説明

変異Δ5デサチュラーゼと、多価不飽和脂肪酸の製造におけるそれらの使用

本発明は、ジホモ−γ−リノレン酸[DGLA;20:3 ω−6]からアラキドン酸[ARA;20:4 ω−6]および/またはエイコサテトラエン酸[ETA;20:4 ω−3]からエイコサペンタエン酸[EPA;20:5 ω−3]に転換する能力を有して、チトクロームb5様ドメインのHPGGモチーフ内に少なくとも1つの変異を有する変異Δ5デサチュラーゼに関する。Δ5デサチュラーゼをコードする単離された核酸断片およびこのような断片を含んでなる組換え構築物が、油性酵母中でこれらの変異Δ5デサチュラーゼを使用して長鎖多価不飽和脂肪酸[「PUFA」]を作成する方法と共に開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その開示全体を参照によって本明細書に援用する、2008年9月19日に出願された米国仮特許出願第61/098333号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は生物工学の分野にある。より具体的には本発明は変異Δ5脂肪酸デサチュラーゼ酵素(チトクロームb5様ドメインのHPGGモチーフ内で少なくとも1つの変異が起きる)をコードする核酸断片の作成、および長鎖多価不飽和脂肪酸[「PUFA」]の作成におけるこれらのデサチュラーゼの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
多価不飽和脂肪酸[「PUFA」]の商業的な生産手段として、植物、藻類、真菌、ストラメノパイル、および酵母をはじめとする多様な異なる宿主が調査されている。遺伝子操作は、いくつかの宿主の自然の能力を実質的に改変して(天然ではリノール酸[LA;18:2 ω−6]およびα−リノレン酸[ALA;18:3 ω−3]脂肪酸産生に限定されるものでさえ)、様々な長鎖ω−3/ω−6PUFAの高レベル産生をもたらし得ることを実証している。これが自然の能力または組換え技術の結果であるのかどうかに関わらず、アラキドン酸[ARA;20:4 ω−6]、エイコサペンタエン酸[EPA;20:5 ω−3]、およびドコサヘキサエン酸[DHA;22:6 ω−3]の産生は、全てΔ5デサチュラーゼの発現を要するかもしれない。
【0004】
これまでに同定されたほとんどのΔ5デサチュラーゼ酵素は、ジホモ−γ−リノレン酸[DGLA;20:3 ω−6]をARAに転換する主要能力を有し、エイコサテトラエン酸[ETA;20:4 ω−3]をEPAに転換する二次的活性がある。公の文献および特許文献の双方で多数のΔ5デサチュラーゼが開示されている。デサチュラーゼ進化に基づくΔ5デサチュラーゼの一般的特徴は、P.Sperlingら(Prostaglandins Leukot.Essent.Fatty Acids,68:73〜95頁(2003年))で詳述される。Δ6、Δ8、およびΔ4デサチュラーゼと並んでΔ5デサチュラーゼは、長鎖PUFA「フロントエンド」デサチュラーゼとして知られている(メチル依存性不飽和化とは対照的に、既存の二重結合と脂肪酸のアシル基のカルボキシル末端との間で不飽和化が起きる)。これらのデサチュラーゼは、3個のヒスチジンボックス[H(X)3-4H(配列番号1および2)、H(X)2-3HH(配列番号3および4)、およびH/Q(X)2-3HH(配列番号5および6)]によって特徴付けられ、電子供与体として機能するそれらのN末端に融合チトクロームb5ドメインを有することから、チトクロームb5融合スーパーファミリーのメンバーである。残るチトクロームb5ドメイン配列の多様化にもかかわらず、チトクロームb5ドメインは、保存ヘム結合モチーフ(すなわちヒスチジン−プロリン−グリシン−グリシン配列または「HPGG」[配列番号180]配列)もまた含有する。これらのモチーフ配列は、米国特許第5,972,664号明細書の主題である。
【0005】
いくつかの研究は、HPGGモチーフが酵素活性に関係あることを示唆している。Sayanova,O.ら(Plant Physiol.,121:641頁(1999年))は、部位特異的変異導入を実施して、ルリヂサのΔ6デサチュラーゼ中でHPGGモチーフのヒスチジン残基をアラニン残基で置換した。変異酵素はアラビドプシス(Arabidopsis)中で発現されたが酵素活性は測定できず、デサチュラーゼのチトクロームb5ドメインが機能に重要であることが示唆された。同様の研究がラットΔ6デサチュラーゼで実施され、そこではHPGGモチーフ内でヒスチジンのアラニンによる置換が実施された。この変異タンパク質もまた活性を有さなかった(Guillou,H.ら,J.Lipid Res.,45:32〜40頁(2004年))。ごく最近では、Hongsthong,A.ら(Appl.Microbiol.Biotechnol.,72:1192〜1201頁(2006年))が、スピルリナ(Spirulina)Δ6デサチュラーゼ中で、HPGGモチーフのヒスチジン残基のアラニン残基による置換を報告した。以前の報告同様、変異によって変異酵素は大腸菌(E.coli)中でGLAを生成できなくなり、チトクロームb5ドメインが活性のために重要であり、このモチーフ内の変更が酵素活性低下をもたらすことが示唆された。Δ5デサチュラーゼ酵素は比較的一般的でよく特徴付けられているが、PUFAを産生できる生産宿主細胞中において、高レベルで効率的に発現される酵素に対する必要性が残されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって解決すべき問題は、商業的に有用な宿主細胞中のPUFA生合成経路に組み込むのに適した、高活性を有する新しいΔ5デサチュラーゼ酵素を発見することである。出願人らは、様々なΔ5デサチュラーゼのチトクロームb5ドメインのHPGGモチーフ内の変更が、DGLAからARAへの転換に基づいて酵素活性の最高38%の改善をもたらすという意外な発見を通じて、上記問題を解決した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、Δ5デサチュラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする新しい遺伝子構築物、およびPUFA生成のための細菌、酵母、藻類、ユーグレナ属、ストラメノパイル、卵菌綱、および真菌中におけるそれらの使用に関する。
【0008】
したがって本明細書で提供されるのは、配列番号183(His−Gly−Gly−GlyまたはHGGG)、配列番号184(His−His−Gly−GlyまたはHHGG)、配列番号186(His−Cys−Gly−GlyまたはHCGG)、配列番号187(His−Trp−Gly−GlyまたはHWGG)、および配列番号185(His−Pro−Gly−SerまたはHPGS)からなる群から選択されるアミノ酸モチーフを含んでなり、Δ5デサチュラーゼ活性を有する変異ポリペプチドである。好ましい変異Δ5デサチュラーゼポリペプチドは、変異体がそれに由来する親ポリペプチドのジホモ−γ−リノレン酸からアラキドン酸への転換効率を超える、ジホモ−γ−リノレン酸からアラキドン酸への転換効率を実証するものである。
【0009】
本明細書の第2の実施態様では、実質的に本発明のポリペプチドをコードする単離された核酸分子が提供される。
【0010】
本明細書の第3の実施態様では、本発明のポリペプチドを発現する微生物宿主細胞が提供される。
【0011】
本明細書の第4の実施態様では、ジホモ−γ−リノレン酸の存在下で、請求項1のポリペプチドを発現する微生物宿主細胞を増殖させるステップを含んでなり、ジホモ−γ−リノレン酸がアラキドン酸に変換される、アラキドン酸を生成する方法が提供される。
【0012】
本明細書の第5の実施態様では、エイコサテトラエン酸の存在下で、請求項1のポリペプチドを発現する微生物宿主細胞を増殖させるステップを含んでなり、エイコサテトラエン酸がエイコサペンタエン酸に変換される、エイコサペンタエン酸を生成する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路を示し、下記のこの経路の説明を検討する際に図1Bと合わせ見るべきである。
【図1B】ω−3/ω−6脂肪酸生合成経路を示し、下記のこの経路の説明を検討する際に図1Aと合わせ見るべきである。
【図2A】pDMW369のプラスミドマップである。
【図2B】pZUF17のプラスミドマップである。
【0014】
本発明は、本明細書の一部を形成する以下の詳細な説明および添付の配列説明からより完全に理解できる。
【0015】
次の配列は、37C.F.R.§1.821〜1.825(「ヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列開示を含む特許出願の要件−配列規則」)を満たし、世界知的所有権機関(WIPO)標準ST.25(1998年)、およびEPOおよびPCTの配列表要件(規則5.2および49.5(aの2)、および実施細則第208号および附属書C)に一致する。ヌクレオチドおよびアミノ酸配列データのために使用される記号および型式は、37C.F.R.§1.822で述べられる規則に従う。
【0016】
配列番号7〜19、58、97〜100、139、140、および179〜195は、表1で同定される遺伝子またはタンパク質(またはその一部)、またはプラスミドをコードするORFである。
【0017】
表1:核酸およびタンパク質配列番号の要約



【0018】
配列番号20〜57は、部位特異的変異導入によってEgD5SのHPGGモチーフのプロリン残基を個々に変異させるのに利用される、オリゴヌクレオチドプライマーに相当する。
【0019】
配列番号59〜96は、部位特異的変異導入によってEgD5SのHPGGモチーフの第2のグリシン残基を個々に変異させるのに利用される、オリゴヌクレオチドプライマーに相当する。
【0020】
配列番号101〜138は、部位特異的変異導入によってEaD5SのHPGGモチーフのプロリン残基を個々に変異させるのに利用される、オリゴヌクレオチドプライマーに相当する。
【0021】
配列番号141〜178は、部位特異的変異導入によってRD5SのHPGGモチーフのプロリン残基を個々に変異させるのに利用される、オリゴヌクレオチドプライマーに相当する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
健康に良いPUFA製造のため生化学的経路を操作するために使用してもよい、新しい変異Δ5デサチュラーゼ酵素および同酵素をコードする遺伝子が、本明細書で開示される。これらの変異Δ5デサチュラーゼは、チトクロームb5ドメインのHPGGモチーフ(配列番号180)内に少なくとも1つの変異を有する。
【0023】
PUFAまたはその誘導体は、食餌代用物または栄養補給剤として、特に乳児用調製粉乳中で、静脈内栄養補給される患者のために、または栄養失調を予防しまたは治療するために使用される。代案としては、通常の使用において受容者が所望量の食事補給を受け入れるように調合された、料理用油、脂肪またはマーガリン中に、純化されたPUFA(またはその誘導体)を組み込んでもよい。PUFAはまた、乳児用調製粉乳、栄養補給剤またはその他の食品に組み込まれてもよく、抗炎症薬またはコレステロール低下剤としても用途があるかもしれない。組成物はヒト用または獣医学用どちらかの医薬用途のために使用されていてもよい。
【0024】
本明細書で言及する全ての特許および非特許文献は、参照によって本明細書に援用する。
【0025】
本開示では、いくつかの用語および略語を使用する。以下の定義が提供される。
「読み取り枠(オープンリーディングフレーム)」はORFと略記される。
「ポリメラーゼ連鎖反応」はPCRと略記される。
「アメリカンタイプカルチャーコレクション」はATCCと略記される。
「多価不飽和脂肪酸」はPUFAと略記される。
「トリアシルグリセロール」はTAGと略記される。
「総脂肪酸」は「TFA」と略記される。
【0026】
「発明」または「本発明」という用語は、本明細書での用法では本発明の特定の一実施態様への限定は意図されず、一般に特許請求の範囲および明細書に記載されるあらゆる全ての本発明の実施態様に適用される。
【0027】
「脂肪酸」という用語は、より長い、およびより短い鎖長の酸の双方も知られているが、約C12〜C22の様々な鎖長の長鎖脂肪族酸(アルカン酸)を指す。優勢な鎖長はC16〜C22の間である。脂肪酸の構造は簡易表記体系「X:Y」によって表され、式中Xは特定の脂肪酸中の炭素[「C」]原子の総数であり、Yは二重結合の数である。「飽和脂肪酸」対「不飽和脂肪酸」、「一不飽和脂肪酸」対「多価不飽和脂肪酸」[「PUFA」]、および「ω6脂肪酸」[「ω−6」または「n−6」]対ω3脂肪酸[「ω−3」または「n−3」]の間の区別に関する追加的詳細は、参照によって本明細書に援用する米国特許第7,238,482号明細書中に提供される。
【0028】
本明細書においてPUFAを既述するのに使用される命名法を下の表2に示す。「略記法」と題された欄では、オメガ−参照システムが使用されて炭素数、二重結合数、およびオメガ炭素(この目的では番号1)から数えて、オメガ炭素に最も近い二重結合の位置を示唆する。表の残りの部分は、ω−3およびω−6脂肪酸およびそれらの前駆物質の一般名、明細書の全体を通じて使用される略語、および各化合物の化学名を要約する。
【0029】
表2:多価不飽和脂肪酸および前駆物質の命名法

【0030】
表2に列挙するω−3/ω−6PUFAは、本明細書に記載される方法を使用して微生物宿主の油画分中に蓄積する可能性が最も高いが、この一覧は限定的または完全なものとみなすべきではない。
【0031】
「油」という用語は、25℃で液体であり、通常は多価不飽和である脂質物質を指す。油性の生物中では、油が総脂質の大部分を構成する。「油」は主にトリアシルグリセロール[「TAG」]からなるが、その他の中性脂質、リン脂質、および遊離脂肪酸もまた含有してよい。油中の脂肪酸組成と総脂質の脂肪酸組成は、一般に類似している。したがって総脂質中のPUFA濃度の増大または減少は、油中のPUFA濃度の増大または減少に対応し、逆もまた然りである。
【0032】
「中性脂質」とは貯蔵脂肪としての脂肪体の細胞中に一般に見られる脂質を指し、細胞のpHにおいて、脂質が荷電基を有さないことからこのように称される。一般にそれらは完全に非極性で、水に対する親和性がない。中性脂質とは、一般に脂肪酸によるグリセロールのモノ−、ジ−、および/またはトリエステルを指し、それぞれモノアシルグリセロール、ジアシルグリセロールまたはトリアシルグリセロールとも称され、または集合的にアシルグリセロールと称される。アシルグリセロールから遊離脂肪酸を放出する為には、加水分解反応が起きなくてはならない。
【0033】
「トリアシルグリセロール」[「TAG」]という用語は、グリセロール分子にエステル化された3つの脂肪酸アシル残基から構成される中性脂質を指す。TAGは、長鎖PUFAおよび飽和脂肪酸、ならびにより短鎖の飽和および不飽和脂肪酸を含有し得る。
【0034】
「総脂肪酸」[「TFA」]という用語は、本明細書では、例えば生物由来資源または油であってもよい特定サンプル中で、(当該技術分野で知られているような)塩基エステル交換法によって脂肪酸メチルエステル[「FAME」]に誘導体化し得る細胞性脂肪酸の総和を指す。したがって総脂肪酸は、中性脂質画分(ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、およびTAGをはじめとする)からの脂肪酸、および極性脂質画分(ホスファチジルコリンおよびホスファチジルエタノールアミン画分をはじめとする)からの脂肪酸を含むが、遊離脂肪酸は含まない。
【0035】
細胞の「総脂質含量」という用語は、乾燥細胞質量[「DCW」]の%としてのTFA測定値であるが、総脂質含量は、DCWの%としてのFAME測定値[「FAME%DCW」]として近似し得る。したがって総脂質含量[「TFA%DCW」]は、例えば100ミリグラムのDCWあたりの総脂肪酸のミリグラムに相当する。
【0036】
総脂質中の脂肪酸濃度は、本明細書では、例えば100ミリグラムのTFAあたりの特定の脂肪酸のミリグラムのように、TFAの質量%[「%TFA」]として表される。特に断りのない限り本開示では、総脂質を基準とする特定の脂肪酸の%への言及は、%TFAとしての脂肪酸濃度に相当する(例えば総脂質の%EPAはEPA%TFAに相当する)。
【0037】
「脂質プロファイル」および「脂質組成物」と言う用語は置き替え可能であり、総脂質または油などの特定の脂質画分中に含有される個々の脂肪酸量を指し、量はTFAの質量%として表される。混合物中に存在する個々の各脂肪酸の和は、100になるべきである。
【0038】
「PUFA生合成経路」という用語は、オレイン酸をLA、EDA、GLA、DGLA、ARA、DTA、およびDPAn−6などのω−6脂肪酸に;およびALA、STA、ETrA、ETA、EPA、DPA、およびDHAなどのω−3脂肪酸に転換する代謝過程を指す。この過程については文献で十分に記載されている(例えば米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書を参照されたい)。簡単に述べるとこの過程は、小胞体膜内に存在する「PUFA生合成経路酵素」と称される一連の特有な延長酵素および不飽和化酵素による、炭素原子の付加を通じた炭素鎖の延長、および二重結合の付加を通じた分子の不飽和化を伴う。より具体的には「PUFA生合成経路酵素」とは、PUFAの生合成と関連付けられている以下の酵素のいずれか(および上記酵素をコードする遺伝子)を指す。Δ4デサチュラーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ9エロンガーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、C18/20エロンガーゼおよび/またはC20/22エロンガーゼ。
【0039】
「デサチュラーゼ」と言う用語は、不飽和化できる、すなわち1個もしくはそれ以上の脂肪酸に二重結合を導入して、対象とする脂肪酸または前駆物質を生じさせるポリペプチドを指す。特定の脂肪酸を指すために、本明細書全体を通じたω参照システムの使用にもかかわらず、デルタシステムを使用して基質のカルボキシル末端から数えることで、デサチュラーゼの活性を示す方が都合よい。本明細書で特に興味深いのは、分子のカルボキシル末端から数えて5番目と6番目の炭素原子間で脂肪酸を不飽和化するΔ5デサチュラーゼであり、それは例えばDGLAからALAへおよび/またはETAからEPAへの転換を触媒し得る。その他の脂肪酸デサチュラーゼとしては、例えばΔ8デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ4デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、およびΔ9デサチュラーゼが挙げられる。当該技術分野では、Δ15およびΔ17デサチュラーゼはまた、時としてω−6脂肪酸をそれらのω−3対応物に転換する能力に基づいて、「オメガ−3デサチュラーゼ」、「w−3デサチュラーゼ」、および/または「ω−3デサチュラーゼ」と称される(例えばそれぞれLAからALA、およびARAからEPAへの変換)。脂肪酸デサチュラーゼのための遺伝子によって適切な宿主を形質転換し、宿主の脂肪酸プロファイルに対するその影響を判定することで、特定の脂肪酸デサチュラーゼの特異性を経験的に判定することが望ましいであろう。
【0040】
「EgD5」という用語は、本明細書で配列番号7によってコードされる、ミドリムシ(Euglena gracilis)から単離されたΔ5デサチュラーゼ酵素(配列番号8)を指す。同様に「EgD5S」という用語は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された、ミドリムシ(E.gracilis)に由来する合成Δ5デサチュラーゼを指す(すなわち配列番号9および10)。EgD5およびEgD5Sに関するさらなる詳細は、国際公開第2007/136671号パンフレットに記載される。
【0041】
「EaD5」という用語は、本明細書の配列番号11によってコードされる、ユーグレナ・アナベナ(Euglena anabaena)から単離されたΔ5デサチュラーゼ酵素(配列番号12)を指す。同様に「EaD5S」という用語は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された、E.アナベナ(anabaena)に由来する合成Δ5デサチュラーゼを指す(すなわち配列番号13および14)。EaD5およびEaD5Sに関するさらなる詳細は、米国特許出願公開第2008−0274521−A1号明細書に記載される。
【0042】
「RD5」という用語は、本明細書の配列番号15によってコードされる、ペリディニウム(Peridinium)種CCMP626から単離されたΔ5デサチュラーゼ酵素(配列番号16)を指す。同様に「RD5S」という用語は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された、ペリディニウム(Peridinium)種CCMP626に由来する合成Δ5デサチュラーゼを指す(すなわち配列番号17および18)。RD5およびRD5Sに関するさらなる詳細は、国際公開第2007/136646号パンフレットに記載される。
【0043】
「保存ドメイン」または「モチーフ」という用語は、進化的に関連したタンパク質の整合配列に沿った特定位置で保存される一組のアミノ酸を意味する。その他の位置のアミノ酸は相同タンパク質の間で変化し得るのに対し、特定位置の高度に保存されたアミノ酸は、タンパク質の構造、安定性、または活性において必須のアミノ酸を示す。それらはタンパク質相同体ファミリーの整合配列中のそれらの高度な保存によって同定されるので、それらは新しく判定された配列があるタンパク質が、以前同定されたタンパク質ファミリーに属するかどうかを判定する識別子または「シグネチャー」として使用し得る。動物、植物、および真菌のΔ5デサチュラーゼ酵素中に普遍的に見られるモチーフとしては、3つのヒスチジンボックス(すなわちH(X)3-4H[配列番号1および2]、H(X)2-3HH[配列番号3および4]およびH/Q(X)2-3HH[配列番号5および6])、およびN−末端の融合チトクロームb5ドメイン内のヘム結合モチーフ(すなわちHis−Pro−Gly−GlyまたはHPGG[配列番号180])が挙げられる。
【0044】
「変異Δ5デサチュラーゼ」という用語は、チトクロームb5ドメインのHPGGモチーフ(配列番号180)内に少なくとも1つの変異を有する、本明細書に記載されるようなΔ5デサチュラーゼを指し、前記変異は保存的または非保存的どちらかのアミノ酸置換をもたらす。変異はあらゆるアミノ酸置換を含んでもよいが、変異Δ5デサチュラーゼは好ましくは、His−Xaa−Gly−Glyまたは「HXGG」(配列番号181)およびHis−Pro−Gly−Xaaまたは「HPGX」(配列番号182)からなる群から選択される変異モチーフを含んでなり、変異Δ5デサチュラーゼのΔ5デサチュラーゼ活性は、少なくとも野生型Δ5デサチュラーゼのΔ5デサチュラーゼ活性と機能的にほぼ同等である。より好ましくは変異モチーフは、配列番号183(His−Gly−Gly−Glyまたは「HGGG」)、配列番号184(His−His−Gly−Glyまたは「HHGG」)、配列番号186(His−Cys−Gly−Glyまたは「HCGG」)、配列番号187(His−Trp−Gly−Glyまたは「HWGG」)、および配列番号185(His−Pro−Gly−Serまたは「HPGS」)からなる群から選択される。例えば配列番号58、配列番号97、配列番号139、および配列番号179に記載されるΔ5デサチュラーゼを参照されたい。
【0045】
各「変異Δ5デサチュラーゼ」は、「対応する野生型Δ5デサチュラーゼ」を有する。具体的には、(上述のように)野生型がチトクロームb5ドメイン内にHPGGモチーフ(配列番号180)を含んでなり、変異体がこのモチーフ内に少なくとも1つの変異を含んでなることを除いて、変異Δ5デサチュラーゼおよび対応する野生型Δ5デサチュラーゼは、同一のアミノ酸配列を共有する。
【0046】
変異Δ5配列の酵素活性および特異的選択性が、対応する野生型Δ5デサチュラーゼに匹敵する場合、変異Δ5デサチュラーゼは、対応する野生型Δ5デサチュラーゼと「少なくとも機能的にほぼ同等」である。したがって各酵素の「転換効率」を比較した場合、機能的に同等の変異Δ5デサチュラーゼは、対応する野生型Δ5デサチュラーゼと比較してΔ5デサチュラーゼ活性が実質的に低下していない(すなわち変異Δ5デサチュラーゼは、野生型Δ5デサチュラーゼの少なくとも約50〜75%、好ましくは少なくとも約75〜85%、より好ましくは少なくとも約85〜95%、最も好ましくは少なくとも約95%の酵素活性を有する)。2つのポリペプチドのΔ5デサチュラーゼ活性は、実質的に同一であってもよい。好ましくは変異Δ5デサチュラーゼの酵素活性および特異的選択性は、対応する野生型Δ5デサチュラーゼとの比較で増大しており、すなわち野生型Δ5デサチュラーゼの少なくとも約101〜105%、より好ましくは少なくとも約106〜115%、最も好ましくは少なくとも約116〜125%の酵素活性を有する。
【0047】
「変換効率」および「%基質変換」と言う用語は、それによって特定の酵素(例えばデサチュラーゼ)が基質から生成物に変換し得る効率を指す。変換効率は以下の式に従って測定される([生成物]/[基質+生成物])*100。したがって「DGLAからARAへの転換効率」とは、それによって基質DGLAが生成物ARAに変換される転換効率を指す。
【0048】
「エロンガーゼ」という用語は、脂肪酸炭素鎖を延長して、エロンガーゼが作用する脂肪酸基質よりも炭素2個分だけ長い酸を生成し得るポリペプチドを指す。この延長過程は、米国特許出願公開第2005/0132442号明細書に記載されるように、脂肪酸シンターゼと結びついた多段階機序で起きる。エロンガーゼ系によって触媒される反応の例は、GLAからDGLAへ、STAからETAへ、およびEPAからDPAへの変換である。
【0049】
一般にエロンガーゼの基質選択性はいくぶん広いが、鎖長および不飽和度とタイプの双方によって差別される。例えばC14/16エロンガーゼはC14基質(例えばミリスチン酸)を利用し、C16/18エロンガーゼはC16基質(例えばパルミチン酸)を利用し、C18/20エロンガーゼはC18基質(例えばGLA、STA、LA、ALA)を利用し、C20/22エロンガーゼ[Δ5エロンガーゼとも称される]はC20基質(例えばALA、EPA)を利用する。本明細書の目的では、2つの異なるタイプのC18/20エロンガーゼを定義し得る。Δ6エロンガーゼはそれぞれGLAおよびSTAからDGLAおよびETAへの転換を触媒する一方、Δ9エロンガーゼはそれぞれLAおよびALAからEDAおよびETrAへの転換を触媒し得る。
【0050】
いくつかのエロンガーゼは広い特異性を有し、したがって単一酵素がいくつかのエロンガーゼ反応を触媒できてもよいことに留意することが重要である(例えばそれによってC16/18エロンガーゼおよびC18/20エロンガーゼの双方として機能する)。適切な宿主を脂肪酸エロンガーゼ遺伝子で形質転換して、宿主の脂肪酸プロファイルに対するその効果を判定することにより、脂肪酸エロンガーゼの特異性を経験的に判断することが望ましいかもしれない。
【0051】
「油性」という用語は、それらのエネルギー源を油の形態で貯蔵する傾向がある生物を指す(Weete,Fungal Lipid Biochemistry,第2版,Plenum,1980年)。一般に油性微生物の細胞油分はS字形曲線に従い、脂質濃度は対数後期または定常期初期で最大に達するまで増大し、次に定常期後期および死滅期において徐々に減少する(YongmanitchaiおよびWard,Appl.Environ.Microbiol.,57:419〜25(1991年))。油性微生物がそれらの乾燥細胞質量の約25%以上を油として蓄積することは珍しくない。
【0052】
「油性酵母」という用語は、油を生成し得る酵母に分類される微生物を指す。油性酵母の例としては、ヤロウイア(Yarrowia)、カンジダ(Candida)、ロドトルラ(Rhodotorula)、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、トリコスポロン(Trichosporon)、およびリポマイセス(Lipomyces)属が挙げられるが、これに限定されるものではない。代案としては、乾燥細胞質量の25%を超える油を作るように改変された、酵母に分類される生物もまた「油性」である。
【0053】
「アミノ酸」という用語は、タンパク質またはポリペプチドの基本的化学構造単位を指す。アミノ酸は、Nucleic Acids Research,13:3021〜3030頁(1985年)およびBiochemical Journal,219(2):345〜373頁(1984年)に記載される、IUPAC−IYUB基準に準拠したアミノ酸のための一文字コードまたは三文字コードによって同定される。
【0054】
「保存的アミノ酸置換」という用語は、タンパク質の化学的または機能的性質を変化させることなしに、特定のタンパク質中のアミノ酸残基を別のアミノ酸で置換することを指す。例えば特定の部位において化学的に等価なアミノ酸の生成をもたらす(しかしコードされた折り畳みタンパク質の構造および機能特性に影響しない)遺伝子中の変更が一般的であることは、当該技術分野でよく知られている。本明細書の目的で、「保存的アミノ酸置換」は次の5群の1つ内の交換と定義される。
1.小型脂肪族の非極性またはわずかに極性の残基:Ala[A]、Ser[S]、Thr[T](Pro[P]、Gly[G])
2.負に帯電した極性残基およびそれらのアミド:Asp[D]、Asn[N]、Glu[E]、Gln[Q]
3.正に帯電した極性残基:His[H]、Arg[R]、Lys[K]
4.大型脂肪族非極性残基:Met[M]、Leu[L]、Ile[I]、Val[V](Cys[C])および
5.大型芳香族残基:Phe[F]、Tyr[Y]、Trp[W]
【0055】
したがってわずかに疎水性のアミノ酸であるAlaは、別のより疎水性の低い残基(例えばGly)によって置換されてもよい。同様に1個の負に帯電した残基による別の残基(例えばAspによるGlu)の置換または1個の正に帯電した残基による別の残基(例えばLysによるArg)の置換をもたらす変化は、機能的に同等の生成物を生じることが予期し得る。したがって保存的アミノ酸置換は、置換領域内のポリペプチド主鎖構造;標的部位の分子の電荷または疎水性;または側鎖の大半を一般に保持する。さらに多くの場合、タンパク質分子のN末端とC末端部分の改変は、タンパク質活性を変更することが予期されない。
【0056】
「非保存的アミノ酸置換」という用語は、タンパク質特性に最大変化を生じることが一般に予期されるアミノ酸置換を指す。したがって例えば非保存的アミノ酸置換は、次の1つである。1)親水性残基が疎水性残基を置換し、またはそれによって置換される(例えばSerまたはThrがLeu、Ile、Valを置換し、またはそれによって置換される)、2)CysまたはProがあらゆるその他の残基を置換し、またはそれによって置換される、3)電気陽性側鎖を有する残基が電気陰性残基を置換し、またはそれによって置換される(例えばLys、ArgまたはHisがAspまたはGluを置換し、またはそれによって置換される)、または4)かさ高い側鎖を有する残基が側鎖を有さないものを置換し、またはそれによって置換される(例えばPheがGlyを置換し、またはそれによって置換される)。時として5群中の2群間の非保存的アミノ酸置換は、コードされるタンパク質の活性に影響しない。
【0057】
「ポリヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド配列」、「核酸配列」、「核酸断片」、および「単離された核酸断片」という用語は、本明細書で同義的に使用される。これらの用語は、ヌクレオチド配列などを包含する。ポリヌクレオチドは、合成、非天然または改変ヌクレオチド塩基が含有されていてもよい、一本鎖または二本鎖のRNAまたはDNAのポリマーであってもよい。DNAポリマーの形態のポリヌクレオチドは、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、またはそれらの混合物の1つ以上のセグメントを含んでなってもよい。ヌクレオチド(通常それらの5’一リン酸の形態で見られる)は、次のような一文字名によって言及される。「A」はアデニル酸またはデオキシアデニル酸(それぞれRNAまたはDNA)、「C」はシチジル酸またはデオキシシチジル酸、「G」はグアニル酸またはデオキシグアニル酸、「U」はウリジル酸、「T」はデオキシチミジル酸、「R」はプリン(AまたはG)、「Y」はピリミジン(CまたはT)、「K」はGまたはT、「H」はAまたはCまたはT、「I」はイノシン、および「N」はあらゆるヌクレオチドである。
【0058】
核酸断片は、適切な温度および溶液イオン強度条件下で、核酸断片の一本鎖形態がその他の核酸断片とアニールできる場合、cDNA、ゲノムDNA、またはRNAなどの別の核酸断片と「ハイブリダイズ可能」である。ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は良く知られており、参照によって本明細書に援用するSambrook,J.,Fritsch,E.F.およびManiatis,T.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1989年)の特に第11章および表11.1で例示される。温度およびイオン強度条件が、ハイブリダイゼーションの「ストリンジェンシー」を定める。ストリンジェントな条件は、(遠縁の生物からの相同的配列などの)中程度に類似の断片をスクリーニングするため、そして(近縁の生物からの機能性酵素を複製する遺伝子などの)高度に類似した断片をスクリーニングするために調節できる。ハイブリダイゼーション後の洗浄が、ストリンジェンシー条件を決定する。1つの好ましい条件のセットは、室温において6×SSC、0.5%SDSで15分間に始まり、次に45℃において2×SSC、0.5%SDSで30分間を反復し、次に50℃において0.2×SSC、0.5%SDSを30分間を2回反復する、一連の洗浄を使用する。より好ましいストリンジェントな条件のセットはより高い温度を使用し、そこでは洗浄は、最後の0.2×SSC、0.5%SDS中での2回の30分間の洗浄の温度を60℃に増大させること以外は上述したのと同一である。別の好ましい高度にストリンジェントな条件のセットは、65℃において0.1×SSC、0.1%SDS中での2回の最終洗浄を使用する。さらに別のストリンジェントな条件のセットは、例えば0.1×SSC、0.1%SDSで65℃、そして2×SSC、0.1%SDSで洗浄後、0.1×SSC、0.1%SDSでのハイブリダイゼーションを含む。
【0059】
ハイブリダイゼーションのストリンジェンシー次第で塩基間のミスマッチは可能であるが、ハイブリダイゼーションは、2つの核酸が相補的配列を含有することを必要とする。核酸がハイブリダイゼーションする適切なストリンジェンシーは、当該技術分野で良く知られた変数である核酸の長さおよび相補性の程度に左右される。2つのヌクレオチド配列間の類似性または相同性の程度が高い程、これらの配列を有する核酸ハイブリッドの熱融点[「Tm」]値は大きくなる。より高いTmに対応する、核酸ハイブリダイゼーションの相対安定性は次の順で低下する。RNA:RNA、DNA:RNA、DNA:DNA。長さがヌクレオチド100個を超えるハイブリッドでは、Tmを計算する式が導かれている(Sambrookら、前出9.50〜9.51参照)。より短い核酸、すなわちオリゴヌクレオチドによるハイブリダイゼーションのためにはミスマッチの配置がより重要になり、オリゴヌクレオチドの長さがその特異性を決定する(Sambrookら、前出11.7〜11.8参照)。一実施態様では、ハイブリダイズ可能な核酸の長さは少なくともヌクレオチド約10個である。ハイブリダイズ可能な核酸の好ましい最小の長さは少なくともヌクレオチド約15個、より好ましくは少なくともヌクレオチド約20個、そして最も好ましくは長さが少なくともヌクレオチド約30個である。さらに当業者は、プローブの長さなどの要因次第で、温度および洗浄液の塩濃度を必要に応じて調節してもよいことを認識する。
【0060】
アミノ酸またはヌクレオチド配列の「実質的部分」とは、当業者による配列の手動評価によって、あるいは基礎的局在性配列検索ツール(Basic Local Alignment Search Tool)[「BLAST」](Altschul,S.F.ら、J.Mol.Biol.215:403〜410(1993年))などのアルゴリズムを使用したコンピュータ自動化アラインメントおよび同定によって、遺伝子またはポリペプチドの推定上の同定を得るのに十分なポリペプチドまたは遺伝子のヌクレオチド配列のアミノ酸配列を含んでなる部分である。一般に推定的にポリペプチドまたは核酸配列が既知のタンパク質または遺伝子に相同的であると同定するためには、10個以上の隣接するアミノ酸または30個以上のヌクレオチド配列が必要である。さらにヌクレオチド配列に関して、配列依存遺伝子同定法(例えばサザンハイブリダイゼーション)および単離(例えば細菌コロニーまたはバクテリオファージプラークの原位置ハイブリダイゼーション)において、20〜30個の隣接するヌクレオチドを含んでなる遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブを使用しても良い。さらにプライマーを含んでなる特定の核酸断片を得るために、塩基12〜15個の短いオリゴヌクレオチドを増幅プライマーとしてPCRで使用しても良い。したがってヌクレオチド配列の「実質的部分」は、配列を含んでなる核酸断片を特異的に同定、および/または単離できるようにする十分な配列を含んでなる。本明細書の開示は、特定の微生物タンパク質をコードする完全なアミノ酸およびヌクレオチド配列を教示する。本明細書で報告される配列の便益を有する当業者は、当業者に知られている目的のために、今や開示される配列の全てまたは実質的部分を使用できる。したがって添付の配列一覧に報告される完全な配列、ならびに上で定義される配列の実質的部分は本開示に包含される。
【0061】
「相補的」という用語は、互いにハイブリダイズできるヌクレオチド塩基間の関係について述べるために使用される。例えばDNAに関して、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。したがって添付の配列一覧に報告される完全な配列に相補的な単離された核酸断片、ならびに実質的に同様の核酸配列は本開示に包含される。
【0062】
「相同性」および「相同的な」という用語は、同義的に使用される。それらは1つ以上のヌクレオチド塩基の変化が、核酸断片が遺伝子発現を仲介する能力、または特定のフェノタイプを生じる能力に影響しない核酸断片を指す。これらの用語はまた、最初の無修飾断片と比較して得られる核酸断片の機能特性を実質的に改変しない、1つ以上のヌクレオチドの欠失または挿入などの核酸断片の修飾も指す。したがって当業者は、本発明が特定の例示的な配列以上のものを包含することを理解するであろう。
【0063】
さらに当業者は、相同的な核酸配列がまた、例えば0.5×SSC、0.1%SDS、60℃の中程度にストリンジェントな条件下で、本明細書に例証される配列と、または本明細書で開示されるヌクレオチド配列と機能的に同等のそのあらゆる部分とハイブリダイズする、それらの能力によって定義されることも認識する。ストリンジェンシー条件は、遠縁の生物からの相同的な配列などの中程度に類似した断片、および近縁関係にある生物からの機能性酵素を複製する遺伝子などの類似性の高い断片をスクリーニングするために調節し得る。
【0064】
「選択的にハイブリダイズする」という用語は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下における、非標的核酸配列へのそのハイブリダイゼーションよりも検出可能な程度により高い程度の(例えばバックグラウンドの少なくとも2倍)核酸配列の特定の核酸標的配列へのハイブリダイゼーションへの、および非標的核酸の実質的排除への言及を含む。選択的にハイブリダイズする配列は、典型的に互いに約少なくとも80%の配列同一性、または90%の配列同一性、100%以下の配列同一性(すなわち完全に相補的)を有する。
【0065】
「ストリンジェントな条件」または「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という用語は、その下でプローブがその標的配列と選択的にハイブリダイズする条件への言及を含む。ストリンジェントな条件は配列依存性であり、異なる状況において異なる。ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄条件のストリンジェンシーを調節することで、プローブと100%相補的な標的配列を同定し得る(相同プロービング)。代案としては、より低い程度の類似性が検出されるようにストリンジェンシー条件を調節して、配列中のいくらかのミスマッチを許容し得る(非相同プロービング)。一般にプローブは長さが約1000未満のヌクレオチドであり、長さが500未満のヌクレオチドとされていてもよい。
【0066】
典型的にストリンジェントな条件は、塩濃度がpH7.0〜8.3において約1.5MのNaイオン未満、典型的に約0.01〜1.0MのNaイオン(またはその他の塩)濃度であり、短いプローブ(例えば10〜50個のヌクレオチド)では温度が少なくとも約30℃、長いプローブ(例えば50個のヌクレオチドを超える)では少なくとも約60℃であるような条件である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドなどの不安定化剤の添加によって達成できる。低ストリンジェンシー条件の具体例としては、37℃で30〜35%ホルムアミド、1MのNaCl、1%ドデシル硫酸ナトリウム[「SDS」]の緩衝溶液を用いたハイブリダイゼーション、および50〜55℃で1×〜2×SSC(20×SSC=3.0MNaCl/0.3Mクエン酸三ナトリウム)中での洗浄が挙げられる。中程度のストリンジェンシー条件の具体例としては、37℃で40〜45%ホルムアミド、1MのNaCl、1%SDS中でのハイブリダイゼーション、および55〜60℃で0.5×〜1×SSC中での洗浄が挙げられる。高ストリンジェンシー条件の具体例としては、37℃で50%ホルムアミド、1MのNaCl、1%SDS中でのハイブリダイゼーション、および60〜65℃で0.1×SSC中での洗浄が挙げられる。追加的なストリンジェントな条件の組としては、例えば0.1×SSC、0.1%SDSで65℃、および2×SSC、0.1%SDSで洗浄後、0.1×SSC、0.1%SDSというハイブリダイゼーションが挙げられる。
【0067】
特異性は典型的にハイブリダイゼーション後洗浄の関数であり、重要な要因は最終洗浄溶液のイオン強度および温度である。DNA−DNAハイブリッドでは、Tmは、Meinkothら,Anal.Biochem.,138:267〜284頁(1984年)の式、Tm=81.5℃+16.6(log M)+0.41(%GC)−0.61(%form)−500/Lから近似でき、式中、Mは一価のカチオンのモル濃度であり、%GCはDNA中のグアノシンおよびトシシンヌクレオチドの百分率であり、%formはハイブリダイゼーション溶液中のホルムアミドの百分率であり、Lは塩基対中のハイブリッドの長さである。Tmは相補的標的配列の50%が、完全にマッチするプローブにハイブリダイズする(規定のイオン強度およびpH下における)温度である。Tmは1%のミスマッチあたり約1℃低下するので、Tm、ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄条件を調節して、所望の同一性がある配列にハイブリダイズさせることができる。例えば≧90%同一の配列を求める場合、Tmを10℃低下できる。一般にストリンジェントな条件は、規定のイオン強度およびpHにおいて、特定の配列およびその相補体のTmよりも約5℃低いように選択される。しかし厳しいストリンジェントな条件は、Tmよりも1、2、3または4℃低い温度でのハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を利用でき、中程度にストリンジェントな条件は、Tmよりも6、7、8、9または10℃低い温度でのハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を利用でき、低ストリンジェンシー条件は、Tmよりも11、12、13、14、15または20℃低い温度でのハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を利用できる。数式、ハイブリダイゼーションおよび洗浄組成物、および所望のTmを使用して、当業者は、ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄溶液のストリンジェンシーのバリエーションが、固有に述べられることを理解するであろう。所望のミスマッチ程度が、45℃(水溶液)または32℃(ホルムアミド溶液)未満のTmをもたらす場合、より高い温度を使用できるようにSSC濃度を増大させることが好ましい。核酸ハイブリダイゼーションに関する広範な指針は、Tijssen,Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology−Hybridization with Nucleic Acid Probes,第1部,第2章,「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probe assays」,Elsevier,New York(1993年);およびCurrent Protocols in Molecular Biology,第2章,Ausubelら,Eds.,Greene Publishing and Wiley−Interscience,New York(1995年)にある。ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄条件は、少なくとも10、30、60、90、120または240分間適用できる。
【0068】
核酸またはポリペプチド配列の文脈において「配列同一性」または「同一性」は、特定の比較ウィンドウ間で最大一致のために整列させると同じになる、2つの配列中の核酸塩基またはアミノ酸残基を指す。
【0069】
したがって「配列同一性百分率」または「%同一性」は、比較ウィンドウ間で最適に整列させた2つの配列を比較して判定される値を指し、比較ウィンドウ内のポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の部分は、2配列の最適配列比較のために、(付加または欠失を含まない)基準配列との比較で付加または欠失(すなわちギャップ)を含んでなってもよい。百分率は、双方の配列内で同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が存在する位置数を判定して計算し、一致位置数を得て、一致する位置数を比較ウィンドウ内の総位置数で除して、結果に100を乗じて同一性百分率を得る。
【0070】
「%同一性」および「%類似性」を判定する方法は、公的に入手可能なコンピュータプログラムで体系化されている。%同一性および%類似性は、1)Computational Molecular Biology(Lesk,A.M.編)Oxford University:NY(1988年);2)Biocomputing:Informatics and Genome Projects(Smith,D.W.編)Academic:NY(1993年);3)Computer Analysis of Sequence Data,第1部(Griffin,A.M.,およびGriffin,H.G.編)Humania:NJ(1994年);4)Sequence Analysis in Molecular Biology(von Heinje,G.編)Academic(1987年);および5)Sequence Analysis Primer(Gribskov,M.およびDevereux,J.編)Stockton:NY(1991年)に記載されるものをはじめとするが、これに限定されるものではない、既知の方法で容易に計算し得る。
【0071】
配列アラインメントおよび%同一性または類似性の計算は、LASERGENEバイオインフォマティクス演算スイートのMegAlign(商標)プログラム(DNASTAR Inc.,Madison,WI)をはじめとするが、これに限定されるものではない、相同的な配列を検出するようにデザインされた多様な比較法を使用して判定されてもよい。配列の多重アラインメントは、「アラインメントのClustal V法」および「アラインメントのClustal W法」をはじめとするアルゴリズムのいくつかの変種を包含する「アラインメントのClustal法」を使用して実施される(HigginsおよびSharp,CABIOS,5:151〜153頁(1989年);Higgins,D.G.ら,Comput.Appl.Biosci.,8:189〜191頁(1992年)により記載され、MegAlign(商標)(バージョン8.0.2)プログラム(前出)にある)。どちらかのClustalプログラムを使用した配列のアラインメント後、プログラムの「配列距離」表を見ることで「%同一性」を得ることが可能である。
【0072】
アラインメントのClustal V法を使用した多重アラインメントでは、デフォルト値はGAP PENALTY=10、GAP LENGTH PENALTY=10に相当する。Clustal V法を使用したタンパク質配列のペアワイズ配列比較および%同一性計算のデフォルトパラメーターは、KTUPLE=1、GAP PENALTY=3、WINDOW=5、およびDIAGONALS SAVED=5である。核酸ではこれらのパラメーターは、KTUPLE=2、GAP PENALTY=5、WINDOW=4、およびDIAGONALS SAVED=4である。
【0073】
アラインメントのClustal W法を使用した多重アラインメントのデフォルトパラメーターは、GAP PENALTY=10、GAP LENGTH PENALTY=0.2、Delay Divergent Seqs(%)=30、DNA Transition Weight=0.5、Protein Weight Matrix=Gonnet Series、DNA Weight Matrix=IUBに相当する。
【0074】
「配列比較のBLASTN法」が、デフォルトパラメーターを使用してヌクレオチド配列を比較する、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)が提供するアルゴリズムであるのに対し、「BLASTPアラインメント法」は、デフォルトパラメーターを使用してタンパク質配列を比較する、NCBIによって提供されるアルゴリズムである。
【0075】
その他の種から同一または同様の機能または活性を有するポリペプチドを同定する上で、多くのレベルの配列同一性が有用であることを当業者はよく理解している。適切な核酸断片、すなわち本明細書の開示に従った単離されたポリヌクレオチドは、本明細書で報告されるアミノ酸配列と少なくとも約70〜85%同一のポリペプチドをコードする一方、より好ましい核酸断片は少なくとも約85〜95%同一のアミノ酸配列をコードする。好ましい範囲は上述のようであるが、%同一性の有用な例としては、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%などの50%〜100%のあらゆる整数百分率が挙げられる。またこの単離されたヌクレオチド断片のあらゆる全長または部分的補体も興味深い。
【0076】
適切な核酸断片は上述の相同性を有するだけでなく、典型的に少なくとも50個のアミノ酸、好ましくは少なくとも100個のアミノ酸、より好ましくは少なくとも150個のアミノ酸、なおもより好ましくは少なくとも200個のアミノ酸、最も好ましくは少なくとも250個のアミノ酸を有するポリペプチドをコードする。
【0077】
「コドン縮重」とは、コードされるポリペプチドのアミノ酸配列に影響を及ぼさないヌクレオチド配列のバリエーションを可能にする遺伝子コードの性質を指す。したがって本明細書に記載されるのは、配列番号58、配列番号97、配列番号139、および配列番号179に記載の本ポリペプチドをコードするアミノ酸配列の全てまたは実質的部分をコードするあらゆる核酸断片である。当業者は、所定のアミノ酸を特定するヌクレオチドコドン使用における、特定の宿主細胞によって示される「コドンバイアス」についてよく知っている。したがって宿主細胞中の改善された発現のために遺伝子を合成する場合、そのコドン使用頻度が、宿主細胞の好むコドン使用頻度に近くなるように遺伝子をデザインすることが望ましい。
【0078】
「合成遺伝子」は、当業者に公知の手順を使用して化学的に合成されるオリゴヌクレオチド構成単位からアセンブルできる。これらのオリゴヌクレオチド構成単位はアニールされ、次にライゲートされて遺伝子セグメントを形成し、それは次に酵素的にアセンブリーされて遺伝子全体が構築される。したがって遺伝子をヌクレオチド配列の最適化に基づいて、最適な遺伝子発現のために個別に調整し、宿主細胞のコドンバイアスを反映させることができる。当業者は、コドン利用が宿主によって好まれるコドンに偏っている場合の遺伝子発現成功の可能性を理解する。好ましいコドンの判定は、配列情報が利用できる宿主細胞由来の遺伝子の調査に基づくことができる。例えばヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)のコドン使用頻度プロファイルは、米国特許第7,125,672号明細書に提供される。
【0079】
「遺伝子」とは特定のタンパク質を発現する核酸断片を指し、それはコード領域のみを指してもよく、またはコード配列に先行する(5’非コード配列)およびそれに続く(3’非コード配列)制御配列を含んでもよい。「天然遺伝子」とは、自然界にそれ自体の制御配列と共に見られる遺伝子を指す。「キメラ遺伝子」とは、自然界に共に見られない制御およびコード配列を含んでなる天然遺伝子でないあらゆる遺伝子を指す。したがってキメラ遺伝子は、異なる起源由来の制御配列およびコード配列、あるいは同一起源由来であるが、自然界に見られるのとは異なる様式で配列される制御配列およびコード配列を含んでなってもよい。「内在性遺伝子」とは、生物ゲノム中のその天然位置にある天然遺伝子を指す。「外来性」遺伝子とは、遺伝子移入によって宿主生物に導入される遺伝子を指す。外来性遺伝子は、非天然生物中に挿入された天然遺伝子、天然宿主内の新しい位置に導入された天然遺伝子、あるいはキメラ遺伝子を含んでなることができる。「導入遺伝子」とは、形質転換によってゲノム中に導入された遺伝子である。「コドン最適化遺伝子」とは、そのコドン使用頻度が宿主細胞の好むコドン使用頻度を模倣するようにデザインされた遺伝子である。
【0080】
「コード配列」とは、特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列を指す。「制御配列」とは、コード配列の上流(5’非コード配列)、配列内、または下流(3’非コード配列)に位置して、転写、RNAプロセシングまたは安定性、または関連コード配列の翻訳に影響を及ぼすヌクレオチド配列を指す。制御配列としては、これらに限定されないが、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、5’非翻訳リーダー配列(例えば転写開始部位と翻訳開始コドンの間)、イントロン、ポリアデニル化認識配列、RNAプロセッシング部位、エフェクター結合部位、およびステムループ構造が挙げられる。
【0081】
「プロモーター」とは、コード配列または機能性RNAの発現を調節できるDNA配列を指す。一般にコード配列はプロモーター配列に対して3’に位置する。プロモーターは、その全体を天然遺伝子に由来してもよく、または自然界に見られる異なるプロモーターに由来する異なる要素から構成されてもよく、または合成DNAセグメントを含んでなってもよい。異なるプロモーターが、異なる組織または細胞型において、または発達の異なる段階で、または異なる環境条件に応えて、遺伝子発現を誘導してもよいことは当業者によって理解される。発達のほぼ全ての段階で遺伝子が発現されるようにするプロモーターは、一般に「構成的プロモーター」と称される。ほとんどの場合、制御配列(特にそれらの5’末端)の正確な境界は完全に定義されていないので、いくつかの変異のDNA断片が同一プロモーター活性を有するかもしれないことがさらに認識されている。
【0082】
「3’非コード配列」、「転写ターミネーター」および「終結配列」という用語は、コード配列下流に位置するDNA配列を指す。これとしては、mRNAプロセシングまたは遺伝子発現に影響できる調節シグナルをコードするポリアデニル化認識配列およびその他の配列が挙げられる。ポリアデニル化シグナルは、通常mRNA前駆物質の3’末端へのポリアデニル酸トラクトの付加に影響することで特徴づけられる。3’領域は、随伴コード配列の転写、RNAプロセシングまたは安定性、または翻訳に影響できる。
【0083】
「RNA転写物」は、RNAポリメラーゼが触媒するDNA配列の転写に起因する生成物を指す。RNA転写物がDNA配列の完全な相補的コピーであれば、それは一次転写物と称される。RNA転写物は、それが一次転写物の転写後プロセッシングに由来するRNA配列であれば、成熟RNAと称される。「メッセンジャーRNA」または「mRNA」とは、イントロンがなく、細胞がタンパク質に翻訳できるRNAを指す。「cDNA」とは、mRNAテンプレートに対して相補的で、酵素逆転写酵素を使用してそれから合成されるDNAを指す。cDNAは一本鎖であることができ、またはDNAポリメラーゼIのクレノウ(Klenow)断片を使用して二本鎖形態に変換できる。「センス」RNAとは、mRNAを含んで、細胞中または生体外でタンパク質に翻訳できるRNA転写物を指す。「アンチセンスRNA」とは、標的一次転写物またはmRNAの全部または一部に相補的で標的遺伝子の発現をブロックするRNA転写物を指す(米国特許第5,107,065号明細書)。
【0084】
「作動的に連結する」という用語は、一方の機能がもう一方によって影響されるような、単一核酸断片上の核酸配列の協合を指す。例えばプロモーターがそのコード配列の発現に影響できる、すなわちコード配列がプロモーターの転写制御下にある場合、それはコード配列と作動的に連結する。コード配列は、センスまたはアンチセンス方向で制御配列と作動的に連結できる。
【0085】
「組換え」という用語は、例えば化学合成による、または遺伝子操作技術を通じた核酸の単離セグメントの操作による、2つのさもなければ別々の配列セグメントの人為的組み合わせを指す。
【0086】
「発現」という用語は、本明細書での用法では、センス(mRNA)またはアンチセンスRNAの転写および安定した蓄積を指す。発現はまた、mRNAの(前駆または成熟どちらかの)タンパク質への翻訳を指してもよい。
【0087】
「形質転換」とは、遺伝的に安定した遺伝形質をもたらす、宿主生物または宿主生物中への核酸分子の転移を指す。核酸分子は、例えば自律的に複製するプラスミドであってもよく、またはそれは宿主生物のゲノムに組み込まれてもよい。形質転換核酸断片を含有する宿主生物は、「組換え」、「リコンビナント」、「形質転換」または「形質転換体」生物と称される。
【0088】
「プラスミド」および「ベクター」と言う用語は、細胞の中心的代謝の一部ではない遺伝子を運ぶことが多く、通常環状二本鎖DNA断片の形態である染色体外要素を指す。このような要素は、あらゆる起源に由来する一本鎖または二本鎖のDNAまたはRNAの直線または環状、自己複製配列、ゲノム組み込み配列、ファージまたはヌクレオチド配列であってもよく、その中ではいくつかのヌクレオチド配列が結合または組換えされて、細胞に発現カセットを導入できるユニークな構造になる。
【0089】
「発現カセット」という用語は、外来遺伝子を含有し、外来遺伝子に加えて、異種宿主中での遺伝子の増強された発現ができるようにする要素を有するDNA断片を指す。 一般に発現カセットは、選択された遺伝子のコード配列と、選択された遺伝子産物の発現に必要である、コード配列に先行する(5’非コード配列)およびそれに続く(3’非コード配列)制御配列とを含んでなる。したがって発現カセットは、典型的に1)プロモーター配列、2)コード配列[「ORF」]、および3)真核生物では通常はポリアデニル化部位を含有する3’非翻訳領域(すなわちターミネーター)から構成される。発現カセットは通常はベクターに含まれて、クローニングおよび形質転換を容易にする。各宿主に対して妥当な制御配列を使用しさえすれば、異なる発現カセットを細菌、酵母、植物、および哺乳類細胞をはじめとする異なる生物に形質転換できる。
【0090】
「組換え構築物」、「発現構築物」、「キメラ構築物」、「構築物」、および「組換えDNA構築物」という用語は、本明細書で同義的に使用される。組換え構築物は、例えば自然界に一緒には見られない、制御配列およびコード配列などの核酸断片の人為的組み合わせを含んでなる。例えば組換えDNA構築物は、異なる起源に由来する制御配列およびコード配列、または同一起源に由来する制御配列およびコード配列を含んでなってもよいが、自然界に見られるのとは異なる様式で配列される。このような構築物はそれ自体を使用してもよく、またはベクターと併せて使用してもよい。ベクターを使用する場合、当業者によく知られているように、ベクターの選択は宿主細胞を形質変換するのに使用される方法に左右される。例えばプラスミドベクターが使用できる。
【0091】
当業者は、本明細書に記載の単離された核酸断片のいずれかを含んでなる宿主細胞を成功裏に形質変換し、選択し、増殖するためにベクター上に存在しなくてはならない遺伝的要素について十分承知している。当業者はまた、異なる独立した形質転換事象が、異なるレベルおよびパターンの発現をもたらし(Jonesら、EMBO J.4:2411〜2418頁(1985年);De Almeidaら、Mol.Gen.Genetics 218:78〜86頁(1989年))、したがって所望の発現レベルおよびパターンを示す株を得るために多数の事象をスクリーンしなくてはならないことを認識する。このようなスクリーニングは特に、DNAのサザン分析、mRNA発現のノーザン分析、タンパク質発現のウェスタン分析または表現型分析によって達成されてもよい。
【0092】
「配列分析ソフトウェア」と言う用語は、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列の分析のために有用なあらゆるコンピュータアルゴリズムまたはソフトウェアプログラムを指す。「配列分析ソフトウェア」は、市販のものでも、あるいは独立して開発されても良い。典型的な配列分析ソフトウェアとしては、1.)Genetics Computer Group(GCG)(Madison,WI)からのGCGプログラム一式(Wisconsin Package Version 9.0)、2.)BLASTP、BLASTN、BLASTX(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403〜410(1990年))、および3.)DNASTAR,Inc.(Madison、WI)からのDNASTAR、4.)Gene Codes Corporation(Ann Arbor、MI)からのSequencher、および5.)スミス−ウォーターマン・アルゴリズムを組み入れたFASTAプログラム(W.R.Pearson、Comput.Methods Genome Res.[Proc.Int.Symp.](1994年)、1992年会議、111〜20、編集者:Suhai,Sandor、Plenum、New York,NY)が挙げられるが、これに限定されるものではない。本説明中で分析のために配列分析ソフトウェアが使用される場合はいつでも、特に断りのない限り、分析結果は言及されるプログラムの「デフォルト値」に基づく。本明細書での用法では「デフォルト値」とは、ソフトウェアを最初に初期化した際に、初めからロードされる値またはパラメーターのあらゆる組を意味する。
【0093】
ここで使用される標準組換えDNAおよび分子クローニング技術については当該技術分野で良く知られており、Sambrook,J.、Fritsch,E.F.、およびManiatis,T.、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY(1989年);Silhavy,T.J.、Bennan,M.L.およびEnquist,L.W.、「Experiments with Gene Fusions」Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor、NY(1984年);およびAusubel,F.M.ら、「Current Protocols in Molecular Biology」Greene Publishing Assoc.and Wiley−Interscience(Hoboken,NJ)による出版(1987年)でさらに詳しく述べられている。
【0094】
一般に油性微生物中の脂質蓄積は、増殖培地中に存在する総合的な炭素と窒素との比率に応えて始動する。油性微生物中における遊離パルミチン酸(16:0)の新規合成をもたらすこの過程は、米国特許第7,238,482号明細書で詳細に記載される。パルミチン酸は、長鎖飽和および不飽和脂肪酸誘導体の前駆物質である。
【0095】
オレイン酸がω−3/ω−6脂肪酸に変換される代謝過程は、炭素原子の付加を通じた炭素鎖の延長、および二重結合の付加を通じた分子の不飽和化を伴う。これは小胞体膜中に存在する一連の特有な延長および不飽和化酵素を必要とする。しかし図1に示されまた下述するように、特定のω−3/ω−6脂肪酸生成のための複数の代案の経路が存在する。
【0096】
具体的には、図1は下述の経路を描写する。全ての経路は、オレイン酸がΔ12デサチュラーゼによって、第1のω−6脂肪酸であるリノール酸[「LA」]に最初に変換されることを要する。次に「Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路」および基質としてLAを使用して、長鎖ω−6脂肪酸が次のように形成される。1)LAがΔ9エロンガーゼによってγ−リノレン酸[「EDA」]に変換され;2)EDAがΔ8デサチュラーゼによってジホモ−γ−リノレン酸[「DGLA」]に変換され;3)DGLAがΔ5デサチュラーゼによってアラキドン酸[「ARA」]に変換され;4)ARAがC20/22エロンガーゼによってドコサテトラエン酸[「DTA」]に変換され;5)DTAがΔ4デサチュラーゼによってドコサペンタエン酸[「DPAn−6」]に変換される。
【0097】
「Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ経路」はまた、基質としてα−リノレン酸[「ALA」]を使用して長鎖ω−3脂肪酸を次のように生成し得る。1)LAがΔ15デサチュラーゼによって第1のω−3脂肪酸ALAに変換され;2)ALAがΔ9エロンガーゼによってエイコサトリエン酸[「ETrA」]に変換され;3)ETrAがΔ8デサチュラーゼによってエイコサテトラエン酸[「ETA」]に変換され;4)ETAがΔ5デサチュラーゼによってエイコサペンタエン酸[「EPA」]に変換され;5)EPAがC20/22エロンガーゼによってドコサペンタエン酸[「DPA」]に変換され;6)DPAがΔ4デサチュラーゼによってドコサヘキサエン酸[「DHA」]に変換される。ω−6脂肪酸がω−3脂肪酸に変換されていてもよい。例えばETAおよびEPAはΔ17デサチュラーゼ活性によって、それぞれDGLAおよびARAから生成される。
【0098】
ω−3/ω−6脂肪酸の生合成のための代案の経路は、Δ6デサチュラーゼおよびC18/20エロンガーゼ(すなわち「Δ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路」)を利用する。より具体的にはΔ6デサチュラーゼによって、LAおよびALAがそれぞれGLAおよびステアリドン酸[「STA」]に変換されてもよい。次にC18/20エロンガーゼは、GLAをDGLAにおよび/またはSTAをETAに変換する。下流PUFAが、上述のように引き続いて形成される。
【0099】
ω−3/ω−6脂肪酸を生成するために特定の宿主生物中に導入される必要がある特定の機能性は、宿主細胞(およびその天然PUFAプロファイルおよび/またはデサチュラーゼ/エロンガーゼプロファイル)、基質可用性、および所望の最終産物に左右されることが考察される。Δ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ経路を通じて生じるPUFAはGLAおよび/またはSTAを欠いているので、Δ6エロンガーゼ/Δ6デサチュラーゼ経路の発現に対立するものとして、例えばΔ9デサチュラーゼ/Δ8エロンガーゼ経路の発現は、いくつかの実施態様では好ましいかもしれない。
【0100】
当業者は、ω−3/ω−6脂肪酸生合成のために所望される各酵素をコードする、様々な候補遺伝子を同定できるであろう。有用なデサチュラーゼおよびエロンガーゼ配列はあらゆる供給源に由来してもよく、例えば天然供給源(細菌、藻類、真菌、植物、動物など)から単離され、半合成経路によって生成され、または新規(de novo)合成される。宿主中に導入されるデサチュラーゼおよびエロンガーゼ遺伝子の特定の供給源は重大でないが、デサチュラーゼまたはエロンガーゼ活性を有する特異的ポリペプチド選択のための考慮事項としては以下が挙げられる。宿主中に導入されるデサチュラーゼおよびエロンガーゼ遺伝子の特定の供給源は重大でないが、デサチュラーゼまたはエロンガーゼ活性を有する特異的ポリペプチド選択のために以下のことが配慮される。1)ポリペプチドの基質特異性、2)ポリペプチドまたはその構成要素が律速酵素であるかどうか、3)デサチュラーゼまたはエロンガーゼが所望のPUFA合成に必須であるかどうか、4)ポリペプチドが必要とする補助因子および/または5)生成後にポリペプチドが(例えばキナーゼまたはプレニルトランスフェラーゼによって)修飾されるかどうか。発現されるポリペプチドは、好ましくは宿主細胞中のその位置の生化学的環境に適合するパラメーターを有する(追加的詳細については米国特許第7,238,482号明細書を参照されたい)。
【0101】
特定の各デサチュラーゼおよび/またはエロンガーゼの変換効率を考慮することもまた有用であろう。より具体的には、各酵素が基質を生成物に変換するのに100%の効率で機能することは稀なので、宿主細胞中に生成される未精製油の最終脂質プロファイルは、典型的に所望のω−3/ω−6脂肪酸、ならびに様々な上流中間PUFAからなる様々なPUFAの混合物である。したがって所望の脂肪酸生合成を最適化する場合、各酵素の転換効率もまた考慮すべき変数である。
【0102】
上述のそれぞれの考慮を念頭に、公的に入手可能な報告(例えばGenBank)、特許文献、およびPUFA生成能力を有する生物の実験的分析に従って、適切なデサチュラーゼおよびエロンガーゼ活性(例えばΔ6デサチュラーゼ、C18/20エロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、Δ9エロンガーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ4デサチュラーゼ、およびC20/22エロンガーゼ)を有する候補遺伝子を同定できる。これらの遺伝子は、特定宿主生物に導入して、生物のPUFA合成を可能にしまたは増強するのに適する。
【0103】
生物中でひとたび脂肪酸(飽和および不飽和脂肪酸および短鎖および長鎖脂肪酸をはじめとする)が合成されると、それらはトリアシルグリセリド[「TAG」]に組み込まれることがある。脂肪酸の主要な貯蔵単位であるTAGは、以下が関与する一連の反応によって形成される。1)アシル基転移酵素による1分子のアシル−CoAのグリセロール−3−リン酸塩へのエステル化がリゾホスファチジン酸を生じ;2)アシル基転移酵素による第2のアシル−CoA分子のエステル化が1,2−ジアシルグリセロールリン酸塩(一般にホスファチジン酸として同定される)を生じ;3)ホスファチジン酸ホスファターゼによるリン酸塩の除去が1,2−ジアシルグリセロールを生じ;4)アシル基転移酵素の作用による第3の脂肪酸の付加がTAGを形成する。
【0104】
Δ5デサチュラーゼは、いくつかの保存配列(すなわち3個のヒスチジンボックス[H(X)3-4H(配列番号1および2)、H(X)2-3HH(配列番号3および4)、およびH/Q(X)2-3HH(配列番号5および6)]、そしてチトクロームb5ドメイン)を含有するが、ヘム結合モチーフ(すなわちHis−Pro−Gly−GlyまたはHPGG[配列番号180])のみが配列内の多様性を欠いている。最初に変異導入の標的として選択されたのはこのモチーフであった。文献は、HPGGモチーフ内のヒスチジン残基が機能に重要であることを示唆する(Sayanova,O.ら,Plant Physiol.,121:641頁(1999年);Guillou,H.ら,J.Lipid Res.,45:32〜40頁(2004年);Hongsthong,A.ら,Appl.Microbiol.Biotechnol.,72:1192〜1201頁(2006年))。したがってプロリンおよびグリシン残基の置換を優先して、ヒスチジン残基の置換は避けた。
【0105】
部位特異的変異導入は、いくつかのΔ5デサチュラーゼのHPGGモチーフ内のプロリンおよび第2のグリシンに対して独立して実施され、得られた変異ポリペプチドの発現、および野生型酵素と比較したそれらの活性判定がそれに続いた。意外にも、変異Δ5デサチュラーゼのΔ5デサチュラーゼ活性が、対応する野生型Δ5デサチュラーゼのΔ5デサチュラーゼ活性と機能的に同等である、HXGG(配列番号181)およびHPGX(配列番号182)をはじめとするアミノ酸変異モチーフを含んでなる様々な変異Δ5デサチュラーゼが作り出された。
【0106】
オリゴヌクレオチド媒介部位特異的変異導入を利用して、様々な標的Δ5デサチュラーゼのHPGGモチーフ内に特定の点変異を作り出した。多数の部位特異的変異導入プロトコル(例えばIshii,T.M.ら,Methods Enzymol.,293:53〜71頁(1998年);Ling M.M.およびB.H.Robinson,Anal.Biochem.,254:157〜178頁(1997年);Braman J.(編),In Vitro Mutagenesis Protocols,第2版,Humania:Totowa,NJ(2002年);Kunkel T.A.ら,Methods Enzymol.,154:367〜382頁(1987年);Sawano A.およびMiyawaki,A.Nucleic Acids Res.,28:e78(2000年))が存在するが、その容易な実行と高効率に基づいてQuikChange(登録商標)部位特異的変異導入キット(Stratagene、LaJolla,CA)を使用のために選択した。基本的手順は、関心のある挿入断片がある超らせん二本鎖DNAベクター、および所望の変異を含有する2つの合成オリゴヌクレオチドプライマーを利用する。DNAポリメラーゼによって、ベクターの逆ストランドにそれぞれ相補的なオリゴヌクレオチドプライマーを温度サイクル中に延長させる。オリゴヌクレオチドプライマーの組み込みによって、スタッガードニックを含有する変異プラスミドが生じる。温度サイクルに続いて親DNAテンプレートを消化し、新たに合成された変異DNAを選択する手段として、(メチル化およびヘミメチル化DNAに特異的な)DpnIエンドヌクレアーゼで生成物を処理する。次に所望の変異を含有するニックのあるベクターDNAを形質転換して、大腸菌(Escherichia coli)宿主中で増殖させる。
【0107】
キメラFBAIN::EgD5S::Pex20遺伝子を含んでなるプラスミド構築物内で、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化されたミドリムシ(Euglena gracilis)に由来する合成Δ5デサチュラーゼ(すなわちEgD5S;配列番号10;米国特許出願公開第2007−0277266−A1号明細書)中に、上述の技術を使用して部位特異的変異導入によって、あらゆる可能なアミノ酸置換を導入した。変異体を大腸菌(E.coli)に形質転換し配列決定してから、約18%のDGLAを産生するようにあらかじめ改変されたリポリティカ(Y.lipolytica)の適切な株に形質転換した。これによってGC分析およびARAの産生に基づいて、Δ5デサチュラーゼ活性をスクリーニングできるようになった。
【0108】
完全に非機能性の変異Δ5デサチュラーゼ(すなわち検出可能なΔ5デサチュラーゼ活性を有さない)、または非変異野生型酵素と比較して、実質的にΔ5デサチュラーゼ活性が低下している変異Δ5デサチュラーゼをもたらす、多数の変異が同定された。しかし意外にも予備スクリーニングは、HPGGモチーフ内のプロリンを置換でき、対応する野生型酵素(すなわちEgD5S)のΔ5デサチュラーゼ活性との比較で、ほぼ同等のまたは増大したΔ5デサチュラーゼ活性を変異体中にもたらす、3つのアミノ酸残基を同定した。したがってこの予備実験は、EgD5SのΔ5デサチュラーゼ活性に顕著に影響を及ぼすことなく、HPGGモチーフ内のプロリン残基をいくつかのアミノ酸で置換できることを示唆した。
【0109】
部位特異的変異導入反応におけるテンプレートとしてEgD5Sを使用して同様の実験を実施し、HPGGモチーフの第2のグリシン残基を変異させた。上述のように、変異酵素の分析からは、野生型アミノ酸(すなわちグリシン)を置換するには2つのアミノ酸残基で十分であると判定され、同等のまたは改善されたΔ5デサチュラーゼ活性を有する変異EgD5S酵素がもたらされた。
【0110】
ひとたびEgD5SのHPGGモチーフ中のアミノ酸置換の予備分析が上述のように完了したら、各変異EgD5S含有プラスミドを宿主株ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)に再度形質転換して、野生型EgD5Sの転換率以上で機能する変異体の定量分析を実施した。生成した脂肪酸メチルエステル[「FAME」]のGC分析は、最初の5つの変異体の内3つのΔ5デサチュラーゼ活性が、対応する野生型EgD5S対照と比較して増大した活性で機能したことを立証した。
【0111】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された、ユーグレナ・アナベナ(Euglena Anabaena)に由来する合成Δ5デサチュラーゼ(すなわちEaD5S;配列番号14;米国特許出願公開第2008−0274521−A1号明細書)、およびY.リポリティカ(Y.lipolytica)中での発現のためにコドン最適化された、ペリディニウム(Peridinium)種CCMP626に由来する合成Δ5デサチュラーゼ(すなわちRD5S;配列番号18;米国特許出願公開第2007−0271632−A1号明細書)を使用して上の実験プロトコルを繰り返した。変異体中において、対応する野生型酵素(すなわちEgD5S、EaD5SまたはRD5S)と比較して同等または増大したΔ5デサチュラーゼ活性をもたらした、全ての部位特異的変異導入の結果を下の表3に要約する(追加的詳細については実施例を参照されたい)。変異体は、1)野生型酵素;2)ハイフン(−);3)変異体HPGGモチーフを記述する、以下の命名法を使用して命名される。したがって例えばHPGGモチーフのアミノ酸2においてプロリンがヒスチジンで置換された(すなわちP2のH置換)合成のコドン最適化EgD5S(すなわち配列番号10)から作り出される変異酵素は、EgD5S−HHGGと同定される。
【0112】
表3:Δ5デサチュラーゼ活性増大をもたらすHPGGモチーフ変異体

*対応する野生型非変異酵素と比較した変異酵素のΔ5デサチュラーゼの%活性増大は、定量分析でなく初回アッセイ結果に基づいて報告される。
【0113】
上のデータは、Δ5デサチュラーゼ活性が増大している変異ポリペプチドを生成するのに、どの特定のアミノ酸置換が十分であるのかに関して一致を示さない。しかし前述の当該技術分野の報告に反して、プロリンまたはグリシン残基どちらかの置換が、その野生型親よりもΔ5デサチュラーゼ活性がさらに高い酵素をもたらすかもしれないことを実証するデータは驚くべきである。したがって配列番号183(HGGG)、配列番号184(HHGG)、配列番号186(HCGG)、配列番号187(HWGG)、および配列番号185(HPGS)からなる群から選択されるアミノ酸モチーフを含んでなる、Δ5デサチュラーゼ活性を有するポリペプチドを提供することが本発明の範囲内である。好ましくはポリペプチドは配列番号58(EgD5S−HGGGおよびEgD5S−HHGG)、配列番号97(EgD5S−HPGS)、配列番号139(EaD5S−HCGG)、および配列番号179(RD5S−HCGGおよびRD5S−HWGG)からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する。より好ましくは変異Δ5デサチュラーゼは、1)配列番号183(HGGG)、配列番号184(HHGG)、配列番号186(HCGG)、配列番号187(HWGG)、および配列番号185(HPGS)からなる群から選択される、変異アミノ酸モチーフを含んでなり;2)変異Δ5デサチュラーゼ活性はHPGG(配列番号180)アミノ酸モチーフを有する対応する野生型Δ5デサチュラーゼと比較して増大している。
【0114】
当業者は、有用な変異Δ5デサチュラーゼが上述の変異に限定されるものではないことを理解するであろう。それよりむしろ結果は、チトクロームb5ドメイン内のHPGG(配列番号180)モチーフを有するあらゆるΔ5野生型デサチュラーゼ酵素を使用して同様の実験法を実施し、それによってΔ5デサチュラーゼ活性が増大した変異Δ5デサチュラーゼを設計できることを示唆し、変異は変異HXGGモチーフ(配列番号181)またはHPGX(配列番号182)モチーフをもたらす。Δ5デサチュラーゼ活性が増大した変異酵素は、ω−3/ω−6脂肪酸産生を増大させるのに有用たり得る。
【0115】
例えば生体外変異導入および選択または変異性PCR(Leungら,Techniques,1:11〜15頁(1989年);Zhouら,Nucleic Acids Res.,19:6052〜6052頁(1991年);Speeら,Nucleic Acids Res.,21:777〜778頁(1993年);Melnikovら,Nucleic Acids Res.,27(4):1056〜1062頁(1999年2月15日))もまた、EgD5S、EaD5SまたはRD5Sなどの天然Δ5デサチュラーゼ遺伝子の変異を得る手段として採用でき、変異としては、欠失、挿入、および点変異、またはそれらの組み合わせが挙げられる。変異性PCRの主な利点は、この方法によって導入される全ての変異が所望のデサチュラーゼ遺伝子内にあり、PCR条件を変更することであらゆる変更が容易に制御できることである。代案としては、Stratagene(La Jolla,CA;Greener and Callahan,Strategies,7:32〜34頁(1994年))からの大腸菌(E.coli)XL1−Red株およびEpicurian coliXL1−Red mutator株などの市販材料を使用した生体内変異導入を用いてもよい。この株は主要DNA修復経路の3つ(mutS、mutD、およびmutT)が欠損しており、野生型より5000倍高い変異率がもたらされる。生体内変異導入は(変異性PCRと同様に)ライゲーション効率に依存しない;しかし変異はベクターのあらゆる領域で起きるかもしれず、変異率は一般にはるかにより低い。
【0116】
改変または改善されたΔ5デサチュラーゼ活性がある変異Δ5デサチュラーゼ酵素を「遺伝子シャフリング」法(米国特許第5,605,793号明細書、米国特許第5,811,238号明細書、米国特許第5,830,721号明細書、米国特許第5,837,458号明細書)を使用して構築してもよいこともまた考察される。遺伝子シャッフリング法は、その容易な実行、および高率な変異導入のために特に魅力的である。遺伝子シャフリングのプロセスは、関心のある遺伝子との類似性または相違性を有するDNA領域の追加的集団存在下における、関心のある遺伝子の特定サイズの断片への制限を伴う。この断片のプールを変性させ再アニールして、変異遺伝子を作り出す。次に変異した遺伝子を変更された活性についてスクリーニングする。これらの方法のいずれかを使用して、置換されたモチーフHXGG(配列番号181)およびHPGX(配列番号182)を有するΔ5デサチュラーゼ変異酵素を作り出し、次にそれを本明細書に記載される方法によって改善された活性についてスクリーニングしてもよい。
【0117】
本明細書に記載される変異Δ5デサチュラーゼ(すなわち前記変異Δ5デサチュラーゼがHPGGアミノ酸モチーフをコードする領域内に少なくとも1つの変異を含んでなり、前記変異Δ5デサチュラーゼが対応する野生型Δ5デサチュラーゼと比較してΔ5デサチュラーゼ活性の増大を有する)をコードするキメラ遺伝子を適切なプロモーター制御下で導入することは、形質転換宿主生物、ARAおよび/またはEPA産生の増大をそれぞれもたらすことが予期される。したがって本明細書で開示されるのは、脂肪酸基質(すなわちDGLAおよび/またはETA)が所望の脂肪酸生成物(すなわちそれぞれARAおよび/またはEPA)に変換されるように、基質を本明細書に記載される変異デサチュラーゼ酵素(例えば、配列番号58[EgD5S−HGGGおよびEgD5S−HHGG]、配列番号97[EgD5S−HPGS]、配列番号139[EaD5S−HCGG]、配列番号179[RD5S−HCGGおよびRD5S−HWGG])に曝すステップを含んでなる、PUFAを直接生産する方法である。
【0118】
より具体的には、本明細書に記載されるのは、微生物宿主細胞(例えば細菌、酵母、藻類、ユーグレナ属、ストラメノパイル、卵菌綱、および真菌)中でARAを生成する方法であり、微生物宿主細胞は
a)配列番号183(HGGG)、配列番号184(HHGG)、配列番号186(HCGG)、配列番号187(HWGG)、および配列番号185(HPGS)からなる群から選択されるアミノ酸モチーフを含んでなるΔ5デサチュラーゼ活性を有するポリペプチドと、
b)DGLA源と
を含み、前記宿主細胞を変異Δ5デサチュラーゼが発現されてDGLAがARAに変換されるような条件下で増殖させて、ARAが回収されていてもよい。
【0119】
本明細書に記載される別の方法では、ETAのEPAへの転換のために変異Δ5デサチュラーゼを使用してもよい。したがって記載されるのはEPAを生成する方法であり、
宿主細胞は、
a)配列番号183(HGGG)、配列番号184(HHGG)、配列番号186(HCGG)、配列番号187(HWGG)、および配列番号185(HPGS)からなる群から選択されるアミノ酸モチーフを含んでなるΔ5デサチュラーゼ活性を有するポリペプチドと、
b)ETA源と
を含み、前記宿主細胞は変異Δ5デサチュラーゼが発現されてETAがEPAに変換されるような条件下で増殖させて、EPAが回収されていてもよい。
【0120】
代案としては、様々なω−6およびω−3PUFA生成のために、本明細書に記載される各変異Δ5デサチュラーゼ遺伝子およびその対応する酵素生成物を間接的に使用し得る(図1;米国特許第7,238,482号明細書;国際公開第2007/136671号パンフレットおよび国際公開第2007/136646号パンフレットを参照されたい)。ω−3/ω−6PUFAの間接的生産は、脂肪酸基質が中間工程または経路中間体の手段を通じて所望の脂肪酸産物に間接的に転換されて起きる。したがってPUFA生合成経路の酵素(例えばΔ6デサチュラーゼ、C18/20エロンガーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、Δ9エロンガーゼ、Δ5デサチュラーゼ、Δ4デサチュラーゼ、C20/22エロンガーゼ)をコードする追加的遺伝子と連動させて、本明細書に記載される変異Δ5デサチュラーゼを発現し、例えば、ARA、EPA、DTA、DPAn−6、DPAおよび/またはDHAなどのより長鎖のω−3/ω−6脂肪酸のより高レベルの生成をもたらしてもよいことが考察される。
【0121】
好ましくは本明細書に記載されるΔ5デサチュラーゼは、Δ9エロンガーゼおよびΔ8デサチュラーゼと併せて最低限発現される。Δ5デサチュラーゼもまた、Δ6デサチュラーゼおよびΔ6エロンガーゼと併せて最低限発現できる。しかし特定の発現カセット内に含まれる特定の遺伝子は、宿主細胞(そしてそのPUFAプロファイルおよび/またはデサチュラーゼ/エロンガーゼプロファイル)、基質可用性および所望の最終産物に左右される。
【0122】
変異Δ5デサチュラーゼ(すなわち前記変異体が、配列番号183(HGGG)、配列番号184(HHGG)、配列番号186(HCGG)、配列番号187(HWGG)、および配列番号185(HPGS)からなる群から選択されるアミノ酸モチーフを含んでなる)をコードするORFを含んでなる組換え構築物を作り出して、適切な宿主細胞に導入する必要がある。当業者は、1)DNA分子、プラスミドなどの巨大分子の構築、操作、および単離のための特定の条件および手順;2)組換えDNA断片および組換え発現構築物の作成;および3)クローンのスクリーニングおよび単離について記載する標準的資料について認識している。Sambrook,J.,Fritsch,E.F.およびManiatis,T.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1989年)(以下「Maniatis」);Silhavy,T.J.,Bennan,M.L.およびEnquist,L.W.,Experiments with Gene Fusions,Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1984年);およびAusubel,F.M.ら,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Assoc.and Wiley−Interscience,Hoboken,NJによる出版(1987年)を参照されたい。
【0123】
一般に構築物に含まれる配列の選択は、所望の発現産物、宿主細胞の性質、および形質転換細胞と非形質転換細胞とを分離する提案される手段に左右される。当業者は、キメラ遺伝子を含有する宿主細胞を成功裏に形質転換させ、選択し、増殖させるために、プラスミドベクター上に存在しなくてはならない遺伝的要素を知っている。しかし典型的にベクターまたはカセットは、関連遺伝子の転写および翻訳を導く配列、選択性標識、および自律性複製または染色体組み込みを可能にする配列を含有する。適切なベクターは、転写開始を制御する遺伝子の5’領域、すなわちプロモーター、遺伝子コード配列および転写終結を制御するDNA断片の3’領域、すなわちターミネーターを含んでなる。双方の制御領域は必ずしも生産宿主に天然の遺伝子に由来しなくてもよいが、それらが形質転換宿主細胞からの遺伝子に由来することが最も好ましい。
【0124】
所望の微生物宿主細胞中で本Δ5デサチュラーゼORFの発現を促進するのに有用な転写開始制御領域(また開始制御領域またはプロモーターも)は良く知られている。これらの制御領域は、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、イントロン配列、3’UTRおよび/または5’UTR領域、およびタンパク質および/またはRNA安定化要素を含んでもよい。このような要素はそれらの強度および特異性が異なっていてもよい。宿主種からの転写および翻訳領域が特に有用であるが、実質的に、選択された宿主細胞中でこれらの遺伝子の発現を指示できるあらゆるプロモーター、すなわち天然、合成、またはキメラが適切である。宿主細胞中の発現は、誘導的または構成的様式で達成できる。誘導的発現が関心のある遺伝子と作動的に連結する調節可能なプロモーターの活性を誘導することで起きるのに対し、構成的発現は構成的プロモーターの使用によって起きる。
【0125】
宿主細胞が酵母菌の場合、酵母菌細胞中で機能する転写および翻訳領域は、特に宿主種から提供される。例えばヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中で使用するための好ましい転写開始調節領域については、国際公開第2006/052870号パンフレットに対応する、米国特許出願公開第2006−00115881−A1号明細書を参照されたい。構成的または誘導的転写が所望されるかどうか、対象とするORFを発現する上でのプロモーター効率、構築の容易さなど次第で、いくつかの調節配列のいずれか1つを使用できる。
【0126】
翻訳開始コドン「ATG」周囲のヌクレオチド配列は、酵母細胞中での発現に影響することが分かっている。所望のポリペプチドが酵母中で不十分に発現される場合、外来性遺伝子のヌクレオチド配列を修正して効率的な酵母翻訳開始配列を含め、最適の遺伝子発現を得ることができる。酵母中での発現のためには、内在性酵母遺伝子、好ましくは高度に発現される遺伝子に、非効率的に発現される遺伝子を部位特異的変異導入してインフレームで融合させることにより実行できる。代案としては、宿主中のコンセンサス翻訳開始配列を判定して、対象の宿主中における異種遺伝子の最適発現のために、この配列を異種遺伝子中に遺伝子操作できる。
【0127】
転写終結領域をコードする3’非コード配列が組換え構築物中で提供されてもよく、それから開始領域が得られた遺伝子の3’領域からのもの、または異なる遺伝子からのものであってもよい。多数の終結領域が知られており、それらが由来するのと同じおよび異なる属と種のどちらで利用する場合も多様な宿主中で満足に機能する。終結領域は通常、特定の特質のためでなく、むしろ便宜上から選択される。終結領域はまた、好ましい宿主に天然の様々な遺伝子に由来してもよい。終結領域は、通常、特定の特質のためというよりむしろ便宜的に選択される。当業者は利用できる情報を使用して、転写ターミネーターとして機能する3’領域配列をデザインおよび合成し得るので、3’領域はまた合成し得る。終結部は不必要かもしれないが、高度に好ましい。
【0128】
遺伝子をクローニングベクターに単に挿入することは、所望の速度、濃度、量、その他でのその発現を保証しない。高発現率に対する必要に応えて、転写、RNA安定性、翻訳、タンパク質安定性および位置、酸素制限、および微生物宿主細胞からの分泌を制御する、特定の特性を調節することにより、多数の特殊発現ベクターが作り出されている。これらの特性としては、次が挙げられる。関連する転写プロモーターおよびターミネーター配列の性質;クローン遺伝子コピー数(単一発現構築物中で追加的コピーをクローンしてもよく、および/またはプラスミドコピー数を増大させることで、またはゲノム中へのクローン遺伝子の複数の組み込みにより、追加的コピーを宿主細胞中に導入してもよい);遺伝子がプラスミド由来であるかまたは宿主細胞ゲノム中に組み込まれているかどうか;合成外来性タンパク質の最終的細胞内所在;宿主生物中のタンパク質翻訳および正しい折りたたみの効率;宿主細胞中のクローン遺伝子のmRNAおよびタンパク質の固有の安定性;およびその使用頻度が宿主細胞の好ましいコドン使用頻度に近くなるようなクローン遺伝子中のコドン使用頻度。これらのそれぞれを本明細書に記載される方法および宿主細胞中で使用して、変異Δ5デサチュラーゼの発現をさらに最適化してもよい。
【0129】
プロモーター、Δ5デサチュラーゼ(ORF)、およびターミネーターを含んでなる、少なくとも1つのキメラ遺伝子を含んでなる組換え構築物を作り出した後、それを宿主細胞中で自律複製できるプラスミドベクターに入れ、または宿主細胞のゲノムに直接組み込む。発現カセットの組み込みは宿主ゲノム内で無作為に起きることができ、または宿主遺伝子座内の遺伝子組換えを標的とするのに十分な宿主ゲノムとの相同性領域を含有する構築物の使用を通じて標的を定めることができる。構築物が内在性遺伝子座を標的とする場合、全てまたはいくつかの転写および翻訳調節領域が、内在性遺伝子座によって提供できる。
【0130】
2つ以上の遺伝子が別個の複製ベクターから発現される場合、各ベクターが異なる選択手段を有し、その他の構築物との相同性を欠いて、安定した発現を保ち、構築物間の要素の再集合を妨げることが望ましい。全ての導入された遺伝子が、所望の生成物の合成を提供するのに必要なレベルで発現されるように、調節領域の賢明な選択、導入された構築物の選択手段および増殖法は、実験的に判定できる。
【0131】
対象の遺伝子を含んでなる構築物は、あらゆる標準技術によって微生物宿主細胞に導入されてもよい。これらの技術としては、形質転換(例えば酢酸リチウム形質転換(Methods in Enzymology,194:186〜187頁(1991年)))、微粒子銃衝撃、電気穿孔、マイクロインジェクション、または宿主細胞中に関心のある遺伝子を導入するその他のあらゆる方法が挙げられる。
【0132】
便宜上、例えば発現カセット中にDNA配列を取り込むように、あらゆる方法によって操作されている宿主細胞を「形質転換された」、形質転換体」または「組換え」と本明細書で称する。形質転換された宿主は発現構築物の少なくとも1つのコピーを有して、発現カセットがゲノム中に組み込まれるか、増幅されるか、または複数コピーを有する染色体外要素上に存在するかどうか次第で、2つ以上を有するかもしれない。形質転換された宿主細胞は、導入された構築物上に含有されるマーカーの選択によって同定できる。代案としては、多くの形質転換技術が多くのDNA分子を宿主細胞中に導入する場合、所望の構築物と共に別個のマーカー構築物を同時形質転換してもよい。
【0133】
典型的には、形質転換された宿主は、抗生物質が取り込まれていているかまたは栄養素または成長因子などの非形質転換宿主の増殖に必要な要素が欠如していてもよい選択的培地上で増殖するそれらの能力について選択される。導入されたマーカー遺伝子は、形質転換された宿主中で発現すると抗生物質抵抗性を与え、または必須成長因子または酵素をコードしてもよく、それによって選択培地上での増殖を可能にしてもよい。発現したマーカータンパク質を直接または間接に検出し得る場合にもまた、形質転換された宿主を選択し得る。追加的選択技術は、米国特許第7,238,482号明細書、米国特許第7,259,255号明細書、および国際公開第2006/052870号パンフレットに記載される。
【0134】
形質転換に続いて、変異Δ5デサチュラーゼ(場合により宿主細胞内で同時発現されるその他のPUFA酵素)に適した基質が、宿主によって天然にまたは遺伝子導入的に生成されてもよく、またはそれらは外来的に提供されてもよい。
【0135】
細菌、酵母、藻類、ストラメノパイル、卵菌類、ユーグレナ属および/または真菌をはじめとする多様な真核生物が、それによって本明細書に記載されるΔ6デサチュラーゼを含んでなる形質転換体を生じる宿主として適切である。これは転写、翻訳、およびタンパク質生合成装置が高度に保存されていることから考察される。したがって適切な宿主は、広い温度およびpH値範囲にわたり、単純または複合糖質、脂肪酸、有機酸、油、グリセロール、およびアルコール、および/または炭化水素をはじめとする多様な原材料上で増殖するものを含んでもよい。
【0136】
好ましい微生物宿主は、油性生物である。これらの油性生物は自然に油を合成および蓄積でき、総油分は乾燥細胞質量の約25%を超え、より好ましくは乾燥細胞質量の約30%を超え、最も好ましくは乾燥細胞質量の約40%を超え得る。様々な細菌、藻類、ユーグレナ属、コケ、真菌、酵母、およびストラメノパイルが自然に油性に分類される。代案の実施態様では、例えばサッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)などの酵母非油性生物を遺伝子改変して、油性にし得る。
【0137】
より好ましい実施態様では、微生物宿主細胞は油性酵母である。典型的に油性酵母として同定された属としては、ヤロウィア(Yarrowia)、カンジダ(Candida)、ロドトルラ(Rhodotorula)、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、トリコスポロン(Trichosporon)、およびリポマイセス(Lipomyces)が挙げられるが、これに限定されるものではない。より具体的には、例証的な油合成酵母としては、ロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)、リポマイセス・スターケイ(Lipomyces starkeyii)、L.リポフェラス(L.lipoferus)、カンジダ・レブカウフィ(Candida revkaufi)、C.プリケリーマ(C.pulcherrima)、C.トロピカリス(C.tropicalis)、C.ユチリス(C.utilis)、トリコスポロン・プランズ(Trichosporon pullans)、T.クタネウム(T.cutaneum)、ロドトルラ・グルチヌス(Rhodotorula glutinus)、R.グラミニス(R.graminis)、およびヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)(以前はカンジダ・リポリチカ(Candida lipolytica)に分類された)が挙げられる。代案としては油生合成は、微生物宿主細胞(例えば酵母)が細胞乾燥質量の25%を超える油を産生し得て、その結果油性と見なされるように遺伝子組換えされていてもよい。
【0138】
最も好ましいのは、油性酵母ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)である。さらなる実施態様では、最も好ましいのはATCC#20362、ATCC#8862、ATCC#18944、ATCC#76982および/またはLGAMS(7)1と称されるY.リポリティカ(Y.lipolytica)株である(Papanikolaou S.,およびAggelis G.,Bioresour.Technol.,82(1):43〜9頁(2002年))。
【0139】
油性酵母(すなわちヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))の形質転換に応用できる特定の教示としては、米国特許第4,880,741号明細書および米国特許第5,071,764号明細書、およびChen,D.C.ら(Appl.Microbiol.Biotechnol.,48(2):232〜235(1997年))が挙げられる。Y.リポリティカ(Y.lipolytica)中でARA、EPAおよびDHA産生を導くのに応用できる特定の教示は、それぞれ米国特許出願第11/264784号明細書(国際公開第2006/055322号パンフレット)、米国特許出願第11/265761号明細書(国際公開第2006/052870号パンフレット)、および米国特許出願第11/264737号明細書(国際公開第2006/052871号パンフレット)に提供される。
【0140】
この酵母中で遺伝子を発現する好ましい方法は、宿主ゲノム中への線状DNA組み込みによるものである。遺伝子の高レベル発現が所望される場合、ゲノム中の複数位置への組み込みが特に有用であり得、例えばUra3遺伝子座(GenBank登録番号AJ306421)、Leu2遺伝子遺伝子座(GenBank登録番号AF260230)、Lys5遺伝子遺伝子座(GenBank登録番号M34929)、Aco2遺伝子遺伝子座(GenBank登録番号AJ001300)、Pox3遺伝子遺伝子座(Pox3:GenBank登録番号XP_503244;またはAco3:GenBank登録番号AJ001301)、Δ12デサチュラーゼ遺伝子遺伝子座(米国特許第7,214,491号明細書)、Lip1遺伝子遺伝子座(GenBank登録番号Z50020)、Lip2遺伝子遺伝子座(GenBank登録番号AJ012632)、SCP2遺伝子遺伝子座(GenBank登録番号AJ431362)、Pex3遺伝子遺伝子座(GenBank登録番号CAG78565)、Pex16遺伝子遺伝子座(GenBank登録番号CAG79622)および/またはPex10遺伝子遺伝子座(GenBank登録番号CAG81606)である。
【0141】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)で使用される好ましい選択方法は、カナマイシン、ハイグロマイシン、およびアミノグリコシドG418に対する抵抗性、ならびにウラシル、ロイシン、リジン、トリプトファンまたはヒスチジンが欠如している培地上で増殖する能力である。酵母Ura-変異体を選択するために5−フルオロオロト酸(5−フルオロウラシル−6−カルボン酸一水和物;「5−FOA」)が使用されてもよく(米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書)、または形質転換体を選択するためにスルホニル尿素除草剤抵抗性を与える天然アセトヒドロキシ酸シンターゼ(またはアセト乳酸シンターゼ;E.C.4.1.3.18)が利用される(国際公開第2006/052870号パンフレット)。部位特異的リコンビナーゼシステムの使用によって、複数逐次形質転換で使用するために好ましい選択マーカーのペアを「再利用する」ユニークな方法もまた、米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書で教示される。
【0142】
上記に基づいて、本明細書ではARAまたはEPAのいずれかを産生する方法であって、
(a)
(i)少なくとも1つの制御配列と作動的に連結した、変異Δ5デサチュラーゼポリペプチドをコードする第1の組換えヌクレオチド分子、および
(ii)DGLAおよび/またはETAからそれぞれ構成されるデサチュラーゼ基質源
を含んでなる油性酵母(例えばヤロウィア・リポリティカ(Yarrowialipolytica))を提供するステップと;
(b)ステップ(a)の酵母を適切な発酵性炭素源の存在下で増殖させるステップであって、前記変異Δ5デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子が発現されて、それぞれDGLAがARAに変換されおよび/またはETAがEPAに変換されるステップと;
(c)ステップ(b)のARAおよび/またはEPAがそれぞれ回収されていてもよいステップと
を含む方法を開示する。
【0143】
基質供給が必要かもしれない。好ましい実施態様では、変異Δ5デサチュラーゼポリペプチドは、配列番号58、配列番号97、配列番号139、および配列番号179からなる群から選択される。したがって例えば変異Δ5デサチュラーゼポリペプチドをコードする遺伝子のヌクレオチド配列は、例えば配列番号191、配列番号192、配列番号193、配列番号194、および配列番号195からなる群から選択されてもよい。
【0144】
天然では油性酵母中で生成されるPUFAは、18:2脂肪酸(すなわちLA)と、一般的ではないが18:3脂肪酸(すなわちALA)に限定されるので、油性酵母を遺伝子改変し、本明細書に記載される変異Δ5デサチュラーゼに加えて長鎖PUFA生合成に必要な複数酵素を発現させて(それによって例えばARA、EPA、DPAn−6、DPA、およびDHAを生成できるようにして)もよい。
【0145】
具体的には本明細書では、
(a)少なくとも1つの制御配列と作動的に連結した、変異Δ5デサチュラーゼポリペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチドを含んでなる第1の組換えDNA構築物;および
(b)少なくとも1つの制御配列と作動的に連結した、Δ4デサチュラーゼ、Δ6デサチュラーゼ、Δ9デサチュラーゼ、Δ12デサチュラーゼ、Δ15デサチュラーゼ、Δ17デサチュラーゼ、Δ8デサチュラーゼ、Δ9エロンガーゼ、C14/16エロンガーゼ、C16/18エロンガーゼ、C18/20エロンガーゼ、およびC20/22エロンガーゼからなる群から選択されるポリペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチドを含んでなる少なくとも1つの追加的組換えDNA構築物
を含んでなる油性酵母が考察される。
【0146】
その他の適切な微生物宿主としては、油性細菌、藻類、ユーグレナ属、ストラメノパイル、卵菌綱、および真菌が挙げられる。この幅広い微生物宿主群の中で特に興味深いのは、ω−3/ω−6脂肪酸を合成する微生物、またはこの目的のために遺伝子改変し得るもの(例えばサッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)などの別の酵母)である。したがって例えば誘導性プロモーターまたは調節プロモーター制御下における、本Δ5デサチュラーゼ遺伝子のいずれかによるモルティエラ・アルピナ(Mortierella alpina)(ARA生成のために商業的に使用される)の形質転換は、増大した量のARAを合成できる形質転換体生物を生じ得る。M.アルピナ(M.alpina)を形質転換させる方法は、Mackenzieら(Appl.Environ.Microbiol.,66:4655頁(2000年))に記載される。同様にヤブレツボカビ目(Thraustochytriales)微生物(例えば、スラウストキトリウム(Thraustochytrium)、シゾキトリウム(Schizochytrium)を形質転換させる方法が、米国特許第7,001,772号明細書で開示される。
【0147】
本明細書に記載の変異Δ5デサチュラーゼの発現ために選択される宿主に関わりなく、複数の形質転換体をスクリーンして所望の発現レベル、制御、およびパターンを示す株を得なくてはならない。例えばJuretzekら(Yeast,18:97〜113頁(2001年))は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中の組み込まれたDNA断片の安定性が、使用される個々の形質転換体、受容者株、および標的プラットフォームに左右されると述べた。このようなスクリーニングは、DNAブロットのサザン分析(Southern,J.Mol.Biol.、98:503頁(1975年))、mRNA発現のノーザン分析(Kroczek,J.Chromatogr.Biomed.Appl.,618(1〜2):133〜145頁(1993年))、タンパク質発現のウェスタンおよび/またはElisa分析、PUFA生成物の表現型分析またはGC分析によって達成されてもよい。
【0148】
変異Δ5デサチュラーゼの配列知識は、様々な宿主細胞中でω−3および/またはω−6脂肪酸生合成を操作する上で有用であろう。生化学的経路を操作する方法は当業者によく知られており、油性酵母中、特にヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)中において、ω−3および/またはω−6脂肪酸生合成を最大化するために、多数の操作が可能であることが予期される。この操作は、PUFA生合成経路中の代謝エンジニアリング、または炭素からPUFAへの生合成経路に寄与する経路の追加的操作を必要とするかもしれない。望ましい生化学的経路のアップレギュレート、および望ましくない生化学的経路のダウンレギュレートに有用な方法は、当業者に良く知られている。
【0149】
例えばエネルギーまたは炭素についてω−3および/またはω−6脂肪酸生合成経路と競合する生化学的経路、または特定のPUFA最終産物の生成を妨げる天然PUFA生合成経路酵素を遺伝子破壊によって排除し、または例えばアンチセンスmRNAなどのその他の手段によりダウンレギュレートしてもよい。
【0150】
ARA、EPAまたはDHAを増大させる手段としてのPUFA生合成経路中の操作およびその関連技術の詳細な考察は、それぞれ国際公開第2006/055322号パンフレット[米国特許出願公開第2006−0094092−A1号明細書]、国際公開第号2006/052870号パンフレット[米国特許出願公開第2006−0115881−A1号明細書]、および国際公開第2006/052871号パンフレット[米国特許出願公開第2006−0110806−A1号明細書]にあり、TAG生合成経路およびTAG分解経路(およびその関連技術)において望ましい操作についても同様である。
【0151】
上述の戦略いずれか1つによって、脂肪酸生合成経路の発現を調節することが有用かもしれない。例えば本明細書ではω−3および/またはω−6脂肪酸を生成するために、Δ9エロンガーゼ/Δ8デサチュラーゼ生合成経路およびΔ6デサチュラーゼ/Δ6エロンガーゼ生合成経路中の鍵酵素をコードする遺伝子を油性酵母中に導入する方法が提供される。天然ではω−3および/またはω−6脂肪酸生合成経路を保有しない油性酵母中で本変異Δ5デサチュラーゼ遺伝子を発現し、宿主生物の代謝エンジニアリングの様々な手段を使用して、これらの遺伝子の発現を連係させて、好ましいPUFA生成物の産生を最大化することが特に有用であろう。
【0152】
形質転換された微生物宿主細胞は、キメラ遺伝子の発現(例えばデサチュラーゼ、エロンガーゼ)を最適化する条件下で増殖させて、最大かつ最も経済的な所望のPUFA収率を生じさせる。一般に最適化されてもよい培地条件としては、炭素源のタイプおよび量、窒素源のタイプおよび量、炭素対窒素比、異なる無機イオン量、酸素レベル、増殖温度、pH、バイオマス生成相の長さ、油蓄積相の長さ、および細胞収穫時間および方法が挙げられる。油性酵母(例えばヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))などの関心のある微生物は、一般に複合培地(例えば酵母菌抽出物−ペプトン−デキストロース液体培地[「YPD」])で、または増殖に必要な構成要素が欠如することで所望の発現カセットの選択を強要する合成最少培地(例えばDIFCO Laboratories,Detroit,MI)からの酵母菌窒素ベース)上で増殖させる。
【0153】
本明細書に記載される方法および宿主細胞のための発酵培地は、米国特許第7,238,482号明細書で開示されるような適切な炭素源を含有しなくてはならない。本明細書の方法で利用される炭素源は多種多様な炭素含有源を包含してもよいことが考察されるが、好ましい炭素源は糖(例えばグルコース)、グリセロール、および/または脂肪酸である。
【0154】
窒素は、無機(例えば(NH42SO4)または有機(例えば尿素またはグルタメート)源から供給されてもよい。適切な炭素および窒素源に加えて、発酵培地は、適切なミネラル、塩、補助因子、緩衝液、ビタミン、および油性宿主増殖とPUFA生成に必要な酵素的経路促進とに適することが当業者に知られている、その他の構成要素もまた含有しなくてはならない。脂質およびPUFA合成を促進するFe+2、Cu+2、Mn+2、Co+2、Zn+2、およびMg+2などのいくつかの金属イオンが特に注目される(Nakahara,T.ら,Ind.Appl.Single Cell Oils,D.J.KyleおよびR.Colin編,61〜97頁(1992年))。
【0155】
本明細書に記載される方法および宿主細胞に好ましい増殖培地は、イーストニトロゲン基礎培地(DIFCO Laboratories,Detroit,MI)などの一般的な商業的に調製された培地である。その他の規定培地または合成増殖培地もまた使用してよく、形質転換宿主細胞の増殖に適した培地は、微生物学または発酵化学当業者に知られている。発酵のための適切なpH範囲は典型的に約pH4.0〜pH8.0の間であり、初期増殖条件範囲としてはpH5.5〜pH7.5が好ましい。発酵は好気性または嫌気性条件下で実行されてもよく、微好気条件が好ましい。
【0156】
代謝状態は増殖と脂肪の合成/保存との間で「平衡状態」でなくてはならないので、典型的には、油性酵母細胞中のPUFAの高レベルの蓄積は二段階過程を必要とする。したがって最も好ましくは、油性酵母(例えばヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica))中でのPUFA生成のために二段階発酵過程が必要である。このアプローチは米国特許第7,238,482号明細書に記載され、様々な適切な発酵過程デザイン(すなわちバッチ、流加、および連続)および増殖中の配慮についても同様である。
【0157】
PUFAは、宿主微生物中に遊離脂肪酸として、またはアシルグリセロール、リン脂質、スルホ脂質または糖脂質などのエステル化形態として存在してもよく、当該技術分野で良く知られている多様な手段を通じて宿主細胞から抽出されてもよい。酵母脂質の抽出技術、品質分析、および合格基準の1つの総説は、Z.Jacobs(Critical Reviews in Biotechnology,12(5/6):463〜491頁(1992年))によるものである。A.SinghおよびO.Ward(Adv.Appl.Microbiol.、45:271〜312頁(1997年))による後処理プロセスに関する簡潔な概要もまた入手できる。
【0158】
一般にPUFA精製のための手段としては、有機溶剤による抽出(例えば米国特許第6,797,303号明細書、および米国特許第5,648,564号明細書)、超音波処理、超臨界流体抽出(例えば二酸化炭素を使用する)、鹸化、および圧搾などの物理的手段、またはそれらの組み合わせが挙げられる。追加的詳細については、米国特許第7,238,482号明細書を参照されたい。
【0159】
ω−3および/またはω−6脂肪酸、特に例えばALA、GLA、ARA、EPA、DPA、およびDHAが組み込まれた多数の食品および飼料製品がある。長鎖PUFAを含んでなる微生物バイオマス、PUFAを含んでなる部分的に精製された微生物バイオマス、PUFAおよび/または精製PUFAを含んでなる精製微生物油は、食品および飼料製品中で機能して、現行の調合物に健康上の利点を与えることが考察される。より具体的にはω−3および/またはω−6脂肪酸を含有する油は、類似食品、肉製品、穀物製品、ベークド食品、スナック食品、および乳製品をはじめとするが、これに限定されるものではない、多様な食品および飼料製品中での使用に適する(より詳しくは米国特許出願公開第2006−0094092号明細書を参照されたい)。
【0160】
調合物中で本組成物を使用して、医療栄養物、健康補助食品、乳児用調製粉乳および医薬品をはじめとするメディカルフードに健康上の利点を与えてもよい。食品加工および食品調合の当業者は、本油の一定量および組成物をどのように食品または飼料製品に添加してもよいかを理解するであろう。このような量は本明細書で「有効」量と称され、食品または飼料製品、栄養補給することが意図される食餌、またはメディカルフードまたは医療栄養物が矯正しまたは治療することが意図される疾患によって決まる。
【実施例】
【0161】
本発明が具体的に完成することを例証するがその可能なバリエーションの全てを完全に定義するものではない、以下の実施例において本発明についてさらに詳述する。
【0162】
一般方法
実施例で使用する標準組換えDNAおよび分子クローニング技術は、当該技術分野でよく知られており、1.)Sambrook,J.、Fritsch,E.F.およびManiatis,T.、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1989年)(Maniatis);2.)T.J.Silhavy、M.L.Bennan、およびL.W.Enquist、「Experiments with Gene Fusions」、Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1984年);および3.)Ausubel,F.M.ら、「Current Protocols in Molecular Biology」、Greene Publishing Assoc.and Wiley−Interscience(Hoboken,NJ)による出版(1987年)で述べられる。
【0163】
微生物培養の維持および増殖に適した材料および方法は、当該技術分野でよく知られている。以下の実施例で使用するのに適した技術については、次で述べられている。Phillipp Gerhardt、R.G.E.Murray、Ralph N.Costilow、Eugene W.Nester、Willis A.Wood、Noel R.Krieg、およびG.Briggs Phillips編、「Manual of Methods for General Bacteriology」、American Society for Microbiology、Washington,D.C.(1994年)、またはThomas,D.Brock、「Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology」、第2版、Sinauer Associates:Sunderland,MA(1989年)。微生物細胞の増殖および維持のために使用される全ての試薬制限酵素および材料は、特に断りのない限り、Aldrich Chemicals(Milwaukee,WI)、DIFCO Laboratories(Detroit,MI)、GIBCO/BRL(Gaithersburg,MD)、またはSigma Chemical Company(St.Louis,MO)から得た。大腸菌(E.coli)株は典型的にルリア・ベルターニ(LB)プレート上で37℃で増殖させた。
【0164】
一般分子クローニングは、標準法に従って実施された(Sambrookら、前出)。DNA配列は、ベクターおよび挿入断片特異的プライマーの組み合わせを使用して、染料ターミネーター技術(米国特許第5,366,860号明細書;欧州特許第272,007号明細書)を使用して、ABI自動配列決定装置上で作り出された。配列編集はシーケンチャー(Gene Codes Corporation、Ann Arbor,MI)内で実施された。全ての配列は、双方向に少なくとも2回のカバレッジに相当する。遺伝子配列の比較は、DNASTARソフトウェア(DNASTAR Inc.、Madison,WI)を使用して達成された。
【0165】
略語の意味は次のとおり。「sec」は秒を意味し、「min」は分を意味し、「h」または「hr」は時間を意味し、「d」は日を意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「L」はリトルを意味し、「μM」はマイクロモル濃度を意味し、「mM」はミリモル濃度を意味し、「M」はモル濃度を意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「μmole」マイクロモルを意味し、「g」はグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「U」は単位を意味し、「bp」は塩基対を意味し、「kB」はキロ塩基を意味する。
【0166】
発現カセットの命名法
発現カセットの構造は簡易表記体系「X::Y::Z」で表され、Xはプロモーター断片を記載し、Yは遺伝子断片を記載し、Zはターミネーター断片を記載し、それらは全て互いに作動的に連結している。
【0167】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の形質転換および培養:
ATCC登録番号#20362、#76982、および#90812のヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)株は、American Type Culture Collection(Rockville,MD)から購入された。Y.リポリティカ(Y.lipolytica)株は、典型的に下に示すレシピに従ったいくつかの培地中で28〜30℃で増殖させた。寒天プレートは必要に応じて、標準法に従って各液体培地に20g/Lの寒天を添加して調製した。
【0168】
YPD寒天培地(1Lあたり):10gの酵母抽出物[Difco];20gのBactoペプトン[Difco];および20gのグルコース。
【0169】
基礎最少培地(MM)(1Lあたり):20gグルコース;1.7gアミノ酸非含有イーストニトロゲン基礎培地;1.0gプロリン;およびpH6.1(未調節)。
【0170】
最少培地+ロイシン(MM+ロイシンまたはMMLeu)(1Lあたり):上記のようにMM培地を調製して0.1gロイシンを添加する。
【0171】
高グルコース培地(HGM)(1Lあたり):80グルコース、2.58g KH2PO4、および5.36g K2HPO4、pH7.5(調節不要)。
【0172】
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)の形質転換は、参照によって本明細書に援用する米国特許出願公開第2009−0093543−A1号明細書に記載されるように実施した。
【0173】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)の脂肪酸分析:
脂肪酸分析のために、Bligh,E.G.およびDyer,W.J.(Can.J.Biochem.Physiol.、37:911〜917頁(1959年))で述べられているように、遠心分離によって細胞を収集して脂質を抽出した。ナトリウムメトキシドによる脂質抽出物のエステル交換によって脂肪酸メチルエステル[「FAMES」]を調製し(Roughan,G.、およびNishida,I.、Arch.Biochem.Biophys.、276(1):38〜46頁(1990年))、引き続いて30m×0.25mm(内径)HP−INNOWAX(Hewlett−Packard)カラムを装着したHewlett−Packard 6890 GCで分析した。オーブン温度は、3.5℃/分で170℃(25分間保持)から185℃であった。
【0174】
直接塩基エステル交換のために、ヤロウィア(Yarrowia)培養物(3mL)を採取して蒸留水で1回洗浄し、Speed−Vac内において真空下で5〜10分間乾燥させた。サンプルにナトリウムメトキシド(1%;100μL)を添加して、次にサンプルをボルテックスして20分間振盪した。3滴の1M NaClおよび400μLのヘキサンを添加した後、サンプルをボルテックスして遠沈した。上層を除去し、上述のようにGCによって分析した。
【0175】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)Y4036U株の構築
後述する実施例2〜4、6〜7、および9では、国際公開第2008/073367号パンフレット、に記載されるY.リポリティカ(Y.lipolytica)Y4036U株(Leu−、Ura−)を宿主として使用した。
【0176】
Y4036U株の開発には、Y2224株(野生型ヤロウィア(Yarrowia)ATCC#20362株のUra3遺伝子の自律変異からのFOA抵抗性変異体)、Y4001株(Leu−表現型がある17%EDAを産生する)、Y4001U1株(Leu−およびUra−表現型がある17%EDAを産生する)、およびY4036株(Leu−表現型がある18%DGLAを産生する)の構築を必要とした。
【0177】
野生型ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)ATCC#20362と比較したY4036U株の最終遺伝子型は次のとおり。GPD::FmD12::Pex20、YAT1::FmD12::Oct、YAT1::ME3S::Pex16、GPAT::EgD9e::Lip2、EXP1::EgD9eS::Lip、FBAINm::EgD9eS::Lip2、FBAINm::EgD8M::Pex20(FmD12はフザリウム・モニリフォルメ(Fusarium moniliforme)Δ12デサチュラーゼ遺伝子[国際公開第2005/047485号パンフレット]であり;ME3Sはモルティエラ・アルピナ(Mortierella alpina)に由来するコドン最適化されたC16/18エロンガーゼ遺伝子[国際公開第2007/046817号パンフレット]であり;EgD9eはミドリムシ(Euglena gracilis)Δ9エロンガーゼ遺伝子[国際公開第2007/061742号パンフレット]であり;EgD9eSはミドリムシ(Euglena gracilis)に由来するコドン最適化されたΔ9エロンガーゼ遺伝子[国際公開第2007/061742号パンフレット]であり;EgD8Mはミドリムシ(Euglena gracilis)[米国特許第7,256,033号明細書]に由来する合成変異Δ8デサチュラーゼ[国際公開第2008/073271号パンフレット]である)。
【0178】
実施例1
EgD5Sを含んでなるpDMW369構築物
本実施例は、キメラFBAIN::EgD5S::Pex20遺伝子を含んでなるプラスミドpDMW369について記載する(プラスミド構築については国際公開第2007/136671号パンフレットに記載されている)。プラスミドpDMW369(図2A;配列番号19)は以下の構成要素を含有した。
【0179】
表7:プラスミドpDMW369(配列番号19)の構成要素

【0180】
実施例2
EgD5S中の改善されたΔ5デサチュラーゼ活性をもたらすHXGG変異の同定
テンプレートとしてpDMW369(実施例1)、プライマーとして19対のオリゴヌクレオチド(配列番号20〜57;表8)を使用して単一アミノ酸変異を実施し、部位特異的変異導入(QuickChange Kit;Stratagene,CA)によってEgD5SのHPGGモチーフ(配列番号10)のプロリン残基を個々に変異させ、それによってあらゆる可能なアミノ酸置換を発生させた(すなわちHis−Xaa−Gly−Gly[HXGG]変異体、Xaaはあらゆるアミノ酸である)。各変異を含んでなるプラスミドを大腸菌(E.coli)XL2Blue細胞(Stratagene)に形質転換した。19個の各形質転換から4個のコロニーを拾い、液体培地中において37℃で一晩、個々に増殖させた。プラスミド(すなわち合計76個)をこれらの培養物から単離し、個々に配列決定して変異を確認した。
【0181】
一般方法に記載されるように、野性型pDMW369プラスミドおよび単離された変異プラスミドをY4036U株に個々に形質転換した。形質転換体をMMLeuプレート上で選択した。30℃で2日間の増殖後、形質転換反応からの各2つの形質転換体を新しいMMLeuプレート上に画線塗抹し、30℃でさらに2日間インキュベートした。次にコロニーを使用して、24ウェルQiagenブロック内の3mLのMMLeuに接種した。30℃の恒温器内でブロックを200rpmで振盪しながら、インキュベートした。培養物を2日間インキュベートした後、ブロックを遠心分離して上清を除去し、3mLのHGMを添加した。ブロックを30℃の恒温器内に戻しさらに5日間200rpmで振盪した。細胞を遠心分離によって収集し、脂質を抽出してエステル交換によってFAMEを調製し、引き続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した。
【0182】
HPGGモチーフ内の各変異に起因するΔ5デサチュラーゼ活性を下の表8に要約する。EgD5S変異体は変異HXGGモチーフの配列に従って命名される(すなわち例えば変異EgD5S−HAGG中のHPGGモチーフはP2からAへの置換を有し、それによってHis−Ala−Gly−Gly[HAGG]モチーフを生じる一方、変異EgD5S−HRGGはP2からRへの置換を有した)。転換効率は次式に従って判定した([生成物]/[基質+生成物])*100。結果はプラスミドpDMW369内の野生型EgD5S(配列番号10)と比較され、GC分析は形質転換体によって総脂質の8.8%のDGLAおよび4.5%のARAが生成されると判定した(すなわち平均転換効率は33.8%であった)。
【0183】
表8:EgD5SおよびHXGGモチーフ変異体中のΔ5デサチュラーゼ活性

*各EgD5S遺伝子(変異体または野生型)はpDMW369内で発現された。
**ND:この実験では変異体は得られなかった。
【0184】
上に基づいて、EgD5SのΔ5デサチュラーゼ活性に実質的に影響を及ぼすことなく、HPGGモチーフ内のプロリン残基がいくつかのアミノ酸で置換され得ることは明らかである。EgD5Sと比較してΔ5デサチュラーゼ活性が等しく、または改善されている好ましいプロリン置換はEgD5S−HGGG(33.6%転換)およびEgD5S−HYGG(34.6%転換)中に存在した。EgD5S−HHGG(32.8%転換)は、EgD5SのΔ5デサチュラーゼ活性の97%で機能した。
【0185】
実施例3
EgD5S中で改善されたΔ5デサチュラーゼ活性をもたらすHPGX変異の同定
テンプレートとしてpDMW369(実施例1)、プライマーとして19対のオリゴヌクレオチド(配列番号59〜96;表9)を使用して単一アミノ酸変異を実施し、部位特異的変異導入によって(QuickChange Kit;Stratagene、CA)、EgD5SのHPGGモチーフ(配列番号10)の第2のグリシン残基を個々に変異させ、それによってあらゆる可能なアミノ酸置換を発生させた(すなわちHis−Pro−Gly−Xaa[HPGX]変異体)。変異導入に続いてプラスミドをY4036Uに形質転換し、形質転換体を選択してMMLeuおよびHGM中で増殖させ、実施例2に記載されるようにFAMEを調製してGCによって分析した。
【0186】
HPGGモチーフ内の各変異に起因するΔ5デサチュラーゼ活性を下の表9に要約する。EgD5S変異体は変異HPGXモチーフの配列に従って命名される(すなわち例えば変異EgD5S−HPGA中のHPGGモチーフはG4からAへの置換を有し、それによってHis−Pro−Gly−Ala[HPGA]モチーフを生じる一方、変異EgD5S−HPGRはG4からRへの置換を有した)。転換効率は実施例2に記載される式に従って判定した。結果はプラスミドpDMW369内の野生型EgD5S(配列番号10)と比較され、GC分析は形質転換体によって総脂質の8.8%のDGLAaおよび4.5%のARAが生成されたと判定した(すなわち平均転換効率は33.8%であった)。
【0187】
表9:EgD5SおよびHPGXモチーフ変異体中のΔ5デサチュラーゼ活性

*各EgD5S遺伝子(変異体または野生型)はpDMW369内で発現された。
**ND:この実験では変異体は得られなかった。
【0188】
結果は、EgD5SのΔ5デサチュラーゼ活性に実質的に影響を及ぼすことなく、HPGGモチーフ内の第2のグリシン残基が、いくつかのアミノ酸で置換され得ることを実証した。EgD5Sと比較してΔ5デサチュラーゼ活性が等しく、または改善されている好ましいグリシン置換は、EgD5S−HPGS(37.3%転換)およびEgD5S−HPGT(35.5%転換)中に存在した。
【0189】
実施例4
野生型EgD5Sレベル以上で機能するEgD5変異体の定量分析
アミノ酸置換の予備分析が完結したら(実施例2および3)、野生型EgD5Sのほぼ転換率以上で機能する変異体(すなわちEgD5S−HGGG、EgD5S−HHGG、EgD5S−HYGG、EgD5S−HPGS、およびEgD5S−HPGT)の定量分析を実施した。上の変異を含有するプラスミドは、それぞれpDMW369−HGGG、pDMW369−HHGG、pDMW369−HYGG、pDMW369−HPGS、およびpDMW369−HPGTと称する。これらのプラスミドをpDMW369と共にY4036Uに再度形質転換して(一般方法)、MMLeu上に播種した。プレートを30℃で約4日間インキュベートした。各プレートからの12個の形質転換体を新鮮なMMLeuプレート上に再度画線塗抹し、30℃で再度インキュベートした。24ウェルブロック型内の3mLのMMLeu中に、形質転換体を接種した。ブロックを200rpm、30℃で2日間インキュベートした。2日間の増殖後、ブロックを遠心分離して上清を傾斜し、ペレットをHGMに再懸濁した。ブロックを30℃でさらに5日間インキュベートした。遠心分離によって細胞を収集して脂質を抽出し、エステル交換によってFAMEを調製して、引き続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した。
【0190】
12個のサンプルのDGLAからARAへの平均転換率を下の表10に要約した。
【0191】
表10:EgD5S HXGXモチーフ変異体中のΔ5デサチュラーゼ活性

*各EgD5S遺伝子(変異体または野生型)はpDMW369内で発現された。
【0192】
この実験は、EgD5S−HGGGおよびEgD5S−HHGG(配列番号58)およびEgD5S−HPGS(配列番号97)変異体のΔ5デサチュラーゼ活性が、野生型EgD5S対照と比較して増大していることを確認した。EgD5S−HGGGをコードする適切なヌクレオチド配列は配列番号190で記載され、EgD5S−HHGGをコードする適切な配列は配列番号191で記載され、EgD5S−HPGSをコードする適切なヌクレオチド配列は配列番号192で記載される。
【0193】
実施例5
EaD5Sを含んでなる構築物pZUFmEaD5Sの作成
本実施例は、キメラFBAINm::EaD5S::Pex20遺伝子を含んでなるプラスミドpZUFmEaD5Sの構築について記載する。プラスミドpZUFmEaD5S(配列番号98)は、pZUF17のNco I/Not I 断片(図2B;配列番号99)をpEaD5S(配列番号100)からのNco I/Not I EaD5S断片で置換することにより構築された[プラスミドpEaD5S(配列番号100)は、EaD5S遺伝子(配列番号13)をpUC57(GenBank登録番号Y14837)中にクローンして作り出された]。このライゲーションの生成物はpZUFmEaD5Sであり、それは以下の構成要素を含有した。
【0194】
表11:プラスミドpZuFmEaD5S(配列番号98)の構成要素

【0195】
実施例6
EaD5S中において改善されたΔ5デサチュラーゼ活性をもたらすHXGG変異の同定
テンプレートとしてpZUFmEaD5S(実施例5)、プライマーとして19対のオリゴヌクレオチド(配列番号101〜138;表12)を使用して単一アミノ酸変異を実施し、部位特異的変異導入によって(QuickChange Kit;Stratagene,CA)EaD5SのHPGGモチーフ(配列番号14)のプロリン残基を個々に変異させ、それによってあらゆる可能なアミノ酸置換(すなわちHis−Xaa−Gly−Gly[HXGG]変異体)を発生させた。各変異を含んでなるプラスミドを大腸菌(E.coli)XL2Blue細胞に形質転換した。19個の各形質転換から4個のコロニーを拾い、液体培地中において37℃で一晩、個々に増殖させた。プラスミド(すなわち合計76個)をこれらの培養物から単離し、個々に配列決定して変異を確認した。
【0196】
野性型pZUFmEaD5Sプラスミドおよび単離された変異プラスミドを一般方法に記載されるようにY4036U株に個々に形質転換した。MMLeuプレート上で形質転換体を選択し、次に(恒温器の速度を200から250rpmに増大させたこと以外は)実施例2に記載されるようにして、液体MMLeuおよびHGM培地中で増殖させた。細胞を遠心分離により収集して脂質を抽出し、エステル交換によりFAMEを調製して、引き続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した。
【0197】
HPGGモチーフ内の各変異に起因するΔ5デサチュラーゼ活性を下の表12に要約する。EaD5S変異体は、変異HXGGモチーフの配列に従って命名される(すなわち例えば変異EaD5S−HAGG中のHPGGモチーフはP2からAへの置換を有し、それによってHis−Ala−Gly−Gly[HAGG]モチーフを生じる一方、変異EaD5S−HRGGはP2からRへの置換を有した)。転換効率は次式に従って測定された。([生成物]/[基質+生成物)*100。結果はpZUFmEaD5Sプラスミド内の野生型EaD5S(配列番号14)と比較され、GC分析は2つの形質転換体のDGLAからARAへの平均転換効率が25%であると判定した。
【0198】
表12:EaD5SおよびHXGGモチーフ変異体中のΔ5デサチュラーゼ活性

*各EaD5S遺伝子(変異体または野生型)はpZuFmEaD5S内で発現された。
**ND:この実験では変異体は得られなかった。
【0199】
上に基づいて、EaD5SのΔ5デサチュラーゼ活性に実質的に影響を及ぼすことなく、HPGGモチーフ内のプロリン残基をいくつかのアミノ酸で置換し得ることが明らかである。EaD5Sと比較してΔ5デサチュラーゼ活性が改善されている好ましいプロリン置換は、EaD5S−HAGG(26.3%転換)、EaD5S−HCGG(26.2%転換)、EaD5S−HKGG(25.2%転換)、およびEaD5S−HTGG(25.8%転換)中に存在した。
【0200】
野生型EgD5Sレベルでまたは野生型EgD5Sレベルを超えて機能するEaD5変異体の定量分析
野生型EaD5Sのほぼ転換率以上の活性で機能する変異体のさらなる定量分析を実施した(すなわちEaD5S−HAGG、EaD5S−HRGG、EaD5S−HNGG、EaD5S−HCGG、EaD5S−HHGG、EaD5S−HLGG、EaD5S−HKGG、EaD5S−HMGG、EaD5S−HFGG、EaD5S−HSGG、およびEaD5S−HTGG)。上の変異を含有するプラスミドは、それぞれpZuFmEaD5S−HAGG、pZuFmEaD5S−HRGG、pZuFmEaD5S−HNGG、pZuFmEaD5S−HCGG、pZuFmEaD5S−HHGG、pZuFmEaD5S−HLGG、pZuFmEaD5S−HKGG、pZuFmEaD5S−HMGG、pZuFmEaD5S−HFGG、pZuFmEaD5S−HSGG、およびpZuFmEaD5S−HTGGと称された。これらのプラスミドをpZuFmEaD5Sと共にY4036U(一般方法)に再度形質転換して、MMLeu上に播種した。プレートを30℃で約4日間インキュベートした。各プレートからの6個の形質転換体を新鮮なMMLeuプレート上に再度画線塗抹して、30℃で再度インキュベートした。24ウェルブロック型内の3mLのMMLeu中に、形質転換体を接種した。ブロックを200rpm、30℃で2日間インキュベートした。2日間の増殖後、ブロックを遠心分離して上清を傾斜し、ペレットをHGMに再懸濁した。ブロックを30℃でさらに5日間インキュベートした。遠心分離によって細胞を収集して脂質を抽出し、エステル交換によってFAMEを調製して、引き続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した。
【0201】
6個のサンプルのDGLAからARAへの平均転換率を下の表13に要約した。
【0202】
表13:EaD5S HXGGモチーフ変異体中のΔ5デサチュラーゼ活性

*各EaD5S遺伝子(変異体または野生型)はpZuFmEaD5S内で発現された。
【0203】
この実験は、EaD5S−HCGG(配列番号139)変異体のΔ5デサチュラーゼ活性が、野生型EaD5S対照と比較して増大していることを確認した。EaD5S−HCGGをコードする適切なヌクレオチド配列は、配列番号193で記載される。
【0204】
実施例7
RD5Sを含んでなる構築物pZUFmRD5Sの作成
本実施例は、キメラFBAIN::RD5S::Pex20遺伝子を含んでなるプラスミドpZURD5Sについて記載する(プラスミド構築については国際公開第2007/136646号パンフレットに記載されている)。プラスミドpZURD5S(配列番号140)は、EgD5S(配列番号9)の代わりにRD5S(配列番号17)で置換されていることを除いては、pDMW369(実施例1;配列番号19)と構造が同一である。
【0205】
実施例8
RD5S中で改善されたΔ5デサチュラーゼ活性をもたらすHXGG変異の同定
テンプレートとしてpZURD5S(実施例7)、プライマーとして19対のオリゴヌクレオチド(配列番号141〜178;表14)を使用して単一アミノ酸変異を実施し、部位特異的変異導入によって(QuickChange Kit;Stratagene,CA)、RD5S(配列番号17)のHPGGモチーフのプロリン残基を個々に変異させ、それによってあらゆる可能なアミノ酸置換を作成した(すなわちHis−Xaa−Gly−Gly[HXGG]変異体)。各変異からのプラスミドを大腸菌(E.coli)XL2Blue細胞に形質転換した。19個の各形質転換からの4個のコロニーを拾い、液体培地中において37℃で一晩、個々に増殖させた。プラスミド(すなわち合計76個)をこれらの培養物から単離し、個々に配列決定して変異を確認した。
【0206】
野性型pZURD5Sプラスミドおよび単離された変異プラスミドを一般方法に記載されるように、Y4036U株に個々に形質転換した。形質転換体をMMLeuプレート上で選択し、次に(恒温器の速度を200から250rpmに増大させたこと以外は)実施例2に記載されるようにしてMMLeuおよびHGM培地中で増殖させた。細胞を遠心分離により収集して脂質を抽出し、エステル交換によりFAMEを調製して、引き続いてHewlett−Packard 6890 GCで分析した。
【0207】
HPGGモチーフ内の各変異に起因するΔ5デサチュラーゼ活性を下の表14に要約する。RD5S変異体は変異HXGGモチーフの配列に従って命名された(すなわち例えば変異RD5S−HAGG中のHPGGモチーフは、P2からAへの置換を有しそれによってHis−Ala−Gly−Gly[HAGG]モチーフが生じる一方、変異RD5S−HRGGはP2からRへの置換を有した)。次式に従って転換効率を判定した([生成物]/[基質+生成物])*100。結果はプラスミドpZURD5S内の野生型RD5S(配列番号18)と比較され、GC分析は、2つの形質転換体のDGLAからARAへの平均転換効率を25.1%と判定した。
【0208】
表14:RD5SおよびHXGGモチーフ変異体中のΔ5デサチュラーゼ活性

*各RD5S遺伝子(変異体または野生型)はZURD5S中で発現された。
**ND:この実験では変異体を得られなかった。
【0209】
上記に基づいて、RD5SのΔ5デサチュラーゼ活性に実質的に影響を与えることなく、HPGGモチーフ内のプロリン残基をいくつかのアミノ酸で置換し得ることは明らかである。Δ5デサチュラーゼ活性がRD5Sと比較して改善されている好ましいプロリン置換が、RD5S−HCGG(34.8%転換)およびRD5S−HWGG(28.5%転換)中に存在した。
【0210】
野生型RD5S(すなわちRD5S−HCGGおよびRD5S−HWGG(配列番号179))の転換率以上に機能するこれらの変異の定量分析は、先にEgD5SおよびEaD5S変異体について記載したように実施される。RD5S−HCGGをコードする適切なヌクレオチド配列は配列番号194で記載され、RD5S−HWGGをコードする適切なヌクレオチド配列は配列番号195で記載される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Δ5デサチュラーゼ活性を有して、配列番号183(HGGG)、配列番号184(HHGG)、配列番号186(HCGG)、配列番号187(HWGG)、および配列番号185(HPGS)からなる群から選択されるアミノ酸モチーフを含んでなる、変異ポリペプチド。
【請求項2】
配列番号58(EgD5S−HGGGおよびEgD5S−HHGG)、配列番号97(EgD5S−HPGS)、配列番号139(EaD5S−HCGG)、および配列番号179(RD5S−HCGGおよびRD5S−HWGG)からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の変異ポリペプチド。
【請求項3】
親ポリペプチドのジホモ−γ−リノレン酸からアラキドン酸への転換効率を超えるジホモ−γ−リノレン酸からアラキドン酸への転換効率を有する、請求項1に記載の変異ポリペプチド。
【請求項4】
請求項1に記載のポリペプチドを実質的にコードする、単離された核酸分子。
【請求項5】
配列番号190、配列番号191、配列番号192、配列番号193、配列番号194、および配列番号195からなる群から選択される、請求項4に記載の単離された核酸。
【請求項6】
請求項1に記載のポリペプチドを発現する微生物宿主細胞。
【請求項7】
細菌、酵母、藻類、ユーグレナ属、ストラメノパイル、卵菌綱、および真菌からなる群から選択される、請求項6に記載の微生物宿主細胞。
【請求項8】
微生物宿主細胞が油性酵母である、請求項7に記載の微生物宿主細胞。
【請求項9】
油性酵母が、ヤロウィア(Yarrowia)、カンジダ(Candida)、ロドトルラ(Rhodotorula)、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、トリコスポロン(Trichosporon)、およびリポマイセス(Lipomyces)からなる群から選択される、請求項8に記載の微生物宿主細胞。
【請求項10】
ジホモ−γ−リノレン酸の存在下で、請求項1に記載のポリペプチドを発現する微生物宿主細胞を増殖させるステップを含んでなり、前記ジホモ−γ−リノレン酸がアラキドン酸に変換される、アラキドン酸を生成する方法。
【請求項11】
エイコサテトラエン酸の存在下で請求項1に記載のポリペプチドを発現する微生物宿主細胞を増殖させるステップを含んでなり、前記エイコサテトラエン酸がエイコサペンタエン酸に変換される、エイコサペンタエン酸を生成する方法。
【請求項12】
宿主細胞がω−6脂肪酸およびω−3脂肪酸からなる群から選択される多価不飽和脂肪酸を産生する、請求項6に記載の微生物宿主細胞。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【公表番号】特表2012−502659(P2012−502659A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527976(P2011−527976)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/057393
【国際公開番号】WO2010/033753
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】