説明

多孔質ガラス繊維成形体及びその製造方法

【課題】 簡単な方法で安価に製造でき、フィルター等の用途に好適な一方向に直線的に並んだ複数の貫通孔を有する多孔質ガラスを提供する。
【解決手段】 複数のガラス繊維又はガラス繊維前駆体、若しくはそのストランドを、一方向に並べて集積し、そのまま又は加圧下で熱処理するか、若しくは加圧成形後に熱処理し、ガラス繊維又はガラス繊維前駆体を相互間の隙間を残して融着させる。得られるガラス繊維成形体は一方向に配列した分岐のない複数のストロー状貫通孔を有し、その開孔径を10μm以下とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ガラスに関するものであり、特に一方向に配列した貫通孔を有する多孔質ガラス繊維成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている多孔質ガラスは、ガラスの分相現象を利用して製造されている。例えば、ホウケイ酸ガラスを500〜650℃で加熱するとNaO−B相とSiOリッチ相の2相に分相する。この分相ガラスを酸でエッチングすると、NaO−B相が溶出し、SiOリッチ相が残って多孔質ガラスが得られる。
【0003】
しかし、この分相現象を利用して製造される従来の多孔質ガラスは、分相工程とエッチング工程などを含むため製造工程が極めて複雑であるうえ、NaO−B相の溶出した部分が細孔となるため、細孔の形状を制御することはできなかった。従って、フィルター等の用途には複数の貫通孔が同じ方向に直線的に並んだ構造が有利であるが、このような一方向に直線的に並んだ複数の貫通孔を有する多孔質ガラスを製造することはできなかった。
【0004】
一方、特開平11−139887号公報には、酸化アルミニウム、窒化ケイ素及び炭化ケイ素などのセラミックスについて、一方向に並んだ貫通孔を形成する方法が提案されている。この方法によれば、セラミックス粉末を線状に押出成形したものを集積し、圧縮成型することにより相互間の隙間に由来する貫通孔を有する前駆体を得た後、これを焼結することによって、一方向に並んだ貫通孔を有する多孔質セラミックスが得られる。
【0005】
しかしながら、この方法は対象がセラミックスであるため、線状の粉末成形体を得るための押出成形や、前駆体を得るための圧縮成型などを含む複雑な工程を必要とし、極めて煩雑で且つ生産効率も低いという問題があった。また、前駆体の焼結のために1000℃を超える高温で焼結する必要があるなど、エネルギー消費の点でも不利であった。尚、セラミックスの繊維や粒子を原料とする多孔質の焼結体も知られているが、ランダムな構造のため一方向に並んだ貫通孔を得ることは不可能であった。
【0006】
【特許文献1】特開平11−139887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、簡単な方法により安価に製造することができ、特にフィルター等の用途に好適な一方向に直線的に並んだ複数の貫通孔を有する多孔質ガラス、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、複数のガラス繊維が互いに融着してなり、一方向に配列した分岐のない複数のストロー状貫通孔を有することを特徴とする多孔質ガラス繊維成形体を提供するものである。この本発明の多孔質ガラス繊維成形体においては、前記ストロー状貫通孔の開孔径は10μm以下とすることができる。
【0009】
また、本発明が提供する上記多孔質ガラス繊維成形体の製造方法は、複数のガラス繊維又はガラス繊維前駆体をその軸方向に沿わせて集積し、そのまま又は加圧下で熱処理するか、若しくは加圧成形後に熱処理して、ガラス繊維を融着させ又はガラス繊維前駆体をガラス化と共に融着させることを特徴とする。この本発明の多孔質ガラス繊維成形体の製造方法においては、前記ガラス繊維又はガラス繊維前駆体を芯材に巻き付けて集積することができる。また、前記ガラス繊維又はガラス繊維前駆体はストランドであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来の分相現象を利用した多孔質ガラスと異なり、一方向に並んだ複数の貫通孔を有する多孔質ガラスが得られ、しかもその貫通孔の開孔径や密度等を制御することも可能である。また、その製造方法もガラスの融着を利用するだけであるから極めて簡単であり、且つセラミックスの焼結に比べて低温で処理できる利点がある。従って、本発明による多孔質ガラス繊維成形体は、簡単な方法により安価に製造することができ、一方向に並んだ複数の貫通孔を有するものであって、特にフィルター等の用途に好適なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の多孔質ガラス繊維成形体の製造方法は、ガラス繊維又はガラス繊維前駆体を原料とし、これらを軸方向に沿わせて集積する第1の工程と、得られた集積物をそのまま又は加圧下で熱処理するか、若しくは加圧成形後に熱処理する第2の工程とからなる。この第2の工程により、集積された複数のガラス繊維は融着し、またガラス繊維前駆体はガラス化すると共に融着する。このとき、隣接するガラス繊維又はガラス化したガラス繊維前駆体は相互間の隙間を残しながら融着して一体化するので、一方向に配列した分岐のない複数のストロー状貫通孔を有する多孔質ガラス繊維成形体が得られる。
【0012】
原料となるガラス繊維としては、その材質に特に制限はなく、例えば、ホウケイ酸ガラス、ケイ酸ガラス、ホウ酸ガラス、リン酸ガラス、ゲルマン酸ガラス、タングステン酸ガラス、モリブデン酸ガラス、テルル酸ガラス、アルミノホウ酸ガラス、フッ化ガラス、フツリン酸ガラス、カルコゲン化ガラスなどであってよい。また、ガラス繊維の製造方法についても制限はなく、溶融法又はプレカーサー法のいずれでもよい。
【0013】
また、ガラス繊維の代わりに、ガラス繊維前駆体を用いることもできる。ガラス繊維前駆体は、ゾル−ゲル法等を利用して製造することができ、例えば、有機又は無機金属化合物の溶液を作製し、その金属化合物の加水分解・重合により、金属酸化物又は水酸化物の微粒子が溶解したゾルを得た後、これを紡糸してゲル状のガラス繊維前駆体を得ることができる。また、これらのガラス繊維又はガラス繊維前駆体は、単繊維を用いてもよいが、集積の容易さを考慮すると単繊維を束ねたストランドを用いることが便利である。
【0014】
ガラス繊維又はガラス繊維前駆体の長さ及び直径は、製造すべき多孔質ガラス繊維成形体の大きさや用途等により適宜定めることができる。例えば、直径の小さいガラス繊維又はガラス繊維前駆体を使用するほど、ストロー状貫通孔の開孔径を簡単に小さくすることができ、そのためには直径10μm以下のガラス繊維又はガラス繊維前駆体を使用することが好ましい。尚、ガラス繊維又はガラス繊維前駆体は、中実のものだけでなく、中空のものも使用可能である。
【0015】
本発明方法の第1の工程においては、上記したガラス繊維又はガラス繊維前駆体を、その軸方向に沿わせて並べ、例えば円柱状や角柱状、円筒状などの形状に集積する。具体的な集積方法としては、有底箱状の型の内部に、多数のガラス繊維又はガラス繊維前駆体を軸方向に沿わせて一方向に充填する方法がある。また、円柱状などの芯材の外周面に沿って、1本又は複数本のガラス繊維又はガラス繊維前駆体を巻き付け、1層又は複数層からなる円筒状に集積することもできる。
【0016】
次の第2の工程では、得られた集積物を熱処理することにより、ガラス繊維を互いに融着させ、又はガラス繊維前駆体をガラス化すると同時に融着させる。その際、集積物中の各ガラス繊維又はガラス繊維前駆体の間が相互に密着している場合はそのまま熱処理してよいが、必ずしも密着していない場合には、集積物を加圧した状態で熱処理するか、若しくは加圧して相互に密着した状態に成形した後に熱処理することが必要である。
【0017】
この第2の工程の熱処理における圧力並びに温度は、使用するガラス繊維やガラス繊維前駆体の組成及び直径等に応じて適宜定めることができる。一般的に、熱処理の温度としては、ガラス繊維が互いに融着し得る温度以上、またガラス繊維前駆体の場合はガラス化すると同時に互いに融着し得る温度以上であることが必要である。しかし、熱処理温度が高すぎるとガラス繊維の形状が失われたり、貫通孔が縮小し又は閉塞したりする危険があるため注意を要する。また、加える圧力についても、同様の注意が必要であり、具体的には200kPa以下とすることが好ましい。
【0018】
上記の第2の工程により、集積された複数のガラス繊維又はガラス繊維前駆体が融着して一体化する。その際、繊維相互間の隙間を残して融着するため、一方向に配列した分岐のない複数のストロー状貫通孔が形成される。ストロー状貫通孔の開孔径は、原料とするガラス繊維等の直径や熱処理時に加える圧力等により制御することが可能であり、好ましくは10μm以下とすることができる。尚、上記第2の工程において、熱処理の際に集積物を軸方向に引き伸ばせば、ストロー状貫通孔の開孔径を更に小さくすることも可能である。
【0019】
熱処理により融着一体化されたガラス繊維成形体は、基本的に集積状態に応じて円柱状や円筒状など各種の形状を呈しているが、複数のストロー状貫通孔が一表面から反対表面まで貫通するように切断して、例えば円筒状の場合は周側面に沿った所定幅を高さ方向に切断することにより、用途に応じた適切な形状と大きさを有する多孔質ガラス繊維成形体とする。また、ストロー状貫通孔は通常はほぼ直線状であるが、多孔質ガラス繊維成形体自体を成形することによって、例えばU字状等に湾曲させることもできる。
【0020】
このようにして製造される本発明の多孔質ガラス繊維成形体は、複数のガラス繊維が互いに融着して構成されたものであり、一方向に配列した分岐のない複数のストロー状貫通孔を有している。従って、この多孔質ガラス繊維成形体は、その一表面から反対表面まで貫通し、開孔径が10μm以下と小さい複数のストロー状貫通孔を有するため、ガスや液体のフィルター等の用途に好適である。
【実施例】
【0021】
直径7μmのガラス繊維を束ねたストランド(外径0.1mm、長さ50mm)を用意した。尚、このガラス繊維の組成は、38重量%B−37重量%SiO−15重量%CaO−10重量%Alであり、ガラス転位点(Tg)は680℃であった。
【0022】
このガラス繊維のストランドを、その軸方向に沿って一方向に並べて集積した後、得られた集積物に軸方向に対し直角な方向から15kPaの圧力を加えながら、780〜800℃で1時間熱処理した。冷却して圧力を解除することにより、複数のガラス繊維が融着して一体化した多孔質ガラス繊維成形体を得ることができた。
【0023】
この多孔質ガラス繊維成形体中には、一表面から反対表面まで貫通し、開孔径が1〜10μmの複数のストロー状貫通孔が形成されていた。また、全てのストロー状貫通孔は分岐がなく、元のガラス繊維の配列方向である一方向にのみ配列していた。
【0024】
尚、熱処理温度を変えた以外は上記と同様に実施したところ、熱処理温度が780℃未満では繊維の多くが融着せず、多孔質ガラス繊維成形体を得ることができなかった。また、熱処理温度が800℃を超えると、多くのストロー状貫通孔が閉塞した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラス繊維が互いに融着してなり、一方向に配列した分岐のない複数のストロー状貫通孔を有することを特徴とする多孔質ガラス繊維成形体。
【請求項2】
前記ストロー状貫通孔の開孔径が10μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質ガラス繊維成形体。
【請求項3】
請求項1又は2の多孔質ガラス繊維成形体の製造方法であって、複数のガラス繊維又はガラス繊維前駆体をその軸方向に沿わせて集積し、そのまま又は加圧下で熱処理するか、若しくは加圧成形後に熱処理して、ガラス繊維を融着させ又はガラス繊維前駆体をガラス化と共に融着させることを特徴とする多孔質ガラス繊維成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス繊維又はガラス繊維前駆体を芯材に巻き付けて集積することを特徴とする、請求項3に記載の多孔質ガラス繊維成形体の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス繊維又はガラス繊維前駆体がストランドであることを特徴とする、請求項3又は4に記載の多孔質ガラス繊維成形体の製造方法。


【公開番号】特開2006−69835(P2006−69835A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−253953(P2004−253953)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(391029509)イソライト工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】