説明

多孔質チタン焼結体の製造方法および多孔質チタン焼結体の製造装置

【課題】効率良く低コストで、高品質の多孔質チタン焼結体を提供することが可能な多孔質チタン焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】チタン粉末および水素化チタン粉末の少なくとも一方に、有機バインダー、発泡剤、可塑剤、水および必要に応じて界面活性剤を混合してスラリーを作製するスラリー作製工程S1と、前記スラリーを第1の支持体上に塗布して成形体とする成形工程S2と、前記成形体を加熱乾燥して発泡させることにより発泡成形体を作製する発泡工程S3と、前記第1の支持体から分離して第2の支持体上に載置した前記発泡成形体を加熱して脱脂する脱脂工程S4と、脱脂された前記発泡成形体を非酸化雰囲気で加熱し、導電性を有する1次焼結体を作製する第1焼結工程S5と、前記1次焼結体を非酸化雰囲気で前記第1焼結工程よりも高い温度で焼結して多孔質チタン焼結体を製出する第2焼結工程S7と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光触媒の保持材、オゾン発生器の給電電極、人工骨材および燃料電池用電極等に使用される多孔質チタン焼結体の製造方法および多孔質チタン焼結体の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前述の多孔質チタン焼結体としては、例えば特許文献1に記載されているように、スポンジ状の3次元網目構造を有するとともに気孔率が50容量%以上とされたものが提供されている。これらの多孔質チタン焼結体は、純度98質量%以上のチタン、6質量%のアルミニウムおよび4質量%のバナジウムを含むチタン合金(Ti−6Al−4V)、10%質量%のバナジウム、2質量%の鉄および3質量%のアルミニウムを含むチタン合金(Ti−10V−2Fe−3Al)等で構成されており、優れた耐食性を有している。
【0003】
このような多孔質チタン焼結体を製造する方法としては、例えば特許文献2および特許文献3に開示されているように、チタンまたはチタン合金粉末や水素化チタン粉末等に、有機バインダー、発泡剤、可塑剤、水及び界面活性剤を混合してスラリーを用いたものが提案されている。
ドクターブレード等の塗布装置によって、前記スラリーを支持フィルム上に塗布することによりシート状の成形体を成形し、この成形体を加熱乾燥することにより発泡剤が発泡して3次元網目構造となった網目部分にチタン粉末が位置した発泡成形体を作製する。この発泡成形体を支持フィルムから分離して、支持プレートの上に載置し、脱脂、焼結することにより、チタン粉末が結合してスポンジ状の3次元網目構造を有する多孔質チタン焼結体が製造される。
【0004】
脱脂工程では、支持プレート上に載置された発泡成形体を、例えば5×10−2Pa程度の真空雰囲気あるいは水素雰囲気とされた脱脂炉内に装入し、例えば550℃×5時間の加熱・保持を行う。これにより、発泡成形体に含まれる脂分(有機バインダー等)が揮発して除去される。
【0005】
また、焼結工程では、脱脂された発泡成形体を支持プレート上に載置した状態で、例えば5×10−3Pa程度の真空雰囲気の焼結炉内に装入し、例えば1200℃×5時間の加熱・保持を行う。この焼結工程では、高温で長時間保持されるため、炉内に極僅かな酸素が混入しても酸化してしまうおそれがある。そこで、発泡成形体をチタン箔で包むことにより、チタン箔を優先的に酸化させることで発泡成形体の酸化を防止している。
【0006】
ここで、前述の脱脂炉および焼結炉としては、主に抵抗加熱炉が使用されている。また、チタンは反応性に富む元素であるので、加熱時における支持プレートとチタンとの反応を抑制するために、ジルコニア製の支持プレートの上に発泡成形体を載置している。
【特許文献1】特開2006−138005号公報
【特許文献2】特開2004−043976号公報
【特許文献3】特開2007−046089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の多孔質チタン焼結体の製造方法においては、焼結炉として主に抵抗加熱炉が使用されているため、発泡成形体を焼結温度(1200℃)にまで加熱するのに多くの時間を要していた。また、焼結炉内には、発泡成形体を支持するジルコニア製の支持プレートも装入されるため、加熱にさらに時間を要していた。このため、焼結工程が律速となって効率良く多孔質チタン焼結体を製造することができなかった。また、エネルギー効率が悪く、製造コストが高くなるといった問題があった。
また、焼結温度(約1200℃)にまで加熱するため、高温に対応した専用炉を用いる必要があった。
さらに、長時間にわたって炉内で高温に保持することになるため、炉内に混入した酸素によってチタンが酸化し、製出される多孔質チタン焼結体の品質の低下を招くおそれがあった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、効率良く低コストで、高品質の多孔質チタン焼結体を提供することが可能な多孔質チタン焼結体の製造方法および多孔質チタン焼結体の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の多孔質チタン焼結体の製造方法は、チタン粉末および水素化チタン粉末の少なくとも一方に、有機バインダー、発泡剤、可塑剤、水および必要に応じて界面活性剤を混合してスラリーを作製するスラリー作製工程と、前記スラリーを第1の支持体上に塗布して成形体とする成形工程と、 前記成形体を加熱乾燥して発泡させることによって発泡成形体を作製する発泡工程と、 前記第1の支持体から分離して第2の支持体上に載置した前記発泡成形体を加熱して脱脂する脱脂工程と、脱脂された前記発泡成形体を非酸化雰囲気で加熱して、導電性を有する1次焼結体を作製する第1焼結工程と、前記1次焼結体を非酸化雰囲気で前記第1焼結工程よりも高い温度で焼結して多孔質チタン焼結体を製出する第2焼結工程と、を備えていることを特徴としている。
【0010】
このような構成とされた本発明の多孔質チタン焼結体の製造方法においては、脱脂工程によって脱脂された発泡成形体を非酸化雰囲気で加熱して焼結し、導電性を有する1次焼結体を作製する第1焼結工程と、1次焼結体をさらに高温で焼結する第2焼結工程とを有しているので、第1焼結工程における加熱温度を低く抑えることができる。詳述すると、第1焼結工程においては、発泡成形体を焼結炉内で800℃から1000℃で1分から30分保持することで、導電性を有する1次焼結体を得ることができるのである。したがって、第1焼結工程は汎用の炉を用いることが可能となり、さらに高温となる第2焼結工程のみを専用炉で行うことで生産効率を大幅に向上させることが可能となる。
【0011】
また、1次焼結体が導電性を有しているので、1次焼結体をさらに高温で焼結する第2焼結工程においては、1次焼結体に電流を通電させて自己発熱させることが可能となる。このように自己発熱させた場合には、短時間で高温にまで加熱することができる。具体的には、自己発熱による第2焼結工程では、1200℃で数分程度の保持により、多孔質チタン焼結体を得ることができる。したがって、従来と比較して大幅に焼結時間を短縮することができる。
なお、脱脂工程、第1焼結工程、第2焼結工程においては、加熱対象物(発泡成形体または1次焼結体)を間欠的に搬送して加熱してもよいし、加熱対象物(発泡成形体または1次焼結体)を走行させながら加熱してもよい。
【0012】
ここで、前記第1焼結工程と前記第2焼結工程との間に、前記1次焼結体を前記第2の支持体から分離する分離工程を設けてもよい。
導電性を有する程度にまで焼結された1次焼結体においては、粉末同士が一定の強度で結合しているので、第2の支持体から分離しても崩壊することがない。よって、第2焼結工程において、1次焼結体のみを加熱することが可能となり、さらに効率良く多孔質チタン焼結体を製出することができる。
【0013】
また、前記第2焼結工程を、誘導加熱によって前記1次焼結体に誘導電流を発生させて自己発熱させる構成としてもよい。
この場合、誘導加熱によって1次焼結体に誘導電流(渦電流)を発生させて自己発熱させるので、1次焼結体を非接触の状態で加熱することができる。また、短時間で1次焼結体を高温(例えば1200℃)にまで加熱することができる。
【0014】
また、前記第2焼結工程を、前記1次焼結体に電流を通電して自己発熱させるように構成してもよい。
この場合、1次焼結体に通電することによって自己発熱させるので、1次焼結体を短時間で高温(例えば1200℃)にまで加熱することができる。
【0015】
さらに、前記成形工程において、長尺の前記第1の支持体の上に前記スラリーを塗布して長尺シート状成形体を成形し、前記発泡工程において、前記長尺シート状成形体を加熱乾燥することにより発泡させて長尺シート状発泡成形体を作製し、この長尺シート状発泡成形体に対して、前記脱脂工程、前記第1焼結工程および前記第2焼結工程を連続して行うように構成としてもよい。
この場合、長尺シート状成形体に対して脱脂工程、第1焼結工程、第2焼結工程を連続して行うので、多孔質チタン焼結体の生産効率を大幅に向上させることができる。
【0016】
本発明の多孔質チタン焼結体の製造装置は、チタン粉末および水素化チタン粉末の少なくとも一方に、有機バインダー、発泡剤、可塑剤、水および必要に応じて界面活性剤を混合して得られたスラリーを用いた多孔質チタン焼結体の製造装置であって、前記スラリーを第1の支持体上に塗布して成形体を成形する塗布部と、前記成形体を加熱乾燥して発泡させて発泡成形体を得る発泡処理部と、前記第1の支持体から分離して第2の支持体上に載置された前記発泡成形体を加熱して脱脂する脱脂炉と、脱脂された前記発泡成形体を非酸化雰囲気で加熱し、導電性を有する1次焼結体を作製する第1焼結炉と、前記1次焼結体を非酸化雰囲気で前記第1焼結工程よりも高い温度で焼結して多孔質チタン焼結体を製出する第2焼結炉と、を備えていることを特徴としている。
この構成の多孔質チタン焼結体の製造装置によれば、前述の多孔質チタン焼結体の製造方法を好適に実施することが可能となる。
【0017】
ここで、前記第1焼結炉と前記第2焼結炉との間に、前記第2の支持体と前記1次焼結体とを分離する分離手段を備えてもよい。
この場合、第1焼結炉で作製された1次焼結体と第2の支持体とを分離手段によって分離し、1次焼結体のみを第2焼結炉内に装入できるので、さらに効率良く1次焼結体を加熱することができる。
【0018】
また、第2焼結炉を、誘導加熱機構により前記1次焼結体に渦電流を発生させて自己発熱させる構成としてもよい。
あるいは、第2焼結炉を、1次焼結体に接触される接触端子部と該接触端子部を介して前記1次焼結体に電流を通電する通電機構とを備えたものとしてもよい。
このように第2焼結炉を構成することにより、1次焼結体を確実に、かつ、効率良く加熱して高品質の多孔質チタン焼結体を得ることが可能となる。
【0019】
さらに、前記第1焼結炉と前記第2焼結炉とが炉体を共有しており、該炉体に、脱脂された前記発泡成形体を非酸化雰囲気で加熱して導電性を有する1次焼結体を作製する第1加熱手段と、前記1次焼結体に電流を通電して自己発熱させる第2加熱手段とを設けてもよい。
この場合、1つの炉体内において、第1加熱手段によって1次焼結体を作製するとともに第2加熱手段によって1次焼結体を高温で焼結することが可能となり、1つの炉体であっても、焼結時間を大幅に短縮することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、効率良く低コストで、高品質の多孔質チタン焼結体を提供することが可能な多孔質チタン焼結体の製造方法および多孔質チタン焼結体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。図1〜図3に本発明の第1の実施形態である多孔質チタン焼結体の製造方法および多孔質チタン焼結体の製造装置を示す。
【0022】
図2に示す多孔質チタン焼結体製造装置10は、発泡性のスラリー21を作製するスラリー作製部11と、このスラリー21を、例えば表面処理を施したPET樹脂からなるキャリアシート20A上に塗布してシート状の成形体22を成形する成形部12と、シート状の成形体22を発泡させて発泡成形体23を作製する発泡室13と、キャリアシート20Aから分離されてジルコニア製の支持プレート20Bに載置された発泡成形体23を加熱して脂分を除去する脱脂炉14と、脱脂された発泡成形体23を加熱焼結して1次焼結体24を作製する第1焼結炉15と、1次焼結体24を第1焼結炉15よりも高い温度で焼結して多孔質チタン焼結体を製出する第2焼結炉16と、を備えている。
【0023】
ここで、第1焼結炉15と第2焼結炉16との間には、1次焼結体24を冷却する冷却部17と、1次焼結体24と支持プレート20Bとを分離する分離機構18とが設けられており、第2焼結炉16には、搬送ローラ16Aによって1次焼結体24のみが装入されるように構成されている。また、本実施形態では、脱脂炉14、第1焼結炉15および冷却部17とが連続して配置され、同一のベルトコンベア19(搬送機構)によって発泡成形体23および1次焼結体24が支持プレート20Bとともに搬送されるように構成されている。
【0024】
脱脂炉14は、揮発除去された脂分(ガス)を炉体の外部へと排出する排出機構14Aを備えており、脱脂炉14の炉内は5×10−2Paの真空雰囲気または水素雰囲気とされている。
また、第1焼結炉15は、抵抗加熱炉とされており、第1焼結炉15の炉内は5×10−3Paの真空雰囲気とされている。
【0025】
第2焼結炉16は、本実施形態では図3および図4に示すように、誘導加熱炉とされている。搬送ローラ16Aの間に螺旋状をなす誘導加熱コイル16Bが配設されており、この誘導加熱コイル16Bの内周部を1次焼結体24が通過するように構成されている。また、第2焼結炉16の前後にはガス置換室16D、16Eが設けられており、第2焼結炉16内は不活性ガス雰囲気(本実施形態ではArガス雰囲気)とされている。
【0026】
次に、この多孔質チタン焼結体製造装置10を用いた多孔質チタン焼結体の製造方法について図1に示すフローチャートを参照して各工程ごとに説明する。
【0027】
(スラリー作製工程S1)
スラリー作製部11では、チタン粉末、水素化チタン粉末、またはこれらの混合粉末に、有機バインダー、発泡剤、可塑剤、水及び必要に応じて界面活性剤を混合して発泡性のスラリー21を作製する。
本実施形態では、原料粉末として、平均粒径5〜30μmの水素化チタン粉末と、水素化チタン粉末を脱水素処理することにより得られた平均粒径10〜30μmの純チタン粉末の混合粉末を使用した。
【0028】
上記の混合粉末を結合させる有機バインダーとして、水溶性のメチルセルロースまたはポリビニルアルコールを使用した。発泡剤として、ネオペンタン、ヘキサンおよびペプタンを使用した。可塑剤として、グリセリンおよびエチレングリコールを使用した。界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸塩を使用した。
これらの原料を、混合粉末:5〜80質量%、有機バインダー:0.05〜10質量%、発泡剤:0.05〜10質量%、可塑剤:0.1〜15質量%、界面活性剤:0.05 〜5質量%、水:残部、の比率で混合して、スラリー21を作製した。
【0029】
(成形工程S2)
成形部12では、ドクターブレード12A(塗布装置)により、キャリアシート20Aの上にスラリー21を塗布して、幅200mm、長さ200mm、厚さ5mmのシート状の成形体22を成形した。
【0030】
(発泡工程S3)
発泡室13では、シート状の成形体22をキャリアシート20Aごと温度70℃、湿度90%で1時間保持し、80℃の温風を1時間送風して温風乾燥させる。この発泡工程S3によって、スラリー21中の発泡剤が発泡して、3次元網目構造を有するとともにこの網目構造の骨格部分にチタン粉末が位置した発泡成形体23が作製される。
【0031】
(脱脂工程S4)
前述の発泡成形体23は、キャリアシート20Aから分離されるとともにジルコニア製の支持プレート20Bの上に載置され、ベルトコンベア19によって脱脂炉14内に装入される。脱脂炉14においては、発泡成形体23を、5×10−2Paの真空雰囲気中に550℃で5時間保持する。これにより、発泡成形体23に含まれる脂分(有機バインダー等)が揮発除去される。この状態の発泡成形体23においては、チタン粉末同士は結合しておらず、導電性を有していない。なお、ジルコニア製の支持プレート20Bを使用することによって発泡成形体23中のチタンと支持プレート20Bとの反応を防止している。
【0032】
(第1焼結工程S5)
脱脂された発泡成形体23は、ベルトコンベア19によって第1焼結炉15内に支持プレート20Bとともに装入される。第1焼結炉15においては、脱脂された発泡成形体23を、5×10−3Paの真空雰囲気中で800〜1000℃で1〜30分保持する。これにより、3次元網目構造の骨格部分に位置するチタン粉末同士が結合することによって、導電性を有する1次焼結体24が作製される。
【0033】
(冷却・分離工程S6)
第1焼結炉15で加熱焼結されて作製した1次焼結体24は、冷却部17によって冷却されるとともに、分離機構18によって支持プレート20Bから分離される。ここで、導電性を有する程度にまで焼結された1次焼結体24においては、チタン粉末同士が一定の強度で結合しているので、支持プレート20Bから分離しても崩壊することがなく、取り扱うことが可能となる。
【0034】
(第2焼結工程S7)
支持プレート20Bから分離された1次焼結体24は、搬送ローラ16Aの上に載置されて第2焼結炉内16へと装入される。第2焼結炉16においては、1次焼結体24が誘導加熱コイル16Bの内周側へと配置され、誘導加熱コイル16Bに通電することで1次焼結体16に誘導電流(渦電流)を発生させ、ジュール熱によって1次焼結体24を自己発熱させる。こうして1次焼結体24を加熱し、Arガス雰囲気中で1200℃、1〜5分保持することにより、3次元網目構造の骨格部分に位置するチタン粉末同士が強固に結合し、多孔質チタン焼結体が製出される。
【0035】
このような構成とされた本実施形態である多孔質チタン焼結体の製造方法および多孔質チタン焼結体製造装置10によれば、脱脂された発泡成形体23を、真空雰囲気で加熱焼結して導電性を有する1次焼結体24を作製する第1焼結工程S5と、1次焼結体24を第1焼結工程S5よりも高温で焼結する第2焼結工程S7とを有しているので、第1焼結工程S5における加熱温度を800〜1000℃と低くし、かつ、保持時間を1〜30分と短くすることが可能となる。また、第2焼結工程S7においては、誘導加熱炉である第2焼結炉16を使用しているので、1次焼結体24に誘導電流(渦電流)を発生させて自己発熱させることで短時間で1200℃程度の高温まで加熱することができる。このように第1焼結工程S5と第2焼結工程S7とを分けることにより、大幅に焼結時間を短縮することが可能となる。また、短時間で焼結を行うことができるので、炉内に混入した酸素とチタンとの反応を抑えることができ、高品質の多孔質チタン焼結体を製出することができる。
【0036】
なお、第2焼結工程S7の処理時間が第1焼結工程S5の処理時間よりも短時間であることから、第1焼結工程S5において複数の発泡成形体23を焼結して1次焼結体24を作製することにより、1次焼結体24を連続して第2焼結工程S7(第2焼結炉16)に送り込むことが可能となり、さらなる効率化を図ることができる。
また、前述のように第2焼結炉16が誘導加熱炉とされているので、1次焼結体24を非接触の状態で加熱することができる。よって、1次焼結体24を搬送しながら加熱することも容易に行うことができる。
【0037】
さらに、本実施形態では、第1焼結炉15と第2焼結炉16との間に、1次焼結体24を冷却する冷却部17と1次焼結体24と支持プレート20Bとを分離する分離機構18とが設けられており、第2焼結炉16内には1次焼結体24のみが装入される構成とされているので、第2焼結炉16では、1次焼結体24のみを加熱すればよく、さらに効率良く多孔質チタン焼結体を製出することが可能となる。
【0038】
次に、本発明の第2の実施形態である多孔質チタン焼結体の製造方法および多孔質チタン焼結体の製造装置について図5および図6を用いて説明する。この第2の実施形態である多孔質チタン焼結体製造装置は、第2焼結炉36の加熱方式が第1の実施形態である多孔質チタン焼結体製造装置10と異なっている。
【0039】
詳述すると、図6に示すように、第2焼結炉36は、搬送ローラ36Aと、炉内の1次焼結体24に接続される接続端子部36Bと、この接続端子部36Bを介して1次焼結体24に通電を行う通電機構36Cと、を備えている。本実施形態では、一部の搬送ローラ36Aに対向する位置に接続端子部36Bが設けられており、搬送ローラ36Aと接続端子部36Bとで1次焼結体24を挟持するように構成されている。
【0040】
このような構成とされた第2の実施形態である多孔質チタン焼結体の製造方法および多孔質チタン焼結体製造装置によれば、1次焼結体24に接触端子部36Bを接触させて通電することができるので、1次焼結体24に確実に電流を流して自己発熱させることができる。また、通電する際の電圧を調整することで加熱速度等を簡単に調整することができる。
なお、1次焼結体24は、焼結によって収縮変形することになるが、この収縮変形に伴って接続端子部36Bが追従するように構成してもよい。あるいは、接続端子部36Bおよび通電機構36Cを、1次焼結体24の搬送方向に複数設置し、1次焼結体24を移動させながら加熱してもよい。このとき、1次焼結体24の収縮変形に併せて搬送ローラ36Aの回転数を調整することになる。
【0041】
次に、本発明の第3の実施形態である多孔質チタン焼結体の製造方法および多孔質チタン焼結体の製造装置について図7および図8を用いて説明する。
この第3の実施形態である多孔質チタン焼結体製造装置40においては、第1焼結炉45及び第2焼結炉46が共通の炉体を有しており、この炉体には、1次焼結工程S25を行うための抵抗加熱機構(図示なし)と2次焼結工程S27を行う誘導加熱機構(図示なし)が備えられている。
また、スラリー21をシート状に成形する成形部42および発泡室43が、脱脂炉44、第1焼結炉45および第2焼結炉46(炉体)と連続的に配置されている。
【0042】
この多孔質チタン焼結体製造装置40では、成形部42において、キャリアシート上にドクターブレード(塗布装置)を用いて長尺シート状成形体を成形する。この長尺シート状成形体を発泡室43内に連続的に装入して長尺シート状発泡成形体を作製する。この長尺シート状発泡成形体をキャリアシートから分離して、表面にジルコニアまたはイットリアのコーティングが施された長尺のカーボンプレートの上に載置する。そして、カーボンプレート上に載置された長尺シート状発泡成形体を連続的に脱脂炉44、第1焼結炉45および第2焼結炉46をなす共通の炉体内に装入し、脱脂工程S24、第1焼結工程S25および第2焼結工程S27を連続して行う。
【0043】
このような構成とされた第3の実施形態である多孔質チタン焼結体の製造方法および多孔質チタン焼結体製造装置40によれば、連続的に長尺の多孔質チタン焼結体が製出されることになり、生産効率を大幅に向上させることができる。また、第1焼結炉45及び第2焼結炉46が共通の炉体を有しているので、1つの炉体内において、第1加熱手段によって1次焼結体24を作製するとともに第2加熱手段によって1次焼結体24を高温で焼結して多孔質チタン焼結体を製出することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、原料粉末として、平均粒径5〜30μmの水素化チタン粉末と、水素化チタン粉末を脱水素処理することにより得られた平均粒径10〜30μmの純チタン粉末の混合粉末を使用したものとして説明したが、これに限定されることはなく、他のチタン粉末を使用することができる。
【0045】
また、有機バインダーとして水溶性のメチルセルロースまたはポリビニルアルコールを、発泡剤としてネオペンタン、ヘキサンおよびペプタンを、可塑剤としてグリセリンおよびエチレングリコールを、界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩を使用したものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の有機バインダー、発泡剤、可塑剤、界面活性剤を用いてもよい。
【0046】
さらに、第2の実施形態においては、接続端子部と搬送ローラとで1次焼結体を挟持する構成としたもので説明したが、これに限定されることはなく、プローブ状の接続端子部を1次焼結体に接触させてもよいし、搬送ローラの一部を接続端子部として用いてもよい。
また、製出される多孔質チタン焼結体のサイズは限定されることはなく、適宜設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施形態である多孔質チタン焼結体の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】本発明の第1の実施形態である多孔質チタン焼結体製造装置を示す概略説明図である。
【図3】図2に示す多孔質チタン焼結体製造装置に備えられた第2焼結炉の説明図である。
【図4】図3に示す第2焼結炉の側面説明図である。
【図5】本発明の第2の実施形態である多孔質チタン焼結体の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2の実施形態である多孔質チタン焼結体製造装置に備えられた第2焼結炉の説明図である。
【図7】本発明の第3の実施形態である多孔質チタン焼結体の製造方法を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第3の実施形態である多孔質チタン焼結体製造装置を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0048】
S1、S11、S21 スラリー作製工程
S2、S12、S22 成形工程
S3、S13、S23 発泡工程
S4、S14、S24 脱脂工程
S5、S15、S25 第1焼結工程
S7、S17、S27 第2焼結工程
10、40 多孔質チタン焼結体製造装置
11 スラリー作製部
12、42 成形部
13、43 発泡室(発泡処理部)
14、44 脱脂炉
15、45 第1焼結炉
16、36、46 第2焼結炉
16B 誘導加熱コイル(誘導加熱機構)
36B 接続端子部
36C 通電機構
18 分離機構
20A キャリアシート(第1の支持体)
20B 支持プレート(第2の支持体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン粉末および水素化チタン粉末の少なくとも一方に、有機バインダー、発泡剤、可塑剤、水および必要に応じて界面活性剤を混合してスラリーを作製するスラリー作製工程と、
前記スラリーを第1の支持体上に塗布して成形体とする成形工程と、
前記成形体を加熱乾燥して発泡させることによって発泡成形体を作製する発泡工程と、
前記第1の支持体から分離して第2の支持体上に載置した前記発泡成形体を加熱して脱脂する脱脂工程と、
脱脂された前記発泡成形体を非酸化雰囲気で加熱して、導電性を有する1次焼結体を作製する第1焼結工程と、
前記1次焼結体を非酸化雰囲気で前記第1焼結工程よりも高い温度で焼結して多孔質チタン焼結体を製出する第2焼結工程と、
を備えていることを特徴とする多孔質チタン焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記第1焼結工程と前記第2焼結工程との間に、前記1次焼結体を前記第2の支持体から分離する分離工程を備えていることを特徴とする請求項1に記載の多孔質チタン焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記第2焼結工程は、誘導加熱によって前記1次焼結体を自己発熱させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多孔質チタン焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記第2焼結工程は、通電加熱によって前記1次焼結体を自己発熱させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多孔質チタン焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程において、長尺の前記第1の支持体の上に前記スラリーを塗布して長尺シート状成形体を成形し、
前記発泡工程において、前記長尺シート状成形体を加熱乾燥することにより発泡させて長尺シート状発泡成形体を作製し、
該長尺シート状発泡成形体に対して、前記脱脂工程、前記第1焼結工程および前記第2焼結工程を連続して行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の多孔質チタン焼結体の製造方法。
【請求項6】
チタン粉末および水素化チタン粉末の少なくとも一方に、有機バインダー、発泡剤、可塑剤、水および必要に応じて界面活性剤を混合して得られたスラリーを用いた多孔質チタン焼結体の製造装置であって、
前記スラリーを第1の支持体上に塗布して成形体を成形する塗布部と、
前記成形体を加熱乾燥して発泡させて発泡成形体を得る発泡処理部と、
前記第1の支持体から分離して第2の支持体上に載置された前記発泡成形体を加熱して脱脂する脱脂炉と、
脱脂された前記発泡成形体を非酸化雰囲気で加熱し、導電性を有する1次焼結体を作製する第1焼結炉と、
前記1次焼結体を非酸化雰囲気で前記第1焼結工程よりも高い温度で焼結して多孔質チタン焼結体を製出する第2焼結炉と、
を備えていることを特徴とする多孔質チタン焼結体の製造装置。
【請求項7】
前記第1焼結炉と前記第2焼結炉との間に、前記第2の支持体と前記1次焼結体とを分離する分離機構を備えていることを特徴とする請求項6に記載の多孔質チタン焼結体の製造装置。
【請求項8】
前記第2焼結炉は、誘導加熱機構を備えていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の多孔質チタン焼結体の製造装置。
【請求項9】
前記第2焼結炉は、前記1次焼結体に接触される接触端子部と、該接触端子部を介して前記1次焼結体に電流を通電する通電機構とを備えていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の多孔質チタン焼結体の製造装置。
【請求項10】
前記第1焼結炉と前記第2焼結炉とは共通の炉体を有し、該炉体には、脱脂された前記発泡成形体を非酸化雰囲気で加熱して導電性を有する1次焼結体を作製する第1加熱手段と、前記1次焼結体を自己発熱させる第2加熱手段とが設けられていることを特徴とする請求項6に記載の多孔質チタン焼結体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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