説明

変更されたFabシアル酸付加を有する抗体組成物

本発明は、抗体調製物から濃縮された抗体集団であって、濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有する、上記抗体集団に関する。さらに、本発明は、抗体調製物から抗体集団を濃縮する方法であって、ここで濃縮された抗体集団は、濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有する、上記方法に関する。本発明はまた、薬剤における使用のための本発明の抗体集団、本発明の抗体集団を含む医薬組成物、並びにアテローム性動脈硬化症、がん及び細菌感染症、ウイルス感染症又は真菌感染症のような感染症の予防及び/又は処置における本発明の抗体集団の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fab領域において変更されたシアル酸付加を有する抗体集団、それらの製造方法、及びそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
免疫グロブリン(抗体としても知られる)は、免疫系の主要な分泌産物である。それらは典型的に基本的な構造単位から形成され−それぞれが2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む−上記単位を1つ含むモノマー、2つの単位を含むダイマー、5つの単位を含むペンタマー、又は6つの単位を含むヘキサマーを形成する。抗体は先天免疫において重要な役割を果たす。病原体に対する天然の免疫応答において、病原体と抗体との間で複合体が形成される。これらの免疫複合体は、広範囲のエフェクター機能を活性化し、それ故病原体の殺傷、除去及び破壊をもたらす。抗体はまた身体自身の抗原とも反応し得、これにより自己免疫疾患をもたらし得、そして慢性炎症性症状に寄与し得る。抗体は、例えば炎症カスケードにおける種々のメディエーターを標的化及び中和することにより、抗炎症活性を有し得る。
【0003】
免疫グロブリンの5つの主要なアイソタイプが存在し、これらは異なる役割を果たす。IgGは、進入する病原体に対して抗体ベースの免疫の大部分をもたらし、これは以下でより詳細に考察される。IgMは膜結合形態及び溶液で存在する。溶液において、これは典型的にはペンタマーを形成し、抗原への結合において高いアビディティを生じる。これはしばしば、十分な特異的IgGが産生される前に感染に対する最初の即時の防御である。IgAは通常ダイマーとして存在し、そして粘膜領域、例えば腸、肺及び尿生殖路において見出される。これはこれらの表面を病原体による集落形成に対して保護する。IgEは主にアレルギー反応に関与する。これはアレルゲンに結合してマスト細胞及び好塩基球からのヒスタミンの放出を開始させる。IgDは主に、抗原に対して暴露されていないBリンパ球の表面上で見出される。
【0004】
ヒトにおいてIgGの4つのサブクラスが、正常血清中のそれらの相対的濃度にしたがって定義及び番号付けされる:IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4、これらは血清IgGのそれぞれ約60%、25%、10%及び5%を占め、それぞれのIgGサブクラスは独特のエフェクター機能を有している。
【0005】
一般に、それぞれ個々のモノマー免疫グロブリン単位、例えばIgG分子は、2つの同一の軽鎖及び2つの同一の重鎖からなり、これが今度は約110個のアミノ酸残基の反復構造モチーフを含む。軽鎖及び重鎖のドメインは、共有結合及び非共有結合で組になっており、それ故、可動性リンカー(いわゆるヒンジ領域)を介して接続された3つの独立したタンパク質部分を形成する。これらの部分のうち2つはFab(抗原結合フラグメント)領域と呼ばれ、同一の構造である。Fab領域はそれぞれ同じ特異的抗原結合部位を形成する。第三の部分はFc(結晶化可能フラグメント)領域であり、これはクリアランス及び輸送機構を活性化するリガンドに対する相互作用部位を形成する。
【0006】
IgGは疾患において重要な役割を果たす。IgG1型抗体は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)がしばしば重要と思われる場合にがんの免疫療法において最も一般的に使用される抗体である。さらに、IgGは、それらのFcフラグメントにより媒介される相互作用を通じて炎症促進性及び抗炎症性活性の両方を媒介することが知られている。一方では、Fcとそのそれぞれの受容体との間の相互作用は免疫複合体及び細胞傷害性抗体の炎症促進特性の原因である。他方では、ガンマグロブリン静脈注射(IVIG)及びそのFcフラグメントは抗炎症性であり、そして炎症性疾患を抑制するために広く使用される。このような逆説的な特性の正確な機構は不明であるが、IgGのグリコシル化がIgGの細胞傷害性及び炎症可能性の調節にとって非常に重要であるということが提案されてきた。
【0007】
これまでに、IgGにより媒介される細胞傷害性及び炎症性作用の調節におけるグリコシル化の役割の研究は、主にFc領域に焦点を合わせてきた。IgGのグリコシル化は、2つの重鎖の開構造を維持することによる全てのFcyRに対する結合に不可欠であった。FcyR結合に関するこのIgGグリコシル化という要件は、脱グリコシル化したIgG抗体がインビボで誘発される炎症性応答、例えば抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、ファゴサイトーシス及び炎症メディエーターの放出を媒介することができないということを説明する。自己免疫状態とIgG抗体の特定のグリコシル化パターンとの間の関連性が、IgG抗体の減少したガラクトシル化及びシアル酸付加が報告されている、関節リウマチ及びいくつかの自己免疫性血管炎(vasculities)の患者において観察されている。(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。
【0008】
特許文献1は、少なくとも1つのIgG Fc領域を含有するポリペプチドを開示し、このポリペプチドは、未精製抗体と比較してより高い抗炎症活性及びより低い細胞傷害活性を有する。この出願において、Fcフラグメント上のN連結グリコシル化部位の増加したシアル酸付加について濃縮されたIgG調製物がインビボで増強された抗炎症活性を示すことが見出された。対照的に、Fabフラグメントはこのインビボアッセイにおいて抗炎症活性を示さなかったと結論づけられた。
【0009】
特許文献1と同じ発明者らによる特許文献2は、少なくとも1つのIgG Fc領域を含有するポリペプチドを開示し、この少なくとも1つのIgG Fc領域は、α−2,6連結によりそれぞれの末端シアル酸部分に接続された少なくとも1つのガラクトース部分でグリコシル化されている。特許文献2のポリペプチドは、未精製抗体と比較してより高い抗炎症活性を有する。またこの出願では、Fcフラグメント上のN連結グリコシル化部位の増加したシアル酸付加について濃縮されたIgG調製物が、インビボで増強された抗炎症活性を示すことが見出された。対照的に、Fabフラグメントはこのインビボアッセイで抗炎症活性を示さなかったと結論づけられた。抗炎症活性が、FabフラグメントではなくFcフラグメント上の増加したシアル酸付加に起因するというさらなる証拠が、同じ発明者らによる特許文献3において提供されている。
【0010】
Nimmerjahn及びRavetchによる解説(非特許文献4)において、著者らはFc領域におけるシアル酸付加がIVIGの抗炎症活性の鍵であると明確に教示する。さらに彼らは、IgGの抗炎症活性における抗原結合ドメイン(Fab領域に位置する)に関する全般的な役割は彼らの方法ではなさそうであり、インタクトなIVIG及びそのFcフラグメントは同等の抗炎症活性を有すると述べている。
【0011】
特許文献4は、Fc含有分子の特性を制御するための方法に関し、この方法は、Fc領域におけるオリゴ糖のシアル酸付加を変更することを含む。この出願において、Fcオリゴ糖のシアル酸付加のレベルがFcγ受容体の組換え産生された治療用抗体の親和性を変更し、これらの抗体の生物学的作用の種々の局面の調節をもたらすということが見出された。Fcオリゴ糖からのシアル酸の除去が組換え産生された治療用抗体のそれらの標的分子に対するアビディティーを増強するということがさらに発見された。しかし、各Fabアームと標的との間の固有の親和性において差異が見られなかったのでこの効果はもっぱらFcに媒介されると考えられる。特許文献4の発明者らは、Fcオリゴ糖から荷電した静止基(static group)を除去することにより抗体構造全体においてさらなる可動性が可能となり、それ故互いの関係において2つの結合ドメインについてより高い相互作用の可能性がもたらされると仮説を立てている。
【0012】
Jefferisによる最近の総説記事(非特許文献5)は、抗体ベースの治療を改善するためのストラテジーとしてグリコシル化について考察する。Jefferis 2009によれば、ポリクローナルヒトIgG分子の約30%がIgG Fab領域においてN連結オリゴ糖を有しており、そしてIgG FcよりもIgG Fabに対するより高いレベルのガラクトシル化及びシアル酸付加が観察される。存在する場合、グリコシル化は可変領域に付随し、そしてポリクローナルIgGのIgG Fabグリコシル化の機能的重要性は明らかではない。モノクローナル抗体での研究に基づいて、抗体のFab領域におけるグリコシル化が抗原結合に対して中立、ポジティブ又はネガティブな影響を有し得ると推測される。これをさらに研究することにも、Fab領域においてグリコシル化された抗体集団を濃縮することにも動機付けは全くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際特許出願WO 2007/117505
【特許文献2】国際出願WO 2008/057634
【特許文献3】国際出願WO 2009/079382
【特許文献4】国際出願WO 2007/005786
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Parekh et al.,Nature 316,452 (1985)
【非特許文献2】Rademacher et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91,6123 (1994)
【非特許文献3】Matsumoto et al.,128,621 (2000)
【非特許文献4】Nimmerjahn & Ravetch,JEM 204,11−15 (2007)
【非特許文献5】Jefferis,R.; Nat Rev Drug Discov.2009 Mar;8(3):226−34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、抗体のFc領域において増加した量のシアル酸付加を有する抗体調製物は、種々の疾患の予防及び処置について熱心に研究されており、そしてまた抗体のFab領域のグリコシル化の可能性のある役割について考察されてきた。しかし、多数の抗体が現在使用されているが、代替物及び/又は臨床的応用においてより有益な有効性を有する改善された抗体調製物を提供する必要性が今もなお存在する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この技術的課題に対する解決は、特許請求の範囲において特徴づけられる実施態様を提供することにより達成される。本発明者らは、驚くべきことに、Fab領域において変更されたシアル酸付加を示す抗体の濃縮(enrichment)が免疫調節特性を変更するということを示した。
【0017】
発明の要旨
従って本発明の一実施態様は、抗体調製物からの濃縮により得られる抗体集団であり、ここで濃縮された抗体集団は、濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有し、そしてFab領域における変更されたシアル酸付加に基づく濃縮により、濃縮前の抗体調製物と比較した場合に濃縮された集団の免疫調節特性が変更されている抗体の集団が生じたものである。
【0018】
好ましくは、本抗体集団は、抗体調製物をセイヨウニワトコ(Sambucus nigra)凝集素カラム又はその等価物でアフィニティークロマトグラフィーにかけること、並びに(a)非結合フラクション(−SAフラクション)を集めること、及び/又は (b)結合フラクションを酸性ラクトースを用いて溶離すること(+SAフラクション)により生成され、それにより、−SAフラクションがFab領域において減少した量のシアル酸付加を有し、かつ+SAフラクションがFab領域において増加した量のシアル酸付加を有し、そしてそれにより、Fab領域において変更された量のシアル酸付加を有するフラクションが、変更された免疫調節特性を有する。
【0019】
さらに好ましい実施態様は、上記の抗体集団であって、濃縮された抗体集団が、濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有し、ここでFc部分におけるシアル酸付加の量は、検出された糖ペプチドの総量のうちシアル酸付加された糖ペプチドの%を測定した場合に、100%(すなわち2倍)未満、好ましくは50%(1.5倍)未満、より好ましくは30%未満、さらにより好ましくは20%未満だけ濃縮されているものである。
【0020】
さらに好ましい実施態様は、上記の抗体集団であって、濃縮された抗体集団が、濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有し、Fab部分におけるシアル酸付加の量は、濃縮前の抗体調製物中のFab領域におけるシアル酸付加の量と比較して、少なくとも1.25倍、より好ましくは少なくとも1.5倍、より好ましくは少なくとも2倍、なおより好ましくは少なくとも3倍、最も好ましくは少なくとも4倍だけ変更されているものである。
【0021】
本発明の別の実施態様は、抗体調製物から抗体集団を濃縮する方法であって、濃縮された抗体集団は濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有し、該方法は:
(a) 抗体調製物を、抗体のシアル酸付加されたFab領域に対する親和性を用いるアフィニティークロマトグラフィーにかける工程;
(b−i) 工程(a)において結合していない抗体集団を収集する工程;[ここで該抗体集団は、濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域においてより少ない量のシアリル酸を有する(−SAフラクション)];及び/又は
(b−ii) 工程(a)において結合している抗体集団を溶離して収集する工程、[ここで該抗体集団(+SAフラクション)は、濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域においてより多い量のシアリル酸を有する]、
を含み、
ここでFab領域におけるシアル酸付加の変更された量に基づく濃縮により、濃縮前の抗体調製物と比較した場合に、変更された免疫調節特性を有する抗体の集団が生じたものである、方法である。
【0022】
好ましくは、工程(a)におけるアフィニティークロマトグラフィーは、セイヨウニワトコ凝集素を用いる。好ましくは、得られた−SAフラクション又は得られた+SAフラクションのFc部分におけるシアル酸付加は、糖ペプチドの総量のうちシアル酸付加された糖ペプチドの%を測定した場合に、アフィニティークロマトグラフィー前の抗体調製物におけるFcシアル酸付加と100%(2倍)未満、好ましくは50%未満、より好ましくは30%未満、最も好ましくは20%未満だけ異なる。
【0023】
好ましくは、抗体調製物は血漿免疫グロブリン調製物、より好ましくは血漿免疫グロブリンG調製物、なおより好ましくはヒト血漿免疫グロブリンG調製物、最も好ましくは静注用免疫グロブリンG(IVIG)又は皮下注用免疫グロブリンG(SCIG)である。
【0024】
好ましい実施態様において、抗体のFab領域のシアル酸付加の量は、好ましくは酵素的に、さらに変更される。好ましくは、−SAフラクションにおけるシアル酸付加の量は、シアル酸残基を除去する酵素によりさらに低減され、一方で+SAフラクションにおけるシアル酸付加の量は、シアル酸残基を付加する酵素によりさらに増加される。
【0025】
1つの好ましい実施態様は、変更された量のシアル酸付加がFab領域におけるシアル酸付加の量の減少である、抗体集団又は抗体集団を生じる方法である。
【0026】
本発明の第二の代替の好ましい実施態様は、シアル酸付加の変更された量が、Fab領域におけるシアル酸付加の量の増加である、抗体集団又は方法である。
【0027】
本発明のさらなる実施態様は、本発明の抗体集団を含む医薬組成物である。場合により、本医薬組成物は薬学的に許容しうる担体、添加剤及び/又は希釈剤を含み得る。
【0028】
本発明のさらなる実施態様は、薬剤における使用のための、上記のようなFab領域におけるシアル酸付加が変更されている抗体集団である。
【0029】
好ましい実施態様において、本発明の抗体集団は、アテローム性動脈硬化症、がん及び細菌感染症、ウイルス感染症又は真菌感染症のような感染症の予防及び/又は処置における使用のためのものである。
【0030】
別の好ましい実施態様において、本発明の抗体集団は、炎症状態の予防又は処置における使用のためのものである。好ましくは、炎症状態は自己免疫疾患又は神経変性疾患であり、例えば自己免疫疾患又は神経変性疾患は、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、抗リン脂質抗体症候群、免疫性血小板減少症(ITP)、川崎病、ギラン・バレー症候群(GBS)、多発性硬化症(MS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー(CIDP)、皮膚水疱(skin blistering)疾患、皮膚筋炎、多発性筋炎、アルツハイマー病、パーキンソン病、ダウン症候群に関連するアルツハイマー病、脳アミロイド血管症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症及び血管性認知症である。好ましくは、炎症状態の処置において使用される抗体集団は、Fab領域において増加したシアル酸含有量を有する。
【0031】
発明の詳細な説明
本発明は、抗体調製物から濃縮された抗体集団に関し、ここで濃縮された抗体集団は、濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有する。好ましくは、抗体集団は、抗体調製物からの濃縮により得ることができ、ここで濃縮された抗体集団は、濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有し、そしてFab領域における変更されたシアル酸付加に基づく濃縮により、濃縮前の抗体調製物と比較した場合に、濃縮された集団の免疫調節特性が変更されている抗体の集団が生じたものである。
【0032】
本実施態様に従う抗体集団は、明細書全体を通して「本発明の濃縮された抗体集団」とも呼ばれる。
【0033】
本発明の全ての実施態様に従う用語「抗体集団」は、均質である(すなわち、1つの特定の抗体のみのいくつかの分子を含む)か、又は不均質(複数の異なる抗体を含む)のいずれかである抗体の群を指す。いずれの場合も、抗体集団はIgGクラスの抗体から優先的になるかIgGクラスの抗体を含む(以下も参照のこと)。しかし、これはIgM若しくはIgAクラスの抗体、又はIgG、IgM及び/若しくはIgAクラスの免疫グロブリンの混合物も含むかこれらからなり得る。
【0034】
本発明によれば、用語「濃縮された抗体集団」は、濃縮前の抗体調製物と比較して、それが目的の特定の特徴を有する、すなわち抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有する抗体をより多く含むという意味でより濃縮されている(concentrated)抗体集団を指す。用語「シアル酸付加の量」及び「シアル酸の量」は本明細書において交換可能に使用される。以下で定義されるように、シアル酸付加の変更された量は、抗体のFab領域におけるシアル酸付加の量の増加でも減少でもよい。従って、濃縮された抗体集団は、例えばそれらのFab領域においてシアル酸付加を有する抗体について濃縮され、従って濃縮前の抗体集団と比較して増加した量のシアル酸付加を有する集団を生じていてもよい。別の例として、濃縮された抗体集団は、それらのFab領域においてシアル酸付加を有していない抗体について濃縮され、従って、濃縮前の抗体集団と比較して減少した量のシアル酸付加を有する集団を生じていてもよい。好ましくは、濃縮された抗体集団は、濃縮前の抗体調製物中のFab領域におけるシアル酸付加の量と比較して少なくとも1.25倍多いか若しくは少ない、より好ましくは少なくとも1.5倍多いか若しくは少ない、より好ましくは少なくとも2倍多いか若しくは少ない、例えば少なくとも3倍又は少なくとも4倍多いか若しくは少ない量のシアル酸付加を有することにより濃縮前の抗体調製物と異なる。より好ましくは、シアル酸付加の量は、濃縮前の抗体調製物中のFab領域におけるシアル酸付加の量と比較して少なくとも5倍多いか又は少ない。用語「倍多いか又は少ない」は、全グリカンのうちシアル酸付加されたグリカンの%を測定した場合に出発物質と比較した相対的な増加又は減少を指す。例えば、濃縮前の抗体集団がグリカンの15%のシアル酸の量を有する場合、3倍多いか又は少ない量のシアル酸を有する濃縮された抗体集団は、それぞれ45%又は5%のシアリル酸を有するグリカンの量を有する。IgGの場合、Fcフラグメントのシアル酸付加は、トリプシンのようなプロテアーゼを用いた消化、続いて得られたFc特異的糖ペプチドの分析(例えば実施例2,方法(a)に記載されるように)により決定され、そして本明細書で引用される濃縮についての数量は、全Fc特異的糖ペプチドのうち、1つ又はそれ以上のシアル酸残基を有するFc特異的糖ペプチドの濃縮倍数又はパーセントを指す。IgG分子のシアル酸付加の総量(Fabシアル酸付加及びFcシアル酸付加を含む)は、トリプシンペプチドをN−グリコシダーゼFを用いて消化し、続いて放出されたグリカンを(例えば実施例2、方法(b)において記載されるように)分析することにより決定され得る。この場合、数量は、全グリカンのうち1つ又はそれ以上のシアル酸残基を有するグリカンの数量又はパーセントを指す。
【0035】
濃縮された抗体集団は、濃縮に使用される出発物質としての抗体調製物の選択に依存して、そして選択された濃縮方法に依存して、単離及び/又は精製された抗体集団であってもよい。本明細書において使用される「精製された抗体集団」は、1つのクラスの抗体(例えばIgG)のみを含む抗体集団を指す。抗体集団はまた、IgG1、IgG2、IgG3若しくはIgG4のような特定のサブクラスの抗体のみを含むか若しくは本質的にそれのみ(すなわち90%より多く)を含むか、又はある抗原に対して確定された特異性の抗体のみを含むか若しくは本質的にそれのみを含むという趣旨で、精製され得る。用語「単離された抗体集団」は、抗体以外の分子を含まない抗体集団を指す。
【0036】
本発明全体を通して使用される用語「抗体」は、例えばポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体を包含する。用語「抗体」はまた、抗原結合特異性をまだ保持しているその誘導体又はフラグメントも含む。従って、キメラ(ヒト定常ドメイン、非ヒト可変ドメイン)、単鎖及びヒト化(非ヒトCDR以外はヒト抗体)抗体、さらにはとりわけFab又はFab'フラグメントのような抗体フラグメントのような実施態様も含まれる。抗体フラグメント又は誘導体は、Fd、F(ab')2、Fv又はscFvフラグメントをさらに含む;例えばHarlow and Lane 「Antibodies,A Laboratory Manual」,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1988及びHarlow and Lane 「Using Antibodies:A Laboratory Manual」 Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999を参照のこと。
【0037】
本明細書全体を通して使用される用語「Fab領域」は、抗体の各重鎖及び軽鎖からの1つの定常ドメイン及び1つの可変ドメインで構成される抗体の領域を指し、そしてこれは抗原結合に関与する部位を含む。それぞれのインタクトな天然IgG抗体は2つのFab領域を含む。本発明によれば、用語「Fabフラグメント」は、抗体がパパインで消化される場合に一般的に得られる抗体のフラグメントに対して使用される。パパイン消化により、2つの重鎖を連結しているジスルフィド架橋の上側の抗体の切断が生じ、従って、2つの個々のFabフラグメントが放出される。他方では、ペプシンを用いた消化により、抗体のヒンジ領域により一緒に連結される2つのFabフラグメント(いわゆる「F(ab')2フラグメント」)が放出される。これらの酵素消化により消化されない抗体に関して、用語「Fab領域」は、パパイン又はペプシンでの消化が行われた場合にFab及び/又はF(ab')2フラグメントを形成するであろう抗体の部分を指す。パパイン又はペプシン消化により得られる抗体フラグメントに関して、Fab領域はFabフラグメントに相当する。Fabフラグメントの場合、対応する分子はFab領域と同一である。
【0038】
しかし、Fab領域におけるグリコシル化は抗体の可変領域に位置するので、本発明の文脈において、Fv領域、単鎖Fvフラグメント又は抗体の可変領域を含む他のフラグメントは等価と見なされる。
【0039】
本発明の全ての実施態様によれば、抗体は血漿から抽出することができるか、又は例えばHarlow及びLane(1988)及び(1999)(前出)に記載されるような、当該分野で公知の種々の手順のいずれか1つにより製造することができる。従って、抗体は、例えば合成により製造され得、そしてペプチド模倣剤も含み得る。さらに、単鎖抗体の製造に関して記載される技術(とりわけ米国特許第4,946,778号を参照のこと)が適用され得る。また、トランスジェニック動物又は植物(例えば米国特許第6,080,560号を参照のこと)が、(ヒト化)抗体を発現するために使用され得る。モノクローナル抗体の製造には、連続的な細胞株培養により産生される抗体を提供するいずれかの技術を使用することができる。例えばHarlow及びLane(1988)及び(1999)(前出)に記載されるような、当該分野で公知のこのような技術の例としては、ハイブリドーマ技術(Koehler and Milstein Nature 256 (1975),495−497)、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor,Immunology Today 4 (1983),72)及びヒトモノクローナル抗体を産生するためのEBVハイブリドーマ技術(Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.(1985),77−96)が挙げられる。用語「抗体」が、細胞において発現され得る抗体構築物、例えばとりわけウイルス又はプラスミドベクターを介してトランスフェクト及び/又は形質導入され得る抗体構築物を含むことも、本発明の文脈において考慮される。
【0040】
本発明にしたがって使用される用語「変更された量のシアル酸付加」は、抗体集団におけるシアル酸の量の変化を指し、ここでシアル酸は上記集団の抗体のFab領域に位置している。従って、濃縮された抗体集団の抗体のFab領域におけるシアル酸の全体の量が、濃縮前の抗体調製物の抗体のFab領域におけるシアル酸の全体の量と異なる場合、濃縮された抗体集団のシアル酸付加の量は変更されている。シアル酸の量の変化は、増加した量のシアル酸であっても減少した量のシアル酸であってもよい。濃縮前の抗体調製物と比較して抗体集団が抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有するか否かの決定は、当該分野で公知の種々の方法のいずれかを使用して行うことができる。例えば、シアル酸付加の量は、濃縮前の抗体調製物及び目的の抗体集団の両方に対して決定することができ、そしてそのようにして得られた結果を直接比較することができる。シアル酸付加の量を決定する方法は当該分野で周知である。非限定的な例としては、実施例の項に詳述される方法、又は例えばCurrent Protocols in Protein Science:Unit 12.4 (Hudson et al),12.6(Royle et al)及び12.7(Harvey et al),John Wiley and Sons(2006)に記載されるような、目的の抗体のペプシン消化と、それに続くFcフラグメントからの得られたF(ab’)2及びペプシンフラグメントの分離(例えばcentriconを使用する)、そしてこれらのフラクションにおけるシアル酸の定量(例えばHPLC若しくはMSを用いるか又は酵素ベースの測光アッセイ、QA−bio LLC,Palm Desert,Ca:qa−bio.comで利用可能)が挙げられる。これらの方法は、本明細書に記載される全ての実施態様のシアル酸付加の変更された量の決定のために使用することができる。シアル酸付加の増加量又は減少量は、一般的に全グリカンのうちシアル酸付加されたグリカンの%として表されるか、又はFcシアル酸付加については糖ペプチドの総量のうちシアル酸付加された糖ペプチドの%として表される。
【0041】
本発明によれば、用語「シアル酸」は、ノイラミン酸(9つの炭素の骨格を有する単糖)のN−置換又はO−置換誘導体を指す。このノイラミン酸誘導体のファミリーの最もよく知られたメンバーは、N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac又はNANA)である。このファミリーのさらなるメンバーはN−グリコリルノイラミン酸(NGNA又はNeu5Gc)であり、ここでNeu5AcのN−アセチル基はヒドロキシル化されている。用語シアル酸には、2−ケト−3−デオキシノヌロソン酸(KDN)(Nadano et aI.(1986) J.BioI.Chem.261:11550−11557;Kanamori et aI.,J.BioI.Chem.265:21811−21819 (1990))、さらには9−置換シアル酸、例えば9−O−ラクチル−Neu5Ac又は9−O−アセチル−Neu5Acのような9−O−C−C6アシルNeu5Ac、9−デオキシ−9−フルオロ−Neu5Ac及び9アジド−9−デオキシ−Neu5Ac(Varki,Glycobiology 2:25−40(1992);Sialic Acids:Chemistry,Metabolism and Function,R.Schauer,Ed.(Springer Verlag,New York(1992))も包含される。
【0042】
本発明によれば、用語「免疫調節特性」は、抗体集団が免疫系に及ぼす作用を指す。免疫調節作用は免疫抑制でも免疫賦活でもよい。種々のインビトロ又はインビボでの方法が、抗体集団のような物質の免疫調節特性を測定するために当業者に利用可能である。例えば、単球由来細胞株、例えばU937細胞は、レチノイン酸又はビタミンDを用いて増殖及び分化され得る。次いでこれらを試験物質の存在下及び不在下で、例えばインターフェロン−γ又は植物性血球凝集素を用いて刺激し得る。適切なインキュベーションの後、IL−8のような炎症マーカーの量を細胞の上清において測定することができ、そしてU937細胞上の細胞表面マーカー、例えばCD54、CD14又はCD45を、例えば蛍光活性化細胞分析(FACS分析)により決定することができる。免疫抑制、例えば抗炎症特性を有する物質は、コントロールサンプルと比較してより少ない量の炎症マーカーを生じるだろう。物質はこのようなアッセイを用いて抗炎症作用についてランク付けされ得る;生じた炎症マーカーが少ない量であるほど、抗炎症作用が高い。別の例は、ヒト血液から単離され、ロキソリビン又はCpGのような特定の物質で刺激された末梢血単核細胞(PBMC)を試験物質の不在下又は存在下にて使用する方法である。試験物質によるインターフェロン−α産生の阻害は、免疫抑制、例えば抗炎症作用の指標になるだろう。免疫賦活を測定する同様のアッセイもまた利用可能である。例えば、例えばインターフェロン又は植物性血球凝集素又は類似の賦活薬による刺激を使用しないこと以外は上記と同じ方法を使用することができる。
【0043】
本発明によれば、驚くべきことに、中性又は塩基性のpHでレクチンアフィニティークロマトグラフィーを使用して抗体調製物を分離することにより、抗体のFc領域におけるシアル酸付加の量では小さい差異しか示さなかったが抗体のFab領域におけるシアル酸付加の量では大きな差異を示す抗体集団が得られるということを見出した。実施例4に示されるように、これらの集団は異なる抗原認識パターンを有し、これによりこれらのフラクションを例えばアテローム性動脈硬化症のような臨床適用において使用して有益な効果がもたらされ、この場合、特に抗体のFab領域において減少した量のシアル酸を有する集団について保護作用が示された。
【0044】
本発明はまた、抗体調製物から抗体集団を濃縮する方法に関し、ここで濃縮された抗体集団は濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有し、該方法は:(a) 抗体調製物を、抗体のシアル酸付加されたFab領域に対する親和性を用いるアフィニティークロマトグラフィーにかける工程;(b−i) 工程(a)において結合していない抗体集団を収集する工程;[ここで該抗体集団は、濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域においてより少ない量のシアル酸を有する(−SAフラクション)];及び/又は(b−ii) 工程(a)において結合している抗体集団を溶離して収集する工程、[ここで該抗体集団は、濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域においてより多い量のシアリル酸を有する(+SAフラクション)]を含み、
ここでFab領域におけるシアル酸付加の変更された量に基づく濃縮により、濃縮前の抗体調製物と比較した場合に、変更された免疫調節特性を有する抗体の集団が生じたものである。好ましくは、工程(a)におけるアフィニティークロマトグラフィーは、セイヨウニワトコ凝集素を用いる。好ましい実施態様において、−SAフラクション又は+SAフラクションのFc部分におけるシアル酸付加は、糖ペプチドの総量のうちシアル酸付加された糖ペプチドの%を測定した場合に、抗体調製物におけるFcシアル酸付加と、100%(2倍)未満、好ましくは50%未満、より好ましくは30%未満、最も好ましくは20%未満だけ異なる。
【0045】
本発明に従う用語「抗体のシアル酸付加されたFab領域に対する親和性を用いるアフィニティークロマトグラフィー」は、アフィニティーマトリックスと抗体のFab領域に存在するシアル酸との間の特異的相互作用に基づいて、抗体の混合物を分離するクロマトグラフィー法に関する。それらのシアル酸に基づいて抗体を分離するいくつかの方法が当業者に公知であり、例えばレクチンクロマトグラフィー、シアル酸特異的化学リガンド、イオン交換クロマトグラフィー(例えばAIEX)、疎水性若しくは親水性相互作用クロマトグラフィー又は混合モードの液体クロマトグラフィー(例えばアニオン−カチオン交換/疎水性相互作用クロマトグラフィー)(Mant CT,J Sep Sci.31,2754,2008)である。これらの方法は、例えば以下に詳述されるように、そして本発明の実施例において示されるように、Fab領域に存在するそれらのシアル酸に基づいて抗体を分離することが可能となるように適合され得る。
【0046】
Fab領域において低レベルのシアル酸付加を有するかシアル酸付加を有していない抗体は本発明に従うアフィニティークロマトグラフィーにより結合されないので、工程(a)において結合しておらず工程(b−i)において収集される抗体集団は、濃縮前の調製物と比較して抗体のFab領域において減少した量のシアル酸付加を有する濃縮された集団である。換言すると、この抗体集団は、シアル酸が減少した集団である。工程(a)で結合し、工程(b−ii)で収集される抗体集団は、Fab領域において高レベルのシアル酸付加を有する抗体のアフィニティークロマトグラフィーに対する結合に起因して、濃縮前の調製物と比較して抗体のFab領域において増加した量のシアル酸付加を有する濃縮された集団である。従って、出発抗体集団の抗体は、抗体のFab領域において増加した量又は減少した量のいずれかのシアル酸付加を有する濃縮された集団に分離される。
【0047】
本発明の方法の好ましい実施態様において、少なくとも1つの洗浄工程が、工程(b−i)と(b−ii)との間で行われる。適切な洗浄液は当業者に周知であり、例えばtris緩衝化生理食塩水(TBS)又はリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)から選択される。
【0048】
本発明の濃縮された抗体集団又は本発明の方法の好ましい実施態様において、抗体調製物は血漿免疫グロブリンG調製物である。
【0049】
本発明に従う用語「血漿免疫グロブリンG調製物」は、血漿から単離された免疫グロブリンG調製物を指す。血漿から単離される免疫グロブリンGは、循環B細胞(抗体を分泌する形質細胞)により分泌されたものであってよい。血漿免疫グロブリンG調製物は、例えばヒトのような哺乳動物から得ることができるが、 非限定的な例として、ヒト免疫グロブリンG調製物レパートリーを発現するトランスジェニック動物、例えばブタ、ヤギ、ヒツジまたはウシからも得ることができる(Echelard Y and Meade H.,「Toward a new cash cow.」 Nat Biotechnol.2002 Sep;20(9):881−2で概説される)。
【0050】
より好ましい実施態様において、血漿免疫グロブリンG調製物は、静注用免疫グロブリンG(IVIG)である。
【0051】
本発明に従う「静注用免疫グロブリンG(IVIG)」は当業者に周知であり、1千を超える血液ドナーの血漿から抽出されたプールIgG免疫グロブリンを含有する血漿調製物を指す。IVIGは、免疫不全、炎症性疾患及び自己免疫疾患、さらには急性感染症のような疾患の処置のために静脈投与される製品としての薬剤において使用される。IVIGの好ましい例はPrivigenTMである。
【0052】
別のより好ましい実施態様において、血漿免疫グロブリンG調製物は皮下注用免疫グロブリンG(SCIG)である。
【0053】
本発明に従う「皮下注用免疫グロブリンG(SCIG)」は当業者に周知であり、IVIGに類似であるが皮下投与される製品としての薬剤においてのみ使用される血漿調製物を指す。SCIGの好ましい例はHizentraTMである。
【0054】
別のより好ましい実施態様において、血漿免疫グロブリンG調製物はヒト血漿免疫グロブリンG調製物である。
【0055】
本発明の方法の別の好ましい実施態様において、抗体のシアル酸付加されたFab領域に対する親和性を用いるアフィニティークロマトグラフィーは、pH8〜11でのレクチンアフィニティークロマトグラフィーである。
【0056】
本発明に従う用語「レクチンアフィニティークロマトグラフィー」は、アフィニティーマトリックスがレクチンであるクロマトグラフィーに関する。凝集素のようなレクチンは、特定の炭水化物分子に結合することができるタンパク質であり、従ってそれらのグリカン基に基づいてタンパク質を分離することができる。本発明のレクチンアフィニティークロマトグラフィーにおける使用に適したレクチンの非限定的な例は、セイヨウニワトコ凝集素(SNA、Sambucus nigra)、コムギ胚芽凝集素(WGA、Triticum vulgaris)並びにイヌエンジュレクチン(MAL、Maackia amurensis)アイソフォームI及びII(Mal I及び(und)Mal II)である。
【0057】
本発明によれば、驚くべきことに、レクチンアフィニティークロマトグラフィーにおいて使用されるpHを適応させることがシアル酸に対するレクチンの結合能に影響を及ぼすということが見出された。レクチンは中性pHでFcフラグメントにおけるシアル酸に結合するが、レクチンに対するFcフラグメントの結合は、塩基性pHにおいてほとんど観察されなかった(実施例3において示されるとおり)。従って、実施例において示されるように、塩基性pHを使用する場合、抗体のFab領域におけるシアル酸に基づく分離が可能となる。
【0058】
より好ましい実施態様において、このpH値は9〜10の間であり、より好ましくはpHは9.5である。
【0059】
好ましい実施態様において、レクチンはセイヨウニワトコ凝集素である。このレクチンでのアフィニティークロマトグラフィーは、塩基性でも中性でも、又はわずかに酸性のpHでも行われ得る。
【0060】
本発明の方法の別の好ましい実施態様において、抗体のシアル酸付加されたFab領域に対する親和性を用いるアフィニティークロマトグラフィーは、抗体のFab領域のシアル酸付加に特異的なリガンドを使用して行われる。
【0061】
本発明に従う「抗体のFab領域のシアル酸付加に特異的なリガンド」は、第一にシアル酸に特異的に結合し、第二に、Fab領域におけるシアル酸に特異的に結合するが抗体の他の領域に含まれるシアル酸には結合しないリガンドである。このような特異的リガンドは、例えば分子認識の原理にしたがって合成的に生成される受容体分子を使用するような、当業者に周知の方法により得ることができる。受容体分子は、物質混合物中で目的とするグリコシル化パターン(例えばシアル酸付加)を有するタンパク質を認識することにより標的タンパク質を見分けて、種々の結合部位で同時にそれに結合し、そしてそれを物理的に三次構造に封入する。その後、標的タンパク質は溶離緩衝液のpH値又は塩濃度を変化させることにより再び放出される。
【0062】
より好ましい実施態様において、抗体のFab領域のシアル酸付加に特異的なリガンドは、例えばコンビナトリアルケミストリー及びリガンドスクリーニングにより得られた合成的に生成されたリガンドから選択される(Still WC,Acc.Chem.Res.29,155,1996.Brady P,Chem.Soc.Rev.26,327,1997.Patterson S,Tetrahedron Lett.39,3111,1998)。
【0063】
本発明の方法のより好ましい実施態様において、アフィニティークロマトグラフィーは、抗体のシアル酸付加されたFab領域に対するよりも、抗体のシアル酸付加されたFc領域に対して低い親和性を有し、すなわち、親和性はFcシアル酸付加よりもFabシアル酸付加に対して選択的である。従って、本発明の方法において使用されるアフィニティーマトリックスは、抗体のFab領域に含まれるシアル酸に優先的に結合するが、抗体のFc領域に含まれるシアル酸には結合しないか又は小さい程度で結合するのみだろう。結果として、分離はFabシアル酸付加に基づくので、工程(b−ii)で得られる抗体集団は、Fcシアル酸付加を有する抗体よりも、Fabシアル酸付加を有する抗体についてより多く濃縮されており、そして同様に、工程(b−i)において得られる抗体集団は、それらのFcシアル酸付加に関係なく、Fabシアル酸付加を有していないか又はほとんど有していない抗体についてより多く濃縮されている。好ましくは、Fcシアル酸付加は、糖ペプチドの総量のうちシアル酸付加された糖ペプチドの%として測定した場合に、100%未満、より好ましくは50%未満、なおより好ましくは30%未満、最も好ましくは20%未満だけ異なるだろう。
【0064】
本発明はさらに、濃縮前の抗体調製物と比較して、抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有する抗体集団に関する。
【0065】
抗体集団が濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有するか否かの決定は、上記のように行うことができる。変更された量のシアル酸付加は、現在利用可能な多数の方法の検出限界内でのIVIGのシアル酸付加の量と同じでないシアル酸付加の量と見なされる。好ましくは、抗体集団のシアル酸付加の量は、濃縮前の抗体調製物中の抗体のFab領域におけるシアル酸付加の量と比較して、少なくとも1.25倍多いか又は少なく、より好ましくは少なくとも1.5倍多いか又は少なく、より好ましくは少なくとも2倍多いか又は少なく、例えば少なくとも3倍又は少なくとも4倍多いか又は少ない。より好ましくは、シアル酸付加の量は、濃縮前の抗体調製物中の抗体のFab領域におけるシアル酸付加の量と比較して、少なくとも5倍多いか又は少ない。上記のような、用語「倍多いか又は少ない」は、濃縮前の抗体調製物中のシアル酸の量と比較した相対的な増加又は減少を指す。
【0066】
濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有する本発明の抗体集団の好ましい実施態様において、抗体集団は血漿免疫グロブリンG調製物である。
【0067】
より好ましい実施態様において、血漿免疫グロブリンG調製物はヒト血漿免疫グロブリンG調製物である。
【0068】
本発明の抗体集団又は本発明の方法の好ましい実施態様において、抗体のFab領域のシアル酸付加の量はさらに変更される。
【0069】
この実施態様において、シアル酸付加の量は、抗体のFab領域におけるシアル酸付加のさらなる増加又は減少が得られ、そしてそれぞれの抗体集団の全体的なシアル酸付加の量のさらなる変更がもたらされるように変更される。抗体のFab領域におけるシアル酸の量の増加と減少の両方が考慮される。本発明の抗体集団が抗体のFab領域において増加した量のシアル酸を有する場合、さらなる変更は抗体のFab領域におけるシアル酸の量のさらなる増加であることが好ましい。本発明の抗体集団が抗体のFab領域において減少した量のシアル酸を有する場合、さらなる変更は抗体のFab領域におけるシアル酸の量のさらなる減少であることも好ましい。
【0070】
この実施態様において、シアル酸付加のパターン、すなわちシアル酸の型及び/又は抗体のFab領域におけるそれらの位置がさらに変更されることも考慮される。
【0071】
より好ましい実施態様において、シアル酸付加パターンの変更は酵素的に達成される。
【0072】
酵素による変更は、例えば、抗体のFab領域におけるシアル酸の量を増加させるためにシアリルトランスフェラーゼ及びシアル酸ドナーを使用することにより行われ得る。あるいは、抗体のFab領域におけるシアル酸の量の減少は、例えばシアリダーゼ酵素を使用して、それによりシアル酸を除去することにより達成され得る。
【0073】
シアリルトランスフェラーゼの非限定的な例は、ST3Gal III(α−(2,3)シアリルトランスフェラーゼとも呼ばれる(EC2.4.99.6))、及びα−(2,6)シアリルトランスフェラーゼ(EC2.4.99.1)である。α−(2,3)シアリルトランスフェラーゼは、Gal−β−1,3GlcNAc又はGal−β−1,4 GlcNAcグリコシドのGalへのシアル酸の転移を触媒し(Wen et al.,J.Biol.Chem.267:21011(1992);Van den Eijnden et al.,J.BioI.Chem.256:3159(1991))、そして糖ペプチドにおけるアスパラギン連結オリゴ糖のシアル酸付加に関与する。α−(2,6)シアリルトランスフェラーゼの活性は、6−シアル酸付加オリゴ糖(6−シアル酸付加ガラクトースを含む)を生じる。α−(2,6)シアリルトランスフェラーゼの異なる形態が存在し、これは異なる組織から単離され得るか、又は組み換え技術を使用して産生され得る。
【0074】
シアリダーゼ(ノイラミニダーゼ、N−アセチルノイラミネートグリコヒドロラーゼとも呼ばれる)の非限定的な例は、シアリダーゼAu、アルファ−(2−3,6,8,9)(EC3.2.1.18);シアリダーゼCp、アルファ−(2−3,6)(EC3.5.1.18)及びシアリダーゼSpアルファ−(2−3)(EC3.5.1.18)である。
【0075】
抗体のFab領域におけるシアル酸付加の量の選択的変更を達成するために、抗体のFc領域を当該分野で公知の種々の方法のいずれかにより酵素活性から保護してもよい。例えば、特異的Fc結合リガンドは、Fc領域をマスクするために使用され得る。このようなFc特異的リガンドの非限定的な例としては、上記に記載されるような化学的に合成されたリガンド、又は可溶性Fc受容体、Fc特異的抗体若しくはプロテインA/Gのような生物学的リガンドが挙げられる。
【0076】
さらに、細胞培養条件は、細胞培養において産生される抗体のシアル酸付加の量を変化させるために変更され得る。例えば、増加した量のシアル酸は、産生速度が減少して浸透圧が一般的に約250mOsm〜約450mOsmの範囲に維持される場合に得られる。この及び他の適切な細胞培養条件は、例えば米国特許第6,656,466号に記載される。さらに、Patelら(Patel et al.,Biochem J,285,839−845(1992))により、抗体連結糖側鎖中のシアル酸の含有量は、抗体が腹水として又は無血清若しくは血清含有培地中で産生された場合に有意に異なるということを報告した。さらに、細胞培養に異なるバイオリアクターを使用すること、及び培地中の溶解酸素の量が抗体連結糖部分におけるガラクトース及びシアル酸の量に影響を与えることも示されている(Kunkel et al.,Biotechnol.Prog.,1.6,462−470(2000))。
【0077】
本発明の抗体集団又は本発明の方法の別の好ましい実施態様において、変更された量のシアル酸付加は、上記のように、Fab領域におけるシアル酸付加の量の減少である。
【0078】
本発明の抗体集団又は本発明の方法の別の好ましい実施態様において、変更された量のシアル酸付加は、上記のように、Fab領域におけるシアル酸付加の量の増加である。
【0079】
本発明はさらに、薬剤における使用のための、本発明の抗体集団に関する。
【0080】
本発明はさらに、炎症状態、例えば自己免疫疾患及び/又は神経変性疾患、例えば関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、抗リン脂質抗体症候群、免疫性血小板減少症(ITP)、川崎病、ギラン・バレー症候群(GBS)、多発性硬化症(MS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー(CIDP)、皮膚水疱(skin blistering)疾患、皮膚筋炎、多発性筋炎、アルツハイマー病、パーキンソン病、ダウン症候群に関連するアルツハイマー病、脳アミロイド血管症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症又は血管性認知症の処置における使用のための、本発明の抗体集団に関する。好ましくは、これらの状態における使用のための抗体集団は、Fab領域において増加したシアル酸含有量を有する。
【0081】
実施例6に示されるように、抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有する抗体集団は、例えばアテローム性動脈硬化症のような疾患の処置において使用され得る。
【0082】
本発明はまた、本発明の抗体集団を含む組成物に関する。
【0083】
本発明に従う用語「組成物」は、濃縮された抗体集団が濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更されたシアル酸付加パターンを有する、抗体調製物から濃縮された抗体集団を少なくとも含むか、又は濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更されたシアル酸付加パターンを有する抗体集団を少なくとも含む、組成物に関する。本組成物は、本発明の抗体集団の特徴を変更することができ、それにより例えば抗体の機能を低減、安定化、遅延、調節及び/又は活性化するさらなる分子を場合により含んでいてもよい。本組成物は、固形でも液状形態でもよく、そしてとりわけ、散剤(単数又は複数)、錠剤(単数又は複数)、液剤(単数又は複数)又はエアロゾル(単数又は複数)の形態であってよい。
【0084】
好ましい実施態様において、本発明の組成物は、薬学的に許容しうる担体、添加剤及び/又は希釈剤を場合によりさらに含む医薬組成物である。
【0085】
本発明によれば、用語「医薬組成物」は、患者、好ましくはヒト患者に投与するための組成物に関する。本発明の医薬組成物は、上記の抗体集団を含む。本発明の医薬組成物は、場合により、そしてさらに、薬学的に許容しうる担体を含み得る。「薬学的に許容しうる担体」により、任意の型の非毒性の固形、半固形、又は液体のフィラー、希釈剤、封入材料又は製剤化補助剤を意味する。適切な製薬用担体の例は当該分野で周知であり、これには塩化ナトリウム溶液、リン酸緩衝化塩化ナトリウム溶液、水、油/水エマルションのようなエマルション、種々の型の湿潤剤、滅菌溶液、有機溶媒などが含まれる。好ましくは、担体は非経口担体であり、より好ましくはレシピエントの血液と等張性の溶液である。担体は、等張性及び化学的安定性を増強する物質のような少量の添加剤を適切に含む。このような物質は使用される投薬量及び濃度でレシピエントに対して非毒性であり、そしてこれらとしては、リン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸及び他の有機酸若しくはそれらの塩のような緩衝剤;アスコルビン酸のような抗酸化剤;低分子量(約10未満の残基)の(ポリ)ペプチド、例えばポリアルギニン若しくはトリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、若しくはさらなる免疫グロブリンのようなタンパク質;ポリビニルピロリドンのような親水性ポリマー;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸若しくはアルギニン;単糖類、二糖類及びセルロース若しくはその誘導体を含む他の炭水化物、グルコース、マンノース、若しくはデキストリン;EDTAのようなキレート剤;マンニトール若しくはソルビトールのような糖アルコール;ナトリウムのような対イオン;並びに/又はポリソルベート、ポロキサマー、若しくはPEGのような非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0086】
このような担体を含む組成物は、周知の従来の方法により製剤化され得る。一般に、製剤は医薬組成物の成分を均一かつ徹底的に液体担体又は微粉化された固形担体又はその両方と接触させることにより製造される。次いで、必要な場合、生成物を所望の製剤へと成形する。
【0087】
これらの医薬組成物は適切な用量で被験体に投与され得る。投与計画は主治医及び臨床因子により決定されるだろう。医学技術分野において周知であるように、いずれか1患者についての投薬量が多くの因子に依存し、これには患者の大きさ、体表面面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、時間及び投与経路、全体的な健康、並びに同時に投与される他の薬物が含まれる。所定の状況についての治療有効量は、慣用の実験により容易に決定され、通常の臨床医又は医師の技術及び判断の範囲内である。医薬組成物は、1回の投与用でも、長期間にわたる規則的な投与用でもよい。一般に、医薬組成物の投与は、単回投与について例えば10μg/体重kgから2g/体重kgの範囲であるべきである。しかし、より好ましい投薬量は、単回投与について100μg/体重kg〜1.5g/体重kg、なおより好ましくは1mg/体重kg〜1g/体重kg、そしてなおより好ましくは10mg/体重kg〜500mg/体重kgの範囲であり得る。本発明の医薬組成物の投与は、様々な方法で、例えば静脈内、腹腔内、皮下、筋内、皮内、経口、鼻腔内又は気管支内投与により達成され得る。
【0088】
治療投与に使用しようとする医薬組成物の成分は無菌でなくてはならない。無菌性は、滅菌ろ過膜(例えば0.2ミクロンの膜)を通してろ過することにより容易に達成される。
【0089】
医薬組成物の成分は、通常、単回又は複数回用量の容器、例えば密封されたアンプル又はバイアルで、水溶液として、又は再構成用の凍結乾燥された製剤として保存される。凍結乾燥された製剤の例として、10−mlバイアルを滅菌ろ過された1%(w/v)水溶液5mlで満たし、そして得られた混合物を凍結乾燥する。注入液剤は、凍結乾燥された化合物を静菌性の注射用蒸留水を使用して再構成することにより製造される。保存料及び他の添加剤、例えば抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性ガスなどが存在していてもよい。医薬組成物は、その医薬組成物の意図される用途に依存してさらなる薬剤を含んでいてもよい。
【0090】
本医薬組成物は、疾患、好ましくは以下に開示されるような疾患の処置に特に有用であり得る。
【0091】
本発明はまた、アテローム性動脈硬化症、がん及び細菌感染症、ウイルス感染症又は真菌感染症のような感染症の予防及び/又は処置における使用のための本発明の抗体集団に関する。
【0092】
本発明によれば、「アテローム性動脈硬化症」は、動脈血管に影響を及ぼす慢性疾患を指す。これは主にマクロファージ白血球の蓄積に起因する動脈壁における慢性炎症性応答であり機能的高密度リポタンパク質(HDL)によりマクロファージから脂肪及びコレステロールが適切に除去されることなく低密度リポタンパク質により促進される。これは動脈内で多発性プラークが形成されることにより引き起こされる。炎症はアテローム性動脈硬化症の全ての段階において中心的であり、先天性及び適応性の両方の免疫−炎症機構が関与する。疾患の進行は酸化されたリポタンパク質に対する自己抗体の形成、並びに循環するサイトカイン及び炎症マーカーの増加を伴う。
【0093】
本発明によれば、「がん」は、制御されない細胞分裂、及び浸潤により隣接する組織中に直接増殖するか、又は転移により離れた部位への移入(この場合、がん細胞は血流又はリンパ系を通って輸送される)のいずれかにより広がるこれらの能力を特徴とする疾患又は障害のクラスを指す。
【0094】
本発明によれば、「感染」は、外来種による宿主生物の有害な集落形成である。感染において、感染した生物は、(通常宿主を犠牲にして)増殖するために宿主の資源を利用しようとする。感染に対する宿主の応答は炎症である。
【0095】
本発明によれば、細菌感染症としては、細菌性髄膜炎、コレラ、ジフテリア、リステリア症、百日咳(Pertussis)(百日咳(Whooping Cough))、肺炎球菌性肺炎、サルモネラ症、破傷風、チフス、結核、黄色ブドウ球菌又は尿路感染症が挙げられるがこれらに限定されない。
【0096】
本発明によれば、ウイルス感染症としては、単核球症、AIDS、水痘、感冒、サイトメガロウイルス感染症、デング熱、エボラ出血熱、手足口病、肝炎、インフルエンザ、耳下腺炎、灰白髄炎、狂犬病、痘瘡、ウイルス性脳炎、ウイルス性胃腸炎、ウイルス性脳炎、ウイルス性髄膜炎、ウイルス性肺炎又は黄熱が挙げられるがこれらに限定されない。
【0097】
本発明に従う真菌感染としては、アスペルギルス症、ブラストミセス症、カンジダ症、コクイシジオイデス真菌症、クリプトコックス症、ヒストプラスマ症、又は足部白癬症が挙げられるがこれらに限定されない。
【0098】
本発明の抗体集団が、例えば例えば抗生物質(antibiotica)耐性の発生に起因して(due)、従来の処置計画に影響を受けない感染症の予防及び/又は処置において使用され得ることは特に好ましい。
【0099】
本発明はさらに、炎症性状態、例えば自己免疫疾患及び/又は神経変性疾患、例えば関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、抗リン脂質抗体症候群、免疫性血小板減少症(ITP)、川崎病、ギラン・バレー症候群(GBS)、多発性硬化症(MS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー(CIDP)、皮膚水疱(skin blistering)疾患、皮膚筋炎、多発性筋炎、アルツハイマー病、パーキンソン病、ダウン症候群に関連するアルツハイマー病、脳アミロイド血管症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症又は血管性認知症の処置における使用のための、本発明の抗体集団に関する。好ましくは、これらの状態における使用のための抗体集団は、Fab領域において増加したシアル酸含有量を有する。
【0100】
用語「炎症性状態」は、炎症に関連する異常を指し、これは多数のヒトの疾患の根底にある。炎症は有害な刺激に対する複雑な生物学的応答であり、有害な刺激を除去して治癒を開始しようとする身体の試みである。しかし、異常が生じて慢性炎症又は自己免疫疾患のような炎症性状態をもたらし得る。
【0101】
用語「自己免疫疾患」は、免疫系が自己抗原を攻撃する状態を指す。例としては、関節リウマチ、多発性硬化症、狼瘡、重症筋無力症、乾癬が挙げられる。
【0102】
用語「神経変性疾患」は、ニューロンの死を含むニューロンの構造又は機能の進行性の喪失が見られる状態を指す。神経変性疾患の例としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、ハンティングトン病が挙げられる。
【0103】
本明細書中に記載される疾患は全て当業者に周知であり、従来技術及びに当業者の一般的な知識に従って定義されている。
【0104】
アテローム性動脈硬化症の予防及び/又は処置における使用には、抗体のFab領域において減少した量のシアル酸を有する抗体集団を使用することが特に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】レクチンアフィニティークロマトグラフィー(SNA)を使用したIVIGの分画。典型的なクロマトグラムを示す(A)。IgG中の総シアル酸含有量を非還元条件(B及びC)又は還元条件(D)を使用してSDS−PAGEでの分離の間にレクチンブロットを用いてモニタリングした。クーマシー染色ゲル(B)及びSNA−ビオチンプローブ(probed)ブロット(C及びD)を示す。重鎖及び軽鎖のシアル酸付加を検出することができた(D)。
【図2】IVIG中のシアル酸付加N−グリカンを(実施例2及び4に記載されるように)LC−MS分析により測定した。総N−グリカン、Fc−特異的糖ペプチド及びF(ab’)2−グリカンの相対的な量を異なるIVIGフラクションについて計算した。F(ab’)2−グリカンをIVIG、−SA IVIG及び+SA IVIGからペプシン消化により製造した。
【図3】異なるレクチンアフィニティークロマトグラフィー条件の比較。pH7.5(A)又はpH9.5(B)でのレクチンアフィニティークロマトグラフィーを使用して分離されたIVIGからのFcフラグメントのレクチンブロット分析。Fc FT:ロードされたFcのフロースルー(シアル酸減少フラクション;−SA Fc);FcE:溶離液(シアル酸濃縮フラクション;+SA Fc)。
【図4】元のF(ab')2フラグメント及び分画されたF(ab')2フラグメントのグリカンプロフィール。IVIGからのF(ab')2フラグメントをレクチンアフィニティークロマトグラフィーを使用して分離した。グリカンをPNGaseF消化によりF(ab')2から放出させて、C18クロマトグラフィーにより精製し、そしてアルジトールに変換し、そしてLC−MSでネガティブモードにてAgilent Q−TOFで黒鉛化カーボンブラックHPLCカラムを使用してグリカン分離について分析した。
【図5】特異的抗体及びF(ab')2中のシアル酸の分布。IVIGからのF(ab')2フラグメントから生成された+/−SAフラクションを特徴付けすることにより、レクチンベースの分離におけるFabシアル酸付加の寄与に取り組んだ。F(ab’)2 1gあたりの相対的抗B19ウイルス力価を市販のELISAキットを使用して測定し、そしてIVIG由来のF(ab’)2に対して正規化した(A)。シアル酸付加N−グリカンの相対的な量をF(ab')2フラクションのLC−MS分析(B)、及びHPLCを用いたIgGあたりの酸放出シアル酸の定量(Mol/Mol)(C)から計算した。
【図6】IVIGのシアル酸濃縮フラクション対減少フラクションへの特異的抗体の分布。サイトメガロウイルス(CMV)、破傷風毒素(TetTox)、B19ウイルス(B19V)、風疹及び麻疹(Measels)に対する特異的抗体の分布を、市販のELISAキットを使用して測定した(パネルA)。ウサギ、ヒツジ及びヒトの赤血球に対する結合を、蛍光標識抗ヒトIgG二次抗体を使用するFACS分析により測定した。
【図7】全IVIG、「IVIG+SA」又は「IVIG−SA」で処置されたマウス及びコントロールマウス(「PBS」)における大動脈尖(aortic cusps)の外観から200、400、600及び800μmで測定された病変密度。病変密度は、病変により占められる大動脈横断面のパーセントを表す。左上及び右上のパネルは同等のものであるが、右のパネルでは分析された4つのレベルの値を平均している。下の表は:Fischerの事後検定(posthoc test)を示す。S:統計学的に有意。
【図8】(a) TLR7アゴニストロキソリビン(200μM)で刺激された、末梢血単核細胞によるインターフェロン−アルファ(IFN−α)産生の、IVIG又は対応するF(ab’)2フラグメントフラクション(セイヨウニワトコ凝集素でのアフィニティークロマトグラフィーによりFab領域において増加された(+SA)又は減少した(−SA)シアル酸付加)による阻害
【実施例】
【0106】
以下の実施例は、本発明を説明することを意図されるが限定することを意図されない。
【0107】
実施例1:2,6シアル酸特異的セイヨウニワトコ凝集素(SNA)を使用したIVIGの分画
100ml tris緩衝化食塩水(TBS)(0.1mM CaCl2、pH 9−10)中の1g IVIGを100ml セイヨウニワトコ凝集素(SNA)カラムで1時間再循環させた。100ml TBS/CaCl2洗浄液と一緒にフロースルーを集めた。TBS 2X 200mlで洗浄した後、SNAカラムに結合したフラクション(+SA IVIG)を0.2M酢酸中0.5Mラクトース200mlで溶離した。二度目のフロースルーフラクションをカラムに流して−SA IVIGを得た(図1)。
【0108】
IgG中の総シアル酸含有量を、SDS PAGE(非還元条件)及びレクチンブロットでモニタリングした(図1)。得られたIVIGフラクションを、Nupage 10% BisTrisゲルを使用するSDS PAGEで分離した。ゲルをクーマシーで染色してニトロセルロースにブロットした。ブロットをビオチン−SNA及びAP−ストレプトアビジンを用いてプローブし(probed)、そして発色基質で可視化した。図1Dにおいて、重鎖及び軽鎖を還元条件下でのSDS PAGEで分離した。SNA−ビオチンでプローブしたレクチンブロットにおいて、両方の鎖は明確に現れ、軽鎖シアル酸付加を示していた。それ故、有意なFabシアル酸付加は+SA IVIGで検出することができた。
【0109】
シアル酸の定量
シアル酸を酸性加水分解により放出させて、1,2−ジアミノ−4,5−メチレンジオキシベンゼン二塩酸塩(DMB)を用いて誘導体化を行った。定量はN−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)を標準として使用する逆相高速液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)で行い、そしてIgGあたりのシアル酸(質量/質量又はMol/Mol)で表した。
【0110】
この方法を用いて、分離前のIVIGと比較して、IgGあたり(Mol/Mol)、+SA IVIGにおける総シアル酸の5倍の増加、及び−SA IVIGにおける総シアル酸の2倍の減少が見られた(データは示していない)。
【0111】
実施例2:グリカン分析
分離前後のIVIGのグリコシル化プロフィールを調べるために、典型的なIVIG調製物のFc領域由来のトリプシン糖ペプチドを同定してプロファイリングし、そしてIVIGの総N−グリカン集団をグリカン放出及び分析によりプロファイリングした。
【0112】
方法
(a) ペプチドマッピングによるIgG1及びIgG2/3 Fcグリカンプロフィールの決定
IVIGサンプルを、トリプシン消化後に液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)により分析して、IgG1及びIgG2/3 Fc領域に特異的なグリカンプロフィールを決定した。IgG2 Fc領域についてモニタリングした糖ペプチドはIgG3 Fc領域にも見出され得、そのためこれらをIgG2/3と呼ぶ。血清中のIgGサブクラスの既知の相対的存在量に基づいて、IgG2/3ペプチドについて見られるシグナルの大部分はIgG2分子起源であると予想される。変性、還元(グアニジン−HCl及びDTTと共に加熱)及びアルキル化(ヨードアセトアミドを用いる)の後に、1:50の酵素対基質比を使用してトリプシン消化した。トリプシンペプチドを単離し、そしてC18固相抽出(SPE)スピンカラムで精製し、そして真空下でチューブ中にて乾燥した。LC−MS分析を、ペプチド分離にAgilent Proshell 300SB−C18カラムを使用するAgilent Q−TOFシステムで行った。クロマトグラムを抽出し、そして[M+2H]2+及び[M+3H]3+シグナルを合計し、そして推定構造の計算されたモノアイソトピック質量を使用して各IgG1及びIgG2/3糖ペプチドについて統合した。データを分析し、そしてAgilent MassHunterソフトウェア、バージョンB.02.00(Huddleston et al.Anal Chem 65,877,1993)を使用して処理した。
【0113】
IgG糖ペプチドの同定
トリプシン消化物のLC−MS分析は複雑なクロマトグラムを生じた。有効な糖ペプチドを同定するために、IgGサブクラス1〜4について重鎖定常領域の配列をEntrezタンパク質データベースから得た(それぞれ受入番号12054072、12054074、12054076及び12054078)。配列をインシリコで消化した。表1に列挙されるペプチドを、N−連結グリコシル化コンセンサス配列の存在により有効な糖ペプチドと同定した。これらのペプチドの理論的質量を共通のIgGグリカンG0Fと結びつけて、予測[M+3H]3+イオンも計算した。
【0114】
表1.4つのIgGサブクラスからの予測糖ペプチドのリスト。N−連結グリコシル化コンセンサス配列を太字で強調している。裸の(bare)ペプチド、G0Fグリカンに接続されたペプチド、及び[M+3H]3+イオンの計算されたモノアイソトピック質量を示す。
【表1】

【0115】
(b) 全体的なグリカンプロフィールの決定
サンプルを以下のように分析して全体的なグリカンプロフィールを決定した。各サンプル250μgから誘導された乾燥トリプシンペプチドを50μL 100mM NH4HCO3で再構成し、そして250U N−グリコシダーゼF(PNGase F)と共に37℃で終夜インキュベートした。二回目のC18 SPE精製を行い、脱グリコシルしたトリプシンペプチドを放出されたグリカンから分離した。放出されたグリカンを、塩基性水素化ホウ素ナトリウム溶液を使用して、終夜45℃でインキュベートしてアルジトールに変換した。残りのボロハイドライドの分解後、グリカンアルジトールをDowex 50 WX4−400イオン交換樹脂スピンカラムで脱塩して乾燥した。残りのホウ酸を除去するためにメタノール中1%酢酸の添加及びエバポレーションを繰り返した。グリカンアルジトールを出発移動相(10mM NH4HCO3)で再構成し、そしてネガティブモードでLC−MSで繰り返して分析した。10mM NH4HCO3/アセトニトリル移動相系を使用する黒鉛化カーボン高速(high)HPLCカラムでグリカン分離を行った。クロマトグラムを抽出して、各グリカンについて統合した。グリカンアルジトールの[M−1H]1−、[M−2H]2−、及び[M−3H]3−シグナルからのシグナルを合計した。グリカンアルジトールの製造及び分析は、以前に報告された研究と同様である(Karlsson et al.Rapid Commun Mass Spectrom 18,2282,2004)。
【0116】
結果
Fcにおけるシアル酸付加のレベルは、IVIG及び−SA IVIGに比べて+SA
IVIGではあまり高くなかった。図2に示されるように、Fc領域における全ての糖ペプチドのうちシアル酸付加された糖ペプチドの%は20%未満(すなわち、全てのペプチドの10.3%〜12.1%)しか変わらなかった。他方で、全てのN−グリカンのシアル酸付加レベル(Fab領域及びFc領域におけるシアル酸付加を含む)は、+SA IVIGフラクションにおいて有意に高く(図2):ほとんど70%(すなわち、全てのグリカンの50.0%から84.5%)増加している。これらの結果に基づいて、それぞれより高い、より低いシアル酸付加レベルは、IVIGのFab領域における異なるシアル酸付加に主に起因すると結論づけることができる。
【0117】
要約すれば、実施例1に記載される分画方法により、元のIgG調製物(IVIG)と比較してより高いシアル酸付加(+SA IVIG)又はより低いシアル酸付加(−SA IVIG)のIgG調製物が生じる。観察されたより高いシアル酸付加レベルは、IgGのFab領域におけるより高いシアル酸含有量に主に起因する。
【0118】
実施例3:pH7.5又は9.5でのレクチンアフィニティークロマトグラフィーの比較
シアル酸付加されたFcの結合親和性に対する、レクチンアフィニティークロマトグラフィーにおいて適用される異なるpH条件の効果を比較するために、IVIGをパパインで消化した(パパイヤ(papay)ラテックス、0.7U/mg IgG 2時間37℃)。Fcフラグメントを、プロテインA、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)及びタンパク質Lを使用して(例えばCurrent protocols in Immunology:Unit 2.7及び2.8(Andrew et al) John Wiley and Sons (1997)に記載されるように)精製した。IVIGから生じたFcフラグメントをSNAカラムにロードして、pH7.5又はpH9.5のいずれかのTBSを使用したことを除いて上記のような方法を使用して分離した。得られたフラクションの等しいアリコートをSDS page(Nupage 10% BisTris Gels)を用いて分離し、そしてニトロセルロースにブロットし、これらのブロットをビオチン−SNA及びAP−ストレプトアビジンでプローブし、そして発色基質で可視化した(図3)。
【0119】
中性pH(pH7.5)で行ったレクチンクロマトグラフィーはシアル酸付加Fcフラグメントの有意な濃縮をもたらした(図3A、溶離液E)。他方で、アルカリ条件(pH9.5)を使用すると、図3B(溶離液E)に示されるように、検出可能な量のより高いシアル酸付加Fcはほとんどなかった。これらの知見は実施例2の結果と一致しており、この場合、+SAフラクションと−SAフラクションとの間でFcシアル酸付加における有意な差は検出できなかった。アルカリpH条件の使用は、N−グリカン全体の増加したシアル酸付加レベルにもかかわらずシアル酸付加Fcに対してレクチンクロマトグラフィーにおいて非常に低い結合親和性をもたらすので、このことは、このシアル酸付加がFab領域であることを示す。
【0120】
さらに、この実験は、単離されたFcフラグメントがレクチンアフィニティークロマトグラフィーを使用して分離される場合、これにより、インタクトなIgG分子の分離と比較して異なるFcシアル酸付加レベルを有するフラクションが生じるということを示す。このことは、レクチン結合Fab領域が存在しないことで説明できる。
【0121】
実施例4:F(ab’)2及び+/−SA F(ab')2のグリカン分析
F(ab')2はIVIGのペプシン消化により製造した。酢酸緩衝液中pH4.0で2時間37℃にてペプシン(0.5mg/g IVIG)を用いてIVIGを消化した。pH8に達するまで2M Tris塩基を加えることにより反応を停止させた。濃縮及び低分子消化生成物からの精製、そしてPBSへの緩衝液交換をCentricon(30’000 Mwカットオフ)を使用して(例えばCurrent protocols in Immunology:Unit 2.7及び2.8(Andrew et al) John Wiley and Sons (1997)に記載されるように)行った。シアル酸が濃縮及び減少されたF(ab')2をレクチンアフィニティークロマトグラフィーによりSNA−アガロースを使用して製造した。F(ab’)2(12ml TBS(0.1mM CaCl2、pH 9.5)中80mg)を1時間SNA−アガロース12mlにロードした。フロースルーフラクションを集めて−SA F(ab')2と名付けた。TBS 24mlで2回洗浄した後、+SA F(ab')2フラクションを0.2M酢酸中0.5Mラクトース24mlで溶離した。
【0122】
トリプシン消化の後、サンプルをLC−MSにより分析した。材料の変性、還元、そしてアルキル化の後、上記のようにトリプシン消化を行った。サンプルを上記のように(実施例2)分析して全体的なグリカンプロフィールを決定した。
【0123】
全IVIGグリカン及びF(ab')2グリカンのプロファイリング
16の異なるグリカン種の相対的な定量を、グリカン放出及びアルジトールへの変換後のサンプルについて行った。一般に、レクチンに結合したフラクションは、分画していないサンプルと比較して、非シアル酸付加グリカンの減少及びシアル酸付加グリカンの増加を示す。逆に、非結合フラクションは分画していないサンプルよりも、シアル酸付加グリカンが低く非シアル酸付加グリカンが高かった。レクチンに結合したF(ab')2は非シアル酸付加グリカンをほとんど含まない(図4、図5B及びC)。
【0124】
F(ab')2における特異的抗体及びシアル酸の分布
IVIG由来のF(ab')2フラグメントから製造された+/−SAフラクションの特徴付けにより、レクチンベースの分離におけるFabシアル酸付加の寄与に取り組んだ。+SA F(ab')2において、より多い相対量のシアル酸付加N−グリカンがLC−MS分析で観察され、そしてより高い量の総シアル酸が、HPLCで酸放出シアル酸を定量した場合に検出された(図5B及びC)。抗B19ウイルス力価の差は、+SA 対 −SA F(ab')2フラクションが異なる抗原認識パターンを有するということを示す(図5A)。
【0125】
実施例5:IVIGのシアル酸濃縮フラクション対シアル酸減少フラクションへの特異的抗体の分布
サイトメガロウイルス(CMV)、破傷風毒素(TetTox)、B19ウイルス(B19V)、風疹及び麻疹に対する特異的抗体の分布を市販のELISAキットを使用して測定した(図6A)。ウサギ、ヒツジ及びヒトの赤血球に対する結合を、蛍光標識及び抗ヒトIgG二次抗体を使用してFACS分析により測定した。
【0126】
結果は、IgG 1gあたり測定された抗原について異なる相対的抗体力価が3つのIVIGフラクションにおいて見られるということを示す(図6)。IVIGフラクションの抗原認識パターンにおけるこの差は、様々な臨床適用において+SA IVIG又は−SA IVIGフラクションのいずれかを使用して増強された効果をもたらし得る。
【0127】
実施例6:Fabのシアル酸付加について濃縮されたIVIGのフラクションとFabのシアル酸付加が減少されたIVIGのフラクションとのアテローム調節(atheromodulating)活性のインビボでの比較
アテローム性動脈硬化症は、先天性及び適応性の両方の免疫炎症(immunoinflammatory)機序が関与する動脈壁の慢性疾患である。炎症はアテローム性動脈硬化症の全ての段階において中心的である。これは初期の脂肪線条の形成に関与し、このときに内皮が活性化され、そしてケモカイン及び接着分子を発現させ、単球/リンパ球の動員、そして内皮下層への浸潤をもたらす。これは有害な臨床的血管事象の発生時も作用し、このときプラーク内の活性化された細胞はマトリックスプロアーゼを分泌し、これが細胞外マトリックスタンパク質を分解し、線維性被膜を弱らせ、そして破断及び血栓形成をもたらす。疾患の進行は、酸化されたリポタンパク質に対する自己抗体の形成並びに循環するサイトカイン及び炎症マーカーの増加に関連する。
【0128】
アテローム性動脈硬化症及びIVIG
ポリクローナル免疫グロブリン調製物(IVIG)はアテローム性動脈硬化を抑制する(Nicoletti,Clin.Invest.102:910−918,1998)。コレステロール誘導アテローム性動脈硬化症の遺伝モデルであるアポリポタンパク質Eノックアウト(ApoE KO)マウスで実証が行われており、ここでは先天性及び適応性の両方の免疫が中心的な役割を果たす。7週齢雄性apo EノックアウトマウスにIVIGを5日間の間注射すると、2ヶ月間のコレステロール食の間に脂肪線条形成を35%減少させることが示された。4ヶ月間の食事処理により誘導された繊維脂肪性病変は、その食事の2ヶ月後にIVIGを与えることにより50%減少した。これらの結果はいくつかのグループによって確認及び再検討されたが、IVIGがアテローム保護(atheroprotection)をもたらす正確な機序は大部分理解されないままである。
【0129】
材料及び方法
実施例1において上で記載されたように得られたIVIGの3つの調製物を使用した:全IVIG(total IVIG)(「全IVIG(IVIG total)」)、シアル酸濃縮IVIGフラクション(「IVIG+SA」)及びシアル酸減少IVIGフラクション(「IVIG−SA」)。これらの調製物を10mg/マウス/注射の用量で腹腔内注射した。マウス(6−7週齢)に連続して5日間注射を行った。コントロールマウスには食塩水を注射した(「PBS」)。合計で、ApoE KOマウス1グループあたり10匹のマウスが含まれる(n=10/グループ)。マウスを最初の注射の2ヶ月後に屠殺した。注射された製品のいずれかに応じたマウスの異常の反応は見られなかった。
【0130】
結果
アテローム性動脈硬化の発達を大動脈根でのレベルで評価した。大動脈の総表面積には統計学的な差は無く、IVIG注射は主要な血管リモデリングを誘導しなかったということを示した。しかし、IVIG調製物で処置されたマウスにおいて病変サイズは有意に減少した。全IVIG及びIVIG+SAは、これらのマウスグループにおいて病変密度の平均25%の減少を伴う同様の保護をもたらした。より少ないシアル酸付加のIVIG(IVIG−SA)調製物を与えられたマウスは、最も保護され、コントロールのサイズの半分の病変であった(図7)。
【0131】
実施例7:インビトロ細胞刺激アッセイにおいて試験された抗炎症活性に対するFabシアル酸付加の効果
種々の自己免疫疾患及び神経変性疾患において、炎症状態はこれらの疾患と関連がある。インビトロ細胞培養アッセイにおいて、インビボで観察される炎症状態は、様々なシアル酸が濃縮されたIVIG及び減少したIVIG及びFabフラクションの抗炎症活性について試験するために作られたものである。
【0132】
多くの全身性エリテマトーデス(SLE)患者は、疾患の活性及び重症度に関連するI型「IFNサイン」を有する(Bengtsson et al,(2000) Lupus 9(9)664−671)。RNA又はDNA核タンパク質を含有する免疫複合体(IC)は、取り込まれてToll様受容体を(TLR 7,9)を刺激し得、IFN−α産生をもたらす(Vollmer et al(2005) J.Exp.Med.2002(11),1575−1585)。この実験において、目的は、シアル酸付加(SA+)IgGがIFN−α産生をヒト細胞のTLR7/TLR9刺激後に調節するか否か、及びどのように調節するかを決定することである。
【0133】
末梢血単核細胞(PBMC)を、健常ボランティアのヘパリン化静脈血からFicoll−Paque(Amersham Biosciences)での密度勾配遠心分離により単離した。PBMC培養物(96ウェル丸底組織培養プレートにおいて5x105/ウェル、Nunc、総体積150μL)をロキソリビン(200μM、Invivogen)又はCpG 2216(200nM、Invivogen)で刺激し、そしてIVIG(実施例1に記載されるようなシアル酸付加フラクションが濃縮されるか又は減少したもの)又は対応するF(ab’)2部分で500μg/mlのIgG又は等モル量F(ab’)2フラグメント(333μg/ml F(ab’)2)の濃度で処理した。20±2時間後に上清を集めてIFN−αを社内のELISAで市販の抗体を記載されるように使用して定量した(Santer et al.,(2009)J.Immunol 182,1192−1201)。結果をIVIG処理を受けなかった細胞と比較したIFN−αの阻害パーセントとして表す。
【0134】
等モル濃度でF(ab’)2調製物はそれらの全IgG対応物と同じレベルの阻害(又はおそらく少し高い阻害も)を生じるということが見られ、これはより高いIFN−α阻害の原因であるのは増加したシアル酸付加を有するFab部分であるということを示している。
【0135】
実施例8:ヒト単球細胞株U937を使用する、インビトロ抗炎症活性に対するFabシアル酸付加の効果
U937細胞(ATCC)をATCCにより提供される指示にしたがって培養で増殖させた。細胞をレチノイン酸(0.5μM)及び/又はビタミンDを用いて実験の1日前に分化させた。
【0136】
分化させたU937細胞を400xgでの遠心分離により採取し、そして1%ヒトアルブミンを含有するPBSを用いて再懸濁させた。次いで細胞をインターフェロン−ガンマ(IFNγ)50〜500単位又は植物性血球凝集素(PHA)0.1〜2マイクログラムを用いて刺激した。シアル酸が増強されるか及び減少したIVIG及びそのフラグメントを刺激の間又は刺激薬剤の添加前に細胞に加えた。
【0137】
37℃での20+/−2時間のインキュベーションの後、上清中の炎症マーカーを市販のELISAキット又はBecton Dickinson (BD Biosciences)からのヒト炎症サイトカイン用ビーズアレイにより測定することにより刺激をモニタリングした。IL−8及びネオプテリンをELISAキット(Biosource/Demeditec diagnostics)を使用して測定した。
【0138】
表面マーカー(CD54、CD14、CD45)をFACS分析により蛍光標識抗体(BD Pharmingen)を使用してBD FACS CantoII(BD Bioscience)で定量した。
【0139】
IVIGの+SAフラクションによる、及び+SAフラクションから製造された等モル量のF(ab’)2フラグメントによる炎症マーカーの減少が、分画していないIVIG及び対応するF(ab’)2フラグメントと比較して観察され、これは免疫グロブリンの抗炎症特性がFab領域における増加したシアル酸付加のために濃縮されたことを示す。
【0140】
実施例9:単球誘導樹状細胞(moDC)刺激アッセイ
ヒト単球の単離及び未熟単球誘導樹状細胞(iMoDC)の分化
末梢血単核細胞(PBMC)を1ドナーの提供全血の細胞部分を含有するバフィーコート(Blutspendedienst SRK,Bern,CH)から密度遠心分離により単離した。バフィーコートをPBSで1/1希釈した。希釈したバフィーコート25mlをFicoll Plaque (GE Healthcare Europe GmbH,Otelfingen,CH)15mlにロードし、そして35分間遠心分離した(室温、400g、停止用ブレーキなし)。PBMCを含有する細胞層を集めてプールした。洗浄(50ml PBSで2回)した後、単球をCD14−MACSビーズ(Miltenyi Biotech GmbH,Bergisch Gladbach,GER)を使用して磁気細胞分離(MACS)により単離した。PBMCの正確な数(10x必要な単球の数)をMACS緩衝液(PBS、0.5%BSA、2mM EDTA)中に取り、そして抗CD14 mAb被覆MACSビーズ(80μl/107 PBMCs;
Miltenyi Biotech GmbH)と共に20分間氷上で(暗所)インキュベートした。MACS緩衝液で洗浄(200gで10分間遠心分離)した後、ビーズで標識した細胞を予備洗浄した(3ml MACS緩衝液)LS MACSカラム(Miltenyi Biotech GmbH)にロードし、洗浄し(3ml MACS緩衝液を用いて3回)、そしてカラムを磁場から外した後5ml MACS緩衝液で洗い流した。PBSで洗浄した後、新しく単離した単球を、10%iFCS(Biochrom AG、Berlin、DE)、10000U/mlペニシリン及びストレプトマイシン(Amimed、BioConcept、Allschwil、CH)及び10mM HEPESを含有するRPMI−1640に入れて24ウェル(0.5x106単球/ウェル(ml))又は48ウェルプレート(0.25x106単球/ウェル(0.5ml))(BD Biosciences)に0.5x106単球/mlの濃度で分配した。単離された単球の純度をC14染色によりFACS分析で評価した。FACS分析の詳細を以下に記載する。
【0141】
その後6日間の間、単球を50ng/ml GM−CSF(R&D Systems Europe Ltd.,Abingdon,UK)及び20ng/ml組み換えヒトIL−4(PeproTech EC Ltd.,London UK)の存在下で未成熟単球誘導樹状細胞(iMoDC)へと分化させた。分化の間、1日おきに培地の半分を除去して十分に補充された(上記を参照のこと)新鮮な培地と置き換えた。6日後、細胞をDC−表現型について光学顕微鏡法及びFACS分析により分析した。CD14、DC−SIGN (CD209)、CD11c及びCD1a(全てBD Biosciencesからのモノクローナル抗体)の細胞表面発現を評価した。FACS分析の詳細を以下に記載する。
【0142】
新しく単離された単球、分化したiMoDC及び成熟MoDCのFACS分析
FACS緩衝液(PBS、2%iFCS)50μl中の約60,000〜100,000個の細胞を、すぐに使える(ready−to−use)mAb(抗−CD14、CD11c、CD1a、DC−SIGN、HLA−DR、CD80、CD86、CD83、CD64、CD32及びCD16;全ての抗体はBD Biosciencesの直接標識されたモノクローナル抗体である)1〜2μlを用いて染色し、そして30分間4℃(暗所)でインキュベートした。細胞をPBSで洗浄し、そしてPBS 50μlに入れて350μl 1xBD CellFix(BD Biosciences)で固定し、そして暗所にて4℃で採取するまで貯蔵した。サンプルあたり10,000個の細胞をFACS Caliburを用いて取得し、そしてBD CellQuestソフトウェア(両方ともBD Biosciences)により分析した。
【0143】
免疫複合体によるiMoDCの刺激
未成熟(i)MoDCを、示されるような様々な量のIVIGフラクションF(ab’)2フラグメントと共に3時間プレインキュベートした。iMoDCを、示されるように0.1〜100μg/ml LPSを用いて刺激した。十分に補充されたRPMI(50ng/ml GM−CSF及び20ng/ml IL−4を含む)中で24ウェルにおいて分化させた0.5x106 iMoDCを、LPSと共に24時間の間37℃、5%CO2でインキュベートした。IC−媒介刺激(成熟化)の分析のために、FACS分析及びサイトカイン測定を行った。それらの細胞をウェルの底からピペット操作により洗い出すことにより採取した。細胞懸濁液を集めて直ぐに氷上で保存した。遠心分離(300g、10分、4℃)後に、上清を集めて後のサイトカイン測定のために−20℃で保存した。細胞をFACS緩衝液(PBS、2%iFCS)50μl中に入れてFACS分析を上記のように行った。2つの共起刺激分子CD80(B7−1)及びCD86(B7−2)の細胞表面発現を測定し、DC特異的成熟マーカーCD83(全て直接標識されたmAb、BD Biosciences)も同様に測定した。
【0144】
細胞培養上清におけるサイトカイン測定
iMoDC刺激実験の細胞培養上清を集めてサイトカイン測定まで−20℃で保存した。IL−12p70、IL−10、IL−6、IL−8、TNF−α及びIL−1βを製造者の指示書にしたがってBecton Dickinson(BD Biosciences)からのヒト炎症性サイトカイン用の細胞数測定ビーズアレイ(Cytometirc Bead Array)(CBA)により測定した。
【0145】
炎症マーカーの、IVIGの+SAフラクションによる減少及び+SAフラクションから製造された等モル量のF(ab’)2フラグメントによる減少が、分画されていないIVIG及び対応するF(ab’)2フラグメントと比較して観察され、これはFab領域における増加したシアル酸付加について濃縮された免疫グロブリンの抗炎症特性を示している。
【0146】
実施例10:EAEマウスモデルにおける従来のIVIgと比較した、シアル酸付加されたIVIgの有利な効果の評価
IVIG+SAの抗炎症効果の評価は、自己免疫モデルで観察することができ、そして原因となる機序を調べることができる。このモデルにおいて、IVIGが調節性T細胞の増殖によりその抗炎症効果を及ぼすということが示された。EAEを使用して、Sial Fc、シアル酸付加F(ab’)2、シアル酸付加されたインタクトなIVIg及びIVIgの間での比較を行った。様々な用量のこれらの調製物を0日目から疾患のピークまで、又は5日目まで投与した。臨床スコア及び生存を測定した。
【0147】
EAEの誘導:マウスのC57BL/6J系統を使用してEAEを誘導した。実験動物に関する倫理的規則にしたがって実験を行った。10〜12週齢の雌性マウスを、無成育性の乾燥結核菌(Mycobacterium tuberculosis)H37RA 800μgを含有するCFA(1v/1v)中に乳化させたMOG35-55ペプチド(純度>95%)200μgで免疫した。最終体積200μlを側腹部上の4箇所に皮下(s.c.)注射した。さらに、百日咳毒素300ngを同じ日及び2日後に静脈内投与した。EAEの臨床徴候を毎日以下のスコア付けシステムを用いて評価した:0−無徴候;1−尾部麻痺;2−後肢脱力及び尾部麻痺;3−後肢及び尾部の麻痺;4−後肢及び尾部の麻痺並びに前肢脱力;5−病的状態(morbidum);6−死亡。EAEの症状は10日目以後から観察されて免疫21〜25日後あたりでピークとなり、平均臨床スコアは
3であった。
【0148】
臨床症状の、IVIGの+SAフラクションによる減少、及び+SAフラクションから製造された等モル量のF(ab’)2フラグメントによる減少が、未分画IVIG及び対応するF(ab’)2フラグメントと比較して観察され、これはFab領域における増加したシアル酸付加について濃縮された免疫グロブリンの抗炎症特性を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体調製物からの濃縮により得られ得る抗体集団であって、ここで濃縮された抗体集団は、濃縮前の抗体調製物と比較して、抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有し、そしてここでFab領域における変更されたシアル酸付加に基づく濃縮の結果、濃縮前の抗体調製物と比較した場合に、濃縮された集団の免疫調節特性が変更されている抗体の集団が生じている、上記抗体集団。
【請求項2】
集団が、抗体調製物をセイヨウニワトコ凝集素カラム又はその等価物上のアフィニティークロマトグラフィーにかけること、並びに(a)非結合集団(−SAフラクション)を集めること、及び/又は(b)結合集団を酸性ラクトースを用いて溶離すること(+SAフラクション)により生産され、それにより、−SAフラクションがFab領域において減少した量のシアル酸付加を有し、+SAフラクションがFab領域において増加した量のシアル酸付加を有し、そしてそれにより、Fab領域において変更された量のシアル酸付加を有するフラクションが、変更された免疫調節特性を有する、請求項1に記載の抗体集団。
【請求項3】
濃縮された抗体集団が、濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有し、ここでFc部分におけるシアル酸付加の量が、100%未満、好ましくは50%未満、より好ましくは30%未満、さらにより好ましくは20%未満だけ濃縮されている、請求項1又は請求項2に記載の抗体集団。
【請求項4】
濃縮された抗体集団が、濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有し、ここでFab部分におけるシアル酸付加の量は、濃縮前の抗体調製物中のFab領域におけるシアル酸付加の量と比較して、1.25倍より多く、好ましくは1.5倍より多く、より好ましくは2倍より多く、なおより好ましくは3倍より多く、最も好ましくは4倍より多く変更されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体集団。
【請求項5】
抗体調製物から抗体の集団を濃縮する方法であって、ここで濃縮された抗体集団は濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域において変更された量のシアル酸付加を有し、該方法は:
(a) 抗体調製物を、抗体のシアル酸付加したFab領域に対する親和性を備えたアフィニティークロマトグラフィーにかける工程;
(b−i) 工程(a)において結合していない抗体集団を収集する工程[ここで該抗体集団は、濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域においてより少ない量のシアル酸を有する(−SAフラクション)];及び/又は
(b−ii) 工程(a)において結合した抗体集団を溶離して収集する工程[ここで該抗体集団(+SAフラクション)は、濃縮前の抗体調製物と比較して抗体のFab領域においてより多い量のシアル酸を有する]、
を含み、
ここでFab領域におけるシアル酸付加の変更された量に基づく濃縮の結果、濃縮前の抗体調製物と比較した場合に、変更された免疫調節特性を有する抗体の集団が生じている、上記方法。
【請求項6】
工程(a)におけるアフィニティークロマトグラフィーが、セイヨウニワトコ凝集素を用いる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
−SAフラクション又は+SAフラクションのFc部分におけるシアル酸付加が、抗体調製物におけるFcシアル酸付加と100%未満だけ異なる、請求項5又は請求項6に記載の方法。
【請求項8】
抗体調製物が血漿免疫グロブリンG調製物であり、好ましくは血漿免疫グロブリン調製物は静注用免疫グロブリンG(IVIG)又は皮下注用免疫グロブリンG(SCIG)である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗体集団又は請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
抗体のFab領域のシアル酸付加の量がさらに変更される、請求項1〜4若しくは請求項8のいずれか1項に記載の抗体集団又は請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
シアル酸付加の量の変更が酵素的に達成される、請求項9に記載の抗体集団又は請求項9に記載の方法。
【請求項11】
シアル酸付加の変化した量が、Fab領域におけるシアル酸付加の量の減少である、請求項1〜4若しくは7〜10のいずれか1項に記載の抗体集団又は請求項5〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
シアル酸付加の変化した量が、Fab領域におけるシアル酸付加の量の増加である、請求項1〜4若しくは7〜10のいずれか1項に記載の抗体集団又は請求項5〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
薬剤における使用のための、請求項1〜4又は7〜12のいずれか1項に記載の抗体集団。
【請求項14】
請求項1〜4又は7〜12のいずれか1項に記載の抗体集団を含み、場合により薬学的に許容しうる担体、賦形剤及び/又は希釈剤をさらに含む、医薬組成物。
【請求項15】
アテローム性動脈硬化症、がん及び細菌感染症、ウイルス感染症又は真菌感染症のような感染症の予防及び/又は処置における使用のための、請求項1〜4又は7〜12のいずれか1項に記載の抗体集団。
【請求項16】
炎症状態の予防又は処置における使用のための、請求項12に記載の抗体集団。
【請求項17】
炎症状態が自己免疫疾患又は神経変性疾患である、請求項16に記載の抗体集団。
【請求項18】
自己免疫疾患又は神経変性疾患が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、抗リン脂質抗体症候群、免疫性血小板減少症(ITP)、川崎病、ギラン・バレー症候群(GBS)、多発性硬化症(MS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー(CIDP)、皮膚水疱疾患、皮膚筋炎、多発性筋炎、アルツハイマー病、パーキンソン病、ダウン症候群に関連するアルツハイマー病、脳アミロイド血管症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症及び血管性認知症から選択される、請求項17に記載の抗体集団。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−522008(P2012−522008A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502300(P2012−502300)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/028889
【国際公開番号】WO2010/111633
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(504440465)ユニバーシティー・オブ・ワシントン (2)
【出願人】(510282088)ツエー・エス・エル・ベーリング・アクチエンゲゼルシヤフト (3)
【Fターム(参考)】