説明

多孔質膜及びその製造方法

【課題】親水性を有し、かつ、耐塩素性に優れるため塩素を用いて効率よく洗浄することができる多孔質膜を提供する。
【解決手段】 耐塩素性高分子と、これと相溶性を示すイオン性高分子と、エチレングリコールの割合が35重量%以下であるエチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体からなる界面活性剤と、を含有する多孔質膜。耐塩素性高分子としてはポリエーテルスルフォン、イオン性高分子としてはスルフォン化ポリエーテルスルフォンが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、限外濾過膜や精密濾過膜等として、又は複合半透膜の支持体等として使用可能な多孔質膜に関し、より詳しくは、多孔質膜に親水性と耐塩素性を付与する技術に関する。さらに、本発明は、それら多孔質膜を製造するためのドープ組成物ならびに、多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より液体の限外濾過、精密濾過に使用される素材としては、ポリスルフォン系、ポリアクリロニトリル系、酢酸セルロース系、ポリアミド系、ポリカーボネート系、ポリビニルアルコール系等、多くの高分子が使用されてきた。
【0003】
なかでもポリスルフォン系高分子は、耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性、耐薬品性が優れているので、膜素材として注目されている。ここでポリスルフォン系高分子は、通常、式(1)、または(2)の繰り返し単位を含有するものである。
−O−C−C(CH−C−O−C−SO−C−(1)
−O−C−SO−C− (2)
【0004】
しかし、ポリスルフォン系高分子膜は、一般に疎水性のため、膜としての耐汚染性等の性能が劣る傾向がある。そこで、ポリスルフォン系高分子等からなる疎水性多孔質膜を、親水化する方法が各種知られている。例えば、マイナス電荷を持つポリマーであるスルフォン化ポリスルフォンは、半透過膜を形成することも可能であることから、疎水性であるポリスルフォン膜にスルフォン化ポリスルフォンを塗布することで、表面を親水化する方法(特許文献1等)が知られている。
【0005】
しかしながら、ポリスルフォン膜にスルフォン化ポリスルフォン膜を塗布する際に特別な溶剤を必要とすることから、生産性に劣ったり、コストが高くなる傾向があった。また、このようにして得られる膜は、孔径が逆浸透膜と限外濾過膜の中間であるナノフィルトレーションレベルの膜となるため、バクテリアやビールス等の除去の目的に用いられる限外濾過レベルの孔径を有する膜を得ることは困難であった。
【0006】
このような課題を解決するため、ポリスルフォンとスルフォン化ポリスルフォン及びポリビニルピロリドンを混合した溶液(ドープ)を用いて多孔質製を形成することで、親水性を増加させたポリエーテルスルフォン限外濾過膜とその製造方法が開示されている(例えば特許文献2)。
【0007】
【特許文献1】米国特許 第4990252号
【特許文献2】特開2001−70767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載のような限外濾過膜は、その成分であるポリビニルピロリドンが耐薬品性に劣るため、膜汚染が起きた場合の膜洗浄、特に塩素を用いた膜洗浄により、膜性能が変化する場合があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、親水性を有し、かつ、耐塩素性に優れるため塩素を用いて効率よく洗浄することができる多孔質膜、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ポリエーテルスルフォン等の耐塩素性高分子、界面活性剤、及びスルフォン化ポリエーテルスルフォン等のイオン性高分子を含む限外濾過膜が上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、膜素材中に耐塩素性高分子と、これと相溶性を示すイオン性高分子と、エチレングリコールの割合が35重量%以下であるエチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体からなる界面活性剤と、を含有する多孔質膜に関する。
【0012】
さらに、本発明の多孔質膜は、前記耐塩素性高分子が、ポリスルフォン系高分子又はフッ素系高分子の1種以上であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の多孔質膜は、前記耐塩素性高分子がポリスルフォン系高分子であり、前記イオン性高分子がスルフォン化ポリスルフォン系高分子であることが好ましい。また、スルフォン化ポリスルフォン系高分子が、下記の繰り返し単位(A)を有するポリエーテルスルフォンを部分スルフォン化したものであることが最も好ましい。
−[O−C−O−C−SO−C]− (A)
【0014】
さらに、本発明の多孔質膜は、前記耐塩素性高分子、前記イオン性高分子、前記界面活性剤の組成比が、下記範囲であることが好ましい。
耐塩素性高分子: 40〜99.5重量%
イオン性高分子: 0.1〜40重量%
界面活性剤: 0.1〜50重量%
【0015】
さらに、本発明の多孔質膜は、平均孔径が1〜100nmであることが好ましい。
【0016】
本発明の多孔質膜によると、実施例の結果が示すように、耐塩素性に優れるため塩素を用いて効率よく洗浄することができ、さらにイオン性高分子を含有するため、親水性を有し、耐汚染性にも優れる。また、界面活性剤により、孔径を制御できるため、透水性にも優れる多孔質膜を提供することができる。
【0017】
さらに、本発明は、多孔質膜を製造するためのドープ組成物に関する。本発明のドープ組成物は、耐塩素性高分子と、イオン性高分子、前記界面活性剤と、エチレングリコールの割合が35重量%以下であるエチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体からなる界面活性剤と、耐塩素性高分子の非溶媒と、非プロトン系溶媒と、を下記の組成で含有することが好ましい。
耐塩素性高分子: 16〜27重量%
イオン性高分子: 0.1〜10重量%
界面活性剤: 3〜12重量%
耐塩素性高分子の非溶媒: 7〜12重量%
非プロトン系溶媒: 46〜71.9重量%
【0018】
さらに、本発明のドープ組成物は、前記耐塩素性高分子の非溶媒が多価アルコールであることが好ましい。
【0019】
さらに、本発明は、前記多孔質膜の製造方法に関する。本発明の多孔質膜の製造方法は、下記工程を有することが好ましい。
前記ドープを支持体上に膜状に塗布、または中空構造を形成して押し出す工程
及び、
前記膜状物または中空構造物を、前記耐塩素性高分子の非溶媒と接触させ、前記非プロトン系溶媒を除去する工程
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の多孔質膜は、耐塩素性高分子を含有する膜素材中に、これと相溶性を示すイオン性高分子と、エチレングリコールの割合が35重量%以下であるエチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体からなる界面活性剤とを含有する。ここで、本明細書において耐塩素性高分子とは、当該高分子からなる多孔質膜を、有効塩素濃度2700ppm、PH11、60℃の水溶液に3時間浸漬した際、その前後において重量変化が5重量%以下の高分子を指す。なお、実施例で使用したポリエーテルスルフォンの場合、それからなる多孔質膜は、当該重量変化が1重量%以下であった。
【0021】
本発明の多孔質膜に用いる耐塩素性高分子としては、ポリスルフォン系高分子、フッ素系高分子、塩化ビニル系高分子、セルロースアセテート系高分子の1種以上であることが好ましい。なかでも、ポリスルフォン系高分子は、耐熱性、耐薬品性、機械的性質に優れるためより好ましい。
【0022】
ポリスルフォン系高分子としては、下記の式(1)、または(2)の繰り返し単位を含有する高分子、又はその誘導体が挙げられる。
−O−C−C(CH−C−O−C−SO−C− (1)、
−O−C−SO−C− (2)
【0023】
フッ素系高分子としては、製膜性の観点から溶解性を有するものが好ましく、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリクロロトリフルオロエチレン等が好ましい。
【0024】
上記耐塩素性高分子の含有量は、多孔質膜中に40〜99.5重量%の範囲であることが好ましく、50〜95重量%の範囲であることがより好ましく、60〜90%の範囲であることがさらに好ましく、さらにイオン性高分子自体も耐塩素性であることが好ましい。含有量が前記範囲より小さいと、膜強度が低下する傾向にあり、前記範囲より大きいと、透水率が低下する傾向にある。
本発明の多孔質膜用いるイオン性高分子は、前記耐塩素性高分子と相溶性を示すものであることが好ましい。ここで、本明細書においてイオン性高分子とは、スルフォン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基等の陰イオン性基、あるいはアンモニウム基等の陽イオン性基を含む高分子のことである。本発明においては、特に、負の電荷を持ったコロイド粒子等に対する耐汚染性の観点から、陰イオン性基を含む高分子を用いることが好ましい。また、本発明においては、イオン性高分子として耐塩素性高分子と相溶性が良いものを選択することで、例えば膜作成のためにドープ組成物を作る場合に、共通溶媒に両者とも良く溶解し、均一な溶液を与えることができる。
【0025】
前記耐塩素性高分子としてポリエーテルスルフォンを用いる場合には、イオン性高分子は、スルフォン化ポリスルフォン系高分子であることが好ましく、中でも、下記の繰り返し単位(A)を含有するポリエーテルスルフォンを部分スルフォン化したスルフォン化ポリエーテルスルフォンであることが好ましい。
−[O−C−O−C−SO−C]− (A)
スルフォン化ポリスルフォンの有するスルフォン酸基は、式−SOM(但し、Mは水素・アルカリ金属又はテトラアルキルアンモニウムを示す。)で表されるものであり、スルフォン化の程度/量は特に制限されないが、多孔質膜に十分な親水性を付与する観点から、スルフォン化度は5以上であることが好ましく、10以上であることがさらに好ましい。
【0026】
上記スルフォン化ポリスルフォン系高分子は、例えば、特公平2−52528号公報、特公平2−52529号公報、特公平5−2364号公報、特公平5−2365号公報、特公平5−10967号公報等に記載されている公知の方法で得ることができる。
【0027】
上記スルフォン化ポリスルフォン系高分子の含有量は、多孔質膜中に0.1〜40重量%の範囲であることが好ましく、0.5〜30重量%の範囲であることがより好ましく、1〜20重量%であることがさらに好ましい。スルフォン化ポリスルフォン系高分子の含有量が前記範囲より小さいと、耐汚染性に劣る傾向があり、前記範囲より大きいと、膜強度が低下する傾向がある。
【0028】
本発明の多孔質膜に用いる界面活性剤は、耐塩素性を有することが好ましく、エチレングリコールの割合が35重量%以下であるエチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体であることがさらに好ましい。このような共重合体とは、エチレンオキシド(EO)からなる繰り返し単位と、プロピレンオキシド(PO)からなる繰り返し単位とを上記の割合で有するものである。
【0029】
共重合体中のエチレングリコールの割合は、5〜35重量%が好ましく、10〜25重量%がより好ましい。共重合体のエチレングリコールの割合を上記範囲とすることで、膜を塩素洗浄する際に、界面活性剤の分解による膜外へ排出が防止でき、膜性能の変化を抑制できるため、一度汚れた膜を効率よく回復することができる。
【0030】
このような共重合体としては、EOの割合が35重量%以下の共重合体であって、EO−PO型ブロック共重合体、EO−PO−EO型ブロック共重合体、PO−EO−PO型ブロック共重合体の他、一価又は二価以上の脂肪酸、一価又は二価以上の脂肪族アルコール等の疎水性化合物にEO及びPOが付加した共重合体等が挙げられる。
【0031】
中でもEO−PO型ブロック共重合体、EO−PO−EO型ブロック共重合体、PO−EO−PO型ブロック共重合体が好ましい。
【0032】
上記共重合体の重量平均分子量は、膜素材中における安定性の観点から、1000〜20000であることが好ましく、2000〜10000であることがより好ましい。重量平均分子量は、ゲル・パーミッション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリエチレングリコール(PEG)換算により求めることができる。
【0033】
上記共重合体の含有量は、多孔質膜中に0.1〜50重量%の範囲であることが好ましく、1〜40重量%の範囲であることがより好ましく、10〜30重量%であることがさらに好ましい。上記範囲よりも共重合体の含有量が低いと親水性効果が薄れたり、孔径が小さくなり、透水性に劣る傾向がある。また、上記範囲よりも共重合体の含有量が高くなると均一に製膜溶液が分散せず、形成された膜に欠陥が生じる場合がある。
【0034】
本発明の多孔質膜は、中空糸膜、平膜、又はチューブラー膜等の形態を有することができ、限外濾過膜(UF)、精密濾過膜(MF)、ナノ濾過膜等(NF)に相当する孔径を有することが可能である。また複合半透膜の支持体等としても使用可能である。特に、界面活性剤を用いることで、孔径を制御できることから、限外濾過膜として好適に用いることができる。
【0035】
本発明の多孔質膜は、特に、耐塩素性に優れるため塩素を用いて効率よく洗浄することができるため、中空糸膜(キャピラリー、フォローファイバー等)、平膜、又はチューブラー膜の形態を有する限外濾過膜であることが好ましい。特に、限外濾過膜の平均孔径は1〜100nmであることが好ましく、特に、ビールスやバクテリア等の除去を目的とする場合は、5〜10nmであることが好ましい。
【0036】
膜の形態は、モジュールの形態に充填した時の膜面積、処理する水溶液の性質などを考慮して選択されるが、スパイラル型エレメントやプレート型エレメントを製造する場合、平膜が使用される。
【0037】
以下、本発明の多孔質膜の製造方法について説明するが、本発明の多孔質膜は、上記以外の成分として、製膜溶液(ドープ)中に含有される成分や凝固液等に含有される成分を含有し得る。
【0038】
本発明の多孔質膜の製造方法としては、湿式製膜法又は乾式製膜法の何れの製法も採用し得るが、非溶媒誘起型又は熱誘起型の相分離製膜法を利用するのが好ましく、特に非溶媒誘起型の相分離製膜法を利用するのが好ましい。このような製膜法としては、各種公知の方法を採用することができ、膜素材であるポリエーテルスルフォン等の耐塩素性高分子及びスルフォン化ポリエーテルスルフォン等のイオン性高分子と界面活性剤の混合物から本発明の多孔質膜を得ることができる。従って、非溶媒誘起型の相分離製膜法で多孔質膜を製造する場合を例にとって説明する。
【0039】
非溶媒誘起型の相分離製膜法では、一般的に、製膜溶液(ドープ)を非溶媒に接触させて、高分子濃厚相を相分離させ、更に、脱溶媒(溶媒置換)等を行って最終的に多孔質膜を凝固させる。その際、相分離と脱溶媒とは、同時または略同時に行うことも可能であり、工業的には水等の非溶媒にドープを接触させて、相分離と脱溶媒とを同時進行的に行うのが好ましい。
【0040】
本発明では、ドープ組成として、耐塩素性高分子(16〜27重量%)、イオン性高分子(0.1〜10重量%)、界面活性剤(3〜12重量%)、耐塩素性高分子用の非溶媒(7〜12重量%)、N−メチル2−ピロリドン等の溶媒(39〜73.9重量%)のドープを用いるのが好ましい。つまり、ドープ組成中の耐塩素性高分子、イオン性高分子、及び界面活性剤の含有量は、得られた多孔質膜中の組成比が前述した範囲となるように選択するのが好ましく、耐塩素性高分子やイオン性高分子のドープ中の濃度は、多孔質膜の平均孔径とも関係する。
【0041】
耐塩素性高分子、イオン性高分子、及び界面活性剤としては、前述のものを好適に用いることができる。また、溶媒としては、ポリスルフォン系高分子の場合、これを溶解可能な非プロトン系溶媒であれば良く、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジオキサン、あるいはこれらの混合溶媒等、多種の溶媒が用いられる。中でも、N−メチル−2ピロリドンが好適に用いられる。ポリスルフォン系高分子以外の場合にも、当該高分子を溶解可能な各種溶媒が使用できる。
【0042】
ドープに於ける非溶媒としては、耐塩素性高分子の非溶媒となるものであれば何でもよく、通常特公昭48−176号公報などに記載されているZnCl等の無機塩、アルコール等の有機物、水などが挙げられるが、前記耐塩素性高分子の溶媒と混和性を有し、さらに後述する凝固浴中の非溶媒とも混和性を有することが好ましく、耐塩素性高分子に対しては膨潤剤として作用するものが好ましい。例えば、耐塩素性高分子としてポリスルフォン系の高分子を用いる場合は、ドープ中の非溶媒としては、キシリトール、ソルビトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコールが好ましく、中でもグリセリンがもっとも好ましい。このようにドープ中に非溶剤を含有することで、膜の透水性を高めることができる。
【0043】
ドープ中の耐塩素性高分子の濃度は、前述のごとく、16〜27重量%であることが好ましく、特に、限外濾過膜を得る場合には、18〜26重量%であることがより好ましく、20〜25重量%であることがさらに好ましい。また、イオン性高分子の濃度は、前述のごとく、0.1〜10重量%であることが好ましく、耐汚染性や膜強度の観点から、0.3〜7重量%であることがより好ましく、0.5〜5重量%であることがさらに好ましい。
【0044】
界面活性剤の濃度は、3〜12重量%であることが好ましく、膜への親水性付与や孔径制御の観点からは、4〜10重量%であることがより好ましく、5〜8重量%であることがさらに好ましい。耐塩素性高分子用の非溶媒の濃度は、7〜12重量%であることが好ましく、8〜11重量%であることがさらに好ましい。また、溶媒は、前述の通り、耐塩素性高分子やイオン性高分子の濃度を適宜に調整するために選択すればよいが、39〜73.9重量%であることが好ましく、後述するドープ粘度を適宜に保つ観点から、45〜70重量%であることがより好ましく、50〜65重量%であることがさらに好ましい。
【0045】
ドープの粘度は、製膜性の観点から10Pa・sから1000Pa・sであることが好ましく、30〜300Pa・sであることがより好ましい。ここで、本明細書において、粘度とはB型粘度計を用い、30℃にて測定した値である。
【0046】
このようなドープ組成物を、チューブ状、中空糸状、平膜状に押し出すか、平板に塗布し、これらを水等の非溶媒に浸漬等によって接触させ、相分離と共に溶媒を水中などに脱離させて溶媒を取り除くことにより、多孔質膜を形成できる。非溶媒としては、水、アルコールなどの液体や、これらの液体に上記の溶媒(良溶媒)や、貧溶媒を混合した液体が挙げられる。
【0047】
このような相分離と溶媒脱離により、所定の大きさのポアーが形成され、これが濾過膜として作用する。ポアーの大きさ(平均孔径)は、ドープ組成、凝固液組成、製膜条件などにより決定されるが、一般には相分離の速度が大きいほど、平均孔径が小さくなる。
【0048】
ポリエーテルスルフォンの平膜を製造する場合、多孔性支持体の上に製膜溶液を塗布し、その後、水等の凝固浴に浸漬して非プロトン系溶媒を取り除くことで限外濾過膜が形成される。
【0049】
多孔性支持体としては、一般的に織布や不織布が用いられ、その材質はドープに用いられる溶媒に耐性があれば特に限定されないが、塩素に耐性があるポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0050】
塗布厚としては、通常約25〜125μm、好ましくは約40〜100μmであるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0051】
凝固浴には、凝固溶媒(例えば水)とは混和するが、耐塩素性高分子(例えばポリエーテルスルフォン)に対しては凝固能を有する非溶剤が用いられる。非溶剤は単独又は2種以上を混合し用いることができ、非溶剤に無機塩(例えばZnCl等)又は有機塩や溶剤(例えばアルコール等)を混合すると好ましい場合がある。
【0052】
凝固後、洗浄を行うが、洗浄は通常は水で行い、膜中の溶媒をできるだけ取り除くために洗浄水の温度を上昇させ、できるだけ長時間洗浄することが好ましい。
【0053】
このようにして得られる多孔質膜は、特にポリエーテルスルフォンを膜素材とする場合、耐熱性、耐薬品性、機械的性質に優れる。また、イオン性高分子及び界面活性剤を含有しているため、親水性が付与され、汚染も生じにくい。さらに、本発明に用いる界面活性剤は耐薬品性に優れているため、仮に汚れが起こっても塩素等の薬品で効率よく汚れを除去することが可能である。
【0054】
このように、本発明の多孔質膜は、耐塩素性を有しているため、膜が汚染されても塩素で効率よく膜を洗浄できるので、河川水や湖水、地下水の濾過や有価物の回収などにおいて有用であり、バクテリアやウイルス、タンパク質などが効率良く除去できる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
ポリエーテルスルフォン(BASF製、Ultrason E6020P)を20重量%、非イオン性界面活性剤でかつエチレングリコール比率が30重量%であるプルロニックP103(BASF製、EO−PO−EO型ブロック共重合体、重量平均分子量4950)を5重量%、グリセリンを10重量%、スルフォン化ポリエーテルスルフォン(重量平均分子量135000、スルフォン化度合16)を1重量%、及びN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を64重量%含有する混合物を50℃で6時間加熱撹拌し、ポリマードープ組成物を作成した。このポリマードープを脱泡処理した後、乾燥雰囲気下で25℃となるまで室温放置した。
【0057】
このポリマードープを、乾燥雰囲気下でポリエチレンテレフタレート製不織布の上に均一に塗布し、凝固浴として5℃の水を使用してこれに浸漬し、相分離と脱溶媒を行った。凝固後50℃の温水で水洗を行い、完全に膜内の溶媒を置換した。
【0058】
得られた限外濾過膜は、多孔質膜部分の厚みが、0.20mmであり、0.2MPaで測定した時の純水の透水量は16.6m/m・d、ポリエチレングリコール(分子量2000)の阻止率は17.0%であった。また、ポリエーテルスルフォン層の組成割合は、ポリエーテルスルフォンが80.3重量%、スルフォン化ポリエーテルスルフォンが3.5重量%、プルロニックP103が16.2重量%であった。この組成割合は、NMR分析から計算で求めた(以下の実施例等も同様)。
【0059】
得られた限外濾過平膜を有効塩素濃度2700ppm、PH11、50℃の溶液で3時間洗浄処理を行った。洗浄後の限外濾過膜の透水量は17.2m/m・dであり、上記ポリエチレングリコールの阻止率は16.1%であった。また、塩素洗浄後のポリエーテルスルフォン層の組成割合は、ポリエーテルスルフォンが80.6重量%、スルフォン化ポリエーテルスルフォンが3.3重量%、プルロニックP103が16.1重量%であった。
【0060】
(比較例1)
ポリエーテルスルフォン(BASF製、Ultrason E6020P)を20重量%、プルロニックP103を5重量%、グリセリンを10重量%、及びN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を70重量%含有する混合物を50℃で6時間加熱撹拌しポリマードープ組成物を作成した。このポリマードープから実施例1と同様の手順で限外濾過膜を得た。
【0061】
得られた限外濾過膜は、多孔質膜部分の厚みが、0.20mmであり、0.2MPaで測定した時の純水の透水量は1.2m/m・d、ポリエチレングリコール(分子量2000)の阻止率は35.2%であった。また、得られたポリエーテルスルフォン層の組成割合は、ポリエーテルスルフォンが83.7重量%、プルロニックP103が16.3重量%であった。
【0062】
このように、本比較例から、イオン性高分子であるスルフォン化ポリエーテルスルフォンを含まない多孔質膜は、イオン性高分子を含む多孔質膜と比較して阻止率が低いことがわかる。
【0063】
(比較例2)
ポリエーテルスルフォン(BASF製、Ultrason E6020P)を20重量%、ポリビニルピロリドン(BASF製、K90)を5重量%、グリセリンを10重量%、スルフォン化ポリエーテルスルフォンを1重量%、及びN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を64重量%含有する混合物を50℃で6時間加熱撹拌しポリマードープ組成物を作成した。このポリマードープから実施例1と同様の手順で限外濾過膜を得た。
【0064】
得られた限外濾過膜は、多孔質膜部分の厚みが、0.20mmであり、0.2MPaで測定した時の純水の透水量は1。2m/m・d、ポリエチレングリコール(分子量2000)の阻止率は35.2%であった。また、ポリエーテルスルフォン層の組成割合は、ポリエーテルスルフォンが81.5重量%、スルフォン化ポリエーテルスルフォンが4.2重量%、ポリビニルピロリドンが14.3重量%であった。
【0065】
得られた限外濾過平膜に実施例1と同様の条件で塩素洗浄を行ったところ、洗浄後の限外濾過膜の透水量は18.6m/m・dであり、上記ポリエチレングリコールの阻止率は3.2%であった。また、塩素洗浄後のポリエーテルスルフォン層の組成割合は、ポリエーテルスルフォンが93.5重量%、スルフォン化ポリエーテルスルフォンが4.8重量%、ポリビニルピロリドンが1.7重量%であった。
【0066】
このように本比較例では、塩素洗浄による膜組成の変化が大きく、阻止性能の低下がみられた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜素材中に、耐塩素性高分子と、これと相溶性を示すイオン性高分子と、エチレングリコールの割合が35重量%以下であるエチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体からなる界面活性剤と、を含有する多孔質膜。
【請求項2】
前記耐塩素性高分子が、ポリスルフォン系高分子又はフッ素系高分子の1種以上である請求項1記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記耐塩素性高分子がポリスルフォン系高分子であり、前記イオン性高分子がスルフォン化ポリスルフォン系高分子である請求項2記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記スルフォン化ポリスルフォン系高分子が、下記の繰り返し単位(A)を有するポリエーテルスルフォンを部分スルフォン化したものである請求項3記載の多孔質膜。
−[O−C−O−C−SO−C]− (A)
【請求項5】
前記耐塩素性高分子、前記イオン性高分子、前記界面活性剤の組成比が、下記範囲である、請求項1から4のいずれか1項記載の多孔質膜。
耐塩素性高分子: 40〜99.5重量%
イオン性高分子: 0.1〜40重量%
界面活性剤: 0.1〜50重量%
【請求項6】
中空糸膜、平膜、又はチューブラー膜の形態を有する限外濾過膜である請求項1から5のいずれか1項記載の多孔質膜。
【請求項7】
平均孔径が1〜100nmである請求項1から6のいずれか1項記載の多孔質膜。
【請求項8】
多孔質膜を製造するためのドープ組成物であって、耐塩素性高分子と、イオン性高分子、前記界面活性剤と、エチレングリコールの割合が35重量%以下であるエチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体からなる界面活性剤と、耐塩素性高分子の非溶媒と、非プロトン系溶媒と、を下記の組成で含有するドープ組成物。
耐塩素性高分子: 16〜27重量%
イオン性高分子: 0.1〜10重量%
界面活性剤: 3〜12重量%
耐塩素性高分子の非溶媒: 7〜12重量%
非プロトン系溶媒: 46〜71.9重量%
【請求項9】
前記耐塩素性高分子の非溶媒が多価アルコールである請求項8記載のドープ組成物。
【請求項10】
請求項8または9記載のドープを用いて多孔質膜を製造する方法であって、下記工程を有する多孔質膜の製造方法。
前記ドープを支持体上に膜状に塗布、または中空構造を形成して押し出す工程
及び
前記膜状物または中空構造物を、前記耐塩素性高分子の非溶媒と接触させ、前記非プロトン系溶媒を除去する工程

【公開番号】特開2010−82573(P2010−82573A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255944(P2008−255944)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】