変形状態分析方法、樹脂成形体変形改善方法、及び樹脂成形体軽量化方法
【課題】樹脂成形体の変形対策案(例えば、反り変形対策案)を作成、設計する際に、短時間かつ計算コストが大幅に削減され、より効果的な対策案を作成することが可能となる解析方法を提供する。
【解決手段】変形する樹脂成形体について、樹脂成形体を微小領域に分割し位相最適化法を用い、所定の拘束条件、所定の制約条件の下で目的関数の最適化を行うことで樹脂成形体の変形状態を分析する変形状態分析方法であって、所定の拘束条件を、樹脂成形体の変形量の傾向とし、所定の制約条件を、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率とし、目的関数の最適化では、樹脂成形体の剛性の低下を最小化するように最適化を行う。
【解決手段】変形する樹脂成形体について、樹脂成形体を微小領域に分割し位相最適化法を用い、所定の拘束条件、所定の制約条件の下で目的関数の最適化を行うことで樹脂成形体の変形状態を分析する変形状態分析方法であって、所定の拘束条件を、樹脂成形体の変形量の傾向とし、所定の制約条件を、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率とし、目的関数の最適化では、樹脂成形体の剛性の低下を最小化するように最適化を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形状態分析方法、樹脂成形体変形改善方法、及び樹脂成形体軽量化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂や熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を射出成形等することにより得られる樹脂成形体は、工業製品として広く使用されている。ところで、これらの樹脂成形体には高い寸法精度が要求される場合が多い。この寸法精度を損ねる主な要因は、そり変形と呼ばれる不良現象である。
【0003】
そり変形を予測する方法としては、コンピュータを利用した射出成形のCAE(コンピュータ援用エンジニアリング)を用いる方法がある。このCAEは、様々な樹脂成形体の設計現場に導入されており、樹脂成形体の設計の期間短縮や試作費用の低減の目的に使用されている。例えば、製品形状、成形条件、材料物性値を設定し、反り解析を行うことにより、リブの追加等の形状変更や、ゲート位置、射出速度等の成形条件の変更、材料の変更を、コンピュータ上で検討することができる。
【0004】
樹脂成形体を試作する前の設計段階においては、製品形状、成形条件、材料を最適化するために、多くの条件で上記CAEによる解析を行い、目的とする製品の機能、制約条件に応じた仕様を決定していく方法が一般的である。
【0005】
このようなそり変形を考慮して形状、成形条件等を決定するための方法が、特許文献1、2等に開示されている。特許文献1に記載の方法とは、コンピュータを用いて、樹脂成形体における反り変形に影響する領域を分析する方法であり、形状モデルを少なくとも2つ以上の領域に区分し、そのうち所望する領域に肉厚、長さ等のパラメータを与え、それぞれそり変形解析を行い、得られたそり変形量から、そり変形量に対する感度を求め、そり変形が最小になるように最適化するものである。
【0006】
特許文献2に記載の方法も同様に、板厚、樹脂充填ゲート配置、ゲートサイズをパラメータとして与え、最適化計算により反り変形が最小になるように、パラメータを最適化するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−268428号公報
【特許文献2】特開2005−169766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような方法は、領域分割、板厚、形状、ゲート位置等をパラメータ化して最適化することに多大な時間を必要とする。板厚のみの変更の場合、2次元要素モデル(シェル要素)であれば設定が容易であるが、2次元要素モデルでは自由曲面を有する形状等、複雑な形状の場合はモデル作成が困難である。さらに、2次元要素モデルでは、反り変形自体の解析精度が劣る場合が多い。通常の反り変形解析自体は、充填解析に加え、反り変形解析を繰り返し実行する必要があり、解析精度を高めるために要素分割を細かくする必要があるため、解析実行時間も多大となる。さらに、いずれの方法とも、ある程度の領域、パラメータに最適化計算を必要とするが、設定領域が粗い場合には、大まかな形状しか得られず、設定領域を細かくする場合には分割するために多大な労力、時間を必要となり、計算時間も多大となる。それにより、形状を決定する際の計算に要するコストが膨大となっている。
【0009】
また、反り解析によって製品の反り状態を予測できても、反り低減に有効な形状変更等の対策を製品のどの領域に、どの様に行えば有効であるかという判断は、技術者の勘と経験に頼っているのが実状である。上記特許文献1、2に記載の方法においても、パラメータを設定するべき領域である反りの原因となる領域がある程度予測できれば、計算コスト削減及び設計時間短縮が可能になるが、現状ではそれを判断する合理的な手段、方法がない。
【0010】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、樹脂成形体の変形対策案(例えば、反り変形対策案)を作成、設計する際に、短時間かつ計算コストが大幅に削減され、より効果的な対策案を作成することが可能となる解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、変形する樹脂成形体について、樹脂成形体を微小領域に分割し位相最適化法を用い、所定の拘束条件、所定の制約条件の下で目的関数の最適化を行うことで樹脂成形体の変形状態を分析する変形状態分析方法であって、所定の拘束条件を、樹脂成形体の変形量の傾向とし、所定の制約条件を、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率とし、目的関数の最適化では、樹脂成形体の剛性の低下を最小化するように最適化が行われることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
(1) 変形する樹脂成形体について、樹脂成形体を微小領域に分割し位相最適化法を用い、所定の拘束条件、所定の制約条件の下で目的関数の最適化を行うことで樹脂成形体の変形状態を分析する変形状態分析方法であって、前記所定の拘束条件は、樹脂成形体の変形量の傾向であり、前記所定の制約条件は、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率であり、前記目的関数の最適化は、樹脂成形体の剛性の低下を最小化するように最適化を行う変形状態分析方法。
【0013】
(2) 前記変形量は、有限要素法を用いて導出された(1)に記載の変形状態分析方法。
【0014】
(3) 前記変形量は、実測値である(1)に記載の変形状態分析方法。
【0015】
(4) 各微小領域での変形量に1を超える係数を乗じて算出した値と前記材料の物性との相関関係に基づいて、前記寄与率導出工程を行う(1)から(3)のいずれかに記載の変形状態分析方法。
【0016】
(5) (1)から(4)のいずれかに記載の変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以上の微小領域を含む範囲の形状を変更することにより、樹脂成形体の変形を抑制する樹脂成形体変形改善方法。
【0017】
(6) 樹脂成形体における前記寄与率が平均以上の微小領域を含む範囲の形状の変更の態様と、前記変更の態様により変化する樹脂成形体の変形の態様と、の関係を予め複数導出し、前記複数の関係に基づいて、寄与率が平均値以上の微小領域を含む範囲の形状を変更する(5)に記載の樹脂成形体変形改善方法。
【0018】
(7) (1)から(4)のいずれかに記載の変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以上の微小領域を含む範囲の形状を変更する形状変更工程と、前記形状変更工程後に、樹脂成形体を製造し変形状態を確認する確認工程と、樹脂成形体の変形量が所定の値以上の場合には、前記変形量が所定の値以下になるまで、前記形状の変更の態様を変えて、前記形状変更工程と前記確認工程とを繰り返し行う樹脂成形体変形改善方法。
【0019】
(8) (1)から(4)のいずれかに記載の変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以下の微小領域を含む範囲の少なくとも一部を削減することにより、樹脂成形体を軽量化する樹脂成形体軽量化方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、樹脂成形体の変形対策案(例えば、反り変形対策案)の作成や樹脂成形体の設計を、短時間で行うことができ、かつ変形対策案の作成や樹脂成形体の設計に必要となる計算コストを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の変形状態分析方法の一例を表すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の樹脂成形体変形改善方法の一例を表すフローチャートである。
【図3】図3は、本発明の樹脂成形体軽量化方法の一例を表すフローチャートである。
【図4】図4は、ギアを収納するケース(参考例1のケース)を模式的に示す図であり、(a)は表面側の斜視図であり、(b)は裏面側の斜視図である。
【図5】図5は、比較例1のケースを模式的に示す図である。
【図6】図6は、ギアを収納するケースにおける、射出成形CAE計算により導出された、底の縁面に対して垂直な方向(Z方向)の変形量を示す図であり、(a)は参考例1のケースの結果であり、(b)は比較例1のケースの結果である。
【図7】図7は、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率の分布を示す図であり、(a)は参考例1の寄与率の分布であり、(b)は比較例1の寄与率の分布である。
【図8】図8は、実施例1のケースを模式的に示す図である。
【図9】図9は、実施例1のケースにおける、射出成形CAE計算により導出された、底の縁面に対して垂直な方向(Z方向)の変形量を示す図である。
【図10】図10は、立方体状の容器を模式的に示す図であり、(a)は平面図であり、(b)はAA断面図であり、(c)はBB断面図である。
【図11】図11は、寄与率の分布を導出する際の、拘束条件である変形量の傾向を示す図である。
【図12】図12は、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率の分布を示す図であり、(a)は平面図における寄与率の分布であり、(b)は図10のAA断面における寄与率の分布であり、(c)は図10のBB断面における寄与率の分布である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0023】
<変形状態分析方法>
本発明の変形状態分析方法の一例について、図1のフローチャートを用いて説明する。図1のフローチャートに示すように、本実施形態の変形状態分析方法は、変形量取得ステップ(S1)、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)、制約条件及び材料物性の設定ステップ(S3)、位相最適化法による計算ステップ(S4)を備える。
【0024】
[変形量取得ステップ(S1)]
本実施形態では、位相最適化法による計算ステップ(S4)に用いる拘束条件が、樹脂成形体の変形量の傾向(変形の傾向を表す分布)である。変形量の傾向とは、変形の傾向を指し、変形量以外には例えば変形量に係数を乗じたもの等が挙げられる。本ステップでは、変形量の傾向を取得するために変形量を導出する。
【0025】
変形量の導出方法は特に限定されず、変形量はCAE解析等によって導出した変形量を用いることができる。また、実測により導出した変形量を用いてもよい。
【0026】
変形の分布あるいは変形の傾向が、樹脂成形体の変形状態を再現していれば、後述する寄与率は、解析により導出される変形量によらず一定の値になる。このため、CAE解析による変形量絶対値の解析精度に関らず、より正確な分析が可能になる。
【0027】
特に変形量に1を超える係数を乗じた値を用いて、変形量の傾向を表せば変形の傾向がより明瞭になる。このため、微小な変化を含む傾向であっても、この微小な変化を考慮することができ、分析の精度が高まる。
【0028】
なお、本発明における樹脂成形体の変形とは、樹脂成形体に外力が加えられて樹脂成形体が変形する場合、樹脂成形体に含まれる樹脂の収縮及び膨張により樹脂成形体が変形する場合(反り変形等)のいずれも含まれる。
【0029】
また、変形状態の分析は、樹脂成形体全体に対して行ってもよいし、一部にのみ行ってもよい。一部にのみ行う場合は、その一部について変形量の傾向を導出して、以下のステップを行えばよい。
【0030】
[位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)]
位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)は、樹脂成形体を微小な領域に分割して、位相最適化法の実施に必要なモデルを作成する。例えば、先ず、CADインターフェース等を利用して、樹脂成形体の形状をパソコン等に取り込む、あるいはCADシステムにより樹脂成形体の形状を作成し、モデル化範囲を設定する。次いで、要素分割プリプロセッサ等で有限要素法等の要素分割を行うことで樹脂成形体を複数の領域に分割して、解析用のモデルを作成する。
【0031】
要素の形状は、四面体1次要素、2次要素、六面体1次要素、2次要素等が選択可能である。変形量取得ステップ(S1)で変形量を解析により求める場合は、有限要素法ソフトの仕様、計算するコンピュータシステムの仕様、計算コストに応じて要素を選択する必要がある。また、要素分割数が十分細かくないと、高い計算精度が得られない。一方、位相最適化に用いる有限要素モデルにおいては、計算を複数回繰り返す必要があるため、要素数は少ないことが求められる。したがって、計算精度、計算時間等を考慮して、適宜好ましい分割数を採用する。
【0032】
位相最適化法での計算のためのモデルとして、有限要素モデルを例に説明したが、有限差分解析あるいはメッシュレス解析等他のタイプのCAE解析の結果を、上記のようなモデルを得るために用いることもできる。
【0033】
[制約条件及び材料物性の設定ステップ(S3)]
制約条件及び材料物性の設定ステップ(S3)では、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率(本実施形態の制約条件である)について、具体的な閾値の値を設定する。また、位相最適化法による計算ステップ(S4)での寄与率の計算に用いる物性値を設定する。なお、ここで寄与率とは[1−(制約条件を満たしつつ削除可能な体積/元の形状の体積)]×100(%)である。
【0034】
寄与率の具体的な閾値は、特に限定されず、求める分析の精度等に応じて適宜設定することができる。例えば、閾値を高く設定し過ぎると、実際には変形に寄与しているにも拘わらず閾値以下と判断される可能性があるため、変形の状態を精度良く分析することが難しくなる。一方、閾値の値が低すぎると、実際には変形にほとんど寄与していないにも拘わらず閾値以上と判断される可能性があるため、この場合も変形の状態を精度良く分析することが難しい。なお、どの程度の閾値であれば、実際の変形に寄与するものと、寄与しないものとを分けることができるかについては、樹脂成形体を構成する材料の種類等によっても異なる。
【0035】
また、寄与率の計算に必要な物性とは、樹脂成形体の変形に関する物性であり、ポアソン比、弾性率である。なお、ポアソン比、弾性率以外の物性を考慮してもよい。
【0036】
なお、上述の通り、変形の分布あるいは変形の傾向が、樹脂成形体の変形状態を再現していれば、後述する寄与率は解析により得られる変形量によらず一定の値になる。このため、弾性率が実際の値と異なっていても、より正確な変形対策案を行うことが可能である。しかし、用いた材料が高次組織、充填材の影響により弾性率に異方性、分布等がある場合、それを考慮して物性値に与えることが望ましい。
【0037】
[位相最適化法による計算ステップ(S4)]
位相最適化法による計算ステップでは、変形量取得ステップ(S1)で取得した変形量の傾向を、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)で作成したモデルに適用し、上記で設定した物性パラメータを用い、寄与率の閾値を制約条件として、目的関数が最小になるように最適化を行う。本発明においては、樹脂成形体の剛性の低下を最小化するように最適化が行われる。
【0038】
上記において、位相最適化の具体的な計算手法については従来公知の数理計画法(Mathematical Programming)に基づく、均質化設計法(HDM:Homogenization Design Method)、密度法(Density Approach)、遺伝的アルゴリズム、焼きなまし法、セルオートマトン法等が用いられている。これらは、Altair社製OPTI STRUCT、株式会社くいんと製OPTISHAPE、FE−design社製TOSCA等市販のソフトにて実施可能である。
【0039】
本実施形態においては、寄与率の閾値を制約条件とするが、閾値を満たすか否かの評価に加えて、閾値をどの程度満たすか、や閾値をどの程度満たさないかについても評価する。このような評価を行うことで、寄与率を的確に把握することができ、より正確な変形状態の分析が可能になる。また、閾値をどの程度満たし、どの程度満たさないかを上記の計算で評価する場合には、閾値をどのような値に設定しても、各微小領域での寄与率を確認することができるため、閾値の値は任意に選択することができる。
【0040】
上記のようにして、各微小領域の寄与率を導出することで、樹脂成形体における、上記寄与率の分布を導出することができる。上記の通り、寄与率とは、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す。寄与率が大きい領域は、樹脂成形体の変形に大きな影響を与える部分であり、寄与率が小さい領域は、樹脂成形体の変形に影響を与えない部分である。したがって、寄与率の分布を導出することで、樹脂成形体の変形に大きく関与する領域と樹脂成形体の変形にあまり関与しない領域とを容易に識別することができる。
【0041】
閾値未満、閾値以上のみを評価する場合であっても、閾値の設定が適切であれば、上記の計算により閾値以下とされる領域は樹脂成形体の変形にあまり関与しない領域であることが確認でき、また、上記の計算により閾値以上とされる領域は樹脂成形体の変形に大きく関与する領域であることが確認できる。したがって、この場合であっても、樹脂成形体における、樹脂成形体の変形に関与する領域と、関与しない領域との分布を求めることができる。
【0042】
また、閾値未満の場合についてのみ、閾値をどの程度満たしていないかを計算により評価してもよいし、閾値を以上の場合についてのみ、閾値をどの程度超えるかを計算により評価してもよい。このように一部についてのみ寄与率を詳細に評価することも可能である。
【0043】
<樹脂成形体変形改善方法>
本発明の樹脂成形体の変形を改善する方法は、樹脂成形体が外力により変形させられる場合に樹脂成形体の形状を変更して変形し難くしたり、反り変形等の樹脂成形体の膨張、収縮により変形する場合に樹脂成形体の形状を変更して変形し難くしたりすることができる。
【0044】
特に本発明の樹脂成形体の変形を改善する方法は、上記の変形状態分析方法による分析結果を用いるため、変形の改善を効率よく行うことができる。具体的には、上記分析結果を用いることで、樹脂成形体における改善のために改良が必要となる部分を容易に判断することができる。
【0045】
以下、本発明の樹脂成形体変形改善方法の一例について、図2に示すフローチャートを用いて説明する。図2のフローチャートに示す通り、本実施形態の樹脂成形体変形改善方法は、変形量取得ステップ(S1)、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)、制約条件及び材料物性の設定ステップ(S3)、位相最適化法による計算ステップ(S4)、変形原因分析及び改善案作成ステップ(S5)、改善案の検証ステップ(S6)を備える。
【0046】
ここで、変形量取得ステップ(S1)、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)、制約条件及び材料物性の設定ステップ(S3)、位相最適化法による計算ステップ(S4)については、変形状態分析方法で説明したものと同様であるため、これらのステップに関する説明は省略する。
【0047】
[変形原因分析及び改善案作成ステップ(S5)]
変形原因分析では、上記の変形状態分析方法で得られた分析結果から、変形の原因となる部分を特定する。上記の通り、分析結果には変形に大きく関与する部分が示されているため、関与の大きい領域(通常、複数の微小領域の集合である)を変形の原因となる可能性のある領域として特定する。続いて、特定した領域の中から、その領域での樹脂成形体の厚み、形状等を考慮して、変形の原因となる箇所を推測する。「変形に大きく関与する部分」とは、一般的に、変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以上の微小領域を含む範囲である。
【0048】
変形の原因となる箇所を推測した後、変形を抑えるための改善方法について検討する。本発明では、変形に寄与する領域を容易に見極めることができるため、変形に寄与する領域を改良することで、容易に変形を抑える形状を決定することができる。本実施形態では、樹脂成形体における寄与率が平均以上の微小領域を含む範囲の形状の変更を行う。
【0049】
どのような形状に変更するかは、技術常識に基づいて決定してもよいし、過去に検討した樹脂成形体の変形の傾向と改善策との関係に基づいて決定してもよい。特に、過去に検討した樹脂成形体の変形に対する改善において、樹脂成形体における寄与率が平均以上の微小領域を含む範囲の形状の変更の態様と、その変更の態様により変化する樹脂成形体の変形の態様との関係を予め複数導出しておき、これら複数の関係に基づいて、どのような形状に変更するかを決定することが好ましい。改善される可能性が高いからである。
【0050】
[改善案の検証ステップ(S6)]
改善案の検証ステップでは、変形原因分析及び改善案作成ステップ(S5)で作成した改善案が適切な改善案であるか否かについて検証する。例えば、改良を施した樹脂成形体について、CAE解析等の解析を行い、解析により改善の効果を確認する方法、また、実際に成形を行い、樹脂成形体の変形抑制の効果を確認する方法で検証ステップを行うことができる。
【0051】
検証を行った結果、樹脂成形体の変形量が許容できる範囲である場合には、本発明の変形改善方法を終了する。ここで、許容可能な変形量の範囲は、樹脂成形体の形状、用途等によって異なるため、状況に応じて所望の範囲が適宜設定される。
【0052】
一方、検証を行った結果、樹脂成形体の変形量が許容できる範囲を超える場合には、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)に戻り、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)〜改善案の検証ステップ(S6)を繰り返す。変形量が許容できる範囲になれば、本発明の改善方法は終了する。
【0053】
<樹脂成形体軽量化方法>
本発明の樹脂成形体の軽量化方法は、樹脂成形体を変形させずに樹脂成形体から余分な部分を取り除き軽量化する方法である。
【0054】
特に本発明の樹脂成形体の軽量化方法は、上記の変形状態分析方法による分析結果を用いるため、軽量化により樹脂成形体に変形が発生することを大幅に抑えることができる。具体的には、上記分析結果を用いることで、樹脂成形体における変形に寄与する領域が明瞭であるため、取り除くことで樹脂成形体に変形が生じる領域と変形が生じない領域との区別が明確であるため、軽量化により樹脂成形体に変形が生じる可能性を低くすることができる。
【0055】
以下、本発明の樹脂成形体を軽量化する方法の一例について、図3に示すフローチャートを用いて説明する。図3のフローチャートに示す通り、本実施形態の樹脂成形体軽量化方法は、変形量取得ステップ(S1)、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)、制約条件及び材料物性の設定ステップ(S3)、位相最適化法による計算ステップ(S4)、軽量化案作成ステップ(S7)、軽量化検証ステップ(S8)を備える。
【0056】
ここで、変形量取得ステップ(S1)、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)、制約条件及び材料物性の設定ステップ(S3)、位相最適化法による計算ステップ(S4)については、変形状態分析方法で説明したものと同様であるため、これらのステップに関する説明は省略する。
【0057】
[軽量化案作成ステップ(S7)]
上記の変形状態分析方法で得られた分析結果から、樹脂成形体の変形に関与の大きい領域(通常、複数の微小領域の集合である)、関与の小さい領域を精度良く区別することができる。これを利用して、樹脂成形体の変形に関与の小さい領域の少なくとも一部を削減する軽量化案を作成する。ここで、変形に大きく関与する領域とは、一般的に、変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以上の微小領域を含む範囲である。
【0058】
[軽量化検証ステップ(S8)]
軽量化検証ステップでは、軽量化案作成ステップ(S7)で作成した軽量化案が適切な軽量化案であるか否かについて検証する。例えば、軽量化案により、一部を削減した樹脂成形体について、CAE解析等の解析を行い、解析により軽量化による変形の発生の有無を確認する方法、また、実際に成形を行い、樹脂成形体に変形が発生するか否かを確認する方法で軽量化検証ステップ(S8)を行うことができる。
【0059】
検証を行った結果、樹脂成形体の変形量が許容できる範囲である場合には、本発明の樹脂成形体軽量化方法を終了する。ここで、許容可能な変形量の範囲は、樹脂成形体の形状、用途等によって異なるため、状況に応じて所望の範囲が適宜設定される。
【0060】
一方、検証を行った結果、樹脂成形体の変形量が許容できる範囲を超える場合には、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)に戻り、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)〜改善案の検証ステップ(S8)を繰り返す。変形量が許容できる範囲になれば、本発明の軽量化方法は終了する。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
図4には、ギアを収納するケース(参考例1)を模式的に示す。図4(a)は上面側の斜視図であり、図4(b)は底面側の斜視図である。参考例1のケースにおいては、図4(b)に示す環状の縁面(図中の黒く塗りつぶされた部分)が平面であることが求められる。ここで、上記ケースは樹脂成形体であり、樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂の弾性率が2500MPa、ポアソン比が0.35である。
【0063】
図4に示すギアケースに反り変形が生じ、図4(b)で示す部分の平面性が損なわれることを防ぐ目的で、上面の縁にリブが形成されたケース(比較例1のケース)を作製した。比較例1のケースの上面側の斜視図を図5に示した。
【0064】
参考例1のケース、比較例1のケースについて、射出成形CAE計算により、上記縁面に垂直な方向をZ方向とし、Z方向のそり変形を求めた。結果を図6に示した。
【0065】
参考例1のケース、比較例1のケースについて、位相最適化法用のモデルは一般的なそり変形対策に準じて作成した。このモデルを用い、図6に記載の変形量を拘束条件とし、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率を制約条件として、樹脂成形体の剛性の低下を最小化するように目的関数を最適化した。寄与率が50%以上の部分を5%きざみで表示する方法で、寄与率の分布を導出した。導出結果を図7に示した。
【0066】
この寄与率の分布によれば、参考例1のケースにおける変形に寄与する領域と変形に寄与しない領域とを区別することができる。また、比較例1のケースの寄与率の分布から、反り変形抑制のためのリブが反り変形の抑制に効果的では無いことが確認された。
【0067】
先ず、図7の寄与率の分布によれば、ケースの表面に存在する段差の付け根の両端は局所的に寄与率が高い。そこで、この部分に三角リブを追加した実施例1のケースを製造した。また、実施例1のケースでは、上面の縁を囲うようにリブを設けた。図8には実施例1のケースを模式的に示した。
【0068】
図8の改善案の形状について、射出成形CAE計算により、上記縁面に垂直な方向をZ方向とし、Z方向のそり変形を求めた。結果を図9に示した。図9から明らかなように、反り変形が改善されていることが確認された。
【0069】
また、参考例1のケースの反り量、比較例1のケースの反り量、実施例1のケースの反り量を、(Z方向そり変形最大値)−(Z方向そり変形最小値)から導出した。また、参考例1のケースの体積、比較例1のケースの体積、実施例1のケースの体積は、CADソフトに組み込まれた機能を用い求めた。反り量及び体積の結果を表1に示した。
【表1】
【0070】
実施例1については、参考例1に比べ比較例1と同程度にそり変形量が低減している。また、比較例1に比べ体積が減少している。表の結果から本発明の方法によれば、体積を削減しつつ(又は体積の増加量が小さくなるように)、効果的なそり変形対策案を設計することができる。
【0071】
続いて、図10に示す立方体状の容器について評価を行った。図10(a)は平面図であり、(b)はAA断面図であり、(c)はBB断面図である。
【0072】
立方体状の容器の場合には、箱の側面が内側に向かい湾曲することが知られている(例えば、そり変形に与える金型温調設計の影響に関する検討 高橋、関野、小林、成形加工‘96 ,P145〜P146 1996)。そこで、図10に示す容器では、上記の変形を抑制するために、容器内部の底面と一の側面と境界を円弧状にし、容器の外側における底面と所定の底面との境界から底面が突き出すように延びるリブを形成し、容器内部の底面と側面とにまたがって存在する三角リブを形成する。
【0073】
図10に示す容器に関し、上記の文献等の記載に基づいて、図11に記載の変形量を拘束条件とし、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率を制約条件として、樹脂成形体の剛性の低下を最小化するように目的関数を最適化した。寄与率が50%以上の部分を3%又は4%きざみで表示する方法で、寄与率の分布を導出した。導出結果を図12に示した。
【0074】
外側のリブ、内側の円弧形状部分はいずれも寄与率が50%以下である。一方、三角リブの部分では寄与率が90%以上である。上記外側のリブのみ形成した立方体状成形体、上記円弧状の底のみ形成した立方体状成形体、上記三角リブのみ形成した立方体状成形体を実際に製造し、変形具合を確認した。上記の予想通り、三角リブを形成した立方体状成形体のみ変形が抑制されていた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形状態分析方法、樹脂成形体変形改善方法、及び樹脂成形体軽量化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂や熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を射出成形等することにより得られる樹脂成形体は、工業製品として広く使用されている。ところで、これらの樹脂成形体には高い寸法精度が要求される場合が多い。この寸法精度を損ねる主な要因は、そり変形と呼ばれる不良現象である。
【0003】
そり変形を予測する方法としては、コンピュータを利用した射出成形のCAE(コンピュータ援用エンジニアリング)を用いる方法がある。このCAEは、様々な樹脂成形体の設計現場に導入されており、樹脂成形体の設計の期間短縮や試作費用の低減の目的に使用されている。例えば、製品形状、成形条件、材料物性値を設定し、反り解析を行うことにより、リブの追加等の形状変更や、ゲート位置、射出速度等の成形条件の変更、材料の変更を、コンピュータ上で検討することができる。
【0004】
樹脂成形体を試作する前の設計段階においては、製品形状、成形条件、材料を最適化するために、多くの条件で上記CAEによる解析を行い、目的とする製品の機能、制約条件に応じた仕様を決定していく方法が一般的である。
【0005】
このようなそり変形を考慮して形状、成形条件等を決定するための方法が、特許文献1、2等に開示されている。特許文献1に記載の方法とは、コンピュータを用いて、樹脂成形体における反り変形に影響する領域を分析する方法であり、形状モデルを少なくとも2つ以上の領域に区分し、そのうち所望する領域に肉厚、長さ等のパラメータを与え、それぞれそり変形解析を行い、得られたそり変形量から、そり変形量に対する感度を求め、そり変形が最小になるように最適化するものである。
【0006】
特許文献2に記載の方法も同様に、板厚、樹脂充填ゲート配置、ゲートサイズをパラメータとして与え、最適化計算により反り変形が最小になるように、パラメータを最適化するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−268428号公報
【特許文献2】特開2005−169766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のような方法は、領域分割、板厚、形状、ゲート位置等をパラメータ化して最適化することに多大な時間を必要とする。板厚のみの変更の場合、2次元要素モデル(シェル要素)であれば設定が容易であるが、2次元要素モデルでは自由曲面を有する形状等、複雑な形状の場合はモデル作成が困難である。さらに、2次元要素モデルでは、反り変形自体の解析精度が劣る場合が多い。通常の反り変形解析自体は、充填解析に加え、反り変形解析を繰り返し実行する必要があり、解析精度を高めるために要素分割を細かくする必要があるため、解析実行時間も多大となる。さらに、いずれの方法とも、ある程度の領域、パラメータに最適化計算を必要とするが、設定領域が粗い場合には、大まかな形状しか得られず、設定領域を細かくする場合には分割するために多大な労力、時間を必要となり、計算時間も多大となる。それにより、形状を決定する際の計算に要するコストが膨大となっている。
【0009】
また、反り解析によって製品の反り状態を予測できても、反り低減に有効な形状変更等の対策を製品のどの領域に、どの様に行えば有効であるかという判断は、技術者の勘と経験に頼っているのが実状である。上記特許文献1、2に記載の方法においても、パラメータを設定するべき領域である反りの原因となる領域がある程度予測できれば、計算コスト削減及び設計時間短縮が可能になるが、現状ではそれを判断する合理的な手段、方法がない。
【0010】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、樹脂成形体の変形対策案(例えば、反り変形対策案)を作成、設計する際に、短時間かつ計算コストが大幅に削減され、より効果的な対策案を作成することが可能となる解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、変形する樹脂成形体について、樹脂成形体を微小領域に分割し位相最適化法を用い、所定の拘束条件、所定の制約条件の下で目的関数の最適化を行うことで樹脂成形体の変形状態を分析する変形状態分析方法であって、所定の拘束条件を、樹脂成形体の変形量の傾向とし、所定の制約条件を、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率とし、目的関数の最適化では、樹脂成形体の剛性の低下を最小化するように最適化が行われることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
(1) 変形する樹脂成形体について、樹脂成形体を微小領域に分割し位相最適化法を用い、所定の拘束条件、所定の制約条件の下で目的関数の最適化を行うことで樹脂成形体の変形状態を分析する変形状態分析方法であって、前記所定の拘束条件は、樹脂成形体の変形量の傾向であり、前記所定の制約条件は、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率であり、前記目的関数の最適化は、樹脂成形体の剛性の低下を最小化するように最適化を行う変形状態分析方法。
【0013】
(2) 前記変形量は、有限要素法を用いて導出された(1)に記載の変形状態分析方法。
【0014】
(3) 前記変形量は、実測値である(1)に記載の変形状態分析方法。
【0015】
(4) 各微小領域での変形量に1を超える係数を乗じて算出した値と前記材料の物性との相関関係に基づいて、前記寄与率導出工程を行う(1)から(3)のいずれかに記載の変形状態分析方法。
【0016】
(5) (1)から(4)のいずれかに記載の変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以上の微小領域を含む範囲の形状を変更することにより、樹脂成形体の変形を抑制する樹脂成形体変形改善方法。
【0017】
(6) 樹脂成形体における前記寄与率が平均以上の微小領域を含む範囲の形状の変更の態様と、前記変更の態様により変化する樹脂成形体の変形の態様と、の関係を予め複数導出し、前記複数の関係に基づいて、寄与率が平均値以上の微小領域を含む範囲の形状を変更する(5)に記載の樹脂成形体変形改善方法。
【0018】
(7) (1)から(4)のいずれかに記載の変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以上の微小領域を含む範囲の形状を変更する形状変更工程と、前記形状変更工程後に、樹脂成形体を製造し変形状態を確認する確認工程と、樹脂成形体の変形量が所定の値以上の場合には、前記変形量が所定の値以下になるまで、前記形状の変更の態様を変えて、前記形状変更工程と前記確認工程とを繰り返し行う樹脂成形体変形改善方法。
【0019】
(8) (1)から(4)のいずれかに記載の変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以下の微小領域を含む範囲の少なくとも一部を削減することにより、樹脂成形体を軽量化する樹脂成形体軽量化方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、樹脂成形体の変形対策案(例えば、反り変形対策案)の作成や樹脂成形体の設計を、短時間で行うことができ、かつ変形対策案の作成や樹脂成形体の設計に必要となる計算コストを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の変形状態分析方法の一例を表すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の樹脂成形体変形改善方法の一例を表すフローチャートである。
【図3】図3は、本発明の樹脂成形体軽量化方法の一例を表すフローチャートである。
【図4】図4は、ギアを収納するケース(参考例1のケース)を模式的に示す図であり、(a)は表面側の斜視図であり、(b)は裏面側の斜視図である。
【図5】図5は、比較例1のケースを模式的に示す図である。
【図6】図6は、ギアを収納するケースにおける、射出成形CAE計算により導出された、底の縁面に対して垂直な方向(Z方向)の変形量を示す図であり、(a)は参考例1のケースの結果であり、(b)は比較例1のケースの結果である。
【図7】図7は、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率の分布を示す図であり、(a)は参考例1の寄与率の分布であり、(b)は比較例1の寄与率の分布である。
【図8】図8は、実施例1のケースを模式的に示す図である。
【図9】図9は、実施例1のケースにおける、射出成形CAE計算により導出された、底の縁面に対して垂直な方向(Z方向)の変形量を示す図である。
【図10】図10は、立方体状の容器を模式的に示す図であり、(a)は平面図であり、(b)はAA断面図であり、(c)はBB断面図である。
【図11】図11は、寄与率の分布を導出する際の、拘束条件である変形量の傾向を示す図である。
【図12】図12は、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率の分布を示す図であり、(a)は平面図における寄与率の分布であり、(b)は図10のAA断面における寄与率の分布であり、(c)は図10のBB断面における寄与率の分布である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0023】
<変形状態分析方法>
本発明の変形状態分析方法の一例について、図1のフローチャートを用いて説明する。図1のフローチャートに示すように、本実施形態の変形状態分析方法は、変形量取得ステップ(S1)、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)、制約条件及び材料物性の設定ステップ(S3)、位相最適化法による計算ステップ(S4)を備える。
【0024】
[変形量取得ステップ(S1)]
本実施形態では、位相最適化法による計算ステップ(S4)に用いる拘束条件が、樹脂成形体の変形量の傾向(変形の傾向を表す分布)である。変形量の傾向とは、変形の傾向を指し、変形量以外には例えば変形量に係数を乗じたもの等が挙げられる。本ステップでは、変形量の傾向を取得するために変形量を導出する。
【0025】
変形量の導出方法は特に限定されず、変形量はCAE解析等によって導出した変形量を用いることができる。また、実測により導出した変形量を用いてもよい。
【0026】
変形の分布あるいは変形の傾向が、樹脂成形体の変形状態を再現していれば、後述する寄与率は、解析により導出される変形量によらず一定の値になる。このため、CAE解析による変形量絶対値の解析精度に関らず、より正確な分析が可能になる。
【0027】
特に変形量に1を超える係数を乗じた値を用いて、変形量の傾向を表せば変形の傾向がより明瞭になる。このため、微小な変化を含む傾向であっても、この微小な変化を考慮することができ、分析の精度が高まる。
【0028】
なお、本発明における樹脂成形体の変形とは、樹脂成形体に外力が加えられて樹脂成形体が変形する場合、樹脂成形体に含まれる樹脂の収縮及び膨張により樹脂成形体が変形する場合(反り変形等)のいずれも含まれる。
【0029】
また、変形状態の分析は、樹脂成形体全体に対して行ってもよいし、一部にのみ行ってもよい。一部にのみ行う場合は、その一部について変形量の傾向を導出して、以下のステップを行えばよい。
【0030】
[位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)]
位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)は、樹脂成形体を微小な領域に分割して、位相最適化法の実施に必要なモデルを作成する。例えば、先ず、CADインターフェース等を利用して、樹脂成形体の形状をパソコン等に取り込む、あるいはCADシステムにより樹脂成形体の形状を作成し、モデル化範囲を設定する。次いで、要素分割プリプロセッサ等で有限要素法等の要素分割を行うことで樹脂成形体を複数の領域に分割して、解析用のモデルを作成する。
【0031】
要素の形状は、四面体1次要素、2次要素、六面体1次要素、2次要素等が選択可能である。変形量取得ステップ(S1)で変形量を解析により求める場合は、有限要素法ソフトの仕様、計算するコンピュータシステムの仕様、計算コストに応じて要素を選択する必要がある。また、要素分割数が十分細かくないと、高い計算精度が得られない。一方、位相最適化に用いる有限要素モデルにおいては、計算を複数回繰り返す必要があるため、要素数は少ないことが求められる。したがって、計算精度、計算時間等を考慮して、適宜好ましい分割数を採用する。
【0032】
位相最適化法での計算のためのモデルとして、有限要素モデルを例に説明したが、有限差分解析あるいはメッシュレス解析等他のタイプのCAE解析の結果を、上記のようなモデルを得るために用いることもできる。
【0033】
[制約条件及び材料物性の設定ステップ(S3)]
制約条件及び材料物性の設定ステップ(S3)では、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率(本実施形態の制約条件である)について、具体的な閾値の値を設定する。また、位相最適化法による計算ステップ(S4)での寄与率の計算に用いる物性値を設定する。なお、ここで寄与率とは[1−(制約条件を満たしつつ削除可能な体積/元の形状の体積)]×100(%)である。
【0034】
寄与率の具体的な閾値は、特に限定されず、求める分析の精度等に応じて適宜設定することができる。例えば、閾値を高く設定し過ぎると、実際には変形に寄与しているにも拘わらず閾値以下と判断される可能性があるため、変形の状態を精度良く分析することが難しくなる。一方、閾値の値が低すぎると、実際には変形にほとんど寄与していないにも拘わらず閾値以上と判断される可能性があるため、この場合も変形の状態を精度良く分析することが難しい。なお、どの程度の閾値であれば、実際の変形に寄与するものと、寄与しないものとを分けることができるかについては、樹脂成形体を構成する材料の種類等によっても異なる。
【0035】
また、寄与率の計算に必要な物性とは、樹脂成形体の変形に関する物性であり、ポアソン比、弾性率である。なお、ポアソン比、弾性率以外の物性を考慮してもよい。
【0036】
なお、上述の通り、変形の分布あるいは変形の傾向が、樹脂成形体の変形状態を再現していれば、後述する寄与率は解析により得られる変形量によらず一定の値になる。このため、弾性率が実際の値と異なっていても、より正確な変形対策案を行うことが可能である。しかし、用いた材料が高次組織、充填材の影響により弾性率に異方性、分布等がある場合、それを考慮して物性値に与えることが望ましい。
【0037】
[位相最適化法による計算ステップ(S4)]
位相最適化法による計算ステップでは、変形量取得ステップ(S1)で取得した変形量の傾向を、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)で作成したモデルに適用し、上記で設定した物性パラメータを用い、寄与率の閾値を制約条件として、目的関数が最小になるように最適化を行う。本発明においては、樹脂成形体の剛性の低下を最小化するように最適化が行われる。
【0038】
上記において、位相最適化の具体的な計算手法については従来公知の数理計画法(Mathematical Programming)に基づく、均質化設計法(HDM:Homogenization Design Method)、密度法(Density Approach)、遺伝的アルゴリズム、焼きなまし法、セルオートマトン法等が用いられている。これらは、Altair社製OPTI STRUCT、株式会社くいんと製OPTISHAPE、FE−design社製TOSCA等市販のソフトにて実施可能である。
【0039】
本実施形態においては、寄与率の閾値を制約条件とするが、閾値を満たすか否かの評価に加えて、閾値をどの程度満たすか、や閾値をどの程度満たさないかについても評価する。このような評価を行うことで、寄与率を的確に把握することができ、より正確な変形状態の分析が可能になる。また、閾値をどの程度満たし、どの程度満たさないかを上記の計算で評価する場合には、閾値をどのような値に設定しても、各微小領域での寄与率を確認することができるため、閾値の値は任意に選択することができる。
【0040】
上記のようにして、各微小領域の寄与率を導出することで、樹脂成形体における、上記寄与率の分布を導出することができる。上記の通り、寄与率とは、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す。寄与率が大きい領域は、樹脂成形体の変形に大きな影響を与える部分であり、寄与率が小さい領域は、樹脂成形体の変形に影響を与えない部分である。したがって、寄与率の分布を導出することで、樹脂成形体の変形に大きく関与する領域と樹脂成形体の変形にあまり関与しない領域とを容易に識別することができる。
【0041】
閾値未満、閾値以上のみを評価する場合であっても、閾値の設定が適切であれば、上記の計算により閾値以下とされる領域は樹脂成形体の変形にあまり関与しない領域であることが確認でき、また、上記の計算により閾値以上とされる領域は樹脂成形体の変形に大きく関与する領域であることが確認できる。したがって、この場合であっても、樹脂成形体における、樹脂成形体の変形に関与する領域と、関与しない領域との分布を求めることができる。
【0042】
また、閾値未満の場合についてのみ、閾値をどの程度満たしていないかを計算により評価してもよいし、閾値を以上の場合についてのみ、閾値をどの程度超えるかを計算により評価してもよい。このように一部についてのみ寄与率を詳細に評価することも可能である。
【0043】
<樹脂成形体変形改善方法>
本発明の樹脂成形体の変形を改善する方法は、樹脂成形体が外力により変形させられる場合に樹脂成形体の形状を変更して変形し難くしたり、反り変形等の樹脂成形体の膨張、収縮により変形する場合に樹脂成形体の形状を変更して変形し難くしたりすることができる。
【0044】
特に本発明の樹脂成形体の変形を改善する方法は、上記の変形状態分析方法による分析結果を用いるため、変形の改善を効率よく行うことができる。具体的には、上記分析結果を用いることで、樹脂成形体における改善のために改良が必要となる部分を容易に判断することができる。
【0045】
以下、本発明の樹脂成形体変形改善方法の一例について、図2に示すフローチャートを用いて説明する。図2のフローチャートに示す通り、本実施形態の樹脂成形体変形改善方法は、変形量取得ステップ(S1)、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)、制約条件及び材料物性の設定ステップ(S3)、位相最適化法による計算ステップ(S4)、変形原因分析及び改善案作成ステップ(S5)、改善案の検証ステップ(S6)を備える。
【0046】
ここで、変形量取得ステップ(S1)、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)、制約条件及び材料物性の設定ステップ(S3)、位相最適化法による計算ステップ(S4)については、変形状態分析方法で説明したものと同様であるため、これらのステップに関する説明は省略する。
【0047】
[変形原因分析及び改善案作成ステップ(S5)]
変形原因分析では、上記の変形状態分析方法で得られた分析結果から、変形の原因となる部分を特定する。上記の通り、分析結果には変形に大きく関与する部分が示されているため、関与の大きい領域(通常、複数の微小領域の集合である)を変形の原因となる可能性のある領域として特定する。続いて、特定した領域の中から、その領域での樹脂成形体の厚み、形状等を考慮して、変形の原因となる箇所を推測する。「変形に大きく関与する部分」とは、一般的に、変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以上の微小領域を含む範囲である。
【0048】
変形の原因となる箇所を推測した後、変形を抑えるための改善方法について検討する。本発明では、変形に寄与する領域を容易に見極めることができるため、変形に寄与する領域を改良することで、容易に変形を抑える形状を決定することができる。本実施形態では、樹脂成形体における寄与率が平均以上の微小領域を含む範囲の形状の変更を行う。
【0049】
どのような形状に変更するかは、技術常識に基づいて決定してもよいし、過去に検討した樹脂成形体の変形の傾向と改善策との関係に基づいて決定してもよい。特に、過去に検討した樹脂成形体の変形に対する改善において、樹脂成形体における寄与率が平均以上の微小領域を含む範囲の形状の変更の態様と、その変更の態様により変化する樹脂成形体の変形の態様との関係を予め複数導出しておき、これら複数の関係に基づいて、どのような形状に変更するかを決定することが好ましい。改善される可能性が高いからである。
【0050】
[改善案の検証ステップ(S6)]
改善案の検証ステップでは、変形原因分析及び改善案作成ステップ(S5)で作成した改善案が適切な改善案であるか否かについて検証する。例えば、改良を施した樹脂成形体について、CAE解析等の解析を行い、解析により改善の効果を確認する方法、また、実際に成形を行い、樹脂成形体の変形抑制の効果を確認する方法で検証ステップを行うことができる。
【0051】
検証を行った結果、樹脂成形体の変形量が許容できる範囲である場合には、本発明の変形改善方法を終了する。ここで、許容可能な変形量の範囲は、樹脂成形体の形状、用途等によって異なるため、状況に応じて所望の範囲が適宜設定される。
【0052】
一方、検証を行った結果、樹脂成形体の変形量が許容できる範囲を超える場合には、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)に戻り、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)〜改善案の検証ステップ(S6)を繰り返す。変形量が許容できる範囲になれば、本発明の改善方法は終了する。
【0053】
<樹脂成形体軽量化方法>
本発明の樹脂成形体の軽量化方法は、樹脂成形体を変形させずに樹脂成形体から余分な部分を取り除き軽量化する方法である。
【0054】
特に本発明の樹脂成形体の軽量化方法は、上記の変形状態分析方法による分析結果を用いるため、軽量化により樹脂成形体に変形が発生することを大幅に抑えることができる。具体的には、上記分析結果を用いることで、樹脂成形体における変形に寄与する領域が明瞭であるため、取り除くことで樹脂成形体に変形が生じる領域と変形が生じない領域との区別が明確であるため、軽量化により樹脂成形体に変形が生じる可能性を低くすることができる。
【0055】
以下、本発明の樹脂成形体を軽量化する方法の一例について、図3に示すフローチャートを用いて説明する。図3のフローチャートに示す通り、本実施形態の樹脂成形体軽量化方法は、変形量取得ステップ(S1)、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)、制約条件及び材料物性の設定ステップ(S3)、位相最適化法による計算ステップ(S4)、軽量化案作成ステップ(S7)、軽量化検証ステップ(S8)を備える。
【0056】
ここで、変形量取得ステップ(S1)、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)、制約条件及び材料物性の設定ステップ(S3)、位相最適化法による計算ステップ(S4)については、変形状態分析方法で説明したものと同様であるため、これらのステップに関する説明は省略する。
【0057】
[軽量化案作成ステップ(S7)]
上記の変形状態分析方法で得られた分析結果から、樹脂成形体の変形に関与の大きい領域(通常、複数の微小領域の集合である)、関与の小さい領域を精度良く区別することができる。これを利用して、樹脂成形体の変形に関与の小さい領域の少なくとも一部を削減する軽量化案を作成する。ここで、変形に大きく関与する領域とは、一般的に、変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以上の微小領域を含む範囲である。
【0058】
[軽量化検証ステップ(S8)]
軽量化検証ステップでは、軽量化案作成ステップ(S7)で作成した軽量化案が適切な軽量化案であるか否かについて検証する。例えば、軽量化案により、一部を削減した樹脂成形体について、CAE解析等の解析を行い、解析により軽量化による変形の発生の有無を確認する方法、また、実際に成形を行い、樹脂成形体に変形が発生するか否かを確認する方法で軽量化検証ステップ(S8)を行うことができる。
【0059】
検証を行った結果、樹脂成形体の変形量が許容できる範囲である場合には、本発明の樹脂成形体軽量化方法を終了する。ここで、許容可能な変形量の範囲は、樹脂成形体の形状、用途等によって異なるため、状況に応じて所望の範囲が適宜設定される。
【0060】
一方、検証を行った結果、樹脂成形体の変形量が許容できる範囲を超える場合には、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)に戻り、位相最適化法用のモデル作成ステップ(S2)〜改善案の検証ステップ(S8)を繰り返す。変形量が許容できる範囲になれば、本発明の軽量化方法は終了する。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
図4には、ギアを収納するケース(参考例1)を模式的に示す。図4(a)は上面側の斜視図であり、図4(b)は底面側の斜視図である。参考例1のケースにおいては、図4(b)に示す環状の縁面(図中の黒く塗りつぶされた部分)が平面であることが求められる。ここで、上記ケースは樹脂成形体であり、樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂の弾性率が2500MPa、ポアソン比が0.35である。
【0063】
図4に示すギアケースに反り変形が生じ、図4(b)で示す部分の平面性が損なわれることを防ぐ目的で、上面の縁にリブが形成されたケース(比較例1のケース)を作製した。比較例1のケースの上面側の斜視図を図5に示した。
【0064】
参考例1のケース、比較例1のケースについて、射出成形CAE計算により、上記縁面に垂直な方向をZ方向とし、Z方向のそり変形を求めた。結果を図6に示した。
【0065】
参考例1のケース、比較例1のケースについて、位相最適化法用のモデルは一般的なそり変形対策に準じて作成した。このモデルを用い、図6に記載の変形量を拘束条件とし、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率を制約条件として、樹脂成形体の剛性の低下を最小化するように目的関数を最適化した。寄与率が50%以上の部分を5%きざみで表示する方法で、寄与率の分布を導出した。導出結果を図7に示した。
【0066】
この寄与率の分布によれば、参考例1のケースにおける変形に寄与する領域と変形に寄与しない領域とを区別することができる。また、比較例1のケースの寄与率の分布から、反り変形抑制のためのリブが反り変形の抑制に効果的では無いことが確認された。
【0067】
先ず、図7の寄与率の分布によれば、ケースの表面に存在する段差の付け根の両端は局所的に寄与率が高い。そこで、この部分に三角リブを追加した実施例1のケースを製造した。また、実施例1のケースでは、上面の縁を囲うようにリブを設けた。図8には実施例1のケースを模式的に示した。
【0068】
図8の改善案の形状について、射出成形CAE計算により、上記縁面に垂直な方向をZ方向とし、Z方向のそり変形を求めた。結果を図9に示した。図9から明らかなように、反り変形が改善されていることが確認された。
【0069】
また、参考例1のケースの反り量、比較例1のケースの反り量、実施例1のケースの反り量を、(Z方向そり変形最大値)−(Z方向そり変形最小値)から導出した。また、参考例1のケースの体積、比較例1のケースの体積、実施例1のケースの体積は、CADソフトに組み込まれた機能を用い求めた。反り量及び体積の結果を表1に示した。
【表1】
【0070】
実施例1については、参考例1に比べ比較例1と同程度にそり変形量が低減している。また、比較例1に比べ体積が減少している。表の結果から本発明の方法によれば、体積を削減しつつ(又は体積の増加量が小さくなるように)、効果的なそり変形対策案を設計することができる。
【0071】
続いて、図10に示す立方体状の容器について評価を行った。図10(a)は平面図であり、(b)はAA断面図であり、(c)はBB断面図である。
【0072】
立方体状の容器の場合には、箱の側面が内側に向かい湾曲することが知られている(例えば、そり変形に与える金型温調設計の影響に関する検討 高橋、関野、小林、成形加工‘96 ,P145〜P146 1996)。そこで、図10に示す容器では、上記の変形を抑制するために、容器内部の底面と一の側面と境界を円弧状にし、容器の外側における底面と所定の底面との境界から底面が突き出すように延びるリブを形成し、容器内部の底面と側面とにまたがって存在する三角リブを形成する。
【0073】
図10に示す容器に関し、上記の文献等の記載に基づいて、図11に記載の変形量を拘束条件とし、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率を制約条件として、樹脂成形体の剛性の低下を最小化するように目的関数を最適化した。寄与率が50%以上の部分を3%又は4%きざみで表示する方法で、寄与率の分布を導出した。導出結果を図12に示した。
【0074】
外側のリブ、内側の円弧形状部分はいずれも寄与率が50%以下である。一方、三角リブの部分では寄与率が90%以上である。上記外側のリブのみ形成した立方体状成形体、上記円弧状の底のみ形成した立方体状成形体、上記三角リブのみ形成した立方体状成形体を実際に製造し、変形具合を確認した。上記の予想通り、三角リブを形成した立方体状成形体のみ変形が抑制されていた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形する樹脂成形体について、樹脂成形体を微小領域に分割し位相最適化法を用い、所定の拘束条件、所定の制約条件の下で目的関数の最適化を行うことで樹脂成形体の変形状態を分析する変形状態分析方法であって、
前記所定の拘束条件は、樹脂成形体の変形量の傾向であり、
前記所定の制約条件は、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率であり
前記目的関数の最適化は、樹脂成形体の剛性の低下を最小化するように最適化を行う変形状態分析方法。
【請求項2】
前記変形量は、有限要素法を用いて導出された請求項1に記載の変形状態分析方法。
【請求項3】
前記変形量は、実測値である請求項1に記載の変形状態分析方法。
【請求項4】
各微小領域での変形量に1を超える係数を乗じて算出した値を、前記樹脂成形体の変形量として用いる請求項1から3のいずれかに記載の変形状態分析方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以上の微小領域を含む範囲の形状を変更することにより、樹脂成形体の変形を抑制する樹脂成形体変形改善方法。
【請求項6】
樹脂成形体における前記寄与率が平均以上の微小領域を含む範囲の形状の変更の態様と、前記変更の態様により変化する樹脂成形体の変形の態様と、の関係を予め複数導出し、
前記複数の関係に基づいて、寄与率が平均値以上の微小領域を含む範囲の形状を変更する請求項5に記載の樹脂成形体変形改善方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以上の微小領域を含む範囲の形状を変更する形状変更工程と、
前記形状変更工程後に、樹脂成形体を製造し変形状態を確認する確認工程と、
樹脂成形体の変形量が所定の値以上の場合には、前記変形量が所定の値以下になるまで、前記形状の変更の態様を変えて、前記形状変更工程と前記確認工程とを繰り返し行う樹脂成形体変形改善方法。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以下の微小領域を含む範囲の少なくとも一部を削減することにより、樹脂成形体を軽量化する樹脂成形体軽量化方法。
【請求項1】
変形する樹脂成形体について、樹脂成形体を微小領域に分割し位相最適化法を用い、所定の拘束条件、所定の制約条件の下で目的関数の最適化を行うことで樹脂成形体の変形状態を分析する変形状態分析方法であって、
前記所定の拘束条件は、樹脂成形体の変形量の傾向であり、
前記所定の制約条件は、各微小領域の変形が樹脂成形体の変形に寄与する程度を表す寄与率であり
前記目的関数の最適化は、樹脂成形体の剛性の低下を最小化するように最適化を行う変形状態分析方法。
【請求項2】
前記変形量は、有限要素法を用いて導出された請求項1に記載の変形状態分析方法。
【請求項3】
前記変形量は、実測値である請求項1に記載の変形状態分析方法。
【請求項4】
各微小領域での変形量に1を超える係数を乗じて算出した値を、前記樹脂成形体の変形量として用いる請求項1から3のいずれかに記載の変形状態分析方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以上の微小領域を含む範囲の形状を変更することにより、樹脂成形体の変形を抑制する樹脂成形体変形改善方法。
【請求項6】
樹脂成形体における前記寄与率が平均以上の微小領域を含む範囲の形状の変更の態様と、前記変更の態様により変化する樹脂成形体の変形の態様と、の関係を予め複数導出し、
前記複数の関係に基づいて、寄与率が平均値以上の微小領域を含む範囲の形状を変更する請求項5に記載の樹脂成形体変形改善方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以上の微小領域を含む範囲の形状を変更する形状変更工程と、
前記形状変更工程後に、樹脂成形体を製造し変形状態を確認する確認工程と、
樹脂成形体の変形量が所定の値以上の場合には、前記変形量が所定の値以下になるまで、前記形状の変更の態様を変えて、前記形状変更工程と前記確認工程とを繰り返し行う樹脂成形体変形改善方法。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の変形状態分析方法で導出した寄与率が、平均値以下の微小領域を含む範囲の少なくとも一部を削減することにより、樹脂成形体を軽量化する樹脂成形体軽量化方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図10】
【図11】
【図6】
【図7】
【図9】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図10】
【図11】
【図6】
【図7】
【図9】
【図12】
【公開番号】特開2013−71444(P2013−71444A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214664(P2011−214664)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】
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