説明

多孔質膜乳化装置

【課題】多数種類の頻繁な少量乳化において円筒状多孔質膜の装着脱が容易で、厳密な単分散エマルションを生成することができる乳化装置を提供する。
【解決手段】側口6’を有した円筒部材6の上部外面に内向き段であるOリング支え部6aを設け、円筒部材6に被せた円筒状多孔質膜1と円筒部材6との間には、上部Oリング2が配置され、次いで窓4aが形成された円筒状の支持アダプター4が配置され、次いで下部Oリング3が配置され、円筒部材6の最下部に1箇所だけ設けたビスねじ7aをねじ込むことにより、押さえアダプター5を介して下部Oリング3及び支持アダプター4を介して上部Oリング2が円筒部材6と円筒状多孔質膜1を液密に圧着保持し、円筒部材6の側口6’を通じて分散相液室10に連絡する分散相タンク8と分散相液体供給用導管8’で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中水滴型エマルション(以下、W/Oエマルションと記す)または水中油滴型エマルション(以下、O/Wエマルションと記す)の生成方法とその装置に関するものである。尚、W/Oエマルション、O/Wエマルション形態において、それぞれ分散相のWをO/W、分散相のOをW/Oに置き換えるとO/W/Oエマルション、W/O/Wエマルションとなることを十分考慮できるものである。本発明は、特に均一な孔径を有する多孔質膜を用いた単分散エマルションを生成する乳化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にエマルションを利用する分野としては、食品産業、医薬品産業、電子電気機械産業、農林水産業など多岐にわたる。食品産業においては代表的な乳化食品など、医薬品産業においては有効成分を封入した乳化型カプセル製剤など、電子電気機械産業では液晶用のスペーサーや潤滑油、環境分野において乳化型燃料など、農林水産業においては乳化型防虫剤、養殖用乳化型栄養剤など、プラスチック産業においては、モノマーをO/W乳化型エマルションとして調製し、その後重合反応を経てポリマーを生成するなど多岐の業界において様々な分野で利用されている。
【0003】
従来、W/OエマルションまたはO/Wエマルションを生成する場合、一般的な方法として高速攪拌式や、高圧せん断式のホモジナイザー、送液パイプライン中にねじれ羽根を幾枚も設けて送液しながらせん断するインラインミキサーなどが多く使用されている。この場合エマルション粒子径の大きさをコントロールする手法として、攪拌回転速度、せん断回転速度、ねじれ羽根の枚数などを調整して機械的せん断力の強弱でエマルション粒子径を調整している方法が一般的である。
【0004】
そこで、エマルション粒子径をコントロールできる膜乳化法を適用する乳化装置において、少量のエマルションを生成することが可能な特許文献1のような小型乳化器が提案されている。この方法の概略を図3に示すと、分散相液室と連絡する円筒部材は上部外向きフランジと下部外向きフランジを有し、前記上部外向きフランジと前記下部外向きフランジの間に窓が形成され、前記上下部夫々外向きフランジの外側に多孔質円筒状膜が配置され、前記上部外向きフランジ上と前記下部外向きフランジ下の夫々に配置されたOリングの圧着により、或いは、前記上部外向きフランジ上のOリングを圧着可能に螺合された押さえナットと、前記下部外向きフランジ下のOリングを圧着可能で且つ前記円筒部材を密封可能に螺合された押さえボルトにより夫々に配置されたOリングを圧着することで、前記多孔質円筒状膜が液密に支持されることを特徴としている。また、分散相液室と連絡する円筒部材が上部内向きフランジと下部内向きフランジを有し、前記上下部夫々内向きフランジの内側に多孔質円筒状膜が配置され、前記上部内向きフランジ上と前記下部内向きフランジ下の夫々に配置されたOリングの圧着により、或いは、前記上部内向きフランジ上方に設けた前記円筒部材内側のネジ溝に螺合した押さえボルトと前記下部内向きフランジ下方に設けた前記円筒部材内側のネジ溝に螺合した押さえボルトにより夫々配置されたOリングを圧着することで、前記多孔質円筒状膜が液密に支持されることを特徴としている。
【特許文献1】特許第3242776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この方法の多孔質円筒状膜をOリングで円筒部材に支持する手段として、多孔質円筒状膜の内側を圧着支持する場合、多孔質円筒状膜上部Oリングを押さえナットでねじ込み圧着させ、さらに多孔質円筒状膜の下部Oリングを押さえボルトでねじ込み圧着させるとして、多孔質円筒状膜にはねじれ方向に応力が加わることになる。また同様に、多孔質円筒状膜の外側を圧着支持する場合、多孔質円筒状膜上部と下部の夫々のOリングを夫々に螺合している押さえボルトでねじ込み圧着させるとして、多孔質円筒状膜にはやはりねじれ方向に応力が加わることになる。これは、分散相液を多孔質膜孔から正確に押出すためには、前記円筒部材と多孔質円筒状膜をOリングにより液密に保持しなければならないが、多孔質円筒状膜に前記ねじれ方向に応力が加わると長時間乳化最中に、互いにねじれ戻り方向に復元力が働き、前記円筒部材と多孔質円筒状膜のOリングによる液密が保たれず、多孔質膜孔以外から分散相液が漏れてしまい、生成されたエマルションが多孔質膜孔だけから押出されて生成されたエマルションかどうかの確からしさに問題が発生する。
【0006】
特に、従来の多孔質円筒状膜の内側を圧着支持する装置においては、多孔質円筒状膜上部のOリングを圧着させる押さえナットは前記円筒部材の下方面から組上げることが不可能であるため、円筒部材上方面の分散相液室側から組上げることになり、円筒部材と分散相タンクを一体構造で形成することが不可能であり、円筒部材と分散相タンクは独立させて、羅合部材の前記上部Oリング押さえナットを円筒部材上部に組上げた後に次いで、分散相タンクと円筒部材を連結接続することになる。これは、分散相液室から分散相液を多孔質円筒状膜へ供給する過程で、Oリングによる多孔質円筒状膜の液密支持と同様に、分散相タンクと円筒部材との接合部からの分散相液漏れの問題が発生する。
【0007】
また、多孔質円筒状膜の外側を圧着支持する装置においては、円筒部材の上方面に分散相タンクと連絡する中空パイプと、同様に円筒部材別位置の上方面に気泡抜き兼溢流路パイプが設けてあるため、多孔質円筒状膜上部のOリングを圧着させる上側押さえボルトのねじ込みが、前記2箇所のパイプが支障となり困難を要する。
【0008】
さらに、均一なエマルション粒子径が要求される場合、乳化生成中に均一な多孔質膜孔より得られたエマルションが前記円筒部材上下に設けられたむき出しのねじ溝に接触することにより、エマルション粒子が崩されて均一単分散エマルションの精度を劣化させてしまう原因にもなりかねない。
【0009】
このように、そもそも医療用新薬の開発など少量で高価な乳化用原料を使用し、少量のエマルションを多種類繰り返し生成するための小型乳化器において、頻繁な乳化準備、乳化操作、保管整備が必要な現場では、複雑な多孔質膜の装着脱と取り扱いは非常に煩わしく、生成されるエマルションも高度な正確性が要求される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、コンパクトで少量乳化と正確な実験、また実験準備と保管整備が簡単で手間の掛からない多孔質膜乳化装置を見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の多孔質膜乳化装置に関するものである。
1.乳化用容器の一方に分散相用の室が形成され、他方にエマルション形成用の室が形成されている多孔質部材により仕切られた乳化装置において、分散相液室と連絡する円筒部材が設けられており、該円筒部材上部外面に外向き段を有し、前記上部外向き段を設けた前記円筒部材の中央部に配置されるように、0.05乃至50μmの平均孔径の均一孔を有する円筒状多孔質膜が被せられており、前記該段より下方面部には、前記円筒部材と前記円筒状多孔質膜の間に形成される空間と、分散相液室と連通する側口が形成されており、前記上部外向き段下方の円筒部材外側面と前記円筒状多孔質膜内側面との間に上部Oリングが配置され、次いで前記上部外向き段下方の円筒部材外側面と前記円筒状多孔質膜内側面との間に窓が形成された円筒状の支持アダプターが配置され、次いで前記上部外向き段下方の円筒部材外側面と前記円筒状多孔質膜内側面との間に下部Oリングが配置されており、前記円筒状多孔質膜は、その内側が、上部外向き段を支えに圧着されている上部Oリング及び次いで配置される窓が形成された円筒状の支持アダプターに圧着されている下部Oリングにより液密に支持されていることを特徴とする乳化装置。
2.乳化用容器の一方に分散相用の室が形成され、他方にエマルション形成用の室が形成されている多孔質部材により仕切られた乳化装置において、分散相液室と連絡する円筒部材が設けられており、該円筒部材上部外面に外向き段を有し、前記上部外向き段を設けた前記円筒部材の中央部に配置されるように、0.05乃至50μmの平均孔径の均一孔を有する円筒状多孔質膜が被せられており、前記該段より下方面部には、前記円筒部材と前記円筒状多孔質膜の間に形成される空間と、分散相液室と連通する側口が形成されており、前記上部外向き段下方の円筒部材外側面と前記円筒状多孔質膜内側面との間に上部Oリングが配置され、次いで前記上部外向き段下方の円筒部材外側面と前記円筒状多孔質膜内側面との間に窓が形成された円筒状の支持アダプターが配置され、次いで前記上部外向き段下方の円筒部材外側面と前記円筒状多孔質膜内側面との間に下部Oリングが配置されており、次いで前記円筒部材の最下部には、前記上部外向き段下方の円筒部材外側面と前記円筒状多孔質膜内側面との間に配置される押さえアダプターを介して前記下部Oリングを圧着可能で、且つ前記円筒部材を密封可能な押さえボルトが螺合されており、前記円筒状多孔質膜は、その内側が、前記押さえボルトにより前記押さえアダプターを介して下部Oリングが圧着され、及び次いで配置される窓が形成された円筒状の支持アダプターを介して上部外向き段を支えに上部Oリングが圧着されることで液密に支持されていることを特徴とする乳化装置。
3.乳化用容器の一方に分散相用の室が形成され、他方にエマルション形成用の室が形成されている多孔質部材により仕切られた乳化装置において、分散相液室と連絡する円筒部材が設けられており、該円筒部材上部内面に内向き段を有し、前記上部内向き段を設けた前記円筒部材の中央部に配置されるように、0.05乃至50μmの平均孔径の均一孔を有する円筒状多孔質膜が挿入されており、前記該段より下方面部には、前記円筒部材と前記円筒状多孔質膜の間に形成される空間と、分散相液室と連通する連通口が形成されており、前記上部内向き段下方の円筒部材内側面と前記円筒状多孔質膜外側面との間に上部Oリングが配置され、次いで前記上部内向き段下方の円筒部材内側面と前記円筒状多孔質膜外側面との間に窓が形成された円筒状の支持アダプターが配置され、次いで前記上部内向き段下方の円筒部材内側面と前記円筒状多孔質膜外側面との間に下部Oリングが配置されており、前記円筒状多孔質膜は、その外側が、上部内向き段を支えに圧着されている上部Oリング及び次いで配置される窓が形成された円筒状の支持アダプターに圧着されている下部Oリングにより液密に支持されていることを特徴とする乳化装置。
4.乳化用容器の一方に分散相用の室が形成され、他方にエマルション形成用の室が形成されている多孔質部材により仕切られた乳化装置において、分散相液室と連絡する円筒部材が設けられており、該円筒部材上部内面に内向き段を有し、前記上部内向き段を設けた前記円筒部材の中央部に配置されるように、0.05乃至50μmの平均孔径の均一孔を有する円筒状多孔質膜が挿入されており、前記該段より下方面部には、前記円筒部材と前記円筒状多孔質膜の間に形成される空間と、分散相液室と連通する連通口が形成されており、前記上部内向き段下方の円筒部材内側面と前記円筒状多孔質膜外側面との間に上部Oリングが配置され、次いで前記上部内向き段下方の円筒部材内側面と前記円筒状多孔質膜外側面との間に窓が形成された円筒状の支持アダプターが配置され、次いで前記上部内向き段下方の円筒部材内側面と前記円筒状多孔質膜外側面との間に下部Oリングが配置されており、次いで前記円筒部材の最下部には、前記上部内向き段下方の円筒部材内側面と前記円筒状多孔質膜外側面との間に配置される押さえアダプターを介して前記下部Oリングを圧着可能で、且つ前記円筒部材を密封可能な押さえキャップが螺合されており、前記円筒状多孔質膜は、その外側が、前記押さえキャップにより前記押さえアダプターを介して下部Oリングが圧着され、及び次いで配置される窓が形成された円筒状の支持アダプターを介して上部内向き段を支えに上部Oリングが圧着されることで液密に支持されていることを特徴とする乳化装置。
【0012】
本発明において、上記の多孔質膜は、無機質多孔質体、有機質多孔質体があるが、無機質多孔質体には炭素質多孔質体、炭化ケイ素多孔質体、シリカアルミナ系多孔質体、ゼオライト系多孔質体粘土系多孔質体、多孔質ガラス、多孔質セラミックス、金属及び金属酸化物系多孔質がある。有機質多孔質体においては、高分子多孔質焼結体などがある。本発明においては、これらの多孔質体を有効に利用することが可能である。本発明において適している分相法多孔質ガラス体として周知のNa2O-B2O3-SiO2を基礎ガラス組成とし骨格SiO2組成となる多孔質ガラス、Na2O-B2O3-CeO23Nb2O5を基礎ガラス組成とし骨格CeO23Nb2O5組成となる多孔質ガラス、Na2O-P2O5-SiO2を基礎ガラス組成とし骨格P2O5-SiO2組成となる多孔質ガラス、Na2O-B2O3-SiO2-GeO2を基礎ガラス組成とし骨格SiO2-GeO2組成となる多孔質ガラス、CaO-B2O3-TiO2-SiO2を基礎ガラス組成とし骨格TiO2-SiO2組成となる多孔質ガラス、Na2O-B2O3-ZrO2-SiO2を基礎ガラス組成とし骨格ZrO2-SiO2組成となる多孔質ガラス、CaO-B2O3-Al2O3-SiO2を基礎ガラス組成とし骨格Al2O3-SiO2組成となる多孔質ガラスがあるが、最も適しているCaO-B2O3-SiO2-Al2O3系の多孔質ガラス、CaO-B2O3-SiO2-Al2O3-Na2O系の多孔質ガラス及びCaO-B2O3-SiO2-Al2O3-Na2O-MgO系の多孔質ガラスなどを円筒状に成形した多孔質膜として使用するのが好ましい。本発明に最も適している本実施例で用いたCaO-B2O3-SiO2-Al2O3系多孔質体のシラス多孔質ガラス膜(以下、SPGという)は、膜を貫通する無数の超微細孔を有し、気孔率が非常に高く、細孔の均一性について非常に優れている公知の多孔質ガラス膜である。成形するSPGの形状自体は特に限定されないが、平板形、円柱形など使用目的に応じた形状に成形できる。SPGはガラスフィルターであり、円筒状のものでは外圧に対して約20MPa耐えることもできる。またSPGの多孔質を構成する気孔率は微細孔径に因ることなく約50%乃至60%を有する。液体をこのSPGに透過させるのに高圧は全く必要なく、非常に低エネルギーで透過させることができる透過性に優れた多孔質体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、分散相液を気体などの加圧体の加圧下で、多孔質膜の微細な均一径を有する孔を通して流動する連続相液中に圧入し、均一な粒子径となる単分散エマルションを数十mlという少量生成することのできる乳化装置において、従来の乳化装置の円筒状多孔質膜を上下部Oリング夫々2箇所の押さえ螺合部材で圧着液密支持するのに対し、前記上下部Oリングで圧着液密支持する押さえ螺合部材が最下部の1箇所だけでよく、多孔質膜の装着脱と取り扱いが簡単であり、少量のエマルションを多種類繰り返し生成する必要があるような頻繁な乳化準備、乳化操作、保管整備が非常に容易である。
【0014】
また、本発明は、従来の乳化装置のような円筒状多孔質膜を圧着支持する円筒部材の上側に螺合機構がないので、上下部Oリング押さえ螺合部品を分解、洗浄、滅菌する手間数が少なく、特に従来の乳化装置のように上側の螺合部のねじ溝部に目立って付着する分散相油の洗浄の煩わしさがなく、さらに円筒状多孔質膜の均一微細孔から押し出されて生成された均一な粒子径のエマルションが、むき出しの該上側ねじ溝に接触して均一な粒子を破壊してしまい、多分散エマルションとなってしまう懸念が全くない。
【0015】
また、本発明は、従来の乳化装置のように、円筒状多孔質膜を支持する上下部Oリング夫々2箇所の螺合部材が、ねじれ戻りの応力で乳化実施中に緩み、圧着液密支持が崩れて乳化失敗するような、例えば医療用新薬の開発など少量で高価な乳化用原料を無駄にすることなく、単分散エマルションを高精度で正確に生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明によれば、乳化実施中に液密支持Oリングからの分散相液漏れの心配がなく、確実に円筒状多孔質膜微細孔から押し出されたエマルションを生成することが可能で、乳化実施前後の円筒状多孔質膜の装着脱の手間が非常に簡潔で、多数種類の頻繁な少量乳化操作に適するものである。
【0017】
本発明に最も適している多孔質膜であるSPGは、膜を貫通する無数の微細孔を有し、気孔率が非常に高く、細孔の均一性について非常に優れている。また使用目的に応じた形状に成形できる。SPGの多孔質を構成する気孔率は、細孔径に因ることなく約50%乃至60%を有しており多孔質膜のなかでも非常に透過性に優れているので、液体を該SPGに透過させるのに低エネルギーで押し出すことができる。
【0018】
ここで本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【0019】
図1は、円筒部材と液密に保持された円筒状多孔質膜の内側から外側へ分散相液を押し出し、連続相液中に乳化させる乳化装置の一実施例の側断面図である。図2は、円筒部材と液密に保持された円筒状多孔質膜の外側から内側へ分散相液を押し出し、連続相液中に乳化させる乳化装置の一実施例の側断面図である。ここで、図1と図2の実施例における分散相タンク内分散相液の加圧体は、気体供給源として圧力調整可能に接続して設けられる。また、図3は、図1の分散相タンク部を、ピストンシリンダーとし、図1の気体供給加圧体部を、プランジャーで構成した乳化装置の一実施例の側断面図である。したがって、同様に図2の分散相タンク部を、ピストンシリンダーとし、図2の気体供給加圧体部を、プランジャーで構成することにより、図3同様の加圧体を設けた円筒部材と液密に保持された円筒状多孔質膜の外側から内側へ分散相液を押し出す乳化装置を構成することができる。図4は、図3の分散相液体供給用導管に一体化した連続相タンク用キャップを設けることにより、エマルション生成室となる連続相液室内を無菌室とすることが可能で、生成されるエマルションを無菌調製液として必要な場合の構造とすることができる乳化装置の一実施例の側断面図である。このように本発明による乳化装置は、従来のように円筒部材の上側に上部圧着させるためのねじ溝機構がないので、分散相タンクと分散相液体供給用導管と円筒部材を一体化した連結部のない液密に優れた構造にすることができる。
【0020】
本実施例で使用した円筒状多孔質膜SPGは、外径約10mm、内径約8.5mm、長さ約20mmを使用した。
【実施例1】
【0021】
図1に示すように本発明装置では、側口6’を有した円筒部材6の上部外面に外向き段であるOリング支え部6aを設け、円筒部材6に被せたSPG多孔質膜1と円筒部材6との間には、上部Oリング2が配置され、次いで窓4aが形成された円筒状の支持アダプター4が配置され、次いで下部Oリング3が配置されており、円筒部材6の最下部に1箇所だけ設けたビスねじ7aをねじ込むことにより、押さえアダプター5を介して下部Oリング3及び支持アダプター4を介して上部Oリング2が円筒部材6とSPG多孔質膜1を液密に圧着保持し、円筒部材6の側口6’を通じて分散相液室10に連絡する分散相タンク8と分散相液体供給用導管8’で構成される乳化装置において、分散相液11の加圧体14は圧力調整器を設けた窒素ガス加圧体を使用した。ここで、膜乳化法として、乳化時には、円筒部材に保持されているSPGは連続相液13の液面下に完全に没し、SPG細孔内部の気体を脱しながら、完全に連続相液13で浸漬させる必要がある。また、連続相液13を流動させる必要があるため、連続相タンク9内の回転子15を、マグネチックスターラー16を用いて連続相液13を攪拌した。
【0022】
本一実施例ではO/Wエマルションを生成するために、10ml容分散相タンクに大豆油2ml、16ml容連続相タンクに0.2%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液8mlを投入し、10.8μm細孔径を有するSPGで乳化を行った。このとき連続相液の攪拌を約400rpmとし、窒素ガス加圧体の圧力は約1kPaで、生成されたO/Wエマルション粒度分布平均粒子径は約36.0μmで、標準偏差は0.07となり非常に単分散エマルションを生成することができた。
【実施例2】
【0023】
図2に示すように本発明装置では、側口6’’を有した円筒部材6の上部内面に内向き段であるOリング支え部6bを設け、円筒部材6に挿入したSPG多孔質膜1と円筒部材6との間に上部Oリング2が配置され、次いで窓4aが形成された円筒状の支持アダプター4が配置され、次いで下部Oリング3が配置されており、円筒部材6の最下部に設けたキャップねじ7bをねじ込むことにより、押さえアダプター5を介して下部Oリング3及び支持アダプター4を介して上部Oリング2が円筒部材6とSPG多孔質膜1を液密に圧着保持され、円筒部材6の連通口6’’を通じて分散相液室10に連絡する分散相タンク8と分散相液体供給用導管8’で構成される乳化装置において、分散相液11の加圧体14は圧力調整器を設けた窒素ガス加圧体を使用した。このとき液密に保持された分散相液室10に分散相液11が供給される際、気相空間であった分散相液室10内の気体を逃がすためのエア抜き導管18が形成されており、分散相液室10が分散相液11で満たされた後にバルブ19を閉じることで分散相液室10から気相を脱することができる。ここで実施例1同様、膜乳化法に従って、連続相タンク9内の回転子15を、マグネチックスターラー16を用いて連続相液13を攪拌した。
【0024】
本一実施例ではO/Wエマルションを生成するために、10ml容分散相タンクに大豆油2ml、50ml容連続相タンクに0.2%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液20mlを投入し、0.9μm細孔径を有するSPGで乳化を行った。このとき連続相液の攪拌を約400rpmとし、窒素ガス加圧体の圧力は約80kPaで、生成された単分散O/Wエマルション粒度分布平均粒子径は、約3.2μmで、標準偏差0.08となり非常に単分散エマルションを生成することができた。
【実施例3】
【0025】
図3に示すように、本発明装置では、図1の実施例1同様、分散相タンク8として10ml容ディスポーザブルシリンジを使用し、分散相液11の加圧体14は該シリンジのプランジャーとすることができる。
【0026】
本一実施例では、W1/O/W2エマルションを生成するために、分散相タンクとなる10ml容シリンジに一次乳化を行ったW1/Oエマルション8.5mlを分散相液として用意し、連続相タンクとなる16ml容バイアル瓶にW2連続相液7.5mlを投入し、20μm細孔径を有するSPGで二次乳化W/O/Wエマルションを生成した。このとき連続相液の攪拌を約400rpmとし、プランジャー加圧体を汎用のシリンジポンプで速度10ml/hで押し出し、生成されたW/O/Wエマルション粒度分布平均粒子径は、約69μmで、標準偏差0.09となり非常に単分散エマルションを生成することができた。ここで各相液を表1に示す。
【0027】
【表1】

*1:ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル造影剤(ゲルベ社製)
*2:ポリグリセン縮合リシノレイン酸エステル(坂本薬品株式会社製CR−310)
*3:ポリオキシエチレン硬化ひまし油(日光ケミカルズ株式会社製)
【実施例4】
【0028】
図4に示す本発明の乳化装置は、実施例3の連続相タンク9を、図3の分散相液体供給用導管8’に一体型として設けたキャップ付液体供給用導管8’’のキャップと密閉可能な構成とし、連続相液室12内を気圧調整する菌不透過のフィルター20を設けることで、乳化装置を滅菌することにより連続相タンク9内を外気に暴露することなく、エマルション生成室となる連続相タンク9内を無菌室として構成することが可能である。したがって、臨床用試験薬の調製が可能で、実験投与用の乳化製剤を無菌的に生成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の乳化装置は、従来のような上下Oリングを互いにねじ込み合うことで乳化実施中に液密支持Oリングが緩み、分散相液漏れで多分散エマルションとなるような不具合の心配がなく、確実に円筒状多孔質膜微細孔から押し出されたエマルションを生成することができる。これは、均一な微細孔を有する多孔質膜の特徴を確実に活かした単分散エマルションの生成が可能である。また、従来の乳化装置ような押さえ螺合機構が2箇所に対し、本発明の乳化装置の押さえ螺合機構は1箇所なので、円筒状多孔質膜の装着脱の簡易化により、多数種類の頻繁な少量乳化操作に適している。これらの特徴から、本発明の乳化装置は、乳化原料となる各相液または、添加される界面活性剤や安定剤など非常に高価で、或いは希少な場合、乳化失敗を起こしてはならない条件において非常に有効である。例えば、副作用の大幅低減で注目される乳化型抗がん剤では、エマルション粒子の安定性と薬効の最大限発揮を考慮すると、厳密な粒子設計が必要で、実際臨床投与される乳化型抗がん剤は、被験者を控えての院内での要時調製となり、不具合を起こさず確実な乳化調製が必要とされるこのような現場においては、本発明の乳化装置は適している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る多孔質膜乳化装置の一実施例を示す縦断面図である。
【図2】本発明に係る多孔質膜乳化装置の一実施例を示す縦断面図である。
【図3】本発明に係る多孔質膜乳化装置の一実施例を示す横断面図である。
【図4】本発明に係る多孔質膜乳化装置の一実施例を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 円筒状多孔質膜
2、3 Oリング
4 支持アダプター
4a 窓
5 押さえアダプター
6 円筒部材
6’ 側口
6’’ 連通口
6a、6b Oリング支え部
7a ビスねじ
7b キャップねじ
8 分散相タンク
8’ 分散相液体供給用導管
8’’ キャップ付分散相液体供給用導管
9 連続相タンク
10 分散相液室
11 分散相液
12 連続相液室
13 連続相液
14 加圧体
15 回転子
16 マグネチックスターラー
17 ガス加圧用導管
18 エア抜き導管
19 バルブ
20 フィルター



【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化用容器の一方に分散相用の室が形成され、他方にエマルション形成用の室が形成されている多孔質部材により仕切られた乳化装置において、分散相液室と連絡する円筒部材が設けられており、該円筒部材上部外面に外向き段を有し、前記上部外向き段を設けた前記円筒部材の中央部に配置されるように、0.05乃至50μmの平均孔径の均一孔を有する円筒状多孔質膜が被せられており、前記該段より下方面部には、前記円筒部材と前記円筒状多孔質膜の間に形成される空間と、分散相液室と連通する側口が形成されており、前記上部外向き段下方の円筒部材外側面と前記円筒状多孔質膜内側面との間に上部Oリングが配置され、次いで前記上部外向き段下方の円筒部材外側面と前記円筒状多孔質膜内側面との間に窓が形成された円筒状の支持アダプターが配置され、次いで前記上部外向き段下方の円筒部材外側面と前記円筒状多孔質膜内側面との間に下部Oリングが配置されており、前記円筒状多孔質膜は、その内側が、上部外向き段を支えに圧着されている上部Oリング及び次いで配置される窓が形成された円筒状の支持アダプターに圧着されている下部Oリングにより液密に支持されていることを特徴とする乳化装置。
【請求項2】
乳化用容器の一方に分散相用の室が形成され、他方にエマルション形成用の室が形成されている多孔質部材により仕切られた乳化装置において、分散相液室と連絡する円筒部材が設けられており、該円筒部材上部外面に外向き段を有し、前記上部外向き段を設けた前記円筒部材の中央部に配置されるように、0.05乃至50μmの平均孔径の均一孔を有する円筒状多孔質膜が被せられており、前記該段より下方面部には、前記円筒部材と前記円筒状多孔質膜の間に形成される空間と、分散相液室と連通する側口が形成されており、前記上部外向き段下方の円筒部材外側面と前記円筒状多孔質膜内側面との間に上部Oリングが配置され、次いで前記上部外向き段下方の円筒部材外側面と前記円筒状多孔質膜内側面との間に窓が形成された円筒状の支持アダプターが配置され、次いで前記上部外向き段下方の円筒部材外側面と前記円筒状多孔質膜内側面との間に下部Oリングが配置されており、次いで前記円筒部材の最下部には、前記上部外向き段下方の円筒部材外側面と前記円筒状多孔質膜内側面との間に配置される押さえアダプターを介して前記下部Oリングを圧着可能で、且つ前記円筒部材を密封可能な押さえボルトが螺合されており、前記円筒状多孔質膜は、その内側が、前記押さえボルトにより前記押さえアダプターを介して下部Oリングが圧着され、及び次いで配置される窓が形成された円筒状の支持アダプターを介して上部外向き段を支えに上部Oリングが圧着されることで液密に支持されていることを特徴とする乳化装置。
【請求項3】
乳化用容器の一方に分散相用の室が形成され、他方にエマルション形成用の室が形成されている多孔質部材により仕切られた乳化装置において、分散相液室と連絡する円筒部材が設けられており、該円筒部材上部内面に内向き段を有し、前記上部内向き段を設けた前記円筒部材の中央部に配置されるように、0.05乃至50μmの平均孔径の均一孔を有する円筒状多孔質膜が挿入されており、前記該段より下方面部には、前記円筒部材と前記円筒状多孔質膜の間に形成される空間と、分散相液室と連通する連通口が形成されており、前記上部内向き段下方の円筒部材内側面と前記円筒状多孔質膜外側面との間に上部Oリングが配置され、次いで前記上部内向き段下方の円筒部材内側面と前記円筒状多孔質膜外側面との間に窓が形成された円筒状の支持アダプターが配置され、次いで前記上部内向き段下方の円筒部材内側面と前記円筒状多孔質膜外側面との間に下部Oリングが配置されており、前記円筒状多孔質膜は、その外側が、上部内向き段を支えに圧着されている上部Oリング及び次いで配置される窓が形成された円筒状の支持アダプターに圧着されている下部Oリングにより液密に支持されていることを特徴とする乳化装置。
【請求項4】
乳化用容器の一方に分散相用の室が形成され、他方にエマルション形成用の室が形成されている多孔質部材により仕切られた乳化装置において、分散相液室と連絡する円筒部材が設けられており、該円筒部材上部内面に内向き段を有し、前記上部内向き段を設けた前記円筒部材の中央部に配置されるように、0.05乃至50μmの平均孔径の均一孔を有する円筒状多孔質膜が挿入されており、前記該段より下方面部には、前記円筒部材と前記円筒状多孔質膜の間に形成される空間と、分散相液室と連通する連通口が形成されており、前記上部内向き段下方の円筒部材内側面と前記円筒状多孔質膜外側面との間に上部Oリングが配置され、次いで前記上部内向き段下方の円筒部材内側面と前記円筒状多孔質膜外側面との間に窓が形成された円筒状の支持アダプターが配置され、次いで前記上部内向き段下方の円筒部材内側面と前記円筒状多孔質膜外側面との間に下部Oリングが配置されており、次いで前記円筒部材の最下部には、前記上部内向き段下方の円筒部材内側面と前記円筒状多孔質膜外側面との間に配置される押さえアダプターを介して前記下部Oリングを圧着可能で、且つ前記円筒部材を密封可能な押さえキャップが螺合されており、前記円筒状多孔質膜は、その外側が、前記押さえキャップにより前記押さえアダプターを介して下部Oリングが圧着され、及び次いで配置される窓が形成された円筒状の支持アダプターを介して上部内向き段を支えに上部Oリングが圧着されることで液密に支持されていることを特徴とする乳化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−297612(P2009−297612A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152728(P2008−152728)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(597011566)エス・ピー・ジーテクノ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】