説明

多孔質繊維成形体の製造方法

【解決手段】分散液5中に繊維2と粉状または繊維状の固形接着材6とを分散混合して起泡させた繊維分散体8を製造する第一工程と、この繊維分散体8内を脱水(物理脱水に限る)させるとともにこの繊維分散体8内の繊維2を前記固形接着材6により結合させて成形する第二工程とを経て、多孔質繊維成形体を製造する。この繊維分散体8の脱水と固形接着材6による繊維2の結合とを同一の成形型内において行う。この繊維2は樹脂製繊維であり、樹脂製繊維を構成する樹脂と固形接着材6を構成する樹脂とは同種のものである。この繊維分散体8は界面活性剤を含む。第二工程において繊維分散体8に対し脱水処理を施しながら加熱処理を施す。第二工程において部位に応じて繊維2の密度差が形成されるように多孔質繊維成形体を成形する。
【効果】十分な空隙を均一に有する多孔質繊維成形体を容易に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾材や吸音材や緩衝材等に利用する多孔質繊維成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、濾材等の多孔質成形体は、抄紙法あるいはそれに類する方法で製造するのが一般的である。しかしながら、この抄紙法あるいはそれに類する方法では、繊維を水等の多量の分散液に分散させる必要があるため、製造設備が大型化するのを避けることができないばかでなく、大量の分散液の廃棄処理という多大な手間が必要となる。しかも、抄紙法あるいはそれに類する方法では、繊維の比重が分散液より大きい場合は、その繊維が分散液中で沈降し、また繊維の比重が分散液より小さい場合は、分散液中で浮上してしまい、結果として、繊維成形体の密度コントロールが難しい。しかも、抄紙法あるいはそれに類する方法は、紙のような薄肉製品の製造に適するが、立体的な製品の製造には不向きで、そのような立体的な成形品の製造は困難である。
【0003】
一方、例えば特許文献1及び特許文献2に示すように樹脂多孔体に繊維を分散させた濾材や、例えば特許文献3に示すように繊維からなるウェブを形成してそのウェブに対しさらに気泡を内在させた濾材などが知られている。特許文献1に記載された濾材は、発泡ウレタン等の連通孔を有する発泡性樹脂を繊維のバインダとして用いている。また、特許文献2に記載された濾材は、発泡ウレタン等の連通孔を有する発泡性樹脂に繊維が不規則に混入されている。さらに、特許文献3に記載された濾材は、極細繊維、骨格繊維及び発泡性粒子からなる水性分散液を用いて抄造したウェブに、発泡性粒子により空隙が形成されている。
【特許文献1】特開2001−129328号公報
【特許文献2】特開2001−190913号公報
【特許文献3】特開平9−155127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のような特許文献1〜3に記載の濾材は、抄紙法とは異なり、発泡状態が維持されたまま成形が行われるため、分散液の大量廃棄処理や、立体的な成形の困難性という問題は改善されたが、繊維の密度コントロールについては、抄紙法の場合とは逆に、繊維が発泡セルに閉じこめられたり、バインダにより保持されたりするため、移動しにくく、やはり密度コントロールが困難である。しかも、特許文献1〜3に記載の濾材では、繊維成形体の空隙率や発泡セルの大きさは、繊維成形体とはほとんど無関係に発泡性樹脂等の粘性や発泡状態に左右されるため、繊維成形体の特性を有効に利用した濾材を製造することができず、しかも、バインダのためにセル内に膜が形成されて、空隙率が低下し、容易に目詰まりするような濾材となるおそれが多分に存在する。
【0005】
本発明は、製造に際して大量の分散液を必要とせず、従って小型の設備で容易に製造でき、繊維の密度コントロールを簡単に行うことができるとともに、繊維の特質を有効に利用した多孔質繊維成形体を得ることができ、しかも、セル内に膜が張るのを防止して高い空隙率の多孔質繊維成形体とすることが可能な多孔質繊維成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
後記実施形態の図面(図1〜8)の符号を援用して本発明を説明する。
請求項1の発明では、分散液5中に繊維2と固形接着材6とを分散混合して起泡させた繊維分散体8を製造する第一工程と、この繊維分散体8内を脱水させるとともにこの繊維分散体8内の繊維2を前記固形接着材6により結合させて成形する第二工程とを経て、多孔質繊維成形体1を製造する。なお、ここで、脱水とは、加熱による蒸発乾燥等いわば化学的脱水を含まず、外力による吸引脱水や遠心脱水等の物理的脱水を指すものとする。また、固形接着材とは、粉状、粒状または短繊維状をなすものとする。
【0007】
請求項1の発明では、繊維2が起泡された分散液5中で均一に分散されるため、大量の分散液5は不要であり、従って製造設備を小型化できるとともに、廃液処理の手間を大幅に低減できる。そして、分散液5の脱水に際して、脱水方法や脱水程度を選択することにより、多孔質繊維成形体1の立体形状や繊維密度を適宜に設定できる。しかも、接着剤として粉末等の固形接着材6を用いるため、分散液5に液状バインダを混入させる必要がない。このため、分散液5を脱水させることと相まって、繊維2間に膜が張るのを防止できるとともに、繊維2が空隙4を区画形成することになり、繊維2の特性を発揮した空隙率の高い多孔質繊維成形体1を製造できる。
【0008】
請求項1の発明を前提とする請求項2の発明においては、繊維分散体8の脱水と固形接着材6による繊維2の結合とを同一の成形型9,11,13,16,20内において行う。請求項2の発明では、脱水と結合とを同時に行って多孔質繊維成形体1の製造効率を高めることができる。
【0009】
請求項1または2の発明を前提とする請求項3の発明においては、前記固形接着材6が粉状または繊維状である。請求項3の発明では、空隙4に膜がより一層生じにくくなる。
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の発明を前提とする請求項4の発明において、繊維2は樹脂製繊維であり、この樹脂製繊維を構成する樹脂と固形接着材6を構成する樹脂とは同種のものである。請求項4の発明では、固形接着材6による繊維2間の接合強度を高めることができる。
【0010】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の発明を前提とする請求項5の発明において、繊維分散体8は界面活性剤を含む。請求項5の発明では、空隙率がより一層高くなってエア等の流体の通過効率を高めることができる。
【0011】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の発明を前提とする請求項6の発明にかかる第二工程において、繊維分散体8に対し脱水処理を施しながら加熱処理を施す。請求項6の発明では、脱水しながら成形できるため、多孔質繊維成形体1の製造効率を高めることができる。
【0012】
請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の発明を前提とする請求項7の発明にかかる第二工程において、部位に応じて繊維2の密度差が形成されるように成形体を成形する。請求項7の発明では、多孔質繊維成形体1を濾材や吸音材や緩衝材などに利用した際にそれらの所要性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、製造に際して大量の分散液5を必要せず、従って小型の設備で容易に製造でき、繊維2の密度コントロールを簡単に行うことができるとともに、繊維2の特質を有効に利用した多孔質繊維成形体1を得ることができ、しかも、セル内に膜が張るのを防止して高い空隙率の多孔質繊維成形体1とすることができるという効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態にかかる多孔質繊維成形体の製造方法について図面を参照して説明する。
図8で部分拡大して模式的に示す多孔質繊維成形体1においては、多数の繊維2の交絡部が樹脂接合部3により接合され、各繊維2間や各繊維2と樹脂接合部3との間に空隙4が形成された三次元構造になっている。この空隙4が流路となって濾材や吸音材や緩衝材などとして機能する。
【0015】
このような多孔質繊維成形体1は例えば下記の手順で製造される。
まず、図1(a)に示す分散液5中に、図1(b)に示す繊維2と、図1(c)に示す固形接着材6とを投入して、図1(d)に示す原液7を準備する。その原液7を攪拌混合して起泡させると、図1(e)に示す繊維分散体8が製造される。この繊維分散体8においては、繊維2と固形接着材6とが略均等に分散混合される。分散液5に対する繊維2及び固形接着材6の投入タイミングについては、分散液5が泡立つ前後のいずれでもよい。ただし、繊維2及び固形接着材6の投入後は、それらを均一分散させるために、撹拌する必要がある。分散液5に対し繊維2及び固形接着材6を攪拌しながら少量ずつ投入すると、より円滑且つ均等に混合することができる。
【0016】
前記分散液5は、例えば水に界面活性剤や炭酸ガス発生剤などの発泡添加剤を加えたものであるが、泡立ち得る液体ならば分散液5の種類は問わない。この分散液5については、攪拌混合時に泡立てばよく、攪拌混合後にその起泡状態が維持されるか否かは問わない。少量の分散液5で繊維2と固形接着材6とを略均等に分散混合させるが、その際、必要な分散液5の量は、繊維2の量の約10倍程度である。ちなみに、起泡させることなく抄紙法あるいはそれに類した方法で略均等に分散混合させるためには分散液5の量としては繊維2の体積量に対し約1000倍以上のものを必要とする。このように泡立つ分散液5で混合した繊維2は重力の影響を受けにくく、分散混合させた後の繊維2は分離しにくい。仮に繊維2が束状になっていても、分散液5の発泡力や、攪拌時のせん断力や、繊維2間の衝突力などにより、束状の繊維2を分散することができる。
【0017】
前記繊維2については、前記空隙4が形成されて多孔質繊維成形体1として機能するものであれば、材質や形状などは特に限定されず、例えば、樹脂製繊維やガラス繊維や炭化ケイ素繊維等のセラミック繊維等が挙げられる。これらの繊維2は一種のみでも二種以上でもよい。不織布や布等の繊維重合体を粉砕したリサイクル繊維や、脱臭性、消臭性、芳香性及び除菌性を持つ粉体等も使用することができる。このような多種類の繊維を均等に分散混合すると、多孔質繊維成形体1の剛性の調整や繊維密度の調整等を容易に行うことができる。
【0018】
また、繊維2としては、固形接着材6による接合が容易であり、適度に柔軟であって後加工し易く、且つ、十分な強度を有する多孔質繊維成形体1にすることができる樹脂製繊維が好ましい。この樹脂製繊維としては、合成繊維や天然繊維や再生繊維などが挙げられる。合成繊維としては、ポリエチレン繊維やポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維及びビニロン繊維等が挙げられる。天然繊維としては、綿、亜麻、大麻等の麻、セルロース、ジュート、羊毛及び絹等が挙げられる。再生繊維としては、レーヨン及びアセテート等が挙げられる。ポリ乳酸、ポリグリコール酸及びポリエチレンサクシネート等の生分解性樹脂からなる繊維を用いることもできる。この生分解性樹脂からなる繊維を用いれば、使用後の多孔質繊維成形体1の廃棄処理が容易となるため好ましい。これらの樹脂製繊維は一種のみでも二種以上でもよい。
【0019】
さらに、繊維2としては、短繊維や、長繊維を所定長さに切断したものや、モノフィラメント(単繊維)を所定長さに切断したものや、マルチフィラメント(集束繊維)を所定長さに切断したものや、複合繊維でもよい。この複合繊維としては、芯鞘型繊維や、経方向において異なった材質の繊維が接合された繊維等が挙げられる。芯鞘型繊維は、融点の高い熱可塑性樹脂等からなる芯と、この芯を被覆し且つ融点の低い熱可塑性樹脂からなる鞘とにより形成され、例えば、高融点ポリエステル繊維からなる芯と、低融点ポリエステル繊維からなる鞘とにより形成されるもの等が挙げられる。多孔質繊維成形体1を形成するための繊維の径及び長さは特に限定されず、短繊維である場合、長繊維を所定長さに切断した繊維である場合、モノフィラメントを所定長さに切断した繊維である場合のいずれの場合も、径が1〜50μm、特に10〜30μm、長さが0.1〜5.0mm、特に0.5〜2.0mmであることが好ましい。マルチフィラメントを所定長さに切断した繊維である場合には、このマルチフィラメントを構成するモノフィラメントの線径が1〜50μm、特に10〜30μm、長さが0.1〜5.0mm、特に0.5〜2.0mmであり、本数が18〜144本、特に36〜72本であることが好ましい。マルチフィラメントを構成するモノフィラメントは、すべて同じ材質であってもよく、二種以上の異なる材質であってもよい。
【0020】
前記固形接着材6に用いる樹脂としては、加熱により溶融して繊維を接着できるものであれば、特に限定されないが、特に粉状または繊維状の樹脂を使用している。その粉の平均径は例えば0.1mmであり、また、その繊維の径及び長さは例えば20μm×2mmである。接着剤6が液体と比較して粘性のない固形、特に粉状または繊維状の樹脂であると、空隙4に膜が張りにくくなる。芯鞘樹脂や繊維と同質の低融点材料も固形接着材6として使用することができる。架橋剤等を添加して固形接着材6の融点や剛性を調整することもできる。この固形接着材6に用いる樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン−アクリレート共重合体及びエチレン−酢酸ビニル共重合体等のエチレン系共重合樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂等が挙げられる。ポリ乳酸、ポリグリコール酸及びポリエチレンサクシネート等の生分解性樹脂を用いることもできる。この生分解性樹脂からなる繊維を用いれば、使用後の多孔質繊維成形体1の廃棄処理が容易となるため好ましい。固形接着材6は、これらの樹脂のうち一種のみからなっていても二種以上からなっていてもよい。繊維2は交絡部において固形接着材6よりなる樹脂により覆われているが、通過効率が大きく低下しなければ、繊維2の表面のうち交絡部以外の部分、特に樹脂接合部3の周縁部で繊維2の表面に樹脂が付着していてもよい。
【0021】
繊維2が樹脂製繊維である場合、この樹脂製繊維2と樹脂接合部3とは同種の樹脂により形成されていることが好ましい。樹脂製繊維2と樹脂接合部3とが同種の樹脂により形成されておれば、繊維2間を樹脂接合部3においてより確実に接合することができる。また、多くの繊維2が確実に接合され、且つ、均質な多孔質繊維成形体1とするためには、樹脂製繊維2及び樹脂接合部3は各々一種の樹脂からなり、且つ、それらが同種の樹脂であることがより好ましい。
【0022】
前記繊維分散体8に含有される固形接着材6は、固形接着材6と媒体である水との合計を100質量%とした場合に、1〜40質量%とすることができ、特に3〜30質量%とすることが好ましい。固形接着材6の含有量が3〜30質量%であれば、固形接着材6の樹脂からなる粒子が水に均一に分散され、均質な多孔質繊維成形体1とすることができる。繊維2は、繊維2と固形接着材6との合計を100質量%とした場合に、10〜90質量%とすることができ、20〜80質量%、特に30〜70質量%であることが好ましい。繊維2の含有量が30〜70質量%であれば、繊維2間が固形接着材6により確実に接合され、空隙率が高く、十分な強度を有する多孔質繊維成形体1とすることができる。前記繊維分散体8は、水に固形接着材6の粒子が懸濁した分散混合されたものであればよく、乳化重合及び懸濁重合等により固形接着材6の樹脂を重合させたものでもよく、固形接着材6の粒子を乳化剤等を用いて水に懸濁させたものでもよい。硬化前の前記樹脂(未硬化エポキシ樹脂等)を乳化剤等を用いて水に懸濁させたものでもよい。
【0023】
繊維分散体8を起泡させる方法は特に限定されず、繊維分散体8を攪拌して空気を導入し、分散させて起泡させる方法、及び繊維分散体8に気体を吹き込み起泡させる方法等が挙げられる。この気体としては空気や、窒素ガス、あるいは二酸化炭素等を用いることができる。繊維分散体8に気体を吹き込みながら攪拌して起泡させることもできる。起泡時の繊維分散体8の温度は特に限定されず、5℃から室温(15〜25℃、特に22〜25℃)の範囲とすることができる。
【0024】
十分に起泡させ、嵩高い気泡内在の繊維分散体8とするためには、繊維分散体8の25℃における粘度が0.3〜10Pa/秒、特に0.3〜5Pa/秒、さらに0.3〜2Pa/秒であることが好ましい。この粘度が0.3〜2Pa/秒であれば、攪拌により起泡させる、及び気体を吹き込んで起泡させる等、のいずれの方法であっても、繊維分散体8を容易に起泡させることができ、嵩高い気泡内在の繊維分散体8とすることができる。この粘度は、B型粘度計を使用し、ローター番号4、ローター回転数60rpmの条件で測定した値である。
【0025】
繊維分散体8を起泡させることにより、嵩高くなり、含有される繊維2が分散されてランダムな方向に配置され、且つ、繊維2間に空隙4が形成される。気泡内在の繊維分散体8に対する起泡前の繊維分散体8の体積比は特に限定されないが、気泡内在の繊維分散体8の体積(Vp)と、起泡前の繊維分散体8の体積(Ve)との比(Vp/Ve)は、1.5〜10であることが好ましく、1.5〜5、特に1.5〜3であることがより好ましい。(Vp/Ve)が1.5〜3であれば、繊維2をランダムな方向に配置することができ、且つ、繊維2間に十分な空隙4を形成することができる。それにより、空隙率が高く、優れた通過効率を有し、後加工も容易な多孔質繊維成形体1とすることができる。この比(Vp/Ve)は、繊維分散体8を起泡させるときに用いる容器に体積目盛りを付しておくこと等で、容易に確認することができる。
【0026】
繊維分散体8には、気泡を安定化させる作用を有する界面活性剤を含有させることが好ましい。この界面活性剤としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩及びリン酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤、並びに脂肪族4級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤などを用いることができる。界面活性剤としては、気泡を安定化させる作用等に優れるカルボン酸塩が好ましく、このカルボン酸塩としては、パルミチン酸、ステアリン酸及びオレイン酸等の高級脂肪族のアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。より嵩高い気泡内在の繊維分散体8及びより空隙率の高い多孔質繊維成形体1とするためには、気泡安定化の作用とともに起泡を促進させる作用にも優れる界面活性剤を用いることが好ましい。このような界面活性剤としては、パルミチン酸アンモニウム、ステアリン酸アンモニウム及びオレイン酸アンモニウム等が多く用いられ、特に、ステアリン酸アンモニウムが好ましい。
【0027】
界面活性剤の配合量は特に限定されないが、繊維分散体8を100質量%とした場合に、0.1〜20質量%とすることができ、0.5〜10質量%、特に0.5〜5質量%とすることが好ましい。界面活性剤の配合量が0.5〜5質量%であれば、気泡を十分に安定化することができ、嵩高い気泡内在の繊維分散体8とすることができる。この嵩高い気泡内在の繊維分散体8を用いることにより、空隙率が高く優れた通過効率を有する多孔質繊維成形体1とすることができる。
【0028】
繊維分散体8には、さらに他の添加剤を配合することができる。この添加剤は樹脂の種類等によっても異なるが、発泡剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤及び顔料等の添加剤を所要量配合することができる。この発泡剤としては、熱分解型発泡剤、揮発性発泡剤、中空粒子型発泡剤等が挙げられる。これらの発泡剤は一種のみを用いても二種以上を用いてもよい。この熱分解型発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム及び重炭酸アンモニウム等の無機系熱分解型発泡剤を用いることができる。アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル及びジニトロソペンタメチレンテトラミン等の有機系熱分解型発泡剤を用いることもできる。揮発型発泡剤としては、プロパン、ブタン等の脂肪族炭化水素類、クロロジフルオロメタン、ジフルオロメタン等のハロゲン化炭化水素類、二酸化炭素及び窒素などを用いることができる。発泡剤の配合量は特に限定されないが、接合用樹脂を100質量部とした場合に、1〜50質量部とすることができ、1〜30質量部、特に2〜25質量部とすることが好ましい。
【0029】
次に、このような第一工程で製造された繊維分散体8を利用して多孔質繊維成形体1を製造する第二工程について述べる。
図2(a)では、筒状の吸引ネット10を設けた成形型9内に繊維分散体8を供給し、エアによる吸引によりこの繊維分散体8からこの吸引ネット10を通して脱水する。この吸引脱水処理時には、繊維分散体8内の繊維2がエア吸引向き方向Xの吸引力により吸引ネット10側に引き込まれる。この吸引脱水処理に続いてヒータ(図示せず)による加熱処理を施し、成形型9内の繊維分散体8を乾燥させるとともに、固形接着材6により繊維2を相互に接着させる。図2(b)に示すように、この成形型9内から取り出された多孔質繊維成形体1(脱水成形された繊維分散体8)は、吸引ネット10側ほど繊維2の密度が高くなってエア吸引向き方向Xに高い密度の密度勾配を持った不織布として成形される。以上のように、部位によって繊維密度が相違する多孔質繊維成形体1を容易に製造できる。従って、この多孔質繊維成形体1を濾材に利用すると、例えば繊維密度の低い側からエアを通過させた場合、繊維密度の低い部分で大きめの塵挨等が捕捉されるとともに、繊維密度の高い部分で小さめの塵埃等が捕捉され、従って、目詰まりを防ぎつつ、高い捕捉効率を得ることができ、それらの性能を向上させることができる。
【0030】
図3(a)では、多孔質壁12を有する成形型11内に繊維分散体8を供給し、回転中心線11aを中心にこの成形型11を回転させる。その回転遠心力によりこの繊維分散体8からこの多孔質壁12を通して脱水が行われる。この回転脱水処理時には、繊維分散体8内の繊維2が回転遠心力により回転中心線11aに対する半径方向Yの外側へ寄せられる。この回転脱水処理に続いてヒータ(図示せず)による加熱処理も施し、成形型11内の繊維分散体8を乾燥させるとともに、固形接着材6により繊維2同士を接着させる。図3(b)に示すように、この成形型11内から取り出された多孔質繊維成形体1(脱水された繊維分散体8)は、回転中心線11aから離間する半径方向Yの外側ほど繊維2の密度が高くなってその半径方向Yに密度勾配を持った多孔質繊維成形体1として成形される。従って、この多孔質繊維成形体1を濾材に利用すると、エアを端面の中心側から内部を介して外周側に向けて通すため、前記と同様に捕捉効率等の性能を向上させることができる。
【0031】
図4(a)では、多孔質壁14を有する成形型13内に繊維分散体8を供給し、この成形型13内で加圧板15により繊維分散体8を圧縮する。その圧縮力によりこの繊維分散体8からこの多孔質壁14を通して脱水する。この圧縮脱水処理に続いてヒータ(図示せず)による加熱処理も施し、成形型13内の繊維分散体8を乾燥させるとともに、固形接着材6により繊維2同士を接着させる。図4(b)に示すように、この成形型13内から取り出された多孔質繊維成形体1(脱水された繊維分散体8)は、加圧力の調節により全体の繊維密度を自在に変更することができるとともに、その繊維密度は多孔質繊維成形体1の全域にわたってほぼ均等である。
【0032】
図5(a)では、多孔質壁17を有する成形型16内に繊維分散体8を供給し、この成形型16内でピン状または板状をなす多数の中子18aを有する可動型18により繊維分散体8を加圧する。その加圧力によりこの繊維分散体8から多孔質壁17を通して脱水する。図5(b)では、多孔質壁21を有するとともにピン状または板状をなす多数の中子22を有する成形型20内に繊維分散体8を射出筒23の先端ゲートから射出充填する。この中子22を射出充填後に成形型20内に挿入してもよい。その射出圧力によりこの繊維分散体8からこの多孔質壁21を通して脱水する。そして、これらの成形型16,20内から取り出された多孔質繊維成形体1(脱水された繊維分散体8)にヒータ(図示せず)による加熱処理も施し、その多孔質繊維成形体1を乾燥させるとともに、固形接着材6により繊維2同士を接着させる。この成形型16,20内から繊維分散体8を取り出す前に成形型20内においてその繊維分散体8に加熱処理を施してもよい。この多孔質繊維成形体1は、図5(c)に示す多孔立体形状のものや、図5(d)に示す多溝立体形状のものとして成形される。これらの成形型16,20に対する充填圧力の調節により多孔質繊維成形体1全体の繊維密度を自在に変更することができる。溝を有する立体形状の多孔質繊維成形体1では表面積が増加する。従って、この多孔質繊維成形体1を濾材や吸音材や緩衝材などに利用すると、それらの性能を向上させることができる。さらに、図7(a)に示すように先鋭状でかつ有底筒状の多孔質繊維成形体1を成形すれば、この多孔質繊維成形体1を単独で、あるいは図7(b)に示すように並べて相互に接着することにより濾材等として使用できる。
【0033】
そのほか、成形型16,20内に熱風供給孔(図示せず)から熱風を通して成形時間を短縮させたりしてもよい。また、例えば図5(a)の場合において加圧力を調節して、繊維密度、すなわち空隙4の大きさを調整することができる。
【0034】
以上のように、この実施形態においては、繊維2が起泡された分散液5中で均一に分散されるため、大量の分散液5は不要であり、従って製造設備を小型化できるとともに、大量の廃液を処理するというような手間を大幅に低減でき、環境負荷も低減できる。また、分散液5中に繊維2と固形接着材6とを分散混合して起泡させるため、繊維2が泡により保持されて、均等分散状態を保持する。この状態は、分散液5がほとんど消泡状態になっても、繊維2の周囲に残留している泡が繊維2の遊動を阻止するため、分散液5の嵩が小さくなるのみで、繊維2の均等分散状態は変化しない。そして、この状態で、繊維分散体8を脱水するとともに、加熱により固形接着材6を溶融させて成形すれば、前記のように、繊維2が部位により密度が異なるように構成したり、あるいは均等密度が維持されたりしている立体的な多孔質繊維成形体1を得ることができる。しかも、多孔質繊維成形体1の繊維2同士を結合させるために、粉末等の固形接着材6を用いていて、液状の粘性のあるバインダを用いていないため、繊維2間の空隙4に膜が張るのを防止できる。従って、高い空隙率を確保でき、通気性や捕捉効率の高い濾材や、余分な樹脂が存在しない軽量化された濾材や吸音材や充填材とすることができる。また、このように成形された多孔質繊維成形体1は、前記特許文献1〜3の濾材とは異なり、発泡樹脂に埋設されたものでなく、繊維2が空隙4に露出する。従って、繊維2の特質を有効に利用した多孔質繊維成形体1とすることができる。例えば、繊維2として捲縮繊維を用いた場合、繊維2が樹脂によって覆われたり、固化されたりすることがないため、捲縮繊維特有の高い空隙率を維持した多孔質繊維成形体1とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(a)は分散液を示す概略断面図であり、(b)は繊維を示す概略断面図であり、(c)は固形接着材を示す概略断面図であり、(d)はこの分散液に繊維と固形接着材とを入れた原液を示す概略断面図であり、(e)はこの原液を攪拌混合した繊維分散体を示す概略断面図である。
【図2】(a)は上記繊維分散体から多孔質繊維成形体を製造する第一の方法を示す概略断面図であり、(b)は(a)の方法により製造された多孔質繊維成形体を示す概略断面図である。
【図3】(a)は上記繊維分散体から多孔質繊維成形体を製造する第二の方法を示す概略断面図であり、(b)は(a)の方法により製造された多孔質繊維成形体を示す概略断面図である。
【図4】(a)は上記繊維分散体から多孔質繊維成形体を製造する第三の方法を示す概略断面図であり、(b)は(a)の方法により製造された多孔質繊維成形体を示す概略断面図である。
【図5】(a)は上記繊維分散体から多孔質繊維成形体を製造する第四の方法を示す概略断面図であり、(b)は上記繊維分散体から多孔質繊維成形体を製造する第五の方法を示す概略断面図であり、(c)及び(d)は(a)及び(b)の方法により製造された多孔質繊維成形体を示す概略断面図である。
【図6】(a)は多孔質繊維成形体の別例を示す断面図であり、(b)は同じく平面図である。
【図7】(a)は図6(a)の多孔質繊維成形体を組み合わせたものを示す断面図であり、(b)は同じく平面図である。
【図8】図2(b)や図3(b)や図4(b)や図5(c)(d)に示す多孔質繊維成形体の一部を拡大して示す模式図である。
【符号の説明】
【0036】
1…多孔質繊維成形体、2…繊維、3…樹脂接合部、4…空隙、5…分散液、6…固形接着材、8…繊維分散体、9,11,13,16,20…成形型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散液中に繊維と固形接着材とを分散混合して起泡させた繊維分散体を製造する第一工程と、この繊維分散体内を脱水させるとともにこの繊維分散体内の繊維を前記固形接着材により結合させて成形する第二工程とを経て、多孔質繊維成形体を製造することを特徴とする多孔質繊維成形体の製造方法。
【請求項2】
繊維分散体の脱水と固形接着材による繊維の結合とを同一の成形型内において行うことを特徴とする請求項1に記載の多孔質繊維成形体の製造方法。
【請求項3】
前記固形接着材が粉状または繊維状であることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質繊維成形体の製造方法。
【請求項4】
繊維は樹脂製繊維であり、この樹脂製繊維を構成する樹脂と固形接着材を構成する樹脂とは同種のものであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の多孔質繊維成形体の製造方法。
【請求項5】
繊維分散体は界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の多孔質繊維成形体の製造方法。
【請求項6】
前記第二工程において、繊維分散体に対し脱水処理を施しながら加熱処理を施すことを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の多孔質繊維成形体の製造方法。
【請求項7】
前記第二工程において、部位に応じて繊維の密度差が形成されるように成形体を成形することを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の多孔質繊維成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−126766(P2007−126766A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318737(P2005−318737)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】