説明

多価アルコールの水素化分解物の製造方法

【課題】多価アルコールからその水素化分解物を、効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】反応液相中の水を除去しながら水素化分解反応を行う、回分方式の多価アルコールの水素化分解物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多価アルコールを効率的に転化させ、その水素化分解物を選択性良く製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界から得られる多価アルコールを、触媒を利用して水素化分解を行い、他の化合物に変換することは、物質の有効利用の観点から重要である。
一方、多価アルコールとして、食品や医療などに使用されているグリセリンは、年々生産量を増やしてきている。その理由として、化石化燃料の供給不安や、地球温暖化問題を背景にして延びてきた、バイオディーゼル燃料の普及が挙げられる。植物原料から製造されるバイオディーゼル燃料はその製造過程でグリセリンを生成する。しかしながら、現状ではグリセリンの用途は限られていることから、供給過剰になりつつあり、その有効利用が求められている。その一つとして触媒反応を用いたC3アルコール類への変換が世界的に注目されている。
【0003】
C3アルコール類は、様々な工業原料等として有用である。C3アルコール類の中でもジオール類としては、1,3−プロパンジオール及び1,2−プロパンジオールがあり、1,3−プロパンジオールは、ポリエステル及びポリウレタン原料等として注目されている。
また、1,2−プロパンジオール(以下、「1,2−PD」ということがある)は、例えばポリエステル樹脂、塗料、アルキッド樹脂、各種可塑剤、不凍液、ブレーキオイル等に用いられ、さらには食品保潤剤、果汁粘度増強剤、食品用セロハン柔軟剤、化粧品、医薬品等に有用である。
【0004】
グリセリンの有効利用として、グリセリンを水素化分解して1,2−PDを製造する種々の方法が提案されている。
例えば、触媒として、(1)ニッケル−レニウム/炭素を用いる方法(例えば、特許文献1参照)、(2)ルテニウム/炭素を用いる方法(例えば、特許文献2参照)、(3)銅−亜鉛/アルミナを用いる方法(例えば、特許文献3参照)、(4)銅−酸化亜鉛を用いる方法(例えば、特許文献4参照)、(5)銅−クロムを用いる方法(例えば、非特許文献1参照)、(6)ルテニウムを用いる方法(例えば、特許文献5参照)等が知られている。
しかしながら、これらの方法においては、グリセリンの転化率が低かったり、1,2−PDの選択率が低かったりなどして、充分に満足し得るものではなかった。特に工業的に実施が有利な低圧下では、高反応性と高選択性の両立が難しく、満足し得るものではなかった。また、非特許文献1、および特許文献5には、水の効果について記載されており、水をあらかじめ添加しておかないと選択性が大幅に低下することが記載されている。
【0005】
【特許文献1】国際公開第03/035582号パンフレット
【特許文献2】欧州特許出願公開第523014号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第523015号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第4302464号明細書
【非特許文献1】Applied Catalysis A: General, 281, 225, (2005)
【特許文献5】日本国特許出願公開第2007/283175号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、回分方式の触媒による多価アルコールの水素化分解物の製造方法において、その反応性を向上させることを課題とし、特に多価アルコールとしてグリセリンを用いた場合において、グリセリンの反応性を向上させ、1,2−プロパンジオールへ効率的に変換することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、多価アルコールの水素化分解物の製造方法として、反応の進行に伴い反応液相中に滞留した水を除去しながら反応させることにより、前記課題を解決し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)水素化触媒の存在下に多価アルコールと水素とを接触させて、反応液相中の水を除去しながら反応を行う、回分方式の多価アルコールの水素化分解物の製造方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、多価アルコールからの水素化分解物を効率的に製造でき、特にグリセリンから1,2−PDを効率的に製造する方法を提供することができる。また、本製造方法を用いることにより、低圧下で、グリセリンを効率的に転化させ、1,2−PDを選択性良く製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の多価アルコールの水素化分解物の製造方法においては、水素化分解触媒の存在下に、多価アルコールと水素とを加熱して、該多価アルコールを水素化分解する。
多価アルコールとしては、水酸基数2〜6の化合物が好ましい。具体的には、水酸基数2〜6であって、かつ炭素数2〜60の脂肪族又は脂環式多価アルコールを挙げることができる。具体的にはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、各種プロパンジオール、各種ジプロパンジオール、各種トリプロパンジオール、各種ブタンジオール、各種ジブタンジオール、各種ペンタンジオール各種ペンタントリオール、各種ヘキサンジオール、各種ヘキサントリオール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、各種シクロヘキサンジオール、各種シクロヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、さらにはソルビトールやマンニトール等の糖アルコール等を例示することができる。これらの中では、工業的観点から、グリセリン並びにソルビトール及びマンニトールなどの糖アルコールが好ましく、グリセリンが特に好ましい。
また、本発明における多価アルコールの水素化分解物とは、多価アルコールに水素を作用させて、水酸基を分解させて得られたものであり、少なくとも1つ以上の水酸基を残す程度に分解させて得られる化合物を示す。例えばグリセリン (分子内の水酸基数:3つ)の水素化分解物は、C3ジオール(分子内の水酸基:2つ)、C3モノオール(分子内の水酸基数:1つ)である。
【0010】
前記水素化分解触媒としては、例えば、銅、ニッケル、コバルト、ルテニウム、パラジウム、白金、ロジウム等から選ばれる少なくとも1種の金属種やこれらの金属原子を含む錯体触媒を用いることができ、またこれら金属種をアルミナ、シリカ、酸化チタン等の担体に担持した固体触媒も用いることができる。その中で、銅含有触媒(「銅触媒」という場合がある)が好ましく、特に銅−鉄−アルミ、銅/シリカ、銅−亜鉛/酸化チタン、及び銅ラネー(Raney)触媒が好ましい。その中でも銅−鉄−アルミ、銅/シリカが好ましく、特に銅/シリカが好ましい。
触媒としては、市販のものを用いてもよく、また、例えば沈殿法、イオン交換法、蒸発乾固法、噴霧乾燥法、混練法等通常採用されている従来公知の方法にて、担体上に金属成分を担持することで調製することができる。
これら触媒の使用量は、原料である多価アルコール100質量部に対して0.01〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部、さらに好ましくは0.3〜6質量部である。
【0011】
本発明の多価アルコールの水素化分解物の製造方法においては、反応液相中の水を除去する方法として、水を水蒸気として気相へ誘導する方法や、脱水剤を反応容器内にあらかじめ存在させておき、液相の水分を吸収させる方法が使用できる。水を水蒸気として気相へ誘導する方法では、ガスを流通させ、反応容器外へ誘導することで促進することもでき、この場合には水素、又は窒素、アルゴン等の不活性ガスの1種以上を使用できる。本発明では、ガスを流通させることで促進することが好ましく、水素ガスを反応試剤とすることからガスとしては、水素ガスが好ましい。
水の除去は連続的でなくともよく、水分を反応系内から一部除去するだけで、反応効率は向上する。ここでいう反応効率とは主に反応速度を指し、グリセリンに限っては1,2−プロパンジオールへの変換率もまた意味する。水素化分解では、多価アルコールから水が生成される。回分方式での反応系では水は系内に蓄積されるために、水分量は反応が進むとともに増加する。一方で多価アルコールは減少していく。最終的に生成される全水分量は多価アルコールによって異なるが、反応に用いた多価アルコールの量から求めることができる。本発明では水を除去する条件として、反応液相中の多価アルコールが60モル%反応した時点から、換言すると残存多価アルコール量が40モル%になった時点から、反応終了までの何れかの時点で、多価アルコールから生じる全水分量を1とするときの割合(以下、「水分率」という場合がある。)が0.5以下、好ましくは0.4以下、特に好ましくは0.3以下になるように、反応液相中の水を除去することがよい。反応系内の水は少ない方がよく、連続的に水分を反応系外に追い出すことが好ましい。反応当初から水分を除去するためには、上記したガスを流通させる方法で水分を反応液相中から除去することが好ましい。数値上では、反応液相中の多価アルコールが60モル%反応した時点以後は、反応液相中の水分の割合は、多価アルコールから生じる全水分量を1として0.5以下、更には0.4以下、特には0.3以下に保つことが好ましい。
特に、グリセリンからの1,2−プロパンジオールへの変換において、液相中の水分量が少ないほどグリセリンの反応性が向上する。水分量は、経時的にサンプルを抜き出し、カールフィッシャー分析を行い、算出することができる。
【0012】
反応条件については特に制限はなく、使用する多価アルコールや触媒の種類等に応じて適宣選定される。水素圧は、通常、常温で30MPa以下が好ましく、工業化の観点からより低圧である0.1〜10MPaが好ましく、0.5〜5MPaがより好ましく、0.5〜3MPaがさらに好ましい。反応温度は、通常80℃以上で水素化分解を実施することができるが、多価アルコールの水素化分解による転化率及び分解生成物の選択性等の観点から、130〜350℃の範囲が好ましく、160〜300℃の範囲がより好ましく、180〜250℃の範囲が特に好ましい。
水素化分解反応の反応装置としては、オートクレーブ等の加圧可能な装置を用いた回分式(バッチ式)が好ましい。
【0013】
本発明の多価アルコール水素化分解物の製造方法においては、多価アルコールとしてグリセリンを用いることが好ましい。このグリセリンを用いることにより、水素化分解物として、1,2−PDを効率的に製造することができる。
【実施例】
【0014】
実施例1
(銅−鉄−アルミニウム系触媒の調製)
下記の操作を行い、銅/鉄/アルミニウムの原子比が1/0.8/1.8である銅−鉄−アルミニウム系触媒を製造した。
還流冷却器を有する反応器に、水(300g)、CuSO4・5H2O(48g)、FeSO4・7H2O(46.8g)及び水酸化アルミニウム(12.8g)を入れ、撹拌しながら温度を96℃に上昇させた。温度を95±2℃に保ちながら1時間保持した。次いでこの温度を保ちながら、Na2CO3(44.8g)を水(150g)に溶解させた溶液を約80分かけて滴下した。温度を95±2℃に保ちながら、CuSO4・5H2O(4.8g)、Al2(SO43・16H2O(46.8g)を水(109.2g)に溶解させた溶液と、Na2CO3(27.6g)を水(98.2g)に溶解させた溶液を同時に滴下した。金属塩の水溶液は60分、アルカリ物質の水溶液は30分かけて滴下した。これにAl2(SO43・16H2O(23.4g)を水(53.5g)に溶解させた溶液を30分かけて滴下した。次いでNa2CO3(14.3g)を水(54.9g)に溶解させた溶液を30分かけて滴下した。更に10%NaOH水溶液を滴下しpHを10.5に調整した。pHを10.5に保ちながら1時間熟成を行った。熟成終了後、反応物を吸引濾過した。沈澱を毎回450mlの水で3回洗った後、100℃にて乾燥した。乾燥終了物を軽く粉砕し750℃で1時間、空気中で焼成し、アルミナを担体とする銅−鉄−アルミニウム系触媒を得た。
【0015】
(水素化分解)
攪拌機付きの500mLの鉄製オートクレーブに、上記の方法で得られた銅−鉄−アルミニウム系触媒10g、及びグリセリン200gを加え、水素置換した。その後、水素を液中に導入し、オートクレーブ内の圧力を2MPaに維持したまま、5L/min.(25℃、H2)で流通させつつ、加熱し、230℃にて反応させた。液相中の水分は、液中に導入される水素により、鉄製オートクレーブの上部に設けられた排出口から水蒸気として反応容器外に排出した。
反応経時サンプルおよび反応終了溶液は濾過後、カールフィッシャー分析により水分量を測定し、また下記条件のガスクロマトグラフィーにて分析し、生成物を定量し、これらの値から残存グリセリン(モル%)及び液相中のグリセリンから生じる全水分量を1としたときの水分の割合を求めた。また、経時的に測定した残存グリセリン量より一次反応速度定数kを算出し、これを反応速度の目安とした。これらの結果を表1に示す。
【0016】
〔ガスクロマトグラフィー〕
カラム:Ultra-alloy キャピラリーカラム 15.0m×250μm×0.15μm(Frontier Laboratories 社製)、検出器:FID、インジェクション温度:300℃、ディテクター温度:350℃、He流量:4.6mL/min.
【0017】
実施例2、3
実施例1で得られた触媒を用い、表1、表6に記載の条件にて水素化分解反応を実施した。すなわち、実施例2では水素流通条件の流量を実施例1における5L/min.から1L/min.に減じ、実施例3では、水素の流通方法を液中ではなく、反応溶液上部の気相部に導入し、気相中の水蒸気を反応容器外へ誘導することで、液相から水蒸気を気相へ供給させ、間接的に液相中の水分を除去した。結果を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
実施例4
(銅ラネー触媒)
日興リカ社製 銅ラネー触媒(品番RC-300)を用いた以外は、実施例1と同様に反応を実施した。
【0020】
実施例5
(銅−亜鉛/酸化チタン触媒の調製)
反応器に硝酸銅(100g)と硝酸亜鉛(30g)を仕込み、水(2000g)に溶解した後、攪拌しながら昇温した。50℃で酸化チタン(33g)を仕込み、90℃で10質量%Na2CO3水溶液(546g)(金属塩と等モルのNa2CO3)を1時間で滴下し、1時間熟成した後、沈殿物を濾過・水洗し、110℃で10時間乾燥後、600℃で1時間焼成した。得られた金属酸化物は銅/亜鉛原子比が4/1で、担体としての酸化チタンに対する担持量が50質量%であった。この酸化チタン担持酸化銅−酸化亜鉛を触媒に用い、実施例1と同様に水素化分解反応を実施した。
実施例4及び実施例5の結果を表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
実施例6〜11
(銅/シリカ触媒)
触媒に、Cu/Siの原子比が1/0.55の日揮化学社製 銅/シリカ触媒(品番F01B)の粉砕品を用い、表3及び表4の条件にて水素化分解反応を実施した。実施例6〜9は、グリセリン100質量部に対して銅/シリカ触媒の使用量を5、2、1、0.5質量部と変化させ、実施例6、10、及び11は、反応温度を230、220、200℃と変化させて反応を実施し、それらの要因の影響を確認した。結果を表3及び表4に示す。
【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
比較例1〜6
攪拌機付きの500mLの鉄製オートクレーブに、原料グリセリン200g、日揮化学社製 銅/シリカ触媒(品番F01B)の粉砕品をグリセリン100質量部に対して5質量部加え、水素置換した。表5及び表6に示すように、室温にて水素を1MPaまで導入し、表に記載の反応温度まで加熱したのち、水素圧を比較例1〜3においては6MPa、比較例4においては2MPa、比較例5及び6においては15MPaの圧力まで上げ、その後は水素を流通することなく密閉状態で、減少した圧力分は水素を補充することでその圧力を維持し、水素化分解反応を行った。なお、比較例2では原料のグリセリンに対する水分のモル比を1/1.3、比較例3及び6では100/20.5とした溶液を用いて反応を行った。
【0026】
【表5】

【0027】
同条件下にて使用した触媒の種類が異なる実施例1、4、5、6を比較してもっとも活性の高い銅/シリカ触媒を使用した実施例6を基準として、水素を流通させることなく反応液相中の水分を除去せずに反応させた比較例1に比べ、同様に反応温度230℃、触媒使用量がグリセリン100質量部に対して5質量部で、液相中の滞留水分を除去しながら反応させた実施例1〜6は、反応完結までに要した時間又は反応8時間目の残存グリセリン量から、グリセリンの反応性が向上しており、特に反応後期には、反応速度が向上する。加えて、実施例1〜6は1,2−PDの選択性も良好であった。また、実施例6と比較例1を比較すると、実施例6の方が選択性は向上している。表3、表4及び表5の結果より、銅/シリカ触媒の使用量が少ない実施例7〜8、反応温度の低い実施例10、11においても、比較例1に比べ、グリセリンの反応性が向上しており、特に反応後期は反応速度が速い。加えて、1,2−PDの選択性も良好であった。比較例1に比べて、触媒使用量が1/10である実施例9においては、反応後期は反応速度が速く、1,2−PDの選択性も良好であった。表3及び表5の結果より、反応温度、触媒使用量とも同じである実施例10と比較例4を比較すると、水分を除去した実施例10の方が反応完結までに要した時間は明らかに短く、かつ選択性は向上した。
【0028】
実施例12、13
実施例1と同じ、銅−鉄−アルミニウム系触媒を用い系内の水素圧力を15MPaとした実施例12、同様に水素圧を15MPaとし、日揮化学社製 銅/シリカ触媒(品番F01B)の粉砕品を用いた実施例13において、前記同様にグリセリンの水素化分解反応を行った。
表6に示すように、比較例5と比較して、反応液相中の滞留水分を除去しながら反応させた実施例12、13はグリセリンの反応性が向上しており、特に反応後期は反応速度が速い。加えて、実施例12、13は1,2−PDの選択性も良好であった。
【0029】
【表6】

【0030】
実施例14
攪拌機付きの500mLの鉄製オートクレーブに、日揮化学社製 銅/シリカ触媒(品番F01B)の粉砕品10g、及びグリセリン200gを加え、水素置換した。さらに室温にて水素を1MPaまで導入し、230℃まで加熱したのち、水素圧を15MPaの圧力まで上げ、密閉状態で、減少した圧力分は水素を補充することでその圧力を維持し、水素化分解反応を2時間行った。この時点では、加えたグリセリンの85.5モル%が反応し、反応液中の水分の割合は、グリセリンから生じる全水分量を1とするときの割合が0.93であった。
その後、鉄製オートクレーブを150℃まで冷却し、オートクレーブ内の圧力を1.5MPaに維持したまま、水素を液中に導入し、10L/min.(25℃、0.1MPa)で2時間流通させ、水分を除去した。その後、水素の流通を止め、230℃まで加熱し、水素圧を15MPaの圧力まで上げ、その後は水素を流通することなく密閉状態で、減少した圧力分は水素を補充することでその圧力を維持しつつ、再度水素化分解反応を行った。結果を表7に示す。
比較例5と比較して、反応途中で水分を除去した実施例14は水除去後にグリセリンの反応性が向上しており、1,2−PDの選択性も良好であった。
【0031】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、水素化触媒の存在下に、多価アルコールと水素を接触させ、反応液相中の水を除去しながら行うことで、多価アルコールからのその水素化分解物、特にグリセリンからの1,2−PDの効率的な製造方法を提供することができる。特に本製造方法を用いることにより、工業的に実施が有利な低圧下で、グリセリンを効率的に転化させ、1,2−PDを選択性良く製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化触媒の存在下に多価アルコールと水素とを接触させて、反応液相中の水を除去しながら反応を行う、回分方式の多価アルコールの水素化分解物の製造方法。
【請求項2】
反応液相中の多価アルコールの60モル%が反応した時点から反応終了までのいずれかの時点において、反応液相中の水分量が多価アルコールから生じる全水分量を1として0.5以下の割合になるように、反応液相中の水を除去する、請求項1に記載の多価アルコールの水素化分解物の製造方法。
【請求項3】
水素化触媒が銅含有触媒である、請求項1又は2に記載の多価アルコールの水素化分解物の製造方法。
【請求項4】
多価アルコールがグリセリンである、請求項1〜3のいずれかに記載の多価アルコールの水素化分解物の製造方法。
【請求項5】
水素化分解物が1,2−プロパンジオールである、請求項4に記載の多価アルコールの水素化分解物の製造方法。

【公開番号】特開2009−173550(P2009−173550A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10676(P2008−10676)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】