成を有する変圧器の健全性診断方法及び健全性診断装置によれば、ただ一回の入力電圧の印加及び出力電圧の検出(言い換えると、伝達関数の測定)によって巻線の断線の発生有無の判定とターン間短絡・レアショートの発生有無の判定とを行うことができるので、二つの判定処理にかかる手間を大幅に軽減し測定時間を大幅に短縮することができると共に一台の装置で二つの判定処理を行うことができ、変圧器の健全性診断技術としての汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0090】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では判定部12の中に伝達関数計算部12aと断線有無判定部12bとレアショート等有無判定部12cとをこれらが一連となって処理を行うように構成すると共に一つの測定周波数についての入力電圧の印加及び出力電圧の検出を一回だけ行って当該一回の検出によって得られた一個の出力電圧の値を用いて伝達関数の計算(S2)と巻線の断線の発生有無の判定(S3)とレアショート等の発生有無の判定(S4)とを行うようにしているが、断線有無判定部12bとレアショート等有無判定部12cとを別の構成として備えるようにすると共に巻線の断線の発生有無の判定のための入力電圧の印加及び出力電圧の検出とレアショート等の発生有無の判定のための入力電圧の印加及び出力電圧の検出とをそれぞれ行う(即ち都合二回行う)ようにしても良い。このように構成することにより、巻線の断線の発生有無だけを検査したい場合やレアショート等の発生有無だけを検査したい場合に無駄な処理をしないで済む点で有用である。または、診断対象の変圧器の導通のみを検査する導通試験部を別に備えるようにしても良い。このように構成することにより、診断対象の変圧器の2次巻線に接続させる端子16やリード線17の接続の良否を最初に確認することができる点で有用である。すなわち、まず導通試験を行い、導通が良好であると確認された場合には判定部12による巻線の断線やレアショート等の発生有無の判定を行うようにし、一方、導通が不良であると判断された場合には接続状態を確認し必要に応じて正してから判定部12による巻線の断線やレアショート等の発生有無の判定を行うようにする。これにより、伝達関数の値が第一の閾値未満であった場合について機器的な接続不良の可能性を予め排除することができるので判定部12による判定結果の解釈を限定することができ、機器的な接続状態を確認した上での測定及び判定のやり直しなどの余計な手間の発生を回避することが可能である。
【0091】
また、上述の実施形態では巻線の断線の発生有無の判定のための測定周波数とレアショート等の発生有無の判定のための測定周波数とを同じにしているが、各判定のための測定周波数を異なる周波数にしても良い。この場合には、例えば、巻線の断線の発生有無の判定のための測定周波数を20〔Hz〕とすると共にレアショート等の発生有無の判定のための測定周波数を200〔Hz〕とすることにより、巻線が正常であるときの伝達関数の値は低い周波数では大きいのに対して小さい値の第一の閾値が対応すると共に巻線が正常であるときの伝達関数の値は数百〔Hz〕の周波数では小さいのに対いて大きい値の第二の閾値が対応することになり、判定誤差をより一層確実に回避することができる。
【実施例1】
【0092】
本発明の変圧器の健全性診断装置の具体の回路構成の一例を図6を用いて説明する。
【0093】
本実施例の変圧器の健全性診断装置10は、診断対象の変圧器の2次巻線に接続させる端子16及びこれに接続するリード17を備えると共に、電圧印加・検出部11として、正弦波生成回路11a,増幅回路11b,差動増幅回路11b',50Ω抵抗器11c,DC変換回路11dを備える。
【0094】
正弦波生成回路11aは、診断対象の変圧器に印加する正弦波を発信するためのものであり、本実施例ではDDS(Digital Direct Synthesis の略)方式の正弦波を生成する回路で構成される。
【0095】
増幅回路11bは、50Ω抵抗器11cをドライブするための増幅回路である。
【0096】
差動増幅回路11b'は、入力電圧と出力電圧との差を増幅するものである。
【0097】
DC変換回路11dは、交流電圧を実効値に等しい直流電圧に変換し、MPUのADコンバータ23に入力するものである。
【0098】
本実施例の変圧器の健全性診断装置10は、装置全体の制御を行うためのMPU(Micro Processing Unit の略)を有し、当該MPU内に判定部12としての伝達関数計算部12aと断線有無判定部12bとレアショート等有無判定部12cとが構成される。
【0099】
また、本実施例の変圧器の健全性診断装置10は、表示部13としてのLCD表示器と入力部14としての操作キーとメモリ21とを更に備え、これらはMPUとバスによって接続されて信号の出入力が行われる。
【0100】
なお、図中符号22はアナログマルチプレクサ(切換器)であり、信号源(即ち、元信号電圧)と50Ω抵抗器11cとの測定切換器である。
【0101】
また、電源回路部15は、ニッケル水素電池(単三形)2個を直列に接続して構成され、MPUと表示部13とアナログ回路(具体的には、正弦波生成回路11a,増幅回路11b,50Ω抵抗器11c,差動増幅回路11b',アナログマルチプレクサ22,DC変換回路11d)用の電源を生成し電力を供給する。なお、MPUに対しては電圧そのままで電力を供給し、表示部13及びアナログ回路に対しては5〔V〕に昇圧して電力を供給している。また、9V積層型電池を用いて電源回路部15を構成するようにしても良い。
【0102】
本実施例では、変圧器固有の伝達関数の形状を明らかにし第一共振周波数帯を確認して測定周波数の検討を行うことを可能にすると共に当該検討結果に基づく周波数にて変圧器の健全性判定のための伝達関数の値の計算を行うことを可能にするため、20〜9900〔Hz〕の範囲で周波数を掃引しながら伝達関数の測定を行うモードと、前記範囲内で周波数を指定して伝達関数の値の計算を行うモードとを選択することができるように構成されている。
【0103】
測定モードの選択や測定周波数の指定は、入力部14によって入力された作業者からの指示がMPUを経由して正弦波生成回路11aに与えられる。
【0104】
また、本実施例では、変圧器の巻線の断線の発生有無を判定するための伝達関数の値である第一の閾値を−5〔dB〕とし、変圧器の巻線のターン間短絡・レアショートの発生有無を判定するための伝達関数の値である第二の閾値を−50〔dB〕としている。このように二つの閾値を設定することにより、巻線の断線の発生とレアショート等の発生とを区別して判定することが可能であり、実際には巻線の断線が発生している状態をレアショート等が発生している状態と誤って診断してしまうことや、実際には測定端子の接続不良である状態をレアショート等が発生している状態と誤って診断してしまうことなどを防止することが可能になる。
【0105】
そして、診断対象の変圧器の1次巻線を開放した状態で接続端子16を介して変圧器の2次巻線に入力電圧を印加すると共に当該2次巻線からの出力電圧を検出し、MPU内の伝達関数計算部12aが伝達関数の値を計算し、断線有無判定部12bが伝達関数の値と第一の閾値とを比較して巻線の断線の発生有無を判定すると共にレアショート等有無判定部12cが伝達関数の値と第二の閾値とを比較して巻線のターン間短絡・レアショートの発生有無を判定する。
【0106】
本実施例の変圧器の健全性診断装置10によれば、ただ一回の入力電圧の印加及び出力電圧の検出並びに伝達関数の値の計算によって巻線の断線の発生有無の判定とターン間短絡・レアショートの発生有無の判定とを行うことができるので、二つの判定処理にかかる手間を軽減し測定時間を短縮することができると共に一台の装置で二つの判定処理を行うことができ、健全性診断技術としての汎用性の向上を図ることが可能になる。さらに、二つの閾値を設定することによって巻線の断線の発生とレアショート等の発生とを明確に区別して判定することができるので、実際には巻線の断線が発生している状態をレアショート等が発生している状態と誤って診断してしまうことや実際には測定端子の接続不良である状態をレアショート等が発生している状態と誤って診断してしまうことなどを防止することが可能になり、変圧器の健全性診断技術としての信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0107】
また、本実施例の変圧器の健全性診断装置10によれば、一定の範囲で周波数を掃引しながら伝達関数の測定を行うこともできるので、例えばこれまで診断実績がない変圧器であって第一共振周波数帯を特定する必要がある場合でも、変圧器固有の伝達関数の形状を明らかにし第一共振周波数帯を確認して測定周波数の検討を行うことができるので、健全性診断の確実性・信頼性の向上を図ることが可能になると共に健全性診断装置としてのより一層の汎用性の向上を図ることが可能になる。なお、同型の変圧器であれば、(測定誤差や個体差を除けば)伝達関数は一致し、したがって共振が現れる周波数・周波数帯は一致するので、伝達関数形状の確認のための周波数掃引測定は一回で足りる。
【0108】
また、本実施例の変圧器の健全性診断装置10は、電源回路部15を乾電池で構成するようにしているので、片手で十分に持てる大きさに構成することができる。
【実施例2】
【0109】
本発明の変圧器の健全性診断装置の具体の回路構成の他の例を図7を用いて説明する。
【0110】
本実施例の変圧器の健全性診断装置10は、診断対象の変圧器の2次巻線に接続させる端子16及びこれに接続するリード17を備えると共に、電圧印加・検出部11として、正弦波生成回路11a,DC変換回路11d-A及び11d-Bを備える。
【0111】
正弦波生成回路11aは、診断対象の変圧器に印加する正弦波を発信するためのものであり、本実施例では、生成する正弦波の周波数が200,250,300,400,500〔Hz〕の中から切り替えられるようになっている。
【0112】
DC変換回路11d-Aは診断対象の変圧器に印加する正弦波の電圧を直流電圧に変換するものであり、DC変換回路11d-Bは診断対象の変圧器から検出された交流電圧を直流電圧に変換するものである。
【0113】
そして、これらDC変換回路11d-A及び11d-Bと接続する回路内に判定部12としての伝達関数計算部12aと断線有無判定部12bとレアショート等有無判定部12cとが構成される。
【0114】
また、表示部13として、診断対象の変圧器の巻線でターン間短絡・レアショートが発生していると判定した場合に点灯するレアショート等発生通知ランプ13Aと、診断対象の変圧器の巻線ではターン間短絡・レアショートも断線も発生していないと判定した場合に点灯する正常通知ランプ13Bと、診断対象の変圧器の巻線で断線が発生していると判定した場合に点灯する断線発生通知ランプ13Cとを備える。
【0115】
また、電源回路部15は、ニッケル水素電池(単三形)2個を直列に接続して構成され、上述の各構成に対し、電源を生成し電力を供給する。なお、9V積層型電池を用いて電源回路部15を構成するようにしても良い。
【0116】
本実施例では、変圧器の巻線の断線の発生有無を判定するための伝達関数の値である第一の閾値を−5〔dB〕とし、変圧器の巻線のターン間短絡・レアショートの発生有無を判定するための伝達関数の値である第二の閾値を−50〔dB〕としている。このように二つの閾値を設定することにより、巻線の断線の発生とレアショート等の発生とを区別して判定することが可能であり、実際には巻線の断線が発生している状態をレアショート等が発生している状態と誤って診断してしまうことや、実際には測定端子の接続不良である状態をレアショート等が発生している状態と誤って診断してしまうことなどを防止することが可能になる。
【0117】
そして、診断対象の変圧器の1次巻線を開放した状態で接続端子16を介して変圧器の2次巻線に入力電圧を印加すると共に当該2次巻線からの出力電圧を検出し、伝達関数計算部12aが伝達関数の値を計算し、断線有無判定部12bが伝達関数の値と第一の閾値とを比較して巻線の断線の発生有無を判定すると共にレアショート等有無判定部12cが伝達関数の値と第二の閾値とを比較して巻線のターン間短絡・レアショートの発生有無を判定する。
【0118】
ここで、本実施例では、測定周波数200,250,300,400,500〔Hz〕のうちのいずれかの周波数で入力電圧の印加及び出力電圧の検出を行うと共に当該検出された出力電圧の値が伝達関数計算部12aに入力されて伝達関数の値が計算され、当該伝達関数の値が断線有無判定部12bに入力されて巻線の断線の発生有無の判定が行われると共にレアショート等有無判定部12cに入力されてターン間短絡・レアショートの発生有無の判定が行われる。
【0119】
本実施例の変圧器の健全性診断装置10によれば、ただ一回の入力電圧の印加及び出力電圧の検出並びに伝達関数の値の計算によって巻線の断線の発生有無の判定とターン間短絡・レアショートの発生有無の判定とを行うことができるので、二つの判定処理にかかる手間を軽減し測定時間を短縮することができると共に一台の装置で二つの判定処理を行うことができ、健全性診断技術としての汎用性の向上を図ることが可能になる。さらに、二つの閾値を設定することによって巻線の断線の発生とレアショート等の発生とを明確に区別して判定することができるので、実際には巻線の断線が発生している状態をレアショート等が発生している状態と誤って診断してしまうことや実際には測定端子の接続不良である状態をレアショート等が発生している状態と誤って診断してしまうことなどを防止することが可能になり、変圧器の健全性診断技術としての信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0120】
また、本実施例の変圧器の健全性診断装置10は、電源回路部15を乾電池で構成するようにしているので、片手で十分に持てる大きさに構成することができる。
【実施例3】
【0121】
本発明の変圧器の健全性診断装置の具体の回路構成の更に他の例を図8を用いて説明する。
【0122】
本実施例は、導通試験部18を判定部12とは別に備えるようにした場合の例である。
【0123】
本実施例の場合も、変圧器の健全性診断装置10は、診断対象の変圧器1の2次巻線2Bに接続させる端子16及びこれに接続するリード17を備える。ただし、本実施例の場合は、これら接続端子16及びリード17を介しての入出力が、判定部12との間でと、導通試験部18との間でと、で切り換えられるようになっている。
【0124】
本実施例では、導通試験部18に関連し、表示部13として、変圧器1の巻線の導通が確認された(言い換えると、導通が良好である)場合に点灯する導通試験合格表示ランプ13Dと、導通が確認できない(言い換えると、導通が不良である)場合に点灯する導通試験不合格表示ランプ13Eとを備える。
【0125】
本実施例では、導通試験部18は電源回路部15からの電力供給を受けて変圧器1の抵抗を測定すると共に当該測定された抵抗の値と導通閾値とを比較することによって導通の良否を判断する。なお、導通の良否を判断するための導通閾値は、特定の値に限定されるものではなく、変圧器1の特性などを踏まえて適当な値に設定される。具体的には例えば、(或る形式・或る範囲の定格容量の正常な変圧器における)導通が良好である場合の抵抗値が例えば10〔Ω〕以下であれば、導通閾値を30〔Ω〕とし、測定された抵抗値が30〔Ω〕未満の場合には導通良好(即ち、少なくとも機器的な接続は良好である)と判断し、30〔Ω〕以上の場合には導通不良で機器的な接続不良の可能性があると判断するようにすることが考えられる。
【0126】
また、本実施例では、電圧印加・検出部11として、正弦波生成回路11a,DC変換回路11d-A及び11d-Bを備える。
【0127】
正弦波生成回路11aは、診断対象の変圧器1に印加する正弦波を発信するためのものであり、本実施例では、生成する正弦波の周波数が200,250,300,400,500〔Hz〕の中から切り替えられるようになっている。
【0128】
DC変換回路11d-Aは診断対象の変圧器1に印加する正弦波の電圧を直流電圧に変換するものであり、DC変換回路11d-Bは診断対象の変圧器1から検出された交流電圧を直流電圧に変換するものである。
【0129】
そして、これらDC変換回路11d-A及び11d-Bと接続する回路内に判定部12としての伝達関数計算部12aと断線有無判定部12bとレアショート等有無判定部12cとが構成される。
【0130】
また、本実施例では、判定部12に関連し、表示部13として、変圧器1の巻線でターン間短絡・レアショートが発生していると判定した場合に点灯するレアショート等発生通知ランプ13Aと、変圧器1の巻線ではターン間短絡・レアショートも断線も発生していないと判定した場合に点灯する正常通知ランプ13Bと、変圧器1の巻線で断線が発生していると判定した場合に点灯する断線発生通知ランプ13Cとを更に備える。
【0131】
また、本実施例の変圧器の健全性診断装置10の電源回路部15は、9V積層型電池2個を直列に接続して構成され、装置各部に対して電力を供給する。なお、本実施例では、電源回路部15からの電力の供給先が、判定部12に纏わる構成に対してと、導通試験部18に纏わる構成に対してと、で切り換えられるようになっている。なお、9V積層型電池を用いて電源回路部15を構成するようにしても良い。
【0132】
また、本実施例では、変圧器の巻線の断線の発生有無を判定するための伝達関数の値である第一の閾値を−5〔dB〕とし、変圧器の巻線のターン間短絡・レアショートの発生有無を判定するための伝達関数の値である第二の閾値を−50〔dB〕としている。このように二つの閾値を設定することにより、巻線の断線の発生とレアショート等の発生とを区別して判定することが可能であり、実際には巻線の断線が発生している状態をレアショート等が発生している状態と誤って診断してしまうことや、実際には測定端子の接続不良である状態をレアショート等が発生している状態と誤って診断してしまうことなどを防止することが可能になる。
【0133】
さらに、本実施例では、変圧器の導通の良否を判断するための抵抗の値である導通閾値を30〔Ω〕としている。
【0134】
そして、本実施例では、まず、診断対象の変圧器1の1次巻線を開放した状態で、接続端子16及びリード17を介しての入出力を導通試験部18との間に設定し、接続端子16及びリード17を介して変圧器1の抵抗を測定し、導通試験部18が抵抗値と導通閾値とを比較して変圧器1の導通の良否を判断する。そして、導通試験部18によって導通不良と判断された場合には機器的な接続状態を確認してから以下の処理に移り、一方、導通良好と判断された場合にはそのまま以下の処理に移る。なお、導通不良と判断された場合には機器的な接続状態を確認した後に導通試験を再度行ってから以下の処理に移るようにしても良い。
【0135】
続いて、診断対象の変圧器1の1次巻線を開放したままの状態で、接続端子16及びリード17を介しての入出力を判定部12との間に切り換えて、接続端子16を介して変圧器1の2次巻線に入力電圧を印加すると共に当該2次巻線からの出力電圧を検出し、伝達関数計算部12aが伝達関数の値を計算し、断線有無判定部12bが伝達関数の値と第一の閾値とを比較して巻線の断線の発生有無を判定すると共にレアショート等有無判定部12cが伝達関数の値と第二の閾値とを比較して巻線のターン間短絡・レアショートの発生有無を判定する。
【0136】
ここで、本実施例では、測定周波数200,250,300,400,500〔Hz〕のうちのいずれかの周波数で入力電圧の印加及び出力電圧の検出を行うと共に当該検出された出力電圧の値が伝達関数計算部12aに入力されて伝達関数の値が計算され、当該伝達関数の値が断線有無判定部12bに入力されて巻線の断線の発生有無の判定が行われると共にレアショート等有無判定部12cに入力されてターン間短絡・レアショートの発生有無の判定が行われる。
【0137】
本実施例の変圧器の健全性診断装置10によれば、一定の範囲に亘って周波数を掃引する手間をかけることなく変圧器の健全性を判定するようにすることもできるので、二つの判定処理にかかる手間を軽減し測定時間を短縮することができると共に汎用装置のみで二つの判定処理を行うことができ、健全性診断技術としての汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0138】
また、本実施例の変圧器の健全性診断装置10によれば、まず導通試験を行い、導通が良好であると確認された場合には判定部12による巻線の断線やレアショート等の発生有無の判定を行うようにし、一方、導通が不良であると判断された場合には接続状態を確認し必要に応じて正してから判定部12による巻線の断線やレアショート等の発生有無の判定を行うようにすることにより、伝達関数の値が第一の閾値未満であった場合について機器的な接続不良の可能性を予め排除することができるので判定部12による判定結果の解釈を限定することができ、機器的な接続状態を確認した上での測定及び判定のやり直しなどの余計な手間の発生を回避することが可能になる。
【0139】
また、本実施例の変圧器の健全性診断装置10によれば、巻線の断線の発生有無だけを判定したい場合には接続端子16等を介しての入出力を導通試験部18との間に切り換えて巻線の断線の発生有無だけを判定することができ、一方、巻線の断線の発生有無及びレアショート等の発生有無を判定したい場合には接続端子16等を介しての入出力を判定部12との間に切り換えて巻線の断線の発生有無及びターン間短絡・レアショートの発生有無を判定することができ、不要な処理を省いた手順も実行できるようにして健全性診断装置としてのより一層の汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0140】
また、本実施例の変圧器の健全性診断装置10は、電源回路部15を乾電池で構成するようにしているので、片手で十分に持てる大きさに構成することができる。
【符号の説明】
【0141】
10 変圧器の健全性診断装置
11 伝達関数測定部
12 判定部
12a 断線有無判定部
12b レアショート等有無判定部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線が正常であるときの伝達関数の第一共振が現れる周波数帯における2次巻線の伝達関数を1次巻線を開放した状態で前記2次巻線に印加した入力電圧と検出された出力電圧とから計算し、前記伝達関数の値が、第一の閾値未満である場合には前記1次巻線に断線が発生していると判定し、第二の閾値以上である場合には前記1次巻線にターン間短絡若しくはレアショートが発生していると判定し、その他の場合には前記1次巻線は正常であると判定することを特徴とする変圧器の健全性診断方法。
【請求項2】
前記巻線が正常であるときの伝達関数の第一共振が現れる周波数帯を10〜1000〔Hz〕とし、当該10〜1000〔Hz〕の周波数帯において前記2次巻線の伝達関数を計算することを特徴とする請求項1記載の変圧器の健全性診断方法。
【請求項3】
前記第一の閾値を−50〜−40〔dB〕の範囲内のいずれかの値とすることを特徴とする請求項1記載の変圧器の健全性診断方法。
【請求項4】
前記第二の閾値を−5〜0〔dB〕の範囲内のいずれかの値とすることを特徴とする請求項1記載の変圧器の健全性診断方法。
【請求項5】
前記入力電圧を3.5〜5〔V〕とすることを特徴とする請求項1記載の変圧器の健全性診断方法。
【請求項6】
1次巻線を開放した状態で2次巻線に入力電圧を印加すると共に出力電圧を検出する手段と、巻線が正常であるときの伝達関数の第一共振が現れる周波数帯における前記2次巻線の伝達関数を前記入力電圧と前記出力電圧とから計算すると共に、前記伝達関数の値が、第一の閾値未満である場合には前記1次巻線に断線が発生していると判定し、第二の閾値以上である場合には前記1次巻線にターン間短絡若しくはレアショートが発生していると判定し、その他の場合には前記1次巻線は正常であると判定する手段とを有することを特徴とする変圧器の健全性診断装置。
【請求項7】
前記巻線が正常であるときの伝達関数の第一共振が現れる周波数帯が10〜1000〔Hz〕であり、当該10〜1000〔Hz〕の周波数帯において前記2次巻線の伝達関数を計算することを特徴とする請求項6記載の変圧器の健全性診断装置。
【請求項8】
前記第一の閾値が−50〜−40〔dB〕の範囲内のいずれかの値であることを特徴とする請求項6記載の変圧器の健全性診断装置。
【請求項9】
前記第二の閾値が−5〜0〔dB〕の範囲内のいずれかの値であることを特徴とする請求項6記載の変圧器の健全性診断装置。
【請求項10】
前記入力電圧が3.5〜5〔V〕であることを特徴とする請求項6記載の変圧器の健全性診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−61310(P2013−61310A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201563(P2011−201563)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(598023425)株式会社電力テクノシステムズ (7)
【Fターム(参考)】