説明

多分岐化合物を含む組成物の調製プロセス

多分岐高分子化合物を含む組成物の調製プロセスであって、下記式(I):AR(B)(式中、A及びBは、官能基であり、Rは、1つ又は複数のチオエーテル基を含有する(n+1)価の有機基であり、nは、少なくとも2の整数であり、Aがアミノ基又はヒドロキシル基であり、かつBがカルボン酸基又はそのエステル若しくは無水物であることを特徴とする)を有する1つ又は複数の化合物を含む混合物を、AがBと反応して、結合アミド基を形成する一方で、AはAとは反応せず、かつBはBとは反応しない反応条件下で反応させる工程を含む、多分岐高分子化合物を含む組成物の調製プロセス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用組成物へ組み込まれ得る多分岐高分子化合物を含む組成物の調製プロセスに関する。また、本発明は、歯科用セメントの調製のための多分岐高分子化合物を含む組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、グラスアイオノマー修復材用のポリ(カルボン酸)について開示している。上記高分子は、3個、4個又は6個の末端チオール基を有する連鎖移動剤の存在下でのアクリル酸及びイタコン酸の重合により得られ、その結果、3個、4個又は6個のアームを有する星型高分子が形成される。星型高分子は、基本的に多分岐高分子とは異なる。
【0003】
歯科用セメントは通常、線状ポリ(アルケン酸)及び反応性イオン放出性活性ガラスで構成される粉液系である。最も一般的なポリ(アルケン酸)は、ポリアクリル酸のような高分子、又はアクリル酸とイタコン酸との共重合体、アクリル酸とマレイン酸との共重合体及び或る程度までアクリル酸とメタクリル酸との共重合体である。
【0004】
水の存在下では、ポリ(アルケン酸)はガラス粉を攻撃して、それにより、カルシウム、アルミニウム及びストロンチウムのような金属イオンが、組成物を架橋する分子内及び分子間の塩架橋の形成下で放出される。
【0005】
一般的なセメントは、発熱反応が事実上存在しないこと、硬化中に縮みがないこと、硬化組成物中に遊離モノマーがないこと、高い寸法安定性、フッ化物放出及び歯の構造への良好な接着のような歯科における用途にとって多数の重要な利点を有する。
【0006】
これらの好適な特性の一方で、グラスアイオノマーセメントの主な制限は、それらが比較的強度に欠けること、並びに摩擦及び摩耗に対する低い耐性である。従来のグラスアイオノマーセメントは、低い曲げ強度を有するが、高い弾性率を有し、したがって非常に脆弱であり、バルク破壊になりやすい。
【0007】
機械特性、特に曲げ強度及び破壊靱性を改善するために、過去数十年の間に多数の研究が行われ、これらはアミノ酸の使用(非特許文献2、非特許文献3)、ポリ(N−ビニルピロリドン)を使用した水溶性共重合体の適用(非特許文献4)、狭い分子量分布を有するポリ酸(特許文献1)及び星状分岐ポリ酸(特許文献2)の使用に向けられている。さらに、20000D〜50000D(特許文献3)及び1000D〜50000D(特許文献4)の範囲の限定された分子量を有するポリ酸が提唱された。さらなるアプローチは、球状アイオノマー粒子の適用であった(特許文献5)。
【0008】
特許文献6は、グラフト化ポリ酸性高分子鎖を有する複合粒子を含有する歯科用セメント組成物について開示している。特許文献7は、歯科用組成物における分岐ポリ酸の使用について開示している。特許文献8は、歯科用化合物における分岐ポリ酸の使用について開示している。しかしながら、これらの参照文献により提示されるポリ酸は、全体的な重合度に類似した平均分岐長を有する。
【0009】
デンドリマー、アルボロール、スターバースト高分子及び多分岐高分子は、分岐構造及び高官能性によって区別される高分子構造に関する命名である。かかる高分子の中でも、多分岐高分子は、分子の不均一性及び構造の不均一性の両方を保有する(非特許文献5、非特許文献6)。したがって、多分岐高分子の分子量及び官能性は、多くの技術的応用に関して問題があることが知られている。さらに、デンドリマーの調製に本質的に必要とされる複雑な多段階合成に起因して、実際の応用は非効率的であり、かつコストが高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許第10058829号
【特許文献2】独国特許第10058830号
【特許文献3】欧州特許第0797975号
【特許文献4】国際公開第02/41845号
【特許文献5】国際公開第00/05182号
【特許文献6】欧州特許第1600142号
【特許文献7】国際公開第02/41846号
【特許文献8】欧州特許第1337221号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Dong Xie et al., Journal of Biomaterial Applications, vol.00, pages 1-20
【非特許文献2】Z. Ouyang, S.K. Sneckberger, E.C. Kao, B.M. Culbertson, P.W. Jagodzinski、Appl. Spectros 53 (1999) 297-301
【非特許文献3】B.M. Culbertson, D. Xie, A. Thakur, J. Macromol. Sci. Pure Appl. Chem. A 36 (1999) 681-96
【非特許文献4】D. Xie, B.M. Culbertson, G.J. Wang, J. Macromol. Sci. Pure Appl. Chem. A 35 (1998) 54761
【非特許文献5】Nachrichten aus Chemie, Technik und Laboratorium, 2002, 50, 1218
【非特許文献6】Dendrimers and Dendrons, Concepts, Syntheses, Applications by G.R. Newkome, C.N. Moorefield, F. Voegtle, Wiley-VCH, 2001, Rev. Macromol. Chem. 1997, C37(3), 555
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、セメント反応により硬化する新規歯科用セメント系のための組成物の調製プロセスを提供することであり、それにより硬化されたセメントは、改善された曲げ強度及び破壊靱性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題は、多分岐高分子化合物を含む組成物の調製プロセスであって、下記式(I):
AR(B)
(式中、
A及びBは、官能基であり、
Rは、1つ又は複数のチオエーテル基を含有する(n+1)価の有機基であり、
nは、少なくとも2の整数であり、
Aがアミノ基又はヒドロキシル基であり、かつ
Bがカルボン酸基又はそのエステル若しくは無水物であることを特徴とする)
を有する1つ又は複数の化合物を含む混合物を、AがBと反応して、結合アミド又はエステル基を形成する一方で、AはAとは反応せず、かつBはBとは反応しない反応条件下で反応させる工程を含む、多分岐高分子化合物を含む組成物の調製プロセスによる本発明により解決される。
【0014】
本発明は、歯科用セメントの機械特性が、セメント反応の構成成分としてポリ酸高分子鎖としての多分岐高分子化合物を含有するセメント組成物を使用することによって著しく改善され得るという認識に基づく。したがって、本発明は、セメント反応によって硬化する新規歯科用セメント用の多分岐高分子化合物を提供する。
【0015】
本発明によれば、多分岐高分子化合物は、2つの異なる官能基であるA及びBを有するAR(B)分子に基づいて調製され、A及びBは、互いに反応して、結合アミド又はエステル基を形成することが可能である。官能基Aは、分子中に一度のみ存在し、基Bは少なくとも二度存在し、nは、2以上の整数である。
【0016】
AR(B)分子の互いとの反応により、規則的配置された分岐部位を有する架橋されていない多分岐高分子化合物が生産される。本発明の組成物は、セメント反応によって硬化する新規歯科用セメント系の調製に使用されることができ、それにより硬化されたセメンとは、多分岐高分子化合物によって充填された反応性ガラスのイオン架橋に基づいて改善された曲げ強度及び破壊靱性を有する。機械特性は、多分岐高分子化合物中に存在する官能基に基づく適切な付加反応又は縮合反応に伴うセメント組成物の共有結合的な架橋によってさらに改善され得る。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、多分岐高分子化合物を含む組成物の調製プロセスを提供する。本発明による多分岐高分子化合物は好ましくは、多分岐高分子化合物の調製に使用されるアルケン酸モノマーの全体的な重合度と比較した場合に小さい平均分岐長を有する。
【0018】
好ましくは、本発明による多分岐高分子化合物は、20000〜2000000の範囲、より好ましくは100000〜500000の範囲の分子量を有する。
【0019】
本発明による多分岐高分子化合物の調製プロセスは、上記で定義されるような式(I)を有する1つ又は複数の化合物を含む混合物を反応させる工程を含む。
式(I)によれば、A及びBは官能基である。
【0020】
具体的には、Aはアミノ基又はヒドロキシル基であり得る。好ましくは、Aはアミノ基である。
【0021】
Bはカルボン酸基又はそのエステル若しくは無水物である。エステル基は、Bが−COOR10(式中、R10は、直鎖若しくは分岐状のC〜Cアルキル又は直鎖若しくは分岐状のC〜Cシクロアルキル基である)である場合の基であり得る。無水物基は、Bが−COOCOR11(式中、R11は、直鎖若しくは分岐状のC〜Cアルキル又は直鎖若しくは分岐状のC〜Cシクロアルキル基である)である場合の基であり得る。
【0022】
式(I)によれば、Rは、1つ又は複数のチオエーテル基を含有する(n+1)価の有機基である。Rは、炭化水素残基であり得る。好ましくは、Rは、酸素、窒素又は硫黄のようなヘテロ原子を含有する。Rはさらに、付加反応又は縮合反応を受けてもよい官能基を含有し得る。式(I)によれば、nは少なくとも2の整数である。好ましくは、nは2〜10、より好ましくは2〜4である。
【0023】
好ましい実施形態では、式(I)を有する1つ又は複数の化合物は、1つ又は複数の重合性不飽和カルボン酸モノマー又はそのエステル若しくは無水物を含有する混合物を、基A及び1つ又は複数のSH基を含有する化合物でテロメリ化することによって得られ得る化合物を含む。
【0024】
基A及び1つ又は複数のSH基を含有する化合物は、下記式(II):
Y−L−X(LSH)
(式中、
Yは、アミノ基又はヒドロキシル基、好ましくはアミノ基であり、
は、結合基であり、
は、結合基であり、
Xは、単結合、O、S、NR、−N<、−CR、又は−CR<若しくは>C<であり、
xは、1〜3の整数であり(即ち、Xの価数は(x+1)である)、
及びRは、互いに独立して、水素、炭素原子に結合される場合にはカルボン酸基、又はアルキル基である)
を有する化合物であり得る。
【0025】
xが2又は3である場合、式(I)を有する化合物は、さらなる分岐部位を含有する。結合基は、置換若しくは無置換のC〜C18アルキル基、置換若しくは無置換のC〜Cシクロアルキル基、置換若しくは無置換のC〜C18アリール若しくはヘテロアリール基、置換若しくは無置換のC〜C18アルキルアリール若しくはアルキルヘテロアリール基、又は置換若しくは無置換のC〜C30アラルキル基であり得る。
【0026】
好ましくは、1つ又は複数の重合性不飽和カルボン酸モノマーは、任意の保護酸性基(カルボン酸基を含む)を含有する1つ又は複数のフリーラジカル重合性モノマーである。本発明の重合プロセスに適したモノマーは、任意に保護された形態でのカルボン酸基及び重合性二重結合を含有する。酸性基は、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸基、ホスホン酸基及びリン酸基から選択される。
【0027】
好ましくは、ラジカル重合性モノマーは、下記式(II):
【化1】

(式中、Bは、任意に保護されてもよいカルボン酸基及び任意にスペーサー基(例えば、アルキレン基)を含有する部分であり、R2は、水素原子、カルボキシル基、カルボキシル基により置換され得るC1〜6アルキル基、又はカルボキシル基により置換され得るC3〜6シクロアルキル基であり、R3及びR4は、同じであり得るか、又は互いに異なってもよく、水素原子、カルボキシル基、カルボキシル基により置換され得るC1〜6アルキル基、又はカルボキシル基により置換され得るC3〜6シクロアルキル基を表す)
を有するモノマーである。R2、R3又はR4中のカルボキシル基は、任意に保護されてもよく、又は隣接するカルボン酸基と分子内無水物部分を形成してもよい。
【0028】
Bは、好ましくはカルボキシル基である。R2は好ましくは、水素原子又はメチル基である。R3及びR4は好ましくは、互いに独立して、水素原子、カルボキシル基、又はカルボキシル基により置換され得るC1〜3アルキル基である。
【0029】
式(II)のモノマーの具体例は、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸無水物、イタコン酸又はイタコン酸無水物のような酸性モノマーである。好ましくは、不飽和カルボン酸誘導体は、t−ブチル(メタ)アクリル酸又はn−ブチル(メタ)アクリル酸のような任意に保護されるアクリル酸又はメタクリル酸であり得る。
【0030】
カルボン酸酸性基の保護基は、各々のカルボン酸酸性基で従来使用される任意の適切な保護基であり得る。保護基は、好適には重合反応後に除去可能であるように選択される。好ましくは、遊離保護基は、ヒトの身体に対していかなる悪影響も有さない。カルボキシル基に特に好ましい保護基は、t−ブチル基又はn−ブチル基である。
【0031】
任意に保護されるラジカル重合性酸官能性モノマーは、任意に他の重合性モノマーの存在下で重合され得る。好ましい実施形態によれば、チオエーテル基は、下記反応スキーム:
【化2】

(式中、Yは、アミノ基又はヒドロキシル基であり、L及びLは、互いに独立して、結合基であり、R20は、水素原子、又は直鎖若しくは分岐状のC〜Cアルキル、又は直鎖若しくは分岐状のC〜Cシクロアルキル基であり、yは、10〜10000の整数であり、Bは上記で定義される通りである)
に従う反応によって得られ得る。必要であれば、アミノ基は、適切な保護基によって保護されてもよい。
【0032】
結合基は、置換若しくは無置換のC〜C18アルキル基、置換若しくは無置換のC〜Cシクロアルキル基、置換若しくは無置換のC〜C18アリール若しくはヘテロアリール基、置換若しくは無置換のC〜C18アルキルアリール若しくはアルキルヘテロアリール基、又は置換若しくは無置換のC〜C30アラルキル基であり得る。
【0033】
式(II)を有する1つ又は複数の化合物のテロメリ化反応は、官能性連鎖移動剤及び開始剤を使用した水性連鎖移動重合として実施され得る。好ましい連鎖移動試薬は、システアミンである。好ましい開始剤は、過硫酸アンモニウムである。したがって、化合物(II)を有する1つ又は複数の化合物のモノマー溶液は、蒸留水中で調製され得る。脱気後、連鎖移動試薬及び開始剤が添加される。テロメリ化は、0℃〜100℃の範囲、好ましくは10℃〜50℃の範囲の温度で実施され得る。反応時間は、具体的に限定されず、1時間〜48時間、好ましくは10時間〜36時間から選択され得る。テロメリ化された生成物は、末端アミノ基を含有するポリ酸を得るために、透析、続く凍結乾燥により分離及び精製され得る。
【0034】
本発明によれば、式(I)を有する化合物は、AがBと反応して、結合アミド基を形成する一方で、AはAと反応せず、BはBと反応しない反応条件下で反応される。
【0035】
好ましくは、反応条件は、反応混合物をマイクロ波照射へさらすことを包含する。かかる条件下では、式(I)を有する化合物は、多分岐構造を形成する。したがって、末端アミノ基を含有するポリ酸は、磁器攪拌子が備わっている圧力耐性反応容器中に末端アミノ基を含有するポリ酸を配置することによって多分岐状となり得る。反応容器は好適には、マイクロ波装置中に配置される。マイクロ波照射は、10℃〜200℃の範囲の温度で、30秒〜3時間、好ましくは5分〜60分間、1W〜1000W、好ましくは10W〜100Wの出力で適用される。多分岐生成物は、多分岐ポリ酸を得るために凍結乾燥によって分離及び精製され得る。
【0036】
末端アミノ基を含有するポリ酸は、さらなるポリ酸(例えば、ポリアクリル酸)の存在下で多分岐状となり得る。したがって、反応構成成分は、磁器カップ中で微細粉末として完全に混合される。混合物は好ましくは、磁器攪拌子が備わっている圧力耐性反応容器中に配置される。次に、反応容器は、マイクロ波装置中に配置される。マイクロ波照射は、10℃〜200℃の範囲の温度で、30秒〜3時間、好ましくは5分〜60分間、1W〜1000W、好ましくは10W〜100Wの出力で適用される。多分岐生成物は、多分岐ポリ酸を得るために凍結乾燥により分離及び精製され得る。
【0037】
該プロセスを使用することによって、多分岐高分子化合物が形成される。多分岐高分子化合物は、カルボン酸酸性基及び/又は保護酸性基、並びに任意にさらなる官能基を含有する。多分岐高分子化合物が保護基を含有する場合、多分岐ポリ酸性高分子鎖を有する多分岐高分子化合物を形成するために、保護酸性基を脱保護することが好ましい。
【0038】
本発明による多分岐高分子化合物の調製プロセスは、所望の多分岐構造が形成された後に別の官能基又は部分への変換に利用可能であり得る多数の官能基を有する化合物を提供する。
【0039】
変換は、縮合反応又は付加反応であり得る。縮合反応又は付加反応は、重合性二重結合を提供してもよく、その結果、本発明により得られ得る多分岐化合物は、グラスアイオノマー構成成分とのセメント反応における構成成分として使用され得るだけでなく、さらなる重合反応における重合性構成成分としても使用され得る。したがって、本発明はさらに、本発明の修飾された多分岐高分子化合物及び/又は本発明の共有結合的に架橋された多分岐高分子化合物を提供するための本発明の多分岐高分子のさらなる修飾プロセスを提供する。本発明の修飾された高分子化合物及び/又は本発明の共有結合的に架橋された高分子化合物は、二官能性又は多官能性化合物との、例えば少なくとも1つの多価アルコールとの、又は少なくとも1つのアルカノールアミンとの、又はビニルエーテル若しくはアミノアルキルチオール若しくはヒドロキシ(メタ)アクリル酸との反応により本発明の多分岐高分子化合物から調製され得る。
【0040】
好ましく使用される多価アルコールについて挙げられ得る例としては、以下のものが挙げられる:少なくとも2つのヒドロキシル基を有するアルコール(例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、グリセロール、ブタン−1,2,4−トリオール、n−ペンタン−1,2,5−トリオール、n−ペンタン−1,3,5−トリオール、n−ヘキサン−1,2,6−トリオール、n−ヘキサン−1,2,5−トリオール、n−ヘキサン−1,3−6−トリオール、トリメチロールブタン、トリメチロールプロパン又はジトリメチルプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトール)、糖アルコール(例えば、メソエリスリトール、スレイトール、ソルビトール、マンニトール)又は上述のアルコールの混合物。
【0041】
アルカノールアミンとしては、モノアルカノールアミン、N,N−ジアルキルアルカノールアミン、N−アルキルアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、N−アルキルアルカノールアミン及びトリアルカノールアミンが挙げられ、それぞれ、ヒドロキシアルキル基中に2個〜18個の炭素原子、及び適切である場合には、アルキル基中に1個〜6個の炭素原子、好ましくはアルカノール基中に2個〜6個の炭素原子、及び適切である場合には、アルキル基中に1個又は2個の炭素原子を有する。
【0042】
本発明による重合プロセスはさらに、多分岐高分子化合物を単離する工程をさらに含み得る。
【0043】
さらなる実施形態では、多分岐に付される混合物は、平均分子量0.5kDa〜500kDa、好ましくは1kDa〜200kDa、より好ましくは10kDa〜150kDaを有するポリアクリル酸分子又はその無水物をさらに含み得る。
【0044】
本発明はさらに、歯科用組成物、とりわけ歯科用セメントの構成成分としての本発明の多分岐高分子化合物、及び本発明の多分岐高分子から調製される重付加生成物又は重縮合生成物の使用を提供する。
【0045】
本発明により提供される歯科用セメント組成物は、酸及び水の存在下で金属イオンを浸出させることが可能な微粒子反応性無機充填剤を含む。充填剤は好ましくは、金属イオン及び同様に好適にはフッ化物イオンを浸出することが可能な反応性ガラスである。反応性ガラスは、歯科用セメントで従来使用される任意のグラスアイオノマーであり得る。好ましくは、セメント反応において酸と反応することが可能な塩基性表面を有するガラスが使用される。好ましくは、反応性ガラスは、カルシウム、ストロンチウム又はバリウムフルオロアルミノケイ酸塩ガラスである。フルオロアルミノケイ酸塩ガラス粉末は好ましくは、平均粒子径0.02μm〜20μmを有し、多分岐高分子化合物のポリ酸性高分子鎖と反応することが可能である。微粒子反応性無機充填剤は好ましくは、組成物に対して40重量パーセント〜85重量パーセント、好ましくは50重量パーセント〜70重量パーセントの量で含有される。
【0046】
本発明の多分岐高分子化合物は、歯科用セメント組成物中に好ましくは3重量パーセント〜80重量パーセントの量、好ましくは10重量パーセント〜40重量パーセントの量で含有される。
【0047】
本発明は、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、シュウ酸、リン酸の群から選択される有機酸又は無機酸を任意に含む歯科用セメント組成物を提供する。酸は、グラスアイオノマー反応の速度を調節するための遅延剤として使用される。
【0048】
本発明の歯科用組成物は、水溶性若しくは水膨潤性の高分子又は共重合体をさらに含有してもよい。好ましくは、水溶性又は水膨潤性の高分子は、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンの群から選択される。好ましくは、水溶性共重合体は、重合モノマーの少なくとも1つが、カルボン酸、リン酸、ホスホン酸、硫酸、スルホン酸の群から選択される酸性部分を含有するように、少なくとも2つの異なる重合モノマーの重合により得られる。好ましい実施形態では、水溶性共重合体は、群a)エチレン、プロピレン、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、ビニルアルキルエーテルのようなモノマー、及びb)アクリル酸、メタクリル酸、ビニルホスホン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸無水物、イタコン酸又はその無水物のような酸性モノマーから選択される少なくとも2つの異なる重合モノマーの重合により得られ得る。歯科用組成物のさらに好ましい実施形態では、水溶性共重合体はラテックスである。
【0049】
本発明の歯科用組成物は、反応性無機充填剤と組み合わせて歯科用複合樹脂に広く使用されるさらなる無機充填剤をさらに含有してもよい。さらなる充填剤は好ましくは、平均粒子径0.02μm〜10μmを有し、セメント反応により多分岐高分子化合物のポリ酸性高分子鎖と反応することが不可能である。さらなる充填剤の例は、コロイドシリカ、石英、長石、アルミナ、チタニア、ホウケイ酸ガラス、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム及び硫酸バリウムである。無機充填剤含有高分子を微粉砕することにより得られる複合充填剤も同様に使用され得る。これらの充填剤はまた、混合して使用されてもよい。
【0050】
本発明による歯科用組成物から放出されるフッ化物イオンの量を増大させるために、歯科用セメント組成物は、セメント組成物の硬化生成物の機械特性にいかなる負の影響も与えない場合には、任意の既知の水溶性フッ化物化合物を含有してもよい。水溶性フッ化物化合物は、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化亜鉛、フッ化アルミニウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フルオロスズ酸塩、フルオロケイ酸塩のような水溶性金属フッ化物であり得る。
【0051】
歯科用組成物は、顔料をさらに含有してもよい。歯科用組成物がグラスアイオノマー反応及び重合反応の組合せにより硬化可能である場合、歯科用組成物は、開始剤系、好ましくは水溶性開始剤系を含有してもよい、開始剤系は、レドックス開始剤系又は光開始剤系であり得る。
【0052】
本発明による典型的な歯科用セメント組成物の組成は下記の通りである:
【表1】

【0053】
本発明の多分岐高分子化合物が重合性基を含有する場合、本発明のセメント組成物は、熱重合又は光重合用の開始剤系をさらに含有してもよい。さらに、さらなる重合性モノマーが、最大20重量パーセントの量で本発明の歯科用セメント組成物へ組み込まれ得る。
【0054】
本発明によれば、多分岐高分子化合物は、セメント反応により硬化可能な歯科用組成物の調製に使用される。歯科用組成物は、セメント反応によって、さらにはさらなる反応によって硬化可能であり得る。さらなる反応は、重合反応及び重付加反応である。
【0055】
歯科用組成物は、多重パック、好ましくは二重パック組成物である。組成物は、ペースト/ペースト系、粉末/液体系、又は液体/ペースト系であり得る。組成物は、構成成分の早期硬化を回避するように設計される。この目的で、反応性無機充填剤構成成分及び任意の酸性基含有構成成分は、早期セメント反応を回避するように配合されなくてはならない。第1の実施形態では、反応性無機充填剤は、第1のパックに含有され、任意の酸性基含有構成成分は、第2のパックに含有される。第1のパックは、粉末又はペーストであり得る。第2のパックは、液体又はペーストであり得る。第2の実施形態では、第1のパックは、反応性無機充填剤及びポリアクリル酸のような固形ポリ酸を含む粉末であり、第2のパックは、ペースト又は液体であり、さらなる酸性基含有構成成分を含有する。
【0056】
粉末/液体キットである第1のパッケージングの実施形態では、多分岐ポリ酸及び水を含有する液体組成物は、イオン浸出可能な反応性無機充填剤を含有する粉末状組成物とは分離してパッケージングされる。
【0057】
二重ペーストキットである第2のパッケージングの実施形態では、多分岐ポリ酸、水及び非反応性充填剤を含有する第1のペースト組成物は、イオン浸出可能な反応性無機充填剤を含有するペースト組成物とは分離してパッケージングされる。
【0058】
本発明の歯科用セメント組成物は、虫歯又は損傷した歯を修復するのに使用されてもよく、それにより修復されるべき歯の窩洞は従来の様式で洗浄されて、セメント組成物が歯の窩洞へ充填される。
【0059】
本発明の歯科用セメント組成物は、結合用プロテーゼ、例えば、虫歯若しくは損傷した歯の窩洞への又は支台への歯冠又はインレーにおいて使用されてもよく、歯の窩洞及びプロテーゼの表面は洗浄されて、それによりセメント組成物は、歯の窩洞、支台表面及び/又はプロテーゼ表面へ適用されて、プロテーゼは、歯の窩洞及び/又は支台表面へ結合される。
本発明はここで、下記実施例に基づいてさらに説明される。
【実施例】
【0060】
実施例1
アミノ末端ポリアクリル酸(aet−paa)の合成
末端アミノ基を有するポリアクリル酸(aet−paa)は、官能性連鎖移動剤としてのシステアミン及び開始剤としての過硫酸アンモニウムを使用した水性連鎖移動重合によって合成された。
【0061】
蒸留水(170mL)中のアクリル酸(10.0g、0.14mol)の溶液を調製した。次に、モノマー溶液を、乾燥窒素バブリングにより1時間脱気した後、予め水15ml中に別個に溶解させた過硫酸アンモニウム(3.2g、0.014mol)及びシステアミン(2.16g、0.028mol)を導入した。温度を35℃(油浴)に調節して、反応を24時間進行させた。最終溶液を透析した(MWCO 1000)後、凍結乾燥すると、末端アミノ基を含有するポリアクリル酸が白色粉末として得られた。収率:8.7g。
【0062】
得られたアミノ末端ポリアクリル酸(aet−paa)は、MALDI−TOF MSによると、約1000ダルトン〜約3000ダルトンの範囲の分子量を有する。
【0063】
実施例2(EB3)
aet−paa(5.3g)を、磁器攪拌子が備わっている圧力耐性試験管中に配置した。管を隔膜で封入して、20Wの出力及びT=120℃(IR高温計)で10分間のプログラムを使用することによって、CEMマイクロ波装置に配置した。反応は温度制御条件下で実施された。黄色がかった粉末が凍結乾燥後に得られた。収率:4.4g。
【0064】
実施例3(EB4)
ポリアクリル酸(MW 136900Da)
aet−paa(5g)及びポリアクリル酸(5g)を磁器カップ中で微細粉末として完全に混合した。続いて、混合物を磁器攪拌子が備わっている圧力耐性試験管中に配置した。管を隔膜で封入して、10Wの出力及びT=105℃(IR高温計)で10分間のプログラムを使用することによって、CEMマイクロ波装置に配置した。反応は温度制御条件下で実施された。得られた生成物を蒸留水に溶解させた。最終溶液を透析した(MWCO 8000)後、凍結乾燥すると、黄色がかった粉末が得られた。収率:6.9g。
元素分析:C:47.2%、H:6.0%、N:0.6%。
【0065】
実施例4(EB5)
aet−paa(3g)及びポリアクリル酸(6g)を磁器カップ中で微細粉末として完全に混合した。その後、混合物を磁器攪拌子が備わっている圧力耐性試験管中に配置した。管を隔膜で封入して、10Wの出力及びT=105℃(IR高温計)で10分間のプログラムを使用することによって、CEMマイクロ波装置に配置した。反応は温度制御条件下で実施された。得られた生成物を蒸留水に溶解させた。最終溶液を透析した(MWCO 8000)後、凍結乾燥すると、黄色がかった粉末が得られた。収率:7.1g。
元素分析:C:48.4%、H:6.3%、N:0.4%。
【0066】
実施例5(EB6)
aet−paa(6g)及びポリアクリル酸(3g)を磁器カップ中で微細粉末として完全に混合した。その後、混合物を磁器攪拌子が備わっている圧力耐性試験管中で配置した。管を隔膜で封入して、10Wの出力及びT=105℃(IR高温計)で10分間のプログラムを使用することによって、CEMマイクロ波装置に配置した。反応は温度制御条件下で実施された。得られた生成物を蒸留水に溶解させた。最終溶液を透析した(MWCO 8000)後、凍結乾燥すると、黄色がかった粉末が得られた。収率:6.5g。
元素分析:C:46.9%、H:6.0%、N:0.7%。
【0067】
応用実施例
合成実施例によるポリ酸は、歯科用グラスアイオノマーセメントへ酸性構成成分として組み込んだ。したがって、多分岐ポリ酸はそれぞれ、3.6重量部/1重量部の粉末/液体比で、亜鉛ストロンチウムカルシウムリンアミノフルオロケイ酸塩ガラスに基づく標準的なアイオノマー粉末とともにスパチュラで混合した)。
【0068】
非分岐ポリ酸及び市販のグラスアイオノマーセメントは、比較例として使用された。
【0069】
曲げ強度は、長さ30mmを有する試験検体を用いて、ISO 4049に従って測定した。それぞれの場合で、一連の6個の試験検体に関する平均値が決定された。さらに、圧縮強度は、ISO 9917に従って測定した。
【0070】
結果は以下の表に示される。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多分岐高分子化合物を含む組成物の調製プロセスであって、下記式(I):
AR(B)
(式中、
A及びBは、官能基であり、
Rは、1つ又は複数のチオエーテル基を含有する(n+1)価の有機基であり、
nは、少なくとも2の整数であり、
Aがアミノ基又はヒドロキシル基であり、かつ
Bがカルボン酸基又はそのエステル若しくは無水物であることを特徴とする)
を有する1つ又は複数の化合物を含む混合物を、AがBと反応して、結合アミド又はエステル基を形成する一方で、AはAとは反応せず、かつBはBとは反応しない反応条件下で反応させる工程を含む、多分岐高分子化合物を含む組成物の調製プロセス。
【請求項2】
前記式(I)を有する1つ又は複数の化合物が、1つ又は複数の重合性不飽和カルボン酸モノマー又はそのエステル若しくは無水物を含有する混合物を、基A及び1つ又は複数のSH基を含有する化合物でテロメリ化することによって得られ得る化合物を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記基A及び1つ又は複数のSH基を含有する化合物が、下記式(II):
Y−L−X(LSH)
(式中、
Yは、アミノ基又はヒドロキシル基であり、
は、結合基であり、
は、結合基であり、
Xは、単結合、O、S、NR、−N<、−CR、又は−CR<若しくは>C<であり、
xは、1〜3の整数であり(即ち、Xの価数は(x+1)である)、
及びRは、互いに独立して、水素、炭素原子に結合される場合にはカルボン酸基、又はアルキル基である)
を有する化合物である、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記1つ又は複数の重合性不飽和カルボン酸モノマーが、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸又はメタクリル酸から選択される、請求項2又は3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記混合物が、平均分子量0.5kDa〜500kDaを有するポリアクリル酸分子又はその無水物をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記多分岐化合物を架橋させる工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項のプロセスに従って得られ得る多分岐高分子化合物を含む歯科用組成物。
【請求項8】
歯科用セメントである、請求項7に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
歯科用セメントの調製のための請求項1〜6のいずれか1項のプロセスに従って得られ得る多分岐高分子化合物を含む組成物の使用。

【公表番号】特表2012−532166(P2012−532166A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518817(P2012−518817)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004122
【国際公開番号】WO2011/003593
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(502289695)デンツプライ デトレイ ゲー.エム.ベー.ハー. (28)
【Fターム(参考)】