説明

多孔押出装置

【課題】複数本の同時押出における押出速度を簡単な構造で制御できる多孔押出装置を提供する。
【解決手段】多孔押出装置(1)は、複数の押出孔(23)(24)を有する多孔押出ダイス(10)(20a)(20b)と、この多孔押出ダイス(10)(20a)(20b)の下流側に配置されるバッカー(30)とを備え、前記多孔押出ダイス(10)(20a)(20b)とバッカー(30)との合わせ面に、少なくとも1つの押出孔(23)(24)に対して、外部に連通する冷媒用通路(R1)(R2)が押出孔を囲んで設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の押出材を同時に押出すための多孔押出装置およびその関連技術に関する。
【0002】
なお、この明細書および特許請求の範囲の記載において、押出材および押出材料の進む方向を下流または下流側と称し、逆方向を上流または上流側と称する。
【背景技術】
【0003】
複数の押出孔を有するダイスを用いて複数本の押出材を同時に押出す多孔押出装置がある。かかる多孔押出装置では、ベアリング部の加工寸法の僅かな差、摩耗状態の差、あるいはメタルフローの不均一等の原因により、複数の押出材の押出速度に差が生じることがある。押出速度差は、押出材の形状不良や長さ不良を招き、複数本同時押出による生産を困難にする。
【0004】
かかる問題に対し、複数本の押出材の押出速度を均一にするための押出装置や押出方法が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0005】
特許文献1に記載されている押出ダイスは、押出材料流入側のベアリング部近傍にリブを突設してメタルフロー抵抗を調整するものである。
【0006】
特許文献2に記載に記載されている押出装置は、ダイスホルダーに複数のホールド孔を設け、各ホールド孔に押出方向に移動可能な入れ子式の押出ダイスを挿入した装置である。そして、ホールド孔における押出ダイスの位置を個別に変更することによりメタルフローを制御し押出速度を調整するものである。
【0007】
特許文献3に記載されている押出装置は、ダイスを嵌着するダイリングの内壁の複数適所に空気吹出口を穿設するとともに、壁面に空気吹出口に連通する排気溝を設け、空気吹出口から排気溝に空気を流通させてダイスを外周面から冷却するように構成したものである。ダイスは排気溝を設けた部分のみから冷却を受けるので、ダイスは局部的に冷却されることになる。そして、局部的な冷却により複数の押出孔の条件を微妙に調整し、押し出される複数の押出材の長さ(押出速度)が調節される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−57338号公報
【特許文献2】特開平8−47715号公報
【特許文献3】特公昭58−56658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の押出ダイスは、試験押出結果に基づいてリブを削って微調整し、試験押出と微調整を繰り返して最適条件を設定するものであるため、最適条件の設定に手間がかかり、かつ試験用に押出した押出材も無駄になる。
【0010】
また、特許文献2に記載の押出装置は、入れ子式のダイス構造が複雑である上にダイス毎に駆動装置を装備する必要がある。
【0011】
また、特許文献3に記載の押出装置は、ダイスの外周面からの冷却であるから冷却効率が悪い。しかも、第2図の複数個の押出孔を有するダイスでは、個々の押出孔に対して一方方向からの冷却となるため、複数本の押出材の押出速度差を制御するような精密な冷却制御は困難である。しかも、ダイリングの内壁という曲面への溝加工であるから、加工に手間がかかるという問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、多孔押出において、それぞれの押出材の押出速度を簡単な構造で制御できる多孔押出装置およびその関連技術の提供を目的とする。
【0013】
即ち、本発明は下記[1]〜[12]に記載の構成を有する。
【0014】
[1]複数の押出孔を有する多孔押出ダイスと、この多孔押出ダイスの下流側に配置されるバッカーとを備え、
前記多孔押出ダイスとバッカーとの合わせ面に、少なくとも1つの押出孔に対し、外部に連通する冷媒用通路が押出孔を囲んで設けられていることを特徴とする多孔押出装置。
【0015】
[2]前記冷媒用通路が多孔押出ダイスのそれぞれの押出孔に対して設けられ、かつそれぞれの冷媒用通路における冷媒流通が独立して制御可能となされている前項1に記載の多孔押出装置。
【0016】
[3]前記冷媒用通路は、バッカーの上流側端面および多孔押出ダイスの下流側端面のうちの少なくとも一方に設けられた溝である請求項1または2に記載の多孔押出装置。
【0017】
[4]前記冷媒用通路はバッカーの下流側端面に連通する前項1〜3のいずれかに記載の多孔押出装置。
【0018】
[5]前記冷媒用通路はバッカーの側面または多孔押出ダイスの側面に連通する前項1〜4のいずれかに記載の多孔押出装置。
【0019】
[6]前記冷媒用通路はバッカーの押出材案内孔に連通する前項1〜5のいずれかに記載の多孔押出装置。
【0020】
[7]複数の押出孔を有し、少なくとも1つの押出孔に対し、外部に連通する冷媒用通路がその押出孔を囲んで設けられていることを特徴とする多孔押出ダイス。
【0021】
[8]前項1〜6のいずれかに記載された多孔押出装置を用いて複数本の押出材を同時に押し出すに際し、
多孔押出ダイスの冷媒用通路に冷媒を流通させることにより押出孔の周辺部を介してその押出孔に流入する材料を冷却するものとし、
前記冷媒用通路に流通させる冷媒の流通状態を制御して押出孔に流入する材料に対する冷却能を変化させることにより、押出材の押出速度を制御することを特徴とする多孔押出方法。
【0022】
[9]前項2〜6のいずれかに記載された多孔押出装置を用いて複数本の押出材を同時に押し出すに際し、
多孔押出ダイスの冷媒用通路に冷媒を流通させることにより押出孔の周辺部を介してその押出孔に流入する材料を冷却するものとし、
それぞれの冷媒用通路に流通させる冷媒の流通状態を制御して押出孔に流入する材料に対する冷却能を変化させることにより、それぞれの押出材の押出速度を制御することを特徴とする多孔押出方法。
【0023】
[10]複数本の押出材を押し出しながらそれぞれの押出材の押出速度を測定し、押出速度の速い押出材に対応する押出孔に流入する材料への冷却能を、押出速度の遅い押出材に対応する押出孔に流入する材料への冷却能よりも相対的に強化することにより、複数の押出材の押出速度差を小さくする前項9に記載の多孔押出方法。
【0024】
[11]押出速度の速い押出材に対応する押出孔に流入する材料への冷却能を強化して、その押出材の押出速度を遅くする前項10に記載の多孔押出方法。
【0025】
[12]複数の押出孔を有する多孔押出ダイスと、この多孔押出ダイスの下流側に配置されるバッカーと、前記多孔押出ダイスとバッカーとの合わせ面にそれぞれの押出材の温度を下げる手段とを備えた多孔押出装置を用い、複数本の押出材を同時に押し出すに際し、複数の押出材の中から最も押出速度の速い押出材を判定した後に、その最も速い押出材の温度を下げて押出工程を行うことを特徴とする多孔押出方法。
【発明の効果】
【0026】
上記[1]に記載の多孔押出装置は、多孔押出ダイスの少なくとも1つの押出孔に対して冷媒用通路を有し、その冷媒用通路における冷媒流通により、その押出孔の周辺部に対する冷却能を制御でき、ダイスを介してその押出孔に流入する材料に対する冷却能を制御することができる。かかる構造により、ダイスからの冷却によって材料の変形抵抗値を制御してその押出材の押出速度を調節することができる。しかも、冷媒用通路が押出孔を囲んで設けられているので、周方向において均等に冷却でき、かつ冷却面積も大きく確保できるので冷却効率が良い。また、冷媒流通によって押出速度を制御するものであるから、試験押出の繰り返しや大がかりな装置変更を行うことなく最適条件を設定しかつ維持することができる。さらに、冷媒用通路は、多孔押出ダイスとバッカーの合わせ面に設けられ、平坦面である合わせ面に溝彫り加工すれば冷媒用通路を設けることができるので、加工が簡単であり、形状設定も容易である。
【0027】
上記[2]に記載の多孔押出装置は、多孔押出ダイスのそれぞれの押出孔に対して冷媒用通路を有し、独立して冷媒流通を制御できる。このため、それぞれの押出孔の周辺部に対する冷却能を独立して制御でき、ダイスを介してそれぞれの押出孔に流入する材料に対する冷却能を独立して制御することができる。かかる構造により、ダイスからの冷却によって材料の変形抵抗値を制御してそれぞれの押出材の押出速度を独立して調節することができる。そして、複数の押出材の押出速度に差がある場合は、押出速度差が小さくなるように冷却能を制御することにより、押出速度差を小さくすることができる。
【0028】
上記[3]に記載の各多孔押出装置によれば、いずれの場合にも平面である合わせ面に溝彫り加工すれば冷媒用通路を設けることができる。
【0029】
上記[4]に記載の多孔押出装置によれば、バッカーの下流側から冷媒用通路に冷媒を導入または排出することができる。
【0030】
上記[5]に記載の多孔押出装置によれば、バッカーまたは多孔押出ダイスの側面から冷媒用通路に冷媒を導入または排出することができる。また、側面からの冷媒の導入または排出であり、冷媒の取り回しが容易である。
【0031】
上記[6]に記載の多孔押出装置によれば、バッカーの押出材案内孔に冷媒を排出し、排出した冷媒で押出材を冷却することができる。
【0032】
上記[7]に記載の多孔押出ダイスを押出装置に組み込むことにより、上記効果を得ることができる。
【0033】
上記[8]に記載の多孔押出方法は、冷媒用通路における冷媒流通状態によってその押出孔に流入する材料に対する冷却能を制御するものであり、ダイスからの冷却を受けた材料はその温度に応じた変形抵抗値となって押出速度に反映される。このため、それぞれの押出孔に対して冷却能を制御することにより、その押出材の押出速度を制御することができる。
【0034】
上記[9]に記載の多孔押出方法は、冷媒用通路における冷媒流通状態によってそれぞれの押出孔に流入する材料に対する冷却能を制御するものであり、ダイスからの冷却を受けた材料はその温度に応じた変形抵抗値となって押出速度に反映される。このため、それぞれの押出孔に対して独立して冷却能を制御することにより、それぞれの押出材の押出速度を制御することができる。
【0035】
上記[10]に記載の多孔押出方法によれば、押出中に測定した押出速度に基づき、押出材に対応する押出孔に流入する材料への冷却能を、押出速度の遅い押出材に対応する押出孔に流入する材料への冷却能よりも相対的に強化することにより、複数の押出材の押出速度差を小さくすることができる。その結果、製品寸法や形状等を安定させ、製品切断時の歩留まりや切断効率も向上させることができる。
【0036】
上記[11]に記載の多孔押出方法によれば、押出速度の速い押出材に対応する押出孔に流入する材料への冷却能を強化してその押出材の押出速度を遅くすることにより、複数の押出材の押出速度差を小さくすることができる。
【0037】
上記[12]に記載の多孔押出方法によれば、複数本の押出材のうちの最も押出速度が速いと判定された押出材の押出速度が低下するので、複数本の押出材の押出速度差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の多孔押出装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の多孔押出装置の要部分解斜視図である。
【図3】図1の多孔押出装置の縦方向断面図である。
【図4】本発明の多孔押出装置におけるバッカーの他の例を示す斜視図である。
【図5】本発明の多孔押出装置におけるバッカーのさらに他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1〜3は、2本の中空の押出材(S1)(S2)を同時に押し出すための多孔押出装置(1)であり、本発明の多孔押出装置の一実施形態を示している。
【0040】
多孔押出装置(1)において、ダイケース(10)は中心から等距離を隔てた位置に2つのホールド孔(11)(11)を有し、それぞれのホールド孔(11)に雌型(21)と雄型(22)とからなるダイス本体(20a)(20b)が装填されている。即ち、ダイケース(10)および2つのダイス本体(20a)(20b)が本発明における多孔押出ダイスに対応する。前記ダイケース(10)の下流側にはバッカー(30)が配置され、ダイケース(10)およびバッカー(30)はダイリング(12)に保持され、さらにその下流側にはボルスター(40)が配置されている。また、(2)はコンテナ、(3)はビレットである。
【0041】
前記各ダイス本体(20a)(20b)は、押出材(S1)(S2)の外周面を成形する1つの成形孔(23)とこの成形孔(23)に続くリリーフ孔(24)を有する雌型(21)と、内周面を成形する1つのマンドレル(25)を有する雄型(22)とを組み合わせたポートホールダイスであり、それぞれ1本の押出材を押し出すものとなされている。前記成形孔(23)および成形孔(23)に続くリリーフ孔(24)が、本発明における1つの押出孔である。
【0042】
前記バッカー(30)は、押出方向に貫通し、雌型(21)のリリーフ孔(24)に連通する2つの押出材案内孔(31a)(31b)と、2つの冷媒導入孔(32a)(32b)とを有している。また、ダイス本体(20a)(20b)との合わせ面である上流側端面において、前記各押出材案内孔(31a)(31b)を囲み、リリーフ孔(24)よりも径の大きい2つの環状溝(33a)(33b)が形成され、さらに、これらの環状溝(33a)(33b)から外方に延びて冷媒導入孔(32a)(32b)に通じる外方渡し溝(34a)(34b)と、内方に延びて押出材案内孔(31a)(31b)に通じる内方渡し溝(35a)(35b)とが形成されている。
【0043】
前記ボルスター(40)は、押出方向に貫通し、バッカー(30)の2つの押出材案内孔(31a)(31b)に連通する2つ押出材案内孔(41a)(41b)と、バッカー(30)の2つの冷媒導入孔(32a)(32b)に連通する2つの冷媒導入孔(42a)(42b)とを有している。
【0044】
上述した2つのダイス本体(20a)(20b)をダイケース(10)に装填し、バッカー(30)とともにダイリング(12)で保持し、さらにボルスター(40)を組み付ける。この組み付け状態において、バッカー(30)の環状溝(33a)(33b)、外方渡し溝(34a)(34b)および内方渡し溝(35a)(35b)が雌型(21)の下流側端面によって閉じられ、リリーフ孔(24)を囲む環状の冷媒用通路(R1)(R2)が形成される。また、各雌型(21)のリリーフ孔(24)とバッカー(30)の押出材案内孔(31a)(31b)が連通し、バッカー(30)の押出材案内孔(31a)(31b)および冷媒導入孔(32a)(32b)とボルスター(40)の押出材案内孔(41a)(41b)および冷媒導入孔(42a)(42b)がそれぞれ連通し、冷媒用通路(R1)(R2)は外方渡し溝(34a)(34b)を介して冷媒導入孔(42a)(42b)に連通し、内方渡し溝(35a)(35b)を介して押出材案内孔(31a)(31b)に連通する。
【0045】
以上のようにして冷媒用通路(R1)(R2)を含む2つの冷媒の経路が2つのダイス本体(20a)(20b)に対して独立して形成され、これらの経路はそれぞれボルスター(40)の冷媒導入孔(42a)(42b)および押出材案内孔(41a)(41b)の下流側端部で外部に連通する。そして、冷媒導入孔(42a)(42b)の下流側開口部から冷媒(C)を導入すると、ボルスター(40)の冷媒導入孔(42a)(42b)、バッカー(30)の冷媒導入孔(32a)(32b)、外方渡し溝(34a)(34b)を通り、外方渡し溝(34a)(34b)から冷媒用通路(R1)(R2)に入ると各々二方向に分かれて冷媒用通路(R1)(R2)を巡る。そして、二方向に分かれた冷媒(C)は各々内方渡し溝(35a)(35b)で合流し、内方渡し溝(35a)(35b)、バッカー(30)の押出材案内孔(31a)(31b)、ボルスター(40)の押出材案内孔(41a)(41b)を通って下流側端部の開口部から外部に排出される。この冷媒流通において、冷媒用通路(R1)(R2)内の冷媒(C)はダイス本体(20a)(20b)との間で熱交換を行ってダイス本体(20a)(20b)を冷却する。
【0046】
前記冷媒用通路(R1)(R2)は2つのダイス本体(20a)(20b)に対して独立して形成されているので、導入する冷媒(C)の温度および流量を調節することにより、2つのダイス本体(20a)(20b)に対する冷却能を個別に独立して制御することができる。なお、冷媒(C)の温度調節および流量調節は周知の冷媒制御装置(図示省略)によって適宜行う。
【0047】
それぞれのダイス本体(20a)(20b)に対する冷却能を強めると押出材(S1)(S2)の押出速度(T1)(T2)は遅くなり、冷却能を弱めると速くなる。即ち、冷却によりダイス温度が下がると、押出孔に流入する材料の温度も低下する。材料温度が低下すると、材料の変形抵抗値が高くなって押し出し難くなり、その結果、押出速度(T1)(T2)は遅くなる。逆にダイス温度が上がって材料温度が高くなると材料の変形抵抗値が低くなって押し出され易くなり、押出速度(T1)(T2)は速くなる。従って、材料は温度に応じた変形抵抗値となって押出速度(T1)(T2)に反映し、それぞれのダイス本体(20a)(20b)に対する冷却能を強めるとそのダイス本体から押し出される押出材の押出速度は強化前よりも遅くなり、冷却能を弱めると押出速度は弱化前よりも速くなる。各冷媒用通路(R1)(R2)は連通しておらず、冷媒流通を独立して制御することができるから、各押出材(S1)(S2)の押出速度(T1)(T2)も独立して制御することができる。
【0048】
本発明は、材料の変形抵抗値が温度に応じて変化する性質を利用し、同時に押し出す2本の押出材の押出速度に差が生じた時に、押出速度の速いダイス本体に対する冷却能を強めるか、あるいは押出速度の遅いダイス本体に対する冷却能を弱めるように冷却条件を変更し、2本の押出材の押出速度差が小さくなるようにする。即ち、押出速度に差が生じている状態から、押出速度の速い押出材に対応するダイス本体への冷却能を相対的に高めるように冷媒流通を制御する。
【0049】
冷却条件は押出中に変更することができるので、押出中に押出速度を監視し、その結果を冷却条件にフィードバックすれば押し出しながら押出速度を修正することができる。以下は、押出速度差を解消するためのフィードバック制御例である。
【0050】
以下の説明において、2つのダイス本体を第1ダイス本体(20a)および第2ダイス本体(20b)と称し、これらのダイス本体から押し出されてくる押出材およびその押出速度に「第1」「第2」の語を冠してこれらを区別する。
(1)多孔押出装置(1)から押し出されてくる第1押出材(S1)の押出速度(T1)および第2押出材(S2)の押出速度(T2)を測定する。
(2)押し出しながら、押出速度(T1)(T2)に応じて、以下のように2つダイス本体(20a)(20b)の冷却条件を変更する。
【0051】
第1押出材(S1)の押出速度(T1)が第2押出材(S2)の押出速度(T2)よりも速い場合(T1>T2)は、第1ダイス本体(20a)の冷却能を強めるか、第2ダイス本体(20b)の冷却能を弱める。あるいは、第1ダイス本体(20a)の冷却強化と第2ダイス本体(20b)の冷却弱化の両方を行う。
【0052】
逆に、第1押出材(S1)の押出速度(T1)が第2押出材(S2)の押出速度(T2)よりも遅い場合(T1<T2)は、第2ダイス本体(20b)の冷却能を強めるか、第1ダイス本体(20b)の冷却能を弱める。あるいは、第2ダイス本体(20b)の冷却強化と第1ダイス本体(20b)の冷却弱化の両方を行う。
【0053】
第1押出材(S1)の押出速度(T1)と第2押出材(S2)の押出速度(T2)が等しい場合(T1=T2)は、冷却条件を維持する。
(3)(1)(2)のステップを繰り返しながら押出を行う。これにより、2本の押出材(S1)(S2)の押出速度差を可及的に小さくすることができ、かつその状態を維持できる。
【0054】
上記ステップ(2)の冷却条件において、冷媒流通を停止しているダイス本体(20a)(20b)の冷却能を強めるには、対応する冷媒用通路(R1)(R2)に冷媒(C)を流通させる。既に冷媒(C)を流通させている場合は、冷媒温度を降下および/または冷媒流量を増大させると冷却能を強めることができる。逆に、ダイス本体(20a)(20b)の冷却能を弱めるには、対応する冷媒用通路(R1)(R2)に流通させている冷媒(C)の温度を上昇および/または流量を減少させるか、冷媒流通を停止する。
【0055】
上述した制御例は2本の同時押出であるが、3本以上の押出においても同様の方法で押出速度を制御することができる。
【0056】
複数の押出材を等しい速度で押し出すことにより、あるいは押出速度差を可及的に小さくすることにより、製品寸法や形状等を安定させることができる。また、製品切断時の歩留まりや切断効率も向上させることができる。そして、このように押出速度差を可及的に小さくすることで、安定した品質の押出材を効率良く製造することができる。
【0057】
また、冷媒流通制御によって押出速度を調節するものであるから、特許文献1に記載されているようなダイスの微調整と試験押出を繰り返す必要がなく、押し出しながら最適条件を設定しかつ維持することができる。また、特許文献2に記載されているような複雑なダイス構造やダイスの駆動装置を必要としないので、大がかりな装置変更を行うことなく最適条件を設定しかつ維持することができる。また、冷媒用通路はそれぞれの押出孔を囲むように設けられているので、特許文献3に記載された押出装置よりも精密な冷却制御を行うことができる。
【0058】
〔押出材の冷却〕
本実施形態において、ダイス本体(20a)(20b)を冷却する冷媒用通路(R1)(R2)(環状溝(33a)(33b))はバッカー(30)の押出材案内孔(31a)(31b)に連通し、冷媒(C)は押出材案内孔(31a)(31b)に排出される。ダイス本体(20a)(20b)との熱交換により冷媒(C)の温度は上昇しているが、それでもなお冷却能を有している。このため、ダイス本体(20a)(20b)から押し出されてくる押出材(S1)(S2)は、押出直後に押出材案内孔(31a)(31b)(41a)(41b)内で冷却される。
【0059】
〔多孔押出ダイス〕
上記実施形態では、ダイケース(10)に複数のホールド孔(11)を設け、各ホールド孔(11)に一つの押出孔を有するダイス本体(20a)(20b)を装填するように構成した多孔押出ダイスを用いた。しかし、本発明に用いる多孔押出ダイスは上記構成のものに限定されず、1つのブロックで複数の押出孔を有するものであっても良い。また、ポートホールダイス等の組み合わせダイスであることにも限定されず、ソリッドダイスであっても良い。もちろん、押出材は中空材であることにも限定されず、中実材において本発明を適用できる。
【0060】
〔冷媒用通路の位置〕
上記実施形態は押出孔を囲むように環状の冷媒用通路(R1)(R2)を設けた。このように、押出孔を囲むように冷媒用通路(R1)(R2)を設けることにより、周方向において均等に冷却でき、かつ冷却面積も大きく確保できるので冷却効率が良い。
【0061】
また、冷媒用通路を押出ダイスとバッカーの合わせ面を設けることにより、平坦な面に溝彫り加工すれば良いので、内部に孔を穿設したり、曲面であるダイスの外周面やダイケースの内周面に溝を設けるよりも加工が簡単であり、形状設定も容易である。また、バッカーの上流側端面および多孔押出ダイスの下流側端面の少なくとも一方に溝を設ければ、これらの組み付けによって冷媒用通路を形成することができる。上記実施形態のように、バッカー(30)の上流側端面に溝を設ける場合は、他のダイスを使用して押出する場合でも、1つのバッカーで兼用ができる。また、冷媒用通路や通路径を変更したい場合にはバッカーを変更することで容易に対応できるというメリットがある。一方、多孔押出ダイスに溝を設ける場合は、ベアリング部に近い位置からの冷却になるのでバッカーに溝を設けるよりも冷却効率が良い。また、冷媒用通路がダイスと一体に形成されるので、冷却したい箇所と冷媒用通路の位置を任意に設計できる。
【0062】
また、冷媒の入口および出口の位置も限定されない。上記実施形態ではバッカー(30)の下流側端面に開口する冷媒導入孔(32a)(32b)を穿設し、下流側から冷媒(C)を導入してバッカー(30)の押出材案内孔(31a)(31b)に排出しているが、冷媒導入孔をバッカーの側面または多孔押出ダイスの側面に開口するようにしても良い。バッカーまたは多孔押出ダイスの側面に開口部を設けて冷媒を導入するようにすれば、冷媒(C)の取りまわしが容易である。また、バッカーの上流側端面または多孔押出ダイスの下流側端面に環状溝を設けた場合は、この環状溝に連続して側面に達する溝を設ければ、これらの組み付けによって合わせ面を通って側面に開口する冷媒導入孔を形成することができる。
【0063】
図4のバッカー(50)は、押出材案内孔(31a)(31b)を囲む環状溝(33a)(33b)から側面に通じる冷媒導入溝(51a)(51b)を設け、側面から冷媒(C)を導入し、環状溝(33a)(33b)を通り、内方渡し溝(35a)(35b)を介して押出材案内孔(31a)(31b)に排出するようにしたものである。
【0064】
また、冷媒(C)を押出材案内孔(31a)(31b)に排出することにも限定されない。図5のバッカー(55)は、一部が開環した環状溝(56a)(56b)を有し、その一端が外方渡し溝(34a)(34b)を介して押出方向に貫通する冷媒導入孔(32a)(32b)に連通し、他端から側面に通じる冷媒排出溝(57a)(57b)が形成されている。このバッカー(55)を用いた場合は、冷媒導入孔(32a)(32b)を介して下流側から導入した冷媒(C)が環状溝(56a)(56b)を通る間にダイスを冷却し、その後冷媒排出溝(57a)(57b)を通って側面から排出される。この場合は、冷媒(C)が押出材案内孔(31a)(31b)に排出されないので、押出材を冷却せずにダイスのみが冷却される。このような押出材案内孔(31a)(31b)に排出しない冷媒用通路は、ダイクエンチ品のように水冷等で急冷が必要な場合に適している。ダイクエンチによる急冷の前にダイス冷却のための冷媒によって押出材が冷却されると、押出材温度が低下し、ダイクエンチにおける冷却開始温度が下がって所期する急冷効果が得られないことがあるからである。
また、出口がバッカー(55)の側面であるので、冷媒(C)を回収することができる。さらに、冷媒(C)を逆方向に流通させることもできる。
【0065】
さらに、冷媒を押出材案内孔に排出せず、導入および排出の両方をバッカーの下流側から行う場合や、両方をバッカーまたはダイスの側面から行う場合も本発明に含まれる。
【0066】
なお、図1〜3に示した多孔押出装置(1)は、バッカー(30)の下流側にボルスター(40)を配置しているので、ボルスター(40)にも前記バッカー(30)の冷媒導入孔(32a)(32b)に連通する冷媒導入孔(42a)(42b)を設けている。図5のバッカー(55)を用いる場合も同様にボルスター(40)に冷媒導入孔(42a)(42b)を設ける。また、ダイホルダー(10)およびバッカー(30)はダイリング(12)に保持されているので、図4のバッカー(50)および図5のバッカー(55)を用いる場合は、ダイリング(12)に前記冷媒導入溝(51a)(51b)および冷媒排出溝(57a)(57b)に連通して外部に連通する貫通孔を設けることになる。
【0067】
〔押出孔と冷媒用通路〕
上記実施形態の多孔押出装置はダイスの全ての押出孔に対して冷媒用通路を設けたものであるが、本発明は全ての押出孔に対して冷媒用通路を設けたものに限定されない。複数の押出孔の少なくとも1つに対して冷媒用通路が設けられていれば本発明に該当する。少なくとも1つの押出孔に対して冷媒用通路が設けられていれば、その冷媒用通路における冷媒流通により押出孔の周辺部に対する冷却能を制御し、ダイスを介してそれぞれの押出孔に流入する材料に対する冷却能を制御することができるので、ダイスからの冷却によって材料の変形抵抗値を制御してその押出材の押出速度を調節することができるからである。
【0068】
〔冷媒〕
本発明において使用する冷媒は気体、液体のいずれでも良く、気体冷媒として、空気、窒素ガス、炭酸ガスを例示でき、液体冷媒として水を例示できる。液体冷媒は流通する間に気化し、気化熱によっても冷却効果が得られる。また、窒素ガスや炭酸ガスのような不活性ガスで冷却すれば、押出材の酸化を防止することができる。冷媒としては上に挙げた液体冷媒と気体冷媒の混合物でも良く、液体冷媒と気体冷媒の混合物の場合には冷却効果の調節が容易である。さらには液体冷媒と気体冷媒の混合物の中でも気体冷媒中に液体冷媒の粒を浮揚させた混合物、いわゆるミストにしたものを用いても良い。冷媒として該ミストを用いた場合には調節した冷却効果を安定化する効果が得られる。なお、冷媒として室温の空気を用いる場合は、冷媒の貯蔵タンクを必要としないので冷却の周辺装置を簡略化できる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、複数本の押出材を同時に押し出す多孔押出に利用できる。
【符号の説明】
【0070】
1…多孔押出装置
10…ダイケース(多孔押出ダイス)
11…ホールド孔
12…ダイリング
20a、20b…ダイス本体(多孔押出ダイス)
21…雌型
22…雄型
23…成形孔(押出孔)
24…リリーフ孔(押出孔)
30、50、55…バッカー
31a、31b、41a、41b…押出材案内孔
32a、32b、42a、42b、51a、51b…冷媒導入孔
33a、33b…環状溝
51a、51b…冷媒導入溝
57a、57b…冷媒排出溝
40…ボルスター
S1、S2…中空の押出材
R1、R2…冷媒用通路
C…冷媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の押出孔を有する多孔押出ダイスと、この多孔押出ダイスの下流側に配置されるバッカーとを備え、
前記多孔押出ダイスとバッカーとの合わせ面に、少なくとも1つの押出孔に対し、外部に連通する冷媒用通路が押出孔を囲んで設けられていることを特徴とする多孔押出装置。
【請求項2】
前記冷媒用通路が多孔押出ダイスのそれぞれの押出孔に対して設けられ、かつそれぞれの冷媒用通路における冷媒流通が独立して制御可能となされている請求項1に記載の多孔押出装置。
【請求項3】
前記冷媒用通路は、バッカーの上流側端面および多孔押出ダイスの下流側端面のうちの少なくとも一方に設けられた溝である請求項1または2に記載の多孔押出装置。
【請求項4】
前記冷媒用通路はバッカーの下流側端面に連通する請求項1〜3のいずれかに記載の多孔押出装置。
【請求項5】
前記冷媒用通路はバッカーの側面または多孔押出ダイスの側面に連通する請求項1〜4のいずれかに記載の多孔押出装置。
【請求項6】
前記冷媒用通路はバッカーの押出材案内孔に連通する請求項1〜5のいずれかに記載の多孔押出装置。
【請求項7】
複数の押出孔を有し、少なくとも1つの押出孔に対し、外部に連通する冷媒用通路がその押出孔を囲んで設けられていることを特徴とする多孔押出ダイス。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載された多孔押出装置を用いて複数本の押出材を同時に押し出すに際し、
多孔押出ダイスの冷媒用通路に冷媒を流通させることにより押出孔の周辺部を介してその押出孔に流入する材料を冷却するものとし、
前記冷媒用通路に流通させる冷媒の流通状態を制御して押出孔に流入する材料に対する冷却能を変化させることにより、押出材の押出速度を制御することを特徴とする多孔押出方法。
【請求項9】
請求項2〜6のいずれかに記載された多孔押出装置を用いて複数本の押出材を同時に押し出すに際し、
多孔押出ダイスの冷媒用通路に冷媒を流通させることにより押出孔の周辺部を介してその押出孔に流入する材料を冷却するものとし、
それぞれの冷媒用通路に流通させる冷媒の流通状態を制御して押出孔に流入する材料に対する冷却能を変化させることにより、それぞれの押出材の押出速度を制御することを特徴とする多孔押出方法。
【請求項10】
複数本の押出材を押し出しながらそれぞれの押出材の押出速度を測定し、押出速度の速い押出材に対応する押出孔に流入する材料への冷却能を、押出速度の遅い押出材に対応する押出孔に流入する材料への冷却能よりも相対的に強化することにより、複数の押出材の押出速度差を小さくする請求項9に記載の多孔押出方法。
【請求項11】
押出速度の速い押出材に対応する押出孔に流入する材料への冷却能を強化して、その押出材の押出速度を遅くする請求項10に記載の多孔押出方法。
【請求項12】
複数の押出孔を有する多孔押出ダイスと、この多孔押出ダイスの下流側に配置されるバッカーと、前記多孔押出ダイスとバッカーとの合わせ面にそれぞれの押出材の温度を下げる手段とを備えた多孔押出装置を用い、複数本の押出材を同時に押し出すに際し、複数の押出材の中から最も押出速度の速い押出材を判定した後に、その最も速い押出材の温度を下げて押出工程を行うことを特徴とする多孔押出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−234380(P2010−234380A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82061(P2009−82061)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】