説明

外用医薬組成物及び貼付剤

【課題】ロキソプロフェン及びその塩の放出性、経皮吸収性、及び安定性を向上でき且つ皮膚刺激性の悪化を抑制できる外用医薬組成物及び貼付剤を提供すること。
【解決手段】貼付剤は、支持体と、この支持体上に積層された粘着剤層と、を備え、この粘着剤層は外用医薬組成物を含有する。この外用医薬組成物は、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩と、分子内に水酸基を有する補助成分と、ピロリドン化合物と、を含有する。粘着剤層は、硬化油を更に含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外用医薬組成物及び貼付剤に関し、特に、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩を含有する外用医薬組成物及び貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分子内にカルボン酸基を有するロキソプロフェンの塩等を含有する経皮吸収型の貼付剤が、広く知られている。例えば、粘着剤層に、ロキソプロフェンの塩と、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体と、クロタミトンとを含有する貼付剤(特許文献1参照)や、ロキソプロフェンナトリウム及びクロタミトンを含有する外用製剤(特許文献2参照)等が開示されている。更に、非ステロイド系消炎鎮痛剤に、有機酸(マレイン酸等)を加えた貼付剤(特許文献3参照)や、無機酸を加えた経皮吸収製剤(特許文献4参照)が開示されている。
【特許文献1】特開2004−43512号公報
【特許文献2】特開平10−120560号公報
【特許文献3】特公平7−47535号公報
【特許文献4】WO2006/048939号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1又は2に示される貼付剤では、ロキソプロフェンの塩の溶解性が悪く、皮膚刺激の面で問題となる場合があった。また、特許文献3又は4に示される貼付剤では、抗炎症成分の溶解性が充分には改善されておらず、抗炎症成分の放出性や経皮吸収性も、充分に満足できるものではなかった。
【0004】
また、粘着剤層に水酸基を有する化合物(例えば、メントール類)が含有されている場合、この化合物の水酸基が、ロキソプロフェン又はその塩のカルボン酸基との間でエステル化反応を起こす場合がある。このように、ロキソプロフェンやその塩の薬物安定性が充分ではなかった。
【0005】
本発明は、以上の問題に鑑みてなされたものであり、ロキソプロフェン及びその塩の放出性、経皮吸収性、及び安定性を向上でき且つ皮膚刺激性の悪化を抑制できる外用医薬組成物及び貼付剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、外用医薬組成物又は貼付剤の粘着剤層に、ピロリドン化合物を配合することより、前述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、具体的には以下のようなものを提供する。
【0007】
(1) 皮膚に適用される外用医薬組成物であって、
ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩と、
分子内に水酸基を有する補助成分と、
ピロリドン化合物と、を含有する外用医薬組成物。
【0008】
(2) 前記ピロリドン化合物は、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン、1,5−ジメチル−2−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン−5−カルボン酸、N−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドン、N−オクチル−2−ピロリドン、ポリビニルピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、及びメチルビニルピロリドンからなる群より選ばれる1種以上である(1)記載の外用医薬組成物。
【0009】
(3) 前記ピロリドン化合物は、N−メチル−2−ピロリドンを含む(2)記載の外用医薬組成物。
【0010】
(4) 硬化油を更に含有する(1)から(3)いずれか記載の外用医薬組成物。
【0011】
(5) 前記補助成分は、オキシ酸及びメントール類からなる群より選ばれる1種以上である(1)から(4)いずれか記載の外用医薬組成物。
【0012】
(6) 前記オキシ酸は、乳酸、酒石酸、及びクエン酸からなる群より選ばれる1種以上である(5)記載の外用医薬組成物。
【0013】
(7) 支持体と、この支持体上に積層された粘着剤層と、を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層は、(1)から(6)いずれか記載の外用医薬組成物を含有する貼付剤。
【0014】
(8) 前記ピロリドン化合物は、前記粘着剤層全体に対して、0.01質量%以上20質量%以下含有される(7)記載の貼付剤。
【0015】
(9) 前記粘着剤層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含有する(7)又は(8)記載の貼付剤。
【0016】
(10) 支持体と、この支持体上に積層された粘着剤層と、を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与剤、可塑剤、ロキソプロフェンナトリウム、乳酸、N−メチル−2−ピロリドン、及び硬化油を含有する貼付剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩と、分子内に水酸基を有する補助成分と、ピロリドン化合物と、を併せて含有させたので、ロキソプロフェン又はその塩の放出性、経皮吸収性、及び安定性を向上でき且つ皮膚刺激性の悪化を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の一例について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0019】
本発明の外用医薬組成物は、皮膚に適用される限りにおいて、任意の用途に使用できる。即ち、皮膚に直接塗布されてもよく、液状(液剤)、クリーム状(クリーム剤)、ゲル状(ゲル剤)といった任意の形態であってよいが、皮膚に貼付される貼付剤(パップ剤,貼付剤、経皮吸収型製剤、プラスター剤、テープ剤等)の粘着剤層に配合されることが好ましい。
【0020】
以下、貼付剤について説明する。本発明の貼付剤は、支持体と、この支持体上に積層された粘着剤層と、を備える。
【0021】
<粘着剤層>
本発明の貼付剤を構成する粘着剤層は、外用医薬組成物を含有する。この外用医薬組成物は、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩と、分子内に水酸基を有する補助成分と、ピロリドン化合物と、を少なくとも含有する。
【0022】
また、本実施形態に係る粘着剤層は、硬化油、基剤、粘着付与剤、可塑剤等を更に含有してもよい。
【0023】
〔ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩〕
ロキソプロフェンは、分子内にカルボン酸基を有する薬剤である。このカルボン酸基が他の成分の水酸基とエステル化反応を生じることが、ロキソプロフェンの安定性が損なわれる原因であることが推測される。
【0024】
薬理学的に許容できる塩としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸との酸付加塩、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、炭酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等の無機塩基塩、トリエチルアミン、ピペリジン、モルホリン、ピリジン、リジン等の有機塩基との塩が挙げられる。これらのうち、ナトリウム塩が好ましい。
【0025】
ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩の含有量は、特に限定されないが、通常、粘着剤層全体に対して0.1質量%以上20質量%以下である。
【0026】
〔補助成分〕
補助成分としては、分子内に水酸基を有する限りにおいて特に限定されないが、オキシ酸、メントール類、多価アルコール類、多価アルコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類が挙げられ、オキシ酸、メントール類が好ましい。このように、補助成分は、粘着剤層に含有される成分のうち、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩を除くあらゆる成分を指す。
【0027】
オキシ酸としては、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、サリチル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、クエン酸等が挙げられ、乳酸、酒石酸、クエン酸が好ましく、乳酸がより好ましい。
【0028】
メントール類としては、l−メントール、ハッカ油等が好ましく、l−メントールがより好ましい。
【0029】
多価アルコール類としては、グリセリン等が挙げられる。多価アルコール脂肪酸エステル類としては、モノステアリン酸グリセリル、ジオレイン酸グリセリル等が挙げられる。また、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類としては、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(例えば、「ポリソルベート80」)等が挙げられる。
【0030】
乳酸を補助成分として含有する場合、乳酸としては、特に限定されず、通常医薬品として用いられるものが使用される。なお、乳酸は無水乳酸であってもよく、乳酸と無水乳酸の混合物であってもよい。また光学活性にも限定はなく、ラセミ体、各異性体いずれでも使用できる。乳酸の含有量は、粘着剤層全体に対して0.05質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。乳酸の含有量は、小さすぎると薬物放出性及び経皮吸収性を充分に向上できない一方、大きすぎても不経済である。
【0031】
〔ピロリドン化合物〕
従来、クロタミトン、有機酸、無機酸等が単独で配合されたものが検討されているが、薬物溶解性が充分には改善されず、粘着剤層からのロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩の放出性が不充分であった。しかし、粘着剤層にピロリドン化合物を含有させることで、意外なことに、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩の溶解性が極めて改善され、粘着剤層中のロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩の拡散性が向上して、粘着剤層からのロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩の放出性及び経皮吸収性が良好となることが明らかとなった。これは、ロキソプロフェンナトリウム等及びオキシ酸等を併用することで、ロキソプロフェンがフリー体となるところ、このフリー体についてピロリドン化合物(N−メチル−2−ピロリドン等)が優れた溶解剤になることに起因するものと推察される。
【0032】
しかも、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩が補助成分とエステル化するのが抑制されるため、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩の安定性を向上できることが明らかとなった。即ち、本実施形態によれば、各成分を単独で配合することでは得られない、顕著に優れたロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩の放出性、経皮吸収性、及び安定性を有する貼付剤が得られる。
【0033】
本発明に用いられるピロリドン化合物としては、特に限定されず、医薬品として通常用いられるものが使用される。具体的には、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン、1,5−ジメチル−2−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン−5−カルボン酸、N−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドン、N−オクチル−2−ピロリドン、ポリビニルピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、及びメチルビニルピロリドン等が挙げられ、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩の放出性及び経皮吸収性、安定性をより向上できる点で、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0034】
ピロリドン化合物の含有量は、小さすぎる又は大きすぎると、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩の放出性、経皮吸収性、又は安定性を充分に向上できない懸念がある点で、粘着剤層全体に対して0.01質量%以上20質量%以下、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下である。
【0035】
また、ピロリドン化合物は、乳酸100質量部に対して、1質量部以上1000質量部以下で配合されるのが好ましく、2質量部以上200質量部以下で配合されるのがより好ましい。乳酸に対するピロリドン化合物の含有量比は、小さすぎる又は大きすぎるとロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩の安定性、溶解性、又は経皮吸収性を充分に向上できない懸念がある。
【0036】
〔硬化油〕
硬化油は、魚油等の液体不飽和脂肪酸の二重結合に水素が付加され、融点を上昇させて固化した油脂である。本発明に用いられる硬化油としては、特に限定されず、綿実油、大豆油、ヒマシ油、ナタネ油、パーム油、魚油などの原料を用いて水素添加されたもの等が使用できる。部分硬化油より硬化油の方が好ましく、具体的には硬化ヒマシ油が挙げられる。また、融点は80〜90℃程度でよく、含有量は、粘着剤層全体に対して0.1質量%以上であってよい。
【0037】
硬化油の含有量は、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩の放出性及び安定性を充分に向上できる点で、粘着剤層全体に対して0.5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上である。含有量の上限は、特に限定されないが、粘着剤層全体に対して20質量%以下であってよく、5質量%以下であることが好ましい。硬化油の含有量の範囲は、粘着剤層全体に対して0.5質量%以上5質量%以下であることが最も好ましい。
【0038】
[基剤]
本発明に用いられる基剤としては、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下、SIS共重合体とも呼ぶ)等が挙げられる。SIS共重合体は、ゴム系粘着剤の一種であり、A−B−A型重合体に属するもので、末端ブロックのAがポリスチレン、ゴム中間ブロックのBがポリイソプレンからなる分子構造モデルを有するスチレン系熱可塑性のエラストマーである。本発明に用いられるスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体としては、特に限定されず、従来用いられているものが使用できるが、イソプレンに対するスチレンの質量比(スチレン/イソプレン)が10/90〜30/70、好ましくは20/80〜25/75であり、溶液粘度(MPa・s〔cps〕、25℃)が約100〜3000のものが、一般的に使用できる。
【0039】
具体的には、イソプレンに対するスチレンの質量比(スチレン/イソプレン)が15/85で溶液粘度(MPa・s〔cps〕、25℃)が1,500のもの(商品名:クレイトンD−1107)、スチレン/イソプレンが15/85で溶液粘度(MPa・s〔cps〕、25℃)が900のもの(商品名:クレイトンD−1112)、スチレン/イソプレンが17/83で溶液粘度(MPa・s〔cps〕、25℃)が500のもの(商品名:クレイトンD−1117P)、スチレン/イソプレンが22/78のもの(商品名:クレイトンD−KX401)、スチレン/イソプレンが16/84のもの(商品名:クレイトンD−KX406)、スチレン/イソプレンが30/70で溶液粘度(MPa・s〔cps〕、25℃)が300のもの(商品名:クレイトンD−1125x)、スチレン/イソプレンが10/90で溶液粘度(MPa・s〔cps〕、25℃)が2,500のもの(商品名:クレイトンD−1320x)等の市販品が挙げられ(いずれもジェイエスアール クレイトンエラストマー社)、これらは1種単独で又は2種以上組み合せて使用できる。
【0040】
本発明においては、特に限定されないが、スチレン質量比率が高いものが好ましく用いられ、具体的にはスチレン/ゴム比(質量%)が22/78のもの(商品名:クレイトンD−KX401)が挙げられる。本発明に用いられるSIS共重合体の含有量は、特に限定されないが、粘着剤層全体に対し10〜40質量%であることが好ましい。
【0041】
[粘着付与剤]
本発明に用いられる粘着付与剤としては、特に限定されないが、脂環式飽和炭化水素樹脂(合成石油樹脂)やロジンエステル誘導体、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂等が好適に用いられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。粘着付与剤は、特に限定されないが、粘着剤層全体に対して、10〜35質量%含有されることが好ましい。
【0042】
脂環式飽和炭化水素樹脂としては、例えば、アルコンP−100(商品名:荒川化学工業社製)が挙げられる。ロジンエステル誘導体としては、例えば、エステルガムH(商品名:荒川化学工業社製)、KE−311(商品名:荒川化学工業社製)、KE−100(商品名:荒川化学工業社製)が挙げられる。テルペン系樹脂としては、例えば、YSレジン(商品名:ヤスハラケミカル社製)が挙げられる。
【0043】
[可塑剤]
本発明に用いられる可塑剤としては、特に限定されず、一般に用いられているものが使用できる。具体的には、流動パラフィン、オクチルドデカノール等の高級アルコール、スクワラン、スクワレン、ひまし油、液状ゴム(ポリブテン)、ミリスチン酸イソプロピルやパルミチン酸イソプロピル等の脂肪酸エステル等が挙げられ、これらのうち、流動パラフィンが好ましい。可塑剤は、特に限定されないが、一般的に粘着剤層全体に対して20〜60質量%含有される。
【0044】
[任意成分]
本発明の貼付剤は、任意成分として、賦形剤、抗酸化剤、薬剤の溶解剤、経皮吸収促進剤、香料、着色料等を含有してもよい。
【0045】
(賦形剤)
本発明に用いられる賦形剤としては、例えば無水ケイ酸、軽質無水ケイ酸、含水ケイ酸等のケイ素化合物、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子、乾燥水酸化アルミニウムゲル、含水ケイ酸アルミニウム等のアルミニウム化合物、カオリン、酸化チタン等が挙げられる。
【0046】
(抗酸化剤)
本発明に用いられる抗酸化剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、アスコルビン酸、トコフェロール、トコフェロールエステル誘導体、ブチルヒドロキシアニソール、2−メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0047】
(ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩の溶解剤、経皮吸収促進剤)
本発明に用いられる薬物の溶解剤や経皮吸収促進剤としては、ポリエチレングリコール(平均分子量は200〜30000)、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の多価アルコール類、オレイン酸、クエン酸やイソステアリン酸等の脂肪酸、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル等の脂肪酸エステル、カプリル酸モノグリセリド、カプリル酸トリグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル等の脂肪酸多価アルコールエステル、メントール、メントール誘導体、ハッカ油、リモネン等のテルペン類、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらのうち、クエン酸、イソステアリン酸、l−メントール等が好ましい。このように、本発明によれば、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩の優れた溶解性を有するため、クロタミトンのような皮膚刺激の強い溶解剤を配合する必要がない。よって、皮膚刺激性の悪化を抑制できる。
【0048】
<支持体>
本発明に用いられる支持体としては、特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン等の伸縮性又は非伸縮性の織布、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル等のフィルム、あるいはウレタン、ポリウレタン等の発泡性支持体が挙げられ、これらを1種単独で又は複数種が積層されたものが使用できる。
【0049】
<剥離ライナ>
本発明の貼付剤は、支持体と、この支持体の片面に積層された粘着剤層と、を備えるが、通常、粘着剤層の支持体との接触面とは反対の面に、剥離可能なライナを更に備える形態で提供される。
【0050】
剥離可能なライナとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル等のフィルム、アルミニウム蒸着の金属性のフィルム等が使用できる。ライナ表面にシリコン処理等の剥離処理が施されたものを使用してもよい。更に、ライナには、剥離を容易にするため、直線又は曲線状の切れ込みが設けられていてもよく、2以上のライナが一部重畳されたものや、折返し部を有するものでもよい。
【実施例】
【0051】
[試験例1(薬物溶解性試験)]
目視で観察することにより、各添加剤1gに対するロキソプロフェンナトリウム(LOX)の溶解量を測定した。なお、各添加剤及びN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の混合液は、表1に示される混合比で調製し、試験に用いた。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示されるように、ロキソプロフェンナトリウムの溶解量は、乳酸及びN−メチル−2−ピロリドンを併用した場合にのみ、顕著に大きかった。これに対して、乳酸又はN−メチル−2−ピロリドンを単独で使用した場合や、その他の組成である場合には、ロキソプロフェンナトリウムの溶解量が極めて小さかった。
【0054】
[試験例2(薬物安定性試験)]
各溶媒に、ロキソプロフェンナトリウム0.1gを添加し、25℃で一晩撹拌した。撹拌物をろ過して得られたろ液を試料溶液とし、この試料溶液を60℃で放置した。その0か月後(初期値)、0.5か月後、及び1.0か月後において、各溶媒系に存在するロキソプロフェンナトリウム質量を高速液体クロマトグラフ法(HPLC)によって測定した。初期値に対する各測定値の割合として、この結果を図1及び表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
[試験例3(薬物安定性試験)]
各溶媒に、ロキソプロフェンナトリウム0.1gを添加し、25℃で一晩撹拌した。撹拌物をろ過して得られたろ液を試料溶液とした。この試料溶液を120℃にて高圧滅菌処理し、その0時間目(初期値)、2時間目、4時間目、及び6時間目において、各溶媒系に存在するロキソプロフェンナトリウム質量を測定した。初期値に対する各測定値の割合として、この結果を図2及び表3に示す。なお、測定手順は、試験例2と同様とした。
【0057】
【表3】

【0058】
図1及び表2に示されるように、分子内に水酸基を有する化合物である濃グリセリン、「ポリソルベート80」、ハッカ油、又は乳酸からなる溶媒系では、ロキソプロフェンナトリウム含有量の経時的低下が大きかった。しかし、表2〜3、図1〜2に示されるように、乳酸及びN−メチル−2−ピロリドンを含有する溶媒系では、経時的なロキソプロフェンナトリウム含有量の低下が顕著に抑制されていた。従って、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩と、分子内に水酸基を有する補助成分と、N−メチル−2−ピロリドンと、を併用することで、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩の安定性を向上できることが示唆される。
【0059】
[試験例4(薬物安定性試験)]
ロキソプロフェン0.1g及び乳酸5gの混合溶液に、添加剤(アスパラギン酸、イソステアリン酸、エデト酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン)1gを更に混合した点を除き、試験例3と同様の手順で、各溶媒系に存在するロキソプロフェンナトリウム質量を測定した。
【0060】
また、N−メチル−2−ピロリドン1g、及び添加剤(アスパラギン酸、イソステアリン酸、エデト酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン)1gを更に混合した点を除き、試験例3と同様の手順で、各溶媒系に存在するロキソプロフェンナトリウム質量を測定した。初期値に対する各測定値の割合として、この結果を図3に示す。
【0061】
図3に示されるように、カルボン酸基を有する添加剤(アスパラギン酸、イソステアリン酸、エデト酸ナトリウム及びカルボキシビニルポリマー)を添加したときのLOX含量は、NMPの存否にかかわらず、添加剤なしの対照区におけるLOX含量と同程度であった。これにより、これらの溶媒系におけるロキソプロフェンナトリウムの安定化効果は、NMP単独による安定化効果であると考えられる。また、NMPは、いずれの添加剤と併用した場合でも薬物を安定化したことから、優れた汎用性を有することが分かった。
【0062】
その他、上記以外のカルボン酸基を有する化合物が共存していてもLOX安定性は良好であり、例えば、LOX、乳酸、アジピン酸にNMPが添加された系や、LOX、乳酸、安息香酸にNMPが添加された系においても、LOX安定性は良好であった。
【0063】
一方、ポリビニルピロリドンを添加したときのLOX含量は、NMPの存否にかかわらず、対照区におけるLOX含量よりも上昇していた。これにより、ポリビニルピロリドン等のピロリドン化合物は、単独でもロキソプロフェンナトリウムの安定化効果を奏するとともに、N−メチル−2−ピロリドンと併用することでロキソプロフェンナトリウムの安定性を相乗的に向上できることが確認された。
【0064】
以上の結果は、N−メチル−2−ピロリドン及びポリビニルピロリドンといったピロリドン化合物が、乳酸が有する水酸基と、ロキソプロフェンナトリウムが有するカルボン酸基との間でのエステル化反応、即ち、ロキソプロフェンナトリウムからロキソプロフェンの乳酸エステルへの変換を抑制したことによると推定される。
【0065】
次に貼付剤を作成し、ピロリドン化合物及び乳酸を併用することによる効果を各試験で評価確認した。なお、実施例と比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。
【0066】
<実施例1>
ヘンシェルミキサ(登録商標)内に、流動パラフィン、パインクリスタルKE−100(ロジンエステル誘導体;荒川化学工業社製)、ジブチルヒドロキシトルエン、硬化油(K−3ワックス200;川研ファインケミカル社製)を加え、混合撹拌した。この混合物にスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(D−KX401CS;ジェイエスアール クレイトンエラストマー社)を加え、更に、l−メントール、N−メチル−2−ピロリドン、乳酸、ロキソプロフェンナトリウムを加え、混合撹拌し、外用医薬組成物を作成した。作成した外用医薬組成物を、支持体(100g/m目付のメリヤス(ポリエステル製))上に展延して粘着剤層を形成し、剥離ライナフィルムを積層することで、貼付剤を作成した。各成分の含有量は、表4に示される通りとした。
【0067】
<実施例2>
硬化油を更に添加した以外は、実施例1と同様にして貼付剤を得た。各成分の含有量は、表4に示される通りとした。
【0068】
(比較例1)
NMPを含まないこと以外は、実施例1と同様にして貼付剤を得た。各成分の含有量は、表4に示される通りとした。
【0069】
(比較例2)
乳酸を含まないこと以外は、実施例1と同様にして貼付剤を得た。各成分の含有量は、表4に示される通りとした。
【0070】
(比較例3)
NMP及び乳酸を含まず、トリエタノールアミン(TEA)を配合したこと以外は、実施例1と同様にして貼付剤を得た。各成分の含有量は、表4に示される通りとした。
【0071】
(比較例4)
NMP及び乳酸を含まず、リン酸(89%リン酸)を配合したこと以外は、実施例1と同様にして貼付剤を得た。各成分の含有量は、表4に示される通りとした。
【0072】
実施例1〜2及び比較例1〜4について、その薬剤放出性、経皮吸収性を評価した。また、溶解性を確認するために、貼付剤中の薬物結晶の有無を観察した。この結果を表4に示す。
【0073】
【表4】

LOX :ロキソプロフェンナトリウム
SIS :スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体
LP :流動パラフィン
KE :KE−100(ロジンエステル誘導体)
L−MEN:l−メントール
TEA :トリエタノールアミン
NMP :N−メチル−2−ピロリドン
BHT :ジブチルヒドロキシトルエン
【0074】
表4に示されるように、比較例2及び4の貼付剤では薬物結晶が観察されたのに対して、実施例1〜2の貼付剤では薬物結晶が観察されなかった。従って、実施例1〜2の貼付剤が優れた薬物溶解性が確認され、皮膚刺激を低減できることが示唆された。
【0075】
[試験例4(放出試験)]
被験貼付剤(実施例1〜2、比較例1〜4)をユカタンマイクロピッグ摘出皮膚に貼付し、32℃、60%湿度の条件下で静置した。2時間後、8時間後、及び24時間後に、各貼付剤を剥がした後、被験貼付剤中の残存ロキソプロフェンナトリウムを抽出定量した。この残存量から、以下の数式に基づいて貼付剤から皮膚へと移行放出した薬物量を算出し、貼付剤からの放出性として評価した。この結果を表5に示す。
〔(適用前薬物量−薬物残存量)/適用前薬物量〕×100=薬物放出率(質量%)
【0076】
【表5】

【0077】
表5に示されるように、実施例1〜2の貼付剤は、比較例1〜4の貼付剤よりも多量の薬物を所定時間内に放出していた。従って、実施例1〜2の貼付剤が極めて優れた薬剤放出性を示すことが確認された。
【0078】
「試験例5(薬物経皮吸収性試験)」
次に、実施例1〜2及び比較例2の貼付剤を用いて、ヒト摘出皮膚を用いて薬物皮膚透過性の試験を行った。まず、縦型拡散セルに装着されたヒト摘出皮膚の真皮側(レシーバー側)に、等張性リン酸緩衝液(pH7.4)を適用し、角質層側(ドナー側)に各貼付剤を適用した。続いて、各時点で一定量のレシーバー液を採取した後、同量の等張性リン酸緩衝液を加え、採取したレシーバー溶液中の薬物濃度をHPLCにて測定した。この測定値から累積薬物透過量を算出し、この累積薬物透過量及び時間曲線の勾配部分から定常状態透過速度(flux)を、更に、直線部の時間切片で定義される時間遅れ(lag time)を算出した。この結果を表6に示す。
【0079】
【表6】

【0080】
表6に示されるように、実施例1〜2の貼付剤は、比較例2の貼付剤よりも、短時間に多量の薬物を経皮吸収させることができていた。従って、実施例1〜2の貼付剤が極めて優れた薬物の経皮吸収性を示すことが確認された。
【0081】
<実施例3〜4>
各成分の添加比を変更した点を除き、実施例1と同様にして貼付剤を得た。各成分の添加量は、表7に示される通りとした。
【0082】
【表7】

LOX :ロキソプロフェンナトリウム
SIS :スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体
LP :流動パラフィン
KE :KE−100(ロジンエステル誘導体)
L−MEN :l−メントール
NMP :N−メチル−2−ピロリドン
BHT :ジブチルヒドロキシトルエン
【0083】
[試験例6(薬物安定性試験)]
実施例3〜4の貼付剤を用いて、ロキソプロフェンナトリウム(LOX)の安定性に関する試験を行った。まず、各貼付剤から表面積10cmの断片を切り取り、この断片を40℃又は60℃で1.0月間放置した後、その質量を精密に量った。その後、剥離ライナフィルムを剥がし、50mLの遠沈管に入れ、そこにテトラヒドロフラン:メタノール混液を添加し、30分間振盪して薬物を抽出した。抽出液を高速遠心分離し、ろ過処理した液を試料溶液として、HPLCにて薬物質量を測定した。
【0084】
また、実験開始時(貼付剤の調製直後)において同様の手順で測定した薬物質量を初期値とし、この初期値に対する薬物量測定値の比率を算出することによりLOX含有量比(%)を求めた。この結果を表8に示す。
【0085】
【表8】

【0086】
表8に示されるように、実施例3〜4の貼付剤では、いずれも、ロキソプロフェンナトリウムの経時的な低減が良好に抑制されていた。中でも、実施例4の貼付剤におけるロキソプロフェンナトリウムの経時的な低減は、極めて良好に抑制されていた。このことから、乳酸及びN−メチル−2−ピロリドンを含有する溶媒系に、硬化油を添加することで、薬物安定性をより向上できることが確認された。
【0087】
以上の結果から、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩と、分子内に水酸基を含有する補助成分とを含有する粘着剤層に、N−メチル−2−ピロリドン等のピロリドン化合物を配合することにより、ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩の優れた溶解性、放出性、及び安定性を示し且つ経皮吸収性に優れた貼付剤が得られることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】ロキソプロフェンの薬理学的に許容できる塩の安定性を示すグラフである。
【図2】ロキソプロフェンの薬理学的に許容できる塩の安定性を示すグラフである。
【図3】ロキソプロフェンの薬理学的に許容できる塩の安定性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に適用される外用医薬組成物であって、
ロキソプロフェン又はその薬理学的に許容できる塩と、
分子内に水酸基を有する補助成分と、
ピロリドン化合物と、を含有する外用医薬組成物。
【請求項2】
前記ピロリドン化合物は、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン、1,5−ジメチル−2−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン−5−カルボン酸、N−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドン、N−オクチル−2−ピロリドン、ポリビニルピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、及びメチルビニルピロリドンからなる群より選ばれる1種以上である請求項1記載の外用医薬組成物。
【請求項3】
前記ピロリドン化合物は、N−メチル−2−ピロリドンを含む請求項2記載の外用医薬組成物。
【請求項4】
硬化油を更に含有する請求項1から3いずれか記載の外用医薬組成物。
【請求項5】
前記補助成分は、オキシ酸及びメントール類からなる群より選ばれる1種以上である請求項1から4いずれか記載の外用医薬組成物。
【請求項6】
前記オキシ酸は、乳酸、酒石酸、及びクエン酸からなる群より選ばれる1種以上である請求項5記載の外用医薬組成物。
【請求項7】
支持体と、この支持体上に積層された粘着剤層と、を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層は、請求項1から6いずれか記載の外用医薬組成物を含有する貼付剤。
【請求項8】
前記ピロリドン化合物は、前記粘着剤層全体に対して、0.01質量%以上20質量%以下含有される請求項7記載の貼付剤。
【請求項9】
前記粘着剤層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含有する請求項7又は8記載の貼付剤。
【請求項10】
支持体と、この支持体上に積層された粘着剤層と、を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、粘着付与剤、可塑剤、ロキソプロフェンナトリウム、乳酸、N−メチル−2−ピロリドン、及び硬化油を含有する貼付剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−163017(P2008−163017A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316286(P2007−316286)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000174622)埼玉第一製薬株式会社 (31)
【Fターム(参考)】