説明

多孔質カーボンの孔特性を変える方法およびその方法で製造された多孔質カーボン材料

本発明は、ある分子がアクセスできないほどに小さい高密度多孔質カーボン材料の孔サイズを選択的に拡大する方法である。少なくとも0.6g/cmの密度、ベンゼン吸収によって測定される少なくとも0.45cm/gの比細孔体積を有し、細孔の少なくとも20%が10A未満のサイズの孔サイズ分布を有する多孔質カーボン材料に対して本発明の方法が用いられる。前駆体カーボン材料は、典型的には800m/gよりも大きい比表面積を有している。本発明の方法では、前駆体材料がモレキュラー・シーブとして機能するような液体酸化剤を使用する。かかる酸化剤としては水が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、マイクロポーラス・カーボン(または細孔性カーボン、microporous carbon)およびその調製方法に関する。より詳細には、電気二重層キャパシターのための炭質電極材料であって、体積当たりのキャパシタンス(または電気容量)が大きく、抵抗が小さく、また、かさ密度が適度に大きい炭質電極材料を調製する方法に本発明は関係している。炭質材料は、好ましくは、鉱物の炭化物(または鉱物カーバイド)に由来したカーボン前駆体を熱化学的に炭化させた後に化学的処理に付すことによって製造される。
【0002】
発明の背景
ウルトラキャパシターまたはスーパーキャパシターと呼ばれる電気二重層キャパシター(EDLC)およびその構成要素の開発が幅広く行われている。良好なスーパーキャパシターにとって、一対の分極性電極が重要であること、より正確に言えば、電解質イオンの収着挙動が高い炭質電極材料が重要であることが分かってきた。炭質材料のかさ密度を大きく維持しながら、電気化学的に活性を有する面をどのように増加させるのかという課題が一般的に存在する。
【0003】
EDLC用として広く知られたカーボン材料(いわゆる活性炭材料)は、有機基材(樹脂、タールなど)を炭化して得られる炭質材料を酸化して得られる。電気化学的に活性を有するカーボン材料(または炭素材料)の収量(または収率)ならびに空隙率(または多孔率)および密度などの構造的特性は、炭質原料の性質および特性に大きく依存する。更に、電気二重層容量は、孔内に存在するイオンの吸着相互作用に強く依存するので、孔サイズと有効イオン径との間の関係によって炭質電極の比EDLキャパシタンスが決められることが知られている(Salitraら、J.Electrochem.Soc. 147(2000)、2486)。米国特許第6043183号および同6060424号には、二重層エネルギー貯蔵デバイスに使用される、出力密度およびエネルギー密度が大きいカーボンを製造することについて記載がある。従来技術においては、カーボンの高い出力密度は2.0〜50.0nmのメソポア(またはメソ孔、mesopores)の割合を最大限にすることに関連している一方、高いエネルギー密度は2.0nm未満の孔サイズのマイクロポア(または細孔、micropores)の割合を最大限にすることに関連している。別の米国特許第5965483号には、活性炭と水酸化カリウムとをブレンドして高い温度で加熱することによって、既に活性化したカーボンの0.8〜2.0nmのマイクロポーラスの割合を増加する方法が記載されている。
【0004】
IUPACで推奨される孔の分類では、2〜50nmの範囲の直径を有する孔はメソポアとされ、2.0nm未満の直径を有する孔はマイクロポア(または細孔)とされる。
【0005】
一様なマイクロポーラス構造および狭い孔サイズ分布によってカーボン材料が特徴付けられる場合では、個々の分極性電極は、電解質溶液から生じる種々の量の正電荷を帯びているイオンおよび負電荷を帯びているイオンを最も吸収することができる。大抵の市販の有機電解質では、カチオン(アンモニウム、ホスホニウム、イミダゾリウム等)は、アニオン(BF、PF等)よりもサイズが大きいので、負電荷を帯びている電極は、通常、電気二重層キャパシターの性能を制限している。米国特許出願No.2002/0097549号では、EDLCの正電荷を帯びている電極および負電荷を帯びている電極に対して、種々の孔サイズを有した活性炭を適用している。
【0006】
従って、マイクロポーラス・カーボンの特定のイオン容量が増加し、それによって、マイクロポーラス・カーボンから成る1つの電極または2つの電極を有して成るEDLCのエネルギー密度が増加するように、カーボンの細孔サイズ分布を改良することが本発明の目的である。
【0007】
炭質材料を後処理(例えば、活性化、酸化、孔変性と呼ばれる後処理)に付して、カーボン基材の空隙率(または細孔率)を増加および/または高めることは、常套的には、液体の化学活性化剤(アルカリ金属水酸化物、炭酸塩、硫酸およびリン酸の誘導体、ならびにそれらの混合物等)を侵み込ませた炭質材料を加熱することによって行われる。かかる方法の不利益な点は、反応の副生成物をカーボンから洗い流すことが困難なことである。より便利な方法としては、ガス状の酸化剤を用いた酸化によってカーボンの孔サイズを調整する方法がある。常套の酸化剤は、水蒸気、二酸化炭素、または、それらとキャリヤーガス(窒素、アルゴンまたはヘリウム)との混合物を含んで成る。酸化によって孔が形成され、炭質材料の表面積が増加することになる。電解質溶液中のカーボンに対して電気化学的な性能を最大限にする最適な反応/活性化が存在する。しかしながら、そのような手法で活性化したカーボン材料では、基材が相当に損失してしまい、30〜50重量%を通常超えるほど損失してしまう点が不利益である。酸化剤分子のカーボン粒子内部への制限的な拡散によって、望ましくない多量のカーボン材料の損失がもたらされる。酸化反応温度では、ガス状の酸化剤が、カーボン粒子の中心へと浸透することなく、カーボン粒子の表面層で炭素原子と相互作用しやすい。
【0008】
本発明の更なる目的は、質量損失を最小限にしつつ、1.0nm未満のサイズの細孔のカーボンを特に酸化させることによってマイクロポーラス・カーボンの孔サイズ分布を改良することである。
【0009】
更に、本発明のもう1つの目的は、孔サイズ分布が狭くなるように改良されたカーボンを提供することである。
【0010】
発明の要旨
マイクロポーラス・カーボン材料の所定サイズより小さいサイズの細孔(またはマイクロポアもしくはミクロポア)を拡大する方法であって、
拡大すべき細孔内に分子が吸収される高温で酸化剤として作用する液体試薬を選択すること、
前記液体試薬をマイクロポーラス・カーボン材料に含浸させること、また
その後、前記液体試薬についての酸化温度より高い温度にまでマイクロポーラス・カーボン材料を加熱すること
を含んで成る方法を用いることによって、本発明の上述の目的が達成される。
【0011】
好ましい態様において、使用される多孔質カーボン材料(またはマイクロポーラス・カーボン)は、少なくとも0.6g/cmのかさ密度、および、ベンゼン吸収によって測定される少なくとも0.45cm/gの比細孔体積(microporosity)を有し、細孔の少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%が、1nm未満のサイズである孔サイズ分布を有し、また、800m/gよりも大きい比表面積、より好ましくは1000m/gよりも大きい比表面積を有している。かかる場合、液体試薬は水である。マイクロポーラス・カーボン材料は、金属カーバイドまたは半金属カーバイド(もしくはメタロイド・カーバイド)をハロゲン化することによって形成された細孔を有するカーボン粉末材料であることが好ましい。有利には、試薬の液相の沸点で液体試薬をマイクロポーラス・カーボン材料に浸み込ませた(または試薬をマイクロポーラス・カーボンに飽和するまで充填させた)後、そのマイクロポーラス・カーボン材料を不活性ガス雰囲気下で800〜1200℃、好ましくは900℃で加熱することによって、マイクロポーラス・カーボン材料の含浸を実施する。
【0012】
また、少なくとも0.6g/cmのかさ密度および1000〜2200m/gの比表面積、および、密度汎関数理論に基づいて0.75〜2.1nmの孔サイズ範囲に最大ピークを示す孔サイズによる相対的な比表面積(relative specific surface area)を有するマイクロポーラス・カーボン材料であって、全表面積の少なくとも85%がピーク孔サイズの2倍未満のサイズを有する孔に起因し、全表面積の10%未満が0.65nm未満のサイズを有する孔に起因するマイクロポーラス・カーボン材料にも本発明は関係している。
【0013】
好ましい態様において、全表面積の1%未満は、0.6nm未満のサイズを有する孔に起因する。
【0014】
好ましい態様の説明
本発明の新規な点は、液体酸化剤に対して、マイクロポーラス・カーボンをモレキュラー・シーブとして用いているため、液体酸化剤がメソポアおよびマクロポア(またはマクロ孔、macropore)内ではなくマイクロポア内でカーボンと相互作用する点である。高い温度では、液体酸化剤は、不活性ガスの流れでカーボンから除去されるガス状反応生成物を生じる。
【0015】
酸化剤を予め含浸させたマイクロポーラス・カーボンの酸化熱処理によって、孔特性が改良されたカーボン材料が生じる。かかる改良された孔特性に起因して、カーボン材料が、EDLCに使用される際に、既知の活性炭材料よりも適したカーボン材料となる。
【0016】
改良された特性には以下の事項が含まれる:
1)カーボンの比キャパシタンスの増加
2)カーボンの輸送可能エネルギー密度の増加
3)カーボンの電気抵抗の減少。
【0017】
本発明は、約1nmの支配的な孔サイズを有するマイクロポーラス・カーボン(細孔性の程度がより高いカーボン)を製造する方法を提供する。より正確に言えば、珪素カーバイド(炭化ケイ素)およびチタンカーバイド(炭化チタン)を用いた場合では小さい細孔の間隔が0.6〜0.9nmにて最大の孔サイズ・ピークを有するカーボンであり、Mo2CまたはB4Cなどのカーバイドを用いた場合では1.9〜2.2nmと大きい細孔間隔に孔サイズのピークを有するカーボンであり、また、例えばTiCl−x(0.5<x<1.0)などの非化学量論的な金属カーバイドを使用することによって0.75〜2.1とより広い間隔を有するように調製された多くのカーボンである。対応する化学反応は、以下の一般式で表される:
C+yz/2X→C+yMX
式中、下付き文字は化学量論定数であり、Xはハロゲン(好ましくは塩素)に相当し、Mは金属または準金属、例えばTi、Si、Bまたはアルミニウムを表している。マイクロポーラス・アモルファスカーボンが生じる反応温度は、前駆体カーバイドに依存しており、400〜1100℃の範囲である。上記のカーバイドから得られるマイクロポーラス・カーボンの典型的なX線回折スペクトルを図1に示す。2θが44°付近におけるグラファイト002の回折ピークが大きくないため、カーボンに長く広がる構造があまり存在しないことが分かる。
【0018】
カーボンの細孔の支配的なサイズは、前駆体カーバイド(即ち、カーバイド結晶格子の炭素原子の相互の位置および距離)によって特に決定される。カーボンの伝導率(または導電率)は、カーボン粒子における、グラフェン・シートのサイズおよび形状に特に依存する。石墨カーボンと不規則なアモルファスカーボンとの比は、ハロゲン化条件(温度および触媒成分)によって特に制御することができる。より正確に言えば、アモルファスカーボンの微小石墨領域(micrographitic domain)は、アモルファスカーボン形成に必要とされる反応温度よりも僅かに高い反応温度で形成されるか、または、触媒(例えば、鉄のサブグループの金属など)を反応媒体中で用いることによって形成される。関連する金属カーバイドまたは準金属カーバイドを塩素化することによって形成される典型的なマイクロポーラス・アモルファスカーボンは、0.75〜2.1nmの間隔に孔サイズの最大ピークを有している。メソポア(2nmよりも大きい孔)が驚く程に少ないので、孔サイズ分布は、大きいサイズになる。孔の少なくとも85%(全表面積基準)は、特に反応する金属カーバイドまたは準金属カーバイドの孔サイズの最大ピークの2倍未満のサイズを有することが確認された(例えば図2参照)。ピーク・サイズよりもずっと小さい孔に対する孔分布のテール部分(またはすそ)は、測定される比表面積に相当に寄与するものの、かかる孔では、バッテリーまたはキャパシターで使用される市販の電解質イオンがアクセスできない。従って、このような小さい孔は、バッテリーまたはキャパシターの性能に寄与しない。かかるカーボン電極の性能を最適化するために、最も小さいサイズの孔を示すテール部を減じる必要がある。本発明では、酸化反応の開始に必要とされる温度よりも低い温度にて液相で細孔に酸化剤を充填することによって、カーボンでの電気化学的に活性を有する細孔の割合を増加させている。酸化剤として水を使用した場合、カーボン粉末の液相処理は、カーボン粒子が沈殿するまで沸騰水中で行われる。酸化液体(例えば、硝酸、硝酸アンモニウムおよび過酸化水素)が生じるような他のガス状生成物を用いてもよい。真空充填または加圧充填などの他の含浸法(または飽和法)を用いてもよい。次いで、乾燥カーボンに対して略100〜200%(重量%)の酸化液体を有して成る湿ったカーボン・スラリーは、不活性ガス雰囲気で酸化温度にまで加熱されることによって、全ての粒子で細孔が穏やかに広がったカーボン材料が得られることになる。種々の酸化法を体系的に調べることによって以下の結論が導かれた。
【0019】
マイクロポーラス前駆体カーボンを水によって酸化することによって、0.7nm未満の直径を有する最も小さい孔の割合が相当に減じられる。かかる効果は、液体酸化剤を予め浸み込ませた後にアルゴン流れで酸化させたカーボンでみられ、また、ガス状酸化剤の流れで長期の酸化を受けたカーボンでもみられる(図2および図3参照)。これらカーボン材料の孔サイズ分布の大きな違いは、0.8nmよりも大きい孔サイズで見ることができる。水を浸み込ませたカーボン材料の加熱がアルゴン雰囲気下の酸化温度で実施される場合、約1.0nmの細孔の割合が、水蒸気流れで酸化させたカーボンの場合のよりも10〜20%大きくなる。流れを用いた方法は、内部の細孔に影響を及ぼすのに、より長い時間が必要である。そのため、粒子の表面が過剰に酸化され、不必要な質量損失を伴う。
【0020】
孔体積データと比表面積との比較を表1に示す。表1では、TiCに由来するカーボン材料(サンプル1a〜1cおよび3a〜3c)の場合、本発明の酸化処理(より正確には水を含浸させたカーボンの900℃での加熱処理)によって、個々の値が前駆体カーボンの場合よりも僅かに増加した。水蒸気を反対方向に流した比較例の酸化では、孔体積が相当に増加することになる。これらの結果は、表1に示すように酸化されたカーボン材料の損失量よって十分にサポートされる。本発明の酸化法の利点は、表2に示す特定の物理的かつ電気化学的データから十分に分かる。種々の前駆体カーボンを用いた幾つかの試験シリーズを参照すると、液体試薬を予め含浸させる本発明の酸化処理は、ガス状酸化剤流れでの比較例の処理の場合よりも、多孔性に影響を与え、結果的に、個々の電極のかさ密度に影響を与えることは明らかである。更に、含浸させる法では前駆体カーボンの多孔性は変化しないが、主として、電解質溶液のカチオンがより好ましく吸収されるように孔サイズを改良することによって、負の電位値で比キャパシタンスが向上することは明らかである(表2には、−1.4VにおけるEISキャパシタンスが示されている)。
【0021】
上述の方法で変化させた孔を有するカーボンでは、密度汎関数理論に基づいた孔サイズによって規定される全ての比表面積の10%未満が、0.65nm未満のサイズの孔に起因しており、全ての比表面積の1%未満が0.6nm未満のサイズの孔に起因する。
【0022】
酸化に先立って液相で含浸させる手法に起因した効果の驚くべき効果は、0.7〜0.8nm未満の孔を有して成り、水分子に対して「モレキュラー・シーブ」として振る舞うマイクロポーラス・カーボンによって説明することができる。有機溶剤から水分を除去するのに使用される、又は、ガスを乾燥させるのに使用される常套の水用シーブは、0.3〜1.0nmの孔を通常有して成る。0.3〜0.5nmの孔から成るモレキュラー・シーブは、水分子をより吸収するものの、0.5〜1.0nmの孔を有して成るシーブは、より容易に再生できる(例えば、高い温度で乾燥させる)ので実用化にしばしば好ましい。含浸の間でより大きい細孔に吸着された水は、湿ったカーボン・スラリーを加温する間で蒸発し易くなるので、小さい細孔に吸収された分子が酸化反応に優先的に供されることになる。小さい細孔のモレキュラー・シーブ効果は、特に、以下の比較例によって確認された:
工程1) アルゴン流れで900℃で熱処理する前に沸騰水に1時間カーボンを含浸処理に付した;
工程2) 同様の方法で含浸処理および熱処理を繰り返し行った;また
工程3) 熱処理の前のカーボンの含浸処理を長くした(5〜6時間)。
カーボンの孔サイズ分布および電気化学的性質に関する効果が、最初の工程1)のカーボン処理の後で確認された場合、工程2)および工程3)の処理後では、更なる変化がみられなかった。しかしながら、上述のように吸収された水分子によって酸化されたカーボンを用いる機会は存在しており、サイズが幾分より大きい極性分子を有する別の液体試薬であって、かかるカーボンの拡大された細孔によって吸収され得る液体試薬に対しては更なるシーブ効果が得られることになる。従って、分解温度よりも低い沸点を有する第2液体試薬であって、カーボンを酸化させる少なくとも1種類の成分を含んで成る揮発性生成物へと分解する第2液体試薬を用いて、水を用いた上述の方法で拡大された細孔を有するカーボンに対して含浸を行うと、細孔サイズを更に調整することができる。
【0023】
表1について
BETは種々のカーボン材料(1〜5)のBET式に基づいた比表面積であり、Wは、種々のカーボン材料(1〜5)のベンゼン収着に基づいた孔体積であり、Vtotは、種々の材料(1〜5)の窒素収着に基づいた孔体積である。サンプル表記「a」は前駆体カーボンを表しており、サンプル表記「b」は本発明の方法による処理を表しており、また、サンプル表記「c」は比較例のガス流れによる酸化を表している。最後の欄は、酸化処理の間で損失したカーボンの割合を示している。
【表1】

【0024】
表2について
1MのTEMA/AN電解質中で測定された種々の前駆体、本発明のカーボン材料および比較例のカーボン材料から得られる電極のかさ密度、厚さおよび比キャパシタンスが示される。サンプル表記「a」は前駆体カーボンを表しており、サンプル表記「b」は本発明の方法による処理を表しており、また、サンプル表記「c」は比較例のガス流れによる酸化を表している。
【表2】

【0025】
本発明の方法によって供される利益の1つは、酸化反応の開始前にマイクロポーラス・カーボン材料に酸化剤を予め浸み込ませておくことによって、電解質イオンの収着挙動がより優れる非常に狭い孔サイズ分布を有したカーボンが生じることである。本発明の方法のもう1つの利点は、酸化ガスまたは酸化蒸気の外部流れを用いていないことである。それゆえ、カーボン粒子の表面層の望ましくないバルク酸化が回避され、電極カーボン材料の収率(または収量)は、高い温度にてガス/蒸気雰囲気下で酸化させる常套的なカーボン活性化プロセスで得られる電極カーボン材料の収率(または収量)よりも相当に高くなっている。伝導性があり多孔性の程度が高いマイクロポーラス・カーボン材料のかさ密度が酸化プロセスの間で僅かにしか減らないことも重要な利点である。実際、電極の高い密度は、スーパーキャパシターの高い容量電気化学的特性(volumetric electrochemical characteristic)にとって重要である。
【0026】
全てのデバイスの正電荷を帯びる電極がTiCから成る前駆体カーボン1aから構成されるように、略1000Fのスーパーキャパシターを製造した。SC348、SC432およびSC420の負電荷を帯びる電極は、それぞれ、前駆体カーボン(1a)、本発明のカーボン(1b)および比較例のカーボン(1c)から構成した。表3および図5のラゴーン・プロット(Ragone plot)から分かるように、本発明のカーボンから成る負電荷を帯びる電極が含まれるキャパシターは、実用化の点で大きな利点を有する。例えば、図5に示される「10秒」および「5秒」というようなパラメーターは、自動車用途において実益がある。
【0027】
表3について
表3は本発明の試作の電気二重層キャパシターの電気化学的性能*の実施例である。
【表3】

【0028】
実施例1:チタンカーバイドの微粉末からマイクロポーラス前駆体カーボン材料を調製するための典型的な手法
1.3〜3ミクロンの平均粒子サイズを有するチタンカーバイド(H.C.Starck社、グレードC.A.、300g)を石英ロータリーキルン・リアクター内に仕込み、塩素ガスの流れ(99.999%の含有率)と950℃で4時間反応させた。塩素ガスの流速は、1.6l/分であり、リアクター・チューブ(または反応管)の回転速度は2.5rpm未満であった。副生成物TiClは、過剰な塩素のストリームによって除去して、水冷コンデンサーを通して収集器へと導いた。次いで、過剰な塩素およびカーボンに起因したガス状副生成物の残留物を除去するために、アルゴン(0.5l/分)を用いて1000℃で1時間リアクターをフラッシングした。加熱および冷却の間では、リアクターはアルゴンの遅いストリーム(0.5l/分)でフラッシングした。得られるカーボン粉末(47.6g)を石英固定床リアクター内に導いて、800℃で2.5時間水素ガスで処理し、カーボン材料から塩素をかなり除去した。加熱および冷却の間で、リアクターをアルゴンの遅いストリーム(0.3l/分)でフラッシングした。カーボン材料1aの最終的な収量は、45.6g(理論的には収率75.9%)であった。
【0029】
実施例2:実施例1のカーボンの細孔を変化させた本発明のカーボン材料
還流冷却器を備えた丸底フラスコ内の250mlの水中において、実施例1のカーボン粉末(39g)を2時間煮沸した。その後、濾過してカーボン1g当たり水を約2g含んだペーストを石英リアクター容器に入れ、チューブ炉(または環状炉)によって加熱された水平の石英リアクター内に仕込んだ。次いで、0.6l/分の流速でアルゴンをリアクターを通るように流し、1分間に15°となる加熱勾配で炉を900℃まで加熱した。900℃でのカーボンの加熱は、アルゴン流れの中で2時間行われた。その後、リアクターを室温までゆっくりと冷却した。その結果、調製されたカーボン1bの収量は37.5g(収率96%)であった。
【0030】
実施例3:実施例1のカーボンをガス相で酸化させることによって得られた比較例のカーボン材料
実施例1のカーボン粉末(40g)を石英リアクター容器に入れ、チューブ炉によって加熱された水平の石英リアクター内に仕込んだ。その後、リアクターをアルゴンでフラッシングして空気を除去した後、1分間に15°となる加熱勾配で炉を900℃まで加熱した。その後、0.8l/分の流速でアルゴンを、75〜80℃にまで加熱された蒸留水を通し、得られたアルゴン/水蒸気混合物(アルゴン/水蒸気の体積比は約10/9)を2.5時間900℃でカーボンと接触させた。次いで、アルゴンを用いてリアクターを900℃で更に1時間フラッシングすることによってカーボン表面の活性化を終了させた。その後、リアクターを室温までゆっくりと冷却した。その結果、調製されたカーボン1cの収量は28g(収率70%)となった。
【0031】
実施例4:シリコンカーバイドからマイクロポーラス前駆体カーボン材料の典型的な合成
1ミクロンの平均粒子サイズを有するシリコンカーバイド(H.C.Starck社、ロット3481、60.2g)を石英ロータリーキルン・リアクター内に仕込み、塩素ガスの流れ(99.999%の含有率)と1100℃で3.5時間反応させた。塩素ガスの流速は、1l/分であり、リアクター・チューブの回転速度は2.5rpm未満であった。副生成物SiClは、過剰な塩素のストリームによって除去して、水冷コンデンサーを通して収集器へと導いた。次いで、過剰な塩素およびカーボンに起因したガス状副生成物の残留物を除去するために、アルゴン(0.5l/分)を用いて1100℃で1時間リアクターをフラッシングした。加熱および冷却の間で、リアクターをアルゴンの遅いストリーム(0.5l/分)でフラッシングした。カーボン材料2aの収量は、18g(理論的には収率99.4%)であった。
【0032】
実施例5
実施例4のカーボン粉末(6g)を実施例2と同様に処理した。その結果、調製されたカーボン2bの収量は5g(収率83%)であった。
【0033】
実施例6
実施例4のカーボン粉末(15g)を実施例3と同様に処理した。その結果、調製されたカーボン2cの収量は7.9g(52.7%)であった。
【0034】
実施例7:流動床にてチタンカーバイドからマイクロポーラス前駆体カーボン材料の典型的な調製
70ミクロンの平均粒子サイズを有するチタンカーバイド(Pacific Particulate Materials社、ロット10310564、1000g)を流動床リアクター(または流動層リアクター)内に仕込み、塩素ガスの流れ(99.999%の含有率)と950℃で4時間反応させた。塩素ガスの流速は、10l/分あった。副生成物TiClは、過剰な塩素のストリームによって除去して、水冷コンデンサーを通して収集器へと導いた。次いで、過剰な塩素およびカーボンに起因したガス状副生成物の残留物を除去するために、アルゴン(5l/分)を用いて1000℃で0.5時間リアクターをフラッシングした。加熱および冷却の間では、リアクターはアルゴンのストリーム(5l/分)でフラッシングした。得られるカーボン粉末(190g)を石英固定床リアクター内に導いて、800℃で2.5時間水素ガスで処理し、カーボン材料から塩素をかなり除去した。加熱および冷却の間では、リアクターはアルゴンの遅いストリーム(0.3l/分)でフラッシングした。カーボン材料3aの最終的な収量は180g(理論的には収率90%)であった。カーボン粉末は、電極製造の前に粉砕した。
【0035】
実施例8
実施例7のカーボン粉末(30.3g)を実施例2と同様に処理した。その結果、調製されたカーボン3bの収量が25.7g(収率85%)であった。
【0036】
実施例9
1時間長く酸化を実施したこと以外は実施例3と同様に、実施例7のカーボン粉末(5.2g)を粉砕および処理した。その結果、調製されたカーボン3cの収量は3.2g(収率61%)であった。
【0037】
実施例10:触媒で塩素化を助力することによるチタンカーバイドからマイクロポーラス前駆体カーボン材料の調製
室温において、1.3〜3ミクロンの平均粒子サイズを有するチタンカーバイド(H.C.Starck社、グレードC.A.、250g)を、エタノール中で塩化コバルト(II)および塩化ニッケル(II)の溶液と十分に混合させた。最終的には、カーバイド1g当たり塩化コバルト(II)および塩化ニッケル(II)は各々16mg含まれていた。混合後、エタノールを蒸発させた。乾燥させた反応混合物を、石英ロータリーキルン・リアクター内に仕込み、塩素ガスの流れ(99.999%の含有率)と500℃で4.5時間反応させた。塩素ガスの流速は、1.6l/分であり、リアクター・チューブの回転速度は2.5rpm未満であった。副生成物は、過剰な塩素のストリームによって除去して、水冷コンデンサーを通して収集器へと導いた。次いで、過剰な塩素およびカーボンに起因したガス状副生成物の残留物を除去するために、アルゴン(0.5l/分)を用いて1050℃で1時間リアクターをフラッシングした。加熱および冷却の間では、リアクターをアルゴンの遅いストリーム(0.5l/分)でフラッシングした。得られるカーボン粉末(49g)を石英固定床リアクター内に導いて、800℃で3時間水素ガスで処理し、カーボン材料から塩素をかなり除去した。加熱および冷却の間で、リアクターをアルゴンの遅いストリーム(0.3l/分)でフラッシングした。カーボン材料4aの最終的な収量は、46g(理論的には収率91%)となった。
【0038】
実施例11
実施例10のカーボン粉末(10.1g)を実施例2と同様に処理した。その結果、調製されたカーボン4bの収量は4.7g(収率46%)であった。
【0039】
実施例12
1時間長く酸化を実施したこと以外は実施例3と同様に、実施例10のカーボン粉末(10g)を処理した。その結果、調製されたカーボン4cの収量は3.5g(収率35%)であった。
【0040】
実施例13
更なる処理および電極製造の前に、活性化カーボンクロス(Chemvironm、FM-1/250)を微粉末(サンプルNo.5a)になるように粉砕した。
【0041】
実施例14
実施例13のカーボン粉末(3.3g)を実施例2と同様に処理した。その結果、調製されたカーボン5bの収量は2.4g(収率73%)であった。
【0042】
実施例15
更なる処理および電極製造の前に、活性化カーボン・ペレット(Chemviron、WS45)を微粉末(サンプルNo.6)となるように粉砕した。
【0043】
実施例16
実施例15のカーボン粉末(5.8g)を実施例2と同様に処理した。その結果、調製されたカーボン6bの収量は5.1g(収率88%)であった。
【0044】
本発明のカーボン材料の特性
ジェミニ・ソープトメーター2375(Micromeritics)を用いて、低温窒素収着実験を実施した。窒素の相対圧力(P/P)が0.2となるまで、BET理論に基づいてカーボン材料の比表面積を計算した。孔の全体積は、0.95の相対圧力(P/P)での窒素吸着から求めた。密度汎関数理論に従って、吸着特性から孔サイズ分布を求めた。
【0045】
適切な時間にて、常圧・室温条件下のベンゼン蒸気中のカーボン・サンプルをコンピューター制御下で計量することによって、ベンゼン蒸気の吸着動力学(adsorption dyanmics)を室温で調べた。上述の条件下にてベンゼンを吸着した孔の体積は以下の式に基づいて計算した。
=(m−m)/m・dC6H6[cm・g−1
式中、mおよびmは、それぞれ試験サンプルの最初の重量および最後の重量であり、dC6H6は室温でのベンゼンの密度である。
【0046】
電極の調製方法
カーボン粉末(10g)をエタノール中で攪拌し、5分間0℃未満に維持した。次いで、得られるスラリーに対して6重量%のPTFE(水中で60%の懸濁液)を加えて、十分に混合した後、穏やかに加圧した。この際、湿ったケークが形成されるまで加圧した。その後、エタノールを蒸発させた。次いで、ヘプタンをケークに含浸させた後、ケークを円筒形状に成形して、当該円筒形の軸方向に成形体を回転させることによってケークを押し出した。このような操作を弾性特性が現れるまで繰り返した。最終的には、ヘプタンを75°未満で除去し、押し出されたケークを所望の厚さ(好ましくは100〜115ミクロン)となるようにステップ状に転がし、170℃の真空下で乾燥させた。そして、プラズマ活性化物理蒸着によって、4±1ミクロンのアルミニウム層で、かかるケークを一方の側面からプレート化した。
【0047】
カーボン材料の電気化学的評価
FRAアナライザーを備えたソーラートロン・ポテンシオスタット1287(Solartron potentiostat)を用いて、3つの電極を有する電気化学セルで電気化学的試験を実施した。電気化学的実験は、アセトニトリル(AN)中に1.0Mのホウフッ化トリエチルメチルアンモニウム(TEMA:Triethylmethylammonium tetrafluoroborate)を含んで成る電解液中で行った。実験の間、電解液はアルゴンで脱ガス化した。一定の電圧(CV)、一定の電流(CV)およびインピーダンス(EIS)を用いて実験を行った。理想的な分極率の領域が、(SCEに対して)−1.5V〜+1.5Vで観測された。負電荷および正電荷を帯びる電極材料の放電容量は、CVプロットおよびCCプロットから求めた。EIS測定は、AC5mV、DC電位−1.4Vおよび+1.4Vにて行った。EISキャパシタンスは、10mHzの周波数において求めた。
【0048】
キャパシターの製造および前処理として行う調製
10ミクロンの厚さの(集電器)のAl薄膜に電極を取り付け、電極をセパレーターと交互に配置する。本実施例では、Codashi Nipponのイオン透過セパレーター・ペーパー(ion−permeable separator paper)を用いた。正電荷を帯びる分極性電極および負電荷を帯びる分極性電極から構成される電極対を並列に接続した。このように調製した電極パッケージを、密封ボックスに配置し、3日間真空下で100℃にて維持し、吸収された全てのガスを除去した。次いで、かかる電極パッケージに対して、アセトニトリル中に0.75Mのホウフッ化トリエチルメチルアンモニウム(TEMA)と0.75Mのホウフッ化テトラエチルアンモニウム(tetraethylammonium tetrafluoroborate)とを含む混合物溶液から成る電解液を含浸させた。このようにして製造した電気二重層キャパシター(EDLC)のセルは、一定の電流条件下にて、1.2〜2.5Vの電圧範囲で繰り返し使用した。
【0049】
スーパーキャパシターの評価
ソーラートロン・ポテンシオスタット1287を用いて、一定の電流(CC)および一定の電圧(CV)で試験を行った。CVプロットからキャパシターの公称電圧を評価した。2.5Vから0Vへと放電させ、式(C=Idt/dE)に従うCCプロットから、スーパーキャパシターのキャパシタンスを求めた。電気化学的インピーダンス分光法(EIS)を用いて、10Hzの周波数(DC=2.5V;AC=5mV)での直列抵抗を測定した。
【0050】
一定の抵抗の試験モードとし、2.5Vと1.25Vとの間の充電/放電サイクルから、出力、エネルギー性能および個々のラゴーンプロットを求めた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、本発明のカーボン粉末の特性X線回折スペクトルのプロットを示す。
【図2】図2は、表面積の大きいマイクロポーラス・カーボン(実施例1)の孔サイズ分布(密度汎関数理論に基づく)に対する種々の酸化処理の効果を示すグラフである。
【図3】図3は、TiC由来の表面積の大きいマイクロポーラス・カーボン材料の孔サイズ分布(密度汎関数理論に基づく)を示すグラフである。
【図4】図4は、1MのTEMA/アセトニトリル電解質におけるTiC由来のマイクロポーラス・カーボン電極の比細孔体積と単位重量および単位体積当たりのEISキャパシタンスとの依存性を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明のカーボン材料(実施例2のカーボンから得られるカーボン活性電極)の利点を示す「1000F」のパッケージされていないスーパーキャパシターのラゴーンプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロポーラス・カーボン材料において所定サイズより小さいサイズを有する細孔を拡大する方法であって、
拡大すべき細孔内に分子が吸収される高温で酸化剤として作用する液体試薬を選択する工程、
該液体試薬をマイクロポーラス・カーボン材料に含浸させる工程、および
その後、該液体試薬の酸化温度より高い温度にマイクロポーラス・カーボン材料を加熱する工程
を含んで成る方法。
【請求項2】
マイクロポーラス・カーボン材料は、少なくとも0.6g/cmのかさ密度およびベンゼン吸収によって測定される少なくとも0.45cm/gの比細孔体積を有し、また、細孔の少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%が1nm未満のサイズである孔サイズ分布、および、800m/gよりも大きい比表面積、好ましくは1000m/gよりも大きい比表面積を有しており、前記液体試薬が水である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
マイクロポーラス・カーボン材料は、金属カーバイドまたは半金属カーバイドをハロゲン化することによって形成される細孔を有するカーボン粉末材料である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
試薬の液相の沸点で液体試薬をマイクロポーラス・カーボン材料に浸み込ませ、そのマイクロポーラス・カーボン材料を不活性ガス雰囲気下で800〜1200℃、好ましくは900℃にて加熱することによって、マイクロポーラス・カーボン材料の含浸を実施する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
少なくとも0.6g/cmのかさ密度および1000〜2200m/gの比表面積、および、密度汎関数理論に基づいて0.75〜2.1nmの孔サイズ範囲に最大ピークを示す孔サイズによる相対的な比表面積を有するマイクロポーラス・カーボン材料であって、全表面積の少なくとも85%が平均ピーク孔サイズの2倍未満のサイズを有する孔に起因し、全表面積の10%未満が0.65nm未満のサイズを有する孔に起因する、マイクロポーラス・カーボン材料。
【請求項6】
全表面積の1%未満が、0.6nm未満のサイズを有する孔に起因する、請求項5に記載のマイクロポーラス・カーボン材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−513969(P2006−513969A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−571024(P2004−571024)
【出願日】平成15年4月23日(2003.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2003/004202
【国際公開番号】WO2004/094307
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(505393485)エフオーツェー・フランケンブルク・オイル・カンパニー・イスタブリッシュメント (1)
【氏名又は名称原語表記】FOC Frankenburg Oil Company Est.
【Fターム(参考)】