説明

多官能オキセタンの製造方法

【課題】アルコキシシランとオキセタンアルコールのアルコール交換反応を収率良く行うことができ、低粘度で着色の少ない多官能オキセタンを得ることができる製造方法、さらには、得られる多官能オキセタンのアルコキシ基の残存量を低減させることにより、これを含む組成物の硬化体が寸法安定性に優れるものとする、工業的に有利な多官能オキセタンの製造方法の提供。
【解決手段】アルコキシシランと下記式(3)で表されるオキセタンを、アルコール交換触媒の存在下に反応させる製造方法であって、前記触媒の割合を式(3)で表されるオキセタンの重量に対して5〜1,500重量ppmとする多官能オキセタンの製造方法。
【化1】


〔式(3)中、Rは水素又は炭素数1〜8の分岐があっても良いアルキル基を示す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン重合が可能な多官能オキセタンの製造方法に関するものであり、得られる多官能オキセタンから誘導される光硬化性又は熱硬化性樹脂は、硬化性、耐熱性、透明性、難燃性及び機械特性に優れ、塗料、コーティング剤、接着剤、封止材及びレンズ等に利用される。
【背景技術】
【0002】
オキセタン化合物は、光開始カチオン重合又は硬化が可能なモノマーとして、近年注目を浴びている化合物であり、多くのオキセタン化合物が報告されている。
例えば、3−アルキル−3−ヒドロキシメチルオキセタンとα,ω−ジブロモアルカンとを水酸化アルカリ金属水溶液及び相間移動触媒の存在下に接触させて得られるビスオキセタンエーテル化合物が報告されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2及び非特許文献3など参照。特許文献1参照。)。又、3−アルキル−3−ハロメチルオキセタンと二価フェノール類のアルカリ金属フェノーラートとを接触させて得られるビスオキセタンエーテル化合物が報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
又、様々なビスオキセタンエーテル化合物が報告されている(例えば、特許文献3〜8等参照)。
更に、式(a)で表される多官能オキセタン化合物が報告されている(例えば、特許文献9参照)。
【0004】
【化1】

【0005】
〔式(a)中、Xはメトキシ基又はエトキシ基を示し、Yは下記式(b)で表されるオキセタニルメトキシ基を示し、lは0〜2の整数、mは0〜3の整数及びnは0〜10の整数を示す。但し、m=3かつn=0の場合を除く。〕
【0006】
【化2】

【0007】
〔式(b)中、Rはメチル基又はエチル基を示す。〕
【0008】
【特許文献1】特開平6−16804号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】ドイツ特許第1021858号明細書(1〜2頁)
【特許文献3】特開平7−53711号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平7−173279号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平8−245783号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平9−309950号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開平10−212343号公報(特許請求の範囲)
【特許文献8】特開2001−31665号公報(特許請求の範囲)
【特許文献9】特開2001−342194号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献1】Bull.Chem.Soc.Jpn.,61,pp.1653(1989)
【非特許文献2】Pure Appl.Chem.,A29(10),pp.915(1992)
【非特許文献3】Pure Appl.Chem.,A30(2&3),pp.189(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献9に記載の方法に従い多官能オキセタンを製造した場合には、メトキシ基又はエトキシ基が残存し、硬化時にはメタノール又はエタノールが蒸散しやすいため、寸法安定性等に問題を有するものであった。
本発明は、アルコキシシランとオキセタンアルコールのアルコール交換反応を収率良く行うことができ、低粘度で着色の少ない多官能オキセタンを得ることができる製造方法、さらには、得られる多官能オキセタンのアルコキシ基の残存量を低減させることにより、これを含む組成物の硬化体が寸法安定性に優れるものとする、工業的に有利な多官能オキセタンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、アルコキシシランとオキセタンアルコールのアルコール交換反応において、ごく少量のアルコール交換触媒を添加することにより、着色が少なくかつ収率良く、多官能オキセタンを製造できることを見出し、本発明を完成させた。
以下、本発明を詳細に説明する。
尚、本明細書において、「多官能」とは、1分子中に2個以上のオキセタニル基を有することを意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低粘度で着色の少ない多官能オキセタンを収率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
1.アルコキシシラン
本発明の原料化合物であるアルコキシシランとしては、アルコキシシランの多量体でも、アルコキシシラン単量体でも使用できる。
【0013】
アルコキシシランの多量体の好ましい例としては、下記式(1)で表わされるポリアルキルシリケート(以下、化合物1という)を挙げることができる。
【0014】
【化3】

【0015】
〔式(1)中、Xはメトキシ基、エトキシ基又はプロポキシ基を示し、nは1以上の数であり平均値を示す。〕
【0016】
化合物1は、通常、種々の長さを有する化合物の混合物であり、nは平均値として表される。化合物1において、nとしては、室温で液体であり、取り扱い易い粘度を有するという理由で、1〜20が好ましく、より好ましくは1〜10である。
化合物1の具体例としては、テトラメチルシリケート及びテトラエチルシリケート等が挙げられる。
化合物1は市販されており、例えばエチルシリケート40〔コルコート(株)製商品名、式(1)において、Xがエチル基、nの平均値が5の化合物〕、エチルシリケート48〔コルコート(株)製商品名、式(1)において、Xがエチル基、nの平均値が10の化合物〕等が挙げられる。
本発明においては、エチルシリケート40が好ましい。
【0017】
又、アルコキシシラン単量体の好ましい例としては、下記式(2)で表わされるアルコキシシラン(以下、化合物2という)を挙げることができる。
【0018】
【化4】

【0019】
〔式(2)中、Xはメトキシ基、エトキシ基又はプロポキシ基を示し、Zは炭素数1〜10の分岐があっても良いアルキル基、又は3,4−エポキシシクロヘキシル基、グリシジルメトキシ基、メタクリロキシ基及びアクリロキシ基のような反応性官能基を有しても良いアルキル基を示し、mは1〜4の整数を示す。〕
【0020】
化合物2の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
本発明においては、これらの中でも、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラ、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン及び3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0021】
2.式(3)で表されるオキセタン
又、本発明では、アルコキシシランと、下記式(3)で表されるオキセタン(以下、化合物3という)を反応させる。
【0022】
【化5】

【0023】
〔式(3)中、Rは水素原子又は炭素数1〜8の分岐があっても良いアルキル基を示す。〕
化合物3の具体例は、3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−メチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタン、及び3−ヒドロキシメチル−3−プロピルオキセタン等が挙げられる。
化合物3としては、3−ヒドロキシメチル−3−メチルオキセタン、又は3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタンが好ましい。
【0024】
3.多官能オキセタンの製造方法
本発明は、アルコキシシランと化合物3をアルコール交換触媒(以下、単に触媒という)の存在下に反応させる製造方法であって、触媒の割合を化合物3の重量に対して5〜1,500重量ppmとする製造方法である。
【0025】
アルコキシシランと化合物3の割合としては、目的とする多官能オキセタンの構造及び反応条件等に応じて適宜設定すれば良いが、アルコキシシラン中のアルコキシシリル基に対して化合物3を
1〜5倍とすることが好ましい。
【0026】
アルコキシシランとして、化合物1を使用する場合、得られる多官能オキセタンとしては、下記式(4)で表される化合物が好ましい。
【0027】
【化6】

【0028】
〔式(4)中、Xはメトキシ基、エトキシ基又はプロポキシ基を示し、Yは下記式(5)で表されるオキセタニルメトキシ基を示し、lは0〜2の数、mは0〜3の数及びnは1以上の数であり、いずれも平均値を示す。〕
【0029】
【化7】

【0030】
〔式(5)中、Rは水素又は炭素数1〜8の分岐があっても良いアルキル基を示す。〕
【0031】
又、アルコキシシランとして、化合物2を使用する場合、得られる多官能オキセタンとしては、下記式(6)で表される化合物が好ましい。
【0032】
【化8】

【0033】
〔式(6)中、Xはメトキシ基、エトキシ基又はプロポキシ基を示し、Yは上記式(5)で表されるオキセタニルメトキシ基を示し、Zは炭素数1〜10の分岐があっても良いアルキル基、又は3,4−エポキシシクロヘキシル基、グリシジルメトキシ基、メタクリロキシ基及びアクリロキシ基のような反応性官能基を有しても良いアルキル基を示し、m及びnは1以上の整数を、m+nは最大4を示す。〕
【0034】
多官能オキセタンの製造で用いられる触媒としては、酸性触媒及び塩基性触媒が挙げられる。
酸性触媒としては、オキセタンが開環しない程度の酸性度を有する物質を用いる必要があり、有機カルボン酸及びフェノール誘導体等がある。有機カルボン酸の具体例としては、蟻酸、酢酸及びプロピオン酸等が挙げられ、フェノール誘導体としては、フェノール等が挙げられる。
塩基性触媒は、アルカリ金属、アルカリ金属水素化物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の有機酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属水素化物及び有機塩基等が挙げられる。
それらの具体例としては、以下の例が挙げられる。
・アルカリ金属:金属ナトリウム及び金属カリウム等
・アルカリ金属水素化物:水素化ナトリウム及び水素化カリウム等
・アルカリ金属の水酸化物:水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウム等
・アルカリ金属の炭酸塩:炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等
・アルカリ金属の有機酸塩:酢酸ナトリウム及び酢酸カリウム等
・アルカリ土類金属の水酸化物:水酸化カルシウム等
・有機塩基:トリエチルアミン及びジイソプロピルエチルアミン等
これらの中でも、反応性に優れる点で塩基性触媒が好ましく、塩基性触媒の中でも、短時間で十分な転化率が得られるという理由から水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属がより好ましい。
【0035】
触媒の割合としては、化合物3の重量に対して5〜1,500重量ppmであり、5〜1,000重量ppmがより好ましく、更に好ましくは10〜100重量ppmである。
触媒の割合が化合物3の重量に対して5重量ppmに満たないと、アルコール交換反応が不十分となり、高温で加熱する必要がある。これにより、得られる生成物が着色したり、高分子量体が生成してしまうという問題がある。一方、1,500重量ppmを超えると、得られる生成物が着色してしまう。
又、触媒を水溶液として用いる場合には、触媒の濃度は1〜96重量%が好ましく、さらに好ましくは20〜50重量%である。
触媒として特に好ましい水酸化アルカリ金属を使用する場合において、5〜60重量%の水溶液状又は粉末状にした水酸化アルカリ金属で用いられ、好ましくは、40〜50重量%の水溶液状のものが用いられる。
【0036】
反応において必要に応じて有機溶媒を用いても良い。有機溶媒としては、原料及び反応生成物に対して不活性な化合物を用いることができる。溶媒は、200℃程度まで加熱することから高沸点溶媒が望ましい。又、原料のアルコキシシランと反応しない、水酸基を有しない化合物が好ましい。これらを満足する具体例としては、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。
【0037】
反応温度は、使用する原料や目的とする化合物に応じて適宜設定すれば良いが、80〜200℃が好ましく、100〜180℃がより好ましい。この場合、反応の進行とともに反応温度を上昇させる方法が、効率的であり好ましい。
反応時間は、使用する原料、反応温度や触媒の使用量等に応じて適宜設定すれば良く、4〜30時間が好ましい。
【0038】
多官能オキセタンの製造時は、生成したメタノール又はエタノールを系外へ留去させることが好ましい。
その際、留出系に精留管を付帯した反応器を使用することが、化合物3を系外へ留出させることなく効率的に生成アルコールを留出させることが出来る。
反応終了後は、室温まで冷却した反応液中に残存している未反応の化合物3を加熱条件下、減圧留去すればよい。
【0039】
4.用途
本発明により得られる多官能オキセタンを含有する組成物は、特にカチオン硬化性組成物として使用でき、硬化性に優れ、その硬化物は、耐熱性、透明性、難燃性及び機械特性に優れるため、種々の用途に使用可能である。具体的には、塗料、コーティング剤、接着剤、封止材及びレンズ等に利用できる。
【0040】
カチオン硬化性組成物として使用する場合、必要に応じてエポキシ化合物を配合することができる。
エポキシ化合物としては、分子内に少なくとも一個のエポキシ基を有する化合物であれば、限定なく用いることができ、脂環式エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物が挙げられる。
これらの中でも、硬化物の耐熱性を損なわず硬化性も比較的良いという理由から、脂環式エポキシ化合物及び芳香族エポキシ化合物が好ましい。
脂環式エポキシ化合物の例としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート及びビス−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等のエポキシ化シクロヘキシル基を1つ以上有する化合物が挙げられる。これらの化合物は、米国ユニオンカーバイド社製CYRACUREレジン(商品名)として市販されており、これらを使用することができる。
芳香族エポキシ化合物としては、ビスフェノールAのグリシジルエーテル、ビスフェノールAのグリシジルエーテル縮合物、ノボラック樹脂やクレゾール樹脂のエピクロルヒドリン変性物等が挙げられる。
【0041】
又、前記多官能オキセタン以外のオキセタン化合物を配合することもできる。
当該オキセタン化合物としては、分子中に1個以上のオキセタニル基を有する化合物であれば特に制限なく使用できる。具体的には、特開平8−85775号公報及び特開平8−134405号公報などに記載された各種のオキセタン化合物が挙げられ、これらの中でも、オキセタニル基を1個又は2個有する化合物が好ましい。
オキセタニル基を1個有する単官能オキセタン化合物の例としては、3―エチル―3−(ヒドロキシメチル)オキセタン、3―エチル―3−[(フェノキシ)メチル]オキセタン、3―エチル―3−(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3―エチル―3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン及び3―エチル―3−(クロロメチル)オキセタン等が挙げられる。
オキセタニル基を2個有する2官能オキセタン化合物の例としては、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン及びビス{[1−エチル(3−オキセタ
ニル)]メチル}エーテル等が挙げられる。
これらの化合物については、アロンオキセタンOXT−101、OXT−121、OXT−211、OXT−221及びOXT−212{いずれも商品名、東亞合成(株)製}の市販品として入手可能である。
【0042】
カチオン硬化性組成物として使用する場合、活性エネルギー線の照射により硬化させる場合には、光カチオン重合開始剤を配合し、加熱により硬化させる場合には、熱カチオン重合開始剤を配合する。
光カチオン重合開始剤は、活性エネルギー線の作用によって開裂し強酸を放出する化合物であり、又、熱カチオン重合開始剤は、熱の作用すなわち温度の上昇によって開裂し強酸を放出する化合物である。
光カチオン重合開始剤としては、例えば、UV・EB硬化材料[(株)シーエムシー、1992年発行]の3.1.5項63−65頁に記載されているような化合物が挙げられ、これらの中でも、トリアリールスルホニウムヘキサフロロホスフェート塩、リン原子をアンチモン原子で置換されたトリアリールスルホニウムヘキサフロロアンチモネート塩、ジアリールヨードニウム塩が好ましく用いられる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
○実施例1
温度計、冷却器、精留管、窒素吹き込み管及び攪拌装置を備えた500mlの四つ口フラスコに、あらかじめ蒸留した3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタン〔式(3)において、Rがエチル基である化合物。以下、OXAと略す〕209.1g(1.80mol)、エチルシリケート40〔コルコート(株)製商品名、式(1)において、Xがエチル基、nの平均値が5の化合物〕74.4g(0.10mol)、48重量%水酸化カリウム水溶液(以下、単にKOH水溶液という)20mg(水酸化カリウムがOXAに対して50ppmの割合)を加え、窒素吹き込み下、26.6kPaに減圧した。反応液を110℃まで加熱し、エタノールを留出させながら6時間かけて180℃まで昇温した。引き続き0.5kPaまで減圧にし、未反応のOXAを留出させた。
釜残として目的物〔式(4)において以下の化合物、X:エトキシ基、Y:式(5)のRがエチル基、l:3、m:2、n:平均値5〕で表されるが157.7g得られた。回収したOXAは69.0g(0.59mol)であった。回収量から下式から算出されるアルコール交換率は99%となった。
【0045】
アルコール交換率=(仕込みOXA量−加熱後反応液中OXA量)/OXA反応理論量(エチルシリケートのモル当量×12)
【0046】
得られた生成物について、吸光光度形を使用して透過率(50重量%トルエン溶液、400nm)を測定し、E型粘度計を使用して粘度、ゲルパーミションクロマトグラフィーを使用して数平均分子量(以下、Mnという)及び重量平均分子量(以下、Mwという)を測定した。尚、Mn及びMwはポリスチレン換算した値である。
【0047】
○実施例2及び3、比較例1及び2
実施例1において、KOH水溶液を表1に示す量に変更した以外は実施例1と同様の操作を行った。
尚、比較例1においては、KOH水溶液を加えずに操作を行った。反応温度は200℃で10時間反応を行った。
得られた多官能オキセタンについて実施例1と同様に評価した結果を、表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
本発明の製造方法によれば、ほとんど着色は認められず、アルコール交換率も高い結果が得られた。
一方、触媒を添加しない比較例1では、アルコール交換率が上がらず、反応温度を高くする必要があり、シリケートが縮合した高分子量体の生成が確認された。又、触媒の割合が本発明の上限を超える2000ppm使用した比較例3では、顕著な着色が認められた。
【0050】
○実施例4
KOH以外の触媒の効果を検討するため、簡易の試験を行った。
50mlの試験管に、あらかじめ蒸留したOXAの6.0g(52mmol)、エチルシリケート40の2.0g(2.7mmol)、触媒として酢酸ナトリウムの3mg(OXAの重量に対して500重量ppm)を加え、150℃で1時間、160℃で1時間、170℃で1時間加熱した。
反応液中のOXAをガスクロマトグラフィーにて定量し、消失量より前記式に基づきアルコール交換率を算出したところ、32.6%であった。
【0051】
○実施例5〜9及び比較例3
実施例4において、触媒の種類のみを下記表2の通りに変更する以外は実施例4と同様の方法で反応を行った。尚、比較例3では、触媒を用いず反応を行った。
実施例4と同様にしてアルコール交換率を算出した。それらの結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
触媒を使用しない比較例3と比較して、触媒として塩基性化合物を使用した場合、優れた反応性を示すことが分かる。尚、これらの結果は、一見して前記比較例1より反応性に劣るようにみえるが、これらの実施例は簡易的に試験したもので、反応で生成するアルコールを反応系外に留出させなかったためである。実際、比較例3では、全く反応が進行していない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、多官能オキセタンの製造に使用することができる。さらに、得られる多官能オキセタンは、低粘度で着色の少ないうえ、これから誘導される光硬化性又は熱硬化性組成物は、硬化性、耐熱性、透明性、難燃性及び機械特性に優れるため、塗料、コーティング剤、接着剤、封止材及びレンズ等に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシランと下記式(3)で表されるオキセタンを、アルコール交換触媒の存在下に反応させる製造方法であって、前記触媒の割合を式(3)で表されるオキセタンの重量に対して5〜1,500重量ppmとする多官能オキセタンの製造方法。
【化1】

〔式(3)中、Rは水素又は炭素数1〜8の分岐があっても良いアルキル基を示す。〕
【請求項2】
前記アルコキシシランが、式(1)で表されるポリアルキルシリケートである請求項1記載の多官能オキセタンの製造方法。
【化2】

〔式(1)中、Xはメトキシ基、エトキシ基又はプロポキシ基を示し、nは1以上の数であり平均値を示す。〕
【請求項3】
得られる多官能オキセタンが下記式(4)で表される化合物である請求項2記載の多官能オキセタンの製造方法。
【化3】

〔式(4)中、Xはメトキシ基、エトキシ基又はプロポキシ基を示し、Yは下記式(5)で表されるオキセタニルメトキシ基を示し、lは0〜2の数、mは0〜3の数及びnは1以上の数であり、いずれも平均値を示す。〕
【化4】

〔式(5)中、Rは水素又は炭素数1〜8の分岐があっても良いアルキル基を示す。〕
【請求項4】
アルコール交換触媒が塩基性化合物である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の多官能オキセタンの製造方法。
【請求項5】
アルコール交換触媒の割合が、式(3)で表されるオキセタンに対して5〜1000重量ppmである請求項1〜請求項4のいずれかに記載の多官能オキセタンの製造方法。

【公開番号】特開2008−133204(P2008−133204A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319297(P2006−319297)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】