説明

変色液及びそれを内蔵した塗布具

【課題】還元作用により消色又は変色する染料を含むインキにより形成された筆跡を短時間で容易に消色(変色)することができる変色液及びそれを内蔵した塗布具を提供する。
【解決手段】少なくとも水と還元剤と脂肪族カルボン酸アミド又は環状アミドの1種を含有する、還元作用により消色又は変色する染料を含むインキにより形成された像を消色又は変色させる変色液及び前記変色液を内蔵する塗布具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変色液とそれを内蔵した塗布具に関する。更に詳細には、還元作用により消色又は変色する染料を含むインキによって形成された像を短時間で消色又は変色する変色液とそれを内蔵した塗布具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、還元作用により消色又は変色する染料を含むインキを内蔵する筆記具が用いられており、前記筆記具によって形成される筆跡を必要に応じて消色又は変色するために用いられる変色液が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
前記変色液は塗布具に内蔵され、前記筆記具による筆跡の表面に塗布することで筆跡を消色(変色)させるため、教科書や参考書等の学習用教材の紙面に塗布されることが多いが、学習用教材に用いられる紙面は、カオリンによるコーティング等の表面処理したものが多く浸透性が低いため、筆跡上に変色液を塗布して消色(変色)するまでに時間がかかるものであった。そのため、ユーザーが何度も筆跡上に塗布してしまい、裏面まで浸透させて裏面の像を消色してしまったり、紙を傷めてしまうことがあった。
【特許文献1】特公昭62−28834号公報
【特許文献2】特公昭54−22344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、前記した従来の不具合を解決するものであって、即ち、還元作用により消色又は変色する染料を含むインキにより形成された筆跡を短時間で容易に消色(変色)することができる変色液及びそれを内蔵した塗布具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の変色液は、還元作用により消色又は変色する染料を含むインキにより形成された像を消色又は変色させる変色液であって、少なくとも水と還元剤と一般式(1)又は(2)で示すアミド化合物を含有することを要件とする。
【化1】

【化2】

(式中R1〜R5は、水素又は炭素数1〜3の炭化水素基を示す。)
更には、前記変色液を内蔵する塗布具を要件とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、コーティング等の表面処理を施した紙面に、還元作用により消色又は変色する染料を含むインキを用いて形成した筆跡であっても、短時間で容易に消色(変色)することが可能な変色液及びそれを内蔵した塗布具を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の変色液は、水と還元剤と共に、一般式(1)や(2)で示すアミド化合物を添加することにより、還元作用により消色又は変色する染料を含むインキを用いて表面処理を施した紙面に筆記した筆跡を短時間で容易に消色(変色)することが可能となるので、重ね塗りによって裏面の像を消色したり、紙を傷めることなく使用できるものである。
【0007】
一般式(1)、(2)で示すアミド化合物としては、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N−プロピルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジプロピルアセトアミド、イミダゾリジン−2−オン、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オン、1,3−ジプロピル−1,3−イミダゾリジン−2−オン等が例示できる。
前記アミド化合物は、変色液全量中1〜20重量%含有される。1重量%以下では、変色時間短縮効果が充分には得られず、20重量%の添加であれば、充分な変色時間短縮効果が得られるので、それ以上の添加は要しない。
【0008】
前記変色液に用いられる還元剤として具体的には、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸リチウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸亜鉛、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム、次亜塩素酸ナトリウム、ハイドロサルファイト等を例示でき、安全性及び変色又は消色性能の観点から亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム等の亜硫酸塩が好適に用いられる。
また、前記変色液には必要に応じて有機溶剤や着色剤や各種添加剤を配合できる。
前記着色剤として、還元剤によって変色し難い染料や顔料を用いることで、変色液を有色にでき、視認性に優れたものとなる。
前記還元剤は、変色液全量中1〜20重量%含有される。1重量%以下では、充分な消去性を付与することができず、20重量%の添加であれば、充分な消去性・変色性を満たすので、それ以上の添加は要しない。
【0009】
前記変色液には、添加剤として有機アミンを添加することが好ましい。有機アミンの添加により、インキを消去した際に残色が発生することを確実に抑制できる。
前記有機アミンとしては、例えば、n−アミルアミン、2−エチルブチルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、アニリン、n−ブチルアミン、ジアミルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、n−トリブチルアミン、トリアミルアミン、トリエタノールアミン等が例示できる。
【0010】
前記変色液は、各種ペン先を装着したマーキングペン、ボールペン等の形態を有する汎用の塗布具に充填して実用に供される。
前記ペン先のうち、マーキングペンチップとしては、例えば、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ、毛筆等が適用でき、ボールペンチップとしては、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属材料をドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属又はプラスチック製チップ内部に樹脂製のボール受け座を設けたチップ、或いは、前記チップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等が適用できる。尚、前記ボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック、樹脂、ゴム等が適用でき、直径0.1mm〜3.0mmの範囲のものが好適に用いられる。
【0011】
マーキングペン形態の塗布具に充填する場合、マーキングペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒内部に収容した繊維束からなる吸蔵体に変色液を含浸させ、ペン先に変色液を供給する構造、軸筒内部に直接変色液を収容し、櫛溝状の流量調節部材や繊維束からなる流量調節部材を介在させる構造、軸筒内部に直接変色液を収容して、弁機構により前記筆記先端部に所定量の変色液を供給する構造のマーキングペンが挙げられる。
ボールペン形態の塗布具に充填する場合、ボールペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒内部に収容した繊維束からなる吸蔵体に変色液を含浸させ、ペン先に変色液を供給する構造、軸筒内部に直接変色液を収容し、櫛溝状の流量調節部材や繊維束からなる流量調節部材を介在させる構造、ボールを先端部に装着したチップを直接又は接続部材を介して連結した軸筒に変色液と逆流防止用の液栓を収容した構造、収容管に変色液と逆流防止用の液栓を収容したボールペンレフィルを軸筒内に収容した構造を例示できる。
【0012】
変色液を収容する軸筒や収容管は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体が用いられる。
前記成形体は透明性を有していてもよく、透明性とは着色透明、半透明、着色半透明を含み、塗布液の残量を確認できる。
尚、前記透明性の軸筒或いは収容管は全体が透明性を有している他、塗布液の残量が視認できる部分的に透明性部分を有するものであってもよい。
【0013】
本発明の塗布具の形態は前述したものに限らず、相異なる形態のペン体を装着させたり、相異なる色調のインキを導出させるペン体を装着させた両頭式の筆記具であってもよい。
前記両頭式の筆記具としては、軸筒内に仕切り壁を設け、軸筒両端部にそれぞれ直接又は中継部材を介して筆記先端部を固着してなり、前記軸筒内の一方に還元作用により消色又は変色する染料を含むインキを収容してなる筆記具、或いは、軸筒内に、筆記先端部が軸筒両端部に位置するように二本以上のレフィルを収容してなり、前記レフィル内に変色液や還元作用により消色又は変色する染料を含むインキを収容してなる筆記具を例示できる。
【0014】
前記塗布具の一部(後端や複数本のレフィル)に還元作用により消色又は変色する染料を含むインキを内蔵する筆記具や塗布具を設けることで(所謂、両頭式や複式塗布具構造)、前記インキからなる筆跡を単一の塗布具により変色又は消色可能とした、携帯性に優れた塗布具となる。
【0015】
また、前記塗布具は、還元作用により消色又は変色する染料を含むインキを内蔵する筆記具(変色性筆記具)と組み合わせて塗布具セットとすることもできる。
前記塗布具セットは、単一の変色性筆記具と変色用塗布具とにより構成されていてもよいが、複数の色調や筆跡幅の異なる変色性筆記具や非変色性筆記具(還元作用により消色又は変色しないインキを内蔵する)と組み合わせた塗布具セットとすることにより、筆跡の変色や消色が可能な意外性に富んだ塗布具セットが得られる。
【0016】
前記還元作用により消色又は変色するインキに含まれる染料としては、汎用のものが用いられ、メチン系染料、トリメチルメタン系染料、ジフェニルメタン系染料、トリフェニルメタン系染料、キサンテン系染料、シアニン系染料、アゾ系染料、アントラキノン系染料、シアニン系染料等を使用することができる。
前記染料として具体的には、C.I.ベーシックブルー1、C.I.ベーシックブルー3、C.I.ベーシックブルー7、C.I.ベーシックブルー54、C.I.ベーシックブルー65、C.I.ベーシックブルー69、C.I.ベーシックオレンジ21、C.I.ベーシックオレンジ46、C.I.ベーシックレッド13、C.I.ベーシックレッド14、C.I.ベーシックレッド37、C.I.ベーシックレッド49、C.I.ベーシックグリーン1、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックバイオレット1、C.I.ベーシックバイオレット10、C.I.ベーシックバイオレット15、C.I.ベーシックバイオレット27、C.I.ベーシックイエロー49、C.I.アシッドブルー93、C.I.アシッドレッド92、C.I.アシッドグリーン3、C.I.アシッドバイオレット19、C.I.アシッドイエロー23を例示できる。
【実施例】
【0017】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の表に実施例及び比較例の変色液の組成を示す。尚、表中の組成の数値は重量部を示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表中の原料の内容について注番号に沿って説明する。
(1)ジメチルアセトアミド(一般式(1)中のR1、R2、R3=CH
(2)ジメチルアセトアミド(一般式(2)中のR4、R5=CH
【0020】
変色液の調製
各組成物の溶剤中に還元剤と各種添加剤を加えて攪拌することで変色液を調製した。
【0021】
変色用塗布具の作製
前記各変色液を、軸筒内に直接収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材を介して軸筒先端部にチゼル型繊維マーキングペンチップを取り付けてマーキングペン形態の変色用塗布具を得た。尚、前記変色用塗布具には着脱自在のキャップを備えてなる。
【0022】
変色性マーキングペンの作製
水82.4部、グリセリン15.0部からなる溶剤中に、赤色染料(保土谷化学工業(株)製、C.I.ベーシックレッド14)2.0部、リン酸エステル系界面活性剤(第一工業製薬(株)製、商品名:プライサーフA212E)0.5部、石炭酸0.1部を加えた後、1時間攪拌することで変色性インキを調製した。
得られた変色性インキを、ポリプロピレン製の軸筒内に直接収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材を介して軸筒先端部にチゼル型繊維マーキングペンチップを取り付けることで変色性マーキングペンを作製した。
前記変色性マーキングペンを用いて筆記すると、軽い筆記感で濃い赤色の筆跡が得られるものであった。
【0023】
前記変色用塗布具を用いて以下の試験を行った。
消色試験
先に得られた変色性マーキングペンを用いて、各種用紙に直線(赤色筆跡)を筆記して1分間放置した後、変色用塗布具で赤色の筆跡上を一度なぞった際の消色時間を確認した。
尚、使用した用紙A〜Dは、順にA:リンテック(株)製コート紙、B:リンテック(株)製ケント紙、C:啓林館 高等学校化学2、D:山川出版 詳説世界史、である。
試験の結果を以下の表に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
尚、試験結果の評価は以下の通りである。
消色試験
○:塗布後10秒以内に消色された。
△:塗布後10秒〜30秒で消色された。
×:塗布後30秒以上かかり消色される、又は色残りを生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元作用により消色又は変色する染料を含むインキにより形成された像を消色又は変色させる変色液であって、少なくとも水と還元剤と一般式(1)又は(2)で示すアミド化合物を含有することを特徴とする変色液。
【化1】

【化2】

(式中R1〜R5は、水素又は炭素数1〜3の炭化水素基を示す。)
【請求項2】
前記請求項1記載の変色液を内蔵する塗布具。

【公開番号】特開2008−274005(P2008−274005A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115521(P2007−115521)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】