説明

多孔質炭素材料の製造方法

【課題】電子伝導性が高く且つ比表面積が大きい多孔質炭素材料の製造方法を提供する。
【解決手段】平均密度が0.4g/cm3以上0.8g/cm3以下であるバルク状の多孔質炭素原料を、アルカリ性賦活剤である水酸化ナトリウムにより賦活して、比表面積が900m2/g以上、平均密度が0.2g/cm3以上であるバルク状の多孔質炭素材料を製造した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質炭素材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
比表面積の大きな多孔質炭素材料は、例えば電気二重層キャパシタの電極として好適に使用される。従来、電気二重層キャパシタの電極には、以下のような多孔質炭素材料が多く使用されていた。すなわち、木材や樹脂を炭化したものを粉砕してなる炭素粉を、水蒸気やアルカリ性物質により賦活して、比表面積を1000〜3000m2 /g程度に増大させた活性炭を得て、これにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのバインダーと、導電性を補助するための炭素粉末とを混練してなるペーストをシート状に成形したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−340103号公報
【特許文献2】特開2009−4136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気二重層キャパシタの電極には、静電容量を確保するための比表面積、充放電時に電子を輸送するための電子伝導性、成形体としての構造を維持するための強度などの特性が要求される。
しかしながら、上記のように粉末状の活性炭を用いて多孔質炭素材料を製造すると、活性炭が嵩高いために成形体の平均密度が低くなるので、得られた多孔質炭素材料の電子伝導性が、電気二重層キャパシタの電極用の基材としては不十分となるおそれがあった。
【0005】
活性炭のような粉末状の炭素を原料とせず、バルク状(塊状)の炭素原料を用いれば、上記のような平均密度の問題は解消され、高い電子伝導性を有する多孔質炭素材料が得られる。しかしながら、アルカリ性物質により賦活すると、多孔質炭素材料の比表面積は増大するものの平均密度が低下するので、賦活条件を適切に設定する必要があった。例えば、使用するアルカリ性物質の量が多いと賦活率が高くなるので、得られる多孔質炭素材料の比表面積と平均密度とを共に好適な値とするためには、アルカリ性物質の量を適切に設定する必要があった。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、電子伝導性が高く且つ比表面積が大きい多孔質炭素材料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法は、バルク状の多孔質炭素原料をアルカリ性賦活剤により賦活して、比表面積が900m2 /g以上、平均密度が0.2g/cm3 以上のバルク状の多孔質炭素材料を製造するに際して、前記多孔質炭素原料の平均密度を0.4g/cm3 以上0.8g/cm3 以下とすることを特徴とする。
このような本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法においては、前記多孔質炭素原料は、炭素繊維を混抄した混抄紙を炭化したもの、又は、黒鉛粉末を混抄した混抄紙を炭化したものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法によれば、電子伝導性が高く且つ比表面積が大きい多孔質炭素材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】多孔質炭素原料に施した賦活処理の賦活率と、得られた多孔質炭素材料の平均密度及び比表面積との関係を示すグラフである。
【図2】多孔質炭素原料の平均密度と、多孔質炭素原料に施した賦活処理の賦活率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
針葉樹未晒クラフトパルプ75質量%と、捲縮処理を施された炭素繊維(大阪ガスケミカル株式会社製の商品名ドナカーボ・Sチョップ)20質量%と、液状の未硬化フェノール樹脂(旭有機材工業株式会社製の商品名SP260)5質量%と、を混合してスラリー状の組成物を得た。そして、この組成物を濾過成形して、厚さ5.0mmの板状の成形体を得た。
【0010】
次に、得られた成形体に前述と同種のフェノール樹脂を含浸させた後、120℃で20分間温風乾燥することによりフェノール樹脂を硬化させた。含浸させたフェノール樹脂の量は、含浸前の成形体の質量の80質量%に相当する量である。そして、不活性ガス雰囲気下、900℃で焼成を行い、針葉樹未晒クラフトパルプ及びフェノール樹脂を炭化するとともに、タールなどの余分な成分を除去することにより、表面に均一な細孔を有する多孔質炭素からなる成形体を得た。この多孔質炭素からなる成形体の比表面積を、窒素を用いたBET法により測定(液体窒素温度における窒素ガス吸着量の測定)したところ、150m2 /gであった。
【0011】
次に、上記のようにして得られた成形体を粉砕することなくそのまま原料(本発明の構成要件である「バルク状の多孔質炭素原料」に相当する)とし、該原料に賦活処理を施して、電子伝導性が高く且つ比表面積が大きい多孔質炭素材料を製造した。なお、本発明において「バルク状」とは、粉末状ではない塊状のことを意味する。その形状は特に限定されるものではなく、板状の他、例えばシート状,棒状,直方体状,立方体状,球状,管状などがあげられる。
【0012】
まず、前記原料とアルカリ性賦活剤である水酸化ナトリウムとを容器に装入し、窒素ガス流通下で400℃に昇温して、水酸化ナトリウムを溶融させた。そして、水酸化ナトリウム溶融状態で1時間保持することにより、前記原料の内部(表面の細孔の内部)に水酸化ナトリウムを含浸させた。冷却後に前記原料を取り出し、表面に付着した水酸化ナトリウムを除去した後、不活性ガス流通下で800℃まで昇温して1時間保持することにより、賦活処理を行なった。冷却後に取り出し、濾水がpH7付近になるまで純水で洗浄することにより、メソポーラスな多孔質炭素材料を得た。
【0013】
得られたバルク状の多孔質炭素材料の比表面積を、前述と同様にBET法で測定したところ、2300m2 /gであった。また、得られた多孔質炭素材料の平均密度を測定したところ、0.5g/cm3 であった。さらに、得られた多孔質炭素材料の電子伝導性を測定したところ、0.3Ω・cmであった。
このように、多孔質炭素原料を粉砕することなくバルク状のまま賦活することにより、電子の導電経路を保ったまま比表面積の増加が図れ、しかも粉末状の炭素を原料とした場合よりも高密度の多孔質炭素材料が得られるため、電子伝導性の低下なく比表面積の大きな多孔質炭素材料を製造することができる。また、適切な平均密度を有する多孔質炭素原料を用いたので、好適な比表面積及び平均密度を有する多孔質炭素材料を得ることができる。
【0014】
このようにして得られた多孔質炭素材料は、種々の用途に使用可能であるが、静電容量を確保するための比表面積、充放電時に電子を輸送するための電子伝導性、成形体としての構造を維持するための強度などの特性が優れているので、特に電気二重層キャパシタ等の電極として好適である。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、針葉樹未晒クラフトパルプと炭素繊維とフェノール樹脂とを混合してなるスラリー状の組成物から成形体を製造したが、パルプ等の各材料の種類や組成比は、前記のものに限定されるものではない。
【0015】
例えば、使用可能なパルプとしては、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)の他、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、綿パルプ、麻パルプ等があげられる。パルプは、これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、炭素繊維の繊維長や繊維径は、特に限定されるものではないが、繊維長は0.5mm以上10mm以下であることが好ましく、3mm以上5mm以下であることがより好ましい。また、繊維径は、5mm以上30mm以下であることが好ましく、10mm以上20mm以下であることがより好ましい。炭素繊維の繊維長及び繊維径が上記範囲内であれば、前記組成物の各材料の分散性や成形体の成形作業性が向上し、さらには、成形体を炭化する際における収縮を抑えることができるので、多孔質炭素材料を寸法精度良く製造することができるとともに、多孔質炭素材料の細孔物性を調整しやすい。
【0016】
捲縮処理が施されていない炭素繊維を用いても差し支えないが、捲縮処理を施された炭素繊維を用いることが好ましい。捲縮処理が施されている炭素繊維は、加熱されても殆ど収縮しないので、炭化時の収縮が抑えられ、多孔質炭素材料を寸法精度良く製造することができる。また、炭素繊維が捲縮していることにより、炭素繊維間に空間が保持されたまま他の材料が炭化するので、炭化前に形成された細孔を炭化後も維持することができ、多孔質炭素材料の細孔容積を大きくすることができる。
【0017】
さらに、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂の他、フラン樹脂,エポキシ樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,ポリイミド樹脂,ユリア樹脂,メラミン樹脂,ジビニルベンゼン等が使用可能である。熱硬化性樹脂は、これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
さらに、炭化の方法(処理温度,処理時間等の熱処理条件や雰囲気)は特に限定されるものではなく、十分に炭化させることができるならば慣用の方法を問題なく採用可能である。
【0018】
さらに、本実施形態においては、アルカリ性賦活剤として水酸化ナトリウムを使用したが、これに限定されるものではなく、慣用のアルカリ性賦活剤を問題なく使用可能である。例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物,酸化物,塩化物,臭化物,ヨウ化物,フッ化物,リン酸塩,炭酸塩,硫化物,硫酸塩,硝酸塩があげられるが、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物が特に好ましい。アルカリ性賦活剤は、これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
さらに、賦活処理の条件(処理温度,処理時間,雰囲気)は特に限定されるものではなく、十分に賦活することができるならば慣用の方法を問題なく採用可能である。ただし、、処理温度は500℃以上900℃以下であることが好ましく、処理時間は2時間以上10時間以下であることが好ましい。
さらに、多孔質炭素原料である成形体は、上記のようにして製造したものに限定されるものではなく、繊維状パルプを抄紙した紙材を炭化したものを用いることができる。例えば、炭素繊維を混抄した混抄紙を炭化したものや、黒鉛粉末を混抄した混抄紙を炭化したものを用いることができる。炭素繊維が混抄されていると、賦活により繊維が切断されて導電経路が失われることが抑制される。また、炭素粉末、特に黒鉛粉末が混抄されていると、繊維間の導電性が補完されるため、賦活により繊維が切断されて導電経路が失われることが抑制される。
【0020】
ここで、多孔質炭素原料の平均密度と、多孔質炭素原料を賦活して得られる多孔質炭素材料の比表面積及び平均密度との関係について説明する。
多孔質炭素原料の平均密度が高すぎると、気孔率が小さいため、多孔質炭素原料の内部に含浸し得るアルカリ性賦活剤の量が少なくなる。その結果、賦活率が低くなり、得られた多孔質炭素材料の比表面積も小さくなる。
【0021】
一方、多孔質炭素原料の平均密度が低すぎると、気孔率が大きいため、多孔質炭素原料の内部に含浸し得るアルカリ性賦活剤の量が多くなる。その結果、賦活率が高くなり、比表面積は大きくなるものの、得られた多孔質炭素材料の平均密度が低くなるという問題が生じる。したがって、適切な平均密度を有する多孔質炭素原料を選択することが必要となる。そこで、多孔質炭素原料の平均密度と賦活率の関係を定量的に評価した結果、本発明者は、アルカリ性賦活剤による賦活に適した多孔質炭素原料の平均密度を見出した。なお、本発明における賦活率とは、1−(賦活後の質量)/(賦活前の質量)なる式により算出される数値である。
【0022】
図1に、多孔質炭素原料に施した賦活処理の賦活率と、得られた多孔質炭素材料の平均密度及び比表面積との関係を示し、図2に、多孔質炭素原料の平均密度と、多孔質炭素原料に施した賦活処理の賦活率との関係を示す。
前述したように、多孔質炭素原料の平均密度によって、多孔質炭素原料の内部に含浸し得るアルカリ性賦活剤の量が決定し、その結果、賦活率が決定する。多孔質炭素材料が有する電子伝導性等の特性を優れたものとするためには、その比表面積を900m2 /g以上、平均密度を0.2g/cm3 以上とする必要があるので、図1のグラフに示すように、賦活処理の賦活率を20%以上50%以下とする必要がある。そして、図2のグラフから、賦活率20%以上50%以下の賦活処理を行うためには、多孔質炭素原料の平均密度を0.4g/cm3 以上0.8g/cm3 以下とする必要があることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルク状の多孔質炭素原料をアルカリ性賦活剤により賦活して、比表面積が900m2 /g以上、平均密度が0.2g/cm3 以上のバルク状の多孔質炭素材料を製造するに際して、前記多孔質炭素原料の平均密度を0.4g/cm3 以上0.8g/cm3 以下とすることを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質炭素原料が、炭素繊維を混抄した混抄紙を炭化したものであることを特徴とする請求項1に記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質炭素原料が、黒鉛粉末を混抄した混抄紙を炭化したものであることを特徴とする請求項1に記載の多孔質炭素材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−41199(P2012−41199A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180990(P2010−180990)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】