説明

多孔質膜の製造方法、多孔質膜、多孔質膜製造装置

【課題】多孔質状の薄膜を簡便で効率よく製造できる多孔質膜の製造方法、その方法で得られる多孔質膜及び多孔質膜製造装置を提供する。
【解決手段】有機化合物と疎水性有機溶媒とを含む塗布液を支持体上に塗布して、0℃以上10℃以下に調整された塗布膜を形成する工程と、塗布膜の温度より露点を高く調整した水蒸気を含む水蒸気含有気体を塗布膜に供給して、塗布膜上で水蒸気を凝結させて塗布膜を乾燥させる工程とを含む多孔質膜の製造方法、その方法で得られる多孔質膜及び本発明の製造方法に適用可能な多孔質膜製造装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子や細胞培養膜等に利用される多孔質膜の製造方法、多孔質膜及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
疎水性のポリマー溶液を用いて形成された塗布膜に高湿度の空気を吹きつけて乾燥させると、塗布膜表面に孔が形成された多孔質膜が得られる。このような多孔質膜は、(1)蒸発による塗布膜表面温度の低下によって空気中の水蒸気が塗布膜表面で凝縮し、(2)凝縮によって生じた水滴が溶媒蒸発過程で生じる対流や毛管力によって集合して、(3)溶媒が乾燥することで水滴を鋳型として孔が形成される、というステップを経て形成される。
【0003】
従来、上記のような多孔質膜を製造する方法としては、ドロップキャスト法で製膜し、温湿度制御されたチャンバー内で乾燥させる方法や、塗布膜表面に加湿空気を吹き付けて乾燥させる方法が多く用いられている。しかし、いずれの場合も膜厚500nm以下の多孔質薄膜を得ることは非常に困難であった。
【0004】
ポリマーからなる多孔質膜は、熱電変換素子をはじめとした様々なデバイスへの応用が期待されており、ウェットプロセスで安定生産できる条件を見出すことは、設備コスト、大面積化の点で非常に意義がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、所定の疎水性有機溶媒に溶解した溶液を基板上に展開した後、基板上に相対湿度50〜95%の気体を一定の流速で送ることでハニカム構造体を製造する方法が提案されている。しかし、この方法は溶剤の蒸発潜熱を利用して塗布膜温度を低下させているため、膜厚が薄い場合は塗布膜の温度が低下する前に塗布膜自体が乾燥固化してしまい、孔が形成されない。すなわち、特許文献1の方法では、多孔質状の薄膜を製造することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−294905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、多孔質状の薄膜を簡便で効率よく製造できる多孔質膜の製造方法、その方法で得られる多孔質膜及び多孔質膜製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明により当該課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は下記通りである。
【0009】
[1] 有機化合物と疎水性有機溶媒とを含む塗布液を支持体上に塗布して、0℃以上10℃以下に調整された塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、前記塗布膜の温度より露点を高く調整した水蒸気を含む水蒸気含有気体を前記塗布膜に供給して、当該塗布膜上で前記水蒸気を凝結させ前記塗布膜を乾燥させる凝結・乾燥工程と、を含む多孔質膜の製造方法。
[2] 前記塗布膜形成工程において、前記塗布液を支持体上に塗布する際の該塗布液の温度を0℃以上10℃以下とする[1]に記載の多孔質膜の製造方法。
[3] 前記水蒸気含有気体の相対湿度を、40%以上95%以下とする[1]又は[2]に記載の多孔質膜の製造方法。
[4] 前記多孔質膜の厚みが500nm以下である[1]〜[3]のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
[5] 前記凝結・乾燥工程において、前記塗布膜中の前記疎水性有機溶媒と前記凝結した水分とをこの順に段階的に蒸発させる[1]〜[4]のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法。
【0010】
[6] 上記[1]〜[5]のいずれかに記載の多孔質膜の製造方法により製造される多孔質膜。
[7] 塗布液を所定温度に調整する温度調整手段と、支持体上に、前記塗布液を塗布して塗布膜を形成する塗布膜形成手段と、水蒸気を含む水蒸気含有気体を前記塗布膜に供給して、当該塗布膜上で前記水蒸気を凝結させ、前記塗布膜を乾燥させる凝結・乾燥手段と、を有し、前記塗布膜形成手段により塗布膜が形成された直後に、当該塗布膜に前記水蒸気含有気体が供給されるように、前記凝結・乾燥手段の水蒸気含有気体供給部が設けられてなる多孔質膜製造装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多孔質状の薄膜を簡便で効率よく製造できる多孔質膜の製造方法、その方法で得られる多孔質膜、及び多孔質膜製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の多孔質膜製造装置の一態様を示す概略説明図である。
【図2】実施例の多孔質膜表面のAFM画像(範囲5μm×5μm)であり、(A)は実施例1であり(B)は実施例2である。
【図3】実施例の多孔質膜表面のAFM画像(範囲5μm×5μm)であり、(A)は実施例3であり(B)は実施例4である。
【図4】実施例の多孔質膜表面のAFM画像(範囲5μm×5μm)であり、(A)は実施例5であり(B)は実施例6である。 なお、「AFM」とは原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope)の略称であり、本明細書では「AFM」と略す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[多孔質膜の製造方法及び多孔質膜]
本発明の多孔質膜の製造方法は、塗布膜形成工程と凝結・乾燥工程とを含む。以下、各工程について説明する。
【0014】
(1)塗布膜形成工程:
塗布膜形成工程は、有機化合物と疎水性有機溶媒とを含む塗布液を支持体上に塗布して、0℃以上10℃以下に調整された塗布膜を形成する工程である。
ここで形成される塗布膜は、疎水性有機溶媒に有機化合物を含有したウェット状態(液体状)のものである。
【0015】
塗布膜の形成方法としては、ディップコート、グラビアコート、マイヤーバーコート、ロールコート、ダイコート、スクリーンコート、リップコート等が挙げられる。孔径の精度等を考慮すると、ディップコートが好ましい。
【0016】
塗布膜形成後の塗布膜の温度を0℃以上10℃以下に調整するには、塗布時の雰囲気温度を0℃以上10℃以下に、又は、塗布液を支持体上に塗布する際の該塗布液の温度を0℃以上10℃以下にする必要がある。温度制御のしやすさを考慮すると、後者の方法が好ましい。
なお、塗布膜の温度が0℃未満では、後の凝結・乾燥工程において水蒸気の凝結量が多くなりすぎて凝結した複数の水滴同士が結合し、個々に独立した孔が形成されず連続した帯状の切れ目が形成されてしまう。10℃を超えると後の凝結・乾燥工程において水蒸気の凝結が進行しにくくなり、所望の多孔質膜を製造することが困難となる。塗布膜の温度は、2〜8℃とすることが好ましく、3〜5℃とすることがより好ましい。
【0017】
塗布液に含まれる有機化合物としては、製膜可能な材料であればよく、特に高分子化合物が好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等のビニル重合ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリラクトン;ポリイミド;ナイロンやポリアミド酸等のポリアミド;ポリアロマティックス;ポリエーテルスルホン等のポリエーテル;ポリシロキサン誘導体;等が挙げられる。また、ポリアクリルアミドを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つポリマーや、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー等も挙げられる。
有機化合物の分子量としては、数平均分子量(Mn)で1,000〜10,000,000であることが好ましく、5,000〜1,000,000であることがより好ましい。
【0018】
また、疎水性有機溶媒としては、非水溶性のものを使用する。例えば、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン系有機溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;メチルイソブチルケトン等の非水溶性ケトン類;ジエチルエーテル等のエーテル類;二硫化炭素;などが挙げられる。これらは単独で使用しても、組み合わせた混合溶媒として使用してもよい。
【0019】
疎水性有機溶媒中の有機化合物の濃度は、0.001〜10質量%であることが好ましく、0.01〜1質量%であることがより好ましい。
また、支持体としては、ガラス、金属、シリコンウエハー等の無機材料、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン、ポリフッ化エチレン等の耐有機溶剤性に優れた有機材料を用いることができる。支持体の形状としては、厚みが均一な多孔質膜を得やすいという観点から板状が好ましいが、円柱状や角柱状など特に限定されるものではない。支持体は塗布膜形成時には、塗布液と同じ温度であることが好ましく、塗布液中に所定時間浸漬させておくことが好ましい。支持体を塗布液に浸漬する所定時間としては、1分以上が好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上がさらに好ましい。
【0020】
(2)凝結・乾燥工程:
凝結・乾燥工程は、塗布液より露点を高く調整した水蒸気を含む水蒸気含有気体を、塗布膜形成工程を経て形成された塗布膜に供給して、当該塗布膜上で水蒸気を凝結させ、乾燥させる工程である。
【0021】
水蒸気含有気体の露点は、5〜25℃とすることが好ましく、10〜20℃とすることがより好ましい。また、水蒸気含有気体の相対湿度は40%以上95%以下とすることが好ましく、50%以上80%以下とすることがより好ましい。40%未満では、水の凝結が不十分となる場合があり、95%を超えると湿度の制御が不安定になり所望の孔を得ることができない場合がある。さらに、水蒸気含有気体の温度は、5〜40℃とすることが好ましく、15〜25℃とすることがより好ましい。
【0022】
露点は以下のTetensの式から求めることができる。なお、式中のEは飽和水蒸気圧(単位:hPa)を表し、tdは露点(単位:℃)を表す。
【0023】
【数1】

【0024】
具体的な算出手順としては、まず、Tetensの式に相対湿度(H)/100をかけて下記式を得る。これにより、ある条件の空気の蒸気圧eが算出される(例えば、40℃40%だと29.5hPa)。なお、式中のHは相対湿度(単位:%)、tは水蒸気含有気体の温度(単位:℃)を表す。
【0025】
【数2】

【0026】
次に、Tetensの式のEに上記式から求めた蒸気圧eを代入し、下記式のように変形して、蒸気圧eが飽和蒸気圧となる温度を算出する。そして、このときの温度が露点tdとなる。
【0027】
【数3】

【0028】
また、塗布膜中の疎水性有機溶媒及び凝結した水分は、この順に段階的に蒸発させることが好ましい。すなわち、(1)水蒸気の凝結、(2)溶媒の蒸発、(3)凝結した水分の蒸発の順にプロセスが進行することで、薄膜の場合でも効率よく多孔質化を図ることができる。なお、実際には、上記(1)〜(3)のプロセスは、同時に起こることもあり、厳密に上記の順にプロセスを進行させることは難しい。しかし、後述する本発明の塗布膜製造装置を使用し、塗布膜の温度を調整し、水蒸気の凝結及び溶媒の蒸発を制御することによって上記プロセスをある程度支配的に進行させることができる。
【0029】
水蒸気含有気体中の気体としては、空気の他、窒素ガス・アルゴンガスなどの不活性ガスを用いることができるが、事前にフィルターを通過させるなどの除塵処置を施すことが好ましい。雰囲気中の塵は水蒸気の凝結核となって製膜に影響を及ぼすため、製造現場に除塵設備等を設置することが好ましい。
【0030】
以上のようにして製造された本発明の多孔質膜の厚みは、500nm以下であることが好ましく、1〜300nmであることがより好ましく、5〜100nmであることがさらに好ましい。
また、本発明における孔とは、貫通したもののみならず、一定の径で一定の深さを有する凹部をも孔とみなし、下記式を満たすものをいう。
式:孔の深さ(nm)/孔の径(nm)>0.03
上記式において、「孔の深さ/孔の径」は0.035〜10であることが好ましく、0.04〜5であることがより好ましく、0.05〜1がさらに好ましい。
孔径は、10〜800nmであることが好ましく、50〜600nmであることが好ましい。孔の深さは4nm以上が好ましく、6nm以上がより好ましい。
さらに、表面における孔の割合は、0.01〜30%であることが好ましく、0.05〜20%であることがより好ましい。孔の割合は、例えば多孔質膜の表面をAFMにて観察し、任意の5μm×5μmの領域(25μm2)に存在する孔の面積の合計から求めることができる。
【0031】
本発明において、浸漬塗布法を適用して多孔質膜の厚みを制御するには、相対湿度及び水蒸気含有気体の流量を一定とし、引上げ速度、塗布液中の固形分濃度及び塗布液温度を適宜調整することで行なうことができる。この際、「Landau,L.D.,Levich,V.G.,Acta Physicochim.USSR,17,42−54(1942)」に記載の内容と下記式を参考することが好ましい。
【0032】
h∞=0.944×(μU/σ)1/6/(√(ρg/μU))
dry=h∞×W
h∞:wet膜厚
ρ:塗液密度
g:重力加速度
μ:塗液粘度
U:引き上げ速度
σ:塗液表面張力
dry:dry膜厚(多孔質膜の厚さ)
W:固形分濃度
【0033】
以下に、相対湿度を80%、水蒸気含有気体の流量を300m3/min、凝結・乾燥手段と塗布膜との距離を1mmで一定とし、引上げ速度、塗布液中の固形分濃度及び塗布液温度を変化させた場合の多孔質膜の厚さと孔の径の測定結果を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
[多孔質膜製造装置]
図1に本発明の多孔質膜製造装置の一形態を示す。
図1に示す多孔質膜製造装置10はディップコートを適用したもので、塗布膜形成手段12として、支持体14を固定(把持)しながらこれを昇降可能なディップコーター16とディップ槽18を有している。また、ディップ槽18は有機化合物と疎水性有機溶媒とを含む塗布液20で満たされる。この塗布液20を所定温度(0℃以上10℃以下)に保持するために、温度調整手段22が設けられている。温度調節手段22は例えばチラー22Aと熱交換器22Bとからなり、塗布液20を温度調節手段22とディップ槽18との間で循環させることで、塗布液20の温度を所定温度に維持する。
なお、塗布液を循環させる際には、図1に示すように送液ポンプ24や流量調節バルブ26A,26Bを設ければよい。また、図1中の矢印は塗布液の流れを示すものである。
【0036】
また、多孔質膜製造装置10には、凝結・乾燥手段として加湿装置28が設けられている。加湿装置28は水蒸気含有気体を所定の露点に調整する装置であり、水蒸気含有気体供給部28Aから水蒸気含有気体を塗布膜30へ供給する構成を有している。なお、水蒸気含有気体供給部28Aは、既存のエアノズル等を用いることができる。
【0037】
多孔質膜製造装置10により支持体上に多孔質膜を形成するには、まず、塗布液20を温度調節手段22とディップ槽18との間で循環させつつ0℃以上10℃以下に維持する。ディップコーター16により支持体14を下降させて塗布液20中に所定時間浸漬した後引き上げる。引き上げると同時に塗布膜が形成されるが、この形成直後に所定の露点に調整しておいた水蒸気含有気体を加湿装置28の水蒸気含有気体供給部28Aから供給する。
塗布膜形成直後の塗布膜は塗布液の温度をほぼそのまま維持しており、この状態で水蒸気含有気体を供給することで、(1)水蒸気の凝結、(2)溶媒の蒸発、(3)凝結した水分の蒸発といったプロセスが進行しやすくなり、多孔質状の薄膜を簡便で効率よく製造することが可能となる。
【0038】
上記のような効果を発現させるには、塗布膜形成手段12により塗布膜30が形成された直後に、当該塗布膜に水蒸気含有気体が供給されるように、凝結・乾燥手段(加湿装置28)の水蒸気含有気体供給部28Aが設けられてなる必要があるが、「直後」とは、好ましくは20秒程度以内をいい、より好ましくは10秒以内をいう。これらの範囲内であれば、塗布膜形成直後の塗布膜は塗布液の温度をほぼそのまま維持することが可能となり、所望の孔径の多孔質膜を形成することができる。
なお、本実施形態において塗布膜の形成方法としてディップコートを適用したが、特にこれに限定されるものではなく、多孔質膜の製造方法における塗布膜形成工程で例示した塗布膜の形成方法を適宜選定して採用することができる。
【実施例】
【0039】
以下、図1に示す装置を用いて行った実施例及び比較例により、本発明を具体的に説明するが、本発明をこれらに限定されるものではない。
なお、本例において湿度を一定に保った水蒸気含有気体である恒湿空気は、アズワン(株)製エアポンプNUP2に三菱重工業(株)製加湿器ナノミストSHH55DDを接続して供給した。また、塗布層形成から加湿空気吹き付けまでの時間は10秒とした。また、水蒸気含有気体供給部であるエアノズルの直径は2.5cmであった。
さらに、塗布膜の温度は、EXERGEN社製非接触温度計IRt/cにより測定した。
AFM画像は、日本電子(株)製原子間力顕微鏡JSPM−5400を用いて得た。得られたAFM画像を画像処理することで、孔の面積の割合及び「孔の深さ/孔の径」を求めた。
【0040】
(実施例1〜6)
分子量約320,000のポリスチレンを溶解した塩化メチレン溶液(ポリマー濃度として0.2質量%)を、下記表2に示す温度に冷却し、ディップコーターにて引き上げ速度4mm/secで、ガラス基板(幅1cm、長さ10cm、厚さ1mm 他の例についても同様)上に塗布膜を形成したのち、塗布膜表面に温度22℃相対湿度80%の恒湿空気を毎分300cm3の定常流量で送り、塩化メチレン溶媒及び水分を蒸発させることによって、多孔質膜を得た。
【0041】
その結果、図2〜図4に示すとおり、表面に孔を有する、膜厚14nmの多孔質薄膜が得られた。
なお、図2(A)は実施例1に相当し、図2(B)は実施例2に相当する。図3(A)は実施例3に相当し、図3(B)は実施例4に相当する。図4(A)は実施例5に相当し、図4(B)は実施例6に相当する。
【0042】
(実施例7)
分子量約320,000のポリスチレンを溶解した塩化メチレン溶液(ポリマー濃度として0.2質量%)を、4℃に冷却し、ディップコーターにて引き上げ速度4mm/secで塗布膜を形成したのち、塗布膜表面に温度22℃相対湿度50%の恒湿空気を毎分300cm3の定常流量で送り、塩化メチレン溶媒及び水分を蒸発させることによって、多孔質膜を得た。
【0043】
その結果、表面に80〜150nm径の孔を有する、膜厚14nmの多孔質薄膜が得られた。
【0044】
(実施例8)
分子量約320,000のポリスチレンを溶解したクロロホルム溶液(ポリマー濃度として0.2質量%)を、4℃に冷却し、ディップコーターにて引き上げ速度4mm/secで塗布膜を形成したのち、塗布膜表面に温度22℃相対湿度80%の恒湿空気を毎分300cm3の定常流量で送り、クロロホルム溶媒及び水分を蒸発させることによって、多孔質膜を得た。
【0045】
その結果、表面に80〜300nm径の孔を有する、膜厚14nmの多孔質薄膜が得られた。
【0046】
(比較例1)
実施例1と同じ条件で、分子量約320,000のポリスチレンを溶解した塩化メチレン溶液(ポリマー濃度として0.2質量%)を、−2℃に調節した場合の薄膜表面をAFMで観察し実施例1と比較した。その結果、塗布層表面には肉眼で観察できる大きさの連続的な帯状の切れ目が形成され、孔は得られなかった。
【0047】
(比較例2)
実施例1と同じ条件で、分子量約320,000のポリスチレンを溶解した塩化メチレン溶液(ポリマー濃度として0.2質量%)を、11℃に調節した場合の薄膜表面をAFMで観察し実施例1と比較した。その結果、塗布層表面に孔は得られなかった。
【0048】
(比較例3)
実施例7と同じ条件で、塗布層表面に温度13℃相対湿度50%の恒湿空気を毎分300cm3の定常流量で送った場合の薄膜表面をAFMで観察し実施例7と比較した。その結果、塗布層表面に孔は得られなかった。
【0049】
(比較例4)
実施例3と同じ条件で、分子量約320,000のポリスチレンを溶解した親水性溶媒であるテトラヒドロフラン溶液(ポリマー濃度として0.2質量%)を4℃に調節した場合の薄膜表面をAFMで観察し実施例3と比較した。その結果、塗布層表面には肉眼で観察できる大きさの連続的な帯状の切れ目が形成され、孔は得られなかった。
【0050】
【表2】

【符号の説明】
【0051】
10・・・多孔質膜製造装置
12・・・塗布膜形成手段
14・・・支持体
16・・・ディップコーター
18・・・ディップ槽
20・・・塗布液
22・・・温度調整手段
22A・・・チラー
22B・・・熱交換器
24・・・送液ポンプ
26A,26B・・・流量調節バルブ
28・・・加湿装置
28A・・・水蒸気含有気体供給部
30・・・塗布膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物と疎水性有機溶媒とを含む塗布液を支持体上に塗布して、0℃以上10℃以下に調整された塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、
前記塗布膜の温度より露点を高く調整した水蒸気を含む水蒸気含有気体を前記塗布膜に供給して、当該塗布膜上で前記水蒸気を凝結させ前記塗布膜を乾燥させる凝結・乾燥工程と、
を含む多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
前記塗布膜形成工程において、前記塗布液を支持体上に塗布する際の該塗布液の温度を0℃以上10℃以下とする請求項1に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
前記水蒸気含有気体の相対湿度を、40%以上95%以下とする請求項1又は2に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質膜の厚みが500nm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
前記凝結・乾燥工程において、前記塗布膜中の前記疎水性有機溶媒と前記凝結した水分とをこの順に段階的に蒸発させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔質膜の製造方法により製造される多孔質膜。
【請求項7】
塗布液を所定温度に調整する温度調整手段と、
支持体上に、前記塗布液を塗布して塗布膜を形成する塗布膜形成手段と、
水蒸気を含む水蒸気含有気体を前記塗布膜に供給して、当該塗布膜上で前記水蒸気を凝結させ、前記塗布膜を乾燥させる凝結・乾燥手段と、を有し、
前記塗布膜形成手段により塗布膜が形成された直後に、当該塗布膜に前記水蒸気含有気体が供給されるように、前記凝結・乾燥手段の水蒸気含有気体供給部が設けられてなる多孔質膜製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−105780(P2011−105780A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258950(P2009−258950)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(ロボット・新技術イノベーションプログラム)「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(509130000)技術研究組合BEANS研究所 (13)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】