説明

多孔質酸化チタン粒子およびその作製方法

【課題】
本発明は、特殊な装置を用いることなく、常圧下で反応することにより、比表面積が大きい、アナターゼからルチルへ転移しにくい多孔質酸化チタン粒子を経済的に製造することができる方法を提供する。
【解決手段】
フッ化チタン酸アンモニウムとフッ素イオンの捕捉剤を含有する水溶液を40〜95℃で反応することよって製造されることを特徴とする多孔質酸化チタン粒子およびその作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光触媒や触媒担体、吸着材などとして有用な多孔質酸化チタン微粒子およびその作製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、高い屈折率、優れた白色度、隠遮力、着色力、UVカット性および化学的安定性などの特性を有するので、従来から塗料、顔料、化粧品、触媒および触媒担体などに広く使用されている。また、近年、酸化チタンの光反応特性に由来する光触媒としての応用も環境浄化分野を中心に急速に拡大中である。
酸化チタンを光触媒や触媒担体などとして用いる場合には、高表面積の多孔質のものが望まれる。また、その結晶性としては、ルチルよりアナターゼの方が有利であることが知られている。
【0003】
従来の多孔質球状酸化チタン粒子の作製方法としては、特許文献1(特開平4−367512)に記載のように、Ti濃度が1mol/L以上の高濃度かつ強酸性(反応終了時の濃度が3.0〜8.0N)の硫酸チタンニル水溶液を95〜200℃で長時間加熱して加水分解させ、加水分解物を乾燥または仮焼する方法が知られている。
【0004】
また、特許文献2(特開平8−333117)に記載のように、過剰硫酸を含む硫酸チタンニル水溶液に、全硫酸根に対して等モル以上の尿素を加え85℃以上沸点以下の温度で加熱した後、回収・焼成(650℃〜850℃)による作製方法がある。
【0005】
更に、特許文献3(特開2000−191325)に記載のように、チタン塩溶液と過酸化水素との混合液をオートクレーブ中で昇温速度0.1〜2℃/分、温度150〜230℃で水熱処理することによって、X線回折法で測定される平均一次粒子径が0.01〜0.07μmの酸化チタンの小球状粒子から形成される見かけ上の平均粒子径が0.1〜3μmの球状酸化チタン集合体を製造する方法も知られている。
【特許文献1】特開平4−367512号公報
【特許文献2】特開平8−333117号公報
【特許文献3】特開2000−191325号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示した方法は、平均粒子径0.5〜2.5μm、比表面積70 m2/g以上の球形多孔質アナターゼ型酸化チタン粒子を製造できる。しかし、この方法は95〜200℃の加熱を、加水分解物の球径凝集化が完了するまで数日〜10日以上の長時間にわたって行う必要があり、効率的ではない上、この長時間の加熱に要するエネルギーコストが高くなり、加熱も多くは沸点以上の温度で行うため、特別の反応装置が必要である。
また、特許文献2に開示した方法は、特別な装置がなくても多孔質のアナターゼ型の酸化チタン粒子が得られるが、平均粒子径が2.5〜5.5μmと大きく、比表面積が65 m2/g以下と低い。
一方、特許文献3に示した方法は、比較的に一次粒子径の小さい粒子からなる球状の凝集体が得られるが、得られた凝集体粒子の比表面積が小さい(30m2/g以下)。また、この方法は、製造過程中に強い酸化性を有する過酸化水素を多量に使うだけではなく、150〜230℃のオートクレーブにて水熱処理する必要があるので、特殊な装置が必要になり、コスト的である。
本発明は、特殊な装置を用いることなく、常圧下で反応することにより、比表面積が大きい、アナターゼからルチルへ転移しにくい多孔質酸化チタン粒子を経済的に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討した。その結果、フッ化チタン酸アンモニウムを出発原料として用い、適切な反応促進剤の存在下で反応することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特殊な装置を用いる必要がなく、常圧下で反応することにより、比表面積が大きい、800℃まで加熱してもアナターゼからルチルへ転移しない多孔質酸化チタン粒子を経済的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施形態について、以下に説明する。
酸化チタン微粒子やゾルを作製するためにはチタンのアルコキシドを出発原料としたゾルーゲル法や四塩化チタンや硫酸チタンなどのチタン塩を出発原料とした湿式法が一般的であるが、本発明にはフッ化チタン酸アンモニウムを出発原料として用いる。
フッ化チタン酸アンモニウムは、液相析出法という方法に使われているが、液相析出法はこれまでに主に基板への薄膜形成方法として使われてきた。
液相析出法(LPD)とは、水溶液に基板を浸漬したマクロな固−液異相共存系において、液相中での配位子交換の平衡反応を利用し、酸化物薄膜もしくは酸化物前駆体薄膜を固相表面に析出させる方法である。これまでに、TiO2、SiO2、VO2、ZrO2、Nb2O5、Au/TiO2、Dye/TiO2、TiO2-SiO2などの薄膜の作製が報告されている。
液相析出法は以下のような特徴を有する:
1)常温・常圧で反応する;
2)簡便・低コストである;
3)基板と高い密着性を有する。
液相析出法の代表的な反応:
MFx(x-2n)- + nH2O → MOn + xF- + 2nH+ (1)
BO33- + 6H+ + 4F- → BF4- + 3H2O (2)
上記化学式1)の反応を右へ進めるために、フッ化イオンを捕捉する物質(フッ素捕捉剤)が利用される。ホウ酸とその塩の以外に、塩化アルミニウムや水酸化アルミニウムなどのアルミニウム塩がFイオンと安定な錯体イオンが形成できるのでよく使われる。
本発明では、反応条件を適切化することによって、この方法を基板上への薄膜形成だけではなく、高比表面積を有する多孔質の酸化チタン微粒子の作製にも使えることを見出した。
本発明による多孔質酸化チタン粒子の作製工程は以下の通りである。
1)所定濃度のフッ化チタン酸アンモニウムとホウ酸の水溶液を調製する工程;
2)上記水溶液を所定の温度(40〜95℃)で反応させる工程;
3)反応生成物を洗浄・乾燥することにより回収する工程。
4)必要に応じて回収した粉末を適切な温度で焼成する工程。
フッ化チタン酸アンモニウムとホウ酸の濃度は特に限定ではないが、望ましいのは0.005mol/L〜5.0mol/L、より望ましいのは0.01mol/L〜3.0mol/L、特に望ましいのは0.05mol/L〜1.0mol/Lである。濃度が高すぎると経済的不利であり、低すぎると反応が遅く収率が悪い。
フッ化チタン酸アンモニウムとホウ酸の相対量については、1モルのフッ化チタン酸アンモニウムに対してホウ酸を1.5モルあるいは1.5モル以上添加するのが好適である。化学式1)と2)から分かるように、理論的に、1モルのフッ化チタン酸アンモニウムに6モルのFが含まれ、1モルのホウ酸が4モルのFイオンと反応する。要するに、1モルのフッ化チタン酸アンモニウムに含まれるFイオンを完全に捕捉するためには1.5モルのホウ酸が必要になる。したがって、ホウ酸の添加量が1.5倍以上の場合に反応1)がより右に進む。
反応時間にも特に限定されないが、短すぎると反応が不完全で収率が悪い。一方、長すぎると時間かかるだけで不経済的である。本発明の場合の望ましい反応時間は1時間〜96時間、より望ましいのは5時間〜72時間、特に望ましいのは10時間〜48時間である。
反応温度は室温〜95℃の範囲内であればどの温度でも適用されるが、温度が高い程反応速度が速く、進行しやすい。しかし、温度が高いとコストがかかるので、経済的ではない。本発明のより適切な反応温度の範囲は40〜80℃である。40℃より低い温度の場合も反応は進行するが、反応が終わるまで数日以上かかるので実用的ではない。一方、薄膜の作製が目的である液相析出法は通常40℃以下の温度で行う。
また、反応時の攪拌条件に対する要求が厳しくではなく、静止の状態でも良いし、攪拌しても良い。攪拌によって反応は若干促進されるが、粒子の形状への影響は少ない。
反応回収後の多孔質TiO2粒子は高温で焼成処理しなくてもアナターゼ型の結晶性を示す。その結晶性は焼成によって向上し、800℃まで焼成してもアナターゼ型の結晶が完全に保持され、1000℃焼成しても完全にはルチルへ転移しない。通常、湿式法(例えば、ゾルーゲル法)で合成した酸化チタン粒子は、600℃ぐらいからアナターゼからルチルへ転移し始めるケースが多いので、本発明の方法で合成した粒子がアナターゼからルチルへ相転移しにくいという特徴を有することが言える。高温でも相転移が起こらずアナターゼ結晶型に保持する必要のある用途の場合には(例えば、多孔質酸化チタンを触媒の担体として使われるような場合、など)、本発明の粒子が特に有用である。
本発明の反応条件で得られたTiO2粒子は、一次粒子径が5〜30nmのナノ粒子の集合により形成される平均粒子径が0.5〜2.0μmで、比表面積が100m2/g以上を有する多孔質酸化チタン粒子である。
【実施例1】
【0010】
0.1Mフッ化チタン酸アンモニウムと0.2Mホウ酸の混合水溶液をポリ容器に入れ、60℃で48時間反応させた。その後、遠心分離、水洗、乾燥(80℃)の工程を経て反応生成物を回収した。得られた粒子は、ナノ粒子の凝集体からなる多孔質である(図1)。
得られた粒子は焼成しなくてもアナターゼ型の結晶性を有し、その結晶性は焼成処理によって向上された(図2)。また、800℃まで焼成してもアナターゼ型の結晶が完全に保持され、1000℃まで焼成しても一部しか転移しなかった。粒子の比表面積は137.2m2/gであった(BET法による測定)。
【実施例2】
【0011】
反応温度を90℃に変えた以外には実施例1と同じ条件で反応させた。その結果、比表面積120.3m2/gの多孔質粒子が得られ、その結晶型もアナターゼであった。
【実施例3】
【0012】
反応温度を30℃に変えた以外は実施例1と同じ条件で反応させた。その結果、溶液中の反応が殆ど進行せず、ポリ容器の壁に少量しか析出しなかった。
【実施例4】
【0013】
0.1Mフッ化チタン酸アンモニウムと0.2Mホウ酸の混合水溶液をテフロン内筒の有した密閉容器に入れ、150℃で48時間反応させた。その後、遠心分離、水洗、乾燥(80℃)の工程を経て反応生成物を回収した。得られた粒子は、多孔質ではなかった(図3)。
【実施例5】
【0014】
実施例1で得られた粒子と光触媒としてよく使われる市販のTiO2粒子(P25、Degussa社、平均粒子径:〜20nm)を異なる温度で焼成し、それらの結晶性をXRDとRamanスペクトルで測定した。その結果を表1に示す(焼成時間:3時間)。P25は800℃の焼成で完全にルチル型に転移したのに対し、本発明の粒子は同じ800℃の焼成ではアナターゼの結晶型が完全に保持され、1000℃で焼成しても一部しかルチルへ転移しなかった。
(表1)

【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の多孔質酸化チタンは、高い比表面積とアナターゼからルチルへの相転移が起こり難いという特徴を有し、光触媒や触媒担体、吸着材などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で得られた多孔質酸化チタン粒子のSEM像である。
【図2】実施例1で得られた酸化チタン粒子の焼成前後のX線回折パターンである。
【図3】実施例4で得られた酸化チタン粒子のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子径が5〜30nmの酸化チタンのナノ粒子の集合により形成される平均粒子径が0.5〜2.0μmで、比表面積が100m/g以上であることを特徴とする多孔質酸化チタン粒子。
【請求項2】
800℃まで焼成してもアナターゼ結晶型が保持される請求項1に記載の多孔質酸化チタン粒子。
【請求項3】
フッ化チタン酸アンモニウムとホウ酸を含有する水溶液を40〜95℃で反応させることによって製造されることを特徴とする多孔質酸化チタン粒子およびその作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−230824(P2007−230824A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−54622(P2006−54622)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】