説明

多孔性粘膜下組織移植片構成体

【課題】多孔性一体的多積層型組織移植片構成体および該構成体の作成方法に関する。
【解決手段】この方法は、粘膜下組織片を他の粘膜下組織片と重複させる段階と、圧縮される粘膜下組織シートの脱水を可能にするか、または促進させる条件下で、前記組織片の少なくとも重複部分を二つの表面間で圧縮する段階と、その結果として得られる一体的組織移植片構成体を穿孔する段階とからなる。多孔性組織移植片構成体は、無孔性粘膜下組織移植片に比べて高い力学的特性および再建特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、損傷または病変した組織構造の再生および治癒を促進させるのに役立つ組織移植片構成体に関する。特に、本発明は、温血脊椎動物の粘膜下組織から形成される多孔性粘膜下組織移植片構成体および該構成体の作成方法を意図している。
【背景技術】
【0002】
温血脊椎動物の筋層および腸粘膜の少なくとも管腔部分の双方から離層された粘膜下組織からなる組成物は、組織移植片材料として使用されうることが知られている。たとえば米国特許第4,902,508号および第5,281,422号を参照されたい。これらの特許に記載されている組成物は、高い伸展性と、高い破裂圧力点と、これらの組成物を血管移植片構成体および結合組織置換用に有利に使用しうる有効孔隙率とを含む優れた力学的特性を特徴とする。このような用途に用いられる場合には、この粘膜下移植片構成体は、該移植片構成体により置換される組織の再生のための基質として機能するように思われる。また、特に、600件を超える種属間交雑移植において、粘膜下組織に由来する移植片組成物が組織移植片拒絶反応を引き起こすことは一度もなかった。
【0003】
本発明にしたがって用いられる、粘膜下組織に由来する基質は、本来の構成および本来の濃度を十分に保ったコラーゲンと、糖蛋白と、プロテオグリカンと、グリコサミノグリカンとからなるコラーゲン系生分解性基質である。本発明で用いられる細胞外膠原基質の一つは、温血脊椎動物の粘膜下組織である。粘膜下組織は、たとえば豚と、牛と、羊とを含む食肉生産用に飼育される動物またはその他の温血脊椎動物から採取される腸組織等のさまざまな原材料から得られうる。脊椎動物の粘膜下組織は、商業的食肉生産活動の豊富な副産物であり、したがって安価な組織移植片材料となる。
【0004】
前記特許に記載されている粘膜下組織移植片構成体の一つの制限事項は、移植片の大きさが、その粘膜下移植片を作成する原材料の大きさによって制限されることである。たとえば、腸組織から作成される粘膜下組織移植片の大きさは、原材料となる腸組織片の長さおよび周によって制限される。しかしながら、ヘルニアの修復、皮膚移植片、髄膜被覆、胃壁裂症(先天性胃欠損)の修復および臓器組織の置換を含む粘膜下組織移植片構成体のいくつかの用途では、しばしば天然の原材料から直接作成されうる移植材料よりも大きいシート状の移植材料が必要となる。
【0005】
大型粘膜下組織シートは、より小さな粘膜下組織片から製織、編成または接着剤の使用といったような従来技術によって作成されうる。しかし、このような技術を商業的に実践するのは非実際的であり、かつ高い費用を要することが多い。加えて、接着剤または化学的前処理を用いて組織片の付着性を高めることは、粘膜下組織移植片の生体刺激特性を損ないかねない。このため、低価格で製造容易であるとともに、その生体刺激特性を保ったままの大面積粘膜下組織移植片構成体が必要とされている。
【0006】
本発明の一つの実施例によれば、大面積粘膜下組織移植片構成体は、脊椎動物の粘膜下組織に由来する多数の基質片から形成される。一体的粘膜下組織シート(すなわち単体状移植片構成体)は、本発明にしたがって、多数の粘膜下組織片を互いに融着させて、構成要素であるいずれの粘膜下組織片よりも大きい表面積を有する組織シートを形成させることによって作成される。この工程は、一つの粘膜下組織片の少なくとも一部分を別の粘膜下組織片の少なくとも一部分と重複させる段階と、粘膜下組織の脱水が可能な条件下で、少なくとも前記重複部分に圧力を加える段階とからなる。これらの条件下で、前記重複部分は「融着」して、一体的大型組織シートが形成される。これらの大面積移植片構成体は、潜在的に有害な接着剤および化学的前処理を免れて、本質的に粘膜下組織で構成されており、移植片構成体を形成させるのに用いられる個々の組織片より大きい表面積と高い力学的強度とを有する。
【0007】
温血脊椎動物の組織から作成されるところの個々の粘膜下組織片は、方向的特異性を持つ力学的特性を有する(すなわち、物理的特性が組織の異なる軸に沿って変化する)。これらの方向的特徴は、主として組織内のコラーゲンの配向によって支配される。膠原繊維は、腸粘膜下組織内の耐力要素であって、主に腸管腔の軸に対して平行に配向されている。このようにコラーゲンが腸粘膜下組織内で長手方向に分布していることが、粘膜下組織構成体の物理的特性の方向的可変性に寄与している。
【0008】
一体的偽等方性多積層型移植片構成体は、多数の粘膜下組織片から作成されうる。本明細書で用いられるところの「偽等方性」という用語は、移植片材料の各軸に沿って略同様の物理的特性を有する移植片材料を表す。これらの偽等方性多積層型移植片構成体は、個々の粘膜下組織片または粘膜下組織片からなる粘膜下組織シートから作成される。偽等方性移植片構成体を作成する方法は、第1の組織片(またはシート)の一部分を第2の組織片(またはシート)と重複させる段階からなり、この第2の組織片(またはシート)は、第1の組織片(またはシート)に対して平行な平面上に配向されるが、第1の組織片(またはシート)の縦軸が第2の組織片(またはシート)の縦軸に対してある角度をなすように回転される。さらに別の組織片(またはシート)を同様の態様で追加して、所望の積層数を有する多積層型構造を創出することができる。その後、粘膜下組織の少なくとも重複部分に圧力を加えることにより、個々の粘膜下組織片(またはシート)を互いに融着させて、一体的多積層型偽等方性構成体を形成させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、粘膜下組織移植片構成体の改良に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この改良は、粘膜下組織移植片構成体に複数個の孔部を形成させることからなる。
【発明の効果】
【0011】
これらの孔部は、細胞外液が組織移植片材料を通過することを可能にし、移植片内における液の貯溜を減らすとともに組織移植片の再建特性を高める。粘膜下組織の孔部は、これらの孔部が隣接する層間の付着力をも高める多積層型組織移植片構成体において特に有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明にしたがって、粘膜下組織移植片を貫通して延在する複数個の孔部を有する粘膜下組織移植片からなる粘膜下組織移植片構成体の改良を提供する。好適実施例において、これらの孔部は均一な大きさであり、かつ移植片の表面全体にわたって均等に分布している。さらに、本発明は、多孔性粘膜下組織移植片構成体を作成する方法を提供する。
【0013】
本発明の移植片構成体の形成に用いられるのに適した粘膜下組織は、自然に結び付いた細胞外基質蛋白、糖蛋白およびその他の要素からなる。粘膜下組織の一つの原材料は、温血脊椎動物の腸組織である。小腸組織は、本発明で用いられる粘膜下組織の好ましい原材料である。
【0014】
適切な腸粘膜下組織は一般に、筋層および粘膜の少なくとも管腔部分の双方から離層された粘膜下組織からなる。本発明の一つの実施例において、腸粘膜下組織は、粘膜下組織と、原材料となる脊椎動物の種属によって層の厚さおよび寸法が異なることが知られている粘膜筋板と、緻密層とを含む粘膜の基底部分とからなる。
【0015】
本発明において使用される粘膜下組織の作成は、米国特許第4,902,508号に説明されており、この特許の開示を参照することにより特に本明細書の一部分とする。脊椎動物の腸の切片は、豚、羊または牛の各種属から採取されることが好ましいが、これら以外の種属を除外するものではない。脊椎動物の腸の切片は、長手方向の拭取動作を用いて剥脱され、平滑筋組織からなる外側の層と、粘膜の管腔部分である最も内側の層とが除去される。粘膜下組織は塩水で濯がれ、随意で滅菌される。
【0016】
本発明の多積層型粘膜下移植片構成体は、グルタルアルデヒドなめし法、酸性のpH値でのフォルムアルデヒドなめし法、酸化プロピレンまたは酸化エチレン処理、ガス・プラズマ滅菌法、ガンマ線放射、電子ビーム、過酢酸滅菌法を含む従来の滅菌技術を用いて滅菌されうる。粘膜下組織の力学的強度、構造および生体刺激特性に悪影響を及ぼさない滅菌技術が好ましい。たとえば、強いガンマ線照射は、粘膜下組織シートの強度損失を引き起こすことがある。好ましい滅菌技術には、移植片を過酢酸にさらすこと、1〜4Mradのガンマ線照射(さらに好ましくは1〜2.5Mradのガンマ線照射)、酸化エチレン処理およびガス・プラズマ滅菌法が含まれ、過酢酸滅菌法が最も好ましい滅菌法である。一般に、粘膜下組織は、二つ以上の滅菌工程を受ける。粘膜下組織をたとえば化学的処理により滅菌した後に、この組織をプラスチックまたはフォイルの外被体で包んで、電子ビームまたはガンマ線照射滅菌法を用いて再び滅菌してもよい。
【0017】
粘膜下組織は、含水状態または脱水状態で保存されうる。凍結乾燥または空気乾燥された粘膜下組織を再度含水させて、その生体刺激特性および力学的特性が大きく損なわれることなく本発明にしたがって使用することができる。
【0018】
大面積の所要の粘膜下組織シートは、多数の粘膜下組織片から形成されうる。使用される個々の粘膜下組織片の寸法は重要ではなく、「粘膜下組織片」という用語は、本明細書では脊椎動物の一つ以上の原材料または臓器から得られる多種多様な大きさおよび形状の粘膜下組織を含むものと定義される。ある実施例では、これらの組織片は、離層された腸組織の切片から形成されており、この切片は、随意ではあるが、好ましくは切断されかつ平らにならされて、二つの略平行な側部と、対向端部とを有する細長条片状の粘膜下組織とされる。「粘膜下組織シート」という用語は、本明細書では、多数の粘膜下組織片からなる組織構成体において、これらの組織片が重ね合わされて、構成体の形成に用いられる個々のいずれのシートよりも大きい表面積を有する構成体を形成する組織構成体を含むものと定義される。「粘膜下組織層」という用語は、多積層型粘膜下組織構成体の個々の層を表す。
【0019】
一体的な大面積粘膜下組織シートは、個々の粘膜下組織片を重複させ、これらの重複部分に圧力を加えて組織を互いに融着させることによって形成される。一つの実施例では、圧力は、重複した組織に粘膜下組織の脱水が可能な条件下で加えられる。大面積粘膜下組織シートは、ヘテロ積層型シートまたはホモ積層型シートのいずれにも形成されうる。本明細書で用いられるところの「ヘテロ積層型」という用語は、一体的移植片構成体上の異なる地点において可変数の粘膜下組織層を重複させて(かつ融着させて)有する多積層型組織を表す。本明細書で用いられるところの「ホモ積層型」という用語は、一体的移植片構成体上の全ての地点において均一な数の粘膜下組織層を有する多積層型組織移植片構成体を表す。
【0020】
一つの実施例において、大型粘膜下組織シートを形成させる方法は、一つの粘膜下組織片の少なくとも一部分を、別の粘膜下組織片の少なくとも一部分と重複させる段階と、粘膜下組織の脱水が可能な条件下で、少なくとも前記重複部分に圧力を加える段階とからなる。隣接する粘膜下組織片間の組織重複量は、各々の粘膜下組織片の少なくとも一部分が別の粘膜下組織片の一部分と重複するという条件で、大面積移植片構成体の意図される用途および所望の特性に基づいて変化されうる。粘膜下組織片は、加えられる圧力により互いに重複部分に沿って融着され、所要の一体的なヘテロ積層型粘膜下組織シートが形成される。
【0021】
また別の実施例では、一体的なホモ積層型粘膜下組織シートは、粘膜下組織片から作成されうる。このホモ積層型組織移植片構成体を形成させる方法は、粘膜下組織片が第1の表面上に互いに横並びに配置される第1の粘膜下組織層を形成させる段階からなる。第1の層の粘膜下組織片は、個々の組織片の縁部が実質的に互いに重複することなしに互いに接触するように隣接して配置される。第1の粘膜下組織層は、その後、第2の粘膜下組織層と重ね合わされる。この第2の層の粘膜下組織片は、第1の層の粘膜下組織片と同様に互いに隣接して(すなわち、個々の組織片の縁部が実質的に互いに重複することなしに互いに接触するように隣接して)配置される。一つの実施例では、第2の層の粘膜下組織片は、第1の層の粘膜下組織片と同じ方向に配向されるが、第1の層の個々の粘膜下組織片の接触している縁部が第2の層の粘膜下組織片により架橋されるように、第1の層の粘膜下組織片に対して偏位される(図1a〜c参照)。粘膜下組織片の重複部分は、その後、圧縮される粘膜下組織の少なくとも部分的な脱水が可能な条件下で、少なくとも一方の表面が透水性を有する二つの表面間で圧縮される。
【0022】
有利な点として、ヘテロ積層型およびホモ積層型のいずれの大面積粘膜下組織シートも、本質的に粘膜下組織で構成されており、より高い力学的強度を有し、かつ粘膜下組織シートの形成に用いられる個々のいずれの組織片よりも大きい表面積を有する点があげられる。
【0023】
粘膜下組織は、一般に反管腔側の表面および管腔側の表面を有する。管腔側の表面は、原材料臓器の管腔に面する粘膜下組織面であり、一般に生体内で内粘膜層に隣接しているのに対して、反管腔側の表面は、原材料臓器の管腔と反対の方向を向く粘膜下組織面であり、一般に生体内で平滑筋組織に接触している。多数の粘膜下組織片は、反管腔側の表面を隣接する粘膜下組織片の管腔側の表面に接触させるか、または管腔側の表面を管腔側の表面に接触させるか、または反管腔側の表面を反管腔側の表面に接触させて重ね合わされうる。同一種属または異なる種属の脊椎動物あるいは臓器を原材料とする粘膜下組織片を、これらの組み合わせで重ね合わせたものは、いずれも、組織の脱水が可能な条件下で少なくとも重複部分を圧縮すると大面積粘膜下組織シートとなる。
【0024】
米国特許第5,275,826号(この特許の開示を参照することにより特に本明細書の一部分として取り入れる)に記載されているように、粘膜下組織片を調整することで、粘膜下組織の粘弾性を変化させることができる。一つの実施例によれば、筋層および粘膜の管腔部分から離層された粘膜下組織を調整して、20%以下の歪みを持たせる。粘膜下組織は、伸長、化学処理、酵素処理または組織をその他の環境要因にさらすことによって調整される。一つの実施例では、腸粘膜下組織片は、該腸粘膜下組織片が20%以下の歪みを持つように縦または横方向に伸長されることによって調整される。調整された粘膜下組織片を用いて、本発明にしたがって大面積シートまたは多積層型構造を形成させることができる。また、別の方法として、粘膜下組織材料を大面積シートまたは多積層型大面積シート構成体の形成後に調整して、20%以下の歪みを持つ粘膜下組織材料を作成することができる。
【0025】
大面積粘膜下組織シートの形成時に、二つの表面間で粘膜下組織を圧縮することにより、重複部分に圧力が加えられる。これらの二つの表面は、一体的移植片構成体の所望の形状および仕様によって、さまざまな材料からいかなる形にも形成されうる。一般に、これらの二つの表面は、平面として形成されるが、網目、対向する筒体またはローラ、および相補的な非平面等のその他の形状も含みうる。これらの表面はそれぞれ、随意で加熱されるか、または穿孔されうる。好ましい実施例では、二つの表面の少なくとも一方は透水性を有する。本明細書で用いられるところの透水性の表面という用語は、吸水性を有するか、またはミクロ細孔またはマクロ細孔を有する表面を含む。マクロ細孔を有する材料は、プラスチック、金属、セラミックまたは木で作られた多孔板または網を含む。
【0026】
粘膜下組織は、ある実施例によれば、粘膜下組織片の重複部分を第1の表面上に配置し、かつ露出した粘膜下組織の表面の上に第2の表面を配置することによって圧縮される。そして、力を加えてこれらの二つの表面を互いの方向に偏移させることで、二つの表面間の粘膜下組織を圧縮する。この偏移力は、前記装置を一対のピンチローラ(2本のローラの表面間の距離は、二枚の板間の本来の距離より小さい)に通すこと、上板に加重すること、および油圧プレスを用いること、または二つの表面に気圧を加えることを含む当業者に周知の一つ以上の方法により生じさせることができる。
【0027】
ある好ましい実施例では、粘膜下組織片は、組織の圧縮と同時に粘膜下組織の脱水が可能な条件にさらされる。「粘膜下組織の脱水が可能な条件」という用語は、粘膜下組織からの水分の除去を少なくとも重複地点において促進させるか、または誘発させるあらゆる力学的または環境的条件を含むもの、と定義される。圧縮される粘膜下組織の脱水を促進するために、組織を圧縮する二つの表面の少なくとも一方は透水性を有する。組織の脱水は、随意で吸取材料を使用すること、組織を加熱すること、または二つの圧縮面の外側全体に空気を吹き付けることによりさらに高められうる。
【0028】
多数の粘膜下組織片は、一般に、12〜48時間にわたって室温で圧縮されるが、さらに加熱してもよい。たとえば、圧縮面の外側に加温ブランケットを掛けて、圧縮される組織の温度を約40℃ないし約50℃に高めることができる。重複部分は、通常は、組織の脱水の程度によって決定される時間長にわたって圧縮される。熱の使用は、脱水速度を増加させ、したがって組織の重複部分の圧縮に必要な時間を短縮する。一般に組織は、堅固であるが柔軟な材料を作るのに十分な時間にわたって圧縮される。組織が十分に脱水されたことは、組織を通って流れる電流のインピーダンスの増加によっても指示される。インピーダンスが100〜200オーム増加すると、組織は十分に脱水されており、圧力は解除されうる。
【0029】
圧縮された粘膜下組織は、二つの表面から一体的な所要の大面積組織構成体として取り出されうる。この構成体をさらに処理(すなわち、切断、折り畳み、縫合等)して、本発明の粘膜下組織材料が必要とされるさまざまな医学的用途に見合うものにすることができる。
【0030】
随意で圧縮処理中に粘膜下組織に真空を加えることができる。加えられる真空は、組織の脱水を促進させ、かつ組織の圧縮を補助しうる。また、真空を加えることによってのみ、多数の粘膜下組織片の重複部分を圧縮する圧縮力を得てもよい。たとえば、重複する粘膜下組織を、一方が透水性であることが好ましい二つの表面間に広げて置く。この装置を、水分を吸い取る吸取材料と、空気を流通させる呼吸ブランケットとで覆う。その後、この装置を真空室内に配置し、一般に14〜70水銀柱インチ(36〜179水銀柱cm)(7〜35psi)の範囲の真空を加える。好ましくは約51水銀柱インチ(131水銀柱cm)(25psi)の真空を加える。随意で、加熱ブランケットを真空室の上に配置して、組織圧縮時に粘膜下組織を加熱することができる。この実施例に用いるのに適した真空室は、当業者に周知であり、真空ポートを備えたあらゆる装置を含む。結果的に得られる気圧降下は、二つの表面と共働して、粘膜下組織を圧縮し、かつ同時に粘膜下組織を脱水する。
【0031】
随意で、大面積組織移植片は、組織移植片の用途に合わせてさまざまな形状に形成されうる。たとえば、臓器再建用の場合は、大面積シートは中空の球体状または袋状に形成されうる。このような成形構成体は、膀胱または胃といった大きい範囲の置換に有利である。これらの成形粘膜下組織構成体は、組織を切断し且つ縫合して所望の形状を形成させるといった従来技術により形成されうる。
【0032】
また、粘膜下組織片は、単純な製造手順により非平面形状を有する大型粘膜下組織シートに形成されうる。その方法は、二つの相補的な非平面形状の表面間に複数の粘膜下組織片を配置する段階と、重複する粘膜下組織片を前記二つの表面間で圧縮する段階とからなる。これらの相補的な非平面形状の表面は、二つの表面が互いに押圧されて、これらの表面が二つの表面間にいかなる実質的な空気ポケットも残存させずに互いに密着しうるように形成される。二つの相補的な表面の少なくとも一方は、透水性を有することが好ましい。
【0033】
成形粘膜下組織構成体を形成させる一つの方法は、多数の粘膜下組織片を非平面形状の多孔性表面上に配置して、粘膜下組織が多孔性表面の形状に沿うようにする段階からなる。好ましくは、粘膜下組織は、材料を伸長させることなしに多孔性表面上に配置されるが、粘膜下組織を伸長させることで成形された多孔性表面を容易に覆わせることができる。各々の粘膜下組織片は、多孔性表面上に配置されて、隣接する粘膜下組織片の少なくとも一部分に重ね合せられる。次に、粘膜下組織の重複部分は、第1の多孔性表面と相補的な形状を有する第2の成形表面で覆われ、粘膜下組織の脱水が可能な条件下で加圧されて、これらの二つの表面間の粘膜下組織が圧縮される。
【0034】
これに代る方法として、本発明の大面積シートは、成形された組織移植片がその形状を維持するような脱水条件下で、粘膜下組織を多孔性ダイにより非平面形状に成形するダイ成形手順を用いて、大面積シートを伸長させることによって非平面形状に成形されうる。好ましくは、多積層型大面積シートがこのような手順に用いられる。
【0035】
多積層型粘膜下組織構成体は、本発明にしたがって一つの粘膜下組織片の一部分を別の粘膜下組織片の一部分と重複させることにより形成される。同様の態様で、大面積多積層型組織移植片構成体は、本発明にしたがって一枚の粘膜下組織シート(前記のように形成されたもの)を、第2の粘膜下組織シートの少なくとも一部分と重複させることによって形成されうる。多積層型粘膜下組織構成体の大きさと物理的特性とは、重複する粘膜下組織片の個数と、各組織片の重複部分の割合とによって調整されうる。
【0036】
多積層型組織移植片構成体は、本発明にしたがって一つの粘膜下組織片の少なくとも一部分を、別の粘膜下組織片の少なくとも一部分と重複させて第1のシートを形成させることによって形成される。さらにまた別の粘膜下組織片が第1のシートの重複部分上に重ね合わされて第2のシートが形成されており、この第2のシートの組織片の縁部は、随意で第1のシートの組織片の縁部に対して鋭角をなし、前記形成された第2のシートは、第1のシートと共平面をなす。第2のシートの粘膜下組織片は、第2のシートの一つの粘膜下組織片の少なくとも一部分が、第2のシートの別の粘膜下組織片の少なくとも一部分と重複するように配置されうる。さらにまた他の粘膜下組織片が第1および第2のシートの重複部分上に重ね合わされて、さらにまた別の粘膜下組織層となる。多数の粘膜下組織層は、その後、脱水条件下で圧縮されて、多層型構成体を形成するのに用いられる個々のいずれの粘膜下組織片よりも大きい表面積を有する多層ヘテロ積層型粘膜下組織構成体が形成される。
【0037】
本発明の一つの実施例において、粘膜下組織は、各々の組織片が一般に平行な側部を有する各組織片に切断されて、本発明の多層ヘテロ積層型構成体を形成させるのに用いられる。この実施例では、第2のシートの粘膜下組織片は、第1のシートの粘膜下組織片の縁部が第2のシートの粘膜下組織片の縁部に対してある角度をなすように第1のシートの重複部分上に重ね合わされる。粘膜下組織の重複部分は、脱水条件下で圧縮されて、多層ヘテロ積層型構成体が形成される。
【0038】
多積層型組織移植片構成体は、擬似等方性を有して形成されうる。これらの偽等方性組織移植片は、温血脊椎動物の筋層および粘膜の管腔部分の双方から離層される少なくとも三つの腸粘膜下組織片から作成される。各々の腸粘膜下組織片は、粘膜下組織片内の膠原繊維の一般的配向に対応する縦軸を有することを特徴とする。偽等方性移植片構成体を形成させる方法は、第1の粘膜下組織片を第1の表面上に配置する段階と、前記第1の組織片を少なくとも二つのまた別の粘膜下組織片と重ね合せて、各々の個別の粘膜下組織片の縦軸が、ヘテロ積層型移植片を形成する少なくとも二つの他の粘膜下組織片の縦軸と約180度/Nの角度をなすようにする段階とからなり、ここでNは粘膜下組織片の総数である(図2a〜cを参照されたい)。たとえば、四つ(4つ)の粘膜下組織片から形成される偽等方性移植片構成体は、各組織片の中央の縦軸間において移植片構成体を形成する他の三つの組織片のうち二つに対して45度(180度/4=45度)の角度を形成してなる(図2a〜cを参照されたい)。粘膜下組織片(少なくとも重複部分)は、その後、第1の表面と第2の表面との間で圧縮される。一つの実施例では、組織は、圧縮される粘膜下組織の少なくとも部分的な脱水が可能な条件下で圧縮され、好ましい実施例では、前記表面の少なくとも一方は透水性を有する。有利な点として、粘膜下組織移植片は、本発明によれば、接着剤または縫合糸を用いることなしに互いに融着される点があげられる。
【0039】
擬似等方性を有する大面積組織移植片構成体は、大面積粘膜下組織シートからも作成されうる。これらの偽等方性組織移植片構成体は、多数の層をなす大面積粘膜下組織シートからなっており、これらの粘膜下組織シートは、重複する粘膜下組織片からなる。前記のように、大面積粘膜下組織シートは、重複する粘膜下組織から形成されて、ヘテロ積層型またはホモ積層型のいずれの粘膜下シートをも形成しうる。ヘテロ積層型およびホモ積層型のいずれのシートも、本発明にしたがって大面積偽等方性組織移植片構成体を形成させるのに適する(図3a〜c参照)。
【0040】
擬似等方性を有する大面積多積層型組織移植片構成体を作成する一つの方法は、多数の粘膜下組織片から第1の粘膜下組織シートを形成する段階と、この第1のシートを少なくとも二枚のまた別のシートと重ね合せる段階とからなる。各々のシートを構成する個々の粘膜下組織片は、これらの粘膜下組織片内の膠原繊維の一般的配向に対応する縦軸を有する。第1のシートは、第1の表面上において個々の粘膜下組織片を重複させて、各々の組織片が隣接する組織片と整合し、かつ各々の粘膜下組織片の縦軸が実質的に互いに平行になるようにすることによって形成される。このため、第1のシートの膠原繊維は、一般に、単一の配向に整合して、該シートは、膠原繊維の一般的配向に対応する縦軸を有することを特徴としうるようになる。このシートは、シートの形成に用いられる個々のいずれの組織片よりも大きい表面を有する。
【0041】
第1の粘膜下組織シートが形成された後に、さらにまた他の粘膜下組織シートが、第1のシートが形成されたのと同じ態様で、第1のシートの上に形成される(すなわち、多積層体の各々の粘膜下組織シートは、重複する粘膜下組織片からなっており、各シートを構成する粘膜下組織片の縦軸は、実質的に互いに平行である)。個々の各々のシートは、重複するシートの粘膜下組織片の縦軸が、多積層型構成体を形成する少なくとも二つの他のシートの粘膜下組織片の縦軸と約180度/S(Sは粘膜下組織シートの総数)の角度をなすように互いに重ね合わされる。いったん全数のシートが重ね合わされると、粘膜下組織シートは、圧縮される粘膜下組織の少なくとも部分的な脱水が可能な条件下で、第1の表面と第2の表面との間で圧縮される。好ましい実施例では、前記表面の少なくとも一方は透水性を有する。
【0042】
ある実施例では、多数の粘膜下組織片が互いに重ね合わされた後で、重複部分を処理して、捕捉された空気および大量の水分を除去した後に、組織片を融着させて単一の粘膜下組織シートにする。一般に、捕捉された気泡および大量の水分は、重複部分の表面全体を移動する圧縮力を用いることによって絞り出される。この圧縮力は、重複部分の表面全体を転動する筒体の形を取ってもよく、またはこれに代る方法として、対向するローラの表面間の距離が粘膜下組織シートの厚さより小さい二つ以上のローラ間に重複部分を通してもよい。その後、本発明にしたがって、必要ならば重複部分を脱水条件下で追加の時間長にわたって圧縮して、多数の組織片を融着させて単一の粘膜下組織シートにすることができる。
【0043】
偽等方性多積層型移植片の余剰部分(すなわちNまたはSより小さい積層数を有する移植片部分)は、多積層体の形成後に除去されうる。さらに、多積層型粘膜下組織材料の力学的特性は、隣接する粘膜下組織片間の重複の割合を調節することと、粘膜下組織層の数を変えることと、隣接する層の相対的な角度を変化させることと、圧縮面の透水性および/または圧縮面の組成を変えることと、圧縮面の形状を選択することと、重複する粘膜下組織を圧縮するために加えられる負荷を変化させることとによって医学的用途の必要性に見合うものにされうる。
【0044】
本発明は、大面積かつ多積層型の粘膜下組織移植片構成体の移植片材料としての有効性を高める改良を意図している。最近の実験で、再建過程は、多積層型粘膜下組織移植片構成体を移植した場合の方が、単一層または二層型粘膜下組織移植片の場合より緩慢であることがわかった。加えて、多積層型粘膜下組織移植片構成体は、軟組織部位(ラットの筋体壁等)に移植された後の最初の14〜28日間は、隣接する層間の嚢胞状の窪みに組織液を貯溜させる傾向にある。液嚢は、接続組織の内殖を遅らせ、細菌の繁殖につながる環境をもたらし、治癒と引張り強さとを向上させる生来の(固有の)体組織の付着を妨げるため、創傷治癒には有害である。
【0045】
本発明は、移植片構成体に孔部を形成させることによって多積層型粘膜下組織移植片構成体に付随する欠点を最小限に抑える。移植片構成体の孔部は、移植片の生体内における再建特性を高め、かつ組織移植片層の相互の付着を高めることがわかった。これらの孔部は、(移植片の表面積を増やすことにより)粘膜下組織と生体内の液および細胞との接触を促進させると考えられており、これらの孔部はまた、細胞外液が移植片を通過することを可能にする導管として機能する。
【0046】
本発明によれば、「孔部」という用語は、移植片構成体全体を貫通して延在する内孔を表す。しかしながら、本明細書において、組織内に貫入するが移植片構成体全体を貫通して延在するのではない空洞部として定義される「穴」を有する組織移植片構成体もまた、本発明の範囲内に含まれる。孔部の間隔および大きさと、孔部が組織内に貫入する深さとは、所望の力学的強度、孔隙率、大きさ、厚さ(層数)、および組織移植片の医学的用途に関連あるその他の要素とにしたがって変動する。孔部の大きさは、0.5ないし3mm、好ましくは0.6ないし2mmの範囲である。孔部は互いに、2ないし20mm、好ましくは3ないし7mmの範囲の距離をおいて設けられ、ある実施例では、孔部は互いに等間隔に設けられる。
【0047】
これらの孔部は、組織が少なくとも部分的に水分を含んだままである間に粘膜下組織内に形成される。互いに融着した多数の粘膜下組織片からなる大面積シートまたは多積層型粘膜下組織構成体において、孔部は、大面積シート/多積層型構成体の形成後、かつ組織が約10〜20重量%の含水率(約10〜20%の含水量)まで乾燥された時に作成されることが好ましい。組織の乾燥が十分であることは、採取したての状態(fresh)の組織の重さを測定し、その組織を採取したての状態の組織の重さの10〜20%まで乾燥させることによって判断される。あるいは、乾燥が十分であることは、前記のようにインピーダンスを測定することによって判断されうる。組織の穿孔後に、粘膜下組織は、最終的な滅菌を受けて、前記のように保存される。
【0048】
ある実施例では、穴(組織に途中までしか貫入しない)または孔部は、組織移植片の両側に形成されうる。加えて、組織は改良されて、孔部と、組織に途中までしか貫入しない穴とを含みうる。さらに、粘膜下組織は改良されて、さまざまな類の穴が、形成されたその他の穴に対して異なる深さまで組織内へと延在する複数個の穴を含みうる。これは、たとえば各層を重ね合せて多積層型構成体を形成させる前に個々の粘膜下組織層を穿孔することによって達成されうる。いくつかの層が穿孔されない場合、または個々の層の孔部が整合していない場合は、形成された多積層型構成体は、異なる深さまで組織内へと延在する穴を有することになる。組織は、組織移植片の表面全体にわたって均等な分布で穿孔されて、移植片構成体の第1の平面状表面から第2の反対側平面状表面まで液を流通させる一連の内腔が形成されることが好ましい。
【0049】
一つの実施例では、孔部は、組織移植片構成体の表面に対して垂直に形成され、すなわち、孔部/穴の縦軸は、移植片の表面を形成する平面と90度の角度をなす。これに代る方法として、孔部は、該孔部の軸が移植片の表面に対して垂直にならないように(すなわち、孔部/穴を縁取る壁部に平行な縦軸が、移植片表面の平面に対して90度以外の角度をなすように)形成されうる。ある実施例によると、孔部は移植片の表面に対して45度ないし90度の範囲の角度に形成される。
【0050】
粘膜下組織の穿孔は、多積層型粘膜下移植片構成体に対して最も大きい影響を及ぼすことが予想される。多積層型組織移植片は、解離することなしに切断され得、かつシートを宿主に移植するのに必要な時間に対応する時間隔(1時間を超える)にわたって水中に浸漬されても離層しない。しかしながら、多積層型組織構成体は、軟組織部位(ラットの筋体壁等)に移植された後の最初の14〜28日間は、隣接する層間の嚢胞状の窪みに組織液を貯溜させる傾向にある。多積層型移植片構成体の孔部は、液を組織から流出させうる導管となることによって、多積層型構成体の層間における液の貯溜を軽減させる。加えて、これらの孔部は、層相互の付着性を高める「綴じ合わせ」効果を有する。
【0051】
したがって、多積層型組織移植片に厚さ全体または厚さの一部分にわたる穴を設けることにより、孔部を持たない多積層型シートを超える下記の利点が得られる。
1.移植片材料を介した液(組織液を含む)の流通が高まる。
2.隣接する層間の付着性が増す。
【0052】
粘膜下組織は、当業者に周知のさまざまな装置を用いて穿孔されうる。粘膜下組織を穿孔するのに用いられる方法は、粘膜下組織の集合体としての構造的完全性が維持されるのであれば、重要ではない。
【0053】
好ましい実施例において、粘膜下組織の穿孔は、相当な量の組織を除去する結果には至らない。たとえば、孔部は、材料をくり抜くのではなく、先の尖った中実の物体を組織に圧入して、この中実の物体の挿入時に組織を押し退けることによって形成される。組織を穿孔するその他の手段は、弾動技術、切断装置、レーザ光線、酵素処理または化学処理の使用を含む。
【0054】
一つの実施例において、粘膜下組織は、ピンまたは中実針を組織に圧入/貫入することによって穿孔される。一般に、20〜23ゲージの中実針を用いて孔部を形成させる。このようにすると、孔部の形成過程で相当な量の組織が除去されるのではなく、むしろ各々の層の一部分が切り裂かれ、かつ隣接する層内に押し込まれるので、綴じ合わせ効果が得られる。この「綴じ合わせ」効果は、孔部の一部分を移植片の片側から形成させ、残りの孔部を移植片の反対側から形成させることによってさらに高められうる。
【0055】
図4は、粘膜下組織移植片構成体を穿孔する装置の一つの実施例を示す。この装置は、基礎部(1)と、基礎部(1)に埋め込まれ、且つ基礎部の表面を貫通して外方に延在する複数本のステンレス鋼ピン(2)とを備える。この基礎部は、エポキシ(E)およびデルリン(D)の各部分を備え、3.2インチ(8.2cm)の長さと、1.85インチ(4.74cm)の幅と、0.5インチ(1.3cm)の厚さとを有する。エポキシおよびデルリンの各部分は、3.2インチ(8.2cm)の長さと、1.85インチ(4.74cm)の幅と、0.25インチ(0.64cm)の厚さとを有する。この実施例によれば、ピン(2)は、実質的に互いに平行であり、基礎部の表面との間に90度の角度をなす。ピン(2)は、直径0.040インチ(0.1cm)であり、装置の縁部から0.4インチ(1cm)の境界線の内側において、0.264インチ(0.67cm)の間隔(隣接するピンの中心から中心まで)をおいて配置されており、基礎部から0.25インチ(0.64cm)だけ突出する。したがって、この装置は合計50本のピンを保持している。
【実施例】
【0056】
例1
粘膜下組織は、米国特許第4,902,508号に記載の手順にしたがって脊椎動物の腸組織から用意された。粘膜下組織片は、温血脊椎動物の腸組織の切片から形成されており、この切片は、筋層および前記腸組織の切片の粘膜の少なくとも管腔部分の双方から離層された粘膜下組織からなる。この腸組織の切片は、該切片の縦軸に沿って切断されて、平らに広げられた。組織は、その後さらに、一般に平行な側部を有する一連の各組織片に切断された。
【0057】
多数の粘膜下組織片は、12×12インチ(31×31cm)の多孔性ステンレス鋼板上において、一つの粘膜下組織片の一部分が、隣接する粘膜下組織片の一部分と重ね合わされて構成された。第2の12×12インチ(31×31cm)の多孔性ステンレス鋼板が、その後、粘膜下組織の上に配置された。この実施例で用いられた多孔性ステンレス鋼板は、中心が直線をなして配置され且つ0.066インチ(0.17cm)の間隔をおいて設けられた0.045インチ(0.11cm)の孔部を有する。50〜100ポンド(22.7〜45.4kg)の重りが第2のステンレス鋼板の上に配置され、組織は24時間にわたって室温で圧縮された。
【0058】
例2
粘膜下組織片は、例1に記載のように作成された。多数の粘膜下組織片は、二枚の多孔性ステンレス鋼板の間において、一つの粘膜下組織片の一部分が、隣接する粘膜下組織片の一部分と重複するように広げて置かれた。この「板−粘膜下組織−板」の装置は、平坦な表面上に置かれて、水分を吸い取る吸取材料と、空気を流通させる呼吸ブランケットとで覆われた。この装置は、その後、真空ポートを有するナイロン袋の中に密封された。真空(28水銀柱インチ(71.8水銀柱cm)を超える)が加えられて真空袋から空気が抜き取られ、それによって引き起こされる気圧降下により、粘膜下組織は同時的に圧縮され且つ脱水された。真空を24時間加えた後に得られたシートは、湿り気を帯びており、極めて柔軟であった。粘膜下組織の積層によるいかなる継ぎ目も目立たず、ボール破裂試験により決定されたところの厚さ8の試作シートの強度は、80ポンド(36.3kg)であった。
【0059】
例3
粘膜下組織片は、例1に記載のように作成された。これらの粘膜下組織片は、網の上において、一つの粘膜下組織片の一部分が、隣接する粘膜下組織片の一部分と重複するように構成された。いったん網が一層の粘膜下組織片で覆われると、第2の層の粘膜下組織片の縁部が第1の層の粘膜下組織片の縁部に対してある角度をなすように、第2の層の粘膜下組織片が第1の層の上に乗せられた。
【0060】
全ての粘膜下組織片が網上に配置された後に、また別の網が粘膜下組織層の上に配置され、「網−粘膜下組織−網」のサンドイッチ構造は、負荷により圧縮され且つ乾燥された。この工程により、乾燥大面積粘膜下組織シートが作成されて、網から一体的移植片構成体として剥がし取られた。
【0061】
例4
[粘膜下組織の過酢酸による滅菌]
粘膜下組織は、20:1(mlを単位とする過酢酸溶液の量:グラムを単位とする粘膜下組織の重さ)またはそれ以上の比率で過酢酸/エタノール溶液中に2時間にわたって室温で浸漬される。この過酢酸/エタノール溶液は、エタノール4%と、過酢酸0.1%(体積:体積)と、残りの部分を占める水とからなる。構成要素である0.1%の過酢酸は、表1に明示されている市販で入手可能な35%の過酢酸原液を希釈したものである。粘膜下組織は、過酢酸溶液中に浸漬されている間、回転装置上で撹拌されることが好ましい。2時間後に、過酢酸溶液を注出除去して、同等量の乳酸化リンゲル液またはリン酸バッファー生理食塩水(PBS)に置き換え、15分間にわたって(撹拌されながら)浸漬させる。粘膜下組織は、乳酸化リンゲル液またはPBSにより、さらに四回洗浄され、その後、さらに15分間にわたって無菌水で水洗される。
【0062】

表1:35%過酢酸溶液の化学組成
組成、重量%
過酢酸 35.5
過酸化水素 6.8
酢酸 39.3
硫酸 1.0
水 17.4
過酸化アセチル 0.0
安定剤 500PPM

定型的活性酸素分析、重量%
過酸としての活性酸素 7.47
としての活性酸素 2.40
総活性酸素 10.67
【0063】
[粘膜下組織の酸化エチレンによる滅菌]
無菌条件での多積層型構成体の作成後に、この材料は、包装されて第2回目の滅菌(最終滅菌)を受ける。組織は、酸化エチレンに対して透過性を有するプラスチックで包装されて、当業者に周知の手順にしたがってエチレン滅菌されてもよい。本質的に、包装された材料は、酸化エチレンに4時間にわたって115度F(46度C)でさらされる。この滅菌時に、組織は、この4時間の処理期間のうち少なくとも75分間にわたって65%の相対湿度を与えられる。この高い湿度は、組織による酸化エチレンの取り込みを促進させる。4時間後に、酸化エチレン、エチレンクロロヒドリン、およびエチレングリコールが窒素および空気と共に放出される。
【0064】
例5
[圧縮ケージおよびMTS引張試験機によるボール破裂強度試験]
多積層型粘膜下組織移植片の強度は、材料試験システム(MTS)の引張試験機を用いることにより決定される。多積層型組織構成体を四方枠型クランプ(試料クランプ)内に固定して、組織構成体の全体にわたって応力を均等に分布させる。初期の固定部の高さは、鋼鉄球の最上部が被験試料の平面の真下に位置するように設定される。試料クランプのハンドルを最上位置まで持ち上げて、クランプの顎が被験試料を受け入れることができるようにする。粘膜下組織構成体は、試料クランプに合わせて切断され、クランプの開口部は1と3/4インチ(1.9cm)の直径を有する。1/2インチ(1.3cm)の余剰材料を被験試料の周縁部のまわりに含めて、十分なクランプ面積を確保するべきである。粘膜下組織は、クランプの顎に配置されて固定され、クランプ力は、上方クランプに配置されるつまみ手段により制御される。
【0065】
クランプされた粘膜下組織は、その後、被験試料に加えられる力を制御し且つ測定するために引張試験機のソフトウェア・インタフェースを用いて、制御された速度で金属球の上へと押し下げられる。この力は、試料の破断が起こるまで増加される。破断は、前記球が初めて試料平面の目に見える非自然的断絶部から現われる時点に対応する最大負荷として定義される。破断の前に固定部が最上位置に達した場合は、ソフトウェア制限が働いて試験を終了させる。マイクロプロファイラ458.01に表示される最大負荷値が記録され、試料は取り外される。
【0066】
例6
多積層型組織移植辺構成体は、以下のように作成された。
十分な量の粘膜下組織が脊椎動物の腸から用意され、切断されて平らに広げられ、例4に記載のように過酢酸を用いて殺菌された(10cm×15cmの装置には約70グラムの粘膜下組織が必要である)。組織の過酢酸による滅菌後は、外科用手袋、マスクおよび帽子を着用して、有機物および空気中の浮遊粒子による汚染を最小限に抑えるべきである。
【0067】
粘膜下組織片は、第1の多孔性ステンレス鋼板の上に所望の配向で配置される。使用されるステンレス鋼板は、中心が直線をなして配置され且つ0.066インチ(0.17cm)の間隔をおいて設けられる0.045インチ(0.11cm)の丸形孔部を有する多孔性ステンレス鋼板である。粘膜下組織層の形成後に、粘膜下組織は滑らかに伸ばされて気泡が除去される。さらにまた他の層が、装置が完成するまで重ねられる。余剰材料は、多積層型構造のまわりから鋏を用いて取り除かれる。粘膜下組織の多積層体の重さが記録される。第2のステンレス鋼板(中心が直線をなして配置され且つ0.066インチ(0.17cm)の間隔をおいて設けられる0.045インチ(0.11cm)の丸形孔部を有する)は、多積層型構成体の上に配置される。
【0068】
多積層型構成体を随意で「ピンチロール処理」して捕捉された空気および水を除去してもよい。材料をピンチロール処理するためには、粘膜下組織を取り巻く二枚の多孔性金属板を二枚のポリプロピレン・シート(Kimberly Clark社、第100等級「Crew Wipe」)の間に挟み、この装置全体を1度×1度より大きい二つのナイロン袋フィルム層(Zip Vac社、ワシントン州オーバン)の間に挟む。その後、重りを付けた筒体を、この装置を横切る方向に多数回(少なくとも3回)にわたって転動させる。
【0069】
多積層型粘膜下組織移植片構成体を穿孔するためには、この装置を部分的に分解して組織移植片の上面を露出させ、一枚のナイロン袋フィルム片を粘膜下組織の最上層上に直接配置する。次に、多積層型粘膜下組織移植片構成体をStyrofoamの作業面上に裏返して、第1のステンレス鋼板を注意深く取り外す。その後、粘膜下組織の露出面を一枚のナイロン袋フィルム片で覆う。そして組織移植片構成体を穿孔し、しかる後に上側ナイロン袋フィルムを取り除く。次に、多積層型粘膜下組織移植片構成体を再び裏返して多孔性ステンレス鋼板上に再度配置する。ナイロン袋フィルムを粘膜下組織の上面から取り外し、第2の多孔性ステンレス鋼板を多積層型粘膜下組織移植片構成体の上に配置する。
【0070】
多積層型粘膜下組織移植片構成体は、その後、以下のように脱水条件下で圧縮される。
多孔板の大きさより大きい吸取材料(NuGauze)層をテーブル面(またはその他の平滑な水平面)上に配置する。多積層型粘膜下組織移植片構成体を挟んだステンレス鋼板を吸取材料の上に配置する。また別の吸取材料層(第1の吸取材料シートと略同じ大きさ)をステンレス鋼板の上に配置する。呼吸ブランケット(Zip Vac社、ワシントン州オーバーン)を吸取材料の上に配置する。この呼吸ブランケットは、それが覆う物体より若干大きいのが好ましい。
【0071】
随意で電極を粘膜下組織に接触させて配置し、組織全体のインピーダンスを測定してもよい。一般に、組織は、堅固であるが柔軟な材料を作成するのに十分な時間にわたって圧縮される。組織が十分に脱水されたことは、組織を通って流れる電流のインピーダンスの増加によって指示される。インピーダンスが100〜200オーム増加すると、組織は十分に脱水されており、圧力は解除されうる。
【0072】
境界となるクロメート・テープをテーブル面上において装置および真空圧縮される領域のまわりに配置する。裏当てをテープから取り除き、ノズル口をすでに取り付けてある一枚のナイロン袋フィルムを、型枠となるクロメート・テープによって囲まれた領域の上に配置して(図3aおよび3b参照)、テープに付着させる。加熱ブランケットを使用する場合は、加熱ブランケットの電源を入れ、真空ポンプの電源を入れる。袋にしわがないか(ある場合はしわを伸ばす)、また、クロメート・テープとナイロン袋フィルムとの間に不十分な密封部がないか(ある場合は修正する)を確かめなければならない。真空が25ないし30psivacの範囲の水準になるまで吸引されるべきである。所望の脱水レベルまで(約24時間)真空吸引した後に、袋の密封をテープ貼付部分で破り、真空ポンプの電源を切り、一体的な多孔性多積層型粘膜下組織移植片構成体を取り外す。鋏を用いて、完全な重複量が得られなかった組織移植片部分を切除してもよい。
【0073】
例7
粘膜下組織移植片構成体はまた、一体的な多積層型構成体の形成後に次のように穿孔されうる。多積層型構成体は、例3にしたがって形成される。網/粘膜下組織のサンドイッチ体を乾燥装置から除去し、組織を穿孔した。移植片は、金網の網目の間に釘を挿入し、移植片表面の多数の地点において組織に釘を貫入させることによって穿孔された。多孔性多積層型粘膜下組織は、その後、正方形(41/2×41/2インチ)に切断されて、識別のために印を付けられた。
【0074】
例8
多孔性偽等方性積層構成体は、次のように作成された。粘膜下組織片を金網上で四層に整えた。第1層は金網上に直接載置され、残りの三層は第1層の上に、それぞれ第1層に対して45度、90度および135度の角度に重ねられた(図2a〜c参照)。第2の金網を粘膜下組織の上に配置し、組織を金網間に挟み且つ乾燥棚にC字状にクランプした。この棚の前に送風機を配置して、電源を入れた。金網を案内板として利用して、組織を貫通して市松模様状に穴を穿った(すなわち、金網の目を全て一つおきに用いて組織を穿孔した。)したがって、穿孔パターンは以下のような外観を呈した。
X X X
X X
X X X
X X
組織の穿孔は、粘膜下組織が崩壊してしまうため、完成前に中止された。したがって、粘膜下組織を25分間にわたって送風機をハイ(high)状態にして乾燥させた。残りの孔部は、その後、本来のパターンにしたがって組織内に形成された。
このシートを一晩乾燥させて取り外し、正方形に切断して認識のために標識付けした。
【0075】
例9
[多孔性および無孔性粘膜下組織の強度比較]
八層からなる偽等方性多積層型組織移植片構成体を本発明にしたがって作成した。これらの構成体を(均一に)穿孔し、例5に記載のボール破裂試験を用いてこれらの構成体の強度を無孔性の構成体と比較した。三つの別々の実験を行なって、破断時に加えられた力を記録した(ポンドを単位とする)。
【0076】
a)多孔性構成体は、6.71mmの等間隔をおいて設けられた1.0mmの孔部を備えていた。四つの無孔性構成体と、四つの多孔性構成体とを試験して、平均値を求めた。無孔性構成体が94.11±7ポンド(42.7kg)で破断したのに対して、多孔性構成体は83.572±6ポンド(37.9kg)で破断した。
【0077】
b)多孔性構成体は、6.71mmの等間隔をおいて設けられた1.0mmの孔部を備えていた。四つの無孔性構成体と、四つの多孔性構成体とを試験して、平均値を求めた。無孔性構成体が73.71±9ポンド(33.4kg)で破断したのに対して、多孔性構成体は62.35±2ポンド(28.3kg)で破断した。
【0078】
c)この実験では、6.71mmの等間隔をおいて設けられた1.0mmの孔部を有する第1の多孔性構成体と、3.35mmの等間隔をおいて設けられた1.0mmの孔部を有する第2の多孔性構成体との二つの多孔性構成体を、無孔性対照体と比較した。二つの無孔性構成体と、二つの第1の多孔性構成体と、七つの第2の多孔性構成体とを試験して、平均値を求めた。無孔性構成体が70.17±12ポンド(31.8kg)で破断したのに対して、第1の多孔性構成体は79.94±8ポンド(36.3kg)で、第2の構成体は62.39±7ポンド(28.3kg)で破断した。
【0079】
[組織移植片構成体としての多孔性および無孔性粘膜下組織の比較]
下記の例では、八層からなる多積層型組織移植片構成体が多孔性および無孔性の両方の形態で作成された。多孔性構成体は、図4に示される装置を用いて穿孔された。その結果として得られた多孔性組織構成体は、直径0.40”の内腔を一定の間隔(6.7mm間隔)をおいて有していた。
【0080】
実施された実験には24匹のラットが用いられた。これらのラットは、12匹を一つのグループとして、二つのグループに分けられた。第1グループには、八層からなる無孔性多積層型粘膜下組織シートが移植された。第2グループには、八層からなる多孔性多積層型シートが移植された。各グループの12匹のラットは、最終的な滅菌法のみが異なるさらに小さいグループに分けられた。
【0081】
1.各グループのサブグループ#1については、最終的な装置にいかなる最終的な滅菌も行なわれなかった。
2.サブグループ#2については、最終的な滅菌法として装置に2.5Mradのガンマ線照射が施された。
3.サブグループ#3については、最終的な滅菌法として装置に1.5Mradのガンマ線照射が施された。
4.サブグループ#4については、最終的な装置に1.5Mradの電子線照射が最終的な滅菌法として施された。
5.サブグループ#5については、最終的な滅菌法として、最終的な装置に酸化エチレン1.5(Purdue大学で処理)が適用された。
6.サブグループ#6については、最終的な滅菌法として、最終的な装置に酸化エチレン1.5(Centurion研究所で実施)が適用された。
【0082】
これらの実験の結果から(可変数となる最終滅菌を除く)、穿孔により再建期における多積層型シート間の液の貯溜がかなり減少することがわかった。14日後に各サブグループの動物を1匹ずつ屠殺し、28日後に各サブグループの動物をさらに1匹ずつ屠殺した。14日後の時点で、孔部を持たない組織移植片を移植された動物では、多数の「嚢胞状」の漿液血液性液が多積層型シート間および移植片周囲に貯溜していた。多孔性組織移植片を移植された動物では、貯溜液量は、嚢胞の個数および嚢胞の大きさのいずれに関してもかなり少なかった。
【0083】
28日後までは、多孔性組織移植片を移植されたグループの移植片に液が貯溜していることを示すいかなる証拠も実質的になかったのに対して、無孔性組織移植片を移植されたグループでは、依然として小さい液溜まりが存在していた。
【0084】
したがって、粘膜下組織を宿主に移植する前に穿孔することは、治癒および再建に有意な効果を持つ。孔部は、液をシート間に貯溜させずに移植片全体から流出させうる導管として機能すると思われた。加えて、多孔性多積層型組織移植片の各層には目立った分離は見られず、これは少なくとも部分的に孔部の存在に帰せられる。
【0085】
例10
[ヘルニアの修復に用いられる組織移植片構成体としての粘膜下組織]
Dexon(商標)およびMarlex(商標)の比較
組織移植片構成体としての粘膜下組織、 Dexon(商標)およびMarlex(商標)の有効性を二つの別々の動物実験で分析する。実験1ではイヌを動物モデルとして用い、実験2ではラットを動物モデルとして用いる。
【0086】
実験1 ― イヌのモデル実験
30匹のイヌを無作為に10匹一組の三つのグループに分ける。全層性体壁欠損を各々のイヌの外腹腹壁に形成させる。この欠損は、5cm×5cm(幅×長さ)の大きさとし、腹膜は無傷のままとする。欠損は、中線に対して左側方に形成され、主として腹部腱膜に関係する。欠損の側方部分は、腹部骨格筋層の遠位部分に達する。欠損部位は、小腸粘膜下組織、 Dexon(商標)、またはMarlex(商標)メッシュの三つの装置のうち一つを用いて修復される。10匹の動物が各々のグループで用いられる(すなわち、10匹の動物にこれらの三つの装置のうち一つが移植される)。各々のグループの動物2匹を移植後1週間、1カ月、6カ月、2年の各時点で屠殺する。実験の最終段階として、屠殺時点で移植片材料およびその周囲の組織の形態学的研究(巨視的および顕微鏡的研究の両方)を行なう。
【0087】
実験2 ― ラットのモデル実験
ラットによる実験の実験計画は、上記のイヌによる実験のものと同一であるが、ただし各々のグループは30匹で構成され、各々のグループのラット6匹を各時点で屠殺するものとする。実験の最終段階は同じであり、すなわち屠殺時点で移植片材料およびその周囲の組織の巨視的および顕微鏡的観察を行なう。
【0088】
試料の作成
ヘルニア修復装置は、以下のように作成される。
1.腸粘膜下組織:移植用の粘膜下組織移植片構成体は、例3に記載のように作成される。原料は、軸方向破裂試験を用いて検査される。3.0ポンド以上の平均破裂力を有するロットのみが製作に用いられる。装置の構成パラメータは下記のものを含む。
a)粘膜下組織片を隣接する組織片と重複させて(重複率50%)、二層からなる大面積粘膜下組織シートを形成させる。
b)第2の粘膜下組織シートを形成させて、第1のシート上に第1の粘膜下組織シートに対して45度の角度に積層する。
c)第3の粘膜下組織シートを形成させて、第1のシート上に第2のシートに対して45度の角度に積層する。
d)第4の粘膜下組織シートを形成させて、第1の粘膜下組織シートの上に第3のシートに対して積層する。
【0089】
このようにして、八層の腸粘膜下組織(ある脊椎動物の種属の筋層および粘膜の管腔部分から離層された)からなるホモ積層型構成体を作成する。この構成体は本質的に、10cm×15cmの長さおよび幅を有する矩形状である。移植片構成体をピンチロール処理して、積層体の層間から空気および水を除去し、20ゲージの中実針を用いて組織を穿孔する。孔部は、6〜7mmの等間隔をおいて設けられる。この構成体を脱水条件下で圧縮し、酸化エチレンを用いて滅菌する。
【0090】
2.Dexon(商標):ヘルニア修復に用いられる材料をインディアナポリスのOwens & Minor社から入手する。
【0091】
3.Marlex(商標):ヘルニア修復に用いられる材料をインディアナポリスのOwens & Minor社から入手する。
【0092】
粘膜下組織移植片の物理的特性は、次のように特徴付けられる。五つの多積層型組織移植片構成体を本例に記載のように作成する。まず、これらの移植片構成体の無菌性および発熱因子をそれぞれNAmSA(オハイオ州ノースウッド)により検査する。その装置のバッチに含まれる一つの移植片構成体は、例7に記載のようにボール破裂試験を受ける。一つの構成体は、記録保存用予備試料として保管される。三つの移植片構成体が移植される。各々の移植片構成体を製造日および移植片構成体番号で識別する。Dexon(商標)およびMarlex(商標)に関しては、装置ラベルに示されるところのロット番号および製造日により特徴付けられる。
【0093】
本実験に使用されるイヌは、LBL Kennelsから購入され、本実験に使用されるラットは、Harlan Sprague Dawley社から購入される。
【0094】
外科的手順
イヌ: イヌ1匹あたりの体重は18ないし25kgである。チオペンタールナトリウムの静注により各々のイヌを麻酔し、挿管して、イソフルランおよび酸素による吸入麻酔を持続させる。外科的水準の麻酔下で手術部位を刈り込んで拭取洗浄する。手術部位は、中線に対して少なくとも3cm側方(左)に位置し、直腸腹部筋の遠位繊維のみを含むような尾側位置にある。
長手方向の皮膚切開部を形成させながら皮下組織の切開を行なって5cm×5cmの大きさの部分を露出させる。皮膚と、皮下組織と、腹膜とを除く全ての組織を切除して、腹壁に全層性欠損を創出する。腹膜および上層の横筋筋膜は、無傷のままにしておく。
粘膜下組織構成体、Dexon(商標)ヘルニア修復装置またはMarlex(商標)メッシュ・ヘルニア修復装置のいずれかを用いて欠損部位を修復する。大きさが欠損部位と等しいこれらのいずれかの装置の切片を用いて欠損部位を満たす。2−0プロリン縫合材料を用いて、これらの装置を隣接する正常な体壁組織に縫い付ける。縫合線に隣接する皮膚から体外に出されるペンローズドレーンの設置に続いて、上層の皮下組織を閉じる。
【0095】
ラット: ペントバルビタールナトリウム(40mg/kg)の腹腔内注射により各々のラットを麻酔した後に、必要に応じてメトキシフルランおよび酸素の吸入(ノーズコーン使用)を行なって外科的水準の麻酔を持続させる。外科的手順は、欠損部位を1.5cm×1.5cmの大きさとすることを除いて、上記のイヌの場合と同一である。欠損部の位置は、イヌの実験に記載のものと相対的に同じ位置、すなわち外腹腹壁上である。修復装置を正位置に固定するのに用いられる縫合糸は、2−0プロリンである。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】多数の粘膜下組織片から形成されるホモ積層型移植片構成体を示す線図である。
【図2】四つの粘膜下組織片から形成される偽等方性ヘテロ積層型移植片構成体を示す線図である。
【図3】各シートが多数の粘膜下組織片から形成される三枚の粘膜下組織シートから形成される偽等方性ヘテロ積層型移植片構成体を示す線図である。
【図4】本発明にしたがって粘膜下組織移植片に孔部を形成させるのに適した一つの装置を示す線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の粘膜下組織片からなる一体的多積層型組織移植片構成体において、前記多数の組織片の各々は、第1および第2の平面状表面を有し、かつ各組織片は温血脊椎動物の粘膜下組織を含み、移植片構成体は、該構成体の形成に用いられる個々の前記組織片のいずれの平面状表面の表面積よりも大きい表面積を有する平面状表面を有して形成され、移植片は、液が移植片構成体を通過することを可能にする複数個の孔部をさらに備えることを特徴とする一体的多積層型組織移植片構成体。
【請求項2】
前記孔部の各々は、縦方向の穿孔軸を画成し、各々の孔部は、前記穿孔軸が前記平面状表面に対して垂直にならないように形成される請求の範囲第1項記載の移植片構成体。
【請求項3】
一体的なヘテロ積層型移植片構成体として形成される請求の範囲第1項記載の移植片構成体。
【請求項4】
一体的なホモ積層型移植片構成体として形成される請求の範囲第1項記載の移植片構成体。
【請求項5】
前記粘膜下組織片は、20%以下の歪みを有して調整される請求の範囲第1項記載の移植片構成体。
【請求項6】
前記孔部は、移植片構成体の前記表面全体にわたって均等に分布する請求の範囲第1項記載の移植片構成体。
【請求項7】
前記孔部は、約2〜約20mmの距離をおいて互いに離間する請求の範囲第1項記載の移植片構成体。
【請求項8】
前記孔部は、移植片構成体の前記表面全体にわたって均等に分布する請求の範囲第7項記載の移植片構成体。
【請求項9】
前記孔部は、実質的に同じ大きさであり、かつ約0.5〜3mmの直径を有する請求の範囲第1項記載の移植片構成体。
【請求項10】
前記粘膜下組織片は、粘膜下組織と粘膜筋板と粘膜の緻密層からなる請求の範囲第3項記載の組織移植片構成体。
【請求項11】
前記構成体を形成する粘膜下組織片は、該構成体が擬似等方性を有するように配向される請求の範囲第1項記載の組織移植片構成体。
【請求項12】
前記構成体を形成する粘膜下組織シートは、該構成体が擬似等方性を有するように配向される請求の範囲第3項記載の組織移植片構成体。
【請求項13】
一体的多積層型組織移植片構成体を改良したものを作成する方法において、 温血脊椎動物の筋層および粘膜の少なくとも管腔部分の双方から離層される粘膜下組織片の少なくとも一部分を別の粘膜下組織片と重複させる段階と; 前記粘膜下組織片の少なくとも前記重複部分を、圧縮される前記粘膜下組織を少なくとも部分的に脱水させうる条件下で圧縮する段階と; 粘膜下組織の少なくとも前記重複部分を穿孔する段階とからなる、一体的多積層型組織移植片構成体を改良したものを作成する方法。
【請求項14】
前記孔部は組織移植片構成体の前記表面全体にわたって均等に分布する請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項15】
前記組織内の前記孔部は、ピンを前記組織に圧入することによって作成される請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項16】
前記ピンは、移植片の前記表面の平面に対して90度以外の角度で前記組織に圧入される請求の範囲第15項記載の方法。
【請求項17】
前記組織は、該組織が穿孔される時点で約10重量%〜20重量%の含水率まで乾燥されている請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項18】
構成体を形成する前記粘膜下組織片は、該構成体が擬似等方性を有するように配向される請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項19】
構成要素である前記粘膜下組織片は、20%以下の歪みを有して調整される請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項20】
一体的多積層型組織移植片構成体を改良したものを作成する方法において、温血脊椎動物の筋層および粘膜の少なくとも管腔部分の双方から離層される粘膜下組織片を重複させたものからなっており、シートの形成に用いられる個々のいずれの組織片よりも大きい表面積を有する多数の各腸粘膜下組織シートを形成させる段階と; 第1の粘膜下組織シートをまた別の粘膜下組織シートと重ね合わせる段階と; 圧縮される前記粘膜下組織を少なくとも部分的に脱水させうる条件下で、前記粘膜下組織シートを圧縮する段階と; 形成された移植片構成体を穿孔する段階とからなる、一体的多積層型組織移植片構成体を改良したものを作成する方法。
【請求項21】
前記孔部は移植片構成体の前記表面全体にわたって均等に分布する請求の範囲第20項記載の方法。
【請求項22】
前記組織内の前記孔部は、ピンを前記組織に圧入することによって作成される請求の範囲第20項記載の方法。
【請求項23】
前記ピンは、移植片の前記表面の平面に対して90度以外の角度で前記組織に圧入される請求の範囲第22項記載の方法。
【請求項24】
前記組織は、該組織が穿孔される時点で約10重量%〜20重量%の含水率まで乾燥されている請求の範囲第20項記載の方法。
【請求項25】
構成体を形成する前記粘膜下組織片の全シートは、該構成体が擬似等方性を有するように配向される請求の範囲第20項記載の方法。
【請求項26】
前記粘膜下組織シートは、ホモ積層型シートとして形成される請求の範囲第20項記載の方法。
【請求項27】
構成要素である前記粘膜下組織片は、20%以下の歪みを有して調整される請求の範囲第20項記載の方法。
【請求項28】
温血脊椎動物の筋層および粘膜の少なくとも管腔部分の双方から離層される多数の腸粘膜下組織片からなっており、第1および第2の平面状表面間において液の流通をもたらす少なくとも2.0個の孔部を1cm2毎に有して穿孔される第1および第2の平面状表面を備えることを特徴とする一体的多積層型組織移植片構成体。
【請求項29】
前記孔部は、移植片構成体の前記表面全体にわたって均等に分布する請求の範囲第28項記載の移植片構成体。
【請求項30】
前記孔部は、実質的に均一な大きさであり、かつ約0.6〜2mmの直径を有する請求の範囲第28項記載の移植片構成体。
【請求項31】
前記粘膜下組織は、腸粘膜下組織である請求の範囲第1項記載の組織移植片構成体。
【請求項32】
前記重複組織片から多数の粘膜下組織シートを形成させる段階と、第1の粘膜下組織シートをまた別の粘膜下組織シートと重ね合わせる段階とを更に含む請求の範囲第13項記載の方法。
【請求項33】
前記粘膜下組織シートは、ホモ積層型シートとして形成される請求の範囲第32項記載の方法。
【請求項34】
前記移植片構成体は、少なくとも2.0個の孔部を1cm毎に有して穿孔される請求の範囲第1項または第31項記載の組織移植片構成体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−289734(P2007−289734A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200616(P2007−200616)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【分割の表示】特願平9−536267の分割
【原出願日】平成9年3月31日(1997.3.31)
【出願人】(598063203)パーデュー・リサーチ・ファウンデーション (59)
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
【出願人】(398065829)メソディスト ヘルス グループ,インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】