説明

多共振パッチアンテナ

【課題】低コストで小型化が可能な多共振パッチアンテナを提供する。
【解決手段】導体からなるパッチアンテナ部が第1の平面に形成され、導体からなるグランド部と、導体からなり、前記グランド部と離間した給電部とが第2の平面に形成され、前記パッチアンテナ部と前記グランド部とが導体からなる接続導体部によって電気的に接続された多共振パッチアンテナであって、前記パッチアンテナ部は、一端が開放されたスリットを有し、前記パッチアンテナ部の端部は、電気的に開放されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッチアンテナに関し、特に複数の共振周波数を有する多共振パッチアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯型のコンピュータ、いわゆるノートパソコン(以下、ノートPC)は、家庭、およびビジネス向けに広く普及している。電子部品の高機能化に伴い、ノートPCも多機能化されており、様々な用途に活用されている。中でも、通信機能については、イーサネット(登録商標)規格を利用したローカルエリアネットワーク(LAN)機能は、コンピュータの利用方法を大きく変化させた。現在市販されているデスクトップPCやノートPCは、標準でLANポートなどのデバイスを搭載しており、購入してすぐにインターネット接続が可能である。これにより、パソコンは単なる計算機能やデータ保持機能だけではなく、インターネットを通じたデジタル情報端末としても大いに活用されている。
【0003】
ノートPCは、その携帯性により作業する場所を選ばない利便性がある。その手軽さを高付加価値とするため、各ノートPC製造メーカは低消費電力化や高容量バッテリー搭載などを進めている。さらに、場所を選ばないデジタル情報端末として機能するため、現在市販されているほとんど全てのノートPCには、ワイヤレスLAN(以下、W/LAN)に対応するアンテナとモジュールが内蔵されている。
【0004】
ノートPC内蔵型のアンテナは、薄型、平板のものが特徴的であり、これは主にノートPCのLCD(表示画面)搭載側の上辺や側辺に設置される。薄型、平板を実現するために考案されたアンテナは省スペースであるため、アンテナ設置の自由度が高く、広くノートPCに搭載されている。
【0005】
しかし近年、消費者ニーズの多様化により、ノートPCのデザインは多種多様なものが増えてきている。いわゆるミニPCやUMPC(ウルトラモバイルPC)と呼ばれるような、携帯性を更に追求したモデルも充実してきている中で、携帯性であるがゆえに容易に壊れない堅牢性も要求されており、パソコンのカバーなどの素材にはカーボン入りプラスチックやマグネシウムなどの金属が使われ始めている。従来、内蔵アンテナの電波伝搬を容易にするため、アンテナ周囲のカバーにはプラスチック素材が使用されていたが、上記堅牢性を優先するため、アンテナ周囲のカバーにもカーボン入りプラスチックや金属製のものが検討されてきている。
【0006】
その場合、カーボンには電波吸収性、金属には電波反射性があり、内蔵アンテナの電波伝搬にとっては、必ずしも良好な素材ではない。この解決策として、パッチアンテナ(もしくはマイクロストリップアンテナと呼ばれる)を使用するという手段がある。パッチアンテナはグランド面とその上部に設置されるアンテナ放射面からなる立体形状を成す。アンテナ放射面には、グランド面から絶縁貫通された給電ピンが接続されており、これにより電力が供給される。パッチアンテナはその構造上、グランド面側からは電波を放射せず、アンテナ放射面側からのみに放射する。ノートPCのカバーがカーボン入りプラスチックや金属の場合には、パッチアンテナのグランド面をカバー側に、アンテナ放射面をカバーの逆面(表示側面)に設置することにより、カバーの素材に影響されず電波を効率良く放射させることができる。
【0007】
しかしながら、一般的にパッチアンテナは周波数帯域が狭いため、W/LANの適用周波数帯(IEEE802.11a/b/gの規格で定められる周波数帯域)に用いる場合
、種々の工夫が必要となる。また、通常、パッチアンテナは単一周波数での共振となるため、現在のW/LANの周波数帯である2.45/5GHz帯を一つのアンテナでカバーする場合には、さらに工夫が必要となる。
【0008】
広帯域、多共振を実現するため、これまでに、アンテナ放射面の周囲に環状に第2のアンテナ放射面を設置することにより2共振化したもの(例えば、特許文献1、2参照)、アンテナ放射面の形状を多辺形とすることにより2共振化したもの(例えば、特許文献3)、アンテナ放射面にスリット、またはスロットと呼ぶ切り込みを接地することにより、2共振化したもの(例えば、特許文献4、5)が提案されている。これらのアンテナは、アンテナ主放射面に多周波で共振する他の放射面を付与したり、アンテナ放射面の形状を工夫したりすることにより、多共振化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−7559号公報
【特許文献2】特開2007−53732号公報
【特許文献3】特開2007−60609号公報
【特許文献4】特表2005−535239号公報
【特許文献5】特開2007−606015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これらの従来技術には以下のような問題がある。
特許文献1、および特許文献2に示されるアンテナは、第2のアンテナ放射面を設置することにより比較的容易に多共振化できるが、アンテナ放射面と環状放射面を有するため、アンテナのサイズが大きくなってしまうという欠点がある。
そして、特許文献1に示されるアンテナは、アンテナ放射面と周囲の環状放射面それぞれに給電する構造であるため、線路構造が多重で複雑となる。
また、特許文献2に示されるアンテナは、一つの給電線路によりアンテナ放射面と周囲の環状放射面とにそれぞれに給電する構造であるが、それぞれの放射面には空間結合により間接的に給電し、金属接続により直接給電していないため、この部分での電力損失が無視できない、という欠点がある。
【0011】
特許文献3に示されるアンテナは、形状を多辺形とすることにより容易に多共振化できるが、アンテナ放射面のサイズが大きくなり、小型化には向いていない。また、量産の際、このショート片を製作し、グランド面へ接地する作業も複雑となり、製作工程の簡素化、および製品の低コスト化には向かない。そもそも、パッチアンテナとはいうものの、それぞれの放射面にグランド面に接地するショート片を有しており、厳密にはオープンスタブを用いるパッチアンテナ、あるいはマイクロストリップアンテナとは呼べない。
【0012】
特許文献4および特許文献5に示されるアンテナは、アンテナ放射面にスリットまたはスロットと呼ぶ切り込みを接地するようにしたものであるが、特許文献3に示されるアンテナと同様に、アンテナ放射面からグランド面に接地するショート片を有しており、前述したのと同様、量産の際、このショート片を製作し、グランド面へ接地する作業も複雑となり、製作工程の簡素化、および製品の低コスト化には向かない。
【0013】
尚、アンテナ種別を、特許文献4ではPIFA(Planar Inverted F
Antenna:平面逆Fアンテナ)と呼んでいるが、特許文献5ではパッチアンテナと呼んでいる。本発明者は、これらのアンテナは、放射面からグランド面へのショートスタブ(ショート片)を有することから、逆Fアンテナと呼ぶべきと考える。
【0014】
本発明の目的は、上記に示した課題を克服し、低コストで小型化可能な多共振パッチアンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一実施の態様によれば、
誘電体基板と、
前記誘電体基板の表面に設けられたパッチアンテナ部と、
前記誘電体基板の裏面に設けられたグランド部と、
前記誘電体基板の裏面に設けられ、前記パッチアンテナ部に給電するための給電部と、
前記給電部と前記パッチアンテナ部とを電気的に接続する接続導体部と、
を備え、
前記パッチアンテナ部は、該パッチアンテナ部の外周端部が電気的に開放されており、
前記パッチアンテナ部に、該パッチアンテナ部を多共振とするためのスリットが形成され、該スリットの一端が前記パッチアンテナ部の外周端部で開放され、他端がパッチアンテナ部の面内で閉塞している
多共振パッチアンテナが提供される。
【0016】
この場合、前記パッチアンテナ部と前記グランド部との間に、前記パッチアンテナ部と前記グランド部との間を接続するショートスタブ(ショート片)を形成しないことにより、前記パッチアンテナ部の外周端部を電気的に開放することが好ましい。
【0017】
また、前記パッチアンテナ部は、矩形状に形成され、
前記スリットの開放端は、前記パッチアンテナ部の長辺に形成されていることが好ましい。
【0018】
また、前記パッチアンテナ部と前記接続導体部の接続点である給電点は、前記パッチアンテナ部の長辺の中心からずれた前記パッチアンテナ部の面内位置に形成されていることが好ましい。
【0019】
また、前記スリットは、前記開放端から前記パッチアンテナ部の短辺と平行に延びる第1のスリット部と、前記給電点に向かって前記パッチアンテナ部の長辺と平行に延びる第2のスリット部とを有するL字形状に形成されていることが好ましい。
【0020】
また、前記接続導体部は、前記誘電体基板に形成されたスルーホールであることが好ましい。この場合、前記パッチアンテナ部はプリント配線基板の表面にプリントされた導体配線から構成され、前記グランド部はプリント配線基板の裏面にプリントされたグランド配線から構成されている。
【0021】
さらに、前記グランド部と前記誘電体基板の外形が同じであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低コストで小型化が可能な多共振パッチアンテナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態を示すデュアル共振パッチアンテナの斜透視図である。
【図2】本発明の一実施例を示すデュアル共振パッチアンテナのパッチアンテナ部、およびグランド面の詳細寸法図である。
【図3】本発明の一実施例を示すデュアル共振パッチアンテナの電気特性を評価するための装置模式図であり、(a)は正面図、(b)は側断面図である。
【図4】本発明の一実施例を示すデュアル共振パッチアンテナの電気特性評価結果を表すデータ図であり、(a)はリターンロスによる反射特性図、(b)はVSWRによる反射特性図、(c)は2.45GHz帯の平均利得特性図、(c)は5GHz帯の平均利得特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[基本構成]
本発明の一実施の形態の多共振パッチアンテナは以下の形態を有する。
多共振パッチアンテナは、誘電体基板、パッチアンテナ部、及びグランド部を基本構成とする。
誘電体基板は、誘電体から構成される。誘電体は例えばガラスエポキシ樹脂などの絶縁性樹脂からなる。誘電体基板はその表裏に互いに平行な一方の面と他方の面とを有する。この誘電体基板の一方の面に、放射電極となるパッチアンテナ部が形成されている。このパッチアンテナ部は導体で構成される。誘電体基板の他方の面に、接地面となるグランド部が形成されている。このグランド部も導体で構成される。パッチアンテナ部は、多共振パッチアンテナとなるために、互いに異なる周波数で共振する複数のパッチアンテナ部から構成される。上記導体は例えば銅やアルミニウムなどの金属からなる。
【0025】
前記誘電体基板の他方の面に給電部が設けられる。給電部はグランド部とは電気的に絶縁され、前記パッチアンテナ部に電力を供給する。前記給電部と前記パッチアンテナ部とは導体からなる接続導体部で電気的に接続されて、この接続導体部を介して、給電部からパッチアンテナ部に給電されるようになっている。接続導体は例えば銅やアルミニウムなどの金属からなる。給電部には、この給電部に同軸ケーブルを直接接続するようにしても、あるいはコネクタを介して間接的に接続するようにしてもよい。
【0026】
前記パッチアンテナ部は、該パッチアンテナ部の外周端部が電気的に開放されている。すなわち、オープンスタブを形成しており、パッチアンテナ部の外周端部は、他の電位を有する部位に接続されていない。したがって、本実施の形態の多共振パッチアンテナは、前記接続導体部以外に他の接続導体部、例えばショートスタブを必要としない。
【0027】
前記パッチアンテナ部に、スリットが形成されている。このスリットは、前記パッチアンテナ部に複数の共振スタブを形成するためのものである。該スリットの一端は前記パッチアンテナ部の外周端部で開放された開放端をなし、その他端はパッチアンテナ部の面内で閉塞した閉塞端をなしている。1つのパッチアンテナ部に1本のスリットを形成することによりデュアルパッチアンテナが構成される。スリットの形成された複数のパッチアンテナ部により3以上の多共振パッチアンテナが構成される。
【0028】
上述したように、本実施の形態によれば、スリットを形成したパッチアンテナ部の外周端部が電気的に開放されているので、外周端部が電気的に短絡されているものと比べて、製作工程の簡素化、および製品の低コスト化が実現でき、確実に低コストで小型化が可能となる。
【0029】
本実施の形態の多共振パッドアンテナが、ショートスタブではなく、オープンスタブを形成する構成としているのは、オープンスタブが持つ静電容量の大きさを有効利用しているからである。
【0030】
また、パッチアンテナ部とグランド部との間を接続するショートスタブ(ショート片)を形成しないようにすると、量産の際、このショート片を製作することも、グランド面へ
接地する作業も省略することができ、一層の製作工程の簡素化、および製品の低コスト化が実現でき、より確実に低コストで小型化が可能となる。
【0031】
また、前記パッチアンテナ部は、矩形状に形成され、前記スリットの開放端は、前記パッチアンテナ部の長辺に形成されていることが好ましい。パッチアンテナ部を矩形状に形成し、スリットの開放端をパッチアンテナ部の長辺に形成すると、例えばスリットをL字形状に形成する場合、同じ面積の矩形状でも、長辺に平行なスリット部を長く形成できるので、より確実に小型化が可能となる。
【0032】
また、前記パッチアンテナ部と前記接続導体部の接続点である給電点は、前記パッチアンテナ部の長辺の中心からずれた位置に形成されていることが好ましい。スリットにより形成される複数の共振スタブの各両端は電気的に開放されているため、両端での電流は零にならなければならない。また共振時、電圧の位相は電流のそれよりずれる。つまり、電圧は線路の両端で最大となり、中央では零になる。このような理由から給電点はパッチアンテナ部の長辺の中心からずれた位置に形成される必要がある。
【0033】
また、前記スリットは、前記開放端から前記パッチアンテナ部の短辺と平行に延びる部分と、前記給電点に向かって前記パッチアンテナ部の長辺と平行に延びる部分とを有するL字形状に形成されていることが好ましい。スリットが短辺と平行に延びる部分と長辺と平行に延びる部分とを有するL字形状に形成されていると、L字形状のスリットによって形成される第1及び第2の共振スタブのうち、第1の共振スタブ(第1のパッチアンテナ部)に流れる電流経路がL字形状のスリットを迂回するループ状になることにより、パッチアンテナ部を長くすることなく、開放端部側から閉塞端近傍の給電点に至るまでの第1の共振スタブの物理的な長さを長くできて、第1のパッチアンテナ部の電気長を長くすることができる。また、L字形状のスリットをパッチアンテナ部に設けることにより当該スリットに生じる容量によってもパッチアンテナ部の電気長を長くすることができる。従って、より確実に低コストで小型化が可能となる。
【0034】
さらに、前記グランド部と前記誘電体基板の外形が同じことが好ましい。グランド部と誘電体基板の外形が同じであると、より確実に低コストで小型化が可能となる。
【0035】
[プリント配線基板を用いた基本構成例]
上述した多共振パッチアンテナの基本構成は、2層のプリント配線基板(以下、PWB(Printed Wiring Board)基板)を用いて形成することができる。PWBの両面に、それぞれアンテナとして機能する金属箔パターンを施す。一方の面に施した金属箔パターンはアンテナグランド面(グランド部)として機能する。他方の面に施した金属箔パターンは放射面(アンテナ部)として機能する。
【0036】
PWB基板の厚さは任意であるが、アンテナ特性、および被実装筐体への収納性を考慮すると、1〜5mmが望ましい。PWB基板の厚さは、大きければ大きいほど、アンテナ特性、すなわち周波数帯域の広さ(帯域幅)と放射効率は良くなる。PWB基板の厚さは、搭載される筐体の寸法、および、要求されるアンテナ仕様のトレードオフで決定される。アンテナグランド面に設けられた給電部と放射面はスルーホールで接続される。スルーホールは、PWB基板に形成された貫通孔の内面に銅などで導体層が形成されたものであり、PWB基板の両面を導通するものである。プリント配線基板を用いて構成した多共振パッチアンテナは、これ以外にはスルーホールを必要としない。
【0037】
上述したように接続導体部がプリント配線基板に形成されたスルーホールであると、接続導体部の作成が容易となり、より確実に低コストで小型化が可能となる。
【0038】
[デュアルパッチアンテナの具体例]
本発明は、あらゆる周波数帯のアンテナに適用が可能な多共振型パッチアンテナについて記述するが、以下の説明に於いては分かりやすくするため、W/LAN(Wireless Local Area Network、IEEE802.11a/b/g/nによって規定される無線通信システム)用のデュアルパッチアンテナに適用する場合について、具体的手段を述べる。
【0039】
W/LANの低周波側の周波数は2.45GHz、高周波側の周波数は5GHzである。パッチアンテナ部に切り込みを入れてスリットを形成し、スリットの長手方向の中心軸線を境界にして形成される低周波側の第1のパッチアンテナ部を第1の共振スタブ、高周波側の第2のパッチアンテナ部を第2の共振スタブという。
【0040】
矩形状のパッチアンテナ部の長辺のサイズは、W/LANの低周波側の周波数である2.45GHzの1/2波長となるように定める。短辺のサイズは、長辺と同じか、それより小さくなるようにする。一般にパッチアンテナの長辺の長さは共振周波数に、短辺の長さは周波数帯域の広さ(帯域幅)に関係することが知られている。本実施の形態のアンテナは、携帯端末機器に内蔵することを目的としているため、その大きさは小さいほどよい。さらに、携帯端末機器の1つであるノートPCなどに内蔵される場合には、アンテナはLCD(表示画面)の周囲に配置されることが多い。このため、短辺は、必要とされる帯域幅を確保できるうちで、なるべく小さくすることが肝要である。
【0041】
スルーホールとパッチアンテナの接続点である給電点は、50Ωの整合が取れる位置に設置する。一般にパッチアンテナは、1/2波長で動作することは先に述べた。この場合、長辺の中心で電流(I)が最大、電圧(V)はゼロとなる。インピーダンス(Z)はZ=V/Iであるので、中心部のインピーダンスはゼロである。よって、給電系が50Ωの場合、給電点の位置は、長辺の中心よりずれた位置でZ=V/I=50Ωとなる位置に設置することによって、最適な整合を取ることができる。
【0042】
パッチアンテナ部に形成されるスリットは、給電点に対して長さの大きい長辺の端部付近に設置される。このスリットはパッチアンテナ部の面内を長辺から他の長辺へ向かって進み、その後、給電点へ向かって90°向きを変える。このとき、当該スリットを形成することによって生じる第2の共振スタブの長辺の長さがW/LANの高周波側の周波数である5GHz帯の1/4波長となるように定める。この第2の共振スタブの短辺の長さは、前記低周波側のパッチアンテナ部の設計と同様に、周波数帯域幅に関係する。また、スリットを形成する位置は、第2の共振スタブの共振周波数において50Ωとなる位置に設ける。これは、第2の共振スタブの先端から給電点までの長さが、共振周波数のおおよそ1/2波長となるところを目安とする。スリット幅は若干ではあるが、周波数帯域幅やインピーダンス整合に関係する。アンテナ寸法の小型化や、加工のしやすさなどからスリット幅は1mm前後が好ましい。
【0043】
グランド面は大きければ大きいほどアンテナ特性が安定するが、アンテナサイズの小型化という観点から、パッチアンテナ部と同等か、1.1〜1.5倍程度大きくすることにより、サイズの小型化と特性の安定を両立することができる。アンテナの外形寸法は、グランド面と同じとすることにより、必要最小限のアンテナ寸法とすることができる。
【0044】
本実施の形態によれば、上記説明のごとく、低コストで小型化可能な多共振パッチアンテナを提供できる。特に、設置筐体にRFウィンドウ(後述)を設けること無しに優れた電気的特性を有するアンテナを提供することができる。
【0045】
このほかにも、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々様々変形実施可能なことは
勿論である。
【実施例】
【0046】
本発明の一実施例を図1を用いて説明する。
[デュアルパッチアンテナ]
図1は2層のPWB基板を用いて作製したデュアルパッチアンテナの斜透視図である。
誘電体基板1の一面には、デュアルパッチアンテナ10のパッチアンテナ部2が形成される。パッチアンテナ部2の長辺2−1、2−3のサイズは、W/LANの低周波側の周波数である2.45GHzの1/2波長となるように定める。短辺2−2、2−4のサイズは、長辺2−1、2−3と同じか、それより小さくなるようにする。
【0047】
スルーホール6に接続する給電点3は50Ωの整合が取れる位置に設置する。このとき、給電点3の位置は、長辺2−3の中心よりずれた位置に設置することによって、最適な整合を取ることができる(給電系が50Ωの場合、詳細説明は上述)。
【0048】
パッチアンテナ部2に形成される第1のスリット部5−1、および第2のスリット部5−2は、給電点3に対して長さの大きい長辺2−3の端部付近に設置される。このスリットは長辺2−3から他の長辺2−1へ向かって進み(第1のスリット部5−1)、その後、給電点3へ向かって90°向きを変える(第2のスリット部5−2)。このとき、当該第1のスリット部5−1、第2のスリット部5−2を形成することによって生じる第2の共振スタブ5の長辺の長さ(第2のスリット5−2部によって形成される長さ)が、W/LANの高周波側の周波数である5GHz帯の1/4波長となるように定める。
この第2の共振スタブの短辺の長さ(第1のスリット5−1部によって形成される長さ)は、前記低周波側のパッチアンテナ部(第1の共振スタブ)の設計と同様に、周波数帯域幅に関係する。また、スリットを形成する位置は、第2の共振スタブの共振周波数において50Ωとなる位置に設ける。これは、第2の共振スタブの先端から給電点3までの長さが、共振周波数のおおよそ1/2波長となるところを目安とする。スリット幅は若干ではあるが、周波数帯域幅やインピーダンス整合に関係する。アンテナ寸法の小型化や、加工のしやすさなどからスリット幅は1mm前後が好ましい。
【0049】
誘電体基板1の他面にはグランド面4を設ける。このグランド面4には、給電同軸ケーブル(図示せず)を接続するための給電パターン(ランド)7を設ける。この給電パターン(ランド)7を設ける最適な位置については、上述の通り、グランド面4と反対側に形成されるそれぞれの第1、第2の共振スタブ(アンテナ放射素子)のインピーダンスが最適となる位置とする。このランド7には、パッチアンテナ部2からのスルーホール6が接続される。
このランド7には、さらに無線モジュールに接続するための給電線(一般には、細径同軸ケーブル、図示せず)が接続される。給電線のグランド線(シールド線)は、グランド面4のいずこかへ接続される(一般には、ランド7の直近となる、図示せず)。ランド7とグランド面4の間には、給電信号とグランドを電気的に絶縁するための空隙7−1が設けられる。この空隙幅は1〜2mm程度が望ましい。
【0050】
アンテナ外形となる誘電体基板1の形成寸法は、上述の通りグランド面4の大きさと同一とすることが望ましい。
【0051】
[試作アンテナ特性の評価]
本実施例に基づくアンテナを試作し、アンテナ特性の評価を行った。以下にその詳細を示す。
【0052】
図2に、試作したアンテナの詳細寸法を示す。これは筐体の実装環境に合わせてアンテ
ナチューニングを行った一例である。アンテナ寸法としては、横幅42mm、縦10mm、厚さ5mmとした。また、パッチアンテナ部2の長辺2−1、2−3のサイズは、W/LANの低周波側の周波数である2.45GHzの1/2波長となるように36.8mmと定めた。短辺2−2、2−4のサイズは、長辺2−1、2−3より小さくなるように7mmとした。また、第1のスリット5−1部、第2のスリット部5−2を形成することによって生じる第2の共振スタブ5の長辺の長さ(第1のスリット部5−1によって形成される長さ)は、W/LANの高周波側の周波数である5GHz帯の1/4波長となるように7.4mmと定めた。第2の共振スタブの短辺のサイズ(第1のスリット部5−1によって形成される長さ)は、長辺より小さくなるように3mmとした。また、第2の共振スタブの先端から給電点3までの長さは、共振周波数のおおよそ1/2波長となるところを目安として17.1mmとした。また、グランド面4はパッチアンテナ部2より1.6倍面積を大きくした。また、スリット幅は、他の長辺2−1へ向かう第1のスリット部5−1で1.2mm、給電点に向かう第2のスリット部5−2で1.1mmとした。さらに、給電信号とグランドを電気的に絶縁するための空隙7−1の幅は1mmとした。
【0053】
ここで、上述したパッチアンテナ部2の長辺2−1、2−3のサイズ、第2の共振スタブ5の長辺の長さは、下式(1)、(2)にしたがって求めた。T、T’は波長(mm)、cは光速(300Gmm(ギガミリ))、fは周波数(GHz)、sはサイズ(mm)、εは誘電体基板の比誘電率である。
T=300/f…(1)
s=T’/√ε…(2)
【0054】
ガラスエポキシ樹脂の比誘電率を3.35とすると、
(パッチアンテナ部2の長辺2−1、2−1のサイズ)
=((300/2.45)/2)/√3.35=33.46mm
≒36.8mm
(第2の共振スタブ5の長辺の長さ)
=((300/5)/4)/√3.35=8.20mm
≒7.4mm
【0055】
図3に、図2のデュアルパッチアンテナ10(寸法42(w)×10(h)×5(t))について特性評価を行ったときの、アンテナ実装状態を示す。これは、金属筐体カバー(Mg、0.5t)11のノートPC12を模擬したものである。ノートPC12ではLCD(238(w)×142(h)×6.5(t))13の周囲にアンテナが配置される場合が多い。通常、アンテナ放射を考慮し、金属筐体カバー11であっても、デュアルパッチアンテナ10のパッチアンテナ部近傍はプラスチック素材などに変更し、電波が放射しやすくする構造を取る(一般にこれをRFウィンドウと呼ぶ)。この場合、金属とプラスチックの界面のデザイン上の処理が複雑となる、プラスチック部分の強度が弱くなる、などの欠点があるが、アンテナ特性を確保するため、やむを得ずそのような処置をするしかなかった。本実施例によるデュアルパッチアンテナ10は、そのような処置をすること無しに、すなわちRFウィンドウを設けること無しに所望のアンテナ性能を確保できる。この実装状態では、デュアルパッチアンテナ10の背面も全て金属体となっている。
なお、デュアルパッチアンテナ10の背面と金属体である金属筐体カバー11との空隙には、給電ケーブル14、ABS樹脂性スペーサ15が配設されている。また、金属筐体カバー11に沿って給電ケーブル14を構成する同軸ケーブルが配設されている。
【0056】
図4に、図3の実装状態でのアンテナ特性を示す。上段左の図4(a)はアンテナの反射特性を表している(リターンロス、dB表記)。数値が低いほど、電力供給側への反射が少ないことを表しており、これはすなわち、その周波数において、電力が効率良くアンテナから電波として放射されていることを表す。このアンテナは、金属筐体カバーに近接
した状態でも、設計したとおりのW/LANの周波数、2.45GHz帯、5GHz帯において、良好な反射特性を有していることが分かる。上段右の図4(b)は、同じくアンテナ反射特性を表しているが、縦軸はVSWR(Voltage Standing Wave Ratio)と呼ばれる評価指数を用いている。一般に、VSWRが2以下であれば、アンテナとして有用に動作しているという指標となるが、上述の通り、金属筐体カバーに近接した状態でも、VSWRが2以下を所望の周波数帯で実現できていることが分かる。
【0057】
下段左の図4(c)と下段右の(d)は、それぞれ2.45GHz帯、5GHz帯での平均利得を示す。この値は、3m法を用い、アンテナ全方位における水平偏波と垂直偏波の電力を合計したものを、平均化して示したものである。一般に、この平均利得は−6dBi以上が実用上の目安とされているが、このアンテナはそれを実現することができた。アンテナ裏面が金属に覆われているため、そちら側への放射が見込めない。そのため、原理的には、通常のアンテナ放射の半分、3dBが必然的に失われることになるが、本実施例のアンテナでは、パッチアンテナの原理を適用することにより、LCD表面側に効果的に電波を放射することにより、実用上問題ない利得を確保している。
【0058】
[他の実施例]
これまでの説明では、PWB基板を使用したアンテナとして説明したが、本発明はPWB基板を利用したアンテナに制限されない。例えば、パッチアンテナ部2とグランド面4(ランド7部分を除く)を、板金を用いて作成する。パッチアンテナ部2には、スルーホール6の代替となる接続部導体部を、金属棒などを用いて接続する。その金属棒はグランド面を貫通して同軸ケーブルなどの給電線へ接続される。グランド面4は、金属棒に直接接触しないような貫通穴が設けられ、グランド面の一部は、同軸ケーブルなどのグランド線と接続される。パッチアンテナ部2とグランド面4は適切な平行距離が保たれるよう、機械的に固定される。その一案として、両者の間隙に、誘電体であるスチロール材などを挿入して固定しても良い。本発明の誘電体基板には、上述した両者の間隙に挿入して固定される誘電体であるスチロール材なども含まれる。
【0059】
また、これまでの説明には、ノートPCなどへの設置を前提として、同軸ケーブルでの給電としてきたが、グランド面に直接SMAコネクタや、ヒロセ電機製のU.FLコネクタなどをハンダ付けしてアンテナとしても良い。
【符号の説明】
【0060】
1: 誘電体基板
2: パッチアンテナ部(放射電極)
2−1: パッチアンテナ部の長辺
2−2: パッチアンテナ部の短辺
3: 給電点(接続点)
4: グランド面(グランド部)
5: 第2の共振スタブ
5−1: 第1のスリット部
5−2: 第2のスリット部
6: スルーホール(接続導体部)
7: 給電パターン(ランド、給電部)
7−1: 空隙
10: デュアルパッチアンテナ(多共振パッチアンテナ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、
前記誘電体基板の表面に設けられたパッチアンテナ部と、
前記誘電体基板の裏面に設けられたグランド部と、
前記誘電体基板の裏面に設けられ、前記パッチアンテナ部に給電するための給電部と、
前記給電部と前記パッチアンテナ部とを電気的に接続する接続導体部と、
を備え、
前記パッチアンテナ部は、該パッチアンテナ部の外周端部が電気的に開放されており、
前記パッチアンテナ部に、該パッチアンテナ部を多共振とするためのスリットが形成され、該スリットの一端が前記パッチアンテナ部の外周端部で開放され、他端がパッチアンテナ部の面内で閉塞している
多共振パッチアンテナ。
【請求項2】
前記パッチアンテナ部の外周端部と前記グランド部との間に、前記パッチアンテナ部と前記グランド部との間を電気的に接続するショートスタブが形成されていない
請求項1記載の多共振パッチアンテナ。
【請求項3】
前記パッチアンテナ部は矩形状に形成され、
前記スリットの開放された一端は、前記パッチアンテナ部の長辺に形成されている請求項1又は2記載の多共振パッチアンテナ。
【請求項4】
前記パッチアンテナ部と前記接続導体部の接続点となる給電点は、前記パッチアンテナ部の長辺の中心からずれた前記パッチアンテナ部の面内位置に形成されている請求項3記載の多共振パッチアンテナ。
【請求項5】
前記スリットは、前記開放端から前記パッチアンテナ部の短辺と平行に伸びる第1のスリット部と、前記給電点に向かって前記パッチアンテナ部の長辺と平行に伸びる第2のスリット部とを有するL字形状に形成されている請求項3又は4記載の多共振パッチアンテナ。
【請求項6】
前記接続導体部は、前記誘電体基板に形成されたスルーホールである請求項1〜5のいずれかに記載の多共振パッチアンテナ。
【請求項7】
前記グランド部と前記誘電体基板の外形が同じである請求項6記載の多共振パッチアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−171929(P2011−171929A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32699(P2010−32699)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】