説明

多孔質体の製造方法及びこの多孔質体を用いた絶縁電線並びに樹脂組成物

【課題】絶縁体としての多孔質体の発泡度のバラツキを抑制することにあり、そのための多孔質体の製造方法及びこの多孔質体を絶縁体層として用いた絶縁電線並びに前記多孔質体を製造するのに好ましい樹脂組成物を提案する。
【解決手段】電離放射線によって架橋処理された含水吸水性ポリマの微粒子を紫外線硬化樹脂中に分散した組成物を塗料として導体2に塗布、硬化させて多孔質体(絶縁体層)8とし、その後、水分を乾燥除去して絶縁電線6を完成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体の製造方法及びこの多孔質体を用いた絶縁電線並びに多孔質体の製造に用いるための樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
情報機器においては伝送信号の高速化が進んでおり、これに使用する絶縁電線は、低誘電率性を重視して、絶縁体としてポリエチレンやフッ素樹脂を押出し発泡成形した発泡絶縁体を用いた構成としている。近年、機器の小型化及び高密度化が一層進み、使用する絶縁電線は、例えば外径が0.3mm以下の細径であることが必要になっている。
【0003】
このような細径の絶縁電線を押出し発泡成形で製造することは技術的に難しい。発泡絶縁体を使用する絶縁電線を製造する方法としては、特許第3047686号公報、特開平7−278333号公報、特開平7−272662号公報、特開平7−272663号公報、特開平7−335053号公報、特開平8−17256号公報、特開平8−17257号公報、特開平7−320506号公報、特開平9−102230号公報、特開平11−176262号公報にて提案された製造方法がある。これらの製造方法は、高速に、効率良く発泡絶縁体層を形成する方法としては優れているが、気泡を成長させながら絶縁体を形成していくプロセスであることから、気泡の成長度合いをコントロールすることが困難であり、発泡度にバラツキが生じ易いという問題があった。なお、絶縁体の発泡度にバラツキが生じた場合には、絶縁体層の誘電率にバラツキが生じ、絶縁電線の信号伝送特性にバラツキが生じることから信号の遅延という問題が発生する。
【0004】
また、絶縁体に微細発泡を形成する方法としては、特開2004−2812号公報、特許第3963765号公報、国際公開WO2004/048064号公報にて提案された方法がある。特開2004−2812号公報にて提案されている方法は、光照射により発生する酸により分解する化合物を含むポリマを用いて微細気泡を形成する方法であることから、発生した酸により導体を構成する金属を腐食させる問題がある。また、特許第3963765号公報、国際公開WO2004/048064号公報にて提案されている方法は、キャストフィルム作製時に加湿状態で有機溶媒を除去してフィルムを形成することにより多孔質膜を作る方法であるが、製造に長時間を要するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3047686号公報
【特許文献2】特開平7−278333号公報
【特許文献3】特開平7−272662号公報
【特許文献4】特開平7−272663号公報
【特許文献5】特開平7−335053号公報
【特許文献6】特開平8−17256号公報
【特許文献7】特開平8−17257号公報
【特許文献8】特開平7−320506号公報
【特許文献9】特開平9−102230号公報
【特許文献10】特開平11−176262号公報
【特許文献11】特開2004−2812号公報
【特許文献12】特許第3963765号公報
【特許文献13】国際公開WO2004/048064号公報
【特許文献14】特開2001−2703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の1つの目的は、従来技術の問題点である絶縁体としての多孔質体の発泡度(気泡と樹脂の割合)のバラツキを抑制することであり、そのための多孔質体の製造方法及びこの多孔質体を絶縁体層として用いた絶縁電線並びに前記多孔質体を製造するのに好ましい樹脂組成物を提案することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、発泡度にバラツキが少ない多孔質体を効率良く製造する方法を提案することにある。
【0008】
本発明の更に他の目的は、発泡度にバラツキが少ない多孔質体を絶縁体層として使用して効率良く信号伝送特性のバラツキが少ない絶縁電線を製造する方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を実現するために、本発明は、次のような多孔質体の製造方法及びこの多孔質体を絶縁体層として用いた絶縁電線並びに前記多孔質体を製造するための好ましい樹脂組成物を提案するものである。具体的には、
請求項1に係る発明は、紫外線硬化樹脂中に含水吸水性ポリマの微粒子を分散した組成物を塗膜としてフィルム化し、フィルム化の後に紫外線硬化樹脂を光照射により重合硬化し、硬化後に水分を乾燥除去することで多孔質体を製造する製造方法において、
前記含水吸水性ポリマは、電離放射線によって架橋処理されたポリマであることを特徴とする多孔質体の製造方法である。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1において、
前記含水吸水性ポリマは、含水した架橋処理されたカルボキシルアルキルセルロースであることを特徴とする多孔質体の製造方法である。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1において、
前記含水吸水性ポリマの微粒子は、粉砕装置により平均粒径が1〜100μmに粉砕されたものであることを特徴とする多孔質体の製造方法である。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載の製造方法により製造された多孔質体を絶縁体層に用いたことを特徴とする電気絶縁電線である。
【0013】
請求項5に係る発明は、紫外線硬化樹脂中に、電離放射線によって架橋処理されたポリマである含水吸水性ポリマの微粒子を分散させたことを特徴とする樹脂組成物である。
請求項6に係る発明は、請求項5において、
前記含水吸水性ポリマは、カルボキシルアルキルセルロースであることを特徴とする樹脂組成物である。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項5または6において、
前記含水吸水性ポリマの微粒子は、平均粒径が1〜100μmに粉砕されたものであることを特徴とする樹脂組成物である。
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項5〜7の何れか1項において、
前記紫外線硬化樹脂と含水吸水性ポリマの組成物における前記含水吸水性ポリマの体積分率が20%〜80%であることを特徴とする樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、絶縁体としての多孔質体の発泡度(気泡と樹脂の割合)のバラツキを抑制することができる。
【0017】
また、そのための多孔質体の製造方法及びこの多孔質体を絶縁体層として用いた絶縁電線並びに前記多孔質体を製造するのに好ましい樹脂組成物を提供することができる。
【0018】
また、発泡度にバラツキが少ない多孔質体を効率良く製造する方法を提供することができる。
【0019】
また、発泡度にバラツキが少ない多孔質体を絶縁体層として使用して効率良く細径の絶縁電線を製造することができる。
【0020】
特に、絶縁電線の製造方法は、薄肉絶縁層でありながら、その発泡度が高く且つその発泡状態が均一で、しかも絶縁電線の生産性が顕著に高いものであり、工業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】絶縁電線製造において導線に絶縁層を形成する工程を実行する装置の模式図である。
【図2】この実施例により製造された絶縁電線の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するために用いる紫外線硬化樹脂の基本的構成は、重合性オリゴマ、重合性モノマ、架橋開始剤を含むものであり、特にアクリル系樹脂であることが望ましい。
【0023】
前記重合性オリゴマとしては、不飽和結合を有する官能基、例えばアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリル基、ビニル基等を2個以上有するものがある。これらのものは、一部の元素をフッ素置換したものでもよい。
【0024】
このような重合性オリゴマとしては、具体的には、エポキシアクリレート系オリゴマ、エポキシ化油アクリレート系オリゴマ、ウレタンアクリレート系オリゴマ、ポリエステルウレタンアクリレート系オリゴマ、ポリエーテルウレタンアクリレート系オリゴマ、ポリエステルアクリレート系オリゴマ、ポリエーテルアクリレート系オリゴマ、ビニルアクリレート系オリゴマ、シリコーンアクリレート系オリゴマ、ポリブタジエンアクリレート系オリゴマ、ポリスチレンエチルメタアクリレート系オリゴマ、ポリカーボネートジカルボネート系オリゴマ、不飽和ポリエステル系オリゴマ、ポリエン/チオール系オリゴマ等がある。そして、これらの重合性オリゴマは、単独若しくは混合して使用することができる。
【0025】
また、前記重合性モノマとしては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基等を1個以上有する重合性モノマがある。特にアクリロイル基、メタクリロイル基を有するアクリル系材料が望ましい。
【0026】
また、前記架橋開始剤は、光により分解してフリーラジカルを生成し、このフリーラジカルが重合性オリゴマ、重合性モノマの硬化を開始させる機能を有する部材である。このような架橋開始剤としては、ベンゾインエーテル系化合物、ケタール系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物等がある。
【0027】
本発明を実施するために使用する含水吸水性ポリマとしては、含水率が大きいこと、微粒子形状で安定していることが必要であり、架橋しているポリマを用いることが望ましい。架橋方法としては、例えば、特開2001−2703号公報に開示されているように、電離放射線照射による架橋が、他の化学架橋による架橋方法に比べて効率が良く、さらに、高純度の材料を得るのに適している。また、架橋されるポリマとしては、カルボキシルアルキルセルロースやポリビニルアルコール等の水溶性ポリマを使用することができ、特に、カルボキシルアルキルセルロースが純度や吸水特性の観点で好適である。
【0028】
ここで、含水吸水性ポリマは、粉砕機によって微粒子形状に粉砕して用いると良い。なお、微粒子の形状は、製造する多孔質体の空孔の形状を決定するものであり、1〜100μmの粒子形状が望ましい。100μmを超える粒径の粒子では、形成される空孔も100μmを超える大きさになってしまい、薄膜の皮膜形成が困難になってしまう。また、1μmに満たない粒子径では、粒子同士が凝集し、その結果として空孔径が大きくなってしまうなどの問題が生じて好ましくない。
【0029】
本発明の実施においては、前記紫外線硬化樹脂と含水吸水性ポリマの他に次のような配合物を必要に応じて適宜配合することができる。すなわち、この配合物としては、開始助剤、接着防止剤、チクソ付与剤、充填剤、可塑剤、非反応性ポリマ、着色剤、難燃剤、難燃助剤、軟化防止剤、離型剤、乾燥剤、分散剤、湿潤剤、沈殿防止剤、増粘剤、帯電防止剤、静電防止剤、防かび剤、防鼠剤、防蟻剤、艶消し剤、ブロッキング防止剤、皮張り防止剤、界面活性剤等がある。
【0030】
本発明の実施において使用する紫外線照射源としては、低圧水銀灯、メタルハライドランプ等がある。
【0031】
紫外線硬化樹脂と含水吸水性ポリマの組成物としては、含水吸水性ポリマの体積分率が20%〜80%であることが望ましい。含水吸水性ポリマの体積分率が20%より小さい場合には、得られる多孔質体の空孔度が低く、多孔質体の特徴である誘電率の低減や重量の低減が不十分となる。また、含水吸水性ポリマの体積分率が80%より大きい場合には、紫外線硬化樹脂成分が過少となって含水吸水性ポリマが海成分となり、紫外線硬化樹脂が島になる海島逆転現象が生じてフィルムの製造ができなくなる問題が生じる。
【0032】
本発明において、赤外線硬化樹脂プレポリマと含水吸水性ポリマからなる塗料の製造方法は、紫外線硬化樹脂プレポリマに含水吸水性ポリマの微粒子が分散されていれば、製造方法としては特に限定されるものではないが、次のような方法の採用を提案することができる。
【0033】
吸水性ポリマに所定量の水を含ませたものを高速攪拌型ミキサーにより攪拌回転数、攪拌時間を変えた2条件で処理することにより、2種類の平均粒径の異なる微粒子形状の含水吸水性ポリマを調整する。この平均粒子径の異なる含水吸水性ポリマを所定の組成比で紫外線硬化樹脂プレポリマに軽く攪拌混合して塗料とする。
【0034】
この塗料に適するコーティング装置を用いて塗布、紫外線照射することによる重合硬化、脱水乾燥を行って多孔質フィルムや多孔質電線絶縁体を得る。
【実施例】
【0035】
絶縁電線の製造方法の実施例を比較例と共に説明する。
【0036】
絶縁材料(絶縁塗料)の製造について
イ)重合性オリゴマとして、ウレタンアクリレート系オリゴマである東亜合成社製アロニックスM−1100を80.0重量部と、
ロ)重合性モノマとして、シクロペンタニルメタクリレート20.0重量部と、
ハ)架橋開始剤として、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(イルガキュア(登録商標)184チバ・ジャパン社製)2重量部と
からなる組成物を紫外線硬化樹脂プレポリマとする。
【0037】
次に、含水吸水性ポリマは、カルボキシルアルキルセルロースとして、カルボキシルメチルセルロース(ダイセルファインケム社製CMC1350)を10重量%含む水溶液に30kGyの電離放射線を照射して架橋を行い、この放射線照射によって架橋した含水吸水性ポリマゲルを製造した。そして、製造した含水吸水性ポリマゲル組成物を凍結粉砕装置により平均粒径15μmの微粒子に粉砕したものを含水吸水性ポリマとした。
【0038】
なお、粒径は、光学顕微鏡で観察した微粒子を測長することにより求めた。
【0039】
含水吸水性ポリマの微粒子と紫外線硬化樹脂を配合し、ホモジナイザー(日本精機製作所社製エクセルホモジナイザーED−12)により3,000rpmで10分間攪拌して得た樹脂組成物を塗料とした。
【0040】
なお、ここでは、含水吸水性ポリマとして、カルボキシルメチルセルロースを用いたが、ポリビニルアルコール等の他の水溶性ポリマを用いることもできる。
【0041】
絶縁電線の製造について
前記実施例の塗料を使用して絶縁電線を製造する方法について図面を参照して説明する。
【0042】
図1は絶縁電線製造において導線に絶縁層を形成する工程を実行する装置の模式図であり、図2はこの実施例により製造された絶縁電線の断面を示す模式図である。
【0043】
導体送出し機1は、所定の導体(銅線)2を送出す。塗布ダイス3は、導体送出し機1から送出された導体2に前記塗料を塗布する。紫外線照射ランプ4は、導体2に塗布された塗料に紫外線を照射することにより該塗料を硬化させて多孔質体(絶縁体層)8とする。熱風乾燥炉5は、硬化した絶縁体層(塗料)8を熱風乾燥させて絶縁電線6とする。電線巻取り機7は、絶縁電線6を巻き取る。
【0044】
この実施例では、導体2として、直径25μmの銅線7本の撚線を使用した。紫外線照射ランプ4には、1kWのメタルハライドランプを使用した。熱風乾燥炉5は、250℃の熱風で1秒加熱の構成とした。導体2(絶縁電線6)の移動速度は、100m/分とした。
【0045】
そして、得られた絶縁電線6は、導体2の表面に40μmの厚さの絶縁体層8が形成された構成であり、絶縁体層8内には、平均粒径15μmの気泡が全絶縁体層の体積中に50%を有する構成であった。
【0046】
本発明によって構成した塗料を使用して製造した絶縁電線(実施例)と未架橋の含水吸水ポリマと紫外線硬化樹脂を配合して構成した塗料を使用して実施例と同様に製造した絶縁電線(比較例)の試作結果は次の表1,2に示すとおりである。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【符号の説明】
【0049】
1…導体送出し機、2…導体、3…塗布ダイス、4…紫外線照射ランプ、5…熱風乾燥炉、6…絶縁電線、7…電線巻取り機、8…多孔質体(絶縁体層)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化樹脂中に含水吸水性ポリマの微粒子を分散した組成物を塗膜としてフィルム化し、フィルム化の後に紫外線硬化樹脂を光照射により重合硬化し、硬化後に水分を乾燥除去することで多孔質体を製造する製造方法において、
前記含水吸水性ポリマは、電離放射線によって架橋処理されたポリマであることを特徴とする多孔質体の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記含水吸水性ポリマは、含水した架橋処理されたカルボキシルアルキルセルロースであることを特徴とする多孔質体の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、前記含水吸水性ポリマの微粒子は、粉砕装置により平均粒径が1〜100μmに粉砕されていることを特徴とする多孔質体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の製造方法により製造された多孔質体を絶縁体層に用いたことを特徴とする電気絶縁電線。
【請求項5】
紫外線硬化樹脂中に、電離放射線によって架橋処理されたポリマである含水吸水性ポリマの微粒子を分散させたことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5において、前記含水吸水性ポリマは、カルボキシルアルキルセルロースであることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項7】
請求項5または6において、前記含水吸水性ポリマの微粒子は、平均粒径が1〜100μmに粉砕されたものであることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項8】
請求項5〜7の何れか1項において、前記紫外線硬化樹脂と含水吸水性ポリマの組成物における前記含水吸水性ポリマの体積分率が20%〜80%であることを特徴とする樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−246576(P2011−246576A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120230(P2010−120230)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】