説明

多官能含フッ素アルコールの製造方法

【課題】本発明の目的は、収率、純度、安全性などの観点から工業的に有利な、多官能含フッ素アルコールの製造方法を提供することにある。
【解決手段】水素化ホウ素化合物と有機溶媒と水との混合物中に下記一般式(1)で表される多官能含フッ素カルボン酸エステルを加えて反応を行う、下記一般式(2)で表される多官能含フッ素アルコールの製造方法。


(一般式(1)および一般式(2)中、Rfはn価のパーフルオロ炭化水素基を表し、Rは1価のアルキル基を表し、複数あるRは同一でも異なっていてもよい。nは3以上の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多官能含フッ素アルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多官能含フッ素アルコールは、そのフッ素原子に由来する低屈折率、耐熱性、耐候性、撥水・撥油性、防汚性、低摩擦性などの性質を有する架橋剤やポリマー原料である、多官能含フッ素モノマーの合成中間体として有用である。これらの中でも、架橋密度が高く硬化性に優れた多官能含フッ素モノマーの例が、特許文献1に記載されている。
【0003】
これらの多官能含フッ素モノマーやその原料である多官能含フッ素アルコールは、多官能カルボン酸エステル化合物をフッ素化して多官能含フッ素カルボン酸エステルへと誘導した後、還元工程を経て合成されている(例えば、特許文献1参照)。ここでは還元工程において水素化アルミニウムリチウムが用いられているが、該還元剤は高活性なために、使用できる溶媒の制約が大きく、また発火の危険性も高いことから、工業的な利用は困難である。
【0004】
単官能の含フッ素カルボン酸エステル化合物の、より工業的実施に適している還元方法としては、水素化ホウ素化合物を用いた方法が知られている(例えば、非特許文献1及び特許文献2参照)。しかし、この方法を3官能以上の化合物に適用した例は知られていない。
【0005】
一方、水素化ホウ素化合物を用いた、多官能カルボン酸化合物の還元が、古くから試みられている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、同一分子内にカルボン酸基を2つ、或いはそれ以上有する化合物の還元において、しばしば反応途中に不溶性の固体が析出してしまい、還元反応が不完全に終わってしまうために、目的とする多官能アルコール化合物の収率が大幅に低下するという問題が知られていた。
【特許文献1】特開2006−28280号公報
【特許文献2】特開平2−169528号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・フローリン・ケミストリー (Journal of Fluorine Chemistry)第93巻、1999年、93ページ
【非特許文献2】ケミカル・レビューズ(Chemical Reviews)第76巻、1976年、773ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、後述の比較例4では、特許文献2に記載されている製造方法を適用して、多官能含フッ素アルコールの製造を試みたが、得られた生成物の純度は67%と低く、満足できるものではなかった。比較例1〜3においても、同様に得られた生成物の純度が低く、満足できるものではなかった。これは、非特許文献2に記載の例と同様に、反応途中で中間体が不溶性の固体として析出することに起因し、還元反応が未完結のまま停止してしまうことが原因と考えられる。
【0007】
本発明の目的は、収率、純度、安全性などの観点から工業的に有利な、多官能含フッ素アルコールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、多官能含フッ素カルボン酸エステルの還元反応が、不溶性固体の析出に起因して不完全に終わってしまうことがなく、且つ工業的に有利な方法で、多官能含フッ素アルコールを製造する手法を見出し、本発明を完成するに至った。即ち上記課題は、下記手段によって解決された。
【0009】
1. 水素化ホウ素化合物と有機溶媒と水との混合物中に下記一般式(1)で表される多官能含フッ素カルボン酸エステルを加えて反応を行う、下記一般式(2)で表される多官能含フッ素アルコールの製造方法。
【0010】
【化1】

【0011】
(一般式(1)および一般式(2)中、Rfはn価のパーフルオロ炭化水素基を表し、Rは1価のアルキル基を表し、複数あるRは同一でも異なっていてもよい。nは3以上の整数を表す。)
2. 前記水素化ホウ素化合物と有機溶媒と水との混合物中の前記水素化ホウ素化合物の量が、前記一般式(1)で表される多官能含フッ素カルボン酸エステル中のカルボン酸エステル基に対して1〜5モル倍である、上記1に記載の多官能含フッ素アルコールの製造方法。
3. 前記水素化ホウ素化合物が水素化ホウ素金属塩である、上記1または2に記載の多官能含フッ素アルコールの製造方法。
4. 前記水素化ホウ素金属塩が水素化ホウ素ナトリウムである、上記3に記載の多官能含フッ素アルコールの製造方法。
5. 前記水素化ホウ素化合物と有機溶媒と水との混合物中の水の量が、前記水素化ホウ素化合物に対して5〜50モル倍である、上記1〜4のいずれかに記載の多官能含フッ素アルコールの製造方法。
6. 反応温度が−20〜100℃の範囲である、上記1〜5のいずれかに記載の多官能含フッ素アルコールの製造方法。
7. 前記一般式(1)で表される多官能含フッ素カルボン酸エステルが下記一般式(3)で表される化合物であり、前記一般式(2)で表される多官能含フッ素アルコールが下記一般式(4)で表される化合物である、上記1〜6のいずれかに記載の多官能含フッ素アルコールの製造方法。
【0012】
【化2】

【0013】
(一般式(3)および一般式(4)中、Rfはn価のパーフルオロ炭化水素基を表し、Rfはフッ素原子又は1価のパーフルオロアルキル基を表し、Rは1価のアルキル基を表し、複数あるRは同一でも異なっていてもよい。nは3以上の整数を表し、aは0又は1を表す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、多官能含フッ素アルコールを収率よく且つ純度よく製造でき、また水素化アルミニウム化合物と比較して発火などの危険性の低い、水素化ホウ素化合物を用いて製造できるため、工業的に非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の多官能含フッ素アルコールの製造方法を詳細に説明する。
【0016】
本発明の、下記一般式(2)で表される化合物の製造方法は、水素化ホウ素化合物と有機溶媒と水との混合物中に、下記一般式(1)で表される化合物を加えて反応を行う。
【0017】
【化3】

【0018】
上記一般式(1)及び(2)中、Rfはn価のパーフルオロ炭化水素基を表す。パーフルオロ炭化水素基とは、少なくとも炭素原子及び水素原子を含み、酸素原子及び/又はフッ素原子以外のハロゲン原子を含んでもよい、直線状、分枝状または環状の飽和炭化水素基における、実質的に全ての水素原子がフッ素原子により置換された基を表し、炭素数としては好ましくは1〜50であり、より好ましくは2〜30であり、さらに好ましくは3〜20である。ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であるが、ここではフッ素原子以外のハロゲン原子であることから、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、好ましくは塩素原子、臭素原子であり、より好ましくは塩素原子である。nは3以上の整数を表し、好ましくは3〜20の整数であり、より好ましくは3〜15の整数であり、さらに好ましくは3〜12の整数である。
【0019】
以下に、Rfの好ましい具体的な構造例を挙げるが、本発明はこれらにより限定されるものではない。下記構造式中、*はカルボン酸エステル(COOR)基の結合する位置を表す。
【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
は1価のアルキル基を表す。アルキル基とは、酸素原子及び/又はハロゲン原子を含んでもよい、直線状、分枝状または環状の1価の飽和炭化水素基である。アルキル基の炭素数としては、好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20であり、さらに好ましくは1〜10である。またアルキル基は他の置換基によりさらに置換されていてもよい。また、Rは同一分子内において全て同一でもよく、2種類あるいはそれ以上の異なった種類が同一分子内に存在していてもよい。また、Rは水素化ホウ素化合物との反応後には、ROHの構造を有するアルコールとなる。このため、Rは本質的には本発明には大きな影響を及ぼさないが、反応後の処理の際に、目的とする多官能含フッ素アルコールとの分離が容易であるようなROHを生成するような、Rが好ましい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、2−メチル−1−プロピル基、2−メチル−2−プロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロプロピルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、フェニルメチル基、4−メチルフェニルメチル基、2,4,6−トリメチルフェニルメチル基などが挙げられるが、好ましくはメチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、2−メチル−1−プロピル基、2−メチル−2−プロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロプロピルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、フェニルメチル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、2−メチル−2−プロピル基、シクロヘキシルメチル基、フェニルメチル基であり、さらに好ましくはメチル基、エチル基、2−プロピル基、2−メチル−2−プロピル基である。
【0024】
水素化ホウ素化合物とは、ホウ素‐水素結合を有する化合物であり、例えば水素化ホウ素金属塩(水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素亜鉛、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、トリ第二ブチル水素化ホウ素リチウム(商品名L−Selectride)など)、ボラン化合物(ジボラン、テトラボラン、9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナン(通称9−BBN)、ボラン−THF錯体、ボラン−ピリジン錯体など)が挙げられるが、好ましくは水素化ホウ素金属塩であり、より好ましくは水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素亜鉛であり、さらに好ましくは水素化ホウ素ナトリウムである。
【0025】
水素化ホウ素化合物は、市販のものを用いてもよく、調製して用いてもよい。例えば、水素化ホウ素ナトリウムは、ホウ酸エステルと水素化ナトリウムを混合することにより容易に調製可能である。また、他の水素化ホウ素化合物は、水素化ホウ素ナトリウムと、対応する金属ハロゲン化物との反応により、調製可能であり、例えば水素化ホウ素リチウムは、水素化ホウ素ナトリウムと塩化リチウムとの反応により得られる。水素化ホウ素化合物を調製して用いる場合は、予め調製したものを反応系中に添加してもよく、反応系中で調整してそのまま用いてもよい。
【0026】
有機溶媒は、水と混和しても混和しなくてもよいが、好ましくは体積比1%以上の水を溶解させうる有機溶媒がよい。有機溶媒の例としては、アルコール系溶媒(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、t−ブタノール、ベンジルアルコール、フェノールなど)、エーテル系溶媒(例えばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム、THF、1,4−ジオキサン、フェニルメチルエーテルなど)、エステル系溶媒(例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸エチル、安息香酸メチルなど)、炭化水素系溶媒(例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、デカンなど)、芳香族系溶媒(例えばベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ベンゾトリフルオリド、ピリジンなど)、アミン系溶媒(例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン、アニリンなど)、含ハロゲン炭化水素系溶媒(例えばジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロトリフルオロエタンなど)、ニトリル系溶媒(例えばアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなど)、ニトロ系溶媒(例えばニトロメタン、ニトロエタン、ニトロベンゼンなど)、アミド系溶媒(例えばDMF、DMAc、NMPなど)、スルホ系溶媒(例えばDMSO、スルホランなど)、ホウ素系溶媒(例えばトリメチルボレート、トリエチルボレートなど)、カルボン酸系溶媒(例えば酢酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸など)が挙げられるが、好ましくはアルコール系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、ニトリル系溶媒であり、より好ましくはエタノール、イソプロパノール、t−ブタノール、ベンジルアルコール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム、THF、1,4−ジオキサン、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルであり、さらに好ましくはイソプロパノール、t−ブタノール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム、THF、トルエン、アセトニトリルである。
【0027】
有機溶媒の使用量は、前記一般式(1)で表される化合物に対して、好ましくは0.1〜1000質量倍を用い、より好ましくは0.5〜500質量倍を用い、さらに好ましくは1〜100質量倍を用いる。有機溶媒の使用量が1質量倍以上であれば、反応容器中の攪拌が充分となり好ましく、100質量倍以下であると、必要量以上に溶媒を使用することがなく、経済的に有利であり好ましい。
【0028】
水素化ホウ素化合物の使用量は、前記一般式(1)で表される化合物中のカルボン酸エステル基1モルに対して1〜5モル倍が好ましい。水素化ホウ素化合物の使用量が1モル倍以上であれば、目的とするアルコール化合物の収率が低下せず、好ましい。また5モル倍以下であれば、過剰の水素化ホウ素化合物を使用することがなく経済的に有利となる上に、反応終了後に水素化ホウ素化合物が多量に残ることがなく、すなわち残った水素化ホウ素化合物を失活させる工程に長い時間をかける必要がなく、工業的実施にも有利となるため好ましい。
【0029】
水の使用量は、水素化ホウ素化合物1モルに対して5〜50モル倍であることが好ましい。水の使用量が5モル倍以上であれば、ゲル状の沈殿が析出せず、目的とするアルコール化合物の収率が低下することがないため好ましい。また50モル倍以下であれば、得られる生成物中に含まれる多官能含フッ素アルコールの純度が低下しないため好ましい。
また、反応に用いる水は、純水でも、反応に関与しない少量の溶質を含んでいてもよいが、好ましくはpHが4〜14に調整されたものであり、より好ましくはpHが6〜12に調整されたものである。pHをこの範囲内に調整するために、水に酸性物質(例えば塩酸、硫酸、酢酸、二酸化炭素、など)又は塩基性物質(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、トリエチルアミン、ピリジン、など)、又はpH緩衝剤(リン酸及びその塩、ホウ酸及びその塩、炭酸水素ナトリウム、クエン酸及びその塩、など)を加えてもよい。
【0030】
反応の温度は、−20℃〜100℃の範囲が好ましい。−20℃以上であれば、反応速度が遅くならず、反応時間が長くかからないため好ましい。100℃以下であれば、水と水素化ホウ素化合物の反応により水素化ホウ素化合物が消費されることが起こりにくく、目的とするアルコール化合物の収率が低下しないため好ましい。また、使用する有機溶媒及び/又は有機溶媒と水との共沸混合物の沸点か、それ以下の温度で反応を行うことが好ましい。反応温度は−5℃〜50℃の範囲がより好ましく、0℃〜30℃の範囲がさらに好ましい。
【0031】
前記一般式(1)で表される化合物は下記一般式(3)で表される化合物であることがより好ましく、前記一般式(2)で表される化合物は下記一般式(4)で表される化合物であることがより好ましい。
【0032】
【化7】

【0033】
一般式(3)および一般式(4)において、Rfは、n価のパーフルオロ炭化水素基である。パーフルオロ炭化水素基は、前記と同義である。nは3以上の整数を表し、好ましくは3〜20の整数であり、より好ましくは3〜15の整数であり、さらに好ましくは3〜10の整数である。aは、0又は1を表す。
【0034】
Rfは、フッ素原子又は1価のパーフルオロアルキル基を表す。パーフルオロアルキル基とは、エーテル性酸素原子を含んでもよい、直線状、分枝状または環状の飽和炭化水素基において、実質的に全ての水素原子がフッ素原子により置換された基を表す。炭素数としては、好ましくは1〜10の整数であり、より好ましくは1〜7の整数であり、さらに好ましくは1〜4の整数である。パーフルオロアルキル基の例としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロ−1−プロピル基、ヘプタフルオロ−2−プロピル基、ノナフルオロ−1−ブチル基、ノナフルオロ−2−ブチル基、ノナフルオロ−2−メチル−1−プロピル基、ノナフルオロ−2−メチル−2−プロピル基、ペンタフルオロシクロプロピル基、ヘプタフルオロシクロブチル基、ヘプタフルオロシクロプロピルメチル基、パーフルオロ(メトキシメチル)基、パーフルオロ(2−メトキシエチル)基、パーフルオロ(2−エトキシエチル)基、トリフルオロメトキシル基、ペンタフルオロエトキシル基、ヘプタフルオロ−2−プロポキシル基、ノナフルオロ−2−メチル−2−プロポキシル基などが挙げられるが、好ましくはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロ−1−プロピル基、ヘプタフルオロ−2−プロピル基、ペンタフルオロシクロプロピル基、ヘプタフルオロシクロプロピルメチル基、パーフルオロ(メトキシメチル)基、パーフルオロ(2−メトキシエチル)基、トリフルオロメトキシル基であり、より好ましくはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロ−1−プロピル基、ヘプタフルオロ−2−プロピル基、パーフルオロ(2−メトキシエチル)基であり、特に好ましくはトリフルオロメチル基である。
【0035】
は1価のアルキル基を表す。アルキル基は、前記と同義である。アルキル基の炭素数としては、好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20であり、さらに好ましくは1〜10である。またアルキル基は他の置換基によりさらに置換されていてもよい。また、Rは同一分子内において全て同一でも異なっていてもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、2−メチル−1−プロピル基、2−メチル−2−プロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロプロピルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、フェニルメチル基、4−メチルフェニルメチル基、2,4,6−トリメチルフェニルメチル基などが挙げられるが、好ましくはメチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、2−メチル−1−プロピル基、2−メチル−2−プロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロプロピルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、フェニルメチル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、2−メチル−2−プロピル基、シクロヘキシルメチル基、フェニルメチル基であり、さらに好ましくはメチル基、エチル基、2−プロピル基、2−メチル−2−プロピル基である。
【0036】
以下に、前記一般式(3)で表される化合物の好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0037】
【化8】

【0038】
【化9】

【0039】
【化10】

【0040】
以下に、本発明の製造方法によって得られる、前記一般式(4)で表される化合物の好ましい具体例を挙げるが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0041】
【化11】

【0042】
【化12】

【0043】
【化13】

【0044】
前記一般式(1)及び一般式(3)で表される化合物の合成法は、特に限定されない。例えば、前記一般式(1)で表される化合物は、特開2006−28280号公報に記載の方法を適用することにより、合成することができる。また、例えば前記一般式(3)で表される化合物中のRfがフッ素原子である場合の化合物は、市販の多官能アルコール又は公知の多官能アルコールから、「ジャーナル・オブ・フローリン・ケミストリー」(Journal of Fluorine Chemistry)」第125巻、2004年、750ページに記載の方法に従い、合成することができる。また、例えば前記一般式(3)で表される化合物中のRfがフッ素原子でない場合の化合物は、市販の多官能アルコール又は公知の多官能アルコールから、下記に示す合成ルートにより、合成することができる。
【0045】
【化14】

【0046】
液相フッ素化については、例えば米国特許第5093432号明細書に記載されている。
【実施例】
【0047】
以下に本発明を具体的に説明する実施例を挙げるが、本発明はこれらによって限定されるものではない。またここでは、高速液体クロマトグラフィーはHPLCと、核磁気共鳴法はNMRと記す。H−NMRではテトラメチルシランを内部標準として用い、19F−NMRではフルオロトリクロロメタンを外部標準として用いて測定を行った。生成物の純度測定は、特に記さない限り、HPLCを用いて内部標準法により分析を行い、検出器はウォーターズ(Waters)社製エバポレイト蒸発光散乱検出器(ELSD)を使用した。
【0048】
[実施例1]THF/水=3/1混合溶媒を用いた化合物(11)の製造
【0049】
【化15】

【0050】
ガラス製反応容器に還流冷却管、機械式攪拌装置、温度計、滴下漏斗を取り付け、これに水25mL(1.39モル)、THF50mL、水素化ホウ素ナトリウム3.78g(0.1モル)をとり、氷水浴中で攪拌させた。これに化合物(10)9.13g(カルボン酸エステル基:0.04モル)をTHF25mLに溶解させた溶液を、10分間かけて滴下させた。そのまま15分間攪拌させた後、浴を外して、さらに室温で4時間攪拌させた。反応中、ゲル状固体の析出は見られなかった。
反応終了後、氷水浴中で攪拌させながら水25mLを加え、次に3mol/L塩酸45mLをゆっくりと滴下した後、室温で1時間攪拌させた。この溶液を酢酸エチル50mLで2回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水、飽和重曹水、さらに飽和食塩水で洗浄した。この溶液を硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を留去させて化合物(11)を得た。収量7.65g(収率96%、純度98%)。
H−NMR[TMS,CDCN]:δ[ppm]=3.97(td,J=14,7Hz,8H),3.81(dd,J=7,7Hz,4H); 19F−NMR[CFCl,CDCN]:δ[ppm]=−66.4(s,8F),−86.3(s,8F),−126.4(t,J=14Hz,8F)。
【0051】
[実施例2]THF/水=5/1混合溶媒を用いた化合物(11)の製造
ガラス製反応容器に還流冷却管、温度計、滴下漏斗を取り付け、これに水1.7mL(0.094モル)、THF5.8mL、水素化ホウ素ナトリウム0.38g(0.01モル)をとり、氷水浴中で攪拌させた。これに化合物(10)0.91g(カルボン酸エステル基:0.004モル)をTHF2.5mLに溶解させた溶液を、5分間で滴下させた。そのまま15分間攪拌させた後、浴を外して、さらに室温で3時間攪拌させた。反応中、ゲル状固体の析出は見られなかった。
反応終了後、氷水浴中で攪拌させながら希塩酸を滴下してpHを約1に調節した後、浴を外して室温で1時間攪拌させた。この溶液を酢酸エチルで2回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水、飽和重曹水、さらに飽和食塩水で洗浄した。この溶液を硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を留去させて化合物(11)を得た。収量0.74g(収率93%、純度95%)。
【0052】
[実施例3]THF/水=1/1混合溶媒を用いた化合物(11)の製造
ガラス製反応容器中の溶媒を水5.0mL(0.28モル)、THF2.5mLに変更した以外は、実施例2と同様に反応を行った。化合物(11)の収量0.74g(収率93%、純度94%)。
【0053】
[実施例4]THF/水=1/1混合溶媒を用い溶媒量を増加させた化合物(11)の製造
ガラス製反応容器中の溶媒を水10.0mL(0.56モル)、THF7.5mLに変更した以外は、実施例2と同様に反応を行った。化合物(11)の収量0.71g(収率89%、純度82%)。
【0054】
[実施例5]THF/水=12/1混合溶媒を用いた化合物(11)の製造
ガラス製反応容器中の溶媒を水0.77mL(0.043モル)、THF6.73mLに変更した以外は、実施例2と同様に反応を行った。反応中、粘性のあるゲル状の固体が析出し、室温3時間後でも固体に変化は見られなかった。化合物(11)の収量0.74g(収率93%、純度78%)。
【0055】
[実施例6]イソプロパノール/水=3/1混合溶媒を用いた化合物(11)の製造
ガラス製反応容器中の溶媒を水2.5mL(0.14モル)、イソプロパノール5.0mLに、化合物(10)を溶解させる溶媒をイソプロパノール2.5mLに変更した以外は、実施例2と同様に反応を行った。化合物(11)の収量0.72g(収率90%、純度94%)。
【0056】
[実施例7]ジメトキシエタン/水=3/1混合溶媒を用いた化合物(11)の製造
ガラス製反応容器中の溶媒を水2.5mL、ジメトキシエタン5.0mLに、化合物(10)を溶解させる溶媒をジメトキシエタン2.5mLに変更した以外は、実施例2と同様に反応を行った。化合物(11)の収量0.75g(収率94%、純度97%)。
【0057】
[実施例8]化合物(13)の製造
【0058】
【化16】

【0059】
ガラス製反応容器に還流冷却管、温度計、滴下漏斗を取り付け、これに水2.5mL(0.14モル)、THF5.0mL、水素化ホウ素ナトリウム0.29g(0.0077モル)をとり、氷水浴中で攪拌させた。これに化合物(12)0.76g(カルボン酸エステル基:0.003モル)をTHF2.5mLに溶解させた溶液を、5分間で滴下させた。そのまま15分間攪拌させた後、浴を外して、さらに室温で3時間攪拌させた。反応中、ゲル状固体の析出は見られなかった。
反応終了後、氷水浴中で攪拌させながら希塩酸を滴下してpHを約1に調節した後、浴を外して室温で1時間攪拌させた。この溶液を酢酸エチルで2回抽出し、得られた有機層を飽和食塩水、飽和重曹水、さらに飽和食塩水で洗浄した。この溶液を硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を留去させて化合物(13)を得た。収量0.61g(収率91%、純度95%)。
H−NMR[TMS,CDCl]:δ[ppm]=4.17〜4.12(m); 19F−NMR[CFCl,CDCl]:δ[ppm]=−63.8(d,J=147Hz,3F),−64.1〜64.4(m,3F),−68.5(d,J=147Hz,3F),−83.0(s,9F),−136.2〜−136.6(m,3F)。
【0060】
[実施例9]化合物(15)の製造
【0061】
【化17】

【0062】
水素化ホウ素ナトリウムの質量を0.57g(0.015モル)に変更し、化合物(14)を1.49g(カルボン酸エステル基:0.006モル)使用した以外は、実施例8と同様に反応を行った。化合物(15)の収量1.15g(収率87%、純度91%)。
H−NMR[TMS,CDOD]:δ[ppm]=3.94(t,J=14Hz,12H); 19F−NMR[CFCl,CDOD]:δ[ppm]=−65.8(s,4F),−66.5(s,12F),−86.8(s,12F),−127.1(t,J=14Hz,12F)。
【0063】
[比較例1]エタノール溶媒を用いた化合物(11)の製造
【0064】
【化18】

【0065】
ガラス製反応容器にエタノール25mL、水素化ホウ素ナトリウム0.910g(0.024モル)をとり、氷水浴中で攪拌させた。これに化合物(10)2.75g(カルボン酸エステル基:0.012モル)をエタノール5mLに溶解させた溶液をゆっくりと滴下していき、そのまま1時間攪拌させた。浴を外して、反応液の温度を室温まで上昇させたところ、多量のゲル状固体の析出が見られた。そのまま室温で4時間攪拌させたが、固体は変化しなかった。
反応容器を氷水浴中で攪拌させながら、2mol/L塩酸を加えて溶液のpHを約1に調節した。この溶液を酢酸エチルで3回抽出し、集めた有機層を飽和食塩水、飽和重曹水、さらに飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を留去させて生成物を得た。収量2.14g(収率89%)。HPLC分析の結果、得られた生成物中の化合物(11)の含有率は62%(相対面積比)だった。
【0066】
[比較例2]THF溶媒を用いた化合物(11)の製造
【0067】
【化19】

【0068】
ガラス製反応容器にTHF2.2mL、水素化ホウ素ナトリウム0.051g(0.0013モル)をとり、油浴中、室温で攪拌させた。これに化合物(10)0.202g(カルボン酸エステル基:0.00088モル)をTHF1.0mLに溶解させた溶液を滴下していき、そのまま15分間攪拌させたところ、ゆっくりとしたガスの発生が見られた。浴温を40℃まで上昇させたところ、多量のゲル状の固体が析出してきた。THF2.0mLを加えて、そのまま40℃で5時間攪拌を続けたが、固体は変化しなかった。
室温まで冷却させた後、水浴中で2mol/L塩酸をゆっくりと加えて溶液のpHを約1に調節した。この溶液を酢酸エチルで3回抽出し、集めた有機層を飽和食塩水、飽和重曹水、さらに飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を留去させて生成物を得た。収量0.138g(収率78%)。HPLC分析の結果、得られた生成物中の化合物(11)の含有率は58%(相対面積比)だった。
【0069】
[比較例3]THF溶媒を用い、水を後添加する、化合物(11)の製造
【0070】
【化20】

【0071】
ガラス製反応容器にTHF10mL、水素化ホウ素ナトリウム1.15g(0.03モル)をとり、室温で攪拌させた。これに化合物(10)2.75g(カルボン酸エステル基:0.012モル)をTHF5mLに溶解させた溶液をゆっくりと滴下し、攪拌させながら加熱還流条件まで昇温させた。内温が50℃まで上昇したところで、ゲル状の固体が析出しはじめ、還流温度では多量のゲル状固体が析出した状態だった。これに、水0.54mL(0.03モル)をTHF15mLに溶解させた溶液を、1.75時間で滴下した。滴下後、ゲル状の固体の大部分は消失していた。そのまま加熱還流条件下で3時間反応させた。
反応終了後、室温まで放冷させてから、2mol/L塩酸を加えて溶液のpHを約1に調節した。この溶液を酢酸エチルで抽出し、集めた有機層を飽和食塩水、飽和重曹水、さらに飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を留去させて生成物を得た。収量2.25g(収率93%)。HPLC分析の結果、得られた生成物中の化合物(11)の含有率は72%(相対面積比)だった。
【0072】
[比較例4]イソプロパノール溶媒を用い、メタノールを後添加する、化合物(11)の製造
【0073】
【化21】

【0074】
ガラス製反応容器にイソプロパノール10mL、水素化ホウ素ナトリウム1.15g(0.03モル)をとり、室温で攪拌させた。これに化合物(10)2.75g(カルボン酸エステル基:0.012モル)をイソプロパノール5mLに溶解させた溶液をゆっくりと滴下し、攪拌させながら40℃まで昇温させ、そのまま1時間攪拌させた。40℃まで昇温させたところで、ゲル状固体が析出してきた。これに、メタノール2.4mL(0.06モル)をイソプロパノール15mLに溶解させた溶液を、1.5時間で滴下した。滴下後、ゲル状の固体の大部分は消失していた。そのまま40℃で3時間反応させた。
反応終了後、室温まで放冷させてから、2mol/L塩酸を加えて溶液のpHを約1に調節した。この溶液を酢酸エチルで抽出し、集めた有機層を飽和食塩水、飽和重曹水、さらに飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で溶媒を留去させて生成物を得た。収量2.33g(収率97%)。HPLC分析の結果、得られた生成物中の化合物(11)の含有率は67%(相対面積比)だった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ホウ素化合物と有機溶媒と水との混合物中に下記一般式(1)で表される多官能含フッ素カルボン酸エステルを加えて反応を行う、下記一般式(2)で表される多官能含フッ素アルコールの製造方法。
【化1】

(一般式(1)および一般式(2)中、Rfはn価のパーフルオロ炭化水素基を表し、Rは1価のアルキル基を表し、複数あるRは同一でも異なっていてもよい。nは3以上の整数を表す。)
【請求項2】
前記水素化ホウ素化合物と有機溶媒と水との混合物中の前記水素化ホウ素化合物の量が、前記一般式(1)で表される多官能含フッ素カルボン酸エステル中のカルボン酸エステル基に対して1〜5モル倍である、請求項1に記載の多官能含フッ素アルコールの製造方法。
【請求項3】
前記水素化ホウ素化合物が水素化ホウ素金属塩である、請求項1または2に記載の多官能含フッ素アルコールの製造方法。
【請求項4】
前記水素化ホウ素金属塩が水素化ホウ素ナトリウムである、請求項3に記載の多官能含フッ素アルコールの製造方法。
【請求項5】
前記水素化ホウ素化合物と有機溶媒と水との混合物中の水の量が、前記水素化ホウ素化合物に対して5〜50モル倍である、請求項1〜4のいずれかに記載の多官能含フッ素アルコールの製造方法。
【請求項6】
反応温度が−20〜100℃の範囲である、請求項1〜5のいずれかに記載の多官能含フッ素アルコールの製造方法。
【請求項7】
前記一般式(1)で表される多官能含フッ素カルボン酸エステルが下記一般式(3)で表される化合物であり、前記一般式(2)で表される多官能含フッ素アルコールが下記一般式(4)で表される化合物である、請求項1〜6のいずれかに記載の多官能含フッ素アルコールの製造方法。
【化2】

(一般式(3)および一般式(4)中、Rfはn価のパーフルオロ炭化水素基を表し、Rfはフッ素原子又は1価のパーフルオロアルキル基を表し、Rは1価のアルキル基を表し、複数あるRは同一でも異なっていてもよい。nは3以上の整数を表し、aは0又は1を表す。)

【公開番号】特開2009−269848(P2009−269848A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120558(P2008−120558)
【出願日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】