説明

多孔質支持体―ゼオライト膜複合体およびそれを用いる分離方法

【課題】無機材料分離膜による分離、濃縮において、実用上十分な処理量と分離性能を両立する多孔質支持体−ゼオライト膜複合体、該ゼオライト膜複合体を用いた分離、濃縮方法を提供する。
【解決手段】多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してなる多孔質支持体―ゼオライト膜複合体であって、該多孔質支持体の平均厚さが0.1mm以上7mm以下であり、かつ水銀圧入法による細孔分布測定により求められ、下記式(1):
(D−D95)/D50 (1)
(式中、D、D50およびD95は、それぞれ、大きい細孔から積算した細孔容積の合計量が、全細孔容積の5%になるときの細孔径、全細孔容積の50%になるときの細孔径および全細孔容積の95%になるときの細孔径を示す。)
により算出される、支持体の細孔分布を表す指標が40以下であることを特徴とする多孔質支持体−ゼオライト膜複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質支持体―ゼオライト膜複合体に関し、さらに詳しくは、有機物を含む気体または液体の混合物から、透過性の高い物質を透過して分離し、透過性の低い物質を濃縮することが可能な多孔質支持体―ゼオライト膜複合体、該ゼオライト膜複合体を用いる分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機物を含有する気体または液体の混合物の分離、濃縮は、対象となる物質の性質に応じて、蒸留法、共沸蒸留法、溶媒抽出/蒸留法、吸着剤などにより行われている。
しかしながら、これらの方法は、多くのエネルギーを必要とする、あるいは分離、濃縮対象の適用範囲が限定的であるといった欠点がある。
近年、これらの方法に代わる分離方法として、高分子膜やゼオライト膜などの膜を用いた膜分離、濃縮方法が提案されている。高分子膜、例えば平膜や中空糸膜などは、加工性に優れるが、耐熱性が低いという欠点がある。また高分子膜は、耐薬品性が低く、特に有機溶媒や有機酸といった有機物との接触で膨潤するものが多いため、分離、濃縮対象の適用範囲が限定的である。
【0003】
また、ゼオライト膜は、通常、支持体上に膜状にゼオライトを形成させたゼオライト膜複合体として分離、濃縮に用いられている。例えば有機物と水との混合物を、ゼオライト膜複合体に接触させ、水を選択的に透過させることにより、有機物を分離し、濃縮することができる。無機材料の膜を用いた分離、濃縮は、蒸留や吸着剤による分離に比べ、エネルギーの使用量を削減できるほか、高分子膜よりも広い温度範囲で分離、濃縮を実施でき、更に有機物を含む混合物の分離にも適用できる。
【0004】
ゼオライト膜を用いた分離法として、例えば、A型ゼオライト膜複合体を用いて水を選択的に透過させてアルコールを濃縮する方法(特許文献1)、モルデナイト型ゼオライト
膜複合体を用いてアルコールと水の混合系から水を選択的に透過させてアルコールを濃縮する方法(特許文献2)や、フェリエライト型ゼオライト膜複合体を用いて酢酸と水の混合系から水を選択的に透過させて酢酸を分離・濃縮する方法(特許文献3)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−185275号公報
【特許文献2】特開2003−144871号公報
【特許文献3】特開2000−237561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実用化に十分な処理量と分離性能を両立し、かつ有機物、特に有機酸への耐性をもつゼオライト膜はいまだ見出せていない。例えば、特許文献2のモルデナイト型ゼオライト膜複合体や特許文献3のフェリエライト型ゼオライト膜複合体は、透過流束が小さく、実用化には処理量が不十分である。また、酸性条件下で脱Al化反応が進行するので、使用時間が長くなるにつれ分離性能が変化し、有機酸存在条件下での使用は望ましくない。特許文献1のA型ゼオライトは、酸と接触すると構造が破壊されるため、有機酸存在下では分離膜として用いることができなかった。
【0007】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点が解決された、無機材料分離膜による分離、濃縮において、実用上十分な処理量と分離性能を両立する多孔質支持体−ゼオライト膜複合体、該ゼオライト膜複合体を用いた分離、濃縮方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ある種のゼオライトを無機多孔質支持体上に膜状に形成させれば、実用上十分な処理量と分離性能を両立するゼオライト膜複合体が得られることを見出し、先に提案した(特願2010−043366号明細書)。
本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、多孔質支持体の細孔径の分布を特定の範囲とすれば、多孔質支持体の気孔率、平均細孔径および肉厚を変えることなく、高い透過流束を達成できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて成し遂げられた
ものである。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、次の[1]〜[11]に存する。
[1]多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してなる多孔質支持体―ゼオライト膜複合体であって、該多孔質支持体の平均厚さが0.1mm以上7mm以下であり、かつ水銀圧入法による細孔分布測定により求められ、下記式(1):
(D−D95)/D50 (1)
(式中、D、D50およびD95は、それぞれ、大きい細孔から積算した細孔容積の合計量が、全細孔容積の5%になるときの細孔径、全細孔容積の50%になるときの細孔径および全細孔容積の95%になるときの細孔径を示す。)
により算出される、支持体の細孔分布を表す指標が40以下であることを特徴とする多孔質支持体−ゼオライト膜複合体。
[2]多孔質支持体が、表面粗度(Ra)が1.2以下となるまで表面研磨されたものであることを特徴とする上記[1]に記載の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体。
[3]多孔質支持体が、セラミックス支持体であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体。
[4]ゼオライト膜が、CHA型ゼオライトを含むものであることを特徴とする上記[1]乃至[3]の何れかに記載の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体。
[5]有機物を含む気体または液体の混合物を、上記[1]乃至[4]の何れかに記載の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体に接触させて、該混合物から、透過性の高い物質を透過させて分離することを特徴とする分離方法。
[6]多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してなる多孔質支持体―ゼオライト膜複合体であって、該多孔質支持体の平均厚さが0.1mm以上7mm以下であり、かつ水銀圧入法による細孔分布測定により求められ、下記式(2):
(logD−logD95)/logD50 (2)
(式中、D、D50およびD95は、それぞれ、大きい細孔から積算した細孔容積の合計量が、全細孔容積の5%になるときの細孔径、全細孔容積の50%になるときの細孔径および全細孔容積の95%になるときの細孔径を示す。logは常用対数を表す。)
により算出される、支持体の細孔分布を表す指標が7以下であることを特徴とする多孔質支持体−ゼオライト膜複合体。
[7]多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してなる多孔質支持体―ゼオライト膜複合体であって、該多孔質支持体の平均厚さが0.1mm以上7mm以下であり、かつ水銀圧入法による細孔分布測定により求められ、下記式(2):
(logD−logD95)/logD50 (2)
(式中、D、D50およびD95は、それぞれ、大きい細孔から積算した細孔容積の合計量が、全細孔容積の5%になるときの細孔径、全細孔容積の50%になるときの細孔径および全細孔容積の95%になるときの細孔径を示す。logは常用対数を表す。)により算出される、多孔質支持体―ゼオライト膜複合体の細孔分布を表す指標が、7以下であ
ることを特徴とする多孔質支持体−ゼオライト膜複合体。
[8]多孔質支持体が、表面粗度(Ra)が1.2以下となるまで表面研磨されたものであることを特徴とする前記[6]または[7]に記載の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体。
[9]多孔質支持体が、セラミックス支持体であることを特徴とする上記[6]乃至[8]の何れかに記載の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体。
[10]ゼオライト膜が、CHA型ゼオライトを含むものであることを特徴とする[6]乃至[9]の何れかに記載の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体。
[11]有機物を含む気体または液体の混合物を、[6]乃至[10]の何れかに記載の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体に接触させて、該混合物から、透過性の高い物質を透過させて分離することを特徴とする分離方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、有機物を含む気体または液体の混合物から特定の化合物を分離、濃縮する際に、実用上も十分に大きい処理量を有し、かつ十分な分離性能を有する多孔質支持体−ゼオライト膜複合体が提供される。このゼオライト膜複合体を分離手段として用いることにより、十分な処理量と分離性能を両立する、有機物を含む気体または液体の混合物から透過性の高い物質の分離、混合物の濃縮が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】パーベーパレーション測定装置の概略図である。
【図2】実施例1および比較例1で用いた多孔質支持体(セラミックス支持体)の、水銀圧入法による細孔分布測定により得られた水銀圧入法圧入曲線である。図中、実線は実施例1で用いた多孔質支持体1の曲線、破線は比較例1で用いた多孔質支持体2の曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について更に詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本発明の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してなる多孔質支持体−ゼオライト膜複合体であって、該多孔質支持体の平均厚さが0.1mm以上7mm以下であり、かつ水銀圧入法による細孔分布測定により求められ、下記式(1):
(D−D95)/D50 (1)
(式中、D、D50およびD95は、それぞれ、大きい細孔から積算した細孔容積の合計量が、全細孔容積の5%になるときの細孔径、全細孔容積の50%になるときの細孔径および全細孔容積の95%になるときの細孔径を示す。)により算出される、支持体の細孔分布を表す指標(以下、「式(1)で表される細孔分布の指標」、または単に「指標(1)」ということがある。)が40以下であることに特徴を有するものである。
【0013】
および/または本発明の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、多孔質支持体上にゼオ
ライト膜を形成してなる多孔質支持体―ゼオライト膜複合体であって、該多孔質支持体の平均厚さが0.1mm以上7mm以下であり、かつ水銀圧入法による細孔分布測定により求められ、下記式(2):
【0014】
(logD−logD95)/logD50 (2)
(式中、D、D50およびD95は、それぞれ、大きい細孔から積算した細孔容積の合計量が、全細孔容積の5%になるときの細孔径、全細孔容積の50%になるときの細孔径および全細孔容積の95%になるときの細孔径を示す。logは常用対数を表す。)
により算出される、支持体、または多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の細孔分布を表す指標(以下、「式(2)で表される細孔分布の指標」、または単に「指標(2)」ということがある。)が7以下であることに特徴を有するものである。
なお、本明細書において、本発明の「多孔質支持体−ゼオライト膜複合体」を単に「ゼオライト膜複合体」または「膜複合体」と、また「多孔質支持体」を単に「支持体」と略称することがある。
【0015】
(多孔質支持体)
本発明のゼオライト膜複合体に使用される支持体としては、その表面などにゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性があり、無機の多孔質よりなる支持体(無機多孔質支持体)であれば如何なるものであってもよい。例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体(セラミックス支持体)、鉄、ブロンズ、ステンレス等の焼結金属や、ガラス、カーボン成型体などが挙げられる。
【0016】
これら多孔質支持体の中で、基本的成分あるいはその大部分が無機の非金属物質から構成されている固体材料であるセラミックスを焼結したもの(セラミックス支持体)を含む無機多孔質支持体が好ましい。この無機多孔質支持体を用いれば、その一部がゼオライト膜合成中にゼオライト化することで界面の密着性を高める効果がある。
具体的には、例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体(セラミックス支持体)が挙げられる。それらの中で、アルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体が好ましいものとして挙げられる。これらの支持体を用いれば、部分的なゼオライト化が容易であるため、支持体とゼオライトの結合が強固になり緻密で分離性能の高い膜が形成されやすくなる。
【0017】
多孔質支持体の形状は、気体混合物や液体混合物を有効に分離できるものであれば特に制限されず、具体的には、例えば、平板状、管状のもの、または円筒状、円柱状や角柱状の孔が多数存在するハニカム状のものやモノリスなどが挙げられる。
本発明において、多孔質支持体の表面などにゼオライトを膜状に結晶化させる。支持体の表面は、支持体の形状に応じて、どの表面であってもよく、複数の面であっても良い。例えば、円筒管の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってよい。
【0018】
支持体の平均厚さ(肉厚) は、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、よ
り好ましくは0.5mm以上であり、通常7mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。支持体はゼオライト膜に機械的強度を与える目的で使用しているが、支持体の平均厚さが薄すぎるとゼオライト膜複合体が十分な強度を持たずゼオライト膜複合体が衝撃や振動等に弱くなることがある。支持体の平均厚さが厚すぎると透過した物質の拡散が悪くなり透過流束が低くなることがある。
【0019】
支持体の気孔率は、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、通常70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。支持体の気孔率は、気体や液体を分離する際の透過流量を左右し、下限未満では透過物の拡散を阻害する傾向があり、上限を超えると支持体の強度が低下する傾向がある。
【0020】
さらに、本発明で用いる支持体は、水銀圧入法による細孔分布測定により求められ、
下記式(1):
(D−D95)/D50 (1)
(式中、D、D50およびD95は、それぞれ、大きい細孔から積算した細孔容積の合
計量が、全細孔容積の5%になるときの細孔径、全細孔容積の50%になるときの細孔径および全細孔容積の95%になるときの細孔径を示す。)により算出される、支持体の細孔分布を表す指標が40以下の値をもつものである。なお、水銀圧入法による細孔分布測定の詳細は実施例において述べる。
【0021】
上記の式(1)で表される支持体の細孔分布を表す指標 は、通常40以下であるが、
好ましくは30以下、より好ましくは20以下、特に好ましくは10以下である。また下限は特に制限されないが、通常0.1以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上である。
【0022】
また本発明で用いる支持体は、水銀圧入法による細孔分布測定により求められ、
下記式(2):
(logD−logD95)/logD50 (2)
(式中、D、D50およびD95は、それぞれ、大きい細孔から積算した細孔容積の合計量が、全細孔容積の5%になるときの細孔径、全細孔容積の50%になるときの細孔径および全細孔容積の95%になるときの細孔径を示す。logは常用対数を表す。)により算出される、支持体の細孔分布を表す指標が7以下の値をもつものである。
【0023】
上記の式(2)であらわされる支持体の細孔分布を表す指標は、通常7以下であるが、好ましくは6.5以下、より好ましくは6以下、特に好ましくは5.5以下である。また下限は特に制限されないが、通常0.1以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上である。
式(1)および式(2)の値は、細孔分布を表す指標である。この値が小さくなるほど、支持体の細孔分布は均一となる。細孔分布が均一であれば、気体が支持体内で拡散していく際に抵抗が小さくなるため、支持体内での拡散速度の分布も小さくなり、拡散速度が大きくなって、透過流束が向上する。支持体の細孔分布が大きいと様々な形状の流路が存在するため流体の拡散に不利となり透過流束が小さくなる。
【0024】
さらに均一な細孔分布を持つ支持体を用いた場合、支持体に、後述する種結晶を担持して、ゼオライト膜複合体を合成する場合に、種結晶がより均一に担持されやすく、そのためより欠陥の少ないゼオライト膜が支持体上に形成されやすい傾向があり有利である。また、必要な種結晶の量も少量で済む傾向がある点で有利である。
上記のとおり、本発明において、支持体の細孔分布としては、(D−D95)/D50が40以下であるが、D50は、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。D50が小さすぎると透過量が小さくなる傾向があり、大きすぎると支持体自体の強度が不十分になることがあり、支持体表面の細孔の割合が増えて緻密なゼオライト膜が形成されにくくなることがある。
【0025】
また、Dは、通常0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上であり、通常300μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは20μm以下、もっとも好ましくは10μm以下である。Dが小さすぎると透過量が小さくなる傾向があり、大きすぎると支持体自体の強度が不十分になることがあり、支持体表面の細孔の割合が増えて緻密なゼオライト膜が形成されにくくなることがある。
【0026】
また、D95は、通常0.005μm以上、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上であり、通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下である。D95が小さすぎると透過量が小さくなる傾向があり、大きすぎると支持体自体の強度が不十分になることがあり、支持
体表面の細孔の割合が増えて緻密なゼオライト膜が形成されにくくなることがある。
【0027】
前記式(1)で表される細孔分布の指標は、支持体の細孔分布を表す簡便な指標として用いることができる。指標(1)は、その算出にあたり、細孔径を表すD、D95、D50をそのまま用いて、細孔分布を表す指標をより分かりやすい形で定義したものである。しかしながら、水銀圧入法による細孔分布測定で測定される細孔径は、下記の実施例に記載のとおり、404μmから0.0036μmと非常に幅広いため、細孔径の大きい領域の値の変化は細孔径が小さい値の変化よりも過大に評価される傾向がある。
【0028】
例えば、D95=1μm、D=100μm、でそれぞれの誤差が値の±50%の場合、指標(1)を用いた場合、D95=1±0.5μm、D=100±50μmとなる。このように細孔径の値が大きい領域の誤差は細孔径の値が小さい領域に比べて、誤差の割合が同じでも値としては非常に大きい値となる。これを(常用)対数表記で誤差の範囲を表すと、logD95=0(−0.3〜0.18)、logD=2(1.70〜2.18)となり、誤差の幅は細孔径が大きい領域、小さい領域ともに、同じ値となる。(この
場合は0.48)
【0029】
このように、非常に広範囲な細孔径分布においての細孔径の領域を比較する場合は、実際の数値よりも、対数表記で表した数値を用いたほうがより適切である。
したがって細孔分布の実態をより正確に表すには、細孔径の常用対数をとることが望ましい。そのため細孔径の常用対数で表わされる式(2)で表される指標を用いることが望ましい。
ここで、従来、多孔質支持体―ゼオライト膜複合体を用いた水と有機化合物の混合物(以下これを「含水有機化合物」ということがある。)の分離において、透過流束に影響を与える因子としては、支持体の気孔率ε、平均細孔径d、厚さ(肉厚)lが挙げられ、これらの因子も用いて表される圧力損出係数l/(ε・d)が小さいほど、即ち気孔率が高く、平均細孔径が大きく、多孔質支持体の肉厚が薄いほど大きな透過流束が得られるとされていた(第25回ゼオライト研究発表会「講演予講集」第56頁、2009年11月)。
【0030】
しかしながら、多孔質支持体の気孔率が高く、平均細孔径が大きく、肉厚が薄くなると、多孔質支持体の強度が小さくなるという問題が生じる。したがって、多孔質支持体の気孔率、平均細孔径、肉厚を変えずに、高い透過流束を実現する方法が望まれていた。
支持体の細孔分布を表す指標が、上記した特定の値である支持体を用いることにより、支持体の気孔率、平均細孔径、厚さ(肉厚)を変えることなく、高い透過流束をもつゼオライト膜複合体を提供し得る。
【0031】
多孔質支持体は、その細孔分布を、前記式(1)で表される細孔分布の指標の値が40以下、又は前記式(2)で表される細孔分布の指標の値が7以下となるようにすることが必要である。
指標(1)または指標(2)が上記の値を満たす支持体を得る手段は特に限定されるものではないが、例えば支持体の製造条件を調整することにより、細孔分布の狭い支持体を製造する方法や、支持体の表面層を研磨などの方法によって除去する方法などが挙げられる。
【0032】
支持体の製造条件の調整方法としては、従来公知の方法を適宜用いることができ、例えば支持体を構成する原料粒子の大きさのばらつきを小さくするといった方法や、焼成温度、焼成時の昇温速度等の焼成条件を最適化するといった方法、また支持体の製造時に焼結助剤を使用する場合には、焼結助剤の種類や量の最適化等の方法が挙げられる。
支持体の表面層を研磨などの方法によって除去する方法では、セラミックス支持体表面
の緻密な層を研磨等により除去することにより、支持体の細孔径の分布を小さくしている。分離膜等に用いられる多孔質支持体―ゼオライト膜複合体の多孔性支持体は、通常、セラミックス支持体である。セラミックス支持体は、押出成形によって成型した後、焼成することにより製造される。そのため、表面の気孔率が内部より小さく、すなわち表面が内部より緻密になる傾向がある。したがって、無機セラミックスの表面の緻密な層を研磨等により除去することにより、支持体の細孔径の分布を小さくすることができる。
【0033】
表面の研磨などにより支持体表面の緻密な層を除去する場合、緻密な層が除去される限りにおいて除去する支持体の重量等は特に限定されないが、除去の程度を表す指標として表面粗度を用いることができ、通常表面粗度(Ra)を1.2以下とすればよい。表面粗度(Ra)は、好ましくは1.1以下、より好ましくは1.0以下である。下限は特に限定されないが、通常0.3以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上である。
【0034】
表面粗度(Ra)を小さくし過ぎると、支持体上にゼオライト膜を形成する工程において、ゼオライト種結晶の支持体上への付着が不十分となることがある。
支持体表面の研磨方法はとくに限定されないが、例えば、紙やすりや、布やすり、研磨ペーストなどを用いて研磨する方法が挙げられる。紙やすりや布やすりで研磨する方法としては、これらのやすりを人力あるいは機械によって支持体に押し付けながら支持体ないしは押さえつけている箇所を移動させることで行う。
紙やすりや布やすりの砥粒の材質は特に限定されないが炭化ケイ素(SiC)が好ましい。
【0035】
紙やすりや布やすりの目の粗さは、通常は#200以上#20000以下、好ましくは#500以上#10000以下である。一種類の目の粗さのやすりを用いてもかまわないし、研磨の進行に伴い徐々に目の粗さを細かくしていっても差し支えない。目の粗さが粗すぎると支持体の表面を砥粒によってかえって傷つけて凹凸を大きくしてしまう危険がある。目の粗さが細かすぎると紙やすりや布やすりから砥粒がすぐにはがれてしまい、研磨のために大量の紙やすりや布やすりが必要となり経済的でない。
【0036】
また、紙やすりや布やすりを用いる研磨方法としては、やすりおよび支持体を水でぬらしながら研磨する湿式研磨でも、乾いた状態で研磨する乾式研磨でもかまわない。紙やすりや布やすりを用いる以外の研磨方法としては、旋盤によって支持体の表面を切削する方法も用いることができる。
いずれの研磨方法を用いた場合も、膜複合体の作製以前に研磨した支持体を洗浄して乾燥させることが望ましい。洗浄の方法としては流水による洗浄、超音波洗浄機による洗浄が挙げられる。洗浄をしないと研磨によって生じた微粉が多孔質支持体の細孔に詰まり、透過流束を低下させる一因となることがある。
表面粗度(Ra)を1.2以下とする研磨以外の方法としては、酸によって支持体の表面を溶かす方法やアルカリによって支持体の表面を溶かす方法などが挙げられる。
なお、表面粗度(Ra)の測定法としては、特に限定されるものではないが、表面粗さ計を用いた測定法のような接触型の測定方法や、レーザー顕微鏡を用いた測定法のような非接触型の測定方法があり、通常、表面粗さ計を用いた測定法が用いられる。表面粗さ計を用いた表面粗度(Ra)の測定法の詳細は実施例において述べる。
【0037】
(ゼオライト膜複合体)
本発明においては、前記多孔質支持体上にゼオライト膜を形成させ、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体とする。
本発明において、膜を構成するゼオライトとしては、具体的にはケイ酸塩とリン酸塩が挙げられる。ケイ酸塩としては、例えば、アルミノケイ酸塩、ガロケイ酸塩、フェリケイ
酸塩、チタノケイ酸塩、ボロケイ酸塩等が、リン酸塩としては、アルミニウムと燐からなるアルミノリン酸塩(ALPO−5などのALPOと称されるもの)、ケイ素とアルミニウムと燐からなるシリコアルミノリン酸塩(SAPO−34などのSAPOと称されるもの)、Feなどの元素を含むFAPO−5などのMeAPOと称されるメタロアルミノリ
ン酸塩、等が挙げられる。これらの中で、アルミノケイ酸塩、シリコアルミノリン酸塩が好ましく、アルミノケイ酸塩がより好ましい。
【0038】
ゼオライト膜を構成する成分としては、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機物、あるいはゼオライト表面を修飾するシリル化剤などを必要に応じ含んでいてもよい。また、本発明におけるゼオライト膜は、一部アモルファス成分などを含んでいてもよいが、好ましくは実質的にゼオライトのみで構成されるゼオライト膜である。
【0039】
ゼオライト膜の厚さは特に制限されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは1.0μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下の範囲である。膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向があり、小さすぎると選択性が低下したり、膜強度が低下する傾向がある。膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向がある。
【0040】
ゼオライトの粒子径は特に限定されないが、小さすぎると粒界が大きくなるなどして透過選択性などを低下させる傾向がある。それゆえ、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、上限は膜の厚さ以下である。さらに、ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じである場合が特に好ましい。ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じであるとき、ゼオライトの粒界が最も小さくなるためである。
【0041】
ゼオライトのSiO/Alモル比は、好ましくは5以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上、特に好ましくは12以上であり、好ましくは2000以下、より好ましくは1000以下、さらに好ましくは500以下、特に好ましくは100以下である。SiO/Alモル比が下限未満では耐久性が低下する傾向があり、上限を超えると疎水性が強すぎるため、透過流束が小さくなる傾向がある。
なお、本発明におけるSiO/Alモル比は、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)により得られた数値である。数ミクロンの膜のみの情報を得るために通常はX線の加速電圧を10kVで測定する。
【0042】
ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトは、好ましくは酸素6〜10員環構造を有するゼオライトを含むもの、より好ましくは酸素6〜8員環構造を有するゼオライトを含むものである。ここでいう酸素n員環を有するゼオライトのnの値は、ゼオライト骨格を形成する酸素とT元素(骨格を構成する酸素以外の元素)で構成される細孔の中で最も酸素の数が大きいものを示す。例えば、MOR型ゼオライトのように酸素12員環と8員環の細孔が存在する場合は、酸素12員環のゼオライトとみなす。
【0043】
酸素6〜10員環構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AEL、AFG、ANA、BRE、CAS、CDO、CHA、DAC、DDR、DOH、EAB、EPI、ESV、EUO、FAR、FRA、FER、GIS、GIU、GOO、HEU、IMF、ITE、ITH、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、MEP、MER、MEL、MFI、MFS、MON、MSO、MTF、MTN、MTT、MWW、NAT、NES、NON、PAU、PHI、RHO、RRO、RTE、RTH、RUT、SGT、SOD、STF、STI、STT、TER、TOL、TON、TSC、TUN、UFI、VNI、VSV、WEI、YUGなどが挙げられる。
【0044】
酸素6〜8員環構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AFG、ANA、CHA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、SOD、STI、TOL、UFIなどが挙げられる。
酸素n員環構造はゼオライトの細孔のサイズを決定するものであり、6員環よりも小さいゼオライトではHO分子のKinetic半径よりも細孔径が小さくなるため透過流束が小さくなり実用的でない場合がある。また、酸素10員環構造よりも大きい場合は細孔径が大きくなり、サイズの小さな有機物では分離性能が低下することがあり、用途が限定的になる場合がある。
【0045】
O分子など小さい分子を他の分子と分離する場合には細孔のサイズが大きいとその細孔サイズより小さく、かつHO分子よりも大きい分子を分離することが困難になるため酸素6〜8員環構造を有するゼオライトが特に望ましい。
ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å)は特に制限されないが、通常17以下、好ましくは16以下、より好ましくは15.5以下、特に好ましくは、15以下であり、通常10以上、好ましくは11以上、より好ましくは12以上である。
【0046】
フレームワーク密度とは、ゼオライトの1000Åあたりの酸素以外の骨格を構成する元素(T元素)の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まる。したがってフレームワーク密度が小さいほど1000Åあたりの空間が広いことを意味するため、フレームワーク密度が小さいほどゼオライト中の物質の拡散速度が速く、ゼオライト膜にした場合に透過流束が大きくなる。したがってフレームワーク密度が小さいことが望ましい。
一方でフレームワーク密度が小さすぎるとゼオライトの骨格構造が脆弱となり、結晶構造が壊れやすくなるため通常10以上であることが望ましい。なおフレームワーク密度とゼオライトとの構造の関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Fifth Revised Edition
2001 ELSEVIERに示されている。
【0047】
本発明において、好ましいゼオライトの構造は、AEI、AFG、CHA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、SOD、STI、TOL、UFIであり、より好ましい構造は、8員環構造を有し、かつ2次元または3次元構造を有するAEI、CHA、ERI、KFI、LEV、PAU、RHO、RTH、UFIであり、さらに好ましい構造は、CHA、LEVであり、最も好ましい構造はCHA型である。前記のゼオライトは、構造的に安定性が高く、またゼオライト中の物質の拡散速度が速いと考えられるため、当該支持体と組み合わせることで透過流束を大きくすることが可能となる点で、好ましい。
【0048】
ここで、CHA型のゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでCHA構造のものを示す。天然に産出するチャバサイトと同等の結晶構造を有するゼオライトである。CHA型ゼオライトは3.8×3.8Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
【0049】
CHA型ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å)は14.5である。また、SiO/Alモル比は上記と同様である。
本発明の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体は、水銀圧入法による細孔分布測定により求められ、下記式(2):
(logD−logD95)/logD50 (2)
(式中、D、D50およびD95は、それぞれ、大きい細孔から積算した細孔容積の合
計量が、全細孔容積の5%になるときの細孔径、全細孔容積の50%になるときの細孔径および全細孔容積の95%になるときの細孔径を示す。logは常用対数を表す。)により算出される、多孔質支持体―ゼオライト膜複合体の細孔分布を表す指標が7以下である。
【0050】
上記の式(2)で表されるゼオライト膜複合体の細孔分布を表す指標は、支持体の細孔分布を表す指標と同様、通常7以下であるが、好ましくは6.5以下、より好ましくは6以下、特に好ましくは5.5以下である。また下限は特に制限されないが、通常0.1以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上である。
式(2)の値は、前記支持体の細孔分布を表す指標と同じであり、この値が小さくなるほど、ゼオライト膜複合体の細孔分布は均一となる。細孔分布が均一であることの効果は、支持体における上記効果と同じである。ゼオライト膜複合体の細孔分布が大きい場合、様々な形状の流路が存在するため流体の拡散に不利となり透過流束が小さくなる。
【0051】
なお、本発明のゼオライト膜複合体における、D、D50およびD95の値は、前記支持体におけるD、D50およびD95の値と同様である。
また、本発明のゼオライト膜複合体の細孔分布を表す指標として、上記式(2)で求められる指標を用いる。前記した支持体の細孔分布を表す指標について述べたように、式(2)で求められる指標の方が、細孔分布の状態をより正確に表現しているためである。
【0052】
具体的には、本発明の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体における細孔の大部分は、通常用いる多孔質支持体に由来する細孔である。そのため多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の細孔分布は、用いる多孔質支持体の細孔分布と概ね同等であり、多孔質支持体−ゼオライト膜複合体と、用いる多孔質支持体の、式(2)で表される細孔分布を表す指標は、概ね近い値となる。支持体の細孔の一部はゼオライト膜作製時にゼオライトの結晶によって埋められるため、本発明の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の細孔径は、支持体の細孔径よりも若干小さくなる傾向があり、細孔分布についても分布形状を維持したまま細孔径が小さい側にシフトする場合がある。多孔質支持体上にゼオライト膜を作製することによって生じることがある細孔径のシフトは、ゼオライト合成時のロットのばらつきによって変化する場合があるので多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の細孔分布を把握する場合にはより正確に細孔分布を表す、式(2)で表される指標を使う。実際に各種分離プロセスにゼオライト膜複合体を用いる際にはその膜複合体の状態をより正確に表す指標である式(2)で表される細孔分布の指標に基づいて適用の好適、不適を判断することが望ましい。
【0053】
本発明において、ゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜がCHA型ゼオライトを含む場合、X線回折のパターンにおいて、2θ=17.9°付近のピークの強度が2θ=20.
8°付近のピークの強度の0.5倍以上の大きさであることが好ましい。
ここで、ピークの強度とは、測定値からバックグラウンドの値を引いたものをさす。(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表
されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比A」ということがある。)でいえば、通常0.5以上、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.5以上である。上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
【0054】
また、ゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜がCHA型ゼオライトを含む場合、X線回折のパターンにおいて、2θ=9.6°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピ
ークの強度の4倍以上の大きさであることが好ましい。
(2θ=9.6°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で
表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比B」ということがある。)でいえば、通常4以上、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、特に好ましくは10以上である
。上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
【0055】
ここでいう、X線回折パターンとはゼオライトが主として付着している側の表面にCuKαを線源とするX線を照射して、走査軸をθ/2θとして得るものである。測定するサンプルの形状としては、膜複合体のゼオライトが主として付着している側の表面にX線が照射できるような形状なら何でもよく、膜複合体の特徴をよく表すものとして、作製した膜複合体そのままのもの、あるいは装置によって制約される適切な大きさに切断したものが好ましい。
【0056】
ここで、X線回折パターンは、ゼオライト膜複合体の表面が曲面である場合には自動可変スリットを用いて照射幅を固定して測定してもかまわない。自動可変スリットを用いた場合のX線回折パターンとは、可変→固定スリット補正を実施したパターンを指す。
ここで、2θ=17.9°付近のピークとは基材に由来しないピークのうち17.9°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指す。
【0057】
2θ=20.8°付近のピークとは基材に由来しないピークのうち20.8°±0.6°の範囲に存在するピークで最大のものを指す。
2θ=9.6°付近のピークとは基材に由来しないピークのうち9.6°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指す。
X線回折パターンで2θ=9.6°付近のピークは、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによればrhombohedral settingで空間群を
【0058】
【数1】

【0059】
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(1,0,0)の面に由来するピークである。
また、X線回折パターンで2θ=17.9°付近のピークは、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによればrhombohedral settingで空間群を
【0060】
【数2】

【0061】
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(1,1,1)の面に由来するピークである。
X線回折パターンで2θ=20.8°付近のピークは、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによればrhombohedral settingで空間群を
【0062】
【数3】

【0063】
(No.166)とした時にCHA構造において指数が(2,0,−1)の面に由来するピークである。
(1,0,0)面由来のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来のピーク強度の典型的な比(ピーク強度比B)は、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによれば2.5である。
【0064】
そのため、この比が4以上であるということは、例えば、CHA構造をrhombohedral settingとした場合の(1,0,0)面が膜複合体の表面と平行に近い向きになるようにゼオライト結晶が配向して成長していることを意味すると考えられる。ゼオライト膜複合体においてゼオライト結晶が配向して成長することは分離性能の高い緻密な膜が出来るという点で有利である。
【0065】
(1,1,1)面由来のピークの強度と(2,0,−1)の面に由来のピーク強度の典型的な比(ピーク強度比A)は、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIERによれば0.3である。
そのため、この比が0.5以上であるということは、例えば、CHA構造をrhombohedral settingとした場合の(1,1,1)面が膜複合体の表面と平行に近い向きになるようにゼオライト結晶が配向して成長していることを意味すると考えられる。ゼオライト膜複合体においてゼオライト結晶が配向して成長することは分離性能の高い緻密な膜が出来るという点で有利である。
【0066】
このように、ピーク強度比A、Bのいずれかが、上記した特定の範囲の値であるということは、ゼオライト結晶が配向して成長し、分離性能の高い緻密な膜が形成されていることを示すものである。
CHA型ゼオライト結晶が配向して成長している緻密なゼオライト膜は、次に述べる通り、オライト膜を水熱合成により形成する際に、例えば、特定の有機テンプレートを用い、水性反応混合物中にKイオンを共存させることにより達成することができる。
【0067】
(ゼオライト膜複合体の製造方法)
本発明において、ゼオライト膜の製造方法は、ゼオライトを含む膜が形成可能な方法であれば特に制限されず、例えば、(1)多孔質支持体にゼオライトを膜状に結晶化させる方法、(2)多孔質支持体にゼオライトを無機バインダー、あるいは有機バインダーなどで固着させる方法、(3)ゼオライトを分散させたポリマーを固着させる方法、(4)ゼオライトのスラリーを多孔質支持体に含浸させ、場合によっては吸引させることによりゼオライトを多孔質支持体に固着させる方法などの何れの方法も用いることができる。
【0068】
これらの中で、多孔質支持体にゼオライトを膜状に結晶化させる方法が特に好ましい。結晶化の方法に特に制限はないが、多孔質支持体を、ゼオライト製造に用いる水熱合成用の反応混合物(以下これを「水性反応混合物」ということがある。)中に入れて、直接水熱合成することで支持体の表面などにゼオライトを結晶化させる方法が好ましい。
具体的には、例えば、組成を調整して均一化した水性反応混合物を、多孔質支持体を内部に緩やかに固定した、オートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉して、一定時間加熱すればよい。
【0069】
水性反応混合物としては、Si元素源、Al元素源、必要に応じて有機テンプレート、および水を含み、さらに必要に応じてアルカリ源を含むものが好ましい。
水性反応混合物に用いるSi元素源としては、例えば、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、無定形アルミのシリケートゲル、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン等を用いることができる。
【0070】
Al元素源としては、例えば、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等を用いることができる。なお、Al元素源以外に他の元素源、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの元素源を含んでいてもよい。
ゼオライトの結晶化において、必要に応じて有機テンプレート(構造規定剤)を用いることができるが、有機テンプレートを用いて合成したものが好ましい。有機テンプレートを用いて合成することにより、結晶化したゼオライトのアルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、耐酸性が向上する。
【0071】
有機テンプレートとしては、所望のゼオライト膜を形成し得るものであれば種類は問わず、如何なるものであってもよい。また、テンプレートは1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
ゼオライトがCHA型の場合、有機テンプレートとしては、通常、アミン類、4級アンモニウム塩が用いられる。例えば、米国特許第4544538号明細書、米国特許公開第2008/0075656号明細書に記載の有機テンプレートが好ましいものとして挙げられる。
【0072】
具体的には、例えば、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオン、3−キナクリジナールから誘導されるカチオン、3−exo−アミノノルボルネンから誘導されるカチオン等の脂環式アミンから誘導されるカチオンが挙げられる。これらの中で、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンがより好ましい。
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンを有機テンプレートとしたとき、緻密な膜を形成し得るCHA型ゼオライトが結晶化する。また、膜が水を選択的に透過するのに十分な親水性を有するCHA型ゼオライトが生成し得るほか、耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られる。
【0073】
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンのうち、N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンがさらに好ましい。N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンの3つのアルキル基は、通常、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で最も好ましい化合物は、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンである。
【0074】
このようなカチオンは、CHA型ゼオライトの形成に害を及ぼさないアニオンを伴う。このようなアニオンを代表するものには、Cl、Br、Iなどのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が含まれる。これらの中で、水酸化物イオンが特に好適に用いられる。
その他の有機テンプレートとしては、N,N,N−トリアルキルベンジルアンモニウムカチオンも用いることができる。この場合もアルキル基は、それぞれ独立したアルキル基であり、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で、最も好ましい化合物は、N,N,N−トリメチルベンジルアンモニウムカチオンである。また、このカチオンが伴うアニオンは上記と同様である。
【0075】
水性反応混合物に用いるアルカリ源としては、有機テンプレートのカウンターアニオンの水酸化物イオン、NaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物、Ca(OH)などのアルカリ土類金属水酸化物などを用いることができる。
アルカリの種類は特に限定されず、通常、Na、K、Li、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr、Baなどが用いられる。これらの中で、Na、Kが好ましく、Kがより好ましい。
また、アルカリは2種類以上を併用してもよく、具体的には、NaとKを併用するのが好ましい。
【0076】
水性反応混合物中のSi元素源とAl元素源の比は、通常、それぞれの元素の酸化物のモル比、すなわちSiO/Alモル比として表わす。
SiO/Al比は特に限定されないが、通常5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上である。また、通常10000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは100以下である。
【0077】
SiO/Al比がこの範囲にあるときゼオライト膜が緻密に生成し、更に生成したゼオライトが強い親水性を示し、有機物を含有する混合物中から親水性の化合物、特に水を選択的に透過することができる。また耐酸性に強く脱Alしにくいゼオライト膜が得られる。
特に、SiO/Al比がこの範囲にあるとき、緻密な膜を形成し得るCHA型ゼオライトを結晶化させることができる。また、膜が水を選択的に透過するのに十分な親水性を有するCHA型ゼオライトが生成し得るほか耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られる。
【0078】
水性反応混合物中のシリカ源と有機テンプレートの比は、SiOに対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiOモル比)で、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上であり、通常1以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.2以下である。
このモル比が上記範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得ることに加えて、生成したゼオライトが耐酸性に強くAlが脱離しにくい。また、この条件において、特に緻密で耐酸性のCHA型ゼオライトを形成させることができる。
【0079】
Si元素源とアルカリ源の比は、M(2/n)O/SiO(ここで、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nはその価数1または2を示す。)モル比で、通常0.02以上、好ましくは0.04以上、より好ましくは0.05以上であり、通常0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。
CHA型ゼオライト膜を形成する場合、アルカリ金属の中でKを含む場合がより緻密で結晶性の高い膜を生成させるという点で好ましい。その場合のKと、Kを含むすべてのアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属とのモル比は通常0.01以上1以下、好ましくは0.1以上1以下、さらに好ましくは0.3以上1以下である。
【0080】
水性反応混合物中へのKの添加は、前記のとおり、rhombohedral settingで空間群を
【0081】
【数4】

【0082】
(No.166)とした時に、CHA構造において指数が(1,0,0)の面に由来するピークである2θ=9.6°付近のピーク強度と(2,0,−1)の面に由来するピークである2θ=20.8°付近のピーク強度の比(ピーク強度比B)、または、(1,1,1)の面に由来するピークである2θ=17.9°付近のピーク強度と(2,0,−1)の面に由来するピークである2θ=20.8°付近のピーク強度の比(ピーク強度比A)を大きくする傾向がある。
【0083】
Si元素源と水の比は、SiOに対する水のモル比(HO/SiOモル比)で、通常10以上、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、特に好ましくは50以上であり、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは200以下、特に好
ましくは150以下である。
水性反応混合物中の物質のモル比がこれらの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得る。水の量は緻密なゼオライト膜の生成においてとくに重要であり、粉末合成法の一般的な条件よりも水がシリカに対して多い条件のほうが細かい結晶が生成して緻密な膜ができやすい傾向にある。
【0084】
一般的に、粉末のCHA型ゼオライトを合成する際の水の量は、HO/SiOモル比で、15〜50程度である。HO/SiOモル比が高い(50以上1000以下)、すなわち水が多い条件にすることにより、支持体上にCHA型ゼオライトが緻密な膜状に結晶化した分離性能の高いゼオライト膜複合体を得ることができる。
さらに、水熱合成に際して、必ずしも反応系内に種結晶を存在させる必要は無いが、種結晶を加えることで、支持体上にゼオライトの結晶化を促進できる。種結晶を加える方法としては特に限定されず、粉末のゼオライトの合成時のように、水性反応混合物中に種結晶を加える方法や、支持体上に種結晶を付着させておく方法などを用いることができる。ゼオライト膜複合体を製造する場合は、支持体上に種結晶を付着させておくことが好ましい。支持体上に予め種結晶を付着させておくことで緻密で分離性能良好なゼオライト膜が生成しやすくなる。
【0085】
使用する種結晶としては、結晶化を促進するゼオライトであれば種類は問わないが、効率よく結晶化させるためには形成するゼオライト膜と同じ結晶型であることが好ましい。CHA型ゼオライト膜を形成する場合は、CHA型ゼオライトの種結晶を用いることが好ましい。
種結晶の粒子径は小さいほうが望ましく、必要に応じて粉砕して用いても良い。粒径は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、通常20μm以下、好ましくは、15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
【0086】
支持体上に種結晶を付着させる方法は特に限定されず、例えば、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に支持体を浸けて表面に種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものを支持体上に塗りこむ方法などを用いることができる。種結晶の付着量を制御し、再現性良く膜複合体を製造するにはディップ法が望ましい。
【0087】
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されないが、特に水が好ましい。分散させる種結晶の量は特に限定されず、分散液の全質量に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。また、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
【0088】
分散させる種結晶の量が少なすぎると、支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に支持体表面に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のある膜となる可能性がある。分散液中の種結晶の量が多すぎると、ディップ法によって支持体上に付着する種結晶の量は分散液中の種結晶の量がある程度以上でほぼ一定となるため、分散液中の種結晶の量が多すぎると、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
【0089】
支持体にディップ法あるいはスラリーの塗りこみによって種結晶を付着させ、乾燥した後にゼオライト膜の形成を行うことが望ましい。
支持体上に予め付着させておく種結晶の量は特に限定されず、基材1mあたりの質量で、通常0.01g以上、好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上であり、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは10g以下、更に好まし
くは8g以下である。
【0090】
種結晶の量が下限未満の場合には、結晶ができにくくなり、膜の成長が不十分になる場合や、膜の成長が不均一になったりする傾向がある。また、種結晶の量が上限を超える場合には、表面の凹凸が種結晶によって増長されたり、支持体から落ちた種結晶によって自発核が成長しやすくなって支持体上の膜成長が阻害されたりする場合がある。何れの場合も、緻密なゼオライト膜が生成しにくくなる傾向となる。
【0091】
水熱合成により支持体上にゼオライト膜を形成する場合、支持体の固定化方法に特に制限はなく、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。この場合、静置法でゼオライト膜を形成させてもよいし、水性反応混合物を攪拌させてゼオライト膜を形成させてもよい。
ゼオライト膜を形成させる際の温度は特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、さらに好ましくは180℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが結晶化し難くなることがある。また、反応温度が高すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0092】
加熱時間は特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、通常10日間以下、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下である。反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化し難しくなることがある。
反応時間が長すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0093】
ゼオライト膜形成時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた水性反応混合物を、この温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性ガスを加えても差し支えない。
水熱合成により得られたゼオライト膜複合体は、水洗した後に、加熱処理して、乾燥させる。ここで、加熱処理とは、熱をかけてゼオライト膜複合体を乾燥又はテンプレートを使用した場合にテンプレートを焼成することを意味する。
【0094】
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合は通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。加熱処理の温度はテンプレートの焼成を目的とする場合通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、更に好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、さらに好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。
【0095】
加熱時間は、ゼオライト膜が十分に乾燥、またはテンプレートが焼成する時間であれば特に限定されず、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。上限は特に限定されず、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内である。
水熱合成を有機テンプレートの存在下で行った場合、得られたゼオライト膜複合体を、水洗した後に、例えば、加熱処理や抽出などにより、好ましくは加熱処理、すなわち焼成により有機テンプレートを取り除くことが適当である。
【0096】
焼成温度は、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、更に好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、さらに好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。焼成温度が低すぎ
ると有機テンプレートが残っている割合が多くなる傾向があり、ゼオライトの細孔が少なく、そのために分離濃縮の際の透過流束が減少する可能性がある。焼成温度が高すぎると支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるためゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、ゼオライト膜の緻密性が失われ分離性能が低くなることがある。
【0097】
焼成時間は、昇温速度や降温速度により変動するが、有機テンプレートが十分に取り除かれる時間であれば特に限定されず、好ましくは1時間以上、より好ましくは5時間以上である。
上限は特に限定されず、例えば、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内、最も好ましくは24時間以内である。焼成は空気雰囲気で行えばよいが、酸素を付加した雰囲気で行ってもよい。
【0098】
焼成の際の昇温速度は、支持体とゼオライトの熱膨張率の差がゼオライト膜に亀裂を生じさせることを少なくするために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、さらに好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
また、焼成後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要がある。昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
【0099】
ゼオライト膜は、必要に応じてイオン交換しても良い。イオン交換は、テンプレートを用いて合成した場合は、通常、テンプレートを除去した後に行う。イオン交換するイオンとしては、プロトン、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などのアルカリ土類金属イオン、Fe、Cu、Znなどの遷移金属のイオンなどが挙げられる。これらの中で、プロトン、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオンが好ましい。
【0100】
イオン交換は、焼成後(テンプレートを使用した場合など)のゼオライト膜を、NHNO、NaNOなどアンモニウム塩あるいは交換するイオンを含む水溶液、場合によっては塩酸などの酸で、通常、室温から100℃の温度で処理後、水洗する方法などにより行えばよい。さらに、必要に応じて200℃〜500℃で焼成してもよい。
かくして得られる多孔質支持体−ゼオライト膜複合体(加熱処理後のゼオライト膜複合体)の空気透過量[L/(m・h)]は、通常1400L/(m・h)以下、好ましくは1000L/(m・h)以下、より好ましくは700L/(m・h)以下、より好ましくは600L/(m・h)以下、さらに好ましくは500L/(m・h)以下、特に好ましくは300L/(m・h)以下、もっとも好ましくは200L/(m・h)以下である。透過量の下限は特に限定されないが、通常0.01L/(m・h)以上、好ましくは0.1L/(m・h)以上、より好ましくは1L/(m・h)以上である。
【0101】
ここで、空気透過量とは、実施例で詳述するとおり、ゼオライト膜複合体を絶対圧5kPaの真空ラインに接続した時の空気の透過量[L/(m・h)]である。
本発明のゼオライト膜複合体は、上記のとおり優れた特性をもつものであり、本発明の分離方法における膜分離手段として好適に用いることができる。
【0102】
(分離方法)
本発明の分離方法は、有機物を含む気体または液体の混合物を、前記多孔質支持体―ゼオライト膜複合体に接触させて、該混合物から、透過性の高い物質を透過させて分離することに特徴を有するものである。この発明において、多孔質支持体―ゼオライト膜複合体は、前記と同様のものが用いられる。また、好ましいものも前記と同様である。
【0103】
本発明の分離方法において、ゼオライト膜を備えた無機多孔質支持体を介し支持体側又はゼオライト膜側の一方の側に有機物を含む気体または液体の混合物を接触させ、その逆側を混合物が接触している側よりも低い圧力とすることによって混合物から、ゼオライト膜に透過性が高い物質(透過性が相対的に高い混合物中の物質)を選択的に、すなわち透過物質の主成分として透過させる。これにより、混合物から透過性の高い物質を分離することができる。その結果、混合物中の特定の有機物(透過性が相対的に低い混合物中の物質)の濃度を高めることで、特定の有機物を分離回収、あるいは濃縮することができる。
【0104】
例えば、水と有機物の混合物の場合、通常水がゼオライト膜に対する透過性が高いので、混合物から水が分離され、有機物は元の混合物中で濃縮される。パーベーパレーション法(浸透気化法)、ベーパーパーミエーション法(蒸気透過法)と呼ばれる分離・濃縮方法は、本発明の分離方法におけるひとつの実施形態である。
前記多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を分離膜として用いることにより、実用上も十分な処理量をもち、十分な分離性能をもつ膜分離が可能となる。
ここで、十分な処理量とは、膜を透過する物質の透過流束が1kg/(m・h)以上であることをいう。また十分な分離の性能とは、次式で表される分離係数が100以上であること、あるいは透過液中の主成分の濃度が95質量%以上であることをいう。
【0105】
分離係数=(Pα/Pβ)/(Fα/Fβ)
[ここで、Pαは透過液中の主成分の質量パーセント濃度示し、Pβは透過液中の副成分
の質量パーセント濃度を示し、Fαは透過液において主成分となる成分の被分離混合物中の質量パーセント濃度を示し、Fβは透過液において副成分となる成分の被分離混合物中の質量パーセント濃度を示す。]
さらに具体的には、透過流束は、例えば、含水率30質量%の2−プロパノールと水の混合物を70℃において、1気圧(1.01×10Pa)の圧力差で透過させた場合、1kg/(m・h)以上、好ましくは3kg/(m・h)以上、より好ましくは、5kg/(m・h)以上であることをいう。透過流束の上限は特に限定されず、通常20kg/(m・h)以下、好ましくは15kg/(m・h)以下である。
【0106】
また、高い透過性能をパーミエンスで表す事もできる。パーミエンスとは、透過する物質の物質量を膜面積と時間と透過する物質の分圧差の積で割ったものである。パーミエンスの単位で表した場合、例えば、含水率30質量%の2−プロパノールと水の混合物を70℃において、1気圧(1.01×10Pa)の圧力差で透過させた場合の水のパーミエンスは、通常3×10−7mol/(m・s・Pa)以上、好ましくは5×10−7mol/(m・s・Pa)以上、より好ましくは1×10−6mol/(m・s・Pa)以上、特に好ましくは2×10−6mol/(m・s・Pa)である。水のパーミエンスの上限は特に限定されず、通常1×10−4mol/(m・s・Pa)以下、好ましくは5×10−5mol/(m・s・Pa)以下である。
【0107】
さらに、分離係数は、例えば、含水率30質量%の2−プロパノールと水の混合物を70℃において、1気圧(1.01×10Pa)の圧力差で透過させた場合、通常1000以上、好ましくは4000以上、より好ましくは10000以上、特に好ましくは20000以上である。分離係数の上限は完全に水しか透過しない場合であり、その場合は無限大となるが、好ましくは10000000以下、より好ましくは1000000以下である。
【0108】
分離対象が、水と有機物の混合物(以下これを「含水有機化合物」ということがある。)の場合、混合物中の含水率は、通常20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは45質量%以上であり、通常95質量%以下、好ましくは80質量%以下、よ
り好ましくは70質量%以下である。
本発明の分離方法では、ゼオライト膜を透過する物質は、通常水であるため、含水率が少なくなると処理量が低下するため効率的でない。また含水率が多すぎると濃縮に必要な膜が大面積となり(膜が管状に形成されている場合は数が多くなり)経済的な効果が小さくなる。
【0109】
含水有機化合物としては、適当な水分調節方法により、予め含水率を調節したものであってもよい。この場合、好ましい含水率は上記と同様である。また、水分調節方法としては、それ自体既知の方法、例えば、蒸留、圧力スイング吸着(PSA)、温度スイング吸着(TSA)、デシカントシステムなどが挙げられる。
さらに、ゼオライト膜複合体によって水が分離された含水有機化合物から、さらに水を分離してもよい。これにより、より高度に水を分離し、含水有機化合物をさらに高度に濃縮することができる。
【0110】
有機化合物としては、例えば、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、蟻酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸などのカルボン酸類や、スルフォン酸、スルフィン酸、ハビツル酸、尿酸、フェノール、エノール、ジケトン型化合物、チオフェノール、イミド、オキシム、芳香族スルフォンアミド、第1級および第2級ニトロ化合物などの有機酸類;メタノール、エタノール、イソプロパノール(2−プロパノール)などのアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミドなどの窒素を含む有機化合物(N含有有機化合物)、酢酸エステル、アクリル酸エステル等のエステル類などが挙げられる。
【0111】
これらの中から、分子ふるいと親水性の両方の特徴を生かすことのできる、有機酸と水との混合物から有機酸を分離する際に、本発明の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体の効果が際立って発現する。好ましくはカルボン酸類と水との混合物、特に好ましくは酢酸と水の分離などがより好適な例である。
また、有機酸以外の有機物と水との混合物から有機物と水を分離する場合の有機物は炭素数が2以上であることが好ましく、炭素数が3以上であることがより好ましい。
これら有機酸の有機物の中では、特にアルコール、エーテル、ケトン、アルデヒド、アミドから選ばれる少なくとも一種を含有する有機化合物が望ましい。これら有機化合物の中で、炭素数が2から10のものが好ましく、炭素数が3から8のものがより好ましい。
【0112】
また有機化合物としては、水と混合物(混合溶液)を形成し得る高分子化合物でもよい。かかる高分子化合物としては、分子内に極性基を有するもの、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどのポリオール類;ポリアミン類;ポリスルホン酸類;ポリアクリル酸などのポリカルボン酸類;ポリアクリル酸エステルなどのポリカルボン酸エステル類;グラフト重合等によってポリマー類を変性させた変性高分子化合物類;オレフィンなどの非極性モノマーとカルボキシル基等の極性基を有する極性モノマーとの共重合によって得られる共重合高分子化合物類などが挙げられる。
前記含水混合物としては、水とフェノールの混合物のように、共沸混合物を形成する混合物でもよく、共沸混合物を形成する混合物の分離においては、水を選択的にかつ、効率よく分離可能な面で好ましい。
【0113】
さらに、含水有機化合物としては、水とポリマーエマルジョンとの混合物でもよい。ここで、ポリマーエマルジョンとは、接着剤や塗料等で通常使用される、界面活性剤とポリマーとの混合物である。ポリマーエマルジョンに用いられるポリマーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリオレフィン、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのオレフィン−極性モノマー共重合体、ポリスチレン、ポリ
ビニルエーテル、ポリアミド、ポリエステル、セルロース誘導体等の熱可塑性樹脂;尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;天然ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエン共重合体などのブタジエン共重合体等のゴム等が挙げられる。また界面活性剤としては、それ自体既知のものを用いればよい。
【0114】
本発明のゼオライト膜複合体は、耐酸性を有するため、水と酢酸など有機酸の混合物からの水分離、エステル化反応促進のための水分離などにも有効に利用できる。
本発明の分離方法は、前記ゼオライト膜複合体を用いて、適当な分離装置を作製し、それに有機化合物を含む気体または液体の混合物を導入することにより行えばよい。これら分離装置は、それ自体既知の部材により作製することができる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例において、物性や分離性能等の測定は、次のとおり行った。
(1)表面粗度の測定
多孔質支持体の表面粗度(Ra)は、東京精密社製の表面粗さ計SURFCOM 1400Dを用いて、以下の条件で測定した。
算出規格:JIS‘94規格
測定長さ:4mm
カットオフ波長:0.8mm
測定倍率:×5000
【0116】
(2)水銀圧入法による細孔分布測定
多孔質支持体、およびゼオライト膜複合体の細孔分布は、マイクロメリテックス社製のオートポアIV 9520型を用いて、減圧下(50μmHg以下)で10分間減圧処理を施した後、0.53psia(細孔径404μm相当)から60000psia(細孔径0.0036μm相当)までの水銀圧入法圧入曲線を測定することにより求めた。
【0117】
この水銀圧入法圧入曲線から、D(大きい細孔から積算していった細孔容積の合計(以下、「積算細孔容積(ml/g)」と称することがある)が全細孔容積の5%となったときの細孔径)、D50(大きい細孔から積算していった細孔容積の合計が全細孔容積の50%となったときの細孔径)、D95(大きい細孔から積算していった細孔容積の合計が全細孔容積の95%となったときの細孔径)を求め、細孔分布を表す指標(1)(D−D95)/D50を算出した。
また得られたD、D50、D95の常用対数を求め、
細孔分布を表す指標(2)(logD−logD95)/logD50を算出した。
【0118】
(3)X線回折(XRD)測定
ゼオライト膜のXRD測定を、以下の条件で行った。
・装置名:オランダPANalytical社製X’PertPro MPD
・光学系仕様 入射側:封入式X線管球(CuKα)
Soller Slit (0.04rad)
Divergence Slit (Valiable Sli
t)
試料台:XYZステージ
受光側:半導体アレイ検出器(X’ Celerator)
Ni−filter
Soller Slit (0.04rad)
ゴニオメーター半径:240mm
・測定条件 X線出力(CuKα):45kV、40mA
走査軸:θ/2θ
走査範囲(2θ):5.0−70.0°
測定モード:Continuous
読込幅:0.05°
計数時間:99.7sec
自動可変スリット(Automatic−DS):1mm(照射幅)
横発散マスク:10mm(照射幅)
【0119】
なお、X線は円筒管の軸方向に対して垂直な方向に照射した。またX線は、できるだけノイズ等がはいらないように、試料台においた円筒管状の膜複合体と、試料台表面と平行な面とが接する2つのラインのうち、試料台表面ではなく、試料台表面より上部にあるもう一方のライン上に主にあたるようにした。
また、照射幅を自動可変スリットによって1mmに固定して測定し、Materials Data, Inc.のXRD解析ソフトJADE 7.5.2(日本語版)を用いて可変スリット→固定スリット変換を行ってXRDパターンを得た。
【0120】
(4)SEM測定
SEM測定は以下の条件に基づき行った。
・装置名:SEM:FE−SEM Hitachi:S−4100
・加速電圧:10kV
(5)空気透過量
ゼオライト膜複合体の一端を封止し、他端を、密閉状態で5kPaの真空ラインに接続して、真空ラインとゼオライト膜複合体の間に設置したマスフローメーターで空気の流量を測定し、空気透過量[L/(m・h)]とした。マスフローメーターとしてはKOFLOC社製8300、Nガス用、最大流量500ml/min(20℃、1気圧換算)
を用いた。KOFLOC社製8300においてマスフローメーターの表示が10ml/m
in(20℃、1気圧換算)以下であるときはLintec社製MM−2100M、Airガス用、最大流量20ml/min(0℃、1気圧換算)を用いて測定した。
【0121】
(6)SEM−EDX測定
ゼオライト膜のSEM−EDX測定を、以下の条件で行った。
・装置名:SEM:FE−SEM Hitachi:S−4800
EDX:EDAX Genesis
・加速電圧:10kV
倍率5000倍での視野全面(25μm×18μm)を走査し、X線定量分析を行った。
【0122】
(7)パーベーパレーション法
パーベーパレーション法に用いた装置の概略図を図1に示す。図1において、ゼオライト膜複合体5は真空ポンプ9によって内側が減圧され、被分離液4が接触している外側と圧力差が約1気圧になっている。この圧力差によって被分離液4中透過物質の水がゼオライト膜複合体5に浸透気化して透過する。透過した物質はトラップ7で捕集される。一方、被分離液4中の有機化合物は、ゼオライト膜複合体5の外側に滞留する。
【0123】
一定時間ごとに、トラップ7に捕集した透過液の質量測定および組成分析、被分離液4の組成分析を行い、それらの値を用いて各時間の分離係数、透過流束、水のパーミエンスなどを前記のとおり算出した。なお、組成分析はガスクロマトグラフにより行った。透過
開始から約5時間程度で透過流束や分離係数が安定してくるので、結果は、特に明記しない限り、5時間後の値である。
【0124】
[実施例1]
多孔質支持体上にゼオライト膜を、水熱合成法により形成することにより多孔質支持体―ゼオライト膜複合体を作製し、その分離性能を測定した。
(多孔質支持体の準備)
ニッカトー社製のムライトチューブPM(外径12mm、内径9mm)を、80mmの長さに切断した後、外表面を#1000の紙やすりを用いて表面粗度(Ra)が1.0となるまで研磨した。研磨後の支持体の厚みは1.4mmであった。
【0125】
研磨した多孔質支持体を超音波洗浄機で洗浄したのち120℃で2時間乾燥させて多孔質支持体1を得た。
水銀圧入法による細孔分布測定により得られた多孔質支持体1の水銀圧入法圧入曲線を図2に示す。多孔質支持体1の全細孔容積は0.252ml/g、D50は1.63μm、Dは8.41μm、D95は0.68μm、(D−D95)/D50は4.75、(logD−logD95)/logD50は5.16であった。
【0126】
(水熱合成用反応混合物)
水熱合成用の反応混合物として以下のものを調製した。
1mol/L−NaOH水溶液10.5gと1mol/L−KOH水溶液7.0gと水100.4gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.88gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TMADAOH」という。)水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)2.36gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)10.5gを加えて2時間撹拌し、水熱合成用の反応混合物とした。
この反応混合物の組成(モル比)は、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.066/0.15/0.1/100/0.04、SiO/Al=15であった。
【0127】
(種結晶の作製および多孔質支持体への付着)
多孔質支持体へのゼオライト膜形成に先立ち、以下の通り、多孔質支持体1に種結晶を付着させた。
種結晶として、TMADAOH水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)を用いて、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.066/0.15/0.1/100/0.1のゲル組成で、160℃、2日間水熱合成をして結晶化させたものを、ろ過、水洗、乾燥して得られたCHA型ゼオライトを用いた。この種結晶の粒径は2μm程度であった。
この種結晶を3質量%水中に分散させたものに、上記多孔質支持体1を所定時間浸した後、100℃で5時間以上乾燥させて種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は1g/mであった。
【0128】
(多孔質支持体1上へのゼオライト膜の形成)
種結晶を付着させた多孔質支持体1を、上記反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、静置状態で、160℃で48時間、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で5時間以上乾燥させた。
【0129】
乾燥後の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体を、電気炉で500℃、5時間焼成して多孔質支持体―ゼオライト膜複合体1を得た。焼成後の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体1の質量と多孔質支持体の質量の差から求めた、多孔質支持体上に形成したゼオライト膜の質量は130g/mであった。焼成後の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体1の空気透過量は240L/(m・h)であった。
水銀圧入法による細孔分布測定により得られた多孔質支持体―ゼオライト膜複合体1の水銀圧入法圧入曲線から得られた細孔分布を表す指標(2) logD−logD95)/logD50 は4.01であった。
【0130】
(ゼオライト膜の物性)
生成したゼオライト膜のXRDを測定したところCHA型ゼオライトが生成していることがわかった。
XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=1.4であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXRDに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
短冊状に切断したゼオライト膜複合体1をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していることが分かった。
SEM−EDXにより測定した、ゼオライト膜のSiO/Alモル比は17であった。
【0131】
(水/酢酸混合溶液の分離試験)
上記で作製した多孔質支持体−ゼオライト膜複合体1を用いて、パーベーパレーション法により70℃の水/酢酸混合溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
その結果、透過流束は5.8kg/(m・h)、分離係数は700、透過液中の水の濃度は99.86質量%であった。水のパーミエンスは3.6×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0132】
[比較例1]
使用する紙やすりを#800として、湿式で研磨し、表面粗度(Ra)が1.3となるまで滑らかにした以外は、実施例1と同様の材料と方法で、多孔質支持体2を準備した。研磨後の多孔質支持体2の厚みは1.4mmであった。
水銀圧入法による細孔分布測定により得られた多孔質支持体2の水銀圧入法圧入曲線を図2に示す。多孔質支持体2の全細孔容積は0.263ml/g、D50は1.72μm、Dは72.39μm、D95は0.70μm、(D−D95)/D50は41.57、(logD−logD95)/logD50は8.50であった。
【0133】
多孔質支持体−ゼオライト膜複合体2を、上記多孔質支持体2を用いた以外は実施例1と同様に作製した。焼成後の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体2の質量と多孔質支持体の質量の差から求めた、多孔質支持体2上に形成したゼオライト膜の質量は120g/mであった。焼成後の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体2の空気透過量は270L/(
・h)であった。水銀圧入法による細孔分布測定により得られた多孔質支持体―ゼオ
ライト膜複合体2の水銀圧入法圧入曲線から得られた細孔分布を表す指標(2)、 (logD−logD95)/logD50 は12.97であった。
【0134】
生成したゼオライト膜のXRDを測定したところCHA型ゼオライトが生成していることがわかった。
XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=2.1であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXR
Dに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
【0135】
得られた多孔質支持体−ゼオライト膜複合体2を用いて、パーベーパレーション法により70℃の水/酢酸混合溶液(50/50質量%)から水を選択的に透過させる分離を行った。
その結果、透過流束は4.0kg/(m・h)、分離係数は600、透過液中の水の濃度は99.83質量%であった。水のパーミエンスは、2.6×10−6mol/(m・s・Pa)であった。
【0136】
比較例1で用いた多孔質支持体2は、支持体の厚み、全細孔容量、D50ともに実施例1の多孔質支持体1とほぼ同じであるが、(D−D95)/D50(細孔分布を表す指標)が40以上、(logD−logD95)/logD50が7以上であり、実施例1に比べ細孔分布が広いものである。比較例1で用いた多孔質-ゼオライト膜複合体2の
ゼオライト膜の質量は実施例1の多孔質支持体1とほぼ同じでありゼオライト膜の厚さもほぼ同じだと考えられるが、(logD−logD95)/logD50が7以上であり、実施例1に比べ細孔分布が広いものである。比較例1では、細孔分布が広い支持体を使用したために支持体の厚さやゼオライト膜の厚さが同じでも透過流束が低いと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は産業上の任意の分野に使用可能であるが、例えば、化学プラント、発酵プラント、精密電子部品工場、電池製造工場等の、含水有機化合物から水を分離し、有機化合物の回収などが必要とされる分野において、特に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0138】
1 スターラー
2 湯浴
3 撹拌子
4 被分離液
5 多孔質支持体―ゼオライト膜複合体
6 ピラニゲージ
7 透過液捕集用トラップ
8 コールドトラップ
9 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してなる多孔質支持体―ゼオライト膜複合体であって、該多孔質支持体の平均厚さが0.1mm以上7mm以下であり、かつ水銀圧入法による細孔分布測定により求められ、下記式(1):
(D−D95)/D50 (1)
(式中、D、D50およびD95は、それぞれ、大きい細孔から積算した細孔容積の合計量が、全細孔容積の5%になるときの細孔径、全細孔容積の50%になるときの細孔径および全細孔容積の95%になるときの細孔径を示す。)
により算出される、支持体の細孔分布を表す指標が40以下であることを特徴とする多孔質支持体−ゼオライト膜複合体。
【請求項2】
多孔質支持体が、表面粗度(Ra)が1.2以下となるまで表面研磨されたものであることを特徴とする請求項1に記載の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体。
【請求項3】
多孔質支持体が、セラミックス支持体であることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体。
【請求項4】
ゼオライト膜が、CHA型ゼオライトを含むものであることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体。
【請求項5】
有機物を含む気体または液体の混合物を、請求項1乃至4の何れか1項に記載の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体に接触させて、該混合物から、透過性の高い物質を透過させて分離することを特徴とする分離方法。
【請求項6】
多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してなる多孔質支持体―ゼオライト膜複合体であって、該多孔質支持体の平均厚さが0.1mm以上7mm以下であり、かつ水銀圧入法による細孔分布測定により求められ、下記式(2):
(logD−logD95)/logD50 (2)
(式中、D、D50およびD95は、それぞれ、大きい細孔から積算した細孔容積の合計量が、全細孔容積の5%になるときの細孔径、全細孔容積の50%になるときの細孔径および全細孔容積の95%になるときの細孔径を示す。logは常用対数を表す。)
により算出される、支持体の細孔分布を表す指標が7以下であることを特徴とする多孔質支持体−ゼオライト膜複合体。
【請求項7】
多孔質支持体上にゼオライト膜を形成してなる多孔質支持体―ゼオライト膜複合体であって、該多孔質支持体の平均厚さが0.1mm以上7mm以下であり、かつ水銀圧入法による細孔分布測定により求められ、下記式(2):
(logD−logD95)/logD50 (2)
(式中、D、D50およびD95は、それぞれ、大きい細孔から積算した細孔容積の合計量が、全細孔容積の5%になるときの細孔径、全細孔容積の50%になるときの細孔径および全細孔容積の95%になるときの細孔径を示す。logは常用対数を表す。)
により算出される、多孔質支持体―ゼオライト膜複合体の細孔分布を表す指標が、7以下であることを特徴とする多孔質支持体−ゼオライト膜複合体。
【請求項8】
多孔質支持体が、表面粗度(Ra)が1.2以下となるまで表面研磨されたものであることを特徴とする請求項6または7に記載の多孔質支持体−ゼオライト膜複合体。
【請求項9】
多孔質支持体が、セラミックス支持体であることを特徴とする請求項6乃至8の何れか1項に記載の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体。
【請求項10】
ゼオライト膜が、CHA型ゼオライトを含むものであることを特徴とする請求項6乃至9の何れか1項に記載の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体。
【請求項11】
有機物を含む気体または液体の混合物を、請求項6乃至10の何れか1項に記載の多孔質支持体―ゼオライト膜複合体に接触させて、該混合物から、透過性の高い物質を透過させて分離することを特徴とする分離方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−66241(P2012−66241A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184859(P2011−184859)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】