説明

多孔性材料の製造方法

【課題】斜長石を含む無機粉末を出発原料として用い、孔径10nm以下の微細孔を多く有する多孔性材料を製造する方法を提供する。
【解決手段】粉砕機を用いて斜長石を含有する無機粉末を粉砕するメカノケミカル処理を行い、前記メカノケミカル処理にて得られた粉砕物を炭酸ガス雰囲気下で養生する炭酸化処理を行うことにより、孔径10nm以下の微細孔を多く有する多孔性材料を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性材料の製造方法に関し、特に孔径10nm以下の微細孔の存在比率の高い多孔性材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート材料として用いられる骨材(粗骨材、細骨材)を生産する過程において、砕石の採掘、破砕、粒度調整工程により砕石粉が発生する。また、採石場等における砕石の水洗処理工程により、砕石粉脱水ケーキが発生する。これらの砕石粉や砕石粉脱水ケーキの多くは、利用価値が少ないため、そのほとんどが廃棄処分されている。
【0003】
しかしながら、これらの砕石粉や砕石粉脱水ケーキの廃棄処分には多大な費用がかかるとともに、環境に対する影響も無視できないことから、砕石粉や砕石粉脱水ケーキの有効利用を図ることが望まれている。
【0004】
これらの砕石粉等には、CaO等のCa成分とSiO等のSi成分とを含むものがあるが、この砕石粉等と同様の化学組成を有する石灰質原料粉末及びケイ酸質原料粉末を含む粉末を出発原料として用い、それを炭酸化処理することにより調湿材料を製造する方法等が知られている(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3065607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の方法のように、石灰質原料粉末とケイ酸質原料粉末とを含む出発原料について炭酸化処理をすることで、調湿機能を発揮し得る調湿材料を得ることができるが、斜長石を含む無機粉末を出発原料として用いて炭酸化処理を行っても、孔径10nm以下の微細孔の形成が困難であるという問題があった。
【0007】
上記問題点に鑑みて、本発明は、斜長石を含む無機粉末を出発原料として用い、孔径10nm以下の微細孔の存在比率の高い多孔性材料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、粉砕機を用いて斜長石を含有する無機粉末を粉砕するメカノケミカル処理を行い、前記メカノケミカル処理にて得られた粉砕物を炭酸ガス雰囲気下で養生する炭酸化処理を行うことを特徴とする多孔性材料の製造方法を提供する(請求項1)。
【0009】
上記発明(請求項1)によれば、斜長石を含有する無機粉末を予めメカノケミカル処理により粉砕した上で、得られる粉砕物について炭酸化処理をすることで、得られる多孔性材料に、孔径10nm以下の微細孔を多く存在させることができる。
【0010】
斜長石は、CaO及びSiOとともに、Alを含むこと及び数万〜数億年単位で堆積した安定鉱物であることから、炭酸化処理のみによっては、孔径10nm以下の微細孔を効率的に形成することが困難であったものと推察されるが、炭酸化処理前にメカノケミカル処理を施すことで、斜長石を含有する無機粉末を非晶質化して反応性を向上させることができ、その後の炭酸化処理により孔径10nm以下の微細孔の存在比率の高い多孔性材料を得ることができたものと推察される。
【0011】
また、本発明は、上記発明(請求項1)に係る多孔性材料の製造方法により製造されてなることを特徴とする多孔性材料を提供する(請求項2)。かかる発明(請求項2)によれば、多孔性材料において、特に孔径10nm以下の微細孔の存在比率を高くすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、斜長石を含む無機粉末を出発原料として用い、特に孔径10nm以下の微細孔の存在比率の高い多孔性材料を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1、比較例1及び比較例2におけるX線回折装置を用いた結晶構造の測定結果を示すグラフである。
【図2】実施例1、比較例1及び比較例2における細孔分布の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る多孔性材料の製造方法を説明する。
本実施形態に係る多孔性材料の製造方法においては、まず、斜長石(CaO・2SiO・Al)を含む無機粉末中のCa成分とSi成分とのモル比(Ca/Si比)を、所定の比率に調整する。
【0015】
本実施形態に係る多孔性材料の製造方法における出発原料としての無機粉末は、少なくとも斜長石を含むものであればよく、具体的には、無機粉末中の斜長石の含有率が、60質量%以上であるのが好ましい。
【0016】
このような無機粉末としては、粗骨材、細骨材等の骨材の生産過程で発生し、従来はほとんどが廃棄処分されていた未利用資源を用いることができ、例えば、砕石粉、脱水ケーキ、軟石、表土等を用いることができる。
【0017】
本実施形態において、無機粉末中のCa/Si比を0.5〜1.5に調整するのが好ましく、特に1.0程度に調整するのが好ましい。無機粉末中のCa/Si比を上記範囲内に調整することで、メカノケミカル処理を短時間で行うことができるとともに、その後の炭酸化処理で得られる多孔性材料において、孔径10nm以下の微細孔を効率的に形成することができる。
【0018】
無機粉末中のCa/Si比の調整方法としては、特に限定されるものではないが、出発原料として用いる無機粉末の組成に応じてCa成分又はSi成分を添加してもよいし、Ca成分及びSi成分を含むものを添加してもよい。
【0019】
無機粉末に添加し得るCa成分としては、例えば、消石灰(CaOH)、生石灰(CaO)、石膏(無水石膏、二水石膏、半水石膏等)、石灰石粉末等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、Ca成分として石膏を添加する場合、天然に産出される石膏を添加してもよいが、排煙脱硫石膏、廃石膏ボード、リン酸石膏等の産業廃棄物を用いてもよい。これらの産業廃棄物を用いることで、廃棄物の利用率をさらに向上させることができる。
【0020】
また、無機粉末に添加し得るSi成分としては、例えば、珪藻やその遺骸などの非晶質シリカ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
次に、Ca/Si比を所定の範囲に調整した無機粉末について、粉砕機を用いて粉砕するメカノケミカル処理を施し、メカノケミカル反応を生じさせる。これにより、無機粉末の反応性を向上させることができ、後述する炭酸化処理にて孔径10nm以下の微細孔を効率的に形成することができる。
【0022】
粉砕機としては、例えば、ボールミル、遊星ミル、振動ミル、転動ミル、乳ばち等の粉砕機を用いることができる。
【0023】
上記メカノケミカル処理の時間は、無機粉末の反応性を向上させることができる限り特に限定されることはなく、用いる粉砕機の種類に応じて適宜設定することができるが、例えば、粉砕機として遊星ミルを用いた場合、通常15分〜3時間であり、好ましくは30分〜2時間である。メカノケミカル処理時間が15分未満であると、斜長石の非晶質化が不十分であり、炭酸化処理によって孔径10nm以下の微細孔を効率的に形成することができないおそれがあり、3時間を超えると工業生産性の観点から好ましくない。
【0024】
続いて、メカノケミカル処理にて得られた粉砕物を炭酸ガス雰囲気下で養生する炭酸化処理を行う。メカノケミカル処理によって反応性が向上した無機粉末の粉砕物について炭酸化処理を行うことで、無機粉末中のCa成分が炭酸カルシウムとして抜け出すため、これにより、微細孔を形成することができる。
【0025】
炭酸化処理は、具体的には、上記粉砕物を養生用の圧力容器内に存在させた状態にて、当該圧力容器内に炭酸ガスを導入し、上記粉砕物と炭酸ガスとを接触させ、炭酸化反応を生じさせることにより行う。
【0026】
炭酸化処理にて用いられる炭酸ガスは、純度100%の二酸化炭素ガスを用いてもよいし、他の気体(例えば、窒素、酸素等)と二酸化炭素との混合ガスを用いてもよい。具体的には、市販の液化炭酸ガス、ドライアイスを気化させたもの等を圧力容器内に導入すればよい。
【0027】
炭酸ガスとして混合ガスを用いる場合、混合ガス中の二酸化炭素濃度が高いほど炭酸化反応が早く進行するため好ましく、具体的には、二酸化炭素濃度が60%以上の混合ガスを用いるのが好ましく、特に二酸化炭素濃度が95%以上の混合ガスを用いるのが好ましい。二酸化炭素濃度が60%未満であると、炭酸化の反応効率が低下してしまうおそれがある。
【0028】
炭酸化処理における反応温度は特に限定されるものではないが、メカノケミカル処理にて得られた粉砕物中に水分が存在し得る環境下で炭酸化処理を行うのが好ましく、具体的には、10〜50℃であるの好ましい。炭酸化反応は、炭酸ガスが水に溶け込みイオン化することによって生じるため、炭酸ガスの水への溶解度を考慮すると、水が凝固しない程度を下限とした低温雰囲気で行うことが望ましい。なお、炭酸化反応が発熱を伴うことで炭酸化反応の進行により圧力容器内の温度が上昇してしまい、また上昇した圧力容器内の温度を冷却するには別途コストがかかってしまうため、反応初期の圧力容器内の温度を20℃前後と設定するのが好ましい。
【0029】
また、炭酸化処理における反応時間は、粉砕物中のCa成分と二酸化炭素とにより炭酸カルシウムが生成される限り特に限定されるものではなく、通常30分〜6時間、好ましくは4時間程度である。30分以下では炭酸化が不十分であって、孔径10nm以下の微細孔を効率的に形成することができないおそれがあり、6時間以上では工業生産性の観点から好ましくない。
【0030】
さらに、炭酸化処理における圧力条件もまた、粉砕物中のCa成分と二酸化炭素とにより炭酸カルシウムを効率的に生成し得る限り特に限定されるものではないが、0.1MPa以上であることが好ましく、0.2MPa以上がより好ましい。0.1MPa未満であると、炭酸化反応量が減少するため孔径10nm以下の微細孔の形成が不十分となるおそれがある。なお、圧力は高いほど好ましいが、5MPa以上となると大きなエネルギーが必要となるため、工業生産性の観点から好ましくない。
【0031】
本実施形態においては、上記炭酸化処理を行う前に、メカノケミカル処理により得られた粉砕物に水を添加して、当該粉砕物の含水率を所定の範囲に調整するのが好ましい。粉砕物の含水率を調整することで、より効果的に炭酸化処理を行うことができる。なお、メカノケミカル処理により得られた粉砕物の含水率が所定の範囲であれば、水を添加する工程を省略してもよい。
【0032】
具体的には、上記粉砕物の含水率を5〜50%に調整するのが好ましく、特に15%程度に調整するのが好ましい。含水率が5%未満であると炭酸化反応が効率的に進行しなくなるおそれがあり、50%を超えると、水分量が多すぎて、水中に溶解した炭酸ガスと粉砕物(無機粉末)中のCa成分との接触効率が低下してしまい反応効率が低下するおそれがある。
【0033】
上記のようにして炭酸化処理を行い、得られた粉末を常法により乾燥し、所望の粒度に分級することで、多孔性材料を得ることができる。
【0034】
このようにして得られた多孔性材料は、孔径10nm以下、特に1〜5nmの微細孔の存在比率の高いものであり、後述する実施例から明らかなように、単に炭酸化処理をして得られたものに比して5倍程度、孔径10nm以下の微細孔の細孔容積を増加させたものとすることができる。したがって、得られた多孔性材料は、吸着機能、消臭(脱臭)機能、調湿機能等を発揮することができる。
【0035】
上記のようにして得られた多孔性材料は、吸着機能、消臭(脱臭)機能、調湿機能等を発揮することができため、そのまま吸着材料、消臭材料、調湿材料等として用いることができる。
【0036】
具体的には、舗装用保水材、土壌改良材、保水性混和材、屋上緑化基材、園芸用基材等の土木資材;調湿建材原料、住宅床下乾燥材原料等の建材原料;消臭剤、脱臭剤、排ガス処理剤等のガス吸着剤;海水処理剤、工業用水処理剤、浄水前処理剤、雨水処理剤、共同浴場用水浄化剤等の水質浄化資材等として上記多孔性材料を用いることができる。
【0037】
また、得られた多孔性材料は、その用途に応じて粒子状、繊維状、膜状、ペレット状等に成形して適宜用いることができる。
【0038】
さらに、得られた多孔性材料を木綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維;ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂からなる熱可塑性繊維;レーヨン、アセテート等の半合成繊維;ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維等の繊維等に練り込んだり、当該繊維等の表面に保持させたりすることで、当該繊維等に吸着機能、消臭(脱臭)機能、調湿機能等を付与することができる。そして、このような繊維等を用いることで、吸着機能、消臭(脱臭)機能、調湿機能等を発揮し得る濾過膜、壁紙、床材、カーテン等を製造することができる。
【0039】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0040】
例えば、上記実施形態においては、メカノケミカル処理を行った、斜長石を含む無機材料について炭酸化処理を行うことで得られた多孔性材料を成形したり、繊維に練り込んだりして、当該多孔性材料を含む製品を得ているが、これに限定されるものではなく、例えば、メカノケミカル処理により得られた粉砕物を成形したり、繊維に練り込んだ後に、当該成形物や繊維等について炭酸化処理を行ってもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の実施例により何ら限定されるものではない。
【0042】
〔実施例1〕
下記表1に示す鉱物組成を有する砕石粉(骨材生産時に生じた砕石粉,山梨県内の安山岩系鉱山産)及び消石灰を、Ca/Si比が1.0になるように計り取ってあわせて3gとし、容量250ccの遊星ミル(FRITSCH社製,製品名:P−5型)に導入して、回転速度250RPMで60分間メカノケミカル処理を行い、粉砕物を得た。
【0043】
【表1】

【0044】
次に、得られた粉砕物の含水率が15%となるように水を添加、混合した後、養生用圧力容器(ユニコントロールズ社製,製品名:TA−200)に導入し、当該圧力容器中に100%濃度の炭酸ガスを導入して、0.2MPaの圧力条件下、22℃の温度条件下で、4時間炭酸化処理を行い、多孔性材料を得た。
【0045】
〔比較例1〕
上記砕石粉及び消石灰を、Ca/Si比が1.0になるように計り取ってあわせて3gとして単純混合し、含水率が15%となるように水を添加した後、上記実施例1と同様にして炭酸化処理を行い、多孔性材料を製造した。
【0046】
上記のようにして得られた多孔性材料(実施例1,比較例1)について、X線回折装置(PANalytical社製,製品名:X'pert High Score Plus)を用いて結晶構造を測定するとともに、Micromeritics ASAP 2400(島津製作所社製)を用いて細孔分布(細孔容積)を測定した。また、メカノケミカル処理及び炭酸化処理を行っていない上記砕石粉についても同様にして結晶構造及び細孔分布(細孔容積)を測定した(比較例2)。測定結果を図1及び図2に示す。
【0047】
図1に示すように、実施例1の多孔性材料は、未処理である比較例2と比べ、原成分が非晶質化しており、さらに炭酸化処理によって通常の炭酸化処理で生じるカルサイトとは別種の炭酸カルシウムであるアラゴナイトの形成が確認された。一方、比較例1では、原成分が残存している他、炭酸化によりカルサイトが生じていることが確認された。
【0048】
また、図2に示すように、比較例1の炭酸化処理のみをして得られた多孔性材料においては、比較例2と略同様の細孔分布を示し、孔径10nm以下の微細孔を効率的に形成することができなかったが、実施例1の多孔性材料においては、孔径10nm以下、特に孔径1〜5nmの微細孔を特異的に多く形成することができた。
【0049】
この結果から、炭酸化処理に先立ちメカノケミカル処理を行うことで、無機粉末の反応性向上させることができ、この結果として炭酸化反応がより促進され、当該炭酸化処理により、炭酸カルシウムとして比較的不安定なアラゴナイトが形成されたことで、孔径10nm以下(特に孔径1〜5nm)の微細孔の存在比率を高くすることが可能になるものと考えられる。
【0050】
特に、斜長石を主成分とする砕石粉のように反応性の極めて低い無機粉末であっても、予めメカノケミカル処理を行うことで、孔径10nm以下の微細孔を効率的に形成することができるため、本実施例の方法によれば、従来は廃棄処分がなされていたような上記無機粉末であっても、吸着材料、消臭(脱臭)材料、調湿材料等の原料として有効利用を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、砕石粉、脱水ケーキ等の未利用資源を出発原料とし、吸着材料、消臭(脱臭)材料、調湿材料等の原料として用いることのできる多孔性材料の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕機を用いて斜長石を含有する無機粉末を粉砕するメカノケミカル処理を行い、前記メカノケミカル処理にて得られた粉砕物を炭酸ガス雰囲気下で養生する炭酸化処理を行うことを特徴とする多孔性材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔性材料の製造方法により製造されてなることを特徴とする多孔性材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−202480(P2010−202480A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52564(P2009−52564)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】