説明

多孔質コークス

ほぼ難黒鉛化であるコークスから得られた多孔質コークス、この多孔質コークスを得るための方法、該多孔質コークスを含有する電気化学的二重層キャパシタのための電極、及び少なくとも1つの該電極を含有する電気化学的二重層キャパシタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的キャパシタのための電極材料として使用されうる、多孔質コークスに関する。
【0002】
電気化学的キャパシタは、電極/電解質境界面での電気的二重層における荷電種の分離によって電気的エネルギーを蓄積する素子である。かかるキャパシタの電極は、広範囲の電圧にわたって、導電性であり、かつ電気化学的に不活性でなければならない。さらに、多数回の充電/放電サイクルにわたってでさえ、電気容量が著しく低下してはならない。
【0003】
US特許6,882,517号は、グラファイトと同様の層状結晶構造を有する微結晶炭素を開示している。その材料は、300m2/g以下の比表面積(窒素吸着法によって測定された)、及び0.360〜0.380nmの範囲における微結晶炭素の中間層距離d002によって特徴付けられる。
【0004】
微結晶炭素材料の調合物は、
(i)グラファイトと同様の層状結晶構造を有する微結晶炭素を含有する原材料を製造する工程、
(ii)不活性ガス雰囲気中で、600〜900℃の温度範囲で、該原材料を熱処理し、そして100℃以下まで冷却する工程、及び
(iii)炭素材料を活性化処理する工程
を含む。
【0005】
前記の活性化は、苛性アルカリと熱処理した炭素原材料とを混合し、そして有利には少なくとも400℃、より有利には少なくとも800℃の温度まで加熱することによって実施されうる。該苛性アルカリは、KOH、NaOH、RbOH、CsOH等、並びに苛性アルカリ(例えばKOH及びNaOH)の混合物を含む。それらの中で、KOHが好ましい。
【0006】
例えば、熱処理した炭素原材料を、1〜4倍に相当する質量比で苛性アルカリと混合し、かつ不活性ガス雰囲気下で、1〜6時間、前記の温度範囲まで加熱する。
【0007】
活性化後に、該アルカリを、水での洗浄、及び蒸気洗浄等によって除去する。さらに、酸での中和、電気化学的処理、超音波処理等を含む他の方法を適用することができる。しかしながら、多数の処理方法を組み合わせる場合に、最終段階において水洗浄を実施することが好ましい。かかる水洗浄は、有利には、廃水のpHが、7に近づくまで続けられる。
【0008】
電気化学的キャパシタのための電極の製造は、当業者に公知である。例えば、シート電極を製造する場合に、炭素電極材料は、約5〜100μmのサイズ範囲まで粉砕され、かつ粒子サイズは調整される。そして、微結晶炭素粉末に導電性を付与するための導電剤、例えばカーボンブラック、及びPTFEのような結合剤を、それらに添加し、そしてその材料を混練する。そして、混練された材料を圧延し、そして延伸してシートの形状にし、炭素電極を得る。導電剤として粉末グラファイト等、及び結合剤としてPVDF、PE、PP等を使用することも可能である。微結晶炭素、導電剤、及び結合剤の配合比は、例えば10:1:0.5から10:0.5:0.25の間で設定される。電気的二重層キャパシタを、微結晶炭素材料、カーボンブラック添加剤及びPTFE結合剤の質量比10:1:0.5での組成物をそれぞれ含有する陽極並びに陰極で組み立てた。その電解質は、プロピレンカーボネート中でテトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウムであった。全てのキャパシタの電気容量を、放電曲線から測定した。該電気容量を、体積比容量(双方の電極の体積によってこの電気容量を分割することによって計算される)として与える。体積比容量約35F/mlを得た。該電気容量の体積エネルギー密度は、約44Wh/lであった。
【0009】
US特許6,882,517号によって、炭素原材料が、グラファイトと同様の層状結晶構造を有することは避けられない。より詳述すれば、原材料炭素は、0.34〜0.35nmの範囲でX線回折法によって測定された中間層距離d002、及びグラファイトの10%に等しい又はそれ以上の002格子面に対応するX線回折ピークの積分強度を有することを必要とする。さらに、炭素原材料を不活性ガス雰囲気中で2800℃の温度まで加熱する場合に、0.337nm以下の中間層距離d002及び80nm以上の結晶サイズLa110が得られることを要求する。従って、原材料は、高い黒鉛化性であることを要求する。この判定基準を満たさない原材料は、所望の結晶構造を呈さないほとんどの炭素材料の比表面積が、非常に高い事実にもかかわらず、劣った電気容量を与えることが見出された。
【0010】
驚くべきことに、容易に黒鉛化されないかかる種類のコークスのアルカリ処理が、電気化学的二重層キャパシタにおいて適用される場合に、高い個々の電極電気容量(160F/gまで)を可能にする、優れた電極材料をもたらすことが見出された。
【0011】
従って、本発明は、ほとんど黒鉛化できない(ほぼ難黒鉛化である)コークスから得られた多孔質コークス、この多孔質コークスを得るための方法、該多孔質コークスを含有する電気化学的二重層キャパシタのための電極、及び少なくとも1つの該電極を含有する電気化学的二重層キャパシタを提供する。
【0012】
本発明の多孔質コークスは、ほとんど黒鉛化できない非焼成コークスを苛性アルカリで処理することによって得られる。従って、本発明は、非焼成されたほとんど黒鉛化できないコークスのアルカリ処理の生成物であり、かつ電気化学的二重層キャパシタのための電極材料として好適である多孔質コークスを提供する。
【0013】
本発明の電気化学的二重層キャパシタは、2つの電極、及び該電極と、非焼成されたほとんど黒鉛化できないコークスのアルカリ処理の生成物である多孔質コークスを含む少なくとも1つの電極との間で構成された電解質を含む。
【0014】
本発明のさらなる特徴、詳細、利点及び変法を、実施例及び図を参照して、以下の詳細な記載において説明する。図は、以下を示す。
図1 水性電解質での、本発明によるキャパシタのサイクリックボルタンモグラム。
図2 有機電解質での、本発明によるキャパシタのサイクリックボルタンモグラム。
図3 本発明によるキャパシタの電気化学的インピーダンススペクトル(周波数の関数としての電気容量)。
図4 本発明のキャパシタのRagoneプロット(出力密度の関数としてのエネルギー密度)。
図5 荷電サイクル数に対する電気容量の依存。
【0015】
本発明において使用されるコークスは、不活性ガス雰囲気下で2200℃を超える熱処理によって非常に低い程度でのみ黒鉛化できる。本発明において使用されるコークスは、ディレードコーキング法からのショットコークス(shot coke)と同様の、その高い等方性の、タマネギ状又は球状の形態によってさらに特徴付けられる。さらにこのコークスは、その高い硬度によって特有である。その多孔率は、非常に低く、非常に小さい比表面積をもたらす。
【0016】
有利には、生コークスは、X線回折法によって測定された0.35nmより大きい中間層距離d200、及び6.5nm未満の見かけの積層高さLcを有する。
【0017】
本発明に好適なコークスは、不飽和炭化水素の合成における反応ガスの急冷において使用される急冷油から得ることができる。該急冷油の一部は、約500℃まで加熱されるコーカーに絶えず導かれる。揮発性物質は、非常に速く揮発し、かつ細粒コークスは、コーカーの底部から抜き取られる。その構成の特殊な方法のために、このコークスは、高い純度(96質量%(炭素)より多い)によって特徴付けられる。それは、灰分(0.05質量%以下)及び鉱物質を有さない。
【0018】
IUPACの定義によって、コークスは、炭化工程の間に、少なくとも一部分、液体又は液晶状態を通過する、有機材料の熱分解によって製造される、元素炭素の含有率において、及び構造的に非グラファイト状態において高い固体である。しかしながら、急冷法中のコークスの急速な形成のために、中間相形成の間に生じることが公知である、芳香性層の予備配向は、ディレードコーキングのようなコーキング方法から公知の範囲を可能にしない。従って、ガス急冷法から得られたこのコークスは、2000℃より高い熱処理によって、非常に低い程度でのみ黒鉛化することができる。実際に、2800℃での熱処理後に、X線回折ピークd002から測定された平均中間層距離c/2は、0.3375nm以上であり、かつc−方向(Lc)における結晶サイズは、35nm未満であり、La110は、60nm未満、有利には50nm未満である。
【0019】
コークスは、未処理の状態でアルカリ処理を受ける。すなわち、該コークスは、アルカリ処理前に焼成されない。焼成は、脱離、燃焼、そして水並びに炭化水素及び水素のような揮発性可燃材料のコークス化をもたらす、1600Kより高い温度範囲における還元雰囲気下での熱処理を意味する。対照的に、900K未満の温度で得られるコークスは、未処理のコークスと言われる。焼成法の割愛によって、本発明のための原材料として使用されるコークスは、揮発性可燃材料の約4質量%を含む。該揮発性可燃材料の約85質量%は、水素、一酸化炭素及びメタンからなり、一方残りは、より高級の及び芳香族炭化水素からなる。コークスの焼成が、必要ではないことは、著しく有利である。それというのもそれは、エネルギー及び時間を節約することが可能だからである。
【0020】
アルカリ処理のために、前記コークスを、有利には粒子サイズ0.4nm未満で提供する。所望された粒子サイズは、生コークスを篩い分け及び/又は研磨するような通常の方法によって得られる。水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウム、又はそれらの水酸化物の混合物のような苛性アルカリを、アルカリ処理において使用する。水酸化物とコークスとの質量比を、3.1〜4.1の間に調整する。コークス及び水酸化物を、均質な、均一な混合物を得るために混合する。そしてこの混合物を、650〜950℃の範囲内の温度で、有利には約850℃で熱処理する。熱処理の継続時間は、有利には0.5〜2時間である。最も有利には、アルカリ処理は、回転釜における連続法で実施される。
【0021】
残留アルカリを除去するために、アルカリ処理したコークスを、脱イオン水又は脱塩水で洗浄する。有利には、残留アルカリを、塩酸又は硫酸で中和することによって、続いて脱イオン水又は脱塩水で複数回洗浄することによって除去する。アルカリ処理及び洗浄による質量損失は、40〜60質量%の範囲内である。
【0022】
前記アルカリ処理は、コークスの粒子サイズのわずかな低減、並びにBET表面及び多孔率の激しい増加をもたらす。本発明による多孔質コークスのBET表面は、2000m2/gより大きい、有利には2400m2/gより大きい。
【0023】
孔サイズ分布の最大は、大きいミクロ孔から小さいメソ孔までの遷移領域、すなわち約2nmである。多孔率に関して、IUPACによって展開された定義が適用される。すなわち、2nmより小さい直径を有する孔は、ミクロ孔と言われ、2〜50nmの直径を有する孔は、メソ孔と言われ、かつ50nmよりも大きい直径を有する孔は、マクロ孔と言われる。キャパシタ材料のために、相関したミクロ孔及びメソ孔のネットワークが所望される。それというのも、ミクロ孔の存在が、電極/電解質境界面を増加し、一方でメソ孔は、イオンとミクロ孔表面とのアクセスを容易にするからである。
【0024】
本発明による多孔質コークは、2200℃より高い熱処理による低い程度でのみ黒鉛化できる生コークス出発材料の固有性を残している。従って、本発明による多孔質コークスは、2800℃での熱処理後に、X線分析によって特徴付けられることができ、その際、X線回折ピークd002から測定された平均中間層距離c/2は、0.338nm以上であり、c−方向(Lc)における結晶サイズは、25nm未満であり、かつLa110は、70nm未満、有利には50nm未満である。
【0025】
本発明の多孔質コークスを接続する電極は、US 6,882,517号において記載され、及び一般に当業者に公知の方法と同様の方法で製造される。
【0026】
有利には、フッ化ポリビニリデン(PVDF)は、結合剤として使用される。電極材料における結合剤の質量分率は、2〜20%の範囲内、有利には約10%である。
【0027】
必要であれば、あらゆる好適な導電性助剤を添加することができる。好適な導電剤は、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンコーン、カーボンナノファイバー、天然グラファイト、膨張したグラファイト、及び粉砕した可撓性グラファイトである。導電性助剤の質量分率は、0〜20質量%、有利には約5質量%である。
【0028】
電気化学的二重層キャパシタは、2つの電極を組み立てることによって得られ、その際、それらの少なくとも1つは、好適な電解質で、本発明の多孔質コークスを含有する。一実施態様において、キャパシタは、対称のキャパシタである。これは、双方の電極が、電荷蓄積材料、適用された結合剤及び導電性助剤の種類並びに量に関して、同一の組成を有することを意味する。代わりに、本発明による多孔質コークスを含有する電極は、本発明の多孔質コークス又は他の電荷蓄積材料を含有する、種々の組成物の好適な電極と合して、対称のキャパシタを形成することができる。
【0029】
好適な電解質は、水性電解質、例えば苛性カリ(例えば6mol/lの濃度で)、及び硫酸(例えば1mol/lの濃度で)、又は非水性の有機電解質、例えば好適な溶剤、例えばアセトニトリル又は炭酸プロピレン中で溶解された、1mol/lの濃度でのテトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウム(TEABF4)である。有機電解質が有利である。それというのも、有機電解質は、より高い充電/放電電圧範囲を可能にし、それらは、水の電気化学的溶解によって制限されないからである。しかしながら、有機電解質の導電性は、水性電解質と比べて低い。
【0030】
かかるキャパシタに関して、重量荷電電流密度100mA/gで、それぞれの電極に関する200F/gより多い重量比容量は、水性酸性電極において得られ、かつ有機電解質におけるそれぞれの電極に関して160F/gより多い。重量比容量は、電極における多孔質コークスの質量によって分類された電気容量である。
【0031】
50〜1000W/kgの範囲内での重量出力密度での2つの電極の組合せに関する重量エネルギー密度(抵抗降下なし)は、水性電解質で3〜5Wh/kg、及び有機電解質で20〜30Wh/kgに達する。
【0032】
水性電解質又は有機電解質におけるキャパシタのサイクリックボルタンモグラム(図1及び2)は、ゆがんだ矩形の形状を有する。これは、電気容量が、主に、電極/電解質境界面における静電法(静電的二重層の充電/放電)に関連する結論を可能にする。理想(単に静電的な)キャパシタに関して、前記形状は、正確に矩形である必要がある。それというのも、その電流は、キャパシタが、経時的に電圧の線形変動によって充電/放電される場合に一定のまま(一定の走査速度)であるからである。矩形の形状からのずれは、キャパシタのオーム直列抵抗に、及び電極/電解質境界面でのファラデー酸化還元法の発生に帰してよい。後者は、アルカリ処理中に形成された、改質された表面官能性に関してよい。
【0033】
電気容量は、充電可能なエネルギー貯蔵のような実用的な適用のために要求されるように、数千回の充電/放電サイクル中で安定なままである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】水性電解質での、本発明によるキャパシタのサイクリックボルタンモグラムを示す図。
【図2】有機電解質での、本発明によるキャパシタのサイクリックボルタンモグラムを示す図。
【図3】本発明によるキャパシタの電気化学的インピーダンススペクトル(周波数の関数としての電気容量)を示す図。
【図4】本発明のキャパシタのRagoneプロット(出力密度の関数としてのエネルギー密度)を示す図。
【図5】荷電サイクル数に対する電気容量の依存を示す図。
【0035】
実施例
実施例において使用されるコークスは、不飽和炭化水素の合成において急冷する重油のために使用される急冷油から得られるタマネギ状構造を有するほとんど黒鉛化できないコークスであった。その特殊な起源のために、該コークスは、優れた純度のものである(表1を参照)。灰分値は、0.01%であった。該コークスのBET表面は、26m2/gであった。
【0036】
【表1】

【0037】
コークスのアルカリ処理を、苛性カリ剤で、850℃の温度で前記のように実施した。処理前の生コークスの粒子サイズは、0.1〜0.4mmであった。最初の実施例において、苛性カリ対コークスの比は、3:1であった。第二の実施例において、苛性カリ対コークスの比は、4:1であった。
【0038】
アルカリ処理及び洗浄後に、実施例1のコークスは、BET表面2440m2/gを有し、かつ実施例2のコークスは、BET表面2657m2/gを有した。双方の材料は、孔サイズ2〜3nmでの孔サイズ分布で、すなわち大きいミクロ孔から小さいメソ孔の遷移領域で、最大値であるミクロ孔であった。前記粒子サイズは、アルカリ処理によって、主に20〜300μmの範囲で、わずかに減少した。粒子サイズの減少は、より高い苛性カリとコークスとの比を有する実施例において有力であった。
【0039】
さらに、出発コークスの試料を、2800℃で熱処理した。2800℃での熱処理を、単に、本発明による方法の一部ではない、コークスの黒鉛化の挙動を研究するために実施した。出発コークスのX線回折データ、2800℃で熱処理したコークス試料、及びアルカリ処理後のコークスを、表2において示した。
【0040】
【表2】

【0041】
電極を製造し、そして対称キャパシタを、前記のように組み立てた。それぞれの電極は、多孔質コークス7gを含有した。PVDFを、結合剤、及び導電性助剤としてのカーボンブラックで使用した。電極組成物(多孔質コークス、結合剤及び導電性助剤を含有する)の質量に対して、PVDFの割合は、10%であり、かつカーボンブラックの割合は、5%であった。多孔質コークスのそれぞれの実施例に関して、1つのキャパシタを、電解質として硫酸1mol/lで製造し、もう一方を、アセトニトリルのような好適な溶剤中で溶解した1mol/lの濃度でのテトラフルオロホウ酸テトラエチルアンモニウム(TEABF4)を含有する電解質で製造した。
【0042】
前記キャパシタの電気化学的挙動を、サイクリックボルタンメトリー(1〜100mV/秒の走査速度)、定電流充電/放電(0〜0.8V(水性電解質)又は0〜2V(有機電解質)の電圧範囲における200mA/g〜20A/gの電流密度)、及び電気化学的インピーダンス分光法(100kHzから1mHzまでの周波数範囲)を使用して研究した。
【0043】
図1は、水性電解質における実施例1の多孔質コークスを有するキャパシタのサイクリックボルタンモグラムを示し、及び図2は、有機電解質でのサイクリックボルタンモグラムを示し、それぞれ10mV/秒の走査速度で記録した。該サイクリックボルタンモグラムは、水性電解質において0〜0.8V、及び有機電解質において0〜2V又は2.5Vの電圧範囲にわたって伸長した、わずかにゆがめられた矩形の形状を有する。従って、前記キャパシタは、広い電圧範囲で可逆充電されることができる。
【0044】
電気容量Cを、式
【数1】

[式中、サイクリックボルタンモグラムを記録した点で、iは、矩形領域における電流であり、かつvは、走査速度(経時的な電圧の変化dE/dt)である]で示される式によるサイクリックボルタンモグラムから計算することができた。
【0045】
代わりに、電気容量Cを、式
【数2】

[式中、iは、電極を荷電する電流であり、dEは、荷電中の電圧の変化であり、かつdtは、荷電の継続時間である]で示される式による定電流のサイクリック実験から計算した。
【0046】
第三の方法において、前記電気容量を、電気化学的インピーダンススペクトルの低周波数限界から決定することができる。典型的なインピーダンススペクトルを、図3において示す。キャパシタに関して予想通り、低周波数で電気容量は、低い走査速度で記録されたサイクリックボルタンモグラムから、及び低い電流密度での定電流充電/放電から得られた値に非常に近い、限界値に達する。
【0047】
前記の3つの方法、水性及び有機電解質を有するキャパシタで得られた重量比容量の値を、表3においてまとめる。
【0048】
サイクリックボルタンメトリーの走査速度に対する、及び定電流サイクルの電流密度に対する電気容量の一定の依存は、注意すべきである。高い充電/放電速度で、小さいサイズの孔は、電気的二重層の形成のためにすぐに利用できないことが明らかである。従って、高い充電−放電速度で電気的二重層の全体の効果的に利用可能な面積は、より低い充電−放電速度で利用可能である面積よりも小さい。有機電解質において、この効果は、該有機電解質のイオンのかさ高性によって、よりいっそう顕著である。さらに、有機電解質において、充電/放電電流は、水性系と比較して、電解質の低い導電率によって制限される。それというのも、有機電解質においてプロトンがないからである。
【0049】
図4におけるRagoneプロットは、重量出力密度の関数としての2つの電極の組合せの電荷蓄積材料の単位質量毎の利用できるエネルギーを示す。1000W/kg未満の出力密度で、利用できるエネルギーは、出力密度の増加で、著しく減少しない。しかしながら、より高い出力密度で、速い充電/放電で電極/電解質境界面の制限された利用率を反映する、利用できるエネルギーの顕著な減少がある。
【0050】
0〜0.8V(水性電解質)又は0〜2V(有機電解質)の電圧範囲における500mA/gの電流での多数の充電/放電サイクルの間の電気容量の発生を、図5において見ることができる。特に、有機電解質でのキャパシタのために、10000サイクルにわたる電気容量の優れた安定性を観測した。
【0051】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的キャパシタにおける電荷蓄積材料として好適な多孔質コークスの製造方法であって、
− 球状又はタマネギ状の形態及び低い黒鉛化性を有する非焼成の等方性コークスを、出発材料として製造又は提供する工程、
− 苛性アルカリと混合して、均一な混合物を得る工程、
− 650〜950℃の範囲における温度で該混合物を熱処理して、多孔質コークスを得る工程、
− 該多孔質コークスを洗浄し、そして中和する工程
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、その際前記出発材料が、
X線回折法によって測定された0.35nmより大きい中間層距離d002、及び6.5nm未満の見かけの積層高さLcを有するコークスであり、並びに
該コークスを不活性ガス雰囲気下で2800℃で熱処理する場合に、X線回折ピークd002から測定された平均中間層距離c/2が、0.3375nm以上であり、かつc−方向(Lc)における結晶サイズが、35nm未満であり、かつLa110が、60nm未満である方法。
【請求項3】
該出発材料が、不飽和炭化水素の合成における反応ガスの急冷において使用される急冷油から得ることができるコークスである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該出発材料が、少なくとも96質量%の炭素含有率、及び0.05質量%未満の灰分値を有するコークスである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記の苛性アルカリが、水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウム、又はそれらの水酸化物の混合物を含有する群の1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
苛性アルカリとコークスとの質量比が、3:1〜4:1の範囲に調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記のアルカリ処理を、回転釜中で連続法で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
BET法で測定された前記の多孔質コークスの比表面積が、少なくとも2000g/m2である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
該多孔質コークスの孔サイズ分布の最大値が、ミクロ孔及びメソ孔の間の遷移領域である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
BET法で測定された該多孔質コークスの比表面積が、少なくとも2000g/m2であることを特徴とする、球状又はタマネギ状の形態及び低い黒鉛化性の非焼成の等方性コークス。
【請求項11】
該多孔質コークスの孔サイズ分布の最大値が、ミクロ孔及びメソ孔の間の遷移領域であることを特徴とする、請求項10に記載の多孔質コークス。
【請求項12】
該多孔質コークスが、X線回折法によって測定された0.35nmより大きい中間層距離d002、及び6.5nm未満の見かけの積層高さLcを有し、650〜950℃の範囲における温度で苛性アルカリで処理されたコークスであることを特徴とする、請求項11に記載の多孔質コークス。
【請求項13】
該コークスが不活性ガス雰囲気下で2800℃で熱処理される場合に、X線回折ピークd002から測定された平均中間層距離c/2が、0.338nm以上であり、かつc−方向(Lc)における結晶サイズが、25nm未満であり、かつLa110が、70nm未満であることを特徴とする、請求項11に記載の多孔質コークス。
【請求項14】
電気化学的キャパシタのための電極であって、その際該電極が、電荷蓄積材料、結合剤及び場合により導電性助剤を含み、該電荷蓄積材料が、請求項1から13までのいずれか1項に記載の多孔質コークスであることを特徴とする電極。
【請求項15】
水性電解質に関して、少なくとも200F/gの電気容量が、1mV/秒以下のサイクロボルタメトリーの走査速度で、0.2A/g以下の定電流で、又は1mHzの周波数でのインピーダンス分光法によって得られることを特徴とする、請求項14に記載の電極。
【請求項16】
有機電解質に関して、少なくとも160F/gの電気容量が、1mV/秒以下のサイクロボルタメトリーの走査速度で、0.2A/g以下の定電流で、又は1mHzの周波数のインピーダンス分光法によって得られることを特徴とする、請求項14に記載の電極。
【請求項17】
2つの電極および電解質を含む電気化学的キャパシタであって、その際、それぞれの電極が、電荷蓄積材料、結合剤、及び場合により導電性助剤を含み、少なくとも1つの電極の電荷蓄積材料が、請求項1から13までのいずれか1項に記載の多孔質コークスであることを特徴とする、電気化学的キャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−517919(P2010−517919A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549425(P2009−549425)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/051885
【国際公開番号】WO2008/099015
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(501090803)エスゲーエル カーボン ソシエタス ヨーロピア (47)
【氏名又は名称原語表記】SGL CARBON SE
【住所又は居所原語表記】Rheingaustrasse 182, D−65203 Wiesbaden, Germany
【Fターム(参考)】