説明

多孔質セルロース担体およびそれを用いた金属の選択的分離方法

【課題】金属、とりわけ水銀、銅、鉛など重金属に対して高い親和性を有し、それを選択的に吸着する吸着剤の提供。
【解決手段】ポリエチレンイミン側鎖を有するグルコース単位を含んでなるセルロースからなり、該セルロースが多孔質であるセルロースが金属とりわけ重金属に対して選択的な親和性を有する。また、ポリエチレンイミンをグラフトして導入された多孔質セルロースにおいて、重金属への親和性が更に改善できる。よってこのようなセルロースを金属吸着剤として用いる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、金属、とりわけ水銀、銅、鉛などの重金属に対して高い親和性を有し、それを選択的に吸着する高分子修飾多孔質セルロースおよびそれを用いた重金属の選択的分離方法に関する。
【0002】
発明の背景
金属を選択的に分離できる方法の確立は広い応用範囲を有する。例えば、排水から金属とりわけ重金属を除くことは、金属がしばしば毒性を有するため、環境保全の観点から非常に重要である。さらに、排水などからの重金属を回収し再利用できれば、更に好ましいと言える。
【0003】
従来、金属の単離または分離法としては、例えば溶解度定数の大きな塩を形成するアニオンを選択、添加するいわゆる沈殿法が知られている。さらに、イオン交換樹脂を用いた方法、キレート剤を用いる方法などが知られている。
【発明の概要】
【0004】
本発明者等は、今般、ポリエチレンイミンを結合させた多孔質セルロースが、金属、とりわけ水銀、銅、鉛など重金属に対して高い親和性を有し、それを選択的に吸着するとの知見を見出した。また、適切な高分子をセルロースとの間に介在させてポリエチレンイミンをグラフトさせて得られたセルロースにおいて重金属に対する親和性において更に改善が図られるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0005】
従って、本発明は金属とりわけ重金属に対して高い親和性を有し、それを選択的に吸着する高分子修飾多孔質セルロースの提供をその目的としている。
【0006】
また、本発明は金属とりわけ重金属を選択的に吸着し、それを除去または回収する方法の提供をその目的としている。
【0007】
そして、本発明による多孔質セルロースは、その第一の態様として、下記の繰り返し単位(I)を有する側鎖を有するグルコース単位を含んでなるセルロースからなり、該セルロースが多孔質であるセルロースである。
【0008】
−(NR1 −CH2 CH2 )n− (I)
(式中、R1 は水素原子またはグルコース単位への結合を表し、nは1以上の整数を表す。)
また本発明による多孔質セルロースは、その第二の態様として、下記の繰り返し単位(II)を有する側鎖を有するグルコース単位を含んでなるセルロースからなり、かつ該セルロースが多孔質であるセルロースである。
【0009】
【化1】

(式中、
2 は、水素原子またはメチル基を表し、
3 は、基−CO−、基−CO−O−CH2 CHR4 CH2-(ここで、R4 は−OHまたは−SHを表す)、または基−(p- フェニレン)−( CH2 ) q−CHR5 CH2 −(ここで、qは1または2の整数を表し、R5 は−OHまたは−SHを表す)を表し、
nおよびpは1以上の整数を表し、
Aはグルコース単位への結合を表す)
また本発明による多孔質セルロースは、その第三の態様として、下記の繰り返し単位(III )を有する側鎖を有するグルコース単位を含んでなるセルロースからなり、かつ該セルロースが多孔質であるセルロースである。
【0010】
【化2】

(式中、
6 は、基−COHまたは基−CO−低級アルキルを表し、
Xは、ハロゲン原子を表し、
nおよびpは1以上の整数を表し、
Aはグルコース単位への結合を表す)
また本発明による多孔質セルロースは、その第四の態様として、下記の繰り返し単位(IV)を有する側鎖を有するグルコース単位を含んでなるセルロースからなり、かつ該セルロースが多孔質であるセルロースである。
【0011】
【化3】

(式中、
7 は、水素原子、メチル基、またはフェニル基を表し、
8 は、基−CO−O−(CH2)r−(ここで、rは1〜6、好ましくは1〜4の整数を表す)、基−(p-フェニレン)−(CH2)r−(ここでrは前記と同義である)、基−(CH2)r−(ここでrは前記と同義である)、または基p-フェニレンを表し、
Xは、ハロゲン原子を表し、
nおよびpは1以上の整数を表し、
Aはグルコース単位への結合を表す)
【発明の具体的説明】
【0012】
繰り返し単位(I)、(II)、(III )、および(IV )
本発明の第一の態様によれば、セルロースは前記繰り返し単位(I)を有する側鎖を有するグルコースを含んでなる。この繰り返し単位(I)は、ポリエチレンイミンであり、換言すれば本発明による第一の態様のセルロースは、ポリエチレンイミンが導入されたセルロースということができる。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、繰り返し単位(I)を有する側鎖部分の分子量は70,000以下であり、より好ましくは300〜20,000である。なお、繰り返し単位(I)の末端基、さらには後記する繰り返し単位(II)、(III )、および(IV)の末端基は、その分子量がこれら繰り返し単位が有する分子量に比較してわずかであるため、その種類は分子の性質に大きな影響を与えないが、例えば水素、アミノ基であることができる。
【0014】
本発明の第二の態様によれば、セルロースは前記繰り返し単位(II)を有する側鎖を有するグルコースを含んでなる。式中のnは、式中の−(N−CH2 CH2 )n−部分が上記繰り返し単位(I)を有する側鎖部分と同程度の分子量となるような値とされるのが好ましい。
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、この第二の態様において、R2 が水素原子またはメチル基を表し、R3 が基−CO−O−CH2 CHR4 CH2 −(ここで、R4 は−OHを表す)を表すものが好ましい。
【0016】
本発明の第三の態様によれば、セルロースは前記繰り返し単位(III )を有する側鎖を有するグルコースを含んでなる。式中、R6 が表す基−CO−低級アルキルのアルキル基は好ましくはC1-6 アルキル、より好ましくはC1-4 アルキルを表す。また、Xが表すハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素原子を表す。さらに、式中のnは、式中の−(N−CH2 CH2 )n−部分が上記繰り返し単位(I)を有する側鎖部分と同程度の分子量となるような値とされるのが好ましい。
【0017】
本発明の第四の態様によれば、セルロースは前記繰り返し単位(IV)を有する側鎖を有するグルコースを含んでなる。式中のnは、式中の−(N−CH2 CH2 )n−部分が上記繰り返し単位(I)を有する側鎖部分と同程度の分子量となるような値とされるのが好ましい。
【0018】
本発明において、繰り返し単位(I)を有する側鎖、繰り返し単位(II)を有する側鎖のいずれにあっても、この側鎖はグルコースの−CH2 OH基のHと置換されて導入されてなるのが好ましい。
【0019】
セルロース
本発明におけるセルロースは多孔質体である。
本発明の好ましい態様によれば、セルロースは、空隙率80%以上、平均孔径0.05〜2.0mmの発泡体であるのが好ましい。更に好ましくは粒子径1.0〜5.0mm、空隙率97%以上、平均孔径0.3〜2.0mm、比重1.4〜1.7g/cm3 のセルロースである。
【0020】
セルロースは、天然セルロース(結晶型I型)、再生セルロース(結晶型II型)のいずれであってもよい。
【0021】
本発明において好ましく用いられるセルロースは、例えば木材から作られた高純度パルプを化学処理してビスコースとして後、細孔を形成するために第三成分を加え混合し、金型に注入後、加熱、凝固させ、適宜この第三成分を除去して得ることができる。この第三成分としては、発泡体形成後、容易に除去が可能な物質が用いられる。例えば、水に不溶または難溶性の結晶物、ワックス類、HLB値の低い界面活性剤、昇華性物質などが用いられる。この第三成分の除去作業は、第三成分の性質に従って、例えば有機溶媒による抽出、加熱による昇華などによって実施される。このような方法によれば、第三成分の大きさ、種類、配合量を適宜選択することにより所望の物性(空隙率、細孔径など)を有した基材を容易に得ることができる。
【0022】
本発明にあっては、市販のセルロースを利用することも可能であり、好ましいセルロースの例としては、ビーエムアクアセル(商品名)としてバイオマテリアル株式会社から市販されているものが挙げられる。
【0023】
繰り返し単位を有する側鎖のセルロースへの導入
セルロースのグルコース単位への繰り返し単位(I)、(II)、(III )、または(IV)を有する側鎖の導入は、側鎖を合成した後、それをグルコースに導入しても、またグルコースに官能基を導入した後、その官能基を介してこれら繰り返し単位を有する鎖を重合、成長させることで導入してもよい。これら繰り返し単位を有する鎖は合目的的な方法によって製造することができる。
【0024】
より具体的には、繰り返し単位(I)を有する側鎖を有するセルロースは次のようにして製造することができる。まず、グルコースの−CH2 OH基をナトリウムメチラートなどによって活性化した後、エピクロロヒドリンなどを利用してエポキシなどの官能基を導入する。さらに、官能基が導入されたセルロースと、ポリエチレンイミンとを、反応に関与しない溶媒(例えば、DMF)中において、温度90〜100℃程度において反応させることによって得ることができる。
また、繰り返し単位(II)を有する側鎖を有するセルロースのうち、R3 が基−CO−であるものは、次のように製造することができる。まず、セルロースの存在下アクリル酸またはメタクリル酸を、適当な溶媒(例えば、水)中で、温度20〜25℃で、0.5〜1時間反応させることによって重合させる。次に、得られたポリマーを例えばチオニルクロライドで酸クロリドとする。この酸クロリド体をポリエチレンイミンと適当な溶媒(例えば、テトラヒドロフラン)中で、温度20〜25℃で、1〜2時間反応させて、アミド結合により両者を結合させる。
【0025】
また、繰り返し単位(II)を有する側鎖を有するセルロースのうち、R3 が基−CO−O−CH2 CHR4 CH2-または基−(p- フェニレン)−( CH2 ) q−CHR5 CH2 −であるものは、次のように製造することができる。まず、セルロースの存在下、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、チオグリシジルアクリレート、チオグリシジルメタクリレート、ビニルベンジルグリシジルエステル、ビニルフェニルグリシジルエステル、ビニルベンジルチオグリシジルエステル、またはビニルフェニルチオグリシジルエステルを、適当な溶媒(例えば、水)中で、温度20〜25℃で、1〜2時間反応させることによって重合させる。得られたポリマーをポリエチレンイミンと、適当な溶媒(例えば、DMF)中で、温度90〜100℃で、3〜5時間反応させることによって得ることができる。
【0026】
また、繰り返し単位(III )を有する側鎖を有するセルロースは、次のように製造することができる。まず、セルロースの存在下、α−ハロアクリル酸または低級アルキルα−ハロアクリル酸エステルを、適当な溶媒(例えば、水)中で、温度20〜25℃で、0.5〜1時間反応させることによって重合させる。得られたポリマーにポリエチレンイミンを、適当な溶媒(例えば、DMF)中で、温度80〜100℃で、1〜2時間反応させる四級化反応(メンシュトキン反応)により導入することによって得ることができる。
【0027】
また、繰り返し単位(IV)を有する側鎖を有するセルロースは、上記繰り返し単位(III )を有する側鎖を有するセルロースの製造法に準じて製造することができる。すなわち、セルロースの存在下、ハロアルキルアクリル酸エステル、ハロアルキルメタクリル酸エステル、ハロアルキルスチレン、α−(ハロアルキル)スチレン、またはハロスチレンを、適当な溶媒(例えば、水)中で、温度20〜25℃で、3〜5時間反応させることによって重合させる。得られたポリマーにポリエチレンイミンを上記四級化反応(メンシュトキン反応)に準じて導入することによって得ることができる。
【0028】
反応後、得られたセルロースは未反応成分を十分に洗浄して除くのが好ましい。
温度などの反応条件、モノマーの種類、反応時間などを適宜選択することによって分子量その他所望の物性を有するセルロースが製造可能であることは当業者には明らかであろう。
【0029】
重金属の選択的分離
本発明によるセルロースは金属とりわけ重金属に対して選択的な親和性を有する。よって、本発明によるセルロースは、ある系から金属を選択的に分離するために好ましく用いることができる。
【0030】
本発明によるセルロースが親和性を有する金属としては、Hg、Cu、Cd、Pb、Zn、Cr、Co、Ni、Mn、Alなどが挙げられる。本発明の好ましい態様によれば、本発明のセルロースは重金属に高い親和性を有する。特に好ましい重金属としては、Hg、Cu、Cd、およびZnが挙げられ、特にHgに対して選択的な高い親和性を有する。
【0031】
本発明によるセルロースが金属に対して親和性を有する理由は、その繰り返し単位中に存在する窒素原子を含む残基部分が複数で金属イオンに配位結合してキレート類似の構造を採るからと予想される。
【0032】
本発明の好ましい態様によれば、上記の繰り返し単位(II)、(III )、または(IV)を有するセルロースがその高い吸着容量の観点から好ましい。繰り返し単位(II)(III )、または(IV)を有するセルロースにあっては、窒素原子を含む残基部分が、繰り返し単位(I)を含むセルロースの場合より数多く存在することができ、さらにその動きも比較的自由であり、金属イオンを捕捉しやすいことから有利と考えられる。
【0033】
更に本発明によるセルロースは、一旦金属を吸着した後、酸で洗浄することによりその金属を脱離させることができる。よって本発明によるセルロースは、金属の回収のために利用することも可能である。
【0034】
更に、酸洗浄後もセルロースの金属に対する親和性は維持され、再度、金属の単離に再利用することができる点でも有利である。
【0035】
本発明によるセルロースによる金属の選択的分離は、金属が含まれている溶液とセルロースとを接触させることで実施することができる。
【0036】
本発明によるセルロースにあっては、その吸着速度が大きいことから、バッチ処理のみならず、セルロースに流れる溶液を接触させる連続処理によっても金属を吸着する。
【0037】
本発明の好ましい態様によれば、本発明によるセルロースは、Hgに関して300mg/g程度の吸着容量を有する。また、Cu、Cd、およびZnに関してはそれぞれ、50mg/g程度、40mg/g程度、15mg/g程度の吸着容量を有する。
【0038】
本発明によるセルロースは、具体的には工業廃水からの金属の分離または回収などに有効に利用することができる。
【実施例】
【0039】
本発明を以下の実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
材料
セルロースは、ビーエムアクアセル(商品名)としてバイオマテリアル株式会社から市販されているものを使用した。このセルロースは、高度に多孔質(細孔径:200μm)の立方体(1mm3 近似)の大きさを有する。
【0041】
また、対照として、ポリアミンキレート基で変性されたキトサンであるCS−03吸着剤(細孔径:0.15mm、富士紡績株式会社製)を用意した。
また、ポリエチレンイミン(PEI)は日本触媒株式会社から提供された。
すべての他の試薬は、和光純薬株式会社から購入した。
【0042】
例A1:多孔質セルロースCell−PEIの製造
セルロース(0.50g)を乾燥ジメチルスルホキシド(DMSO)(30.0ml)の中に60℃において浸漬し、そして2時間攪拌した。この反応液にナトリウムメチラート(26.0ml)を添加し、次いで室温において窒素気流下でさらに1時間攪拌した。得られた生成物を乾燥DMSOで洗浄した。
【0043】
ナトリウムセルロース(1.0g)を50.0mlのエピクロロヒドリン(78.0ml)を含有する乾燥DMSOの中に浸漬し、窒素気流下で50℃において2時間攪拌した。反応後、生成したエポキシプロピルセルロースを分離し、蒸留水およびエタノールで洗浄し、その後減圧下で乾燥した。
【0044】
得られたエポキシプロピルセルロース(1g)と、PEI(5倍過剰、分子量300、600、1200、および20000の四種)とを、ジメチルホルムアミド(DMF)の中で、窒素ガス下に、100℃において一定に攪拌しながら4時間反応させた。得られた多孔質セルロース(cell−PEI)を濾過により分離し、熱水(50℃)およびエタノールで十分に洗浄し、次いで真空乾燥した。
【0045】
得られたエポキシプロピルセルロースおよびcell−PEIの元素分析結果は次の表に示される通りであった。
【0046】
【表1】

表から明らかなように、100%に近いエポキシド置換度のエポキシプロピルセルロース担体が得られた。さらに滴定実験によって99.1%のエポキシドが確認された。
【0047】
上記方法に準じて分子量の異なるPEIを用いてCell−PEIを合成した。得られたCell−PEIの元素分析結果は次の第2表に示される通りであった。
【表2】

また、Cell−PEIの合成では、用いたPEIの分子量によって、1.66〜2.04の範囲のアミン/エポキシド比(すなわち、アミン/グルコース比)の試料が得られた。これらの数値は、一つのPEI分子が複数のエポキシ基と結合していることを示している。
【0048】
また、上記と同様に方法によって、エポキシプロピルセルロースをエチレンジアミンと反応させることによって、多孔質セルロース−エチレンジアミン(Cell−ED)を合成した。
【0049】
例A2:多孔質セルロースCell−PEIへのHgの吸着
多孔質セルロースへのHgの吸着を次の様に評価した。
例A1で得られたCell−PEIの所定量を、濃度10mg/lのHgCl2 塩溶液20.00mlに加え、平衡化した。溶液のpHは、0.1mol/lのビス−トリス−0.1mol/lのHCl緩衝液によって調節した。この混合物を振盪機により機械的に連続的に混合した。吸着が完結した後、吸着剤を真空濾過により分離し、濾液中のHgの濃度を求めた。
【0050】
比較のため、上記と同様の操作をcell−EDについても行った。
以上の結果は、図1に示される通りであった。図中において、CoはHgの初期濃度を、Ceは濾液中のHg濃度を示す。
【0051】
例A3:多孔質セルロースCell−PEIへの重金属の連続吸着
Cell−PEIへのHgの吸着容量を、次の条件下で評価した。
【0052】
内径1cmのガラスのクロマトグラフィーのカラム(Amicon Co.)に高さ/直径比5.5の(0.2262gの吸着剤に相当する)となるようにcell−PEI吸着剤を充填した。約10mg/lの塩化水銀溶液を25、60、および120ml/時の流速でカラムに供給した。流出液の中の水銀イオン濃度を規則的に測定した。その結果は、図2に示される通りであった。
【0053】
120、60、および25ml/時の流速において、それぞれ159、239.0、および260.0mg/gの吸着容量が得られた。これらの値を使用して、最小流速(0ml/時)における吸着容量を推定すると292.0mg/gであった。この値は、バッチ式吸着実験から得られた値(288.0mg/g)とほぼ一致する。
【0054】
例A4:多孔質セルロースCell−PEIへの種々の金属の吸着
多孔質セルロースへの、図3記載の種々の金属の吸着を、pHを7に調整した以外は、例A2に記載の方法に従い測定した。
以上の結果は、図3に示される通りであった。
【0055】
例A5:金属の吸着および脱離
まず、多孔質セルロースcell−PEIの0.0015gの4群を、それぞれ水銀濃度10ppmの水銀溶液20ml中に浸漬し、多孔質セルロースに水銀を吸着させた。このときの水銀の吸着量は、下記の第3表の第1バッチにCell−PEIとして示される通り、0.178〜0.181mgの範囲であった。
これら4群の多孔質セルロースCell−PEIを、0.5M、1.0M、2.0M、および4.0Mの塩酸に浸漬し、水銀を脱離させた。水銀の脱離量は、下記の第3表の第1バッチの脱離量として示した。
【0056】
水銀を脱離させた多孔質セルロースCell−PEIを再び水銀濃度10ppmの水銀溶液20ml中に浸漬し、水銀を吸着させた。その結果、4群の多孔質セルロースは、下記の第3表の第2バッチの吸着量として示される量の水銀をそれぞれ吸着した。
【0057】
これら4群の多孔質セルロースCell−PEIを4.0Mの塩酸に浸漬し、再び水銀を脱離させた。水銀の脱離量は、下記の第3表の第2バッチの吸着量として示される通りであった。
【0058】
こうして水銀を脱離させた多孔質セルロースCell−PEIを、再度、水銀濃度10ppmの水銀溶液20ml中に浸漬し、水銀を吸着させた。その結果、4群の多孔質セルロースCell−PEIは、下記の第3表の第3バッチの吸着量として示される量の水銀をそれぞれ吸着した。
【0059】
以上の結果から明らかなように、多孔質セルロースCell−PEIに吸着された金属は塩酸によって脱離させることができる。本実験例においては、4.0Mの塩酸を用いることで、ほぼ吸着水銀をほぼ完全に脱離させることができた。また、水銀の脱着を2回繰り返したにもかかわらず、多孔質セルロースCell−PEIの水銀吸着能の低下は見られなかった。
【0060】
【表3】

【0061】
例B1:多孔質セルロースpoly(CGMAPEI)の製造
水浴を使用して反応温度を20℃に制御した。所定量のセルロースと水との混合物をまず15分間加熱して、多孔質セルロースの内部に捕捉されている微量の空気を除去し、その後窒素ガス雰囲気下で、反応温度に放冷した。クラフト重合は、グリシジルメタクリレートを添加し、300rpmで激しく攪拌し、硝酸セリウム(IV)アンモニウム(CAN)(0.1M)の溶液を添加して行った。反応終了後、得られたポリ(セルロース−グリシジルメタクリレート)生成物を単離し、テトラヒドロフルフリルで洗浄し、真空乾燥した。
【0062】
続いて、例A1に記載のCell−PEI合成法に従い、ポリエチレンイミン(分子量600)を上で得られたポリ(セルロース−グリシジルメタクリレート)に導入し(DMF中、100℃)、多孔質セルロースpoly(CGMAPEI)を得た。
【0063】
種々の重合時間において合成されたCell−PEIおよびポリ(cell−GMA−PEI)の元素分析および計算された組成は次の第4表に示される通りであった。元素分析により、Cell−PEIの場合より高いアミン置換度のポリ(CGMAPEI)が確認された。グラフト重合により、より大きい密度でエポキシドを導入することが示された。
【表4】

【0064】
例B2:多孔質セルロースpoly(CGMAPEI)の製造
例B1に記載の方法において、開始剤CANの濃度をセルロース重量比で変化させて多孔質セルロースpoly(CGMAPEI)を合成した。合成された多孔質セルロースの元素分析は次の第5表に示される通りであった。
【0065】
【表5】

グリジルメタクリレートの架橋は、CANとグルコース(セルロースの構成単位)の比CAN/Gluが1.5のとき特に高かった。
【0066】
例B3:多孔質セルロースpoly(CGMAPEI)への重金属の吸着
濃度10mg/lの種々の金属溶液15.00mlに、例B1およびB2の方法によって製造されたpoly(CGMAPEI)を接触させ、平衡化すること

によって金属の吸着を行った。吸着温度およびpH条件は、それぞれ25℃およびpH7とした。吸着後、多孔質セルロースを分離し、濾液の中の平衡金属濃度を求めた。
【0067】
その結果は、例B1で合成された多孔質セルロースについては図4に、例B2で合成された多孔質セルロースについては図5に示される通りであった。
また、比較のために、cell−PEIおよびCS−03についても同様にその吸着能を評価した。
【0068】
図4から明らかなように、Hg、Cu、Co、およびZnについて、それぞれ350mg/g、45mg/g、8.5mg/g、および17.5mg/gという吸着容量が達成された。アミン含量の最も少ないpoly(CGMAPEI)30min でさえ、3種類の金属に対してCell−PEIより高い金属親和性を有していた。
【0069】
例B4:多孔質セルロースpoly(CGMAPEI)への重金属の連続吸着
poly(CGMAPEI)への金属の吸着容量を、次のような条件で求めた。
60ml/時の流速とし、Cu、Co、およびZnに関し、例A3に準じて測定を行った。
その結果は、図6に示される通りであった。
流出液の濃度はppbレベルの濃度まで減少した。CoおよびZnについて、残留濃度は、それぞれ0.5ppmおよび0.05ppmまで減少した。
【0070】
例B5
また、異なる金属を同時にカラムに吸着させる廃水処理を想定した実験を行った。
具体的には、まず、内径1cmのカラムに高さ/直径が5.5となるように多孔質セルロースpoly(CGMAPEI)0.83gを充填した。このカラムに、Ni、Pb、Zn、Cd、Cr、Al、Co、Mn、Cu、Hgのすべてをそれぞれ10ppmの濃度で含む水溶液を流速60ml/時で流した。
そのときの流出液中の各金属濃度の初期濃度に対する比を、流出量に対してプロットした。その結果は、図7に示される通りであった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明による多孔質セルロースへのHgの吸着量とpHの関係を示す図である。
【図2】本発明による多孔質セルロースへの重金属の連続吸着を示す図である。
【図3】本発明による多孔質セルロースへの種々の重金属の吸着量を示す図である。
【図4】ポリエチレンイミンがグラフトされた本発明による多孔質セルロースへの種々の重金属の吸着量を示す図である。
【図5】ポリエチレンイミンがグラフトされた本発明による多孔質セルロースへの種々の重金属の吸着量を示す図である。
【図6】ポリエチレンイミンがグラフトされた本発明による多孔質セルロースへの種々の重金属の連続吸着量を示す図である。
【図7】排水処理を想定し、異なる金属を同時にカラムに吸着させた際の本発明による多孔質セルロースへの重金属の吸着量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の繰り返し単位(I)を有する側鎖を有するグルコース単位を含んでなるセルロースからなり、該セルロースが多孔質である、セルロース。
−(NR1 −CH2 CH2 )n− (I)
(式中、R1 は水素原子またはグルコース単位への結合を表し、nは1以上の整数を表す。)
【請求項2】
繰り返し単位(I)を有する側鎖部分の分子量が70,000以下である、請求項1または2に記載のセルロース。
【請求項3】
下記の繰り返し単位(II)を有する側鎖を有するグルコース単位を含んでなるセルロースからなり、かつ該セルロースが多孔質である、セルロース。
【化1】

(式中、
2 は、水素原子またはメチル基を表し、
3 は、基−CO−、基−CO−O−CH2 CHR4 CH2-(ここで、R4 は−OHまたは−SHを表す)、または基−(p- フェニレン)−( CH2 ) q−C

HR5 CH2 −(ここで、qは1または2の整数を表し、R5 は−OHまたは−SHを表す)を表し、
nおよびpは1以上の整数を表し、
Aはグルコース単位への結合を表す)
【請求項4】
2 が水素原子またはメチル基を表し、R3 が基−CO−O−CH2 CHR4 CH2 −(ここで、R4 は−OHを表す)を表す、請求項3記載のセルロース。
【請求項5】
下記の繰り返し単位(III )を有する側鎖を有するグルコース単位を含んでなるセルロースからなり、かつ該セルロースが多孔質である、セルロース。
【化2】

(式中、
6 は、基−COHまたは基−CO−低級アルキルを表し、
Xは、ハロゲン原子を表し、
nおよびpは1以上の整数を表し、
Aはグルコース単位への結合を表す)
【請求項6】
下記の繰り返し単位(IV)を有する側鎖を有するグルコース単位を含んでなるセルロースからなり、かつ該セルロースが多孔質である、セルロース。
【化3】

(式中、
7 は、水素原子、メチル基、またはフェニル基を表し、
8 は、基−CO−O−(CH2)r−(ここで、rは1〜6の整数を表す)、基−(p-フェニレン)−(CH2)r−(ここでrは前記と同義である)、基−(CH2)r−(ここでrは前記と同義である)、または基 p- フェニレンを表し、
Xは、ハロゲン原子を表し、
nおよびpは1以上の整数を表し、
Aはグルコース単位への結合を表す)
【請求項7】
繰り返し単位(I)、(II)、(III )、または(IV)で表される側鎖が、グルコースの−CH2 OHのHと置換されて導入されてなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のセルロース。
【請求項8】
セルロースが、空隙率80%以上、平均孔径0.05〜2.0mmの発泡体である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のセルロース。
【請求項9】
セルロースが、粒子径1.0〜5.0mm、空隙率97%以上、平均孔径0.3〜2.0mm、比重1.4〜1.7g/cm3 である、請求項8に記載のセルロース。
【請求項10】
金属の選択的分離に用いられる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のセルロース。
【請求項11】
金属が重金属である、請求項10記載のセルロース。
【請求項12】
金属が含まれている溶液と、請求項1〜9のいずれか一項に記載のセルロースとを接触させる工程を含んでなる、金属を選択的に分離する方法。
【請求項13】
金属が重金属である、請求項12記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−231285(P2007−231285A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96747(P2007−96747)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【分割の表示】特願平8−242373の分割
【原出願日】平成8年9月12日(1996.9.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成8年3月13日 社団法人日本水環境学会発行の「第30回日本水環境学会年会講演集」に発表
【出願人】(500527720)株式会社バイオキャリアテクノロジー (4)
【出願人】(592140193)
【出願人】(596134389)
【Fターム(参考)】