説明

多孔質体の製造方法並びに絶縁電線及びその製造方法

【課題】高くかつ均一な空孔率を有する多孔質体を効率よく得ることが可能な多孔質体の製造方法並びにそれを用いて製造された安定した伝送特性を有する絶縁電線及びその製造方法の提供。
【解決手段】紫外線硬化樹脂成分(X)中に含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)が、(X)が20〜80%及び(Y)が80〜20%となるように、かつ(Y)の粒径別配合割合として10〜30μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が体積分率で50〜90%及び1〜10μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が体積分率で10〜50%となるように、分散させて樹脂組成物を調製し、次いで該樹脂組成物薄膜を形成し、該薄膜に光照射をして前記樹脂組成物薄膜中の前記紫外線硬化樹脂を光重合により硬化させて樹脂組成物硬化薄膜を形成し、この硬化薄膜を乾燥して前記含水吸水性ポリマ微粒子から水分を除去して多孔質薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質体の製造方法並びにそれを用いて製造された絶縁電線及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、高くかつ均一な空孔率(マトリックス樹脂中における空孔の割合)を有する多孔質体を効率よく得ることが可能な多孔質体の製造方法並びにそれを用いて製造された安定した伝送特性を有する絶縁電線及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報機器においては伝送信号の高速化が進んでおり、これに用いられる電線としては低誘電率性が重視され、絶縁体としてポリエチレンやフッ素樹脂を押出し発泡成形した発泡絶縁体を用いた電線が用いられている。最近、機器の小型化及び高密度化が一層進み、例えば、0.3mm以下の外径を有する電線を用いることが必要になってきている。このような細径電線を押出し発泡成形で製造することが技術的に困難になってきているため、気体や発泡剤を含む紫外線硬化樹脂を塗布した後、紫外線硬化して発泡電線を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法は、高速かつ効率よく発泡絶縁層を形成することができる優れた方法であるが、気泡を成長させながら、絶縁体を形成していくプロセスからなり、気泡の成長度合いをコントロールすることが困難であることから、発泡度にバラツキが生じ易いという問題があった。なお、絶縁体の発泡度にバラツキが生じた場合は、絶縁体の誘電率にバラツキが生じ、その結果として、絶縁電線の伝送特性にバラツキが生じ、信号の遅延という問題が発生する。
【0003】
また、微細発泡を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献2〜4参照)。特許文献2に開示された方法は、光照射で酸が発生し、その酸によって分解される化合物を含むポリマを用いて微細気泡を作製する方法であるが、酸が発生することで導体を構成する金属を腐食させるという問題がある。また、特許文献3及び4に開示された方法は、キャストフィルム作製時に加湿状態で有機溶媒を除去してフィルムを形成することで多孔質膜を作る方法であるが、製造に長時間を必要とするという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−278333号公報
【特許文献2】特開2004−2812号公報
【特許文献3】特許第3963765号公報
【特許文献4】国際公開第2004/048064号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、高くかつ均一な空孔率(マトリックス樹脂中における空孔の割合)を有する多孔質体を効率よく得ることが可能な多孔質体の製造方法並びにそれを用いて製造された安定した伝送特性を有する絶縁電線及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下の多孔質体の製造方法並びにそれを用いて製造された絶縁電線及びその製造方法が提供される。
【0007】
[1]紫外線硬化樹脂成分(X)中に含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)を、両者の配合割合として、体積分率で、前記紫外線硬化樹脂(X)が20〜80%及び前記含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)が80〜20%となるように、かつ前記含水吸水性ポリマ微粒子(Y)の粒径別配合割合として、体積分率で、10〜30μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が50〜90%及び1〜10μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が10〜50%となるように、分散させて樹脂組成物を調製し、前記樹脂組成物を薄膜化して樹脂組成物薄膜を形成し、前記樹脂組成物薄膜に光照射をして前記樹脂組成物薄膜中の前記紫外線硬化樹脂を光重合により硬化させて樹脂組成物硬化薄膜を形成し、及び前記樹脂組成物硬化薄膜を乾燥して前記樹脂組成物硬化薄膜中の前記含水吸水性ポリマ微粒子から水分を除去して多孔質薄膜を形成することを含む多孔質体の製造方法。
【0008】
[2]前記紫外線硬化樹脂(X)は、アクリル系樹脂である前記[1]に記載の多孔質体の製造方法。
【0009】
[3]前記含水吸水性ポリマ微粒子(Y)は、ポリアルキレンオキサイド系樹脂及び/又は、ポリアクリルアミド系樹脂である前記[1]又は[2]に記載の多孔質体の製造方法。
【0010】
[4]前記樹脂組成物薄膜は、100μm以下の膜厚を有する前記[1]〜[3]のいずれかに記載の多孔質体の製造方法。
【0011】
[5]1本以上の導体、及び前記導体の外周上に形成された請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質体の製造方法を用いて製造された多孔質体からなる絶縁層、を有する絶縁電線。
【0012】
[6]紫外線硬化樹脂成分(X)中に含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)を、両者の配合割合として、体積分率で、前記紫外線硬化樹脂(X)が20〜80%及び前記含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)が80〜20%となるように、かつ前記含水吸水性ポリマ微粒子(Y)の粒径別配合割合として、体積分率で、10〜30μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が50〜90%及び1〜10μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が10〜50%となるように、分散させて塗料としての樹脂組成物を調製し、前記樹脂組成物を導体上に薄膜化して樹脂組成物薄膜を形成し、前記樹脂組成物薄膜に光照射をして前記樹脂組成物薄膜中の前記紫外線硬化樹脂を光重合により硬化させて前記導体上に樹脂組成物硬化薄膜を形成し、及び前記樹脂組成物硬化薄膜を乾燥して前記樹脂組成物硬化薄膜中の前記含水吸水性ポリマ微粒子から水分を除去して前記導体上に絶縁層としての多孔質薄膜を形成することを含む絶縁電線の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高くかつ均一な空孔率(マトリックス樹脂中における空孔の割合)を有する多孔質体を効率よく得ることが可能な多孔質体の製造方法並びにそれを用いて製造された安定した伝送特性を有する絶縁電線及びその製造方法を提供することができる。特に、本発明で得られる多孔質体は、例えば、絶縁電線の絶縁層に用いられる場合、機器の小型化及び高密度化の要請に基づき細径電線を得る必要から、絶縁層を薄肉化する場合に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る絶縁電線を製造するために用いられる塗布硬化乾燥装置を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る絶縁電線を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の多孔質体の製造方法並びにそれを用いて製造された絶縁電線及びその製造方法の実施の形態について、付図を用いて詳細に説明する。
【0016】
I.多孔質体の製造方法
本発明の実施の形態に係る多孔質体の製造方法は、紫外線硬化樹脂成分(X)中に含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)を、両者の配合割合として、体積分率で、紫外線硬化樹脂(X)が20〜80%及び含水吸水性ポリマ微粒子(Y)が80〜20%となるように、かつ含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)の粒径別配合割合として、体積分率で、10〜30μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が50〜90%及び1〜10μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が10〜50%となるように、分散させて樹脂組成物を調製し、樹脂組成物を薄膜化して樹脂組成物薄膜を形成し、樹脂組成物薄膜に光照射をして樹脂組成物薄膜中の紫外線硬化樹脂を光重合により硬化させて樹脂組成物硬化薄膜を形成し、及び樹脂組成物硬化薄膜を乾燥して樹脂組成物硬化薄膜中の含水吸水性ポリマ微粒子から水分を除去して多孔質薄膜を形成することを含む。
【0017】
以下、樹脂組成物の調製、樹脂組成物薄膜の形成、樹脂組成物硬化薄膜の形成及び多孔質薄膜の形成についてそれぞれ説明する。
【0018】
1.樹脂組成物の調製
本実施の形態においては、紫外線硬化樹脂成分(X)中に含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)を分散させて樹脂組成物を調製する。本実施の形態に用いられる紫外線硬化樹脂成分(X)は、通常、重合性オリゴマ、重合性モノマ及び架橋開始剤を含んで構成され、中でも、硬化速度が速く、電気絶縁性がよい点からアクリル系樹脂が好ましい。
【0019】
紫外線硬化樹脂成分(X)を構成する重合性オリゴマとしては、不飽和結合を有する官能基、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリル基、ビニル基等を2個以上有するものを挙げることができる。これらは、一部の元素がフッ素置換されたものであってもよい。具体的には、このような重合性オリゴマとして、エポキシアクリレート系オリゴマ、エポキシ化油アクリレート系オリゴマ、ウレタンアクリレート系オリゴマ、ポリエステルウレタンアクリレート系オリゴマ、ポリエーテルウレタンアクリレート系オリゴマ、ポリエステルアクリレート系オリゴマ、ポリエーテルアクリレート系オリゴマ、ビニルアクリレート系オリゴマ、シリコーンアクリレート系オリゴマ、ポリブタジエンアクリレート系オリゴマ、ポリスチレンエチルメタアクリレート系オリゴマ、ポリカーボネートジカルボネート系オリゴマ、不飽和ポリエステル系オリゴマ、ポリエン/チオール系オリゴマ等を挙げることができる。これらの重合性オリゴマは単独で又は2種以上を組み合わせて用いられることができる。
【0020】
紫外線硬化樹脂成分(X)を構成する重合性モノマとしては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基等を1個以上有するものを挙げることができる。中でも、硬化速度が速く、電気絶縁性がよい点から、アクリロイル基、メタクリロイル基を有するアクリル系材料が好ましい。
【0021】
紫外線硬化樹脂成分(X)を構成する架橋開始剤は、光によって分解されてフリーラジカルを生成し、そのフリーラジカルが、上述の重合性オリゴマ及び重合性モノマの硬化を開始させる機能を有するものである。このような架橋開始剤としては、例えば、ベンゾインエーテル系化合物、ケタール系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を挙げることができる。
【0022】
本実施の形態に用いられる含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)とは、吸水性ポリマに水を含ませたものを意味する。ここで、「含水」は、吸水性ポリマの体積を増やすために必要である。このような含水することによって含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)を構成することになる吸水性ポリマとしては、例えば、デンプン−アクリロニトリルグラフト重合体の加水分解物、デンプン−アクリル酸グラフト重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体の加水分解物、ポリアクリル酸塩架橋体、カルボキシメチル化セルロース、ポリアルキレンオキサイド系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂等を挙げることができる。中でも、吸水性及び膨張性に優れる点から、ポリアルキレンオキサイド系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂が好ましいが、使用量によっては他のものであってもよい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられることができる。
【0023】
本実施の形態においては、紫外線硬化樹脂成分(X)及び含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)の他に、以下の配合物を必要に応じて適宜配合することができる。すなわち、このような配合物としては、開始助剤、接着防止剤、チクソ付与剤、充填剤、可塑剤、非反応性ポリマ、着色剤、難燃剤、難燃助剤、軟化防止剤、離型剤、乾燥剤、分散剤、湿潤剤、沈澱防止剤、増粘剤、帯電防止剤、静電防止剤、防かび剤、防鼠剤、防蟻剤、艶消し剤、ブロッキング防止剤、皮張り防止剤、界面活性剤等を挙げることができる。また、本実施の形態において用いられる紫外線照射源としては、例えば、低圧水銀灯、メタルハライドランプ等を挙げることができる。
【0024】
紫外線硬化樹脂成分(X)と含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)との組成(分散時の配合割合)は、体積分率で、紫外線硬化樹脂(X)が、通常20〜80%、好ましくは
30〜70%、及び含水吸水性ポリマ微粒子(Y)が、通常80〜20%、好ましくは
70〜30%である。含水吸水性ポリマ成分(Y)の体積分率が20%未満であると、得られる多孔質体の空孔率が低く、多孔質体としての特徴である誘電率の低減や、質量の低減が不十分となる。また、含水吸水性ポリマ成分(Y)の体積分率が80%を超えると、紫外線硬化樹脂成分(X)が少なすぎるため、含水吸水性ポリマ成分(Y)が海成分となり、かつ紫外線硬化樹脂成分(X)が島になって、海島の逆転が生じ、次工程における薄膜の形成が困難になる。
【0025】
含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)の粒径別配合割合は、体積分率で、10〜30μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が通常50〜90%、好ましくは60〜80%、及び1〜10μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が通常10〜50%、好ましくは20〜40%である。10〜30μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が50%未満であると(1〜10μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が50%を超えると)、海島の逆転が生じやすく高い空孔率を得ることが困難である。また、10〜30μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が90%を超えると(1〜10μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が10%未満であると)、やはり海島の逆転が生じやすく高い空孔率を得ることが困難である。この現象は、大きな平均粒径範囲に属する微粒子(Y)同士の隙間に小さな平均粒径範囲に属する微粒子(Y)が入り込む場合にのみ、含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)を高充填で詰め込むことができるためと考えられる。このように大小2種類の平均粒径範囲に属する微粒子(Y)、(Y)を、大粒径範囲に属する微粒子(Y)を主成分とし、かつ小粒径範囲に属する微粒子(Y)を副成分として組み合わせることによって、高空孔率の多孔質体を得ることができる。すなわち、本実施の形態において、得られる多孔質体の空孔率を向上させるためには、紫外線硬化樹脂成分(X)に対して含水吸水性ポリマ成分(Y)の配合割合を高くすることが必要であるが、本実施の形態におけるように、大小2種類の平均粒径範囲に属する微粒子を用いることによって、紫外線硬化樹脂成分(X)のマトリックス(海)の中に、含水吸水性ポリマ成分(Y)(島)をより高濃度に充填させることができるようになり、結果的に高空孔率の多孔質体を得ることができるようになるのである。なお、含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)の直径は、多孔質体における空孔径を形成することになる。
【0026】
本実施の形態において、紫外線硬化樹脂成分(X)と含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)とから樹脂組成物を調製する方法(多孔質体が絶縁電線の絶縁層として用いられる場合は、絶縁層を形成するため導体に塗布される塗料の調製方法に相当する)としては、含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)が紫外線硬化樹脂成分(X)に均一かつ十分に分散された樹脂組成物が得られるものであれば、特に制限はないが、例えば、以下の方法を挙げることができる。すなわち、吸水性ポリマ(含水前の吸水性ポリマ微粒子)に所定量の水、例えば、吸水性ポリマに30倍重量の水を混合して含水させたものを、高速攪拌型ミキサーの攪拌数及び攪拌時間を変化させた2条件で処理し、大小2種類の平均粒径範囲に属する含水吸水性ポリマ微粒子(Y)、(Y)を調製する。この大小2種類の平均粒径範囲に属する含水吸水性ポリマ微粒子(Y)、(Y)を、所定の配合割合で紫外線硬化樹脂成分(X)に添加して軽く攪拌し、樹脂組成物(塗料)とすることを挙げることができる。
【0027】
2.樹脂組成物薄膜の形成
次に、上述のようにして調製された樹脂組成物を薄膜化して樹脂組成物薄膜を形成する。本実施の形態において用いられる薄膜化の方法としては、特に制限はないが、例えば、コーティング、キャスティングを挙げることができる。この場合、上述のように、本実施の形態に係る多孔質体は、例えば、絶縁電線の絶縁層に用いられる場合、機器の小型化及び高密度化の要請に基づき細径電線を得る必要から、絶縁層となる樹脂組成物薄膜は薄肉化されることが好ましい。このような要請に加えて、光重合の実施の容易さの要請から、絶縁層となる樹脂組成物薄膜は、100μm以下の膜厚を有するように形成されることが好ましく、80μm以下の膜厚を有するように形成されることがさらに好ましい。
【0028】
3.樹脂組成物硬化薄膜の形成
次に、上述のようにして形成された樹脂組成物薄膜に光照射をして樹脂組成物薄膜中の紫外線硬化樹脂を光重合により硬化させて樹脂組成物硬化薄膜を形成する。本実施の形態において用いられる光重合による硬化の方法としては、特に制限はないが、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀灯、低圧水銀灯等の光源を照射する方法を挙げることができる。
【0029】
4.多孔質薄膜の形成
次に、上述のようにして形成された樹脂組成物硬化薄膜を乾燥して樹脂組成物硬化薄膜中の含水吸水性ポリマ微粒子(Y)から水分を除去して多孔質薄膜を形成する。本実施の形態において用いられる水分の乾燥除去方法としては、特に制限はないが、例えば、空気循環式恒温槽を用いた乾燥、赤外線加熱又はマイクロ波加熱による乾燥を挙げることができる。
【0030】
II.絶縁電線
本実施の形態の絶縁電線10は、1本以上の導体7、及び導体7の外周上に形成された上述の多孔質体の製造方法を用いて製造された多孔質体からなる絶縁層6を有する。
【0031】
本実施の形態に用いられる導体7としては、通常、銅が用いられるが、銅の周囲にニッケル等の金属めっきを施したものであっても、他の絶縁層を形成したものであってもよい。その構成本数は、1本であっても複数本であってもよい。
【0032】
III.絶縁電線の製造方法
本実施の形態の絶縁電線の製造方法は、紫外線硬化樹脂成分(X)中に含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)を、両者の配合割合として、体積分率で、紫外線硬化樹脂(X)が20〜80%及び前記含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)が80〜20%となるように、かつ含水吸水性ポリマ微粒子(Y)の粒径別配合割合として、体積分率で、10〜30μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が50〜90%及び1〜10μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が10〜50%となるように、分散させて塗料としての樹脂組成物を調製し、樹脂組成物を導体上に薄膜化して樹脂組成物薄膜を形成し、樹脂組成物薄膜に光照射をして樹脂組成物薄膜中の紫外線硬化樹脂を光重合により硬化させて導体上に樹脂組成物硬化薄膜を形成し、及び樹脂組成物硬化薄膜を乾燥して樹脂組成物硬化薄膜中の含水吸水性ポリマ微粒子から水分を除去して導体上に絶縁層としての多孔質薄膜を形成することを含む。
【0033】
具体的には、例えば、上述の方法で得られた樹脂組成物を塗料として用いるとともに、図1に示すような、電線導体送出し機1、塗布ダイス2、紫外線ランプ3(例えば、メタルハライドランプ1kW)、乾燥機4(例えば、250℃熱風方式、1秒間加熱)、電線巻取り機5(例えば、巻取り速度:60m/分)を備えた塗布硬化乾燥装置を用いる方法を挙げることができる。この方法によれば、図2に示すように、厚さが40μmの絶縁層6及び25μm径の銅線7本の撚線を用いた導体7を有する絶縁電線10を得ることができる。このようにして得られる絶縁電線10においては、空孔径が平均粒径14μmの空孔の、絶縁層6に対する空孔率(体積分率)は、約50%となる。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の絶縁電線の製造方法等を、実施例及び比較例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例及び比較例によって、いかなる制限を受けるものではない。
【0035】
(実施例1)
紫外線硬化樹脂成分(X)として、重合性オリゴマ(X):ウレタンアクリレート系オリゴマ 80.0質量部、重合性モノマ(X):アクリロイル基を有するモノマ 20.0質量部、及び架橋開始剤(X):1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(イルガキュア(登録商標)184チバ・ジャパン社製) 2質量部からなる組成物を用いた。表1では樹脂成分(X)と表記した。
【0036】
含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)を構成する10〜30μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)として、吸水性ポリマ:アクアコークTWB−PF(住友精化社製)10gに純水310gを配合し、ホモジナイザー(日本精機製作所社製エクセルホモジナイザーED−12)を用いて、3,000RPMで5分間攪拌し、体積平均粒子径16μmの微粒子を得、この微粒子を10〜30μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)とした。表1では大微粒子(Y)と表記した。同様に、含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)を構成する1〜10μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)として、吸水性ポリマ:アクアコークTWB−PF(住友精化社製)10gに純水310gを配合し、ホモジナイザー日本精機製作所社製エクセルホモジナイザーED−12)を用いて、12,000RPMで5分間攪拌し、体積平均粒子径3μmの微粒子を得、この微粒子を1〜10μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)とした。表1では小微粒子(Y)と表記した。なお、含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)は、表1では、微粒子成分(Y)と表記した。
【0037】
次いで、紫外線硬化樹脂成分(X)700ml及び含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)300ml(その内訳は10〜30μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)180ml、及び1〜10μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)120ml)からなる組成物を、ホモジナイザー(日本精機製作所社製エクセルホモジナイザーED−12)を用いて、1,000RPMで10分攪拌し、塗料としての樹脂組成物とした。
【0038】
次いで、得られた樹脂組成物を、塗布ダイスを用いて、外径25μm×7本からなる導体上に厚さが50μmの樹脂組成物薄膜を形成した。
【0039】
次いで、得られた樹脂組成物薄膜に、直ちに、メタルハライドランプにより紫外線を照射し、導体上に樹脂組成物硬化薄膜を形成した。
【0040】
次いで、得られた樹脂組成物硬化薄膜に、赤外線を照射して水分を乾燥させ、導体上に絶縁層としての多孔質薄膜を形成し、絶縁電線を得た。得られた絶縁電線における絶縁層の空孔率は30%であった。得られた絶縁電線における絶縁層の空孔率等を表1に示す。
【0041】
(実施例2〜4)
実施例1において、紫外線硬化樹脂成分(X)及び含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)の配合割合を表1に示す値に変えたこと以外は、実施例1と同様にして絶縁電線を得た。得られた絶縁電線における絶縁層の空孔率等を表1に示す。
【0042】
(比較例1〜4)
実施例1において、紫外線硬化樹脂成分(X)及び含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)の配合割合を表1に示す値に変えたこと以外は、実施例1と同様にして絶縁電線を得た。得られた絶縁電線における絶縁層の空孔率等を表1に示す。なお、比較例1〜2は、紫外線硬化樹脂成分(X)と含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)との体積分率での配合割合が本発明の範囲から外れる場合を示し、比較例3〜4は、紫外線硬化樹脂成分(X)と含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)との体積分率での配合割合は本発明の範囲内であるが、10〜30μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)と1〜10μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)との体積分率での配合割合が本発明の範囲から外れる場合を示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1における配合量において、樹脂成分(X)の欄並びに微粒子成分(Y)、大微粒子(Y)及び小微粒子(Y)の欄の上段における括弧を付していない数字、例えば、実施例1において700、300、180、120は、各成分の体積(ml)をそれぞれ示し、樹脂成分(X)の欄及び微粒子成分(Y)の欄の下段における丸括弧を付した数字、例えば、実施例1において(70)と(30)は、樹脂成分(X)と微粒子成分(Y)との体積分率をそれぞれ示し、大微粒子(Y)及び小微粒子(Y)の欄の下段における角括弧を付している数字、例えば、実施例1において[60]と[40]は、大微粒子(Y)と小微粒子(Y)との体積分率をそれぞれ示す。
【0045】
実施例及び比較例において、樹脂成分(X)、微粒子成分(Y)、大微粒子(Y)及び小微粒子(Y)の平均粒径及び体積分率は、顕微鏡による断面の観察及び比重測定により、それぞれ測定した。
【符号の説明】
【0046】
1 導体送出し機
2 塗布ダイス
3 紫外線照射ランプ
4 熱風乾燥炉
5 電線巻取り機
6 絶縁層
7 導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化樹脂成分(X)中に含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)を、両者の配合割合として、体積分率で、前記紫外線硬化樹脂(X)が20〜80%及び前記含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)が80〜20%となるように、かつ前記含水吸水性ポリマ微粒子(Y)の粒径別配合割合として、体積分率で、10〜30μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が50〜90%及び1〜10μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が10〜50%となるように、分散させて樹脂組成物を調製し、
前記樹脂組成物を薄膜化して樹脂組成物薄膜を形成し、
前記樹脂組成物薄膜に光照射をして前記樹脂組成物薄膜中の前記紫外線硬化樹脂を光重合により硬化させて樹脂組成物硬化薄膜を形成し、及び
前記樹脂組成物硬化薄膜を乾燥して前記樹脂組成物硬化薄膜中の前記含水吸水性ポリマ微粒子から水分を除去して多孔質薄膜を形成することを含む多孔質体の製造方法。
【請求項2】
前記紫外線硬化樹脂(X)は、アクリル系樹脂である請求項1に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項3】
前記含水吸水性ポリマ微粒子(Y)は、ポリアルキレンオキサイド系樹脂及び/又は、ポリアクリルアミド系樹脂である請求項1又は2に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂組成物薄膜は、100μm以下の膜厚を有する請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質体の製造方法。
【請求項5】
1本以上の導体、及び
前記導体の外周上に形成された請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質体の製造方法を用いて製造された多孔質体からなる絶縁層、を有する絶縁電線。
【請求項6】
紫外線硬化樹脂成分(X)中に含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)を、両者の配合割合として、体積分率で、前記紫外線硬化樹脂(X)が20〜80%及び前記含水吸水性ポリマ微粒子成分(Y)が80〜20%となるように、かつ前記含水吸水性ポリマ微粒子(Y)の粒径別配合割合として、体積分率で、10〜30μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が50〜90%及び1〜10μmの体積平均粒径を有する微粒子(Y)が10〜50%となるように、分散させて塗料としての樹脂組成物を調製し、
前記樹脂組成物を導体上に薄膜化して樹脂組成物薄膜を形成し、
前記樹脂組成物薄膜に光照射をして前記樹脂組成物薄膜中の前記紫外線硬化樹脂を光重合により硬化させて前記導体上に樹脂組成物硬化薄膜を形成し、及び
前記樹脂組成物硬化薄膜を乾燥して前記樹脂組成物硬化薄膜中の前記含水吸水性ポリマ微粒子から水分を除去して前記導体上に絶縁層としての多孔質薄膜を形成することを含む絶縁電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−168645(P2011−168645A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31440(P2010−31440)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】