説明

多孔体セラミックスとその製造方法

【課題】高温雰囲気で安定して使用することができ、高い気孔率とこれに起因する低い熱伝導性を有する多孔体セラミックスとその製造方法を提供する。
【解決手段】多孔体セラミックスは、スピネル質セラミックスからなる基材部と、基材部内に存在する気孔部からなり、気孔部は10nmから365nmの範囲に少なくとも一つの気孔径分布のピークを持ち、気孔率が40体積%以上95体積%以下であること、より好ましくは、スピネル質セラミックスがMgAlであり、また、多孔体セラミックス製造方法としては、スピネル生成原料がマグネシウムを含み、アルミナ換算で1molの水硬性アルミナに対して、マグネシウムのマグネシア換算で0.66以上1以下のモル比で混合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔体セラミックスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔体セラミックスは、その内部に気孔を有しているので、緻密なセラミックスに比べて嵩密度および熱伝導率が低い。また、高耐熱性、高耐食性を有するセラミックスを適時選択して、断熱材や触媒担体等の各種材料にも広く応用されている。
【0003】
多孔体セラミックスとその製造方法として、例えば、特許文献1では、球状メソポーラスシリカと、金属酸化物からなり、前記球状メソポーラス間を連結する連結部とを備えたシリカ構造体を、細孔内にマスキング物質が充填された球状メソポーラスシリカと反応性結合剤を含む液体とを混合し、得られた混合物を成形し、反応性結合剤を反応させて前記球状メソポーラスシリカ間に連結部を形成し、前記細孔内から前記マスキング物質を除去することにより得る、という技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、水硬性アルミナ粉末と、酸化アルミニウム粉末及び/又は酸化アルミニウム水和物粉末からなる混合粉末を、水と混練して成形、乾燥、焼成して、開気孔率が5%以上で、0.01〜20ミクロンの範囲に、少なくとも一つの気孔分布のピークを持つ多孔質セラミックスを製造する、という技術が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3では、 耐熱性、耐食性、耐熱衝撃性に優れ、安価に製造できるスピネル質多孔体の製造方法として、3価金属酸化物粉末と、2価金属硫酸塩粉末との混合物を成形体とする工程と、成形体を焼成し焼結体中にスピネルを生成する工程と、を含むスピネル質多孔体の製造方法、という技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−180100号公報
【特許文献2】特開2004−250307号公報
【特許文献3】特開2003−246686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで近年、特に1000度以上の高温雰囲気で安定して使用できる気孔率の高い多孔体セラミックスが求められている。気孔率が高いと、軽量で熱伝導率の低い構造材にできるためである。
【0008】
特許文献1の技術では、0.1W/mK以下の低熱伝導率を示し、気孔径が1nmから10nmの範囲のメソポーラスシリカを用いるので、嵩密度を低くできる。また、反応性結合剤にて粒子同士を結合させているため、高い剛性が得られるとしている。
【0009】
しかし、特許文献1の技術では、シリカを主成分としているため、焼成温度が1000度以下とされている。一般的に、多孔体セラミックスの使用温度は焼成温度以下であるため、1000度以上で使用することは困難と考えられる。
【0010】
特許文献2には、40体積%を超える気孔率や、気孔径が0.01〜20ミクロン範囲についての記載がある。ところで、40体積%以上の気孔率を得るためには、焼成温度が1400度以下であることが必要とされるが、この技術では、1400度以上で高い気孔率を有する多孔体セラミックスを得ることは困難であると考えられる。
【0011】
特許文献3の技術は、スピネル質で多孔体を形成しており、高温雰囲気での使用でも、高い気孔率と強度が得られるとしている。しかし、多孔体セラミックス内の気孔率が高いだけでは、必ずしも十分ではない。例えば、気孔径が大きい多孔体セラミックスは、気孔率が高くでも、気孔径の制御ができていなければ、高温雰囲気での優れた断熱性を得にくいとされている。
【0012】
本発明は、これらの課題を鑑みてなされたもので、1400度以上の高温雰囲気で使用することができ、10nmから365nmの範囲に少なくとも一つの気孔径分布のピークを持ち、かつ気孔率が40体積%以上95体積%以下の高気孔率であることで、低い熱伝導性を有する多孔体セラミックスとその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る多孔体セラミックスは、スピネル質セラミックスからなる基材部と、前記基材部内に存在する気孔部からなる多孔体セラミックスであって、前記気孔部は10nmから365nmの範囲に少なくとも一つの気孔径分布のピークを持ち、気孔率が40体積%以上95体積%以下であることを特徴とする。このような構成をとることで、高温雰囲気でも安定して使用することができ、高い気孔率を有することで低い熱伝導性を有し、断熱性に優れた多孔体セラミックスとすることができる。
【0014】
また、本発明に係る多孔体セラミックスは、スピネル質セラミックスがMgAlであることが好ましい。
【0015】
そして、本発明の一態様に係る多孔体セラミックスの製造方法は、水硬性アルミナとスピネル生成原料とを水を用いて混合して成形後、1400度以上1700度以下の温度で焼成する多孔体セラミックスの製造方法であって、前記スピネル生成原料がマグネシウムを含み、アルミナ換算で1molの前記水硬性アルミナに対して、マグネシウムをマグネシア換算で0.66以上1以下のモル比にて混合されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る多孔体セラミックスとその製造方法は、高温雰囲気で安定して使用することができ、高い気孔率と制御された気孔径を有することで、断熱性に優れた多孔体セラミックスとすることができる。また、このように優れた特性を有する多孔体セラミックスを、簡易かつ効率的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一態様に係る多孔体セラミックスの一部から切り出した部材の断面を、SEMで観察した写真である。
【図2】図2は、本発明の一態様に係る多孔体セラミックスの、水銀ポロシメータによる気孔径分布を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の一態様に係る多孔体セラミックスを、大気中1500度で24時間保持する熱処理の前後で比較した、水銀ポロシメータによる気孔径分布をそれぞれ示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明に係る多孔体セラミックスは、スピネル質セラミックスからなる基材部と、前記基材部内に存在する気孔部からなる多孔体セラミックスであって、前記気孔部は10nmから365nmの範囲に少なくとも一つの気孔径分布のピークを持ち、気孔率が40体積%以上95体積%以下である
【0019】
スピネル質セラミックスからなる基材部は、多孔体セラミックスの骨格を構成する。スピネルは、化学式ABで表記される酸化物で、表記記号であるAとBには、表1に示す元素が当てはめられ、Oは酸素を表す。例えば、Bがアルミニウム(Al)の場合、Aは、Mg、Ni,Zn、Co、Cu、Fe、Snのうちのいずれか1つである。
【0020】
【表1】

【0021】
本発明に係る多孔体セラミックスは、好ましくは、BがAlであるアルミネートスピネルであり、AがMgで、BがAlである、MgAlがより好ましい。MgAlは、使用温度1400度以上での、耐熱性や機械強度に優れているためである。
【0022】
なお、スピネルを形成する金属および金属酸化物、および、スピネル以外の物質においても、多孔質構造を著しく損失させなければ、その他の金属、および金属酸化物をさらに含んでいてもよい。
【0023】
気孔率の高い多孔体セラミックスでは、骨格部となる基材部自体がある程度高い機械的強度を有することが求められる。ここで、径の細かい粒子同士が焼結していると、粒子の小径化に繋がり、多孔体セラミックス全体に占める基材部の割合が少なくても、機械的強度を保つことができる。
【0024】
スピネル質セラミックスからなる基材部内に存在する気孔は、周知の多孔体セラミックスにおける気孔を指す。気孔の詳細な形状、多孔体セラミックス中の部位ごとの気孔の粗密、さらには気孔の形成方法については、格別限定されるものではない。
【0025】
なお、本発明において、気孔部とは、基材部を構成するセラミックス粒子間の空隙と、セラミックス粒子あるいはセラミックス粒子同士が、焼結して塊状になった粒子の内部に存在する微細な気孔の両方を含むものとする。
【0026】
気孔部は、10nmから365nmの範囲に少なくとも一つの気孔径分布のピークを持つ。ここで気孔径分布は、例えば、JIS R 1655
「ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔径分布試験方法」に準拠して評価される。
【0027】
気孔径分布は、低い熱伝導性の発現に影響を及ぼす。すなわち、単に多孔体セラミックスの気孔率が高いだけでは、特に高温使用環境において、低い熱伝導性を得ることが困難である。
【0028】
気孔率が同じでも、気孔径が小さいほど空気の熱伝導寄与が小さくなる。特に、気孔径が空気の平均自由行程以下であれば、空気の熱伝導の影響を極端に低下できる。なお、大気圧(0.10MPa)で空気の平均自由行程は、1000度で365.9nm、1200度で426.2nm、1400度で486.8nmである。
【0029】
上記理由より、気孔径分布のピークは365nm以下であることが好ましい。また、気孔径分布のピークが10nm未満であると、気孔径が小さいため、高い気孔率を得ることが困難である。よって、気孔径分布のピークは、10nmから365nmの範囲が好ましい。
【0030】
なお、気孔径分布のピークが10nmから365nmの範囲であれば、ピークは2つ以上あってもよい。また、10nmから365nmの範囲に少なくとも1つのピークがあれば、365nmより大きい範囲に、さらにピークが1つ以上あってもよい。
【0031】
その他、複数のピーク同士の、ピーク高さの相対的な大小関係は、適用する多孔体セラミックスの要求特性に応じて、適時設定してよい。
【0032】
本発明に係る多孔体セラミックスにおける気孔率は、40体積%以上95体積%以下である。ここで気孔率は、例えば、JIS R 1634「ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法
」に準拠して評価できる。
【0033】
気孔率が40体積%以上あることで、低い熱伝導性、すなわち高い断熱性を有する。しかし、気孔率が高いと、基材部の占める割合が相対的に低下し、95体積%を超えると、剛性や耐熱衝撃性が不十分となるおそれがある。より好適には、気孔率50体積%以上95体積%以下である。
【0034】
以上のとおり、本発明に係る多孔体セラミックスは、微細な気孔をもち、かつ気孔率が高い。そして、MgAlを適用することで、1400度以上1700度以下の高温下において好適に用いることが出来る。
【0035】
従来、MgAlの製造時におけるアルミナと酸化マグネシウムとの反応焼結では、MgAl自体が緻密化してしまい、微細な気孔の生成が妨げられるおそれがあった。よって、微細な気孔をもち、かつ気孔率を高くすることが困難であった。
【0036】
そこで、本発明の一態様に係る多孔体セラミックスの製造方法は、水硬性アルミナとスピネル生成原料とを水を用いて混合して成形後、1400度以上1700度以下の温度で焼成する多孔体セラミックスの製造方法であって、前記スピネル生成原料がマグネシウムを含み、アルミナ換算で1molの前記水硬性アルミナに対して、マグネシウムをマグネシア換算で0.66以上1以下のモル比で混合されることを特徴とする。
【0037】
水硬性アルミナの平均粒径などの詳細な条件は、製造する多孔体セラミックスの要求仕様に基づいて、適時設定してよい。水硬性アルミナとは、水硬性を有するアルミナのことであり、水酸化アルミニウムを熱分解して得られる遷移アルミナの中で、例えばχ-アルミナ、ρ-アルミナおよび無定形アルミナのように、再水和反応をおこし、粒子と粒子が凝集、硬化しうるアルミナを指すものとする。
【0038】
多孔体セラミックスの出発原料として、水硬性アルミナを用いることで、水硬性アルミナと水を反応させてアルミナ3水和物であるバイヤライトを生成させることができる。また、マグネシウム源を含む状態で水硬性アルミナと水とを反応させることで、バイヤライトの他にマグネシウムアルミニウム水酸化水和物を生成させることができる。マグネシウムアルミニウム水酸化水和物がバイヤライトの周りに存在することで、バイヤライトがスピネル質へと反応焼結しやすくなり、緻密化することなくスピネル構造になると考えられる。よって、微細な気孔の形成に好適である。また、製造工程が簡素で、粒径や気孔率の制御性に優れている点でも、好ましいといえる。
【0039】
次に、水硬性アルミナとスピネル生成原料は、水を用いて混合して成形する。水硬性アルミナは、水と混合されバイヤライトおよびマグネシウムアルミニウム水酸化水和物となる。このときに、アルミナ一水和物やバイヤライトの多形結晶であるノルスタンダイトの生成を伴っていても構わない。
【0040】
水硬性アルミナと反応させる水は、純水が好ましい。また、水の純度や不純物元素の濃度は、要求される設計仕様に基づき適時選択することができる。しかし、水以外の成分、例えば微量の金属元素、有機物、無機物を含む各種の水溶液でも、製造工程や完成品に悪影響を及ぼすことのない範囲で、任意に適用しても差し支えない。
【0041】
なお、マグネシウム源としてのスピネル生成原料としては、酸化マグネシウムもしくは炭酸マグネシウムが好ましい。一方、水酸化物や酢酸塩など水硬性アルミナとの反応により、マグネシウムアルミニウム水酸化水和物を生成しないものは、マグネシウム源としては好ましくないといえる。
【0042】
スピネル生成原料は、アルミナ換算で1molの水硬性アルミナに対して、マグネシウムのマグネシア換算で0.66以上1以下のモル比で混合される。
【0043】
このモル比が0.66未満ではスピネル質への反応が不十分となり、未反応箇所がアルミナ粒子として粒成長して、気孔率の減少および気孔径の増加が起こる。一方、このモル比が1を越えると、微細構造の粒成長が促進されることによって、気孔率の減少および気孔径の増加が生じる。好ましくは、0.7以上1以下のモル比である。
【0044】
水硬性アルミナとスピネル生成原料とを水を用いて混合して成形した後に、1400度以上1700度以下の温度で焼成する。焼成において使用する焼成炉や治具の形状、焼成条件である昇降温速度、焼成雰囲気については、製造される成形体の形状や要求される特性に応じて、広く公知のものを適用できる。
【0045】
焼成温度が1400度未満では、スピネルへの反応が充分に行われておらず、焼成温度が1700度より高い温度では、焼結の進行によって、気孔径を10nmから365nmの範囲に保持することができず、いずれも好ましくない。より好ましい焼成温度の範囲は、スピネルへの完全反応の促進、あるいは微細構造消失を防止する観点から、1400度以上1600度以下である。
【0046】
焼成体内に酸化マグネシウムが残存していると、大気中の水分と反応して水酸化マグネシウムとなることで、体積膨張を起こして多孔体セラミックスの破壊が生じる。しかし、酸化マグネシウムの残留量が少量であれば、アルミナと反応していない酸化マグネシウムは、焼成後に酢酸などの酸性水溶液を用いて、溶解ろ過により取り除くことができる。
【0047】
成形方法は、広く公知のセラミックス形成方法を適用できる。また、造孔材添加等の各種手法を併用して、気孔の導入を行ってもよい。
【0048】
なお、本発明の一態様に係る多孔体セラミックスの製造方法において生成される気孔には、アルミナ3水和物であるバイヤライト由来の構造のもの、セラミックス粒子間の空隙によるものの両方が含まれる。このとき、例えば、一軸成形およびCIP(Cold Isostatic Pressing)成形を行うと、セラミックス粒子間の空隙の量を減少させることができ、気孔率が40体積%以上60体積%以下になる。
【0049】
以上のとおり、本発明に係る多孔体セラミックスは、高温雰囲気で安定して使用することができ、高い気孔率とこれに起因する低い熱伝導性を有する。また、本発明の一態様に係る多孔体セラミックスの製造方法によれば、このように優れた特性を有する多孔体セラミックスを簡易に製造することが可能となる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の好ましい実施形態を実施例に基づき説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない。
【0051】
(実験1)
原料として、住友化学(株)製水硬性アルミナ粉末(品名 水硬性アルミナBK−112)と、高純度化学(株)製酸化マグネシウム粉末(品名 MG011PB)とを準備し、アルミナ1molに対して、酸化マグネシウムが0.8181molの比になるように秤量した。
【0052】
そして、アルミナの重量の2倍量の純水を用いて、秤量したアルミナと酸化マグネシウムを混合、養生をすることで、アルミナ3水和物およびマグネシウムアルミニウム水酸化水和物に反応させ、さらに水硬にて成形を行い、縦25mm×横40mm×厚さ20mmの板状の成形体を得た。
【0053】
この成形体を、大気雰囲気中1600度×3hのスピネルへの反応を伴う焼成を行うことで、スピネル質の多孔体セラミックスの焼成体を得た。これを実施例1とする。図1に、その断面方向から見た写真を示す。
【0054】
得られた焼成体の結晶相を、X線回折(CuKα、40kV、0.3A、走査速度0.06°/s)にて同定したところ、スピネル相が観察された。また、アルキメデス法にて測定した見掛け気孔率は66.8%であった。
【0055】
図2は、実施例1の多孔体セラミックスにおける、大気中1500度×24rの熱処理を実施する前後での、気孔径分布を示したものである。気孔径は、JIS R 1655
「ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔径分布試験方法」に準拠して評価した。
【0056】
図2の気孔径分布から、10nmから365nmの範囲と、365nmから1000nmの範囲に、それぞれピークが確認される。ここで、10nmから365nmの範囲のピークは、アルミナ3水和物由来の気孔であり、365nmから1000nmの範囲のピークは、粒子間の空隙によるものであると考えられる。また、MgAlの焼成温度以下である1500度の熱処理後の気孔径分布が、熱処理前とほぼ変わらないことも、合わせて確認することができる。
【0057】
(実験2)
比較例として、アルミナ源を水硬性アルミナの代わりにθ−アルミナ(大明化学工業株式会社製、品名 TM−100)を用いて、CIP成形にて成形、焼成した。これを比較例1とする。また、水硬性アルミナのみを用いて成形体を作製し、これを比較例2とする。なお、比較例1,2ともに、これ以外の製造条件、評価方法は、実施例1に準ずる。
【表2】

【0058】
表2より、比較例1は気孔径分布のピーク位置が365nm以上であり、かつ、見掛け気孔率が40%に満たないことがわかる。また、比較例2は見掛け気孔率が60%を超えているが、気孔径分布のピーク位置は365nm以上である。このことから、比較例1と比較例2は、気孔径分布のピーク位置と、みかけ気孔率のいずれかにおいて、実施例1よりも劣るものといえる。
【0059】
(実験3)
表3に示す内容で、各種条件の焼成体を作製した。なお、表2以外の製造条件は、実験1に準拠した。ここで、試料番号は、各原料の配合比と焼成条件の組み合わせで、例えば、1−C、と付される。なお、実施例1は、表3では、3−Dに該当する。
【0060】
【表3】

【0061】
ここで、1400度以下の、試料番号3−A、試料番号3−Bについては、アルミナと反応していない酸化マグネシウムを除去する目的で、焼成後に試料1gに対し酢酸水溶液(2vol%)100mlを加えて、室温で24時間放置した後に、110度で3時間乾燥を行った。
【0062】
評価は、気孔径分布測定、見掛け気孔率測定を実施例1に準じて行った。得られた焼成体の結晶相を、X線回折(CuKα、40kV、0.3A、走査速度0.06°/s)にて同定し、その結果をそれぞれ表4に示す。
【0063】
【表4】

【0064】
表4の結果より、本発明の実施範囲にあるものは、MgAlのみの均質なスピネル質であり、見かけ気孔率が40%以上、気孔径分布のピーク位置が100nmから365nmの範囲にあり、好ましいものといえる。一方、本発明の実施範囲を外れたものは、均質なスピネル質ではなくMgAl以外の組成を含む相であるか、気孔径分布のピーク位置が365nmを超えた範囲にあるか、のいずれかであり、本発明の実施範囲にあるものと比べると、好ましいものでないといえる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る多孔体セラミックスは、例えば、高温燃焼ガス排気フィルター、触媒担体、断熱材、吸音材、等の構造材として有用である。また、セラミックス以外の基材部からなる高い気孔率を有する構造材、例えばフィラーや住宅用断熱材および吸音材、等の製造方法に対しても、広く応用することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
なし。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネル質セラミックスからなる基材部と、前記基材部内に存在する気孔部からなる多孔体セラミックスであって、前記気孔部は10nmから365nmの範囲に少なくとも一つの気孔径分布のピークを持ち、気孔率が40体積%以上95体積%以下であることを特徴とする多孔体セラミックス。
【請求項2】
前記スピネル質セラミックスがMgAlであることを特徴とする請求項1に記載の多孔体セラミックス。
【請求項3】
水硬性アルミナとスピネル生成原料とを水を用いて混合して成形後、1400度以上1700度以下の温度で焼成する多孔体セラミックスの製造方法であって、前記スピネル生成原料がマグネシウムを含み、アルミナ換算で1molの前記水硬性アルミナに対して、マグネシウムのマグネシア換算で0.66以上1以下のモル比で混合されることを特徴とする多孔体セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記スピネル生成原料が酸化マグネシウムまたは炭酸マグネシウムである、請求項3に記載の多孔体セラミックスの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−229139(P2012−229139A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98116(P2011−98116)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】