説明

変異型プロテアーゼ及び該プロテアーゼを用いたペプチド合成方法

【課題】優れたペプチド合成活性を有し、かつ、反応容器の定期的な洗浄が実質的に不要である新規プロテアーゼを提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を有するプロテアーゼの変異型であって、該アミノ酸配列における114番目のアミノ酸残基がセリン、アルギニン、アラニン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、メチオニン、プロリン、トレオニン、ロイシン、トリプトファン及びバリンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸に置換されている変異型プロテアーゼ;前記変異型プロテアーゼを、アミノ酸又はその誘導体から選ばれる1種以上を含む基質溶液と接触させる工程を含むペプチド合成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異型プロテアーゼに関する。また該プロテアーゼを用いたペプチド合成方法に関する。特に、アスパルテーム前駆体であるベンジルオキシカルボニル−α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル(以下、「Z-Asp-PheOMe」とも称する)の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業的に有用なプロテアーゼとして、サーモライシンが知られている。サーモライシンは、洗剤、食品製造、化粧品等の分野で使用され、特に、人工甘味料の一種であるアスパルテームの前駆体Z-Asp-PheOMeの合成等に使用されている(特許文献1参照)。
【0003】
サーモライシンは優れた酵素であるが、一分子あたりカルシウムイオンが4個存在するため、酵素反応を安定して行うためには、反応系内のカルシウムイオンの存在が重要となる(非特許文献1参照)。
【0004】
そのため、通常、サーモライシンを用いてペプチド合成反応を行う場合には、反応溶液中にカルシウムイオンを過剰に添加している(非特許文献2参照)。特にサーモライシンを用いてアスパルテーム前駆体等を連続的に製造する場合には、基質となるN-ベンジルオキシカルボニルアスパラギン酸(Z-Asp)等のキレート作用によりサーモライシンのカル
シウムイオンが除去されるため、反応液にカルシウムイオンを添加し続けることが必要である(非特許文献3及び4参照)。
【0005】
一方、カルシウムイオンはZ-Asp等と難溶性の塩を形成し、設備にスケーリングを起こ
すことが示唆されている(非特許文献5参照)。従って、サーモライシンを用いて反応を行う場合には、定期的に反応容器を洗浄することが必要である。
【0006】
一方、ペプチド合成に有用な酵素として、微生物Pseudomonas aeruginosa PST-01株が
産生するPST-01プロテアーゼが知られている(非特許文献6参照)。
【0007】
PST-01プロテアーゼ遺伝子は、既にクローニングされ、塩基配列も明らかにされている(非特許文献7参照)。
【0008】
PST-01プロテアーゼは、一分子あたりカルシウムイオンを1個含み、当該カルシウムイオンは容易に離脱しないため、カルシウムイオンを添加する必要は特にない。従って、サーモライシンを用いた場合のような反応容器の洗浄も実質的に不要である。
【0009】
但し、PST-01プロテアーゼを用いたZ-Asp-PheOMe合成反応は、サーモライシンを用いた場合と比べて、反応速度が遅い。
【特許文献1】特開平6−181761号公報
【非特許文献1】J. Feder, L. R. Garrett, and B. S. Wildi, Role of calcium inthermolysin, Biochemistry 10 (24), 4552-4556 (1971)
【非特許文献2】J. S. Fruton, Proteinases as catalysts of peptide bond synthesis, Transactions of the New York Academy of Sciences 41, 49-56 (1983)
【非特許文献3】K. Nakanishi and R. Matsuno, Recent developments in the enzymatic synthesis of peptides, Advances in Biotechnological Processes 10, 173-202 (1988)
【非特許文献4】中西一弘、水−有機溶媒二相系反応を利用したオリゴペプチドの合成、バイオサイエンスとインダストリー, 47 (8), 19-26 (1989))
【非特許文献5】:中井武、大橋武久監修、キラルテクノロジー、スーエムシー出版、1998年1月31日、65−67頁
【非特許文献6】H. Ogino, M. Yamada, F. Watanabe, H. Ichinose, M. Yasuda, and H. Ishikawa, Peptide synthesis catalyzed by organic solvent-stable protease from Pseudomonas aeruginosa PST-01 in monophasic aqueous-organic solvent systems, Journal of Bioscience and Bioengineering, 88(5), 513-518 (1999)
【非特許文献7】H. Ogino, J. Yokoo, F. Watanabe, and H. Ishikawa, Cloning and sequencing of a gene of organic solvent-stable protease secreted from Pseudomonas aeruginosa PST-01 and its expression in Escherichia coli, Biochemical Engineering Journal, 5 (3), 191-200 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、優れたペプチド合成活性を有し、かつ、反応容器の定期的な洗浄を実質的に不要とする新規プロテアーゼ及び該プロテアーゼを用いたペプチド合成方法を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決することを主な目的として検討を重ねた結果、PST-01プロテアーゼの変異体が、優れたペプチド合成活性を有することを見出し、更に検討を重ねて完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下の変異型プロテアーゼ、該プロテアーゼを用いたペプチド合成方法、及びZ-Asp-PheOMeの合成方法に関する。
【0013】
項1:配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するプロテアーゼの変異型であって、該アミノ酸配列における114番目のアミノ酸残基であるチロシンが、セリン、アルギニン、アラニン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、メチオニン、プロリン、トレオニン、ロイシン、トリプトファン及びバリンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸に置換されている変異型プロテアーゼ。
【0014】
項1に含まれる変異型プロテアーゼの1つとして、配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するプロテアーゼの変異型であって、該アミノ酸配列における114番目のアミノ酸残基であるチロシンが、アラニン、バリン又はロイシンに置換されている変異型プロテアーゼ。
【0015】
特に、配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するプロテアーゼの変異型であって、該アミノ酸配列における114番目のアミノ酸残基であるチロシンがアラニンに置換されている変異型プロテアーゼ。換言すると、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有する変異型PST-01プロテアーゼ。
【0016】
項2:配列表の配列番号1のアミノ酸配列における114番目のアミノ酸残基であるチロシンが、セリン、アルギニン、アラニン、システイン、ヒスチジン、メチオニン、トレオニン及びロイシンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸に置換されている項1に記載の変異型プロテアーゼ。
【0017】
項3:配列表の配列番号1のアミノ酸配列における114番目のアミノ酸残基であるチロシンがセリン、アルギニン、アラニン、システイン、ヒスチジン及びメチオニンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸に置換されている項1に記載の変異型プロテアーゼ。
【0018】
項4:更に、配列表の配列番号1のアミノ酸配列における114番目以外の1又は数個の
アミノ酸が欠失、置換又は付加されている、項1〜3に記載の変異型プロテアーゼ。
【0019】
換言すると、配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するプロテアーゼの変異型であって、該アミノ酸配列における114番目のアミノ酸残基であるチロシンがセリン、アルギニン、アラニン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、メチオニン、プロリン、トレオニン、ロイシン、トリプトファン及びバリンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸に置換され、かつ114番目以外の1又は数個の
アミノ酸が欠失、置換又は付加されている、項1〜3に記載の変異型プロテアーゼ。
【0020】
項4に含まれる変異型プロテアーゼの一つとして、配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するプロテアーゼの変異型であって、該アミノ酸配列における114番目のアミノ酸残基であるチロシンがアラニン、バリン又はロイシンに置換され、かつ114番目以外の1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されている変異型プロテアーゼ。
【0021】
特に、配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するプロテアーゼの変異型であって、該アミノ酸配列における114番目のアミノ酸残基であるチロシンがアラニンに置換され、かつ114番目以外の1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されている、項1に記載の変異型プロテアーゼ。換言すると、配列表の配列番号2のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されている変異型PST-01プロテアーゼ。
【0022】
また、項4に含まれる変異型プロテアーゼの一つとして、配列表の配列番号1のアミノ酸配列における114番目のアミノ酸残基であるチロシンが、セリン、アルギニン、アラニン、システイン、ヒスチジン、メチオニン、トレオニン及びロイシンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸に置換され、かつ114番目以外の1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されている変異型プロテアーゼ。
【0023】
また、項4に含まれる変異型プロテアーゼの一つとして、配列表の配列番号1のアミノ酸配列における114番目のアミノ酸残基であるチロシンがセリン、アルギニン、アラニン、システイン、ヒスチジン及びメチオニンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸に置換され、かつ114番目以外の1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されている変異型プロテアーゼ。
【0024】
好ましくは、配列表の配列番号1のアミノ酸配列における129番目、132番目、137番目
、142番目、148番目、186番目、187番目、190番目及び197番目から選ばれる1以上のアミノ酸が更に置換されている、項1〜3のいずれかに記載の変異型プロテアーゼ。
【0025】
項5:ペプチドの合成方法であって、項1〜4のいずれかに記載の変異型プロテアーゼを、アミノ酸及びその誘導体から選ばれる1種以上を含む基質溶液に接触させる工程を含む方法。
【0026】
項6:ベンジルオキシカルボニル−α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステルの合成方法であって、
項1〜4のいずれかに記載の変異型プロテアーゼを、ベンジルオキシカルボニル−α−L−アスパラギン酸及びL−フェニルアラニンメチルエステルを含有する基質溶液に接触させる工程を含む方法。
【0027】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0028】
1.変異型PST-01プロテアーゼ
本発明のプロテアーゼは、PST-01プロテアーゼの有する配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列において、114番目のチロシンがセリン、アルギニン、アラニン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、メチオニン、プロリン、トレオニン、ロイシン、トリプトファン及びバリンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸に置換されているアミノ酸配列を有する。
【0029】
例えば、PST-01プロテアーゼの有する配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列において、114番目のチロシンがアラニンに置換されている変異型PST-01プロテアーゼは、配
列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する。
【0030】
PST-01プロテアーゼの有する配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列において、114番目のチロシンがバリンに置換されている変異型PST-01プロテアーゼは、配列表の配列
番号3で表されるアミノ酸配列を有する。
【0031】
PST-01プロテアーゼの有する配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列において、114番目のチロシンがロイシンに置換されている変異型PST-01プロテアーゼは、配列表の配
列番号4で表されるアミノ酸配列を有する。
【0032】
製造方法
本発明のプロテアーゼは、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列をコードするPST-01プロテアーゼ遺伝子において、PST-01プロテアーゼアミノ酸配列における114番目のチロシン残基をコードする部分を対応するアミノ酸をコードする塩基配列に置換した遺伝子を用いて、製造することができる。
【0033】
例えば、114番目のチロシンがアラニンに置換されている変異型PST-01プロテアーゼで
あれば、PST-01プロテアーゼ遺伝子において、PST-01プロテアーゼアミノ酸配列における114番目のチロシン残基をコードする部分をアラニンをコードする塩基配列に置換した遺
伝子を用いて、製造することができる。
【0034】
また例えば、114番目のチロシンがバリンに置換されている変異型PST-01プロテアーゼ
であれば、PST-01プロテアーゼ遺伝子において、PST-01プロテアーゼアミノ酸配列における114番目のチロシン残基をコードする部分をバリンをコードする塩基配列に置換した遺
伝子を用いて、製造することができる。
【0035】
例えば、114番目のチロシンがロイシンに置換されている変異型PST-01プロテアーゼで
あれば、PST-01プロテアーゼ遺伝子において、PST-01プロテアーゼアミノ酸配列における114番目のチロシン残基をコードする部分を、ロイシンをコードする塩基配列に置換した
遺伝子を用いて、製造することができる。
【0036】
PST-01プロテアーゼ遺伝子としては、配列表の配列番号5に記載の塩基配列を有する遺伝子を挙げることができる。例えば、PST-01プロテアーゼ遺伝子としては、非特許文献7(Biochemical Engineering Journal, 5 (2000) 191-200)に開示されている方法に従っ
て取得したPseudomonas aeruginosaPST-01株由来のPST-01プロテアーゼ遺伝子を挙げることができる。
【0037】
また、PST-01プロテアーゼ遺伝子は、例えば、ホスファイト トリエステル法 (Nature,310, 105 (1984))等の常法に従って、又はDNA シンセサイザーによって、配列表の配列番号5で表される塩基配列の全部又は一部を合成する等の方法により取得することもできる。
【0038】
また、Pseudomonas aeruginosa PST-01株と類似の性質を有する微生物から産生された
プロテアーゼや、PST-01プロテアーゼにおいて1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、付加しているプロテアーゼをコードする遺伝子を利用して取得することも可能である。
【0039】
PST-01プロテアーゼ遺伝子において、114番目のチロシン残基をコードする部分を、セリン、アルギニン、アラニン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、メチオニン、プロリン、セリン、トレオニン、ロイシン、トリプトファン及びバリンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸をコードする配列に置換する方法としては、例えば、Kunkelの方法 (T. A. Kunkel, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985))、ダブルプライマー法 (P. Carter, H. Bedouelle, G. Winter, Nucleic Acid Res., 13, 4431 (1985)) 、チオヌクレオチドを用いる方法 (J. W. Taylor, J. Ott, F. Eckstern, Nucleic Acid Res., 13, 8764 (1985))、カセット変異導入法(J. A. Wells, et al., Gene, 34, 315 (1985))等の方法を採ることができる。また、市販の遺伝子変異用キットを用いることも可能である。
【0040】
具体的な置換方法の一例を挙げると、PST-01プロテアーゼ遺伝子を含むプラスミドを鋳型とし、置換したい塩基を含む一対の変異プライマーと、DNAポリメラーゼを用いて、伸
張反応を繰り返し、更に制限酵素を用いて鋳型を消化することにより、部位特異的変異された遺伝子を含むプラスミドを得て、目的とする変異が導入されたPST-01プロテアーゼ遺伝子を得ることができる。
【0041】
PST-01プロテアーゼのN末端から114番目のアミノ酸であるチロシンをアラニンに置換するための変異プライマーは、常法に従って適宜設計できるが、例えば、配列番号7に記載の塩基配列を有するプライマー及び配列番号8に記載の塩基配列を有するプライマーを用いることができる(小文字は変異箇所を示す)。
配列番号7:GTGGAGAACGCCgcCTGGGACGGCACG
配列番号8:CGTGCCGTCCCAGgcGGCGTTCTCCAC
【0042】
変異型PST-01プロテアーゼは、上記のように変異を導入したPST-01プロテアーゼ遺伝子を用いて発現ベクターを構築し、該ベクターを用いて適当な宿主の形質転換を行い、得られた形質転換体により産生されたプロテアーゼを回収することにより、得ることができる。
【0043】
発現ベクターの種類は、かかる変異遺伝子を発現し得るものであれば特に限定されず、例えば、ファージ、プラスミド、コスミド等を用いることができる。好ましいベクターとしては、大腸菌や枯草菌由来のプラスミドを挙げることができる。
【0044】
また、発現ベクターには、変異型プロテアーゼ遺伝子を効率良く発現させるために、プロモーター、選択マーカー、及び複製起点等を適宜含めることもできる。
【0045】
発現ベクターの構築方法は、公知の方法に従って、適宜行うことができる。
【0046】
発現ベクターで形質転換を行う宿主は、選択した発現ベクターの種類に応じて適宜決定することができる。例えば、大腸菌由来のベクターであれば、宿主として大腸菌を用いることができる。また枯草菌由来のベクターであれば、宿主として枯草菌を用いることができる。
【0047】
また、形質転換は、選択した発現ベクター又は宿主の種類に応じ、公知の方法に従って、適宜行うことができる。
【0048】
得られた形質転換体を培地に培養し、かかる培養物からプロテアーゼ活性を有する酵素を採取することにより、変異型プロテアーゼを取得することができる。
【0049】
培地等の培養条件及び培養物の回収方法は、宿主の種類等に応じて適宜設定し得る。
【0050】
また、培養温度及び培養時間も宿主の種類に応じて決定されるが、大腸菌とする場合は、通常培養温度は10〜40℃、好ましくは20〜37℃程度であり、培養時間は、1〜30時間、
好ましくは2〜12時間程度である。
【0051】
上記培養により得られる培養物から、酵素を回収する方法は、常法に従って行うことができる。
【0052】
例えば、宿主が菌体外にプロテアーゼを分泌する場合は、培養物を遠心分離し、培養上清を得、得られた培養上清を粗酵素溶液として用いることができる。
【0053】
また、菌体外に分泌されない場合には、超音波破砕などによって菌体を破砕し、遠心分離を行って、粗酵素溶液を得ることができる。
【0054】
粗酵素溶液から、変異型プロテアーゼの単離精製を行う方法も、常法に従って行うことができる。
【0055】
具体的には、硫酸アンモニウムを用いた塩析、電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、透析法、疎水クロマトグラフィー、又はこれらの組合せ等を用いることができる。
【0056】
このように、変異型PST-01プロテアーゼは、変異型PST-01プロテアーゼ遺伝子を構築することによって、取得することができる。
【0057】
また、例えば、配列番号1のアミノ酸配列において、114番目のアミノ酸がアラニン、
アルギニン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン及びバリンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸に置換された配列を、ペプチドシンセサイザー等を用いてペプチド合成することにより、または、無細胞タンパク質合成法を利用して合成することにより、取得することもできる。
【0058】
配列
本発明の変異型プロテアーゼは、配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列において114番目のチロシンに相当するアミノ酸が対応するアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を
有する。
【0059】
例えば、114番目のチロシンがアラニンに置換されている変異型PST-01プロテアーゼは
、114番目の配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列において114番目のチロシンに相当するアミノ酸がアラニンであるアミノ酸配列、即ち、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する。
【0060】
本発明の変異型プロテアーゼは、本発明の効果を奏する範囲内であれば、配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列における114番目のチロシン以外の1又は数個のアミノ酸
が、欠失、置換又は付加されていてもよい。
【0061】
換言すると、本発明の変異型プロテアーゼは、
(1)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列において114番目のチロシンに相当
するアミノ酸がセリン、アルギニン、アラニン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、メチオニン、プロリン、トレオニン、ロイシン、トリプトファン及びバリンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸に置換されているアミノ酸配列、又は、
(2)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列において、114番目のチロシンに相
当するアミノ酸がセリン、アルギニン、アラニン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、メチオニン、プロリン、セリン、トレオニン、ロイシン、トリプトファン及びバリンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸に置換されており、かつ、114番目以外の1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加により変異されているアミノ酸配列を有するプロテアーゼを含む。
【0062】
114番目以外の変異部位としては、例えば、129番目、132番目、137番目、142番目、148番目、186番目、187番目、190番目及び197番目から選ばれる1以上の部位が挙げられる。
【0063】
具体的に、114番目以外の変異としては、例えば、132番目のアミノ酸のフェニルアラニンへの置換や、148番目のアミノ酸のアスパラギン、ヒスチジン又はトリプトファンへの
置換などが挙げられる。これらの変異は、ペプチド合成活性や酵素の安定性等を改善し得る。
【0064】
また、142番目のアミノ酸のセリンへの置換や、197番目のアミノ酸のグリシン、アラニン、バリン、フェニルアラニン又はチロシンへの置換などが挙げられる。これらの変異は、酵素活性を更に向上させ得る。
【0065】
また、190番目のアミノ酸のバリンへの置換などが挙げられる。
【0066】
性質
本発明の変異型プロテアーゼは、ペプチド合成活性やエステル合成活性に優れ、ペプチド合成反応やエステル合成反応の触媒として利用し得る。
【0067】
本発明の変異型プロテアーゼは、Z-Asp-PheOMeの合成において、高い合成活性を奏し、かつ、優れた反応速度を奏する。
【0068】
特に、114番目のチロシンがセリン、アルギニン、アラニン、システイン、ヒスチジン、メチオニン、トレオニン又はロイシンに置換されている変異型PST-01プロテアーゼは、一段と優れた反応速度を示す。
【0069】
更に、114番目のチロシンがセリン、アルギニン、アラニン、システイン、ヒスチジン又はメチオニンに置換されている変異型PST-01プロテアーゼは、より優れた反応速度を示し、サーモライシンよりも速い反応初速度を有する。
【0070】
また、サーモライシン(Thermolysin)を用いた反応は、カルシウムイオンの添加が必要で、反応容器の定期的洗浄も必要であるが、本発明の変異型PST-01プロテアーゼを用いた場合には、反応系にカルシウムイオンを添加することは必ずしも必要でなく、反応容器の定期的な洗浄が実質的に不要である(図1参照)。
【0071】
また、本発明の変異型PST-01プロテアーゼは、有機溶媒存在下での安定性に優れ、有機溶媒を用いたペプチド合成反応やエステル合成反応に利用することが可能である。
【0072】
例えば、ジメチルスルフォキシド、1,5−ペンタジオール、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセロール、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ジメチ
ルフォルムアミド等の有機溶媒存在下で安定である。
【0073】
また、本発明のプロテアーゼを、エチレンジアミン四酢酸等のキレートの存在下におくと、活性中心にある亜鉛イオンが除かれ、アポ酵素となるため、酵素活性を消失又は低減させ得る。また、当該アポ酵素に亜鉛イオンやコバルトイオン等を添加することで、酵素活性を復活させることも可能である。そのため、本発明のプロテアーゼを用いた反応においては、キレート剤や金属イオンの添加により、反応の進行や停止を制御することが可能である。また、例えば、基質がキレート作用を有する場合には、亜鉛イオンやコバルトイオンを添加することにより、酵素活性を向上させることもできる。
【0074】
2.ペプチド合成方法
本発明は、更に、上記変異型PST-01プロテアーゼを用いたペプチド合成方法を提供する。
【0075】
ペプチド合成反応は、アミノ酸、ペプチド又はそれらの誘導体から選ばれる1種以上を含む基質溶液に、上記変異型PST-01プロテアーゼを接触させる工程を含む。
【0076】
アミノ酸としては、目的とするペプチドに応じて適宜選択したものを用い得るが、例えば、アラニン、リシン、アルギニン、トレオニン、グリシン、グルタミン酸、フェニルアラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、ロイシン、チロシンからなる群から選ばれる1以上から選択することができる。
【0077】
ペプチドとしては、上記アミノ酸が複数結合してなるペプチドが挙げられる。
【0078】
アミノ酸又はペプチドの誘導体としては、上記アミノ酸又はペプチドの有するカルボキシル基やアミノ基を保護基で修飾したもの等が挙げられる。
【0079】
カルボキシル基の保護基としては、メチルエステル、エチルエステル、アミノ、tert-ブチルエステル、ヒドラジノ、アニリノ、ジフェニルメチルエステル等が挙げられる。
【0080】
またアミノ基の保護基としては、アセチル、t−ブチルオキシカルボニル、ベンゾイル、ベンジルオキシカルボニル、p−メトキシベンジルオキシカルボニル等が挙げられる。
【0081】
特に、本発明における変異型PST-01プロテアーゼは、ベンジルオキシカルボニル−α−L−アスパラギン酸及びL−フェニルアラニンメチルエステルを基質とするアスパルテーム前駆体の合成に適している。
【0082】
反応溶液における変異型PST-01プロテアーゼの濃度は、基質の種類等によって適宜設定し得るが、通常1μg/mL〜1 g/mL程度、好ましくは10μg/mL〜10 mg/mL程度である。
【0083】
反応溶液における基質の濃度は、基質の種類によって適宜設定し得るが、通常1μM〜1 M程度、好ましくは、1 mM〜1 M程度である。
【0084】
溶媒の種類は適宜設定し得るが、例えば、水、有機溶媒、または水と有機溶媒との混合溶媒等が挙げられる。
【0085】
水と有機溶媒との比率は、通常容積比で水:有機溶媒=100:0〜0:100程度、好ましくは、100:0〜30:70程度である。
【0086】
有機溶媒としては、ジメチルスルフォキシド、1,5−ペンタジオール、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセロール、メタノール、エタノール、2−プロパノー
ル、ジメチルフォルムアミド等が挙げられる。
【0087】
特に、ジメチルスルフォキシド、1,5−ペンタジオール、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセロール、メタノール及びエタノールから選ばれる1以上の有機溶媒と水との混合溶媒が、収率や反応速度に優れる点で好ましく用いられる。
【0088】
反応温度は適宜設定し得るが、通常−20℃〜60℃程度、好ましくは、25℃〜40℃程度である。また反応時間は、酵素量等に応じて適宜設定し得るが、通常1分〜1週間程度、好ましくは1時間〜2日程度である。
【0089】
反応系内には、必要に応じて、他の成分を適宜添加することができる。
【0090】
例えば、基質に強いキレート作用がある場合には、酵素活性や生産性の向上等を目的に、亜鉛イオン、コバルトイオン、カルシウムイオン等を少量添加することもできる。
【0091】
また、適当な塩や緩衝成分を適宜配合することもできる。
【0092】
反応後、目的とするペプチドを単離精製する方法は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、晶析、クロマトグラフィー、膜分離、抽出又はそれらの組合せを挙げることができる。
【0093】
本発明の変異型PST-01プロテアーゼを用いたペプチド合成方法は、優れた平衡収率並びに反応速度を奏する。
【0094】
更に、本発明のペプチド合成反応では、カルシウムの添加は特に必要なく、反応容器の定期的な洗浄も実質的に不要である(図1参照)。
【0095】
更に、本発明のペプチド合成方法では、有機溶媒を反応溶媒として用いることができ、ペプチドの収率をより向上させることが可能であり、また、雑菌の混入や、反応溶液中における雑菌の生育も低減させることもできる。
【0096】
3.Z-Asp-PheOMeの合成方法
本発明は、更に上記変異型PST-01プロテアーゼを用いたZ-Asp-PheOMeの合成方法を提供する。
【0097】
Z-Asp-PheOMeの合成方法は、L-フェニルアラニンメチルエステル(L-PheOMe)と、N-ベンジルオキシカルボニルアスパラギン酸(Z-Asp)を含む基質溶液に、上記変異型PST-01
プロテアーゼを接触させる工程を含む。
【0098】
反応溶液における変異型PST-01プロテアーゼの濃度は、通常1μg/mL〜1 g/mL程度、好
ましくは10μg/mL〜10 mg/mL程度である。
【0099】
基質溶液におけるL-フェニルアラニンメチルエステル(L-PheOMe)の濃度は、10 mM〜1M程度、好ましくは、50 mM〜0.7 M程度である。
【0100】
基質溶液における、N-ベンジルオキシカルボニルアスパラギン酸(Z-Asp)の濃度は、1mM〜1 M程度、好ましくは、1 mM〜60 mM程度である。
【0101】
L-PheOMeとZ-Aspとの使用比率は、L-PheOMe:Z-Asp=1:1〜1000:1程度、好ましくは1:1〜100:1程度である。
【0102】
溶媒の種類は適宜設定し得るが、例えば、水、有機溶媒、または水と有機溶媒との混合溶媒等が挙げられる。
【0103】
水と有機溶媒との比率は、通常容積比で水:有機溶媒=100:0〜0:100程度、好ましくは、100:0〜30:70程度である。
【0104】
有機溶媒としては、ジメチルスルフォキシド、1,5−ペンタジオール、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセロール、メタノール、エタノール、2−プロパノー
ル、ジメチルフォルムアミド等を挙げることができる。
【0105】
特に、ジメチルスルフォキシド、1,5−ペンタジオール、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセロール、メタノール及びエタノールから選ばれる1以上の有機溶媒と水との混合溶媒が、収率や反応速度に優れる点で好ましく用いられる。
【0106】
中でも、水とジメチルスルフォキシド(DMSO)との混合溶媒を用いることが好ましく、特に、容積比で、水:DMSO=80:20〜30:70程度、特に70:30〜50:50程度である混合溶媒が、速い反応速度と高い収率が得られる点で好ましい。
【0107】
反応温度は適宜設定し得るが、通常−20℃〜60℃程度、好ましくは、25℃〜40℃程度である。反応時間は、酵素量等に応じて適宜設定し得るが、通常1分〜1週間程度、好ましくは1時間〜2日程度である。
【0108】
反応系内には、必要に応じて、他の成分を適宜添加することができる。
【0109】
例えば、基質に強いキレート作用がある場合には、酵素活性や生産性の向上等を目的に、亜鉛イオン、コバルトイオン、カルシウムイオンを少量添加することもできる。
【0110】
また、適当な塩や緩衝成分を適宜配合することもできる。
【0111】
反応後、Z-Asp-PheOMeを単離精製する方法は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、晶析、クロマトグラフィー、抽出又はそれらの組合せを挙げることができる。
【0112】
本発明の変異型PST-01プロテアーゼを用いたZ-Asp-PheOMe合成方法では、高い合成活性と、速い反応速度が奏される。
【0113】
更に、サーモライシンを用いた反応では、カルシウムの添加が必要であり、反応容器の定期的な洗浄も必要であるが、本発明のZ-Asp-PheOMe合成反応では、カルシウムの添加は特に必要なく、反応容器の定期的な洗浄も実質的に不要となる(図1参照)。
【0114】
更に、本発明のZ-Asp-PheOMe合成方法では、有機溶媒を反応溶媒として用いることができ、Z-Asp-PheOMeの収率を更に向上させることができ、雑菌の混入や、反応溶液中での雑菌の生育を低減させることもできる。
【発明の効果】
【0115】
本発明は、PST-01プロテアーゼの114番目のチロシンがセリン、アルギニン、アラニン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、メチオニン、プロリン、トレオニン、ロイシン、トリプトファン及びバリンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸に置換された変異型PST-01プロテアーゼを提供する。
【0116】
本発明の変異型PST-01プロテアーゼは、ペプチド合成活性に優れ、高い平衡収率を示し、反応速度も速い。
【0117】
特にPST-01プロテアーゼの114番目のチロシンが、セリン、アルギニン、アラニン、システイン、ヒスチジン又はメチオニンに置換された変異型PST-01プロテアーゼは、サーモライシンよりも速い反応初速度を示す。
【0118】
また、サーモライシンを用いた反応は、カルシウムイオンの添加が必要であり、また、反応容器の定期的洗浄が必要であるが、本発明の変異型PST-01プロテアーゼを用いた反応では、カルシウムイオンの添加は特に必要なく、反応容器の定期的な洗浄も実質的に要しない。
【0119】
また、本発明の変異型PST-01プロテアーゼは、有機溶媒存在下での安定性に優れ、有機溶媒を用いたペプチド合成反応やエステル合成反応に利用することができ、高い合成収率を示す。
【0120】
また、本発明は、変異型PST-01プロテアーゼを用いたペプチド合成方法及びZ-Asp-PheOMe合成方法を提供する。本発明の合成方法では、優れた反応速度が奏される。
【0121】
更に、本発明の合成方法においては、カルシウムの添加は必ずしも必要でなく、反応容器の定期的な洗浄も実質的に不要である。また、本発明の合成方法は、有機溶媒を用いることができ、収率をより向上させることができる。また、雑菌の混入や、反応溶液中での雑菌の生育も低減させることができる。
【0122】
このように、本発明は、ペプチド合成に有用な新規プロテアーゼを提供するものであり、効率のよいペプチド合成方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0123】
以下、本発明を実施例や比較例等を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
【実施例1】
【0124】
1.プラスミドpPC1の構築
プラスミドpPC1を、H. Ogino, J. Yokoo, F. Watanabe, and H. Ishikawa, Cloning and sequencing of a gene of organic solvent-stable protease secreted from Pseudomonas aeruginosa PST-01 and its expression in Escherichia coli, Biochemical Engineering Journal, 5 (3), 191-200 (2000).に記載されている方法に従って作製した。
【0125】
具体的には、Pseudomonas aeruginosaPST-01株の染色体DNAをSau3A Iで部分分解し、pUC19のBamH Iサイトに挿入した後、大腸菌JM109株を形質転換した。プロテアーゼ活性が付与された形質転換体からプラスミドを抽出することによって、pPC1を取得した。なお、pPC1は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P−20964(受託日:平成18年7月18日)として寄託されている。
【0126】
またpPC1の全塩基配列の解析結果を、配列表の配列番号6に示す。
【0127】
2.部位特異的変異の導入
pPC1を鋳型とし、置換したい塩基を含む1対の変異プライマーとDNAポリメラーゼを用いて95℃で1分間保温した後、95℃で50秒間の変性、60℃で50秒間のアニーリング、ならびに68℃で5.2分間の伸長反応を18回繰り返した。さらに、68℃で7分間保温した後、Dpn Iを用いて鋳型を消化することにより、部位特異的変異を導入したプラスミドを構築した。
【0128】
PST-01プロテアーゼのN末端から114番目のアミノ酸であるチロシンをフェニルアラニンに置換する場合、変異プライマーとしては、配列表の配列番号9で表される塩基配列、と、配列表の配列表の配列番号10で表される塩基配列を用いた(小文字は変異箇所を示す)。
配列番号9 :GCAGCGTGGAGAACGCCTtCTGGGACGGCACGGCG
配列番号10:CGCCGTGCCGTCCCAGaAGGCGTTCTCCACGCTGC
【0129】
PST-01プロテアーゼのN末端から114番目のアミノ酸であるチロシンをアラニンに置換する場合、変異プライマーとしては、配列表の配列番号7で表される塩基配列と、配列表の配列表の配列番号8で表される塩基配列を用いた(小文字は変異箇所を示す)。
【0130】
PST-01プロテアーゼのN末端から114番目のアミノ酸であるチロシンをバリンに置換する場合、変異プライマーとしては、配列表の配列番号11で表される塩基配列と、配列表の配列表の配列番号12で表される塩基配列を用いた(小文字は変異箇所を示す)。
配列番号11:GCGTGGAGAACGCCgTgTGGGACGGCACGG
配列番号12:CCGTGCCGTCCCAcAcGGCGTTCTCCACGC
【0131】
PST-01プロテアーゼのN末端から114番目のアミノ酸であるチロシンをロイシンに置換する場合、変異プライマーとしては、配列表の配列番号13で表される塩基配列と、配列表の配列表の配列番号14で表される塩基配列を用いた(小文字は変異箇所を示す)。
配列番号13:GCGTGGAGAACGCCcTgTGGGACGGCACGG
配列番号14:CCGTGCCGTCCCAcAgGGCGTTCTCCACGC
【0132】
PST-01プロテアーゼのN末端から190番目のアミノ酸であるイソロイシンをバリンに置換する場合、変異プライマーとしては、配列表の配列番号15で表される塩基配列と、配列表の配列番号16で表される塩基配列を用いた(小文字は変異箇所を示す)。
配列番号15:CCTGATCGGCTACGACgTCAAGAAGGGCAGCGG
配列番号16:CCGCTGCCCTTCTTGAcGTCGTAGCCGATCAGG
【0133】
PST-01プロテアーゼのN末端から114番目のアミノ酸であるチロシンをセリンに置換する場合、変異プライマーとしては、配列表の配列番号17で表される塩基配列と、配列表の配列表の配列番号18で表される塩基配列を用いた(小文字は変異箇所を示す)。
配列番号17:GGAGAACGCCTcCTGGGACGGCAC
配列番号18:GTGCCGTCCCAGgAGGCGTTCTCC
【0134】
PST-01プロテアーゼのN末端から114番目のアミノ酸であるチロシンをアルギニンに置換する場合、変異プライマーとしては、配列表の配列番号19で表される塩基配列と、配列表の配列表の配列番号20で表される塩基配列を用いた(小文字は変異箇所を示す)。
配列番号19:GGAGAACGCCgcCTGGGACGGCACGG
配列番号20:CCGTGCCGTCCCAGgcGGCGTTCTCC
【0135】
PST-01プロテアーゼのN末端から114番目のアミノ酸であるチロシンをシステインに置換する場合、変異プライマーとしては、配列表の配列番号21で表される塩基配列と、配列表の配列表の配列番号22で表される塩基配列を用いた(小文字は変異箇所を示す)。
配列番号21:GGAGAACGCCTgCTGGGACGGCACG
配列番号22:CGTGCCGTCCCAGcAGGCGTTCTCC
【0136】
PST-01プロテアーゼのN末端から114番目のアミノ酸であるチロシンをヒスチジンに置換する場合、変異プライマーとしては、配列表の配列番号23で表される塩基配列と、配列表の配列表の配列番号24で表される塩基配列を用いた(小文字は変異箇所を示す)。
配列番号23:GGAGAACGCCcaCTGGGACGGCACG
配列番号24:CGTGCCGTCCCAGtgGGCGTTCTCC
【0137】
PST-01プロテアーゼのN末端から114番目のアミノ酸であるチロシンをメチオニンに置換する場合、変異プライマーとしては、配列表の配列番号25で表される塩基配列と、配列表の配列表の配列番号26で表される塩基配列を用いた(小文字は変異箇所を示す)。
配列番号25:GGAGAACGCCaTgTGGGACGGCACG
配列番号26:CGTGCCGTCCCAcAtGGCGTTCTCC
【0138】
PST-01プロテアーゼのN末端から114番目のアミノ酸であるチロシンをトレオニンに置換する場合、変異プライマーとしては、配列表の配列番号27で表される塩基配列と、配列表の配列表の配列番号28で表される塩基配列を用いた(小文字は変異箇所を示す)。
配列番号27:GTGGAGAACGCCacCTGGGACGGCACGG
配列番号28:CCGTGCCGTCCCAGgtGGCGTTCTCCAC
【0139】
PST-01プロテアーゼのN末端から114番目のアミノ酸であるチロシンをトリプトファンに置換する場合、変異プライマーとしては、配列表の配列番号29で表される塩基配列と、配列表の配列表の配列番号30で表される塩基配列を用いた(小文字は変異箇所を示す)。
配列番号29:GTGGAGAACGCCTggTGGGACGGCACGG
配列番号30:CCGTGCCGTCCCAccAGGCGTTCTCCAC
【0140】
PST-01プロテアーゼのN末端から114番目のアミノ酸であるチロシンをイソロイシンに置換する場合、変異プライマーとしては、配列表の配列番号31で表される塩基配列と、配列表の配列表の配列番号32で表される塩基配列を用いた(小文字は変異箇所を示す)。
配列番号31:GGAGAACGCCaTCTGGGACGGCACG
配列番号32:CGTGCCGTCCCAGAtGGCGTTCTCC
【0141】
上記のように、pPC1を鋳型とした変異導入により、
PST-01プロテアーゼの114番目のアミノ酸であるチロシンをフェニルアラニンに置換したPST-01-Y114Fプロテアーゼ、
190番目のアミノ酸であるイソロイシンをバリンに置換したPST-01-I190Vプロテアーゼ、
114番目と190番目のアミノ酸をそれぞれフェニルアラニンとバリンに置換したPST-01-Y114F-I190Vプロテアーゼ、
PST-01プロテアーゼの114番目のアミノ酸であるチロシンをセリンに置換したPST-01-Y114Sプロテアーゼ、
PST-01プロテアーゼの114番目のアミノ酸であるチロシンをアルギニンに置換したPST-01-Y114Rプロテアーゼ、
PST-01プロテアーゼの114番目のアミノ酸であるチロシンをアラニンに置換したPST-01-Y114Aプロテアーゼ、
PST-01プロテアーゼの114番目のアミノ酸であるチロシンをシステインに置換したPST-01-Y114Cプロテアーゼ、
PST-01プロテアーゼの114番目のアミノ酸であるチロシンをヒスチジンに置換したPST-01-Y114Hプロテアーゼ、
PST-01プロテアーゼの114番目のアミノ酸であるチロシンをメチオニンに置換したPST-01-Y114Mプロテアーゼ、
PST-01プロテアーゼの114番目のアミノ酸であるチロシンをトレオニンに置換したPST-01-Y114Tプロテアーゼ、
PST-01プロテアーゼの114番目のアミノ酸であるチロシンをロイシンに置換したPST-01-Y114Lプロテアーゼ、
PST-01プロテアーゼの114番目のアミノ酸であるチロシンをバリンに置換したPST-01-Y114Vプロテアーゼ、
PST-01プロテアーゼの114番目のアミノ酸であるチロシンをトリプトファンに置換したPST-01-Y114Wプロテアーゼ、及び
PST-01プロテアーゼの114番目のアミノ酸であるチロシンをイソロイシンに置換したPST-01-Y114Iプロテアーゼの遺伝子を構築した。
【0142】
3.粗酵素溶液の調製
PST-01プロテアーゼ遺伝子を含むpPC1あるいはpPC1を鋳型として変異導入することによって作製された変異型PST-01プロテアーゼ遺伝子を含むプラスミドで形質転換した大腸菌JM109株を50 mg/Lのアンピシリンを含むLB培地(1.0 %(w/v) Tryptone、0.5%(w/v) Yeastextract、1.0 %(w/v) NaCl、pH 7.0)を用いて、37 ℃、150 rpmで16時間振盪培養した。培養液を4 ℃、9,840×gで5分間遠心分離し、沈殿した細胞を回収した。細胞を10 mM Tris-HCl 緩衝溶液(pH 8.0)200 mlに懸濁した後、氷冷しながら超音波照射することにより細胞を破砕した。さらに、4 ℃、19,400×gで20分間遠心分離し、遠心上清を粗酵素溶液として回収した。
【0143】
4.酵素の精製
粗酵素溶液に硫酸アンモニウム(硫安)を40%飽和になるように加えた。4 ℃、11,900×gで10分間の遠心分離して得た遠心上清に、75%飽和になるようにさらに硫安を加え、
同じ条件の遠心分離で得られた沈殿を回収した。沈殿は、1 M硫安を含む10 mM Tris-HCl
緩衝溶液(pH 8.0)に溶解し、1 M硫安を含む10 mM Tris-HCl緩衝溶液(pH 8.0)で平衡
化したButyl Toyopearl 650Mカラムに吸着させた。吸着した酵素は、1 M硫安を含む10 mMTris-HCl緩衝溶液(pH 8.0)と硫安を含まない10 mM Tris-HCl緩衝溶液(pH 8.0)を用
い、硫安濃度を直線的に低下させることにより、溶出させた。プロテアーゼ活性を有する画分を回収した。再度、同様にButyl Toyopearl 650Mカラムを用いたクロマトグラフィーを行い、プロテアーゼ活性を有する画分を回収することにより、精製酵素を得た。精製酵素は75%飽和となるように硫安を加え、沈殿させることにより濃縮した。
【0144】
5. 酵素の加水分解活性
0.6% (w/v)のカゼイン(ICN Pharmaceuticals, Inc. 社製Hammarsten1 Grade)を含む50 mM 四ホウ酸ナトリウム-HCl緩衝溶液(pH 8.5)5 mlを30℃で5分間予熱した後、酵素溶液100 μlを加えてよく混合し、30℃で反応した。10分後TCA溶液(5.44% (w/v) トリクロロ酢酸、6.6% (w/v) 酢酸および5.46% (w/v) 酢酸ナトリウムを含む水溶液)1 mlを加えて4 ℃で30分以上放置した後、濾紙(東洋濾紙No. 5C)で濾過した。この濾液の波長280 nmの吸光度を測定することによって、分解したタンパク質の濃度を測定した。反応のブランクとしては、酵素溶液を加えた後直ちにTCA溶液によって反応を停止したものを用いた。標準としてはチロシンを用い、1分間に分解するタンパク質量をチロシン1μmolの吸光度に相当するカゼインを可溶化した酵素活性量を1 Unitと定義した。
【0145】
6. 基質の調製
東京化成工業社製L-フェニルアラニンメチルエステル塩酸塩を水に溶解し、等モルの炭酸ナトリウムを添加することにより中和し、クロロホルムでL-フェニルアラニンメチルエステルを抽出した。クロロホルムは減圧により取り除き、L-フェニルアラニンメチルエステル(L-PheOMe)を得た。
【0146】
N-ベンジルオキシカルボニルアスパラギン酸(Z-Asp)は、関東化学社から購入した。
【0147】
7. アスパルテーム前駆体合成反応・分析条件
30 mM Z-Asp、500 mM L-PheOMe及び30 U/mL (約0.85 mg/mL)酵素を含み、水とジメチルスルフォキシド(DMSO)との容積比が50:50となるように調製した50 mM Tris-HCl 緩
衝溶液(pH 7.0)を、30℃で保温することにより反応させた。
【0148】
反応開始後、定期的に反応溶液を採取し、9倍量の60% (v/v)アセトニトリルを含む50 mMリン酸ナトリウム緩衝溶液(pH 2.5)を加え、−20℃に冷やすことにより、反応を停止
し、ナカライテスク社製Cosmosil 5C18-AR-IIを用い、流速0.8 ml/minの33% (v/v)アセトニトリルを含む50 mMリン酸ナトリウム緩衝溶液(pH 2.3)を移動相とする高速液体クロマトグラフで分析することにより、基質や生成物量を分析した。
【0149】
8. 種々の酵素を用いたアスパルテーム前駆体(Z-Asp-PheOMe)の合成結果
PST-01プロテアーゼの野生型と種々の変異型酵素、およびサーモライシン(シグマアルドリッチ ジャパン株式会社製Thermolysin from Bacillus thermoproteolyticus rokko (Protease Type X)を用い、50% DMSO存在下でZ-Asp-PheOMeの合成反応を行った。
【0150】
Z-Asp-PheOMeの生成量は、高速液体クロマトグラフ(島津製作所社製LC-10A)で測定した。
【0151】
反応開始3時間程度までの反応溶液を定期的にサンプリングし、サンプリングサンプル
に含まれる生成物量を測定することにより反応初速度を求めた。
【0152】
また、反応開始後、6日と7日後に反応溶液に含まれる生成物量を測定し、違いがないことを確認し、平衡収率とした。
【0153】
反応初速度(Initial rate)と平衡収率(Equilibrium yield)の結果を図2に示す。
【0154】
平衡収率は70から87%程度に至っており、野生型PST-01プロテアーゼ、PST-01-Y114F-I190Vプロテアーゼ、PST-01-I190Vプロテアーゼ、PST-01-Y114Fプロテアーゼ、PST-01-Y114Iプロテアーゼ、PST-01-Y114Wプロテアーゼ、PST-01-Y114Vプロテアーゼ、PST-01-Y114Lプロテアーゼ、PST-01-Y114Tプロテアーゼ、PST-01-Y114Mプロテアーゼ、PST-01-Y114Hプロテアーゼ、PST-01-Y114Cプロテアーゼ、PST-01-Y114Aプロテアーゼ、PST-01-Y114Rプロテアーゼ、PST-01-Y114Sプロテアーゼ及びサーモライシンの平衡収率はほぼ同程度であった。
【0155】
一方、反応初速度は、野生型PST-01プロテアーゼやPST-01-I190Vプロテアーゼはサーモライシンの半分以下であったが、PST-01-Y114FプロテアーゼやPST-01-Y114F-I190Vプロテアーゼでは、サーモライシンと同程度の反応初速度を示した。また、PST-01-Y114Mプロテアーゼは、PST-01-Y114Hプロテアーゼ、PST-01-Y114Cプロテアーゼ、PST-01-Y114Aプロテアーゼ、PST-01-Y114Rプロテアーゼ、及びPST-01-Y114Sプロテアーゼでは、それぞれサーモライシンの1.6倍、1.9倍、2.1倍、2.3倍、3.3倍、及び3.5倍の反応初速度を示した。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】サーモライシンを用いた反応工程と、本発明の変異型PST-01プロテアーゼを用いた反応工程の概要を比較した図面である。
【図2】PST-01プロテアーゼの野生型(wild type)と種々の変異型酵素、およびサーモライシンを用いて、50% DMSO存在下でZ-Asp-PheOMeの合成反応を行った場合の反応初速度(Initial rate)及び平衡収率(Equilibrium yield)の結果を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1のアミノ酸配列を有するプロテアーゼの変異型であって、該アミノ酸配列における114番目のアミノ酸残基であるチロシンが、セリン、アルギニン、アラニン、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、リシン、メチオニン、プロリン、トレオニン、ロイシン、トリプトファン及びバリンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸に置換されている変異型プロテアーゼ。
【請求項2】
配列表の配列番号1のアミノ酸配列における114番目のアミノ酸残基であるチロシンが、セリン、アルギニン、アラニン、システイン、ヒスチジン、メチオニン、トレオニン及びロイシンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸に置換されている請求項1に記載の変異型プロテアーゼ。
【請求項3】
配列表の配列番号1のアミノ酸配列における114番目のアミノ酸残基であるチロシンがセリン、アルギニン、アラニン、システイン、ヒスチジン及びメチオニンからなる群から選ばれるいずれか1つのアミノ酸に置換されている請求項1に記載の変異型プロテアーゼ。
【請求項4】
更に、配列表の配列番号1のアミノ酸配列における114番目以外の1又は数個のアミノ酸
が欠失、置換又は付加されている、請求項1〜3のいずれかに記載の変異型プロテアーゼ。
【請求項5】
ペプチドの合成方法であって、請求項1〜4のいずれかに記載の変異型プロテアーゼを、アミノ酸、ペプチド又はそれらの誘導体から選ばれる1種以上を含む基質溶液に接触させる工程を含む方法。
【請求項6】
ベンジルオキシカルボニル−α−L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステルの合成方法であって、
請求項1〜4のいずれかに記載の変異型プロテアーゼを、ベンジルオキシカルボニル−α−L−アスパラギン酸及びL−フェニルアラニンメチルエステルを含有する基質溶液に接触させる工程を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−183278(P2009−183278A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217928(P2008−217928)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年8月13日 社団法人 化学工学会発行の「化学工学会 第39回秋季大会研究発表講演要旨集」に発表
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】