説明

外用剤組成物

【課題】 塩酸テルビナフィンの可溶化のために、1,3-ブチレングリコールやポリエチレングリコールなどのポリオールを配合する検討を行った。しかし、塩酸テルビナフィンをポリオールにより可溶化すると塩酸テルビナフィンが分解して、経時的な塩酸テルビナフィンの含量が低下することがわかった。
本発明は、難溶性の塩酸テルビナフィンを安定に溶解した外用組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
塩酸テルビナフィン、ポリオール、ジブチルヒドロキシトルエンおよび有機酸を配合したことを特徴とする外用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外用剤組成物に関し、詳しくは塩酸テルビナフィンとポリオールを同時配合した時に生じる塩酸テルビナフィンの分解が抑制された外用抗真菌剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩酸テルビナフィンは汎用されている抗真菌剤の一つであり、種々真菌症に有用であることが知られている。塩酸テルビナフィンは浅在性真菌症などの外用抗真菌剤として有用なものであるが、その性質は水に難溶性であり、可溶化等の製剤的工夫が必要となる。可溶化の手段としては、水、低級アルカノール(エタノール等)および水溶解性または水混和性非イオン表面活性剤を含み、アニオン系表面活性剤を含まないことを特徴とする技術(特許文献1)のように、エタノールと界面活性剤を用いる方法が開示されている。しかしながら、界面活性剤とアルコールの系で可溶化する方法は、皮膚刺激性の懸念があり、塩酸テルビナフィンの可溶化方法としては十分とはいえない。また、一般的な手法としてpHの調節により可溶化・安定化する手段もあるが、塩酸テルビナフィンと併用する薬物の溶解性および安定性の問題から、限られたpH幅以外での可溶化・安定化は難しかった。
【0003】
また、従来塩酸テルビナフィンおよびブチルヒドロキシトルエンを配合する処方は知られている(特許文献2,3)が、本願発明の構成は知られていない。
【0004】
【特許文献1】特許第2651311号
【特許文献2】特開平05−85929号
【特許文献3】特開平05−148136号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは塩酸テルビナフィンの可溶化のために、1,3-ブチレングリコールやポリエチレングリコールなどのポリオールを配合する検討を行った。しかし、塩酸テルビナフィンをポリオールにより可溶化すると塩酸テルビナフィンが分解して、経時的な塩酸テルビナフィンの含量が低下することがわかった。
【0006】
本発明は、難溶性の塩酸テルビナフィンを安定に溶解した外用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討した結果、塩酸テルビナフィン、ポリオール、ジブチルヒドロキシトルエンおよび有機酸を同時に配合することにより、塩酸テルビナフィンの分解が抑制され、安定な状態で溶解できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、塩酸テルビナフィン、ポリオール、ジブチルヒドロキシトルエンおよび有機酸を配合したことを特徴とする外用組成物である。
【0009】
本発明において、塩酸テルビナフィンの配合量は、製剤全体(エアゾールの場合は原液中)の0.2〜2質量%であり、好ましくは0.5〜1.5質量%である。0.2質量%未満であると薬効が不十分になり、2質量%を超えて配合すると、安定に溶解した状態を保つのが難しくなるからである。
【0010】
本発明において、配合するポリオールの種類としては、ポリエチレングリコール(マクロゴール)、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリンなどがあげられる。ポリオールの配合量は、多量に配合しすぎると、皮膚塗布時にべたつき、使用感が非常に悪くなるため、通常、製剤全体(エアゾールの場合は原液中)の5〜30質量%であり、好ましくは10〜25質量%である。また、2種類以上のポリオールを混合して用いることもできる。本発明でテルビナフィン1質量部に対するポリオールの配合量は2.5〜30.0質量部が好ましい。
【0011】
有機酸の種類としては、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、エリソルビン酸、アルコルビン酸、グルコン酸、酒石酸などがあげられ、好ましくはクエン酸、乳酸、リンゴ酸またはエリソルビン酸である。
【0012】
有機酸の配合量は0.01〜5.0質量%であり、好ましくは0.05〜3.0質量%である。また、2種類以上の有機酸を混合して用いることもできる。本発明でテルビナフィン1質量部に対する有機酸の配合量は0.01〜5.0質量部が好ましい。
【0013】
ジブチルヒドロキシトルエンの配合量は0.01〜3.0質量%であり、好ましくは、0.05〜1.0質量%である。本発明ではテルビナフィン1質量部に対するジブチルヒドロキシトルエンの配合量は0.01〜3.0質量部が好ましい。
【0014】
本発明で用いる溶媒は通常の外用剤に使用されるものを用いることができるが塩酸テルビナフィンの溶解性と皮膚刺激性の点から含水エタノールが最も好ましい。
【0015】
本発明の組成物は、必要に応じて通常の添加剤などを混合して常法により、液剤、ローション剤、乳剤、チンキ剤、クリーム剤、水性ゲル剤、エアゾール剤などの外用製剤とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により塩酸テルビナフィンが安定に溶解することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下実施例および試験例により、本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
(ローション)
塩酸テルビナフィン 1.0g
塩化ベンザルコニウム 0.05g
グリチルリチン酸二カリウム 0.5g
l-メントール 1.0g
ポリエチレングリコール400 10.0g
エタノール 60.0g
ジブチルヒドロキシトルエン 0.05g
クエン酸 2.0g
精製水 全100g
上記処方で、常法によりローション剤を製造した。
【実施例2】
【0019】
(ローション)
塩酸テルビナフィン 1.0g
リドカイン 2.0g
塩化デカリニウム 0.1g
グリチルリチン酸二カリウム 0.5g
l-メントール 1.0g
1,3-ブチレングリコール 20.0g
エタノール 50.0g
ジブチルヒドロキシトルエン 0.05g
乳酸 2.0g
精製水 全100g
上記処方で、常法によりローション剤を製造した。
【実施例3】
【0020】
塩酸テルビナフィン 1.0g
リドカイン 2.0g
塩化ベンザルコニウム 0.05g
グリチルリチン酸二カリウム 0.5g
l-メントール 1.0g
1,3-ブチレングリコール 5.0g
エタノール 60.0g
ジブチルヒドロキシトルエン 0.05g
乳酸 2.0g
精製水 全100g
上記処方で、常法によりローション剤を製造した。
【実施例4】
【0021】
(ゲル剤)
塩酸テルビナフィン 1.0g
リドカイン 2.0g
1,3-ブチレングリコール 15.0g
カルボキシビニルポリマー 1.0g
EDTA−2Na 0.1g
エタノール 45.0g
ジブチルヒドロキシトルエン 0.05g
乳酸 2.0g
ジイソプロパノールアミン 適量
精製水 全100g
水、1,3-ブチレングリコールにカルボキシビニルポリマーを溶解し、室温で放置し、カルボキシビニルポリマーを膨潤させた。これにエタノール、ジブチルヒドロキシトルエン、塩酸テルビナフィン、リドカイン、乳酸およびEDTA−2Naを添加した。さらにジイソプロパノールアミンを加え、製剤のpHを約8に調整し、ゲルを製造した。
【実施例5】
【0022】
(エアゾール剤)
原液:
塩酸テルビナフィン 1.0g
塩化ベンザルコニウム 0.05g
グリチルリチン酸二カリウム 0.5g
1,3ブチレングリコール 20.0g
エタノール 50.0g
ジブチルヒドロキシトルエン 0.05g
乳酸 2.0g
ジイソプロパノールアミン 適量
精製水 全100mL
噴射剤:
DME 100mL
エタノール、精製水の基剤に他の原液成分を溶解後、ジイソプロパノールアミンにて製剤のpHを約8に調整し、原液を製造した。容器に充填後、バルブを装着し、噴射剤を充填してエアゾール剤を製造した。
【0023】
試験例1
塩酸テルビナフィンの安定性試験
(試験方法)
下記の処方で調製した溶液をガラスアンプルに充填し、塩酸テルビナフィンの安定性を50℃、2ヶ月の過酷試験で評価した。塩酸テルビナフィンの定量値は液体クロマトグラフを用いて測定し、試験開始時の定量値を100%として、算出した。処方を表1−1〜表1−3に、結果を図1〜3にそれぞれ示した。
【0024】
【表1−1】

【0025】
【表1−2】

【0026】
【表1−3】

【0027】
図1から明らかなように、塩酸テルビナフィンの含量はポリオール配合により低下した。しかし、そこにジブチルヒドロキシトルエンとエリソルビン酸を同時に配合することにより、改善が認められ、わずかな低下に留まった。この効果は、ジブチルヒドロキシトルエン、エリソルビン酸それぞれ単独では効果が十分ではなかった。
【0028】
次に、図2および3に示したとおり、有機酸の種類を増やし、塩酸テルビナフィンの安定化効果を確認した結果、1,3−ブチレングリコールおよびポリエチレングリコール400配合による塩酸テルビナフィンの不安定化は、有機酸(クエン酸、乳酸、リンゴ酸)とジブチルヒドロキシトルエンを同時に配合することにより、大きく改善した。なお、いずれのサンプルもpHは調整しており、pH調節による安定化ではないことは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により塩酸テルビナフィンを安定に溶解することが可能になったので外用医薬品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】塩酸テルビナフィンの残存率を対初期値で示した図であり、縦軸に50℃2ヶ月後の対試験開始時の残存率、横軸に試験サンプルを示した。
【図2】塩酸テルビナフィンの残存率を対初期値で示した図であり、縦軸に50℃2ヶ月後の対試験開始時の残存率、横軸に試験サンプルを示した。
【図3】塩酸テルビナフィンの残存率を対初期値で示した図であり、縦軸に50℃2ヶ月後の対試験開始時の残存率、横軸に試験サンプルを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸テルビナフィン、ポリオール、ジブチルヒドロキシトルエンおよび有機酸を配合したことを特徴とする外用組成物。
【請求項2】
ポリオールがポリエチレングリコール、1,3-ブチレングリコールおよびグリセリンから選ばれる1種または2種以上である請求項1に記載の外用組成物。
【請求項3】
有機酸がクエン酸、乳酸、リンゴ酸、エリソルビン酸、アルコルビン酸、グルコン酸および酒石酸から選ばれる1種または2種以上である請求項1または2に記載の外用組成物。
【請求項4】
ポリオールの配合量が製剤全体の5〜30質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の外用組成物。
【請求項5】
有機酸の配合量が製剤全体の0.01〜5.0質量%である請求項1〜4のいずれかに記載の外用組成物。
【請求項6】
ジブチルヒドロキシトルエンの配合量が製剤全体の0.01〜3.0質量%である請求項1〜5のいずれかに記載の外用組成物。
【請求項7】
含水エタノールを溶媒として用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の外用組成物。
【請求項8】
塩酸テルビナフィンの配合量が製剤全体の0.2〜2質量%である請求項1〜7のいずれかに記載の外用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−182733(P2006−182733A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380216(P2004−380216)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】