説明

多孔質樹脂フィルムの製造方法、多孔質樹脂フィルム及び電池用セパレータ

【課題】工程を簡略化することで生産性を向上させることができ、所望の空孔を有する多孔質樹脂フィルムを得ることが可能な多孔質樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。また、該多孔質樹脂フィルムの製造方法を用いて得られる多孔質樹脂フィルム、及び、該多孔質樹脂フィルムを用いてなる電池用セパレータを提供することを目的とする。
【解決手段】耐熱性樹脂、ポリオキシアルキレン樹脂を含有する加熱消滅性樹脂粒子、及び、溶媒を混合し、フィルム用樹脂組成物を調製する工程、前記フィルム用樹脂組成物を製膜する工程、及び、製膜されたフィルム用樹脂組成物を加熱する工程を有する多孔質樹脂フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工程を簡略化することで生産性を向上させることができ、所望の空孔を有する多孔質樹脂フィルムを得ることが可能な多孔質樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、該多孔質樹脂フィルムの製造方法を用いて得られる多孔質樹脂フィルム、及び、該多孔質樹脂フィルムを用いてなる電池用セパレータを提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
多孔性樹脂フィルムは、空孔特性に優れることから、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタ等の電気化学素子や、精密濾過、分離濃縮等の膜分離技術等に広く利用されている。特に、リチウムイオン電池の分野では、高容量、高電圧、高エネルギー密度を実現するため、正極と負極との間でイオンを流通させるためのセパレータとして、多孔質樹脂フィルムが好適に用いられている。
【0003】
リチウムイオン電池のセパレータには、安全性の面から高い耐熱性が求められており、軽量化及び薄膜化の要求も高まっている。しかしながら、現在一般的に使用されているポリエチレン製やポリプロピレン製の多孔質樹脂フィルムは、耐熱性に劣るものとなっていた。また、これらの多孔質樹脂フィルムを単に薄膜化すると、局部的に強度が不充分な箇所が生じたり、高温時にセパレータとしての形態保持性が不充分となる箇所が生じたりすることがあり、電池中で引火等の不都合が生じるおそれがあった。更に、所望のイオン伝導性を実現できないこともあった。
【0004】
これに対して、近年は、セパレータとして、芳香族ポリアミドや芳香族ポリイミドからなる多孔質樹脂フィルムが用いられている。この多孔質樹脂フィルムは、剛性が高く薄膜化が可能で、かつ、実質的に融点を持たず、耐熱性が高いことから、セパレータ用途に好適に使用されている。
【0005】
芳香族ポリアミドからなる多孔質樹脂フィルムを用いた電池用セパレータとしては、例えば、特許文献1には、空孔率、空孔径を制御した芳香族ポリアミド又は芳香族ポリイミドからなる電池セパレータ用多孔性高分子フィルムが開示されている。
また、特許文献2には、所定の多孔度及び比ヤング率を有するポリメタフェニレンイソフタル酸アミド系ポリマーからなる電池用セパレータが開示されている。
更に、特許文献3では、電極の活物質層とセパレータの両方に芳香族ポリアミド含むリチウムイオン二次電池が開示されている。
【0006】
これらのセパレータでは、多孔質化の方法として、湿式浴を用いて多孔質化を行う方法、高湿度雰囲気下で吸湿させて多孔質化する方法等が用いられているが、これらの工程は、非常に煩雑であり、時間を要することから、フィルムの生産性の低下を招いていた。
また、得られる多孔質樹脂フィルムの空孔が所望の大きさとは異なるものとなったりして、空孔径を制御することが困難であった。
【特許文献1】特開平11−250890号公報
【特許文献2】特開2002−42767号公報
【特許文献3】特開2007−305574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、工程を簡略化することで生産性を向上させることができ、所望の空孔を有する多孔質樹脂フィルムを得ることが可能な多孔質樹脂フィルムの製造方法を提供することを目的とする。また、該多孔質樹脂フィルムの製造方法を用いて得られる多孔質樹脂フィルム、及び、該多孔質樹脂フィルムを用いてなる電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、耐熱性樹脂、ポリオキシアルキレン樹脂を含有する加熱消滅性樹脂粒子、及び、溶媒を混合し、フィルム用樹脂組成物を調製する工程、前記フィルム用樹脂組成物を製膜する工程、及び、製膜されたフィルム用樹脂組成物を加熱する工程を有する多孔質樹脂フィルムの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明の多孔質樹脂フィルムの製造方法では、まず、耐熱性樹脂、ポリオキシアルキレン樹脂を含有する加熱消滅性樹脂粒子、及び、溶媒を混合し、フィルム用樹脂組成物を調製する工程を行う。
【0010】
上記工程では、耐熱性樹脂、ポリオキシアルキレン樹脂を含有する加熱消滅性樹脂粒子、及び、溶媒を混合し、フィルム用樹脂組成物中に加熱消滅性樹脂粒子を分散させる。上記フィルム用樹脂組成物は、液状であることから、取り扱いやすく、加熱消滅性樹脂粒子を均一に分散させることができる。
【0011】
本発明の多孔質樹脂フィルムの製造方法において用いられる耐熱性樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。
なお、本明細書において耐熱性樹脂とは、その融点が300℃以上である樹脂、又は、融点を有さない非晶構造の樹脂の場合は、その熱分解温度が300℃以上である樹脂のことである。
【0012】
上記ポリアミドとしては、ジカルボン酸とジアミンとから得られるポリアミドが好ましく、特に芳香族ポリアミドが好ましい。
【0013】
上記ポリイミドとしては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸二無水物と、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン等のジアミンとを用いて得られるポリイミド等が挙げられる。なかでも、芳香族ポリイミドが好ましい。
【0014】
上記フィルム用樹脂組成物における耐熱性樹脂の含有量の好ましい下限は3重量%、好ましい上限は50重量%である。上記耐熱性樹脂の含有量が3重量%未満であると、得られる多孔質樹脂フィルムの強度が低下することがあり、50重量%を超えると、上記フィルム用樹脂組成物の粘度が高くなって、加熱消滅性樹脂粒子の分散性及びハンドリング性が低下することがある。
【0015】
上記加熱消滅性樹脂粒子は、ポリオキシアルキレン樹脂を含有する。
上記ポリオキシアルキレン樹脂は、所定の温度に加熱することにより、低分子量の炭化水素、エーテル等に分解された後、燃焼反応や蒸発等の相変化によって消滅し、極めて優れた加熱消滅性を発揮する。
【0016】
上記ポリオキシアルキレン樹脂としては特に限定されないが、ポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレン又はポリオキシテトラメチレンを含有することが好ましい。これらのポリオキシアルキレン樹脂を含有しない場合、所定の加熱消滅性や粒子強度が得られないことがある。なかでも、ポリオキシプロピレンがより好適である。なお、適度な加熱消滅性及び粒子強度を得るためには、上記加熱消滅性樹脂粒子に含有されるポリオキシアルキレン樹脂のうち、5重量%以上がポリオキシプロピレンであることが好ましい。また、ポリオキシエチレンは、エチレングリコールを含むものとする。
【0017】
上記ポリオキシアルキレン樹脂のうち市販されているものとしては、例えば、MSポリマーS−203、S−303、S−903(以上、カネカ社製)、サイリルSAT−200、MA−403、MA−447(以上、カネカ社製)、エピオンEP103S、EP303S、EP505S(以上、カネカ社製)、エクセスターESS−2410、ESS−2420、ESS−3630(以上、旭硝子社製)等が挙げられる。
【0018】
上記ポリオキシアルキレン樹脂の数平均分子量としては特に限定されないが、数平均分子量の好ましい下限が300、好ましい上限が100万である。上記数平均分子量が300未満であると、高い加熱消滅性を実現できないことがあり、100万を超えると、高い粒子強度を実現できないことがある。
【0019】
上記加熱消滅性樹脂粒子において、ポリオキシアルキレン樹脂の含有量の好ましい下限は5重量%である。5重量%未満であると、加熱消滅性を充分に実現できないことがある。
【0020】
上記ポリオキシアルキレン樹脂は、更に、架橋成分を含有することが好ましい。
上記架橋成分を含有することによって、上記加熱消滅性樹脂粒子の圧縮強度を向上させることができる。また、上記架橋成分を含有することによって、樹脂粒子を有機溶剤に膨潤しないものとすることができる。
上記架橋成分としては特に限定されず、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のアクリル系多官能性モノマーや、ジビニルベンゼン、後述する官能基を2個以上もつマクロモノマー等が挙げられる。
【0021】
上記加熱消滅性樹脂粒子は、更に、アクリルモノマー重合体を含有することが好ましい。上記アクリルモノマー重合体は、解重合しやすく熱分解性に優れており、ポリオキシアルキレン樹脂と共存することにより、更に分解性を向上させることができる。
【0022】
上記アクリルモノマー重合体としては特に限定されず、例えば、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル等の重合体が挙げられる。
また、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のアクリル系多官能性モノマーの重合体が好適に用いられる。
【0023】
上記加熱消滅性樹脂粒子において、上記アクリルモノマー重合体の含有量の好ましい上限は95重量%である。95重量%を超えると、ポリオキシアルキレン樹脂の含有量が少なくなりすぎるため、分解促進効果が充分に得られないことがある。より好ましい下限は50重量%、より好ましい上限は93重量%である。
【0024】
上記加熱消滅性樹脂粒子は、有機溶剤に膨潤しないことが好ましい。
有機溶剤に膨潤すると、上記加熱消滅性樹脂粒子の強度が低下するため、多孔化材等として用いた場合に、所望の造孔効果が得られないことがある。
【0025】
本発明の加熱消滅性樹脂粒子は、更に分解促進剤を含有することが好ましい。
本明細書において、分解促進剤とは、所定の温度でラジカルを発生し、解重合等を含むラジカルによって引き起こされるポリマーの分解反応を促進する物質を意味する。
上記分解促進剤を含有することにより、上記ポリオキシアルキレン樹脂の分解が助長され、加熱消滅性樹脂粒子をより低温で短時間のうちに消滅させることができる。
【0026】
上記分解促進剤としては特に種類は限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等の過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2−カルバモイルアゾホルムアミド、1,1’−アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0027】
上記加熱消滅性樹脂粒子は、100〜350℃の所定の温度に加熱することにより、1時間以内に90重量%以上が消滅することが好ましい。
上記加熱消滅性樹脂粒子は、低温領域であっても極めて優れた分解性を示す。90重量%以上が消滅に要する時間が1時間を超えると、多孔質樹脂フィルムの製造に用いる場合、多孔質樹脂フィルムの製造効率が低下することがある。1時間以内に消滅する部分が90重量%未満であると、発熱量を減少し、変形を抑制する効果が不充分となることがある。
【0028】
上記加熱消滅性樹脂粒子の平均粒子径の好ましい下限が0.1μm、好ましい上限が10μmである。上記加熱消滅性樹脂粒子の平均粒子径が0.1μm未満であると、粒子径が小さすぎて充分な空孔を有する多孔質樹脂フィルムを得ることができないことがあり、イオン伝導性を阻害したり、電解液の含浸性が低下する傾向がある。10μmを超えると、得られる多孔質樹脂フィルムの機械的強度が低下することがある。上記加熱消滅性樹脂粒子の平均粒子径のより好ましい下限は0.1μm、より好ましい上限は5μmである。
【0029】
上記加熱消滅性樹脂粒子の製造方法としては特に限定されず、例えば、ポリオキシアルキレンマクロモノマー又はポリオキシアルキレンマクロモノマーと他の重合性モノマーとの混合モノマーと、分解促進剤とを含有する溶液を用いて懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法、ソープフリー重合法、ミニエマルジョン重合法等の従来公知の重合方法を用いて重合する方法等が挙げられる。
なかでも、ポリオキシアルキレンマクロモノマー又はポリオキシアルキレンマクロモノマーと他の重合性モノマーとの混合モノマーを重合する工程を有する方法が好ましい。なお、本明細書において、マクロモノマーとは、分子末端にビニル基等の重合可能な官能基を有する高分子量の線状分子のことをいい、ポリオキシアルキレンマクロモノマーとは、線状部分がポリオキシアルキレンからなるマクロモノマーのことをいう。
なお、上記加熱消滅性樹脂粒子は、ポリオキシアルキレン樹脂とアクリル重合体等の他の樹脂とを別々に製造し、混合することによって作製してもよい。
【0030】
上記ポリオキシアルキレンマクロモノマーに含まれる官能基としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレート等の重合性不飽和炭化水素、イソシアネート基、エポキシ基、加水分解性シリル基、水酸基、カルボキシル基等が挙げられる。なかでも、ラジカル重合可能な重合性不飽和炭化水素を含むポリオキシアルキレンマクロモノマーは、より簡便に加熱消滅性樹脂粒子を製造できることから好ましく、重合反応性が高い(メタ)アクリロイル基を含むポリオキシアルキレンマクロモノマーがより好ましい。
また、ポリオキシアルキレンマクロモノマーに含まれる官能基の数は特に限定されないが、官能基を2個以上もつマクロモノマーを用いれば、架橋させることにより高い圧縮強度を有する加熱消滅性樹脂粒子を得ることができる。
【0031】
上記ポリオキシアルキレンマクロモノマーに含まれるポリオキシアルキレンユニットの分子量としては特に限定されないが、数平均分子量の好ましい下限が300、好ましい上限が100万である。数平均分子量が300未満であると、充分な加熱消滅性が得られないことがあり、100万を超えると、充分な粒子強度が得られないことがある。
【0032】
上記ポリオキシアルキレンマクロモノマーとしては、具体的には例えば、ポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート(ブレンマーPDE−400、PDE−600、ADE−400(以上、日油社製))、ポリオキシプロピレンジ(メタ)アクリレート(ブレンマーPDP−400、PDP−700、ADP−400(以上、日油社製))、ポリオキシテトラメチレンジ(メタ)アクリレート(ブレンマーPDT−650、ADT−250(以上、日油社製))、ポリオキシエチレン−ポリオキシテトラメチレンメタクリレート(ブレンマー55PET−800(日油社製))等が挙げられる。
【0033】
上記ポリオキシアルキレンマクロモノマーと共重合させる場合の他の重合性モノマーとしては特に限定されないが、簡便に製造できることから、ラジカル重合性モノマーが好適である。上記ラジカル重合性モノマーとしては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、スチレン及びその誘導体、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0034】
更に、ポリオキシアルキレンマクロモノマーと共に使用される他の重合性モノマーとして、粒子強度を向上させる目的で多官能性モノマーを添加してもよい。この多官能性モノマーとしては、特に種類は限定されないが、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のアクリル系多官能性モノマーや、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0035】
上記ポリオキシアルキレンマクロモノマーと共に使用される他の重合性モノマーとしては特に限定されず、解重合性の高いラジカル重合性モノマーを用いることが、加熱消滅性樹脂粒子を簡便に製造する上で好ましい。具体的には例えば、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、スチレン及びその誘導体、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0036】
上記加熱消滅性樹脂粒子を製造する場合は、ポリオキシアルキレン樹脂及び分解促進剤を含有する粒子を有機樹脂等で被覆しカプセル化して用いてもよい。カプセル化の方法としては特に限定されず、例えば、コアセルベーション法、液中乾燥法、界面重合法、in−situ重合法等が挙げられる。
【0037】
上記フィルム用樹脂組成物は、耐熱性樹脂に対して、固形分比で10〜90重量%の加熱消滅性樹脂粒子を含有することが好ましい。上記加熱消滅性樹脂粒子の含有量が10重量%未満であると、充分な空孔を有する多孔質樹脂フィルムを得ることができないことがあり、90重量%を超えると、得られる多孔質樹脂フィルムの強度が劣ることがある。より好ましい下限は40重量%、より好ましい上限は80重量%である。
【0038】
本発明の多孔質樹脂フィルムの製造方法において用いられる溶媒としては、上記耐熱性樹脂を溶解することができ、上記加熱消滅性樹脂粒子を溶解させず分散することが可能であり、かつ、低毒性であれば、特に限定されず、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、2−ブタノン、シクロヘキサノン等を使用することができる。
【0039】
上記耐熱性樹脂、加熱消滅性樹脂粒子、及び、溶媒を混合する方法としては特に限定されず、例えば、ボールミル、ブレンダーミル、3本ロール、ヘンシル、造粒型乾燥機等の各種混合機を用いる方法が挙げられる。
【0040】
本発明の多孔質樹脂フィルムの製造方法では、次いで、上記フィルム用樹脂組成物を製膜する工程を行う。
上記製膜の方法としては特に限定されず、例えば、溶液キャスト法、カレンダー製膜法、溶融押出製膜法等が挙げられる。
これらのなかでは、溶液キャスト法が好ましい。上記溶液キャスト法の具体的な方法としては、例えば、支持体として、ポリエチレンテレフタレート等の耐熱材料やスチールベルト等の平板又はロールを用い、これらの上に、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、コンマコーター等を用いてフィルム用樹脂組成物を流延する方法等が挙げられる。
【0041】
本発明の多孔質樹脂フィルムの製造方法では、次いで、製膜されたフィルム用樹脂組成物を加熱する工程を行う。この工程を行うことで、上記フィルム用樹脂組成物に含まれる溶媒を揮発させ、乾燥させる。
また、上記製膜されたフィルム用樹脂組成物を加熱する工程を行うことで、加熱消滅性樹脂粒子を消滅させ、多孔質化を行うことが可能となる。本発明では、このように製膜されたフィルム用樹脂組成物を加熱するだけで多孔質化を行うことができることから、従来のような湿式浴を用いて多孔質化を行う工程や、高湿度雰囲気下で吸湿させて多孔質化する工程を行う必要がなく、製造工程の大幅に短縮することが可能となる。また、このように、溶媒の乾燥工程と多孔質化工程とを同時に行えることで、多孔質樹脂フィルムの製造工程の迅速化を図ることができる。
【0042】
上記製膜されたフィルム用樹脂組成物を加熱する工程については特に限定されず、従来公知の方法を用いることができるが、数段階に分けて加熱を行ってもよい。例えば、1段階目の加熱として比較的低い温度で加熱を行うことにより、溶媒を揮発させ、2段階以降の加熱において高温化して加熱を行う方法等が挙げられる。
【0043】
上記製膜されたフィルム用樹脂組成物を加熱する工程は、減圧下で行ってもよく、常圧下で行ってもよい。
また、加熱する温度についても、使用する溶媒によって適宜選択することができる。
【0044】
本発明の多孔質樹脂フィルムの製造方法では、次いで、延伸工程を行ってもよい。
上記延伸方法については特に限定されず、例えば、一軸延伸、逐次二軸延伸、同時二軸延伸等が挙げられる。これらのなかでは二軸延伸が好ましい。
【0045】
本発明の多孔質樹脂フィルムの製造方法を用いることにより、充分な空孔を有し、耐熱性に優れる多孔質樹脂フィルムが得られる。このような多孔質樹脂フィルムもまた、本発明の1つである。
【0046】
本発明の多孔質樹脂フィルムの厚みの好ましい下限は2μm、好ましい上限は50μm である。厚みが2μm未満であると、強度が不足することがあり、50μmを超えると、電池の容量が不充分となることがある。
【0047】
本発明の多孔質樹脂フィルムの空孔率の好ましい下限は30%、好ましい上限は90%である。空孔率が30%未満であると、内部抵抗が大きくなり電池の性能の悪化に繋がる。90%を超えると、機械的強度が低下することがある。
【0048】
本発明の多孔質樹脂フィルムは、電池用セパレータとして用いることができる。このような電池用セパレータもまた、本発明の1つである。
本発明の電池用セパレータは、イオン伝導性が高いことから、高容量化を実現できる。また、高温使用時にも優れた電池特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明の多孔質樹脂フィルムの製造方法によれば、煩雑な多孔質化工程を別途行う必要がなく、製造工程の大幅に短縮することができ、生産の迅速化を図ることが可能となる。
また、添加する加熱消滅性樹脂粒子を任意に選択することで、得られる多孔質樹脂フィルムの空孔を所望の大きさとすることができ、容易に空孔径を制御できる。
更に、本発明の多孔質樹脂フィルムの製造方法で得られる多孔質樹脂フィルムは、空孔が連続気泡となり、連通した多孔質構造となることから、電池用セパレータとして用いた場合、優れたイオン伝導性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
(芳香族ポリアミドの調製)
脱水したN−メチル−2−ピロリドンに、ジアミン全量に対して80モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと、ジアミン全量に対して20モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを溶解させ、これにジアミン全量に対して98.5モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリドを添加し、2時間撹拌により重合し、芳香族ポリアミドの溶液を得た。この溶液を水とともにミキサーに投入し、攪拌しながら芳香族ポリアミドを沈殿させ、取り出した。
【0052】
(加熱消滅性樹脂粒子の調製)
表1に示す組成のモノマー成分100重量部、及び、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3重量部を混合、攪拌し、モノマー溶液を調製した。
得られたモノマー溶液の全量を、ポリビニルアルコール(PVA)1重量%と亜硝酸ナトリウム0.02重量%との水溶液300重量部に加え、攪拌分散装置を用いて攪拌し、乳化懸濁液を得た。
【0053】
次に、攪拌機、ジャケット、還流冷却機及び温度計を備えた20リットルの重合器を用い、重合器内を減圧し、容器内の脱酸素を行った後、窒素ガスにより圧力を大気圧まで戻し、重合器内部を窒素雰囲気とした。この重合器内に、得られた乳化懸濁液の全量を一括して投入し、重合器を60℃まで昇温して重合を開始した。8時間重合した後、重合器を室温まで冷却して加熱消滅性樹脂粒子含有スラリーを得た。このスラリーの溶媒を、水からN−メチル−2−ピロリドンへ溶剤置換して、N−メチル−2−ピロリドン粒子分散スラリーを得た。
【0054】
(多孔質樹脂フィルムの作製)
得られた芳香族ポリアミド10重量部をN−メチル−2−ピロリドン50重量部に溶解させた後、加熱消滅性樹脂粒子含有スラリー40重量部(うち、加熱消滅性樹脂粒子10重量部)を加え、加熱消滅性樹脂粒子が分散されたフィルム用樹脂組成物を得た。
このフィルム用樹脂組成物を、ダイコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚み約20μmの膜状に塗布した。次いで、温度320℃で60分間加熱し、ポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離することにより多孔質樹脂フィルムを得た。
【0055】
(実施例2)
実施例1の(加熱消滅性樹脂粒子の調製)において、表1に示す組成のモノマー成分100重量部を用い、PVAの代わりにポリオキシエチレンアルキルエーテル1重量%を用いた以外は実施例1と同様にして加熱消滅性樹脂粒子含有スラリーを得た。得られた加熱消滅性樹脂粒子含有スラリーを用いた以外は実施例1と同様にして多孔質樹脂フィルムを得た。
【0056】
(実施例3)
実施例1の(加熱消滅性樹脂粒子の調製)を以下の方法を行った以外は実施例1と同様にして多孔質樹脂フィルムを得た。
【0057】
(加熱消滅性樹脂粒子の調製)
表1の組成に従い混合したモノマー100重量部全量を、ポリオキシエチレンアルキルエーテル1.5重量%水溶液100重量部に加え、攪拌分散装置を用いて攪拌し、乳化懸濁液を得た。
次に、攪拌機、ジャケット、還流冷却機及び温度計を備えた20リットルの重合器を用い、重合器内を減圧し、容器内の脱酸素を行った後、窒素ガスにより圧力を大気圧まで戻し、重合器内部を窒素雰囲気とした。この重合器内に、水200重量部を投入し、重合器を60℃まで昇温したのち、重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.5重量部と上記乳化懸濁液のうち5重量部をシードモノマーとして添加し重合を開始した。30分熟成させた後に残りの乳化懸濁液を2時間かけて滴下した。さらに1時間熟成させた後、重合器を室温まで冷却して加熱消滅性樹脂粒子含有スラリーを得た。このスラリーの溶媒を、水からN−メチル−2−ピロリドンへ溶剤置換して、N−メチル−2−ピロリドン粒子分散スラリーを得た。
【0058】
(多孔質樹脂フィルムの作製)
芳香族ポリアミドイミド(ソルベイアドバンストポリマーズ社製)10重量部をN−メチル−2−ピロリドン30重量部に溶解させた後、加熱消滅性樹脂粒子含有スラリー60重量部(うち、加熱消滅性樹脂粒子15重量部)を加え、均一なフィルム用樹脂組成物を得た。
このフィルム用樹脂組成物を、ダイコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚み約15μmの膜状に塗布した。次いで、温度350℃で50分間加熱し、ポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離することにより多孔質樹脂フィルムを得た。
【0059】
(比較例1)
実施例1の(多孔質樹脂フィルムの作製)を以下の方法で行った以外は実施例1と同様にして、多孔質樹脂フィルムを得た。
【0060】
(多孔質樹脂フィルムの作製)
得られた芳香族ポリアミド10重量部、N−メチル−2−ピロリドン70重量部及び平均分子量が200のポリエチレングリコール20重量部となるようにそれぞれの材料を混合し、フィルム用樹脂組成物を得た。
このフィルム用樹脂組成物を、ダイコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚み約70μmの膜状に塗布した。次いで、温度15℃、相対湿度70%RHの調湿空気中で10分間処理した。調湿空気は風速1.5m/分で膜表面に吹き付けた。次に、失透した多孔質層を剥離後、30℃の水浴に3分間導入し、溶媒の抽出を行った。
続いて、テンター中で最初は80℃で1分、幅方向に4.5%収縮させながら熱処理を行った。最後に、幅方向はそのままで、250℃で2分間の熱処理を行い、芳香族ポリアミドの多孔質樹脂フィルムを得た。なお、得られた多孔質樹脂フィルムの厚みは20μmであった。
【0061】
(比較例2)
ポリアミドイミド(ソルベイアドバンストポリマーズ社製)20重量部を良溶媒のN,N−ジメチルアセトアミド55重量部に溶解し、貧溶媒としてエチレングリコール15重量部、及び、フィラー粒子として一次平均粒子径が3μmで融点が126℃の変性ポリエチレン粒子10重量部を添加混合し、フィルム用樹脂組成物を得た。
次いで、このフィルム用樹脂組成物を、ダイコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム上に厚み約75μmの膜状に塗布し、80℃の送風乾燥機中で乾燥させ、溶剤を完全に蒸発させた。その後、ポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離することにより多孔質樹脂フィルムを得た。なお、得られた多孔質樹脂フィルムの厚みは30μmであった。
【0062】
(比較例3)
実施例1の(加熱消滅性樹脂粒子の調製)において、表1に示す組成のモノマー成分100重量部を用いた以外は実施例1と同様にして樹脂粒子含有スラリーを得た。得られた樹脂粒子含有スラリーを用いた以外は実施例1と同様にして多孔質樹脂フィルムを得た。
【0063】
(1)加熱消滅性樹脂粒子の評価
得られた加熱消滅性樹脂粒子含有スラリーに含まれる加熱消滅性樹脂粒子について、示差走査熱量計(DSC−6200、セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、昇温速度5℃/分で昇温しながら測定することにより、300℃における重量減少率、及び、300℃における樹脂成分の残渣の量を測定した。結果を表1に示す。
なお、表1には、スラリーに含まれる加熱消滅性樹脂粒子の平均粒子径、スラリーの樹脂固形分についても記載した。
【0064】
(2)多孔質樹脂フィルムの評価
(2−1)空孔率
得られた多孔質樹脂フィルムから0.5gをサンプリングし、ポロシメーター2000(アムコ社製)を用いて、空孔率を測定した。なお、測定温度は23℃、封入水銀圧力は2000kg/cmとした。
【0065】
(2−2)ガーレ透気度
JIS P 8117(1998)に準拠した方法で、セパレータの一方向に5cm以上の間隔で3カ所透気度測定を行い、平均値を求めた。測定装置として、B型ガーレーデンソメーター(安田精機製作所社製)を使用した。
測定手順は、各測定個所において、試料のセパレータを直径28.6mm、面積642m mの円孔に締め付け、内筒により(内筒高さ:254mm、外径:76.2mm、内径:74mm、重量:567g)、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させ、内筒の動きが安定した状態で空気100ccが通過する時間を測定した。
【0066】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、工程を簡略化することで生産性を向上させることができ、所望の空孔を有する多孔質樹脂フィルムを得ることが可能な多孔質樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。また、該多孔質樹脂フィルムの製造方法を用いて得られる多孔質樹脂フィルム、及び、該多孔質樹脂フィルムを用いてなる電池用セパレータを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性樹脂、ポリオキシアルキレン樹脂を含有する加熱消滅性樹脂粒子、及び、溶媒を混合し、フィルム用樹脂組成物を調製する工程、
前記フィルム用樹脂組成物を製膜する工程、及び、
製膜されたフィルム用樹脂組成物を加熱する工程を有する
ことを特徴とする多孔質樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
加熱消滅性樹脂粒子は、100〜350℃の所定の温度に加熱することにより、1時間以内に90重量%以上が消滅することを特徴とする請求項1記載の多孔質樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
ポリオキシアルキレン樹脂は、ポリオキシプロピレンを5重量%以上含有することを特徴とする請求項1又は2記載の多孔質樹脂フィルムの製造方法。
【請求項4】
耐熱性樹脂は、ポリアミド又はポリイミドであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の多孔質樹脂フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の多孔質樹脂フィルムの製造方法を用いて製造される多孔質樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項5記載の多孔質樹脂フィルムを用いてなる電池用セパレータ。

【公開番号】特開2010−24385(P2010−24385A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188990(P2008−188990)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】