説明

多孔質電極基材およびその製造方法

【課題】軟化点の低い熱硬化性樹脂組成物を用いることでユーティリティコストを低減しながら、厚み方向の比抵抗が低い多孔質電極基材を提供する。
【解決手段】平面内に分散した炭素短繊維集合体に、環球法で測定した軟化点が75〜95℃であるノボラック型フェノール樹脂Nと、B型粘度計で測定した見掛け粘度が50〜140mPa・sであるレゾール型フェノール樹脂Rの60wt%メタノール溶液を固形分質量比でN:R=80:20〜85:15となるように混合した樹脂組成物を、炭素繊維100質量部に対して樹脂組成物が70〜130質量部になるように含浸して中間基材を得る工程;
前記中間基材を加熱して前記樹脂組成物を炭素化する工程;
を有する多孔質電極基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体高分子型燃料電池に用いられる多孔質電極基材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、水素イオン(プロトン)を選択的に伝導する高分子電解質膜を有する。また、貴金属系触媒を担持した炭素質粉末を主成分とする触媒層と多孔質電極基材とを有するガス拡散電極が、触媒層側を内側にして、高分子電解質膜の両面に接合された構造となっている。
このような高分子電解質膜と2枚のガス拡散電極からなる接合体は膜−電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)と呼ばれている。またMEAの両外側には燃料ガス又は酸化ガスを供給し、かつ生成ガス及び過剰ガスを排出することを目的としたガス流路を形成したセパレーターが設置されている。
多孔質電極基材は主に次の3つの機能を持つ。第1に、多孔質電極基材の外側に配置されたセパレーターに形成されたガス流路より触媒層中の貴金属系触媒に均一に燃料ガス又は酸化ガスを供給する機能である。第2に、触媒層で反応により生成した水を排出する機能である。第3に、触媒層での反応に必要な電子又は生成される電子をセパレーターへ伝導する機能である。
【0003】
固体高分子型燃料電池に用いられる多孔質電極基材として、炭素短繊維を含む抄造媒体との混合物を抄造してシート状中間基材を得た後、その中間基材を加熱することにより炭素化する樹脂、たとえば、熱硬化性樹脂であるレゾール型フェノール樹脂を含浸し、さらにフェノール樹脂を含浸した中間基材を加熱してフェノール樹脂を炭素化することにより、炭素短繊維同士を樹脂炭素化物で結着した基材が用いられる。ところが、このような方法によって製造した基材は、炭素短繊維同士を結着するフェノール樹脂が硬化時および炭素化時に収縮して、炭素短繊維と樹脂炭素化物との間に隙間が残ったり、樹脂炭素化物に亀裂が入ったりするため、十分な導電性を得ることができない。また、固体高分子型燃料電池で多孔質電極基材を使用する際には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水剤の含浸や塗工による撥水処理を行うことが一般的であるが、この際、絶縁性の撥水剤が樹脂炭素化物の亀裂や隙間部位に浸透、堆積するため、多孔質電極基材の導電性がさらに著しく低下するという問題がある。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば特許文献1では、ノボラック型フェノール樹脂Nとレゾール型フェノール樹脂Rを混合した樹脂組成物を用いた多孔質電極基材の製造方法が開示されている。Nは熱可塑性でありRの硬化温度においても流動性を有するため、樹脂組成物が硬化する際の収縮を抑制する。さらに、Nは易黒鉛化性であり炭素化温度においても流動性を有するため、樹脂組成物が炭素化する際の収縮も抑制する。従って、NとRを混合した樹脂組成物を用いることは、樹脂炭素化物を炭素短繊維に隙間や亀裂なく結着させるために必要である。NとRの混合比についても同文献および特許文献2に示されているが、前記樹脂組成物の流動性はNの軟化点やRの溶液粘度に大きく依存することから、これらの物性を無視した単純な混合比を規定するだけでは不十分である。例えば、前記文献に示された混合比の範囲内でも、軟化点の高いNを用いたり溶液粘度の高いRを用いたりした場合には十分な流動性を示さず、樹脂組成物が硬化する際に亀裂を生じる。すなわち、樹脂炭素化物が炭素短繊維を隙間や亀裂なく結着した多孔質電極基材を得るには、最適なNの軟化点範囲およびRの溶液粘度範囲を規定しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平8−18882号公報
【特許文献2】特許第4051714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フェノール樹脂炭素化物が炭素短繊維に隙間や亀裂なく結着した、厚み方向の導電性の高い多孔質電極基材であって、撥水剤によるコーティングを行っても導電性低下が最小限にとどまり、さらに高いガス透過性を兼ね備えた多孔質電極基材を、従来よりも低コストで提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は、下記の構成からなる。
(1)平面内に分散した炭素短繊維集合体に、環球法で測定した軟化点が75〜95℃であるノボラック型フェノール樹脂Nと、B型粘度計で測定した見掛け粘度が50〜140mPa・sであるレゾール型フェノール樹脂Rの60wt%メタノール溶液を固形分質量比でN:R=80:20〜85:15となるように混合した樹脂組成物を、炭素繊維100質量部に対して樹脂組成物が70〜130質量部になるように含浸して中間基材を得る工程;
前記中間基材を加熱して前記樹脂組成物を炭素化する工程;
を有する多孔質電極基材の製造方法。
(2)上記(1)に記載の製造方法で得られた多孔質電極基材を、固形分5〜30重量%のポリテトラフルオロエチレンディスパージョンに浸漬する工程;
さらに乾燥し、ポリテトラフルオロエチレンを多孔質電極基材に焼結させる工程;
を有する多孔質電極基材の製造方法。
(3)撥水処理前に対する撥水処理後の厚み方向の比抵抗増加量ΔR[Ω・cm]および比抵抗増加率S[%]が、ΔR≦0.1およびS≦25の関係を満足する、上記(2)に記載の撥水処理された多孔質電極基材。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、フェノール樹脂炭素化物が炭素短繊維に隙間や亀裂なく結着した、厚み方向の導電性の高い多孔質電極基材であって、撥水剤によるコーティングを行っても導電性低下が最小限にとどまり、さらに高いガス透過性を兼ね備えた多孔質電極基材を、従来よりも低コストで提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で得られた多孔質電極基材の走査型電子顕微鏡による表面観察写真である。
【図2】比較例1で得られた多孔質電極基材の走査型電子顕微鏡による表面観察写真である。
【図3】実施例5で得られた撥水処理済み多孔質電極基材の走査型電子顕微鏡による表面観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔平面内に分散した炭素短繊維集合体〕
本発明において、平面内に分散した炭素短繊維集合体は、特定の厚みや大きさに限定されず、炭素短繊維を主要構成要素とする不織布、抄紙体、フェルト、クロス等を包含する。また、それらの製造方法は特に限定されず、例えば、ウォータージェット処理やスチームジェット処理などによって繊維を交絡してもよい。特に、複数本の炭素短繊維が集合してなる抄紙体が好ましく、表面平滑性が高く、電気的接触が良好で、かつ高分子電解質膜への突き刺さりによる短絡が低減される複数本の炭素短繊維が集合してなる抄紙体がより好ましい。
【0011】
〔炭素短繊維〕
本発明で使用する炭素短繊維の平均直径は特に限定されないが、例えば、表面平滑性、導電性の付与のためには3〜30μm程度が好ましく、4〜20μmがより好ましく、4〜8μmがさらに好ましい。また、異なる平均直径の炭素短繊維を2種類以上用いることも、表面平滑性、導電性の両立のために好ましい。炭素短繊維の長さは特に限定されないが、抄紙時の分散性、及び機械的強度を高めるために、3mm以上12mm以下が好ましく、3mm以上9mm以下がより好ましい。
炭素繊維の種類は特に限定されるものでなく、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、フェノール樹脂系炭素繊維、再生セルロース系炭素繊維、セルロース系炭素繊維等を使用することができる。これらの炭素繊維を1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。特に、圧縮強度や引張強度が高いことから、PAN系炭素繊維が好ましい。
【0012】
〔ノボラック型フェノール樹脂〕
本発明で使用するノボラック型フェノール樹脂は、一般的なノボラック型フェノール樹脂(軟化点100℃以上)に比べても軟化点が低く、環球法(JIS K5601−2−2)で測定した軟化点が75〜95℃である。75〜90℃であることがより好ましく、75〜85℃であることが特に好ましい。軟化点が95℃以下であることによって、従来よりも低い温度での成形加工が可能となり、製造工程におけるユーティリティコストを低減できる。また軟化点が75℃以上であることによって、室温で融着することなく取り扱うことができる。
【0013】
〔レゾール型フェノール樹脂〕
本発明で使用するレゾール型フェノール樹脂は、固体高分子電解質のプロトン伝導性低下の要因となる金属を含まない触媒を用いて製造されたものが好ましく、そのようなレゾール型フェノール樹脂としては、アンモニア触媒レゾール型フェノール樹脂がある。レゾール型フェノール樹脂の見掛け粘度は、溶媒の種類や固形分濃度によって容易に変化するため一概には言えないが、固形分濃度60wt%のメタノール溶液であれば、後の樹脂含浸工程において良好な取扱性を維持したまま樹脂付着量を制御するために、JIS K7117−1に準拠してB型粘度計で測定した値が、50〜140mPa・sである。
【0014】
〔樹脂組成物〕
前記ノボラック型フェノール樹脂Nおよび前記レゾール型フェノール樹脂Rの混合比率は、樹脂組成物の流動性を制御するために適宜設定することができるが、固形分質量比でN:R=80:20〜85:15である。N比率を80%以上とすることで、得られる多孔質電極基材のガス透過性と導電性が、Rを単独で用いて製造した場合に比べ著しく向上する。またN比率を85%以下とすることで、残炭率が低くなりすぎず力学的強度や導電性を維持できる。ここで残炭率とは、元の樹脂組成物の固形分質量を100%としたときの樹脂炭素化物の質量比であり、炭素化の度合いを表す指標である。一般にR単独の残炭率は50〜60%程度、N単独の残炭率は20〜30%程度である。本発明の樹脂組成物はN比率が80〜85%と非常に高く、従って、先行文献で示された樹脂組成物に比べ残炭率は低くなる。炭素化後の結着面積および結着点数を十分確保する観点から、炭素短繊維集合体に対する樹脂組成物の付着量は、炭素繊維100質量部に対して70〜130質量部であり、好ましくは70〜100質量部がよい。
【0015】
〔樹脂組成物を含浸して中間基材を得る工程〕
前記炭素短繊維集合体に前記樹脂組成物を含浸して中間基材を得る方法としては、例えばコーターを用いて炭素短繊維集合体表面に樹脂を均一にコートする方法、絞り装置を用いるdip−nip方法、もしくは炭素短繊維集合体と樹脂フィルムを重ねて樹脂フィルムを炭素短繊維集合体に転写する方法などが知られているが、炭素短繊維集合体に樹脂組成物を均一に含浸する方法であればよく、本発明により特に限定されるものではない。
【0016】
〔中間基材を加熱して樹脂組成物を炭素化する工程〕
中間基材を加熱して樹脂組成物を炭素化する方法としては、室温からの連続昇温により完全に硬化し、さらに続けて炭素化するような方法であればよく、不活性雰囲気下にて800〜2400℃の温度範囲で行うことが好ましい。また、不活性雰囲気下にて300〜800℃の温度範囲で前処理をしても良い。前処理を行うことで炭素化初期段階において発生する分解ガスを十分に出し切ることができ、炭素化炉内壁への分解物の付着堆積を抑制することができるため好ましい。さらに、300〜2400℃での処理前に150〜300℃の温度範囲で加熱加圧処理をしても良い。加熱加圧処理により樹脂組成物がある程度硬化するため、基材の厚み制御の観点から行うことが好ましい。加熱加圧処理は中間基材を2枚以上重ねて行ってもよい。加熱加圧に要する圧力や時間は、均一な厚みのシートが得られる圧力範囲や時間範囲であればよく、本発明により特に限定されるものではない。
【0017】
〔撥水処理工程〕
固体高分子型燃料電池はカソード側において電極反応生成物としての水や高分子電解質膜を浸透した水が発生する。またアノード側では高分子電解質膜の乾燥を抑制するために加湿された燃料が供給される。このような点から、本発明の多孔質電極基材は、ガス透過性を確保するため、撥水性高分子によって撥水処理がされている。撥水性高分子としては、化学的に安定でかつ高い撥水性を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などのフッ素樹脂を用いることが好ましい。
多孔質電極基材への撥水処理の方法としては、撥水性高分子の微粒子が分散した分散水溶液(ディスパージョン)中に多孔質電極基材を浸漬させるディップ法、分散水溶液を噴霧するスプレー法などを用いることができるが、面内方向、厚み方向への導入量の均一性の高いディップ法が好ましい。ディップ法で用いるPTFEディスパージョン濃度は特に限定されないが、多孔質電極基材の空隙を埋めることなく、かつ一様にPTFEを付着させるために固形分5〜30重量%程度が好ましい。10〜30重量%がより好ましく、15〜25重量%が特に好ましい。
PTFEを多孔質電極基材に焼結させる温度は、PTFEが軟化して炭素短繊維あるいは樹脂炭素化物に結着し、かつPTFEが熱分解しない温度範囲でなければならない。300〜390℃がより好ましく、330〜360℃が特に好ましい。
【0018】
撥水処理は多孔質電極基材に撥水性を付与するために必要な処理であるが、絶縁性である撥水性高分子が、(a)多孔質電極基材の表面を被覆したり、(b)樹脂炭素化物の亀裂や炭素短繊維との隙間に堆積したりすることにより、撥水処理後の厚み方向の比抵抗は撥水処理前に比べて増加する。本発明で得られる多孔質電極基材は、樹脂炭素化物の亀裂や炭素短繊維との隙間がない、すなわち前記(b)の影響がないため、比抵抗増加を最小限に抑制できる。本発明の多孔質電極基材の厚み方向の比抵抗について、撥水処理後の値をRとし、撥水処理前の値をRとし、その差を比抵抗増加量ΔR=R−R[Ω・cm]とすると、ΔRの範囲はΔR≦0.1であり、S=ΔR/R×100として比抵抗増加率S[%]を定義すると、Sの範囲はS≦25である。
【0019】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明する。実施例中の各物性等は以下の方法で測定した。
・ ノボラック型フェノール樹脂の軟化点
本発明におけるノボラック型フェノール樹脂の軟化点の測定は、JIS K5601−2−2に規定する環球法に準拠し、環球式自動軟化点試験器(商品名:ASP−MG2、株式会社メイテック製)を使用し、下記の測定条件で行った。
環:内径16mm、深さ6.4mmの黄銅製肩付き環
球:直径9.5mm、重量3.5gの鋼球
温度:液浴の液温を5℃/minで上昇させた。
・ レゾール型フェノール樹脂メタノール溶液の見掛け粘度
本発明におけるレゾール型フェノール樹脂メタノール溶液(固形分濃度60wt%)の測定は、JIS K7117−1に準拠し、B型粘度計(商品名:BII形粘度計、東機産業株式会社製)を使用し、Mロータ(No.1)の回転速度を30rpmとし、温度25℃にて行った。
・ 厚み
多孔質電極基材の厚みは、厚み測定装置(商品名:ダイヤルシックネスゲージ7321、株式会社ミツトヨ製)を使用して測定した。測定子の大きさは直径10mmで、測定圧力は1.5kPaとした。
(4)厚み方向の比抵抗
多孔質電極基材の厚み方向の比抵抗は、試料を金メッキした銅板に挟み、金メッキした銅板の上下から1MPaで加圧し、10mA/cmの電流密度で電流を流したときの抵抗値を測定し、次式より求めた。
厚み方向の比抵抗(Ω・cm)=測定抵抗値(Ω)×試料面積(cm)/試料厚み(cm)
(5)厚み方向のガス透過係数
多孔質電極基材の厚み方向のガス透過係数は、JIS P8117に準拠し、ガーレー式デンソメーター(熊谷理機工業株式会社製)を使用し、ガス流通部の径が2mmφの冶具(圧縮部面積0.0314cm)を200mLの気体(空気)が通過する時間を測定し、次式より算出した。
透過係数(mL・mm/cm/hr/mmAq)=透気度(mL/cm/hr/mmAq)×試料厚み(mm)
【0020】
多孔質電極基材のガス透過係数の絶対値は、元の炭素繊維紙の組成や空隙率等に大きく依存する。樹脂の変更がガス透過係数の増減に及ぼした影響を定量的に評価するため、本発明で規定する樹脂組成物を用いて製造した多孔質電極基材のガス透過係数をP、レゾール型フェノール樹脂を単独で用いて製造した多孔質電極基材のガス透過係数をPとして次式を定義する。
P=P/P
P>1であれば、樹脂変更により多孔質電極基材のガス透過係数が増大したことを意味し、P<1であれば逆にガス透過係数が減少したことを意味する。P値としては、炭素繊維紙Aを用いた場合には比較例1で得られた値を、炭素繊維紙Bを用いた場合には比較例3で得られた値をそれぞれ用いた。
【実施例1】
【0021】
炭素繊維紙として、以下に示す方法で製造した炭素繊維紙Aを得た。
[炭素繊維紙Aの製造方法]
平均繊維径が7μmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維の繊維束を切断し、平均繊維長が3mmの短繊維を得た。次にこの短繊維束100質量部を水中で開繊し、十分に分散したところに平均繊維長が3mmのポリビニルアルコール(PVA)の短繊維(商品名:VBP105−1、クラレ株式会社製)25質量部を均一に分散させ、標準角形シートマシン(熊谷理機工業株式会社製)を用いて抄紙を行った。得られた抄紙体を80℃に熱したロール乾燥機で乾燥し、単位面積当たりの質量が28g/mの炭素繊維紙Aを得た。
【0022】
次に、環球法による軟化点が80℃であるノボラック型フェノール樹脂N(商品名:レヂトップXPL−6111B、群栄化学工業株式会社製)と60wt%メタノール溶液の見掛け粘度が50〜140mPa・sであるレゾール型フェノール樹脂R(商品名:フェノライトJ−325、DIC株式会社製)を、固形分質量比でN:R=80:20となるように混合して樹脂組成物を得た。さらに固形分が8質量%となるようにメタノールで希釈し、そのメタノール溶液を前記炭素繊維紙Aに含浸し、室温でメタノールを十分に乾燥し、炭素繊維紙100質量部に対し99質量部の樹脂固形分を付着させた樹脂含浸紙を得た。
【0023】
前記樹脂含浸紙を2枚重ねて離型紙に挟み、バッチプレス装置にて180℃、10MPaの条件下に3分間置いた後、プレス圧を解放して室温まで自然冷却して中間基材を得た。
続いて、前記中間基材を、窒素ガス雰囲気中バッチ炭素化炉にて2000℃で1時間加熱し、炭素化することで本発明の多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材の走査型電子顕微鏡による表面観察写真を図1に示す。
【実施例2】
【0024】
炭素繊維紙として、以下に示す方法で製造した炭素繊維紙Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして、炭素繊維紙100質量部に対し75質量部の樹脂固形分を付着させた樹脂含浸紙を得て、さらに実施例1と同様にして本発明の多孔質電極基材を得た。
【0025】
[炭素繊維紙Bの製造方法]
平均繊維径が7μm、平均繊維長が3mmのポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維と平均繊維径が4μm、平均繊維長が3mmのPAN系炭素繊維を70:30(質量比)で混合した炭素短繊維を湿式短網連続抄紙装置のスラリータンクで水中に均一に分散して単繊維に解繊し、十分に分散したところに、平均繊維長が3mmのポリビニルアルコール(PVA)の短繊維(商品名:VBP105−1、クラレ株式会社製)と平均繊維長が5mmで1.1dtexのビニロン短繊維(商品名:ユニチカビニロンF、ユニチカ株式会社製)を、炭素短繊維100質量部に対してそれぞれ18質量部、32質量部となるように均一に分散し、ウェブ状にして送り出した。送り出されたウェブを短網板に通し、ドライヤー乾燥後、単位面積当たりの質量が20g/m、長さ100mの炭素繊維紙Bを得た。
【実施例3】
【0026】
樹脂組成物の組成を、固形分質量比でN:R=85:15としたこと以外は実施例2と同様にして、炭素繊維紙100質量部に対し74質量部の樹脂固形分を付着させた樹脂含浸紙を得て、さらに実施例1と同様にして本発明の多孔質電極基材を得た。
【実施例4】
【0027】
実施例1と同様にして樹脂組成物のメタノール溶液を得て、メタノール溶液が付着したローラーに炭素繊維紙Bを均一に片面ずつ接触させた後、連続的に熱風を吹きかけ乾燥し、炭素繊維紙100質量部に対し128質量部の樹脂固形分を付着させた樹脂含浸紙を得た。次に、この樹脂付着炭素繊維紙を短網板に接していた面が外側を向くように2枚貼り合せた後、例えば特許第3699447号に開示されている、一対のエンドレスベルトを備えた連続式加熱加圧装置を用いて連続的に加熱し、表面が平滑化された中間基材(厚み:110μm、幅30cm、長さ100m)を得た。このときの予熱ゾーンでの予熱温度は200℃、予熱時間は5分であり、加熱加圧ゾーンでの温度は250℃、加圧圧力は線圧8.0×10N/mであった。なお、中間基材がベルトに貼り付かないように2枚の離型紙の間に挟んで通した。
その後、得られた中間基材を、窒素ガス雰囲気中バッチ炭素化炉にて2000℃で1時間加熱し、炭素化することで本発明の多孔質電極基材を得た。
【0028】
〔比較例1〕
樹脂組成物の組成を、固形分質量比でN:R=0:100としたこと以外は実施例1と同様にして、炭素繊維紙100質量部に対し85質量部の樹脂固形分を付着させた樹脂含浸紙を得て、さらに実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。得られた多孔質電極基材の走査型電子顕微鏡による表面観察写真を図2に示す。
【0029】
〔比較例2〕
樹脂組成物の組成を、固形分質量比でN:R=60:40としたこと以外は実施例1と同様にして、炭素繊維紙100質量部に対し99質量部の樹脂固形分を付着させた樹脂含浸紙を得て、さらに実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。
【0030】
〔比較例3〕
樹脂組成物の組成を、固形分質量比でN:R=0:100としたこと以外は実施例4と同様にして、炭素繊維紙100質量部に対し73質量部の樹脂固形分を付着させた樹脂含浸紙を得て、さらに実施例4と同様にして多孔質電極基材を得た。
【0031】
〔比較例4〕
樹脂組成物の組成を、固形分質量比でN:R=90:10としたこと以外は実施例2と同様にして、炭素繊維紙100質量部に対し75質量部の樹脂固形分を付着させた樹脂含浸紙を得て、さらに実施例1と同様にして多孔質電極基材を得た。
【0032】
〔比較例5〕
レゾール型フェノール樹脂として、60wt%メタノール溶液の見掛け粘度が170mPa・sであるレゾール型フェノール樹脂(商品名:レヂトップPL−2211、群栄化学工業株式会社製)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、炭素繊維紙100質量部に対し72質量部の樹脂固形分を付着させた樹脂含浸紙を得て、さらに実施例2と同様にして多孔質電極基材を得た。
【0033】
以上の多孔質電極基材の物性を表1に示す。
【表1】

【0034】
実施例1〜4の多孔質電極基材は、厚み方向の比抵抗がいずれも0.72Ω・cm以下と低く、かつP>1である。従って、含浸樹脂をレゾール型フェノール樹脂単体から、ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂を混合した樹脂組成物に変えることにより、ガス透過性と厚み方向の導電性が共に向上したと言える。
本発明によって得られた樹脂炭素化物の亀裂や炭素短繊維との剥離界面が少ない多孔質電極基材は、固体高分子型燃料電池の運転に不可欠な撥水処理を行っても、撥水剤が亀裂・剥離部位に浸透、堆積し導電経路を阻害する可能性が低い。従って、亀裂・剥離部位の多い基材に撥水処理を行った場合に比べ、導電性低下を最小限に抑えられる。
【実施例5】
【0035】
実施例1で得られた多孔質電極基材を5cm四方に切り出し、撥水処理[市販のPTFEディスパージョン(商品名:31−JR、三井・デュポンフロロケミカル社製)を水で20重量%まで希釈したものに浸漬し、乾燥後360℃で焼結させた]を行った。得られた多孔質電極基材の走査型電子顕微鏡による表面観察写真を図3に示す。
撥水処理後の多孔質電極基材について厚み方向の比抵抗Rを測定し、撥水処理前の比抵抗Rの値(表1に示した値と同一)との差である比抵抗増加量ΔR[Ω・cm]、および比抵抗増加率S[%]を次式により算出した。
比抵抗増加量:ΔR=R−R
比抵抗増加率:S=ΔR/R×100
【0036】
〔比較例6〕
比較例1で得られた多孔質電極基材を用いたこと以外は実施例5と同様にしてΔRおよびSを算出した。
【0037】
〔比較例7〕
比較例2で得られた多孔質電極基材を用いたこと以外は実施例5と同様にしてΔRおよびSを算出した。
【0038】
以上の結果を表2に示す。
【表2】

【0039】
実施例5のΔRおよびSは比較例と比べて顕著に小さくΔR≦0.1およびS≦25の関係を満足する。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る多孔質電極基材は、特に燃料電池のガス拡散体として好適であるが、これに限らず、各種電池の電極基材などにも応用することができ、さらに、その応用範囲はこれらに限られるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面内に分散した炭素短繊維集合体に、環球法で測定した軟化点が75〜95℃であるノボラック型フェノール樹脂Nと、B型粘度計で測定した見掛け粘度が50〜140mPa・sであるレゾール型フェノール樹脂Rの60wt%メタノール溶液を固形分質量比でN:R=80:20〜85:15となるように混合した樹脂組成物を、炭素繊維100質量部に対して樹脂組成物が70〜130質量部になるように含浸して中間基材を得る工程;
前記中間基材を加熱して前記樹脂組成物を炭素化する工程;
を有する多孔質電極基材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で得られた多孔質電極基材を、固形分5〜30重量%のポリテトラフルオロエチレンディスパージョンに浸漬する工程;
さらに乾燥し、ポリテトラフルオロエチレンを多孔質電極基材に焼結させる工程;
を有する多孔質電極基材の製造方法。
【請求項3】
撥水処理前に対する撥水処理後の厚み方向の比抵抗増加量ΔR[Ω・cm]および比抵抗増加率S[%]が、ΔR≦0.1およびS≦25の関係を満足する、請求項2に記載の撥水処理された多孔質電極基材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−257748(P2010−257748A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106402(P2009−106402)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】