説明

多孔質体の固着方法

【課題】任意の種類の多孔質体を、細孔の閉塞を最小限にとどめつつ容易に部材表面に固着する方法を提供する。
【解決手段】部材の表面に多孔質体を固着する方法であって、
(1)前記部材の表面に、エネルギー線架橋重合性組成物の未硬化層を設け、該未硬化層の一部又は全部にエネルギー線を照射して、流動性を有さず、且つ粘着性を有する該エネルギー線架橋重合性組成物の半硬化部分を形成する工程(工程1)、
(2)前記部材の前記半硬化部分に多孔質体を接触させ、前記半硬化部分の粘着力により該多孔質体を予備的に固定する工程(工程2)、及び、
(3)エネルギー線照射により前記半硬化部分のエネルギー線架橋重合性組成物の硬化を進め、前記多孔質体を前記部材に固着させる工程(工程3)、
を含むことを特徴とする多孔質体の固着方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材の表面に多孔質体を固着する方法に関する。該多孔質体は、プローブ、触媒、官能基などを固定化するための固定床、吸着材などとして使用される。本発明は、溝状又は空洞状の流路の内面に多孔質体が固着されたマイクロ流体デバイスの製造に利用できる。
【背景技術】
【0002】
表面にプローブが固定されたチップに検出対象物質を接触させ、検出対象物質とプローブの選択的相互作用の有無や程度を測定することによりこれらを検出する生体物質、生化学物質、化学物質の検出方法において、検出感度を増すために、プローブを多孔質体に固定する方法が知られている(特許文献1)。一方、溝状や毛細管状の流路を有するマイクロ流体デバイスに於いて、該流路の内表面に多孔質体を固定することにより、分析用デバイスに於いては、やはりプローブの固定量を増すことができ、検出感度の向上を図ることが出来る。また、マイクロリアクターに於いては、触媒の固定量を増すことができるため、反応速度の向上を図ることが出来るし、吸脱着分離デバイスにおいては、吸着量の増加を図ることが出来る。
【0003】
一般に、基材表面への非多孔質の粉体を固定する方法として、基材に接着剤を薄く塗布し、その上に粉体を配し、該接着剤を硬化させた後、接着されなかった余剰の粉体を除去する方法が考えられるが、この方法を多孔質粒子の固定に適用しようとすると、多孔質粒子の細孔に接着剤が入り込んで細孔を閉塞し、有効表面積が低下するという不都合があった。この際、細孔への侵入を防ぐように接着剤の粘度を高くすると接着力が低下するため、両者を満足する条件で操作することは相当に困難であった。
或いは、粘着性の表面に多孔質体を粘着力によって固着する方法も考えられるが、粘着力による固着は、流路内の液体の流動などによって連続的な力が加わると多孔質体が脱離しがちであるし、又、該粘着材が流路内の液体に溶出したり、該粘着性表面に溶質が付着しがちであった。
【0004】
一方、毛細管状のマイクロ流路の一部に流路径が細くなった堰を設け、マイクロ流路に入れたビーズが流失しないようにしたデバイスも報告されている(非特許文献1)。しかしながら、マイクロ流体デバイスの特長が発揮される、内径が100μm以下の微細な流路に、所定数(例えば1個)のビーズを入れることは相当に困難であり、実際、工業的に使用されている物は、ビーズの直径が数百μm以上の大きなものに限られていた。このため、流路径の増加により流路容量が増え、溶液量に対するプローブや触媒の固定量はそれほど多くならないばかりか、マイクロ流体デバイスの特徴が十分に発揮出来ない物となった。又、粉体を充填した流路は、圧力損失が非常に大きくなるという問題があった。
【0005】
上記の問題を解決する方法として、本明者等による特許文献4には、プローブや触媒を高密度に固定するための多孔質層が流路底面に形成されたマイクロ流体デバイスの製造方法が開示されている。また、本発明者等による特許文献5には、該底面多孔質層にDNAプローブを固定したDNA分析方法が開示されている。さらに、特許文献1〜3には、マイクロ流路に限定されないが、基材の表面に多孔質層を形成する方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000-002705
【特許文献2】特開2000-001565
【特許文献3】特開2000-001566
【特許文献4】特開2004-271430
【特許文献5】特開2005-024445
【非特許文献1】しかしながら、これらの製造方法では、別途形成された任意の多孔質体を固定することは出来なかったし、また、上記の方法で作製した多孔質層に、多種のプローブや触媒を担持させるには、部材毎に該担持操作を施す必要があるため、工程数が多くなり、スループットが低下するという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、任意の種類の多孔質体を、細孔の閉塞を最小限にとどめつつ容易に部材表面に固着する方法を提供することにあり、また、別途、大量に担持処理する方法で作製された、プローブや触媒を担持した複数種の多孔質体を、部材の所定の場所に効率よく固着する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、エネルギー線架橋重合性組成物を、流動性は喪失しているが粘着性は残存している半硬化状態に硬化させ、該半硬化部分に多孔質体を接触させて予備的に固定し、さらにエネルギー線を照射して前記多孔質体を前記部材に固着させることにより前記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、部材の表面に多孔質体を固着する方法であって、
(1)前記部材の表面に、エネルギー線架橋重合性組成物の未硬化層を設け、該未硬化層の一部又は全部にエネルギー線を照射して、流動性を有さず、且つ粘着性を有する該エネルギー線架橋重合性組成物の半硬化部分を形成する工程(工程1)、
(2)前記部材の前記半硬化部分に多孔質体を接触させ、前記半硬化部分の粘着力により該多孔質体を予備的に固定する工程(工程2)、及び、
(3)エネルギー線照射により前記半硬化部分のエネルギー線架橋重合性組成物の硬化を進め、前記多孔質体を前記部材に固着させる工程(工程3)、
を含むことを特徴とする多孔質体の固着方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多孔質体の固着方法は、任意の種類の多孔質体を、細孔の閉塞を最小限にとどめて、部材の表面に固着することができる。また、互いに異なる多孔質体、例えばあらかじめプローブや触媒を固定した多種の多孔質体を部材表面のそれぞれ独立した領域に容易に固着させることができる。また、本発明の多孔質体の固着方法により、流路内に多孔質体が固着され、しかも圧力損失の極低いマイクロ流体デバイスを容易に製造することが出来る。本発明の多孔質体の固着方法で製造された部材やデバイスは、化学物質、生化学物質、生物物質の高感度分析デバイスや、マイクロリアクター、吸脱着式分離デバイスなどに好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0012】
[基材]
基材は、多孔質体を固着する対象の部材であり、表面に、エネルギー線架橋重合性組成物(最終的にはその硬化物となる。なお、本明細書に於いては、未硬化、半硬化、または硬化の状態を問わず「エネルギー線架橋重合性組成物」と称し、必要に応じて、その硬化状態を示す。)で構成された部分が設けられたものである。該基材の外形は任意であり、用途目的に応じた形状を取り得るが、板状又はフィルム状であることが、用途が広く、製造も容易であるため好ましい。多孔質体を固着する部分(「多孔質体固着部」と称する場合がある)も該基材の任意の部分であり、例えば、平面、凹状部の底面、凹上部の側面、貫通孔の内面などであり得る。
【0013】
前記基材は、表面に、エネルギー線架橋重合性組成物で構成された部分が設けられていれば、それ以外の素材や構造は任意である。このとき、後述の固着方法の項で述べる様に、エネルギー線架橋重合性組成物で構成された部分は、多孔質体を固着する部分を含む範囲であれば良い。例えば、該基材全体がエネルギー線架橋重合性組成物で構成されていること、又は、該基材が、任意の素材で形成された部材の表面にエネルギー線架橋重合性組成物でコートされて形成されたものであることが好ましい。該基材は、マイクロ流体デバイスを構成する部材であることが好ましい。
【0014】
[多孔質体]
本発明の製造方法で固着する多孔質体は、基材上で形成する物でなく、基材とは別途製造した物であれば、材質、寸法、形状は任意である。但し、固着部がマイクロ流体デバイスの流路内である場合は、該流路を閉塞しない状態で前記流路中に収まる物であればよい。例えば、粉末状(粒状、短繊維状、微小な板状等、粉末粒子単独の形状は問わない)や、繊維状(長繊維状、中空糸状、フラットヤーン状等を含む)、板状(フィルム状を含む)、塊状などであり得る。これらの中で、粉末状であることが、本発明の効果を発揮できるため特に好ましい。即ち、粉末状の多孔質体を固着すると、多孔質体表面と相互作用する流体成分は、粒子間の通路を通って粒子の反対側まで届き、そこの細孔と接触するという樹枝状の通路を形成できるため、塊状の多孔質体の細孔を端から通って奥まで達する場合に比べて、細孔表面との接触速度が向上する。そして、このような効果が高い小径の粉末状の多孔質体でも、その表面が接着剤で覆われたり、該多孔質体の細孔の大部分が接着剤により閉塞されたりせず、該多孔質体の有効表面積を損なわずに固定できる。また、本発明をマイクロ流体デバイスの流路中への多孔質体の固着に応用した場合、従来、粉末は、所謂充填カラムとして、多孔質体が流路断面全体に充填されて固定するしかなかったため、圧力損失が極めて大きくなりがちであったが、本発明に於いては、多孔質粉末を流路壁に固着できるため、圧力損失を極めて低くできる。
【0015】
多孔質体の多孔質構造は、表面が連通多孔質であれば任意であり、例えば、上記の粉末状や繊維状や板状の多孔質体一つの全体が連通多孔質体であってもよいし、非多孔質支持体の表面に連通多孔質体が形成されていてもよいし、多孔質体が深さ方向に孔径分布を持っていてもよい。このような多孔質体としては、例えば、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、多孔質金属、多孔質ガラス、有機高分子多孔質体、等を例示できる。
【0016】
固着する多孔質体は、特に表面修飾されていない多孔質体であってもよいし、親水化や疎水化などの処理がなされた物であってもよいし、あらかじめ、プローブ、触媒、官能基などを固定した物であってもよい。プローブの例としては、任意の化合物、生化学物質(酵素、抗体、アビジン、その他の蛋白、補酵素、ヌクレオチド、糖鎖、脂質など)、生体組織(抗原となりうる物質、細胞、細胞内組織など)、微生物(菌体など)であり得る。触媒は、化学反応や生化学反応の任意の触媒であり得る。官能基としては、上記のような化合物、生化学物質、生体組織、微生物を固定するアンカーとなりうる官能基(アミノ基、水酸基、イソシアナト基、エポキシ基、アルデヒド基、クロルアルデヒド基、ビオチンなど)、親水性などの表面特性を変えるための官能基、などであり得る。
【0017】
[エネルギー線架橋重合性組成物]
本発明で使用するエネルギー線架橋重合性組成物は、エネルギー線架橋重合性化合物を必須成分として含有し、完全硬化するには不十分な量のエネルギー線の照射により、流動性は喪失しているが粘着性は残存している不完全硬化状態となり、更にエネルギー線を照射することにより、硬化の度合いを増すことが出来る物である。最終的な硬化の程度は、使用に耐える強度で多孔質体を固着することが出来れば良く、必ずしも重合性官能基が完全に消失する必要はないが、粘着性が残存しない程度に硬化することが好ましい。エネルギー線架橋重合性組成物は、エネルギー線により迅速に重合硬化するため、生産性が高く、パターニングが可能であり、エネルギー線の種類を選択すれば低温で担持物質を損傷することなく多孔質体を固着できるため好ましい。
【0018】
エネルギー線架橋重合性組成物の硬化物の堅さは任意であるが、引張弾性率にして30MPa以上が好ましく、100MPa以上が好ましく、300MPa以上が最も好ましい。引張弾性率の上限は、自ずと限界はあろうが高いことそれ自身による不都合はないため限定することを要しないが、例えば10GPaであり得る。このような、エネルギー線架橋重合性組成物の硬化物の堅さは、エネルギー線架橋重合性組成物を構成するエネルギー線架橋重合性化合物の選定、添加する単官能モノマーの種類と量の選定、添加する非反応性リニアポリマーの種類と量の選定などにより調節できる。一般に、高架橋度化、バルキーな主鎖や側鎖の導入、高ガラス転移温度を示す重合性化合物の選択により、高い硬度を得ることが出来る。
【0019】
エネルギー線架橋重合性組成物は、エネルギー線の照射により架橋重合して架橋重合体となるエネルギー線架橋重合性化合物を必須成分として含有する。これにより、エネルギー線架橋重合性組成物は完全硬化するには不十分な量のエネルギー線照射により、重合性化合物及び/又は重合性官能基が残存するゲル状の架橋重合体となり、流動性は喪失しているが粘着性は残存している状態を取ることが出来る。
【0020】
エネルギー線架橋重合性組成物はエネルギー線架橋重合性化合物単独であってもよく、また、エネルギー線架橋重合性化合物の他に、単独では非架橋重合性であり、前記エネルギー線架橋重合性化合物と共重合性の化合物(以下、単官能モノマーと称する場合がある)を混合することも出来、この場合にも架橋共重合体を得ることが出来る。単官能モノマーを混合することにより、例えば賦形工程が容易な粘度に調節すること、半硬化状態での粘着性を増すこと、硬化後の多孔質体との接着性を増すこと、硬化物の物性を調節することなどが出来る。更に、エネルギー線架橋重合性組成物には、粘度調節や硬化物の物性改良などの目的で、その他の成分、例えば、無機粉末などのフィラー、該エネルギー線架橋重合性組成物に溶解する線状の非反応性ポリマー、溶剤、界面活性剤、着色剤などを混合することもできる。
【0021】
本発明の製造方法において、エネルギー線架橋重合性組成物は、半硬化状態で粘着性を示すためには、加工に適する温度、即ち0℃〜60℃のいずれかの温度、好ましくは25℃にて液状である必要がある。但し、エネルギー線架橋重合性組成物の各構成要素は、単独では該温度で固体であってもよい。該エネルギー線架橋重合性組成物の粘度は、0℃〜60℃のいずれかの温度で、好ましくは25℃で、100000[mPa・s]以下であることが好ましく、10000[mPa・s]以下であることがさらに好ましく、1000[mPa・s]以下であることが最も好ましい。
【0022】
本発明に於いては、該エネルギー線架橋重合性化合物を含有するエネルギー線架橋重合性組成物を半硬化状態とした後に多孔質体と接触させるため、エネルギー線架橋重合性組成物の粘度はいくら低くても、多孔質体にしみ込んで空隙を閉塞することはない。よって、該粘度の下限は、加工性の面から好適な値を選択すればよい。例えば、上記の温度で10[mPa・s]以上であることが好ましく、30[mPa・s]以上であることがさらに好ましく、100[mPa・s]以上であることが最も好ましい。
【0023】
[エネルギー線架橋重合性化合物]
エネルギー線架橋重合性化合物は、エネルギー線により重合硬化して架橋重合体となるものであれば、付加重合性、開環重合製、縮合重合性、ラジカル重合性、アニオン重合性、カチオン重合性等任意のものであってよい。該エネルギー線により重合するエネルギー線架橋重合性組成物は、重合開始剤の非存在下で重合するものに限らず、重合開始剤の存在下でのみエネルギー線により重合するものも使用することができる。
【0024】
エネルギー線架橋重合性化合物は、付加重合性の化合物であることが、好ましく、重合性官能基として重合性の炭素−炭素二重結合を有するものが好ましく、中でも、反応性の高い(メタ)アクリル系化合物やビニルエーテル類、また光重合開始剤の不存在下でもエネルギー線により硬化するマレイミド系化合物が好ましい。これらは、重合速度が高く、かつ、流動性を喪失しながら粘着性は残存しているような半硬化状態にすることが容易である。
【0025】
エネルギー線架橋重合性化合物が付加重合性基を有する物である場合には、該化合物が架橋重合性であるためには、エネルギー線架橋重合性化合物は1分子中に2つ以上の付加重合性基を有する化合物(以下、「1分子中に2つ以上の付加重合性基を有する」ことを「多官能」と称する。)である必要がある。
【0026】
前記のように、エネルギー線架橋重合性組成物エネルギー線架橋重合性化合物の粘度はいくら低くてもよいから、エネルギー線架橋重合性化合物は任意の粘度のものを使用できる。
【0027】
エネルギー線架橋重合性化合物として、好ましく使用できる多官能(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2′−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、2,2′−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン、ヒドロキシジピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、
ビス(アクロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、N−メチレンビスアクリルアミドの如き2官能モノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレートの如き3官能モノマー;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートの如き4官能モノマー;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートの如き6官能モノマー等が挙げられる。
【0028】
また、エネルギー線架橋重合性化合物として、例えば、重量平均分子量が500〜50000の架橋重合性オリゴマー(多感能オリゴマー)が挙げられる。そのような架橋重合性オリゴマーしては、例えば、エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリエーテル樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリブタジエン樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、分子末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0029】
マレイミド系のエネルギー線架橋重合性化合物としては、例えば、4,4′−メチレンビス(N−フェニルマレイミド)、2,3−ビス(2,4,5−トリメチル−3−チエニル)マレイミド、1,2−ビスマレイミドエタン、1,6−ビスマレイミドヘキサン、トリエチレングリコールビスマレイミド、N,N′−m−フェニレンジマレイミド、m−トリレンジマレイミド、N,N′−1,4−フェニレンジマレイミド、N,N′−ジフェニルメタンジマレイミド、N,N′−ジフェニルエーテルジマレイミド、N,N′−ジフェニルスルホンジマレイミド、
1,4−ビス(マレイミドエチル)−1,4−ジアゾニアビシクロ−[2,2,2]オクタンジクロリド、4,4′−イソプロピリデンジフェニル=ジシアナート・N,N′−(メチレンジ−p−フェニレン)ジマレイミド等の2官能マレイミド;N−(9−アクリジニル)マレイミドの如きマレイミド基とマレイミド基以外の重合性官能基とを有するマレイミド等が挙げられる。マレイミド系のモノマーは、ビニルモノマー、ビニルエーテル類、アクリル系モノマー等の重合性炭素・炭素二重結合を有する化合物と共重合させることもできる。
【0030】
[製造方法]
〔工程1〕
先ず、前記基材のエネルギー線架橋重合性組成物で構成された部分に、該エネルギー線架橋重合性組成物を不完全硬化させる量だけエネルギー線を照射して、該部分が流動性は喪失しているが粘着性は残存している状態とする。該部分が流動性を喪失している状態とすることにより、工程2に於いて多孔質体を押しつけるように接触させても、該部材は弾性変形するだけで、多孔質体の細孔の内部にまで入り込んで細孔を閉塞することはない。このように、本発明の製造方法は、多孔質体を粘着力で一時的に固定する際の接触時間や接触圧力の影響が殆どないため、製造安定性に優れる。
【0031】
基材表面の特定部位にのみ多孔質体を固着する場合には、(1)エネルギー線架橋重合性組成物を必要な部位にのみ塗布し、該部位を含む範囲にエネルギーを照射して半硬化部分を形成することが出来る。他の方法として、(2)基材を構成するエネルギー線硬化性組成物にエネルギー線をパターン照射することにより、所定部位を半硬化状態にすることが出来る。この場合、例えば、(2-1)基材を構成するエネルギー線硬化性組成物の一部にエネルギー線をパターン照射し、照射部位を半硬化状態にし、非照射部の未硬化のエネルギー線硬化性組成物を除去することにより、所定部位に粘着性の半硬化部分を形成する方法、(2-2) 基材を構成するエネルギー線硬化性組成物に高強度(又は多線量)のエネルギー線と低強度(又は少線量)のエネルギー線をパターン照射し、高強度(又は多線量)のエネルギー線照射部位を完全硬化させ、低強度(又は少線量)のエネルギー線照射部位を半硬化状態にすることにより、所定部位に粘着性の半硬化部分を形成し、他は非粘着性とする方法、を例示できる。エネルギー線をパターン照射する方法は任意であり、例えばフォトマスクを介してのエネルギー線照射、複数のフォトマスクを使用する複数回のエネルギー線照射、レーザー光線などの走査による照射を例示できる。
【0032】
エネルギー線としては、エネルギー線架橋重合性組成物を硬化させることが可能なものであり、好ましくは必要な部分のみに照射することができるものである。このようなエネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線などの光線;エックス線、ガンマ線等の電離放射線;電子線、イオンビーム、ベータ線、重粒子線等の粒子線が挙げられるが、取り扱い性や硬化速度の面から紫外線及び可視光が好ましく、紫外線が特に好ましい。エネルギー線は、平行エネルギー線、レンズなどでマスクの像が縮小や拡大されたエネルギー線、レーザーなどの走査型エネルギー線であり得る。
【0033】
未照射部分の未硬化のエネルギー線架橋重合性組成物は、任意の方法、例えば溶剤による洗浄、圧力気体によるブロー、非溶剤中での超音波洗浄などであってよい。
【0034】
半硬化状態に於ける粘着力は、エネルギー線硬化性組成物の硬化を進める程度に依存し、硬化を進めて引張弾性率を高くなするほど低下する。硬化の程度は、多孔質体の形状や寸法、孔径、素材等により好適に調節でき、例えば予備試験により決定すればよいが、引張り弾性率が好ましくは1kPa〜100MPa、更に好ましくは5kPa〜10MPaになるように硬化条件を調節すればよい。本発明に於いては、引張弾性率の広い範囲で本発明の効果が得られる。
【0035】
また、半硬化状態に於ける粘着力は、エネルギー線硬化性組成物を構成するエネルギー線架橋重合性化合物の種類に依存する。一般に、エネルギー線架橋重合性化合物が低いガラス転移温度を持つもの、最終的硬化物の架橋間距離が長いもの、水酸基などの極性基を有するものである場合に、同じ引張弾性率で高い粘着力を示す。
【0036】
さらに、半硬化状態に於ける粘着力は、一般に単官能モノマーの添加により増加する。単官能モノマーとしては、鎖長が炭素数にして例えば10〜100程度と長いもの、低いガラス転移温度を持つもの、水酸基などの極性基を有するものが効果的である。
【0037】
〔工程2〕
次いで、前記半硬化部分に多孔質体を接触させ、前記粘着性により予備的に固定する。多孔質体を粘着性部分に接触させる方法は任意であり、多孔質体が粉末状である場合には、例えば十分多量の粉末を該半硬化部分に配し、振動を付与したり軽く圧迫した後、余剰の粉末を振動やブローなどにより除去する方法や、粉末を吹き付ける方法などを挙げることが出来る。余剰の多孔質体の除去は、工程3の後でも良い。
【0038】
また、粉末状の多孔質体を、前記半硬化部分よりは弱い粘着力を示す先端部を有する多孔質体配置用治具の該先端部に付着させ、該先端部の表面に付着した多孔質体を残して、該多孔質体配置用治具の表面に直接接触していない余剰の前記多孔質体を除去した後、該付着した多孔質体を前記半硬化部分に接触させて転写することにより、粉末状の前記多孔質体をロス無く略一層だけ基材表面に固着させることが出来る。この方法は、多孔質体が粉末状であって、種類の異なる多孔質体を基材の異なる領域に独立に固着させる場合に、コンタミネーションが生じにくいため好ましい。またこのとき、前記多孔質体配置用治具として、先端部が互いに接触しないよう配置された複数の棒状体(針状体)で構成されたものを使用し、前記棒状体を順次突出させて各先端部に異なる多孔質体を付着させ、それを順次又は同時に前記基材の粘着性部分に接触させて転写することが好ましい。
【0039】
多孔質体配置用治具の先端部の粘着力を付与する方法は任意であり、例えばグリセリンなどの洗浄除去可能な液体を付着させる方法もあるが、エネルギー線架重合性組成物の半硬化物でコートすることが好ましい。基材や多孔質体配置用治具の粘着力は、エネルギー線架重合性組成物の成分の選択の他、硬化の程度によっても制御できる。一般に、エネルギー線の照射量を増してゆくと、エネルギー線架重合性組成物は先ずゲル状となって流動性が失われ、その後粘着力が最大となり、硬化が進むと共に粘着力が減じて、最終的には粘着性のない完全硬化物となる。
【0040】
〔工程3〕
前記工程2の後、エネルギー線をさらに照射して前記半硬化部分のエネルギー線架橋重合性組成物の硬化を進め、前記多孔質体を前記半硬化部分に固着させる。本工程に於いては、エネルギー線照射により、前記半硬化部分のエネルギー線架橋重合性組成物の硬化の度合いを増せばよく、換言すれば、最終的な硬化は、使用に耐える強度で多孔質体を固着することが出来る程度でよく、必ずしもエネルギー線架橋重合性化合物の重合性官能基が完全に消失する必要はないが、粘着性が残存しない程度に硬化することが好ましい。
本工程で用いるエネルギー線は、工程1で用いたものと同じであっても、異なってもよい。特に本工程3に於いては、照射部の硬化の程度と速度を高める目的で、エネルギー線の照射を低酸素濃度雰囲気で行なうことも好ましい。低酸素濃度雰囲気としては、窒素雰囲気、二酸化炭素雰囲気、アルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気、真空又は減圧雰囲気が好ましい。
【0041】
[マイクロ流体デバイス]
本発明の多孔質体の固着方法は、マイクロ流体デバイスの流路の内面に多孔質体を固着する方法として好ましく使用できる。本発明でいうマイクロ流体デバイスとは、マイクロ・フルイディック・デバイス、マイクロ・ファブリケイテッド・デバイス、マイクロ流体素子、マイクロ流路、ラボ・オン・チップなどとも呼ばれるものを指し、マイクロ流体デバイスの内部或いは表面に設けられた流路や各種の機構内で、化学や生化学の反応、分散・晶析・混合・分離・濃縮などの物理化学的処理、検出や測定などを行うデバイスをいう。
【0042】
本発明の方法を適用して製造するマイクロ流体デバイスの外形は任意であるが、板状又はフィルム状であることが、温度調節が容易であること、バルブなどの機構を組み込むことが容易であること、製造が容易であること、等の点で好ましい。また、マイクロ流体デバイスが複数の層の積層体からなる板状又はフィルム状であり、流路が、該層の1層又は複数の層の欠損部として形成されていることも、製造が容易であり好ましい。
【0043】
該マイクロ流体デバイスを構成する素材は任意であるが、流路内面の多孔質体を固着する部分はエネルギー線架橋重合性組成物で形成される。例えば任意の素材で形成されたマイクロ流体デバイスの、多孔質体を固着する流路内面部分がエネルギー線架橋重合性組成物でコートされている構造、或いは流路が形成されている部材全体がエネルギー線架橋重合性組成物(の硬化物)で形成されている構造などがあり得る。
【0044】
これらの中で、後述の「マイクロ流体デバイスの場合の工程1」の項で述べるように、(1)前記基材が、少なくともその表面がエネルギー線架橋重合性組成物で形成された支持体と、流路となる欠損部を有する層状部材の積層体であり、工程1における半硬化部分が、凹状の流路の底面(支持体側の面)であること、又は、(2)基材が、支持体と、エネルギー線架橋重合性組成物で形成された、表裏を貫通する欠損部を有する層状部材の積層体であり、工程1における半硬化部分が、凹状の流路の側壁面(前記層状部材の、表裏を貫通する欠損部の表面)であること、が好ましい。
【0045】
[流路]
本発明の方法を適用するマイクロ流体デバイスが有する流路とは、流体が流れる部分を言い、その形状は任意である。例えば、マイクロ流体デバイス表面に設けられた凹状(溝状を含む。以下同様)の流体流通部、マイクロ流体デバイスの表面に開口した孔状(貫通孔または非貫通孔。以下同様)の流体流通部、又は、マイクロ流体デバイスの内部に形成された空洞状(毛細管状を含む。以下同様)の流体流通部、マイクロ流体デバイスの平滑な疎水性表面の一部に形成された親水性部分であり得る。これらの中で、空洞状の流路が、液体の蒸発が生じにくいなどの点で好ましいが、前記の凹状の部分の上に蓋となる部材を積層することにより、空洞状の流路にして使用することも出来る。また、本発明に於いては、「流路」とは流体が流通する部分全般を指し、単なる移送用の流路だけでなく、反応場、分離部、混合部、弁やポンプの一部等、何らかの機能を有する部分も含める。これらの、流路となる部分を有する部材が、前記「基材」とされる。
【0046】
流路の断面形状は、例えば、半円形、矩形、台形、逆台形(但し、角を有する形状については、角が丸められた形状を含む。以下同様)等であり得る。流路の寸法は任意であるが、多孔質体が固着されたマイクロ流体デバイスの特徴を発揮させるためには、流路断面積(又は溝の断面積)は、好ましくは100μm以上、さらに好ましくは400μm以上、最も好ましくは1000μm以上で、好ましくは10mm以下、さらに好ましくは1mm以下、最も好ましくは0.1mm以下である。流路断面積が上記未満だと、多孔質体の固着による表面積の増加の割合が低下し、多孔質体を固着するメリットが小さくなると同時に、製造も困難になる。上記を越えると、反応速度や処理速度の向上というマイクロ流体デバイスのメリットが減少する。
【0047】
流路の、多孔質体が固着された内壁面からその対向面までの距離は、固着された多孔質体の厚みを除いた寸法が、好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上、最も好ましくは10μm以上で、好ましくは300μm以下、さらに好ましくは200μm以下、最も好ましくは100μm以下である。但し、対向する両壁面に多孔質体が固着されている場合には、その中間点までの距離を上記範囲とする。また、流路が凹状であって、多孔質体固着面が該凹部の底面である場合には、凹部の深さを上記範囲とする。上記距離が上記未満だと、多孔質体の固着による表面積の増加の割合が低下し、多孔質体を固着するメリットが減少すると同時に、製造も困難になる。上記範囲を越えると、流体の拡散による該多孔質体との相互作用に時間を要し、マイクロ流体デバイスのメリットが減少する。
【0048】
流路の長さ方向の寸法や形状は任意である。マイクロ流体デバイスのメリットを喪失しない範囲で、例えば長さ2m以下で、用途目的に応じた長さを選択できるし、該流路を任意のパターンでマイクロ流体デバイス中に形成することができる。
【0049】
前記流路に多孔質体を固着させる部分は、流路の内面であれば任意である。流路断面に於ける周の全体であっても、周の一部であってもよいし、流路の長さ方向の一部であっても全部であってもよい。
【0050】
[マイクロ流体デバイスにおける工程1]
前記エネルギー線架橋重合性組成物で構成される部分は、例えば、あらかじめ形成された前記流路内面にエネルギー線架橋重合性組成物がコートされた物であってもよいし、流路を構成する部材をエネルギー線架橋重合性組成物で形成してもよい。
【0051】
(i)好ましい第一の例は、前記流路が形成された基材が、少なくとも表面が前記エネルギー線架橋重合性組成物で形成された支持体と、流路となる欠損部を有する層状部材の積層体として形成されているものである。この場合、形成される凹状の流路の底面(支持体側の面)が多孔質体固着部となる。該支持体を構成するエネルギー線架橋重合性組成物を本工程1で不完全硬化させた後、流路となる欠損部を有する層状部材を積層して、底面が粘着性の凹状の流路を形成する。流路内に複数の多孔質体固定部を形成する場合には、前記一般的な場合の工程1において述べた(1)、(2-1)、(2-2)を本工程の支持体の作製に適用できる。
【0052】
流路となる欠損部を有する層状部材の素材や製造方法は任意であり、例えば、任意のフィルムをレーザーカッターにより描画して該欠損部を形成したもの、エネルギー線架橋重合性組成物の塗工物にエネルギーをパターン照射し、非照射部の未硬化の該エネルギー線架橋重合性組成物を除去して該欠損部を形成したもの、を例示できる。
【0053】
(ii)好ましい第二の例としては、前記流路が形成された基材が、任意の素材による支持体と、前記エネルギー線架橋重合性組成物で形成された、流路となる欠損部を有する層状部材の積層体である場合を挙げることができる。この場合、例えば(ii-1)前記支持体上に塗布されたエネルギー線架橋重合性組成物塗膜にエネルギー線をパターン照射して、照射部分を不完全硬化させ、非照射部の未硬化のエネルギー線架橋重合性組成物を除去して凹状の流路を形成する。本第二の例に於いては、多孔質体固定部となる粘着性部分は凹状の流路の側壁となる。該流路の側壁の特定の領域に多孔質体を固着させる場合には、該固着させる部分以外の該流路側壁にエネルギー線を照射して非粘着性とする方法により実施できる。
【0054】
(ii-2)第二の例の他の好ましい方法として、任意の一時的な支持体上に塗布された前記エネルギー線架橋重合性組成物の前記流路となる部分以外の部分にエネルギー線を照射して前記照射部分を不完全硬化させ、非照射部の未硬化のエネルギー線架橋重合性組成物を除去した後、任意の支持体に貼り付け、前記一時的な支持体を除去して該層を転写する。本例に於いても、多孔質体固定部となる粘着性部分は凹状の流路の側壁となる。
【0055】
本第二の例を、前記第一の例と併用することも好ましい。その場合は、多孔質体固定部となる粘着性部分は凹状の流路の断面に於ける内側全体、即ち、底面と側壁となる。勿論、多孔質体を固着させたくない部分には、エネルギー線を照射することによって、非粘着性とすることができる。
【0056】
[マイクロ流体デバイスにおける工程2]
多孔質体を固定する部分が空洞状の流路の内面である場合には、凹状の流路を有する基材に工程2を施し、該工程2の後に、前記部材の流路形成面に蓋となる部材(蓋部材と称する)を積層し、両部材を固着させることにより、前記基材の表面に形成された流路を毛細管状の流路と成す工程を設けてもよい。このとき、該蓋部材の少なくとも固着面をエネルギー線架橋重合性組成物の未硬化物または半硬化物で形成し、且つ、この工程を工程3の前に行い、工程3のエネルギー線照射による粘着性部分の硬化と同時に、該蓋のエネルギー線架橋重合性組成物の硬化を進めても良い。該蓋としては、一時的な支持体に形成された、エネルギー線架橋重合性組成物塗膜の半硬化物、又は、板状又はフィルム状の部材にエネルギー線架橋重合性組成物を接着剤として薄く塗布した部材であることが好ましい。
【0057】
[マイクロ流体デバイスにおける工程3]
前記エネルギー線架橋重合性組成物で形成された半硬化状態の蓋部材、又は、板状又はフィルム状の部材にエネルギー線架橋重合性組成物を接着剤として薄く塗布した蓋部材を積層した場合には、本工程3のエネルギー線照射が、該蓋部材を基材に固着するためのエネルギー線照射を兼ねることが好ましい。
【0058】
上記の蓋部材を積層する工程を、工程3の後に行ってもよい。この際は、該蓋部材は、接着剤を薄く塗布された蓋部材であることが、接着力が強くなるため好ましい。なお、本蓋形成工程に於いては、該蓋部材に塗布された接着剤は多孔質体と接触しないため、該多孔質体の細孔を閉塞することはない。該接着剤としてエネルギー線架橋重合性組成物を使用することが、硬化時間が短く好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0060】
本実施例において使用したエネルギー線架橋重合性組成物の組成、および紫外線照射方法を以下に示す。
【0061】
〔エネルギー線架橋重合性組成物(X1)の調製〕
「ニューフロンティアBPE−4」(ジエチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、第一工業製薬株式会社製)100部、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュアー184」(チバガイギー社製)3部、及び重合遅延剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(関東化学株式会社製)0.5部を混合して、エネルギー線架橋重合性組成物(X1)(以下、単に[組成物(X1)」と称する)を調製した。エネルギー線架橋重合性組成物(X1)の25℃における粘度(山一電機製VM−100A型振動式粘度計にて測定)は1.1mPa・sであった。
【0062】
〔エネルギー線架橋重合性組成物(X2)の調製〕
平均分子量2000の3官能ウレタンアクリレートオリゴマー「ユニディックV−4263」(大日本インキ化学工業株式会社製)60部、ヘキサンジオールジアクリレート「ニューフロンティアHDDA」(第一工業製薬株式会社製)40部、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュアー184」(チバガイギー社製)3部、及び重合遅延剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(関東化学株式会社製)0.5部を混合して、エネルギー線架橋重合性組成物(X2)(以下、単に[組成物(X2)」と称する)を調製した。エネルギー線架橋重合性組成物(X2)の23℃における粘度(同上粘度計にて測定)は890mPa・sであった。
【0063】
〔紫外線ランプ1による照射〕
3000Wメタルハライドランプを光源とするアイグラフィックス株式会社製のUE031−353CHC型UV照射装置を用い、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を室温、窒素雰囲気中で照射した。
【0064】
〔紫外線ランプ2による照射〕
250W高圧水銀ランプを光源とするウシオ電機株式会社製のマルチライト250Wシリーズ露光装置用光源ユニットを用い、365nmにおける紫外線強度が50mW/cmの紫外線を室温、空気雰囲気中で照射した。
【0065】
(実施例1)
図1に本実施例で作製した 流路内に粒子状の多孔質体が固着されたマイクロ流体デバイスの(a)平面図模式図、(b)側面図模式図、及び(c)A部に於ける流路断面模式図(拡大図)を示す。
【0066】
〔工程1:基材の作製〕
厚さ1mmのアクリル樹脂製の支持体1にスピンコーターを用いて、組成物(X1)を塗布し、紫外線ランプ1にて 20秒間紫外線を照射して塗膜を半硬化させて底面層2とした。
【0067】
この上にスピンコーターを用いて組成物(X2)を塗工し、紫外線ランプ2により、フォトマスクを通して流路4となす部分以外の部分に紫外線を80秒照射して該流路層の組成物(X2)を硬化させ、50%アセトン水溶液で非照射部分の未硬化の組成物(X2)を洗浄除去して、流路層3の表裏を貫通する欠損部を形成した。これにより、該欠損部と底面層2とで形成された溝状の流路4を持つ基材11を作製した。この溝状の流路4の底面に露出している底面層2の表面と、溝状の流路4の両側面は半硬化状態であり粘着性を有していた。溝状の流路4以外の流路層3の表面は粘着性を示さなかった。
【0068】
〔工程2:多孔質体の一時的固定〕
前記溝状の流路4に多孔質体6としてシリカゲル粉末(和光純薬製、ワコーシル25、15〜30μm)をふりかけ、机に20回軽く打ちつけた後、指で軽く押さえ、その後、基材11を裏向きにして容器に数回軽く打ちつけて余剰の多孔質体6を除去して、該多孔質体6を粘着性により流路4の内面に一時的に固定した、
【0069】
〔蓋部材7の固着〕
片面がコロナ放電処理された厚さ60μmの2軸延伸ポリプロピレンシート(二村化学株式会社製)を一時的な支持体(図示略)として、この上に組成物(X2)をバーコーターを用いて塗工し、紫外線ランプ1により紫外線を30秒照射し、前記組成物の半硬化塗膜を形成し、蓋部材7とした。
上記蓋部材7を前記基材11の流路4形成面に積層して密着させた。
【0070】
〔工程3:多孔質体の固着〕
蓋部材7側から、紫外線ランプ1により基材11全体に紫外線を60秒照射して組成物(X1)及び組成物(X2)を完全に硬化させて、多孔質体6を固着すると同時に蓋部材7を基材11に固着した。次いで、前記一時的な支持体を蓋部材7から剥離除去して、図1(c)に示したように、底面と側面に多孔質体が固着された毛細管状の流路4を有するマイクロ流体デバイス前駆体を得た。
【0071】
〔その他の構造の形成〕
この後、流路4の両端部において、ドリルを用いて、蓋部材7を貫通し流路4に達する直径0.5mmの孔8、9を開けて、それぞれ、流入口8、流出口9とし、マイクロ流体デバイスを得た。
【0072】
〔構造と寸法の測定〕
得られたマイクロ流体デバイスを光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡を用いて各部の寸法を観察した。本マイクロ流体デバイスの各部の寸法は、外寸が75mm×25mm×1.3mmであり、各層の厚みは、支持体1が1.0mm、底面層2は25μm、多孔質体6を除く流路層3の厚み(即ち流路の深さ)は100μm、蓋部材は100μmであり、流路4の長さは50mm、流路4の幅は500μmであった。また、多孔質体6は、図1(c)に示したように、直径約10μmの粒子が流路の底面と両側面に1層だけ固着しており、該粒子が底面層2に入り込んでいる深さは正確には不明であるが1μm以下であった。また、該多孔質体は接着剤などの樹脂により表面が覆われていなかった。
【0073】
(実施例2)
本実施例では、流路内に1種類の粒子状の多孔質体が5つの独立した領域に固着されたマイクロ流体デバイスの製造方法について説明する。図2に本実施例で作製したマイクロ流体デバイスの(a)平面図模式図、(b)側面図模式図、及び(c)A部に於ける流路断面模式図(拡大図)を示す。
【0074】
工程1に於いて、さらに、流路4の多孔質体を固着させる部分以外の部分に紫外線2を40秒間照射し、照射部の組成物(X1)をほぼ完全硬化させて、該部分の粘着性を喪失させたこと以外は、実施例1と同様にしてマイクロ流体デバイスを作製した。
【0075】
このようにして、図2に示されたように独立した5つの領域に多孔質体が固着されたマイクロ流体デバイスを得た。
【0076】
(実施例3)
本実施例では、流路内に互いに異なる5種類の粒子状の多孔質体が5つの独立した領域にそれぞれ固着されたマイクロ流体デバイスの製造方法について説明する。
【0077】
工程2に於いて、粉末状の多孔質体を振りかける代わりに、下記の方法により、モデル実験として、互いに異なる色に着色した5種のシリカゲル粉末を多孔質体として固定したこと以外は実施例1と同様にしてマイクロ流体デバイスを作製した。
【0078】
即ち、工程1に於いて、約1×0.4mmの矩形の平面状の先端部を持つ棒の先端に組成物(X2)をコートし、1.5秒間紫外線照射することにより、先端部が前記基材より弱い粘着力を有する多孔質体配置用治具(図示略)を作製した。この先端部に粉末状の多孔質体を付着させ、容器に軽く打ち付けて余剰の多孔質体を落とした後、基材11の流路4中の多孔質体を固定すべき部分に接触させ、引き離すと、棒の先の多孔質体は完全に流路4の底面に転写された。この操作を残りの4種の多孔質体についても繰り返した。このようにして、図2(但し、本実施例に於いては、(c)における半硬化部分5、及び多孔質体6は底面のみであるところが異なる)に示されたように、独立した5つの領域に5種の異なる多孔質体が固着されたマイクロ流体デバイスを得た。
【0079】
(実施例4)
本実施例では、流路底面が組成物(X2)の半硬化物で形成され、そこに多孔質体が固着されたマイクロ流体デバイスの製造方法について説明する。
【0080】
組成物(X1)の代わりに組成物(X2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多孔質体が固着されたマイクロ流体デバイスを得た。
構造と寸法の測定の結果も、底面層2が100μmであること以外は、実施例1と同様であった。
【0081】
(実施例5)
多孔質体として、シリカゲルの代わりに活性炭粉末(10〜40μm、アルドリッチ社製)を用いたこと以外は実施例4と同様にして、多孔質体を固定したマイクロ流体デバイスを作製し、実施例4と同様の結果を得た。
【0082】
(実施例6)
基材として、実施例1に於ける支持体1上に底面層2を形成した板状物(流路層3は形成しない)を用い、多孔質体4として、市販のセルロースアセテート製MF膜(厚み200μm、アドバンテック社製)を指で押しつけて固定したこと以外は、実施例1と同様の方法で、板状の基材上にフィルム状の多孔質体を固着した。
【0083】
この固着物を液体窒素温度で割り、該破断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、底面層2と多孔質体4との境界部分に於いて、多孔質体4の細孔が樹脂により閉塞している様子は全く見られなかった。
【0084】
(実施例7)
底面層2を、実施例4と同様にして組成物(X2)で形成したこと以外は、実施例6と同様にして形成した。この多孔質体固着物の測定結果は実施例6と同様であった。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施例1、4及び5で作製した本発明のマイクロ流体デバイスの(a)平面図模式図、(b)側面図模式図、および(c)A部における流路断面図模式図(拡大図)である。
【図2】実施例2及び3で作製した本発明のマイクロ流体デバイスの(a)平面図模式図、(b)側面図模式図、および(c)A部における流路断面図模式図(拡大図)である。
【符号の説明】
【0086】
1 支持体
2 底面層
3 流路層
4 流路
5 多孔質体固着部分(粘着性部分)
6 多孔質体
7 蓋部材
8 孔、流入口
9 孔、流出口
11 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材の表面に多孔質体を固着する方法であって、
(1)前記部材の表面に、エネルギー線架橋重合性組成物の未硬化層を設け、該未硬化層の一部又は全部にエネルギー線を照射して、流動性を有さず、且つ粘着性を有する該エネルギー線架橋重合性組成物の半硬化部分を形成する工程(工程1)、
(2)前記部材の前記半硬化部分に多孔質体を接触させ、前記半硬化部分の粘着力により該多孔質体を予備的に固定する工程(工程2)、及び、
(3)エネルギー線照射により前記半硬化部分のエネルギー線架橋重合性組成物の硬化を進め、前記多孔質体を前記部材に固着させる工程(工程3)、
を含むことを特徴とする多孔質体の固着方法。
【請求項2】
前記工程1が、前記エネルギー線架橋重合性組成物の未硬化層に場所により照射線量が異なるパターン照射をすることにより、粘着性を示さない硬化部分と、流動性を有さず、且つ粘着性を示す半硬化部分とを形成するものである請求項1に記載の多孔質体の固着方法。
【請求項3】
前記多孔質体が粒子状の多孔質体であり、前記予備的に固定する工程2が、該粒子状の多孔質体を略略一層だけ固着させるものである請求項1又は2に記載の多孔質体の固着方法。
【請求項4】
前記工程2が、前記多孔質体を、前記半硬化部分よりは弱い粘着力を示す先端部を有する多孔質体配置用治具の該先端部に付着させ、該先端部の表面に略一層だけ付着した多孔質体を残し、該先端部の表面に直接接触していない余剰の前記多孔質体を除去した後、該先端部に付着した前記多孔質体を前記半硬化部分に接触させて転写することにより、前記粒子状の多孔質体を略一層だけ固着させる請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質体の固着方法。
【請求項5】
前記多孔質体配置用治具が、先端部が互いに接触しないよう配置された複数の棒状部で構成されており、前記工程2が、前記棒状部を順次突出させて各先端部に異なる多孔質体を付着させ、それを順次又は同時に前記半硬化部分に接触させて転写する請求項4に記載の多孔質体の固着方法。
【請求項6】
前記部材がマイクロ流体デバイスを構成する部材であり、前記工程1に於ける半硬化部分が、前記部材表面に開いた形状の流路の内面である請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔質体の固着方法。
【請求項7】
前記部材が、少なくともその表面が前記エネルギー線架橋重合性組成物を素材とする基材と、流路となる欠損部を有する層状部材の積層体であり、前記工程1における前記半硬化部分が、流路の基材面である、請求項6に記載の多孔質体の固着方法。
【請求項8】
前記部材が、基材と、前記エネルギー線架橋重合性組成物を素材とし、表裏を貫通する欠損部を有する層状部材の積層体であり、前記工程1における前記半硬化部分が、流路の側壁面である、請求項6に記載の多孔質体の固着方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−322265(P2007−322265A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153353(P2006−153353)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】